説明

親水性多孔質金属部材とその製造方法

【課題】外表面に分散固着した貴金属粒子の隙間に酸化物層が形成されている多孔質金属部材について、持続性のある親水性を有し、燃料電池環境下においても親水性を維持する多孔質金属部材とその製造方法を提供する。
【解決手段】多孔質体の少なくとも外表面に貴金属粒子が分散して固着しており、該貴金属粒子の隙間に酸化物層が形成されている多孔質金属部材であって、該多孔質体が親水基を有するチオール化合物溶液によって表面処理され、さらにフッ化水素で処理されることによって持続性のある親水性を有することを特徴とする親水性多孔質金属部材であって、例えば、親水性の持続日数が非親水処理の多孔質金属部材に対して20倍以上であり、燃料電池環境下において親水性を維持する親水性多孔質金属部材とその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外表面に分散固着した貴金属粒子の隙間に酸化物層が形成されており、持続性のある親水性を有する多孔質金属部材とその製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、外表面に分散固着した貴金属粒子の隙間に酸化物層が形成されている多孔質金属部材について、持続性のある親水性を有し、燃料電池環境下においても親水性を維持する多孔質金属部材とその製造方法に関する。本発明の多孔質金属部材は燃料電池用材料として好適である。
【背景技術】
【0002】
一般に、固体電解質を用いた燃料電池は、固体電解質の一方の側に空気極(酸素極)が形成され、他方の側に燃料極が形成されており、固体電解質が空気極と燃料極によって挟み込まれた構造単位を形成しており、この構造単位がセパレータを介して複数段に積層された構造を有している。
【0003】
燃料電池の空気極は酸素が電解質界面に浸透するように導電性の多孔質体によって形成されており、同様に燃料極は水素やCOなどが電解質界面に浸透するように導電性の多孔質体によって形成されている。この多孔質体としてはカーボン繊維の不織布や多孔質金属が主に用いられており、またセパレータとしてはカーボン板や金属板が用いられている。
【0004】
最近、燃料電池部材として、低コスト化のために、カーボン部材の代替として耐食性金属部材が用いられる傾向にある。他方、燃料電池部材としては接触抵抗の低いものが要求されるが、一般に耐食性金属は接触抵抗が高いので、接触抵抗を低減するために貴金属をコーティングした燃料電池部材が知られている。例えば、特開2001−06713号公報(特許文献1)には、貴金属または貴金属合金をイオン蒸着、電解メッキなどによって表面にコーティングした燃料電池部材用のステンレス鋼が記載されている。
【0005】
また、燃料電池部材に親水性を付与することにより燃料電池の発電効率が高くなることが知られている。例えば、特開2002−93433号公報(特許文献2)には親水性層を設けたガス拡散層が記載されている。
【0006】
さらに、多孔質体の外表面に貴金属粒子を分散して固着させ、該貴金属粒子の隙間に酸化物層を形成することによって該基金属粒子を強固に下地金属に接合した多孔質金属部材が知られており、これは貴金属粒子が脱落し難く、従って、接触抵抗の低い状態を長期間維持することができ、固体高分子型燃料電池部材として用いたときに、電池性能を大きく向上できる利点を有している。
【特許文献1】特開2001−06713号公報
【特許文献2】特開2002−93433号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
金属部材表面にメッキ、スパッタリング、イオンプレーティングなどによって金などの貴金属コーティングを施した従来の金属部材は、大気中に保持していると次第に親水性が消失すると云う問題があった。また、多孔質体の外表面に貴金属粒子を分散固着させ、該貴金属粒子の隙間に酸化物層を形成した多孔質金属部材についても、持続性のある親水性を有すれば、固体高分子型燃料電池部材としてさらに好ましい。
