説明

製鋼用アーク炉の電力投入制御方法

【課題】製鋼用アーク炉への入物質と製鋼用アーク炉からの出物質の物質収支及び熱収支に基づいて、1チャージに必要な投入電力量を過不足なく決定できる製鋼用アーク炉の電力投入制御方法を提供する。
【解決手段】出物質と入物質の物質収支から、原材料の成分構成及び質量と出物質の成分構成及び質量を求めて、製鋼用アーク炉10の出熱量QO、入物質の熱量Qb、及び入物質の成分構成と出物質の成分構成の差から求まる過剰物質の酸化反応熱量Qoを演算し、入物質と出物質の熱収支に基づいて、QO−Qb−Qoを1チャージの間に製鋼用アーク炉10に供給するアーク熱量Qaとし、得られたアーク熱量Qaから1チャージに必要な投入電力量を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクラップ、合金鉄、及び造滓材を有する原材料と燃焼用カーボン粉を製鋼用アーク炉に装入し、溶解して溶鋼を生成させ、精錬及び昇熱を行って目標成分構成を有する製品用溶鋼を製造するのに必要な投入電力量を決定する製鋼用アーク炉の電力投入制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スクラップ、合金鉄、及び造滓材を有する原材料を溶解して溶鋼を生成させ、精錬及び昇熱を行って目標成分構成を有する製品用溶鋼を製造する製鋼用アーク炉においては、生産性の向上、生産コストの低減のために設備面及び操業面から種々の取り組みがなされている。また、製鋼用アーク炉に投入する電気エネルギー効率の向上、電力投入操作を行う作業者の作業負荷の軽減あるいは電力投入操作の無人化を目的として、電力投入制御技術の面で種々の制御方法が提案されている。
【0003】
その最も一般的な方法は、原材料を溶解する溶解期、生成した溶鋼を精錬する精錬期、及び精錬後の溶鋼を加熱して目標成分構成の製品用溶鋼を生成させる昇熱期にそれぞれ必要な投入電力量と電力投入パターンを、過去の操業実績を基に鋼種及び操業パターン毎にそそれぞれモデルケースとしてデータベース化しておき、製造する鋼種と操業パターンが決まると、データベースからその鋼種と操業パターンに対応したモデルケースを選定し、実際に製鋼用アーク炉に装入する原材料の装入量によって、選定したモデルケースの投入電力量及び電力投入パターンを補正するものである。例えば、製鋼用アーク炉に対して実際に投入する投入電力量は、モデルケースを設定した際の基準原材料装入量に対する実績原材料装入量の重量比率を算出し、モデルケースの投入電力量に算出した重量比率を掛け合わせて決定している。
【0004】
しかしながら、基準原材料装入量とモデルケースの投入電力量の関係を求める際に想定した原材料の成分構成と実際に装入する原材料の成分構成が異なる場合、原材料が溶解され、精錬及び昇熱されて製品用溶鋼となる際の反応熱に差があることから、装入された原材料を溶解し、精錬及び昇熱する際に要するエネルギーは、各チャージで大きく変動することになって、この変動に応じた最適な電力量の投入ができず、必ずしも電気エネルギーの面で最大効率を引き出せていないのが実情であった。
【0005】
その結果、投入電力の増減、電力の入り切りのタイミングは、操作者の判断に頼るケースがほとんどであり、特に精錬期及び昇熱期においては高温のアーク炉の前に立った作業者が、スラグの状態や溶鋼の温度の上昇度合いを見ながら操作室内の他の作業者に電力投入の指示を与えており、作業負荷の軽減という面においても目覚ましい改善がなされたとは言い難い。
【0006】
これらの問題を解決すべく、アーク炉におけるサーマルバランス(アーク炉への入熱とアーク炉からの出熱の熱収支)に基づいて電力投入制御を行う方法が特許文献1で提案されている。特許文献1の電力投入制御方法は、アーク炉の通電前に必要電力量を想定熱収支により決定するものであり、更には、1チャージの終了時にアーク炉の実績値でこのチャージの実績熱収支計算を行い、測定した電力量との差を操業時期別に移動平均して次のチャージでの設定通電量を補正し、精度を向上させようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平4−64156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の電力投入制御方法において、熱収支により必要電力量を決定するためには、正確な熱収支をとる必要がある。しかしながら、スクラップ等の主原料、合金鉄や造滓材等の副原料は投入重量により熱収支計算を行っているが、熱収支を計算する上でその前段階となる物質収支計算が行われていない。そのため、仮定した物質収支を前提とした状態での熱収支計算を行うので、アーク炉への入物質とアーク炉からの出物質との物質収支が実際操業とは合っていないために生じる入熱量と出熱量のアンバランスの事態が度々生じて、投入電力量に過不足が生じることが多い状況になっているという問題がある。
【0009】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、製鋼用アーク炉への入物質と製鋼用アーク炉からの出物質の物質収支及び熱収支に基づいて、1チャージに必要な投入電力量を過不足なく投入することが可能な製鋼用アーク炉の電力投入制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的に沿う本発明に係る製鋼用アーク炉の電力投入制御方法は、スクラップ、合金鉄、及び造滓材を有する原材料と燃焼用カーボン粉から構成される入物質を製鋼用アーク炉に装入し、該原材料の溶解を行う溶解期、該原材料の溶解により生成した溶鋼を加熱してスラグ及びダストを生成させ目標成分構成を有する製品用溶鋼を製造する精錬を行う精錬期、精錬後に目標温度まで昇熱を行う昇熱期から構成される1チャージに必要な投入電力量を決定する製鋼用アーク炉の電力投入制御方法において、
