説明

複合金属成形材料の製造方法及び複合金属成形品の製造方法

【課題】カーボンナノ材料の添加量が多い場合にも適用できる複合金属成形材料を提供することを課題とする。
【解決手段】金属材料11を、固液共存領域の温度に加熱することで半溶融状態の半溶融金属材料15を得る工程と、この半溶融金属材料15にカーボンナノ材料12を投入し、混練して複合金属材料16を得る工程と、この複合金属材料16を、金属材料11の溶体化温度に加熱して溶体化処理することで、複合金属成形材料24を得る工程と、からなることを複合金属成形材料24の製造する。
【効果】溶体化処理後に半溶融温度まで加熱したことにより、部分的ではあるが相の入れ替えが発生する。新固相部分にはカーボンナノ材料が内包される。反面、新液相部分におけるカーボンナノ材料の量が減少する。この結果、新液相部分は流動性が良好になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料に添加材料を混練してなる複合金属成形材料の製造技術及び複合金属成形品の製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
低融点金属材料を、固液共存温度に冷却し、その状態で低融点金属材料にカーボンナノ材料を混練して複合材料を得る。そして、この複合材料を、加熱手段を備えた金属成形機により金型に射出充填し、複合金属製品を得る方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2004−136363公報(請求項1)
【0003】
特許文献1の技術は、同文献の請求項1で示されるように「溶融した低融点金属材料を液相と固相とが共存してチクソトロピー性状を有する半溶融状態に冷却し、その状態で低融点金属材料とカーボンナノ材とを混練して複合材料となし、その複合材料を加熱手段を備えた金属成形機によりチクソトロピー性状を保持して金型に射出充填し、該金型により複合金属製品に成形してなることを特徴とするカーボンナノ材と低融点金属材料との複合成形方法。」を要旨とする。
【0004】
すなわち、特許文献1の技術は、半溶融状態の低融点金属材料に、カーボンナノ材を混練することを特徴とする。
金属材料が半溶融状態であるため、添加したカーボンナノ材の移動が制限され、カーボンナノ材が浮上したり、沈殿することを阻止することができる。この結果、良質の複合材を得ることができる。
【0005】
ところで、半溶融状態の低融点金属材料を構成する液相部分と固相部分のうち、固相部分にはカーボンナノ材料は存在し得ない。そのため、特許文献1で複合化されたカーボンナノ材料は、液相部分に存在する。
【0006】
カーボンナノ材料は、機能性を高めることを目的に添加量を増やすと、液相部分の粘性が高まり、結果的に半溶融状態の低融点金属材料は流動性が低下する。このような半溶融状態の低融点金属材料は、金属成形機で射出することが困難になり、金型内のキャビティにおいても隅まで充填することが困難になる。
【0007】
したがって、特許文献1の技術は、カーボンナノ材料の添加量が少ない場合に適用できるが、添加量が多い場合には適用できない。
そこで、カーボンナノ材料の添加量が多い場合にも適用できる複合金属成形材料が求められる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、カーボンナノ材料の添加量が多い場合にも適用できる複合金属成形材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る複合金属成形材料の製造方法は、Mg合金又はAl合金からなる金属材料及びこの金属材料に添加する添加材料を準備する工程と、前記金属材料を、固液共存領域の温度に加熱することで半溶融状態の半溶融金属材料を得る工程と、この半溶融金属材料に前記添加材料を投入し、混練して複合金属材料を得る工程と、この複合金属材料を、前記金属材料の溶体化温度に加熱して溶体化処理することで、複合金属成形材料を得る工程と、からなることを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る複合金属成形材料の製造方法では、添加材料は