説明

誘電体磁器組成物および電子部品

【課題】サイズ効果によっても誘電率が低下しにくく、しかも絶縁抵抗と高い誘電率とを両立させることが容易であり、比誘電率の温度変化が少ない新規な誘電体磁器組成物と、その誘電体磁器組成物を誘電体層として用いる積層セラミックコンデンサなどの電子部品を提供すること。
【解決手段】誘電体粒子2aが形成された誘電体磁器組成物である。誘電体粒子2aが、六方晶のチタン酸バリウムで構成されるコア22aと、コア22aの外周に形成される立方晶または正方晶のチタン酸バリウムで構成されるシェル24aとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な誘電体磁器組成物と、その誘電体磁器組成物を誘電体層として用いる積層セラミックコンデンサなどの電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
コンデンサ等の電子部品に使用される誘電体材料のひとつに、チタン酸バリウムがある。このチタン酸バリウムは、一般には、正方晶もしくは立方晶構造を有している。従来では、チタン酸バリウムの微粉化により、薄層・多層し、コンデンサ等の容量拡大が行われてきた。
【0003】
しかしながら、チタン酸バリウムが微細化するにつれて、材料そのものの誘電率が低下するサイズ効果と呼ばれる現象が顕著になってきており、今後の電子部品開発に大きな問題となっている。
【0004】
すなわち、正方晶チタン酸バリウムにおいて、サイズ効果により誘電率が低下してしまうため、従来どおりの薄層・多層化では容量拡大が行えない可能性があり、サイズ効果がない、もしくは影響の少ない誘電体材料の開発が必要である。
【0005】
そのような誘電体材料として、たとえば六方晶チタン酸バリウムが着目されている。しかしながら、チタン酸バリウムの結晶構造において、六方晶構造は準安定相であり、通常1460℃以上においてのみ存在することができる。そのため、室温において六方晶チタン酸バリウムを得るには、1460℃以上の高温から急冷する必要がある。
【0006】
そこで、たとえば、非特許文献1では、出発原料としてBaCO、TiOおよびMnを用いて、これを熱処理することが開示されている。このようにすることで、六方晶への変態温度を下げることができるため、1460℃以下の温度から急冷し、Mnが固溶した六方晶チタン酸バリウムを得ている。
【0007】
しかしながら、非特許文献1に示す方法により得られる六方晶チタン酸バリウムを、実際にコンデンサの誘電体層として用いる場合には、誘電体層を構成する粒子径が大きくなるため積層コンデンサに使用することが困難であった。
【0008】
なお、六方晶チタン酸バリウムにLaなどを添加することにより、誘電率を向上させることが、本発明者等により提案されている。しかしながら、Laなどを添加させた六方晶チタン酸バリウムでは、絶縁抵抗が低下すると共に、雰囲気温度により比誘電率が大きく変動するため、そのままではコンデンサ等の電子部品としては不適である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Wang Sea-Fue、他4名、「六方晶Ba(Ti1−xMnx)O3セラミックスの性質:焼結温度およびMn量の影響(Properties of Hexagonal Ba(Ti1−xMnx)O3 Ceramics: Effects of Sintering Temperature and Mn Content)」、ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジクス(Japanese Journal of Applied Physics)、2007年、Vol.46, No.5A, 2978-2983
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、サイズ効果によっても誘電率が低下しにくく、しかも高い絶縁抵抗と誘電率とを両立させることが容易であり、絶縁抵抗と比誘電率の温度変化が少ない新規な誘電体磁器組成物と、その誘電体磁器組成物を誘電体層として用いる積層セラミックコンデンサなどの電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係る誘電体磁器組成物は、
