説明

被覆剥離装置及び被覆剥離方法

【課題】 被覆剥離のためのレーザ照射の無駄を省くと共に、剥離部位以外の領域の損傷を防止することができる絶縁導線の被覆剥離装置及び被覆剥離方法を提供する。
【解決手段】 コイル部品10に巻回された絶縁導線の絶縁被覆を芯線から剥離するレーザ剥離機1であって、コイル部品10を所定の位置に保持する保持台7と、短パルスレーザを発信するレーザ発振器2と、レーザ発振器2より発信される短パルスレーザの光路上に位置し、短パルスレーザの光束径を縮小するエキスパンダ3と、エキスパンダ3を通過した短パルスレーザの光路上に位置し、短パルスレーザを収束して保持台7に保持されたコイル部品10に照射する転写レンズ5と、エキスパンダ3と転写レンズ5との間に位置し、コイル部品10への短パルスレーザの照射領域を規定するマスク4と、を備えたレーザ剥離機1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は絶縁導線の被覆剥離装置及び被覆剥離方法に関し、特にレーザ光を用いた絶縁導線の被覆剥離装置及び被覆剥離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から電子機器には導線として絶縁導線が用いられている。この絶縁導線は、一例として、芯線として銅線を使用すると共に芯線を覆う絶縁被覆としてポリウレタン被覆を使用している。ポリウレタン被覆は高耐熱性を備えないため、ポリウレタン被覆を使用した導線を電子機器の電極に継線する場合には、予め被覆を剥離させることなく、継線時の熱により継線と同時に被覆を剥離していた。
【0003】
また、絶縁導線が使用された電子機器の種類によっては、導線に高耐久性、具体的には高耐熱性が要求されることがあり、この場合に絶縁被覆としてポリアミドイミドが使用される場合がある。ポリアミドイミドは、融点がポリウレタンに比較して高いため、継線時の熱によりポリアミドイミド被覆を剥離させることは容易ではない。よって、継線前に被覆を剥離する必要があり、回転刃等により機械的に剥離する方法や、特許文献1に示すように、レーザにより被覆を溶融させて剥離する方法が提案されていた。
【特許文献1】特開2000−299240号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の被覆剥離方法では、機械的に剥離させる場合には芯線に傷が入り、傷が入った箇所が強度的な弱点となる場合があった。またレーザによる被覆剥離では芯線に傷は付かないが、熱に強い被覆を剥離するためにはレーザの強度を強くする必要があった。例えば小型のコイル部位品においては、被覆導線の絶縁被覆を剥離したい部位の近くにコアや巻回部分が存在するため、レーザの強度増加に伴ってこれらコアや巻回部分にもレーザが照射され、熱の影響が及ぶことになり、好ましいことではなかった。
【0005】
被覆導線に照射されるレーザの領域を規定するために、被覆導線の近傍にマスクが配置されるが、レーザの強度増加に伴い、マスクの耐久性が劣ることとなっていた。またレーザの強度の増加に伴い、被覆剥離に供しない照射部分も増加することからレーザ装置のコスト増を招いていた。
【0006】
そこで本発明は、被覆剥離のためのレーザ照射の無駄を省くと共に、剥離部位以外の領域の損傷を防止することができる絶縁導線の被覆剥離装置及び被覆剥離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、芯線と芯線を覆う絶縁被覆とを備えた絶縁導線の絶縁被覆を芯線から剥離する絶縁被覆剥離装置であって、絶縁導線を所定の位置に保持する保持台と、短パルスレーザを発信する発振器と、発振器より発信される短パルスレーザの光路上に位置し短パルスレーザの光束径を縮小するビームエキスパンダと、ビームエキスパンダを通過した短パルスレーザの光路上に位置し短パルスレーザを収束して保持台に保持された絶縁導線に照射する転写レンズと、ビームエキスパンダと転写レンズとの間に位置し、絶縁導線への短パルスレーザの照射領域を規定するマスクと、を備えた絶縁被覆剥離装置を提供する。