前記製鋼用アーク炉からの出物質を、前記製品用溶鋼、前記スラグ、及び前記ダストから構成して、前記出物質と前記入物質の間の物質収支から、前記製品用溶鋼を製造する際の前記原材料の成分構成及び質量と前記出物質の成分構成及び質量をそれぞれ求めて、前記入物質により前記製鋼用アーク炉に持ち込まれる熱量Qb及び前記入物質の成分構成と前記出物質の成分構成の差から求まる過剰物質が酸化する際に発生する酸化反応熱量Qoをそれぞれ演算し、
前記製品用溶鋼の熱量Qstと、前記スラグの熱量Qslgと、前記ダストを含んだ排ガスの熱量Qdと、前記製鋼用アーク炉に供給した冷却水による抜熱量Qcとの和を前記製鋼用アーク炉からの出熱量QOとして、前記入物質と前記出物質との間の熱収支から、前記1チャージの間に前記製鋼用アーク炉に供給するアーク熱量QaをQst+Qslg+Qd+Qc−Qb−Qoから求め、前記1チャージに必要な投入電力量を前記アーク熱量Qaから決定する。
【0011】
本発明に係る製鋼用アーク炉の電力投入制御方法において、前記合金鉄の成分構成及び質量は、前記スクラップの成分構成と前記製品用溶鋼の成分構成の差に基づいて決定し、前記造滓材の質量は、前記スラグの塩基度に基づいて決定することができる。
【0012】
本発明に係る製鋼用アーク炉の電力投入制御方法において、前記燃焼用カーボン粉の質量は、前記過剰物質を構成する成分と、該各成分の質量に基づいて決定することができる。
【0013】
本発明に係る製鋼用アーク炉の電力投入制御方法において、前記製品用溶鋼の熱量Qst、前記スラグの熱量Qslg、前記ダストを含んだ排ガスの熱量Qd、及び前記製鋼用アーク炉に供給した冷却水による抜熱量Qcを、過去の操業実績から構成された製品用溶鋼熱量データベース、スラグ熱量データベース、排ガス熱量データベース、及び抜熱量データベースを用いて、前記製品用溶鋼の製造条件に基づいてそれぞれ推定した溶鋼熱量EQst、推定スラグ熱量EQslg、排ガス熱量EQd、及び推定抜熱量EQcとし、前記溶解期から前記昇熱期の終了までに必要な前記投入電力量を決定する前記アーク熱量Qaを、EQst+EQslg+EQd+EQc−Qb−Qoから求めることができる。
【0014】
本発明に係る製鋼用アーク炉の電力投入制御方法において、前記1チャージの期間中に、溶鋼温度、排ガス温度、及び冷却水温度をそれぞれ測定して、前記溶解期の終了時点までの実測溶鋼熱量RQst1、実測排ガス熱量RQd1、及び実測抜熱量RQc1をそれぞれ演算し、前記精錬期から前記昇熱期の終了までの溶鋼熱量、排ガス熱量、及び抜熱量をそれぞれEQst−RQst1、EQd−RQd1、及びEQc−RQc1として、前記精錬期から前記昇熱期の終了までに必要な前記投入電力量を決定するアーク熱量Qa’を、EQst−RQst1+EQslg+EQd−RQd1+EQc−RQc1−Qb−Qoから求めることが好ましい。
【0015】
本発明に係る製鋼用アーク炉の電力投入制御方法において、前記精錬期の終了時点までの実測溶鋼熱量RQst2、実測排ガス熱量RQd2、及び実測抜熱量RQc2をそれぞれ演算し、前記昇熱期の終了まで(昇熱期の開始から終了まで)の溶鋼熱量、排ガス熱量、及び抜熱量をそれぞれEQst−RQst2、EQd−RQd2、及びEQc−RQc2として、前記昇熱期の終了までに必要な前記投入電力量を決定するアーク熱量Qa’’を、EQst−RQst2+EQslg+EQd−RQd2+EQc−RQc2−Qb−Qoから求めることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る製鋼用アーク炉の電力投入制御方法においては、出物質と入物質の間の物質収支及び熱収支に基づいて、1チャージの間に製鋼用アーク炉に供給するアーク熱量QaをQst+Qslg+Qd+Qc−Qb−Qoから求め、1チャージに必要な投入電力量を得られたアーク熱量Qaから決定するので、1チャージに必要な投入電力量を過不足なく投入することが可能となる。
【0017】
本発明に係る製鋼用アーク炉の電力投入制御方法において、合金鉄の成分構成及び質量を、スクラップの成分構成と製品用溶鋼の成分構成の差に基づいて決定し、造滓材の質量を、スラグの塩基度に基づいて決定する場合、入物質と出物質との物質収支を実際操業と合わせることができる。これにより、製鋼用アーク炉からの出熱量QO、入物質により製鋼用アーク炉に持ち込まれる熱量Qb、及び過剰物質の酸化反応熱量Qoを正確に求めることができる。
【0018】
本発明に係る製鋼用アーク炉の電力投入制御方法において、燃焼用カーボン粉の質量を、過剰物質を構成する成分と、各成分の質量に基づいて決定する場合、過剰物質の酸化を確実に行うことができる。これにより、製品用溶鋼の成分構成を目標値に合わせることができる。
【0019】