誘電体粒子が形成された誘電体磁器組成物であって、
前記誘電体粒子が、
六方晶のチタン酸バリウムで構成されるコアと、
前記コアの外周に形成される立方晶または正方晶のチタン酸バリウムで構成されるシェルとを有する。
【0012】
本発明に係る誘電体磁器組成物は、六方晶チタン酸バリウム単独の誘電体粒子のみではなく、六方晶のチタン酸バリウムで構成されるコアと、立方晶または正方晶のチタン酸バリウムで構成されるシェルとで構成される誘電体粒子を有する。この誘電体粒子は、コアが六方晶チタン酸バリウムで構成されることから、サイズ効果によっても誘電率が低下しにくいことが期待できる。
【0013】
また、本発明者等によれば、六方晶のチタン酸バリウムで構成されるコアを、立方晶または正方晶のチタン酸バリウムで構成されるシェルで覆うコアシェル構造を採用することで、高い絶縁抵抗と誘電率を両立させることができることが確認できた。しかも、このようなコアシェル構造を採用することで、絶縁抵抗および比誘電率の温度変化を少なくすることが可能になることが本発明者等により確認された。
【0014】
好ましくは、前記六方晶のチタン酸バリウムが、
一般式(Ba1−α M1α (Ti1−β M2β で表され、
前記M1の有効イオン半径が、12配位時のBa2+の有効イオン半径に対して、±20%以内であり、
前記M2の有効イオン半径が、6配位時のTi4+の有効イオン半径に対して、±20%以内であり、
前記A、B、αおよびβが、0.900≦(A/B)≦1.040、0≦α≦0.1、0≦β≦0.2の関係を満足する。
【0015】
好ましくは、前記立方晶または正方晶のチタン酸バリウムは、前記六方晶のチタン酸バリウムと結晶構造が異なるが、前記一般式(Ba1−α M1α (Ti1−β M2β で表される。
【0016】
前記誘電体粒子の相互間には粒界が形成してあってもよく前記粒界および/または前記シェルには、副元素が拡散してあってもよい。
【0017】
本発明に係る電子部品は、誘電体層を有する電子部品であって、
前記誘電体層が、上記のいずれかに記載の誘電体磁器組成物で構成されていることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの概略断面図である。
【図2】図2は図1に示す誘電体層の要部拡大断面図である。
【図3】図3は図2に示す誘電体粒子のコアシェル構造におけるコアとシェルの透過電子顕微鏡により測定した電子解析パターンである。
【図4】図4は図2に示す誘電体粒子のXRD測定結果であり、焼成時の酸素分圧を変化させたグラフである。
【図5】図5は図2に示す誘電体粒子の概念図である。
【図6】図6は本発明の実施例1に係る誘電体磁器組成物の絶縁抵抗の温度変化を示すグラフである。
【図7】図7は本発明の実施例1に係る誘電体磁器組成物の比誘電率の温度変化を示すグラフである。
【図8】図8は本発明の実施例3に係る誘電体磁器組成物の絶縁抵抗の温度変化を示すグラフである。
【図9】図9は本発明の実施例3に係る誘電体磁器組成物の比誘電率の温度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
第1実施形態
本実施形態では、電子部品として、図1に示される積層セラミックコンデンサ1を例示して説明するが、本発明は、必ずしも誘電体層が積層してあるコンデンサには限定されない。また、本発明は、コンデンサに限らず、誘電体層を有するその他の電子部品にも適用することができる。
積層セラミックコンデンサ
