説明

誘電体セラミックおよび積層セラミックコンデンサ

【課題】誘電体セラミック層が薄層化されても、信頼性、特に負荷試験における寿命特性に優れた、積層セラミックコンデンサを実現できる、誘電体セラミックを提供する。
【解決手段】主成分が(Ba,R)(Ti,Mn)O系または(Ba,Ca,R)(Ti,Mn)O系(Rは、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luおよび/またはY)であり、副成分として、M(Mは、Fe、Co、V、W、Cr、Mo、Cu、Alおよび/またはMg)と、Siとを含む、誘電体セラミック。各主成分粒子11の断面上における、Mが存在している領域12の面積割合が、平均値で10%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、誘電体セラミックおよび積層セラミックコンデンサに関するもので、特に、薄層大容量型の積層セラミックコンデンサにおいて用いるのに適した誘電体セラミックおよびこの誘電体セラミックを用いて構成される積層セラミックコンデンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサの小型化かつ大容量化の要求を満たす有効な手段の1つとして、積層セラミックコンデンサに備える誘電体セラミック層の薄層化を図ることがある。しかし、誘電体セラミック層の薄層化が進むに従って、誘電体セラミック層の1層あたりの電界強度がより高くなる。よって、用いられる誘電体セラミックに対して、より一層の信頼性、特に負荷試験において、より高い寿命特性が求められる。
【0003】
一方、積層セラミックコンデンサの誘電体セラミック層を構成する誘電体セラミックとして、BaTiO系誘電体セラミックがよく用いられている。また、BaTiO系誘電体セラミックにおいて、信頼性や各種電気的特性を良好にするために、希土類元素やMn等の元素が副成分として添加される。
【0004】
たとえば特開平10−330160号公報(特許文献1)では、絶縁破壊電圧の向上を図るため、ABO(Aは、Baを必ず含み、さらにCaおよびSrの少なくとも一方を含むことがある。Bは、Tiを必ず含み、さらにZr、Sc、Y、Gd、Dy、Ho、Er、Yb、Tb、TmおよびLuの少なくとも1種を含むことがある。)を主成分とするコアシェル構造の誘電体セラミックであって、Mn、V、Cr、Co、Ni、Fr、Nb、Mo、TaおよびWの少なくとも1種が粒子全体にほぼ均一に分布している、誘電体セラミックが開示されている。また、特許文献1には、Mgをシェル成分とし、このMgがコアには分布せずシェル部にのみ分布している実施例が開示されている。
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1に記載の誘電体セラミックを用いた場合であっても、誘電体セラミック層の薄層化を一層進めていくと、信頼性、特に負荷試験における寿命特性について不十分な点があり、さらなる改善が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−330160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、この発明の目的は、誘電体セラミック層の薄層化が進んでも、高い信頼性を実現できる誘電体セラミックおよびこの誘電体セラミックを用いて構成される積層セラミックコンデンサを提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、主成分が(Ba,R)(Ti,Mn)O系または(Ba,Ca,R)(Ti,Mn)O系(Rは、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、LuおよびYから選ばれる少なくとも1種)であり、副成分として、M(Mは、Fe、Co、V、W、Cr、Mo、Cu、AlおよびMgから選ばれる少なくとも1種)と、Siとを含む、誘電体セラミックにまず向けられるものであって、上述した技術的課題を解決するため、各主成分粒子の断面上における、Mが存在している領域の面積割合が、平均値で10%以下であることを特徴としている。
