説明

試料作製・観察方法及び荷電粒子ビーム装置

【課題】FIB加工とSEM観察の繰返しによる加工断面の奥行き方向のSEM観察において、加工断面が奥行き方向に移動することに伴って発生するSEM観察の観察視野ずれと焦点ずれを補正する。
【解決手段】断面加工領域の表面の高さと傾き情報を加工に先立って算出し、これらの情報を利用して、加工時における加工断面の移動量に応じたSEM観察の観察視野ずれと焦点ずれを予測し、この予測値に従ってSEMを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイスや新材料などの試料表面の局所領域に、集束イオンビーム(Focused Ion Beam:FIB)を用いて連続的な断面を加工し、かつその連続的な断面を走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)などで観察する方法、及びそれに用いる荷電粒子ビーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、FIB照射系と電子ビーム照射系の両照射軸を鋭角で交差し、両ビームの走査画像、つまり走査イオン顕微鏡像(SIM像)とSEM像にて同じ領域の像を表示することができるデュアルビーム装置が記載されている。電子ビーム照射系から見込まれるように断面をFIBで加工作製すれば、加工断面は試料傾斜せずにSEM観察することができる。このFIB加工とSEM観察を繰り返していけば、加工面の奥行き方向に連続的な切片画像が積算できる。つまり、3次元(3D)観察ができる。特許文献1には、レーザビームを用いて試料表面の複数点の高さを検出し、その複数点の高さ情報から試料表面の傾きを算出する技術が開示されている。
【0003】
【非特許文献1】加藤、大塚:東レリサーチセンター THE TRC NEWS No.84, 40-43 (July, 2003)
【特許文献1】特許第2852078号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
FIB加工とSEM観察の繰返しによる加工断面の奥行き方向のSEM観察においては、加工断面が奥行き方向に移動するため、その移動に伴うSEM観察の観察視野ずれと焦点ずれが発生する。
【0005】
本発明は、このSEM観察の観察視野ずれと焦点ずれを補正して連続観察する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
加工断面の移動にSEM観察視野と焦点を追随させる方法として、試料の移動断面内の目印となる構造を探して追いかけることで視野位置を補正し、観察断面に焦点を随時自動調整で合わせる自動焦点合わせの方法も考えられるが、この視野位置補正及び自動焦点化には、いずれも最適状態に達するための探索作業(制御計算機内の作業)が必要である。この探索作業には、通常、数秒から数10秒を要し、この間は正しい視野でかつ焦点の合った加工断面のSEM観察は行えない。
【0007】
本発明では、上記課題を解決するために、断面加工領域の表面の高さと傾き情報を加工に先立って算出しておき、これらの情報を利用して、加工時における加工断面の移動量に応じたSEM観察の観察視野ずれと焦点ずれを予測し、補正する。本発明の追随手段は、予め予測した状態にSEMの観察視野と焦点を制御していく手段である。SEMは予め予測した状態に追随させるのみであるため、FIB断面加工と加工断面のSEM観察は、繰返しばかりでなく両者を同時進行で行うこともできる。
【0008】
本発明による試料作製・観察方法は、集束イオンビームによる加工によって、試料表面に形成した断面を当該断面が後退する方向に移動させ、集束イオンビームの照射軸に対して斜め交差軸方向から電子ビームを照射して走査電子顕微鏡により移動する試料断面を観察する試料作製・観察方法において、試料表面の傾斜情報を取得し、集束イオンビームの照射軸と電子ビームの照射軸とがなす角度と、試料表面の傾斜情報とを用いて、加工により試料断面が移動することに伴う走査電子顕微鏡の視野移動量の補正係数及び焦点位置ずれ量の補正係数を求め、前記補正係数を用いて走査電子顕微鏡の視野移動と焦点位置ずれを補正し、走査電子顕微鏡の視野及び焦点位置を試料断面の移動に追随させる。