、カーボンナノ材料であることを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る複合金属成形材料の製造方法では、添加材料は、カーボンナノ材料と金属粉末とを混合し、カーボンナノ複合金属粉末を得る工程と、このカーボンナノ複合金属粉末を押し固めて予備成形体を得る工程と、この予備成形体を真空、不活性ガス又は非酸化性ガス雰囲気下で前記金属材料の固液共存領域の温度に加熱する工程と、加熱した予備成形体を加圧する工程とにより、生成されるカーボンナノ複合材料であることを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る複合金属成形材料の製造方法は、予備成形体を加圧する工程において、予備成形品を加圧する際に同時に剪断力を加えることを特徴とする。
【0013】
請求項5に係る複合金属成形材料の製造方法では、金属粉末は、Mg、Mg合金、Al、Al合金のいずれかであることを特徴とする。
【0014】
請求項6に係る複合金属成形材料の製造方法では、カーボンナノ材料は、炭素と反応して化合物を生成する元素を含む炭化物形成元素を、表面に付着させてなる金属付着カーボンナノ材料であることを特徴とする。
【0015】
請求項7に係る複合金属成形材料の製造方法では、金属付着カーボンナノ材料は、カーボンナノ材料と炭化物形成金属とを混合し、得られた混合物を真空炉に入れ、高温真空下で炭化物形成金属を蒸着させることで得ることを特徴とする。
【0016】
請求項8に係る複合金属成形材料の製造方法では、炭化物形成金属が、Ti又はSiであることを特徴とする。
【0017】
請求項9に係る複合金属成形材料の製造方法は、複合金属成形材料を得る工程に続いて、複合金属成形材料を破砕することでチップを得る工程を実施することを特徴とする。
【0018】
請求項10に係る複合金属成形品の製造方法は、請求項1〜9のいずれか1項記載の複合金属成形材料の製造方法で製造した複合金属成形材料を、金属射出機に供給し、この金属射出機で半溶融温度まで温めた後に金型のキャビティへ供給して複合金属成形品を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に係る発明では、金属材料の半溶融化工程及び添加材料の添加、混練工程により製造した複合金属材料に、更に溶体化処理を施した。
半溶融化工程及び混練工程を経た複合金属材料は、固相と液相とで構成される。溶体化処理を施すと、全体的に固溶体組織になる。
【0020】
複合金属成形材料が全体的に固溶体組織であるために、この複合金属成形材料を、後の工程で半溶融温度まで加熱すると、溶体化処理前に液相であった部分(旧液相部分)の一部が新たな固相部分(新固相部分)として残る。すなわち旧液相部分の一部が新固相部分となり、旧固相部分の一部が新液相部分なるごとくに、溶体化処理後に半溶融温度まで加熱したことにより、部分的ではあるが相の入れ替えが発生する。新固相部分には添加材料が内包される。
【0021】
反面、新液相部分における添加材料の量が減少する。この結果、新液相部分は流動性が良好になる。
半溶融状態で射出成形を行えば、添加材料が均一に分布し、且つキャビティの隅々まで材料が充填され、良質の成形品が得られる。
【0022】
請求項2に係る発明では、添加材料は、カーボンナノ材料とした。金属材料にカーボンナノ材料を添加することで、強度的に優れ、熱伝導性に優れた成形品を提供することができる。半溶融化を基本にしているため、カーボンナノ材料が凝集する心配は無く、カーボンナノ材料が均一に分散している成形品を提供する。
【0023】
請求項3に係る発明では、添加材料は、カーボンナノ材料と金属粉末とを混合し、カーボンナノ複合金属粉末を得る工程と、このカーボンナノ複合金属粉末を押し固めて予備成形体を得る工程と、この予備成形体を真空、不活性ガス又は非酸化性ガス雰囲気下で金属材料の固液共存領域の温度に加熱する工程と、加熱した予備成形体を加圧する工程とにより、生成されるカーボンナノ複合材料であることを特徴とする。
カーボンナノ材料と金属粉末とを混合して、カーボンナノ複合金属粉末を得る工程を実施すると、カーボンナノ材料の凝集を解き、金属粉末にカーボンナノ材料をまぶすことができるため、カーボンナノ材料の再凝集を抑制することができる。
