説明

誘導加熱調理器

【課題】加熱効率を向上させることができると共に組立作業効率を向上させることができる加熱調理器を提供する。
【解決手段】誘導加熱調理器の板状加熱体22は、絶縁基板41と、この絶縁基板41に設けられ通電することにより発熱する板状ヒータ42とを具えている。板状ヒータ42は、折り返し部47を介して所定方向に往復する蛇行形状をなすと共に、絶縁基板41に係合する係合爪48aを有して構成されている。絶縁基板41のトッププレート側に板状ヒータ42が往復する配置形態とすることができ、被加熱調理器具をその材質に関りなく直接的且つ効率的に加熱することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トッププレート上に載置される被加熱調理器具を加熱する誘導加熱調理器に関する。
【背景技術】
【0002】
誘導加熱調理器では、アルミ製や銅製の鍋のように低誘電率で電気伝導率の高い材料からなる被加熱調理器具を如何にして加熱するかが課題となっている。この課題を解決するための従来技術として、例えば特許文献1には、トッププレート(天板)と誘導加熱コイルとの間にアルミ部材を挿入し、該アルミ部材を誘導加熱することで鍋を間接的に加熱するようにした誘導加熱装置が開示されている。
【0003】
しかしながら、特許文献1の誘導加熱装置では、アルミ部材を介して鍋を間接的に加熱する(つまり、アルミ部材は鍋と同様に誘導加熱される)ため、その分だけインバータや誘導加熱コイルにおける損失が増加し、加熱効率が低下するという問題がある。
尚、電気炊飯器や電気ポット等の電熱器にあっては、通電により発熱するヒータ盤が用いられている(例えば、特許文献2参照)。このヒータ盤は、基板に電熱線を巻回することにより構成されている。この種のヒータ盤を、トッププレートと誘導加熱コイルとの間に配置することにより、誘導加熱調理器に適用することも考えられる。
【特許文献1】特許第3465712号公報
【特許文献2】特開平4−101379号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献2のヒータ盤では、電熱線が基板を周回するように巻回されているので、基板の上面側(トッププレート側)で発熱するだけでなく下面側も発熱する。このため、ヒータ盤を用いても、その発生した熱の一部が被加熱調理器具の加熱に寄与するにすぎず、依然として加熱効率が低いという問題を内在している。また、このヒータ盤の製造の際、作業者は、基板に対し電熱線を重ならないように巻回しなければならず、面倒な作業を余儀なくされていた。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、加熱効率を向上させることができると共に組立作業効率を向上させることができる加熱調理器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の誘導加熱調理器は、被加熱調理器具が載置されるトッププレートと、前記トッププレートの下方に設けられ、前記トッププレート上に載置された被加熱調理器具を誘導加熱する誘導加熱コイルと、前記トッププレートと前記誘導加熱コイルとの間に配置され、前記トッププレート上に載置された被加熱調理器具を加熱する板状加熱体とを具備し、前記板状加熱体は、絶縁基板と、この絶縁基板に設けられ通電することにより発熱する板状ヒータとを具え、前記板状ヒータは、折り返し部を介して所定方向に往復する蛇行形状をなすと共に、前記絶縁基板に係合する係合部を有して構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
上記構成によれば、絶縁基板の片面側(トッププレート側)においてのみ板状ヒータが往復する配置形態とすることができる。また、このヒータは通電することにより発熱するため、前記の配置形態と相俟って被加熱調理器具をその材質に関りなく直接的且つ効率的に加熱することができる。
【0008】
更に、ヒータの係合部を絶縁基板に対し係合させるだけでヒータを組み付けることができ、従来の面倒な巻回作業を省略して組立作業効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
<第1実施例>
