説明

被処理物の焼入装置

【課題】載置台に吊下げ状態で保持された被処理物を冷却槽内に浸漬して冷却する際に姿勢を安定化させ、上下段での焼入歪差を低減する。
【解決手段】冷却槽100が、パレット80の下降位置における冷却油102に下方を向く循環流102a,102bを起生させる少なくとも一対の攪拌装置104a,104bが配置されて成り、吊下げ治具は、長手方向に複数の掛止溝262aを均等間隔に設けて掛止溝262aに歯車の取付孔Wh内周縁上部を少なくとも2点で支持する櫛歯状の横長トレー280と、横長トレー280の両端に設けられパレット80に立設した一対の支持部に掛止される掛止部270a、270bとを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の駆動力伝達系に用いられる歯車等の被処理物の焼入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼製の機械加工部品(被処理物)などの焼き入れを行う焼入装置は、焼入れ温度に加熱されている被処理物を急冷するための焼入れ油等の冷却液が貯留された冷却槽を有している。前記焼入装置は、加熱された被処理物を、当該焼入装置に設けられた昇降装置のフォーク上に載置台を介して載置し、このフォークごと冷却液に浸漬して焼入(急冷)を行っている。
【0003】
前記焼入装置の冷却槽は、当該冷却槽の底部に冷却液の吐出口を備え、この吐出口から上方に向けて冷却液を吐出することで前記冷却液を冷却槽の内部で循環させる循環装置が配置されている。この循環装置は、吐出口からの冷却液の流れを当該冷却液に浸漬された被処理物に導き、所定の冷却速度を保ちつつ焼入が行われている(特許文献1参照)。
【0004】
この種の焼入装置では、フォークに被処理物を載置した状態でフォークごと被処理物を冷却液に浸漬させるため、冷却槽の底部側から上方へ向かう冷却液の流れが当該フォークにより妨げられ、被処理物に対して冷却液の流れを均等に導くことが出来ない場合があった。
例えば、バスケット内に多数の環状部材等の被処理物を積み重ねて三次元に配置された被処理物を熱処理する場合、当該被処理物に対して冷却液の流れを均等に導くことができないと、バスケット尚の各被処理物の冷却速度が不均一となり、各環状部材等の被処理物に生じる変形や歪の量のバラツキが大きくなる。
【0005】
このように、被処理物に生じる変形や歪の量のバラツキが大きくなると、熱処理後の加工工程で、旋削や研磨によって各環状部材等の被処理物の変形や歪を除去したり、サイジング等の塑性加工によって変形や歪を除去するに際し、加工時間が長時間に及ぶことがあり、生産効率の低下を招く要因となることがある。
【0006】
このような要因の対策として、冷却液の流速や流量等の条件を調整することで、冷却液、の流れを有る程度均等に導くように設定することが行われている。すなわち、前記被処理物を所定の個数、配置として、冷却後の流速や流量等の環境条件を適切な値として設定することで変形や歪の量のバラツキが抑制される。
【0007】
しかし前記被処理物は、大きさや個数、配置が異なる他の被処理物を熱処理する場合、冷却液の流速や流量等の環境条件を変える必要があるので、手間がかかる上、多量に貯留されている冷却液の温度も再調整が必要となる。このように、好適な環境条件は、被処理物の大きさや個数等によって異なるので、環境条件を被処理物に応じて適切に調整するのに多くの作業時間を要し、生産効率低下の問題は未だ解消されていなかった。
【0008】
上記の問題を解消する焼入装置として、冷却液が貯留された油槽と、上面に被処理物が載置される載置台と、被処理物を冷却液に浸漬するための昇降手段とを有し、前記冷却液を上方に向けて吐出する吐出口を前記油槽の底部に備えるとともに冷却液を循環する循環装置を更に有し、前記載置台に冷却油の流れをフォークの上方に導く整流板を備えたものが知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−350756号公報