本発明に係る製鋼用アーク炉の電力投入制御方法において、製品用溶鋼の熱量Qst、スラグの熱量Qslg、ダストを含んだ排ガスの熱量Qd、及び製鋼用アーク炉に供給した冷却水による抜熱量Qcを、過去の操業実績から構成された製品用溶鋼熱量データベース、スラグ熱量データベース、排ガス熱量データベース、及び抜熱量データベースを用いて、製品用溶鋼の製造条件に基づいてそれぞれ推定した溶鋼熱量EQst、推定スラグ熱量EQslg、排ガス熱量EQd、及び推定抜熱量EQcとし、溶解期から昇熱期の終了までに必要な投入電力量を決定するアーク熱量Qaを、EQst+EQslg+EQd+EQc−Qb−Qoから求める場合、操業開始時に必要な投入電力量を過不足なく供給することができる。
【0020】
本発明に係る製鋼用アーク炉の電力投入制御方法において、1チャージの期間中に、溶鋼温度、排ガス温度、及び冷却水温度をそれぞれ測定して、溶解期の終了時点までの実測溶鋼熱量RQst1、実測排ガス熱量RQd1、及び実測抜熱量RQc1をそれぞれ演算し、精錬期から昇熱期の終了までの溶鋼熱量、排ガス熱量、及び抜熱量をそれぞれEQst−RQst1、EQd−RQd1、及びEQc−RQc1として、精錬期から昇熱期の終了までに必要な投入電力量を決定するアーク熱量Qa’を、EQst−RQst1+EQslg+EQd−RQd1+EQc−RQc1−Qb−Qoから求める場合、操業実績に合わせて、精錬期から昇熱期の終了までに必要な投入電力量を決定するアーク熱量Qa’を補正することができる。これにより、溶解期の投入電力量が変動しても、精錬期以降の操業で修正できる。
【0021】
本発明に係る製鋼用アーク炉の電力投入制御方法において、精錬期の終了時点までの実測溶鋼熱量RQst2、実測排ガス熱量RQd2、及び実測抜熱量RQc2をそれぞれ演算し、昇熱期の終了までの溶鋼熱量、排ガス熱量、及び抜熱量をそれぞれEQst−RQst2、EQd−RQd2、及びEQc−RQc2として、昇熱期の終了までに必要な投入電力量を決定するアーク熱量Qa’’を、EQst−RQst2+EQslg+EQd−RQd2+EQc−RQc2−Qb−Qoから求める場合、操業実績に合わせて、昇熱期の終了までに必要な投入電力量を決定するアーク熱量Qa’’を補正することができる。これにより、精錬期の投入電力量が変動しても、昇熱期の操業で修正できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施の形態に係る製鋼用アーク炉の電力投入制御方法が適用される製鋼用アーク炉に電力を投入する電力投入制御装置の説明図である。
【図2】製鋼用アーク炉で溶鋼を製造する際の物質収支と熱収支の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係る製鋼用アーク炉の電力投入制御方法が適用される製鋼用アーク炉10は、スクラップ、合金鉄、及び造滓材(副原料ともいい、石灰、蛍石、炭酸カルシウム等のカルシウム含有材で構成される)を有する原材料と燃焼用カーボン粉から構成される入物質を溶解して溶鋼を生成させ、生成した溶鋼の精錬及び昇熱を行って目標成分構成を有する製品用溶鋼を製造するものである。そして、入物質の溶解を行う溶解期、生成した溶鋼を加熱してスラグ及びダストを生成させて目標成分構成を有する製品用溶鋼を製造する精錬を行う精錬期、精錬後に目標温度まで昇熱を行う昇熱期にそれぞれ必要な熱エネルギーを発生させるための電力量は、電力投入制御装置11で決定され、製鋼用アーク炉10の黒鉛電極20に供給される。
【0024】
ここで、電力投入制御装置11は、図2に示すように、スクラップ、合金鉄、及び造滓材(副原料)からなる原材料と燃焼用カーボン粉から構成される入物質と、製品用溶鋼、スラグ、及びダストから構成される出物質と間の物質収支に基づいて、製品用溶鋼を規定の質量だけ製造するのに必要なスクラップの銘柄(成分構成)及び質量(重量)と、スクラップに添加する合金鉄の銘柄(成分構成)及び質量(重量)を決定する物質収支演算部12を有している。
【0025】
ここで、スクラップの各成分の比率(成分構成)は、使用する銘柄で異なるため、例えば、製品用溶鋼の成分構成に近い成分構成を有するように、1又は複数の銘柄のスクラップの選定と、選定した銘柄のスクラップの使用量を決定する。また、選定した銘柄のスクラップの成分構成を、製品用溶鋼の成分構成に、例えば、製造する鋼の製品規格範囲内で一致させることが精錬において可能となる成分構成を有する1又は複数の銘柄の合金鉄の選定と、選定した銘柄の合金鉄の使用量を決定する。
【0026】
続いて、物質収支演算部12では、使用するスクラップ及び合金鉄の銘柄及び使用量がそれそれ決定されると、スクラップと合金鉄からなる混合物の成分構成と、製品用溶鋼の成分構成との差から過剰成分の質量を算出する。そして、溶鋼中から過剰成分を酸化反応により除去するために、過剰成分が酸化反応で溶鋼を製品用溶鋼温度まで上昇させるのに必要な熱エネルギー量を求め、この熱エネルギー量を賄うために溶鋼中に吹込むカーボン粉の要求吹込み量(要求吹込み質量)を演算する。
【0027】
ここで、製鋼用アーク炉10において、入物質を溶解し、生成した溶鋼の精錬及び昇熱を行う際に、製鋼用アーク炉10の黒鉛電極20から溶鋼中に黒鉛(電極カーボン)が溶出する。このため、製鋼用アーク炉10の1チャージ中の黒鉛電極20の消費量(電極カーボンの質量)を、製鋼用アーク炉10の操業実績から予め求めておく。そして、得られたカーボン粉の要求吹込み量を、黒鉛電極20の消費量(溶鋼中に溶出した電極カーボン量)で補正して、カーボン粉の吹込み量を決定する。
