説明

角速度算出装置、ナビゲーション装置、角速度算出方法

【課題】ロール方向の角速度を計測しない状況で、ロール方向の傾斜によるヨー方向の角速度計測値の誤差を補正することが可能な角速度算出装置を提供する。
【解決手段】車両2のヨー方向の角速度を計測した後に、車両2の旋回走行により発生する遠心力f1を算出し、その遠心力によるロール方向のモーメントを外力とする運動方程式からロール角θを算出する。そして角速度の計測値をcosθで除算することで角速度を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角速度算出装置、ナビゲーション装置、角速度算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のとおり、自動車に搭載するナビゲーション装置等においては、角速度を検出することが重要である。具体的にナビゲーション装置等では、GPS衛星からの情報が取得できない状況において、例えばジャイロセンサによって車両の角速度を検出し、それを積分することによって車両の方向を求めるといった情報処理を実行する。
【0003】
車両の姿勢、方向を高精度に算出するためには当然、角速度データを高精度で取得する必要がある。例えば下記特許文献1では、ジャイロセンサからの角速度信号の平均値をとる等して、角速度信号の微妙な変動の影響を抑制する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−121957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ナビゲーション装置等で検出される角速度において誤差の可能性となる要因は、ジャイロの静特性や動特性の影響もさることながら、車両の動特性の影響も大きい。発明者が行った実験によれば、例えば車両がらせん状に回転しながら走行した場合、車両のロール運動によってジャイロの計測軸が傾くことによって10度のロール角で理想特性から−1.2%の誤差が生じる。特にミニバンのように車高が高い車種の場合には、旋回時のロール角が大きいために誤差が大きくなる。
【0006】
図8には車両が旋回走行したときのヨー方向の角速度と角度の時間波形の例が示されている。図8の例は角速度が台形状の波形となる場合で、点線L1がジャイロセンサによる角速度の計測値、点線L2がその時間積分である角度値であり、実線L3が角速度の真値、実線L4がL3の時間積分である角度真値である。
【0007】
図示のとおり、ジャイロの計測値L1では、旋回の開始時と終了時にオーバーシュート状の誤差が生じている。したがってその積分L2において誤差が累積されて、旋回終了後はオフセット状の誤差となってる。このオーバーシュートの原因は、上記のとおりロール運動における車両の左右方向への傾きであると考えられる。
【0008】
例えば3軸IMUのようにベクトル計算が可能ならば上記問題は明らかに解決するが、高コスト化が問題となる。したがってヨー方向の角速度のみが検出可能な条件下で、ロール運動によるジャイロ出力の誤差に対処することが望まれるが、従来技術では、そうした方法は提案されていない。
【0009】
そこで本発明が解決しようとする課題は、上記問題点に鑑み、ロール方向の角速度を計測しない状況で、ロール方向の傾斜によるヨー方向の角速度計測値の誤差を補正することが可能な角速度算出装置、ナビゲーション装置、角速度算出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0010】
上記課題を達成するために、本発明に係る角速度算出装置は、移動体のヨー方向の角速度を計測する角速度計測手段と、前記移動体の速度を計測する速度計測手段と、前記角速度計測手段によって計測されたヨー方向の角速度と、前記速度計測手段によって計測された速度と、を用いて前記移動体の旋回運動における遠心力を求めることにより前記移動体のロール方向の傾斜角度を算出する算出手段と、その算出手段によって算出された前記移動体のロール方向の傾斜角度を用いて前記角速度計測手段により計測されたヨー方向の角速度を補正する補正手段と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
これにより本発明に係る角速度算出装置では、移動体のヨー方向の角速度と併進運動の速度とを計測して、これらから移動体の旋回運動における遠心力を求めることでロール方向の傾斜角度を算出して、それによりヨー方向の角速度を補正するので、移動体のロール方向の傾斜角度を直接計測する手段を備えることなく、移動体が旋回運動した場合にロール方向に傾くことにより生じるヨー方向の角速度検出値の誤差が補正できる。したがってジャイロ装置等の装備のコストを抑えながら、旋回時にも高精度に角速度を算出する角速度算出装置が実現できる。