【特許文献2】特開2010−7146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2に記載された焼入装置の冷却槽は、当該冷却槽内の底部に冷却液を上方に向けて吐出する吐出口を備えるとともに載置台にも冷却油の流れをフォークの上方に導く整流板を備えている。
このため、被処理物を載置した載置台が浸漬される冷却槽内には、下方から上方に向く冷却液の循環流が形成される。
【0011】
このように特許文献2では特許文献1の冷却液流れの不均等化の問題は解消できるが、載置台上に取付孔を有する複数の被処理物が該被処理物の取付孔を挿通して縦向きに吊下げ状態で載置されている場合には、上方に向く冷却液の流れによって前記被処理物が横振れする。
この結果、吊下げ状態で保持された被処理物は、冷却液中での安定性が悪く揺動や煽り(あおり)が生ずるので焼入性能に差が生じ、焼入歪みが大きくなる問題を有していた。
【0012】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑み、載置台に吊下げ状態で保持された被処理物を冷却槽内に浸漬して冷却する際に姿勢を安定化させ、上下段での焼入歪差を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明に係る被処理物の焼入装置は、取付孔を有する被処理物であって、加熱処理後の該被処理物を昇降装置の下降により冷却槽内の冷却油に浸漬させて焼入れを行う被処理物の焼入装置において、
前記取付孔を有する被処理物を載置台に縦向きに吊下げ保持する吊下げ治具を備え、前記冷却槽は、載置台の下降位置における冷却油に下方を向く循環流を起生させる攪拌装置が配置されて成り、前記冷却油の流れ方向を前記吊り下げ治具に懸張保持される被処理物の吊下げ方向と同一方向になるように構成したことを特徴とする。
【0014】
かかる発明によれば、冷却槽が、当該冷却槽内の載置台下降位置において、下方を向く冷却油の循環流を起生させる攪拌装置を配置した構成とされる。これにより、冷却槽内では、載置台下降位置に下方を向く潤滑流が起生され、吊下げ治具に下方を向く循環流を起生することができる。載置台下降位置に下方を向く潤滑流が起生されるので、前記冷却油の流れ方向が吊り具に懸張保持される被処理物の吊下げ方向と同一方向になる。よって、吊下げ保持されている被処理物は冷却油の抵抗で左右に振れることがなく姿勢が安定化されるため焼入歪みを低減することができる。
【0015】
また、本発明において好ましくは、前記吊下げ治具は、長手方向に複数の掛止溝を均等間隔に設けて前記掛止溝に前記被処理物の取付孔内周縁上部を支持する櫛歯状の横長トレーと、該横長トレーの両端に設けられ前記載置台に立設した支持部に掛止される掛止部とを備えるとよい。
かかる構成によれば、被処理物を櫛歯状横長トレーの複数の掛止溝に均等間隔で支持されるので、被処理物間の間隙を通過する冷却油は流速、流量共に一定となり、各被処理物間の焼入歪差を無くすことができる。
【0016】
また、本発明において好ましくは、前記吊下げ治具は、前記載置台の支持部に前記横長トレーの両端を水平に掛止する掛止部が上下段に配置されているとよい。
かかる構成によれば、上下段に配置される櫛歯状の横長トレーに均等間隔に設けた複数の掛止溝に複数の被処理物が掛止されるので、被処理物間を通過する冷却油の流速、流量共に一定となるとともに、櫛歯状のため各被処理物を安定支持でき、上下段に配置しても冷却油の流れによって支持位置が変更されることなく、大量の被処理物を均一に焼入れ処理可能になる。
【0017】
また、本発明において好ましくは、前記吊下げ治具は、下方を向く循環流の流れが起生された冷却槽内の下降位置における前記載置台に、前記被処理物の取付孔内周縁上部を少なくとも2点で懸張保持する吊り具を有しているとよい。