【0024】
次に、カーボンナノ複合金属粉末を押し固めてなる予備成形品を固液共存領域の温度に加熱した状態で加圧する工程を実施するが、混合工程で凝集が解かれ、まぶしたカーボンナノ材料が固液共存温度状態で圧縮変形されるため、十分にカーボンナノ材料を分散させた圧縮成形品を得ることができる。
【0025】
請求項4に係る発明は、予備成形体を加圧する工程において、予備成形品を加圧する際に同時に剪断力を加えることを特徴とする。
予備成形品を加圧する際に同時に剪断力を加えることで、粉末表面を取り囲んでいる酸化膜を効果的に破壊することできる。酸化膜が破壊できれば、粉末同士が密着し、圧縮成形品の機械的強度を高めることができる。
【0026】
請求項5に係る発明では、金属粉末は、Mg、Mg合金、Al、Al合金のいずれかであることを特徴とする。
Mg、Mg合金、Al、Al合金は軽量金属であり、この金属にカーボンナノ材料を含めて機械的強度を高めることで、軽量で且つ強度、熱伝導性及び耐摩耗性に優れた構造材料を提供することができる。
【0027】
請求項6に係る発明では、カーボンナノ材料は、炭素と反応して化合物を生成する元素を含む炭化物形成元素を、表面に付着させてなる金属付着カーボンナノ材料であることを特徴とする。カーボンナノ材料は濡れ性が低いが、炭化物形成元素は濡れ性が高い。このような炭化物形成元素を表面に付着させた金属付着カーボンナノ材料を使用することで、カーボンナノ材料の濡れ性を高めることがでる。
【0028】
請求項7に係る発明では、金属付着カーボンナノ材料は、カーボンナノ材料と炭化物形成金属とを混合し、得られた混合物を真空炉に入れ、高温真空下で炭化物形成金属を蒸着させることで得ることを特徴とする。
炭化物形成金属は炭素と化合物を生成し、この化合物が接合作用を発揮するため、炭化物形成金属をカーボンナノ材料に強固に結合することができる。
【0029】
請求項8に係る発明では、炭化物形成金属が、Ti又はSiであることを特徴とする。
Ti、Siともに、真空下で蒸着可能な融点の金属であり、溶融マトリックス金属との濡れ性も良好である。Ti、Siともに入手が容易であり、特にSiは安価であるため、本発明方法を広く普及させる上で、好適である。
【0030】
請求項9に係る発明は、複合金属成形材料を得る工程に続いて、複合金属成形材料を破砕することでチップを得る工程を実施することを特徴とする。
複合金属成形材料は、破砕することで小さな塊からなるチップとなるとともに、破砕により加工硬化が起き、結晶粒は内部歪(内部応力)を持つ。このチップを半溶融温度まで加熱すると再結晶が起こる。加工によって変形した結晶は、再結晶により多角形の細粒に分割されて、新たな液相部分、新たな固相部分、新たな粒界からなる新たな組織に生まれ変わる。この結果、添加材料がより確実に新固相部分に内包された複合金属材料を得ることができる。また、小さな塊であるため、短時間で半溶融化を実施することができる。
【0031】
請求項10に係る発明は、請求項1〜9のいずれか1項記載の複合金属成形材料の製造方法で製造した複合金属成形材料を、金属射出機に供給し、この金属射出機で半溶融温度まで温めた後に金型のキャビティへ供給して複合金属成形品を得ることを特徴とする。
流動性に優れた材料をキャビティへ供給するため、キャビティの隅々まで材料が行き渡り、高品質の複合金属成形品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は本発明に係る複合金属成形材料の製造工程の説明図である。
(a)に示すように、金属材料としてのMg合金材料11、及び添加材料としてのカーボンナノ材料12を準備する。
Mg合金材料11は、例えばASTM AZ91D(マグネシウム合金ダイカスト JIS H 5303 MDC1D相当品)とする。このAZ91Dで規定される材料の組成は、Alが約9質量%で残部が、少量の元素、不可避的不純物及びMgである。
【0033】
図2はMg−Al系平衡状態図であり、Aは液相線、Bは固相線、Cは共晶線、Dは固溶度線を示す。AとBとCで囲んだ領域が固液共存領域となり、Bの左及びDの左の領域は溶体化処理領域になる。
