説明

誘導加熱調理器

【課題】トッププレート上の鍋の材質,底の状態の影響を受けることなく鍋温度を非接触で高精度かつ安定に応答性良く検出する。
【解決手段】鍋を戴置するトッププレートと、その下にある加熱コイルと、加熱コイルを固定する部材に設け、鍋からの赤外線を導光する導光筒と、その赤外線を検出する赤外線検出手段と、同導光筒を通しトッププレートに概垂直な赤外線平行光線束を投光する赤外線投光手段と、赤外線投光手段が投光し、鍋で反射される赤外線光線を受光する受光手段とを備え、受光手段の出力で赤外線検出手段の出力を補正して鍋温度を検出する鍋温度検出手段を持つ誘導加熱調理器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線センサを用いて鍋の温度を検出する誘導加熱調理器に関する。
【背景技術】
【0002】
誘導加熱調理器は、結晶化ガラス等で構成されるトッププレート下に同心円状の誘導加熱コイル(以下「加熱コイル」と略称)を設置し、これに高周波電流を流し、発生する磁界でトッププレート上に戴置された調理容器である鍋底にうず電流を誘起し、このジュール熱で調理容器である鍋を直接加熱するものである。
【0003】
誘導加熱調理器の鍋温度検出手段として、応答速度が良好な点で加熱された鍋底から放射される赤外線をトッププレート越しに赤外線センサで観測し温度を検出するものが多く使われている。この赤外線センサは加熱コイル中心空隙付近の下に配置されて、鍋底から放射される赤外線をトッププレート越しに赤外線センサで検出し、その出力に応じて加熱コイルを駆動するインバータ回路の出力を制御して調理温度を調整するものである。
【0004】
赤外線センサで温度検出する場合の課題は、被測定物(調理鍋)の放射率の影響を受けることである。鍋底の赤外線放射率は、鍋底の材質,色,加工状態(鍋底の塗装や刻印,ヘアライン加工,リング加工,打ち込み加工,凹凸等)に大きく依存する。また、同じ鍋であっても鍋底に付着した調理油等の汚れによって放射率が異なってくる。すなわち、同じ温度,同じ材質の鍋底であっても、色,加工あるいは汚れ状態や凹凸が異なると放射する赤外線エネルギーが異なるため赤外線センサで受光する赤外線エネルギーも異なり、異なる温度が検出されることになる。このため、鍋底の相違により赤外線センサによる温度検出が異なるのを補正する手段が必要になる。
【0005】
この課題を解決する公知例として特許文献1,2,3,4に挙げるものがある。
【0006】
特許文献1の技術は、トッププレート上に置かれる被加熱物(鍋)に対して投光する発光手段と被加熱物からの反射光を受光する受光手段を備え、受光手段の出力から換算された被加熱物の放射率で赤外線センサの出力を補正して温度検出するものである。これにより被加熱物(鍋)の放射率に影響されない正確な鍋温度検出技術になっている。
【0007】
特許文献2の技術は、特許文献1の技術に加え、相対する発光手段と受光手段を、鍋を戴置するトッププレートと角度aを持たせて配置したものである。この角度aはトッププレートと鍋が密着するときの鍋底面で光が反射する角度である。これにより鍋が反っている場合でも放射率を正確に検出でき、より正確な鍋温度検出技術になっている。
【0008】
特許文献3の技術は、特許文献1の技術に加え、受光手段の周囲に配置した発光手段を複数備えるものである。複数の発光手段が順次発光する光線の鍋での反射光を、発光に同期して受光手段で受け、この出力で鍋底面の複数個所の反射率を得て放射率に換算するもので、この放射率で赤外線センサの出力を補正して温度検出するものである。これにより鍋の刻印による凹凸や文字印刷等の局所的な放射率変化を回避してより正確な放射率を検出でき、より正確な鍋温度検出技術になっている。また、同様な効果を有する、発光手段の周囲に複数の受光手段を配置して、より正確な放射率を検出する技術も開示されている。
【0009】
特許文献4の技術は、特許文献1の技術に加え、トッププレートの端面から近赤外線を入射する発光手段と、前記発光手段と対面する端面に設けられ鍋の底面からの反射光の強度を検知する反射センサを備え、反射センサの出力から鍋底面の放射率を得て、この放射率で赤外線センサの出力を補正して温度検出するものである。これによりトッププレート内部を導光路として用い鍋底面の広い範囲での放射率を検出し、鍋の戴置位置のずれ、鍋底の刻印,加工状態に関係なく正確に放射率を得て、より正確な鍋温度検出技術になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−225881号公報
【特許文献2】特開2004−241220号公報
【特許文献3】特開2006−221950号公報
【特許文献4】特開2006−260940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1では、具体的な発光手段として単一の赤外線LEDまたはレーザなどの光源、受光手段として単一の赤外線フォトトランジスタ、そしてこれら手段の使用波長、光学的なバンドパスフィルタによる分光手段が提示されている。しかし、後述するように単一の赤外線LEDと単一の赤外線フォトトランジスタを使用する場合には鍋の反射率つまり放射率を正確に検出することは困難である。得られる反射率は鍋の極狭い面積でのそれであり、温度検出赤外線センサが受光する広い鍋底面での反射率とは異なる。このため、検出した反射率(放射率=1−反射率)で温度検出赤外線センサ出力を補正して鍋温度を検出しても正確なものとはならない。
【0012】
特許文献2は、特許文献1技術に加え、一対の発光手段と受光手段をトッププレートと角度aを持たせて配置し、鍋の反り,凹凸などでトッププレートと鍋底面が角度を持つときでも正確な反射率が得られるようにする技術である。また、この対の発光手段と受光手段に加え、角度aと異なる角度で複数対持たせる技術も提示されている。しかし、特許文献1と同様単一の赤外線LEDと単一の赤外線フォトトランジスタを使用する場合には鍋の反射率つまり放射率を正確に検出することは困難である。得られる反射率は鍋の極狭い面積での特定角度の反りに対応しただけのものであり、温度検出赤外線センサが受光する広い鍋底面での反射率とは異なる。このため、検出した反射率(放射率=1−反射率)で温度検出赤外線センサ出力を補正して鍋温度を検出しても正確なものとはならない。
【0013】
特許文献3は、特許文献1技術に加え、複数の発光手段と複数の受光手段を温度検出赤外線センサの周囲に配置して、一対の発光手段と受光手段で検出する鍋の狭い面積での反射率を複数求め、この複数個所の反射率情報から温度検出赤外線センサの視野部分での放射率に換算し、この放射率で温度検出赤外線センサ出力を補正して正確な鍋温度を検出する技術である。発光手段あるいは受光手段の個数を多くすれば、より広い面積の放射率を正確に検出することができるが、実際に加熱コイル下に数多くの例えば10個以上の発光手段あるいは受光手段を設けることは困難であり、設けることができた場合でも高価となると言う課題がある。
【0014】
特許文献4は、特許文献1技術に加え、トッププレートの端面に一つの発光手段と他面に一つの受光手段を設置し、発光手段が投光する赤外線を、トッププレートを導光路として所定面積の鍋底面に導き、この鍋底面で反射する反射光を同じくトッププレートを導光路として受光手段で受光し鍋の反射率を検出するものである。しかし、トッププレートを導光路とするためにトッププレート上下面に反射材をコーティングする必要がある。特に、鍋底が接する上面は耐熱反射材が必要となる。反射材の代わりに光反射層を機械的あるいは化学的手段で微細な凹凸として構成する必要がある。また、発光手段の投光する光をトッププレート内に効率良く導くための光カプラ、反射光を投光光と分離し反射光のみを効率良く受光手段に導くための光カプラも必要となる。これらの光学的な部品,材料,トッププレート表面処理は複雑で高価となると言う課題がある。
【0015】
本発明は、赤外線センサとしてサーモパイルを用いた鍋温度検出手段において、トッププレート上に置かれる鍋底の状態つまり凹凸,反りや汚れ更に材質,色,加工状態に拘らず、安定して精度良く検出することを可能にし、安全性,使い勝手の向上した誘導加熱調理器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題は、調理容器である鍋を上面に置く結晶化ガラスからなるトッププレートと、トッププレートの下に設けられ前記鍋を加熱するために誘導磁界を発生させる加熱コイルと、加熱コイルの下に設けられ、前記鍋底などから放射される赤外線を検出する赤外線検出手段と、前記加熱コイルの支持部に設けられ、前記加熱コイルから放射される赤外線を遮断し、前記鍋底から放射される赤外線を前記赤外線検出手段に導く導光筒と、放物面反射鏡とその焦点に配置される赤外線発光手段とから構成され前記導光筒下の前記赤外線検出手段の横に配置され前記導光筒を通して前記トッププレートに該垂直に赤外線光束を投光する赤外線投光手段と、前記赤外線投光手段が投光する赤外線光束内に設置され前記鍋で反射される前記赤外線光束を受光する赤外線反射受光手段と、前記加熱コイルへ高周波電力を供給する高周波電力供給手段と、高周波電力供給手段の出力電力を制御する電力制御手段と、前記赤外線反射受光手段の出力より前記赤外線検出手段の出力を補正する反射率補正手段と、前記反射率補正手段の出力より調理容器の底面の温度を検出する鍋温度検出手段を備え、前記鍋温度検出手段の出力により前記電力制御手段を制御する誘導加熱調理器によって解決できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、赤外線投光手段で鍋底の広い面積部分に赤外平行光線を投光し、その反射光の大部分を赤外線反射受光手段で受光するため鍋底の広い範囲の平均的な反射率(=1−放射率)を検出できる。このため、検出した反射率は鍋底の局所的な汚れ,凹凸,刻印,印刷塗装などの影響を受けにくい。また、赤外線投光手段および赤外線反射受光手段と赤外線検出手段とは横に並べて配置されるため、鍋の放射する赤外線検出範囲(赤外線検出手段の視野)と赤外線投光手段および赤外線反射受光手段で検出する鍋の反射率検出範囲(投光面と反射受光手段の視野)を重複することができる。このため、ほぼ鍋底の同一面で、反射率検出で検出した反射率すなわち放射率に比例する赤外線検出出力を得る事ができ、反射率補正すれば正確な放射温度を検出できる。
【0018】
この補正を行うことで鍋底の材質,色,加工状態あるいは汚れの状態に拘らず正確に鍋底温度を検出することが可能になり、正確に検出した鍋底温度を用いて加熱の制御を行うことができるので、上手に調理をすることが可能となる。つまりどんな鍋でも安定して加熱鍋底の温度を正確に検出する鍋温度検出手段を提供することができる。そして、正確に検出した鍋温度により適切に加熱コイルへの高周波電力を制御することで安全かつ最適な調理を可能にする誘導加熱調理器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1の誘導加熱調理器の構成を示す斜視図。
【図2】実施例1の誘導加熱調理器の構成を示す断面図。
