複数のレーダをコヒーレントに組み合わせるシステム及び方法
レーダをコヒーレントに結合するシステム及び技法は、各レーダで受信されるコンポジット物標エコーがモノスタティックエコー及びバイスタティックエコーからの寄与分を有することになるように、複数のレーダのうちの1基から送信されたパルスの時間遅延及び位相を調整する位相及びレンジの較正値及び初期化値を生成することを含む。この方法は、引き続き各レーダでコンポジット物標エコーが受信されるように、複数のレーダのうちの1基により後続して送信されるレーダパルスの時間遅延及び位相をさらに調整する位相及びレンジの補正値を予測することをさらに含む。この方法は、コンポジット物標エコーをコヒーレントに加算することをさらに含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概括的にはレーダシステム及びレーダ方法に関し、特に、複数のレーダをコヒーレントに組み合わせるシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既知のように、単一のレーダは、所与のレンジでの所与のサイズの物標(目標)に対して理論上の最大信号対雑音比(SNR)を有する。信号対雑音比は、レーダが物標を検出し、追尾し、識別する能力に直接影響する。最大信号対雑音比は、レーダアンテナのサイズ、レーダの送信パワー、及びレーダ受信機のノイズレベルを含むがこれらに限定されない種々のレーダ特性によって決まる。こういった各レーダ特性は、任意の特定のレーダに対してほぼ一定である。したがって、検出性能、追尾性能、又は物標の識別性能を向上させるには、一般に、新しいレーダ特性を有する新しいレーダを設計する必要があった。新しいレーダの再設計は非常に長く費用の嵩むプロセスであり、既存のレーダを利用しない。
【0003】
別法として、それぞれが別個のアンテナを有する複数のレーダ(たとえば、既存のレーダ)からの受信信号を一緒に処理して、それらを組み合わせてシステムの感度を増大させ(すなわち、所与のレンジでの所与のサイズの物標に対するSNRを増大させ)、ひいては検出性能、追尾性能、又は物標識別性能を向上させることが可能である。
【0004】
複数のレーダからの受信信号、すなわち物標エコーを一緒に処理するには、複数のレーダのそれぞれが受信する物標エコーを、相対位相差がないようにコヒーレントに一緒に組み合わせることが有利である。このようにすれば、任意の1基のレーダと比較して、複数のレーダにより提供されるレーダ感度の向上の程度が最大になる。
【0005】
複数のレーダのうちの各レーダのレーダアンテナの相対位置が波長のごく分数部分以内であることが分かれば、コヒーレントな同相処理を可能にするのに十分な精度で位相の補正を行えることを当業者は理解しよう。しかし、一般に、レーダアンテナ間の距離は波長と比較してかなり大きくなり、その結果として測定の精度が落ちることになり得るため、レーダアンテナの位置を単に機械的に測定するだけでは不十分である。さらに、レーダ間の機械的な隔たりだけがわかっても、これはレーダ間の時間遅延又は位相シフトの内部の電気的な相違を考慮していないため不十分である。機械的な隔たりの測定は、温度変化、老化、部品の交換等による、時間に伴うこれらの電気的パラメータの変化も考慮していない。
【0006】
上記複数のレーダをモバイルレーダとして提供することが有用である。しかし、モバイルレーダは波長よりもはるかに大きな相対位置変更を受けるため、モバイルレーダが移動する都度、モバイルレーダのアンテナの相対位置の較正を行う必要がある。
【0007】
複数のレーダアレイの相対位置の較正は難しく、複数のレーダアンテナの隔たりが増すにつれてますます誤差が生じやすくなることを当業者は理解しよう。また、このような較正は別個のプロセスであり、レーダの実際の動作とは別の時間を必要とすることも理解するであろう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
複数のレーダ、たとえば2基のレーダを使用して物標に向けてレーダ信号を送信する場合、各レーダは、各自が送信したレーダ信号に対応するモノスタティック物標エコー及び他方のレーダから送信されたレーダ信号に対応するバイスタティック物標エコーを受信する。各レーダがモノスタティック物標エコー及びバイスタティック物標エコーの両方を受信し、共にコヒーレントに処理する場合、モノスタティック物標エコーのみが処理される場合に達成される感度を超えるさらに高いシステム感度を達成できることを当業者は認めよう。しかし、各レーダが受信するモノスタティック物標エコー及びバイスタティック物標エコーは一般に異なるレンジ(時間遅延)及び異なる位相を示すため、一般に、位相差なしでコヒーレントには加算されない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、複数のレーダをコヒーレントに同相結合するシステム及び方法を提供する。このシステム及び方法では、2基以上のレーダの相対位置を知る必要がない。
本発明によれば、複数のレーダを較正する方法は、複数のレーダの中から基準レーダを選択すること、及び1つ又は複数のレーダ対を選択し、各レーダ対の一方は基準レーダを含み、その各ペアレーダは複数のレーダの中からのレーダである、ことを含む。この方法は、基準レーダ及びペアレーダに関連する較正値を生成すること、及び基準レーダ及びペアレーダに関連する初期化値を生成することも含む。この方法は、ペアレーダで調整信号を送信すると共に基準レーダで未調整信号を送信し、調整信号は初期化値及び較正値に従って生成される、ことをさらに含む。第1の複合(コンポジット)信号を基準レーダで受信し、第2のコンポジット信号をペアレーダで受信し、これらのコンポジット信号は調整信号及び未調整信号に関連する。この方法は第1のコンポジット信号と第2のコンポジット信号とをコヒーレントに加算して、コヒーレント信号(cohered signal)を提供する。この特定の構成において、この方法は複数のレーダをコヒーレント結合して、向上した信号利得を提供することができる。
【0010】
本発明の別の態様によれば、複数のレーダを較正する装置は、複数のレーダの中からの、基準レーダ及びペアレーダを含む各レーダ対により提供される少なくともそれぞれ1つの物標トラックを関連付ける関連プロセッサを備える。この装置は、関連プロセッサに結合され、レーダ対に関連する較正値を提供する較正プロセッサ、較正プロセッサに結合され、レーダ対に関連する初期化値を提供する初期化プロセッサ、及び初期化プロセッサに結合され、基準レーダにより送信される第1の信号及びペアレーダにより送信される第2の信号のうちの少なくとも一方を、初期化値及び較正値に従って調整し、基準レーダが受信する第1のコンポジット信号と、ペアレーダが受信する第2のコンポジット信号とをコヒーレントに加算するコヒーレンス保持プロセッサも備える。この特定の構成において、この装置は複数のレーダを結合して向上した信号利得を提供することができる。
【0011】
本発明の上記特徴及び本発明自体は、以下の詳細な説明からより十分に理解することができるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のシステム及び方法について説明する前に、予備的ないくつかの概念及び用語について説明する。本明細書において使用する「基準レーダ」なる用語は、2基以上のレーダ群の中から選択される1基のレーダを述べるために使用される。本明細書において使用する「ペア(対)レーダ」なる用語は、2基以上のレーダ群の中から選択される、基準レーダ以外の任意のレーダを述べるために使用される。
【0013】
以下の考察の多くは1つのみのペアレーダについて説明するが、任意の数のペアレーダがあり得ること、及び以下に説明するものと同じ装置及び方法が各ペアレーダに適用できることを理解されたい。後述する基準レーダ及びペアレーダは種類の異なるレーダであり得る。本明細書では、ペアレーダを「レーダ1」と呼び、基準レーダを「レーダ2」と呼ぶことがある。
【0014】
本明細書において使用する「レンジ(距離)」及び「時間遅延」なる用語は同義で使用されることがある。レーダシステムがレーダパルスを送信してから対応する目標(物標)エコーを受信するまでの時間を使用して物標までのレンジを求めることを当業者は理解しよう。
【0015】
本明細書において使用する「コンポジット(複合)信号」、「コンポジットエコー」、及び「コンポジットリターン」なる用語は、重複して加算するように同時に受信される同じ周波数のレーダ信号を指すために使用される。特に、「コンポジット信号」、「コンポジットエコー」、及び「コンポジットリターン」なる用語は、レーダに同時に到着して重なり合い加算されるモノスタティック物標エコー及びバイスタティック物標エコーを述べるために使用される。
【0016】
図1を参照すると、レーダシステム10は、ペアレーダアンテナ14、第1の送信機/受信機18、第1のサーチ(探索)プロセッサ20、及び第1の追尾プロセッサ22を有
するペアレーダシステム16を含む。レーダシステム10は、基準レーダアンテナ25、第2の送信機/受信機28、第2のサーチプロセッサ30、及び第2の追尾プロセッサ32を含む基準レーダシステム26も含む。第1の追尾プロセッサ22及び第2の追尾プロセッサ32は、物標12に関連する各物標トラックを生成する。
【0017】
レーダシステム10は、第1の追尾プロセッサ22及び第2の追尾プロセッサ32のそれぞれにより提供される少なくともそれぞれ1つの物標トラックを関連付ける関連プロセッサ36、位相及びレンジの較正値38aを提供する較正プロセッサ38、並びに位相及びレンジの初期化値40aを提供する初期化プロセッサ40を有するコヒーレンスプロセッサ34をさらに備える。レーダシステム10は、基準レーダアンテナ25により送信される第1の信号及びペアレーダアンテナ14により送信される第2の信号のうちの少なくとも一方を、初期化値40a及び較正値38aに従って調整し、基準レーダアンテナ25が受信する第1のコンポジット信号27とペアレーダアンテナ14が受信する第2のコンポジット信号24とをコヒーレントに加算するコヒーレンス保持プロセッサ42をさらに含む。
【0018】
一実施形態では、ペアレーダアンテナ14が送信する信号のみが、基準レーダアンテナ25が送信する信号に対して調整される。この特定の構成では、複数のレーダの中からの任意の数のペアレーダを単一の基準レーダに対して調整することができる。
【0019】
動作に際して、関連プロセッサ36は、物標12の追尾時に、基準レーダシステム26及びペアレーダシステム16のそれぞれにより生成される各モノスタティック物標トラック及び各バイスタティック物標トラックを識別する。較正プロセッサ38は、基準レーダシステム26及びペアレーダシステム16に関連する位相及びレンジの較正値38aを識別し、これらの値を、たとえば初期化プロセッサ40によりコヒーレンスプロセッサ34内の種々の場所に適用することができる。位相及びレンジの較正値38aは、たとえば、第1のレーダシステム16及び第2のレーダシステム26内の電気回路に関連する相対時間遅延(たとえば、相対レンジ)及び相対位相に対応することができる。
【0020】
初期化プロセッサ40は、基準レーダシステム26及びペアレーダシステム16に関連する位相及びレンジの初期化値40aを識別し、これらの値を、較正プロセッサ38により生成される較正値38aと共に、コヒーレンス保持プロセッサ42により開始相対位相及び相対レンジ(すなわち、時間遅延)として適用することができる。コヒーレンス保持プロセッサ42は、レンジ及び位相の予測値を生成して、ペアレーダシステム16により送信される後続する各レーダパルスに適用し、ほぼ「送信時にコヒーレント」なレーダパルスを提供する。すなわち、ペアレーダシステム16及び基準レーダシステム26のそれぞれからのパルスが物標12にほぼ同時に同じ位相で到着する。より十分に後述するように、送信時のコヒーレント化により、モノスタティックエコー及びバイスタティックエコーが基準レーダ及びペアレーダにおいて重なることになる。コヒーレンス保持プロセッサ42が物標12から受信する物標エコーは、コヒーレンス保持プロセッサ42において「受信時にコヒーレント化」され、すなわち、さらに後述するように、受信後にほぼ同相で加算される。
【0021】
上記「送信時のコヒーレント化」及び「受信時のコヒーレント化」について、図に関連してより十分に以下に説明する。図2〜図2Bに関連して、レーダパルスが送信時にコヒーレント化される場合、ペアレーダアンテナ14が受信するモノスタティック物標エコーの時間及び位相が、ペアレーダアンテナ14が受信するバイスタティック物標エコーとほぼ位置合わせされる(揃えられる)ことが明白になろう。また、基準レーダアンテナ25が受信するモノスタティック物標エコーの時間及び位相も、基準レーダアンテナ14が受信するバイスタティック物標エコーとほぼ揃えられる。
【0022】
これより図2を参照すると、ペアレーダ及び基準レーダはそれぞれ、Tx1及びTx2としてそれぞれ識別されるレーダパルスを生成する。ペアレーダは、M1として識別される対応するモノスタティック物標エコー及びB1として識別される対応するバイスタティック物標エコーを受信する。本明細書において使用する「物標エコー対」なる用語は、単一のレーダにより受信され、且つ単一の送信パルスセット、たとえばTx1、Tx2に対
応するモノスタティック物標エコー及びバイスタティック物標エコー、たとえばM1及びB1を指す。物標エコーM1及びB1は一般に異なる時間に受信される。
【0023】
同様に、基準レーダも、M2として識別される対応するモノスタティック物標エコー及びB2として識別される対応するバイスタティック物標エコーを受信する。物標エコーM2及びB2も一般的に異なる時間に受信される。しかし、2つのバイスタティック物標エコーB1及びB2が同時に受信されることが理解されよう。しかし、各レーダに関連する受信電気回路により、各レーダの見掛けのバイスタティック物標エコーの時間及び/又は位相がずれることがある。上述され且つより十分に後述される較正位相値及び較正レンジ値を使用して、バイスタティック物標エコーのずれを補正することができる。
【0024】
バイスタティック物標エコーB1、B2は、ペアレーダアンテナから物標まで、そして物標から基準レーダアンテナに戻るまでの往復距離が、基準レーダアンテナから物標まで、そして物標からペアレーダアンテナに戻るまでの往復距離と同じであるため、同時に受信される。しかし、各レーダから物標までの距離は異なる可能性があり、例示するように、結果としてモノスタティック物標エコーM1及びM2は異なる時間に到着することになり得る。
【0025】
受信モノスタティック物標エコーM1と受信バイスタティック物標エコーB1との時間遅延が、受信バイスタティックエコーB1と受信モノスタティック物標エコーM2との時間遅延と同じであることが理解されよう。
【0026】
図2の同様の要素が同様の参照符号を有して示される図2Aをこれより参照すると、ペアレーダが送信したパルスTx1が、基準レーダが送信したパルスTx2に対して時間的に遅延する(すなわち、遅れた時間に送信される)。ペアレーダに付加される時間遅延が、ペアレーダが受信するモノスタティック物標エコーM1及び基準レーダが受信するバイスタティック物標エコーB2(それぞれ、送信パルスTx1から生じる物標エコー)を遅延させる影響を有することが理解されよう。ペアレーダの送信パルスTx1に特定の所望の時間遅延を付加すると、モノスタティックリターン及びバイスタティックリターンをペアレーダ及び基準レーダにおいて示すように重なり合わせて、第1のコンポジットリターン(M1、B1)及び第2のコンポジットリターン(M2、B2)を提供することができる。ペアレーダの送信パルスTx1及び基準レーダの送信パルスTx2が両方とも同じ周波数にある場合に、時間的に重なると、もはや第1のモノスタティックリターンM1を第1のバイスタティックリターンB1と区別すること、又は第2のモノスタティックリターンM2を第2のバイスタティックリターンB2と区別することが不可能になることが理解されよう。
【0027】
上記所望の時間遅延をペアレーダの送信パルスTx1に付加することにより、ペアレーダの送信パルスTx1及び基準レーダの送信パルスTx2が両方とも同じ周波数にある場合、モノスタティックリターンM1とバイスタティックリターンB1とを基本的にコヒーレントに加算して、ペアレーダにおいて向上したSNRを提供することができる。同様に、モノスタティックリターンM2とバイスタティックリターンB2とを基本的にコヒーレントに加算して、基準レーダにおいて向上したSNRを提供することができる。コンポジットリターン(M1、B1)とコンポジットリターン(M2、B2)とをコヒーレントに加算して、さらなる処理利得を提供することがさらに望ましい。
【0028】
図2及び図2Aの同様の要素が同様の参照符号を有して示される図2Bをこれより参照すると、ベクトル図に、図2による、すなわち所望の時間遅延が図2Aに関連して上述したようには付加されない場合の物標エコーM1、B1、M2、B2のベクトル表現が示される。第1のモノスタティック物標エコーM1及び第1のバイスタティック物標エコーB1は、位相差θで受信される。第2のモノスタティック物標エコーM2及び第2のバイスタティック物標エコーB2は、同じ大きさθを有するが符号が逆の位相差で受信される。図2に関連して上述したように、第1のモノスタティック物標エコーM1は、第1のバイスタティック物標エコーB1と時間的に重ならず、第2のモノスタティック物標エコーM2は、第2のバイスタティック物標エコーB2と時間的に重ならない。この場合、信号は図2Aによるようには加算されない。
【0029】
上述したように、物標へのバイスタティックパス長及び物標からのバイスタティックパス長が2基のレーダで同一であるため、第1のバイスタティック物標エコーB1と第2のバイスタティック物標エコーB2の位相差がほぼゼロ(2基のレーダの内部の位相差を考慮せずに)であることが分かる。
【0030】
図2Bに示すベクトルは、両方のレーダからのパルスが同時に同相で送信され(すなわち、内部位相オフセットが2基のレーダ間に生じない)、且つ2基のレーダの内部電子回路間の非意図的ないかなる位相差も除去されている(たとえば、図1のブロック38に関連して上述したように工場での較正又は現場での較正により)ものと仮定している。
【0031】
上述したように、第1のモノスタティック物標エコーM1と第1のバイスタティック物標エコーB1との位相差の大きさは、第2のモノスタティック物標エコーM2と第2のバイスタティック物標エコーB2との位相差の大きさと同じである。これは、以下の考察から明らかになるように重要な特徴である。
【0032】
図2〜図2Bの同様の要素が同様の参照符号を有して示される図2Cをこれより参照して、ベクトル図に、図2Aによる、すなわち所望の時間遅延が図2Aに関連して上述したように付加される場合の物標エコーM1、B1、M2、B2のベクトル表現を示す。図2Aに関連して上述したように、物標エコーは時間的に重なり、レーダ内で加算されてコンポジットエコーを形成する。ペアレーダ及び基準レーダで観察されるコンポジット物標エコーはそれぞれ合成ベクトルC1及びC2として表すことができる。コンポジットベクトルC1及びC2の位相は位相角θだけ異なり、これはベクトル対M1、B1及びM2、B2間の位相差に合致する。
【0033】
モノスタティックリターン及びバイスタティックリターンが、コヒーレント利得を実現するために必要な、図2A及び図2Cに示すように時間的に重なるように位置合わせされると、モノスタティックエコーとバイスタティックエコーとの位相差はもはや直接測定することはできないことが認められよう。しかし、位相差は、コンポジットベクトルC1、C2の位相差を測定することにより間接的に測定することができる。測定されるこの位相差はパルス毎にモニタし、これを使用して、モノスタティックリターンとバイスタティックリターンとの位相角がゼロになるようにペアレーダからの次の送信パルスのオフセットとして使用すべき位相を予測することができる。ゼロ位相角は、結果として完全にコヒーレントな利得となる。結果得られるゼロ位相角を以下の図2Dに示す。
【0034】
これより図2Dを参照すると、ペアレーダ及び基準レーダのそれぞれにおいてモノスタティック及びバイスタティック受信信号M1、B1及びM2、B2の位相角がゼロになるようにペアレーダからの送信パルスに位相オフセットを提供するプロセスがベクトルで示される。特に、位相シフト(上述した所望の時間遅延の他に)が、ペアレーダにより送信されるパルスTx1(図2A)に加えられ、第1のモノスタティック物標エコーM1の位相及び第2のバイスタティック物標エコーB2の位相は、図2Cに示す同じベクトルと比較して、ここでは時計回りに示すように同じ方向に同量回転する。
【0035】
パルスTx1に加えられる位相シフトは、例示するようにモノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコーとの位相合わせ及びコヒーレントな加算を実現して、コンポジットベクトルC1及びC2でのコヒーレントな加算を実現するように選択することができる。そうすることで、モノスタティック成分とバイスタティック成分とが位置合わせされて、最大の大きさを有するコンポジットベクトルが生成される上記「送信時のコヒーレント化」が実現される。
【0036】
2つのコンポジットベクトルC1、C2の位相角θが、ペアレーダにより送信されるTx1パルスに適用されるいかなる位相調整によっても影響を受けないことに留意することが重要である。換言すれば、Tx1パルスの位相を調整すると、モノスタティックリターン及びバイスタティックリターンM1、B1、及びM2、B2の間の位相が両方のレーダにおいて変化するが、その変化はコンポジットベクトルC1、C2間の位相が影響を受けないようなものである。したがって、コンポジットベクトルC1とC2の間で測定される位相は、Tx1パルスに行われる位相調整に誤りがあった場合でもなお、レーダ間の位相を予測することができる。
【0037】
さらに後述するように、位相又はレンジの予測誤差は、レーダ間で予測された位相差を実際に測定された位相差と比較することにより測定することができ、それによりパルス間の位相レートが提供され、これを使用して位相レートフィルタを更新することができる。換言すれば、位相又はレンジの予測誤差はパルス毎に修正されるため、物標追尾中に累積されない。
【0038】