【0028】
更に、物質収支演算部12では、目標成分構成を有する製品用溶鋼が製造される際に決まるスラグの塩基度に基づいて、1又は複数の銘柄の造滓材(副原料)の選定と、選定した銘柄の造滓材の使用量(質量)を決定する。
その結果、物質収支演算部12から、最終的な入物質の構成(スクラップの銘柄及び使用質量、合金鉄の銘柄及び使用質量、造滓材の銘柄及び使用質量、カーボン粉質量、及び電極カーボン質量)が決定される。これに伴い、最終的な出物質の構成(製品用溶鋼の成分構成及び質量、スラグの質量、ダストの質量)が決定される。
【0029】
図1、図2に示すように、電力投入制御装置11は、最終的な入物質の構成(成分構成と質量)と最終的な出物質の構成(成分構成と質量)に基づいて、製品用溶鋼の熱量Qstと、スラグの熱量Qslgと、ダストを含んだ排ガスの熱量Qdと、製鋼用アーク炉に1チャージの期間に亘って供給した冷却水による抜熱量Qcと、入物質により製鋼用アーク炉10に持ち込まれる熱量Qbと、入物質の成分構成と出物質の成分構成の差から求まる過剰物質(過剰成分)が酸化する際に発生する酸化反応熱量Qoをそれぞれ演算し、製鋼用アーク炉10からの出熱量QOをQst+Qslg+Qd+Qcから求めると共に、最終的な入物質と最終的な出物質との間の熱収支から、1チャージの間に製鋼用アーク炉に供給するアーク熱量QaをQst+Qslg+Qd+Qc−Qb−Qoから求める熱収支演算部13を有している。
【0030】
ここで、製品用溶鋼の熱量Qstは、物質収支演算部12で求めたスクラップの質量、製品用溶鋼の目標温度、製鋼用アーク炉10に装入されるスクラップの初期温度を用いて求める。
また、スラグの熱量Qslgは、物質収支演算部12で求めたスラグの質量と、スラグ温度と、造滓材を製鋼用アーク炉10に装入する際の初期温度を用いて求める。ここで、原材料中に占める合金鉄及び造滓材の質量比率はスクラップの質量比率に比較して非常に小さい(例えば、スクラップ100に対して、合金鉄及び造滓材は2)ので、造滓材の初期温度はスクラップの初期温度で近似できる。また、スラグの質量は溶鋼の質量と比較して非常に小さい(例えば、溶鋼100に対して、スラグは1)ので、スラグ温度は、製品用溶鋼の目標温度で近似できる。
【0031】
排ガスの熱量Qdは、1チャージの期間中、連続して測定する排ガス温度及び排ガス流量を用いて求める。なお、生成するダストは排ガス中に混入して製鋼用アーク炉10外へ排出されるので、ダストにより持ち出される熱量は、排ガスの熱量に含まれる。
抜熱量Qcは、1チャージの期間中、連続して測定する冷却水の温度変化(温度上昇分)及び冷却水流量を用いて求める。
【0032】
更に、電力投入制御装置11は、1チャージの間に製鋼用アーク炉10に供給するアーク熱量Qaから、溶解期、精錬期、昇熱期にそれぞれ必要な投入電力量を決定する電力量配分演算部18を有している。ここで、電力量配分演算部18は、製品用溶鋼の熱量Qst、スラグの熱量Qslg、排ガスの熱量Qd、及び抜熱量Qcを、過去の操業実績から構成された製品用溶鋼熱量データベース、スラグ熱量データベース、排ガス熱量データベース、及び抜熱量データベースを用いて、製品用溶鋼の製造条件に基づいてそれぞれ推定した溶鋼熱量EQst、推定スラグ熱量EQslg、排ガス熱量EQd、及び推定抜熱量EQcとし、溶解期から昇熱期の終了までに必要なアーク熱量Qaを、EQst+EQslg+EQd+EQc−Qb−Qoから求める機能と、アーク熱量Qaから溶解期に投入する投入電力量を演算する機能を備えた第1の演算手段14を有している。
【0033】
また、電力量配分演算部18は、1チャージの期間中に、溶鋼温度、排ガス温度、及び冷却水温度をそれぞれ測定して、溶解期の終了時点までの実測溶鋼熱量RQst1、実測排ガス熱量RQd1、及び実測抜熱量RQc1をそれぞれ演算し、精錬期から昇熱期の終了までの溶鋼熱量、排ガス熱量、及び抜熱量をそれぞれEQst−RQst1、EQd−RQd1、及びEQc−RQc1として、精錬期から昇熱期の終了までに必要なアーク熱量Qa’を、EQst−RQst1+EQslg+EQd−RQd1+EQc−RQc1−Qb−Qoから求める機能と、アーク熱量Qa’から精錬期に投入する投入電力量を演算する機能を備えた第2の演算手段15を有している。
【0034】
更に、電力量配分演算部18は、測定した溶鋼温度、排ガス温度、及び冷却水温度を用いて、精錬期の終了時点までの実測溶鋼熱量RQst2、実測排ガス熱量RQd2、及び実測抜熱量RQc2をそれぞれ演算し、昇熱期の終了までの溶鋼熱量、排ガス熱量、及び抜熱量をそれぞれEQst−RQst2、EQd−RQd2、及びEQc−RQc2として、昇熱期の終了までに必要な投入電力量を決定するアーク熱量Qa’’を、EQst−RQst2+EQslg+EQd−RQd2+EQc−RQc2−Qb−Qoから求める機能と、アーク熱量Qa’’から昇熱期に投入する投入電力量を演算する機能を備えた第3の演算手段16を有している。
【0035】
そして、電力量配分演算部18には、第1〜第3の演算手段14〜16でそれぞれ演算された投入電力量からアーク電圧及びアーク電流をそれぞれ決定する設定信号を出力する信号出力手段17が設けられている。
なお、電力投入制御装置11は、物質収支演算部12、熱収支演算部13、第1〜第3の演算手段14〜16、信号出力手段17、及び出力調整手段29の各機能を発現するプログラムをコンピュータに搭載させることにより構成できる。