【0009】
この発明に係る誘電体セラミックにおいて、Mnの含有比は、(Ti,Mn)サイト全体において、0.01〜1モル%であることが好ましい。
【0010】
また、Rの含有比は、(Ba,R)サイトまたは(Ba,Ca,R)サイト全体において、0.01〜2モル%であることが好ましい。
【0011】
また、Caの含有比は、(Ba,Ca,R)サイト全体において、15モル%以下であることが好ましい。
【0012】
この発明は、また、積層された複数の誘電体セラミック層、および誘電体セラミック層間の特定の界面に沿って形成された複数の内部電極をもって構成される、コンデンサ本体と、コンデンサ本体の外表面上の互いに異なる位置に形成され、かつ内部電極の特定のものに電気的に接続される、複数の外部電極とを備える、積層セラミックコンデンサにも向けられる。
【0013】
この発明に係る積層セラミックコンデンサは、誘電体セラミック層が、上述したこの発明に係る誘電体セラミックからなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
この発明に係る誘電体セラミックによれば、Mnを主成分粒子内に均一に固溶させることにより、主成分粒子内の絶縁性を高くすることができる。また、Rについても、これを主成分粒子内に均一に固溶させることにより、主成分粒子内の絶縁性を高くすることができる。
【0015】
このとき、副成分としてのM成分の固溶領域が10%以下であるため、焼成時における局所的な粒成長を抑制することができる。よって、この発明に係る誘電体セラミックを用いて積層セラミックコンデンサを構成すれば、焼成後の誘電体セラミック層を平滑化することができる。このことは、積層セラミックコンデンサにおける薄層化にとって有利であり、薄層化された積層セラミックコンデンサであっても、高い信頼性、特に負荷試験において良好な寿命特性を維持することができる。
【0016】
単にMnおよびRが主成分粒子内に均一に固溶しているだけの状態では、局所的な粒成長は起こらない。上述の局所的な粒成長は、MnおよびRが主成分粒子内に均一に固溶している場合であって、さらに、主成分粒子内にMが一定以上の割合で共存すると生じやすくなるのではないかと考えられている。この点で、前述したように、M成分の固溶領域を10%以下とすることにより、局所的な粒成長が抑制され得るものと推測される。
【0017】
この発明に係る誘電体セラミックにおいて、主成分が(Ba,Ca,R)(Ti,Mn)O系であるとき、すなわち、CaをBaサイトに固溶させておくと、上記の局所的粒成長を抑制する作用がさらに高まり、信頼性がさらに向上する。
【0018】
この発明に係る誘電体セラミックにおいて、Mnの含有比が、(Ti,Mn)サイト全体において、0.01〜1モル%であれば、寿命特性をより向上させることができる。
【0019】
また、この発明に係る誘電体セラミックにおいて、Rの含有比が、(Ba,R)サイトまたは(Ba,Ca,R)サイト全体において、0.01〜2モル%であれば、寿命特性をより向上させることができる。
【0020】
また、この発明に係る誘電体セラミックにおいて、Caの含有比が、(Ba,Ca,R)サイト全体において、15モル%以下であれば、寿命特性をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明に係る誘電体セラミックを用いて構成される積層セラミックコンデンサ1を図解的に示す断面図である。
【図2】この発明に係る誘電体セラミックの主成分粒子11を図解的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1を参照して、まず、この発明に係る誘電体セラミックが適用される積層セラミックコンデンサ1について説明する。
【0023】
積層セラミックコンデンサ1は、積層された複数の誘電体セラミック層2と誘電体セラミック層2間の特定の界面に沿って形成される複数の内部電極3および4とをもって構成される、コンデンサ本体5を備えている。内部電極3および4は、たとえばNiを主成分としている。
【0024】