かかる構成によれば、被処理物の取付孔内周縁上部を少なくとも2点で懸張保持することによって、簡単な構造で安定的な吊り下げが可能になる。さらに、前述のように冷却槽内では、載置台下降位置に下方を向く潤滑流が起生されて、被処理物の吊下げ方向と同一方向になり姿勢が安定化されるため焼入歪みを低減することができる。
【0018】
また、本発明において好ましくは、前記被処理物を横長トレー方向に近接配置して、隣接する被処理物の間を抜ける前記冷却油の流れが抑制されるように前記被処理物が支持されるとよい。
かかる構成によれば、被処理物の厚さが内周側と外周側とで相違し、外周側が厚く、内周側が薄い場合には、隣接する被処理物間を通過する冷却油の速度によって、冷却斑が生じるが、前述のように隣接する被処理物を近接配置することで、隣接する被処理物間を抜ける冷却油の流れを抑制して、被処理物間を抜ける冷却油による冷却速度差を抑制することができる。すなわち、一番狭くなっている外周側間を通過する冷却油の油量を抑制して、被処理物の外周に沿って冷却油を流すようにすることで、前述のようなリム部間を通過する冷却油による冷却斑を低減できる。
【発明の効果】
【0019】
以上記載のごとく本発明によれば、冷却槽は、載置台の下降位置における冷却油に下方を向く循環流を起生させる少なくとも一対の攪拌装置を配置した構成とされ、吊下げ治具に下方を向く循環流を起生することができるので、櫛歯状横長トレーの複数の掛止溝に均等間隔で支持された被処理物間に冷却油が導入される。
これにより、被処理物間の間隙を通過する冷却油は流速、流量共に一定となるので、各被処理物間の焼入歪差を無くすことができる。
また、冷却油は、吊下げ治具により縦向きに吊下げ保持される被処理物に沿って下方に循環するので、被処理物の吊下げ姿勢が安定化されるため焼入歪みを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る被処理物の焼入装置全体を示す模式図である。
【図2】同じく焼入装置の冷却槽内部を示す断面図である。
【図3】被処理物が吊り具により冷却油の流れ方向と同一方向に懸張保持される態様の説明図である。
【図4】吊下げ治具の全体斜視図である。
【図5】吊下げ治具の櫛歯状横長トレーに均等間隔で吊下げ保持された被処理物と冷却油の流れとの関係を示す斜視図である。
【図6】吊下げ治具に均等保持される被処理物間における冷却油の流れの関係を示す説明図である。
【図7】昇降装置の下降開始時期と攪拌装置の回転開始時期を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0022】
図1は本発明に係る一実施形態に係る被処理物の焼入装置全体を示す模式図である。焼入装置1は、熱処理の対象となる複数の被処理物を同時に焼入(急冷)するための装置であり、焼入装置1には浸炭加熱炉10と冷却槽100を備えている。
本発明の実施形態に係る被処理物として、例えばファイナルドライブギャとなる歯車Wが採用されている。
【0023】
前記浸炭加熱炉10の入口側及び出口側には搬入パージ室12並びに搬出パージ室14が配置されている。
前記搬入パージ室12には、後述する吊下げ治具により複数の歯車Wが吊下げ保持された搬送台(パレット)80を搬入する搬送装置200が接続されており、搬入パージ室12の入口側には外気と遮断する搬入扉12aが開閉可能に設けられている。
【0024】
後述する搬出パージ室14にも、焼入後の歯車Wを搬出する搬送装置220が接続されており、搬出パージ室14の出口側には外気と遮断する搬出扉14bが開閉可能に設けられている。而して、前記搬入、搬出パージ室12、14には、浸炭加熱炉10との連通を遮断する中間扉12b,14aが開閉可能に設けられている。
【0025】
搬入パージ室12では、前記搬送装置200から受け入れたパレット80上に吊下げ保持された複数の歯車Wを、外気から隔離された雰囲気中で前記歯車Wを400℃程度に加熱し、脱脂処理等の前処理を行っている。なお搬入パージ室12は、これに限定されるものではなく、その内部の雰囲気中が置換出きれば良い。