【0008】
本発明は、多孔質体の外表面に分散固着した貴金属粒子の隙間に酸化物層が形成されている多孔質金属部材について、上記課題を解決したものであり、燃料電池環境下においても持続性のある親水性を有する親水性多孔質金属部材とその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の〔1〕〜〔15〕に示す構成を有することによって上記課題を解決した親水性多孔質金属部材とその製造方法に関する。
【0010】
本発明の親水性多孔質金属部材は以下の態様を含む。
〔1〕多孔質体の少なくとも外表面に分散固着した貴金属粒子の間に酸化物層が形成されている多孔質金属部材であって、該多孔質金属部材が親水基を有するチオール化合物溶液によって表面処理され、さらにフッ化水素で表面処理されることによって持続性のある親水性を有することを特徴とする親水性多孔質金属部材。
〔2〕親水性の持続日数が親水処理しない多孔質金属部材に対して20倍以上である上記[1]に記載する親水性多孔質金属部材。
〔3〕燃料電池環境下において親水性を維持する上記[1]または上記[2]の何れかに記載する親水性多孔質金属部材。
〔4〕燃料電池用材料として用いられる上記[1]〜上記[3]の何れかに記載する親水性多孔質金属部材。
〔5〕親水基を有するチオール化合物として、メトキシシリル基、カルボン酸基、またはスルホン酸基を含有するチオール化合物によって多孔質体外表面が表面処理されている上記[1]〜上記[4]の何れかに記載する親水性多孔質金属部材。
〔6〕貴金属粒子の間に形成されている酸化物層が、多孔質金属部材表面の酸化による酸化物層、シリカ層、またはアルミナ層の何れか、或いはシリカ層とアルミナ層の複合酸化物層である上記[1]〜上記[5]の何れかに記載する親水性多孔質金属部材。
〔7〕多孔質金属部材の材質がチタンである上記[1]〜上記[6]の何れかに記載する親水性多孔質金属部材。
〔8〕貴金属が金または白金である上記[1]〜上記[7]の何れかに記載する親水性多孔質金属部材。
〔9〕多孔質金属部材が、金属粉末と結合剤、発泡剤、気泡剤を含むスラリーを用いて形成した発泡体を焼結処理して得たものである上記[1]〜上記[8]の何れかに記載する親水性多孔質金属部材。
【0011】
本発明の製造方法は以下の態様を含む。
〔10〕多孔質体の少なくとも外表面に分散固着した貴金属粒子の間に酸化物層が形成されている多孔質金属を、親水基含有チオール化合物溶液によって表面処理し、さらにフッ化水素によって表面処理することを特徴とする親水性多孔質金属部材の製造方法。
〔11〕親水基を有するチオール化合物として、メトキシシリル基、カルボン酸基、またはスルホン酸基を含有するチオール化合物を用いる上記[10]に記載する親水性多孔質金属部材の製造方法。
〔12〕多孔質金属部材表面に貴金属コロイドを付着させ、これを大気中で室温に保持し、または大気中で加熱して上記貴金属粒子の間に多孔質金属部材表面の酸化による酸化物層を形成し、これを親水基含有チオール化合物溶液によって表面処理する上記[10]〜上記[11]の何れかに記載する親水性多孔質金属部材の製造方法。
〔13〕酸化被膜を有する多孔質金属部材表面に貴金属コロイドを付着させ、これを真空下または不活性雰囲気下で300℃以上に加熱して酸化被膜の酸素を多孔質金属部材表面に拡散させて金属層とし、さらに真空下または不活性雰囲気下、300℃以上の加熱を継続することによって上記金属層に貴金属粒子を接合させ、この状態で大気中で室温に保持し、または大気中で加熱して上記貴金属粒子の間に多孔質金属部材表面の酸化による酸化物層を形成し、これを親水基含有チオール化合物溶液によって表面処理する上記[10]〜上記[11]の何れかに記載する親水性多孔質金属部材の製造方法。