角度θが、たとえば、図1の初期化プロセッサ40により提供される初期化プロセスから行われたモノスタティックパスとバイスタティックパスとの間の明確なすべての位相変化に対応することを理解されたい。物標(たとえば、図1の12)が移動すると、観察ジオメトリ(幾何学的配置)が変化し、角度θがそのジオメトリに従って変化する。特定のときに、送信時に首尾良くコヒーレント化するために、コンポジットベクトルC1とC2との間で測定される位相θを使用して、次の送信パルスTx1に適用する位相調整を予測することができる。また、角度θは初期化以後の位相の絶対的で明確な変化であるため、初期化以後のレンジ遅延の絶対変化に直接変換することができ(1波長/360度)、これを使用して次の予測パルスTx1のレンジオフセットを更新することができる。
【0039】
上記技法は上記送信時のコヒーレント化を提供し、結果として、2つのコンポジットベクトルC1、C2が実質的に、関連するモノスタティックリターンとバイスタティックリターンをコヒーレントに加算したものになる。その後、2基のレーダからの2つのコンポジットベクトルC1、C2を、2つのコンポジットベクトルC1とC2との間のさらなる位相回転θを測定して適用することによってコヒーレントに結合(たとえば、加算)して、上記「受信時のコヒーレント化」を実現することができる。
【0040】
送信時のコヒーレント化は、ペアレーダの送信パルスへの予測調整を使用してリアルタイムで行われなければならない。これは、パルスが受信されてしまえば、モノスタティックリターンとバイスタティックリターンとの間の位相を後続処理によって変更することができないためである。これとは対照的に、受信時のコヒーレント化は、コンポジットベクトルC1、C2が別個のレーダで別個に利用できるため、パルス受信後に行うことができる。コンポジット信号C1、C2は別個に利用できるため、コンポジット信号C1とC2との位相角θを測定することができる。この測定を使用して、ペアレーダの次の送信パルスに使用する位相オフセットの予測を改良することができる(最後の予測が完全であった場合、結果得られるコンポジットベクトル間で測定される位相角は予測されたものとまったく同じになる)。コンポジット信号C1とC2との間で測定される位相角θはまた、ゼロ位相で加算されて受信時のコヒーレント化を提供するようにこれらのベクトルを結合する際に使用する位相回転をそのまま提供する。
【0041】
図2B〜図2Dのベクトル図は、ベクトル図をさらに詳細に示す図8〜図8Cの以下の考察からさらに理解されよう。
これより図3を参照すると、レーダシステム200は、ペアレーダアンテナ202、第1の送信機/受信機204、第1のサーチプロセッサ220、及び第1の追尾プロセッサ224を有するペアレーダシステム201を含む。レーダシステム200は、基準レーダアンテナ270、第2の送信機/受信機272、第2のサーチプロセッサ226、及び第2の追尾プロセッサ230を有する基準レーダシステム269も含む。第1の追尾プロセッサ224及び第2の追尾プロセッサ230は、物標(図示せず)に関連する物標トラックを生成する。
【0042】
レーダシステム200は、第1の追尾プロセッサ224及び第2の追尾プロセッサ230のそれぞれにより提供される物標トラックを関連付ける関連プロセッサ210、位相較正値238a及びレンジ(距離)較正値240aをそれぞれ提供する較正プロセッサ212、並びに位相初期化値250a及びレンジ初期化値252aをそれぞれ提供する初期化プロセッサ214をさらに含む。レーダシステム200は、初期化値250a、252a、較正値238a、240a、及びより十分に後述するさらなる調整に従ってペアレーダアンテナ202により送信される信号を調整して、上記「送信時のコヒーレント化」を提供するようになっているコヒーレンス保持プロセッサ216をさらに備える。コヒーレンス保持プロセッサは、基準レーダアンテナ270が受信する第1のコンポジット信号27
2aをペアレーダアンテナ202が受信する第2のコンポジット信号204aとをコヒーレントに加算して、上記「受信時のコヒーレント化」に従って最終信号268をさらに提供するようになっている。
【0043】
較正プロセッサ212は、位相較正プロセッサ238及びレンジ較正プロセッサ240を含む。動作に際して、位相較正プロセッサ238は、ペアレーダシステム201と基準レーダシステム269との内部位相差に対応する位相較正値238aを特定するようになっている。レンジ較正プロセッサ240は、ペアレーダシステム201と基準レーダシステム269との内部レンジ差に対応するレンジ較正値240aを特定するようになっている。位相較正値238a及びレンジ較正値240aについては図5及び図5Aに関連してより十分に以下において考察する。しかし、ここでは、ペアレーダシステム201、基準レーダシステム269が同じ物標を追尾する場合に、位相較正値238a及びレンジ較正値240aがペアレーダシステム201と基準レーダシステム269との間で測定されるレンジ差及び位相差に対応すると言うにとどめておく。より十分に以下において説明するように、第1のバイスタティックリターンB1及び第2のバイスタティックリターンB2(図2)を使用して、位相較正値及びレンジ較正値を生成することができる。第1のバイスタティックリターンB1及び第2のバイスタティックリターンB2を使用すると、位相較正値238a及びレンジ較正値240aが追尾される物標の移動による影響を相対的に受けないことが理解されよう。これは、較正中、2基のレーダがバイスタティックパスをほぼ同じ時刻に測定することから言えることである。
【0044】
初期化プロセッサ214は、位相予測プロセッサ250及びレンジ予測プロセッサ252を含む。動作に際して、位相予測プロセッサは、ペアレーダシステム201と基準レーダシステム269との次のパルスの予測位相差に対応する位相初期化値250aを提供するようになっている。レンジ予測プロセッサ252は、ペアレーダシステム201と基準レーダシステム269との次のパルスの予測レンジ差に対応するレンジ初期化値252aを提供するようになっている。位相初期化値250a及びレンジ初期化値252aについては、図7及び図7Aに関連してより十分に以下において考察する。しかし、ここでは、システムが同じ物標を追尾する場合に、位相初期化値250a及びレンジ初期化値252aがペアレーダシステム201と基準レーダシステムとの間で予測されるレンジ差及び位相差に対応すると言うにとどめておく。
【0045】
物標が移動している物標である可能性があり、位相初期化値250a及びレンジ初期化値252aが、最後の物標位置から移動した新しい物標位置で予測されるレンジ及び位相に対応することを理解されたい。より十分に以下において説明するように、モノスタティックリターン及びバイスタティックリターンM1、B1、M2、B2(図2)を使用して、位相初期化値及びレンジ初期化値を生成することができる。
【0046】
コヒーレンス保持プロセッサ216は、測定プロセッサ260、位相レートフィルタ262、コンポジット信号位相/レンジ予測プロセッサ258、及び加算プロセッサ264を含む。動作に際して、コンポジット信号位相/レンジ予測プロセッサ258は、位相較正位相初期化値250a及びレンジ初期化値252a(いくつかの実施形態では、これらに加えて位相較正値238a及びレンジ較正値240a)を受け取り、送信時にコヒーレント化された(たとえば、図2A参照)基準レーダアンテナ270及びペアレーダアンテナ202からの第1の送信パルスを生成する。コンポジット信号位相/レンジ予測プロセッサ258は、後続の送信パルスの生成に使用される新しい位相/レンジ予測を生成するようになっている。測定プロセッサ260はコンポジット信号(たとえば、図2BのC1、C2参照)を受け取り、これらのコンポジット信号の相対位相を測定して、位相レートフィルタ262を更新する。位相レートフィルタ262は、コンポジット信号位相/レンジ予測プロセッサ258と共に、後続の送信パルスの生成に使用される上記新しい位相/レンジ予測を生成する。加算プロセッサ264は、大体位相の合った(すなわち、受信時にコヒーレントな)コンポジット信号を加算する。
【0047】
位相レートフィルタ262は、物標が移動するにつれて、コンポジット信号間、ひいてはモノスタティックエコーとバイスタティックエコーとの間の位相θ(たとえば、図2D
参照)が変化するレートを推定する。このレートを使用して、両方のレーダでのモノスタティックリターン及びバイスタティックリターンが受信時に同相で加算される(すなわち、リターンが送信にてコヒーレント化される)ように、ペアレーダシステム201から次に送信されるパルスに適用する位相補正を予測する。特定の一実施形態では、位相レートフィルタは単一パラメータフェージングメモリフィルタ(及びアルファフィルタと呼ばれることもある)である。この種のフィルタの方程式は以下のように書くことができる。
[数1]
dθ/dt(n+1)=α[dθ/dt(n)]+(1-α)(Δθ/Δt)
式中、
n=送信パルス数、
dθ/dt(n+1)=次の送信パルスの位相計算に使用すべき位相レート、
α=0〜1の定数、
dθ/dt(n)=最後の送信パルスの位相計算に使用された位相レート、
Δθ=θ(n)−θ(n−1)=最後の2つのパルス間のコンポジットリターン間の位相角θの変化、
Δt=最後の2つの送信パルス間の時間である。
【0048】
定数αが、予測位相レートが最新の測定により影響を受ける程度(最近の変化に対する応答性が最も高いが、ノイズによる汚染を最も受けやすい)及び予測位相レートがそれまでのすべての測定にわたって行われた平滑化推定により影響を受ける程度(測定ノイズの影響を最も受けにくいが、最近の変化に対する応答性が最も低い)を決めることが認められよう。
【0049】
パフォーマンスの改良が、いくつかの物標タイプ、物標速度、測定ジオメトリ、パルス反復レート、及びSNRの複雑性が高いフィルタを使用することにより得られることを理解されたい。たとえば、位相のより高次の時間微分を計算して使用するフィルタを、SNR及びこれらの微分の大きさが十分に高い場合に上記アルファフィルタに代えて使用することができる。別の例では、特に関心物標が衛星又は弾道ミサイルの場合に、重力の影響下で移動している物標の動きの方程式を組み込んだカルマンフィルタを上記アルファフィルタに代えて使用することができる。
【0050】
位相レートフィルタ262の出力は、コンポジット信号位相/レンジ予測プロセッサ258により使用されて、ペアレーダシステム201により生成される次の送信パルスに使用される、レーダ間の位相オフセット及びレンジオフセットが予測される。予測位相オフセットは以下のように書くことができる。
[数2]
θ(n+1)=θ(n)+[dθ/dt(n+1)]Δt
予想レンジオフセットは以下のように書くことができる。
[数3]
ΔR(n+1)=[θ(n+1)/360]λ
式中、
λはレーダ波長であり、
θは度単位のコンポジットリターン間で測定される角度である。
【0051】
角度θが、コヒーレント初期化プロセスが開始されてからのレーダ間の累積絶対位相差であることに留意することが重要である。
近代のレーダでは、用途又は機能に最もよく合うように、波形の中心周波数及び波形の帯域幅をパルス毎に変更できることが理解されよう。レーダシステム200では、機能は、たとえば、サーチプロセッサ206に関連するサーチ機能、追尾プロセッサ208に関連する追尾機能、較正プロセッサ212に関連する較正機能、初期化プロセッサ214に関連する初期化機能、コヒーレンス保持プロセッサ216に関連するコヒーレンス保持機能、及び関連するプロセッサが図示されていない物標特性機能を含む。
【0052】
一般に、波形の帯域幅が広いほど、良好なレンジ分解能になることが理解されよう。いくつかの実施形態では、狭帯域(NB)パルスのレンジ限界は物標限界と比較して大きく
(レンジで)、中帯域(MB)パルスのレンジ限界は物標限界におおよそ合致し、広帯域(WB)パルスのレンジ限界は物標限界と比較して小さい。ブロック218及び228は、狭帯域(NB)パルスをサーチ機能に使用することができる(すなわち、サーチボリュームをカバーするのに必要なレンジセル数を最小化し、それによって信号処理負荷及び誤警報率を最小化する)ことを示す。ブロック218及び228は、ペアレーダシステム201及び基準のレーダシステム269がそれぞれ、サーチ機能に異なる中心周波数f1及びf2で動作できる(すなわち、同じ場所にあるレーダからのサーチパルスを同時に、相互干渉を生じさせることなく送信できる)ことも示す。ブロック222及び232は、中帯域(MB)パルスを追尾機能に使用することができ(すなわち、レンジ範囲にわたり改良された追尾測定精度を提供するため)、サーチ機能に使用されるものと同じ中心周波数f1、f2を使用して追尾を行える(サーチから追尾へのハンドオーバが簡易化される)ことを示す。ブロック212及び242は、ペアレーダシステム201及び基準レーダシステム269をそれぞれ、同じ中心周波数f0を有する広帯域パルス(WB)を使用して較正できる(すなわち、機器によるあらゆる位相差又は時間遅延をなくすため)ことを示す。十分に期間の短い広帯域パルスを較正機能に使用して、ペアレーダシステム201及び基準レーダシステム269の両方でのバイスタティックリターンをそれぞれモノスタティックリターンから時間的に隔てることができ、ひいてはモノスタティックリターン(たとえば、図2参照)から汚染なしで検査することができる。ブロック248及び264は、初期化機能にも、2基のレーダシステム201、269のそれぞれから同じ中心周波数f0を有する広帯域(WB)パルスを使用できることを示す。ブロック256及び266は、コヒーレント保持機能にも、2基のレーダシステム201、269のそれぞれから同じ中心周波数f0を有する広帯域(WB)パルスを使用できることを示す。
【0053】
上述したように、例示的なレーダシステム200は、物標特定(図示せず)に広帯域(WB)パルスのみを使用することができ、これらのパルスは最終的に結合される。上記サーチ機能及び追尾機能で検出できる必要があるのは、物標の最大散乱体だけである。しかし、大きな散乱体及び小さな散乱体の両方が検出可能である必要があるため、物標特定にはさらに高いSNRが必要である。しかし、本明細書に記載するシステム及び方法が上記のレーダ波形及び機能の任意のもの(たとえば、追尾に使用されるMB波形)に適用可能であることを理解されたい。
【0054】
レーダシステム200では、較正機能が較正プロセッサ212により実行された後、且つ初期化機能が初期化プロセッサ214により実行された後、同じ中心周波数を有する同じ形の広帯域パルスを、本発明により提供されるコヒーレンス追加技法及び装置を使用しない場合には物標特定機能の実行に使用されていた物標追尾の残り中に、コヒーレンス保持プロセッサ216により実行されるコヒーレント保持機能に使用できることが理解されよう。換言すれば、追尾中のコヒーレント信号の加算を保持するために追加のレーダリソースを使用する必要がない。
【0055】
図4〜図4Dが、コンピュータ化されたレーダシステム、たとえばレーダシステム10(図1)で実施される以下に考察する技法に対応するフローチャートを示すことを理解されたい。本明細書では「処理ブロック」を示す矩形要素(図4の要素302により代表される)は、コンピュータソフトウェア命令又は命令群を表す。本明細書では「判断ブロック」を示す菱形要素(図4Dの要素510により代表される)は、処理ブロックにより表されるコンピュータソフトウェア命令の実行に影響するコンピュータソフトウェア命令又は命令群を表す。複数のプロセッサが本明細書において教示されるが、コスト及び処理要件に応じて、プロセッサのうちの1つ又は複数を単一のプロセッサに組み合わせることができ、このプロセッサの動作に必要なコンピュータ命令がそれに従って含められることを理解されたい。
【0056】
別法として、処理ブロック及び判断ブロックは、デジタル信号プロセッサ回路又は特定用途向け集積回路(ASIC)等の機能的に等価の回路によって実行される。流れ図(フローチャート)は、いかなる特定のプログラミング言語のシンタックスも示していない。むしろ、流れ図は、当業者が回路を組み立てるか、又はコンピュータソフトウェアを生成
して特定の装置に求められる処理を実行するために必要な機能情報を示す。ループ及び変数の初期化並びに一時変数の使用等の多くのルーチンプログラム要素が示されていないことに留意されたい。本明細書において別段に示されない限り、説明されるブロックの特定の順番は単なる例示にすぎず、本発明の精神から逸脱することなく変更可能なことを当業者には認められよう。したがって、別段に記されない限り、以下に説明するブロックは順不同であり、これは、可能な場合にはステップを任意の都合のよい、又は所望の順番で実行できることを意味する。
【0057】
図4〜図4Dにおいて識別されるプロセスについても、図5〜図8Cに関連して図を用いて説明する。
これより図4を参照すると、レーダをコヒーレント化するプロセス300がブロック302において開始され、基準レーダ及びペアレーダが複数のレーダの中から選択される。本明細書において説明するプロセスでは1基のみのペアレーダが説明されるが、同じ技法を用いて、基準レーダと併せて任意の数のペアレーダを処理可能なことが認められよう。
【0058】
ブロック304において、ペアレーダ及び基準レーダは1つ又は複数の物標を特定するサーチを実行し、ブロック306において、ペアレーダ及び基準レーダは、1つ又は複数の物標に関連する1つ又は複数の物標トラックを生成する。たとえば、サーチは図1のサーチプロセッサ20、30を使用して行うことができ、追尾は図1の追尾プロセッサ22、32を使用して行うことができる。物標トラックは、たとえば、物標までのレンジ、物標までの仰角、及び物標までの方位角をそれぞれ有するタイムポイントを含むことがわかっている。物標は時間と共に移動し得る。
【0059】
ブロック308において、ペアレーダ及び基準レーダからの物標トラックが関連付けられる。この構成では、関連付けにより、同じ物標に対応するトラックを共にグループ化することができる。物標トラックは、ペアレーダ及び基準レーダからのモノスタティック物標トラック及びバイスタティック物標トラックを含むことができる。このようにして、たとえば、物標エコーM1、B1、M2、B2(図2)を、同じ物標からのリターンとして識別することができる。関連付けは、たとえば、図1の関連プロセッサ36又は図3の関連プロセッサ210により行うことができる。
【0060】
ブロック310において、位相較正値及びレンジ較正値を含む較正値が測定される。較正値は、たとえば、図1の較正プロセッサ38又は図3の較正プロセッサ212により測定することができ、たとえば、図3の較正値238a、240aに対応することができる。ブロック310のプロセスについて図4Aに関連してさらに説明する。
【0061】
ブロック312において、較正値が基準レーダ及びペアレーダのうちの一方又は両方に適用される。
ブロック314において、位相初期化値及びレンジ初期化値を含む初期化値が生成される。初期化値は、たとえば、図1の初期化プロセッサ40又は図3の初期化プロセッサ214により生成することができ、たとえば、図3の初期化値250a、252aに対応することができる。ブロック314のプロセスについては、図4B及び図4Cに関連してさらに説明する。
【0062】
ブロック316において、調整された信号が、ペアレーダ又は基準レーダにより較正値及び初期化値に従って送信される。特定の一実施形態では、調整信号はペアレーダにより送信され、基準レーダは未調整の信号を送信する。調整信号は、コンポジット信号、すなわち図2DのコンポジットベクトルC1及びC2を実現するように時間遅延及び位相において調整される。
【0063】
ブロック318において、コンポジット信号がペアレーダ及び基準レーダにより受信される。コンポジット信号は、たとえば、図2DのコンポジットベクトルC1及びC2に対応することができる。ブロック318において受信される信号は、図1のコヒーレンス保持プロセッサ42又は図3のコヒーレンス保持プロセッサ216により使用される第1の信号対のみに対応する。
【0064】
ブロック320において、ブロック318において受信されたコンポジット信号は、受信にてコヒーレント化される。すなわち、位相シフト及び同相加算が行われる。加算は、
たとえば、図3の加算プロセッサ264により行うことができる。続いて受信されるコンポジット信号も受信にてコヒーレント化される。ブロック320のプロセスについては、図4Dに関連して以下においてさらに説明する。
【0065】
これより図4Aを参照すると、上記較正値を生成するプロセス350がブロック352において開始され、所定の相対時間遅延が、基準レーダを基準にしてペアレーダにより送信される信号間の時間遅延に対応して設定される。ブロック354において、ペアレーダ送信パルスと基準レーダ送信パルスとの間の相対位相差がゼロに設定される。
【0066】
特定の一実施形態では、ブロック352での所定の相対時間遅延は、少なくとも、レーダエネルギーがペアレーダから基準レーダに移動するために必要な時間遅延と同じ長さである。この構成では、レーダパルスがペアレーダ及び基準レーダにより物標に向けて送信される場合、たとえば、図2Aに示したように、いずれのレーダでもモノスタティックリターン及びバイスタティックリターンが時間的に重なることは不可能である。較正中に、モノスタティックリターンとは別個に且つ離れて、各レーダでバイスタティックリターンを識別して比較できることが望ましい。
【0067】
上述したように、バイスタティックリターンは、いかなる瞬間でも全く同じパス長を有する。したがって、ペアレーダ及び基準レーダからの送信パルスが全く同じ時間に送信された(一般にはこれは当てはまらない)ならば、各レーダでバイスタティックリターンをまったく同じ時間遅延で、すなわち同時に受信するはずである。ブロック352での所定の時間遅延は分かっているため、これを受信バイスタティックリターンの相対時間遅延から差し引くことができ、したがって、任意の残りの時間遅延が2基のレーダに関連する内部時間遅延差に対応する。パルスを送信している時間中のバイスタティックパス長の変化に対する軽微な補正はいずれも、以下において明白になるように、物標トラックから利用可能なレンジレート情報に従って求めることができる。同様に、受信バイスタティック物標エコーの任意の残りの位相差も、2基のレーダに関連する内部位相差に対応する。
【0068】
上記時間遅延差及び位相差には、2基のレーダの異なる電子回路応答を含むがこれに限定されない種々の要因が関連し得ることが認められよう。
