説明

複合型インクジェットヘッド

【課題】多種多様な精細度の基板が存在するフラットパネルディスプレイや電子基板に対応するために塗布する基板に合わせて、塗布間隔が連続的に変化する幅広の複合型インクジェットヘッドを提供する。
【解決手段】複合型インクジェットヘッド1は、基板面の水平方向に対して所定の回転角度で回転可能な回転軸70に腕300を設け、前記腕を挟んで複数のインクジェットヘッド23を直線上に配置してブラケット100、200に固定したものを2つ設け、少なくとも一方のブラケットが前記腕の長手方向にスライド可能なスライド軸10を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットパネルディスプレイ製造装置および電子回路パターン形成装置に用いる複合型インクジェットヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、フラットパネルディスプレイの一種である有機ELディスプレイの製造プロセスにおいては、低分子系の発光材料を用いた蒸着方法で形成されることが多い。蒸着方法でディスプレイを形成するためには、シャドウマスクを用いて赤、緑、青のそれぞれの発光材料を区画する必要がある。しかし、シャドウマスクは蒸着中に蒸着源からの放射熱で線膨張するために、画面を大型化すると所定の位置からはみ出してしまうという問題があり、基板の大型化は困難であるといわれている。また、全工程を真空中で行いスループットが小さいこと、蒸着方法は材料使用効率が良くないことなど、量産に不向きな特徴もある。そこで、例えば特許文献1に示すように、将来は高分子系の発光材料を溶剤に溶かしてインクにし、インクジェット方法で各色を塗り分け、後から溶剤を乾燥させることによって発光材料層を形成する方法が主流になると言われている。
【0003】
【特許文献1】特開2002−250811号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
有機ELディスプレイの基板は非常に高精度、高精細であるため、従来のプリンター技術の延長では所定の画素からのはみ出しが発生したり、インクジェットプリントヘッドが小さく大画面に塗布できないなどの問題があった。そこで、幅広のインクジェットヘッドを形成することが考えられるが、これは加工精度の問題で精度良くノズル位置を形成することが非常に難しく、大型の加工機が必要となるためインクジェットヘッドのコストが高くなるなどの問題もある。よって、小型でノズル位置が高精度であるインクジェットヘッドを複数個配列させることが提案されている。しかしながら、この方法では一定のノズル配列に対応する基板しか対応することができない、また、一つのインクジェットヘッドを交換する度に全体を取り外し、高精度に組み立てを行う必要がある。
【0005】
本発明では、多様な解像度の基板に対応し、高精度で幅広な塗布を可能な複合型のインクジェットヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の複合型インクジェットヘッドは、基板面の水平方向に対して所定の回転角度で回転可能な回転軸に腕を設け、前記腕を挟んで複数のインクジェットヘッドを直線状に配置してブラケットに固定したものを2つ設け、少なくとも一方のブラケットが前記腕の長手方向にスライド可能に構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
これにより、回転軸の腕の1方側に、複数のインクジェットヘッドを所定間隔を開けてノズルが直線状になるように配置し、他方側に前記一方側の間隔を埋める形で複数のインクジェットヘッドを配置できるために、基板に設けられるバンクの幅が変化しても、広い範囲に高精度にインクを塗布することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0009】
図1には本発明の複合型インクジェットヘッド1を設置した塗布装置の概略図を示す。本塗布装置は、ベースとなる架台19上に門型フレーム20が設けられている。門型フレーム20にはZ軸ステージ21が設けてあり、これはZ軸駆動モータ22でZ軸方向に移動可能である。このZ軸ステージ21上には複数のインクジェットヘッド23a〜fをノズル面が基板に対向し、かつ平行に、φ方向に回転する回転軸70から水平方向に延伸した腕300に、腕300を挟む形で2つのヘッドブラケット100、200を介して取り付けてある。複数のインクジェットヘッドを設けたブラケット100で直列配置ヘッドユニット1を、同じく複数のインクジェットヘッド1を設けたブラケット200で直列配置ヘッドユニット2を構成している。さらに、門型ステージ20には塗布データの格納と、塗布データに従い各インクジェットヘッド23a〜fに吐出動作命令を発信するインクジェットヘッド制御部33が設けてある。
【0010】
門型ステージ20の両脚部の中央、架台19の上面には、Yステージ27と、Y軸駆動モータ28が固定されている。このYステージ27の上面には、Xステージ25と、X軸駆動モータ26が、Yステージ27に対して直交する方向に取付けてある。そして、Xステージ25の上面にはθ回転ユニット30が設けてある。さらにθ回転ユニット30上には吸着テーブル29が取付けられている。最終的に、吸着テーブル29上面と架台19上面とが略平行となるよう位置決めされ、取付けられている。