【0009】
試料表面の傾斜情報は、試料表面に形成したマークの走査イオン顕微鏡像と走査電子顕微鏡像の両画像間の座標位置関係を利用して求めることができる。集束イオンビームの照射軸をZ軸、Z軸に垂直な平面をX平面とする直交座標系で、X軸を集束イオンビームの照射軸と電子ビームの照射軸を含む平面内に取るとき、試料表面の傾斜情報は、Y軸を回転中心とした試料表面のX軸に対する傾斜角である。前記傾斜角は、X方向成分が異なる2つのマークを観察した走査イオン顕微鏡像におけるマーク像位置と、前記2つのマークを観察した走査電子顕微鏡像におけるマーク像位置と、集束イオンビームの照射軸と電子ビームの照射軸とがなす角度とを用いて求めることができる。
【0010】
本発明による荷電粒子ビーム装置は、試料を保持する試料ステージと、集束イオンビームを試料ステージに保持された試料に照射し、試料断面を加工する集束イオンビーム照射系と、集束イオンビームの照射軸と試料上で交差する照射軸を有する電子ビーム照射系と、集束イオンビームあるいは電子ビームの照射によって試料から放出された試料信号を検出する検出器と、検出器の出力をもとに形成された走査イオン顕微鏡像及び/又は走査電子顕微鏡像を表示する表示部と、集束イオンビーム系と前記電子ビーム照射系を制御するビーム制御部とを備え、集束イオンビームによる加工によって、試料表面に形成した断面を断面が後退する方向に移動させ、走査電子顕微鏡像により移動する試料断面を観察する荷電粒子ビーム装置において、ビーム制御部は、加工により試料断面が移動することに伴う走査電子顕微鏡の視野移動量の補正係数及び焦点位置ずれ量の補正係数を保持し、その補正係数を用いて走査電子顕微鏡の視野移動と焦点位置ずれを補正し、走査電子顕微鏡の視野及び焦点位置を集束イオンビームの照射位置の移動と共に移動する試料断面に追随させる制御を行う。
【0011】
ビーム制御部は、試料表面に形成したマークの走査イオン顕微鏡像と走査電子顕微鏡像の両画像間の座標位置関係を利用して試料表面の傾斜情報を求め、集束イオンビームの照射軸と電子ビームの照射軸とがなす既知の角度と、試料表面の傾斜情報とを用いて、走査電子顕微鏡の視野移動量の補正係数及び焦点位置ずれ量の補正係数を求めることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、FIB断面加工と加工断面のSEM観察の繰り返しにおいて、加工断面が奥行き方向に移動しても、SEM観察の観察視野と焦点をその加工断面に追随させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【実施例1】
【0014】
図1から図4を用いて、本発明による荷電粒子ビーム装置の構成例を説明する。図1は実施例1で用いた荷電粒子ビーム装置の概略構成図である。以下、集束イオンビーム照射系1、電子ビーム照射系3及び試料6における座標系として直角座標(X,Y,Z)を用いるが、それぞれを下付き添字i,e及びsによって区別する。集束イオンビーム照射系1と電子ビーム照射系3は試料室筐体5に取り付けられており、集束イオンビーム照射軸(−Z)2と電子ビーム照射軸(−Z)4は試料6の上で鋭角α(本実施例では60度)で交差している。この交差角αは装置で決まる固定値であり既知である。その交差点に両座標の座標原点O及びOをとる。また、試料座標は、そのX面を試料表面にとり、X座標軸は2つの座標軸ZとZが張る平面内にとる。また、原点Oは他座標の原点O及びOに一致させる。
【0015】