位相差だけでは360度のすべてで曖昧であるため、レンジ較正及び位相較正を両方とも以下にさらに説明するように行う必要があることも認められよう。たとえば、レーダ間の位相差のみが測定され、これがゼロであったならば、レーダ間のレンジ差もゼロであるか、それとも或る整数波長であるかを判断する方法はない。レーダ間のレンジ差及び位相差を別個に測定することにより、いかなる較正の曖昧さも回避する。
【0069】
ブロック356において、所定の相対時間遅延及びゼロ位相差を有する1つ又は複数のパルスが、ペアレーダ及び基準レーダにより送信され、その結果として、ブロック358において、各レーダでバイスタティック物標エコーを受信する。
【0070】
ブロック360において、2基のレーダでのバイスタティックリターン間の上記位相差に基づいて、位相較正値が特定される。同様に、ブロック362において、バイスタティックリターン間の上記時間遅延差に基づいて、レンジ較正値が特定される。
【0071】
ブロック352での所定の時間遅延が、ブロック356においてペアレーダにより送信されるパルスに適用される場合であっても、物標エコーを受信したときに、所定の時間遅延を、測定された時間遅延から差し引くことができることを認められたい。上述したように、ブロック352において選択され、ブロック356において適用される所定の相対時間遅延によってでは、たとえば、図2Aでのようには、モノスタティックリターンとバイスタティックリターンとは重ならない。
【0072】
これより図4Bを参照すると、上記位相初期化値及びレンジ初期化値を生成するプロセス400がブロック402において開始され、ペアレーダ送信パルスを基準レーダ送信パルスから遅延させる所定の時間遅延が選択される。所定の時間遅延は、図4Aのブロック352に関連して上述した方法及び理由とほぼ同じ方法及び理由で選択される。
【0073】
ブロック404において、ペアレーダ送信パルスと基準レーダ送信パルスとの間の相対位相差がゼロに設定される。
ブロック406において、2つ以上の初期化信号、すなわち送信パルスが、ペアレーダ
及び基準レーダにより送信され、ブロック408において、対応する物標エコーがペアレーダ及び基準レーダにより受信される。受信された物標エコーは、たとえば図2に示すM1、B1、M2、及びB2として述べたものと同様であることができる。モノスタティック物標エコー及びバイスタティック物標エコーはまだ、たとえば図2Aに示すようには重なっていない。
【0074】
受信された物標エコーから、ブロック410において、位相初期化関係が、各レーダで受信されたモノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコーとの間の位相差に対応して生成されるか、又は更新される。ペアレーダにより受信された受信モノスタティック物標エコーと受信バイスタティック物標エコーとの各対間の位相差を用いて、位相初期化関係に新しいデータポイントを提供することができる。また、基準レーダにより受信された受信モノスタティック物標エコーと受信バイスタティック物標エコーとの各対間の位相差を用いて、位相初期化関係に別の新しいデータポイントを提供することができる。
【0075】
特定の一実施形態では、位相初期化関係は、位相差データポイント間の線形最小二乗近似を生成することによって形成される位相レート関係である。しかし、他の実施形態では、線形最小二乗近似以外の数学的関係を用いることができる。位相初期化関係については、図7に関連して以下にさらに説明する。
【0076】
初期化プロセスに使用するパルスレートは、レーダ間の位相変化レートを明確に測定できるようにするために、2基のレーダのコンポジットベクトル間の位相変化がパルス間で+/−180度未満であるようにするのに十分高くなければならない。これにより、初期化プロセスの完了後、パルスレートが低減される(レーダリソース節減のため)場合であってもパルス間の時間にわたる位相変化を明確に測定できるようになり、ひいては、測定された位相レートをレンジレートに直接変換できるようになる(モノスタティック成分及びバイスタティック成分のレンジが重なり、もはや別個に測定できなくなった後でレンジアラインメントを保つため)。
【0077】
同様に、ブロック412において、レンジ初期化関係が、各レーダで受信されたモノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコーとの間のレンジ差に対応して生成されるか、又は更新される。
【0078】
ペアレーダにより受信された受信モノスタティック物標エコーと受信バイスタティック物標エコーとの各対間のレンジ(時間遅延)差を用いて、レンジ初期化関係に新しいデータポイントを提供することができる。また、基準レーダにより受信された受信モノスタティック物標エコーと受信バイスタティック物標エコーとの各対間のレンジ(時間遅延)差を用いて、レンジ初期化関係に別の新しいデータポイントを提供することができる。
【0079】
特定の一実施形態では、レンジ初期化関係は、レンジ(時間遅延)データポイント間の線形最小二乗近似を生成することによって形成されるレンジレート関係である。しかし、他の実施形態では、線形最小二乗近似以外の数学的関係を用いることができる。レンジ初期化関係については、図7Aに関連して以下にさらに説明する。
【0080】
ブロック402での所定の時間遅延が、ブロック406においてペアレーダにより送信されるパルスに適用される場合であっても、物標エコーを受信したときに、所定の時間遅延を、測定された時間遅延から差し引くことができることを認められたい。ブロック402において選択され、ブロック406において適用される所定の相対時間遅延によってでは、たとえば、図2Aでのようには、モノスタティックリターンとバイスタティックリターンとが重ならないことも理解されたい。
【0081】
これより図4Cを参照すると、プロセス450は図4Bのプロセス400の続きである。ブロック452において、位相初期化値が位相初期化関係から予測される。この予測は、次のパルス対がペアレーダ及び基準レーダによって送信されたときに、各レーダで受信されるモノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコーとの予想位相に対応する。予測位相が部分的に物標の移動に関連することが理解されよう。
【0082】
特定の一実施形態では、位相初期化値は、位相データポイント間の上記線形最小二乗関係を用い(図4Bのブロック410)、次に受信する物標エコー対の時間まで、線上で時間的に将来を見ることで予測される。位相初期化関係の最小二乗近似及び予測については
図7に関連して図を用いて以下に説明する。
【0083】
ブロック454において、レンジ(時間遅延)初期化値がレンジ初期化関係から予測される。この予測は、ペアレーダ及び基準レーダにより次のパルス対が送信されたときに、各レーダで受信されるモノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコーとの間の予想レンジ(時間遅延)に対応する。予測レンジが部分的に物標の移動に関連することが理解されよう。
【0084】
特定の一実施形態では、レンジ初期化値は、レンジデータポイント間の上記線形最小二乗関係を用い(図4Bのブロック412)、次に受信する物標エコー対の時間まで、線上で時間的に将来を見ることで予測される。レンジ(時間遅延)初期化関係の最小二乗近似及び予測については図7Aに関連して図により以下において説明する。
【0085】
ブロック456において、予測位相初期化値を用いて、ペアレーダで次に送信されるパルスの位相が調整され、ブロック458において、予測レンジ(時間遅延)初期化値を用いて、ペアレーダで次に送信されるパルスのレンジ(時間遅延)が調整される。さらに、図4Bのブロック402において適用される所定の時間遅延が除去される。
【0086】
ブロック460において、第1のコヒーレント信号、すなわち送信パルスが、ペアレーダ及び基準レーダにより送信される。これらのコヒーレント信号は送信時のみコヒーレントである。前のブロックにおいて受信された物標エコーは、図2に示す物標エコーを典型とするエコーを提供するが、ブロック460の送信コヒーレント信号は、図2Aの物標エコーを典型とする物標エコーとを提供し、各レーダでモノスタティック及びバイスタティックの物標エコーが時間的に重なり、図2CのコンポジットベクトルC1及びC2を典型とするコンポジット信号を提供する。
【0087】
これより図4Dを参照すると、プロセス500が、図4Cのブロック460において最初に提供された送信コヒーレンシ(送信時にコヒーレント化する)を、ここでは続いて送信されるパルスに対して保持する。プロセス600も、受信コンポジット信号の同相加算により受信時にコヒーレンシを提供する。
【0088】
プロセス500は、図4Cのブロック460での信号送信に関連するコンポジット物標エコーを受信し、その位相差を測定することによりブロック502において開始される。受信された物標エコーは、たとえば、モノスタティックリターン及びバイスタティックリターンが同じ信号周波数であり(図3参照)、同時に現れる図2Cに表されるコンポジット信号である。
【0089】
ブロック504において、ペアレーダにより受信されたコンポジット信号の位相が、基準レーダにより受信されたコンポジット信号の位相と比較される。図2Dに関連して上述したように、コンポジット信号間の位相差は、ペアレーダの位相が変更した場合には一定のままであるが、位相差は物標の移動に応答して(また、システムノイズにも応答して)変化する。
【0090】
仮に、図4Cのブロック460において送信されるレーダ信号に適用されたレンジ初期化値及び位相初期化値が完全な予測であるならば、2つのコンポジット物標エコー間の位相角が位相予測と全く同じになるものと予想される。しかし、図4Cのブロック460において送信されるレーダ信号に適用されるレンジ初期化値及び位相初期化値、特に位相予測値は必ずしも完全な予測ではない(測定ノイズ及び予期しない物標の移動により)。したがって、コンポジット信号間の位相残差は位相初期化値の誤差に対応する。残差は、ブロック504において、たとえば図3の測定プロセッサ260により求められる。
【0091】
ブロック506において、ペアレーダ及び基準レーダで受信したコンポジット信号間の位相残差を用いて、コンポジット信号位相関係が生成され、且つ/又は更新される。コンポジット信号位相関係については図8A及び図8Bに関連して以下により十分に説明する。
【0092】
コンポジット信号位相関係は、たとえば、図3の位相レートフィルタ262により保持することができる。上述したように、位相レートフィルタ262は、一般に「アルファ」フィルタとして知られている単純な単一パラメータ平滑化フィルタ(上述)、位相のより高次の時間微分を推定する多項式フィルタ、又は物標の移動モデルを含むことができるカ
ルマンフィルタを含むがこれらに限定されない種々のフィルタのうちの1つ又は複数のフィルタにより実施することができる。
【0093】
ブロック508において、ブロック502において測定されたペアレーダ及び基準レーダで受信されたコンポジット物標エコー間の位相を知ることで、ペアレーダ及び基準レーダで受信されたコンポジット物標エコーがコヒーレントに、すなわち同相で加算されて、最終信号、たとえば図3の最終信号268を提供する。
【0094】
判断ブロック510において、信号が最後の信号ではない場合、プロセスはブロック512に進み、ブロック508の位相関係を用いて、ペアレーダにより次に送信されるパルスでのペアレーダの調整に併せて使用される位相(及びレンジ)について予測が行われる。本明細書では、この予測を「コンポジット位相値」と呼ぶ。いくつかの実施形態では、この予測は、最後のパルスで測定された位相及びレンジ、更新された位相及びレンジレートを用いて線形に行われる。しかし、他の実施形態では、この予測は図3の位相レートフィルタ262により生成される。レーダ間の更新レンジは、レンジが360度の位相変化毎に1波長ずつ変化することを利用して、更新された位相から直接計算することができる。
【0095】
ブロック514において、予測位相(及びレンジ)がペアレーダに適用され、ブロック516において、次のパルス対が2基のレーダにより送信され、ここで、予測はペアレーダに対してのみ適用される。
【0096】
ブロック518において、受信コンポジット物標エコー間の位相差が再び測定される。ブロック520において、測定された位相がブロック512の予測と比較され、ブロック522において、コンポジット信号位相関係が更新される。
【0097】
図4Dの技法を用いて、ペアレーダにより送信されるパルスの位相(及び時間遅延)を、ブロック522のコンポジット信号位相関係により行われる予測に従って(たとえば、位相レートフィルタに従って)調整して、図2Dに図で示す送信時のコヒーレント性を保持することができる。これにより、モノスタティック物標エコー及びバイスタティック物標エコーがコヒーレントに同相加算され、それにより信号利得が向上する。コヒーレント化されたコンポジット信号はブロック508において加算され、さらに高い処理利得を実現する。
【0098】
図5〜図8Cは、図4〜図4Dに関連して説明したプロセスを絵図の形態で示す。
これより図5を参照すると、グラフにより、図4のブロック310及び図4Aの較正プロセス350の絵図表現が示される。このグラフは、時間単位の横軸及び図1のペアレーダ16及び基準レーダ26により受信されるバイスタティック物標エコー間の位相差に対応する縦軸を有する。点は、連続した送信レーダパルスに対応してペアレーダ及び基準レーダで受信されるバイスタティック物標エコー間の位相差ψの連続した測定値に対応する。図2Aに関連して説明したように、仮に2基のレーダに内部位相差がなければ、2つのバイスタティックリターンの位相が揃うものと予想される。しかし、位相差ψが2基のレーダでのバイスタティックリターン間で測定される。位相差ψは上述した較正値である。
【0099】
位相較正値は、ペアレーダ及び基準レーダにより送信される1つのみのパルスを用いて求めることができる。しかし、示すように複数のパルス及び対応する複数の位相測定データポイントを使用して、その結果得られる位相較正値の精度を向上させることができる。
【0100】
バイスタティック物標エコー間の位相が、物標が移動するときであっても本質的に一定であると予想されることを理解されたい。したがって、2基のレーダでのバイスタティック物標エコー間の位相測定は移動している物標に対しても行うことができる。
【0101】
これより図5Aを参照すると、グラフで、図4のブロック310及び図4Aの較正プロセス350のさらなる態様の絵図表現が示される。このグラフは、時間単位の横軸及び図1のペアレーダ16及び基準レーダ26により受信されるバイスタティック物標エコー間のレンジ(時間遅延)差に対応する縦軸を有する。点は、ペアレーダ及び基準レーダで受信されるバイスタティック物標エコー間のレンジ差の連続した測定値に対応する。図2Aに関連して説明したように、仮に2基のレーダに内部レンジ(時間遅延)差がなければ、2つのバイスタティックリターンのレンジが揃うものと予想される。しかし、示すように
、レンジ差Rが2基のレーダのバイスタティックリターン間で測定される。値Rは上述したレンジ較正値である。
【0102】
レンジ較正値は、ペアレーダ及び基準レーダにより送信される1つのみのパルスを用いて求めることができる。しかし、示すように複数のパルス及び対応する複数のレンジ測定ポイントを使用して、その結果得られるレンジ較正値の精度を向上させることができる。
【0103】
バイスタティック物標エコー間の時間遅延(レンジ)が、物標が移動するときであっても一定であると予想されることを認められたい。したがって、2基のレーダでのバイスタティック物標エコー間のレンジ測定は移動している物標に対しても行うことができる。
【0104】
図4Aのボックス352に関連して上述したように、基準レーダを基準にして所定の時間遅延をペアレーダに適用することが望ましいことがある。所定の時間遅延を受信バイスタティック信号から除去して、図5Aの測定値に辿り着くことができる。
【0105】
これより図6を参照すると、グラフにより、図4のブロック310及び図4Aの較正プロセス350に関連するベクトルが示される。ベクトルB1及びB2は、図5に関連して上述したように、位相差ψを有する未較正のペアレーダ及び未較正の基準レーダで受信されるバイスタティック物標エコーに対応する。ベクトルM1及びM2は、ペアレーダ及び基準レーダのそれぞれで受信されるモノスタティック物標エコーに対応する。
【0106】
これより図6Aを参照すると、グラフで、位相較正値ψが送信パルス(図示せず)に適用されて2つのバイスタティック物標エコーB1及びB2が揃えられた後、図6の物標エコー後に受信される物標エコーのベクトル表現が示される。
【0107】
これより図6Bを参照すると、グラフにより、レンジ較正値Rが送信パルス(図示せず)に適用されて、ベクトルB1及びB2で示される2つのバイスタティック物標エコーの位相がさらに揃えられた後、図6Aの物標エコー後に受信される物標エコーのベクトル表現が示される。レンジ較正値は単に360度の倍数に対応することができ、それにより、図6Aに示される2つのバイスタティック物標エコーB1及びB2と同じように揃った位相になる。
【0108】
したがって、図6Aに示されるベクトル関係が、図6Bでのようにレンジ較正が適用された後でもあまり変わらないことを理解されたい。デジタル波形ジェネレータにより開始時間及び位相の両方を独立して制御可能な近代のレーダが使用されるものと仮定される。したがって、較正プロセスを行う必要があるのは、追尾中に1回だけである。位相較正値及びレンジ較正値が一般に同時に使用されることが認められよう。
【0109】
これより図7を参照すると、グラフにより、図4のブロック314及び図4Cのブロック452での予測位相初期化値の生成が示される。横軸が時間に対応し、縦軸が、ペアレーダ及び基準レーダで受信されるモノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコーとの間の位相差に対応する。黒丸のデータポイントが、ペアレーダでの位相差を表し、白丸のデータポイントがペアレーダ及び基準レーダにより送信される複数のレーダパルスに対応する基準レーダでの位相差を表す。レーダ間の初期位相パラメータ及び位相レートパラメータを求めるために、少なくとも2つのレーダパルスが必要である。しかし、例示するように、3つ以上のパルスを使用してパラメータ推定精度を向上させることができる。最後に測定されたデータポイントは時間tmにおいて行われる。
【0110】
移動している物標に対してであってもほぼ一定の位相差を有する、ペアレーダ及び基準レーダにより受信されるバイスタティック物標エコー間の図5に描かれる位相差と異なり、モノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコーとの間の図7に描かれる位相差は一定ではなく、示すように移動している物標に伴って変化する。
【0111】
図示する傾き(dθ/dt)0を有する最小二乗近似線を生成することができる。次に、両方のレーダからのデータポイントに基づく最小二乗近似線を用いて、時間tpにおいて行われるペアレーダ及び基準レーダから次に送信されるレーダ信号に関連する予想位相差を予測することができる。時間tpでの各レーダの予測位相は、図7において対応する四角で表される。
【0112】
時間tpでの最小二乗近似線に沿った位相は、図4Cのボックス452に関連して上述した予測位相初期化値に対応する。
これより図7Aを参照して、グラフで、図4のブロック314及び図4Cのブロック454でのようなレンジ初期化値の生成を絵図で示す。横軸が時間に対応し、縦軸が、ペアレーダ及び基準レーダで受信されるモノスタティック及びバイスタティックの物標エコー間のレンジ(時間遅延)差に対応する。黒丸のデータポイントが、ペアレーダで行われるレンジ差測定を表し、白丸のデータポイントがペアレーダ及び基準レーダにより送信される複数のレーダパルスに対応する基準レーダで同時に行われるレンジ差測定を表す。レンジ差及び位相差の両方を、初期化中に各レーダで各パルスについて測定することができるため、初期位相予測及び初期レンジ予測の生成に別個のパルストレインは必要ない。最後に測定されるデータポイントは時間tmにおいて行われる。
【0113】
移動している物標に対してであってもほぼ一定のレンジ差を有する、ペアレーダ及び基準レーダにより受信されるバイスタティック物標エコー間の図5Aに描かれるレンジ(時間遅延)差と異なり、モノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコー間の図7に描かれるレンジ差は一定ではなく、示すように移動している物標に伴って変化する。
【0114】
図示するような傾き(dR/dt)0を有する最小二乗近似線を生成することができる。次に、最小二乗近似線を用いて、時間tpにおいてペアレーダ及び基準レーダから次に送信されるレーダ信号に関連する予想レンジ(時間遅延)差を予測することができる。2基の各レーダの予測レンジ差は対応する四角で表される。
【0115】
時間tpでの最小二乗近似線に沿ったレンジは、図4Cのボックス454に関連して上述した予測レンジ初期化値に対応する。
これより図8を参照して、ベクトル図に、上記位相較正値、レンジ較正値、位相初期化値、及びレンジ初期化値が最初にペアレーダにより送信されるパルスに適用されるとき、すなわち較正機能及び初期化機能後に、ペアレーダ及び基準レーダのそれぞれで受信される物標エコーを示す。モノスタティック物標エコーM1及びバイスタティック物標エコーB1がペアレーダにより受信され、モノスタティック物標エコーM2及びバイスタティック物標エコーB2が基準レーダにより受信される。上述した初期化値が(及び上記較正値も)送信パルスに適用されると、モノスタティック物標エコーM1及びバイスタティック物標エコーB1並びにモノスタティック物標エコーM2及びバイスタティック物標エコーB2も、たとえば図2Dにも示すように、時間的に重なるとともに、大まかに位相でも重なる。モノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコーは時間及び位相で重なるため、ペアレーダで受信される信号はベクトルC1として表されるコンポジット信号であり、基準レーダで受信される信号はベクトルC2で表されるコンポジット信号である。
【0116】