【0026】
前記浸炭加熱炉10は、温度制御可能な昇温室になっており、ここでは、RXガス等のキャリアガスの雰囲気中で歯車Wが900℃程度に予備加熱される。すなわち、浸炭加熱炉10内部の浸炭ゾーンでは、RXガス等のキャリアガスと炭化水素ガス等のエンリッチガスが供給される。
前記搬入パージ室12から浸炭加熱炉10内部に搬出されたパレット80上の歯車Wは、搬出パージ室14側に向けて移送される過程で浸炭ガスの雰囲気中の各ゾーンで800℃、900℃、900℃に加熱されつつ浸炭処理が行われる。
【0027】
すなわち、加熱された浸炭加熱炉10の内部を移送するパレット80上の歯車Wは、8時間〜10時間掛けて移送される過程で炭素成分が歯車Wの表面に付着される。
浸炭加熱炉10の後方に配置される降温ゾーンでは、前記歯車Wを焼入処理前の温度とすべく850℃まで降温して均熱する。
【0028】
浸炭加熱炉10の後端に設けられた搬出パージ室14には、浸炭処理後の加熱された歯車Wを急冷させて焼入するための冷却槽100(後述する)に導入するエレベータ15が昇降可能に設けられている。
【0029】
次に、冷却槽100に付き図2を参照して説明する。図1(a)は、冷却槽100の正面断面図、(b)は冷却槽100のA−A断面図である。
冷却槽100の内部には略100℃の冷却油102が充填されており、冷却槽100の略中央には、浸炭加熱炉10から搬出パージ室14に搬出されたパレット80上の歯車Wを下降させて冷却槽100内部の冷却油102中に浸漬させるためのエレベータ15が配置されている。
【0030】
エレベータ15には、複数の歯車Wを吊下げ保持したパレット80を支持する平面視格子状に形成された水平な支持台16が図示しない駆動源により昇降可能に設けられている。
冷却槽本体110の天板112上面には、前記エレベータ15が昇降する昇降軸線18の両側に2基の攪拌装置104a,104bが略対称位置に設置されている。
2基の攪拌装置104a,104bの下方には、2台のモータM1,M2によって同方向に回転駆動される一対の攪拌羽根105a,105bが冷却槽本体110の高さ方向略中間位置に設けられている。
【0031】
冷却槽本体110の内部には、一対の攪拌羽根105a,105b回転によって冷却油102に循環流を起生させるためのダクトが配設されている。
すなわち、上記ダクトとして、冷却槽本体110の底面中央には、昇降軸線18に沿う一対の中央ダクト108a、一対の攪拌羽根105a,105bの両外側に対応する冷却槽本体110の底面には上方に案内する底部ダクト108b,108cが左右対称に配設されている。
【0032】
前記中央ダクト108aは、中央に分岐板109が立設すると共に下方には外側に向く湾曲面が形成されている。前記底部ダクト108b,108cは、底面から上方に立ち上る板状の湾曲面が形成されている。
また、冷却槽本体110の天板112裏面にも、下方側から天板112の裏面側と平行になる湾曲面を形成した一対の上部ダクト108d,108eが左右対称に配設されている。
【0033】
従って、2基の攪拌装置104a,104bを同時に起動させると、一対の攪拌羽根105a,105bが同方向に回転することによって冷却油102は、一対の攪拌羽根105a,105bの軸線上に夫々上昇流が形成される。
この上昇流は一対の上部ダクト108d,108eに案内されて略中央で冷却流同士がぶつかり合い、昇降軸線18に沿って下方に向く流れが形成され、下方に向く流れは、中央の分岐板109と中央ダクト108aによって左右に分岐する流れが形成される。
【0034】
なお、本発明の要部は、冷却槽内の冷却油にエレベータ15の昇降軸線に沿って下方に向く流れを起生されることであり、好ましくは、焼入時に循環流が下方に移動する流速とエレベータが下降する速度が同一になることが望ましい。
この状態を得るために、エレベータが下降動作を開始する前に冷却槽の冷却油内に予め循環流を起生させておくことで、循環油の流速がエレベータの下降速度と同一速度に達することになり、焼入性能を向上させる効果があることが判る。