【0011】
吸着テーブル29の上面には微細な吸引穴が複数設けてある。この吸着テーブル29上面に設けた吸引穴は図示しない真空発生装置と連通されている。この真空発生装置から供給された負圧により、基板34をテーブル上面に吸着保持することが可能である。また、吸着テーブル29前側の端面には、各インクジェットヘッド23a〜fの目詰り防止ならびに目詰り要因排除を目的としたクリーニング装置31が取付けられている。
【0012】
上記構成により、吸着ステージ29上に設置された基板34の表面とインクジェットヘッド23a〜fの吐出口面とが互いに平行を保ちつつ、X方向、Y方向、への吸着テーブル29を駆動し、且つ、吸着プレート29上面中心を回転軸としての回転駆動できるようにしてある。また、各インクジェットヘッド23a〜fはZ軸駆動モータ22によりZ方向へ駆動できる。
【0013】
なお、本発明のインクジェットヘッド23a〜fを駆動するZ軸駆動モータ22の下降ストロークは、少なくともクリーニング装置31がインクジェットヘッド23a〜fに対して各種クリーニング可能となる距離よりも大きく移動できるように設定してある。
【0014】
門型フレーム20の図中右脚部には、塗布材料ボトル35が上下に垂直移動可能なボトルホルダ36に取付けられている。また、塗布材料ボトル35近傍に、インクジェットヘッド23a〜f内部流路を洗浄するための洗浄用溶剤を入れた洗浄液ボトル32が設けられている。これらは、図示しない供給手段によりインクジェットヘッド23a〜fへ供給、適宜、供給切替えを行うことが可能となっている。
【0015】
塗布装置近傍にはPC(制御装置と言う場合もある)37が設けてある。PC37では、本塗布装置に付帯する構成機器の駆動制御や状態監視等を行う。
【0016】
図2に本発明による複合型のインクジェットヘッド部の一例の詳細を示す。インクジェットヘッド23a〜c又はインクジェットヘッド23d〜fを、それぞれのノズル列111〜113、ノズル列211〜213が直線となるように配列し、ブラケット100及びブラケット200に固定して、それぞれ直列配置ヘッドユニット1,2を構成している。各ブラケット100、200は回転軸70に設けた腕300に取り付けてある。インクジェットノズルは構造上の理由でノズル列幅よりもヘッドの外形の幅が広いため、一直線上にインクジェットヘッドのノズルを配列した場合、ノズル間隔に不連続な広い隙間ができてしまう。そのため本実施例のように、腕300の両側にそれぞれのブラケットを取り付け、一方のブラケット200に取り付けたインクジェットヘッド23d〜23fの間隔部分を補うように他方のブラケット100に設けたインクジェットヘッド23a〜cを配置した構成としてある。このブラケットの少なくとも一方側にはリニアアクチュエータ10を設けておき、腕300の延伸方向に移動可能にしてある。本図ではブラケット100が移動できるようにリニアアクチュエータ10を設け、ブラケット200は固定した構成としているが、ブラケット200が移動できるようにしてもよく、両方のブラケットが移動できるようにしても良い。また、ブラケット200は設けず直接腕300に固定する構成としても良い。
【0017】
また、ヘッド全体はノズル平面に直交する軸で回転する回転軸70を、図示していないアクチュエータにて、塗布方向Yとの角度を可変できることによって、X方向の印刷解像度を連続的に変更することができる。Z軸ステージ21とモータ22により、複合型インクジェットヘッドをZ軸方向にスライドすることによってノズルと印刷対象面の距離を変更することができる。
【0018】
図3に本発明の複合型インクジェットヘッドのヘッド配列の実施例を示す。本実施形態に用いているそれぞれのインクジェットヘッド23a〜23dは、ノズルが間隔d=0.2mmにて128個、直線配列されている。このインクジェットヘッドを3個直列に配列し、ブラケット100又は200に固定して直列配置ヘッドユニット1,2を構成する。ここで、隣り合うインクジェットヘッドのノズル列の間隔Dは(L+2d)即ち、25.8mmとする。そして、ブラケット100で構成される直列配置ヘッドユニット1の不連続部分Dを補うようにブラケット200で構成される直列は位置ヘッドユニット2を配置した。すなわち、一方のインクジェット23aのノズル111の端部ノズルと、他方のインクジェットヘッド23dのノズル211の端部との距離d’が0.2mmとなるように配置した。これにより、塗布方向に直交する方向においてノズル111からノズル213まで、ノズル列が連続的に整列し、幅広で高精度の描画が可能となる。
【0019】
また、回転軸70を回転させ図中のX方向軸に対して、ノズル列軸をφ傾けることによって、X方向の描画解像度を細かくすることが可能である。このとき、ブラケット100をブラケット200に対してノズル配列方向の任意の位置にスライド移動させることによって、6つのインクジェットヘッド23a〜23fの全ノズルで連続的に描画することが可能である。これは、ブラケット100側とブラケット200側のノズルの位置が腕300等を含めた厚み分のずれがあるために、回転時には、スライド補正が必要となるものである。
【0020】