【0008】
このような構成によると、低出力の発振器においても、ビームエキスパンダを介してレーザ光の光束径を縮小し高強度のレーザ光を形成することができると共に保持台上に担持された絶縁導線の所定の位置にのみレーザ光を照射することができる。よってレーザ光の無駄が無く、所定の位置以外の領域への損傷が防がれる。またマスクに照射されるレーザ光は収束される前のレーザ光であるため、収束されて強度が高められたレーザ光がマスクに照射されることが無くなる。よってマスクの損傷が防がれ、マスクの寿命を長くすることができる。
【0009】
上記構成の絶縁被覆剥離装置において、マスクはガラスから構成されると共に、短パルスレーザを照射領域に沿った形状に透過させる透過領域と透過領域の周縁に位置する透過領域周縁部とを備え、透過領域周縁部では照射された短パルスレーザを散乱することが好ましい。
【0010】
このような構成によると、通常の金属マスクを使用した場合よりマスクの寿命を長くすることができる。よって交換やメンテナンス等の間隔を長くすることができ、作業性を向上させることができる。
【0011】
また転写レンズは短パルスレーザの光路方向に移動可能であると共に、保持台は光路方向と直交する方向に移動可能であることが好ましい。
【0012】
このような構成によると、照射位置調整のための駆動装置を、水平方向に係る装置、垂直方向に係る装置の2系統の装置から構成することができる。水平方向と垂直方向とに分けることにより、個々の装置の誤差を小さくすることができるため、駆動装置全体として精度を高めることができる。
【0013】
またマスクと転写レンズとの間には、短パルスレーザを反射すると共に可視光を透過させるダイクロイックミラーが配置されてマスクを透過した短パルスレーザを転写レンズの方向に反射し、ダイクロイックミラーに関して転写レンズの反対側には、ダイクロイックミラーを介して保持台上に保持された絶縁導線を観察可能な観察装置が配置されていることが好ましい。
【0014】
このような構成によると、例えばカメラを通して視覚により照射位置を観察することができる。従って照射位置の位置調整を容易に行うことが可能となり、かつ加工精度も向上させることができる。
【0015】
また上記課題を解決するために本発明は、芯線と芯線を覆う絶縁被覆とを備えた絶縁導線の絶縁被覆を芯線から剥離する被覆剥離方法であって、発振器より発信される短パルスレーザの光束径を縮小する光束径縮小工程と、光束径縮小工程を経た短パルスレーザの光束断面形状を絶縁導線に照射される領域に対応した形状に加工する光束断面形状加工工程と、光束断面形状加工工程を経た短パルスレーザを被覆導線表面に収束して照射する光線収束工程と、を備え、絶縁導線に短パルスレーザを照射し、芯線と絶縁被覆との界面に気泡を発生させ、気泡を膨張させて被覆を破裂し飛散させる被覆剥離工程を備えた絶縁導線の被覆剥離方法を提供する。
【0016】
このような方法によると、低出力の発振器を用いた場合であっても、光束径縮小工程を介してレーザ光の光束径を縮小し高強度のレーザ光を形成することができると共にパレット上に担持された絶縁導線の所定の位置にのみレーザ光を照射することができる。よってレーザ光の無駄が無く、所定の位置以外の領域への損傷が防がれる。またマスクに照射されるレーザ光は収束される前のレーザ光であるため、収束されて強度が高められたレーザ光がマスクに照射されることが無くなる。よってマスクの損傷が防がれ、マスクの寿命を長くすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の被覆剥離装置及び被覆剥離方法によれば、レーザ照射の無駄を省くと共に、剥離部位以外の領域の損傷を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施の形態による絶縁導線の被覆剥離装置及び被覆剥離方法について図1から図11を参照しながら説明する。図1に示される被覆剥離装置であるレーザ剥離機1は、レーザ発振器2と、エキスパンダ3と、マスク4と、転写レンズ5と、ダイクロイックミラー6と、保持台7と、観察装置8とから主に構成されている。
