説明

被膜付きアルミニウム材

【課題】アルミニウム系材料からなる基材の表面の少なくとも一部に、優れた耐食性と電気絶縁性とを兼ね備えた耐食絶縁性被膜が形成されてなる被膜付きアルミニウム材を提供する。
【解決手段】被膜付きアルミニウム材の耐食絶縁性被膜は、アルミニウム系基材の上に形成された耐食下地層と、その耐食下地層の上に形成されたポリイミド(PI)樹脂層とから構成される。耐食下地層は、前記基材の上に形成されたZn置換メッキ層と、その上に形成されたCu層と、その上に形成されたNi層と、その上に形成されると共に前記PI樹脂層の直下に位置する貴金属のメッキ層とを積層したものである。貴金属は、最も好ましくは金(Au)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム系材料からなる基材の表面の少なくとも一部に耐食絶縁性被膜が形成された被膜付きアルミニウム材に関する。中でも、燃料電池を構成するための部品(燃料電池構成部品)に適した燃料電池構成部品用の耐食絶縁性被膜付きアルミニウム材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に燃料電池は、電池セルとセパレータとを交互に配置・積層したものを端子板(ターミナルプレート)及び絶縁板を介して一対のエンドプレート間に挟着保持してなる燃料電池スタックから構成されている。固体高分子型燃料電池の場合、電池セルは、プロトン透過性の高分子材料からなる固体高分子膜を、ガス透過性及び導電性を兼備した空気側電極及び水素側電極の間に挟んで構成されている。また、燃料電池スタック内には、セパレータやエンドプレート等によってガス流通路が区画形成されている。燃料電池の運転に伴って、電池セルから腐食性物質(例えばフッ化水素)が揮発し又はその一部が水分に溶け込むことにより、腐食ガスや腐食液(酸性を帯びた水)が発生し、それらがガス流通路を構成する金属製部品を腐食させることが知られている。このため、燃料電池を構成する金属製部品においてガス等との接触部位の耐食性を向上させることが、重要な技術的課題となっている。
【0003】
ところで、燃料電池を構成する金属製部品の母材として、一定の耐食性を有するステンレス鋼のような鉄系材料を採用することも考えられる。しかし、一般に鉄系の材料は比重が大きいため、車載用燃料電池などのように軽量化を図りたい場合には本質的に不利である。このため、アルミニウムのような比較的安価な軽金属を用いて燃料電池構成部品を作ることが望ましいが、アルミニウムには一般に酸などに侵されやすく耐食性が低いという欠点がある。
【0004】
アルミニウム材の耐食性を改善する手法として、アルマイト処理(陽極酸化処理)や化成処理が知られている。例えば、特許文献1は、アルミニウムの表面に形成されたアルマイトの上にポリイミド被膜を電着法により形成してなる「ポリイミド被膜を有する被覆アルマイト」を開示する。特許文献1によれば、アルマイトの耐食性及び絶縁性に共動してポリイミドが更に耐食性及び絶縁性を向上させるとのことである。しかしながら、本願発明者の試験又は研究によれば、燃料電池内部で生じ得る過酷な腐食性雰囲気の下では、特許文献1に開示されるようなポリイミド被膜付き被覆アルマイトをもってしても、その耐食性は不十分なものであることが判明した(後記比較例1参照)。また、汎用の化成処理とポリイミド被膜とを組み合わせても、満足のいく耐食性を得ることができなかった(後記比較例3,4,5参照)。本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものである。
【0005】
【特許文献1】特開2004−59997号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、アルミニウム系材料からなる基材の表面の少なくとも一部に、優れた耐食性と電気絶縁性とを兼ね備えた耐食絶縁性被膜が形成されてなる被膜付きアルミニウム材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、アルミニウム系材料からなる基材の表面の少なくとも一部に耐食絶縁性被膜が形成された被膜付きアルミニウム材であって、前記耐食絶縁性被膜は、前記基材の上に形成された耐食下地層と、その耐食下地層の上に形成されたポリイミド樹脂層とから構成されている。そして、前記耐食下地層は貴金属のメッキ層を少なくとも備えている(請求項1)。
