説明

親水性コーティングを基材へ塗布する方法、及び親水性コーティングを有する基材

本発明は、水又は水蒸気で活性化されると滑らかになる親水性コーティングを基材へ塗布する方法、及びかかる親水性コーティングを有する基材に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水又は水蒸気で活性化されると滑らかになる親水性コーティングを基材へ塗布する方法、及びかかる親水性コーティングを有する基材に関する。
【0002】
関連出願の相互参照
2006年2月1日に出願された米国仮特許出願番号第60/764,151号明細書(その開示全体が参照により本明細書に援用される)の米国特許法第119条(e)項による利益が本出願により主張される。
【背景技術】
【0003】
医療分野において、並びに他の分野においても同様に、水と接触すると滑らかになる表面を有する基材の必要性が明らかとされている。滑らかな材料の主な使用は、カテーテル、カテーテルガイドワイヤ及び身体に挿入されることが意図される他の医療用デバイスを包含する。かかる材料の滑らかな性質により、カテーテル又は他の医療用デバイスの挿入(及びその後の除去)を最低限の抵抗で遂行することが可能となり、それにより不快感及び考え得る損傷を低減する。
【0004】
多くの場合、基材表面用の機能的な滑らかなコーティングを調製することは容易である。しかしながら、基材表面にしっかりと固着される滑らかなコーティングを調製することはより困難である。基材表面への滑らかなコーティングのしっかりとした固着が一般的に望ましく、コーティングのしっかりとした固着が重要な要件であることが多い医療分野で特に有用である。
【0005】
Creasy等の米国特許第4,642,267号明細書は、熱可塑性ポリウレタン及びポリ(N−ビニルラクタム)を含む親水性ポリマー混合物を開示している。コーティング材料として使用される場合、ポリマー混合物構成成分は、両方のポリマーを可溶化することが可能な有機溶媒中に共溶解され、基材は溶液中で浸漬コーティングされ、次に基材表面上に親水性コーティングを形成するように、溶媒は乾燥プロセスにより除かれる。しかしながら、基材へのコーティング結合は、望ましい固着(security)を欠くとみなされる。米国特許第4,642,267号明細書の別の不利点は、高沸点溶媒及び潜在的に有毒な溶媒がコーティング配合物を送達するのに使用され、したがって所望の生体適合性を得るためにコーティングされた製品から溶媒残留物を除くのにかなりのコストを負担しなくてはならないことである。
【0006】
Zhongの米国特許第5,702,754号明細書は、反応性官能基を有するポリマー及び過剰な架橋剤を用いて基材表面をコーティングすることを開示している。ポリマーは硬化されて、コーティングを形成する。次に、同じ型の反応性官能基を有する親水性ポリマーを含む第2のコーティングがその上にわたって塗布される。続いて、親水性ポリマーが硬化されると、第1のコーティングは過剰の架橋剤を含み、それにより第1のコーティングと親水性ポリマーとの間の共有結合を可能にするため、第2のコーティングは、第1のコーティングに共有結合されるようになる。この方法の不利点としては、多数の工程が要され、また多数のポリマー溶液が関与するという事実が挙げられる。また、滑らかなポリマー及び架橋剤の選択において著しい制限が存在する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様では、本発明は、水膨潤性材料で少なくとも一部構成される表面を有する基材へ親水性コーティングを塗布して、上記基材表面を、(i)架橋された滑らかな親水性コーティングを形成するように架橋可能な水溶性ポリマー及び(ii)架橋された滑らかな親水性コーティングを形成するように重合可能な水溶性モノマーの少なくとも1つを含む溶液と接触させる方法を提供する。水溶性ポリマーは、膨潤された基材表面の存在下で架橋されて、基材表面と絡み合い、且つ基材表面へしっかりと固着される架橋されたコーティングを提供することができる。同様に、モノマーは、膨潤された基材表面の存在下で、それが重合される際に架橋されたヒドロゲルネットワークを形成することができるか、或いは重合された後に続いて架橋させることができ、それにより基材表面と絡み合い、且つ基材表面へしっかりと固着される架橋されたコーティングを提供することができる。基材は、水膨潤性材料を含む第1の層、即ち外層を含む。基材は、非水膨潤性材料及び/又は水膨潤性材料を含む任意の第2の層、即ち支持層をさらに含んでもよい。
