説明

製造装置からのシート取り出し

材料の溶融物を冷却し、溶融物内に材料の固体のシートを形成する。シートは移送され、切断されて少なくとも1つのセグメントになり、セグメントは冷却室で冷却される。その材料はシリコン、シリコンゲルマニウム、ガリウム、および窒化ガリウムを用いることができる。冷却室はシートの応力または歪みを防止するよう構成される。一例を挙げると、冷却はガス冷却で行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融物からのシート製造、特に、溶融物から製造されたシートにかかる熱応力を最小化することに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウェハやシリコンシートは、例えば集積回路や太陽電池の産業で使用される。太陽電池の需要は、再生可能なエネルギー源の需要増加に伴って増加し続けている。太陽電池の大部分がシリコンウェハ、例えば単結晶シリコンウェハから作られる。現在、結晶シリコン太陽電池の主要コストは、太陽電池を構成するウェハにかかる。太陽電池の効率、または標準的な照明の下での電力生産量は、このウェハの品質によって、ある程度限定されている。太陽電池の需要の増加により、太陽電池産業は、コスト/パワー比を下げることを1つの目標としている。品質を損なうことなくウェハの製造コストを削減することにより、コスト/パワー比が下がるとともに、クリーンエネルギー技術のより広い利用が可能になるだろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
シリコン太陽電池の最高効率は、20%より大きくすることができる。太陽電池は、電子工業用の単結晶シリコンウェハを用いて作られている。このようなウェハは、チョクラルスキー法を利用して、ブールを成長させた筒状の単結晶シリコンを薄くスライス切断して作られる。これらは、厚さが200μm未満にスライスされる。単結晶の成長を維持するために、ブールはゆっくり成長させなければならず、溶融物を収容するるつぼで、例えば、10μm/s未満で成長させる。その後のスライス工程は、切り代または切断ブレード幅によるロスが1枚のウェハ当たりおよそ200μmとなる。筒状のブールやウェハも、正方形の太陽電池を作るために正方形にする必要がある。正方形にすることと切り代の両方が、材料の浪費と材料コストの増加につながる。太陽電池がより薄くなるに従い、カット毎にシリコンの無駄の割合が増加する。インゴットのスライス技術の限界は、より薄い太陽電池を得る能力の妨げとなる可能性がある。
【0004】
他の太陽電池は、多結晶シリコンのインゴットをスライスしたウェハを使用して作られている。多結晶シリコンのインゴットは単結晶シリコンより速く成長させることができる。しかし、より多くの欠陥と結晶粒界が存在するため、得られるウェハの品質は低くなり、太陽電池の効率の低下つながる。多結晶シリコンのインゴットをスライスする工程は、単結晶シリコンのインゴットまたはブールと同程度に効率が悪い。
【0005】
シリコンの無駄を抑える他の解決法は、イオン注入の後にシリコンインゴットからウェハを劈開することである。例えば、水素、ヘリウム、または他の希ガスイオンが、シリコンインゴットの表面のすぐ下に注入され、注入領域が形成される。この後に、熱処理、物理的処理、または化学的処理が続き、この注入領域に沿ってインゴットからウェハが劈開される。イオン注入によって劈開することは、切り代なくしてウェハが作れるが、シリコンウェハの経済的な生産に使用可能であるか否かは、さらに検証が必要である。
【0006】
さらに別の解決策は、溶融物からシリコンの薄いリボンを垂直に引き上げ、引き上げられたシリコンが冷却され凝固してシートになるようにする。この方法の引き上げ速度は、約18mm/min未満に制限される。シリコンが冷却凝固する間の潜熱は垂直なリボンに沿って取り除かなければならない。これにより、リボンに沿って大きい温度勾配がもたらされる。この温度勾配により、結晶シリコンのリボンに応力が加わり、多結晶シリコンの品質が損なわれる。リボンの幅と厚さも、この温度勾配によって制限される。例えば、幅は80mm未満、厚さは180μmに制限される。
【0007】