試料から放出された荷電粒子やX線は、それぞれ荷電粒子検出器7及びX線検出器8で検出される。X線検出器8の設置個所は電子ビーム照射系3に隠れるため、図1では装置から外して下方に示してある。照射系位置調整部9は、集束イオンビーム照射系1を試料室筐体5上にてX面と平行な面内で機械的に移動調整して、集束イオンビーム照射軸2と電子ビーム照射軸4とをほぼ交差させるものである。機械的移動調整ではその完全交差において数10ミクロン程度のずれが残る。このずれは、照射イオンビームと照射電子ビームの少なくとも一方のビーム偏向照射領域のシフトにより解消した。以下の各座標系における距離の座標間の変換には、このシフト量は入り込まない。試料6は移動(集束イオンビーム照射系のX,Y,及びZの3方向軸)と回転(Zを回転軸)と傾斜(Yを傾斜軸)が可能な試料ステージ10に搭載されており、Z移動により上述の両照射軸の交差点(原点O及びO)に試料6の表面を合わせる。ビーム制御部15は集束イオンビームや電子ビームの照射、走査などを制御し、またこれらの走査と同期して試料から放出される荷電粒子やX線などを輝度信号としてSEM像、SIM像、X線像としての画像化の制御も行う。これら画像はビーム制御のウインドウ画面などと共に画像表示手段13に表示される。図示の例では、画像表示手段13には、表示画面としてSIM画像14aとSEM画像14bが表示されている。試料室筐体5を真空排気する真空排気系11は真空排気系電源によって駆動される。後述するSEM観察視野追随部16は、ビーム制御部15に含まれている。
【0016】
図2から図4は、本実施例のFIBによる断面試料作製及びSEM観察方法の説明図である。まず図2は、試料の観察局所表面(X面)がイオン照射系座標のX面と一致した場合の実施例である。試料の3次元(3D)解析したい領域21は、断面20を端面として幅W、深さD、長さLの直方体で近似する。代表的なW,D,及びLのサイズは、それぞれ8μm、8μm及び20μmである。
【0017】
まず初めに、矩形の穴(幅W、深さD、長さLo)22をFIB加工して、断面20を露出させる。この断面がSEM観察の初期断面であり、SEM像の観察視野や焦点をこの断面に合わせる。断面20は、厳密にはイオンのスパッタリング加工特性により平面Yに対し1〜3度傾斜して作製される。矩形穴22は、断面20をSEM観察する電子ビームの入射路として利用される。従って、その穴長さLoは、少なくともD・tanα程度が必要である。
【0018】
次に、3D観察するために加工断面20を、FIB加工走査領域のビーム偏向シフトにより−Xi方向(図2においてXi,s→Xi,2)に連続あるいはステップ移動させる。その移動量が大きくなると、SEM観察の視野は断面がXi,s位置にあった時から大きくずれ、また焦点も合わなくなる。本発明のポイントは、その断面移動と共にSEM像の観察視野と焦点をその移動断面に追随させた点にある。この追随を実現するためには、加工断面の移動量に応じたSEM観察の観察視野ずれ及び焦点ずれの補正量を加工・観察に先立って測定しておき、加工時にはこの補正量に従ってSEM状態を随時、設定していけばよいのである。以下、これらの補正量の測定方法について述べる。
【0019】
図2において、断面20の移動量をΔX(>0)とすると、電子ビーム座標では電子ビーム軸と集束イオンビーム軸の交差角αを用いて下記で表されるΔYeとΔZe値の移動となる。
【0020】
ΔYe = cosα・ΔX (1)
ΔZe = −sinα・ΔX (2)
【0021】
すなわち、FIB加工走査領域のビーム偏向シフト量ΔXに応じて、SEM観察の観察視野ずれ及び焦点ずれの補正量として、それぞれ上式から算出したΔYe及びΔZeを設定すればよい。
【0022】
図2から図4及び図6において、座標軸X’Y’Z’は電子ビーム照射系の座標軸X をその原点OをZ軸上で移動した座標に相当する。X面での説明図を他図と重ならない様にするために、Z軸上に平行移動したX’Y’面で議論するものである。X面とX’Y’面は全く等価である。また、記号b1〜b4は、解析対象部の局所表面の傾斜角情報を取得するために、その局所領域の近傍の試料表面に設けたマークである。これらマークは、FIB加工の加工跡、あるいはFIBアシストデポジションを利用した堆積膜として、Xi及びYi軸と平行な辺を持つ矩形のコーナ位置に形成する。記号a〜aはマークb1〜b4のXii面への投影である。また記号c〜c及びd〜dは、それぞれ記号a〜a及びb〜bのX面(あるいはX’Y’面)への投影である。式(1)及び(2)のように試料面X面がXii面と一致する場合は、マークが無くても補正量ΔYe及びΔZeは計算できる。
【0023】