【0036】
製鋼用アーク炉10の黒鉛電極20は、電極昇降装置19で基側が保持され、先側が製鋼用アーク炉10内に挿入されて昇降し、黒鉛電極20の基端部は炉用変圧器21を介して電源ケーブル22と接続している。そして、電力量配分演算部18の信号出力手段17で決定されたアーク電圧の設定信号は、電圧設定器23を介して炉用変圧器21に入力され、黒鉛電極20に印加されるアーク電圧が制御される。また、信号出力手段17で決定されたアーク電流の設定信号は、電流設定器24を介して電極昇降制御器25に入力され、電極昇降制御器25から出力される駆動信号に基づいて電極昇降装置19が駆動して黒鉛電極20の高さを変えて、アーク電流が制御される。
【0037】
ここで、炉用変圧器21の一次側には、電圧検出器26が、炉用変圧器21の二次側には電流検出器27がそれぞれ接続されている。また、電圧検出器26で測定されたアーク電圧と、電流検出器27で測定されたアーク電流は、電力検出器28に入力されて電力が算出される。そして、算出された電力は電力量配分演算器18の出力調整手段29に入力されて製鋼用アーク炉10に実際に装入された実投入電力量が求められ、第1〜第3の演算手段14〜16でそれぞれ演算された投入電力量と実投入電力量との偏差が演算され、偏差量に応じて信号出力手段17から出力される設定信号が調整され、実投入電力量が投入電力量に一致するように制御が行われる。また、電流検出器27で測定されたアーク電流は、電極昇降制御器25に入力され、電流検出器27で測定されたアーク電流が、電流設定器24の設定信号に基づくアーク電流に一致するように制御が行われる。これによって、第1〜第3の演算手段14〜16でそれぞれ演算された投入電力量を、製鋼用アーク炉10に供給することができる。
【0038】
続いて、本発明の一実施の形態に係る製鋼用アーク炉の電力投入制御方法について説明する。
製鋼用アーク炉10の電力投入制御方法は、製鋼用アーク炉10にスクラップ、合金鉄、及び造滓材を有する原材料と燃焼用カーボン粉から構成される入物質を装入して、目標成分構成を有する製品用溶鋼を生成するまでの1チャージの期間を、例えば5つ(炉況1〜5)に分け、各炉況毎に必要な投入電力量を演算して、黒鉛電極20に供給する方法である。ここで、炉況1〜3は、入物質を3分割して製鋼用アーク炉10に段階的に装入する溶解期、炉況4は入物質の溶解で生じた溶鋼の精錬を行う精錬期、炉況5は精錬後の溶鋼を加熱してスラグ及びダストを生成させ目標成分構成を有する製品用溶鋼を製造する昇温期を指す。なお、合金鉄及び造滓材は、それらの全量を溶解期に装入する場合と、合金鉄及び造滓材のそれぞれの一部を溶解期に装入し、残部を精錬期に装入する場合がある。
【0039】
物質収支演算部12では、先ず、主原料であるスクラップ、合金鉄、副原料、カーボン粉、電極カーボン極で構成される入物質と、製品用溶鋼、スラグ、ダストで構成される出物質から、製品用溶鋼の成分構成に近い成分構成を製造するために最適なスクラップの銘柄及び質量(使用量)と、合金鉄の銘柄及び初期質量(初期使用量)を決定する。次いで、製品用溶鋼が製造される際に生成するスラグの塩基度に基づいて、1又は複数の銘柄の造滓材(副原料)を選定と、選定した銘柄の造滓材の初期質量(初期使用量)を決定する。
【0040】
ここで、使用する銘柄jのスクラップの質量(トン)をWSC、j(j=1、2、・・・、k)、銘柄jの合金鉄の初期質量(トン)をWfa1、j(j=1、2、・・・、k)、銘柄jの副原料の初期質量(トン)をWfa2、j(j=1、2、・・・、k)、カーボン粉の初期質量(トン)をWfa3、j(j=1、2、・・・、k)、電極カーボンの質量(トン)をWfa4、j(j=1、2、・・・、k)とすると、入物質のi成分の質量(トン)を示すWs1、i(i=Fe、C、Mn、・・・)は次式で計算する。
s1、i=Σ(K11、i、j・WSC、j)+Σ(K12、i、j・Wfa1、j)+Σ(K13、i、j・Wfa2、j)+Σ(K14、i、j・Wfa3、j)+Σ(K15、i、j・Wfa4、j
ここで、Σは銘柄jによる総和である。また、K11、i、j、K12、i、j、K13、i、j
14、i、j、K15、i、jは、銘柄jに含まれているi成分の比率である。
【0041】
製品用溶鋼の質量(トン)をWm、スラグの質量(トン)をWslg、ダストの質量(トン)をWdとすると、出物質の各成分の質量(トン)を示すWs2、i(i=Fe、C、Mn、・・・)は、次式で計算する。
s2、i=Σ(K21、i、j・Wm)+Σ(K22、i、j・Wd)+Σ(K23、i、j・Wslg
ここで、Σは銘柄jによる総和である。また、K21、i、jは、生成す溶鋼の鋼種により決定される定数であり、K22、i、j、K23、i、jは過去の実績から算出される定数である。
【0042】
また、ダストの質量Wdと、スラグの質量Wslgは、入物質中の成分iの質量からそれぞれ次式で決定する。
Wd=K31・ΣWs1、i
slg=K41・ΣWs1、i
ここで、Σは成分iによる総和である。また、K31、K41は過去の実績から算出される定数である。
【0043】
また、スクラップと合金鉄からなる混合物の成分構成と、製品用溶鋼の成分構成との差から算出される過剰成分毎の質量(トン)を示すWi(i=Fe、C、Mn、・・・)は、次式から算出する。
Wi=Ws1、i−Ws2、i
【0044】
