説明

被覆焼結体、被覆焼結体の製造方法

【課題】耐摩耗性部材の被膜層の圧縮残留応力を好適に制御する。
【解決手段】被覆焼結体20は、焼結体からなる基材30と、基材30の外側に形成され、窒化チタンアルミからなる下地層40と、下地層40よりも外側に形成され、炭窒化チタンからなる表層50とを備えている。X線回折によって測定される、下地層40の(111)面と(200)面とのピーク位置の回折角をそれぞれ2θ(111)、2θ(200)とし、粉末X線回折強度データベースにおける、下地層40の(111)面と(200)面とのピーク位置の理論値の回折角をそれぞれT(111)、T(200)とし、S(111)=2θ(111)−T(111)、S(200)=2θ(200)−T(200)としたとき、S(200)−S(111)≧0.1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結体に被膜層が形成された被覆焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
切削工具や自動車の摺動部品には、耐摩耗性部材が用いられる。こうした耐摩耗性部材として、基材の表面に耐摩耗性に優れた被膜層を形成したものが知られている。例えば、下記特許文献1では、基材の表面にイオンプレーティングによってTiAlNの被膜層を形成する技術を開示している。
【0003】
かかる被膜層は、被膜層の膜厚が大きくなるほど、耐摩耗性が向上する。被膜層の膜厚が大きくなるほど、圧縮残留応力が増加するからである。一方、圧縮残留応力が大きくなると、耐摩耗性が向上する反面、被膜層の密着性が低下する。このため、被膜層の膜厚を大きくして、耐摩耗性を向上させるには限界があった。そこで、下記特許文献2では、配向性の異なる被膜層を多層に形成し、被膜層を3層以上とする技術を開示している。かかる技術によれば、1層分の被膜層の膜厚が小さくなるので、1層分の圧縮残留応力を低減することができる。その結果、被膜層の密着性の低下を抑制しつつ、多層の被膜層全体の膜厚を確保することができる。
【0004】
しかしながら、圧縮残留応力の大きさは、膜厚のみに依存するものではないので、その制御が難しかった。例えば、特許文献2のように、被膜層を3層以上とした場合であっても、圧縮残留応力が低減しないことや、逆に、圧縮残留応力が過剰に低減することがあった。このような場合、所望の密着性や耐摩耗性を得ることができなかった。かかる問題は、種々の耐摩耗性部材に広く共通する問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−209333号公報
【特許文献2】特開平10−76407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の問題の少なくとも一部を考慮し、本発明が解決しようとする課題は、耐摩耗性部材の被膜層の圧縮残留応力を好適に制御することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決することを目的とし、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]焼結体からなる基材と、該基材の外側に形成され、窒化チタンアルミからなる第1の被膜層と、該第1の被膜層よりも前記外側に形成され、炭窒化チタンからなる第2の被膜層とを備えた被覆焼結体であって、
X線回折によって測定される、前記第1の被膜層の(111)面と(200)面とのピーク位置の回折角をそれぞれ2θ(111)、2θ(200)とし、粉末X線回折強度データベースにおける、前記第1の被膜層の前記(111)面と前記(200)面との前記ピーク位置の理論値の回折角をそれぞれT(111)、T(200)とし、S(111)=2θ(111)−T(111)、S(200)=2θ(200)−T(200)としたとき、
S(200)−S(111)≧0.1
を満たすことを特徴とする被覆焼結体。
【0009】
かかる構成の被覆焼結体によれば、第1の被膜層は、第1の被膜層の(111)面に比べて、(200)面に大きな歪みを持たせることができるので、圧縮残留応力の制御の自由度を高めることができる。その結果、被膜層の密着性と耐摩耗性とを好適に確保することが可能となる。
【0010】
[適用例2]適用例1記載の被覆焼結体であって、前記X線回折によって測定される、前記第2の被膜層の前記(111)面と前記(200)面とのピーク位置の回折強度をそれぞれI(111)、I(200)としたとき、I(200)/I(111)≧1を満たすことを特徴とする被覆焼結体。
かかる構成の被覆焼結体によれば、第2の被膜層の硬度を高めることができる。
【0011】
[適用例3]適用例1または適用例2記載の被覆焼結体であって、前記第1の被膜層の膜厚は、0.3μm以上かつ2.0μm以下であり、前記第2の被膜層の膜厚は、0.3μm以上かつ3.0μm以下であることを特徴とする被覆焼結体。
かかる構成の被覆焼結体によれば、第1の被膜層および第2の被膜層が適度な厚みを有するので、第1の被膜層および第2の被膜層の密着性を確保しつつ、好適な耐摩耗性を確保することができる。
【0012】
[適用例4]前記被覆焼結体は、切削インサートであることを特徴とする適用例1ないし適用例3のいずれか記載の被覆焼結体。
かかる構成の被覆焼結体によれば、第1の被膜層および第2の被膜層の耐摩耗性と密着性とを好適に確保できる。したがって、被覆焼結体を切削インサートとして好適に利用することができる。