縦軸に平行に引いたFはAZ91Dに対応する温度線であり、この温度線F上に記したP1は半溶融温度、P2は溶体化処理温度、P3は室温である。
【0034】
図1に戻って、(b)に示すように、撹拌機13を備えた溶解槽14に、Mg合金材料11を投入して、図2で説明した半溶融温度P1まで加熱し、十分に撹拌する。これで、半溶融金属材料15を得ることができる。
【0035】
次に、(c)に示すように、半溶融金属材料15に、カーボンナノ材料12を投入し、十分に混練する。これで、複合金属材料16を得ることができる。この複合金属材料16の組成イメージを次図で説明する。
【0036】
図3は図1の3部拡大イメージ図、すなわち複合金属材料の組成のイメージ図を示し、複合金属材料16には固相部分17と液相部分18とが共存している。そして、液相部分18に無数のカーボンナノ材料12が混じっている。
【0037】
図1に戻って、(d)に示すように、半溶融状態の複合金属材料16を取り出して、冷却することで、適当な大きさのインゴット(鋳塊)21又はビレット(鋳片)22を得る。ビレット22はインゴット21より遙かに小さい鋳物片である。
【0038】
次に、(e)に示すように、インゴット21又はビレット22を、溶体化炉23に入れる。そして、図2で説明した溶体化温度P2まで加熱し、16時間〜24時間保持する。保持(保温)が終了したら、インゴット21又はビレット22を室温(図2のP3)付近まで急冷する。これで、溶体化処理が完了する。
【0039】
(f)に示すインゴット21Bやビレット22Bは溶体化処理済みの材料である。この材料は射出成形機(金属射出機)に供給する材料に好適であるため、複合金属成形材料24と呼ぶ。
この複合金属成形材料24の組成イメージを次図で説明する。
【0040】
図4は図1の4部拡大イメージ図、すなわち複合金属成形材料の組成のイメージ図を示し、複合金属成形材料24では、全体的に均一な固溶体組織26になっている。25は粒界25を示す線である。
【0041】
図1の工程に続いて実施することが望ましいチッピング工程及び射出工程を次に説明する。
図5は本発明に係るチッピング工程及び射出工程の説明図である。
図1(f)で説明したインゴット21Bやビレット22Bを(a)に再掲した。
インゴット21Bは図5(b)に示すように、破砕処理を施すことでチップ27にすることが望ましい。チップ27は数ミリの大きさにする。
【0042】
そして、(c)に示すように、室温のチップ27又はビレット22Bを、金属射出機28に供給する。金属射出機28では材料を半溶融温度(図2中、P1参照)まで温める。このときの材料の組成イメージを次図で説明する。
【0043】
図6は図5の6部拡大イメージ図、すなわち複合金属成形材料の組成のイメージ図を示し、新たな固相部分31と新たな液相部分32と新たな粒界33とが出現する。新たな固相部分31にはカーボンナノ材料12が内包されている。図3と比較すると図6の新たな液相部分32では、含まれるカーボンナノ材料12の量が減少した。この結果、新たな液相部分32は流動性が高まる。
【0044】
なお、図6で示した新たな固相部分31と新たな液相部分32と新たな粒界33とからなる新たな組織は、以下の理由により形成されるものと考えられる。
(1)溶体化処理により均一な固溶体になった複合金属材料を破砕する。破砕により、チップには、加工硬化が起き、組織内の結晶粒に内部歪が発生する。
(2)破砕した複合金属材料を半溶融温度まで加熱する。再結晶温度(例えばMgでは150℃前後)に到達すると再結晶が起こる。再結晶により内部歪を持たない安定した結晶粒になるが、この際、加工によって変形した結晶は、多角形の細粒に分割される。この分割された結晶が生成する際に、新たな液相部分、新たな固相部分、新たな粒界からなる新たな組織が形成される。
【0045】
(3)以上のことから、新たな固相部分31にカーボンナノ材料12が内包された新たな組織を持った複合金属材料が得られる。
以上、チップの破砕により新たな組織が形成される理由を述べたが、破砕しない複合金属材料であっても、冷間加工により加工硬化を起こし、再結晶温度以上に加熱することにより、同等の作用・効果が期待できる。