【0020】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る電子部品としての積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と内部電極層3とが交互に積層されたコンデンサ素子本体10を有する。コンデンサ素子本体10の両端部には、素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4が形成してある。内部電極層3は、各端面がコンデンサ素子本体10の対向する2端部の表面に交互に露出するように積層してある。一対の外部電極4は、コンデンサ素子本体10の両端部に形成され、交互に配置された内部電極層3の露出端面に接続されて、コンデンサ回路を構成する。
【0021】
コンデンサ素子本体10の外形や寸法には特に制限はなく、用途に応じて適宜設定することができ、通常、外形はほぼ直方体形状とし、寸法は通常、縦(0.4〜5.6mm)×横(0.2〜5.0mm)×高さ(0.2〜1.9mm)程度とすることができる。
誘電体層
【0022】
図1に示す誘電体層2は、図2に示すように、複数の誘電体粒子(結晶粒)2aと、隣接する複数の誘電体粒子2a間に形成された粒界2bとを含んで構成される。誘電体粒子(結晶粒)2aは、六方晶のチタン酸バリウムで構成されるコア22aと、コア22aの外周に形成される立方晶または正方晶のチタン酸バリウムで構成されるシェル24aとで構成される。
【0023】
本実施形態では、誘電体粒子2aのコアシェル構造とは、誘電体粒子の中心部であるコア(核)22aと、該コア22aの表面を被覆するシェル(殻)24aとが、結晶構造は異なるが、ほぼ同一の組成で一体化してある構造をいう。なお、ほぼ同一の組成とは、多少、副成分がシェルに拡散しており、厳密には、コア22aとシェル24aとが多少異なる組成であっても良い趣旨である。
【0024】
図3に示すように、コア22aを透過電子顕微鏡により測定して電子解析を行うと、六方晶のチタン酸バリウムに特有のパターンが観察され、シェル24aを透過電子顕微鏡により測定して電子解析を行うと、正方晶または立方晶のチタン酸バリウムに特有のパターンが観察される。
【0025】
また、図2に示す誘電体粒子2aのコア22aに対応する部分のみを、仮にX線回折装置を用いて、X線回折(XRD)パターンの測定を行うと、図4に示す実線で示すように、六方晶のチタン酸バリウムに特有のピークのみが現れる。現状のX線回折装置では、図2に示す誘電体粒子2aのコア22aに対応する部分のみを測定することは困難であるが、誘電体層2の一部に対して、X線回折(XRD)パターンの測定は容易である。
【0026】
そのような測定を行った場合には、本実施形態では、図4に示す一点鎖線で示すように、六方晶のチタン酸バリウムに特有のピークと共に、立方晶あるいは正方晶のチタン酸バリウムに特有のピークが現れる。このことは、本実施形態に係る誘電体層2を構成する誘電体粒子が、上述したコアシェル構造を有することが推測される。
【0027】
本実施形態では、後述するように、立方晶または正方晶のチタン酸バリウムの原料粉をほとんど含まない六方晶のチタン酸バリウムで構成される原料粉を主成分とし、必要に応じて副成分を添加し、焼成することで誘電体層2が製造される。このことから、XRDパターンの測定を行った場合に、図4に示す一点鎖線で示すような二つのピークが現れる場合には、誘電体粒子2aは上述したコアシェル構造を有することが推測される。
【0028】
本実施形態のコアシェル構造において、シェル24aは、コア22aの全周を必ずしも完全に覆っている必要はなく、多少、コア22aが露出していても良い。このような観点からは、図5に示すように、誘電体粒子2aのシェル24aにおける最大厚みt1は、0よりも大きく、その誘電体粒子2aにおけるコア24aが消失しない程度の大きさであり、最小厚みt2は、0であっても良い。
【0029】
本実施形態のコアシェル構造において、コア22aとシェル24aとの境界は、必ずしも明確である必要はなく、少なくとも、誘電体粒子2aの中心近くに、六方晶のチタン酸バリウムが存在し、表面近く(粒界の高く)に、立方晶または正方晶のシェル24aが存在すればよい。
【0030】
