説明

複列玉軸受

【課題】 軸受内の潤滑剤の流れを整流化することで、低トルク化を可能とした複列玉軸受を提供する。
【解決手段】 大径側玉4の公転周期と小径側玉5の公転周期との差が従来のものに比べて小さくなされている。大径側玉4の接触角をα(°)、小径側玉5の接触角をβ(°)として、(β−10)≦α<βとされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複列玉軸受、さらに詳しくは、自動車の最終減速装置などにおいて、その装置の内部に収容される潤滑剤を利用して潤滑されピニオン軸を支持するのに好適なタンデム型と称されている複列玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
外輪、内輪、両輪の間に複列に配置された複数の玉、およびこれらの玉を保持する保持器を有するタンデム型の複列玉軸受は、特許文献1に示されているように、車両用のピニオン軸支持装置などにおいて広く使用されている。
【0003】
図3は、この発明による複列玉軸受が対象としている1例のデファレンシャルギア装置を示すもので、デファレンシャルギア装置は、ハウジング(41)に回転自在に支持されかつ後端部にピニオンギア(43)が配設されたピニオン軸(42)と、ピニオンギア(43)に噛み合わされたリングギア(44)と、ピニオン軸(42)をハウジング(41)に回転自在に支持する内外1対の複列玉軸受(45)(46)と、ピニオン軸(42)の外側端部に設けられたドライブシャフト連結用フランジ継手(47)とを備えている。
【0004】
このデファレンシャルギヤ装置では、リングギヤ(44)の回転に伴って跳ね上げられた潤滑油がハウジング(41)内の潤滑油通路(48)を介して1対の複列玉軸受(45)(46)の軸方向中間に導入されている。複列玉軸受(45)(46)が回転すると、小径側から大径側への流体の流れ(ポンプ作用)が発生するので、デファレンシャルギヤ装置用の複列玉軸受(45)(46)では、各複列玉軸受(45)(46)の小径側を軸方向内方に位置させるとともに、このポンプ作用を利用して、小径側(1対の複列玉軸受のちょうど中間部分)から給油し、大径側へ油を排出させる潤滑方法が一般に適用されている。
【特許文献1】特開2006−234100号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両用のピニオン軸支持装置などでは、低損失化のために、軸受の回転トルクの低減が課題となっている。回転トルク低減のためには、潤滑油による撹拌抵抗を抑制することが有効である。
【0006】
この発明の目的は、軸受内の潤滑剤の流れを整流化することで、低トルク化を可能とした複列玉軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明による複列玉軸受は、互いに径が相違する複列の軌道面を有する外輪と、外輪の各軌道面と対応する複列の軌道面を有する内輪と、両輪の各列の軌道面間に異なるピッチ円径をもって配置される複数の大径側玉および複数の小径側玉と、複数の大径側玉を保持する大径側保持器および複数の小径側玉を保持する小径側保持器とを備えている複列玉軸受において、大径側玉および小径側玉の径および接触角がいずれも等しい場合に得られる大径側玉の公転周期と小径側玉の公転周期との差を基準にして、大径側玉の公転周期と小径側玉の公転周期との差が小さくなされていることを特徴とするものである。
【0008】
公転周期の差を小さくするには、例えば、小径側玉の径および接触角と両者のピッチ円直径とを従来と同じにしたままで、大径側の玉の径を大きくすればよく、これに加えて、大径側の玉の接触角を小さくすることが好ましい。大径側の玉の径と小径側玉の径とを同じにしたままで、大径側玉の接触角を小径側玉の接触角よりも小さくするだけでもよい。接触角を大きくすると、玉と軌道面との接触部における差動すべり(スピン)が大きくなり、公転速度が小さくなるので、接触角を変更するだけでも、公転周期を調整することができる。さらに、小径側玉の径および接触角についても、玉の径を小さく(玉の数は増加)かつ接触角を大きくするようにしてもよい。また、ピッチ円直径の差を若干小さくするようにしてもよい。
【0009】
接触角については、大径側玉の接触角をα(°)、小径側玉の接触角をβ(°)として、(β−10)≦α<βとすることが好ましい。α=(β−5)程度で、大径側の玉と小径側の玉とのアキシアル剛性が同等になり、アキシアル荷重が大きい条件下における大径側の玉の寿命低下を防ぐことができる。アキシアル荷重が大きい条件下における大径側の玉の寿命低下を防ぐには、大径側の軌道曲率>小径側の軌道曲率とすることも有効である。
【0010】
大径側と小径側とで公転周期の差が大きいと、軸受内部での潤滑油の流れに関し、大径側の流れと小径側の流れとが干渉して、流れが複雑となり、軸受トルク増大の原因となる。公転周期を同期させることで、軸受内部の油の流れを整流化することができ、これにより、軸受の回転トルクが低減する。
【0011】
より好ましくは、小径側から大径側への潤滑剤の流れを確保するために、大径側玉のピッチ円直径>小径側玉のピッチ円直径の関係を確保しておいて、両者の公転周期が等しくされる。このようにすると、軸受内部の流れを回転トルク低減のために最適化できるとともに、大径側と小径側とで異なる保持器とされていたのを一体の保持器とすることができ、部品数の削減も可能となる。
【発明の効果】
【0012】
この発明の複列玉軸受によると、大径側玉の公転周期と小径側玉の公転周期との差が小さくなされているので、軸受内の潤滑剤の流れを整流化することができ、低トルク化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について説明する。
【0014】