【0046】
図5に戻り、(c)で金型34のキャビティ35に半溶融状態の材料を射出する。この材料は流動性が高いため、キャビティ35の隅々まで行き渡る。
金型34を開くことで(d)に示す複合金属成形品36、36を得るが、この複合金属成形品36、36はカーボンナノ材料12が均一に分布した高品質の射出成形品である。
【0047】
なお、(b)に示したチップ27は外面が破断面であり、この破断面から半溶融が始まる。すなわち、外殻から固溶体組織が溶ける。結果的に、図6に示す組成をより確実に得ることができる。したがって、ビレット22Bよりはチップ27の方が高品質の射出成形品を得ることができる。
【0048】
次に図1の改良実施例を、図7〜図9に基づいて説明する。
図7は本発明に係るカーボンナノ複合金属粉末を得る工程及び予備成形品を得る工程の説明図である。
【0049】
(a):繊維径(平均値)が10nm〜200nmのカーボンナノ材料12を準備するとともに、粒径(平均値)が4mm以下の金属粉末38を準備する。この金属粉末38は、Mg、Mg合金、Al、Al合金が好適である。
【0050】
(b):予備混合を実施する。予備混合は、容器に適量のカーボンナノ材料12及び金属粉末38とを入れ、容器を振ることで実施してもよい。
【0051】
(c):メカニカルアロイ法で、カーボンナノ材料12及び金属粉末38を本格的に混練する。メカニカルアロイ法は、JIS Z2500に規定される「高エネルギアトライタやボールミルによる固相状態での合金化の方法」、又はJIS H7004で規定されるメカニカルアロイング法「数種類の原料粉末を高エネルギーミルで機械的に撹拌、混合、粉砕し、固相反応によって、合金状態を実現する方法」を指す、広義の機械的混合方法である。周知の方法であるから、装置や原理の説明は省略する。
【0052】
(d):以上により、カーボンナノ材料12の凝集を解くとともに、金属粉末38に無数のカーボンナノ材料12をまぶしたような形態のカーボンナノ複合金属粉末39を得る。すなわち、以上に述べた(a)〜(c)が、カーボンナノ複合金属粉末を得る工程に相当する。
【0053】
(e):下パンチ41にダイス42をセットし、このダイス42にカーボンナノ複合金属粉末39を充填する。
(f):上パンチ43をダイス42に挿入し、150℃程度の温度に保ちながら、カーボンナノ複合金属粉末39を押し固める。これで、(g)に示す予備成形品44を得ることができる。
【0054】
なお、粉末の性質により圧粉成形が困難なものがある。この場合には、金属缶に入れて加圧する。
【0055】
図8は本発明に係る圧縮成形品を得る工程の説明図である。
(a):前工程で製造した予備成形品44を示す。
(b):雰囲気管理、温度管理及びプレス圧力管理が自由に行える装置の下パンチ46に予備成形品44を載せ、ヒータ47で囲い、真空又はアルゴンガスなどの非酸化雰囲気に保ち、金属粉末38(図7(a))の半溶融温度に保ち、上パンチ48で圧下する。
【0056】
例えば、金属粉末がASTM AZ91D(マグネシウム合金ダイカスト JIS H 5303 MDC1D相当品)であれば、半溶融温度は585℃に設定し、上パンチ48の圧力は100〜200MPaに設定する。
【0057】
上記(b)の代わりに、次に述べる(c)を実施してもよい。
(c):雰囲気管理、温度管理、プレス圧力管理及び回転が自由に行える装置の下パンチ46に予備成形品44を載せ、ヒータ47で囲い、真空又はアルゴンガスなどの非酸化雰囲気に保ち、金属粉末38(図7(a))の半溶融温度に保ち、上パンチ48で圧下する。
【0058】
この圧下の際に、下パンチ46、上パンチ48を、毎分5回転程度の低速度で互いに逆回転させる。予備成形品を加圧する際に同時に剪断力を加えることで、粉末表面を取り囲んでいる酸化膜を効果的に破壊することできる。酸化膜が破壊できれば、粉末同士が密着し、圧縮成形品の機械的強度を高めることができる。
【0059】
上記(b)又は(c)において、カーボンナノ複合金属粉末を押し固めてなる予備成形品44を、半溶融温度に加熱した状態で加圧した後に、放冷することで圧縮成形品を得る工程を実施するが、混合工程で凝集が解かれ、まぶしたカーボンナノ材料が固液共存温度状態で圧縮変形されるため、カーボンナノ材料は、さらに分散化される。
