説明

試料搬送装置

【課題】本発明の目的は、荷電粒子線を照射して観察及び分析する試料を、大気に曝す時間を最小限に抑えて、荷電粒子装置へ挿入可能な試料搬送装置を提供することにある。特に、装置周辺の作業領域が制限されている荷電粒子装置や、試料台をサイドエントリ型試料ホルダに設置するための空間が狭小であっても、作業を可能とする装置を提供することを目的とする。
【解決手段】荷電粒子線を照射して観察及び分析する試料を搬送するための試料搬送装置であって、試料が設置される試料ホルダを内部に収容可能な伸縮部材と、前記試料ホルダを前記伸縮部材の内部で固定する固定部材と、前記伸縮部材内部と接続し試料ホルダが通過する開口部の開閉を行う封止部材を備えたことを特徴とする試料搬送装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過型電子顕微鏡,走査透過型電子顕微鏡等の試料の搬送装置に関し、特に、大気に曝す時間を最小限に抑え、透過型電子顕微鏡,走査透過型電子顕微鏡内に挿入することを可能にするための試料搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスや磁気デバイス等の加工寸法が微細化し、高集積化するとともに、これまで以上にデバイス特性の劣化や信頼性の低下が重要な問題となっている。近年では、新規プロセスの開発や量産過程で、ナノメータ領域の半導体デバイスの不良を解析し、不良の原因を根本的に突き止め解決するために、(走査)透過型電子顕微鏡((Scanning)Transmission Electron Microscopy:(S)TEM)と電子エネルギー損失分光法(Electron Energy Loss Spectroscopy:EELS),エネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X-ray spectroscopy:EDX)等を用いたスペクトル分析や二次元元素分布分析が必須の分析手段となっている。
【0003】
また、Li電池の正極材料等のエネルギー環境材料において、従来以上の飛躍的な材料特性の向上が望まれている。材料特性を向上させるためには、ナノレベルでの構造,化学結合状態の制御が重要な鍵を握る。そのため、上述の分析技術のニーズが増加している。
【0004】
従来、透過型電子顕微鏡,走査透過型電子顕微鏡用の試料は、試料メッシュと呼ばれる透過型電子顕微鏡用の試料台に固定される。試料の固定方法は、試料の形状や、試料の観察領域等によって異なる。例えば、ナノメートルサイズの粒子の場合は、アルゴンガスで充満したグローブボックスといった試料準備室等で試料台に直接分散させる。また、半導体デバイスや磁気デバイス中において、電気特性等において、不良箇所と判断された箇所を観察したい場合は、収束イオンビーム装置(Focused Ion Beam:FIB)により、観察領域近傍を抽出した後、タングステンガスにより試料台に固定される。
【0005】
また、透過型電子顕微鏡における観察試料を試料台に固定した後は、透過型電子顕微鏡用の試料ホルダに試料台を設置し、一般的には、試料台を設置した試料ホルダごと大気中を搬送し、透過型電子顕微鏡内に挿入する。前記試料ホルダは、トップエントリ型試料ホルダとサイドエントリ型試料ホルダに大別されるが、近年では、サイドエントリ型試料ホルダが主流となっている。
【0006】
上述の場合、試料ホルダは、試料作製室や収束イオンビーム装置から透過型電子顕微鏡まで、大気中を搬送される。そのため、大気中の水分や酸素と反応しやすい測定試料の場合、搬送時に試料の変質や、酸化が進行する可能性があり、所望の観察や元素分析が困難となる。これまで、透過型電子顕微鏡に代表される電子顕微鏡の測定試料を大気に曝す時間を最小限に抑えて、電子顕微鏡内で挿入する技術について開示されている。
【0007】