〔14〕多孔質金属部材表面に貴金属粒子を分散接合したものを、シリカ形成溶液またはアルミナ形成溶液、もしくはシリカ形成溶液とアルミナ形成溶液の混合溶液に浸漬して乾燥させ、その後、大気中で150℃以上に加熱して上記貴金属粒子の間にシリカ層、またはアルミナ層の何れか、あるいは多孔質金属部材表面の酸化による酸化物層とシリカ層とアルミナ層の何れか2種以上の複合酸化物層を形成し、これを親水基含有チオール化合物溶液によって表面処理する上記[10]〜上記[11]の何れかに記載する親水性多孔質金属部材の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の金属部材は、多孔質体の少なくとも外表面に貴金属粒子が分散固着し、該貴金属粒子の隙間に酸化物層が形成されている多孔質金属部材であって、持続性のある親水性を有することを特徴とするものであり、例えば、親水性の持続日数が親水処理しない多孔質金属部材に対して20倍以上の持続した親水性を有するものである。さらに本発明の多孔質金属部材は燃料電池環境下において親水性を維持し、例えば、親水性の持続日数が親水処理しない多孔質金属部材に対して約6倍の持続した親水性を有するので、燃料電池用材料として好適に用いることができる。
【0013】
また、本発明の多孔質金属部材は、多孔質体の少なくとも外表面に貴金属粒子が分散固着しており、該貴金属粒子の隙間に形成された酸化物層によって上記貴金属粒子が多孔質金属部材表面に強固に接合しているので、貴金属粒子が脱落し難く、従って、接触抵抗の低い状態を長期間維持することができ、固体高分子型燃料電池部材として用いたときに、電池性能を大きく向上できる。
【0014】
また、本発明の多孔質金属部材は、好ましくは親水基を含有するチオール化合物溶液によって該多孔質体を親水処理し、さらにフッ化水素で表面処理することによって容易に製造することができる。具体的には、例えば、多孔質金属部材を親水基含有チオール化合物溶液に浸漬し、または該金属部材表面に親水基含有チオール化合物溶液を噴霧して乾燥させ、さらにフッ化水素で表面処理する方法によって容易に製造することができ、親水基を含有するチオール化合物溶液およびフッ化水素は一般に入手することができるので容易に実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。
本発明の親水性多孔質金属部材は、多孔質体の少なくとも外表面に分散固着した貴金属粒子の間に酸化物層が形成されている多孔質金属部材であって、該多孔質金属部材が親水基を有するチオール化合物溶液によって表面処理され、さらにフッ化水素で表面処理されることによって持続性のある親水性を有することを特徴とするものである。
【0016】
本発明の親水性多孔質金属部材において、持続性のある親水性とは、例えば、親水性の持続日数が親水処理しない多孔質金属部材に対して20倍以上の持続した親水性を有するものである。
【0017】
さらに、本発明の親水性多孔質金属部材は燃料電池環境下において親水性を維持し、例えば、燃料電池環境下において親水性の持続日数が親水処理しない多孔質金属部材に対して6倍程度の持続した親水性を有する。従って、本発明の親水性多孔質金属部材は燃料電池用材料として好適に用いることができる。
【0018】
本発明の親水性多孔質金属部材について、上記持続した親水性は、例えば、多孔質体を親水基を有するチオール化合物溶液によって表面処理し、さらにフッ化水素で処理することによって得られる。親水基を有するチオール化合物としては、メトキシシリル基、カルボン酸基、またはスルホン酸基を含有するチオール化合物を用いることができる。なお、チオール化合物とはチオール基(メルカプト基:−SH)を有する化合物である。親水基を有するチオール化合物としては、具体的には例えば、3−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオンスルホン酸ナトリウムなどを用いることができる。