シリコンのリボンを、溶融物から物理的に水平に引き出すテストも行われた。ある方法において、ロッドに取り付けられた種を溶融物に挿入し、このロッドと成果物としてのシートを、るつぼの縁から低角度で引き出す。角度と表面張力のバランスをとって、溶融物がるつぼからあふれ出るのを防ぐ。しかし、このような引き出し工程を開始し、そして制御することは困難である。るつぼと溶融物に接近させて、種を挿入しなければならず、熱損失が起こる可能性がある。この熱損失を補償するために、追加の熱が加えられる。この追加熱によって、溶融物に垂直温度勾配が生じ、非層流の流れを引き起こす。また、重力とるつぼの縁にできるメニスカスの表面張力のバランスをとるため、恐らく困難な傾斜角度調整を行わなければならない。その上、シートと溶融物との分離点で熱を取り除いているので、潜熱として取り除かれる熱と顕熱として取り除かれる熱とが突然変わる。このことは、この分離点でリボンに沿う大きな温度勾配を引き起こし、結晶中に転位を生じさせる。転位と反りは、シートに沿ったこれらの温度勾配によって生じる可能性がある。
【0008】
スピルウェイなどを用いるような、溶融物から水平に分離した薄いシートの製造はまだ行われていない。分離によって溶融物から水平に薄いシートを製造することは、インゴットからシリコンをスライスするよりも安価であり、切り代、または四角化による損失を解消することができる。また、分離によって溶融物から水平にシートを製造することは、水素イオン、またはシリコンリボンを引き出す他の方法を使用してインゴットからシリコンを劈開するよりも安価となる。その上、溶融物から水平にシートを分離することは、リボンの引き出しと比べてシートの結晶品質を向上させることができる。材料コストの削減が可能なこのような結晶成長方法は、シリコン太陽電池のコストの削減に優れて有効なステップとなる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
シート製造後はただちに、低い温度、例えば室温まで冷やさなければならない。一実施例において、シリコンシートは、溶融シリコンが入った装置から取り出し、低温環境に移送される。連続的であるかリボン形のシートを異なる温度の環境間で移送すると、シートに熱応力が生じる可能性がある。シートに沿った温度差によって、安定した格子定数に勾配が生じる。この勾配が均一の場合、格子は秩序を保てるが、しかし、この勾配がシートに沿って変化すると、転位が発生する可能性がある。シートが大きくて薄い場合、温度の横方向の勾配によって生じる応力によりまた、シートが座屈(ねじれ座屈もしくは端部座屈)する可能性がある。シートに沿った温度変化は、従って、シートの有効な大きさおよび薄さを制限する可能性がある。このように、当該技術分野において、溶融物から製造されるシートにおける熱応力を最小化するシート形成の改良された方法、より詳細には、シートが転位なく歪みないまま保たれるシート取り出しの改良された方法が必要である。
【0010】
本発明の第一の態様においては方法が提供される。その方法は、材料の溶融物を冷却し、溶融物内に材料の固体のシートを形成する。シートは移送され、切断されて少なくとも1つのセグメントになる。セグメントは冷却される。
【0011】
本発明の第二の態様においては装置が提供される。その装置は、材料の溶融物を保持するよう構成された溝を画定する容器を有する。冷却プレートが溶融物に近接して配置され、溶融物上に材料のシートを形成するよう構成される。切断装置がシートを切断して、少なくとも1つのセグメントにするよう構成される。冷却室がセグメントを保持するよう構成される。冷却室およびセグメントが、セグメントの表面にわたってほぼ均一な横方向温度になるよう構成される。
【0012】
本発明の第三の態様においては装置が提供される。その装置は、材料の溶融物を保持するよう構成された溝を画定する容器を有する。冷却プレートが溶融物に近接して配置され、溶融物上に材料のシートを形成するよう構成される。切断装置がシートを切断して、少なくとも1つのセグメントにするよう構成される。冷却室がセグメントを保持するよう構成される。セグメントは冷却室内で冷却される。
【0013】
本発明をより深く理解するために、参照として本明細書に組み込まれた添付の図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】溶融物からシートを分離する装置の一実施例を示す断面図である。
【図2】溶融物からシートを引き出す装置の一実施例を示す断面図である。
【図3】溶融物からシートを製造する装置の一実施例を示す断面図である。
【図4】ガス冷却等温システムの一実施例を示す断面図である。
【図5】異方性等温システムの一実施例を示す断面図である。