【0013】
また、上述した適用例1の被覆焼結体は、適用例5の被覆焼結体としても特定することができる。
[適用例5]焼結体からなる基材と、該基材の外側に形成され、窒化チタンアルミからなる第1の被膜層と、該第1の被膜層よりも前記外側に形成され、炭窒化チタンからなる第2の被膜層とを備えた被覆焼結体であって、
前記第2の被膜層の組成は、前記第2の被膜層の内側から外側に向かう方向に沿って、窒素原子に対する炭素原子の比率が変化しており、
前記比率は、前記第2の被膜層の外側の表面において、前記第2の被膜層の内側の表面よりも大きく、
前記比率の変化は、前記第2の被膜層の外側の表面から前記第2の被膜層の内側の表面に向かって、少なくとも1回、減少する変化を含む
ことを特徴とする被覆焼結体。
【0014】
また、本発明は、上述した被覆焼結体のほか、適用例6の被覆焼結体の製造方法としても実現することができる。
[適用例6]焼結体からなる基材を用意する第1の工程と、該基材の外側に窒化チタンアルミからなる第1の被膜層を形成する第2の工程と、該第1の被膜層よりも前記外側に炭窒化チタンからなる第2の被膜層を蒸着によって形成する第3の工程とを備えた被覆焼結体の製造方法であって、
前記第3の工程は、
窒素ガスと、炭素を含むカーボンガスとを供給して、前記蒸着を行う際に、前記窒素ガスの供給量に対する前記カーボンガスの供給量の比率を変化させ、
前記比率は、前記第3工程の開始時よりも終了時で大きく、
前記比率の変化は、前記開始時から前記終了時に至る途中で、少なくとも1回、前記比率を減少させる変化を含むことを特徴とする
被覆焼結体の製造方法。
【0015】
かかる被覆焼結体の製造方法によれば、上述した適用例1または適用例5の被覆焼結体を好適に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の被覆焼結体の実施例としての被覆焼結体20の概略断面形状を示す説明図である。
【図2】被覆焼結体20の製造工程を示す工程図である。
【図3】被覆焼結体20の製造工程における第2の被膜処理の制御内容を示す説明図である。
【図4】比較例1としての被覆焼結体20aの製造工程における第2の被膜処理の制御内容を示す説明図である。
【図5】比較例2としての被覆焼結体20bの製造工程における第2の被膜処理の制御内容を示す説明図である。
【図6】第2の被膜処理における供給ガスのC/N比を示す説明図である。
【図7】X線回折による被覆焼結体20の測定結果を示す説明図である。
【図8】X線回折による下地層40の測定結果を示す図表である。
【図9】X線回折による表層50の測定結果を示す図表である。
【図10】被覆焼結体20の摩耗量低減効果を示す図表である。
【図11】被覆焼結体20の摩耗量低減効果を示す図表である。
【図12】第1の変形例としての被覆焼結体20の製造工程における第2の被膜処理の制御内容を示す説明図である。
【図13】第2の変形例としての被覆焼結体20の製造工程における第2の被膜処理の制御内容を示す説明図である。
【図14】第3の変形例としての被覆焼結体20の製造工程における第2の被膜処理の制御内容を示す説明図である。
【図15】第4の変形例としての被覆焼結体20の製造工程における第2の被膜処理の制御内容を示す説明図である。
【図16】第5の変形例としての被覆焼結体20の製造工程における第2の被膜処理の制御内容を示す説明図である。
【図17】第6の変形例としての被覆焼結体20の製造工程における第2の被膜処理の制御内容を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
A.実施例:
A−1.被覆焼結体20の概略構成:
本発明の実施形態について説明する。本発明の被覆焼結体の実施例としての被覆焼結体20の概略断面構成を図1に示す。被覆焼結体20は、焼結体の表面に被膜層を形成したスローアウェイチップ、すなわち、切削インサートである。この被覆焼結体20は、切削工具の本体に着脱可能に装着される。被覆焼結体20は、図1に示すように、略菱形の板状形状を有している。図1では、被覆焼結体20の板状形状に沿った断面を示している。図示する被覆焼結体20の形状は、ISO規格で規定されたDCGT11T3の形状に該当する。ただし、被覆焼結体20の形状は、適宜設定すればよく、例えば、略矩形の平板形状などであってもよい。
【0018】
図1に示すように、被覆焼結体20は、基材30と被膜層60とを備えている。基材30は、焼結体によって形成されている。本実施例では、焼結体として、超硬合金を用いている。なお、焼結体は、サーメットなどであってもよい。基材30の中央部には、貫通孔35が形成されている。貫通孔35は、被覆焼結体20を切削工具の本体に装着する際にクランプネジを挿入して、被覆焼結体20と本体とを固定するために形成されている。以下、図1における基材30の内側の方向を単に内側ともいい、それと反対の方向、つまり、基材30の外側の方向を単に外側ともいう。
【0019】
被膜層60は、被覆焼結体20の耐摩耗性を向上させるために、基材30の表面に形成される。被膜層60は、下地層40と表層50とを備えている。つまり、被膜層60は、本実施例では、2層構造を有している。基材30の外側の表面には、下地層40が形成されている。下地層40は、窒化チタンアルミからなる被膜層である。また、下地層40の外側の表面には、表層50が形成されている。表層50は、炭窒化チタンからなる被膜層である。なお、下地層40は、請求項の第1の被膜層に該当する。また、表層50は、請求項の第2の被膜層に該当する。