コンデンサ本体5の外表面上の互いに異なる位置には、第1および第2の外部電極6および7が形成される。外部電極6および7は、たとえばAgまたはCuを主成分としている。図1に示した積層セラミックコンデンサ1では、第1および第2の外部電極6および7は、コンデンサ本体5の互いに対向する各端面上に形成される。内部電極3および4は、第1の外部電極6に電気的に接続される複数の第1の内部電極3と第2の外部電極7に電気的に接続される複数の第2の内部電極4とがあり、これら第1および第2の内部電極3および4は、積層方向に関して交互に配置されている。
【0025】
なお、積層セラミックコンデンサ1は、2個の外部電極6および7を備える2端子型のものであっても、多数の外部電極を備える多端子型のものであってもよい。
【0026】
このような積層セラミックコンデンサ1において、誘電体セラミック層2は、主成分が(Ba,R)(Ti,Mn)O系または(Ba,Ca,R)(Ti,Mn)O系(Rは、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、LuおよびYから選ばれる少なくとも1種)であり、副成分として、M(Mは、Fe、Co、V、W、Cr、Mo、Cu、AlおよびMgから選ばれる少なくとも1種)と、Siとを含む、誘電体セラミックから構成される。
【0027】
図2に、誘電体セラミックの主成分粒子11が図解的に断面図で示されている。図2を参照して、主成分粒子11内のほとんどの領域には、前述したように、MnおよびRが均一に固溶している。他方、上記Mについては、主成分粒子11内に固溶していない。すなわち、Mが存在する領域(以下、「M領域」と言う。)12は、主成分粒子11の表面部分に形成される。しかしながら、M領域12は、主成分粒子11と同心円状の薄いシェルを形成するように存在するものではない。よって、主成分粒子11は、前述の特許文献1に記載される誘電体セラミックの場合とは異なり、コアシェル構造を構成するものではない。
【0028】
誘電体セラミック層2を構成する誘電体セラミックは、各主成分粒子11の断面上における、M領域12の面積割合が、平均値で10%以下であることを特徴としている。
【0029】
このような誘電体セラミックによれば、MnおよびRを主成分粒子内に均一に固溶させることで、主成分粒子11内の絶縁性を高くすることができる。このとき、主成分粒子11の断面上でのM領域12の面積割合が10%以下にすぎないため、焼成時における局所的な粒成長を抑制することができる。よって、積層セラミックコンデンサの薄層化が図られても、高い信頼性、特に負荷試験において良好な寿命特性を実現することができる。
【0030】
上記Mnの含有比に関して、これが、(Ti,Mn)サイト全体において、0.01〜1モル%であれば、寿命特性をより向上させることができる。
【0031】
また、上記Rの含有比に関して、これが、(Ba,R)サイトまたは(Ba,Ca,R)サイト全体において、0.01〜2モル%であれば、寿命特性をより向上させることができる。
【0032】
また、上述の誘電体セラミックにおいて、主成分が(Ba,Ca,R)(Ti,Mn)O系であるとき、すなわち、CaをBaサイトに固溶させておくと、上記の局所的粒成長を抑制する作用がさらに高まり、信頼性がさらに向上する。このCaの含有比に関して、これが、(Ba,Ca,R)サイト全体において、15モル%以下であれば、寿命特性をより向上させることができる。
【0033】
誘電体セラミックのための原料を作製するにあたっては、まず、(Ba,R)(Ti,Mn)O系または(Ba,Ca,R)(Ti,Mn)O系の主成分粉末が作製される。そのため、たとえば、主成分の構成元素を含む酸化物、炭酸物、塩化物、金属有機化合物などの化合物粉末が所定の割合で混合され、仮焼される、といった固相合成法が適用される。このとき、たとえば仮焼温度を調整することによって、得られた主成分粉末の粒径が制御される。なお、上述の固相合成法に代えて、水熱合成法、加水分解法などが適用されてもよい。
【0034】