モノスタティック物標エコーM1の位相がバイスタティック物標エコーB1の位相と必ずしも完全に揃うわけではなく、したがって、第1のコンポジットベクトルC1が必ずしも2つの信号を完全にコヒーレントに加算したものではないことが認識されよう。同様に、モノスタティック物標エコーM2の位相がバイスタティック物標エコーB2の位相と必ずしも完全に揃うわけではなく、したがって、第2のコンポジットベクトルC2が必ずしも2つの信号を完全にコヒーレントに加算したものではないことが認識されよう。モノスタティック物標エコー及びバイスタティック物標エコーの間の位相差は、位相残差θEとして表される。ここで、θEは、レーダ間の予測位相(最後の送信パルス対間の相対位相を設定するために使用される)とレーダ間の実際の位相(最新の送信パルスを受信した後にコンポジットベクトルC1とC2とを比較することにより測定される)との差である。上述したように、位相誤差θEは送信時での完全なコヒーレント性の欠如に関与し、さらなる処理によって回復することができない。それに代えて、θEは、先に述べたように次の位相予測に使用される位相レートの補正に使用され、測定の有限SNRが許す限り、送信時のコヒーレント性の欠如をゼロに近づける。
【0117】
位相角θEは直接測定できないが、後述するように、2つのコンポジット信号C1及びC2間の位相角θを測定し、測定値を前のパルス対のときに生成された予測位相角θPと比較することにより得ることができる。
【0118】
これより図8Aを参照すると、上述したように、最後の位相予測θPが、コンポジットベクトル間の位相差から図4Dのブロック504に従って減算されて、位相残差θEが特
定される。
【0119】
これより図8Bを参照すると、グラフは、時間単位の横軸及び位相角単位の縦軸を有する。黒丸の点は、図8Aに関連して上述したように、いくつかの送受信されたレーダパルスに関連して得られる位相残差θEに対応する。いくつかの送受信されたレーダパルスに関連して測定される位相残差は、図4Dのブロック506及び522に従って、γで示される曲線を典型とするコンポジット信号位相関係を提供することができる。時間tPでの四角は、時間tPで送信されるパルス対に関連して発生する次の予測位相誤差に対応し、これを用いて、次のパルス対でペアレーダに適用される次の予測位相を生成することができる。
【0120】
曲線γ及び将来の時間tPでの予測位相誤差を図3の位相レートフィルタ262により生成することができ、したがって、位相レートフィルタ262が、コンポジット信号位相/レンジ予測プロセッサ258(図3)と併せて、黒丸の点で示される、前に送信されたパルス対に関連して測定された位相誤差を考慮して、時間tPにおいて次に送信されるパルス対に関連する位相推定を提供できることが認められよう。
【0121】
本質的に、新しく予測された位相残差を用いて新しいコンポジット位相値を生成し、ペアレーダにより送信される次のレーダパルスの位相を調整することができる。
これより図8Cを参照すると、図8Aでのように最後のパルスからのコンポジットベクトルC1、C2間の位相差θを両方のレーダで測定することができ、また、ベクトルC1及びC2で表される信号を位相回転させることができ、その結果、それらの信号を同相加算して(受信時でのコヒーレント化)、ベクトルC3で表される受信時コヒーレント信号を生成する。
【0122】
上記プロセスは次の送信パルス対に対して繰り返され、物標がレーダのカバレージゾーンを去るまで繰り返される。各パルス対の処理は、最後のパルス対が処理されてからレーダ間の位相で実際に起こった変化に関連する予測位相残差値θEを生成し、したがって、実際の位相レートを提供する。実際の位相レートを用いて、図3の位相レートフィルタ262が更新され、次いで、実際のレンジレートが計算され、その結果、レーダ間のレンジ変更を計算して、次のパルス対に対するレーダ間の相対レンジオフセット及び相対位相オフセットの設定時に考慮に入れることができる。
【0123】
本明細書において引用したすべての参照は、参照により全体が本明細書に援用される。
本発明の好ましい実施形態について説明したが、ここで、それぞれの概念を組み込む他の実施形態を使用できることが当業者には明白であろう。したがって、これらの実施形態は開示される実施形態に限定されるべきではなく、むしろ、特許請求の範囲の精神及び範囲によってのみ限定されるべきであると考える。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】本発明によるコヒーレンスプロセッサを有する例示的なレーダシステムのブロック図である。
【図2】両方のレーダが同時に送信する場合に2基の各レーダが受信するモノスタティック物標エコー及びバイスタティック物標エコーの図である。
【図2A】モノスタティックリターンとバイスタティックリターンが両方のレーダで時間的に重なるように一方のレーダからの送信が他方のレーダからの送信に対して遅延する場合に、2基の各レーダが受信するモノスタティック物標エコー及びバイスタティック物標エコーの図である。
【図2B】モノスタティックリターンとバイスタティックリターンが両方のレーダで時間的に重ならない場合に、図2による2基のレーダが受信するモノスタティック物標エコー及びバイスタティック物標エコーの相対位相を示すベクトル図である。
【図2C】モノスタティックリターンとバイスタティックリターンが時間的に重なるように一方のレーダからのパルスの開始時間が調整されている、図2Aによる2基のレーダが受信するモノスタティック物標エコー及びバイスタティック物標エコーの相対位相を示すベクトル図である。
【図2D】モノスタティックリターンとバイスタティックリターンが時間的に重なり、且つ位相が位置合わせされるように、一方のレーダの開始時間及び位相の両方が調整されている、図2Aによる2基のレーダが受信するモノスタティック物標エコー及びバイスタティック物標エコーの相対位相を示すベクトル図である。
【図3】図1の要素をさらに詳細に示すレーダシステムのブロック図である。
【図4】2基のレーダをコヒーレント化する方法を示すフローチャートである。
【図4A】2基のレーダの較正を含む、図4の方法の一部をさらに詳細に示すフローチャートである。
【図4B】2基のレーダの初期化を含む、図4の方法の別の部分をさらに詳細に示すフローチャートである。
【図4C】2基のレーダの初期化を含む、図4の方法の別の部分をさらに詳細に示すフローチャートである。
【図4D】2基のレーダのコヒーレンス保持を含む、図4の方法のさらに別の部分をさらに詳細に示すフローチャートである。
【図5】図4Aの較正方法に関連する絵図を示すグラフである。
【図5A】図4Aの較正方法に関連する絵図を示すグラフである。
【図6】図4Aの較正方法に関連する別の絵図を示すベクトル図である。
【図6A】図4Aの較正方法に関連する別の絵図を示すベクトル図である。
【図6B】図4Aの較正方法に関連する別の絵図を示すベクトル図である。
【図7】図4B及び図4Cの初期化方法に関連する絵図を示すグラフである。
【図7A】図4B及び図4Cの初期化方法に関連する絵図を示すグラフである。
【図8】図4Dのコヒーレンス保持に関連する絵図を示すグラフである。
【図8A】図4Dのコヒーレンス保持に関連する絵図を示すグラフである。
【図8B】図4Dのコヒーレンス保持に関連する絵図を示すグラフである。
【図8C】図4Dのコヒーレンス保持に関連する絵図を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、概括的にはレーダシステム及びレーダ方法に関し、特に、複数のレーダをコヒーレントに組み合わせるシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既知のように、単一のレーダは、所与のレンジでの所与のサイズの物標(目標)に対して理論上の最大信号対雑音比(SNR)を有する。信号対雑音比は、レーダが物標を検出し、追尾し、識別する能力に直接影響する。最大信号対雑音比は、レーダアンテナのサイズ、レーダの送信パワー、及びレーダ受信機のノイズレベルを含むがこれらに限定されない種々のレーダ特性によって決まる。こういった各レーダ特性は、任意の特定のレーダに対してほぼ一定である。したがって、検出性能、追尾性能、又は物標の識別性能を向上させるには、一般に、新しいレーダ特性を有する新しいレーダを設計する必要があった。新しいレーダの再設計は非常に長く費用の嵩むプロセスであり、既存のレーダを利用しない。
【0003】
別法として、それぞれが別個のアンテナを有する複数のレーダ(たとえば、既存のレーダ)からの受信信号を一緒に処理して、それらを組み合わせてシステムの感度を増大させ(すなわち、所与のレンジでの所与のサイズの物標に対するSNRを増大させ)、ひいては検出性能、追尾性能、又は物標識別性能を向上させることが可能である。
【0004】
複数のレーダからの受信信号、すなわち物標エコーを一緒に処理するには、複数のレーダのそれぞれが受信する物標エコーを、相対位相差がないようにコヒーレントに一緒に組み合わせることが有利である。このようにすれば、任意の1基のレーダと比較して、複数のレーダにより提供されるレーダ感度の向上の程度が最大になる。
【0005】
複数のレーダのうちの各レーダのレーダアンテナの相対位置が波長のごく分数部分以内であることが分かれば、コヒーレントな同相処理を可能にするのに十分な精度で位相の補正を行えることを当業者は理解しよう。しかし、一般に、レーダアンテナ間の距離は波長と比較してかなり大きくなり、その結果として測定の精度が落ちることになり得るため、レーダアンテナの位置を単に機械的に測定するだけでは不十分である。さらに、レーダ間の機械的な隔たりだけがわかっても、これはレーダ間の時間遅延又は位相シフトの内部の電気的な相違を考慮していないため不十分である。機械的な隔たりの測定は、温度変化、老化、部品の交換等による、時間に伴うこれらの電気的パラメータの変化も考慮していない。
【0006】
上記複数のレーダをモバイルレーダとして提供することが有用である。しかし、モバイルレーダは波長よりもはるかに大きな相対位置変更を受けるため、モバイルレーダが移動する都度、モバイルレーダのアンテナの相対位置の較正を行う必要がある。
【0007】
複数のレーダアレイの相対位置の較正は難しく、複数のレーダアンテナの隔たりが増すにつれてますます誤差が生じやすくなることを当業者は理解しよう。また、このような較正は別個のプロセスであり、レーダの実際の動作とは別の時間を必要とすることも理解するであろう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
複数のレーダ、たとえば2基のレーダを使用して物標に向けてレーダ信号を送信する場合、各レーダは、各自が送信したレーダ信号に対応するモノスタティック物標エコー及び他方のレーダから送信されたレーダ信号に対応するバイスタティック物標エコーを受信する。各レーダがモノスタティック物標エコー及びバイスタティック物標エコーの両方を受信し、共にコヒーレントに処理する場合、モノスタティック物標エコーのみが処理される場合に達成される感度を超えるさらに高いシステム感度を達成できることを当業者は認めよう。しかし、各レーダが受信するモノスタティック物標エコー及びバイスタティック物標エコーは一般に異なるレンジ(時間遅延)及び異なる位相を示すため、一般に、位相差なしでコヒーレントには加算されない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、複数のレーダをコヒーレントに同相結合するシステム及び方法を提供する。このシステム及び方法では、2基以上のレーダの相対位置を知る必要がない。
本発明によれば、複数のレーダを較正する方法は、複数のレーダの中から基準レーダを選択すること、及び1つ又は複数のレーダ対を選択し、各レーダ対の一方は基準レーダを含み、その各ペアレーダは複数のレーダの中からのレーダである、ことを含む。この方法は、基準レーダ及びペアレーダに関連する較正値を生成すること、及び基準レーダ及びペアレーダに関連する初期化値を生成することも含む。この方法は、ペアレーダで調整信号を送信すると共に基準レーダで未調整信号を送信し、調整信号は初期化値及び較正値に従って生成される、ことをさらに含む。第1の複合(コンポジット)信号を基準レーダで受信し、第2のコンポジット信号をペアレーダで受信し、これらのコンポジット信号は調整信号及び未調整信号に関連する。この方法は第1のコンポジット信号と第2のコンポジット信号とをコヒーレントに加算して、コヒーレント信号(cohered signal)を提供する。この特定の構成において、この方法は複数のレーダをコヒーレント結合して、向上した信号利得を提供することができる。
【0010】
本発明の別の態様によれば、複数のレーダを較正する装置は、複数のレーダの中からの、基準レーダ及びペアレーダを含む各レーダ対により提供される少なくともそれぞれ1つの物標トラックを関連付ける関連プロセッサを備える。この装置は、関連プロセッサに結合され、レーダ対に関連する較正値を提供する較正プロセッサ、較正プロセッサに結合され、レーダ対に関連する初期化値を提供する初期化プロセッサ、及び初期化プロセッサに結合され、基準レーダにより送信される第1の信号及びペアレーダにより送信される第2の信号のうちの少なくとも一方を、初期化値及び較正値に従って調整し、基準レーダが受信する第1のコンポジット信号と、ペアレーダが受信する第2のコンポジット信号とをコヒーレントに加算するコヒーレンス保持プロセッサも備える。この特定の構成において、この装置は複数のレーダを結合して向上した信号利得を提供することができる。
【0011】
本発明の上記特徴及び本発明自体は、以下の詳細な説明からより十分に理解することができるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のシステム及び方法について説明する前に、予備的ないくつかの概念及び用語について説明する。本明細書において使用する「基準レーダ」なる用語は、2基以上のレーダ群の中から選択される1基のレーダを述べるために使用される。本明細書において使用する「ペア(対)レーダ」なる用語は、2基以上のレーダ群の中から選択される、基準レーダ以外の任意のレーダを述べるために使用される。
【0013】
以下の考察の多くは1つのみのペアレーダについて説明するが、任意の数のペアレーダがあり得ること、及び以下に説明するものと同じ装置及び方法が各ペアレーダに適用できることを理解されたい。後述する基準レーダ及びペアレーダは種類の異なるレーダであり得る。本明細書では、ペアレーダを「レーダ1」と呼び、基準レーダを「レーダ2」と呼ぶことがある。
【0014】
本明細書において使用する「レンジ(距離)」及び「時間遅延」なる用語は同義で使用されることがある。レーダシステムがレーダパルスを送信してから対応する目標(物標)エコーを受信するまでの時間を使用して物標までのレンジを求めることを当業者は理解しよう。
【0015】
本明細書において使用する「コンポジット(複合)信号」、「コンポジットエコー」、及び「コンポジットリターン」なる用語は、重複して加算するように同時に受信される同じ周波数のレーダ信号を指すために使用される。特に、「コンポジット信号」、「コンポジットエコー」、及び「コンポジットリターン」なる用語は、レーダに同時に到着して重なり合い加算されるモノスタティック物標エコー及びバイスタティック物標エコーを述べるために使用される。
【0016】
図1を参照すると、レーダシステム10は、ペアレーダアンテナ14、第1の送信機/受信機18、第1のサーチ(探索)プロセッサ20、及び第1の追尾プロセッサ22を有
するペアレーダシステム16を含む。レーダシステム10は、基準レーダアンテナ25、第2の送信機/受信機28、第2のサーチプロセッサ30、及び第2の追尾プロセッサ32を含む基準レーダシステム26も含む。第1の追尾プロセッサ22及び第2の追尾プロセッサ32は、物標12に関連する各物標トラックを生成する。
【0017】
レーダシステム10は、第1の追尾プロセッサ22及び第2の追尾プロセッサ32のそれぞれにより提供される少なくともそれぞれ1つの物標トラックを関連付ける関連プロセッサ36、位相及びレンジの較正値38aを提供する較正プロセッサ38、並びに位相及びレンジの初期化値40aを提供する初期化プロセッサ40を有するコヒーレンスプロセッサ34をさらに備える。レーダシステム10は、基準レーダアンテナ25により送信される第1の信号及びペアレーダアンテナ14により送信される第2の信号のうちの少なくとも一方を、初期化値40a及び較正値38aに従って調整し、基準レーダアンテナ25が受信する第1のコンポジット信号27とペアレーダアンテナ14が受信する第2のコンポジット信号24とをコヒーレントに加算するコヒーレンス保持プロセッサ42をさらに含む。
【0018】
一実施形態では、ペアレーダアンテナ14が送信する信号のみが、基準レーダアンテナ25が送信する信号に対して調整される。この特定の構成では、複数のレーダの中からの任意の数のペアレーダを単一の基準レーダに対して調整することができる。
【0019】
動作に際して、関連プロセッサ36は、物標12の追尾時に、基準レーダシステム26及びペアレーダシステム16のそれぞれにより生成される各モノスタティック物標トラック及び各バイスタティック物標トラックを識別する。較正プロセッサ38は、基準レーダシステム26及びペアレーダシステム16に関連する位相及びレンジの較正値38aを識別し、これらの値を、たとえば初期化プロセッサ40によりコヒーレンスプロセッサ34内の種々の場所に適用することができる。位相及びレンジの較正値38aは、たとえば、第1のレーダシステム16及び第2のレーダシステム26内の電気回路に関連する相対時間遅延(たとえば、相対レンジ)及び相対位相に対応することができる。
【0020】
初期化プロセッサ40は、基準レーダシステム26及びペアレーダシステム16に関連する位相及びレンジの初期化値40aを識別し、これらの値を、較正プロセッサ38により生成される較正値38aと共に、コヒーレンス保持プロセッサ42により開始相対位相及び相対レンジ(すなわち、時間遅延)として適用することができる。コヒーレンス保持プロセッサ42は、レンジ及び位相の予測値を生成して、ペアレーダシステム16により送信される後続する各レーダパルスに適用し、ほぼ「送信時にコヒーレント」なレーダパルスを提供する。すなわち、ペアレーダシステム16及び基準レーダシステム26のそれぞれからのパルスが物標12にほぼ同時に同じ位相で到着する。より十分に後述するように、送信時のコヒーレント化により、モノスタティックエコー及びバイスタティックエコーが基準レーダ及びペアレーダにおいて重なることになる。コヒーレンス保持プロセッサ42が物標12から受信する物標エコーは、コヒーレンス保持プロセッサ42において「受信時にコヒーレント化」され、すなわち、さらに後述するように、受信後にほぼ同相で加算される。
【0021】
上記「送信時のコヒーレント化」及び「受信時のコヒーレント化」について、図に関連してより十分に以下に説明する。図2〜図2Bに関連して、レーダパルスが送信時にコヒーレント化される場合、ペアレーダアンテナ14が受信するモノスタティック物標エコーの時間及び位相が、ペアレーダアンテナ14が受信するバイスタティック物標エコーとほぼ位置合わせされる(揃えられる)ことが明白になろう。また、基準レーダアンテナ25が受信するモノスタティック物標エコーの時間及び位相も、基準レーダアンテナ14が受信するバイスタティック物標エコーとほぼ揃えられる。
【0022】
これより図2を参照すると、ペアレーダ及び基準レーダはそれぞれ、Tx1及びTx2としてそれぞれ識別されるレーダパルスを生成する。ペアレーダは、M1として識別される対応するモノスタティック物標エコー及びB1として識別される対応するバイスタティック物標エコーを受信する。本明細書において使用する「物標エコー対」なる用語は、単一のレーダにより受信され、且つ単一の送信パルスセット、たとえばTx1、Tx2に対
応するモノスタティック物標エコー及びバイスタティック物標エコー、たとえばM1及びB1を指す。物標エコーM1及びB1は一般に異なる時間に受信される。
【0023】
同様に、基準レーダも、M2として識別される対応するモノスタティック物標エコー及びB2として識別される対応するバイスタティック物標エコーを受信する。物標エコーM2及びB2も一般的に異なる時間に受信される。しかし、2つのバイスタティック物標エコーB1及びB2が同時に受信されることが理解されよう。しかし、各レーダに関連する受信電気回路により、各レーダの見掛けのバイスタティック物標エコーの時間及び/又は位相がずれることがある。上述され且つより十分に後述される較正位相値及び較正レンジ値を使用して、バイスタティック物標エコーのずれを補正することができる。
【0024】
バイスタティック物標エコーB1、B2は、ペアレーダアンテナから物標まで、そして物標から基準レーダアンテナに戻るまでの往復距離が、基準レーダアンテナから物標まで、そして物標からペアレーダアンテナに戻るまでの往復距離と同じであるため、同時に受信される。しかし、各レーダから物標までの距離は異なる可能性があり、例示するように、結果としてモノスタティック物標エコーM1及びM2は異なる時間に到着することになり得る。
【0025】
受信モノスタティック物標エコーM1と受信バイスタティック物標エコーB1との時間遅延が、受信バイスタティックエコーB1と受信モノスタティック物標エコーM2との時間遅延と同じであることが理解されよう。
【0026】
図2の同様の要素が同様の参照符号を有して示される図2Aをこれより参照すると、ペアレーダが送信したパルスTx1が、基準レーダが送信したパルスTx2に対して時間的に遅延する(すなわち、遅れた時間に送信される)。ペアレーダに付加される時間遅延が、ペアレーダが受信するモノスタティック物標エコーM1及び基準レーダが受信するバイスタティック物標エコーB2(それぞれ、送信パルスTx1から生じる物標エコー)を遅延させる影響を有することが理解されよう。ペアレーダの送信パルスTx1に特定の所望の時間遅延を付加すると、モノスタティックリターン及びバイスタティックリターンをペアレーダ及び基準レーダにおいて示すように重なり合わせて、第1のコンポジットリターン(M1、B1)及び第2のコンポジットリターン(M2、B2)を提供することができる。ペアレーダの送信パルスTx1及び基準レーダの送信パルスTx2が両方とも同じ周波数にある場合に、時間的に重なると、もはや第1のモノスタティックリターンM1を第1のバイスタティックリターンB1と区別すること、又は第2のモノスタティックリターンM2を第2のバイスタティックリターンB2と区別することが不可能になることが理解されよう。