【0020】
図1において、下地層40および表層50の膜厚は、図示の便宜上、実際の厚みよりも大きく表示している。本実施例では、下地層40の膜厚を0.5μmとし、表層50の膜厚を1.0μmとした。なお、下地層40および表層50の膜厚は適宜設定すればよく、例えば、下地層40の膜厚を1.0μmとし、表層50の膜厚を2.0μmとしてもよい。ただし、下地層40の膜厚は、0.3μm以上とすることが望ましい。こうすれば、所定程度の耐摩耗性を確保することができる。さらに、下地層40の膜厚は、2.0μm以下とすることが望ましい。こうすれば、下地層40の密着性が低下することを抑制し、チッピングの発生を抑制できる。また、表層50の膜厚は、0.3μm以上とすることが望ましい。こうすれば、所定程度の耐摩耗性を確保することができる。さらに、表層50の膜厚は、3.0μm以下とすることが望ましい。こうすれば、表層50の密着性が低下することを抑制し、下地層40との間でチッピングの発生を抑制できる。なお、表層50は、下地層40と比べて、その材質に起因して密着性に優れているので、表層50の膜厚は、下地層40の膜厚よりも大きくすることができる。
【0021】
A−2.被覆焼結体20の製造方法:
上述した被覆焼結体20の製造方法の具体例について説明する。被覆焼結体20の製造工程を図2に示す。図示するように、被覆焼結体20の製造においては、まず、基材30を用意する(ステップS110)。具体的には、まず、原料粉末としてWC(炭化タングステン)およびCo(コバルト)粉末を所定量用意する。次に、原料粉末を湿式混合し、乾燥した後、プレス成形して圧粉体を得る。次に、この圧粉体を真空中で温度1400℃に1時間保持して焼結し、WC−Co系超硬合金製の焼結体を得る。そして、得られた焼結体をDCGT11T3の形状に研磨することで、基材30を得る。
【0022】
こうして基材30を用意すると、次に、第1の被膜処理によって、基材30の表面に下地層40を形成する(ステップS120)。本実施例では、PVD(Physical Vapor Deposition)、具体的には、イオンプレーティングによって、下地層40を形成した。より具体的には、まず、コーティングチャンバー内を1×10−5torrまで減圧した後、母材としての基材30をヒータで加温して550℃まで昇温させる。次に、TiAlターゲットに50〜150Aの直流電源を印加してアーク放電させ、基材30に対するバイアス電圧を30Vに調整する。次に、この状態で、高純度窒素ガス(以下、単に窒素ガスともいう)を導入して、窒化チタンアルミからなる下地層40を基材30の表面に形成する。
【0023】
こうして下地層40を形成すると、最後に、第2の被膜処理によって、下地層40の表面に表層50を形成する(ステップS130)。本実施例では、上記ステップS120と同様に、イオンプレーティングによって、表層50を形成した。具体的には、上記ステップS120に引き続いて、Tiターゲットに50〜150Aの直流電源を印加してアーク放電させ、母材に対するバイアス電圧を30〜100Vに調整する。次に、この状態で、窒素ガスと、炭素原子を含むカーボンガスとを、その供給量を制御しながら導入して、炭窒化チタンからなる表層50を下地層40の表面に形成する。なお、下地層40および表層50の膜厚は、窒素ガスを供給し、アークイオン流を発生させた状態での保持時間によって、調節可能である。こうして、被覆焼結体20は完成となる。なお、上記ステップS110は、請求項の第1の工程に該当する。また、上記ステップS120は、請求項の第2の工程に該当する。また、上記ステップS130は、請求項の第3の工程に該当する。
【0024】
ステップS130における窒素ガスとカーボンガスの供給量の制御方法についての具体例を図3に示す。図3では、表層50の成膜時間が10分である場合の、窒素ガスとカーボンガスの流量をmol/minの単位で表している。表示する流量は、窒素原子および炭素原子の物質量に換算した値である。図示するように、成膜開始時においては、窒素ガスの供給量は、約0.089mol/minである。窒素ガスの供給量は、成膜開始時から3分の間、同じ供給量に維持されている。この供給量は、成膜開始から3分の時点で、約0.053mol/minに変更される。つまり、窒素ガスの供給量は非連続的に減少する。
【0025】
その後1分間、変更後の値が維持された後、窒素ガスの供給量は、約0.063mol/minに変更される。つまり、窒素ガスの供給量は一旦、非連続的に増加する。その後1分間、変更後の値が維持された後、窒素ガスの供給量は、約0.045mol/minに変更される。つまり、窒素ガスの供給量は、再度、非連続的に低下する。その後1分間、変更後の値が維持された後、窒素ガスの供給量は、約0.054mol/minに変更される。つまり、窒素ガスの供給量は、再度、一時的に増加する。その後1分間、変更後の値が維持された後、窒素ガスの供給量は、約0.027mol/minに変更される。つまり、窒素ガスの供給量は、再度、低下する。そして、変更後の値は、成膜終了時まで維持される。なお、本実施例における各種パラメータ(図3では、窒素ガスおよびカーボンガスの供給量)の制御の説明は、制御目標値を示している。パラメータの推移について、制御誤差によって生じる僅かな変動は、変動していないものとみなしてもよい。