以下、本発明の第1実施例について図1〜図8を参照しながら説明する。図2は、システムキッチンのカウンタートップに誘導加熱調理器10を組込んだ状態(所謂ビルトインタイプ)の縦断側面図を示している。尚、図2において、左方が誘導加熱調理器10の前方側であり、右方が誘導加熱調理器10の後方側である。
【0010】
誘導加熱調理器10は、調理器本体11を構成する本体ケース12及びトッププレート13を備えている。誘導加熱調理器10は、トッププレート13が重力方向において上方となるように設けられている。誘導加熱調理器10は、調理器本体11内に加熱ユニット14及び冷却ファン部15を備えている。
【0011】
本体ケース12は誘導加熱調理器10の主たる外郭を形成しており、本体ケース12の上方は、トッププレート13により覆われている。調理器本体11は、例えばシステムキッチンのカウンタートップ16に組み込まれることで、トッププレート13がカウンタートップ16から露出した状態で配置されている。このトッププレート13の上面には、被加熱調理器具として二点鎖線で示す鍋17が載置される。トッププレート13上の鍋17は、本体ケース12に収容された加熱手段(詳しくは後述する)によって加熱される。トッププレート13は、例えば強化耐熱ガラス等によって矩形平板状に形成されている。トッププレート13は、後方に吸気用及び排気用の開口部18を有している。本実施例の場合、開口部18は、トッププレート13の後方において左側に排気用が設けられ、右側に吸気用が設けられている。調理器本体11の本体ケース12の内部には、加熱制御部19が収容されている。
【0012】
誘導加熱調理器10は、図3に示すように加熱手段を構成する加熱ユニット14として誘導加熱コイル21及び板状加熱体22を備えている。この他、誘導加熱調理器10は、シーズヒータからなるロースター機能など複数の他の加熱手段を備えている。また、誘導加熱調理器10は、例示した上記以外の加熱手段を備えていてもよく、これら他の加熱手段については図示および説明を省略する。
【0013】
誘導加熱コイル21及び板状加熱体22は、誘導加熱調理器10の平面視において同一の位置に一体的に支持されている。即ち、加熱ユニット14は、本体ケース12の所定の位置において、後述する弾性体(例えば圧縮コイルばね)23によりトッププレート13の下面に押し付けられて密着している。この加熱ユニット14について図4の分解斜視図も参照しながら説明する。
【0014】
図4に示すように、加熱ユニット14は、誘導加熱コイル21及び板状加熱体22に加え、支持部材24及び補助断熱材25を有している。支持部材24は、誘導加熱コイル21のトッププレート13側で板状加熱体22を支持している。支持部材24は、誘導加熱コイル21と所定の隙間を有して設けられている。これにより、加熱ユニット14の板状加熱体22と誘導加熱コイル21との間には、空気が流れる通路26が形成される(図3参照)。
【0015】
支持部材24には、中心部に中央孔24aが形成されると共に、中央孔24aの周りに位置して、例えば図4に示すような扇状の切欠部24bが90度間隔で形成されている。補助断熱材25は、板状加熱体22と誘導加熱コイル21との間に設けられている。補助断熱材25は、板状加熱体22から発生する熱が板状加熱体22から誘導加熱コイル21側へ伝達されるのを遮断する。補助断熱材25には、支持部材24と同様の中央孔25aと切欠部25bとが形成されている。この補助断熱材25の中央孔25a及び切欠部25bと、支持部材24の中央孔24a及び切欠部24bは互いに上下に連なるように貫通している。
【0016】
冷却ファン部15は、図2に示すように本体ケース12の内側に設けられており、ファン27及びファンモータ28を有している。ファン27が回転することにより、吸気用の開口部18から吸入された空気は、加熱制御部19や加熱ユニット14(通路26)等を経由して排気用の開口部18から排出される。このように、冷却ファン部15は、冷却風の流れを形成し、加熱制御部19が有する発熱性の素子や、加熱ユニット14等を冷却する。
【0017】