【0019】
レーザ発振器2は、パルスレーザを照射するYAGレーザ照射装置であり、照射されるパルスレーザの波長が1064nm、パルス幅が100nsec以下であって好ましくは40nsec以下、周波数が20Hz、照射エネルギー量が230mJ/cm±10%程度となる装置である。
【0020】
エキスパンダ3は、レーザ発振器2から照射されるレーザ光の光路上に配置されており、内部に凸レンズと凹レンズとを備えて一方からレーザ光が入力されて他方から出力する際に、レーザ光の光束径を縮小して出力する装置である。
【0021】
マスク4はガラスを基材として構成されており、エキスパンダ3を通過したレーザ光の光路上に配置されている。またマスク4は透明な箇所であってレーザ光が透過可能な透過領域4Aと、透過領域4A周縁部分である透過領域周縁部4Bとを備えている。透過領域周縁部4Bは、ブラスト加工等により磨りガラスとなっているため、透過領域周縁部4Bに照射されたレーザ光は散乱して、透過領域4Aに照射されたレーザ光のみマスクを透過可能となっている。また透過領域4Aは、後述の照射領域D(図6)と対応するよう、光路方向と直交する断面が略長方形に構成されている。
【0022】
マスク4を通過したレーザ光の光路上には、ダイクロイックミラー6が配置されレーザ光を約90度の角度で反射して、転写レンズ5に導光している。またダイクロイックミラー6は、特定の波長(本実施の形態のダイクロイックミラー6については、1064nm付近の波長)のみを反射する特徴を備えているため、通常の可視光は透過可能である。
【0023】
ダイクロイックミラー6で反射されたレーザ光は転写レンズ5を通過する。転写レンズ5は凸レンズから構成されており、入射されたレーザ光を保持台7上方位置で収束可能としている。また転写レンズ5はその光路方向(以下Z軸方向)に移動可能となっており、故に焦点位置もZ軸方向に移動可能となっている。
【0024】
保持台7は、レーザ光が照射されるコイル部品10を保持するパレット71と、パレット71を図示せぬ吸着機構により担持すると共に、Z軸方向と直交するX軸方向及びY軸方向に移動可能なX−Yテーブル72とから主に構成されている。またパレット71の上方位置には、エアを噴射するエアブロー73が設けられ、X−Yテーブル72の下方には集塵機74が配置されている。
【0025】
パレット71に保持されているコイル部品10は、差動信号インターフェースに用いられるコモンモードフィルタであり、その寸法は、長手方向で4mm程度であり、図3に示されるように、ドラムタイプのコア11と、二本の被覆導線12と、電極である金属端子13、13とより構成されている。コア11は、フェライト等の磁性粉体から圧縮、焼結等の過程を経て成形されている。
【0026】
コア11は長手方向に直交する断面が略長方形の巻芯部11Aと、巻芯部11Aの長手方向両端に設けられ、略同一形状の一対の鍔部11B、11Bより構成される。鍔部11B、11Bについては略同一形状であるため、特に明記しない限り片側のみで説明する。
【0027】
鍔部11Bは、巻芯部11Aと連結する部分である主胴部11Cと、主胴部11Cよりそれぞれ反対方向に延出されている一対の副胴部11D、11Dとから構成されている。
【0028】
副胴部11D、11Dには、それぞれ金属端子13、13が装着されている。この一対の副胴部11D、11D及び金属端子13、13は、主胴部11Cを挟んで対称に構成されているため、以下一方の副胴部11D及び金属端子13のみについて説明する。
【0029】