【0008】
別の態様では、本発明は、親水性コーティングを有する基材を提供し、かかる基材は、コーティングに先立って、膨潤状態及び非膨潤状態を有する水膨潤性材料で少なくとも一部構成される表面を有し、コーティングは、該表面の少なくとも一部の上に配置される相互貫入重合体網目状構造を含み、該相互貫入重合体網目状構造は、上記親水性コーティングを上記表面へ固着するように、膨潤状態の該表面の存在下で、(i)架橋された滑らかな親水性コーティングを形成するように架橋可能な水溶性ポリマー及び(ii)架橋された滑らかな親水性コーティングを形成するように重合可能な水溶性モノマーの少なくとも1つにより形成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の一態様は、滑らかな親水性コーティングを基材へ塗布する方法に関する。本発明のさらなる態様は、かかる滑らかな親水性コーティングを有する基材に関する。
【0010】
本明細書中で使用する場合、「滑らかなコーティング」という用語は、約0.3未満、約0.1未満及び/又は約0.05未満、例えば0.03又はさらには0.01の摩擦係数値を有する基材表面を提供するコーティングを指す。
【0011】
本発明は、基材表面上のその場で相互貫入重合体網目状構造を創出することを包含する。例えば、水膨潤性材料を含む基材表面は、架橋された滑らかな親水性コーティングを形成するように架橋可能な水溶性親水性ポリマーを含む溶液と接触される。或いは、架橋された滑らかな親水性コーティングを形成するように重合可能な、或いは架橋された滑らかな親水性コーティングを形成するように重合後に架橋可能な水溶性モノマーは、水溶性親水性ポリマーの代わりに、又は水溶性親水性ポリマーに加えて使用され得る。次に、水溶性ポリマー及び/又は水溶性モノマーから形成されるポリマーを架橋するために、コーティングは通常、例えばUV光への暴露により硬化される。
【0012】
しかしながら、特に医療用途に関して、残留未重合モノマーは医療用デバイス用途にとって生体適合性問題を生じさせ得るため、1つ又は複数の水溶性ポリマーの使用は、1つ又は複数の水溶性モノマーの使用と比べて通常好ましい。
【0013】
基材の水膨潤性材料は水及び/又はアルコールの存在下で膨張するため、水膨潤性材料は、架橋前に水溶性親水性ポリマーと物理的に絡み合うようになると考えられ、その絡み合いは、架橋中に固定される。したがって、相互貫入重合体網目状構造を含むコーティングは、水膨潤性基材表面が膨潤状態であるときに水膨潤性基材表面の存在下で水溶性ポリマーを重合することにより形成されて、(その架橋後に)基材へしっかりと固着されている滑らかなコーティングを生じる。本質的に、上記方法は、2つのヒドロゲルを分子スケールで機械的に結合させることが可能である。
【0014】
利点としては、親水性コーティングは、親水性コーティングと第1の層との間に共有結合的相互作用の必要性なく表面に固着させることができる。別の利点は、コーティング配合物が、安価で生体適合性で且つコーティングされた製品から比較的除きやすい水及び低級アルコールのような溶媒を使用して扱い得ることである。さらに別の利点は本発明の多用途性であり、本発明は、下塗層又は他のポリマー溶液ベースの固着手段を必要とせずに水溶液又はアルコールベースの溶液からコーティングされ得る水溶性ポリマー及び/又は水溶性モノマーから形成される任意の親水性コーティングにしっかりとした固着を提供する。この多用途性により、多様なポリマー/架橋剤系及び/又はモノマー/開始剤/架橋剤系を利用することが可能となり、したがって最適な系を任意の所定の用途に導入することが可能となる。
【0015】
一実施形態では、「良好に固着される」又は「しっかりと固着される」という用語は、コーティングを保有する基材上で摩耗プロトコルが実施された後に、コーティングが例えば浸水により活性化される場合に摩耗前の元の摩擦係数値の10倍以下、5倍以下及び/又は2倍以下の最終摩擦係数値を有する基材を生じるコーティングを指す。適切な摩耗プロトコルは、摩耗サイクル中にコーティングを湿った状態に保ちながら、コーティングされた管を、管材料の外径よりも約10%小さい直径である孔に100回通すことを包含する。この摩耗プロトコル後に、コーティングを活性化させるために管を脱イオン水中に約30秒間浸して、標準的な手段を使用して摩擦係数を確定することができる。