誘導加熱コイル21は、高周波電流が供給されることにより、トッププレート13上の鍋17に渦電流を発生させ、この渦電流により生じたジュールで鍋17を加熱するものである。誘導加熱コイル21は、全体として中空円盤状をなし、トッププレート13から所定の距離離れた位置で、耐熱樹脂製のベースプレート31(図3参照)によって支持されている。ベースプレート31の外周部には、下方へ突出する筒状の脚部32が複数設けられている。図2に示すように、この脚部32と本体ケース12の内枠部材33との間には、弾性体23が取り付けられている。この弾性体23によって、ベースプレート31及び支持部材24を介して、板状加熱体22がトッププレート13の下面に押し付けられて密着している。
【0018】
板状加熱体22について、図1、図6〜図8も参照しながら詳述する。図1(a)及び(b)は板状加熱体22の平面図及び底面図を示している。板状加熱体22は、略円板状をなす絶縁基板41と、この絶縁基板41に設けられた板状ヒータ42とを備えている。板状ヒータ42は、同一形状をなす複数(例えば4つ)の分割ヒータ43,44,45,46からなり、図1(a)に示すように左右対称をなすよう互いに結合された分割ヒータ43,44と、同じく左右対称に結合された分割ヒータ45,46との環状配置により構成されている。
【0019】
ここで、図6は分割ヒータ43近傍部の平面図を示している。同図に示すように、分割ヒータ43は、全体として扇状をなす分割ヒータ43の中心点Oを基準に、時計回りに周方向に延び(図中の矢印参照)、その端部たる折り返し部47で折り返されて今度は反時計回りに周方向に延びる、というように周方向への往復(蛇行)を複数回繰り返して放射状に拡がるように形成されている。具体的には、分割ヒータ43の一端部(始点43S)は、第1蛇行部43a、中心点O側の渡し部43b、第2蛇行部43c、外周側の渡し部43d、第3蛇行部43eを経由して他端部(終点43E)に至っている。
【0020】
ここで、図8は、図1中X−X線に沿う模式的な縦断面図を示している。図6、図8に示すように、分割ヒータ43は、その全長間の幅寸法Wを異ならせてあり、分割ヒータ43における中心点O側の幅寸法Wiは、外周側の幅寸法Woよりも大きくなるように設定されている(Wi>Wo)。図8においては、右側が中心点O側であり、前記幅寸法Wの違いを誇張して示している。分割ヒータ43の幅寸法W(Wi〜Wo)は、トッププレート13の耐熱温度や誘導加熱調理器10の出力等の仕様に応じて適宜設定され、中心点O側から外周側にかけて次第に断面積が小さくなるように形成されている。
【0021】
即ち、周方向への往復を繰り返して放射状に拡がるヒータにあっては、そのヒータ(絶縁基板上)における内周部の温度が外周部の温度よりも大幅に高くなるのが通常であるが、本実施例では、分割ヒータ43を上記の幅寸法Wに設定することで、板状加熱体22(分割ヒータ43)における局部的な温度上昇を抑え略均一な温度分布を得ることができるのである。
【0022】
図7は、板状加熱体22の蛇行部の一部を示す拡大平面図である。図7,図8に示すように、分割ヒータ43において各折り返し部47の側部には、下側へ張出す係合爪(係合部)48aが夫々一体に形成されている。また、図6に示すように、各渡し部43b,43dの側部には、下側へ張出す補助爪(係合部)48bが夫々一体に形成されている。分割ヒータ43は、例えば、ニクロム板をプレス加工で打ち抜くことにより形成されている。つまり、分割ヒータ43は全体として板状をなし、係合爪48a及び補助爪48bは、プレス加工を経て屈曲形成されることとなる。尚、分割ヒータ43を、レーザ加工、エッチング等により形成してもよい。また、分割ヒータ44〜46については、何れも分割ヒータ43と同一形状をなすため、その説明を省略する。
【0023】
図1に示すように、上記構成の分割ヒータ43,44,45,46には、それらの一端部に端子50a,50b、50c、50dが夫々取付け固定されている。また、左右対称をなす分割ヒータ43,44はスポット溶接により互いの他端部(図1中、P1部分)で結合されると共に、分割ヒータ45,46はスポット溶接により互いの他端部(図1中、P2部分)で結合されることにより、板状ヒータ42を構成している。
【0024】