【0008】
より好ましくは、前記耐食下地層は、前記基材の上に形成された亜鉛置換メッキ層と、その亜鉛置換メッキ層の上に形成された、ニッケルを主要成分として含む中間層と、その中間層の上に形成されると共に前記ポリイミド樹脂層の直下に位置する貴金属のメッキ層とを積層したものである(請求項2)。
【0009】
更に好ましくは、前記耐食下地層は、前記基材の上に形成された亜鉛置換メッキ層と、その亜鉛置換メッキ層の上に形成された銅層と、その銅層の上に形成されたニッケル層と、そのニッケル層の上に形成されると共に前記ポリイミド樹脂層の直下に位置する、金、銀又は白金から選択される貴金属のメッキ層とを積層したものである(請求項3)。
【0010】
また本発明は、アルミニウム系材料からなる基材の表面の少なくとも一部に耐食絶縁性被膜が形成された被膜付きアルミニウム材であって、前記耐食絶縁性被膜は、前記基材の上に形成された亜鉛置換メッキ層と、その亜鉛置換メッキ層の上に形成された銅メッキ層と、その銅メッキ層の上に形成されたニッケルメッキ層と、そのニッケルメッキ層の上に形成された金メッキ層と、その金メッキ層の上に電着塗装法により形成されたポリイミド樹脂層とを積層したものである(請求項4)。
【0011】
本発明の被膜付きアルミニウム材が、燃料電池構成部品用の耐食絶縁性被膜付きアルミニウム材であることは非常に好ましい(請求項5)。
【0012】
なお、本発明の各構成要件の意義、本発明の更に好ましい態様や追加的構成要件については、後記「発明を実施するための最良の形態」の欄で更に説明する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の被膜付きアルミニウム材によれば、アルミニウム系材料からなる基材の表面の少なくとも一部に形成された耐食絶縁性被膜は、貴金属のメッキ層を少なくとも備えてなる耐食下地層と、耐食性及び電気絶縁性を兼備したポリイミド樹脂層とから構成されているので、貴金属メッキ層を含む耐食下地層とポリイミド樹脂層との相乗効果により、従来よりも更に優れた耐食性及び電気絶縁性を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の被膜付きアルミニウム材は、アルミニウム系材料からなる基材の表面の少なくとも一部に耐食絶縁性被膜が形成された被膜付きアルミニウム材である。なお、「基材の表面の少なくとも一部」とは、基材表面の一部又は全部をいう。
【0015】
基材を構成するアルミニウム系材料としては、純アルミニウム(Al)、Al−Mg系、Al−Si系、Al−Mg−Si系、Al−Mn系、Al−Zn系を例示することができる。また、アルミニウム系材料からなる基材は、アルミニウム系材料の圧延材はもちろんのこと、鋳物であってもよい。更に、アルミニウム系基材は、その形状が限定されるものではなく、平板状、湾曲板状、円盤状、環状、筒状あるいはパイプ状等どのような形状であってもよい。
【0016】
アルミニウム系基材の表面に形成される耐食絶縁性被膜は、アルミニウム系基材の上に形成された耐食下地層と、その耐食下地層の上に形成されたポリイミド樹脂層とから構成される。
【0017】
耐食絶縁性被膜における耐食下地層は、好ましくは、アルミニウム系基材の上に形成された亜鉛置換メッキ層と、その亜鉛置換メッキ層の上に形成された中間層と、その中間層の上に形成されると共に前記ポリイミド樹脂層の直下に位置する貴金属メッキ層とを積層したものである。
【0018】
亜鉛置換メッキ層は、アルミニウム系基材の表面に金属層の積層を可能とするための介在層又は密着強化層である。即ち、一般にアルミニウム系材料の表面には酸化膜が自然形成されており、この酸化膜は、無電解メッキ又は電解メッキによって金属メッキ層を積層形成する際の疎外要因になる。このため例えば、亜鉛メッキ用処理液で基材表面を処理してアルミニウム酸化物と亜鉛(Zn)との間で置換反応を誘発することにより、亜鉛置換メッキ層を基材表面の表層部に形成する。かかる亜鉛置換メッキ層ができることにより、その上に各種の金属層を無電解メッキ又は電解メッキによって容易に形成可能となる。