【0026】
かかる窒素ガスの供給量の制御は、供給量が、成膜開始時の値と比べて成膜終了時の値が小さくなっている。つまり、成膜時間全体で見れば、窒素ガスの供給量を成膜開始時から成膜終了時に向けて減少させる制御である。本実施例では、窒素ガスの供給量は、成膜開始時に最大となり、成膜終了時に最小となっている。成膜開始時と成膜終了時との間では、窒素ガスの供給量は、非直線的に制御されている。非直線的とは、成膜開始時から成膜終了時に亘るパラメータ(ここでは、窒素ガス供給量)の推移の形状が、1本の直線形状ではないことをいう。例えば、図3のカーボンガスの供給量の推移は、非直線的であるが、後述する図5に示す窒素ガスの供給量の推移は、直線的であり、非直線的ではない。また、窒素ガスの供給量の制御は、成膜時間全体の途中で、2回(成膜開始から4分後と6分後)、窒素ガスの供給量を一時的に増加させている。
【0027】
一方、カーボンガスの供給量は、図3に示すように、成膜開始時においては、0mol/minである。つまり、カーボンガスは供給されない。そして、成膜開始時から1.5分を超えてから、カーボンガスの供給が開始される。カーボンガスの供給量は、供給開始後、増加率を変化させながら、9分に至るまで漸増して、最終的に、約0.013mol/min(窒素ガスの半分の量)となっている。9分以降の供給量は、成膜終了時まで約0.013mol/minに維持されている。
【0028】
ここで、図3の制御をより明確にするために、比較例としての窒素ガスおよびカーボンガスの供給量を制御方法について、簡単に説明する。比較例1としての制御例を図4に示す。図示するように、比較例1では、窒素ガスの供給量は、成膜時間の全体に亘って、約0.027mol/minに一定に維持されている。一方、カーボンガスの供給量は、成膜時間の全体に亘って、約0.013mol/minに一定に維持されている。
【0029】
また、比較例2としての制御例を図5に示す。図示するように、比較例2では、窒素ガスの供給量は、成膜時間の全体に亘って、約0.089mol/minから約0.027mol/minまで直線的に減少している。一方、カーボンガスの供給量は、成膜時間の全体に亘って、0mol/minから約0.013mol/minまで直線的に増加している。
【0030】
かかる本実施例および比較例1,2の窒素ガスおよびカーボンガスの供給量を、窒素原子に対する炭素原子の割合であるC/N比に換算して、図6に示す。図示するように、比較例1では、C/N比は成膜時間の全体に亘って、値0.5で直線的に一定推移している。かかる制御によって形成される表層の組成は、供給する窒素ガスおよびカーボンガスのC/N比の推移に対応した組成になる。つまり、表層の内側の表面から外側の表面にかけて、C/N比が値0.5で略均一な状態になる。
【0031】
また、比較例2では、図6に示すように、C/N比は成膜時間の全体に亘って値0から値0.5まで増加している。このC/N比が示す増加曲線における増加率は、成膜時間の経過に伴って増加している。また、C/N比は、成膜時間の経過に伴って、常に増加している。かかる制御によって形成される表層の組成は、供給する窒素ガスおよびカーボンガスのC/N比の推移におよそ対応した組成になる。つまり、表層の内側の表面から外側の表面に向かって、C/N比が値0から値0.5まで常に増加する。
【0032】
一方、本実施例の窒素ガスおよびカーボンガスの制御方法によれば、図6に示すように、C/N比は、成膜開始時から約1.5分後までは値0である。その後、C/N比は、全体傾向として増加していき、成膜開始時から9分後に最大値の値0.5に達する。その後、C/N比は、最大値のまま一定に推移する。また、かかる成膜行程のC/N比の変化は、上述した窒素ガスの供給量の制御に起因して、成膜開始時から4分後と6分後との2回、C/N比を減少させる変化を含んでいる。この例では、成膜開始時から4分後におけるC/N比の減少率は約14%である。また、成膜開始時から6分後におけるC/N比の減少率は約17%である。
【0033】
このように、C/N比を成膜行程の開始時よりも終了時で大きくなるように制御する過程において、C/N比を一時的に減少させることで、下地層40の結晶構造に所定の歪み特性を生じさせることができる。この特性については後述する。かかる特性を生じさせるためのC/N比の低下の程度は、例えば5%以上の範囲とすることができ、10%以上の範囲とすることが好ましい。5%未満であると低下量が少ない為C/N比減少による膜組織への影響が無くなってしまう。C/N比を一時的に減少させる回数は、上述した2回に限らず、1回であってもよいし、3回以上であってもよい。C/N比を一時的に減少させることが、下地層40の結晶構造に所定の歪み特性を生じさせるので、C/N比の減少回数は、多い方が望ましい。ただし、成膜時間が10分程度であれば、当該回数を多くすると、C/N比が一旦減少してから減少前の値に復帰する前に、次の減少段階に移行する制御となるおそれがある。かかる制御は、実質的には、C/N比を連続的に減少させる制御と変わらない。そのため、C/N比の減少状態の保持時間および減少状態からの復帰後の保持時間を本実施例の成膜時間との関係でみると2回が望ましい。
【0034】