【図6】図3に示す実施例を用いたプロセスのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書では、太陽電池に関して、装置と方法について具体的に説明する。ここで、これらを用いて、例えば、集積回路、フラットパネル、あるいは当業者に知られている他の回路基板を製造することができる。更に、本明細書ではシリコンとして記載される溶融物は、ゲルマニウム、シリコンゲルマニウム、ガリウム、窒化ガリウム、他の半導体材料、または当業者に知られている他の材料を含む場合もある。従って、本発明は、以下に記載の実施例には限定されない。
【0016】
図1は、溶融物からシートを分離する装置の一実施例を示す断面図である。シート形成装置21は、容器16およびパネル15、20を備える。容器16、パネル15、20は、例えば、タングステン、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、モリブデン、グラファイト、炭化シリコン、または石英とすることができる。容器16は、溶融物10を収容するよう形成されている。溶融物10は、シリコンとすることができる。一実施例として、溶融物10は、供給部11から補給される。供給部11は、固体シリコンを含みうる。別の実施例として、溶融物10を、容器16にポンプで供給してもよい。シート13が、溶融物10上に形成される。一例として、シート13は少なくとも一部が、溶融物10中に浮遊しいている。図1に示されるシート13は、溶融物10中に浮遊しいているが、シート13は、少なくとも部分的に溶融物10中に沈んでいるか、溶融物10の上部に浮遊しいてもよい。溶融物10は、シート形成装置21内で循環してもよい。
【0017】
この容器16は少なくとも1つの溝17を画定する。この溝17は、溶融物10を収容するように構成され、溶融物10は、溝17の第1のポイント18から第2のポイント19に流れる。一例として、溝17内の環境は、溶融物10の小波が抑制されるように、静止状態にある。溶融物10は、例えば、圧力差、重力、磁気流体力学作用、スクリューポンプ、インペラーポンプ、ホイール、または他の移送手段によって流れることができる。そして溶融物10は、スピルウェイ12を越えて流れる。このスピルウェイ12は、斜面、堰、小さなダム、または角部でもよく、図1に示した実施例に限定されない。スピルウェイ12は、シート13を溶融物10から分離するものであればどのような形状であっても良い。
【0018】
パネル15は、この実施例では、溶融物10の表面下にその一部が延在するように形成されている。これにより、シート13を溶融物10上で形成する際に問題となる波や小波を抑制することができる。これらの波や小波は、供給部11からの溶融物の追加、ポンピング、または当業者に知られている他の要因によって生じうる。パネル15を用いて溝17の溶融物10のレベルを制御することもできる。
【0019】
一実施例として、容器16およびパネル15、20は、約1687Kより僅かに高い温度に維持される。シリコンに関して、1687Kは凝固温度もしくは界面温度を表す。容器16およびパネル15、20の温度を、溶融物10の凝固温度よりも僅かに高い温度に維持することによって、冷却プレート14は、放射冷却を利用して、溶融物10上または溶融物10中のシート13の所望する凝固速度を得るように機能することができる。ここに示す実施例の冷却プレート14は、1つのセグメントまたはセクションで構成されるが、他の実施例においては複数のセグメントまたはセクションで構成してもよい。溝17の下部は、溶融物10の融解温度より高い温度で温められて、界面において溶融物10中に僅かな垂直温度勾配を引き起こし、シート13における組成的過冷却、樹枝状結晶の形成、樹枝状突起の形成を防止する。しかし、容器16およびパネル15、20は、溶融物10の溶融温度よりも高ければ任意の温度にすることができる。これにより、溶融物10が、容器16およびパネル15、20上で凝固することを防ぐ。
【0020】
少なくとも部分的にまたは全体的に筐体で装置21を覆うことによって、装置21の温度は溶融物10の凝固温度より僅かに高く保たれる。筐体が装置21を溶融物10の凝固温度より高い温度に維持する場合は、装置21を加熱する必要性を回避するかまたは減じることができ、筐体中または周囲のヒータは、どのような熱損失も補償することができる。この筐体は異方性の伝導率を有しており、等温にすることができる。他の実施例においては、ヒータは、筐体上または筐体内に配置されず、装置21内に配置される。一例として、容器16の異なる領域は、異なる温度に加熱されるが、これは容器16にヒータを埋め込むこと、またマルチゾーン温度制御を利用することによる。