【0019】
亜鉛置換メッキ層上の中間層はニッケル(Ni)を主要成分として含む層である。「ニッケルを主要成分として含む」とは、中間層がニッケル合金又はニッケル固溶体で形成されている場合はもちろんのこと、中間層がニッケル層と他金属の層との多層構造からなる場合をも含む意味である。かかる中間層の基本的役割は、その直下の亜鉛置換メッキ層と、直上の貴金属メッキ層との間に介在して、両層間の密着強度を改善することにある。即ち、亜鉛置換メッキ層の上に直接、貴金属メッキ層を積層しても、両層の境界又は界面で層間剥離が生じ易く、十分な密着強度が得られないという事情がある。このため、亜鉛及び貴金属の双方に対して一定の密着力を発揮するニッケルを主要成分として含む中間層を介在させている。また、ニッケルは他の金属に比べてレベリング性が良好であるため、ニッケルを主要成分として含む層を電気メッキにより形成した場合には、硬くて平滑度の高い表面を形成することができる。中間層の上面の硬度及び平滑度が高いと、中間層の上に形成される貴金属メッキ層の膜厚を必要最小限度にとどめることが可能になり、貴金属の使用量を減らして製造コストの低減を図ることが容易になる。
【0020】
更に好ましくは、上記中間層は、亜鉛置換メッキ層の上に形成された銅層と、その銅層の上に形成されたニッケル層との二層からなるものである。つまり、亜鉛置換メッキ層とニッケル層との間に銅層を介在させるのである。銅(Cu)は亜鉛(Zn)及びニッケル(Ni)の双方に対する親和性が高いため、亜鉛置換メッキ層の上に直接ニッケル層を形成する場合に比べてZn/Cu/Niの積層構造とする方が、亜鉛置換メッキ層と中間層との間の密着強度がより高まる。中間層を銅層及びニッケル層の二層構造とする場合、銅層及びニッケル層の各々を電気メッキの一種であるストライクメッキによって形成することは好ましい。ストライクメッキによれば、金属イオンの無電解メッキ的な付着が抑制され、電解メッキ的な付着の割合が増大するため、各メッキ層の金属純度が高まる。
【0021】
なお、中間層を銅層及びニッケル層の二層構造とした場合、ニッケル層は、金属拡散を抑制するバリアー層としても機能し得る。即ち、ニッケル層よりも下の層では亜鉛層と銅層との間で金属原子の相互拡散が生じ得るが、ニッケル層には亜鉛や銅の拡散を阻止するバリヤー性があるため、下層の亜鉛や銅がニッケル層を超えて上層の貴金属メッキ層に拡散することが防止される。このため、貴金属メッキ層を構成する貴金属の純度又は金属組成が拡散金属によって乱されることがほとんどなくなり、貴金属メッキ層は期待された効果(耐食性)を長期にわたり維持することが可能になる。
【0022】
なお、上記中間層がニッケル層からなる場合の当該ニッケル層、並びに、上記中間層が銅層及びニッケル層の二層からなる場合の当該ニッケル層については、硫黄(S)含有量の異なるニッケル皮膜を複数重ねた「多層ニッケルめっき層」で構成されてもよい。この多層ニッケルめっき層の構成形態としては、第1層(下層)にほとんど硫黄を含まない半光沢ニッケルの層を配置すると共にその上の第2層(上層)に少量の硫黄を含む光沢ニッケルの層を配置してなる二層構造のニッケルめっき層と、半光沢ニッケルの第1層(下層)と光沢ニッケルの第2層(上層)との間に高硫黄含有ニッケルストライク層を介在させた三層構造のニッケルめっき層とを例示できる。ちなみに、高硫黄含有ニッケルストライクの硫黄含有量は0.1%のオーダーであり、光沢ニッケルの硫黄含有量は0.01%のオーダーであり、半光沢ニッケルの硫黄含有量は0.001%のオーダー以下である。
【0023】