次に、図3を用いて、試料の解析対象局所表面がY軸とは平行(Y軸に対する傾斜角θは0)ではあるがXi軸と小さな角度θ傾いている場合について説明する。この傾斜角θは、未知値であるので、SEM観察における断面20の追跡を行うためには、この傾斜角θを予め求めておき、視野移動と焦点位置ずれ補正量を前もって調べておく必要がある。この傾斜角θを求めるために、作製する試料断面位置の近傍の試料表面に少なくともX値が異なる2種類のマークを設ける。マークを設けた試料の局所領域は平面近似できる。図3は、試料表面に4つのマークb〜bを形成した例である。試料上のマーク面(X面)はX面と角度θ傾いているので、マーク面と電子ビーム座標のY軸との角度βとおくと、βはθ及びαと次式の関係がある。
【0024】
β=α−θ (3)
【0025】
試料上のマークb間距離(以下、マーク間距離は、のように下線を引いて表す)とSIM像及びSEM像から画像倍率補正して測定したマーク間距離及びとの関係は、それぞれθ及びβを用いて以下に表される。(以下では、画像倍率補正の表記を省略する)
a=cosθ (4)
=cosβ・ (5)
式(3)〜(5)より
cos(α−θ)/cosθ/ a (6)
【0026】
これよりθを求めると、次式で表される。
θ=arctan[{1-(/ aa)/cosα}/tanα] (7)
【0027】
距離及びは両画像を用いての測定値であり、αは荷電ビーム装置で決まる既知の値であることから、角度θは式(7)より算出できる。マークはこのbとb4のように、X値の異なる2つがあればθを算出できる。つまり、マークは他にbとb、bとb、bとbのいずれかでも良い。これらのX面への投射マーク点間距離の全てのX軸方向成分が距離a aと一致するからである。
【0028】
式(7)のθ算出値を用いて、断面20の移動量ΔXに対応する電子ビーム座標での視野移動量ΔYと焦点位置ずれ量ΔZは、式(1)と(2)と類似の次式(8)及び(9)で表され、ΔXに応じて前もって予測可能となる(ΔXについては、ΔX=0である)。
【0029】
ΔYe =Ky・ΔX (8)
ΔZe =Kz・ΔX (9)
y= cos(α−θ)/cosθ (10)
z= −sin(α−θ)/cosθ (11)
【0030】
ここで、Ky及びKzは、それぞれ視野移動量ΔYと焦点位置ずれ量ΔZの補正係数である。式(8)と(9)は、特にθ=0と置くと、式(1)と(2)に一致する。また、ΔXに相当するΔZは、以下で表される。
【0031】
ΔZ=ΔX・tanθ (12)
【0032】
最後に、図4を用いて、試料の解析対象局所表面におけるXi及びY軸に対する小さな傾斜角成分がそれぞれθ及びθである場合を示す。図4(a) は、試料表面に形成したマークb〜bと各座標系との関係を示す斜視図、図4(b)は、マークb〜bのXii面への投影像を示す図、図4(c)はマークa〜a及びマークb〜bのXee面への投影像を示す図である。図3と同様、記号a〜aはマークb〜bのX面への投影位置(図4(b)参照)であり、記号c〜c及びd〜dはそれぞれ記号a〜a及びb〜bのX面への投影位置(図4(c)参照)である。記号a〜aが矩形を作っても、θ及びθの傾斜のために記号b〜b及びd〜dは矩形ではなく、平行四辺形を作る。SEM画像での線分dのX軸に対する傾斜角θe,yはθと次式の関係がある。
【0033】
θ= arctan[tanθe,y /sinα] (13)
【0034】
SEM画像における点d(j=1〜4)の位置座標を(Xe,j,Ye,j)とすると、tanθe,yは次式から算出できる。
【0035】
tanθe,y = (Ye,2−Ye,1)/(Xe,2−Xe,1) (14)
【0036】
ここで距離比(Ye,2−Ye,1)/(Xe,2−Xe,1)は、図4(c)における距離比/に相当するから、上式(13)と(14)よりθを算出することができる。一方、断面20の移動量ΔXに対応する電子ビーム座標での視野移動量ΔYeと焦点位置ずれ量ΔZは、それぞれ式(8)と(9)と同じになる。ΔY及びΔZの算出式に、θは含まれない。任意方向に傾斜している局所表面(平面近似)を測定する、つまり、θとθを測定するには、マークはb〜bの内、少なくとも3つが必要になるが、ΔYとΔZの予測に関しては、θのみの算出となる。よって、マークは、X値の異なるマークが少なくとも2つ、すなわち、マーク組合せbとb、bとb、bとb、あるいはbとbであれば良い。θ算出において、組合せがbとbの場合は、式(7)に一致する。その他の組合せ(一般的にb,bと表す)の場合は、距離のX方向成分を(x、距離のY方向成分を(yと表すとこれらは測定でき、式(7)と等価な次式を用いれば良い。