金属端子13、13は、基部13B(図4)の両端より延出される一対の脚部13A及び脚部13Cより略コの字形状に形成されている。この金属端子13は、脚部13A及び脚部13Cで、副胴部11Dを狭持して、副胴部11Dに装着される。
【0030】
脚部13Aの延出方向側辺からは、切片13Dが延出されている。切片13Dの脚部13A自由端側には固定部13Fが設けられ、脚部13A固定基端側には溶融部13Eが設けられている。また脚部13Cはコイル部品10を図示せぬ基板に実装する際に、基板上の電極と電気的に接合される実装箇所となる。
【0031】
巻芯部11Aに巻回される二本の被覆導線12は、図4に示されるように、それぞれ銅線である芯線12Aとポリアミドイミドからなる絶縁被覆12Bとから構成される。被覆導線12は、外径が約90μm、芯線径が約70μmである。この被覆導線12の両端部には継線箇所12Cが規定されており、この継線箇所12Cが後述の剥離箇所となる。
【0032】
ダイクロイックミラー6に関して転写レンズ5の反対側には、観察装置8が配置されている。観察装置8は、ミラー81と、補正レンズ82と、CCDカメラレンズ83と、リアコンバータレンズ84と、CCDカメラ85と、画像処理装置86と、モニタ87と、照明88とから構成されている。ミラー81は、転写レンズ5からダイクロイックミラー6へと向かう直線上(Z軸上)に位置し、その鏡面がZ軸と約45度を成すように配置されている。CCDカメラ85は、CCDカメラ85からミラー81へと向かう直線がZ軸と直交し、CCDカメラ85からミラー81へと向かう直線とミラー81の鏡面とが約45度を成すように配置されている。ダイクロイックミラー6では可視光を透過するため、レーザ光が照射されているコイル部品10の、転写レンズ5及びダイクロイックミラー6を介してミラー81に写っている状態をCCDカメラ85で撮影することができる。補正レンズ82は、CCDカメラ85とミラー81との間に配置されて、収差を補正している。CCDカメラレンズ83は、CCDカメラに像を結ぶためのレンズであり、リアコンバータレンズ84は倍率変更に係るレンズである。画像処理装置86は、CCDカメラ85で撮影した画像を処理してモニタ87に表示する装置であり、照明88は可視光線をコイル部品10に照射して視認しやすくしている。
【0033】
またレーザ剥離機1は、図2に示されるように、演算装置であるCPU91と、CPU91で行う処理を記憶しているメモリ92とを備えている。CPU91により、レーザ発振器2から照射されるレーザ光を制御すると共に、X−Yステージ72の移動量を制御する搬送系制御部93、エアブロー73及び集塵機74の動作を制御するエアブロー集塵制御部94、転写レンズ5のz軸方向の移動を制御する駆動系制御部95、及び照明88を制御する照明制御部96を備えて各制御を行っている。
【0034】
上記構成のレーザ剥離機1について、図5に示されるフロー図に基づいて、被覆導線12の絶縁被覆12Bを剥離する被覆剥離工程について説明する。先ずS01のステップで、図6に示されるように、被覆導線12が固定部13Fにより脚部13A上に保持された状態でコイル部品10をパレット71に固定し、この固定したパレット71をX−Yステージ72上に載置する。そしてS02のステップに進み、レーザ剥離機1を起動させるべく図示せぬスタートスイッチをONにする。図示せぬスタートスイッチをONにしたことにより、パレット71がX−Yステージ72上に吸着されて固定される(S03)。この状態でのX−Yステージ72の位置を供給位置と規定する。その後にS04へと進み、搬送系制御部93によりX−Yステージ72を移動させて照射位置に照射領域D(図6)であるコイル部品10の副胴部11D部分を配置する。X−Yステージ72の移動が完了したのをモニタ87で確認した後に(S05)、S06へ進んで、レーザ発振器2からレーザ光を照射する。
【0035】