【0016】
本発明の方法によりコーティングされるべきカテーテル管のような基材は、水膨潤性材料で少なくとも一部構成される表面又は表面層をそれに設ける方法で形成される。これは、任意の適切な水膨潤性材料を含む第1の層、即ち外層、並びに非水膨潤性材料及び/又は水膨潤性材料で構成される第2の層、即ち支持層を有する基材を共押出することを含むがこれに限定されない様々な方法で遂行され得る。
【0017】
一般的に、任意の水膨潤性材料又はそれらの混合物は、第1の層、即ち外層に使用され得る。適切な水膨潤性材料としては、水膨潤性ポリアミドベースの共重合体、水膨潤性ポリエステルベースの共重合体、水膨潤性ウレタンベースの共重合体及びそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。水(例えば、水溶液)の存在下で膨潤することが可能である様々な熱可塑性ポリマー、熱可塑性エラストマー及び/又は熱可塑性合金のいずれかを使用してもよい。概して、かかる水膨潤性ポリマーはまた、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等のような低級アルコール中でも膨潤する。ヘキサノール及びオクタノールのような高級アルコールもまた使用され得るが、水に対するそれらの増大された揮発性のため低級アルコールが通常好ましい。
【0018】
好ましくは、第1の層は、硬質ブロック及び軟質ブロックを有するブロック共重合体を含む水膨潤性熱可塑性エラストマーで構成される。適切な硬質ブロックとしては、ポリアミドブロック、ポリエステルブロック及びポリウレタンブロックが挙げられるが、他の硬質ポリマーブロックを使用してもよい。硬質ブロックは、好ましくは室温でガラス質又は結晶質のいずれかである。適切な軟質ブロックとしては、軟質ポリエチレンオキシドブロックのような軟質ポリエーテルブロック、軟質ポリビニルピロリドンブロックのような軟質ポリ−N−ビニルラクタムブロック、軟質ポリアルコールブロック及び軟質多酸ブロックが挙げられる。当然のことながら、他の軟質ブロックも使用することができる。
【0019】
適切な水膨潤性熱可塑性エラストマーとしては、商品名PEBAX(登録商標)の下で販売されるもの(Arkema, PA)(例えば、PEBAX(登録商標)1647、PEBAX(登録商標)1074及びPEBAX(登録商標)MX1652)のようなポリエーテル/ポリアミドブロックエラストマー、並びに商品名HYTREL(登録商標)の下で販売されるもの(Du Pont de Nemours, DE)(例えば、HYTREL(登録商標)8171及びHYTREL(登録商標)8206)のようなポリエステルエラストマーが挙げられるが、これらに限定されない。他の適切な水膨潤性熱可塑性エラストマーとしては、商品名ESTANE(登録商標)及び商品名TECOPHILIC(登録商標)の下で販売されるポリエーテル熱可塑性ポリウレタン(Noveon Inc., OH)、並びに商品名ESTANE(登録商標)及び商品名CARBOTHANE(登録商標)の下で販売されるもの(Noveon Inc., OH)のようなポリエステル熱可塑性ポリウレタンのような熱可塑性ポリウレタンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
基材は、完全に水膨潤性材料から作製され得る。或いは、少なくとも1つの水膨潤性材料を含むポリマー混合物が使用され得る。驚くべきことに、水膨潤性材料がポリマー混合物のほんの一部(minority)しか構成しないポリマー混合物でさえ、しっかりと固着された親水性コーティングを提供する。これは、例えば所定の用途に必要とされる機械特性を有する同種押出品(homoextrusion)として基材を設計する際に可撓性を可能にする。例えば、PEBAX(登録商標)1074(水膨潤性熱可塑性エラストマー)40重量パーセント(wt%)及びPEBAX(登録商標)3533(非水膨潤性熱可塑性エラストマー)60wt%で作製される管材料は、尿カテーテル用途に望ましい特性を有し、本発明の利点の多く又は全てを提供する。
【0021】