【0021】
筐体により、装置21が配置される環境を制御することができる。具体的には、筐体は不活性ガスを内包している。この不活性ガスは溶融物10の凝固温度より高い温度に維持されている。不活性ガスは、シート13の形成プロセスにおいて組成上の不安定さを引き起こす、溶融物10に溶質の添加を減らすことができる。
【0022】
装置21は、冷却プレート14を備える。冷却プレート14は、熱除去を可能にし、これにより溶融物10上にシート13を形成することができる。冷却プレート14の温度が溶融物10の凝固温度未満のとき、冷却プレート14は、溶融物10の表面または溶融物10中でシート13の凝固を引き起こすことができる。この冷却プレート14は、放射冷却を利用し、グラファイト、石英、または炭化シリコンなどから作ることができる。冷却プレート14は、液体の溶融物10から急速に、均一に、所望量の熱を取り除くことができる。溶融物10の乱れは抑えられ、シート13の形成時のシート13の欠陥は抑制される。
【0023】
融解熱および溶融物10の表面全体の溶融物10からの熱を除去することにより、低い欠陥密度を保ちつつ、シート13を形成する他のリボン引き出し法と比べて、シート13の生産を速めることができる。溶融物10の表面でシート13を冷却すること、または溶融物10に浮遊するシート13を冷却することにより、シート13の比較的速い引き出し速度を保ちつつ、ゆっくりと、そして広い領域で融解潜熱を取り除くことができる。
【0024】
冷却プレート14の寸法を、長さと幅の両方で増加させてもよい。長さを増やすことにより、同じ垂直成長速度、同じシート13の仕上がり厚みで、シート13の引き出し速度を速めることができる。冷却プレート14の幅を増やすことにより、シート13の幅が広がることとなる。垂直にシートを引き上げる方法と異なり、図1に示す装置と方法の実施例を用いて生産されるシート13の幅に固有の物理的な制限は生じない。
【0025】
一例として、溶融物10とシート13は、約1cm/sの速度で流れる。冷却プレート14は、長さが約20cmで、幅が約25cmである。シート13は、約20秒で約100μmの厚さに成長する。したがって、シートの厚さは、約5μm/sの速度で成長する。約100μmの厚さのシート13は、約10m/hourの速度で製造される。
【0026】
一実施例として、溶融物10の温度勾配は最小化される。これにより、溶融物10を安定かつ層流とすることができる。これによりさらにシート13を、冷却プレート14を使用して放射冷却で形成することができる。ある一例においては、冷却プレート14と溶融物10との約300Kの温度差により、溶融物10上または溶融物10内に約7μm/sの速度でシート13を形成しうる。
【0027】
冷却プレート14の下流であり、かつパネル20の真下の溝17の領域は、等温である。この等温領域により、シート13をアニールすることができる。
【0028】
シート13を溶融物10上に形成した後、シート13を、スピルウェイ12を使って溶融物10から分離する。溶融物10は、溝17の第1のポイント18から第2のポイント19へ流れる。シート13は、溶融物10とともに流れる。このシート13の移動は、連続して行われる。一例として、シート13は溶融物10の流れとほぼ同じ速度で流れる。したがって、シート13は溶融物10に対して静止した状態で形成され、搬送される。スピルウェイ12の形状または方向を変更することで、溶融物10もしくはシート13の速度プロファイルを変えることができる。
【0029】
溶融物10を、スピルウェイ12でシート13から分離する。一実施例として、溶融物10は、スピルウェイ12を越えて流れ、その流れの少なくとも一部が、シート13を、スピルウェイ12を越えて搬送する。これによって、単結晶シート13の破損を最小化または回避することができるが、これはシート13に外部応力が全く作用しないからである。この実施例において、溶融物10は、シート13から分離してスピルウェイ12を越えて流れる。シート13への熱衝撃を抑制するために、スピルウェイ12では冷却は行われない。一実施例として、スピルウェイ12における分離は、等温状態と近い状態で行われる。
【0030】
シート13は、溶融物から垂直に引き上げられる場合よりも、装置21による場合のほうが速く形成されるが、これは、溶融物10が、溶融物10上のシート13を適切に冷却、結晶化する速度で流れることによる。シート13は、溶融物10とほぼ同じ速度で流れる。これにより、シート13にかかる応力が減少する。リボンを溶融物から垂直に引き上げる場合は、引き上げによってリボンに生じる応力のために、速度が制限される。一実施例として、装置21におけるシート13は、そのような引き上げによる圧力は全く生じない。これにより、シート13の品質と生産速度が向上する。