続いて、絶縁基板41について説明する。絶縁基板41は、例えば絶縁体としての硬質マイカからなり、全体として略円板状に形成されている。絶縁基板41の中心部には、該絶縁基板41を板厚方向へ貫くセンサ孔52が設けられている。また、絶縁基板41には、板状ヒータ42の係合爪48a及び補助爪48bに対応する多数の孔部51が、該絶縁基板41を板厚方向へ貫くように設けられている。板状ヒータ42の組付けの際、これら孔部51に、係合爪48a及び補助爪48bが挿通されて折り曲げられることにより(図1(b)、図8参照)、絶縁基板41の上面側に板状ヒータ42が所謂片面ヒータの配置形態で固定される。孔部51の寸法は、当該孔部51と係合爪48aとの間に、発熱により伸長する板状ヒータ42の伸張量に対応する隙間S1(図7参照)が生じるように設定されている。
【0025】
即ち、板状ヒータ42(分割ヒータ43〜46)は、通電により自身が熱膨張することで、その長さが変化する。このときの板状ヒータ42の温度変化をΔT、素材たるニクロムの線膨張係数をαとしたとき、長さLの板状ヒータ42の伸張量ΔLは、次式(1)で演算される。
【0026】
ΔL=α×L×ΔT ・・・(1)
他方、絶縁基板41も、板状ヒータ42から熱が伝わることにより、その長さが変化する。このときの絶縁基板41の温度変化をΔT、素材たる硬質マイカの線膨張係数をαとしたとき、長さLの絶縁基板41の伸張量ΔLは、次式(2)で演算される。
【0027】
ΔL=α×L×ΔT ・・・(2)
従って、図7に示す板状ヒータ42の周方向の線長LN1、その左右両側の孔部51,51間の距離をLM1としたとき、上記した孔部51と係合爪48aとの間の隙間S1は、次式(3)で演算される。尚、板状ヒータ42及び絶縁基板41の夫々について、伸張量をΔLN1及びΔLM1とし、温度変化をΔTN1及びΔTM1とする。
【0028】
S1=(ΔLN1−ΔLM1)/2
=(α×LN1×ΔTN1−α×LM1×ΔTM1)/2 ・・・(3)
上記の式(3)では、特に絶縁基板41と板状ヒータ42との間で線膨張係数が異なる(α<α)ことから、孔部51は、両者41,42の伸張量の差を見越して、係合爪48aに対し周方向に少なくとも隙間S1が生じる大きさに形成されている。これと同様の理由で、絶縁基板41の全ての孔部51は、係合爪48aや補助爪48bに対し、周方向及び径方向(つまり全体的に)に大きく形成されている。
【0029】
また、絶縁基板41には、放射状に延び略等間隔で形成された複数のスリットを有する。これらスリットは例えば、絶縁基板41の径方向において外周側の端部が開放された6つの外側スリット53aと、内周側の端部が開放された4つの内側スリット53bとからなり、何れも絶縁基板41を板厚方向へ貫き、中心点O側から外周側に向かって延びるように形成されている。スリット53a,53bは、上記した絶縁基板41の熱膨張量を吸収する寸法に設定されている。具体的には、4つの内側スリット53bのスリット幅の合計寸法は、少なくとも絶縁基板41のセンサ孔52周縁部の周方向の熱膨張量ΔL(上記の式(2)でLにセンサ孔52の円周を代入)よりも大きくなるように設定されている。尚、絶縁基板41のスリット53a,53bの本数および間隔、ならびに形状などは任意に変更が可能である。
【0030】
次に、誘導加熱調理器10の電気的構成について図5を参照しながら説明する。加熱制御部19は、調理器本体11の内部に設けられ、図示しないマイクロコンピュータによって構成されている。
【0031】
加熱制御部19には、操作部54及び温度センサ55が接続されている。操作部54は、調理器本体11の外側においてトッププレート13の前方に配置されており、入力された情報を操作信号として加熱制御部19に出力するようになっている。温度センサ55は、トッププレート13の温度を検出し、その検出信号を加熱制御部19に出力する。また、加熱制御部19は、トッププレート13上に載置された鍋17等の被加熱調理器具の材質を判定する材質判定手段としても機能する。加熱制御部19は、操作部54及び温度センサ55から入力された信号、及び予め記憶している制御プログラムなどに基づいて、高周波電流供給手段たるインバータ56を制御する。これにより、加熱制御部19は、インバータ56を経由して誘導加熱コイル21に高周波電流を供給し、誘導加熱コイル21を制御する。また、誘導加熱コイル21には、共振コンデンサ57が直列に接続されている。これら誘導加熱コイル21及び共振コンデンサ57は、鍋17の材質に応じて出力を調整するために、コイルの巻数やコンデンサの容量が可変となる構成であることが望ましい。
【0032】