ここで、精錬期における溶鋼中の成分iの歩留まりをδ1iとすると、選定した銘柄のスクラップの成分iを、製品用溶鋼の成分iに一致させるためには、選定した銘柄の合金鉄中の成分iの実質質量Wfa1、j1は、Wi/δ1jとなる。したがって、選定した銘柄の合金鉄の成分iの最終質量[Wfa1、j]は、選定した銘柄の合金鉄の成分iの初期質量Wfa1、jに実質質量Wfa1、j1を加えたものになる。
【0045】
また、昇温期でスラグが生成する際のスラグ中の成分iの歩留まりをδ2iとすると、選定した銘柄の造滓材(副原料)中の成分iを、選定した銘柄の造滓材から想定されるスラグ中の成分iに一致させるためには、選定した銘柄の造滓材中の成分iの実質質量Wfa2、j2は、Wi/δ2jとなる。したがって、選定した銘柄の造滓材の成分iの最終質量[Wfa2、j]は、選定した銘柄の造滓材の成分iの初期質量Wfa2、jに実質質量Wfa2、j2を加えたものになる。
【0046】
図2に示すように、熱収支演算部13では、出熱量QOを、溶鋼の熱量Qst、スラグの熱量Qslg、ダストを含んだ排ガスの熱量Qd、及び製鋼用アーク炉10に1チャージの期間に亘って供給される冷却水による抜熱量Qcから構成する。また、入熱量を、入物質及び出物質から求まる過剰成分(スクラップと合金鉄からなる混合物の成分構成と、製品用溶鋼の成分構成との差)が酸化反応する際の酸化反応熱量Qo(カーボン粉と酸素を溶鋼中に吹込み、カーボン粉と酸素を反応させて燃焼させる)と、入物質により製鋼用アーク炉10に持ち込まれる熱量Qb(原材料はバーナで加熱された後、製鋼用アーク炉10に装入される)と、製鋼用アーク炉10の黒鉛電極20に投入する電力で発生するアークに伴うアーク熱量Qaから構成する。そして、製鋼用アーク炉10への入物質と製鋼用アーク炉10からの出物質の間の熱収支から、Qo+Qb+Qa=Qst+Qslg+Qd+Qcとする。
【0047】
溶鋼の熱量Qst[kWh]は、製品用溶鋼の目標温度T1[℃]と、スクラップの初期温度T2[℃]と、スクラップの質量重量WSC、jから、次式で求める。
Qst=C21・(T1−T2)・Σ(WSC、j)・γ1i/η1i
ここで、C21は製品用溶鋼(溶鋼)の比熱、γ1iは炉況1〜炉況5で決まる定数で、単位は[kWh/t/℃]、η1iは炉況1〜炉況5における溶鋼への着熱効率である。
【0048】
スラグの熱量Qslg[kWh]は、製品用溶鋼の目標温度T1[℃]と、スクラップ初期温度T2[℃]と、スラグの質量Wslgから、次式で求める。
Qslg=C22・(T1−T2)・Wslg・γ/η
ここで、C22スラグの比熱、γ2iは炉況1〜炉況5で決まる定数で、単位は[kWh/t/℃]、η2iは炉況1〜炉況5におけるスラグへの着熱効率である。
【0049】
排ガス熱量Qd[kWh]は、実際に測定される排ガス温度T3[℃]及び排ガス流量Fd[Nm/h]から、次式で求める。
Qd=∫[{(1+T3/273)・Fd}・γ3i]dt
ここで、γ3i炉況1〜炉況5で決まる定数で、単位は[kWh/Nm/℃]である。
【0050】
入物質により製鋼用アーク炉10に持ち込まれる熱量Qb[kWh]は、スクラップ質量WSC、jから、次式で求める。
Qb=C21・Σ(WSC、j)・γ1i/η1i
なお、入物質中のスプラップの質量比率は、例えば、90〜95なので、入物質の質量は、スクラップ質量WSC、jで近似できる。
【0051】
酸化反応熱量Qo[kWh]は、各成分iの酸化反応から、次式で求める。
Qo=Σ(Wi・γ1i
ここで、Wiは、Si、Mn、Al、Fe、Cr、Ni、C、CO、CaOの質量であり、η4i(i=Si、Mn、Al、Fe、Cr、Ni、C、CO、CaO)は、精錬期における溶鋼への着熱効率である。
【0052】
また、酸化反応熱量Qoを演算する際、溶鋼中の過剰成分の酸化反応で溶鋼の温度を上昇させるのに必要な熱エネルギー量を求め、この熱エネルギー量を賄うために溶鋼中に吹込むカーボン粉の要求吹込み量(要求吹込み質量)を演算し、黒鉛電極20の消費量で補正して、カーボン粉の吹込み量を決定する。そして、カーボン粉の吹込み量がカーボン粉の初期質量Wfa3、jより多い場合は、カーボン粉の吹込み量と初期質量Wfa3、jの差分に相当する質量のカーボン粉を初期質量Wfa3、jに加えてカーボン粉の最終質量とする。
【0053】
製鋼用アーク炉10に原材料を装入して、予め設定された操業条件で操業を開始する場合、電力量配分演算部18では、熱収支演算部13の演算結果に基づいて、アーク熱量Qa[kWh]を、次式から求める。
Qa=Qst+Qslg+Qd+Qc−(Qo+Qb) ・・・・・(1)
また、溶解期1から昇温期5において、それぞれ黒鉛電極20に供給する投入電力量Qip[kWh](i=1、2、3、4、5)を、次式から求める。
Qip=Qa/η1i ・・・・・(2)
【0054】
ここで、溶解期1から昇熱期5終了までに必要な投入電力量は、第1の演算手段14で演算される。第1の演算手段14は、製鋼用アーク炉10に入物質を装入して、予め設定された操業条件で操業を開始する際に、装入する入物質の温度(初期温度)を測定して、入物質により製鋼用アーク炉10に持ち込まれる熱量Qbを求めると共に、酸化反応熱量Qoを演算する。
【0055】