【0027】
上記所望の時間遅延をペアレーダの送信パルスTx1に付加することにより、ペアレーダの送信パルスTx1及び基準レーダの送信パルスTx2が両方とも同じ周波数にある場合、モノスタティックリターンM1とバイスタティックリターンB1とを基本的にコヒーレントに加算して、ペアレーダにおいて向上したSNRを提供することができる。同様に、モノスタティックリターンM2とバイスタティックリターンB2とを基本的にコヒーレントに加算して、基準レーダにおいて向上したSNRを提供することができる。コンポジットリターン(M1、B1)とコンポジットリターン(M2、B2)とをコヒーレントに加算して、さらなる処理利得を提供することがさらに望ましい。
【0028】
図2及び図2Aの同様の要素が同様の参照符号を有して示される図2Bをこれより参照すると、ベクトル図に、図2による、すなわち所望の時間遅延が図2Aに関連して上述したようには付加されない場合の物標エコーM1、B1、M2、B2のベクトル表現が示される。第1のモノスタティック物標エコーM1及び第1のバイスタティック物標エコーB1は、位相差θで受信される。第2のモノスタティック物標エコーM2及び第2のバイスタティック物標エコーB2は、同じ大きさθを有するが符号が逆の位相差で受信される。図2に関連して上述したように、第1のモノスタティック物標エコーM1は、第1のバイスタティック物標エコーB1と時間的に重ならず、第2のモノスタティック物標エコーM2は、第2のバイスタティック物標エコーB2と時間的に重ならない。この場合、信号は図2Aによるようには加算されない。
【0029】
上述したように、物標へのバイスタティックパス長及び物標からのバイスタティックパス長が2基のレーダで同一であるため、第1のバイスタティック物標エコーB1と第2のバイスタティック物標エコーB2の位相差がほぼゼロ(2基のレーダの内部の位相差を考慮せずに)であることが分かる。
【0030】
図2Bに示すベクトルは、両方のレーダからのパルスが同時に同相で送信され(すなわち、内部位相オフセットが2基のレーダ間に生じない)、且つ2基のレーダの内部電子回路間の非意図的ないかなる位相差も除去されている(たとえば、図1のブロック38に関連して上述したように工場での較正又は現場での較正により)ものと仮定している。
【0031】
上述したように、第1のモノスタティック物標エコーM1と第1のバイスタティック物標エコーB1との位相差の大きさは、第2のモノスタティック物標エコーM2と第2のバイスタティック物標エコーB2との位相差の大きさと同じである。これは、以下の考察から明らかになるように重要な特徴である。
【0032】
図2〜図2Bの同様の要素が同様の参照符号を有して示される図2Cをこれより参照して、ベクトル図に、図2Aによる、すなわち所望の時間遅延が図2Aに関連して上述したように付加される場合の物標エコーM1、B1、M2、B2のベクトル表現を示す。図2Aに関連して上述したように、物標エコーは時間的に重なり、レーダ内で加算されてコンポジットエコーを形成する。ペアレーダ及び基準レーダで観察されるコンポジット物標エコーはそれぞれ合成ベクトルC1及びC2として表すことができる。コンポジットベクトルC1及びC2の位相は位相角θだけ異なり、これはベクトル対M1、B1及びM2、B2間の位相差に合致する。
【0033】
モノスタティックリターン及びバイスタティックリターンが、コヒーレント利得を実現するために必要な、図2A及び図2Cに示すように時間的に重なるように位置合わせされると、モノスタティックエコーとバイスタティックエコーとの位相差はもはや直接測定することはできないことが認められよう。しかし、位相差は、コンポジットベクトルC1、C2の位相差を測定することにより間接的に測定することができる。測定されるこの位相差はパルス毎にモニタし、これを使用して、モノスタティックリターンとバイスタティックリターンとの位相角がゼロになるようにペアレーダからの次の送信パルスのオフセットとして使用すべき位相を予測することができる。ゼロ位相角は、結果として完全にコヒーレントな利得となる。結果得られるゼロ位相角を以下の図2Dに示す。
【0034】
これより図2Dを参照すると、ペアレーダ及び基準レーダのそれぞれにおいてモノスタティック及びバイスタティック受信信号M1、B1及びM2、B2の位相角がゼロになるようにペアレーダからの送信パルスに位相オフセットを提供するプロセスがベクトルで示される。特に、位相シフト(上述した所望の時間遅延の他に)が、ペアレーダにより送信されるパルスTx1(図2A)に加えられ、第1のモノスタティック物標エコーM1の位相及び第2のバイスタティック物標エコーB2の位相は、図2Cに示す同じベクトルと比較して、ここでは時計回りに示すように同じ方向に同量回転する。
【0035】
パルスTx1に加えられる位相シフトは、例示するようにモノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコーとの位相合わせ及びコヒーレントな加算を実現して、コンポジットベクトルC1及びC2でのコヒーレントな加算を実現するように選択することができる。そうすることで、モノスタティック成分とバイスタティック成分とが位置合わせされて、最大の大きさを有するコンポジットベクトルが生成される上記「送信時のコヒーレント化」が実現される。
【0036】
2つのコンポジットベクトルC1、C2の位相角θが、ペアレーダにより送信されるTx1パルスに適用されるいかなる位相調整によっても影響を受けないことに留意することが重要である。換言すれば、Tx1パルスの位相を調整すると、モノスタティックリターン及びバイスタティックリターンM1、B1、及びM2、B2の間の位相が両方のレーダにおいて変化するが、その変化はコンポジットベクトルC1、C2間の位相が影響を受けないようなものである。したがって、コンポジットベクトルC1とC2の間で測定される位相は、Tx1パルスに行われる位相調整に誤りがあった場合でもなお、レーダ間の位相を予測することができる。
【0037】
さらに後述するように、位相又はレンジの予測誤差は、レーダ間で予測された位相差を実際に測定された位相差と比較することにより測定することができ、それによりパルス間の位相レートが提供され、これを使用して位相レートフィルタを更新することができる。換言すれば、位相又はレンジの予測誤差はパルス毎に修正されるため、物標追尾中に累積されない。
【0038】
角度θが、たとえば、図1の初期化プロセッサ40により提供される初期化プロセスから行われたモノスタティックパスとバイスタティックパスとの間の明確なすべての位相変化に対応することを理解されたい。物標(たとえば、図1の12)が移動すると、観察ジオメトリ(幾何学的配置)が変化し、角度θがそのジオメトリに従って変化する。特定のときに、送信時に首尾良くコヒーレント化するために、コンポジットベクトルC1とC2との間で測定される位相θを使用して、次の送信パルスTx1に適用する位相調整を予測することができる。また、角度θは初期化以後の位相の絶対的で明確な変化であるため、初期化以後のレンジ遅延の絶対変化に直接変換することができ(1波長/360度)、これを使用して次の予測パルスTx1のレンジオフセットを更新することができる。
【0039】
上記技法は上記送信時のコヒーレント化を提供し、結果として、2つのコンポジットベクトルC1、C2が実質的に、関連するモノスタティックリターンとバイスタティックリターンをコヒーレントに加算したものになる。その後、2基のレーダからの2つのコンポジットベクトルC1、C2を、2つのコンポジットベクトルC1とC2との間のさらなる位相回転θを測定して適用することによってコヒーレントに結合(たとえば、加算)して、上記「受信時のコヒーレント化」を実現することができる。
【0040】
送信時のコヒーレント化は、ペアレーダの送信パルスへの予測調整を使用してリアルタイムで行われなければならない。これは、パルスが受信されてしまえば、モノスタティックリターンとバイスタティックリターンとの間の位相を後続処理によって変更することができないためである。これとは対照的に、受信時のコヒーレント化は、コンポジットベクトルC1、C2が別個のレーダで別個に利用できるため、パルス受信後に行うことができる。コンポジット信号C1、C2は別個に利用できるため、コンポジット信号C1とC2との位相角θを測定することができる。この測定を使用して、ペアレーダの次の送信パルスに使用する位相オフセットの予測を改良することができる(最後の予測が完全であった場合、結果得られるコンポジットベクトル間で測定される位相角は予測されたものとまったく同じになる)。コンポジット信号C1とC2との間で測定される位相角θはまた、ゼロ位相で加算されて受信時のコヒーレント化を提供するようにこれらのベクトルを結合する際に使用する位相回転をそのまま提供する。
【0041】
図2B〜図2Dのベクトル図は、ベクトル図をさらに詳細に示す図8〜図8Cの以下の考察からさらに理解されよう。
これより図3を参照すると、レーダシステム200は、ペアレーダアンテナ202、第1の送信機/受信機204、第1のサーチプロセッサ220、及び第1の追尾プロセッサ224を有するペアレーダシステム201を含む。レーダシステム200は、基準レーダアンテナ270、第2の送信機/受信機272、第2のサーチプロセッサ226、及び第2の追尾プロセッサ230を有する基準レーダシステム269も含む。第1の追尾プロセッサ224及び第2の追尾プロセッサ230は、物標(図示せず)に関連する物標トラックを生成する。
【0042】
レーダシステム200は、第1の追尾プロセッサ224及び第2の追尾プロセッサ230のそれぞれにより提供される物標トラックを関連付ける関連プロセッサ210、位相較正値238a及びレンジ(距離)較正値240aをそれぞれ提供する較正プロセッサ212、並びに位相初期化値250a及びレンジ初期化値252aをそれぞれ提供する初期化プロセッサ214をさらに含む。レーダシステム200は、初期化値250a、252a、較正値238a、240a、及びより十分に後述するさらなる調整に従ってペアレーダアンテナ202により送信される信号を調整して、上記「送信時のコヒーレント化」を提供するようになっているコヒーレンス保持プロセッサ216をさらに備える。コヒーレンス保持プロセッサは、基準レーダアンテナ270が受信する第1のコンポジット信号27
2aをペアレーダアンテナ202が受信する第2のコンポジット信号204aとをコヒーレントに加算して、上記「受信時のコヒーレント化」に従って最終信号268をさらに提供するようになっている。
【0043】
較正プロセッサ212は、位相較正プロセッサ238及びレンジ較正プロセッサ240を含む。動作に際して、位相較正プロセッサ238は、ペアレーダシステム201と基準レーダシステム269との内部位相差に対応する位相較正値238aを特定するようになっている。レンジ較正プロセッサ240は、ペアレーダシステム201と基準レーダシステム269との内部レンジ差に対応するレンジ較正値240aを特定するようになっている。位相較正値238a及びレンジ較正値240aについては図5及び図5Aに関連してより十分に以下において考察する。しかし、ここでは、ペアレーダシステム201、基準レーダシステム269が同じ物標を追尾する場合に、位相較正値238a及びレンジ較正値240aがペアレーダシステム201と基準レーダシステム269との間で測定されるレンジ差及び位相差に対応すると言うにとどめておく。より十分に以下において説明するように、第1のバイスタティックリターンB1及び第2のバイスタティックリターンB2(図2)を使用して、位相較正値及びレンジ較正値を生成することができる。第1のバイスタティックリターンB1及び第2のバイスタティックリターンB2を使用すると、位相較正値238a及びレンジ較正値240aが追尾される物標の移動による影響を相対的に受けないことが理解されよう。これは、較正中、2基のレーダがバイスタティックパスをほぼ同じ時刻に測定することから言えることである。
【0044】
初期化プロセッサ214は、位相予測プロセッサ250及びレンジ予測プロセッサ252を含む。動作に際して、位相予測プロセッサは、ペアレーダシステム201と基準レーダシステム269との次のパルスの予測位相差に対応する位相初期化値250aを提供するようになっている。レンジ予測プロセッサ252は、ペアレーダシステム201と基準レーダシステム269との次のパルスの予測レンジ差に対応するレンジ初期化値252aを提供するようになっている。位相初期化値250a及びレンジ初期化値252aについては、図7及び図7Aに関連してより十分に以下において考察する。しかし、ここでは、システムが同じ物標を追尾する場合に、位相初期化値250a及びレンジ初期化値252aがペアレーダシステム201と基準レーダシステムとの間で予測されるレンジ差及び位相差に対応すると言うにとどめておく。
【0045】
物標が移動している物標である可能性があり、位相初期化値250a及びレンジ初期化値252aが、最後の物標位置から移動した新しい物標位置で予測されるレンジ及び位相に対応することを理解されたい。より十分に以下において説明するように、モノスタティックリターン及びバイスタティックリターンM1、B1、M2、B2(図2)を使用して、位相初期化値及びレンジ初期化値を生成することができる。
【0046】
コヒーレンス保持プロセッサ216は、測定プロセッサ260、位相レートフィルタ262、コンポジット信号位相/レンジ予測プロセッサ258、及び加算プロセッサ264を含む。動作に際して、コンポジット信号位相/レンジ予測プロセッサ258は、位相較正位相初期化値250a及びレンジ初期化値252a(いくつかの実施形態では、これらに加えて位相較正値238a及びレンジ較正値240a)を受け取り、送信時にコヒーレント化された(たとえば、図2A参照)基準レーダアンテナ270及びペアレーダアンテナ202からの第1の送信パルスを生成する。コンポジット信号位相/レンジ予測プロセッサ258は、後続の送信パルスの生成に使用される新しい位相/レンジ予測を生成するようになっている。測定プロセッサ260はコンポジット信号(たとえば、図2BのC1、C2参照)を受け取り、これらのコンポジット信号の相対位相を測定して、位相レートフィルタ262を更新する。位相レートフィルタ262は、コンポジット信号位相/レンジ予測プロセッサ258と共に、後続の送信パルスの生成に使用される上記新しい位相/レンジ予測を生成する。加算プロセッサ264は、大体位相の合った(すなわち、受信時にコヒーレントな)コンポジット信号を加算する。
【0047】
位相レートフィルタ262は、物標が移動するにつれて、コンポジット信号間、ひいてはモノスタティックエコーとバイスタティックエコーとの間の位相θ(たとえば、図2D
参照)が変化するレートを推定する。このレートを使用して、両方のレーダでのモノスタティックリターン及びバイスタティックリターンが受信時に同相で加算される(すなわち、リターンが送信にてコヒーレント化される)ように、ペアレーダシステム201から次に送信されるパルスに適用する位相補正を予測する。特定の一実施形態では、位相レートフィルタは単一パラメータフェージングメモリフィルタ(及びアルファフィルタと呼ばれることもある)である。この種のフィルタの方程式は以下のように書くことができる。
[数1]
dθ/dt(n+1)=α[dθ/dt(n)]+(1-α)(Δθ/Δt)
式中、
n=送信パルス数、
dθ/dt(n+1)=次の送信パルスの位相計算に使用すべき位相レート、
α=0〜1の定数、
dθ/dt(n)=最後の送信パルスの位相計算に使用された位相レート、
Δθ=θ(n)−θ(n−1)=最後の2つのパルス間のコンポジットリターン間の位相角θの変化、
Δt=最後の2つの送信パルス間の時間である。
【0048】
定数αが、予測位相レートが最新の測定により影響を受ける程度(最近の変化に対する応答性が最も高いが、ノイズによる汚染を最も受けやすい)及び予測位相レートがそれまでのすべての測定にわたって行われた平滑化推定により影響を受ける程度(測定ノイズの影響を最も受けにくいが、最近の変化に対する応答性が最も低い)を決めることが認められよう。
【0049】
パフォーマンスの改良が、いくつかの物標タイプ、物標速度、測定ジオメトリ、パルス反復レート、及びSNRの複雑性が高いフィルタを使用することにより得られることを理解されたい。たとえば、位相のより高次の時間微分を計算して使用するフィルタを、SNR及びこれらの微分の大きさが十分に高い場合に上記アルファフィルタに代えて使用することができる。別の例では、特に関心物標が衛星又は弾道ミサイルの場合に、重力の影響下で移動している物標の動きの方程式を組み込んだカルマンフィルタを上記アルファフィルタに代えて使用することができる。
【0050】
位相レートフィルタ262の出力は、コンポジット信号位相/レンジ予測プロセッサ258により使用されて、ペアレーダシステム201により生成される次の送信パルスに使用される、レーダ間の位相オフセット及びレンジオフセットが予測される。予測位相オフセットは以下のように書くことができる。
[数2]
θ(n+1)=θ(n)+[dθ/dt(n+1)]Δt
予想レンジオフセットは以下のように書くことができる。
[数3]
ΔR(n+1)=[θ(n+1)/360]λ
式中、
λはレーダ波長であり、
θは度単位のコンポジットリターン間で測定される角度である。
【0051】
角度θが、コヒーレント初期化プロセスが開始されてからのレーダ間の累積絶対位相差であることに留意することが重要である。
近代のレーダでは、用途又は機能に最もよく合うように、波形の中心周波数及び波形の帯域幅をパルス毎に変更できることが理解されよう。レーダシステム200では、機能は、たとえば、サーチプロセッサ206に関連するサーチ機能、追尾プロセッサ208に関連する追尾機能、較正プロセッサ212に関連する較正機能、初期化プロセッサ214に関連する初期化機能、コヒーレンス保持プロセッサ216に関連するコヒーレンス保持機能、及び関連するプロセッサが図示されていない物標特性機能を含む。
【0052】
一般に、波形の帯域幅が広いほど、良好なレンジ分解能になることが理解されよう。いくつかの実施形態では、狭帯域(NB)パルスのレンジ限界は物標限界と比較して大きく
(レンジで)、中帯域(MB)パルスのレンジ限界は物標限界におおよそ合致し、広帯域(WB)パルスのレンジ限界は物標限界と比較して小さい。ブロック218及び228は、狭帯域(NB)パルスをサーチ機能に使用することができる(すなわち、サーチボリュームをカバーするのに必要なレンジセル数を最小化し、それによって信号処理負荷及び誤警報率を最小化する)ことを示す。ブロック218及び228は、ペアレーダシステム201及び基準のレーダシステム269がそれぞれ、サーチ機能に異なる中心周波数f1及びf2で動作できる(すなわち、同じ場所にあるレーダからのサーチパルスを同時に、相互干渉を生じさせることなく送信できる)ことも示す。ブロック222及び232は、中帯域(MB)パルスを追尾機能に使用することができ(すなわち、レンジ範囲にわたり改良された追尾測定精度を提供するため)、サーチ機能に使用されるものと同じ中心周波数f1、f2を使用して追尾を行える(サーチから追尾へのハンドオーバが簡易化される)ことを示す。ブロック212及び242は、ペアレーダシステム201及び基準レーダシステム269をそれぞれ、同じ中心周波数f0を有する広帯域パルス(WB)を使用して較正できる(すなわち、機器によるあらゆる位相差又は時間遅延をなくすため)ことを示す。十分に期間の短い広帯域パルスを較正機能に使用して、ペアレーダシステム201及び基準レーダシステム269の両方でのバイスタティックリターンをそれぞれモノスタティックリターンから時間的に隔てることができ、ひいてはモノスタティックリターン(たとえば、図2参照)から汚染なしで検査することができる。ブロック248及び264は、初期化機能にも、2基のレーダシステム201、269のそれぞれから同じ中心周波数f0を有する広帯域(WB)パルスを使用できることを示す。ブロック256及び266は、コヒーレント保持機能にも、2基のレーダシステム201、269のそれぞれから同じ中心周波数f0を有する広帯域(WB)パルスを使用できることを示す。
【0053】
上述したように、例示的なレーダシステム200は、物標特定(図示せず)に広帯域(WB)パルスのみを使用することができ、これらのパルスは最終的に結合される。上記サーチ機能及び追尾機能で検出できる必要があるのは、物標の最大散乱体だけである。しかし、大きな散乱体及び小さな散乱体の両方が検出可能である必要があるため、物標特定にはさらに高いSNRが必要である。しかし、本明細書に記載するシステム及び方法が上記のレーダ波形及び機能の任意のもの(たとえば、追尾に使用されるMB波形)に適用可能であることを理解されたい。
【0054】
レーダシステム200では、較正機能が較正プロセッサ212により実行された後、且つ初期化機能が初期化プロセッサ214により実行された後、同じ中心周波数を有する同じ形の広帯域パルスを、本発明により提供されるコヒーレンス追加技法及び装置を使用しない場合には物標特定機能の実行に使用されていた物標追尾の残り中に、コヒーレンス保持プロセッサ216により実行されるコヒーレント保持機能に使用できることが理解されよう。換言すれば、追尾中のコヒーレント信号の加算を保持するために追加のレーダリソースを使用する必要がない。
【0055】
図4〜図4Dが、コンピュータ化されたレーダシステム、たとえばレーダシステム10(図1)で実施される以下に考察する技法に対応するフローチャートを示すことを理解されたい。本明細書では「処理ブロック」を示す矩形要素(図4の要素302により代表される)は、コンピュータソフトウェア命令又は命令群を表す。本明細書では「判断ブロック」を示す菱形要素(図4Dの要素510により代表される)は、処理ブロックにより表されるコンピュータソフトウェア命令の実行に影響するコンピュータソフトウェア命令又は命令群を表す。複数のプロセッサが本明細書において教示されるが、コスト及び処理要件に応じて、プロセッサのうちの1つ又は複数を単一のプロセッサに組み合わせることができ、このプロセッサの動作に必要なコンピュータ命令がそれに従って含められることを理解されたい。
【0056】
別法として、処理ブロック及び判断ブロックは、デジタル信号プロセッサ回路又は特定用途向け集積回路(ASIC)等の機能的に等価の回路によって実行される。流れ図(フローチャート)は、いかなる特定のプログラミング言語のシンタックスも示していない。むしろ、流れ図は、当業者が回路を組み立てるか、又はコンピュータソフトウェアを生成