【図3】実施例1の加熱コイル周辺の詳細を示す断面図。
【図4】実施例1の加熱コイルおよび鍋温度検出装置の配置を示す平面図。
【図5】実施例1の加熱コイルの裏面を示す平面図。
【図6】実施例1の鍋温度検出装置の平面および断面図。
【図7】実施例1の赤外線投光手段および赤外線反射受光手段の詳細を示す図。
【図8】実施例1で使用するトッププレートなどガラスの光学特性を示す図。
【図9】実施例1の赤外線LED,フォトトランジスタの光学特性を示す図。
【図10】実施例1のサーモパイルの詳細を示す平面および断面図。
【図11】実施例1のサーモパイルの視野特性を示す図。
【図12】実施例1の反射率検出範囲とサーモパイル検出範囲との関係を示す図。
【図13】実施例1の誘導加熱調理器の制御ブロック図。
【図14】実施例1のサーモパイル温度検出回路の詳細を示す図。
【図15】実施例1の反射率検出回路の詳細を示す図。
【図16】実施例1の反射率検出回路の動作タイミングチャート。
【図17】実施例1の反射率検出回路の鍋有無による出力を示す図。
【図18】黒体温度の分光放射エネルギー分布を示す図。
【図19】実施例1の黒体(鍋底)温度とサーモパイル温度検出回路出力の関係を示す図。
【図20】実施例1のトッププレート温度とサーモパイル温度検出回路出力の関係を示す図。
【図21】実施例1の反射率検出回路の反射電圧と反射率の関係を示す図。
【図22】実施例1の各種鍋の鍋底温度と鍋温度検出回路出力の関係を示す図。
【図23】実施例1の各種鍋の放射率と反射率の関係を示す図。
【図24】実施例1の各種鍋の反射補正係数Kと反射電圧Vrの関係を示す図。
【図25】単一素子による反射検出と実施例1の反射検出の相違を模式的に示す図。
【図26】単一素子による反射検出と実施例1の反射検出の検出バラツキを示す図。
【図27】実施例1の誘導加熱調理のフローチャート。
【図28】実施例1の反射率検出のフローチャート。
【図29】実施例1の鍋温度検出のフローチャート。
【図30】実施例1の鍋温度検出のフローチャート。
【図31】実施例2の赤外線投光手段および赤外線反射受光手段を示す図。
【図32】実施例2の反射型赤外線LEDの概略構成を示す図。
【図33】実施例3の赤外線投光手段および赤外線反射受光手段を示す図。
【図34】実施例4の赤外線投光手段および赤外線反射受光手段を示す図。
【図35】実施例5の赤外線投光手段および赤外線反射受光手段を示す図。
【図36】実施例6の誘導加熱調理器の制御ブロック図。
【図37】実施例6の照度検出回路の詳細を示す図。
【図38】実施例6の照度検出回路の出力電圧と照度の関係を示す図。
【図39】実施例6の誘導加熱調理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0021】
図1は実施例1の誘導加熱調理器の本体1の斜視図であり、図2は図1中に一点鎖線AA′で示される部分に調理鍋6を載せたときの概略縦断面図である。以下では、誘導加熱が可能な鍋置き場所が2口、ラジエントヒータやハロゲンヒータ等のヒーター(加熱源)の放射熱で加熱可能な鍋置き場所が1口ある3口の誘導加熱調理器を例に挙げ説明を行うが、本発明の適用対象はこれに限られず、例えば、誘導加熱が可能な鍋置き場所を3口設けた誘導加熱調理器であっても良い。なお、調理鍋6は、誘導加熱に適した磁性体の鉄鍋であっても良いし、非磁性体のアルミ鍋,銅鍋であっても良い。
【0022】
図1および図2に示すように、本体1の上面には、結晶化ガラス等の非磁性体によって形成されたトッププレート2が装着されている。また、トッププレート2の手前には、各口の加熱開始あるいは加熱コースを指示するスイッチ、各口の加熱状態(温度等)を表示する表示器が配置される操作表示部3が装着されている。
【0023】
トッププレート2の上面には、その下に配置される加熱コイル7あるいはラジエントヒータの最外半径におよそ一致する半径の円4が加熱可能な鍋置き場所を示すために印刷されている。また、トッププレート2は普通可視光に対して透明であるため、上面にはフリットガラスに耐熱塗料を混入した耐熱耐久性の衣装印刷、下面には耐熱面塗装を施し、機器内部が見えないようにしてある。誘導加熱が可能な鍋置き場所2口の円4の中央から約50mmずれた位置に後述する鍋温度検出のために前記印刷,塗装を行っていない赤外線透過窓5が設けられている。この赤外線透過窓5は赤外光を透過させるためであり、この部分だけ赤外光に対しては透明な可視光カット部材(耐熱フィルムまたはガラス)を下面に装着しても良い。
【0024】
トッププレート2の上面の各口(円4)に、調理鍋6を置き加熱調理を行う。図2に示すように、加熱コイル7にインバータ回路8(高周波電流供給手段)からの高周波電流を供給すると、外周側の第1のコイル7aと内周側の第2のコイル7bに分割された加熱コイル7が高周波磁界9(図中破線で示す)を発生し、この高周波磁界が調理鍋6と鎖交して、渦電流を発生し、そのジュール熱により調理鍋6自身が誘導加熱され発熱する。従って、調理鍋6内の調理物は、調理鍋6自身の発熱によって加熱調理される。このとき、調理鍋6の下にあるトッププレート2も、発熱した調理鍋6からの伝熱あるいは放射熱により高温になる。
【0025】
図3に加熱コイル7周辺の断面を詳しく示す。図3に示すようにトッププレート2下面には第1のコイル7aと第2のコイル7bの間にコイル間隙7cを備えて分割された加熱コイル7が耐熱プラスチックで構成されるコイルベース10内に同心円状(渦巻き状)に巻かれて配置される。加熱コイル7の下側にはコイルベース部材内部にコ字状のフェライト11が凸部を上にして放射状に配置されている。このフェライト11は加熱コイル7が発生する磁束をトッププレート2上の調理容器である調理鍋6に効率良く導くために配置される。また、磁束がコイルベース10下部に漏洩するのを防止する。フェライト11は透磁率が高く磁束はほとんどフェライト11内を通過するからである。
【0026】
コイルベース10の下には加熱コイル7を冷却するためのコイル冷却風路15が設置される。コイル冷却風路15は二つに分けられ、一つは第1のコイル7aの内周側に接続され、第2のコイル7bおよび第1のコイル7a上面を冷却するコイル上面冷却風路15a、他の一つは第1のコイル7aの下面を冷却するコイル下面冷却風路15bである。コイルベース10の中心部分下に位置するコイル冷却風路15aの上面には円形上のコイル上面冷却風送出孔15cが開口している。
【0027】
コイルベース10の中心部は円筒状の内空洞14aになっており、第1のコイル7aの内周側にはフェライト11を内蔵する放射上梁に繋がる円筒状の外空洞壁14bになっている。この外空洞壁14bの下部に、コイル冷却風路15aのコイル上面冷却風送出孔15cが接続される。コイル上面冷却風送出孔15cの周囲にはグラスウール等のシール材16が設けられ先の外空洞壁14bに接続されている。
【0028】
コイル冷却風路15の下にはインバータ回路8等の回路基板を内蔵する回路冷却風路17a,17bが2段重ねて設けられ、夫々には左右の加熱コイル7L,7Rのインバータ回路等が内蔵されている。これらの冷却風路は本体1に固定される。
【0029】
コイルベース10はコイル下面冷却風路15bまたは回路冷却風路17aに固定される3個のコイルベース受け12からバネ13で押され、トッププレート2の下面に押し付けられる。
【0030】
コイル冷却風送出孔15c下のコイル上面冷却風路15a中には鍋温度検出装置18が配置される。鍋温度検出装置18は誘導加熱された調理鍋6の底面温度をトッププレート2の赤外線透過窓5を透過する赤外線から検出する。また、赤外線投光器35および赤外線反射受光器36も内蔵され加熱される調理鍋6底面の反射率を検出する。
【0031】
加熱調理中にはコイル上面冷却風路15a,コイル下面冷却風路15b,回路冷却風路17a,17bには本体1に内蔵されるファン(図示せず)から外気が導入される。コイル上面冷却風路15a内を流れる冷却風は鍋温度検出装置18を冷却しながらコイル上面冷却風送出孔15cから円筒状の外空洞壁14b内のコイル間隙7cおよび内空洞14aを上昇し、コイル間隙7cおよび内空洞14a上部から、トッププレート2に遮られトッププレート2と加熱コイル7の間をコイル径方向外側に流れ、加熱コイル7の上面およびトッププレート2下面を冷却する。コイル下面冷却風路15bのコイル7aの下面にあたる部分には小さな孔が複数開けられ、コイル下面冷却風路15b内を流れる冷却風は、ここからコイル7a下面に向かって噴流してこれを冷却する。
【0032】
図4に、図3からトッププレート2を取り除き、上方から加熱コイル7,コイルベース10、および、コイル冷却風路15aを見た詳細構成図を示す。ここでは特に、加熱コイル7および内空洞14aと鍋温度検出装置18の水平面での位置関係を示している。
【0033】
加熱コイル7は、テフロン(登録商標)等で絶縁被膜されるリッツ線で同心円状に同一方向に巻回され、外周側の第1のコイル7aと内周側の第2のコイル7bに分割される。その間隙7cは幅およそ15mmの同心帯状をなし、第1のコイル7aの巻き終わりは間隙7cを架橋し第2のコイル7bの巻き始めとなり、第1のコイル7aと架橋線7dと第2のコイル7bで加熱コイル7を構成する。コイルベース10には第1のコイル7aの内周側に円筒状の外空洞壁14bが設けられ、その内側がコイル間隙部7cとなっている。また、第2のコイル7bの内周側に内空洞14aが設けられる。さらに、コイル間隙部7cの一部、放射状に配置される二つのフェライト11間に楕円筒状のセンサ視野筒19(およそ縦12mm,横24mmの楕円)が設けられ、このセンサ視野筒19の下に鍋温度検出装置18が設置される。
【0034】
センサ視野筒19の上部横にはトッププレート2の赤外線透過窓5の横下面に接触するようにサーミスタ20が設置される。
【0035】
誘導加熱された鍋底面からの赤外線はトッププレート2の赤外線透過窓5を透過し、センサ視野筒19から後で詳細に説明する鍋温度検出装置18に内蔵されるサーモパイル25に入射する。また、赤外線投光器35の投光する赤外線はセンサ視野筒19,赤外線透過窓5を通過して調理鍋6の底で反射され、この反射光は赤外線反射受光器36で受光される。
【0036】
図5は図4を裏から見た図を示す。コイルベース10には2個のコイル端子21a,21bが設けられ、低電圧端子21aには第1のコイル7aの巻き始めが接続され、高電圧端子21bには第2のコイルの巻き終わりが接続される。この端子にはインバータ回路8の出力線22a,22bがねじで固定される。銅やアルミニウム等の非磁性体の鍋では4〜5kVの高電圧が出力される高電圧出力線22bは高電圧端子21bに接続される。
【0037】
図4,図5で説明したように鍋温度検出装置18は、架橋線7dの近傍をさけ、かつ高電圧出力線22bが接続される高電圧端子21bから離れた位置にあるコイル間隙部7cに設けられたセンサ視野筒19の下にそのケース窓30が位置するように設置される。
【0038】
加熱コイル7を二つの部分に分割し、その間隙7cにセンサ視野筒19を設け、その下に鍋温度検出装置18を設ける理由は、加熱コイル7の径方向幅中間部の磁束が一番強く、この上の鍋底が一番高温に加熱され、その部分の温度を正確に検出するのが異常過熱の防止に役立つためである。