また、第1の演算手段14は、過去の操業実績から構成された製品用溶鋼熱量データベース、スラグ熱量データベース、排ガス熱量データベース、及び抜熱量データベースを用いて、製品用溶鋼の製造条件から、推定溶鋼熱量EQst、推定スラグ熱量EQslg、排ガス熱量EQd、及び推定抜熱量EQcを演算し、溶解期1から昇熱期5の終了までに必要なアーク熱量Qaを、(1)式に基づいて、EQst+EQslg+EQd+EQc−(Qb+Qo)から求める。
【0056】
更に、第1の演算手段14は、(2)式に基づいて、原材料の溶解期1から昇熱期5終了までに必要な投入電力量Q1pを、Qa/η11から求める。そして、溶鋼の精錬期4及び昇熱期5の着熱効率η14、η15を用いて、昇熱期5の投入電力量Q15pを、
Q15p=Q1p・η15
精錬期4の投入電力量Q14pを、
Q14p=Q1p・η14
として求める。その結果、溶解期1、2、3の総投入電力量Q123pを、
Q123p=Q1p・(1−η14−η15
として求めることができる。
【0057】
ここで、溶解期1、2、3において、それぞれWSC1、WSC2、WSC3(WSC1+WSC2+WSC3=ΣWSC、j)の割合で原材料が装入される場合、溶解期1における投入電力量Q1pを、
Q1p=Q123p・WSC1/ΣWSC、j
溶解期2における投入電力量Q2pを、
Q2p=Q123p・WSC2/ΣWSC、j
溶解期3における投入電力量Q3pを、
Q3p=Q123p・WSC3/ΣWSC、j
とそれぞれ決定する。したがって、溶解期1の開始時点での投入電力量は、Q1pとなる。
【0058】
溶解期1が終了した時点で、測定した溶鋼温度、排ガス温度、及び冷却水温度を用いて、溶解期1の終了時点までの実測溶鋼熱量RQst11、実測排ガス熱量RQd11、及び実測抜熱量RQc11をそれぞれ演算し、溶解期2から昇熱期5の終了までの溶鋼熱量、排ガス熱量、及び抜熱量をそれぞれEQst−RQst11、EQd−RQd11、及びEQc−RQc11として、溶解期2から昇熱期の終了までに必要なアーク熱量Qa2を、EQst−RQst11+EQslg+EQd−RQd11+EQc−RQc11−Qb−Qoから求める。その結果、溶解期2の開始時点での投入電力量をQ2pを、
Q2p=Q123p’・WSC2/ΣWSC、j
とする。ここで、Q123p’は
Q123p’=(Qa2/η11)・(1−η14−η15
である。
【0059】
溶解期2が終了した時点で、測定した溶鋼温度、排ガス温度、及び冷却水温度を用いて、溶解期2の終了時点までの実測溶鋼熱量RQst12、実測排ガス熱量RQd12、及び実測抜熱量RQc12をそれぞれ演算し、溶解期3から昇熱期5の終了までの溶鋼熱量、排ガス熱量、及び抜熱量をそれぞれEQst−RQst12、EQd−RQd12、及びEQc−RQc12として、溶解期3から昇熱期5の終了までに必要なアーク熱量Qa3を、EQst−RQst12+EQslg+EQd−RQd12+EQc−RQc12−Qb−Qoから求める。その結果、溶解期3の開始時点での投入電力量をQ3pを、
Q3p=Q123p’’・WSC3/ΣWSC、j
とする。ここで、Q123p’’は
Q123p’’=(Qa3/η11)・(1−η14−η15
である。
【0060】
溶解期3が終了して、精錬期4から昇熱期5終了までに必要な投入電力量は、第2の演算手段15で演算される。第2の演算手段15は、第1の演算手段14で測定される溶鋼温度、排ガス温度、及び冷却水温度を用いて、溶解期3の終了時点までの実測溶鋼熱量RQst1、実測排ガス熱量RQd1、及び実測抜熱量RQc1をそれぞれ演算し、精錬期4から昇熱期5の終了までの溶鋼熱量、排ガス熱量、及び排ガス熱量をそれぞれEQst−RQst1、EQd−RQd1、及びEQc−RQc1とする。そして、精錬期4から昇熱期5の終了までに必要なアーク熱量Qa’を、EQst−RQst1+EQslg+EQd−RQd1+EQc−RQc1−Qb−Qoとする。
【0061】
更に、第2の演算手段15は、精錬期4から昇熱期5終了までに必要な投入電力量Q4pを、溶鋼の精錬期4の着熱効率η14を用いて、Qa’/η14から求める。そして、溶鋼の昇熱期5の着熱効率η15を用いて、昇熱期5の投入電力量Q45pを、
Q45p=Q4p・η15
精錬期4の投入電力量Q44pを、
Q44p=Q4p・η14
として求める。したがって、精錬期4の開始時点での投入電力量は、Q4pとなる。
【0062】
精錬期4が終了して、昇熱期5終了までに必要な投入電力量は、第3の演算手段16で演算される。第3の演算手段16は、第1の演算手段14で測定される溶鋼温度、排ガス温度、及び冷却水温度を用いて、精錬期4の終了時点までの実測溶鋼熱量RQst2、実測排ガス熱量RQd2、及び実測抜熱量RQc2をそれぞれ演算し、昇熱期5の終了までの溶鋼熱量、排ガス熱量、及び抜熱量をそれぞれEQst−RQst2、EQd−RQd2、及びEQc−RQc2とする。そして、昇熱期5の終了までに必要なアーク熱量Qa’’を、EQst−RQst2+EQslg+EQd−RQd2+EQc−RQc2−Qb−Qoとする。更に、第3の演算手段16は、昇熱期5の終了までに必要な投入電力量Q5pを、Qa’’/η15から求める。したがって、昇熱期5の開始時点での投入電力量は、Q5pとなる。
【0063】
以上にように、製鋼用アーク炉への入物質と、製鋼用アーク炉からの出物質との間の物質収支及び熱収支から、1チャージに必要な投入電力量を決定することにより、溶解期、精錬期、及び昇熱期でそれぞれ必要とする投入電力量を過不足なく供給することができ、従来の製鋼用アーク炉における操業に対して、エネルギー原単位を例えば、約5%改善することが可能になった。