して特定の装置に求められる処理を実行するために必要な機能情報を示す。ループ及び変数の初期化並びに一時変数の使用等の多くのルーチンプログラム要素が示されていないことに留意されたい。本明細書において別段に示されない限り、説明されるブロックの特定の順番は単なる例示にすぎず、本発明の精神から逸脱することなく変更可能なことを当業者には認められよう。したがって、別段に記されない限り、以下に説明するブロックは順不同であり、これは、可能な場合にはステップを任意の都合のよい、又は所望の順番で実行できることを意味する。
【0057】
図4〜図4Dにおいて識別されるプロセスについても、図5〜図8Cに関連して図を用いて説明する。
これより図4を参照すると、レーダをコヒーレント化するプロセス300がブロック302において開始され、基準レーダ及びペアレーダが複数のレーダの中から選択される。本明細書において説明するプロセスでは1基のみのペアレーダが説明されるが、同じ技法を用いて、基準レーダと併せて任意の数のペアレーダを処理可能なことが認められよう。
【0058】
ブロック304において、ペアレーダ及び基準レーダは1つ又は複数の物標を特定するサーチを実行し、ブロック306において、ペアレーダ及び基準レーダは、1つ又は複数の物標に関連する1つ又は複数の物標トラックを生成する。たとえば、サーチは図1のサーチプロセッサ20、30を使用して行うことができ、追尾は図1の追尾プロセッサ22、32を使用して行うことができる。物標トラックは、たとえば、物標までのレンジ、物標までの仰角、及び物標までの方位角をそれぞれ有するタイムポイントを含むことがわかっている。物標は時間と共に移動し得る。
【0059】
ブロック308において、ペアレーダ及び基準レーダからの物標トラックが関連付けられる。この構成では、関連付けにより、同じ物標に対応するトラックを共にグループ化することができる。物標トラックは、ペアレーダ及び基準レーダからのモノスタティック物標トラック及びバイスタティック物標トラックを含むことができる。このようにして、たとえば、物標エコーM1、B1、M2、B2(図2)を、同じ物標からのリターンとして識別することができる。関連付けは、たとえば、図1の関連プロセッサ36又は図3の関連プロセッサ210により行うことができる。
【0060】
ブロック310において、位相較正値及びレンジ較正値を含む較正値が測定される。較正値は、たとえば、図1の較正プロセッサ38又は図3の較正プロセッサ212により測定することができ、たとえば、図3の較正値238a、240aに対応することができる。ブロック310のプロセスについて図4Aに関連してさらに説明する。
【0061】
ブロック312において、較正値が基準レーダ及びペアレーダのうちの一方又は両方に適用される。
ブロック314において、位相初期化値及びレンジ初期化値を含む初期化値が生成される。初期化値は、たとえば、図1の初期化プロセッサ40又は図3の初期化プロセッサ214により生成することができ、たとえば、図3の初期化値250a、252aに対応することができる。ブロック314のプロセスについては、図4B及び図4Cに関連してさらに説明する。
【0062】
ブロック316において、調整された信号が、ペアレーダ又は基準レーダにより較正値及び初期化値に従って送信される。特定の一実施形態では、調整信号はペアレーダにより送信され、基準レーダは未調整の信号を送信する。調整信号は、コンポジット信号、すなわち図2DのコンポジットベクトルC1及びC2を実現するように時間遅延及び位相において調整される。
【0063】
ブロック318において、コンポジット信号がペアレーダ及び基準レーダにより受信される。コンポジット信号は、たとえば、図2DのコンポジットベクトルC1及びC2に対応することができる。ブロック318において受信される信号は、図1のコヒーレンス保持プロセッサ42又は図3のコヒーレンス保持プロセッサ216により使用される第1の信号対のみに対応する。
【0064】
ブロック320において、ブロック318において受信されたコンポジット信号は、受信にてコヒーレント化される。すなわち、位相シフト及び同相加算が行われる。加算は、
たとえば、図3の加算プロセッサ264により行うことができる。続いて受信されるコンポジット信号も受信にてコヒーレント化される。ブロック320のプロセスについては、図4Dに関連して以下においてさらに説明する。
【0065】
これより図4Aを参照すると、上記較正値を生成するプロセス350がブロック352において開始され、所定の相対時間遅延が、基準レーダを基準にしてペアレーダにより送信される信号間の時間遅延に対応して設定される。ブロック354において、ペアレーダ送信パルスと基準レーダ送信パルスとの間の相対位相差がゼロに設定される。
【0066】
特定の一実施形態では、ブロック352での所定の相対時間遅延は、少なくとも、レーダエネルギーがペアレーダから基準レーダに移動するために必要な時間遅延と同じ長さである。この構成では、レーダパルスがペアレーダ及び基準レーダにより物標に向けて送信される場合、たとえば、図2Aに示したように、いずれのレーダでもモノスタティックリターン及びバイスタティックリターンが時間的に重なることは不可能である。較正中に、モノスタティックリターンとは別個に且つ離れて、各レーダでバイスタティックリターンを識別して比較できることが望ましい。
【0067】
上述したように、バイスタティックリターンは、いかなる瞬間でも全く同じパス長を有する。したがって、ペアレーダ及び基準レーダからの送信パルスが全く同じ時間に送信された(一般にはこれは当てはまらない)ならば、各レーダでバイスタティックリターンをまったく同じ時間遅延で、すなわち同時に受信するはずである。ブロック352での所定の時間遅延は分かっているため、これを受信バイスタティックリターンの相対時間遅延から差し引くことができ、したがって、任意の残りの時間遅延が2基のレーダに関連する内部時間遅延差に対応する。パルスを送信している時間中のバイスタティックパス長の変化に対する軽微な補正はいずれも、以下において明白になるように、物標トラックから利用可能なレンジレート情報に従って求めることができる。同様に、受信バイスタティック物標エコーの任意の残りの位相差も、2基のレーダに関連する内部位相差に対応する。
【0068】
上記時間遅延差及び位相差には、2基のレーダの異なる電子回路応答を含むがこれに限定されない種々の要因が関連し得ることが認められよう。
位相差だけでは360度のすべてで曖昧であるため、レンジ較正及び位相較正を両方とも以下にさらに説明するように行う必要があることも認められよう。たとえば、レーダ間の位相差のみが測定され、これがゼロであったならば、レーダ間のレンジ差もゼロであるか、それとも或る整数波長であるかを判断する方法はない。レーダ間のレンジ差及び位相差を別個に測定することにより、いかなる較正の曖昧さも回避する。
【0069】
ブロック356において、所定の相対時間遅延及びゼロ位相差を有する1つ又は複数のパルスが、ペアレーダ及び基準レーダにより送信され、その結果として、ブロック358において、各レーダでバイスタティック物標エコーを受信する。
【0070】
ブロック360において、2基のレーダでのバイスタティックリターン間の上記位相差に基づいて、位相較正値が特定される。同様に、ブロック362において、バイスタティックリターン間の上記時間遅延差に基づいて、レンジ較正値が特定される。
【0071】
ブロック352での所定の時間遅延が、ブロック356においてペアレーダにより送信されるパルスに適用される場合であっても、物標エコーを受信したときに、所定の時間遅延を、測定された時間遅延から差し引くことができることを認められたい。上述したように、ブロック352において選択され、ブロック356において適用される所定の相対時間遅延によってでは、たとえば、図2Aでのようには、モノスタティックリターンとバイスタティックリターンとは重ならない。
【0072】
これより図4Bを参照すると、上記位相初期化値及びレンジ初期化値を生成するプロセス400がブロック402において開始され、ペアレーダ送信パルスを基準レーダ送信パルスから遅延させる所定の時間遅延が選択される。所定の時間遅延は、図4Aのブロック352に関連して上述した方法及び理由とほぼ同じ方法及び理由で選択される。
【0073】
ブロック404において、ペアレーダ送信パルスと基準レーダ送信パルスとの間の相対位相差がゼロに設定される。
ブロック406において、2つ以上の初期化信号、すなわち送信パルスが、ペアレーダ
及び基準レーダにより送信され、ブロック408において、対応する物標エコーがペアレーダ及び基準レーダにより受信される。受信された物標エコーは、たとえば図2に示すM1、B1、M2、及びB2として述べたものと同様であることができる。モノスタティック物標エコー及びバイスタティック物標エコーはまだ、たとえば図2Aに示すようには重なっていない。
【0074】
受信された物標エコーから、ブロック410において、位相初期化関係が、各レーダで受信されたモノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコーとの間の位相差に対応して生成されるか、又は更新される。ペアレーダにより受信された受信モノスタティック物標エコーと受信バイスタティック物標エコーとの各対間の位相差を用いて、位相初期化関係に新しいデータポイントを提供することができる。また、基準レーダにより受信された受信モノスタティック物標エコーと受信バイスタティック物標エコーとの各対間の位相差を用いて、位相初期化関係に別の新しいデータポイントを提供することができる。
【0075】
特定の一実施形態では、位相初期化関係は、位相差データポイント間の線形最小二乗近似を生成することによって形成される位相レート関係である。しかし、他の実施形態では、線形最小二乗近似以外の数学的関係を用いることができる。位相初期化関係については、図7に関連して以下にさらに説明する。
【0076】
初期化プロセスに使用するパルスレートは、レーダ間の位相変化レートを明確に測定できるようにするために、2基のレーダのコンポジットベクトル間の位相変化がパルス間で+/−180度未満であるようにするのに十分高くなければならない。これにより、初期化プロセスの完了後、パルスレートが低減される(レーダリソース節減のため)場合であってもパルス間の時間にわたる位相変化を明確に測定できるようになり、ひいては、測定された位相レートをレンジレートに直接変換できるようになる(モノスタティック成分及びバイスタティック成分のレンジが重なり、もはや別個に測定できなくなった後でレンジアラインメントを保つため)。
【0077】
同様に、ブロック412において、レンジ初期化関係が、各レーダで受信されたモノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコーとの間のレンジ差に対応して生成されるか、又は更新される。
【0078】
ペアレーダにより受信された受信モノスタティック物標エコーと受信バイスタティック物標エコーとの各対間のレンジ(時間遅延)差を用いて、レンジ初期化関係に新しいデータポイントを提供することができる。また、基準レーダにより受信された受信モノスタティック物標エコーと受信バイスタティック物標エコーとの各対間のレンジ(時間遅延)差を用いて、レンジ初期化関係に別の新しいデータポイントを提供することができる。
【0079】
特定の一実施形態では、レンジ初期化関係は、レンジ(時間遅延)データポイント間の線形最小二乗近似を生成することによって形成されるレンジレート関係である。しかし、他の実施形態では、線形最小二乗近似以外の数学的関係を用いることができる。レンジ初期化関係については、図7Aに関連して以下にさらに説明する。
【0080】
ブロック402での所定の時間遅延が、ブロック406においてペアレーダにより送信されるパルスに適用される場合であっても、物標エコーを受信したときに、所定の時間遅延を、測定された時間遅延から差し引くことができることを認められたい。ブロック402において選択され、ブロック406において適用される所定の相対時間遅延によってでは、たとえば、図2Aでのようには、モノスタティックリターンとバイスタティックリターンとが重ならないことも理解されたい。
【0081】
これより図4Cを参照すると、プロセス450は図4Bのプロセス400の続きである。ブロック452において、位相初期化値が位相初期化関係から予測される。この予測は、次のパルス対がペアレーダ及び基準レーダによって送信されたときに、各レーダで受信されるモノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコーとの予想位相に対応する。予測位相が部分的に物標の移動に関連することが理解されよう。
【0082】
特定の一実施形態では、位相初期化値は、位相データポイント間の上記線形最小二乗関係を用い(図4Bのブロック410)、次に受信する物標エコー対の時間まで、線上で時間的に将来を見ることで予測される。位相初期化関係の最小二乗近似及び予測については
図7に関連して図を用いて以下に説明する。
【0083】
ブロック454において、レンジ(時間遅延)初期化値がレンジ初期化関係から予測される。この予測は、ペアレーダ及び基準レーダにより次のパルス対が送信されたときに、各レーダで受信されるモノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコーとの間の予想レンジ(時間遅延)に対応する。予測レンジが部分的に物標の移動に関連することが理解されよう。
【0084】
特定の一実施形態では、レンジ初期化値は、レンジデータポイント間の上記線形最小二乗関係を用い(図4Bのブロック412)、次に受信する物標エコー対の時間まで、線上で時間的に将来を見ることで予測される。レンジ(時間遅延)初期化関係の最小二乗近似及び予測については図7Aに関連して図により以下において説明する。
【0085】
ブロック456において、予測位相初期化値を用いて、ペアレーダで次に送信されるパルスの位相が調整され、ブロック458において、予測レンジ(時間遅延)初期化値を用いて、ペアレーダで次に送信されるパルスのレンジ(時間遅延)が調整される。さらに、図4Bのブロック402において適用される所定の時間遅延が除去される。
【0086】
ブロック460において、第1のコヒーレント信号、すなわち送信パルスが、ペアレーダ及び基準レーダにより送信される。これらのコヒーレント信号は送信時のみコヒーレントである。前のブロックにおいて受信された物標エコーは、図2に示す物標エコーを典型とするエコーを提供するが、ブロック460の送信コヒーレント信号は、図2Aの物標エコーを典型とする物標エコーとを提供し、各レーダでモノスタティック及びバイスタティックの物標エコーが時間的に重なり、図2CのコンポジットベクトルC1及びC2を典型とするコンポジット信号を提供する。
【0087】
これより図4Dを参照すると、プロセス500が、図4Cのブロック460において最初に提供された送信コヒーレンシ(送信時にコヒーレント化する)を、ここでは続いて送信されるパルスに対して保持する。プロセス600も、受信コンポジット信号の同相加算により受信時にコヒーレンシを提供する。
【0088】
プロセス500は、図4Cのブロック460での信号送信に関連するコンポジット物標エコーを受信し、その位相差を測定することによりブロック502において開始される。受信された物標エコーは、たとえば、モノスタティックリターン及びバイスタティックリターンが同じ信号周波数であり(図3参照)、同時に現れる図2Cに表されるコンポジット信号である。
【0089】
ブロック504において、ペアレーダにより受信されたコンポジット信号の位相が、基準レーダにより受信されたコンポジット信号の位相と比較される。図2Dに関連して上述したように、コンポジット信号間の位相差は、ペアレーダの位相が変更した場合には一定のままであるが、位相差は物標の移動に応答して(また、システムノイズにも応答して)変化する。
【0090】
仮に、図4Cのブロック460において送信されるレーダ信号に適用されたレンジ初期化値及び位相初期化値が完全な予測であるならば、2つのコンポジット物標エコー間の位相角が位相予測と全く同じになるものと予想される。しかし、図4Cのブロック460において送信されるレーダ信号に適用されるレンジ初期化値及び位相初期化値、特に位相予測値は必ずしも完全な予測ではない(測定ノイズ及び予期しない物標の移動により)。したがって、コンポジット信号間の位相残差は位相初期化値の誤差に対応する。残差は、ブロック504において、たとえば図3の測定プロセッサ260により求められる。
【0091】
ブロック506において、ペアレーダ及び基準レーダで受信したコンポジット信号間の位相残差を用いて、コンポジット信号位相関係が生成され、且つ/又は更新される。コンポジット信号位相関係については図8A及び図8Bに関連して以下により十分に説明する。
【0092】
コンポジット信号位相関係は、たとえば、図3の位相レートフィルタ262により保持することができる。上述したように、位相レートフィルタ262は、一般に「アルファ」フィルタとして知られている単純な単一パラメータ平滑化フィルタ(上述)、位相のより高次の時間微分を推定する多項式フィルタ、又は物標の移動モデルを含むことができるカ
ルマンフィルタを含むがこれらに限定されない種々のフィルタのうちの1つ又は複数のフィルタにより実施することができる。
【0093】
ブロック508において、ブロック502において測定されたペアレーダ及び基準レーダで受信されたコンポジット物標エコー間の位相を知ることで、ペアレーダ及び基準レーダで受信されたコンポジット物標エコーがコヒーレントに、すなわち同相で加算されて、最終信号、たとえば図3の最終信号268を提供する。
【0094】
判断ブロック510において、信号が最後の信号ではない場合、プロセスはブロック512に進み、ブロック508の位相関係を用いて、ペアレーダにより次に送信されるパルスでのペアレーダの調整に併せて使用される位相(及びレンジ)について予測が行われる。本明細書では、この予測を「コンポジット位相値」と呼ぶ。いくつかの実施形態では、この予測は、最後のパルスで測定された位相及びレンジ、更新された位相及びレンジレートを用いて線形に行われる。しかし、他の実施形態では、この予測は図3の位相レートフィルタ262により生成される。レーダ間の更新レンジは、レンジが360度の位相変化毎に1波長ずつ変化することを利用して、更新された位相から直接計算することができる。
【0095】
ブロック514において、予測位相(及びレンジ)がペアレーダに適用され、ブロック516において、次のパルス対が2基のレーダにより送信され、ここで、予測はペアレーダに対してのみ適用される。
【0096】
ブロック518において、受信コンポジット物標エコー間の位相差が再び測定される。ブロック520において、測定された位相がブロック512の予測と比較され、ブロック522において、コンポジット信号位相関係が更新される。
【0097】
図4Dの技法を用いて、ペアレーダにより送信されるパルスの位相(及び時間遅延)を、ブロック522のコンポジット信号位相関係により行われる予測に従って(たとえば、位相レートフィルタに従って)調整して、図2Dに図で示す送信時のコヒーレント性を保持することができる。これにより、モノスタティック物標エコー及びバイスタティック物標エコーがコヒーレントに同相加算され、それにより信号利得が向上する。コヒーレント化されたコンポジット信号はブロック508において加算され、さらに高い処理利得を実現する。
【0098】
図5〜図8Cは、図4〜図4Dに関連して説明したプロセスを絵図の形態で示す。
これより図5を参照すると、グラフにより、図4のブロック310及び図4Aの較正プロセス350の絵図表現が示される。このグラフは、時間単位の横軸及び図1のペアレーダ16及び基準レーダ26により受信されるバイスタティック物標エコー間の位相差に対応する縦軸を有する。点は、連続した送信レーダパルスに対応してペアレーダ及び基準レーダで受信されるバイスタティック物標エコー間の位相差ψの連続した測定値に対応する。図2Aに関連して説明したように、仮に2基のレーダに内部位相差がなければ、2つのバイスタティックリターンの位相が揃うものと予想される。しかし、位相差ψが2基のレーダでのバイスタティックリターン間で測定される。位相差ψは上述した較正値である。
【0099】
位相較正値は、ペアレーダ及び基準レーダにより送信される1つのみのパルスを用いて求めることができる。しかし、示すように複数のパルス及び対応する複数の位相測定データポイントを使用して、その結果得られる位相較正値の精度を向上させることができる。
【0100】
バイスタティック物標エコー間の位相が、物標が移動するときであっても本質的に一定であると予想されることを理解されたい。したがって、2基のレーダでのバイスタティック物標エコー間の位相測定は移動している物標に対しても行うことができる。
【0101】
これより図5Aを参照すると、グラフで、図4のブロック310及び図4Aの較正プロセス350のさらなる態様の絵図表現が示される。このグラフは、時間単位の横軸及び図1のペアレーダ16及び基準レーダ26により受信されるバイスタティック物標エコー間のレンジ(時間遅延)差に対応する縦軸を有する。点は、ペアレーダ及び基準レーダで受信されるバイスタティック物標エコー間のレンジ差の連続した測定値に対応する。図2Aに関連して説明したように、仮に2基のレーダに内部レンジ(時間遅延)差がなければ、2つのバイスタティックリターンのレンジが揃うものと予想される。しかし、示すように
、レンジ差Rが2基のレーダのバイスタティックリターン間で測定される。値Rは上述したレンジ較正値である。
【0102】
レンジ較正値は、ペアレーダ及び基準レーダにより送信される1つのみのパルスを用いて求めることができる。しかし、示すように複数のパルス及び対応する複数のレンジ測定ポイントを使用して、その結果得られるレンジ較正値の精度を向上させることができる。
【0103】
バイスタティック物標エコー間の時間遅延(レンジ)が、物標が移動するときであっても一定であると予想されることを認められたい。したがって、2基のレーダでのバイスタティック物標エコー間のレンジ測定は移動している物標に対しても行うことができる。
【0104】