レーザ発振器2から照射されたレーザ光はエキスパンダ3に入射し、そのレーザ光の光束が縮小されて(光束径縮小工程)、その縮小されたレーザ光がマスク4の透過領域4A付近に照射される。この時にエキスパンダ3におけるレーザ光の縮小率は、縮小されたレーザ光の断面内に少なくとも透過領域4Aが入る程度の面積となるような縮小率とすることが好ましい。このような縮小率とすることにより、透過領域4Aを透過するレーザ光の単位面積当たりのエネルギー量を高めることができる。
【0036】
マスク4に照射されたレーザ光は、照射領域D(図6)に対応した光路方向と直交する断面が略長方形となる部分のみマスク4を透過する(光束断面形状加工工程)。この時に透過領域4A以外の照射位置となる透過領域周縁部4Bでは、レーザ光を散乱してレーザ光がマスク4を透過することを防止している。レーザ光はエキスパンダ3によりその光束が縮小されているため、単位面積当たりのエネルギーは、レーザ発振器2から照射された時より大きくなっている。しかし、マスク4に照射されるレーザ光のエネルギーは、パレット71上の照射位置近傍における収束されたレーザ光のエネルギーより遙かに小さいため、透過領域周縁部4Bがレーザ光により劣化することが抑制され、マスク4の長寿命化を図ることができる。
【0037】
マスク4を透過したレーザ光は、ダイクロイックミラー6により直角に反射されて転写レンズ5へと照射される。転写レンズ5では、レーザ光の単位面積当たりのエネルギー量を増加させるためにレーザ光を収束させて照射領域へ照射する(光線収束工程)。この場合に、照射領域の大きさは、マスク4での光束径をφb、照射領域の光束径をφd、マスク4から転写レンズ5までの距離:f0、転写レンズ5から照射領域までの距離:f1とした場合に、φd=f0/f1×φdの式で算出される。従って、駆動系制御部95により転写レンズ5をZ軸方向に移動し、好適な照射領域となるように予め調整しておく。尚、X−Yテーブル72自体をZ軸方向に動かすことも想定されるが、X−Yテーブル72は、既にX軸方向、Y軸方向に移動可能な機構を備えているため、更にZ軸方向に動かす機能を備えるとその構成が複雑になり、移動に係る精度の維持が難しくなる。故に転写レンズ5をZ軸方向に移動させる構成を採ることにより、複雑な構成を採る必要が無くなり、X・Y・Z軸方向の制御を高精度に行うことが可能となっている。
【0038】
転写レンズ5を透過して収束されたレーザ光が照射領域へ照射される。この場合にレーザ光は絶縁被覆12Bを透過して芯線12Aの表面に照射されるため、芯線12Aの表面がレーザ光のエネルギーを吸収し、絶縁被覆12Bと芯線12Aとの間の界面12aが急激に温度上昇する。この温度上昇(常温から1000℃以上への温度変化)が極短時間で起こるため、界面12aの絶縁被覆12Bを構成するポリアミドイミドが化学変化し、溶融することなくガス化する。よって図7(b)に示すように、界面12aに無数の気泡12bが発生する。
【0039】
レーザ光が照射された箇所の温度上昇により、図7(c)に示すように気泡12bが界面12aに沿って急激に体積膨張し、連続的に芯線12A表面から絶縁被覆12Bを剥離していく。
【0040】
気泡12bの体積膨張が進むと、絶縁被覆12Bが体積膨張に係る応力に耐えられなくなり、図7(d)に示すように、絶縁被覆12Bの気泡12bを覆う箇所が破裂する。この気泡12b発生〜膨張〜破裂までの過程は極短時間で行われるため、絶縁被覆12Bの気泡12bを覆う箇所の破裂は衝撃を伴う。よって、絶縁被覆12Bは断片化された状態で芯線12A表面より飛散する。この時に飛散した絶縁被覆12Bは、エアブロー73で吹き飛ばされて集塵機74で吸い取られる。よってコイル部品10上に飛散した絶縁被覆12Bが残留することが抑制され、後に行われる継線工程において継線不良が生じ難くなっている。そして、図7(e)に示すように、継線箇所12Cの絶縁被覆12Bが全て飛散し、図8に示されるように芯線12A表面が露出してレーザ光による剥離が完了する。この時に、レーザ光は、照射領域Dのみにしか照射されないため、照射領域D外にある被覆導線12や、コア11に不要なレーザ光が照射されることが抑制される。従って照射領域D外がレーザ光で加熱されることが無く、コイル部品10の破損を防止することができる。