【0019】
多孔質金属部材の表面を清浄にした後に、該多孔質金属部材を親水基含有チオール化合物溶液によって表面処理する。具体的には、例えば、多孔質金属部材を親水基含有チオール化合物溶液に浸漬し、または多孔質金属部材表面に親水基含有チオール化合物溶液を噴霧して乾燥させる。
【0020】
親水基含有チオール化合物の濃度は処理条件に応じて調整すればよく、例えば、一般的な処理条件下では0.1〜1000mmol/lであればよい。乾燥は自然乾燥してもよく、30〜200℃で加熱乾燥してもよい。
【0021】
多孔質金属部材の表面を親水基含有チオール化合物溶液で表面処理することによって、例えば、図1に示すように、親水性のカルボン酸基(-COOH)がチオール基(-SH)を介して貴金属表面に接触し、このチオール基の水素が離脱し、硫黄元素によって強固に貴金属表面に結合するので、親水性のカルボン酸基が安定に保持され、親水性が長期間持続する。同様に、親水性のスルホン酸基、あるいはメトキシシリル基がチオール基(-SH)を介して貴金属表面に接触し、このチオール基の水素が離脱し、硫黄元素によって強固に貴金属表面に結合するので、親水性のスルホン酸基やメトキシシリル基が安定に保持され、親水性が長期間持続する。
【0022】
多孔質金属部材表面を親水基含有チオール化合物で表面処理した後に、さらにフッ化水素で表面処理する。具体的には、親水基含有チオール化合物で表面処理した金属部材をフッ化水素溶液に浸漬し、これを取り出して洗浄し、乾燥すればよい。フッ化水素溶液の濃度は0.01〜20%程度でよく、液温は室温〜120℃でよい。フッ化水素で表面処理することによって親水性をさらに高めることができる。
【0023】
本発明の多孔質金属部材は、多孔質体の少なくとも外表面に貴金属粒子が分散して固着しており、該貴金属粒子の隙間に酸化物層が形成されているものである。貴金属粒子の隙間に形成されている酸化物層は、多孔質金属部材表面の酸化による酸化物層、シリカ層、またはアルミナ層の何れでも良く、あるいは多孔質金属部材表面の酸化物層とシリカ層とアルミナ層の何れか2種以上の複合酸化物層でも良い。
【0024】
貴金属粒子の隙間に酸化物層が形成されている多孔質金属部材は、例えば、以下のようにして製造することができる。
〔イ〕酸化被膜を有しない多孔質金属部材については、該多孔質金属部材の表面に貴金属コロイドを付着させ、これを大気中で室温に保持し、または大気中で加熱して上記貴金属粒子の間に多孔質金属部材表面の酸化による酸化物層を形成する。
〔ロ〕酸化被膜を有する多孔質金属部材については、該多孔質金属部材の表面に貴金属コロイドを付着させ、これを真空下または不活性雰囲気下で300℃以上に加熱して酸化被膜の酸素を多孔質金属部材表面に拡散させて金属層とし、さらに真空下または不活性雰囲気下、300℃以上の加熱を継続することによって上記金属層に貴金属粒子を接合させ、この状態で、大気中で室温に保持し、または大気中で加熱して上記貴金属粒子の間に多孔質金属部材表面の酸化による酸化物層を形成する。
【0025】
上記[イ]、[ロ]の方法によって貴金属粒子を表面に分散固着させたものは、貴金属粒子の隙間に形成された酸化物層によって貴金属粒子の下側が抱え込まれた状態になるので貴金属粒子を多孔質金属部材表面に強固に固着することができる。また上記[ロ]の方法によれば、酸化被膜の酸素を多孔質金属部材表面に拡散して金属層にし、この金属層に貴金属粒子を接合するので、貴金属粒子が強固に固着する。なお、このときの熱処理温度が800℃を上回ると、貴金属の多孔質金属部材表面への拡散が進み、貴金属が単体で存在しなくなるので、処理温度は800℃以下が好ましい。
【0026】
貴金属粒子の隙間に形成されている酸化物層がシリカ層またはアルミナ層の複合酸化物層である多孔質金属部材は、例えば、以下の方法によって製造することができる。なお、多孔質金属部材が酸化被膜を有する場合には上記[ロ]に準じた方法で貴金属粒子を多孔質金属部材表面に分散付着させれば良い。