【0012】
また前記算出手段は、前記移動体の旋回移動における遠心力により発生するモーメントを外力モーメントとしたロール方向の運動方程式により前記移動体のロール方向の傾斜角度を算出するとしてもよい。
【0013】
これにより移動体のロール方向の傾斜角度をロール方向の運動方程式から計算し、運動方程式における外力モーメントを移動体にかかる遠心力によるモーメントとするので、ロール方向の傾斜角度を実際に計測しなくとも、高精度に移動体のロール方向の傾斜角度が算出できる。
【0014】
また前記運動方程式は、前記移動体のばね定数を含む項を有し、前記算出手段は、前記移動体のばね定数が大きい程ロール方向の傾斜角度を小さい値として算出するとしてもよい。
【0015】
これにより移動体の運動方程式に弾性に関する項があり、ばね定数が大きい程傾斜角度を小さく算出するので、移動体の弾性に関する性質も含めた運動方程式を用いて、高精度に移動体のロール方向の傾斜角度が算出できる。
【0016】
また前記補正手段は、前記移動体のロール方向の傾斜角度と前記移動体が移動する路面の傾斜角度との和を推定して、前記角速度計測手段により計測されたヨー方向の角速度を補正する第1副補正手段を備えたとしてもよい。
【0017】
これにより移動体のロール方向の傾斜角度のみでなく、それと路面の傾斜角度との和を推定して、それにより角速度計測値を補正するので、路面の傾斜も考慮した高精度の角速度補正が実行できる。
【0018】
また前記補正手段は、前記角速度計測手段を前記移動体へ取り付ける際の取り付け傾斜角度を用いて前記角速度計測手段により計測されたヨー方向の角速度を補正する第2副補正手段を備えたとしてもよい。
【0019】
これにより移動体のロール方向の傾斜角度のみでなく、角速度計測手段の取り付け傾斜角度も用いて角速度計測値を補正するので、取り付け傾斜角度も考慮した高精度の角速度補正が実行できる。
【0020】
また本発明に係るナビゲーション装置は、上記いずれかに記載された角速度算出装置を備え、前記補正手段により補正されたヨー方向の角速度を積分して前記移動体の移動方向を求め、前記速度計測手段で計測された前記移動体の速度を積分して移動距離を求めて、自律航法により前記移動体の位置を算出する位置算出手段を備えたとしてもよい。
【0021】
これにより本発明に係るナビゲーション装置では、上記のとおり移動体のロール方向の傾斜角度を直接計測せずに、ヨー方向の角速度、車速、さらには路面の傾斜角度、計測手段の取り付け角度を考慮して、遠心力を外力とし、弾性係数を含む運動方程式によって高精度に角速度を補正したうえで、角速度、速度を積分して移動体の位置を算出するので、簡易なセンサ装備のもとで移動体の位置が高精度に算出できる。
【0022】
また本発明に係る角速度算出方法は、移動体のヨー方向の角速度を計測する角速度計測手順と、前記移動体の速度を計測する速度計測手順と、前記角速度計測手順によって計測されたヨー方向の角速度と、前記速度計測手順によって計測された速度と、を用いて前記移動体の旋回運動における遠心力を求めることにより前記移動体のロール方向の傾斜角度を算出する算出手順と、その算出手順によって算出されたロール方向の傾斜角度を用いて前記角速度計測手順により計測されたヨー方向の角速度を補正する補正手順と、を実行することを特徴とする。
【0023】
これにより本発明に係る角速度算出方法では、移動体のヨー方向の角速度と併進運動の速度とを計測して、これらから移動体の旋回運動における遠心力を求めることでロール方向の傾斜角度を算出して、それによりヨー方向の角速度を補正するので、移動体のロール方向の傾斜角度を直接計測する手段を備えることなく、移動体が旋回運動した場合にロール方向に傾くことにより生じるヨー方向の角速度検出値の誤差が補正できる。したがってジャイロ装置等の装備のコストを抑えながら、旋回時にも高精度に角速度を算出する角速度算出方法が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明におけるナビゲーション装置の実施例における構成図。
【図2】実施例1における角速度補正処理のフローチャート。
【図3】実施例2における角速度補正処理のフローチャート。
【図4】実施例3における角速度補正処理のフローチャート。
【図5】実施例1における車両のロール運動を示す図。
【図6】実施例2における車両のロール運動を示す図。