【0041】
以上の工程が終了した後に、S07のステップに進み、未だ被覆剥離が完了していない被覆導線があるのならば(S07:NO)、S08へ進んで、X−Yステージ72が移動して未だ被覆剥離が完了していない被覆導線の被覆剥離を行うべくS04へと戻る。全ての被覆導線の被覆剥離が完了している場合ならば(S07:YES)、S09へと進んで、X−Yステージ72を供給位置へと戻す。その後パレット71の吸着を停止し(S10)、パレット71及びパレット71上のコイル部品10を取り出して(S11)、被覆剥離工程が終了する。
【0042】
被覆剥離工程が終了した後に、露出部分を覆うように溶融部13E(図4)が折り曲げられ、その後に図示せぬレーザ等を用いて、図9に示されるように溶融部13E及び芯線12Aが溶接され、コイル部品10が完成する。
【0043】
本発明による絶縁導線の被覆剥離装置及び被覆剥離方法は、上述した実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変形や改良が可能である。例えば、本実施の形態では、エキスパンダ3により光束径を縮小させたのみであったが、エキスパンダ3とマスク4との間にシリンドリカルレンズを配置して、マスク4に照射されるレーザ光の形状を変形させても良い。具体的には図10に示されるように、レーザ光のマスク4への照射断面を、透過領域4Aの長方形形状に沿うように楕円形状S2としても良い。シリンドリカルレンズがない場合にマスク4に照射されるレーザ光の照射断面は円形状S1になり、楕円形状S2の長径は円形状S1の直径と等しいため、楕円形状S2とした場合の方が、透過領域周縁部4Bで散乱されるレーザ光を減少することが可能となり、レーザ光のロスを低減することができる。
【0044】
また本実施の形態では、転写レンズ5を移動させることにより、距離f1と距離f0との比を変化させたがこれに限らず、例えばマスク4を光路方向に移動させて距離f1を変化させて、距離f1と距離f0との比を変化させても良い。
【0045】
また、被覆の材料はポリアミドイミドに限らず、他の素材、例えばポリウレタンであっても、レーザ光により剥離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施の形態に係る被覆剥離装置を表す概念図。
【図2】本発明の実施の形態に係る被覆剥離装置の制御に係るブロック図。
【図3】本発明の実施の形態に係る被覆剥離装置で剥離される絶縁導線を備えたコイル部品の平面図。
【図4】本発明の実施の形態に係る被覆剥離装置で剥離される絶縁導線を備えたコイル部品の部分斜視図。
【図5】本発明の実施の形態に係る被覆剥離装置での被覆剥離工程に係るチャート。
【図6】本発明の実施の形態に係る被覆剥離装置で剥離される絶縁導線を備えたコイル部品の部分平面図。
【図7】本発明の実施の形態に係る被覆剥離工程で(a)パルスレーザ照射、(b)気泡発生、(c)気泡膨張、(d)気泡破裂、(e)剥離完了の状態を表す部分断面図。
【図8】本発明の実施の形態に係る被覆剥離装置で剥離される絶縁導線を備えたコイル部品の継線完了前の状態の部分斜視図。
【図9】本発明の実施の形態に係る被覆剥離装置で剥離される絶縁導線を備えたコイル部品の絶縁導線が継線された状態の部分斜視図。
【図10】本発明の実施の形態に係る被覆剥離装置の変更例にかかるマスクの被照射状態を示す図。
【符号の説明】
【0047】
1・・レーザ剥離機 91・・CPU 92・・メモリ 2・・レーザ発振器
3・・エキスパンダ 4・・マスク 4A・・透過領域 4B・・透過領域周縁部
5・・転写レンズ 95・・駆動系制御部 6・・ダイクロイックミラー