かかる制御によって形成される表層50の組成は、供給する窒素ガスおよびカーボンガスのC/N比の推移に対応した組成になる。つまり、表層50のC/N比は、表層50の内側(下地層40側)の表面から外側の表面に向かう方向に沿って変化しており、当該外側の表面において、内側の表面よりも大きくなっている。さらに、C/N比の変化は、表層50の外側の表面から内側の表面に向かって、少なくとも1回、減少する変化を含んでいる。本実施例では、表層50のC/N比は、内側の表面で最小(値0)となり、外側の表面で最大となっている。以上の説明からも明らかなように、表層50の材質は、炭窒化チタンであればよく、そのC/N比は、限定されない。また、部分的に、炭素成分を有しない領域があってもよい。かかる表層50の組成の内側の表面から外側に向かう方向に沿った変化は、例えば、二次イオン質量分析計によって測定することができる。
【0035】
A−3.被覆焼結体20の特性:
上述した方法によって製造した被覆焼結体20の特性について説明する。Cu−Kα線を用いたX線回折装置を用いて測定した粉末X線回折の測定結果を図7に示す。本実施例では、X線回折装置にはリガク製のRINT−TTR3を用いた。図7の横軸は、ピーク位置の回折角2θである。縦軸は、回折強度である。測定対象は、被覆焼結体20に加えて、比較例1〜3の被覆焼結体とした。比較例1の被覆焼結体20aは、上述した比較例1の制御方法で製造した被覆焼結体である。比較例2の被覆焼結体20bは、上述した比較例2の制御方法で製造した被覆焼結体である。比較例3の被覆焼結体20cは、被覆焼結体20の表層50に相当する被膜層を有していない被覆焼結体である。つまり、被覆焼結体20cの被膜層は、窒化チタンアルミからなる1層構造である。被覆焼結体20cの被膜層の厚みは、被覆焼結体20の被膜層60と同一の厚み、すなわち、1.5μmである。以下、被覆焼結体20a〜20cを構成する基材を基材30a〜30cともいう。同様に、被覆焼結体20a〜20cを構成する下地層を下地層40a〜40cともいう。同様に、被覆焼結体20a,20bを構成する表層を表層50a,50bともいう。
【0036】
図7において、「□」(図中のWC)は、それぞれ、基材30および基材30a〜30cの測定結果のピーク位置の回折角を示している。同様に、「○」(図中のTiAlN)は、下地層40および下地層40a〜40cの測定結果のピーク位置の回折角を示している。同様に、「△」(図中のTiCN)は、表層50および50a,50bの測定結果のピーク位置の回折角を示している。また、図7では、測定結果に加えて、ICDD(International Centre for Diffraction Data)によって公開される粉末X線回折強度データベース(以下、PDF(Powder Diffraction File)ともいう)におけるTiAlNの(111)面および(200)面のピーク位置の理論値の回折角を「●」で表示している。以下、TiAlNの(111)面における理論値を理論値T(111)ともいう。同様に、(200)面における理論値を理論値T(200)ともいう。なお、TiAlNは、上述の通り、下地層40の材質である。
【0037】
また、(111)面におけるピーク位置の回折角2θを回折角2θ(111)ともいう。同様に、(200)面におけるピーク位置の回折角2θを回折角2θ(200)ともいう。さらに、シフト量S(111)=2θ(111)−T(111)、シフト量S(200)=2θ(200)−T(200)と定義する。これらの式からも明らかなように、シフト量S(111),S(200)は、測定された(111)面および(200)面のピーク位置の回折角についての、理論値に対するシフト量である。なお、当該シフト量がプラスの値の場合には、圧縮残留応力が作用し、マイナスの値の場合には、引張残留応力が作用することが知られている。かかる作用力は、同一のミラー面においては、シフト量の絶対値が大きくなるほど、大きくなる。
【0038】
かかる図7に対応する下地層40の測定データを図8に示す。図示するように、本実施例の下地層40の回折角2θ(111)は、37.42度である。また、回折角2θ(200)は、43.62度である。一方、PDFにおける理論値は、理論値T(111)が37.135度であり、理論値T(200)が43.146度である。したがって、S(111)は、次式(1)によって、0.285度となる。同様に、S(200)は、次式(2)によって、0.474度となる。
S(111)=2θ(111)−T(111)
=37.42−37.135
=0.285・・・(1)
S(200)=2θ(200)−T(200)
=43.62−43.146
=0.474・・・(2)
【0039】
シフト量S(111),S(200)は、共にプラスの値であるから、下地層40の(111)面および(200)面には、いずれも圧縮残留応力が作用していることが分かる。ここで、差分値D=S(200)−S(111)と定義すると、下地層40の差分値Dは、D=0.189(=0.474−0.285)となる。同様に、比較例1としての下地層40aの差分値Daを算出すると、Da=0.089となる。同様に、比較例2としての下地層40bの差分値Dbを算出すると、Db=−0.031となる。同様に、比較例3としての下地層40cの差分値Dcを算出すると、Dc=−0.031となる。
【0040】
以上の説明からも明らかなように、本実施例としての被覆焼結体20を構成する下地層40は、差分値D、すなわち、S(200)−S(111)の値が、プラスの値であり、かつ、比較例1〜3と比べて大きい特性を有している。かかる特性は、(200)面には、(111)面と比べて、所定以上の大きな圧縮残留応力が作用していることを示している。換言すれば、(200)面の結晶構造は、(111)面の結晶構造よりも歪みが大きいことを示している。