【図7】実施例3におけるジャイロセンサの取り付け傾斜角を示す図。
【図8】角速度計測値とその積分値の時間波形の例を示す図。
【図9】角速度の補正前と補正後の数値例を示す図。
【図10】角速度の累積誤差の例を示す図。
【図11】角速度補正の効果の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しつつ説明する。まず図1は、ナビゲーション装置1の実施例における装置構成の概略図である。ナビゲーション装置1は自動車車両2(車両、移動体)に搭載されているとし、電子制御装置10(ECU:Electronic Control Unit)と各種機器とを備える。ECU10が本発明に係る角速度算出装置を構成する。なお本発明の角速度算出装置、さらにはナビゲーション装置の実施形態は、自動車のナビゲーション装置に何ら限定されることなく、他の移動体にも適宜搭載可能である。
【0026】
ECU10は、コンピュータの構造を有するとし、各種演算など情報処理のためのCPU11、CPU11の作業領域のための一時記憶の場としてのRAM12、各種プログラムなどを記憶しておくためのROM13、書き換え可能な不揮発性の記憶部であるメモリ14、各種機器との接続のためのインターフェース部15(I/F)を備えて、これらがバスで接続されて情報の受け渡しが可能となっている。なお本実施例におけるECU10は、カーナビゲーションのためのナビECUとすればよい。
【0027】
I/F15に接続された各種機器としては、GPS受信部21、ジャイロセンサ22、車速センサ23、地図情報データベース24(地図情報DB)、加速度センサ25を備える。
【0028】
GPS受信部21は、GPS(Global Positioning System)衛星からのGPS信号を受信する。ジャイロセンサ22は、車両のヨー方向の角速度を検出する機能を有するセンサである。ジャイロセンサ22が検出した角速度を積分することにより車両の方向変化が算出される。
【0029】
車速センサ23は、車両の速度を検出するセンサである。車速センサ23は、例えばロータリーエンコーダ等の周知の構成によって、車輪の所定回転角度ごとにパルス信号を発生させ、それを基にして車両の速度を算出する。そしてECU10において車速センサ23で得た車速を積算して車両の走行距離を算出することができるとする。
【0030】
地図情報DB24は、カーナビゲーションで利用される様々な地図情報のデータベースである。加速度センサ25は、車両2にかかる加速度を検出するセンサである。加速度センサ25は車両2の左右方向の加速度を検出する1軸の加速度センサであるとすればよい。
【0031】
上述のとおりECU10はナビECUの機能を有するものであり、GPS受信部21、ジャイロセンサ22、車速センサ23、地図情報DB24を用いて、以下のとおりカーナビゲーション(以下ではナビと略記)の処理を実行する。
【0032】
ECU10によるナビにおける位置算出方法は、主にGPS航法、自律航法、マップマッチング法からなる。このうちGPS航法は、GPS受信部21によってGPS衛星からのGPS信号を受信することによって、地球上での車両の位置(緯度、経度)を算出するものである。
【0033】
自律航法では、上記構成の場合、ジャイロセンサ22等によって車両の方向を求め、車速センサ23で検出した車速を積分して走行距離を求めることによって車両の位置を算出する。本発明では後述するようにジャイロセンサ22によって計測された角速度を補正した後にこれを用いて車両方向を算出する。CPU11では、上記GPS航法と自律航法とを組み合わせたハイブリッド航法によって車両位置を算出する。
【0034】
ハイブリッド航法では例えば、最初の位置決定を含めた、時々の数値補正のときにGPS航法を用い、それ以外のときは自律航法によって車両の進行方向及び走行距離を時々刻々算出し、それを積算していくことにより、逐次車両位置を算出していく。ハイブリッド航法を使用することによって、GPS航法ではトンネル内や建築物の陰でGPS衛星からの電波が受信しにくい状況では車両位置の算出が困難である問題点と、自律航法では走行距離を積算していくうちに誤差が累積していき車両位置の精度が低減する問題点とを互いに補うことができるので、高精度に車両位置が算出できる。
【0035】
そして、ハイブリッド航法によって得られた車両位置をマップマッチング法によって修正すればよい。マップマッチング法では、ハイブリッド航法によって得られた車両位置が地図情報DB24が有する地図と照らし合わせて不適切な位置であるとみなされた場合には、地図情報DB24が有する地図に整合させて、より適切な車両位置に修正する。