7・・保持台 93・・搬送系制御部 94・・エアブロー集塵制御部
8・・観察装置 96・・照明制御部 9・・金属端子 10・・コイル部品
11・・コア 11A・・巻芯部 11B・・鍔部 11C・・主胴部
11D・・副胴部 12・・被覆導線 12A・・芯線 12B・・絶縁被覆
12C・・継線箇所 12a・・界面 12b・・気泡 13・・金属端子
13A・・脚部 13B・・基部 13C・・脚部 13D・・切片 13E・・溶融部
13F・・固定部 71・・パレット 72・・ステージ 72・・テーブル
73・・エアブロー 74・・集塵機 81・・ミラー 82・・補正レンズ
83・・カメラレンズ 84・・リアコンバータレンズ 85・・カメラ
86・・画像処理装置 87・・モニタ 88・・照明

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯線と該芯線を覆う絶縁被覆とを備えた絶縁導線の該絶縁被覆を該芯線から剥離する絶縁被覆剥離装置であって、
該絶縁導線を所定の位置に保持する保持台と、
短パルスレーザを発信する発振器と、
該発振器より発信される該短パルスレーザの光路上に位置し、該短パルスレーザの光束径を縮小するビームエキスパンダと、
該ビームエキスパンダを通過した該短パルスレーザの光路上に位置し、該短パルスレーザを収束して該保持台に保持された該絶縁導線に照射する転写レンズと、
該ビームエキスパンダと該転写レンズとの間に位置し、該絶縁導線への該短パルスレーザの照射領域を規定するマスクと、を備えたことを特徴とする絶縁被覆剥離装置。
【請求項2】
該マスクはガラスから構成されると共に、該短パルスレーザを該照射領域に沿った形状に透過させる透過領域と該透過領域の周縁に位置する透過領域周縁部とを備え、該透過領域周縁部では照射された該短パルスレーザを散乱することを特徴とする請求項1に記載の絶縁被覆剥離装置。
【請求項3】
該転写レンズは該短パルスレーザの光路方向に移動可能であると共に、該保持台は該光路方向と直交する方向に移動可能であることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の絶縁被覆剥離装置。
【請求項4】
該マスクと該転写レンズとの間には、該短パルスレーザを反射すると共に可視光を透過させるダイクロイックミラーが配置されて該マスクを透過した該短パルスレーザを該転写レンズの方向に反射し、
該ダイクロイックミラーに関して該転写レンズの反対側には、該ダイクロイックミラーを介して該保持台上に保持された該絶縁導線を観察可能な観察装置が配置されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一に記載の絶縁被覆剥離装置。
【請求項5】
芯線と該芯線を覆う絶縁被覆とを備えた絶縁導線の該絶縁被覆を該芯線から剥離する被覆剥離方法であって、
発振器より発信される短パルスレーザの光束径を縮小する光束径縮小工程と、
該光束径縮小工程を経た該短パルスレーザの光束断面形状を該絶縁導線に照射される領域に対応した形状に加工する光束断面形状加工工程と、
該光束断面形状加工工程を経た該短パルスレーザを該被覆導線表面に収束して照射する光線収束工程と、を備え、
該絶縁導線に該短パルスレーザを照射し、該芯線と該絶縁被覆との界面に気泡を発生させ、該気泡を膨張させて該被覆を破裂し飛散させる被覆剥離工程を備えることを特徴とする絶縁導線の被覆剥離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−151319(P2007−151319A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−343428(P2005−343428)
【出願日】平成17年11月29日(2005.11.29)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】