【0035】
そこで、循環流が起生される時期とエレベータ15の下降移動が開始される時期の関係に付き図7を参照して説明する。
図7は昇降装置の下降開始時期と攪拌装置の回転開始時期を示すタイムチャートである。
図7において、エレベータ15の下降開始時期は、パレット80が浸炭加熱炉10から搬出パージ室14に搬入された後、搬出パージ室14の中間扉14aが閉じ始めた時点P1で攪拌装置104a,104bの回転指令信号により、攪拌羽根105a,105bが回転を開始する。これにより、冷却槽100内では冷却油102にエレベータ15の昇降軸線18に沿って下方に向く循環流102a,102bが起生される。
【0036】
次いで、搬出パージ室14の中間扉14aが全ストロークの半分まで閉じた時点P2でエレベータ15の下降指令が出力される。エレベータ15の下降動作は、攪拌装置104a,104bの攪拌羽根105a,105bの回転開始後、時間T経過してから開始される。エレベータ15は、下降動作が開始してから約7〜8秒間で冷却槽内の下降端に達する。
すなわち、エレベータ15の下降動作の開始により、パレット80が冷却油102中に浸漬される迄に冷却槽100内の冷却油102には所定流速の循環流102a,102bが起生されているので、下方に向く循環流102a,102bはエレベータ15の下降速度と一致する流速に達している。
【0037】
このように、循環流102a,102bは、エレベータ15の下降位置において昇降軸線18に沿って下方に流れ、冷却槽100内の冷却油102に点線で示す矢印方向に循環する。
そして、前記循環流102a,102bは、図3に示すように所定間隔を保ってパレット80上に吊下げ保持された歯車Wの両側および各歯車W間を下方に向けて流れるとともに前記パレット80を支持した格子状の支持台16(図2参照)を上方から下方に通過する。
【0038】
下降位置にあるエレベータ15の停止時間は約10分間で、その間にパレット80上の吊り具250に吊下げられた歯車が焼入処理されると、再び約7〜8秒間で元の搬出パージ室14まで上昇し、前記搬出パージ室14から搬出用の搬送装置220上に搬出される。
このように、前記パレット80上に櫛歯状横長トレーの複数の掛止溝に均等間隔で吊下げ支持された歯車Wの両側には、エレベータ15によって下降移動する支持台16と同方向に冷却油102の循環流が形成されるので、吊下げ保持されている歯車Wは冷却油の抵抗で左右に振れることがなく姿勢が安定化されるため焼入歪みを低減することができる。
【0039】
そこで、加熱後の歯車Wを櫛歯状横長トレーの複数の掛止溝に均等間隔で吊下げたパレット80は、搬出パージ室14からエレベータ15の支持台16に移載されると約7〜8秒間で下降しつつ、冷却槽100内で予め昇降軸線に沿って下向きの循環流102a,102bが形成されている冷却油102内に浸漬される。
次いで、冷却油内でエレベータ15を約10分間停止させて歯車Wが焼入処理されると、再び約7〜8秒間で元の搬出パージ室14まで上昇し、前記搬出パージ室14から搬出用の搬送装置220上に搬出される。
【0040】
次に、歯車Wを載置台に縦向きに吊下げ状態で懸張保持する吊り具に付き図3を参照して説明する。図3は歯車Wが吊り具により冷却油の流れ方向と同一方向に懸張保持される態様の説明図である。
図3において、250は吊下げ治具となる吊り具であって、吊り具250は、下端に歯車Wの取付け孔Wh上端内周縁を側面から2点で挿通掛止する保持爪253a,253b(点線)が間隔調整可能に設けられており、上端にはフック254a,254bが固定されている。
【0041】
260はビームであって、このビーム260は、パレット80の支持部(図示せず)に支持される板状のハンガーフレーム258a,258bと、ハンガー258a,258bの下部を連結する下連結軸256と上部を連結する上連結軸257とから構成される。