〔ハ〕多孔質金属部材の少なくとも外表面に貴金属粒子を分散して付着させた後に、これをシリカ形成溶液とアルミナ形成溶液の混合溶液に浸漬して乾燥し、その後、大気中で150℃以上に加熱して上記貴金属粒子の隙間にシリカおよびアルミナからなる複合酸化物層を形成する。
なお、このときの処理温度が600℃を上回ると、親水性の保持能力が低下するので、加熱温度は600℃以下が好ましい。
【0027】
シリカ形成溶液としては、シリカゾル、シランカップリング剤溶液を用いることができる。また、アルミナ形成溶液としてはアルミナゾル、アルミネートカップリング剤溶液を用いることができる。さらに、シランカップリング剤溶液ないしアルミネートカップリング剤溶液にチタネートカップリング剤溶液を加えた混合溶液を用い、シリカとアルミナおよび酸化チタンの複合酸化物層を形成しても良い。
【0028】
多孔質金属部材の材質はステンレス、チタンなどの燃料電池部材として用いられる耐食性の金属材料であり、単体の金属に限らず合金でもよい。また、多孔質金属部材の製造方法は制限されない。例えば、金属粉末に結合剤、発泡剤、気泡剤を加えてスラリーにし、このスラリーを用いてシート状ないし膜状の発泡成形体を形成し、これを焼結処理して得た多孔質発泡金属板などを用いることができる。
【0029】
貴金属の種類は接触抵抗を低減できる金属であればよく、例えば金、銀、白金などが用いられる。貴金属のコーティング量は限定されない。なお、多孔質金属部材の外表面に凹凸が存在している場合、貴金属コロイド溶液にスポンジを浸し、このスポンジを凹凸に押し当てることによって、集中して凹凸に貴金属粒子を付着させると良い。また、貴金属の付着量は貴金属コロイド溶液の濃度、浸漬回数、あるいはスポンジの押し当て回数などによって調整することができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例によって具体的に示す。実施例と共に比較例を示す。
【0031】
〔実施例1〕
原料粉末として平均粒径:10μmのチタン粉末、水溶性樹脂結合剤としてメチルセルロース10%水溶液、可塑剤としてエチレングリコール、気泡剤としてアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、発泡剤としてネオペンタンを用いた。原料粉末:20質量%、水溶性樹脂結合剤:10質量%、可塑剤:1質量%、気泡剤:1質量%、発泡剤:0.6質量%、残部:水となるように配合し、15分間混練し、発泡スラリーを作製した。得られた発泡スラリーをブレードギャップ:0.5mmでドクターブレード法によりPETフィルム上に成形し、これを恒温恒湿度槽に入れ、温度:35℃、湿度:90%、25分間保持の条件で発泡させた後、温度80℃、20分間保持の条件で温風乾燥を行い、スポンジ状グリーン成形体を作製した。この成形体をPETフィルムから剥がし、アルミナ板状に載せ、Ar雰囲気中、温度:550℃、180分保持の条件で脱脂し、続いて真空焼結炉において、雰囲気:5×10-3Pa、温度1200℃、1時間保持の条件で焼結することによって、気孔率90%、厚さ:1.0mmの多孔質発泡チタン板を作製した。この多孔質発泡チタン板を、縦:30mm、横:30mmの寸法になるように切断して多孔質発泡チタン素材を作製した。
【0032】
この多孔質発泡チタン素材を市販の金コロイド溶液(平均20nm)に浸漬し、乾燥することを繰り返して、該発泡チタン表面の20%を覆うように金粒子を分布させた。更に、金粒子が付着している発泡チタンを真空中で450℃、1時間熱処理した後に、大気中で450℃、10分間熱処理した。その後、20mmol/Lのメルカプトプロパンスルホン酸ナトリウム水溶液に10分間浸漬し、純水で洗浄し、80℃、10分間乾燥することによって親水処理し、さらに50℃の1%HF水溶液に浸漬し、取出して十分に洗浄した後に乾燥して試料とした。