【0031】
一実施例として、シート13は、スピルウェイ12を越えてまっすぐに進行する傾向がある。このシート13を、スピルウェイ12を越えた後に、破損を避けるために支える場合もある。支持装置22を、シート13を支えるために設ける。支持装置22は、ガス圧力差を用いてシート13を支持し、ガスや空気の送風機などが使用される。シート13を溶融物10から分離した後、シート13が位置する周囲の温度がゆっくりと変化しうる。一例として、シート13の温度は、このシート13がスピルウェイ12からより遠くへ移動するにつれ低くなる。
【0032】
一例として、シート13の成長、シート13のアニール、およびスピルウェイ12を用いた溶融物10からのシート13の分離は、等温環境下で行われる。スピルウェイ12を用いて分離し、シート13と溶融物10をほぼ同じ速度で流すことにより、シート13にかかる応力、または力学的歪みを最小化させる。これによって、単結晶のシート13の生産可能性が高まる。
【0033】
別の実施例では、シート形成装置21内で溶融物10とシート13に磁場が印加される。これにより、溶融物10の振動流を弱め、シート13の結晶化を改善する。
【0034】
図2は、シートを溶融物から引き出す装置の一実施例の断面図である。本実施例において、シート形成装置23は、シート13を溶融物10から引き離すことによって、シート13を運ぶ。本実施例において、溶融物10は溝17で循環させず、シート13は種を用いて引き出すことができる。シート13は冷却プレート14による冷却によって形成することができ、結果として生じるシートを溶融物10から引き出すことができる。
【0035】
図1、図2の両方の実施例において、冷却プレート14を用いる。冷却プレート14の長さにわたる冷却温度の変化、溶融物10の流動速度またはシート13の引き出し速度の変化、シート形成装置21またはシート形成装置23のさまざまなセクションの長さ、もしくはシート形成装置21またはシート形成装置23内のタイミングによってプロセスを制御することができる。溶融物10がシリコンである場合、多結晶のシート13または単結晶シート13をシート形成装置21で形成することができる。図1または図2の実施例のいずれにおいても、シート形成装置21またはシート形成装置23を、筐体で覆うことができる。
【0036】
図1および図2は、溶融物10からシート13を形成することができるシート形成装置の単なる2つの実施例である。シート13の垂直成長または水平成長の他の装置や方法も適用可能である。本明細書に記載される方法および装置の実施例は図1のシート形成装置に関して特に記載されるが、これらの実施例はシート13の垂直成長または水平成長の任意の方法および装置にも適用できる。このように、本明細書に記載される実施例は、図1および図2の特定実施例のみに限定されない。
【0037】
シート13のピーク歪みは、シート13の幅(図3に示すZ方向)の端で起こりうる。温度勾配による歪みによって、シート13に変形または変位が生じることがある。このような温度勾配は、温度が特定の位置周辺で変わる方向および程度を示す。これらの変形または変位のために、シート13に沿った温度勾配を最小化することが望ましい場合がある。シート13の冷却の間、温度勾配を減らすことにより、シート13の歪みを減らすことができる。
【0038】
図3は、シートを溶融物から製造する装置の一実施例の断面図である。図3のこの実施例では、シート形成装置21を用いるが、図3の実施例は、シート形成装置23または溶融物10からシート13を形成する他の装置を用いて同様に実施することができる。図3の実施例は、シート13が受ける温度勾配を減じる。シート13は、シート形成装置21によって形成される。潜熱は冷却プレート14に曝される間、シート13を介して取り除かれ、シート13の高さすなわち厚み方向にわたって(図3に示すY方向に)温度勾配が生じる。溶融物10の温度によって、シート13は領域34でアニールすることができる。領域34は、ほぼ均一な温度に維持することができる。一例を挙げると、領域34のこの温度が、わずかに溶融物10の温度より高い可能性があり、これにより、シート13の一部が融けて溶融物10に戻ることがある。領域34のこの温度により、冷却プレート14の下で形成または結晶化プロセスの間に生じたシート13の歪みのアニールも行うことができる。