【0037】
θ=arctan[{1-((y/ (aax)/cosα}/tanα] (15)
【0038】
次に、FIB断面加工とその断面のSEM観察の繰返し(あるいは連続)により行う3D観察の手順を説明する。
【0039】
(i) 3D観察対象領域の設定と試料ステージの位置調整
3D観察対象領域の大きさ(幅W、深さD、長さL)と位置を特定し、その観察対象領域を、試料ステージのXYZ移動により、FIBと電子ビームの両ビーム軸交点の近傍に合わせる。次に、また、作製する断面がY面と平行に、かつ断面の移動方向のY成分がゼロで、X成分が−X軸方向になるように試料ステージの回転により合わせる。
【0040】
(ii) マーク形成
3D観察対象領域の設定領域の表面近傍に(あるいは囲むように)マークを4つ形成する。マークはそれぞれ位置がX面にてその辺がXやY軸に平行な矩形の角に相当するように形成する。マークの数は、通常、矩形角に相当する4つであるが、少なくともその内の3つあればよい。観察局所領域表面が、特にX面に水平であればマークは無くてもよく、またX軸方向にのみわずかに傾斜している場合は、X値の異なる少なくとも2つのマークがあればよい。マークは、FIB加工にて切削する丸孔や×あるいは+溝が通常であるが、FIBアシストデポジションで形成する局所的な堆積膜でも良い。
【0041】
(iii) 形成したマークの位置座標(X,Y)登録
形成したマークの位置座標(X,Y)を登録する。マークをFIB加工にて作製した場合は、その加工座標データがマークの位置座標(X,Y)として使用できる。
【0042】
(iv) マークのSEM像観察とその位置座標(X,Y)登録
マークをSEM像観察し、その位置座標(X,Y)を登録する。
【0043】
(v) 観察局所試料面の傾斜角θ(θ,θ)の算出
式(7),(13)及び(14)より傾斜角θ(θ,θ)を算出する。
【0044】
(vi) 補正係数Ky及びKzの算出
視野移動量ΔYと焦点位置ずれ量ΔZのそれぞれの補正係数Ky及びKzを式(10)と(11)から算出する。
【0045】
(vii) FIB加工条件及び断面移動速度の設定
FIB条件(ビーム径、ビーム電流及び照射条件)及び断面移動速度Vなどを登録する。
【0046】
(viii) 移動断面におけるXの初期値と終了値の設定
移動断面におけるXの初期値Xi,sと終了値Xi,eを設定する。
【0047】
(ix) スタート断面の作製
図2の例においては、矩形穴22の左端を加工初期X値Xi,sの少し手前に設定して矩形穴加工し、穴側面を残りのXi,s値まで(vii)で設定した加工FIBと照射(あるいは走査)条件を用いて加工して寄せる。この寄せた穴側面がスタート断面となる。
【0048】
(x) スタート断面におけるSEM観察像の視野情報と焦点位置情報の登録
3D観察のスタート断面にSEM観察像を合わせ、観察視野情報(X,Y)及び焦点位置情報Zのスタート値(Xe,s,Ye,s,Ze,s)を登録する。また、FIB加工断面位置情報(X,Y)のスタート値(Xi,s,Yi,s)及び終了値(Xi,e,Yi,e)も登録する。また、SEM断面観察画像の信号種を二次電子、反射電子、X線から少なくとも1種を選択し、観察条件と共に登録する。そして、スタート断面の観察画像を取得して登録する。
【0049】
(xi) 断面の移動加工
前記(vii)で登録した加工用FIBにて断面の移動加工を行う。加工時間tと共にFIB照射領域を−Xi方向に移動させ、加工断面も同期して移動させる。その移動量(>0)をΔXとする。ΔXiは断面移動速度Vsと加工時間tの積で表される[ΔX=V・t]。
【0050】
(xii) SEM観察における観察視野及び焦点位置情報の補正量の計算