インバータ56には、商用交流電源58から整流回路59によって直流に変換された駆動用電源が供給される。通電制御部60は、商用交流電源58から板状加熱体22へ供給する交流の電力を制御する。通電制御部60から板状加熱体22へ供給される電力は、加熱制御部19によって統括的に制御される。また、整流回路59の入力側およびインバータ56の出力側には、夫々電流トランス61,62が配置されている。この電流トランス61,62で検出された電流値は、いずれも加熱制御部19に入力される。これにより、加熱制御部19は、商用交流電源58から入力される入力電流値、及びインバータ56の出力電流値を検出する。
【0033】
加熱制御部19は、被加熱調理器具である鍋17が抵抗の大きな金属材料か否かを判定することにより、この鍋17の材質を判定する。例えば加熱制御部19は、一定の高周波電流を誘導加熱コイル21に供給し、入力電流とインバータ56の出力電流であるコイル電流との関係に基づいて鍋17の材質を判定する。例えば鉄などの強磁性体で鍋17が形成されている場合、誘導加熱コイル21が発生した磁束は鍋17を流れ易くなる。また、鍋17の底部において誘導加熱コイル21側に渦電流が集中する表皮効果も高くなるため、誘導加熱コイル21の等価抵抗は増大する。一方、鍋17の材質がアルミニウムや銅などのように非磁性あるいは弱磁性であって比抵抗が小さい場合、誘導加熱コイル21によって発生した磁束は鍋17に到達しにくくなり、漏れ磁束も増大する。そして、比抵抗が小さく表皮効果も得にくいため、等価抵抗は減少する。その結果、加熱制御部19は、入力電流と出力電流との大小の変化に基づいて、鍋17の材質を判定することができる。従って、加熱制御部19は、鍋17の材質を判定するとともに、予め設定された入力電力設定値に基づいて鍋17の誘導加熱コイル21による加熱または板状加熱体22によるヒータ加熱を選択して実行することができる。
【0034】
次に、上記の構成による誘導加熱調理器10の作動について説明する。
被調理物を収容した鍋17をトッププレート13の所定位置に載置し、操作部54で必要な入力操作が行われると、加熱制御部19は鍋17の加熱を開始する。加熱制御部19が材質判定処理により鍋17の材質が高抵抗金属であると判定すると、加熱制御部19は通常の入力電力に基づいて誘導加熱コイル21による誘導加熱調理を実行する。一方、鍋17の材質が高抵抗金属でないと判定したとき、加熱制御部19は鍋17の材質がアルミニウム、銅もしくは非磁性ステンレスのような低抵抗の非磁性金属であるのか、土鍋のような非金属であるのか、又は無負荷であるのかを判定する。そして、鍋17が低抵抗金属であると判定すると、加熱制御部19は鍋17の底がトッププレート13により反発して移動するいわゆる「鍋浮き」を生じないように、予め設定された火力調整に基づいて誘導加熱調理を実行する。
【0035】
ここで、火力調整によって加熱電力が通常の入力電力設定値より小さくなった場合、加熱制御部19はその差の電力分を通電制御部60を経由して板状加熱体22に供給する。これにより、加熱制御部19は、トッププレート13に載置された鍋17を板状加熱体22により加熱する。また、鍋17が低抵抗の非磁性金属で形成されている場合、誘導加熱コイル21の等価抵抗は小さくなる。そのため、加熱制御部19は、インバータ56を経由して誘導加熱コイル21へ出力する電圧を、高抵抗の磁性金属の場合よりも低下させたり、電圧の周波数を上昇させたりして、加熱効率の向上を図るようになっている。
【0036】
また、鍋17が非金属で形成されている場合、又は無負荷の場合、加熱制御部19は誘導加熱コイル21による誘導加熱を実行しない。そのため、加熱制御部19は、通常の入力電力設定値に等しい電力を通電制御部60から板状加熱体22へ供給し、板状加熱体22のみによる加熱を実行する。この場合、加熱制御部19は、鍋17が非金属であるのか、又は無負荷であるのかを判定する必要がある。そこで、加熱制御部19は、温度センサ55によって板状加熱体22への通電が開始されてからのトッププレート13の温度変化を検出する。このとき、加熱制御部19は、トッププレート13の温度の変化が緩やかであれば土鍋などが載置されていると判定し、温度の変化が急激であれば無負荷であると判定する。
【0037】
鍋17などの被加熱調理器具が非金属材料であると判定したとき、加熱制御部19は板状加熱体22により鍋17の加熱を実行する。