【0039】
図6に鍋温度検出装置18の詳細を示す。
【0040】
図6(a)は、鍋温度検出装置18の平面図を示す。鍋温度検出装置18は、ヒートシンク59を被せた赤外線検出センサ(サーモパイル25),放物面反射鏡51と赤外線LED50等で構成される赤外線投光器35(赤外線投光手段),赤外線フォトトランジスタ54等で構成される赤外線反射受光器36(赤外線反射受光手段)を中心に構成される。サーモパイル25と赤外線投光器35,赤外線反射受光器36はサーモパイル25の出力信号を増幅するサーモパイル温度検出回路72(後で詳細を説明する)と反射率検出回路73(後で詳細を説明する)が実装される電子回路基板27に配置され、このサーモパイル25と赤外線投光器35,赤外線反射受光器36および電子回路基板27は、全体をプラスチック部材の赤外線センサケース29(一点鎖線で示す)内に密封される。この赤外線センサケース29には赤外線を透過させるためにケース窓30が開けられ、このケース窓30にはトッププレート2を構成する結晶化ガラスとほぼ同じ光学特性(但し図8薄線で示すように1μm以上の長波長側の光学特性はほぼ同じだが、短波長側でトッププレートに比べて透過率小の領域が400nmほどあり、この部分の可視光がカットされるため目には赤黒く見える)を持つ結晶化ガラスを薄く正方形に切り出したものを結晶化ガラス光学フィルタ31として嵌め込んである。
【0041】
そして、結晶化ガラス光学フィルタ31の下にヒートシンク26を被せたサーモパイル25と赤外線投光器35,赤外線反射受光器36が電子回路基板27上に実装されている。この赤外線センサケース29は、周りをアルミニウム等の透磁率がほぼ1の金属ケース32(2点鎖線で示す)で覆っている。当然、先のケース窓30の所は開口されている。そして、更にアルミニウム金属ケース32は、周りをプラスチック部材の外側赤外線センサケース33で覆っている。当然先のケース窓30の所は開口されている。つまり、サーモパイル25は3重のケースで覆われた形になっている。そして、鍋温度検出装置18はそのケース窓30がコイルベース10のセンサ視野筒19内を望むようにコイル上面冷却風路15a内に設置される。
【0042】
図6(a)中のA−A′線に沿った断面図を図6(b)に示す。これは、赤外線センサケース29内に設置される電子回路基板27に装着されるサーモパイル25および赤外線投光器35,赤外線反射受光器36と赤外線センサケース29のケース窓30,結晶化ガラス光学フィルタ31との位置関係を示す断面図である。
【0043】
図7(a)に赤外線投光器35,赤外線反射受光器36の詳細構成を示す。赤外線投光器35は赤外線発光素子としての面実装タイプの赤外線LED50と放物面にアルミあるいはクロム等の高反射率金属をメッキあるいは蒸着した放物面反射鏡51,投光器遮光壁52から構成される。放物面は、放物線Y=X2/4F((0,F):焦点位置)を回転してできる面であり、プラスチック部材上面にこの面を凹に構成し、この表面にアルミあるいはクロムをメッキあるいは蒸着して放物面反射鏡51を作成する。放物面反射鏡51は高輝アルミを成型して作成しても良い。赤外線LED50は放物面反射鏡のほぼ焦点に、その発光が放物面反射鏡に照射されるように配置される。
【0044】
赤外線反射受光器36は砲弾型のプラスチックレンズを持つ赤外線フォトトランジスタ54で構成され、放物面反射鏡の焦点同軸上に赤外線LED50の反対側に受光面を上向けて装着される。
【0045】
図に示すように、放物面反射鏡51はその周囲を投光器遮光壁52で囲われる。放物面反射鏡51を投光器遮光壁52で囲うのは、投光赤外線が電子回路基板27に装着される他電子部品に影響しないようにするためである。赤外線LED50の発光は点発光(点光源)ではないため放物面反射鏡焦点にその発光点を配置しても、放物面反射鏡51で反射する光線が完全な平行光線にはならない。投光器遮光壁52がなければ平行でない光線が結晶化ガラス光学フィルタ31で反射され他電子部品に到達するからである。また、赤外線フォトトランジスタ54は投光赤外線が直接赤外線フォトトランジスタ54に入射しないように、上面を除き周囲及び下面を受光器遮光壁55で囲う。
【0046】
図7(b)に赤外線LED50と赤外線フォトトランジスタ54を実装する小基板53の下面を示す。小基板53下面に面実装タイプの赤外線LED50を半田付けする。上面には砲弾型の赤外線フォトトランジスタ54のピンを半田付けする。赤外線フォトトランジスタ54には受光器遮光壁55としてプラスチックの円筒筒を被せる。そしてこの小基板は赤外線LED50の発光位置が放物面反射鏡51の焦点に位置するように投光器遮光壁52に嵌め込まれる。赤外線LED50および赤外線フォトトランジスタ54の端子は小基板53の投光器遮光壁52外のパターンから電子回路基板27にある反射率検出回路73に接続される。
【0047】
図8にトッププレート2および結晶化ガラス光学フィルタ31の光学特性(各波長での透過率)を示す。また、図9(a)に赤外線LED50の分光強度特性および赤外線フォトトランジスタ54の分光感度特性を示す。図9(b)に赤外線LED50の発光強度指向特性,赤外線フォトトランジスタ54の受光感度指向特性を示す。
【0048】
赤外線LED50は930nm付近の近赤外光を発光し、広視野角(半値角度120゜程度)のもので、光線は放物面反射鏡51で反射され、ほぼ平行光線となり上方に投光される。広視野角のものとしたのは放物面で反射する平行光線の強度分布が均一となるようにするためである。赤外線フォトトランジスタ54の受光面上には可視光プラスチックで砲弾型レンズが構成され、先の投光赤外光の物体(鍋底面)での反射赤外光を比較的狭い視野角(半値角度20゜から40゜程度)で受光し、その受光量に比例した光電流を出力する。しかし、受光はこの視野角よりは受光器遮光壁55の開口で規定される。また、砲弾型レンズを持たないフォトトランジスタでも良いが、レンズを有する方が集光効率が高く受光感度の点で望ましい。なお、赤外線LED50の発光波長は930nmに限らず700nmから900nmの近赤外領域のものであればよい。また、赤外線フォトトランジスタ54は波長700nmから900nmの近赤外領域に分光感度特性をもつものであればよい。これらの波長は図8に示したトッププレート2及び結晶化ガラス光学フィルタ31の光学特性と調理鍋の放射する赤外線波長領域から規定される。つまり使用する赤外線の波長は、トッププレート2及び結晶化ガラス光学フィルタ31を透過するものであればよく、かつ安価な素子であることが条件となる。また、温度検出の赤外線センサであるサーモパイル25が受光する赤外線領域(鍋の調理温度から1μm以上の波長域、後述する図18を参照)をはずしたものが望ましい。このため、本実施例では図9に示す光学特性の赤外線LED50,赤外線フォトトランジスタ54を使用している。
【0049】
この赤外線投光器35,赤外線反射受光器36は説明のように赤外線LED50と赤外線フォトトランジスタ54の対で構成されトッププレート2上に置かれた調理鍋6底面の反射率を検出するものである。
【0050】
赤外線投光器35,赤外線反射受光器36の投光器遮光壁52,受光器遮光壁55の上面は結晶化ガラス光学フィルタ31の下面直下に位置する。これは投光赤外線発光が直上の結晶化ガラス光学フィルタ31で反射され、直接赤外線反射受光器36の赤外線フォトトランジスタ54で受光されるのを防止するためである。
【0051】
図8に示したように、赤外線LED50の赤外線発光は結晶化ガラス光学フィルタ31を85%以上透過するが、残り15%は反射され、この反射光はすぐ同軸上に配置される赤外線フォトトランジスタ54で受光される恐れがある。この受光レベルは反射面である結晶化ガラス光学フィルタ31下面との距離が短いと大きく、本来目的であるトッププレート2上にある鍋底面での反射光の受光に影響する。このため、本実施例では、図示するように結晶化ガラス光学フィルタ31と投光器遮光壁52,受光器遮光壁55の上端との距離を500μm以内程度にまで接近させ、赤外線LED50の発光赤外線の結晶化ガラス光学フィルタ31で反射する反射分が赤外線フォトトランジスタ54で受光されないようにしている。理想的には結晶化ガラス光学フィルタ31下面と投光器遮光壁52および受光器遮光壁55の上面を接触させたほうが望ましい。
【0052】
図10にサーモパイル25の詳細を示す。図10(a)はヒートシンク26とサーモパイル25の斜視図を示す。図10(b)はヒートシンク26を除いた図10(a)中B−B′で示す線でのサーモパイル25の断面図であり、図10(c)は図10(b)中C−C′で示す線での断面の平面図である。なお、熱電対が見えるように、赤外線吸収膜25−9を省略して示してある。
【0053】
サーモパイル25は熱電対(サーモカップル)を多数縦列接続した(パイリング)したもので、ニッケルめっき鋼板等の金属キャン25−1と金属ステム25−2からなる金属ケース25−3内にこれが内蔵されている。およそ300μm厚のシリコン基材25−4表面に電気的および熱的に絶縁するためシリコン酸化膜25−5を形成し、この上にポリシリコン,アルミを順次パターン蒸着しポリシリコン蒸着膜25−6,アルミ蒸着膜25−7で熱電対を多数作成し、これを縦列接続する。ポリシリコン,アルミ接合点(測温接点)のあるシリコン基材25−4中央部には、黒体に近い酸化ルビジウム膜等の赤外線吸収膜25−9を形成する。ポリシリコンおよびアルミ蒸着膜の一端は冷接点25−10であり、これはシリコン基材25−4周囲のシリコン酸化膜25−5上に配置する。シリコン基材25−4の裏面を周囲(冷接点部)を残して290μmまでエッチングし、測温接点部分のあるシリコン基材の厚みを10μmに形成する。これは熱電導の良好なシリコンを薄くすることで、測温接点部26−8と冷接点部25−10の熱伝導を少なくし測温接点部と冷接点部を熱的に絶縁するためである。
【0054】
このシリコン基材25−4を金属ケース25−3の金属ステム25−2にボンド等の接着材で固定する。同時に金属ステム25−2にはセラミック上に膜形成したNTCサーミスタ25−11を同様に配置する。これは金属ケース25−3内にある熱電対の雰囲気温度を検出し、熱電対の熱起電力を補正するためである。詳細は後述する。金属ステム25−2には絶縁シールされた4本の金属ピン25−12が貫通配置されており、この金属ピンに先の熱電対の出力とNTCサーミスタ25−11がワイヤ接続される。金属ステム25−2には、筒状の金属キャン25−1が窒素等の不活性ガス中で被せられ溶着される。この金属キャン25−1の上面には小穴の窓25−13が開けられ、ここに内側からガラス凸レンズ25−14が装着されている。この小穴の垂直下に先の測温接点部25−8(赤外線吸収膜25−9の下にある)が位置するようにシリコン基材25−4が固定される。このガラス凸レンズ25−14は赤外線透過窓5の視野範囲が赤外線吸収膜25−9に結像するように設計される。
【0055】