【0036】
ナビゲーション装置1は、上記構成のもとで自動車車両2の時々刻々の位置、姿勢算出を実行するが、ECU10では、そのために必要とされる処理として、ヨー方向の角速度算出処理を実行する。図2、図3、図4にはそれぞれ実施例1、2、3におけるヨー方向の角速度算出処理のフローチャートが示されている。これらのフローチャートはプログラム化されてROM13やメモリ14に記憶しておき、CPU11がこれを実行することで自動的に順次処理されるとすればよい。図2、3、4の処理は、運転者が車両を運転している間、常に実行し続けるとすればよい。なお実施例1では加速度センサ25は装備しないとしてもよい。
【0037】
まず実施例1を説明する。図2に示されているようにまずジャイロセンサ22によってヨー方向の角速度を計測し(S10)、車速センサ23によって車速を検出する(S20)。そして車両2のロール方向の傾斜角度(ロール角)を算出する(S30)。そしてS10で検出した角速度の計測値をS30で求めた車両2のロール角を用いて補正する(S40)。
【0038】
S30での算出方法は以下のとおりである。図5には、車両2が旋回運動をしたことによりロール運動した場合の様子が例示されている。同図のとおり車両2のロール角をθとする。また旋回運動によって発生した遠心力をf1とする。
【0039】
さらにロール方向の回転運動における車両2の慣性モーメントをIとし、同じ運動における車両2のばね定数をKとする。ばね定数Kには、車両2のサスペンションの弾性、タイヤの弾性を含む車両2の全ての弾性が反映されているとすればよい。また上記遠心力f1によるロール方向のモーメント(トルク)をMとする。このとき車両2のロール方向の回転運動における運動方程式は次の式(E1)で与えられる。ここでdθ/dtはθの時間tに関する2階微分を示す。
I・dθ/dt+K・θ=M (E1)
【0040】
力学分野で周知のとおり遠心力f1は次の式(E2)で与えられる。ここでmは車両2の質量、rは車両2のヨー方向の旋回運動における回転半径、ωはその旋回運動におけるヨー方向の角速度である。ωはジャイロセンサ22による計測値とする。
f1=m・r・ω (E2)
【0041】
遠心力f1とモーメントMの関係は次の式(E3)となる。ここでbはロール方向の運動における車両2の重心の回転半径とする。したがってbは例えば車両2の重心からロール方向の回転における回転中心軸(例えば旋回における外側車輪が路面と接する場所を通る軸)までの距離とすればよい。なお(E3)の右辺にさらに、車両2の重心から回転中心軸への方向と車両の左右方向との間の角度の正弦値を乗算してさらに高精度としてもよい。
M=f1・b (E3)
【0042】
車両2の車速をVとすると、力学で周知のとおり式(E4)が成立する。式(E2)と(E4)より式(E5)が得られる。さらに式(E4)と(E5)より式(E6)が得られる。
V=r・ω (E4)
f1=m・V・ω (E5)
M=m・b・V・ω (E6)
【0043】
式(E1)において近似的に定常状態を考えるとしてθの時間微分に関する項をゼロとすると次の式(E7)が得られる。
θ=M/K (E7)
【0044】
式(E6)を式(E7)に代入すると結局次の式(E8)が得られる。図2のS30ではこの(E8)によりロール角を算出する。
θ=m・b・V・ω/K (E8)
【0045】
この式(E8)でロール角θが求められたので、車両2あるいはジャイロセンサ22がロール角θだけ傾斜していることによる誤差を抑制するようにジャイロセンサ22の計測値を補正する。具体的にはジャイロセンサ22による計測値であるωを、次の式(E9)でω1へ補正する。図2のS40では、この式(E9)により角速度ωをω1へ補正すればよい。
ω1=ω/cosθ (E9)
【0046】
以上のとおり実施例1では角速度ωや車速Vなどから式(E5)で遠心力f1を求めて式(E8)でロール方向の傾斜角度θを算出する。したがってθを直接計測する必要がない。なおmやbは予め計測した数値をECU10に記憶しておけばよい。
【0047】
実施例1のナビゲーション装置1では、この後、式(E9)で補正された角速度ω1を積算(積分)することによって車両2の角度(方向、姿勢)を算出する。ECU10では、車両2の方向情報と、車速センサ22で検出された車速を積分した移動距離情報と組み合わせて車両の現在位置を時々刻々算出することによって自律航法を実行する。上述のようにこれをGPS航法やマップマッチング法と組み合わせて、より高精度に車両位置を算出すればよい。