一般にニッケル皮膜にあっては、硫黄含有量が多くなるほど自然電位が低くなる傾向にある。このため、二層構造のニッケルめっき層の場合、仮に腐食領域が下層の半光沢ニッケルに達したとしても、光沢ニッケルと半光沢ニッケルとの間の電位関係により、下層の半光沢ニッケルは光沢ニッケルによるアノード防食をうけ、素地方向への腐食が緩和される。また、三層構造のニッケルめっき層の場合、三層間の自然電位は、中層(高硫黄含有ニッケルストライク)<上層(光沢ニッケル)<下層(半光沢ニッケル)の関係にあるため、仮に腐食領域が下層の半光沢ニッケルに達したとしても、最も卑な高硫黄含有ニッケルストライクの優先腐食によって下層(半光沢ニッケル)の腐食が大幅に緩和される。このように中間層を構成するニッケル層を多層ニッケルめっき層として構成することで、耐食性能を更に向上させることができる。
【0024】
中間層の上の貴金属メッキ層を構成する貴金属としては、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)等があげられる。貴金属メッキ層を構成する貴金属としては特に、金(Au)、銀(Ag)又は白金(Pt)が好ましく、中でも金(Au)が最も好ましい。これらの貴金属は、酸などの腐食性物質に侵されにくい耐食性金属である。このため、ポリイミド樹脂層の直下に位置する貴金属メッキ層は、ポリイミド樹脂の有する耐食性能とあいまって更に優れた耐食性を発揮する。また、金(Au)、銀(Ag)又は白金(Pt)から選択される貴金属のメッキ層は良導電体であるため、ポリイミド樹脂層を電着に基づいて形成する場合には、非常に好都合な環境を提供する。
【0025】
耐食下地層の上のポリイミド(PI)樹脂層は、それ自体で耐食性と電気絶縁性とを担保する。また、このポリイミド樹脂層は、耐食下地層の貴金属メッキ層と協働して耐食性を飛躍的に高めるものである。かかるポリイミド樹脂層は、好ましくは電着塗装法により形成される。例えば電着塗装法として、耐食下地層を形成したアルミニウム系基材(被塗物)に負電圧を印加し、正に分極したポリイミド電着塗料をアルミニウム系基材の耐食下地層の最表面に析出させるカチオン電着塗装法を採用することは非常に好ましい。
【0026】
電着塗装に使用するポリイミド電着塗料としては、次の化学式1に示すような化学構造のポリイミドを主成分とするカチオン型ポリイミド電着塗料が最も好ましい。化学式1中、Rはアルキル鎖を、Arは芳香族構造を意味する。このカチオン型ポリイミド電着塗料の絶縁破壊電圧は約1000Vであり、極めて高い電気絶縁性を有している。また、このカチオン型ポリイミド電着塗料のガラス転移温度は約200℃(DSC測定)、5%質量減少温度は約400℃(TGA測定)であり、有機ポリマーとしては極めて高い耐熱性を有する。
【0027】
【化1】

【0028】
アルミニウム系基材に対しカチオン型ポリイミド電着塗料を用いてカチオン電着塗装を施した後、そのポリイミド電着塗料を被塗物(基材)に加熱定着させることは好ましい。また、特に基材の一部に導電性表面又は導電部を確保する必要がある場合には、基材の導電性表面に対し必要に応じてマスキングを施してから電着塗装を施すことが好ましい。なお、電着塗装の条件や、被塗物の前処理及び後処理の方法、電着塗料の加熱定着条件等は、使用する電着塗料の種類や性質に応じて適宜選択される。
【0029】
本発明の被膜付きアルミニウム材は、非常に高レベルの耐食性及び電気絶縁性を発揮する耐食絶縁性被膜を有しているので、軽量性、並びに、被膜が形成された部分の耐食性及び電気絶縁性が要求される燃料電池構成部品用として使用することは非常に好ましい。そのような燃料電池構成部品としては、燃料電池スタックを構成するためのセパレータプレート、ターミナルプレート(端子板)及びエンドプレート、並びに、燃料電池用のガス等の配管部品を例示することができる。
【0030】
なお、本発明を燃料電池のセパレータプレートやターミナルプレートに適用した場合には、アルミニウム系基材に耐食下地層を形成した後、電気絶縁性が求められる部位にだけポリイミド樹脂層を更に積層形成する一方、導電性表面又は導電部として機能することが求められる部位には、電着塗装時にマスキングを施すなどしてポリイミド樹脂層の積層形成を予め回避し、マスキング除去後に耐食導電性表面として貴金属メッキ表面を露出させることも可能であり、有益である。