【0039】
シート13がスピルウェイ12で溶融物10と分離すると、シート13はシート形成装置21外へ移送される。支持ユニット30は、シート13を水平かつ平坦に保つ。支持ユニット30は、ガスまたは空気の送風機、流体ベアリング、もしくは他の何らかの支持システムであってもよい。
【0040】
切断装置31は、シート13を少なくとも1つのセグメント33に切断する。ここでは、冷却室32から部分的に突出したセグメント33が示されている。レーザーカッター、ホットプレス、または鋸などを切断装置31として用いることができる。セグメント33は、正方形、矩形、または他の形をもつシート13の一部である。シート13が溶融物10、領域34、または他の高温域においてアニールされた後、シート13を切断装置31によって切断する。例えば、流体テーブル、流体ベアリング、または当業者にとって公知の何らかの他装置を用いた切断の間、シート13を支持してもよい。切断の間のこの支持により、切断開始時、シート13の成長への妨げを防止する。
【0041】
シート13のセグメント33は、その後冷却室32において冷却することができる。図3は1つのセグメント33を冷却室32に装填する例を示すが、1つより多いセグメント33を冷却室32に装填することもできる。冷却室32は、空間的に均一な温度を維持することができ、その温度は時間とともに低下する。ある実施例において、冷却室32とセグメント33間の温度差は、最小化することができる。その後冷却室32で制御冷却が起こり、セグメント33の熱応力または他の歪みを最小化することができる。これにより、シート13またはセグメント33に導入される温度勾配を最小化することができる。温度勾配が最小化されるかまたは回避される場合、より高品質のシート13またはセグメント33を製造することができる。また、より大きいシート13またはセグメント33を得ることができる。
【0042】
このような冷却室32において、時間とともに温度を低下させるために、冷却室32の内部またはセグメント33から熱を取り除くべく、空間温度勾配を利用できることは当業者により認識されるだろう。これらの勾配がシート13またはセグメント33の領域において垂直である限り、シート13またはセグメント33の上部と底部間の図3のY方向の温度差は無視することができる。横方向の温度勾配をも回避することによりシート13またはセグメント33が反る可能性を取り除き、これによりシート13またはセグメント33のサイズへの制約を解消する。ここでいう「横方向」は、セグメント33またはシート13の表面にわたる方向、すなわち、図3において示されるX方向またはZ方向を意味する。
【0043】
セグメント33が冷却室32に装填された後、冷却室32はシート形成装置21から取り外され、または移送される。これは、コンベヤーベルト、もしくは他のクラスタまたは機械システムを用いてロボット動作で実行することができる。一例を挙げると、多重システム32を用いて、シート13およびセグメント33の製造の間、循環処理してもよい。冷却室32が徐々にセグメント33の温度を低下させる前に、しばらくの間冷却室32は、例えば空間方向または横方向(図3に示すX方向またはZ方向)に、等温またはほぼ等温のまま保つことができ、セグメント33に対する応力または歪みを最小化することができる。
【0044】
図4は、ガス冷却等温システムの一実施例の断面図である。図4の冷却室40は、図3の冷却室32の1つの実施例である。セグメント33は、空間的に等温またはほぼ等温の環境の冷却室40に留まる。セグメント33は、冷却室40の表面に配置することができる。冷却室40およびセグメント33が空間的に等温またほぼ等温のまま、例えば室温まで徐々に温度が低下するように、冷却室40内でガス対流冷却を行う。このように、セグメント33は高温下で冷却室40に装填され、後に低温下で取り除かれ、シート13を能動冷却する場合と比較して欠陥量を減少させることができる。
【0045】
冷却室40は、セグメント33に近接して多孔質材料41(例えば多孔質セラミック)を有する。多孔質材料41は、導管42を用いてガス源43と流体連通している。ある具体例において、多孔質材料41は焼結もしくは穿設してもよい。不活性ガス、例えばH、N、He、または他の希ガスは、多孔質材料41を通ってガス源43から流れるので、冷却室40が制御された状態で空間的に等温になるか冷却される。ガスが冷却室40の周囲に影響を及ぼすのを防止するために、掃気リング44を用いてガスを捕獲することができる。冷却室40の周囲に対する影響を更に最小限にするために、冷却室40の周りを断熱してもよい。セグメント33の装填および移送の間、ならびに冷却の間、セグメント33の応力または歪みを防止するために、冷却室40は、例えば横方向(図3に示すX方向またはZ方向)に、空間的に等温またはほぼ等温の環境になるよう構成される。セグメント33は、冷却の間、セグメント33にわたってほぼ均一の横方向温度を有する。ここでいう「横方向」は、セグメント33またはシート13の表面にわたる方向、すなわち、図3に示すX方向またはZ方向を意味する。