特許文献1では、電子顕微鏡用の試料傾斜装置に着脱自在に取り付けられる雰囲気試料室について開示されており、また雰囲気試料室内にサイドエントリ型試料ホルダを着脱可能とし、該試料ホルダの試料傾斜装置への出し入れ操作を簡易化した電子顕微鏡の雰囲気試料室用試料ホルダの支持部材についても開示されている。
【0008】
非特許文献1では、透過型電子顕微鏡用試料台を取り付け可能なサイドエントリ型試料ホルダの先端にOリング及び先端筒を設け、サイドエントリ型試料ホルダが大気中を搬送される際には、試料台近傍を先端筒で覆い、試料台近傍を先端筒により覆ったまま透過型電子顕微鏡内へ挿入し、挿入後先端筒を開放して試料台に固定した試料を観察する技術が開示されている。
【0009】
また、特許文献2では、収束イオンビーム装置を用いて断面試料を作製した際に、試料を大気に曝す時間を最小限に抑えるため、真空排気装置によって排気される真空排気部に連通する真空排気可能な空間を有するメインケースと試料保管のための内部空間を有する脱着型ケースを備え、断面試料等を行った試料を簡易に真空環境下で保管したまま搬送可能な試料保存装置が開示されている。
【0010】
さらに特許文献3では、試料台を収容する気密室と、気密室に連接して設けたゲートバルブと、前記試料台の位置を3次元方向に移動可能とする手段とを備えていることを特徴とする試料搬送容器に関する技術が開示されており、試料上の配線の切断や接続を行う装置間を真空状態のまま搬送可能としている。
【0011】
その結果、いずれの開示技術においても、電子顕微鏡や試料作製装置間の試料の搬送において、大気に曝す時間を最小限に抑えて、試料を電子顕微鏡や試料作製装置内に挿入可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開60−264033号公報
【特許文献2】特開2009−80005号公報
【特許文献3】特開昭63−287032号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Japanese Journal of Applied Physics 46巻L1141〜L1142ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1に開示される雰囲気試料室は、電子顕微鏡用の試料傾斜装置に着脱自在に取り付けられ、また雰囲気試料室内にサイドエントリ型試料ホルダを着脱可能としているため、サイドエントリ型試料ホルダ全体を真空もしくは所望のガス雰囲気内で搬送可能である。しかしながら、雰囲気試料室から該試料ホルダを試料傾斜装置に挿入する際には、試料ホルダを挿入するための挿入棒が必要であり、サイドエントリ型試料ホルダを試料傾斜装置まで挿入するためには、サイドエントリ型試料ホルダが試料傾斜装置内に挿入される長さと同等の長さの挿入棒が必要となってくる。そのため、前記雰囲気試料室を搬送する際や雰囲気試料室内のサイドエントリ型試料ホルダを試料傾斜装置に挿入する際には、広範な場所が必要となってくる。
【0015】
非特許文献1に開示されるサイドエントリ型試料ホルダは、試料台近傍のみを先端筒で覆い、そのまま電子顕微鏡内へ挿入可能であるため、操作性に優れた試料ホルダと言える。しかし、サイドエントリ型試料ホルダの先端部に既存のサイドエントリ型試料ホルダには付随していない先端筒や、Oリング等の取り付けが必要である。よって、既存のサイドエントリ型試料ホルダ自体を改良する必要がある。また、開示されているサイドエントリ型試料ホルダは、一軸方向にのみ傾斜可能であるため、試料の電子顕微鏡像や電子回折等を取得する際に、所望の電子線入射軸に設定することが困難となる。
【0016】
特許文献2に開示される試料保存装置においては、収束イオンビーム装置等により作製した断面試料は、サイドエントリ型試料ホルダに設置されることが前提ではない。そのため、収束イオンビーム装置で作製した試料を試料保存装置から、サイドエントリ型試料ホルダに設置するためには、一度試料保存装置から試料を取り出す必要があり、試料を大気に曝してしまうことになる。