【実施例】
【0031】
本発明を具体化した実施例1及び比較対象としての比較例1〜6について説明する。なお、以下に述べる板状アルミ基材は、燃料電池構成部品としてのセパレータ又はターミナルプレートを想定したもの(耐食試験片)である。
【0032】
[実施例1]
耐食試験片として、JIS:A1100系アルミニウムの圧延材である板状アルミ基材(縦90mm×横50mm×厚さ1mm)を準備すると共に、十分に脱脂洗浄した後、乾燥させた。そして、第1工程として、この板状アルミ基材を亜鉛置換メッキ処理液(酸化亜鉛、水酸化ナトリウム、ロッシェル塩などを含有する水溶液)に浸漬することにより、板状アルミ基材の表面に亜鉛置換メッキを施し、Zn置換メッキ層を形成した。第2工程として、亜鉛置換メッキを施した板状アルミ基材を銅メッキ処理液(シアン化銅、シアン化ナトリウム、ロッシェル塩などを含有する水溶液)に浸漬すると共に、当該板状アルミ基材と対向電極との間に電圧を印加することにより、Zn置換メッキ層の上に銅ストライクメッキを施し、Cuメッキ層を形成した。第3工程として、銅ストライクメッキを施した板状アルミ基材をニッケルメッキ処理液(スルファミン酸ニッケル、塩化ニッケル、硼酸などを含有する水溶液)に浸漬すると共に、当該板状アルミ基材と対向電極との間に電圧を印加することにより、Cuメッキ層の上にニッケルストライクメッキを施し、Niメッキ層を形成した。第4工程として、ニッケルストライクメッキを施した板状アルミ基材を金メッキ処理液(シアン化金、シアン化ナトリウム、炭酸カリウムなどを含有する水溶液)に浸漬することにより、Niメッキ層の上に金メッキを施し、Auメッキ層を形成した。こうして、板状アルミ基材の表面に、Zn(膜厚:0.005〜0.1μm)/Cu(膜厚:0.1〜1μm)/Ni(膜厚:0.1〜10μm)/Au(膜厚:0.001〜0.1μm)の4層からなる耐食下地層を形成した(図1参照)。なお、耐食下地層を形成後、板状アルミ基材を再度脱脂洗浄し、イオン交換水又は純水で水洗した。
【0033】
続いて、電着塗装槽にカチオン型ポリイミド電着塗料(株式会社シミズ製商品:エレコートPI)をイオン交換水又は純水で適度な濃度に希釈した水浴を準備し、その浴温を約25℃に調整した。そのポリイミド電着塗料水浴中に前記耐食下地層付きの板状アルミ基材を浸し、板状アルミ基材の一部を直流電源装置の負極に接続すると共に、水浴中に浸したカーボン製対向電極を直流電源装置の正極に接続し、50〜250Vの電圧にて約2分間、電着塗装を施した。その後、電着塗装槽から取り出した板状アルミ基材を水洗し、エアーブロー後に予備乾燥(80〜100℃で約10分間)を行った。そして、それを加熱装置に移し、ポリイミド電着塗料の焼付け処理(約210℃で30分間)を行った。こうして、前記耐食下地層の最上層にあたる金メッキ層の更にその上にポリイミド(PI)樹脂層(膜厚:約20μm)が形成された被膜付き板状アルミ基材を得た(図1参照)。
【0034】
[比較例1]
耐食試験片として、実施例1と同じ板状アルミ基材を準備し、その表面にアルマイト処理を施した(アルマイト処理は専門業者に委託)。そして、実施例1と同様にしてポリイミド電着塗装を施した。こうして、酸化アルミニウム被膜(膜厚:約5〜10μm)からなる下地層の上にポリイミド樹脂層(膜厚:約20μm)が形成された被膜付き板状アルミ基材を得た。
【0035】
[比較例2]
耐食試験片として、実施例1と同じ板状アルミ基材を準備し、その表面に実施例1における第1、第2及び第3工程を経てZn/Cu/Niという3層からなる耐食下地層を形成した。そして、実施例1と同様にしてポリイミド電着塗装を施した。こうして、Zn(膜厚:0.005〜0.1μm)/Cu(膜厚:0.1〜1μm)/Ni(膜厚:0.1〜10μm)の3層からなる下地層の上にポリイミド樹脂層(膜厚:約20μm)が形成された被膜付き板状アルミ基材を得た。この比較例2の耐食試験片は、実施例1の耐食試験片からAuメッキ層を省いたものに相当する。
【0036】
[比較例3]