サーモパイル25内の熱電対測温接点部25−8(赤外線吸収膜25−9の下にある)にはこの小穴の窓25−13を通過しガラス凸レンズ25−14で集光された赤外線で加熱され、この加熱温度上昇は通過した赤外線エネルギーに比例し、熱電対の冷接点部25−10と測温接点部25−8の温度差に比例した電圧が熱電対出力の金属ピン25−12に出力される。図11にこのサーモパイルの視野特性を示す。ガラス凸レンズ25−14のため、視野角は狭く、本実施例ではセンサ導光筒19の上端で約直径10mmの円が半値角内となっている。
【0056】
前述したようにサーモパイル25は金属ケース25−3が熱的には熱電対の冷接点と同じであり、この温度変動がそのままサーモパイル25の出力変動となってしまう。そのため、ヒートシンク26を熱バッファ(熱容量を大きくする)として装着して周囲温度変化に対する出力変動を減少させる。
【0057】
図12に反射率検出のために赤外線投光器35が鍋底に向けて赤外線を投光し鍋での反射光を赤外線反射受光器36が受光する様子を示す。また、赤外線投光器35の投光範囲すなわち赤外線投光器35が鍋底に投光する赤外線範囲とサーモパイル25の受光範囲の概略関係を示す。赤外線LED50の発光する赤外線は放物面反射鏡51で反射し平行光線となりトッププレート2すなわち鍋底に概垂直に投光される。ここで反射された赤外光線は赤外線反射受光器36で受光される。図では反射光の散乱成分を示している。また、本実施例では、サーモパイル受光視野の左半分が反射率検出の投光範囲と重複させるように、サーモパイルのすぐ横に赤外線投光器35を配置している。半値角より広い部分の左側が反射率検出のための投光範囲と重なっている。なお、赤外線フォトトランジスタ54は放物面反射鏡51の焦点と同軸上に配置しているが、同軸上から多少ずれても良いのはあきらかである。
【0058】
図13に本実施例の誘導加熱調理器の制御ブロック図を示す。マイクロコンピュータ60が誘導加熱調理器の動作を制御する。以下記号Rは図1の手前右にあるに誘導加熱口に関するブロックを表し、記号Lは図1の手前左にある誘導加熱口に関するブロックを表す。2つのインバータ回路8Rおよび8Lは加熱コイル7R及び7Lに高周波電流を供給する。このインバータ回路8R,8Lの動作周波数及びコイルへの供給電力を調整するのが周波数制御回路61R,61L及び電力制御回路62R,62Lである。動作周波数を変化させるのは、鍋の金属種類によって高周波電流の周波数で誘導加熱効率が変化するためである。一般に鉄では20kHz、これより抵抗率の低い銅,アルミでは70kHz以上の周波数が用いられる。この周波数切り替えは図示しない鍋種類判別手段の判断に基づいてマイクロコンピュータ60が周波数制御回路を制御して行う。
【0059】
各インバータ回路8R,8Lには整流回路63から直流電圧が供給される。この整流回路63には電源スイッチ64を介して3端子200Vの商用電源65が接続されている。商用電源の接地端子は本体1の金属部に接地線で接続される。ラジエントヒータ66にはラジエントヒータ回路67を介して商用電源65が接続され、ラジエントヒータ回路67がラジエントヒータ66に供給する電力を制御する。
【0060】
マイクロコンピュータ60には、表示操作部の操作スイッチ68,表示回路69が接続され使用者の操作指示を受け付け、機器の動作状態表示を行う。また、ブザー70が接続され使用者の操作ボタン押しあるいはエラー等の警告などを報知する。マイクロコンピュータ60は使用者の指示に従い、周波数制御回路61R,61Lと電力制御回路62R,62L及びラジエントヒータ回路67を制御して、トッププレート2上の調理鍋6を加熱する。
【0061】
サーモパイル25はサーモパイル温度検出回路72に接続され出力が増幅され、マイクロコンピュータ60のAD端子に入力される。赤外線投光器の赤外線LED50,赤外線反射受光器の赤外線フォトトランジスタ54は反射率検出回路73に接続され、マイクロコンピュータ60のポート出力で赤外線LED50の発光を制御され、調理鍋6で反射された赤外光は赤外線フォトトランジスタ54で受光され、その出力信号は増幅されマイクロコンピュータ60のAD端子に入力される。サーモパイル温度検出回路72および反射率検出回路73の動作の詳細は後述する。
【0062】
反射率補正手段はマイクロコンピュータ60のソフトウエアで行われる。後で詳細は述べる。
【0063】
また、マイクロコンピュータ60は反射率検出回路73の出力から調理鍋の赤外線反射率を知り、反射率で補正して調理鍋の温度を検出する。この処理もマイクロコンピュータ60のソフトウエアで行われる。(反射率補正手段の動作)そして、電力制御回路62を介して、調理鍋6の加熱を制御する。この処理法の詳細は後述する。
【0064】
図14にサーモパイル温度検出回路72の詳細を示す。サーモパイル25の熱電対出力(熱起電力)(図中(+),(−)記号間の電圧)はオペアンプ72−1で約2000倍に増幅され出力端子72−2に出力される。この出力電圧はマイクロコンピュータ60のAD端子に入力される。オペアンプ72−1の増幅度は抵抗72−3(=R1)と抵抗72−4(=R2)の比(R2/R1)で決まる。また、サーモパイル内のNTCサーミスタ25−11は、回路電源電圧を抵抗72−5,72−6,72−7で分圧された電圧源(抵抗72−6の両端)に抵抗72−8と直列接続された状態で接続され、この抵抗72−8との接続点aは熱電対出力端子(−)に接続されている。NTCサーミスタ25−11は負の温度特性を持った抵抗素子であり温度上昇で抵抗値が低下する。このため、サーモパイル25内の温度が上昇すると先の接続点aの電圧は上昇する。熱電対出力(図中(+),(−)記号間の電圧)は測温接点25−8(赤外線エネルギーで加熱される点)と冷接点(熱電対出力端子)25−10の温度差に比例する。このため、サーモパイル25の設置される雰囲気温度で金属ケース25−3内雰囲気(NTCサーミスタ25−11が内蔵される)温度が上昇すると熱電対出力は減少する。この減少を接続点aの電圧上昇で補償する。すなわちNTCサーミスタ25−11はサーモパイル(熱電対)25の出力すなわち測定対象の放射赤外線エネルギーによる出力が周囲温度で変化するのを防ぐために使用される。つまり、サーモパイル25の周囲温度が変化しても、測定対象の温度すなわち入射する赤外線エネルギーが変化しなければ出力変化を起こさないという冷接点温度補償を行っている。
【0065】
図15に反射率検出回路73の詳細を示す。図15において、50は発光素子である赤外線LEDであり、その発光波長は930nmである。54は赤外線フォトトランジスタであり、例えば、ピーク感度波長が880nmで赤外線LED50の発光波長930nmでもピーク感度の95%の感度をもつものである。図16に反射率検出回路73の動作タイミングチャートを示す。赤外線LED50はトランジスタ73−1で駆動される。この駆動はマイクロコンピュータ60の出力ポートから駆動信号端子73−8に入力される信号で制御される。図16(a)にこの信号を示す。デューティ50%の矩形波信号(周波数約2kHz)を駆動信号端子73−8に入力すると、赤外線LED50は信号が5Vのとき発光し、0Vのときは消灯する。この発光強度は赤外線LED50に流す電流に比例し、この電流は抵抗73−2の値で決められる。本実施例では抵抗値を固定して発光強度は一定である。この赤外発光が放物面反射鏡51で反射され平行光となり、結晶化ガラス光学フィルタ31を透過して、トッププレート2及び調理鍋6の底面で反射され、受光素子である赤外線フォトトランジスタ54で受光されると光電流により抵抗73−3に電圧が発生する。この電圧を図16(b)に示す。反射が大きく(受光量が多く)なれば電圧は比例して大きくなる。この信号電圧はコンデンサ73−5で直流分がカットされ、ダイオード73−5,73−6で倍電圧整流され、直流信号としてオペアンプ73−7で構成される直流増幅器に入力され、ここで増幅される。図16(c)(d)にこれを示す。この増幅された直流電圧は出力端子73−9から出力される。この出力はマイクロコンピュータ60のAD端子に入力される。
【0066】
このように反射率検出回路73は発光強度が一定のキャリア変調された近赤外光を鍋底面に平行光として投光し、鍋で反射される赤外光を受光してその直流電圧を反射電圧として得ることで反射率に相当する値を検出する。図17に調理鍋6がトッププレートに置かれている場合といない場合の反射率検出回路の出力を示す。調理鍋6が置かれていない場合にはトッププレート2のみでの反射でありこれは一定の値を示す。トッププレートの赤外波長930nmでの透過率は90%であり残りは反射される。これからの増加分が鍋からの反射分であり、この量が鍋の反射率に相当するものである。
【0067】
赤外発光を約2kHzでキャリア変調し、受光回路で直流成分をコンデンサ73−4でカットしているのは、自然光の直流成分あるいは白熱電灯,蛍光灯などの照明機器に含まれる低周波成分(商用電源周波数)が鍋の反射率検出に影響するのを防止するためである。なお、可視光は結晶化ガラス光学フィルタ31である程度カットされる。また、赤外線フォトトランジスタ54の暗電流の影響も防止している。
【0068】
以下、本実施例1の動作、特に、反射率検出と鍋温度検出および調理動作を説明する。
【0069】
トッププレート2上に置かれた調理鍋6は誘導加熱により発熱する。この加熱により鍋6底面からは赤外線が放射される。この全放射エネルギーEは鍋温度Tの4乗に比例したものであり(E=σT4)、ステファン・ボルツマンの法則として知られている。図18にプランクの分布則から算出される黒体温度の分光放射エネルギーを示す。この分光放射エネルギーを全波長域で積分すれば、全放射エネルギーEが求まり、これは温度(絶対温度)の4乗に比例する。これが前述のステファン・ボルツマンの法則であり、この係数σがステファン・ボルツマン係数である。分光放射エネルギーのピーク波長はウィーンの変移則から、調理温度100〜300℃で5μm〜8μmである。
【0070】
誘導加熱された鍋底は、黒体温度の全放射エネルギーEに鍋底の放射率εを乗じた全放射エネルギーを温度に応じて放出する。すなわち黒体温度の全放射エネルギーEと鍋底温度のそれ(E′=εσT4)との比が放射率εである。
【0071】
一方、非磁性体である結晶化ガラス(トッププレート2)の光学特性は図8に実線で示したように、0.2μm〜2.9μmの波長の光を80%以上透過し、3〜4.5μmの波長の光を30%程度透過し、4.5μmよりも長い波長、及び、0.2μmよりも短い波長の光をほとんど透過しない。この光学特性のため鍋から放射される赤外線放射エネルギー(図18参照)の大部分(波長5μm以上の大部分)はトッププレート2を通過できない。通過できるのは鍋から放射される全赤外線放射エネルギーの1%程度である。
【0072】
赤外線センサとしては周知のように、赤外線フォトダイオード,赤外線フォトトランジスタのような量子型とサーモパイル,焦電素子のような熱型とがある。量子型センサは量子効果で赤外線を検出するため狭い波長帯域で高い感度を持ち、熱型は広い波長帯域で低い感度を持つのが特徴である。量子型は半導体の種類で感度波長が決められ、シリコンのように安価に購入できるものは実用感度波長が可視光外(0.8μm)から1μm以下のため、検出温度の範囲が300℃以上となる。一方熱型は量子型に比べ、可視光から20μm以下の広い波長帯域で均一の低い感度を持つ(原理的には波長依存性を持たない)。このため、センサへの赤外線受光面の前に光学フィルタを設け、検出温度範囲波長を狭めて外乱を防ぐ。