【0017】
特許文献3の試料搬送容器は、大気に曝す時間を最小限にして装置間の試料搬送を可能としているが、特許文献1と同様に、サイドエントリ型試料ホルダが試料傾斜装置内に挿入される長さと同等の長さの挿入棒が必要となってくる。そのため、前記雰囲気試料室を搬送する際や雰囲気試料室内のサイドエントリ型試料ホルダを試料傾斜装置に挿入する際には、広範な場所が必要となってくる。
【0018】
本発明の目的は、荷電粒子線を照射して観察及び分析する試料を、大気に曝す時間を最小限に抑えて、荷電粒子装置へ挿入可能な試料搬送装置を提供することにある。特に、装置周辺の作業領域が制限されている荷電粒子装置や、試料台をサイドエントリ型試料ホルダに設置するための空間が狭小であっても、作業を可能とする装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決する手段として、荷電粒子線を照射して観察及び分析する試料を搬送するための試料搬送装置であって、試料が設置される試料ホルダを内部に収容可能な伸縮部材と、前記試料ホルダを前記伸縮部材の内部で固定する固定部材と、前記伸縮部材内部と接続し試料ホルダが通過する開口部の開閉を行う封止部材を備えたことを特徴とする試料搬送装置を提供する。
【0020】
また、荷電粒子線装置に試料を搬送する試料搬送方法であって、試料が設置される試料ホルダを内部に収容可能な伸縮部材と、前記試料ホルダを前記伸縮部材の内部で固定する固定部材と、前記伸縮部材内部と接続し試料ホルダが通過する開口部の開閉を行う封止部材を備えた試料搬送装置をグローブボックス内に挿入し、当該グローブボックス内で前記試料を前記試料ホルダに設置し、当該試料ホルダを前記試料搬送装置の伸縮部材内部に固定し、前記封止部材により前記開口部を閉じ、荷電粒子線装置に試料ホルダを搬送することを特徴とする試料搬送方法を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の試料搬送装置によれば、透過型電子顕微鏡,走査透過型電子顕微鏡、収束イオンビーム装置等の荷電粒子線装置で用いられるサイドエントリ型試料ホルダを真空もしくは所望のガス雰囲気内で搬送可能であるため、試料の搬送中に大気に曝す時間を最小限に抑えることができるため、試料の酸化,変質を抑えることが可能である。また、サイドエントリ型試料ホルダが格納される伸縮部材を変形可能とすることで、狭小空間での試料設置や試料搬送時の装置全体の小型化を可能とした試料搬送装置を提供できる。また、既存のサイドエントリ型試料ホルダについてもそのまま使用可能である試料搬送装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】電子分光器付き透過型電子顕微鏡の一例を示す概略構成図。
【図2】電子分光器付き透過型電子顕微鏡の一例を示す概略構成図。
【図3】本発明の試料搬送装置の一例を示す概略構成図。
【図4】本発明の試料搬送装置の一例を示す概略構成図。
【図5】本発明の試料搬送装置の一例を示す概略縦断面図。
【図6】本発明の試料搬送装置の一例を示す概略縦断面図。
【図7】本発明の試料搬送装置の一例を示す装置正面図(図3のB方向から見た図)。
【図8】本発明の試料搬送装置の一例を示す装置正面図(図4のB方向から見た図)。
【図9】本発明の試料搬送装置の一例を示す装置背面図(図3のC方向から見た図)。
【図10】本発明の試料搬送装置の使用手順を示したフローチャート。
【図11】本発明における一実施例の試料搬送装置の動作説明図。
【図12】本発明における一実施例の試料搬送装置の動作説明図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0024】
図1は、本発明による一実施の形態である電子分光器を付随した透過型電子顕微鏡に、本発明の試料搬送装置を設置した状態の一例を示す概略構成図である。