他方、副成分としてのMおよびSiの各々を含む酸化物、炭酸物、塩化物、金属有機化合物などの化合物粉末が用意される。そして、これら副成分粉末が、所定の割合で、上記主成分粉末と混合されることによって、誘電体セラミックのための原料粉末が得られる。
【0035】
積層セラミックコンデンサ1を製造するため、上記のようにして得られた誘電体セラミック原料粉末を用いてセラミックスラリーを作製し、このセラミックスラリーからセラミックグリーンシートを成形し、これら複数枚のセラミックグリーンシートを積層することによって、コンデンサ本体5となるべき生の積層体を得、この生の積層体を焼成する工程が実施される。この生の積層体を焼成する工程において、上述のように配合された誘電体セラミック原料粉末が焼成され、焼結した誘電体セラミックからなる誘電体セラミック層2が得られる。
【0036】
なお、前述したセラミックスラリーの作製のために、たとえば、誘電体セラミック原料粉末とバインダと有機溶剤とを、玉石とともに、ボールミルにて混合することが行なわれるが、この工程で使用される上記玉石の径を調整することによって、焼結した誘電体セラミックにおける主成分粒子中でのMの固溶領域、すなわちM領域の面積割合を制御することができる。もちろん、M領域の面積割合を制御するため、玉石の径を調整する方法以外の方法、たとえば混合時間を調整する方法などが適用されてもよい。
【0037】
以下に、この発明に基づいて実施した実験例について説明する。
【0038】
[実験例1]
実験例1では、主成分が(Ba,R)(Ti,Mn)O系であり、M領域の面積を変化させた誘電体セラミックについて評価した。
【0039】
(A)セラミック原料の作製
まず、主成分の出発原料として、微粒のBaCO、TiO、YおよびMnCOの各粉末を用意し、これらを(Ba0.990.01)(Ti0.995Mn0.005)Oとなるよう秤量し、水を媒体としてボールミルにより8時間混合した。その後、蒸発乾燥し、1100℃の温度で2時間仮焼することによって、主成分粉末を得た。
【0040】
次に、副成分となるVおよびSiOの各粉末を用意し、これらを、上記主成分100モル部に対して、MとしてのVが0.25モル部、およびSiが1.5モル部となるように秤量して上記主成分粉末に配合し、次いで、水を媒体としてボールミルにより24時間混合した。その後、蒸発乾燥し、誘電体セラミック原料粉末を得た。
【0041】
(B)積層セラミックコンデンサの作製
上記セラミック原料粉末に、ポリビニルブチラール系バインダおよびエタノールを加えて、ボールミルにより16時間湿式混合することによって、セラミックスラリーを作製した。このボールミルによる湿式混合工程において、試料101、102、103、104、105、106および107について、それぞれ、使用する玉石の径を2mm、1.5mm、1mm、0.8mm、0.6mm、0.5mmおよび0.3mmと変えることによって、後の焼成工程によって得られる焼結状態の誘電体セラミックにおける主成分粒子中でのM(=V)が固溶した領域の面積割合、すなわち、「M領域の面積割合」を表1に示すように変化させた。
【0042】
次に、このセラミックスラリーを、リップ方式により、シート状に成形し、セラミックグリーンシートを得た。
【0043】
次に、上記セラミックグリーンシート上に、Niを主体とする導電性ペーストをスクリーン印刷し、内部電極となるべき導電性ペースト膜を形成した。
【0044】
次に、導電性ペースト膜が形成されたセラミックグリーンシートを、導電性ペースト膜の引き出されている側が互い違いになるように複数枚積層し、コンデンサ本体となるべき生の積層体を得た。
【0045】
次に、生の積層体を、N雰囲気中にて300℃の温度に加熱し、バインダを燃焼させた後、酸素分圧が10−10MPaのH−N−HOガスからなる還元性雰囲気中にて、1200℃の温度で2時間焼成し、焼結したコンデンサ本体を得た。
【0046】
次に、焼結後のコンデンサ本体の両端面にB−LiO−SiO−BaO系ガラスフリットを含有するCuペーストを塗布し、N雰囲気中において800℃の温度で焼き付け、内部電極と電気的に接続された外部電極を形成し、試料となる積層セラミックコンデンサを得た。
【0047】