或いは、基材は、水膨潤性材料で作製される外層、又は水膨潤性材料及び非水膨潤性材料で構成される混合物で作製される外層を有し得る。次に、基材は、1つ又は複数の非水膨潤性材料で構成される内層、即ち支持層を有し得る。当然のことながら、内層、即ち支持層は、1つ又は複数の水膨潤性材料で作製されてもよく、或いは1つ又は複数の水膨潤性材料をさらに含んでもよい。
【0022】
本明細書中で使用する場合、「水膨潤性」という用語は概して、水又はアルコールの存在下で膨潤する材料を指す。様々な実施形態では、上記用語は、水中におよそ90分間浸される場合に、少なくとも1つの寸法において、少なくとも0.5%、少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも25%、又はさらに大きく増大する材料を指す。上述の実施形態によれば、1インチ×1インチ×1ミル平方の材料を水中に90分間浸すことができ、ある特定の材料が本発明による水膨潤性材料であるとみなされるように十分膨潤するかどうかを確かめるために、元の高さ又は長さに対して高さ又は長さの増加を確定することができる。そうであれば、材料は概して、本発明において水膨潤性材料としての使用に適切であるとみなすことができる。
【0023】
概して、任意の材料が任意の第2の層、即ち支持層を形成する際に使用され得るが、押出可能であるか、又はそうでなければ溶融加工可能である材料が一般的に好ましい。任意の第2の層、即ち支持層における使用に適した材料としては、例えばオレフィンポリマーのような熱可塑性樹脂、特にポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、他の適切なポリマー及びそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。金属、セラミック及び他の材料もまた、支持層として使用され得るが、続いて外層は、共押出と異なるメカニズムにより、例えば回転成形(spin-casting)、浸漬コーティング、ワイヤ押出コーティング、或いは別のやり方で水膨潤性表面層(又はそれを含む基材)を第2の層へ取り付けること、連結させること又は付着させることにより、第2の層へ取り付けるか又は連結させる必要がある。
【0024】
基材は医療用デバイスであり得る。本発明により滑らかなコーティングでコーティングされ得る典型的な医療用デバイスとしては、コンタクトレンズ、医療移植片(ペースメーカー及びそれ用のリード線を含むがこれらに限定されない)、血管内移植片(動脈ステントを含むがこれに限定されない)及びカテーテル(尿カテーテル、糞便カテーテル、静脈内輸液、薬剤及び栄養分の投与用のカテーテル、並びに血管形成術カテーテルのような冠動脈カテーテルを含むがこれらに限定されない)が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、ある特定の医療用デバイス用途では、薬物をコーティング溶液中に組み込むこと、或いは医療用デバイス上でのコーティングの形成後に薬物を添加することが望ましい場合がある。例えば、本発明によるコーティングを有するステントは、薬物、例えば末期狭窄を防止するためにタキソールを、又は血栓の形成を防止するためにヘパリンを含むことができる。
【0025】
さらに、本発明は湿潤環境で使用される任意の製品に非常に滑らかなコーティングを提供することができるため、本発明の非医療用デバイス用途もまた、湿潤環境において低い摩擦係数を有する表面が望ましい場合に想定され得る。考え得る非限定的な例としては、例えばコーティングが抗力を低減するように塗布され得るウェットスーツ又は船体(boat hulls)のような海での使用が挙げられる。
【0026】
未処理基材は通常、ポリマー溶液を用いて浸漬されるか、或いはそうでなければポリマー溶液でコーティングされ、ここでコーティングポリマーは、水、アルコール又は水及びアルコールの両方を含有する溶液中に溶解される。カテーテルがコーティングされる場合、コーティング溶液が塗布される際に任意のコーティング溶液がカテーテルの内部に接触するのを防ぐために、及び/又はカテーテルの内部をコーティングするのを防ぐために、マンドレルがカテーテル構造に挿入され得る。
【0027】