【0041】
また、上述した図7に示した測定結果から、実施例としての表層50および比較例1,2としての表層50a,50bのピーク強度Iを抽出して図9に示す。なお、比較例3としての被覆焼結体20cは、表層を有していないので、比較例3に対応する測定データは存在しない。(111)面におけるピーク強度Iをピーク強度I(200)ともいい、(200)面におけるピーク強度Iをピーク強度I(200)ともいう。
【0042】
図示するように、実施例としての表層50のピーク強度I(111)は値286であり、ピーク強度I(200)は、値402であった。ここで、ピーク強度比R=I(200)/I(111)と定義すると、表層50のピーク強度比Rは、値1.49となる。同様に、比較例1,2としての表層50a,50bについて、ピーク強度比Rを算出すると、表層50aでは値0.77、表層50bでは値1.59であった。
【0043】
表層50や表層50bのように、ピーク強度比Rが大きいと言うことは、結晶が(200)面に配向した柱状晶の形成を意味している。したがって、表層50のピーク強度比Rを所定程度大きくすれば、硬度(ビッカース硬さ)が大きくなり、表層50の耐摩耗性が向上する。かかる観点から、ピーク強度比Rは値1.0以上とすることが望ましい。
【0044】
A−4.効果:
上述した製造方法によって製造される被覆焼結体20によれば、下地層40についての(200)面のシフト量Sが(111)面のシフト量Sよりも所定程度大きい、つまり、差分値Dが所定程度大きくなる。換言すれば、(200)面に配向している結晶の配向面に選択的に圧縮残留応力を残すことで切削加工に有為な膜質を形成できる。このように、選択的に圧縮残留応力を残すことによって、圧縮残留応力の制御の自由度を高めることができる。したがって、圧縮残留応力を適度な値に好適に制御し、下地層40の密着性と耐摩耗性とを両立させることが可能になる。
【0045】
一方、図8に示したように、比較例1の下地層40aでは、(111)面,(222)面ともにシフト量Sが小さい(その結果、差分値Daも小さい)ので、圧縮残留応力が過剰に小さくなり、耐摩耗性を好適に確保することができないおそれがある。また、比較例2,3の下地層40b,40cでは、(111)面,(222)面ともにシフト量Sが大きい(その結果、差分値Db,Dcも小さい)ので、圧縮残留応力が過剰に大きくなる。特に、比較例3のように、窒化チタンアルミからなる単層の被膜層を形成すると、各ミラー面のシフト量Sが大きくなり、圧縮残留応力が大きくなりがちである。その結果、自身の圧縮残留応力によって自己破壊するおそれがある。つまり、密着性を好適に確保することができないおそれがある。
【0046】
かかる被覆焼結体20の効果は、下地層40の差分値D、すなわち、S(200)−S(111)の値を、比較例1よりも大きくすることで得ることができる。具体的には、下地層40が、次式(3)を満たすことで、得ることができる。比較例1〜3よりも差分値Dが大きくなれば、所定程度の効果を得ることができるからである。次式(3)の特性は、上述した表層50のC/N比の制御により得ることができる。具体的には、表層50のC/N比が、表層50の内側の表面から外側の表面に向かう方向に沿って変化しており、当該外側の表面において、内側の表面よりも大きくなっていることと、C/N比の変化が、表層50の外側の表面から内側の表面に向かって、少なくとも1回、減少する変化を含んでいることとによって得ることができる。かかるC/N比の表層50を形成することによって、下地層40の(200)面に偏って歪みを生じさせることができるからである。
S(200)−S(111)≧0.1・・・(3)
【0047】
なお、S(200)とS(111)の和であるシフト総量SSは、0.35以上であることが望ましい。こうすれば、皮膜の硬さを向上させることが出来る十分な応力が膜に付加させることが可能だからである。また、シフト総量SSは、0.8以下であることが望ましい。こうすれば内部応力からの自己破壊や膜の剥離を抑制出来るからである。
【0048】
上述した実施例としての被覆焼結体20および比較例1,2としての被覆焼結体20a,20bを切削インサートとして用いて、湿式高速連続旋削加工試験を行った結果を図10に示す。本試験では、所定の切削条件で2回試験を行い、それぞれについて、切刃のVB摩耗量を測定した。図10では、この2回の試験の各々の結果を、N=1,2として示している。切削条件は、以下の通りである。
切削材:SCM435丸棒
切削速度vc:200m/min
送り量f:0.01mm/rev
切り込み量ap:0.3mm
【0049】
図10に示すように、実施例としての被覆焼結体20では、VB摩耗量が0.03mmまたは0.02mmであり、比較例1,2と比べて、耐摩耗性が大幅に向上していることが分かる。特に、比較例1と比べると、その効果は著しい。
【0050】
また、試験条件を変えて、上述の湿式高速連続旋削加工試験を行った結果を図11に示す。切削条件は、以下の通りである。
切削材:SUS440C丸棒
切削速度vc:100m/min
送り量f:0.01mm/rev
切り込み量ap:0.5mm
【0051】
図11に示すように、実施例としての被覆焼結体20では、VB摩耗量が0.08mmまたは0.082mmであり、比較例1,2と比べて、耐摩耗性が向上していることが分かる。特に、比較例1と比べると、その効果は著しい。