【0073】
本実施例では、調理温度範囲が100から300℃であるため、赤外線センサとして熱型であるサーモパイルを用いる。同じ熱型の焦電素子は微分型のセンサであるため、赤外線入射を断続する必要があり、普通機械的なチョッパ機構が使われる。このため、信頼性の点で誘導加熱調理器のような家電品に用いるのは不向きである。一方サーモパイルはこのような機構を必要とせず、また、近年MEMS等の技術により半導体プロセスを用い構成する熱電対を微小化し多数堆積(パイリング)して感度を向上させたものが安価に供給されている。
【0074】
近年多くの体温計に用いられるサーモパイルの光学フィルタとしては、透過波長が1〜15μmのものが使われる。これはウィーンの変移則から人体の赤外線放射エネルギーのピーク波長が約10μm(体温36℃)であり、上記光学フィルタを用いるのが最適なためである。
【0075】
この光学フィルタを有するサーモパイルを用いて、トッププレート2を通して調理鍋の温度(25〜300℃)を非接触で計測しようとすると、前述したようにサーモパイルに到達する赤外線エネルギーは約1/100に減衰するためとほとんど計測できない。
【0076】
そのため、本実施例の鍋温度検出装置18では、サーモカップル(熱電対)を半導体プロセスで比較的容易に作成できるポリシリコン・アルミニウム金属対とし、これを50ほど堆積したサーモパイル25を用い、その出力を増幅回路で2000倍に増幅し微小な赤外線エネルギーを検出できるようにしている。
【0077】
サーモカップルで物体の温度を計測する場合には、冷接点を氷点(0℃)に固定して測温接点を物体に接触させて計測する。サーモパイル25は図10で説明したように、サーモカップルが多数堆積されたものであり、入射赤外線で加熱される多数の測温接点とシリコン基材38上にある多数の冷接点で構成される。そして、冷接点は金属ケース25−3の金属ステム25−2にボンドで固定されるため、熱的にはサーモパイル25の金属ケース25−3(金属キャン25−1と金属ステム25−2)が冷接点となっている。そして、この金属ケース25−3は通常のサーモカップルのように氷点に固定することができない。
【0078】
仮に、一つのサーモカップルの熱起電力が5μV/℃、パイル数50,直流増幅器の増幅度を2000とすると、金属ケース37の温度が1℃変化すると、直流増幅器の出力では500mVの電圧変動になる。つまり、サーモパイル25周囲の温度変動を押さえることが必要になる。
【0079】
本実施例の鍋温度検出装置18は、加熱調理中の鍋底高温部を検出可能にするために、分割された加熱コイル7が発生する高周波磁界の磁束密度が最も強いコイル間隙7c直下に配置される。この位置は、加熱コイル7の下に放射状に配置される棒状フェライト11の間であり、磁束はほとんどフェライト中を通過するため漏れ磁束の少ない場所ではある。しかし、加熱コイル7下面からの距離は20mm程度であるため漏れ磁束は大きく、ここに位置する金属を誘導加熱しその温度を上昇させる。例えば、3kWの高周波電力を加熱コイルに入力してトッププレート2上に載置される調理容器である鍋を誘導加熱する場合には、この場所にある磁性体の鋼板では約30℃も温度上昇する。非磁性体のアルミニウムでも約5℃も温度上昇する。
【0080】
調理中、誘導加熱される鍋底は100〜300℃の高温になる。そして、トッププレート2および下面の加熱コイル7も鍋底からの熱伝導,熱輻射で高温となる。
【0081】
さらに、加熱コイル7には十数アンペアの高周波電流を流すためコイル自身もジュール発熱する。これらトッププレート2,加熱コイル7を冷却するため、コイル冷却風路15a,15bには外気が導入され、前述のように加熱コイル7に風を当てて冷却する。
【0082】
また、鍋温度検出装置18の配置される下には加熱コイルに高周波電力を供給するインバータ回路8が冷却風路17a,17b中に配置される。このインバータ回路は20〜90kHz,十数アンペアの電流をスイッチングする回路から構成される。このため、大きな電磁波を輻射することになる。
【0083】
このように、鍋温度検出装置18、特に、内蔵されるサーモパイル25は、(1)加熱コイル7からの漏れ磁束、(2)コイル冷却のための冷却風による温度変化、(3)インバータ回路から輻射される電磁波ノイズ、に晒されることになる。これら外乱に対応して、鍋温度検出装置18は加熱調理中の鍋底高温部を検出しなければならない。
【0084】
前述したサーモパイル温度検出回路72の動作説明のごとく、サーモパイル25の出力が雰囲気温度で変化しないように、内蔵のNTCサーミスタ25−11を用いて回路的に温度補償をしている。しかし、NTCサーミスタ25−11はセラミックチップの上に薄膜で形成され、これを金属ステム25−2にボンド等で固定されているため、熱的には冷接点と等価である金属ステム25−2すなわち金属ケース25−3の温度変化に追従しにくく、時間遅れが生じる。また、温度抵抗特性の非線形性のため広い温度範囲で正確に温度補償するのが難しい。これらの点でサーモパイル25の周囲温度変化に即応して前述回路で十分な温度補償を行うのは難しい。具体的には1℃/数10分程度の温度変化には対応できるが、1℃/1分程度の温度変化に追従させるのは困難である。前述したように、誘導加熱調理開始と同時に加熱コイル7を冷却するため外気が導入される。前の調理である程度、鍋温度検出装置18と周囲の雰囲気温度が上昇していた場合には、このとき鍋温度検出装置18は急速に(1℃/1分以上で)冷却されることになる。
【0085】
サーモパイル25が内蔵される鍋温度検出装置18はなるべく一定温度雰囲気におくのが望ましい。このため、本実施例では、外気が導入されるコイル冷却風路15a内に鍋温度検出装置18を設置し調理中には外気でサーモパイル25とサーモパイル温度検出回路72を冷却しこれらの温度上昇を防止している。また、コイル冷却風路15a内の気流がサーモパイル25の金属ケース25−2およびサーモパイル温度検出回路72の半導体,抵抗等に直接当たり熱ゆらぎを起こすのを防ぐため、防風ケースである赤外線センサケース29でこれを覆っている。また、サーモパイル25とサーモパイル温度検出回路72は赤外線センサケース29内の空気で空気断熱されることにもなる。温度変化に対して安定にサーモパイル25の出力を直流増幅した後低い出力インピーダンスの信号電圧として、後述するマイクロコンピュータ60のAD端子に出力している。
【0086】
さらに、この赤外線センサケース29をアルミニウム等の透磁率がほぼ1である金属ケース32で覆い、加熱コイルが発生する交流磁場を遮蔽することでサーモパイル25の金属ケース37が加熱コイル7の発生する高周波交流磁界で誘導加熱され温度上昇しないようにしている。また、この金属ケース32は、鍋温度検出装置18の下部に配置されるインバータ回路からのパルス雑音(放射電磁波)に対しての電磁シールドにもなっている。
【0087】
この金属ケース32は、加熱調理中には周囲雰囲気温度および加熱コイル7からの漏れ磁束で誘導加熱され、アルミニウムの場合5〜10℃温度上昇する。この温度上昇がおさまる前に続けて調理を行う場合、外気を急速に導入して金属ケース32に当てると金属ケース32が急速に冷え、結果赤外線センサケース29内のサーモパイル25の周囲温度が急に低下することになる。この逆の場合、例えば、冬朝一番に調理を行う場合、機体内の金属ケース32は夜十分に冷却され5℃程度にあり、使用者が20℃に暖房された調理室で調理を開始した場合には、この暖気が冷却風路15aに導入され、20℃の暖気が5℃の金属ケース32に当てられることになる。本実施例では、このような外気による金属ケース32の急激な温度変化を防止するために、この金属ケース32を更にプラスチックの外側赤外線センサケース33で覆っている。これで金属ケース32に直接冷却風をあてずに風による温度急変を防止している。
【0088】
さて、トッププレート2は誘導加熱された調理鍋6から赤外線放射を吸収することおよび接触熱伝導とで加熱される。図8で実線に示すように、トッププレート2は0.2μm〜2.9μmの波長の光を80%以上透過し、3〜4.5μmの波長の光を30%程度透過し、4.5μmよりも長い波長、及び、0.2μmよりも短い波長の光をほとんど透過しない。
【0089】
放射エネルギーが物質表面に入射すると、その一部ρは反射され、一部αは吸収され、残りτは透過する。これらの量の間には、エネルギー保存則からρ+α+τ=1が成立する。トッププレート2上に調理鍋6が置かれた状態では、調理鍋6の赤外線放射エネルギーのトッププレート2での反射はほとんどゼロとみなせるため、トッププレート2では吸収率α+透過率τ=1が成立していると見てよい。キルヒホフの法則より吸収率α=放射率εであるため、トッププレート2は調理鍋6からの赤外線放射エネルギーのうち、0.2μm〜2.9μmの波長では80%以上透過し、残り20%を吸収しこれを放射する。また、3〜4.5μmの波長では30%程度透過し、残り70%を吸収しこれを放射する。4.5μmよりも長い波長、及び、0.2μmよりも短い波長ではほとんど透過せず、すべてを吸収してこれを放射する。熱伝導で加熱された分も同様である。波長4.5μm以上では熱伝導加温の赤外線エネルギーはほとんどトッププレート2表面から放射される。
【0090】
このため、サーモパイル25を使用して、トッププレート2上の調理鍋6の温度を検出する場合にはトッププレート2自身の加熱が放射する赤外線が問題となる。例えば、サーモパイル25に付属するガラス凸レンズ25−14の透過波長が1〜15μmであれば、トッププレート2が放射する4.5μmよりも長い波長の赤外線によってサーモパイル25の出力が大きく影響を受け、トッププレート2上の調理鍋底の温度を正確に検出できないことになる。トッププレート2を透過する鍋の放射赤外線エネルギーは1μm〜2.9μmの約2μmの帯域、これに対しトッププレート2自身が放射する赤外線エネルギーは4.5μm〜15μmの約10μmの帯域であり、同じ温度であればサーモパイル出力のうち、調理鍋6の温度による分の5倍がトッププレート2の温度によることになる。
【0091】
本実施例では、上記を防止するためサーモパイル25で構成される鍋温度検出装置18の赤外線センサケース29に、赤外線を透過させるためのケース窓30を開け、このケース窓30にトッププレート2を構成する結晶化ガラスを薄く正方形に切り出したものを結晶化ガラス光学フィルタ31として嵌め込んである。そして、サーモパイル25に入射する赤外線の内トッププレート2が放射する分を除去する。トッププレートが放射する波長2.9μm以上の部分はトッププレート2と同じ透過特性を持つ結晶化ガラス光学フィルタ31の光学特性によってサーモパイル25への入射が阻止される。
【0092】
結晶化ガラス光学フィルタ31をトッププレート以外の材料で作成しても良いが、図8で実線に示すような急峻な特性を示す光学フィルタを作成するのは非常に困難で高価なものになる。