【0025】
図1において、サイドエントリ型試料ホルダ5が挿入される電子分光器付き透過型電子顕微鏡は、透過型電子顕微鏡1,電子分光器8,画像表示装置14等から構成されている。透過型電子顕微鏡1には、電子線3を放出する電子源2,収束レンズ4,対物レンズ6,結像レンズ系7,蛍光板9などが設けられ、対物レンズ6の上部磁極片と下部磁極片の間に、試料台18に固定した試料17を備えたサイドエントリ型試料ホルダ5の先端部が挿入される。
【0026】
電子分光器8には、磁場セクタ10,ドリフトチューブ20,多重極子レンズ11,12,二次元検出器13などが設けられており、電子エネルギー損失分光法によるスペクトル分析や二次元元素分析等が可能である。
【0027】
図1の電子分光器付き透過型電子顕微鏡において、電子源2より放出された電子線3は、収束レンズ4を通過し、試料台18に設置された試料17に照射される。試料17を透過した電子線3は、対物レンズ6,複数個からなる結像レンズ系7を通過し、蛍光板9を開けている場合には、そのまま電子線3は、電子分光器8に進入する。進入した電子線3は、電子分光器8内に設けられた電子エネルギー損失スペクトル,透過型電子顕微鏡像,エネルギー選択像のフォーカス,拡大,縮小,収差補正等に用いられる多重極子レンズ11,12や、電子線3の有するエネルギー量により分光可能な磁場セクタ10を通過した後、透過型電子顕微鏡像,二次元元素分析像,スペクトル像等として、CCDカメラ等の二次元検出器13により取得された後、画像表示装置14に表示される。
【0028】
なお、透過型電子顕微鏡1の構成、電子分光器8の構成については、これに限定されるものでなく、例えば、電子分光器8が、透過型電子顕微鏡1内に配置されていてもよい。また、透過型電子顕微鏡1は、電子分光器8を付随しない場合にあっても、透過型電子顕微鏡像を観察することができる。この場合、二次元検出器13は、透過型電子顕微鏡1の蛍光板9の直下に配置される。また、透過型電子顕微鏡1に付随する分析装置は、電子分光器8に限らず、例えば、エネルギー分散型X線検出器等を付随してもよい。
【0029】
前記サイドエントリ型試料ホルダ5には、試料台18に固定された試料17が配置されている。サイドエントリ型試料ホルダ5が大気中を搬送される際には、試料搬送装置16内に配置される。試料搬送装置16内は、真空もしくは所望のガス雰囲気で置換可能であり、大気に曝されることはない。
【0030】
試料搬送装置16からサイドエントリ型試料ホルダ5を透過型電子顕微鏡1内に挿入する際には、まず初めに透過型電子顕微鏡1の試料傾斜装置15に固定される。その後、図2に示したように、試料搬送装置16が収縮することにより、サイドエントリ型試料ホルダ5は、試料傾斜装置15内に挿入され固定される。サイドエントリ型試料ホルダ5が固定された後は、試料搬送装置16を試料傾斜装置15から取り外すことも可能である。
【0031】
図3は、本発明による一実施形態であるサイドエントリ型試料ホルダを搬送するための試料搬送装置16の一例を示す概略構成図であり、電子線2の直交方向より見た側面図である。
【0032】
試料搬送装置16は、前面フランジ30,背面シール板33,背面フランジ36,ベローズ32,ガイド棒31,ストッパネジ34,ゲートバルブ38,ゲートフランジ40等により構成される。前面フランジ30と背面シール板33の間にベローズ32が配置されており、ベローズ32内にサイドエントリ型試料ホルダ5が設置されている。サイドエントリ型試料ホルダ5は、背面シール板33に固定されている。サイドエントリ型試料ホルダ5を搬送中は、サイドエントリ型試料ホルダ5やベローズ32が動かないように、ストッパネジ34により背面シール板33が固定される。なお、サイドエントリ型試料ホルダ5は、ベローズ32内部で固定されれば他の固定部材に固定されていてもよい。
【0033】