【0033】
〔実施例2〕
原料粉末として平均粒径:10μmのSUS316粉末、水溶性樹脂結合剤としてメチルセルロース10%水溶液、可塑剤としてエチレングリコール、気泡剤としてアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、発泡剤としてネオペンタンを用いた。原料粉末:20質量%、水溶性樹脂結合剤:10質量%、可塑剤:1質量%、気泡剤:1質量%、発泡剤:0.6質量%、残部:水となるように配合し、15分間混練し、発泡スラリーを作製した。得られた発泡スラリーをブレードギャップ:0.5mmでドクターブレード法によりPETフィルム上に成形し、恒温恒湿度槽に供給し、そこで温度:35℃、湿度:90%、25分間保持の条件で発泡させた後、温度80℃、20分間保持の条件で温風乾燥を行い、スポンジ状グリーン成形体を作製した。この成形体をPETフィルムから剥がし、アルミナ板状に載せ、Ar雰囲気中、温度:550℃、180分保持の条件で脱脂し、続いて真空焼結炉で雰囲気:5×10-3Pa、温度1200℃、1時間保持の条件で焼結することによって気孔率90%を有し、厚さ:1.0mmを有する多孔質発泡ステンレス板を作製した。得られた多孔質発泡チタンを縦:30mm、横:30mmの寸法になるように切断して多孔質発泡チタン素材を作製した。
【0034】
この多孔質発泡ステンレス板を市販の白金コロイド溶液(平均20nm)を用いその溶液に発泡チタンを浸漬し、乾燥することを繰り返すことによって発泡ステンレス板表面の20%を覆うよう金粒子を分布させた。更に、金粒子が付着している発泡ステンレス板を真空中で450℃、1時間熱処理した後に、大気中で450℃、10分間熱処理した。その後、20mmol/Lのメルカプトプロパンスルホン酸ナトリウム水溶液に10分間浸漬し、純水で洗浄し、80℃、10分間乾燥することによって親水処理し、さらに50℃の1%HF水溶液に浸漬し、取出して十分に洗浄した後に乾燥して試料とした。
【0035】
〔比較例1〕
原料粉末として平均粒径:10μmのチタン粉末、水溶性樹脂結合剤としてメチルセルロース10%水溶液、可塑剤としてエチレングリコール、気泡剤としてアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、発泡剤としてネオペンタンを用意した。原料粉末:20質量%、水溶性樹脂結合剤:10質量%、可塑剤:1質量%、気泡剤:1質量%、発泡剤:0.6質量%、残部:水となるように配合し、15分間混練し、発泡スラリーを作製した。得られた発泡スラリーをブレードギャップ:0.5mmでドクターブレード法によってPETフィルム上に成形し、恒温恒湿度槽に供給し、そこで温度:35℃、湿度:90%、25分間保持の条件で発泡させた後、温度80℃、20分間保持の条件で温風乾燥を行い、スポンジ状グリーン成形体を作製した。この成形体をPETフィルムから剥がし、アルミナ板状に載せAr雰囲気中、温度:550℃、180分保持の条件で脱脂し、続いて真空焼結炉で雰囲気:5×10-3Pa、温度1200℃、1時間保持の条件で焼結することによって気孔率90%を有し、厚さ:1.0mmを有する多孔質発泡チタン板を作製した。得られた多孔質発泡チタンを縦:30mm、横:30mmの寸法になるように切断して多孔質発泡チタン素材を作製した。この多孔質発泡チタン素材を金イオンプレーティングにより厚さ0.1μmの金でコーティングし、親水処理をしない試料とした。
【0036】
〔比較例2〕