架橋可能であり、且つ水又は水蒸気に暴露されると膨潤して滑らかになることが可能である任意の適切な親水性ポリマーを使用して、親水性コーティングを提供し得る。架橋されると、コーティングポリマーの網目状構造は、膨潤された水膨潤性材料との、例えば基材表面ブロックポリマーの軟質(又は軟)ブロックとの共重合体を形成し、基材にしっかりと固着されるコーティングを生じる。適切な水溶性親水性ポリマーとしては、ポリアクリル酸、アクリルアミド/アクリル酸共重合体のようなアクリル酸共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボン酸官能基を含有する水溶性ポリマー及びそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。架橋されて親水性コーティングを形成することができる他の水溶性ポリマーもまた使用され得る。
【0028】
同様に、重合されて架橋ネットワークを形成することが可能であり、且つ水又は水蒸気に暴露されると滑らかになることが可能である任意の適切な親水性モノマーを使用して、親水性コーティングを提供してもよい。使用することができる適切な水溶性親水性モノマーとしては、ビニルモノマー、例えばビニルアルコール、ビニルピロリドン、アクリルアミド、メタクリル酸エステル、アクリル酸及びそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。これらの幾つかは、多官能性モノマーと共重合されて、その場で網目状構造を形成することができるものもあり、当該技術分野で既知の方法を使用して重合、続いて架橋され得るものもある。各種開始剤、例えば光開始剤(ベンゾフェノンを含むがこれに限定されない)を使用して、モノマーを重合することができる。
【0029】
この方法の重要な利点は、しっかりと固着された親水性コーティングを有する基材を調製することが比較的容易であることである。基材の外層は一般的に熱可塑性ポリマーを含むため、押出、共押出又は射出成形のような複雑でなく直接的で且つ経済的な既知の製造方法が、水膨潤性表面を有する基材を生産するのに使用され得る。コーティング方法は、水又はアルコールベースの溶媒系を使用して得ることができる、親水性コーティングポリマーと架橋方法の任意の系に適用可能である。同様に、コーティング方法は、水又はアルコールベースの溶媒系を使用して得ることができる、親水性モノマーと開始剤と架橋方法の任意の系に適用可能である。
【0030】
適切な架橋剤は当該技術分野で既知であり、UV活性化可能な架橋剤、カルボジイミド、アジリジン、メラミンホルムアルデヒド及び多官能性カルボン酸架橋剤が挙げられるが、これらに限定されない。典型的なUV活性化可能な架橋剤としては、商品名ESACURE(商標)の下で販売される高分子量ヒドロキシルケトン(Sartomer Company, PA)、例えばESACURE(商標)KIP 150及びESACURE(商標)ONEが挙げられる。典型的なカルボジイミド架橋剤は、商品名CARBODILITE(商標)の下で販売され(Nisshinbo Industries, Inc., JP)、例えばCARBODILITE(商標)V−02−L2及びCARBODILITE(商標)E−02が挙げられる。典型的なアジリジン架橋剤は、商品名Crosslinker CX−100の下で販売される(DSM NeoResins, DSM, NL)。熱及び/又は光もまた、幾つかの水溶性ポリマーを架橋するのに使用することができる。
【0031】
本発明による親水性コーティングを基材へ塗布する方法、及びかかる親水性コーティングを有する基材は、以下の実施例を鑑みてより良好に理解され得る。しかしながら、上述の説明及び以下の実施例は単なる説明であり、したがって無数の変更及び変形が当業者に思い浮かぶと予想されるため、それらから不必要な限定が解釈されるべきではない。
【実施例】
【0032】
<実施例1>
コーティングポリマー溶液は、およそ70:30(重量/重量)のイソプロピルアルコール/水溶媒系中で調製され、ここでポリマーは、約9wt/volのポリビニルピロリドンK−90であった。溶液中には、約0.03wt%のUV活性化可能な架橋剤(ESACURE(商標)KIP 150、Sartomer)が含まれていた。
【0033】