上記の板状加熱体22による加熱の際、その板状ヒータ42は絶縁基板41の上面側に配置されているため、板状ヒータ42から発生した熱は、大部分がトッププレート13を経由して鍋17へ伝達される。この場合、板状ヒータ42が上記の幅寸法Wに設定されているため、鍋17は板状ヒータ42全体で良好に加熱される。
【0038】
また、板状ヒータ42は、絶縁基板41の孔部51に対し、係合爪48aや補助爪48bにおいて隙間を有して係合しているので、通電により板状ヒータ42に熱膨張が生じても、絶縁基板41上での撓みが抑制される。更に、絶縁基板41にスリット53a,53bが形成されており、絶縁基板41の撓みも抑制されるため、鍋17は板状加熱体22により効率よく加熱される。尚、板状ヒータ42に通電しても係合爪48aや補助爪48bには電流が流れ難く、発熱作用は生じない。
【0039】
この加熱が終了した後、トッププレート13及び板状加熱体22に熱が残っているため、加熱制御部19は、冷却ファン部15のファン27を回転駆動する。このとき、誘導加熱コイル21と支持部材24との間を流れる空気は、その一部が補助断熱材25の切欠部25b及び支持部材24の切欠部24bを経由して板状加熱体22の裏面側へ流れる(図3参照)。そして、この空気の流れは、板状加熱体22の裏面側に位置する板状ヒータ42に接する。これにより、板状ヒータ42は、板状加熱体22の裏面側に位置する部分で放熱し、表面側に位置する部分も冷却される。その結果、鍋17の加熱によって温度が上昇していたトッププレート13は、冷却ファン部15による空気の流れによって急速に冷却される。
【0040】
以上のように、加熱制御部19は、鍋17などの被加熱調理器具の材質に応じて誘導加熱コイル21による加熱調理、板状加熱体22による加熱調理、またはこれらの組み合わせによる加熱調理を実行する。そして、加熱制御部19は、加熱調理が完了した後、冷却ファン部15を駆動することにより、トッププレート13及び板状加熱体22の冷却を促進する。
【0041】
以上説明したように、板状ヒータ42は、折り返し部47を介して所定方向に往復する蛇行形状をなすと共に、絶縁基板41に係合する係合部として係合爪48a及び補助爪48bを有する。従って、絶縁基板41の上面側(トッププレート13側)においてのみ板状ヒータ42が往復する配置形態とすることができる。また、板状ヒータ42は通電することにより発熱するため、前記の配置形態と相俟って被加熱調理器具をその材質に関りなく直接的且つ効率的に加熱することができる。絶縁基板に対し電熱線を巻回することにより組み付けていた従来と異なり、本実施例では、板状ヒータ42の係合爪48a及び補助爪48bを、絶縁基板41に対し係合させるだけで板状ヒータ42を組み付けることができ、従来の面倒な巻回作業を省略して組立作業効率を向上させることができる。
【0042】
更に、上記構成の板状ヒータ42を有する板状加熱体22は、誘導加熱コイル21側への発熱量が小さいため、誘導加熱コイル21は、通電時に板状加熱体22から受ける熱的な影響が低減される。従って、板状加熱体22と誘導加熱コイル21との間の断熱が容易になり、構造を簡略化することができる。
係合爪48aを、板状ヒータ42の折り返し部47に形成したので、絶縁基板41に対し、板状ヒータ42をその折り返し部47(つまり端部)で係合させて取り付けることができ、安定した固定状態を得ることができる。
【0043】
絶縁基板41は、板状ヒータ42の係合爪48aや補助爪48bに対応する孔部51が形成されている。このように係合爪48a及び補助爪48bを各孔部51に係合させることで、板状ヒータ42の各端部の位置を確実に保持することができ、板状ヒータ42のずれを抑制して、板状ヒータ42間での短絡を防止することができる。
【0044】
この孔部51の寸法は、当該孔部51と係合爪48a(補助爪48b)との間に、発熱により伸長する板状ヒータ42の伸張量に対応する隙間が生じるように設定されている。各孔部51において、上記のように板状ヒータ42の位置を保持しながらも、通電時の板状ヒータ42の熱膨張を許容することから、板状ヒータ42の撓みを防止することができる。従って、板状ヒータ42のトッププレート13に対する接触状態を良好に維持することができると共に、板状ヒータ42の撓みにより絶縁基板41に加わる応力を低減させることができる。
【0045】