原料粉末として平均粒径:10μmのチタン粉末、水溶性樹脂結合剤としてメチルセルロース10%水溶液、可塑剤としてエチレングリコール、気泡剤としてアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、発泡剤としてネオペンタンを用いた。原料粉末:20質量%、水溶性樹脂結合剤:10質量%、可塑剤:1質量%、気泡剤:1質量%、発泡剤:0.6質量%、残部:水となるように配合し、15分間混練し、発泡スラリーを作製した。得られた発泡スラリーをブレードギャップ:0.5mmでドクターブレード法によりPETフィルム上に成形し、恒温恒湿度槽に供給し、そこで温度:35℃、湿度:90%、25分間保持の条件で発泡させた後、温度80℃、20分間保持の条件で温風乾燥を行い、スポンジ状グリーン成形体を作製した。この成形体をPETフィルムから剥がし、アルミナ板状に載せAr雰囲気中、温度:550℃、180分保持の条件で脱脂し、続いて真空焼結炉で雰囲気:5×10-3Pa、温度1200℃、1時間保持の条件で焼結することによって気孔率90%を有し、厚さ:1.0mmを有する多孔質発泡チタン板を作製した。得られた多孔質発泡チタンを縦:30mm、横:30mmの寸法になるように切断して多孔質発泡チタン素材を作製した。
【0037】
この多孔質発泡チタン素材を市販の金コロイド溶液(平均20nm)に浸漬し、乾燥することを繰り返すことによって発泡チタン表面の20%を覆うよう金粒子を分布させた。更に、金粒子が乗っている発泡チタンを真空中で450℃、1時間熱処理し、親水処理をしない試料とした。
【0038】
〔比較例3、4〕
実施例1で得た金粒子を付着させた多孔質発泡チタン素材について、親水基を有しないチオール化合物(ドデカンチオール)を用い、上記試料をこの化合物溶液(濃度2mmol/l)に10分間浸漬し、大気中で80℃、10分間の乾燥を行い試料とした(比較例3)。
実施例1で得た金粒子を付着させた多孔質発泡チタン素材について、親水基を有するチオール以外の化合物(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)を用い、上記試料をこの化合物溶液(濃度2mmol/l)に10分間浸漬し、大気中で80℃、10分間の乾燥を行い試料とした(比較例4)。
【0039】
〔親水性確認試験〕
スポイトにて蒸留水0.005mlを試料表面に滴下して親水性を判断した。判断方法は液滴が試料表面に吸い込まれるものは親水性を有し、液滴のまま残るものは親水性がないものとし、親水性がなくなるまでの日数を調べた。この結果を表1に示す。
【0040】
〔燃料電池環境通電後の親水性確認試験〕
試料を温度:50℃、pH=2に保持された硫酸水溶液中に浸漬し、電位:800mV(対水素基準)を印加しながら100時間保持した後に試料を取出し、蒸留水で十分に洗浄して大気中で乾燥した。この試料を用い、スポイトにて蒸留水0.005mlを試料表面に滴下して親水性を判断した。判断方法は液滴が試料表面に吸い込まれるものは親水性を有し、液滴のまま残るものは親水性がないものとし、燃料電池環境通電試験後、親水性がなくなるまでの日数を調べた。この結果を表1に示す。
【0041】
表1に示すように、本発明の多孔質金属部材は親水性の持続日数が非親水処理の多孔質金属部材に対して20倍以上の持続した親水性を有するものである。さらに本発明の多孔質金属部材は燃料電池環境下において親水性を維持し、例えば、親水性の持続日数が非親水処理の多孔質金属部材に対して約6倍の持続した親水性を有する
【0042】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】親水基含有チオール化合物による表面処理の状態を示す模式図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質体の少なくとも外表面に分散固着した貴金属粒子の間に酸化物層が形成されている多孔質金属部材であって、該多孔質金属部材が親水基を有するチオール化合物溶液によって表面処理され、さらにフッ化水素で表面処理されることによって持続性のある親水性を有することを特徴とする親水性多孔質金属部材。