【0046】
図5は、異方性等温システムの一実施例の断面図である。図5の冷却室50は、図3の冷却室32の別の例である。本実施例では、セグメント33を、熱分解グラファイトなどの異方性材料の平板(隔壁)51で囲う。セグメント33は、冷却室50の表面に配置することができる。冷却室50は温度の異なる領域に移送され、または、冷却室50の周囲の温度が変化するため、セグメント33を例えば横方向(図3に示すX方向またはZ方向)に空間的に等温またはほぼ等温の環境を保つよう平板51の寸法を設定する。これによりセグメント33は均一な温度に保たれる。例えば、平板51の横方向寸法はセグメント33の横方向寸法よりおよそ50%大きくてもよい。セグメント33は、その後徐々に外部環境の温度変化に順応する。この実施例では、異なる温度の領域間でセグメント33を移送することによって冷却が起こり、ガスを用いた能動冷却を必要としない。一例を挙げると、冷却室50では、冷却室50とセグメント33の中で垂直温度勾配が生じる。横方向に等温またはほぼ等温の状態を保ち、横方向ではなく縦方向(横断方向)に熱を除去するために熱伝導を利用することができる。異方性の熱伝導率は、縦方向より横方向のほうが大きい。ここでいう「横方向」は、セグメント33またはシート13の表面にわたる方向、すなわち、図3に示すX方向またはZ方向を意味する。ここでの縦方向とは、シートの厚みを横切る方向、すなわち、図3に示すY方向を意味する。
【0047】
図6は、図3の実施例を用いたプロセスのフローチャートである。冷却室40と冷却室50が例示されるが、冷却室32の別の実施例も可能であり、冷却室32は冷却室40と冷却室50の実施例のみに限られるものではない。ステップ60において、シート形成装置21またはシート形成装置23などでシートを形成する。ステップ61において、このシートを切断し、セグメントにする。ステップ62において、セグメントを冷却室に装填し、ステップ63において、セグメントを冷却する。ステップ63において、セグメントを冷却し、これによりセグメントが空間的に等温またはほぼ等温の状態を維持することで、欠陥を防止することができる。ステップ63においてセグメントを冷却する前、間、または後にセグメントを移送してもよい。この冷却ステップ63には、気体冷却を用いてもよいし、異なる温度の異なる領域にセグメントを移送してもよいし、または、セグメントの周囲の温度を変更してもよい。
【0048】
本発明は、本明細書で説明した具体的な実施例の範囲に限定されない。また、本明細書での説明に加えて、本発明の他の様々な具体例や修正例が、前述の記載や添付図面から当業者にとって明らかであろう。したがって、そのような他の具体例や修正例は、本発明の範囲内であると解釈される。その上、本発明は、特定の実施状況下、特定の環境下で、特定の目的のために記載したものであるが、当業者には、この発明の有用性は本明細書での開示に限定されず、本発明は、多くの環境下において、多くの目的のために、その実現の手助けとなることが認識されるだろう。したがって、特許請求の範囲は、本明細書に説明した本発明の最大範囲および精神を考慮して解釈すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料の溶融物を冷却するステップと、
前記溶融物内に前記材料の固体のシートを形成するステップと、
前記シートを移送するステップと、
前記シートを少なくとも1つのセグメントに切断するステップと、
前記セグメントを冷却するステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記材料がシリコン、シリコンゲルマニウム、ガリウム、および窒化ガリウムからなる群より選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