熱可塑性基材は、外径約0.180インチ及び内径約0.123インチを有する共押出管の形態で用いられた。管は、ポリエーテル/ポリアミドブロックエラストマー(PEBAX(登録商標)1074、Arkema, PAから入手可能な水膨潤性熱可塑性エラストマー)と、エチレン酸共重合体樹脂(NUCREL(登録商標)2806、Du Pont de Nemours, DEから入手可能な非水膨潤性熱可塑性エラストマー)との重量比約40:60での混合物である約0.003インチ厚の外層を有していた。管の内層は、管構造全体に所望の機械特性を付与するように設計された熱可塑性非水膨潤性樹脂の混合物であった。管を、コーティング溶液中に浸漬させて、その中で約10分間保持した後、引き揚げた。引き揚げた後、管を約30分間空気乾燥させた。その後、コーティングされた管を約5分間UV光へ暴露させた。
【0034】
その硬化コーティングを有する管を脱イオン水中に約30秒間浸した。その時点で、管の表面は、非常に滑らかであることがわかり、滑らかなコーティングは管にしっかりと付着されていた。
【0035】
<実施例2>
別の方法は、コーティングポリマー用の架橋剤を含有する別個の第2の溶液を使用することである。第2の溶液は、コーティングポリマー溶液が塗布される前に、又はコーティングポリマー溶液が塗布された後に、水膨潤性外表面を有する基材へ塗布することができる。次に、両方の溶液が塗布された後に、コーティングが架橋される。
【0036】
ポリエーテル/ポリアミドブロックエラストマー(PEBAX(登録商標)1074、Arkema, PA)の外層、及びポリエーテル/ポリアミドブロックエラストマー(PEBAX(登録商標)2533、Arkema, PAから入手可能な非水膨潤性熱可塑性エラストマー)の内層を有する共押出管を調製した。管をまず、約12wt%のカルボジイミド架橋剤(CARBODILITE(商標)V−02−L2、Nisshinbo, Japan)を含有するおよそ70:30(重量/重量)のイソプロピルアルコール/水溶液中に浸漬して、その中で10分間保持した後、引き揚げた。次に、管を10分間空気乾燥して、続いて約7.5wt%のカルボン酸官能基を含有する水溶性ポリマー(GANTREZ(商標)S−97BF, ISP Technologies, Inc.)を含有するおよそ70:30(重量/重量)のイソプロピルアルコール/水溶液中に浸漬した後、すぐに引き揚げた。引き揚げた後、管を10分間空気乾燥した。
【0037】
この実施例の水溶性ポリマーは、無水マレイン酸とのメチルビニルエーテル共重合体であり、ここで酸無水物は、二塩基酸へ加水分解されている。酸性基は、カルボジイミド架橋剤により架橋され得る。
【0038】
硬化は、従来式の炉中でおよそ70℃で約20分間、管材料を加熱することにより遂行した。コーティングは、緩衝溶液中にそれを浸漬することにより中和した。次に、その硬化コーティングを有する得られた管を脱イオン水中に30秒間浸漬した。湿った管の表面はつるつるしており、コーティングは管にしっかりと付着されていた。
【0039】
<実施例3>
熱可塑性基材を、外径約0.181インチ及び内径約0.122インチを有する共押出管の形態で用いた。管は、約0.003インチ厚の外層を有しており、内層は、管の残りを占めていた。内管層は、エチレンオクテン共重合体(EXACT(商標)5371、ExxonMobil Chemical Company, ExxonMobil, TX)とエチレン酸共重合体樹脂(NUCREL(登録商標)2806、Du Pont de Nemours, DE)との重量比およそ20:80の混合物を含み、外管層は、ポリエーテル/ポリアミドブロックエラストマー(PEBAX(登録商標)1074、Arkema, PA)と、エチレン酸共重合体樹脂(NUCREL(登録商標)2806、Du Pont de Nemours, DE)との重量比およそ40:60の混合物を含んでいた。
【0040】
管材料を、約5.5wt%のポリビニルピロリドンK−90(ICI Chemicals, England)及び約0.11wt%のESACURE(商標)One(Sartomer, PA)を含有するおよそ70:30(重量/重量)のイソプロピルアルコール/水溶液中に浸漬することによりコーティングした。管材料をこの溶液中で約5分間保持した後、引き揚げた。引き揚げた後、コーティングされた管材料を約50分間空気乾燥した(室温で)。その後、コーティングされた管をおよそ2.5分間UVC光へ暴露した。
【0041】
次に、その硬化コーティングを有する得られた管を脱イオン水中に約30秒間浸した。その時点で、管の表面は、非常に滑らかであることがわかり、平均摩擦係数(n=12(試験したサンプル))約0.02を有した。