SEM観察における観察視野及び焦点位置情報(X,Y,Z)の補正量(ΔX,ΔY,ΔZ)におけるΔY及びΔZを、それぞれ式(8)及び(9)から計算する。ただし、補正係数Ky及びKzは(vi)での算出値を用いる。ΔXは、常に0である。
【0051】
(xiii) SEM観察の像視野及び焦点位置座標の設定
SEM観察の像視野及び焦点位置の座標値(X+ΔX,Y+ΔY,Z+ΔZ)を設定する。
【0052】
(xiv) SEM観察像の取得
SEM断面観察像を取得し、断面移動量ΔXの関数として記録していく。ただし、ΔXに相当する断面のY及びZ方向移動量ΔY及びΔZは、それぞれゼロ及び式(12)からΔXの関数として求まる量である。
【0053】
(xv) 移動加工の終了
加工断面が(viii)で設定した移動最終位置(X=Xi,e)まで移動した時点で移動加工を終了する。
【0054】
(xvi) SEM画像の3D解析
前記(xiii)で断面の移動量(ΔX,ΔY,ΔZ)あるいはΔXの関数として記録した一連の断面のSEM画像を3D構築する。
【0055】
SEM観察視野追随部16は、前記の手順の(i)〜(xv)を実現するためのビーム制御計算ソフトと加工・観察フロー表示ウインドウからなる。SEM観察視野追随部16において加工・観察フロー表示ウインドウの項目の実施例を表1に示す。またその項目ごとの前記手順を内容欄に示す。ビーム制御計算ソフト内容は、手順各項目で示した計算を行うものである。
【0056】
【表1】

【0057】
前記移動断面のSEM画像観察プロセス時における輝度信号種について説明する。信号種は、二次電子、反射電子、X線の少なくとも1種である。二次電子を用いる場合は、SEMの電子ビーム照射による二次電子にFIB照射による二次電子が混入するため、SEM画像取得中はFIB照射を一時的に中断する必要がある。つまり、FIB加工とSEM観察の繰返し操作により実施した。一方、SEM画像の輝度信号に反射電子あるいはX線を用いる場合は、FIB照射によるこれらの信号励起はないため、FIB照射の一時中断は必要なく、FIB加工とSEM観察の連続操作により実施した。
【0058】
図6を用いて、マークの形状の他の例について説明する。図6(a) は、試料表面に形成したマークb〜bと各座標系との関係を示す斜視図、図6(b)は、マークb〜bのXii面への投影像を示す図、図6(c)はマークa〜a及びマークb〜bのXee面への投影像を示す図である。図2から図4には、個々のマークがそれぞれの代表位置を表し、かつ孤立している場合を示した。図6に示すマークは、実施例1におけるX値が異なる少なくとも2つのマークが繋がって、数的には1つとなっているマークの例である。例えば、図4においてX値の異なる2つのマークbとb及びbとbは、それぞれが繋がって図6では1つの棒状マークb及びbとなっている。この1つの棒状マークでもその両端のX値は、個々のマークX値の情報を持っている。従って、マークは1つの代表点を表すマークであっても良いし、あるいは2点を表す棒状マーク、あるいはそれらを組み合わせたマークであっても良い。
【実施例2】
【0059】
3D観察対象領域の試料表面の傾斜情報は、レーザ顕微鏡を用いても取得できる。図5は、レーザ顕微鏡を用いた試料表面の高さ(Z)の測定装置概略図である。試料6はXYZ試料ステージ31に載置される。照明ランプ40からの照明光をレンズ39、ハーフミラー35、対物レンズ34を介して試料6の表面に照射する一方、試料6の表面は、対物レンズ34を通して撮像装置36に結像される。撮像装置36からの画像信号は画像処理装置37を通してモニタ装置38に写し出される一方、画像処理装置37は、モニタ装置38上に試料表面画像を出力し、またコンピュータ43と接続されている。そしてXYZステージ31のZ軸を上下させることにより、モニタ装置38を見ながら試料6の表面に自動で焦点を合わせる構成となっている。また、41は、XYZステージ41のXYZ位置を読み込む変位検出器であり、インターフェース回路42を通してコンピュータ43で試料6の任意位置のXYZ座標系での値が読み込まれる。またインターフェース回路42を介してコンピュータ43からの指令で、XYZステージ31が制御される構成となっている。
【0060】