【0048】
次に実施例2を説明する。実施例2では車両のロール角のみでなく、路面の傾斜角も考慮する。以下で実施例1と異なる部分を説明する。図6(a)には路面が傾斜している場合の車両2の様子が例示されている。同図のとおり水平面を基準としたときの路面の傾斜角をφとし、路面を基準にしたときの車両2のロール角をθとする。また車両2の左右方向にかかる力をf2とする。
【0049】
実施例2のフローチャートは図3に示されている。図3の処理手順では、実施例1と同じS10、S20を処理した後に、車両2の加速度を検出する(S50)。これは加速度センサ25によって検出すればよい。この手順での加速度とは車両の左右方向の加速度とすればよい。したがってこの加速度の方向は水平面からはφ+θだけ傾斜している。
【0050】
次にS60で車両2のロール角θと路面の傾斜角φとの和を推定する。その推定方法は図6(b)に図示されている。同図では、車両2の左右方向の加速度をa2としている。このa2と車両の質量mとの積が上述のf2となる。また同図のa1は車両2の路面上での旋回運動により発生する遠心力による加速度成分を示している。またVは車両2にかかる重力加速度Gのa1、a2と平行な方向の成分である。
【0051】
図6(b)のとおり、加速度a2はa1とVとの和である。したがって次の式(E10)が成立する。
V=a2−a1 (E10)
【0052】
また図6(b)からあきらかに、路面の傾斜角φと、V、重力加速度Gとの間に次の式(E11)が成立する。
V/G=sin(θ+φ) (E11)
【0053】
車両2にかかる遠心力は上記式(E5)で与えられるf1である。車両2にかかる遠心力は車両2の左右方向の力なので、図6のa1はf1よりもさらにθだけ傾いている。よって次の式(E12)が成立する。ここではθは小さいとしてcosθを1に近似し、さらに式(E5)を用いると式(E13)が得られる。
f1・cosθ=m・a1 (E12)
a1=V・ω (E13)
【0054】
以上をまとめると、次の式(E14)が得られる。式(E14)でa2、V、ωはそれぞれ加速度センサ25、車速センサ23、ジャイロセンサ22の計測値である。図3のS60ではこの式(E14)でθ+φを算出すればよい。
θ+φ=sin−1((a2−V・ω)/G) (E14)
【0055】
この式(E14)によりθ+φが得られた。よってS70では次の式(E15)によりS10でジャイロセンサ22によって計測値したωをω2へ補正する。
ω2=ω/cos(φ+θ) (E15)
【0056】
以上のとおり実施例2では式(E15)で角速度の計測値ωを補正するので、ロール角θのみでなく路面の傾斜角φも用いた高精度な補正が実現できる。
【0057】
次に実施例3を説明する。実施例3では、ジャイロセンサ22の車両2へ取り付ける際に傾いて取り付けられる場合があるが、これを考慮してヨー方向の角速度を補正する。以下で実施例2と異なる部分を説明する。
【0058】
図7には、ジャイロセンサ22が車両2へ取り付けられた様子の例が示されている。図7の例では、ジャイロセンサ22を含めたナビゲーション装置1がダッシュボードに装備されて、ジャイロセンサ22の取り付け傾斜角はψとなっている。図7では傾斜角ψはピッチ方向の傾斜角となっている。
【0059】
実施例3の処理手順は図4のフローチャートに示されている。同図のとおり、実施例3では、実施例2と同じS10からS70を処理した後に、取り付け傾斜角ψによりヨー方向の角速度を補正する(S80)。
【0060】
具体的に手順S80では、取り付け傾斜角がピッチ方向に角度ψであることから、次の式(E16)によってS70までで得られた上述のω2をω3へ補正する。取り付け傾斜角ψの情報はあらかじめ例えばメモリ14などに記憶しておけばよい。
ω3=ω2/cos(ψ) (E16)
【0061】
以上のとおり実施例3ではジャイロセンサ22が傾斜して取り付けられている場合にも高精度に角速度計測値の補正ができる。なお上記では取り付け傾斜角度ψをピッチ方向としたが、ψがそれとは異なる方向であった場合は上記補正を修正すればよい。修正は自明である。例えばψがφやθと同じロール方向であった場合には式(E16)は用いず、式(E15)でφ+θをψ+φ+θに変更する。
【0062】
またS80の処理を図1のS40の後(あるいは前)に追加してもよい。この場合実施例1の補正に取り付け傾斜角の補正が追加されて、より高精度な補正となる。
【0063】
以上述べた実施例における効果の例が図9から図11に示されている。図9では、横軸がヨー方向の角速度の計測値、縦軸がその補正値を示している。本発明による補正によって、角速度が大きいほど、さらに車速が大きいほど、補正量の効果が大きくなる。