なお、誘電体層2における誘電体粒子2a全体の平均粒径D50(単位:μm)は、コンデンサ素子本体10を、誘電体層2および内部電極層3の積層方向に切断し、図2に示す断面において誘電体粒子2aの200個以上の平均面積を測定し、円相当径として直径を算出し1.5倍した値である。本実施形態では、誘電体粒子2a全体の平均粒径D50は、誘電体層2の厚みを上限とし、好ましくは誘電体層2の厚みの25%以下、より好ましくは15%以下であることが望ましい。
【0031】
粒界2bは、通常、誘電体材料あるいは内部電極材料を構成する材質の酸化物や、別途添加された材質の酸化物、さらには工程中に不純物として混入する材質の酸化物を成分としている。
【0032】
本実施形態では、コア22aおよびシェル24aを構成する誘電体磁器組成物の組成は、特に限定されないが、好ましくは、以下に示す組成で構成される。
【0033】
すなわち、図2に示す誘電体層2におけるコア22aは、
一般式(Ba1−α M1α (Ti1−β M2β で表され、
前記M1の有効イオン半径が、12配位時のBa2+の有効イオン半径に対して、±20%以内であり、
前記M2の有効イオン半径が、6配位時のTi4+の有効イオン半径に対して、±20%以内であり、
前記A、B、αおよびβが、0.900≦(A/B)≦1.040、0≦α≦0.1、0≦β≦0.2の関係を満足する。
【0034】
上記一般式において、αは、Baに対する元素M1の置換割合(六方晶系チタン酸バリウム粉末中のMの含有量)を示している。本実施形態では、図1に示すコンデンサ1が温度補償用として用いられ、広い温度範囲において、比誘電率等の特性の変化が小さいことが求められるが、誘電体層2の比誘電率自体は、それほど高いものが求められているわけではない。そのような観点から、本実施形態では、好ましくは0≦α<0.003、さらに好ましくは0≦α≦0.002である。M1の含有量が多すぎると、六方晶構造への変態温度が高くなってしまい、原料粉の状態で、比表面積の大きい粉末を得にくい傾向にある。
【0035】
Baは六方晶構造においてBa2+としてAサイト位置を占めている。元素M1は上記の範囲でBaを置換し、Aサイト位置に存在してもよいし、AサイトがBaのみで占められていてもよい。すなわち、元素M1は六方晶チタン酸バリウムに含有されていなくてもよい。
【0036】
元素M1は、上述したように、12配位時のBa2+の有効イオン半径(1.61pm)に対して、±20%以内の有効イオン半径を有することが好ましい。M1がこのような有効イオン半径を有することで、Baを容易に置換することができる。
【0037】
具体的には、元素M1として、Dy、Gd、Ho、Y、Er、Yb、La、CeおよびBiから選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。元素M1は所望の特性に応じて選べばよいが、好ましくはLaである。
【0038】
上記式中のβは、Tiに対する元素M2の置換割合(六方晶系チタン酸バリウム粉末中の元素M2の含有量)を示しており、本実施形態では、好ましくは0.03≦β≦0.20、さらに好ましくは0.05≦β≦0.15である。元素M2の含有量が少なすぎても多すぎても、六方晶構造への変態温度が高くなってしまい、原料粉の状態で、比表面積の大きい粉末が得られない傾向にある。
【0039】
Tiは六方晶構造においてTi4+としてBサイト位置を占めているが、本実施形態では、元素M2が上記の範囲でTiを置換し、Bサイト位置に存在している。すなわち、元素M2はチタン酸バリウムに固溶している。元素M2がBサイト位置に存在することで、チタン酸バリウムにおいて正方晶・立方晶構造から六方晶構造への変態温度を下げることができる。
【0040】
元素M2は、上述したように、6配位時のTi4+の有効イオン半径に対して、±20%以内の有効イオン半径を有することが好ましい。元素M2がこのような有効イオン半径を有することで、Tiを容易に置換することができる。元素M2としては、具体的には、Ga、Cr、Co、Fe、Ir、Agが例示され、好ましくはMnである。
【0041】