このようにして得られた積層セラミックコンデンサの外形寸法は、長さ2.0mm、幅1.2mm、厚さ1.0mmであり、内部電極間に介在する誘電体セラミック層の厚みが1.0μmであった。また、有効誘電体セラミック層の層数は100層であり、セラミック層1層あたりの内部電極の対向面積は1.4mmであった。
【0048】
(C)セラミック構造分析および特性評価
得られた積層セラミックコンデンサについて、誘電体セラミック層の断面上でセラミック構造を観察し、分析した。この観察・分析では、粒子が20個前後入る視野でSTEMモードによるEDX元素マッピング分析を行ない、粒子中の後添加された副成分であるV(=M)成分の固溶面積割合を算出し、視野中において、当該固溶面積割合の平均値を求めた。その結果が、表1の「M領域の面積割合」の欄に示されている。なお、上記マッピング分析において、プローブ径を2nmとし、加速電圧を200kVとした。
【0049】
また、得られた積層セラミックコンデンサについて、高温負荷寿命試験を実施した。高温負荷寿命試験では、100個の試料について、温度125℃にて、12Vの直流電圧(12kV/mmの電界強度)を印加し、1000時間および2000時間経過するまでに、絶縁抵抗値が100kΩ以下になった試料を不良と判定し、不良個数を求めた。その結果が、表1の「高温負荷寿命試験不良個数」の欄に示されている。
【0050】
【表1】

【0051】
表1からわかるように、「M領域の面積割合」が10%以下である試料101〜103によれば、高温負荷寿命試験において、1000時間時点ではもちろん、2000時間時点でも不良が発生しなかった。
【0052】
これに対して、「M領域の面積割合」が10%を超える試料104〜107によれば、高温負荷寿命試験において、1000時間時点で不良が発生した。
【0053】
これらのことから、主成分が(Ba,R)(Ti,Mn)O系であり、「M領域の面積割合」が10%以下であれば、良好な信頼性を得ることができることがわかる。
【0054】
[実験例2]
実験例2では、実験例1の場合と同様、主成分を(Ba,R)(Ti,Mn)O系としながら、Mn量およびR量を変化させた誘電体セラミックについて評価した。
【0055】
(A)セラミック原料の作製
RとしてDyを用いながら、主成分粉末として、(Ba1−x/100Dyx/100)(Ti1−y/100Mny/100)Oの組成であって、(Ba,R)サイトにおけるRとしてのDyの含有比xおよび(Ti,Mn)サイトにおけるMnの含有比yが、それぞれ、表2の「x」および「y」の欄に示した値を有するように調整されたことを除いて、実験例1の場合と同様の要領で、誘電体セラミック原料粉末を得た。
【0056】
(B)積層セラミックコンデンサの作製
上記誘電体セラミック原料粉末を用い、実験例1の場合と同様の要領で、各試料に係る積層セラミックコンデンサを作製した。なお、ボールミルによる湿式混合工程では、実験例1における試料102の場合と同様、径1.5mmの玉石を用いて、16時間混合した。
【0057】
(C)セラミック構造分析および特性評価
実験例1の場合と同様の要領で、セラミック構造分析を行なったところ、試料201〜210のいずれについても、「M領域の面積割合」が3.5%前後であった。
【0058】
また、実験例1の場合と同様の要領で、高温負荷寿命試験を実施した。その結果が、表2の「高温負荷寿命試験不良個数」の欄に示されている。
【0059】
【表2】

【0060】
表2からわかるように、RとしてのDyの含有比である「x」が0.01〜2の範囲にあり、かつMnの含有比である「y」が0.01〜1.0の範囲にある試料201〜205、207および208によれば、高温負荷寿命試験において、1000時間時点はもちろん、2000時間時点でも不良が発生しなかった。
【0061】
これに対して、RとしてのDyの含有比である「x」が0.01〜2の範囲を外れ、またはMnの含有比である「y」が0.01〜1.0の範囲を外れた試料206、209および210によれば、高温負荷寿命試験において、1000時間時点では不良が発生しなかったが、2000時間時点では不良が発生した。
【0062】