このように、吊り具250によって縦向きに懸張保持される歯車Wの両側面には、冷却槽100の内部における2基の攪拌装置104a,104bの起動によって下方に向く矢印で示す循環流102a,102bが起生される。
【0042】
これにより、冷却槽100内では、パレット80の下降位置において下方を向く循環流102a,102bが起生されるので、冷却油102の流れ方向は、吊り具250に懸張保持される歯車Wの吊下げ方向と同一方向になる。よって、吊下げ保持されている歯車Wの姿勢が安定化されるため焼入歪みを低減することができる。
次に、複数の歯車Wを均等間隔で吊下げ保持する吊下げ治具の他の例となる櫛歯状の横長トレー280に付き図4を参照して説明する。
【0043】
図4は吊下げ治具の全体斜視図であって、櫛歯状の横長トレー280は、一対の横長帯板280a,280bから構成されており、両横長帯板280a,280bは、前後部位が図示しない長さ調整可能な連結部材で一定幅を保つように連結されている。
一方側の横長帯板280aの上端縁264aには複数の掛止溝262aが均等間隔で形成されており、図示しない下端縁側にも上端縁264aの掛止溝262aと対称形状の掛止溝が形成されている。
【0044】
また、他方側帯板280bの上端縁264bには、複数の掛止溝262bが均等間隔で形成されており、下端縁側にも上端縁264bの掛止溝262bと対称形状の掛止溝が均等間隔で形成されている。
横長帯板280a,280b両端の上下端縁には、パレット80に立設した図示しない一対の支持部に掛止する掛止部270a,270bが形成されている。これら掛止部270a,270bは、左右の横長帯板280a,280b上下端縁に形成された所定幅の掛止溝265a,265b,266a,266bによって構成されている。
これらの掛止溝262a,262bは、歯車Wの中心部に形成された取付け孔Whの内周縁上部が少なくとも2点で支持されるようになっている。
すなわち、2点間の距離は、一対の横長帯板280a,280b間を連結する図示しない連結部材の長さで決まるもので、歯車Wの取付け孔Wh内周縁上部を支持する掛止溝262a,262b間の幅となる。
すなわち、取付け孔Whの内周縁上部を支持する2点間の距離は、安定性を保つために歯車Wの外径および取付け孔Whの内径によって決められる。
【0045】
次に、吊下げ治具により均等な間隔で吊下げ保持された複数の歯車Wを冷却槽内で焼入処理する際の冷却油の流れの状態の一例に付き図5、図6を参照して説明する。
図5は、吊下げ治具の櫛歯状横長トレーに均等間隔で吊下げ保持された歯車と冷却油の流れの関係を示す斜視図、図6は吊下げ治具に均等保持される歯車間における冷却油の流れの関係を示す説明図である。
【0046】
図5及び図6において、櫛歯状横長トレー280の長手方向上端縁に均等間隔で形成された掛止溝262aに複数の歯車Wの薄肉部に形成された取付け孔Whの内周縁上部が前記横長帯板280a、280b上部の掛止溝262a、262b間の2点で吊下げ保持されている。掛止溝262aの幅は歯車Wの取付け孔Wh周縁の肉厚に相当し、歯車Wの歯が削成される外輪(リム部)は取付け孔Wh周縁の肉厚より幅広に形成されている。
【0047】
パレット80上に取付けられた吊下げ治具に複数の歯車Wを縦向きに吊下げ保持した状態で冷却槽内で急冷する際には、歯車Wの外周および歯車W間で形成される広い空間に冷却油102が流れる。
すなわち、複数の歯車Wが櫛歯状横長トレー280の掛止溝262aに支持された状態では、隣接する歯車W間においてリム部の間隔が一番狭く、取付け孔Wh周縁の薄肉部間に広い空間が形成される。
従って、歯車W間において、リム部間を通過する冷却油の油量によって焼入性能が決められる。このように適正な油量を得るために、櫛歯状横長トレー280の長手方向に形成される掛止溝262aの間隔が決められる。
【0048】