上記式中のAとBとは、それぞれ、Aサイトを占める元素(BaおよびM1)の割合と、Bサイトを占める元素(TiおよびM2)の割合とを示している。本実施形態では、好ましくは1.000<A/B≦1.040、さらに好ましくは1.006≦A/B≦1.036である。
【0042】
A/Bが小さすぎると、原料粉の製造時に、チタン酸バリウム生成時における反応性が高くなり、温度に対して粒成長しやすくなる。そのため、細かい粒子が得られにくく、所望の比表面積が得られない傾向にある。逆に、A/Bが大きすぎると、原料粉の製造時に、Baが占める割合が多くなるため、Baリッチなオルソチタン酸バリウム(BaTiO)が異相として生成する傾向にあるため好ましくない。
【0043】
図2に示すコア22aおよびシェル24aは、結晶構造が異なるが、これらを構成する誘電体磁器組成物の組成は略同一である。ただし、シェル24aおよび粒界2bには、誘電体磁器組成物の原料粉に含まれる副成分が拡散してあっても良い。副成分としては、たとえば下記に示すものが用いられる。なお、下記において、各種酸化物の組成式が示されるが、酸素(O)量は、化学量論組成から若干偏倚してもよい。
【0044】
すなわち、副成分としては、
MgO、CaOおよびBaOからなる群から選ばれる少なくとも1つのアルカリ土類酸化物、
Mn、CuO、CrおよびAlからなる群から選ばれる少なくとも1つの金属酸化物、
Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、HoおよびYbからなる群から選ばれる少なくとも1つの希土類元素の酸化物、および
SiOを含むガラス成分が用いられる。
【0045】
SiOを含むガラス成分は、焼結助剤として用いられ、好ましくは、ZnO−B−SiOガラス、B−SiOガラス、BaO−CaO−SiO2 、SiO2 等が用いられる。これらのガラス成分の添加量は、前述した一般式で表されるチタン酸バリウムからなる主成分を100モル部とした場合に、SiO換算で、好ましくは0〜5、さらに好ましくは0.5〜2モル部である。
【0046】
ガラス成分以外の副成分の添加量は、前述した一般式で表されるチタン酸バリウムからなる主成分を100モル部とした場合に、金属元素換算で、好ましくは0〜5、さらに好ましくは0.1〜3モル部である。
【0047】
なお、本明細書に記載の有効イオン半径は、文献「R.D.Shannon,Acta Crystallogr.,A32,751(1976)」に基づく値である。
内部電極層
【0048】
図1に示す内部電極層3は、実質的に電極として作用する卑金属の導電材で構成される。導電材として用いる卑金属としては、NiまたはNi合金が好ましい。Ni合金としては、Mn、Cr、Co、Al、Ru、Rh、Ta、Re、Os、Ir、Pt及びWなどから選ばれる1種以上とNiとの合金が好ましく、合金中のNi含有量は95重量%以上であることが好ましい。なお、NiまたはNi合金中には、P、C、Nb、Fe、Cl、B、Li、Na、K、F、S等の各種微量成分が0.1重量%以下程度含まれていてもよい。本実施形態では、内部電極層3の厚さは、好ましくは2μm未満、より好ましくは1.5μm以下と薄層化されている。
外部電極
【0049】
図1に示す外部電極4としては、通常、Ni,Pd,Ag,Au,Cu,Pt,Rh,Ru,Ir等の少なくとも1種又はそれらの合金を用いることができる。通常は、Cu,Cu合金、Ni又はNi合金等や、Ag,Ag−Pd合金、In−Ga合金等が使用される。外部電極4の厚さは用途に応じて適時決定されればよいが、通常10〜200μm程度であることが好ましい。
積層セラミックコンデンサの製造方法
まず、図1に示す誘電体層2を形成するための主成分原料粉としての六方晶系チタン酸バリウム粉末を製造する方法について説明する。最初に、チタン酸バリウムの原料と元素M2としてのMnの原料とを準備する。元素M1の原料は必要に応じて準備すればよい。
【0050】