【0093】
また、結晶化ガラス光学フィルタ31は、その下に配置されるサーモパイル25や赤外線投光器35,赤外線反射受光器36等がトッププレート2の赤外線透過窓5から見えなくする効果をもたせている。前述したように(図8の破線で示すように)1μm以上の長波長側の光学特性はトッププレート2とほぼ同じだが、短波長側でトッププレートに比べて透過率小の領域が400nmほどあり、この部分の可視光がカットされるため目には赤黒く見え、下に配置される部品を見えなくしている。
【0094】
前述したように赤外線投光器35を構成する赤外線LED50の発光波長及び赤外線反射受光器36を構成する赤外線フォトトランジスタ54の分光感度波長を700nmから1μmの近赤外領域にしているのは、上記鍋の放射赤外線エネルギーは1μm〜2.9μmの約2μmの帯域をはずし、且つトッププレート及び結晶化ガラス光学フィルタ31の透過する波長領域から決めている。
【0095】
更に、サーモパイル25のガラス凸レンズ25−14として波長5μm以上を透過させない5μmショートパスフィルタを有するガラス(図8に薄線で示す)を用いている。これは周囲温度で暖められる結晶化ガラス光学フィルタ31自身および赤外線センサケース29が放射する赤外線をも波長5μm以上は透過させないようにするためである。というのは先に述べたように鍋から放射される1〜2.9μmの赤外線エネルギーはトッププレートで通過を制限されているため非常に微小であり、サーモパイル25の出力増幅を大きくせざるを得ないため周囲温度での5μm以上の赤外線放射に敏感であり、徹底的に鍋底以外からの4.5μm以上の赤外線がサーモパイルの赤外線吸収膜25−9に入射するのを防止する必要があるためである。
【0096】
なお、このガラス凸レンズ25−14をトッププレート2や結晶化ガラス光学フィルタ31と同じ結晶化ガラスで作成してもよい。こうすれば前述した理由で結晶化ガラス光学フィルタ31の温度による赤外線放射をよりよく遮断することができるので好適である。
【0097】
図19に鍋底として黒体を図3の実施例の赤外線透過窓5に置いた場合の、黒体温度Tnとサーモパイル温度検出回路72出力端子72−2の出力電圧Vの関係を示す。黒体はトッププレートが加熱されない程度の短時間戴置した場合であり、センサ視野筒19,結晶化ガラス光学フィルタ31の温度上昇もない。
【0098】
常温から100℃まではほぼ0.5Vであり、100℃を越えると温度に比例した電圧が出力される。0.5Vはサーモパイル温度検出回路72の電源電圧(5V)を抵抗72−5,72−6,72−7で分圧した電圧(図13中a点で示す)0.5Vがオペアンプ72−1のバイアス電圧として与えてあるためである。100℃を越えるとサーモパイル25の出力電圧が大きくなり、オペアンプ72−1で約2000倍に増幅されて0.5V以上の電圧として観測される。このバイアス電圧はサーモパイル温度検出回路72の故障検出用に与えてある。出力端子72−2の出力電圧値からこの0.5Vを引いた値(0.5Vからの電圧上昇値)が検出した鍋底面温度に比例したものである。マイクロコンピュータ60はサーモパイル温度検出回路72出力端子72−2の出力電圧をAD変換して読み込むが、この電圧から0.5Vを引いた値である鍋温度検出電圧Vt(=V−0.5)をもとに後述処理を行い鍋温度を得る。図19の関係は予めマイクロコンピュータ60のROMにテーブルデータ(鍋温度変換TBL)として記憶しておく。
【0099】
図20にトッププレート2のみを加熱したときのトッププレート温度Ttとサーモパイル温度検出回路72出力端子72−2の出力電圧Vの関係を示す。但し前述の0.5Vを引いた値で示してある。鍋が置かれていないトッププレート2のセンサ窓5近傍を熱風で加熱した時のトッププレート温度Ttとサーモパイル温度検出回路72出力端子72−2の出力電圧の関係を示す。このとき、センサ視野筒19,結晶化ガラス光学フィルタ31が加熱されないようにする。図20の関係は予めマイクロコンピュータ60のROMにテーブルデータ(トッププレートTBL)として記憶しておく。
【0100】
実際の調理で鍋を誘導加熱した場合には、サーモパイルには誘導加熱された鍋からの放射赤外線のほかに、トッププレート2自体からの放射赤外線も入射される。これはトッププレート自体も鍋からの熱放射,熱伝導のため加熱されこの温度での赤外線を放射するためである。このため、図20のデータテーブルをもたせ、サーミスタ20でトッププレート2の温度を検出して、この放射分を差し引くことが必要となる。前述したように鍋温度検出でこのトッププレート2温度による赤外線放射の影響を結晶化ガラス光学フィルタ31で除去低減することを述べたが、2.9から4.9μmの波長範囲ではトッププレート温度の放射分を結晶化ガラス光学フィルタ31で除去できないためである。
【0101】
鍋温度検出装置18に内蔵される赤外線投光器35,赤外線反射受光器36を図12に示すように配置するとトッププレート2上に調理鍋がない場合、赤外線LED50の放射した赤外光(波長930nm)は大部分が結晶化ガラス光学フィルタ31およびトッププレート2を透過し赤外線フォトトランジスタ54には戻ってこない。しかし、一部は結晶化ガラス光学フィルタ31およびトッププレート2で反射される。これは結晶化ガラス光学フィルタ31およびトッププレート2の透過率が波長930nmで85%および90%であり、残り15%および10%の赤外光は反射されるためである。特に、結晶化ガラス光学フィルタ31で反射される分は赤外線LED50の同軸上にある赤外線フォトトランジスタ54に直接戻るため、本実施例では図12に示すように、投光器遮光壁52,受光器遮光壁55上面を結晶化ガラス光学フィルタ31下面に接するように配置してこの反射光が赤外線フォトトランジスタ54に入射するのを防止している。
【0102】
このため、図19に示すように反射率検出回路73の出力は、トッププレート上に鍋がある場合(a)V1となり、鍋がない場合(b)V2となる。正味の鍋での反射電圧VrはVr=V2−V1となる。
【0103】
鍋温度検出装置18を図3に示すように配置し、内蔵する反射率検出回路73を用いて、トッププレート2上に反射率が既知の金属板を配置したときの反射率検出回路73の出力から得られる先の反射電圧Vrと反射率の関係を図21に示す。図中に近似線も示す。この関係を用いれば、反射率検出回路73の出力電圧から反射率が得られる。そして、この関係をテーブルデータにあるいは近似式の係数値をあらかじめマイクロコンピュータ60のROMに記憶しておく。
【0104】
調理鍋のような金属物質ではキルヒホフの法則により温度Tの物質表面から放射される赤外線エネルギー(E=εσT4)の放射率εと表面の反射率ρの間にはε+ρ=1の関係が成立する。(透過率α=0とする)調理鍋では放射率の違いにより同じ鍋底温度でありながら、放射される赤外線エネルギーが異なる。このため、サーモパイル出力すなわち鍋温度検出装置18の出力が異なるという問題が生じる。そこで調理鍋底の反射率を検出して放射率を求め鍋温度検出装置18の出力を補正してから温度に換算する必要がある。これを行うために先に説明した反射率に相当する量である反射電圧Vrを求め、これから反射率を得るのが反射率検出回路73である。この反射率を1から引いて放射率を得る。
【0105】
図22にトッププレート2に置かれた数種の鍋について、鍋温度検出装置18の出力(サーモパイル温度検出回路72の出力V)から前述した0.5Vのオフセット電圧Voを引いた値Vt(鍋温度検出電圧)と鍋底面温度Tとの関係の一例を示す。図中に各鍋底面の放射率も示す。図22に示すように放射率によって鍋温度検出装置18の出力と鍋底温度の関係が異なることがわかる。図22の(a)で示す鍋は放射率が0.9と黒体に近い。(b)は放射率が0.57、(c)は0.43、(d)は0.24である。(b),(c),(d)の電圧値を放射率で除算すると、図中に破線で示すものとなり、ほぼ1本の曲線に集約することが分かる。各出力Vtは各鍋の全放射エネルギー(E′=εσT4)に比例し、これを放射率で除算するのは、前述したように黒体の全放射エネルギー(E=σT4)に換算することを意味する。そして、各鍋の放射率が分かれば、各鍋の鍋温度を黒体の放射温度に還元できることを意味している。
【0106】
図23に、各種鍋において放射温度計を用いて計測した放射率と図12(図3)で先の各種鍋をトッププレート2上に置き反射率検出回路73を用いて得た反射率(図21の反射電圧と反射率の関係を適用)の関係を示す。鍋によってキルヒホフの法則(放射率+反射率=1)からはずれるものもあるが、放射率と反射率の間には強い相関がある。キルヒホフの法則から外れるのは反射率の検出において、投光した赤外線の反射赤外線全てを受光していないためである。物理的な正確さを求める場合には被測定対象物に直接レーザービーム等のスポット光を照射し、全反射光を積分球で受光し、照射赤外線エネルギーと全反射赤外線エネルギーの比から反射率を求める必要がある。しかし、本実施例のように赤外線LED50と赤外線フォトトランジスタ54を用い、しかもトッププレート2を通して行う場合にはまず反射する赤外光をすべて受光することはできない。このため、図示するように直線関係(キルヒホフの法則)からずれ、ばらついたものになる。
【0107】
図12(図3)の実施例で、各種鍋の反射電圧Vrと、誘導加熱し鍋温度が200℃に到達した時点のサーモパイル温度検出回路72の出力電圧Vtを観測した。そしてこのデータを、鍋の中で黒体に近い鍋(放射率=0.95)を基準とし、各鍋の出力電圧を何倍すれば基準の鍋の出力に合わせられるかという観点で再構築した。この倍率は図22で説明した放射率分の1(1/ε)に相当する。この倍率を反射補正係数Kとして、反射電圧Vrの関係で示したのが図24である。反射補正係数Kと反射電圧Vrは強い相関があり、図示したようにほぼ直線で近似できる(本来、図23の説明で述べたように直線となるはずである。)。この近似直線を反射補正係数テーブル(TBL)としてマイクロコンピュータ60のROMに記憶しておく。
【0108】
ここで従来の単一素子による反射率検出と本実施例の平行光線投光と反射受光による反射率検出の相違を説明する。図25にこの概略を模式的に示す。単一発光素子および受光素子は直径3mmの砲弾型レンズ付で開口面も直径3mm、放物面反射鏡は10mm正方形、単一受発光素子間隔は1mmとしている。図ではトッププレート2および結晶化ガラス光学フィルタ31は単に赤外光を透過させるものとして省略している。正確にはこれらによる光線の屈折(屈折率=1.45)も考慮する必要があるが、トッププレートの厚さは4mmであり、発光および受光素子までの距離約35mmを考えると、入射角は数度のためガラス内を光線は直進し鍋面で反射すると考えてよい。結晶化ガラス光学フィルタ31は受光素子に近接させ、発光光線が受光素子に入射しないように投光器遮光壁52,受光器遮光壁55を設けているため単に光線は通過するだけと考えてよい。
【0109】