耐食試験片として、実施例1と同じ板状アルミ基材を準備し、これを化成処理用のリン酸クロメート液(株式会社貴和化学製商品:シルミナイズ180HK)に浸漬することにより、板状アルミ基材の表面に化成処理を施した。そして、実施例1と同様にしてポリイミド電着塗装を施した。こうして、クロメート被膜(膜厚:約0.02〜0.1μm)からなる下地層の上にポリイミド樹脂層(膜厚:約20μm)が形成された被膜付き板状アルミ基材を得た。
【0037】
[比較例4]
耐食試験片として、実施例1と同じ板状アルミ基材を準備し、これを化成処理用のリン酸マンガン液(株式会社シミズ製商品:ALメイト)に浸漬することにより、板状アルミ基材の表面に化成処理を施した。そして、実施例1と同様にしてポリイミド電着塗装を施した。こうして、マンガン被膜(膜厚:約0.02〜0.1μm)からなる下地層の上にポリイミド樹脂層(膜厚:約20μm)が形成された被膜付き板状アルミ基材を得た。
【0038】
[比較例5]
耐食試験片として、実施例1と同じ板状アルミ基材を準備し、これをバナジウム系化成処理液(株式会社貴和化学製商品:シルミナイズAV−12)に浸漬することにより、板状アルミ基材の表面に化成処理を施した。そして、実施例1と同様にしてポリイミド電着塗装を施した。こうして、バナジウム被膜(膜厚:約0.02〜0.1μm)からなる下地層の上にポリイミド樹脂層(膜厚:約20μm)が形成された被膜付き板状アルミ基材を得た。
【0039】
[比較例6]
耐食試験片として、実施例1と同じ板状アルミ基材を準備した。そして、この板状アルミ基材の表面に直接、実施例1と同様にしてポリイミド電着塗装を施した。こうして、下地層を持たないポリイミド樹脂層(膜厚:約20μm)が形成された被膜付き板状アルミ基材を得た。
【0040】
実施例1及び比較例1〜6の各試験片に対して、以下のような試験を行った。
【0041】
[酸腐食耐久試験]
透明な試験用水槽中に低濃度フッ酸水溶液を準備し、フッ酸水溶液の温度が80℃に保たれるように温度管理を行った。そして、各試験片をフッ酸水溶液中に浸漬してから試験片の表面コーティングにブリスター(膨れ)の発生が目視で認められるまでの時間を測定した。そして、比較例6におけるブリスター発生までの時間を基準値「1」として、実施例1及び比較例1〜5の各々におけるブリスター発生までの時間が比較例6の何倍にあたるかを数字で示す相対評価を行った。その相対評価結果を表1に示す。
【0042】
[テープ剥離試験]
上記酸腐食耐久試験の各試験片においてブリスター(膨れ)の発生が目視で認められた時点で、その試験片を試験用水槽から取り出し、水洗して自然乾燥した後、JIS−H8504に準ずるテープ剥離試験を行った。即ち、膨れが発生している試験片の表面に片面粘着テープを貼り付けた後、そのテープを手で剥がすという試験を行った。そして、テープ剥離操作時に、膨れ部分のみならずテープが貼り付けられた全面においてポリイミドコーティングの剥離が観察されたものを「全面剥離」と評価した。他方、テープ剥離操作時に、テープが貼り付けられた全表面のうち膨れ部分のみでポリイミドコーティングの剥離が観察されたものの、膨れが生じなかった部分ではポリイミドコーティングの剥離が観察されなかったものを「一部剥離あり」と評価した。その結果を表1に示す。
【0043】
尚、上記二つの試験はフッ酸に対する耐食性を測定する試験であるが、特に酸腐食耐久試験後のテープ剥離試験は、フッ酸による下地層の破壊又は腐食の状況を推し量ると共に、下地層とポリイミド樹脂層との密着強度に関する評価指標を提示し得るものである。
【0044】
【表1】

【0045】
表1によれば、比較例6とその他の例との比較から、ポリイミド樹脂層を単独コーティングした場合よりも、板状アルミ基材とポリイミド樹脂層との間に何らかの下地層を介在させた場合の方がフッ酸に対する耐食性が向上することは明らかである。そして、下地層がZn/Cu/Ni/Auからなる実施例1は、アルマイト下地(比較例1)や化成処理下地(比較例3,4,5)の場合に比べて膨れ発生までの時間が大幅に長く、フッ酸に対して優れた耐久性を示した。更に、膨れ発生後のテープ剥離試験においても、比較例1,3,4,5,6が全面剥離であったのに対し、実施例1は一部剥離にとどまり下地層とポリイミド樹脂層との間の優れた密着性を示した。また、下地層の最外層がAu層である実施例1は、下地層の最外層がNi層である比較例2に比べても膨れ発生までの時間が大幅に長く、フッ酸に対して優れた耐久性を示した。