試料搬送装置16を試料傾斜装置15まで搬送した後、前面フランジ30と試料傾斜装置15間で、試料搬送装置16は固定される。試料搬送装置16が固定された後、前面フランジ30内のゲートバルブ38が開放され、サイドエントリ型試料ホルダ5が挿入可能となる。
【0034】
ベローズ32内は、前面フランジ30と背面シール板33に設けられたOリングで密封されており、前面フランジ30の排気穴60より、ベローズ32内の真空排気や、所望のガス雰囲気置換が可能である。
【0035】
また、前面フランジ30と背面シール板33の間にはガイド棒31があり、ガイド棒31に沿って、背面シール板33と一体となったベローズ32の伸縮可能である。背面シール板33に設けられたガイド穴37にガイド棒31が通っているため、ガイド棒31に沿って、サイドエントリ型試料ホルダ5を直進させることができる。このガイド棒31は、何本でも良いが、サイドエントリ型試料ホルダ5を精度良く直進させるためには、複数本あった方が望ましい。
【0036】
また、本実施例では、試料搬送装置16内にテフロン(登録商標)製のベローズ32を用いたが、サイドエントリ型試料ホルダ5を挿入する際に、サイドエントリ型試料ホルダ5が試料傾斜装置15の内部まで挿入可能な程度に変形し、サイドエントリ型試料ホルダ5の搬送時に真空保持もしくはガス雰囲気保持する伸縮部材であれば何でも構わない。
【0037】
サイドエントリ型試料ホルダ5を直進させ、試料ホルダの先端部が試料搬送装置16から突き出た場合、すなわち試料ホルダ先端部が試料傾斜装置15に挿入された場合は、図4に示したような配置となる。
【0038】
図5は、本発明の試料搬送装置の一例を示す概略縦断面図である。サイドエントリ型試料ホルダ5をベローズ32内の試料保持空間50に保持した状態を示している。サイドエントリ型試料ホルダ5は、ホルダ支持部材51により背面シール板33と固定されている。サイドエントリ型試料ホルダ5とホルダ支持部材51間は、Oリングで封止されている。
【0039】
サイドエントリ型試料ホルダ後方部52は、既存の試料ホルダによって様々な形状を有しているので、既存の試料ホルダの形状に合わせてホルダ支持部材51の形状を変えれば良い。また、高精度の真空排気,ガス雰囲気置換にするために、更に背面カバー35が設置されている。しかしながら、背面カバー35については、常に必要とするものではない。
【0040】
図6は、本発明の試料搬送装置の一例を示す概略縦断面図であり、サイドエントリ型試料ホルダ5の先端部が試料傾斜装置15に挿入された場合を示している。サイドエントリ型試料ホルダ5を挿入する際には、ベローズ固定冶具39を用いて、ベローズ32が背面フランジ36の方向へ戻らないようにしても良い。
【0041】
図7,図8は、試料搬送装置16をサイドエントリ型試料ホルダの先端部から示した正面図であり、図3のB方向及び図4のB方向から見た図である。図7は試料搬送装置16のゲートバルブ38が閉まっている状態、図8は試料搬送装置のゲートバルブ38が開いている状態を示している。ゲートバルブ38は、前面フランジ30とゲートフランジ40の間に配置されている。
【0042】
試料搬送装置16が試料傾斜装置15に固定された後、ゲートバルブ38は、ゲートバルブ用取っ手41により開けられ、サイドエントリ型試料ホルダが、試料傾斜装置15内へ挿入可能となる。なお、ゲートバルブ38の開閉方法は、本方法に限定されるものではない。
【0043】
図9は、試料搬送装置16をサイドエントリ型試料ホルダ5の後方部から示した背面図であり、背面シール板33に背面カバー35が設置されている状態を示している。
【0044】
前述の通り、ストッパネジ34により、背面フランジ36と背面シール板33が固定されている。また、背面フランジ36には、ガイド棒31が固定されている。
【0045】