板状ヒータ42の全長間の幅寸法Wを異ならせることで、板状加熱体22において、所望の温度分布を得ることができる。即ち、ヒータは、その断面積(太さ)で通電時の発熱量が決定されるが、本実施例のヒータ42は板状をなすことから所望の断面積(幅寸法W)に容易に加工することができ、簡単且つ安価な構成で絶縁基板41上における通電時の所望の温度分布を得ることができる。
【0046】
前述のように、周方向への往復を繰り返して放射状に拡がるヒータの形態にあっては、ヒータの中央部で局部的に温度が上昇し、トッププレート(耐熱ガラス)や絶縁基板41の耐熱温度を超える惧れがあることから、ヒータに対する入力電力が制限される。これに対し、本実施例では、板状ヒータ42の幅寸法Wが、当該板状ヒータ42の外周側よりも中心側が大きくなるように設定されているため、板状ヒータ42全体で均一な加熱温度を得ることができる。よって、トッププレート13や絶縁基板41の温度上昇による破損を防止することができ、上記のヒータの形態において入力電力を極力高く設定することができる。
【0047】
板状ヒータ42は、同一形状をなす複数の分割ヒータ43〜46を結合することにより構成されている。従って、例えば、板状ヒータ42をプレス加工により成形する場合、型寸法の小形化や分割ヒータ43〜46の共通化を図ることができ、材料取りが向上し、コスト削減が可能である。
【0048】
絶縁基板41にスリット53a,53bを設けたので、絶縁基板41の熱膨張による撓みを防止することができる。
この場合、スリット53a,53bは、絶縁基板41の熱膨張量を吸収する寸法に設定されているので、絶縁基板41の熱膨張による撓みを確実に防止することができ、ひいては板状ヒータ42のトッププレート13に対する接触状態を良好に維持し、総じて加熱効率の高い誘導加熱調理器10とすることができる。
【0049】
また、係合爪48aは、折り返し部47から張り出す延出片状(補助爪48bも同様)をなし、板状ヒータ42に通電しても係合爪48aや補助爪48bには発熱作用は生じない。板状ヒータ42から発生した熱は、大部分がトッププレート13側における鍋17の加熱に用いられるので、板状ヒータ42による加熱効率を一層高めることができる。
【0050】
<その他の実施例>
図9は、本発明の第2実施例を示すものであり、第1実施例と異なるところを説明する。ここで、図9は図8相当図であり、第1実施例と同一部分には同一符号を付している。
【0051】
本実施例では、板状ヒータ42と絶縁基板41との間に、断熱材63が配置されている。断熱材63は、例えば絶縁性を有し且つ硬質マイカに比し軟質の材料からなり、絶縁基板41と同じ略円形に形成されている。また、係合爪48aや補助爪48を挿通すべく、断熱材63には、前記孔部51と同じ形状の孔部63aが形成されている。この断熱材63の形状は適宜変更してもよく、要は板状ヒータ42と絶縁基板41との間に配置される形状であればよい。また、係合爪48a及び補助爪48の形状も、絶縁基板41や断熱材63の厚み、或は孔部63aの形状に応じて適宜変更してもよい。
【0052】
本実施例によれば、断熱材63によって、板状ヒータ42から絶縁基板41への熱の移動を遮断することができ、加熱効率をより高めることができると共に絶縁基板41の熱膨張による撓みを防止することができる。また、断熱材63を絶縁基板41に比し軟質の材料から構成したので、板状ヒータ42が自身の発熱等により変形したとしてもとしても断熱材63がクッション材として機能する。従って、断熱材63により板状ヒータ42や絶縁基板41に作用する応力を吸収することができ、板状ヒータ42や絶縁基板41の寿命を延ばすことができる。
【0053】
本発明は、ビルトインタイプに限られず据置きタイプ等の加熱調理器全般にも適用できるものである。絶縁基板41を硬質マイカから構成したが、絶縁体としてのセラミックスから構成してもよい。
【0054】
本発明の板状ヒータは、折り返し部を介して所定方向に往復する蛇行する形状であればよく、直線状に延び且つ折り返し部を介して左右に往復する所謂クランク状や、周方向に円弧状に延び且つ当該円弧端で折り返しながら往復する形状をも包含する。その他、本発明は、板状ヒータ42の分割数(分割ヒータの個数)や、放射状に延びる蛇行部(第1〜3蛇行部43a〜43eに相当)の数を変更する等、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実施できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】(a)及び(b)は、本発明の第1実施例を示す誘導加熱調理器の板状加熱体の平面図及び底面図