【0042】
基材管材料へのコーティングの固着を試験するために、得られたコーティングされた管材料に対して摩耗試験プロトコルを実施した。サンプルを、1/32インチ厚のシリコーンゴムシート中の孔に通した。孔は、管材料の外径よりも約10%小さい直径であった。摩耗試験中にコーティングを湿った状態に保って、これを100回行った。この摩耗プロトコル後、管を再び脱イオン水中に約30秒間浸して、摩擦係数に関して試験した。この場合も、サンプルに関する平均摩擦係数は約0.02であった。
【0043】
別のサンプル群を約30秒間水中に浸して、コーティングを活性化した後、大気中に約10分間放置した。この乾燥プロトコル後、平均摩擦係数(n=12(試験したサンプル))は約0.02であった。
【0044】
尿カテーテルとしての使用に適した先端付(tipped)管を作製するために、さらに別のサンプル群(n=3サンプル)を熱成形プロセスに付して、一端上に弾丸形状の閉じた先端を創出した。この先端付管材料は、上記のこの実施例に記載されるようにコーティングプロセスに付された(但し、硬化は約3分間UVC光への暴露により遂行された(was by accomplished))。脱イオン水中に約20分間浸した後に、コーティングされた管材料の表面は非常につるつるしており、つるつるしたコーティングは、管材料の形成された先端部分及び管材料のまっすぐな壁部分の両方に良好に付着していた。
【0045】
上述の実施例は本発明の幾つかの利点を実証する。例えば、非常に滑らかで非常に付着性のコーティングが、2つの異なる水溶性ポリマー/架橋剤系を用いて、及び3つの異なる基材構造物を用いて達成されている。実施例3はさらに、外層表面の水膨潤特性を維持しながら、多層管を熱成形することが可能であり、これにより基材の形成された部分でさえもしっかりと固着されたコーティングを達成することが可能であることを実証している。実施例3はまた、本発明に従って作製されたコーティングが長期間の空気暴露後でさえ、それらのつるつるした性質を維持することが可能であることを実証する。基材表面は水を保持し、このことが、水和、ひいては潤滑性を維持するコーティングの能力におそらく寄与するため、基材表面の水膨潤性はこの点で役立つと理論付けられる。本発明のこの特質は、間欠性尿カテーテルに特に好適である。
【0046】
本発明の実施形態を説明の目的で本明細書中に相当詳細に開示してきたが、本発明の精神及び範囲を逸脱することなく、それらの詳細の多くが変更され得ることは当業者に理解されよう。したがって、添付の特許請求の範囲で見られるような限定のみが、本発明で認識されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面へ親水性コーティングを塗布する方法であって、
水膨潤性材料で少なくとも一部構成される表面を有する基材を供給すること、並びに
該基材表面を、(i)架橋された滑らかな親水性コーティングを形成するように架橋可能な水溶性ポリマー及び(ii)架橋された滑らかな親水性コーティングを形成するように重合可能な水溶性モノマーの少なくとも1つを含む溶液と接触させること
を含む、基材表面へ親水性コーティングを塗布する方法。
【請求項2】
前記溶液は、水、アルコール及びそれらの混合物から成る群から選択される少なくとも1つの溶媒を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記基材は第1の層及び第2の層を含み、該第1の層は前記水膨潤性材料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第2の層は非水膨潤性材料を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記基材は医療用デバイスを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記医療用デバイスは、医療移植片、血管内移植片、カテーテル及びコンタクトレンズから成る群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記水膨潤性材料はブロック共重合体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