図10は、透過型電子顕微鏡で観察及び分析するための試料17をグローブボックス内で作製した後、試料搬送装置16を用いて、試料17を搬送し、透過型電子顕微鏡1内へ挿入する手順を示したフローチャートである。なお、グローブボックス内は、アルゴンガスで置換されている。
【0046】
まず、大気中で試料搬送装置16内にサイドエントリ型試料ホルダ5を設置する。その後、サイドエントリ型試料ホルダ5を設置した試料搬送装置16をゲートバルブ38が開けられた状態で、グローブボックス横に付随されている予備排気室に挿入し、試料搬送装置16内を真空排気する(S101〜S103)。
【0047】
グローブボックス内に挿入する際は、サイドエントリ型試料ホルダ5と試料搬送装置16を別々に挿入しても良い。
【0048】
次に、試料搬送装置16をグローブボックス内に挿入し、ベローズ32を収縮させ、試料搬送装置16から、サイドエントリ型試料ホルダ5の先端部を突出させる(S104〜S105)。その後、サイドエントリ型試料ホルダ5の先端部に透過型電子顕微鏡1にて観察,分析するための試料17を設置する(S106)。試料17は、事前にグローブボックス内で試料台18に固定されている。
【0049】
次に、ベローズ32を伸ばし、試料17を取り付けたサイドエントリ型試料ホルダ5を、ベローズ32内に格納する。その後、ゲートバルブ38を閉じる(S106〜S107)。
【0050】
試料搬送装置16をグローブボックス内から取り出し、大気中をそのまま搬送し、透過型電子顕微鏡1の試料傾斜装置15に固定する。その後、試料搬送装置16のゲートバルブ38を開け、サイドエントリ型試料ホルダ5を試料傾斜装置15内へ挿入する。試料ホルダの挿入後、試料搬送装置16を取り外す(S108〜S110)。
【0051】
上記手順において、試料搬送装置16は、試料ホルダを挿入した後、取り外されるが、透過型電子顕微鏡1での観察や分析において、特に障害が発生しない場合は、外さなくても良い。
【0052】
図11は、試料搬送装置16が試料傾斜装置15に固定され、サイドエントリ型試料ホルダが挿入される際の動作説明図である。図11(a)は、試料搬送装置16が試料傾斜装置15に固定された直後の説明図である。図11(b)において、試料搬送装置16からサイドエントリ型試料ホルダ5が試料傾斜装置15へと挿入される。サイドエントリ型試料ホルダ5が試料傾斜装置15へ挿入された後は、図11(c)に示した通り、試料搬送装置16を取り外すことができる。
【0053】
収束イオンビーム装置で透過型電子顕微鏡用試料を作製した場合は、まず初めに試料搬送装置16を収束イオンビーム装置の試料傾斜装置に設置し、その後試料ホルダを試料傾斜装置内に格納した後、ゲートバルブを閉じ、大気中を搬送すれば良い。また、試料ホルダを格納する際には、ベローズ32内すなわち試料保持空間50を真空排気やガス雰囲気置換等を行っても良い。
【0054】
上記説明は、電子分光器を有した透過型電子顕微鏡に適用した例を示したが、本発明は、上記装置への適用のみに限定されるものではなく、荷電粒子装置本体側面から試料を挿入するサイドエントリ方式すなわちサイドエントリ型試料ホルダが採用されている装置全てに適応可能である。
【0055】
前記、装置本体側面から試料を挿入するサイドエントリ型試料ホルダが採用されている荷電粒子装置とは、例えば、透過型電子顕微鏡,走査透過型電子顕微鏡,走査型電子顕微鏡,収束イオンビーム装置等が挙げられる。
【0056】
本発明の試料搬送装置において、サイドエントリ型試料ホルダ5の場合を説明したが、試料搬送装置16内に設置可能な試料ホルダはこれに限るものではない。
【0057】
図12は、本発明の試料搬送装置において、サイドエントリ型試料ホルダ以外の試料ホルダを搬送した例について示している。試料搬送装置16の試料保持空間50には、挿入棒61の先端部に試料台18及び試料17が設置されている。
【0058】