これらのことから、Rの含有比である「x」が0.01〜2の範囲にあり、かつMnの含有比である「y」が0.01〜1.0の範囲にあれば、より高い信頼性を得ることができることがわかる。
【0063】
[実験例3]
実験例3では、実験例1の場合と同様、主成分を(Ba,R)(Ti,Mn)O系としながら、不純物の影響を評価した。
【0064】
原料作製等、積層セラミックコンデンサの製造過程において、Sr、Zr、Hf、Zn、Na、Ag、PdおよびNiなどが誘電体セラミック中に不純物として混入する可能性があり、これらが、結晶粒子内および結晶粒子間を占める結晶粒界に存在する可能性がある。また、積層セラミックコンデンサの焼成工程などにおいて、内部電極成分が誘電体セラミック中の結晶粒子内および結晶粒子間を占める結晶粒界に拡散し存在する可能性がある。実験例3は、これらの不純物の影響を評価しようとするものである。
【0065】
(A)セラミック原料の作製
表3に示した不純物成分を、実験例1において得られた誘電体セラミック原料100モル部に対して、表3に示した含有量をもって加えたことを除いて、実験例1の場合と同様の要領で、誘電体セラミック原料粉末を得た。
【0066】
(B)積層セラミックコンデンサの作製
上記誘電体セラミック原料粉末を用い、実験例1の場合と同様の要領で、各試料に係る積層セラミックコンデンサを作製した。なお、ボールミルによる湿式混合工程では、実験例1における試料102の場合と同様、径1.5mmの玉石を用いて、16時間混合した。
【0067】
(C)セラミック構造分析および特性評価
実験例1の場合と同様の要領で、セラミック構造分析を行なったところ、試料301〜310のいずれについても、「M領域の面積割合」が3.5%前後であった。
【0068】
また、実験例1の場合と同様の要領で、高温負荷寿命試験を実施した。その結果が、表3の「高温負荷寿命試験不良個数」の欄に示されている。
【0069】
【表3】

【0070】
表3からわかるように、不純物が混入した試料301〜310のいずれにおいても、高温負荷寿命試験において、1000時間時点はもちろん、2000時間時点でも不良が発生せず、優れた信頼性を示した。
【0071】
[実験例4]
実験例4は、実験例1に対応するものである。実験例1では、主成分を(Ba,R)(Ti,Mn)O系としたが、実験例4では、主成分を(Ba,Ca,R)(Ti,Mn)O系とした。
【0072】
(A)セラミック原料の作製
まず、主成分の出発原料として、微粒のBaCO、CaCO、Gd、TiOおよびMnCOの各粉末を用意し、これらを(Ba0.98Ca0.01Gd0.01)(Ti0.995Mn0.005)Oとなるよう秤量し、水を媒体としてボールミルにより8時間混合した。その後、蒸発乾燥し、1100℃の温度で2時間仮焼することによって、主成分粉末を得た。
【0073】
次に、副成分となるVおよびSiOの各粉末を用意し、これらを、上記主成分100モル部に対して、Vが0.25モル部、およびSiが1.5モル部となるように秤量して上記主成分粉末に配合し、次いで、水を媒体としてボールミルにより24時間混合した。その後、蒸発乾燥し、誘電体セラミック原料粉末を得た。
【0074】
(B)積層セラミックコンデンサの作製
上記セラミック原料粉末に、ポリビニルブチラール系バインダおよびエタノールを加えて、ボールミルにより16時間湿式混合することによって、セラミックスラリーを作製した。このボールミルによる湿式混合工程において、試料401、402、403、404、405、406および407について、それぞれ、使用する玉石の径を2mm、1.5mm、1mm、0.8mm、0.6mm、0.5mmおよび0.3mmと変えることによって、後の焼成工程によって得られる焼結状態の誘電体セラミックにおける主成分粒子中での「M領域の面積割合」を表4に示すように変化させた。
【0075】
以後、実験例1の場合と同様の工程を実施し、試料となる積層セラミックコンデンサを得た。
【0076】
(C)セラミック構造分析および特性評価
得られた積層セラミックコンデンサについて、実験例1の場合と同様の要領で、「M領域の面積割合」を求めた。その結果が表4に示されている。
【0077】