図4Aのボックス352に関連して上述したように、基準レーダを基準にして所定の時間遅延をペアレーダに適用することが望ましいことがある。所定の時間遅延を受信バイスタティック信号から除去して、図5Aの測定値に辿り着くことができる。
【0105】
これより図6を参照すると、グラフにより、図4のブロック310及び図4Aの較正プロセス350に関連するベクトルが示される。ベクトルB1及びB2は、図5に関連して上述したように、位相差ψを有する未較正のペアレーダ及び未較正の基準レーダで受信されるバイスタティック物標エコーに対応する。ベクトルM1及びM2は、ペアレーダ及び基準レーダのそれぞれで受信されるモノスタティック物標エコーに対応する。
【0106】
これより図6Aを参照すると、グラフで、位相較正値ψが送信パルス(図示せず)に適用されて2つのバイスタティック物標エコーB1及びB2が揃えられた後、図6の物標エコー後に受信される物標エコーのベクトル表現が示される。
【0107】
これより図6Bを参照すると、グラフにより、レンジ較正値Rが送信パルス(図示せず)に適用されて、ベクトルB1及びB2で示される2つのバイスタティック物標エコーの位相がさらに揃えられた後、図6Aの物標エコー後に受信される物標エコーのベクトル表現が示される。レンジ較正値は単に360度の倍数に対応することができ、それにより、図6Aに示される2つのバイスタティック物標エコーB1及びB2と同じように揃った位相になる。
【0108】
したがって、図6Aに示されるベクトル関係が、図6Bでのようにレンジ較正が適用された後でもあまり変わらないことを理解されたい。デジタル波形ジェネレータにより開始時間及び位相の両方を独立して制御可能な近代のレーダが使用されるものと仮定される。したがって、較正プロセスを行う必要があるのは、追尾中に1回だけである。位相較正値及びレンジ較正値が一般に同時に使用されることが認められよう。
【0109】
これより図7を参照すると、グラフにより、図4のブロック314及び図4Cのブロック452での予測位相初期化値の生成が示される。横軸が時間に対応し、縦軸が、ペアレーダ及び基準レーダで受信されるモノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコーとの間の位相差に対応する。黒丸のデータポイントが、ペアレーダでの位相差を表し、白丸のデータポイントがペアレーダ及び基準レーダにより送信される複数のレーダパルスに対応する基準レーダでの位相差を表す。レーダ間の初期位相パラメータ及び位相レートパラメータを求めるために、少なくとも2つのレーダパルスが必要である。しかし、例示するように、3つ以上のパルスを使用してパラメータ推定精度を向上させることができる。最後に測定されたデータポイントは時間tmにおいて行われる。
【0110】
移動している物標に対してであってもほぼ一定の位相差を有する、ペアレーダ及び基準レーダにより受信されるバイスタティック物標エコー間の図5に描かれる位相差と異なり、モノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコーとの間の図7に描かれる位相差は一定ではなく、示すように移動している物標に伴って変化する。
【0111】
図示する傾き(dθ/dt)0を有する最小二乗近似線を生成することができる。次に、両方のレーダからのデータポイントに基づく最小二乗近似線を用いて、時間tpにおいて行われるペアレーダ及び基準レーダから次に送信されるレーダ信号に関連する予想位相差を予測することができる。時間tpでの各レーダの予測位相は、図7において対応する四角で表される。
【0112】
時間tpでの最小二乗近似線に沿った位相は、図4Cのボックス452に関連して上述した予測位相初期化値に対応する。
これより図7Aを参照して、グラフで、図4のブロック314及び図4Cのブロック454でのようなレンジ初期化値の生成を絵図で示す。横軸が時間に対応し、縦軸が、ペアレーダ及び基準レーダで受信されるモノスタティック及びバイスタティックの物標エコー間のレンジ(時間遅延)差に対応する。黒丸のデータポイントが、ペアレーダで行われるレンジ差測定を表し、白丸のデータポイントがペアレーダ及び基準レーダにより送信される複数のレーダパルスに対応する基準レーダで同時に行われるレンジ差測定を表す。レンジ差及び位相差の両方を、初期化中に各レーダで各パルスについて測定することができるため、初期位相予測及び初期レンジ予測の生成に別個のパルストレインは必要ない。最後に測定されるデータポイントは時間tmにおいて行われる。
【0113】
移動している物標に対してであってもほぼ一定のレンジ差を有する、ペアレーダ及び基準レーダにより受信されるバイスタティック物標エコー間の図5Aに描かれるレンジ(時間遅延)差と異なり、モノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコー間の図7に描かれるレンジ差は一定ではなく、示すように移動している物標に伴って変化する。
【0114】
図示するような傾き(dR/dt)0を有する最小二乗近似線を生成することができる。次に、最小二乗近似線を用いて、時間tpにおいてペアレーダ及び基準レーダから次に送信されるレーダ信号に関連する予想レンジ(時間遅延)差を予測することができる。2基の各レーダの予測レンジ差は対応する四角で表される。
【0115】
時間tpでの最小二乗近似線に沿ったレンジは、図4Cのボックス454に関連して上述した予測レンジ初期化値に対応する。
これより図8を参照して、ベクトル図に、上記位相較正値、レンジ較正値、位相初期化値、及びレンジ初期化値が最初にペアレーダにより送信されるパルスに適用されるとき、すなわち較正機能及び初期化機能後に、ペアレーダ及び基準レーダのそれぞれで受信される物標エコーを示す。モノスタティック物標エコーM1及びバイスタティック物標エコーB1がペアレーダにより受信され、モノスタティック物標エコーM2及びバイスタティック物標エコーB2が基準レーダにより受信される。上述した初期化値が(及び上記較正値も)送信パルスに適用されると、モノスタティック物標エコーM1及びバイスタティック物標エコーB1並びにモノスタティック物標エコーM2及びバイスタティック物標エコーB2も、たとえば図2Dにも示すように、時間的に重なるとともに、大まかに位相でも重なる。モノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコーは時間及び位相で重なるため、ペアレーダで受信される信号はベクトルC1として表されるコンポジット信号であり、基準レーダで受信される信号はベクトルC2で表されるコンポジット信号である。
【0116】
モノスタティック物標エコーM1の位相がバイスタティック物標エコーB1の位相と必ずしも完全に揃うわけではなく、したがって、第1のコンポジットベクトルC1が必ずしも2つの信号を完全にコヒーレントに加算したものではないことが認識されよう。同様に、モノスタティック物標エコーM2の位相がバイスタティック物標エコーB2の位相と必ずしも完全に揃うわけではなく、したがって、第2のコンポジットベクトルC2が必ずしも2つの信号を完全にコヒーレントに加算したものではないことが認識されよう。モノスタティック物標エコー及びバイスタティック物標エコーの間の位相差は、位相残差θEとして表される。ここで、θEは、レーダ間の予測位相(最後の送信パルス対間の相対位相を設定するために使用される)とレーダ間の実際の位相(最新の送信パルスを受信した後にコンポジットベクトルC1とC2とを比較することにより測定される)との差である。上述したように、位相誤差θEは送信時での完全なコヒーレント性の欠如に関与し、さらなる処理によって回復することができない。それに代えて、θEは、先に述べたように次の位相予測に使用される位相レートの補正に使用され、測定の有限SNRが許す限り、送信時のコヒーレント性の欠如をゼロに近づける。
【0117】
位相角θEは直接測定できないが、後述するように、2つのコンポジット信号C1及びC2間の位相角θを測定し、測定値を前のパルス対のときに生成された予測位相角θPと比較することにより得ることができる。
【0118】
これより図8Aを参照すると、上述したように、最後の位相予測θPが、コンポジットベクトル間の位相差から図4Dのブロック504に従って減算されて、位相残差θEが特
定される。
【0119】
これより図8Bを参照すると、グラフは、時間単位の横軸及び位相角単位の縦軸を有する。黒丸の点は、図8Aに関連して上述したように、いくつかの送受信されたレーダパルスに関連して得られる位相残差θEに対応する。いくつかの送受信されたレーダパルスに関連して測定される位相残差は、図4Dのブロック506及び522に従って、γで示される曲線を典型とするコンポジット信号位相関係を提供することができる。時間tPでの四角は、時間tPで送信されるパルス対に関連して発生する次の予測位相誤差に対応し、これを用いて、次のパルス対でペアレーダに適用される次の予測位相を生成することができる。
【0120】
曲線γ及び将来の時間tPでの予測位相誤差を図3の位相レートフィルタ262により生成することができ、したがって、位相レートフィルタ262が、コンポジット信号位相/レンジ予測プロセッサ258(図3)と併せて、黒丸の点で示される、前に送信されたパルス対に関連して測定された位相誤差を考慮して、時間tPにおいて次に送信されるパルス対に関連する位相推定を提供できることが認められよう。
【0121】
本質的に、新しく予測された位相残差を用いて新しいコンポジット位相値を生成し、ペアレーダにより送信される次のレーダパルスの位相を調整することができる。
これより図8Cを参照すると、図8Aでのように最後のパルスからのコンポジットベクトルC1、C2間の位相差θを両方のレーダで測定することができ、また、ベクトルC1及びC2で表される信号を位相回転させることができ、その結果、それらの信号を同相加算して(受信時でのコヒーレント化)、ベクトルC3で表される受信時コヒーレント信号を生成する。
【0122】
上記プロセスは次の送信パルス対に対して繰り返され、物標がレーダのカバレージゾーンを去るまで繰り返される。各パルス対の処理は、最後のパルス対が処理されてからレーダ間の位相で実際に起こった変化に関連する予測位相残差値θEを生成し、したがって、実際の位相レートを提供する。実際の位相レートを用いて、図3の位相レートフィルタ262が更新され、次いで、実際のレンジレートが計算され、その結果、レーダ間のレンジ変更を計算して、次のパルス対に対するレーダ間の相対レンジオフセット及び相対位相オフセットの設定時に考慮に入れることができる。
【0123】
本明細書において引用したすべての参照は、参照により全体が本明細書に援用される。
本発明の好ましい実施形態について説明したが、ここで、それぞれの概念を組み込む他の実施形態を使用できることが当業者には明白であろう。したがって、これらの実施形態は開示される実施形態に限定されるべきではなく、むしろ、特許請求の範囲の精神及び範囲によってのみ限定されるべきであると考える。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】本発明によるコヒーレンスプロセッサを有する例示的なレーダシステムのブロック図である。
【図2】両方のレーダが同時に送信する場合に2基の各レーダが受信するモノスタティック物標エコー及びバイスタティック物標エコーの図である。
【図2A】モノスタティックリターンとバイスタティックリターンが両方のレーダで時間的に重なるように一方のレーダからの送信が他方のレーダからの送信に対して遅延する場合に、2基の各レーダが受信するモノスタティック物標エコー及びバイスタティック物標エコーの図である。
【図2B】モノスタティックリターンとバイスタティックリターンが両方のレーダで時間的に重ならない場合に、図2による2基のレーダが受信するモノスタティック物標エコー及びバイスタティック物標エコーの相対位相を示すベクトル図である。
【図2C】モノスタティックリターンとバイスタティックリターンが時間的に重なるように一方のレーダからのパルスの開始時間が調整されている、図2Aによる2基のレーダが受信するモノスタティック物標エコー及びバイスタティック物標エコーの相対位相を示すベクトル図である。
【図2D】モノスタティックリターンとバイスタティックリターンが時間的に重なり、且つ位相が位置合わせされるように、一方のレーダの開始時間及び位相の両方が調整されている、図2Aによる2基のレーダが受信するモノスタティック物標エコー及びバイスタティック物標エコーの相対位相を示すベクトル図である。
【図3】図1の要素をさらに詳細に示すレーダシステムのブロック図である。
【図4】2基のレーダをコヒーレント化する方法を示すフローチャートである。
【図4A】2基のレーダの較正を含む、図4の方法の一部をさらに詳細に示すフローチャートである。
【図4B】2基のレーダの初期化を含む、図4の方法の別の部分をさらに詳細に示すフローチャートである。
【図4C】2基のレーダの初期化を含む、図4の方法の別の部分をさらに詳細に示すフローチャートである。
【図4D】2基のレーダのコヒーレンス保持を含む、図4の方法のさらに別の部分をさらに詳細に示すフローチャートである。
【図5】図4Aの較正方法に関連する絵図を示すグラフである。
【図5A】図4Aの較正方法に関連する絵図を示すグラフである。
【図6】図4Aの較正方法に関連する別の絵図を示すベクトル図である。
【図6A】図4Aの較正方法に関連する別の絵図を示すベクトル図である。
【図6B】図4Aの較正方法に関連する別の絵図を示すベクトル図である。
【図7】図4B及び図4Cの初期化方法に関連する絵図を示すグラフである。
【図7A】図4B及び図4Cの初期化方法に関連する絵図を示すグラフである。
【図8】図4Dのコヒーレンス保持に関連する絵図を示すグラフである。
【図8A】図4Dのコヒーレンス保持に関連する絵図を示すグラフである。
【図8B】図4Dのコヒーレンス保持に関連する絵図を示すグラフである。
【図8C】図4Dのコヒーレンス保持に関連する絵図を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のレーダを較正する方法であって、
複数のレーダの中から基準レーダを選択し、
前記1つ又は複数のレーダ対を選択し、前記レーダ対のそれぞれは前記基準レーダ及び前記複数のレーダの中からの各ペアレーダを含み、
前記基準レーダ及び前記ペアレーダに関連する較正値を生成し、
前記基準レーダ及び前記ペアレーダに関連する初期化値を生成し、
調整信号を前記ペアレーダで送信すると共に未調整信号を前記基準レーダで送信し、前記調整信号は前記初期化値及び前記較正値に従って生成され、
前記基準レーダで第1のコンポジット信号を受信すると共に前記ペアレーダで第2のコンポジット信号を受信し、前記第1のコンポジット信号及び第2のコンポジット信号は前記調整信号及び前記未調整信号に関連し、
前記第1のコンポジット信号と前記第2のコンポジット信号とをコヒーレントに加算し、それによって最終信号を提供する、
ことを含む方法。
【請求項2】
前記較正値を生成することは、
1つ又は複数の較正信号を前記基準レーダで送信すると共に1つ又は複数の較正信号を前記ペアレーダで送信すること、
前記基準レーダで前記バイスタティック物標エコーのそれぞれを受信すること、
前記ペアレーダで前記バイスタティック物標エコーのそれぞれを受信し、前記基準レーダのバイスタティック物標エコー並びに前記ペアレーダのバイスタティック物標エコーには、前記基準レーダにより送信される前記1つ又は複数の較正信号及び前記ペアレーダにより送信される前記1つ又は複数の較正信号が関連すること、
前記基準レーダにより受信されるバイスタティック物標エコーと前記ペアレーダにより受信されるバイスタティック物標エコーとの間の位相に従って位相較正関係を生成すること、
前記基準レーダにより受信されるバイスタティック物標エコーと前記ペアレーダにより受信されるバイスタティック物標エコーとの間の時間遅延に従ってレンジ較正関係を生成すること、
を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記初期値を生成することは、
1つ又は複数の初期化信号を前記基準レーダで送信すると共に1つ又は複数の初期化信号を前記ペアレーダで送信すること、
前記基準レーダでモノスタティック物標エコー及びバイスタティック物標エコーのそれぞれを受信すること、
前記ペアレーダで前記モノスタティック物標エコー及び前記バイスタティック物標エコーのそれぞれを受信し、前記基準レーダのモノスタティック物標エコー及びバイスタティック物標エコー並びに前記ペアレーダのモノスタティック物標エコー及びバイスタティック物標エコーには、前記基準レーダにより送信される前記1つ又は複数の初期化信号及び前記ペアレーダにより送信される前記1つ又は複数の初期化信号が関連すること、
前記基準レーダにより受信されるモノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコーとの間の位相及び前記ペアレーダにより受信されるモノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコーとの間の位相に従って位相初期化関係を生成すること、
前記基準レーダにより受信されるモノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコーとの間の時間遅延及び前記ペアレーダにより受信されるモノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコーとの間の時間遅延に従ってレンジ初期化関係を生成すること、
を含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記位相初期化関係及び前記レンジ初期化関係のうちの少なくとも一方は、線形最小二乗近似に従って生成される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記レンジ初期化関係に関連するレンジ初期化値及び前記位相初期化関係に関連する位相初期化値を予測することをさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記ペアレーダで前記調整信号を送信すると共に前記基準レーダで前記未調整信号を送信することは、
前記位相初期化関係に関連する位相初期化値を予測すること、
前記レンジ初期化関係に関連するレンジ初期化値を予測すること、
前記位相初期化値及び前記レンジ初期化値に従って前記基準レーダに対する前記ペアレーダの相対位相及び相対時間遅延を調整すること、
を含む請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記第1のコンポジット信号及び前記第2のコンポジット信号をコヒーレントに加算することは、
前記第1のコンポジット信号と前記第2のコンポジット信号との間の位相を測定すること、
前記第1のコンポジット信号と前記第2のコンポジット信号との間で測定される前記位相に従って、前記第1及び第2のコンポジット信号の相対位相を揃え、それによって揃った第1のコンポジット信号及び揃った第2のコンポジット信号を提供すること、
前記揃った第1のコンポジット信号及び前記揃った第2のコンポジット信号を加算すること、
を含む請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記コヒーレントに加算することは、
前記第1のコンポジット信号と前記第2のコンポジット信号との間の位相に従って位相残差を測定すること、
前記位相残差に従ってコンポジット信号位相関係を生成すること、
前記コンポジット信号位相関係からコンポジット位相値を予測すること、
をさらに含む請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記コンポジット信号位相関係はアルファ関数を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
第2の調整信号を前記ペアレーダで送信すると共に前記未調整信号を前記基準レーダで送信し、前記第2の調整信号は、前記初期化値、前記較正値、及び前記コンポジット位相値に従って生成される、第2の調整信号を前記ペアレーダで送信すると共に前記未調整信号を前記基準レーダで送信すること、
第3のコンポジット信号を前記基準レーダで送信すると共に第4のコンポジット信号を前記ペアレーダで送信し、前記第3のコンポジット信号及び第4のコンポジット信号は前記第2の調整信号及び前記未調整信号に関連する、第3のコンポジット信号を前記基準レーダで送信すると共に第4のコンポジット信号を前記ペアレーダで送信すること、
前記第3のコンポジット信号及び前記第4のコンポジット信号をコヒーレントに加算し、それによって第2の最終信号を提供すること、
をさらに含む請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記第3のコンポジット信号及び前記第4のコンポジット信号をコヒーレントに加算することは、
前記第3のコンポジット信号と前記第4のコンポジット信号との間の位相を測定すること、
前記第3のコンポジット信号と前記第4のコンポジット信号との間で測定される前記位相に従って、前記第3のコンポジット信号及び前記第4のコンポジット信号の相対位相を揃え、それによって揃った第3のコンポジット信号及び揃った第4のコンポジット信号を提供すること、
前記揃った第3のコンポジット信号及び前記揃った第4のコンポジット信号を加算すること、
を含む請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第3のコンポジット信号及び前記第4のコンポジット信号をコヒーレントに加算することは、
前記第3のコンポジット信号と前記第4のコンポジット信号との間の位相に従って第2の位相残差を測定すること、
前記第2の位相残差に従って前記コンポジット信号位相関係を更新すること、
更新した前記コンポジット信号位相関係から更新したコンポジット位相値を予測すること、
をさらに含む請求項11に記載の方法。
【請求項13】
複数のレーダを較正する装置であって、
基準レーダ及びペアレーダを含む、前記複数のレーダの中からのレーダ対のそれぞれにより提供される少なくともそれぞれ1つの物標トラックを関連付ける関連プロセッサと、
前記関連プロセッサに結合されて前記レーダ対に関連する較正値を提供する較正プロセッサと、
前記較正プロセッサに結合されて前記レーダ対に関連する初期化値を提供する初期化プロセッサと、