3D解析したい試料をXYZ試料ステージ31に載せ、図1における試料の作製断面配置でのXiii軸と試料ステージのXYZ軸とを合わせる。こうして3D解析したい近傍の表面上の特定箇所を順次、レーザ顕微鏡を焦点合わせして追っていけば、その箇所での(X,Y,Z)座標値が得られ登録される。これらの座標位置情報は3D観察対象の試料表面の傾斜情報を含んでおり、例えば、図4(a)におけるマークb(ただし、j=1〜4)の(X,Y,Z)座標を(Xlj,Ylj,Zlj)とおくと、θとθは、それぞれ次式から計算できる。
【0061】
θ=arctan{(Zl3+Zl4-Zl1-Zl2)/(Xl3+Xl4-Xl1-Xl2)} (16)
θ=arctan{(Zl3+Zl4-Zl1-Zl2)/(Xl3+Xl4-Xl1-Xl2)} (17)
【0062】
よって、断面20の移動量ΔXに対応する電子ビーム座標での視野移動量ΔYと焦点位置ずれ量ΔZは、前式(8)〜(11)より算出できる。レーザ顕微鏡と荷電粒子ビーム装置とは繋がっており、レーザ顕微鏡から座標位置情報(あるいは、θとθ情報)が荷電粒子ビーム装置のビーム制御部に送られる。レーザ顕微鏡は荷電粒子ビーム装置とオフラインでもよいが、この場合は、レーザ顕微鏡で取得した座標位置情報(あるいは、θとθ情報)を、記録媒体を介しての読込み、あるいはオペレータのキー入力が必要になる。このレーザ顕微鏡を使う方法は、前者のSIM画像とSEM画像を利用する方法と比べ、SEMとSIMと組み合わせた荷電粒子ビーム装置の他にレーザ顕微鏡が必要となり、装置構成が少し複雑になる欠点がある。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明による荷電粒子ビーム装置の概略構成図。
【図2】FIBによる断面試料作製及びSEM観察方法の一例を示す説明図(試料表面が平らで、かつXii面と一致する場合)。
【図3】FIBによる断面試料作製及びSEM観察方法の他の例を示す説明図(試料の解析対象表面がY軸とは平行ではあるがXii面と角度θ傾いている場合)。
【図4】FIBによる断面試料作製及びSEM観察方法の他の例を示す説明図(試料の解析対象表面は平坦近似できるが、Xi軸ともY軸とも平行ではなくそれぞれ角度θ及びθ傾いている場合)。
【図5】レーザ顕微鏡を用いた試料表面の高さ(Z)の測定装置概略図。
【図6】棒状マークの説明図
【符号の説明】
【0064】
1:集束イオンビーム照射系、2:集束イオンビーム照射軸、3:電子ビーム照射系、4:電子ビーム照射軸、5:試料室筐体、6:試料、7:荷電粒子検出器、8:X線検出器、9:照射系位置調整部、10:試料ステージ、11:真空排気系、12:真空排気系電源、13:画像表示手段、14a:SIM画像、14b:SEM画像、15:ビーム制御部、16:SEM観察視野追随部、20:加工断面、21:3D解析したい領域(幅W深さD長さL)、22:初期穴加工の矩形、31:XYZ試料ステージ、34:対物レンズ、35:ハーフミラー、36:撮像装置、37:画像処理装置、38:モニタ装置、39:レンズ、40:照明ランプ、41:変位位置検出器、42:インターフェース回路、43:コンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集束イオンビームによる加工によって、試料表面に形成した断面を当該断面が後退する方向に移動させ、前記集束イオンビームの照射軸に対して斜め交差軸方向から電子ビームを照射して走査電子顕微鏡により前記移動する試料断面を観察する試料作製・観察方法において、
前記試料表面の傾斜情報を取得し、
前記集束イオンビームの照射軸と前記電子ビームの照射軸とがなす角度と、前記試料表面の傾斜情報とを用いて、前記加工により前記試料断面が移動することに伴う前記走査電子顕微鏡の視野移動量の補正係数及び焦点位置ずれ量の補正係数を求め、
前記補正係数を用いて前記走査電子顕微鏡の視野移動と焦点位置ずれを補正し、前記走査電子顕微鏡の視野及び焦点位置を前記試料断面の移動に追随させることを特徴とする試料作製・観察方法。
【請求項2】
請求項1記載の試料作製・観察方法において、前記試料表面の傾斜情報を、当該試料表面に形成したマークの走査イオン顕微鏡像と走査電子顕微鏡像の両画像間の座標位置関係を利用して求めることを特徴とする試料作製・観察方法。