【0046】
以上の試験結果から、板状アルミ基材とポリイミド樹脂層との間に下地層を介在させると共に当該下地層の最外層をAu層にする(つまりポリイミド樹脂層の直下にAu層を積層する)ことで、アルミニウム系基材の耐食性能を従来よりも大幅に向上させることができることが判明した。また、下地層の最外層で且つポリイミド樹脂層の直下にAu層のような耐食性に優れた貴金属メッキ層を配置することで、ポリイミド樹脂層と貴金属メッキ層との相乗効果により、被膜付きアルミニウム材の耐食性能が飛躍的に向上することが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施例1における耐食絶縁性被膜の積層構造の概要を示す断面図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム系材料からなる基材の表面の少なくとも一部に耐食絶縁性被膜が形成された被膜付きアルミニウム材であって、
前記耐食絶縁性被膜は、前記基材の上に形成された耐食下地層と、その耐食下地層の上に形成されたポリイミド樹脂層とから構成されており、
前記耐食下地層は貴金属のメッキ層を少なくとも備えていることを特徴とする被膜付きアルミニウム材。
【請求項2】
アルミニウム系材料からなる基材の表面の少なくとも一部に耐食絶縁性被膜が形成された被膜付きアルミニウム材であって、
前記耐食絶縁性被膜は、前記基材の上に形成された耐食下地層と、その耐食下地層の上に形成されたポリイミド樹脂層とから構成されており、
前記耐食下地層は、
前記基材の上に形成された亜鉛置換メッキ層と、
その亜鉛置換メッキ層の上に形成された、ニッケルを主要成分として含む中間層と、
その中間層の上に形成されると共に前記ポリイミド樹脂層の直下に位置する貴金属のメッキ層と
を積層したものであることを特徴とする被膜付きアルミニウム材。
【請求項3】
アルミニウム系材料からなる基材の表面の少なくとも一部に耐食絶縁性被膜が形成された被膜付きアルミニウム材であって、
前記耐食絶縁性被膜は、前記基材の上に形成された耐食下地層と、その耐食下地層の上に形成されたポリイミド樹脂層とから構成されており、
前記耐食下地層は、
前記基材の上に形成された亜鉛置換メッキ層と、
その亜鉛置換メッキ層の上に形成された銅層と、
その銅層の上に形成されたニッケル層と、
そのニッケル層の上に形成されると共に前記ポリイミド樹脂層の直下に位置する、金、銀又は白金から選択される貴金属のメッキ層と
を積層したものであることを特徴とする被膜付きアルミニウム材。
【請求項4】
アルミニウム系材料からなる基材の表面の少なくとも一部に耐食絶縁性被膜が形成された被膜付きアルミニウム材であって、
前記耐食絶縁性被膜は、
前記基材の上に形成された亜鉛置換メッキ層と、
その亜鉛置換メッキ層の上に形成された銅メッキ層と、
その銅メッキ層の上に形成されたニッケルメッキ層と、
そのニッケルメッキ層の上に形成された金メッキ層と、
その金メッキ層の上に電着塗装法により形成されたポリイミド樹脂層と
を積層したものであることを特徴とする被膜付きアルミニウム材。
【請求項5】
前記被膜付きアルミニウム材は、燃料電池構成部品用の耐食絶縁性被膜付きアルミニウム材である請求項1〜4のいずれかに記載の被膜付きアルミニウム材。

【図1】
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【公開番号】特開2007−113080(P2007−113080A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−306890(P2005−306890)
【出願日】平成17年10月21日(2005.10.21)
【出願人】(000100805)アイシン高丘株式会社 (202)
【Fターム(参考)】