前記初期化プロセッサに結合され、前記基準レーダにより送信される第1の信号及び前記ペアレーダにより送信される第2の信号のうちの少なくとも一方を、前記初期化値及び前記較正値に従って調整すると共に、前記基準レーダにより受信される第1のコンポジット信号と前記ペアレーダにより受信される第2のコンポジット信号とをコヒーレントに加算するコヒーレンス保持プロセッサと、
を備える装置。
【請求項14】
前記較正プロセッサは、
前記関連プロセッサに結合され、前記基準レーダ及び前記ペアレーダにより受信されるバイスタティック物標エコー間の位相に従って位相較正関係を生成すると共に位相較正値を生成する位相較正プロセッサと、
前記関連プロセッサに結合され、前記基準レーダ及び前記ペアレーダにより受信されるバイスタティック物標エコー間の時間遅延に従ってレンジ較正関係を生成すると共にレンジ較正値を生成するレンジ較正プロセッサと、
を備える請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記初期化プロセッサは、
前記較正プロセッサに結合され、前記基準レーダにより受信されるモノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコーとの間の位相及び前記ペアレーダにより受信されるモノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコーとの間の位相に従って位相初期化関係を生成する位相予測プロセッサと、
前記較正プロセッサに結合され、前記基準レーダにより受信されるモノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコーとの間の時間遅延及び前記ペアレーダにより受信されるモノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコーとの間の時間遅延に従
ってレンジ初期化関係を生成するレンジ予測プロセッサと、
を備える請求項13に記載の装置。
【請求項16】
前記位相予測プロセッサ及び前記レンジ予測プロセッサはそれぞれ、それぞれの最小二乗近似プロセッサを含む、請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記位相予測プロセッサはさらに、前記位相初期化関係に従って位相初期化値を生成し、前記レンジ初期化関係に従ってレンジ初期化値を生成する、請求項15に記載の装置。
【請求項18】
前記コヒーレンス保持プロセッサは、
前記第1のコンポジット信号と前記第2のコンポジット信号との間の位相を測定する測定プロセッサと、
前記測定プロセッサに結合され、コンポジット信号位相関係を生成する位相レートフィルタと、
前記位相レートフィルタに結合され、前記コンポジット信号位相関係に従ってコンポジット位相値を予測する予測プロセッサと、
を備える請求項13に記載の装置。
【請求項19】
前記位相レートフィルタはアルファ関数フィルタを含む、請求項18に記載の装置。
【請求項20】
前記位相レートフィルタはカルマンフィルタを含む、請求項18に記載の装置。
【請求項21】
前記位相レートフィルタは最小二乗近似プロセッサを含む、請求項18に記載の装置。
【請求項22】
複数のレーダを較正する装置であって、
基準レーダ及びペアレーダを含む、前記複数のレーダの中からのレーダ対のそれぞれにより提供される少なくともそれぞれ1つの物標トラックを関連付ける関連プロセッサと、
前記関連プロセッサに結合される較正プロセッサであって、
前記基準レーダ及び前記ペアレーダにより受信されるバイスタティック物標エコー間の位相に従って位相較正関係を生成すると共に、位相較正値を生成する位相較正プロセッサと、
前記基準レーダ及び前記ペアレーダにより受信されるバイスタティック物標エコー間の時間遅延に従ってレンジ較正関係を生成すると共に、レンジ較正値を生成するレンジ較正プロセッサと、
を含む、較正プロセッサと、
前記較正プロセッサに結合される初期化プロセッサであって、
前記較正プロセッサに結合され、前記基準レーダにより受信されるモノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコーとの間の位相及び前記ペアレーダにより受信されるモノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコーとの間の位相に従って位相初期化関係を生成する位相予測プロセッサと、
前記較正プロセッサに結合され、前記基準レーダにより受信されるモノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコーとの間の時間遅延及び前記ペアレーダにより受信されるモノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコーとの間の時間遅延に従ってレンジ初期化関係を生成するレンジ予測プロセッサと、
を含む、初期化プロセッサと、
前記初期化プロセッサに結合され、前記基準レーダにより送信される第1の信号及び前記ペアレーダにより送信される第2の信号のうちの少なくとも一方を、前記位相初期化値、前記レンジ初期化値、前記位相較正値、及び前記レンジ較正値に従って調整すると共に、前記基準レーダにより受信される第1のコンポジット信号と前記ペアレーダにより受信される第2のコンポジット信号とをコヒーレントに加算するコヒーレンス保持プロセッサ
であって、
前記第1のコンポジット信号と前記第2のコンポジット信号との間の位相を測定する測定プロセッサと、
前記測定プロセッサに結合され、コンポジット信号位相関係を生成する位相レートフィルタと、
前記位相レートフィルタに結合され、前記コンポジット信号位相関係に従ってコンポジット位相値を予測する予測プロセッサと、
を含む、コヒーレンス保持プロセッサと、
を備える装置。
【請求項1】
複数のレーダを較正する方法であって、
複数のレーダの中から基準レーダを選択し、
前記1つ又は複数のレーダ対を選択し、前記レーダ対のそれぞれは前記基準レーダ及び前記複数のレーダの中からの各ペアレーダを含み、
前記基準レーダ及び前記ペアレーダに関連する較正値を生成し、
前記基準レーダ及び前記ペアレーダに関連する初期化値を生成し、
調整信号を前記ペアレーダで送信すると共に未調整信号を前記基準レーダで送信し、前記調整信号は前記初期化値及び前記較正値に従って生成され、
前記基準レーダで第1のコンポジット信号を受信すると共に前記ペアレーダで第2のコンポジット信号を受信し、前記第1のコンポジット信号及び第2のコンポジット信号は前記調整信号及び前記未調整信号に関連し、
前記第1のコンポジット信号と前記第2のコンポジット信号とをコヒーレントに加算し、それによって最終信号を提供する、
ことを含む方法。
【請求項2】
前記較正値を生成することは、
1つ又は複数の較正信号を前記基準レーダで送信すると共に1つ又は複数の較正信号を前記ペアレーダで送信すること、
前記基準レーダで前記バイスタティック物標エコーのそれぞれを受信すること、
前記ペアレーダで前記バイスタティック物標エコーのそれぞれを受信し、前記基準レーダのバイスタティック物標エコー並びに前記ペアレーダのバイスタティック物標エコーには、前記基準レーダにより送信される前記1つ又は複数の較正信号及び前記ペアレーダにより送信される前記1つ又は複数の較正信号が関連すること、
前記基準レーダにより受信されるバイスタティック物標エコーと前記ペアレーダにより受信されるバイスタティック物標エコーとの間の位相に従って位相較正関係を生成すること、
前記基準レーダにより受信されるバイスタティック物標エコーと前記ペアレーダにより受信されるバイスタティック物標エコーとの間の時間遅延に従ってレンジ較正関係を生成すること、
を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記初期値を生成することは、
1つ又は複数の初期化信号を前記基準レーダで送信すると共に1つ又は複数の初期化信号を前記ペアレーダで送信すること、
前記基準レーダでモノスタティック物標エコー及びバイスタティック物標エコーのそれぞれを受信すること、
前記ペアレーダで前記モノスタティック物標エコー及び前記バイスタティック物標エコーのそれぞれを受信し、前記基準レーダのモノスタティック物標エコー及びバイスタティック物標エコー並びに前記ペアレーダのモノスタティック物標エコー及びバイスタティック物標エコーには、前記基準レーダにより送信される前記1つ又は複数の初期化信号及び前記ペアレーダにより送信される前記1つ又は複数の初期化信号が関連すること、
前記基準レーダにより受信されるモノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコーとの間の位相及び前記ペアレーダにより受信されるモノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコーとの間の位相に従って位相初期化関係を生成すること、
前記基準レーダにより受信されるモノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコーとの間の時間遅延及び前記ペアレーダにより受信されるモノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコーとの間の時間遅延に従ってレンジ初期化関係を生成すること、
を含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記位相初期化関係及び前記レンジ初期化関係のうちの少なくとも一方は、線形最小二乗近似に従って生成される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記レンジ初期化関係に関連するレンジ初期化値及び前記位相初期化関係に関連する位相初期化値を予測することをさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記ペアレーダで前記調整信号を送信すると共に前記基準レーダで前記未調整信号を送信することは、
前記位相初期化関係に関連する位相初期化値を予測すること、
前記レンジ初期化関係に関連するレンジ初期化値を予測すること、
前記位相初期化値及び前記レンジ初期化値に従って前記基準レーダに対する前記ペアレーダの相対位相及び相対時間遅延を調整すること、
を含む請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記第1のコンポジット信号及び前記第2のコンポジット信号をコヒーレントに加算することは、
前記第1のコンポジット信号と前記第2のコンポジット信号との間の位相を測定すること、
前記第1のコンポジット信号と前記第2のコンポジット信号との間で測定される前記位相に従って、前記第1及び第2のコンポジット信号の相対位相を揃え、それによって揃った第1のコンポジット信号及び揃った第2のコンポジット信号を提供すること、
前記揃った第1のコンポジット信号及び前記揃った第2のコンポジット信号を加算すること、
を含む請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記コヒーレントに加算することは、
前記第1のコンポジット信号と前記第2のコンポジット信号との間の位相に従って位相残差を測定すること、
前記位相残差に従ってコンポジット信号位相関係を生成すること、
前記コンポジット信号位相関係からコンポジット位相値を予測すること、
をさらに含む請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記コンポジット信号位相関係はアルファ関数を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
第2の調整信号を前記ペアレーダで送信すると共に前記未調整信号を前記基準レーダで送信し、前記第2の調整信号は、前記初期化値、前記較正値、及び前記コンポジット位相値に従って生成される、第2の調整信号を前記ペアレーダで送信すると共に前記未調整信号を前記基準レーダで送信すること、
第3のコンポジット信号を前記基準レーダで送信すると共に第4のコンポジット信号を前記ペアレーダで送信し、前記第3のコンポジット信号及び第4のコンポジット信号は前記第2の調整信号及び前記未調整信号に関連する、第3のコンポジット信号を前記基準レーダで送信すると共に第4のコンポジット信号を前記ペアレーダで送信すること、
前記第3のコンポジット信号及び前記第4のコンポジット信号をコヒーレントに加算し、それによって第2の最終信号を提供すること、
をさらに含む請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記第3のコンポジット信号及び前記第4のコンポジット信号をコヒーレントに加算することは、
前記第3のコンポジット信号と前記第4のコンポジット信号との間の位相を測定すること、
前記第3のコンポジット信号と前記第4のコンポジット信号との間で測定される前記位相に従って、前記第3のコンポジット信号及び前記第4のコンポジット信号の相対位相を揃え、それによって揃った第3のコンポジット信号及び揃った第4のコンポジット信号を提供すること、
前記揃った第3のコンポジット信号及び前記揃った第4のコンポジット信号を加算すること、
を含む請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第3のコンポジット信号及び前記第4のコンポジット信号をコヒーレントに加算することは、
前記第3のコンポジット信号と前記第4のコンポジット信号との間の位相に従って第2の位相残差を測定すること、
前記第2の位相残差に従って前記コンポジット信号位相関係を更新すること、
更新した前記コンポジット信号位相関係から更新したコンポジット位相値を予測すること、
をさらに含む請求項11に記載の方法。
【請求項13】
複数のレーダを較正する装置であって、
基準レーダ及びペアレーダを含む、前記複数のレーダの中からのレーダ対のそれぞれにより提供される少なくともそれぞれ1つの物標トラックを関連付ける関連プロセッサと、
前記関連プロセッサに結合されて前記レーダ対に関連する較正値を提供する較正プロセッサと、
前記較正プロセッサに結合されて前記レーダ対に関連する初期化値を提供する初期化プロセッサと、
前記初期化プロセッサに結合され、前記基準レーダにより送信される第1の信号及び前記ペアレーダにより送信される第2の信号のうちの少なくとも一方を、前記初期化値及び前記較正値に従って調整すると共に、前記基準レーダにより受信される第1のコンポジット信号と前記ペアレーダにより受信される第2のコンポジット信号とをコヒーレントに加算するコヒーレンス保持プロセッサと、
を備える装置。
【請求項14】
前記較正プロセッサは、
前記関連プロセッサに結合され、前記基準レーダ及び前記ペアレーダにより受信されるバイスタティック物標エコー間の位相に従って位相較正関係を生成すると共に位相較正値を生成する位相較正プロセッサと、
前記関連プロセッサに結合され、前記基準レーダ及び前記ペアレーダにより受信されるバイスタティック物標エコー間の時間遅延に従ってレンジ較正関係を生成すると共にレンジ較正値を生成するレンジ較正プロセッサと、
を備える請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記初期化プロセッサは、
前記較正プロセッサに結合され、前記基準レーダにより受信されるモノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコーとの間の位相及び前記ペアレーダにより受信されるモノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコーとの間の位相に従って位相初期化関係を生成する位相予測プロセッサと、
前記較正プロセッサに結合され、前記基準レーダにより受信されるモノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコーとの間の時間遅延及び前記ペアレーダにより受信されるモノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコーとの間の時間遅延に従
ってレンジ初期化関係を生成するレンジ予測プロセッサと、
を備える請求項13に記載の装置。
【請求項16】
前記位相予測プロセッサ及び前記レンジ予測プロセッサはそれぞれ、それぞれの最小二乗近似プロセッサを含む、請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記位相予測プロセッサはさらに、前記位相初期化関係に従って位相初期化値を生成し、前記レンジ初期化関係に従ってレンジ初期化値を生成する、請求項15に記載の装置。
【請求項18】
前記コヒーレンス保持プロセッサは、
前記第1のコンポジット信号と前記第2のコンポジット信号との間の位相を測定する測定プロセッサと、
前記測定プロセッサに結合され、コンポジット信号位相関係を生成する位相レートフィルタと、
前記位相レートフィルタに結合され、前記コンポジット信号位相関係に従ってコンポジット位相値を予測する予測プロセッサと、
を備える請求項13に記載の装置。
【請求項19】
前記位相レートフィルタはアルファ関数フィルタを含む、請求項18に記載の装置。
【請求項20】
前記位相レートフィルタはカルマンフィルタを含む、請求項18に記載の装置。
【請求項21】
前記位相レートフィルタは最小二乗近似プロセッサを含む、請求項18に記載の装置。
【請求項22】
複数のレーダを較正する装置であって、
基準レーダ及びペアレーダを含む、前記複数のレーダの中からのレーダ対のそれぞれにより提供される少なくともそれぞれ1つの物標トラックを関連付ける関連プロセッサと、
前記関連プロセッサに結合される較正プロセッサであって、
前記基準レーダ及び前記ペアレーダにより受信されるバイスタティック物標エコー間の位相に従って位相較正関係を生成すると共に、位相較正値を生成する位相較正プロセッサと、
前記基準レーダ及び前記ペアレーダにより受信されるバイスタティック物標エコー間の時間遅延に従ってレンジ較正関係を生成すると共に、レンジ較正値を生成するレンジ較正プロセッサと、
を含む、較正プロセッサと、
前記較正プロセッサに結合される初期化プロセッサであって、
前記較正プロセッサに結合され、前記基準レーダにより受信されるモノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコーとの間の位相及び前記ペアレーダにより受信されるモノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコーとの間の位相に従って位相初期化関係を生成する位相予測プロセッサと、
前記較正プロセッサに結合され、前記基準レーダにより受信されるモノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコーとの間の時間遅延及び前記ペアレーダにより受信されるモノスタティック物標エコーとバイスタティック物標エコーとの間の時間遅延に従ってレンジ初期化関係を生成するレンジ予測プロセッサと、
を含む、初期化プロセッサと、
前記初期化プロセッサに結合され、前記基準レーダにより送信される第1の信号及び前記ペアレーダにより送信される第2の信号のうちの少なくとも一方を、前記位相初期化値、前記レンジ初期化値、前記位相較正値、及び前記レンジ較正値に従って調整すると共に、前記基準レーダにより受信される第1のコンポジット信号と前記ペアレーダにより受信される第2のコンポジット信号とをコヒーレントに加算するコヒーレンス保持プロセッサ
であって、
前記第1のコンポジット信号と前記第2のコンポジット信号との間の位相を測定する測定プロセッサと、
前記測定プロセッサに結合され、コンポジット信号位相関係を生成する位相レートフィルタと、
前記位相レートフィルタに結合され、前記コンポジット信号位相関係に従ってコンポジット位相値を予測する予測プロセッサと、
を含む、コヒーレンス保持プロセッサと、
を備える装置。
【図1】
【図2】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3】
【図4】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5】
【図5A】
【図6】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図7A】
【図8】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図2】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3】
【図4】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5】
【図5A】
【図6】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図7A】
【図8】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【公表番号】特表2008−534983(P2008−534983A)
【公表日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−505330(P2008−505330)
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際出願番号】PCT/US2006/009537
【国際公開番号】WO2006/107565
【国際公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(390039147)レイセオン・カンパニー (149)
【氏名又は名称原語表記】Raytheon Company
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際出願番号】PCT/US2006/009537
【国際公開番号】WO2006/107565
【国際公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(390039147)レイセオン・カンパニー (149)
【氏名又は名称原語表記】Raytheon Company
【Fターム(参考)】
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