【0064】
これによって車両が高速で旋回した場合のロール運動によるヨー方向角速度の計測誤差が補正されることが期待されるが、実際図10、11に示されているように実際に効果があらわれる。図11が、図8と同様の旋回走行をした場合に本発明の角速度補正を行った場合、図10が本発明の補正を行わなかった場合である。
【0065】
図10、11では角度誤差が実線L5で示されている。つまりL5はL2とL4との差分である。図10では旋回走行中にロール角速度計測値の誤差が累積して旋回終了後にはオフセット状の角度誤差が生じているが、図11では本発明の効果によりこうした誤差が生じていない。
【0066】
上記実施例においてS10の手順とECU10とが角速度計測手段を構成する。S20の手順とECU10とが速度計測手段を構成する。S30の手順とECU10とが算出手段を構成する。S40の手順とECU10とが補正手段を構成する。S70の手順とECU10とが第1副補正手段を構成する。S80の手順とECU10とが第2副補正手段を構成する。
【符号の説明】
【0067】
1 ナビゲーション装置
2 自動車車両(移動体)
10 ECU(角速度算出装置)
22 ジャイロセンサ
23 車速センサ
25 加速度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体のヨー方向の角速度を計測する角速度計測手段と、
前記移動体の速度を計測する速度計測手段と、
前記角速度計測手段によって計測されたヨー方向の角速度と、前記速度計測手段によって計測された速度と、を用いて前記移動体の旋回運動における遠心力を求めることにより前記移動体のロール方向の傾斜角度を算出する算出手段と、
その算出手段によって算出された前記移動体のロール方向の傾斜角度を用いて前記角速度計測手段により計測されたヨー方向の角速度を補正する補正手段と、
を備えたことを特徴とする角速度算出装置。
【請求項2】
前記算出手段は、前記移動体の旋回移動における遠心力により発生するモーメントを外力モーメントとしたロール方向の運動方程式により前記移動体のロール方向の傾斜角度を算出する請求項1に記載の角速度算出装置。
【請求項3】
前記運動方程式は、前記移動体のばね定数を含む項を有し、
前記算出手段は、前記移動体のばね定数が大きい程ロール方向の傾斜角度を小さい値として算出する請求項2に記載の角速度算出装置。
【請求項4】
前記補正手段は、前記移動体のロール方向の傾斜角度と前記移動体が移動する路面の傾斜角度との和を推定して、前記角速度計測手段により計測されたヨー方向の角速度を補正する第1副補正手段を備えた請求項1乃至3のいずれか1項に記載の角速度算出装置。
【請求項5】
前記補正手段は、前記角速度計測手段を前記移動体へ取り付ける際の取り付け傾斜角度を用いて前記角速度計測手段により計測されたヨー方向の角速度を補正する第2副補正手段を備えた請求項1乃至4のいずれか1項に記載の角速度算出装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載された角速度算出装置を備え、
前記補正手段により補正されたヨー方向の角速度を積分して前記移動体の移動方向を求め、前記速度計測手段で計測された前記移動体の速度を積分して移動距離を求めて、自律航法により前記移動体の位置を算出する位置算出手段を備えたことを特徴とするナビゲーション装置。
【請求項7】
移動体のヨー方向の角速度を計測する角速度計測手順と、
前記移動体の速度を計測する速度計測手順と、
前記角速度計測手順によって計測されたヨー方向の角速度と、前記速度計測手順によって計測された速度と、を用いて前記移動体の旋回運動における遠心力を求めることにより前記移動体のロール方向の傾斜角度を算出する算出手順と、
その算出手順によって算出されたロール方向の傾斜角度を用いて前記角速度計測手順により計測されたヨー方向の角速度を補正する補正手順と、
を実行することを特徴とする角速度算出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−80857(P2011−80857A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233232(P2009−233232)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(000203634)多摩川精機株式会社 (669)
【Fターム(参考)】