図25に示すように発光光線(太線)は鍋底で反射し反射光線(細線)は受光素子で受光される。鍋での反射光線には入射角=反射角で鏡面反射する直反射光と入射角≠反射角の散乱光がある。実際の鍋では散乱光が支配的となる。図において鍋面上に斜線で示す面積は鍋面で反射し受光される光線の分布を示す。従来、単一素子の場合、受光できるのは受光左側の狭い範囲に限定される。本実施例の場合、単一素子での1本の鍋底に垂直な発光光線が、放物面反射鏡全面の複数発光光線となって鍋に垂直に投光され、この散乱反射の多くが受光される。完全に平行光線であれば直反射光は受光されないが、前述したように発光が点光源でないため平行光線でないものも多く存在する。このため、受光周辺では直反射光も受光される。実験によれば同一発光強度のLED、同一感度の受光素子を用いたとき、従来、単一素子の場合には1mm2以下の面積の反射光しか受光されないのに対し、本実施例では16mm2もの面積の反射光を受光できた。
【0110】
このように反射率を求める際には、赤外線LED50の投光光線をトッププレート2になるべく垂直に入射させ、ここに置かれる鍋での反射光のすべて(主に散乱光を)を赤外線フォトトランジスタ54に導くのが望ましい。つまり本実施例のように、放物面反射鏡51の焦点に赤外線LED50を配置し、平行光(トッププレート2に対しては垂直光)を投光すれば良い。こうすればより広い面積での平均的な反射率を検出することができる。
【0111】
図26に、図24と同様に反射電圧Vrと反射補正係数K(1/放射率)の関係を2種類の鍋について鍋底の位置を8か所かえて観測した例を単一素子と本実施例の反射率検出回路について示す。単一素子の場合、同一鍋でも場所により反射電圧Vrは大きくばらつく。一方本実施例の場合、検出場所が変わってもほぼ同一の反射電圧である。単一素子の場合狭い範囲の反射であり、その範囲での鍋底の状態に大きく影響される。たまたまそこに汚れがあれば反射電圧が大きく他の場所と異なる。本実施例では広い範囲で平均的な反射率を検出することになるので部分的な汚れ,傷,模様などに検出反射率が影響されることが少ない。
【0112】
また、本実施例では鍋温度検出装置18内のサーモパイル25のトッププレート2上位置での視野面とこの反射率検出発光のトッププレート2上での反射面はほぼ同一面である。このため、図12に示すように鍋温度検出装置18内にサーモパイル25と赤外線投光器35,赤外線反射受光器36を並べて配置している。このため、反射補正係数と反射率の乖離(バラツキ)も少ない。
【0113】
解析では反射補正係数Kが0.1異なると温度検出では4℃の誤差になる。単一素子の場合図26のB鍋では反射補正係数が1異なる場合があるため温度検出では40℃の誤差となる。
【0114】
以上、本実施例では鍋の材質,鍋底の形状,汚れの強弱によらず平均的で正確な反射率の検出が可能となり、これでサーモパイル出力を補正することでどんな鍋でも正確な鍋温度検出が可能となる。
【0115】
以下では、本実施例の動作について、手前右側の円表示4に調理鍋6を置き、所定温度で所定時間調理鍋を加熱して調理を行う場合として説明する。図27にこの動作のフローチャートを示す。図示していない電源を投入し、調理鍋6を置いた誘導加熱口の操作スイッチで所定の温度および調理時間を設定し(ステップS1)調理開始を指示すると(ステップS2)、マイクロコンピュータ60はまず反射率検出回路73を制御して載置された鍋の反射データ(反射率に相当)を取り込み反射率を検出する(ステップS3)。同時に加熱コイル7およびインバータ回路8等を冷却するため、図示しないファンを駆動して冷却風路15a,15bおよび16a,16bに外気を導入する。
【0116】
反射率を検出するステップS3を図28に示すフローチャートを用いて詳細に説明する。マイクロコンピュータ60は反射率検出回路73の端子73−2にポートから図12(a)の赤外線LED駆動信号を出力する(ステップS3−1)。所定時間(例えば200ms)出力した後(ステップS3−2)、端子73−8に出力される電圧V2をAD端子より読み込む(ステップS3−3)。そして、赤外線LED駆動信号を停止する(ステップS3−4)。次に予め記憶されている鍋が置かれていない時の電圧V1を先に読み込んだ電圧V2から引き反射電圧Vrを算出する(ステップS3−5)。そして、予め記憶されている反射電圧と反射率の関係から反射率ρを得る(ステップS3−6)。
【0117】
ステップS3に続いて、電力制御回路62,周波数制御回路61,インバータ回路8を制御して加熱コイル7に電力を供給し誘導加熱を開始する(ステップS4)。加熱コイル7に電力が供給されると、加熱コイル7から誘導磁界が発せられ、トッププレート2上の調理鍋6が誘導加熱される。この誘導加熱によって調理鍋6の温度が上昇し、調理鍋6内の被加熱物の調理が開始される。マイクロコンピュータ60は誘導加熱を開始すると、一定時毎に鍋温度検出装置18の出力を読み込み、鍋温度を検出する(ステップS5)。
【0118】
ここで、鍋温度検出動作(ステップS5)を詳細に説明する。図29に鍋温度検出のフローチャートを示す。マイクロコンピュータ60は鍋温度検出装置18(サーモパイル温度検出回路72)の出力電圧Vを読み込み(ステップS5−1)、この値から0.5Vを引きこれを鍋温度検出電圧Vtとする(ステップS5−2)。
【0119】
同時にサーミスタ20とサーミスタ温度検出回路75からトッププレート2の温度を読み込む(ステップS5−3)。そして、予めトッププレートテーブル(テーブルをTBLと略記する)として記憶してあるトッププレート温度Ttとサーモパイル温度検出回路72の出力の関係から、トッププレート2の温度T1aでの赤外線量電圧Vaを得る。(ステップS5−4)。続いて、先の鍋温度検出電圧Vtから前記Vaを減算する(ステップS5−5)。この処理により前述した外乱としてのトッププレート2からの赤外線量を除去する。この減算後の電圧をVtとする。
【0120】
そして、誘導加熱直前に検出した反射率から、放射率(=1−反射率)を得て(ステップS5−6)、この減算後の鍋温度検出電圧Vtを除算する(ステップS5−7)(反射率補正の動作)。除算後のVtに前述V0=0.5Vを加算し、予め温度変換TBLとして記憶してあるVnとTnの関係であるデータテーブルを引いて(ステップS5−8)、鍋温度に変換し鍋温度Tnを出力する(ステップS5−9)。
【0121】
なお、放射率を算出する過程(ステップS5−6)と鍋温度検出電圧Vtを放射率で除算する過程(ステップS5−7)の代わりに、予め倍率a=1/放射率(a=1/ε)の値(1以上の値になる)を反射補正係数Kとして、この反射補正係数Kと反射電圧Vrの関係(図24に直線で示す関係)をテーブルとして記憶し、反射電圧Vrから前記反射補正テーブルで反射補正係数値Kを得て(ステップS−10)、VtにKを乗算したのち(ステップS−11)、VnとTnの関係であるデータテーブル(鍋温度変換TBL)を引いて鍋温度を出力してもよい。こうすれば、マイクロコンピュータの処理時間を要する除算を使用しなくてすみ処理の高速化が図れる。図30にこの場合のフローチャートを示す。
【0122】
続いて、ステップS5で検出した鍋温度Tnが所定の温度に到達したら(ステップS6)、電力制御回路62を制御して加熱コイル7に供給する電流を所定量減少させる(ステップS7)。そして、調理時間タイマーをスタートさせる(ステップS8)。一定時毎の鍋温度検出(ステップS9)を続けながら(ステップS10)、加熱コイル7に供給する電流を所定量減増減させて(ステップS11,S12)、鍋温度を一定(Tc)に保つ。そして、所定の調理時間が経過したら(ステップS13)、調理終了をブザーで使用者に報知して、加熱コイル7への電力投入を停止する(ステップS14)。こうして、調理鍋6の被調理物は設定された温度および時間で調理される。
【0123】
以上の説明では反射率検出を誘導加熱直前に1度だけ行う例を示したがこれに限ることはない。通常の鍋では誘導加熱中(温度が高温になっても)反射率は変化しない。また、赤外線発光LEDでは長時間連続発光において寿命の問題がある。本説明ではこれらの点を考慮して1調理につき誘導加熱直前の1回の反射率検出に限定した。当然、発光電流を低減して調理中に一定周期で反射率検出を行っても良い。特に、薄手の鍋では高温による鍋底変形で反射率が変化することもある。さらに、色塗装を底面に施した鍋では、高温で塗装が変性し反射率が変化することもある。この場合には加熱中でも定期的に反射率検出を行うのが望ましい。この場合当然磁場の影響を避けるために、実施例のように非磁性金属体で赤外線投光器35,赤外線反射受光器36および反射率検出回路73を囲うのが望ましい。
【0124】
また、調理中に鍋を動かす(浮かす)場合もある。この時赤外線透過窓5上にある鍋底の位置が変化するため反射率(放射率)も変化する。この場合には鍋を動かした(浮かした)時点でサーモパイル温度検出回路72の検出する電圧が急激に変化する。そして、鍋を再び置いた時点でサーモパイル温度検出回路72の検出する電圧はこの時点での鍋底面温度に対応する値に復帰する。この変化を捉え再度反射率の検出するのが望ましい。
【0125】
また、調理中に別の鍋に交換する場合もある。この時反射率は当然変化する。この場合には今ある鍋を退かした時点でサーモパイル温度検出回路72の検出する電圧が急激に低下する。そして、別温度の鍋を置いた時点でサーモパイル温度検出回路72の検出する電圧はこの鍋底面温度に対応する値に復帰する。この変化を捉え再度反射率の検出するのが望ましい。
【実施例2】
【0126】
図31に実施例2の赤外線投光器35と赤外線反射受光器36を示す。実施例1と同等の構成・動作については同一符号を付し、説明を省略する。本実施例は、赤外線LED50と放物面反射鏡51で構成される赤外線投光器35を市販の反射型赤外線LED57に変えたものである。反射型赤外線LEDとしては、例えば、赤外線カメラ用長距離投光器に使われるものがある。図32にこの概略構成を示す。リードフレーム57−1に搭載した赤外線発光LEDチップ57−4を、これが焦点に位置する下面に放物面反射鏡57−5を持つエポキシ樹脂57−2内に封止し、赤外線発光LEDチップ57−4の発光を放物面反射鏡57−5で反射させ、ほぼ平行光線の赤外線を放射面57−3から投光するものである。赤外線反射受光器36は実施例1と同様に小基板53上に受光器遮光壁55を持つ赤外線フォトトランジスタ54を設け投光器遮光壁52にはめ込んでいる。
【0127】
本実施例では、市販の反射型赤外線LEDを使用できるので、実施例1の構成に比べ、低コストを実現することができる。
【実施例3】
【0128】
図33に実施例3の赤外線投光器35と赤外線反射受光器36を示す。実施例1と同等の構成・動作については同一符号を付し、説明を省略する。実施例1の図7では、放物面反射鏡51上に配置される小基板53のパターン部が投光赤外線を遮光する。例えば、放物面反射鏡51が1辺10mmの正方形であり、小基板53が直径3mmの砲弾型レンズを持つ赤外線フォトトランジスタ54を搭載するため4mm×10mmの長方形基板とすると、100mm2の投光面積の内実に40%(40mm2)を遮光することになる。この遮光部を削減するため、本実施例では、小基板53を赤外線フォトトランジスタ54と赤外線LED50を固定する大きさのみに縮減(4mm×4mmの正方形として16%の遮光となる)し、小基板53から赤外線LED50用に断面0.5mm×0.5mm正方形の2本の赤外線LEDリードフレーム50−1と赤外線フォトトランジスタ54用に同様のリードフレーム2本54−1の計4本を立て、これを放物面反射鏡51の貫通穴51−1に通して電子回路基板27に接続するようにしている。