試料搬送装置16を荷電粒子装置の予備排気室62に固定した後、ベローズ32を収縮させて、試料17を予備排気室62内へ挿入する。本実施例によれば、透過型電子顕微鏡1のトップエントリ型試料ホルダの挿入も可能になるとともに、走査電子顕微鏡や収束イオンビーム装置において、大きな試料例えばシリコンウエハといった試料も挿入も可能となる。
【0059】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0060】
1 透過型電子顕微鏡
2 電子源
3 電子線
4 収束レンズ
5 サイドエントリ型試料ホルダ
6 対物レンズ
7 結像レンズ系
8 電子分光器
9 蛍光板
10 磁場セクタ
11,12 多重極子レンズ
13 二次元検出器
14 画像表示装置
15 試料傾斜装置
16 試料搬送装置
17 試料
18 試料台
20 ドリフトチューブ
30 前面フランジ
31 ガイド棒
32 ベローズ
33 背面シール板
34 ストッパネジ
35 背面カバー
36 背面フランジ
37 ガイド穴
38 ゲートバルブ
39 ベローズ固定冶具
40 ゲートフランジ
41 ゲートバルブ用取っ手
50 試料保持空間
51 ホルダ支持部材
52 サイドエントリ型試料ホルダ後方部
60 排気穴
61 挿入棒
62 予備排気室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線を照射して観察及び分析する試料を搬送するための試料搬送装置であって、
試料が設置される試料ホルダを内部に収容可能な伸縮部材と、前記試料ホルダを前記伸縮部材の内部で固定する固定部材と、前記伸縮部材内部と接続し試料ホルダが通過する開口部の開閉を行う封止部材を備えたことを特徴とする試料搬送装置。
【請求項2】
請求項1の試料搬送装置において、
前記封止部材は、ゲートバルブであることを特徴とする試料搬送装置。
【請求項3】
請求項1の試料搬送装置において、
前記封止部材と、前記固定部材は、ガイド棒で連結されており、前記固定部材は、当該ガイド棒に沿って前記封止部材の方向に移動することを特徴とする試料搬送装置。
【請求項4】
請求項1の試料搬送装置において、
前記伸縮部材はベローズであることを特徴とする試料搬送装置。
【請求項5】
請求項1の試料搬送装置において、
前記試料ホルダは、荷電粒子線装置に用いられるサイドエントリ型試料ホルダであることを特徴とする試料搬送装置。
【請求項6】
請求項1の試料搬送装置において、
前記伸縮部材の内部と接続され、真空排気及び/又はガス導入する開口部を備えることを特徴とする試料搬送装置。
【請求項7】
請求項1の試料搬送装置において、
前記固定部材は、前記試料ホルダを着脱可能であることを特徴とする試料搬送装置。
【請求項8】
荷電粒子線装置に試料を搬送する試料搬送方法であって、
試料が設置される試料ホルダを内部に収容可能な伸縮部材と、前記試料ホルダを前記伸縮部材の内部で固定する固定部材と、前記伸縮部材内部と接続し試料ホルダが通過する開口部の開閉を行う封止部材を備えた試料搬送装置をグローブボックス内に挿入し、当該グローブボックス内で前記試料を前記試料ホルダに設置し、当該試料ホルダを前記試料搬送装置の伸縮部材内部に固定し、前記封止部材により前記開口部を閉じ、荷電粒子線装置に試料ホルダを搬送することを特徴とする試料搬送方法。
【請求項9】
請求項8に記載の前記試料搬送方法において、
前記試料搬送装置を前記荷電粒子線装置に設置し、前記開口部を開放し、前記伸縮部材を伸縮することにより前記試料ホルダを前記荷電粒子線装置に設置することを特徴とする試料搬送方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−154917(P2011−154917A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16146(P2010−16146)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】