【符号の説明】
【0064】
10:製鋼用アーク炉、11:電力投入制御装置、12:物質収支演算部、13:熱収支演算部、14:第1の演算手段、15:第2の演算手段、16:第3の演算手段、17:信号出力手段、18:電力量配分演算部、19:電極昇降装置、20:黒鉛電極、21:炉用変圧器、22:電源ケーブル、23:電圧設定器、24:電流設定器、25:電極昇降制御器、26:電圧検出器、27:電流検出器、28:電力検出器、29:出力調整手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクラップ、合金鉄、及び造滓材を有する原材料と燃焼用カーボン粉から構成される入物質を製鋼用アーク炉に装入し、該原材料の溶解を行う溶解期、該原材料の溶解により生成した溶鋼を加熱してスラグ及びダストを生成させ目標成分構成を有する製品用溶鋼を製造する精錬を行う精錬期、精錬後に目標温度まで昇熱を行う昇熱期から構成される1チャージに必要な投入電力量を決定する製鋼用アーク炉の電力投入制御方法において、
前記製鋼用アーク炉からの出物質を、前記製品用溶鋼、前記スラグ、及び前記ダストから構成して、前記出物質と前記入物質の間の物質収支から、前記製品用溶鋼を製造する際の前記原材料の成分構成及び質量と前記出物質の成分構成及び質量をそれぞれ求めて、前記入物質により前記製鋼用アーク炉に持ち込まれる熱量Qb及び前記入物質の成分構成と前記出物質の成分構成の差から求まる過剰物質が酸化する際に発生する酸化反応熱量Qoをそれぞれ演算し、
前記製品用溶鋼の熱量Qstと、前記スラグの熱量Qslgと、前記ダストを含んだ排ガスの熱量Qdと、前記製鋼用アーク炉に供給した冷却水による抜熱量Qcとの和を前記製鋼用アーク炉からの出熱量QOとして、前記入物質と前記出物質との間の熱収支から、前記1チャージの間に前記製鋼用アーク炉に供給するアーク熱量QaをQst+Qslg+Qd+Qc−Qb−Qoから求め、前記1チャージに必要な投入電力量を前記アーク熱量Qaから決定することを特徴とする製鋼用アーク炉の電力投入制御方法。
【請求項2】
請求項1記載の製鋼用アーク炉の電力投入制御方法において、前記合金鉄の成分構成及び質量は、前記スクラップの成分構成と前記製品用溶鋼の成分構成の差に基づいて決定し、前記造滓材の質量は、前記スラグの塩基度に基づいて決定することを特徴とする製鋼用アーク炉の電力投入制御方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の製鋼用アーク炉の電力投入制御方法において、前記燃焼用カーボン粉の質量は、前記過剰物質を構成する成分と、該各成分の質量に基づいて決定することを特徴とする製鋼用アーク炉の電力投入制御方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の製鋼用アーク炉の電力投入制御方法において、前記製品用溶鋼の熱量Qst、前記スラグの熱量Qslg、前記ダストを含んだ排ガスの熱量Qd、及び前記製鋼用アーク炉に供給した冷却水による抜熱量Qcを、過去の操業実績から構成された製品用溶鋼熱量データベース、スラグ熱量データベース、排ガス熱量データベース、及び抜熱量データベースを用いて、前記製品用溶鋼の製造条件に基づいてそれぞれ推定した溶鋼熱量EQst、推定スラグ熱量EQslg、排ガス熱量EQd、及び推定抜熱量EQcとし、前記溶解期から前記昇熱期の終了までに必要な前記投入電力量を決定する前記アーク熱量Qaを、EQst+EQslg+EQd+EQc−Qb−Qoから求めることを特徴とする製鋼用アーク炉の電力投入制御方法。
【請求項5】
請求項4記載の製鋼用アーク炉の電力投入制御方法において、前記1チャージの期間中に、溶鋼温度、排ガス温度、及び冷却水温度をそれぞれ測定して、前記溶解期の終了時点までの実測溶鋼熱量RQst1、実測排ガス熱量RQd1、及び実測抜熱量RQc1をそれぞれ演算し、前記精錬期から前記昇熱期の終了までの溶鋼熱量、排ガス熱量、及び抜熱量をそれぞれEQst−RQst1、EQd−RQd1、及びEQc−RQc1として、前記精錬期から前記昇熱期の終了までに必要な前記投入電力量を決定するアーク熱量Qa’を、EQst−RQst1+EQslg+EQd−RQd1+EQc−RQc1−Qb−Qoから求めることを特徴とする製鋼用アーク炉の電力投入制御方法。
【請求項6】
請求項5記載の製鋼用アーク炉の電力投入制御方法において、前記精錬期の終了時点までの実測溶鋼熱量RQst2、実測排ガス熱量RQd2、及び実測抜熱量RQc2をそれぞれ演算し、前記昇熱期の終了までの溶鋼熱量、排ガス熱量、及び抜熱量をそれぞれEQst−RQst2、EQd−RQd2、及びEQc−RQc2として、前記昇熱期の終了までに必要な前記投入電力量を決定するアーク熱量Qa’’を、EQst−RQst2+EQslg+EQd−RQd2+EQc−RQc2−Qb−Qoから求めることを特徴とする製鋼用アーク炉の電力投入制御方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−256407(P2011−256407A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129162(P2010−129162)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】