【0060】
以上の(a)〜(c)は圧縮成形品を得る工程に相当する。
(d):十分にカーボンナノ材料を分散させた圧縮成形品49を示す。
【0061】
図9は本発明に係る複合金属成形材料の別の製造工程図である。
(a)に示すように、金属材料としてのMg合金材料11及び添加材料としての圧縮成形品49を準備する。
(b)に示すように、撹拌機13を備えた溶解槽14に、Mg合金材料11を投入して、半溶融温度P1(図2参照)まで加熱し、十分に撹拌する。これで、半溶融金属材料15を得ることができる。
【0062】
次に、(c)に示すように、半溶融金属材料15に、カーボンナノ材料12を投入し、十分に混練する。これで、複合金属材料16を得ることができる。
(d)に示すように、半溶融状態の複合金属材料16を冷却することで、適当な大きさのインゴット21又はビレット22を得る。
【0063】
次に、(e)に示すように、インゴット21又はビレット22を、溶体化炉14に入れる。そして、図2で説明した溶体化温度P2まで加熱し、16時間〜24時間保持する。保持(保温)が終了したら、インゴット21やビレット22を急冷する。これで、溶体化処理が完了する。
【0064】
(f)に示すインゴット21Bやビレット22Bは溶体化処理済みの材料である。この材料は射出成形機に供給する材料に好適であるため、複合金属成形材料24と呼ぶ。以降は、図5を参照してチッピング工程及び射出成形工程を実施すればよい。
【0065】
図1(a)で準備するカーボンナノ材料12や図7(a)で準備するカーボンナノ材料12は金属との濡れ性が悪いために次に説明する前処理を施すことが望ましい。
図10は本発明に係る準備のためにカーボンナノ材料を表面処理するときの説明図である。
(a):カーボンナノ材料51を準備する。例えば10g。このカーボンナノ材料51は、図1(a)や図7(a)に示すカーボンナノ材料12と同じであってもよいが、便宜上、符号を変えた。
(b):炭化物形成元素としてのSi粉末52を準備する。例えば1g。
【0066】
(c):乳鉢53にカーボンナノ材料51及びSi粉末52を入れ、15分〜30分間乳棒54で混合する。
(d):得られた混合物55を、アルミナ製容器56に入れ、アルミナ製蓋57を被せる。この蓋57は非密閉蓋を採用することで、容器56の内部と外部との通気を可能にする。
【0067】
(e):密閉炉体61と、炉体61内部を加熱する加熱手段62と、容器56を載せる台63、63と、炉体61内部を真空にする真空ポンプ64とを備える真空炉60を準備し、この真空炉60に容器56を入れる。
【0068】
真空炉60における加熱条件及び圧力条件は次図で説明するが、真空下で加熱することで、混合物55中のSi粉末が蒸発する。この蒸気は泡立つように容器56と蓋57とで形成する空間を撹拌する。このような作用をバブリング撹拌と呼ぶ。このバブリング撹拌によりカーボンナノ材料がほぐれ、ほぐれたカーボンナノ材料の表面にSi蒸気が接触し、化合物を形成し、Siの微粒子となって付着する。
【0069】
図10をまとめると、カーボンナノ材料51に、炭素と反応して化合物を生成する元素を含む金属粉末52を混合する工程と、得られた混合物55を真空炉60に入れ、高温真空下で金属粉末52を蒸発させ、この蒸気をカーボンナノ材料51の表面に付着させる蒸着処理工程と、からなる。
【0070】
図11はSiに対応する炉温及び炉内圧力のグラフであり、横軸は時間、縦軸は炉温と炉内圧力である。
開始〜5時:6×10−3Paの真空度で、5時間かけて炉温を室温から300℃まで上昇させる。
【0071】
5時〜9時:5.3×10−3〜2.1×10−2Paの真空度で、4時間かけて炉温を300℃から1400℃まで上昇させる。
9時〜19時:2.1×10−2Paの真空度、1400℃の条件で10時間保持する。
【0072】
Siの融点は1427℃であるから、融点直下の温度(1350〜1400℃)に保持し、Siをこの温度での飽和蒸気圧状態に保つ。1350℃では飽和蒸気圧は1.3×10−3Pa程度になり、1400℃では飽和蒸気圧は2.1×10−2Pa程度になる。この程度の真空度は真空炉で容易に達成できるため、処理温度は1350〜1400℃が適当である。ただし、1350℃は蒸発速度が低く、1400℃は蒸発速度が高いため、実施例では1400℃とした。