また、得られた積層セラミックコンデンサについて、実験例1の場合と同様の要領で、高温負荷寿命試験を実施した。なお、実験例4では、1000時間経過後および2000時間経過後に加えて、3000時間経過後についても評価した。その結果が、表4の「高温負荷寿命試験不良個数」の欄に示されている。
【0078】
【表4】

【0079】
表4からわかるように、「M領域の面積割合」が10%以下である試料401〜403によれば、高温負荷寿命試験において、1000時間時点ではもちろん、2000時間時点、さらには3000時間時点でも不良が発生しなかった。
【0080】
これに対して、「M領域の面積割合」が10%を超える試料404〜407によれば、高温負荷寿命試験において、1000時間時点で不良が発生した。
【0081】
これらのことから、主成分が(Ba,Ca,R)(Ti,Mn)O系であり、「M領域の面積割合」が10%以下であれば、良好な信頼性を得ることができることがわかる。
【0082】
[実験例5]
実験例5では、実験例4の場合と同様、主成分を(Ba,Ca,R)(Ti,Mn)O系としながら、Ca量、R量およびMn量を変化させた誘電体セラミックについて評価した。
【0083】
(A)セラミック原料の作製
主成分粉末として、(Ba1−xーy/100Cax/100Hoy/100)(Ti1−z/100Mnz/100)Oの組成であって、(Ba,Ca,R)サイトにおけるCaの含有比xおよびRとしてのHoの含有比yが、それぞれ、表5の「x」および「y」の欄に示す値を有し、かつ(Ti,Mn)サイトにおけるMnの含有比zが表5の「z」の欄に示した値を有するように調整されたことを除いて、実験例4の場合と同様の要領で、誘電体セラミック原料粉末を得た。
【0084】
(B)積層セラミックコンデンサの作製
上記誘電体セラミック原料粉末を用い、実験例4の場合と同様の要領で、各試料に係る積層セラミックコンデンサを作製した。なお、ボールミルによる湿式混合工程では、実験例4における試料402の場合と同様、径1.5mmの玉石を用いて、16時間混合した。
【0085】
(C)セラミック構造分析および特性評価
実験例4の場合と同様の要領で、セラミック構造分析を行なったところ、試料501〜513のいずれについても、「M領域の面積割合」が3.5%前後であった。
【0086】
また、実験例4の場合と同様の要領で、高温負荷寿命試験を実施した。その結果が、表5の「高温負荷寿命試験不良個数」の欄に示されている。
【0087】
【表5】

【0088】
表5からわかるように、Caの含有比である「x」が15以下であり、RとしてのHoの含有比である「y」が0.01〜2であり、かつMnの含有比である「z」が0.01〜1.0の範囲にある試料501〜505、507、508、510および511によれば、高温負荷寿命試験において、1000時間時点はもちろん、2000時間時点、さらには3000時間時点でも不良が発生しなかった。
【0089】
これに対して、Caの含有比である「x」が15を超えた試料506、RとしてのHo含有比である「y」が0.01〜2の範囲を外れた試料509およびMnの含有比である「z」が0.01〜1.0の範囲を外れた試料512によれば、高温負荷寿命試験において、1000時間時点および2000時間時点では不良が発生しなかったが、3000時間時点では不良が発生した。また、Caの含有比である「x」が15を超え、RとしてのHo含有比である「y」が0.01〜2の範囲を外れ、かつMnの含有比である「z」が0.01〜1.0の範囲を外れた試料513によれば、高温負荷寿命試験において、1000時間時点では不良が発生しなかったが、2000時間時点および3000時間時点では不良が発生した。
【0090】
これらのことから、Caの含有比である「x」が15以下であり、Rの含有比である「y」が0.01〜2であり、かつMnの含有比である「z」が0.01〜1.0の範囲にあれば、より高い信頼性を得ることができることがわかる。
【0091】
[実験例6]
実験例6では、実験例4の場合と同様、主成分を(Ba,Ca,R)(Ti,Mn)O系としながら、不純物の影響を評価した。実験例6は、前述した実験例3に対応している。