ブロック共重合体は、水膨潤性ポリアミドベースの共重合体、水膨潤性ポリエステルベースの共重合体、水膨潤性ウレタンベースの共重合体及びそれらの混合物から成る群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記水溶性ポリマーは、ポリアクリル酸、アクリル酸共重合体、ポリ−N−ビニルラクタム、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール共重合体及びそれらの混合物から成る群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記ポリ−N−ビニルラクタムは、ポリビニルピロリドンを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記水溶性モノマーは、ビニルアルコール、ビニルピロリドン、アクリルアミド、メタクリル酸エステル、アクリル酸及びそれらの混合物から成る群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記溶液は、架橋剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記ポリマーを硬化させることをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記架橋剤は、UV活性化可能な架橋剤、カルボジイミド、アジリジン、メラミンホルムアルデヒド及び多官能性カルボン酸架橋剤から成る群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記基材を、架橋剤を含む溶液と接触させることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
請求項1に記載の方法に従って作製される基材。
【請求項17】
親水性コーティングを有する基材であって、
膨潤状態及び非膨潤状態を有する水膨潤性材料で少なくとも一部構成される表面を有する基材、並びに
該表面上に配置される相互貫入重合体網目状構造であって、該親水性コーティングを該表面へ固着するように、膨潤状態の該水膨潤性材料の存在下で、(i)架橋された滑らかな親水性コーティングを形成するように架橋可能な水溶性ポリマー及び(ii)架橋された滑らかな親水性コーティングを形成するように重合可能な水溶性モノマーの少なくとも1つにより形成される相互貫入重合体網目状構造
を含む、親水性コーティングを有する基材。
【請求項18】
前記基材は第1の層及び第2の層を含み、該第1の層は前記水膨潤性材料を含む、請求項17に記載の基材。
【請求項19】
前記第2の層は非水膨潤性材料を含む、請求項18に記載の基材。
【請求項20】
前記基材は医療用デバイスを含む、請求項17に記載の基材。
【請求項21】
前記医療用デバイスは、医療移植片、血管内移植片、カテーテル及びコンタクトレンズから成る群から選択される、請求項17に記載の基材。
【請求項22】
前記水膨潤性材料は、水膨潤性ポリアミドベースの共重合体、水膨潤性ポリエステルベースの共重合体、水膨潤性ウレタンベースの共重合体及びそれらの混合物から成る群から選択されるブロック共重合体を含む、請求項17に記載の基材。
【請求項23】
前記水溶性ポリマーは、ポリアクリル酸、アクリル酸共重合体、ポリ−N−ビニルラクタム、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール共重合体及びそれらの混合物から成る群から選択される、請求項17に記載の基材。

【公表番号】特表2009−525176(P2009−525176A)
【公表日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−553309(P2008−553309)
【出願日】平成19年1月30日(2007.1.30)
【国際出願番号】PCT/US2007/002545
【国際公開番号】WO2007/089784
【国際公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(591000414)ホリスター・インコーポレイテッド (38)
【氏名又は名称原語表記】HOLLISTER INCORPORATED
【Fターム(参考)】