【請求項2】
親水性の持続日数が親水処理しない多孔質金属部材に対して20倍以上である請求項1に記載する親水性多孔質金属部材。
【請求項3】
燃料電池環境下において親水性を維持する請求項1または請求項2の何れかに記載する親水性多孔質金属部材。
【請求項4】
燃料電池用材料として用いられる請求項1〜請求項3の何れかに記載する親水性多孔質金属部材。
【請求項5】
親水基を有するチオール化合物として、メトキシシリル基、カルボン酸基、またはスルホン酸基を含有するチオール化合物によって多孔質体外表面が表面処理されている請求項1〜請求項4の何れかに記載する親水性多孔質金属部材。
【請求項6】
貴金属粒子の間に形成されている酸化物層が、多孔質金属部材表面の酸化による酸化物層、シリカ層、またはアルミナ層の何れか、或いはシリカ層とアルミナ層の複合酸化物層である請求項1〜請求項5の何れかに記載する親水性多孔質金属部材。
【請求項7】
多孔質金属部材の材質がチタンである請求項1〜請求項6の何れかに記載する親水性多孔質金属部材。
【請求項8】
貴金属が金または白金である請求項1〜請求項7の何れかに記載する親水性多孔質金属部材。
【請求項9】
多孔質金属部材が、金属粉末と結合剤、発泡剤、気泡剤を含むスラリーを用いて形成した発泡体を焼結処理して得たものである請求項1〜請求項8の何れかに記載する親水性多孔質金属部材。
【請求項10】
多孔質体の少なくとも外表面に分散固着した貴金属粒子の間に酸化物層が形成されている多孔質金属を、親水基含有チオール化合物溶液によって表面処理し、さらにフッ化水素によって表面処理することを特徴とする親水性多孔質金属部材の製造方法。
【請求項11】
親水基を有するチオール化合物として、メトキシシリル基、カルボン酸基、またはスルホン酸基を含有するチオール化合物を用いる請求項10に記載する親水性多孔質金属部材の製造方法。
【請求項12】
多孔質金属部材表面に貴金属コロイドを付着させ、これを大気中で室温に保持し、または大気中で加熱して上記貴金属粒子の間に多孔質金属部材表面の酸化による酸化物層を形成し、これを親水基含有チオール化合物溶液によって表面処理する請求項10〜請求項11の何れかに記載する親水性多孔質金属部材の製造方法。
【請求項13】
酸化被膜を有する多孔質金属部材表面に貴金属コロイドを付着させ、これを真空下または不活性雰囲気下で300℃以上に加熱して酸化被膜の酸素を多孔質金属部材表面に拡散させて金属層とし、さらに真空下または不活性雰囲気下、300℃以上の加熱を継続することによって上記金属層に貴金属粒子を接合させ、この状態で大気中で室温に保持し、または大気中で加熱して上記貴金属粒子の間に多孔質金属部材表面の酸化による酸化物層を形成し、これを親水基含有チオール化合物溶液によって表面処理する請求項10〜請求項11の何れかに記載する親水性多孔質金属部材の製造方法。
【請求項14】
多孔質金属部材表面に貴金属粒子を分散接合したものを、シリカ形成溶液またはアルミナ形成溶液、もしくはシリカ形成溶液とアルミナ形成溶液の混合溶液に浸漬して乾燥させ、その後、大気中で150℃以上に加熱して上記貴金属粒子の間にシリカ層、またはアルミナ層の何れか、あるいは多孔質金属部材表面の酸化による酸化物層とシリカ層とアルミナ層の何れか2種以上の複合酸化物層を形成し、これを親水基含有チオール化合物溶液によって表面処理する請求項10〜請求項11の何れかに記載する親水性多孔質金属部材の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−108715(P2008−108715A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−247376(P2007−247376)
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】