【0052】
また、被覆焼結体20について、密着性確認試験を行った。具体的には、ロックウェル試験機を用いて被膜層60の表面に60kgfで圧子を打ち込み、その圧痕周りの被膜層60の剥離を観察した。その結果、圧痕周りの被膜層60の剥離は、確認できなかった。つまり、被覆焼結体20は、十分な被膜層60の密着性を有していることが確認された。
【0053】
以上の試験結果からも明らかなように、本実施例の被覆焼結体20は、被膜層60が適度な圧縮残留応力を有しており、所定以上の硬度を確保することができるとともに、所定以上の密着性を確保し、切削加工に必要十分な膜厚を確保することができる。その結果、従来の被覆切削工具の切削インサートと比較して、長寿命化することができる。
【0054】
B.変形例:
B−1:変形例1:
上述の実施形態においては、表層50の外側表面のC/N比は、値0.5としたが、外側のC/N比は、適宜設定すればよい。例えば、外側表面のC/N比は、値1.0であってもよい。
【0055】
上述した第2の被膜処理(上記ステップS130)における供給ガスの制御の変形例について説明する。第1の変形例を図12に示す。図示するように、図12の制御方法が実施例(図3)と異なる点は、成膜時間の期間T11〜T17のうちの最終段階の期間T17において、直前の期間T16と比べて、窒素ガスの供給量が増加している点である。つまり、C/N比は、成膜の最終段階で、必ずしも最大になる必要はない。換言すれば、表層50のC/N比は、外側の表面で、必ずしも最大になる必要はない。また、図12に示す制御方法は、カーボンガスの供給量が直線的に増加している点が、実施例と異なる。これらのように制御しても、期間T13,T15の開始時には、供給ガスのC/N比が一旦減少するので、実施例と同様に、下地層40の(200)面に(111)面よりも大きな歪みを生じさせることができる。
【0056】
第2の変形例を図13に示す。図示するように、図13の制御方法が実施例(図3)と異なる点は、実施例では、窒素ガスの供給量を非連続に変化させたのに対して、窒素ガスの供給量を連続的に変化させている点である。例えば、期間T21,T22では、直線的に減少した窒素ガスの供給量が、期間T23では、直線的に増加している。このようにしても、期間T23,T25の開始時には、供給ガスのC/N比が一旦減少するので、実施例と同様に、下地層40の(200)面に(111)面よりも大きな歪みを生じさせることができる。
【0057】
ただし、1回の成膜行程で複数の被覆焼結体20を同時に製造する際には、実施例のように、窒素ガスの供給量を所定時間一定に維持することが望ましい。こうすれば、所定時間内の供給ガスのC/Nの変動が緩和されるので、複数の被覆焼結体20間の組成のばらつきを抑制することができる。
【0058】
かかる観点からは、次に示す第3の変形例のような制御も望ましい。第3の変形例を図14に示す。この例では、窒素ガスを期間T31〜T37ごとに、窒素ガスの供給量を一定に維持している。しかも、カーボンガスの供給量も期間T31〜T37ごとに、一定に維持している。その結果、各期間における供給ガスのC/N比は一定となるので、複数の被覆焼結体20間の組成のばらつきをさらに抑制することができる。
【0059】
第4の変形例を図15に示す。この例では、期間T41〜T47の成膜時間の全体に亘って、窒素ガスの供給量を一定に維持している。一方、カーボンガスの供給量は、成膜時間の全体として、増加している。また、カーボンガスの供給量は、期間T41〜T47の各々で、一定に維持され、各期間で非連続に変化している。かかるカーボンガスの供給量の変化において、期間T44,T46では、供給量が一時的に減少するように制御されている。このように制御しても、期間T44,T45の開始時には、供給ガスのC/N比が一旦減少するので、実施例と同様に、下地層40の(200)面に(111)面よりも大きな歪みを生じさせることができる。
【0060】
第5の変形例を図16に示す。図15との違いは、窒素ガスの供給量を、成膜時間の経過に伴い直線的に減少させている点である。こうしても、図15の制御と同様の効果が得られる。
【0061】
第6の変形例を図17に示す。この例では、窒素ガスの供給量については、実施例と同様の制御を行っている。一方、カーボンガスの供給量は、成膜時間の全体に亘って、一定に維持されている。このように制御しても、期間T53,T55の開始時には、供給ガスのC/N比が一旦減少するので、実施例と同様に、下地層40の(200)面に(111)面よりも大きな歪みを生じさせることができる。
【0062】
ただし、下地層40と表層50との密着性の観点からは、成膜開始時には、カーボンガスの供給量を小さくすることが望ましく、値0とすることがより好ましい。下地層40は、炭素成分を有していないので、表層50の炭素成分を内側から外側に向かって徐々に増加させた方が、表層50が下地層40に密着しやすいからである。
【0063】
B−2:変形例2:
上述の実施形態においては、被膜層60が2層構造の被覆焼結体20について示したが、被膜層は、3層以上の構造を有していてもよい。例えば、表層50の表面に、さらに、第3の被膜層を備えていてもよい。この場合、第3の被膜層は、例えば、窒化チタンによって形成してもよい。かかる場合、第3の被膜層の内側の表面から外側の表面に向けて、C/N比が減少するように形成してもよい。つまり、第3の被膜層の内側の表面は、C/N比を表層50と同一にして、外側の表面に向かって、C/N比を増加していき、外側の表面でC/N比が値0となるようにしてもよい。こうすれば、炭素成分を有する表層50に対する第3の被膜層の密着性が向上する。また、基材30と下地層40との間に、別の被膜層が形成されていてもよい。つまり、被覆焼結体20の被膜層の層数は、適宜設定すればよく、下地層40の外側の表面に表層50が形成されていればよい。
【0064】
B−3:変形例3:
上述の実施形態においては、下地層40および表層50をイオンプレーティングによって形成する手法について示したが、蒸着方法は、イオンプレーティングに限らず、種々の物理蒸着法を用いることができる。例えば、スパッタリングや真空蒸着を用いてもよい。
【0065】
B−4:変形例4:
上述の実施形態においては、切削インサートとしての被覆焼結体20について示したが、被覆焼結体20の用途は、切削インサートに限られるものではない。本発明の被覆焼結体20は、自動車の摺動部品など、種々の耐摩耗性部材に適用することができる。
【0066】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上述した実施形態における構成要素のうち、独立クレームに記載された要素に対応する要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略、または、組み合わせが可能である。また、本発明はこうした実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を脱しない範囲において、種々なる態様で実施できることは勿論である。例えば、本発明は、上述した被覆焼結体のほか、被覆焼結体の製造方法としても実現することができる。
【符号の説明】
【0067】
20…チップ
30…基材
40…下地層
50…表層
60…被膜層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結体からなる基材と、該基材の外側に形成され、窒化チタンアルミからなる第1の被膜層と、該第1の被膜層よりも前記外側に形成され、炭窒化チタンからなる第2の被膜層とを備えた被覆焼結体であって、
X線回折によって測定される、前記第1の被膜層の(111)面と(200)面とのピーク位置の回折角をそれぞれ2θ(111)、2θ(200)とし、粉末X線回折強度データベースにおける、前記第1の被膜層の前記(111)面と前記(200)面との前記ピーク位置の理論値の回折角をそれぞれT(111)、T(200)とし、S(111)=2θ(111)−T(111)、S(200)=2θ(200)−T(200)としたとき、
S(200)−S(111)≧0.1
を満たすことを特徴とする被覆焼結体。
【請求項2】
請求項1記載の被覆焼結体であって、
前記X線回折によって測定される、前記第2の被膜層の前記(111)面と前記(200)面とのピーク位置の回折強度をそれぞれI(111)、I(200)としたとき、
I(200)/I(111)≧1
を満たすことを特徴とする被覆焼結体。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の被覆焼結体であって、
前記第1の被膜層の膜厚は、0.3μm以上かつ2.0μm以下であり、
前記第2の被膜層の膜厚は、0.3μm以上かつ3.0μm以下であることを特徴とする被覆焼結体。
【請求項4】
前記被覆焼結体は、切削インサートであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか記載の被覆焼結体。
【請求項5】
焼結体からなる基材と、該基材の外側に形成され、窒化チタンアルミからなる第1の被膜層と、該第1の被膜層よりも前記外側に形成され、炭窒化チタンからなる第2の被膜層とを備えた被覆焼結体であって、
前記第2の被膜層の組成は、前記第2の被膜層の内側から外側に向かう方向に沿って、窒素原子に対する炭素原子の比率が変化しており、
前記比率は、前記第2の被膜層の外側の表面において、前記第2の被膜層の内側の表面よりも大きく、
前記比率の変化は、前記第2の被膜層の外側の表面から前記第2の被膜層の内側の表面に向かって、少なくとも1回、減少する変化を含む
ことを特徴とする被覆焼結体。
【請求項6】
焼結体からなる基材を用意する第1の工程と、該基材の外側に窒化チタンアルミからなる第1の被膜層を形成する第2の工程と、該第1の被膜層よりも前記外側に炭窒化チタンからなる第2の被膜層を蒸着によって形成する第3の工程とを備えた被覆焼結体の製造方法であって、
前記第3の工程は、
窒素ガスと、炭素を含むカーボンガスとを供給して、前記蒸着を行う際に、前記窒素ガスの供給量に対する前記カーボンガスの供給量の比率を変化させ、
前記比率は、前記第3工程の開始時よりも終了時で大きく、
前記比率の変化は、前記開始時から前記終了時に至る途中で、少なくとも1回、前記比率を減少させる変化を含むことを特徴とする
被覆焼結体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−201955(P2012−201955A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69326(P2011−69326)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】