なお、図示していないが、ノズルを撮像するカメラを架台19側に設けておき、このカメラでノズルを撮像し、その結果を制御装置37で処理して、位置を認識し、ヘッド全体を回転移動する回転軸70の回転量と直列配置ヘッドユニット1を構成するブラケット100をスライド移動するためのリニアアクチュエータ10の移動量を求めることによって位置決めすることもできる。
【0021】
図4には有機EL基板に塗布する例を示す。有機EL基板60は通常、ガラス基板上にパターニングされた透明電極を形成し、その上にSiO絶縁層を形成し、発光材料を塗布するバンク61となる部分のSiO絶縁層を取り除く、そしてSiO絶縁膜上にポリイミド膜などを形成して撥水処理を行い形成される。この有機EL基板60上のバンク61に素子の下地となる正孔輸送材料および赤、緑、青の発光材料を塗布する。通常、有機EL基板は、バンク61を3個すなわち赤、緑、青の3個を組み合わせて一つの表示素子としフルカラー化している。ここで正孔輸送材料は全てのバンク61に塗布し、発光材料は3列おきに塗布を行う。
【0022】
図4の例は全てのバンクに正孔輸送材料を塗布する場合を示す。基板を図の上から下に向かって移動させながら塗布を行う。ここで、ヘッドの角度は前もって、ノズル間隔d×cosφがノズルピッチpとなるような角度に回転軸70を設定しておく。さらに図4に示すように、ヘッド23dの左端のノズルがヘッド23aの右端のノズルで塗布されるバンク列の右隣のバンク列の中心にくる位置、すなわちバンク60の間隔pとなるように設置する。
【0023】
また、精度良く塗布するために基板表面とノズル面の間隔は1mm以下で平行に設置する必要がある。この後の塗布動作は、基板60を図4に示す基板の位置から下に一定速度で移動させ、対応するノズルが所定のバンクの上にきた際に射出を行うことによって所定のバンクに材料を命中させる。場合によっては一つのバンクに複数の塗布を行うこともある。この基板60に赤、緑、青の発光材料を塗布する場合は、単一色の列間隔は3×dになるが、φの値を変えることによって用いるノズルを減らさずに塗布間隔を変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の複合型インクジェットノズルヘッドを搭載した塗布装置の概略図。
【図2】本発明の複合型インクジェットノズルヘッドの概略図。
【図3】本発明の複合型インクジェットノズルヘッドのノズル配列実施例の概略図。
【図4】本発明の複合型インクジェットノズルヘッドを用いて有機ELディスプレイに塗布を行う例を示した図。
【符号の説明】
【0025】
1…複合型インクジェットヘッド、19…袈台、20…門型ステージ、21…Z軸ステージ、22…Z軸駆動モータ、23a〜23f…インクジェットヘッド、25…Xステージ、27…Yステージ、30…回転ユニット、29…吸着テーブル、31…ヘッドクリーニング装置、34…基板、35…発光材料ボトル、37…制御装置、32…洗浄液ボトル、111〜113…ノズル列、211〜223…ノズル列、100…ブラケット、200…ブラケット、10…スライド軸、70…回転軸、11…ノズル、60…有機ELディスプレイ基板、61…バンク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルを同じ間隔で直線上に配置したインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドを複数個結合することにより構成される複合型インクジェットヘッドにおいて、
複数のインクジェットヘッドを直線状に配置して固定したブラケットを2つ備え、基板面の水平方向に対して所定の回転角度で回転可能な回転軸に腕を設け、前記腕を挟んで2つの前記ブラケットを取り付け、少なくとも一方のブラケットが前記腕の長手方向にスライド可能に構成したことを特徴とする複合型インクジェットヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の複合型インクジェットヘッドにおいて、
前記回転軸に設けた腕が基板の移動方向に対して直角方向の場合、前記腕に設けた一方側のインクジェットヘッドのノズル列に対して、他方側に設けたインクジェットヘッドのノズル列が基板の移動方向に対して直角方向に連続するようにインクジェットヘッドを配置したこと特徴とする複合型インクジェットヘッド。
【請求項3】
請求項1に記載の複合型インクジェットヘッドにおいて、
前記ブラケットに固定したインクジェットヘッドの間隔はノズル間隔の整数倍になるように位置決めして固定することを特徴とする複合型インクジェットヘッド。
【請求項4】
請求項1に記載の複合型インクジェットヘッドにおいて、前記ノズルの位置をカメラで認識し、基板に設けたバンクの間隔に応じて、前記ヘッド全体を回転移動する回転軸の回転量と前記ブラケットの移動量を求めてインクジェットヘッドの位置決めすることを特徴とする複合型インクジェットヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−289322(P2006−289322A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−117676(P2005−117676)
【出願日】平成17年4月15日(2005.4.15)
【出願人】(000233077)株式会社 日立インダストリイズ (97)
【Fターム(参考)】