【請求項3】
請求項2記載の試料作製・観察方法において、集束イオンビームの照射軸をZ軸、前記Z軸に垂直な平面をX平面とする直交座標系で、X軸を前記集束イオンビームの照射軸と前記電子ビームの照射軸を含む平面内に取るとき、前記試料表面の傾斜情報は、Y軸を回転中心とした前記試料表面のX軸に対する傾斜角であることを特徴とする試料作製・観察方法。
【請求項4】
請求項3記載の試料作製・観察方法において、X方向成分が異なる2つのマークを観察した走査イオン顕微鏡像におけるマーク像位置と、前記2つのマークを観察した走査電子顕微鏡像におけるマーク像位置と、前記集束イオンビームの照射軸と前記電子ビームの照射軸とがなす角度とを用いて前記傾斜角を求めることを特徴とする試料作製・観察方法。
【請求項5】
請求項2記載の試料作製・観察方法において、前記マークは、前記集束イオンビームによる加工跡、あるいはビームアシストデポジションによる堆積膜であることを特徴とする試料作製・観察方法。
【請求項6】
請求項1記載の試料作製・観察方法において、前記試料表面の傾斜情報を、レーザ顕微鏡を利用して求めること特徴とする試料作製・観察方法。
【請求項7】
試料を保持する試料ステージと、
集束イオンビームを前記試料ステージに保持された試料に照射し、試料断面を加工する集束イオンビーム照射系と、
前記集束イオンビームの照射軸と試料上で交差する照射軸を有する電子ビーム照射系と、
前記集束イオンビームあるいは電子ビームの照射によって試料から放出された試料信号を検出する検出器と、
前記検出器の出力をもとに形成された走査イオン顕微鏡像及び/又は走査電子顕微鏡像を表示する表示部と、
前記集束イオンビーム系と前記電子ビーム照射系を制御するビーム制御部とを備え、
前記集束イオンビームによる加工によって、試料表面に形成した断面を、前記断面が後退する方向に移動させ、前記走査電子顕微鏡像により前記移動する試料断面を観察する荷電粒子ビーム装置において、
前記ビーム制御部は、前記加工により前記試料断面が移動することに伴う前記走査電子顕微鏡の視野移動量の補正係数及び焦点位置ずれ量の補正係数を保持し、前記補正係数を用いて前記走査電子顕微鏡の視野移動と焦点位置ずれを補正し、前記走査電子顕微鏡の視野及び焦点位置を前記集束イオンビームの照射位置の移動と共に移動する試料断面に追随させる制御を行うことを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項8】
請求項7記載の荷電粒子ビーム装置において、前記ビーム制御部は、試料表面に形成したマークの走査イオン顕微鏡像と走査電子顕微鏡像の両画像間の座標位置関係を利用して試料表面の傾斜情報を求め、前記集束イオンビームの照射軸と前記電子ビームの照射軸とがなす既知の角度と、前記試料表面の傾斜情報とを用いて、前記走査電子顕微鏡の視野移動量の補正係数及び焦点位置ずれ量の補正係数を求めることを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項9】
請求項7記載の荷電粒子ビーム装置において、前記ビーム制御部は前記試料表面の傾斜情報として、集束イオンビームの照射軸をZ軸、前記Z軸に垂直な平面をX平面とする直交座標系で、X軸を前記集束イオンビームの照射軸と前記電子ビームの照射軸を含む平面内に取るとき、X方向成分が異なる2つのマークを観察した走査イオン顕微鏡像におけるマーク間距離のX方向成分と、前記2つのマークを観察した走査電子顕微鏡像におけるマーク間距離の前記Z軸に重なる方向の成分の比を利用して、Y軸を回転中心としたX軸に対する試料面の傾斜角を求めることを特徴とする荷電粒子ビーム装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−18934(P2007−18934A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−200833(P2005−200833)
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】