【図2】誘導加熱調理器の概略構成を示す縦断面図
【図3】誘導加熱調理器の要部を拡大して示す縦断面図
【図4】加熱ユニットの構成を示す分解斜視図
【図5】誘導加熱調理器の電気的構成を示すブロック図
【図6】分割ヒータの平面図
【図7】板状加熱体における蛇行部の拡大図
【図8】図1中、X−X線に沿う板状加熱体の模式的な縦断面図
【図9】第2実施例を示す図8相当図
【符号の説明】
【0056】
図面中、10は誘導加熱調理器、13はトッププレート、17は鍋(被加熱調理器具)、21は誘導加熱コイル、22は板状加熱体、41は絶縁基板、42は板状ヒータ、43〜46は分割ヒータ(ヒータ)、47は折り返し部、48aは係合爪(係合部)、48bは補助爪(係合部)、51は孔部、53a,53bはスリット、63は断熱材を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱調理器具が載置されるトッププレートと、
前記トッププレートの下方に設けられ、前記トッププレート上に載置された被加熱調理器具を誘導加熱する誘導加熱コイルと、
前記トッププレートと前記誘導加熱コイルとの間に配置され、前記トッププレート上に載置された被加熱調理器具を加熱する板状加熱体とを具備した加熱調理器において、
前記板状加熱体は、絶縁基板と、この絶縁基板に設けられ通電することにより発熱する板状ヒータとを具え、
前記板状ヒータは、折り返し部を介して所定方向に往復する蛇行形状をなすと共に、前記絶縁基板に係合する係合部を有して構成されていることを特徴とする誘導加熱調理器。
【請求項2】
前記係合部は、前記板状ヒータの前記折り返し部に形成されていることを特徴とする請求項1記載の誘導加熱調理器。
【請求項3】
前記絶縁基板は、前記板状ヒータの前記係合部が係合する孔部を有することを特徴とする請求項1又は2記載の誘導加熱調理器。
【請求項4】
前記絶縁基板の前記孔部の寸法は、当該孔部と前記係合部との間に、発熱により伸長する前記板状ヒータの伸張量に対応する隙間が生じるように設定されていることを特徴とする請求項3記載の誘導加熱調理器。
【請求項5】
前記板状ヒータは、その全長間の幅寸法を異ならせてあることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の誘導加熱調理器。
【請求項6】
前記板状ヒータは、周方向への往復を繰り返して放射状に拡がるように形成されると共に、
前記板状ヒータの幅寸法は、当該板状ヒータの外周側よりも中心側が大きくなるように設定されていることを請求項1乃至5の何れかに記載の誘導加熱調理器。
【請求項7】
前記板状ヒータは、同一形状をなす複数のヒータを結合することにより構成されていることを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の誘導加熱調理器。
【請求項8】
前記絶縁基板にスリットを設けたことを特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載の誘導加熱調理器。
【請求項9】
前記スリットは、前記絶縁基板の熱膨張量を吸収する寸法に設定されていることを特徴とする請求項1乃至8の何れかに記載の誘導加熱調理器。
【請求項10】
前記板状ヒータと前記絶縁基板との間に、断熱材を配置したことを特徴とする請求項1乃至9の何れかに記載の誘導加熱調理器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−55791(P2010−55791A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−216594(P2008−216594)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(502285664)東芝コンシューマエレクトロニクス・ホールディングス株式会社 (2,480)
【出願人】(503376518)東芝ホームアプライアンス株式会社 (2,436)
【Fターム(参考)】