また、隣接する歯車W間を近接してリム部間を通過する油量を抑制するようにしてもよい。すなわち、一番狭くなっているリム部間を通過する冷却油の油量を抑制して、歯車Wの外周に沿って冷却油を流すようにすることで、前述のようなリム部間を通過する冷却油による冷却斑を低減できる。
外周側が厚く、内周側が薄い場合には、隣接する歯車W間を通過する冷却油の速度によって、冷却斑が生じるが、前述のように隣接する歯車W間を近接配置することで、隣接する歯車W間を抜ける冷却油の流れを抑制して、被処理物間を抜ける冷却油による冷却速度差を抑制することができる。
【0049】
以上述べたように、冷却槽100は、パレット80の下降位置における冷却油102に下方を向く循環流を起生させる少なくとも一対の攪拌装置104a,104bを配置した構成とされ、吊下げ治具に下方を向く循環流102a,102bを起生することができるので、櫛歯状横長トレー280の複数の掛止溝262aに均等間隔で支持された歯車W間に冷却油102が導入される。
これにより、歯車W間の間隙を通過する冷却油は流速、流量共に一定となるので、各被処理物間の焼入歪差を無くすことができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、載置台に吊下げ状態で保持された被処理物を冷却槽内に浸漬して冷却する際に姿勢を安定化させ、上下段での焼入歪差を低減することができるので、冷却槽内の冷却油に浸漬させて焼入れを行う被処理物の焼入装置への利用に適している。
【符号の説明】
【0051】
1 焼入装置
15 エレベータ(昇降装置)
80 パレット(載置台)
100 冷却槽
102 冷却油
102a,102b 循環流
104a,104b 攪拌装置
250 吊り具(吊下げ治具)
262a,262b 掛止溝
270a,270b 掛止部
280 横長トレー(吊下げ治具)
W 歯車(被処理物)
Wh 取付孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
取付孔を有する被処理物であって、加熱処理後の該被処理物を昇降装置の下降により冷却槽内の冷却油に浸漬させて焼入れを行う被処理物の焼入装置において、
前記取付孔を有する被処理物を載置台に縦向きに吊下げ保持する吊下げ治具を備え、前記冷却槽は、載置台の下降位置における冷却油に下方を向く循環流を起生させる攪拌装置が配置されて成り、前記冷却油の流れ方向を前記吊下げ治具に懸張保持される被処理物の吊下げ方向と同一方向になるように構成したことを特徴とする被処理物の焼入装置。
【請求項2】
前記吊下げ治具は、長手方向に複数の掛止溝を均等間隔に設けて前記掛止溝に前記被処理物の取付孔内周縁上部を支持する櫛歯状の横長トレーと、該横長トレーの両端に設けられ前記載置台に立設した支持部に掛止される掛止部とを備えたことを特徴とする請求項1に記載の被処理物の焼入装置。
【請求項3】
前記吊下げ治具は、前記載置台の支持部に前記横長トレーの両端を水平に掛止する掛止部が上下段に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の被処理物の焼入装置。
【請求項4】
前記吊下げ治具は、下方を向く循環流の流れが起生された冷却槽内の下降位置における前記載置台に、前記被処理物の取付孔内周縁上部を少なくとも2点で懸張保持する吊り具を有していることを特徴とする請求項1に記載の被処理物の焼入装置。
【請求項5】
前記被処理物を横長トレー方向に近接配置して、隣接する被処理物の間を抜ける前記冷却油の流れが抑制されるように前記被処理物が支持されることを特徴とする請求項2に記載の被処理物の焼入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−91814(P2013−91814A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232668(P2011−232668)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】