【0092】
(A)セラミック原料の作製
表6に示した不純物成分を、実験例4において得られた誘電体セラミック原料100モル部に対して、表6に示した含有量をもって加えたことを除いて、実験例4の場合と同様の要領で、誘電体セラミック原料粉末を得た。
【0093】
(B)積層セラミックコンデンサの作製
上記誘電体セラミック原料粉末を用い、実験例4の場合と同様の要領で、各試料に係る積層セラミックコンデンサを作製した。なお、ボールミルによる湿式混合工程では、実験例4における試料402の場合と同様、径1.5mmの玉石を用いて、16時間混合した。
【0094】
(C)セラミック構造分析および特性評価
実験例4の場合と同様の要領で、セラミック構造分析を行なったところ、試料601〜610のいずれについても、「M領域の面積割合」が3.5%前後であった。
【0095】
また、実験例4の場合と同様の要領で、高温負荷寿命試験を実施した。その結果が、表6の「高温負荷寿命試験不良個数」の欄に示されている。
【0096】
【表6】

【0097】
表6からわかるように、不純物が混入した試料601〜610のいずれにおいても、高温負荷寿命試験において、1000時間時点はもちろん、2000時間時点、さらには3000時間時点でも不良が発生せず、優れた信頼性を示した。
【0098】
以上説明した実験例では、副成分であるRとしてY、Dy、GdまたはHoを用い、かつ副成分であるMとしてVを用いたが、Rとして、Y、Dy、GdまたはHo以外のLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Er、Tm、YbまたはLuを用いた場合であっても、あるいは、Mとして、V以外のFe、Co、W、Cr、Mo、Cu、AlまたはMgを用いた場合であっても、実質的に同様の結果が得られることが確認されている。
【符号の説明】
【0099】
1 積層セラミックコンデンサ
2 誘電体セラミック層
3,4 内部電極
5 コンデンサ本体
6,7 外部電極
11 主成分粒子
12 Mが存在している領域(M領域)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分が(Ba,R)(Ti,Mn)O系または(Ba,Ca,R)(Ti,Mn)O系(Rは、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、LuおよびYから選ばれる少なくとも1種)であり、
副成分として、M(Mは、Fe、Co、V、W、Cr、Mo、Cu、AlおよびMgから選ばれる少なくとも1種)と、Siとを含み、
各主成分粒子の断面上における、Mが存在している領域の面積割合が、平均値で10%以下である、
誘電体セラミック。
【請求項2】
Mnの含有比は、(Ti,Mn)サイト全体において、0.01〜1モル%である、請求項1に記載の誘電体セラミック。
【請求項3】
Rの含有比は、(Ba,R)サイトまたは(Ba,Ca,R)サイト全体において、0.01〜2モル%である、請求項1または2に記載の誘電体セラミック。
【請求項4】
Caの含有比は、(Ba,Ca,R)サイト全体において、15モル%以下である、請求項1ないし3のいずれかに記載の誘電体セラミック。
【請求項5】
積層された複数の誘電体セラミック層、および前記誘電体セラミック層間の特定の界面に沿って形成された複数の内部電極をもって構成される、コンデンサ本体と、
前記コンデンサ本体の外表面上の互いに異なる位置に形成され、かつ前記内部電極の特定のものに電気的に接続される、複数の外部電極と
を備え、
前記誘電体セラミック層は、請求項1ないし4のいずれかに記載の誘電体セラミックからなる、
積層セラミックコンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−26148(P2011−26148A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171010(P2009−171010)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】