【0129】
本実施例では、遮光を少なくできるので、実施例1の構成に比べ、より多くの受光量を得ることができ、より正確に鍋温度を検出することができる。
【実施例4】
【0130】
図34に実施例4の赤外線投光器35と赤外線反射受光器36を示す。実施例1と同等の構成・動作については同一符号を付し、説明を省略する。実施例1では赤外線LED50と赤外線フォトトランジスタ54を小基板53に実装しているが、本実施例ではこれらを電子回路基板27の両面に実装している。また、放物面反射鏡51も放物面反射鏡の片側半分を電子回路基板27にその焦点が赤外線LED50となるように固定している。この赤外線LED50はいわゆるサイドビュータイプと呼ばれるもので図に示すように横に赤外線を放射するタイプである。
【0131】
本実施例の構成では、小基板53をなくすことができ赤外線投光器35と赤外線反射受光器36をより安価に提供できる。
【0132】
なお、実施例1においてもこのように赤外線LED50と赤外線フォトトランジスタ54を電子回路基板27に実装し、放物面反射鏡51を電子回路基板27の下にはめ込んでもよいのは明らかである。
【実施例5】
【0133】
図35に実施例5の赤外線投光器35と赤外線反射受光器36を示す。実施例1と同等の構成・動作については同一符号を付し、説明を省略する。赤外線平行光を投光器遮光壁52にはめ込んだ投光器凸レンズ56とその焦点に配置した赤外線LED50で作成する。周知のように凸レンズの焦点に点光源を配置すればレンズを透過した光は平行光となる。これを応用して赤外線平行光を作成する。
【0134】
本実施例では、赤外線LED50と赤外線フォトトランジスタ54を同一の基板の両面に実装する必要はなく、別個の基板に実装するので、作業効率を高めることができる。
【実施例6】
【0135】
図36に実施例6の制御ブロックズを示す。実施例6は、赤外線反射受光器36の赤外線フォトトランジスタ54を照度検出にも流用し、トッププレート2上に鍋が置かれているか否かの検出を行う機能を持たせた誘導加熱調理器である。また、図37に実施例6の反射率検出回路73と照度検出回路74の詳細を示す。これらの機能はトッププレート2上の赤外線透過窓5を通過してくる照明あるいは太陽光などの可視光を検出することで(1)調理鍋6が正しく円4上に置かれ、(2)誘導加熱でき、かつ(3)鍋温度検出装置18のサーモパイル25で鍋底温度を検出ができ、安全正確に調理温度制御できることを確認し、使用者の利便性,安全性を確保するものである。
【0136】
図8の光学特性から可視光(波長500〜700nmの光)はトッププレート2および結晶化ガラス光学フィルタ31を透過して赤外線フォトトランジスタ54に受光される。図9の赤外線フォトトランジスタ54の感度特性から、この可視光に対して赤外線フォトトランジスタ54は感度をもつため光電流が流れ、反射率検出回路73内の抵抗73−3に直流電圧が発生する。この電圧を取り出して増幅し出力するのが照度検出回路74である。この電圧はOPアンプ74−1に入力され、高利得(抵抗74−2と74−3の比)で増幅され、端子74−6に出力される。そしてマイクロコンピュータ60のAD端子で読み込まれる。出力電圧が2個のダイオード74−5の順方向電圧を越えると前記利得は抵抗74−2と抵抗74−3,74−4の並列抵抗値の比に低減される。これは、高照度の場合に出力が5Vに飽和するのを防止するためである。図38にこの照度検出回路74の出力特性を示す。横軸照度は赤外線透過窓5横での照度である。同図に赤外線透過窓5を鍋で塞いだ場合の出力も示している。この鍋が赤外線透過窓5を塞いでいるかいないかの差を用いて、(1)調理鍋6が正しく円4上に置かれ(赤外線透過窓5の上に鍋が在るか否か)、(2)誘導加熱でき、かつ(3)鍋温度検出装置18のサーモパイル25で鍋底温度の検出が可能かどうかの判断が行える。但し、反射率検出のタイミングでは、つまり赤外線LED50を発光させているタイミングでは、このLEDの発光強度が照明,太陽光より強いため照度検出は妨害を受ける。このため、反射率検出と照度検出は排他的利用となる。
【0137】
図39に、照度検出回路74を用いて赤外線透過窓5の上に鍋が在るか否かの判断を行い、調理鍋を誘導加熱する場合の制御フローを示す。これは、実施例1の図27のフローに鍋有無判断を入れたものである。
【0138】
調理開始に照度検出回路74の出力を読み込み(ステップSS−1)、この値が予め決めたしきい値より大かどうで鍋有無を判断し(ステップSS−2)、鍋がなければブザーあるいは音声で「鍋が正しく置かれていないため、加熱を停止します。」などの警告を行い(ステップSS−3)、スタートキー押し(ステップS−2)検出に戻る。鍋が正しく置かれていれば、つぎのステップである反射率検出に移行する。以降の動作処理は第1実施例と同様なため説明を省略する。なお、照度検出は反射率検出時以外で可能なため、調理中常に赤外線透過窓5上での鍋有無検出を行っても良いのは明らかである。
【0139】
以上説明した誘導加熱調理器によれば、調理温度150から300℃の広い温度範囲において、鍋の材質,鍋底の形状,汚れの強弱によらず調理鍋6の加熱最高温度を正確に安定して検出でき、適切に加熱コイルへの高周波電力を制御することで最適な調理が可能となる。
【符号の説明】
【0140】
1 誘導加熱調理器の本体
2 トッププレート
5 赤外線透過窓
6 調理鍋
7 加熱コイル
8 インバータ回路
10 コイルベース
15 コイル冷却風路
18 鍋温度検出装置
19 センサ視野筒
20 サーミスタ
25 サーモパイル
25−14 ガラス凸レンズ
26 ヒートシンク
27 電子回路基板
29 赤外線センサケース
30 ケース窓
31 結晶化ガラス光学フィルタ
32 金属ケース
33 外側赤外線センサケース
35 赤外線投光器
36 赤外線反射受光器
50 赤外線LED
50−1 赤外線LEDリードフレーム
51 放物面反射鏡
51−1 放物面反射鏡貫通穴
52 投光器遮光壁
53 小基板
54 赤外線フォトトランジスタ
54−1 赤外線フォトトランジスタリードフレーム
55 受光器遮光壁
56 投光器凸レンズ
57 反射型赤外線LED
60 マイクロコンピュータ
61 周波数制御回路
62 電力制御回路
70 ブザー
72 サーモパイル温度検出回路
73 反射率検出回路
74 照度検出回路
75 サーミスタ温度検出回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
調理容器を上面に置く結晶化ガラスからなるトッププレートと、
該トッププレートの下に設けられ、前記調理容器を加熱するために誘導磁界を発生させる加熱コイルと、
該加熱コイルの下に設けられ、前記トッププレートに概垂直な赤外線平行光線束を投光する赤外線投光手段と、
該加熱コイルの下に設けられ、前記赤外線投光手段が投光し、前記調理容器で反射される赤外線光線を受光する受光手段を備える誘導加熱調理器。
【請求項2】
請求項1に記載の誘導加熱調理器において、
前記受光手段を前記赤外線平行光線束内に備える誘導加熱調理器。
【請求項3】
請求項1に記載の誘導加熱調理器において、
前記赤外線投光手段が放物面鏡とその焦点に配置される赤外線発光手段から構成さる誘導加熱調理器。
【請求項4】
請求項1に記載の誘導加熱調理器において、前記投光手段の横に前記調理容器から放射される赤外線を検出する赤外線検出手段を備える誘導加熱調理器。
【請求項5】
請求項1に記載の誘導加熱調理器において、前記調理容器から放射される赤外線及び前記赤外線平行光線束を導光する導光筒を前記加熱コイル内に備える誘導加熱調理器。
【請求項6】
請求項4に記載の誘導加熱調理器において、前記赤外線検出手段の出力を前記受光手段の出力により補正する赤外線出力補正手段を備える誘導加熱調理器。
【請求項7】
調理容器を上面に置く結晶化ガラスからなるトッププレートと、
該トッププレートの下に設けられ、前記調理容器を加熱するために誘導磁界を発生させる加熱コイルと、
前記加熱コイルの支持部に設けられ、前記加熱コイルから放射される赤外線を遮断し、前記調理容器から放射される赤外線を前記赤外線検出手段に導く導光筒と、
該加熱コイルの下に設けられ、前記調理容器から放射される赤外線を検出する赤外線検出手段と、
該赤外線検出手段の横に設けられ、前記導光筒を通して前記トッププレートに概垂直な赤外線平行光線束を投光する赤外線投光手段と、
該赤外線投光手段が投光し、前記調理容器で反射される赤外線光線を受光する受光手段を備えることを特徴とする誘導加熱調理器。
【請求項8】
請求項7に記載の誘導加熱調理器において、
前記加熱コイルへ高周波電力を供給する高周波電力供給手段と、
該高周波電力供給手段の出力電力を制御する電力制御手段と、
前記赤外線検出手段の出力を前記受光手段の出力により補正する赤外線出力補正手段と、
該赤外線出力補正手段の出力により前記調理容器の底面の温度を検出する調理容器温度検出手段を備え、
該調理容器温度検出手段の出力に基づいて前記加熱コイルへの供給電力を制御することを特徴とする誘導加熱調理器。
【請求項9】
調理容器を上面に置く結晶化ガラスからなるトッププレートと、
該トッププレートの下に設けられ、前記調理容器を加熱するために誘導磁界を発生させる加熱コイルと、
該加熱コイルの支持部に設けられ、該加熱コイルから放射される赤外線を遮断し、前記調理容器から放射される赤外線を前記赤外線検出手段に導く導光筒と、
前記加熱コイルの下に設けられ、前記調理容器から放射される赤外線を検出する赤外線検出手段と、
該赤外線検出手段の横に設けられ、前記導光筒を通して前記トッププレートに概垂直な赤外線平行光線束を投光する赤外線投光手段と、
該赤外線投光手段が投光し、前記調理容器で反射される赤外線光線を受光する受光手段と、
該受光手段の出力で前記導光筒を通過する可視光を検出する可視光検出手段を備えることを特徴とする誘導加熱調理器。
【請求項10】
請求項9に記載の誘導加熱調理器において、
前記加熱コイルへ高周波電力を供給する高周波電力供給手段と、
該高周波電力供給手段の出力電力を制御する電力制御手段とを備え、
前記可視光検出手段の出力に基づいて前記加熱コイルへの供給電力を制御することを特徴とする誘導加熱調理器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【公開番号】特開2013−4328(P2013−4328A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134761(P2011−134761)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(399048917)日立アプライアンス株式会社 (3,043)
【Fターム(参考)】