スピルウェイを用いて、前記シートを前記溶融物から分離するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記セグメントの前記冷却ステップはガスを用いたガス冷却であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記冷却ステップにより、前記セグメントの表面にわたる横方向の熱勾配を最小化することを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記冷却ステップは、前記セグメントの表面にわたる横方向温度を均一に保ちつつ、時間とともに前記セグメントの温度を低下させることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記冷却ステップは前記セグメントの厚みを横切る横断方向に行われることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
材料の溶融物を保持するよう構成された溝を画定する容器と、
前記溶融物に近接して配置された冷却プレートであって、前記溶融物上に前記材料のシートを形成するよう構成された冷却プレートと、
前記シートを切断して、少なくとも1つのセグメントにするよう構成された切断装置と、
前記セグメントを保持するよう構成された冷却室と、
を備え、
前記冷却室および前記セグメントが、前記セグメントの表面にわたってほぼ均一な横方向温度になるよう構成されたことを特徴とする装置。
【請求項9】
前記材料がシリコン、シリコンゲルマニウム、ガリウム、および窒化ガリウムからなる群より選択されることを特徴とする請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記冷却室が冷却機構を有することを特徴とする請求項8に記載の装置。
【請求項11】
前記冷却機構が複数の導管および1つのガス源を有することを特徴とする請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記冷却室が少なくとも1つの多孔質材料を有することを特徴とする請求項10に記載の装置。
【請求項13】
前記多孔質材料と流体連通する複数の導管および1つのガス源をさらに有することを特徴とする請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記冷却室は前記ほぼ均一な横方向温度を時間とともに変えるよう構成されることを特徴とする請求項8に記載の装置。
【請求項15】
前記ほぼ均一な横方向温度を室温まで低下させることを特徴とする請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記冷却室および前記セグメントは、前記セグメントの前記表面にわたる横方向の熱勾配を生じることなく冷却されることを特徴とする請求項14に記載の装置。
【請求項17】
材料の溶融物を保持するよう構成された溝を画定する容器と、
前記溶融物に近接して配置された冷却プレートであって、前記溶融物上に前記材料のシートを形成するよう構成された冷却プレートと、
前記シートを切断して、少なくとも1つのセグメントにするよう構成された切断装置と、
前記セグメントを保持するよう構成された冷却室と、
を備え、
前記セグメントが、前記冷却室内で冷却されることを特徴とする装置。
【請求項18】
前記材料がシリコン、シリコンゲルマニウム、ガリウム、および窒化ガリウムからなる群より選択されることを特徴とする請求項17に記載の装置。
【請求項19】
前記冷却室が前記セグメントの上および下に配置される複数の隔壁を有し、前記隔壁は、前記セグメントの厚みを横切る横断方向よりも、前記セグメントの表面に渡って横方向に、大きい異方性の熱伝導率をもつことを特徴とする請求項17に記載の装置。
【請求項20】
前記冷却プレートが熱分解グラファイトからなることを特徴とする請求項17に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−506355(P2012−506355A)
【公表日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−532327(P2011−532327)
【出願日】平成21年10月20日(2009.10.20)
【国際出願番号】PCT/US2009/061280
【国際公開番号】WO2010/051184
【国際公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(500239188)ヴァリアン セミコンダクター イクイップメント アソシエイツ インコーポレイテッド (69)
【Fターム(参考)】