【0073】
次に、Siと炭素の化合物であるSiC(炭化けい素)について説明する。SiCの標準生成自由エネルギーは、1400℃で−39.6kJ/molであり、この条件を満たすことは可能であるから、Si蒸気がカーボンナノ材料の炭素に反応してSiCになると考えられる。
【0074】
そこで、混合物を半密閉された容器に入れ、Si粉末を蒸発させれば、バブリング撹拌が発生し、カーボンナノ材料にSiの微粒子が付着させることができる。
なお、保持時間が10時間と長いのは、十分撹拌し反応させることを目的とした。勿論、混合比や処理量などの条件によって、保持時間を増減することは差し支えない。
【0075】
19時以降:加熱手段は停止するが、1.1×10−3Paの真空度は保ちながら、炉冷を実施する。炉冷は、製品を極めて徐々に冷却する手法である。
【0076】
図12は本発明方法で製造した金属付着カーボンナノ材料の拡大図であり、金属付着カーボンナノ材料65は、凝集していないカーボンナノ材料51と、このカーボンナノ材料51の表面に均等に付着した多数のSi微粒子66とからなる。これらのSi微粒子66は、炭素と反応して化合物を生成する元素であるSiを結晶化させたものであることは既に述べたとおりである。
【0077】
さらに、Si微粒子66は炭化物であるSiCを介してカーボンナノ材料51に付着していることが重要となる。カーボンナノ材料51自身は濡れ性が悪い。したがって、単なるSi微粒子であれば接合強度が不足する虞れがある。この点、カーボンナノ材料51の表面にSi微粒子を付着させることで、界面にSiCの反応層が形成し、カーボンナノ材料51にSi微粒子66を強固に付着させることができる。
【0078】
以上に述べた金属付着カーボンナノ材料65を、図1(a)又は図7(a)に示すカーボンナノ材料12と置き換えることで、金属材料とカーボンナノ材料との密着性を高めることができ、機械的強度に優れた成形品を得ることができる。
【0079】
尚、金属材料はMg合金の他、Al合金であってもよい。Al合金ではAl−Si系合金が好適である。
また、詳細な説明は省略するが、炭化物形成金属(金属炭素と反応して化合物を生成する元素)としてのSiをTiに換えても同様の機械的強度向上効果を得ることができた。さらに、炭化物形成として、Si及びTiの他、Zr(ジルコニウム)、V(バナジウム)が採用できる。
ただし、Si、Tiはともに入手が容易であり、特にSiは安価であるため、本発明方法を広く普及させる上で、好適である。
【0080】
また、金属粉末(マトリックス金属素材)は、融点が約650℃であるMg、Mg合金の他、融点が約660℃であるAl、Al合金、融点が約232℃であるSn、Sn合金、融点が約327℃であるPb、Pb合金が採用でき、要は融点が700℃を超えない低融点金属又は低融点合金であれば種類は任意である。
【0081】
特に、Mg、Mg合金、Al、Al合金は軽量金属であり、この金属にカーボンナノ材料を含めて機械的強度を高めることで、軽量で且つ強度、熱伝導性及び耐摩耗性に優れた構造材料を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、金属素材にカーボンナノ材料を複合させてなる複合金属成形品の製造方法に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明に係る複合金属成形材料の製造工程の説明図である。
【図2】Mg−Al系平衡状態図である。
【図3】図1の3部拡大イメージ図(複合金属材料の組成のイメージ図)である。
【図4】図1の4部拡大イメージ図(複合金属成形材料の組成のイメージ図)である。
【図5】本発明に係るチッピング工程及び射出工程の説明図である。
【図6】図5の6部拡大イメージ図(複合金属成形材料の組成のイメージ図)である。
【図7】本発明に係るカーボンナノ複合金属粉末を得る工程及び予備成形品を得る工程の説明図である。
【図8】本発明に係る圧縮成形品を得る工程の説明図である。