図1は、この発明による複列玉軸受の第1実施形態を示している。この複列玉軸受(1)は、互いに径が相違する複列の軌道面(2a)(2b)を有しハウジング(図示略)に取り付けられる外輪(2)と、外輪(2)の各軌道面(2a)(2b)と対応する複列の軌道面(3a)(3b)を有し回転軸(図示略)に取り付けられる内輪(3)と、両輪(2)(3)の各列の軌道面(2a)(3a)(2b)(3b)間に異なるピッチ円径をもって配置される複数の大径側玉(4)および複数の小径側玉(5)と、複数の大径側玉(4)を保持する大径側保持器(6)および複数の小径側玉(5)を保持する小径側保持器(7)とを備えている。
【0015】
同図において、内輪(3)の右側の軌道面(3b)の外径は、内輪(3)の左側の軌道面(3a)の外径よりも小さく、かつ、外輪(2)の右側の軌道面(2b)の内径は、外輪(2)の左側の軌道面(2a)の内径よりも小さくなっている。大径側玉(4)および小径側玉(5)の接触角は、同じ向き(同じ角度に限定されるものではない)とされている。また、各保持器(6)(7)は、全体として右側から左側に行くにしたがって径が大きくなるテーパ状に形成されている。潤滑油は、図の右側(すなわち小径側)から供給され、複列玉軸受(1)のポンプ作用によって、図の左側(すなわち大径側)から排出される。
【0016】
従来、大径側玉のピッチ円直径>小径側玉のピッチ円直径であるタンデム型と称されている複列玉軸受においては、大径側玉の径および接触角は、小径側玉の径および接触角と等しく、大径側玉の公転周期>小径側玉の公転周期が成り立っている。大径側と小径側とで公転周期の差が大きいと、大径側の潤滑剤の流れと小径側の潤滑剤の流れとが干渉して、流れが複雑となり、軸受トルク増大の原因となる。
【0017】
この発明による複列玉軸受(1)は、上記公転周期の差に着目し、この差を小さくすることで軸受(1)内部の潤滑剤の流れの整流化を図り、これにより、回転トルクの低減を可能とするもので、大径側玉(4)の公転周期と小径側玉(5)の公転周期との差が従来のものに比べて小さくなるように、ピッチ円直径を変更せずに、大径側玉(4)の接触角が小径側玉(5)の接触角よりも小さくなされている。接触角が相対的に大きい小径側では、小径側玉(5)と軌道面との接触部における差動すべり(スピン)が大きくなり、公転速度が小さくなるので、小径側玉(5)の公転周期が大きくなって大径側玉(4)の公転周期に近くなる。なお、接触角については、大径側玉(4)の接触角をα(°)、小径側玉(5)の接触角をβ(°)として、(β−10)≦α<βが成り立つように決められている。
【0018】
図2は、この発明による複列玉軸受の第2実施形態を示している。この実施形態では、大径側玉(4)の接触角が小径側玉(5)の接触角よりも小さくなされているという第1実施形態の構成に、大径側の玉(8)の径が小径側の玉(5)の径(すなわち、図2に二点鎖線で示している第1実施形態における大径側玉(4)の径)よりも大きくなされているという構成が付加されている。こうして、第1実施形態のものに比べて、大径側玉(4)の公転周期がさらに小さくなり、大径側玉(4)の公転周期と小径側玉(5)の公転周期との差がより一層小さくなっている。
【0019】
図1および図2に示したこの発明の複列玉軸受(1)は、図3に示した自動車のデファレンシャルギア装置において、ピニオン軸(42)をハウジング(41)に回転自在に支持する軸受装置として好適に使用される。複列玉軸受(1)は、ハウジング(41)内部に収容される潤滑油を利用して潤滑される。軸受(1)内部の潤滑油の流れが乱れていると、回転トルクが増大することになるが、上述のように、大径側玉(4)(8)の公転周期と小径側玉(5)の公転周期との差が従来のものに比べて小さくなっているので、この発明の複列玉軸受(1)では、潤滑油の流れの乱れが抑制され、低トルク化が可能となる。
【0020】
なお、この発明の複列玉軸受(1)は、デファレンシャルギア装置のピニオン軸を支持する用途のほか、トランスアクスル装置のピニオン軸を支持する軸受などとしても使用できることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、この発明の複列玉軸受の第1実施形態を示す上半部の縦断面図である。
【図2】図2は、この発明の複列玉軸受の第2実施形態を示す上半部の縦断面図である。
【図3】図3は、この発明の複列玉軸受が使用される1例としてのデファレンシャルギア装置を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0022】
(1) 複列玉軸受
(2) 外輪
(3) 内輪
(4)(8) 大径側玉
(5) 小径側玉
(6)(9) 大径側保持器
(7) 小径側保持器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに径が相違する複列の軌道面を有する外輪と、外輪の各軌道面と対応する複列の軌道面を有する内輪と、両輪の各列の軌道面間に異なるピッチ円径をもって配置される複数の大径側玉および複数の小径側玉と、複数の大径側玉を保持する大径側保持器および複数の小径側玉を保持する小径側保持器とを備えている複列玉軸受において、
大径側玉および小径側玉の径および接触角がいずれも等しい場合に得られる大径側玉の公転周期と小径側玉の公転周期との差を基準にして、大径側玉の公転周期と小径側玉の公転周期との差が小さくなされていることを特徴とする複列玉軸受。
【請求項2】
大径側玉の接触角をα(°)、小径側玉の接触角をβ(°)として、(β−10)≦α<βとされていることを特徴とする請求項1の複列玉軸受。
【請求項3】
大径側玉の径が小径側玉の径よりも大きくなされていることを特徴とする請求項2の複列玉軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−240769(P2008−240769A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−78308(P2007−78308)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】