【図9】本発明に係る複合金属成形材料の別の製造工程図である。
【図10】本発明に係る準備のためにカーボンナノ材料を表面処理するときの説明図である。
【図11】Siに対応する炉温及び炉内圧力のグラフである。
【図12】本発明方法で製造した金属付着カーボンナノ材料の拡大図である。
【符号の説明】
【0084】
11…金属材料(Mg合金材料)、12、51…添加材料(カーボンナノ材料)、15…半溶融金属材料、16…複合金属材料、17…固相部分(旧固相)、18…液相部分(旧液相)、24…複合金属成形材料、27…チップ、28…金属射出機、31…新しい固相部分(新固相)、32…新しい液相部分(新液相)、34…金型、35…キャビティ、36…複合金属成形品、38…金属粉末、39…カーボンナノ複合金属粉末、44…予備成形品、49…圧縮成形品、60…真空炉、65…金属付着カーボンナノ材料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg合金又はAl合金からなる金属材料及びこの金属材料に添加する添加材料を準備する工程と、
前記金属材料を、固液共存領域の温度に加熱することで半溶融状態の半溶融金属材料を得る工程と、
この半溶融金属材料に前記添加材料を投入し、混練して複合金属材料を得る工程と、
この複合金属材料を、前記金属材料の溶体化温度に加熱して溶体化処理することで、複合金属成形材料を得る工程と、
からなることを特徴とする複合金属成形材料の製造方法。
【請求項2】
前記添加材料は、カーボンナノ材料であることを特徴とする請求項1記載の複合金属成形材料の製造方法。
【請求項3】
前記添加材料は、カーボンナノ材料と金属粉末とを混合し、カーボンナノ複合金属粉末を得る工程と、このカーボンナノ複合金属粉末を押し固めて予備成形体を得る工程と、この予備成形体を真空、不活性ガス又は非酸化性ガス雰囲気下で前記金属材料の固液共存領域の温度に加熱する工程と、加熱した予備成形体を加圧する工程とにより、生成されるカーボンナノ複合材料であることを特徴とする請求項1記載の複合金属成形材料の製造方法。
【請求項4】
前記予備成形体を加圧する工程において、予備成形品を加圧する際に同時に剪断力を加えることを特徴とする請求項3記載の複合金属成形材料の製造方法。
【請求項5】
前記金属粉末は、Mg、Mg合金、Al、Al合金のいずれかであることを特徴とする請求項3又は請求項4記載の複合金属成形材料の製造方法。
【請求項6】
前記カーボンナノ材料は、炭素と反応して化合物を生成する元素を含む炭化物形成元素を、表面に付着させてなる金属付着カーボンナノ材料であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の複合金属成形材料の製造方法。
【請求項7】
前記金属付着カーボンナノ材料は、カーボンナノ材料と炭化物形成金属とを混合し、得られた混合物を真空炉に入れ、高温真空下で前記炭化物形成金属を蒸着させることで得ることを特徴とする請求項6記載の複合金属成形材料の製造方法。
【請求項8】
前記炭化物形成金属が、Ti又はSiであることを特徴とする請求項6又は請求項7記載の複合金属成形材料の製造方法。
【請求項9】
前記複合金属成形材料を得る工程に続いて、前記複合金属成形材料を破砕することでチップを得る工程を実施することを特徴とする請求項1記載の複合金属成形材料の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項記載の複合金属成形材料の製造方法で製造した複合金属成形材料を、金属射出機に供給し、この金属射出機で半溶融温度まで温めた後に金型のキャビティへ供給して複合金属成形品を得ることを特徴とする複合金属成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−254862(P2007−254862A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−83191(P2006−83191)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(000227054)日精樹脂工業株式会社 (293)
【Fターム(参考)】