チタン酸バリウムの原料としては、チタン酸バリウム(BaTiO)や、チタン酸バリウムを構成する酸化物(BaO、TiO)やその混合物を用いることができる。さらに、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物、たとえば、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等から適宜選択し、混合して用いることもできる。具体的には、チタン酸バリウムの原料として、BaTiOを用いてもよいし、BaCOおよびTiOを用いてもよい。本実施形態では、BaCOおよびTiOを用いることが好ましい。
【0051】
なお、チタン酸バリウムの原料としてBaTiOを用いる場合、正方晶構造を有するチタン酸バリウムであってもよいし、立方晶構造を有するチタン酸バリウムであってもよいし、六方晶構造を有するチタン酸バリウムであってもよい。また、これらの混合物であってもよい。
【0052】
また、M2の原料としては、M2の化合物、たとえば、酸化物、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等から適宜選択し、混合して用いることもできる。元素M1の原料も、M2の原料と同様にすればよい。
【0053】
次に準備した原料を、所定の組成比となるように秤量して混合、必要に応じて粉砕し、原料混合物を得る。混合・粉砕する方法としては、たとえば、水等の溶媒とともに原料をボールミル等の公知の粉砕容器に投入し、混合・粉砕する湿式法が挙げられる。また、乾式ミキサーなどを用いて行う乾式法により、混合・粉砕してもよい。このとき、投入した原料の分散性を向上させるために、分散剤を添加するのが好ましい。分散剤としては公知のものを用いればよい。
【0054】
次に、得られた原料混合物を、必要に応じて乾燥した後、熱処理を行う。また、熱処理における保持温度は、六方晶構造への変態温度よりも高くすればよい。本実施形態では、六方晶構造への変態温度は1460℃よりも低くなっており、しかもA/B、Aサイト置換量(α)およびBサイト置換量(β)等により変化するため、保持温度もそれに応じて変化させればよい。粉末の比表面積を大きくするためには、たとえば1050〜1250℃とすることが好ましい。熱処理は、減圧下で行っても良い。
【0055】
このような熱処理を行うことで、M2がBaTiOに固溶し、Bサイトに位置するTiをM2で置換することができる。その結果、六方晶構造への変態温度を熱処理時の保持温度よりも低くできるため、六方晶系チタン酸バリウムが容易に生成する。また、元素M1が含まれている場合、元素M1がBaTiOに固溶し、Aサイト位置のBaを置換する。
【0056】
そして、熱処理での保持時間を経過した後、六方晶構造を維持するために、熱処理時の保持温度から室温まで冷却する。具体的には、冷却速度を好ましくは200℃/時間以上とする。
【0057】
このようにすることで、室温においても六方晶構造が維持された六方晶チタン酸バリウムを主成分として含む六方晶系チタン酸バリウム粉末が得られる。得られる粉末が、六方晶系チタン酸バリウム粉末であるか否かを判断する方法は特に制限されないが、本実施形態では、X線回折測定により判断する。
【0058】
このようにして得られる六方晶系チタン酸バリウム粉末を用いて、誘電体層および電極層を有する電子部品を製造する。具体的には、たとえば、図1に示す積層セラミックコンデンサ1は、以下のようにして製造される。まず、本実施形態に係る六方晶系チタン酸バリウム粉末を含む誘電体ペーストと、内部電極層用ペーストとを作成し、これらをドクターブレード法および/または印刷法等を用いて、焼成前誘電体層と焼成前内部電極層とを形成する。各原料の添加量は、焼成後に上記した誘電体磁器組成物の組成となるように決定すればよい。
【0059】
続いて、焼成前誘電体層と焼成前内部電極層とが積層されたグリーンチップを作製し、脱バインダ工程、焼成工程、必要に応じて行われるアニール工程を経て形成された焼結体で構成されるコンデンサ素子本体10に、外部電極4を形成して、積層セラミックコンデンサ1が製造される。
【0060】
本実施形態では、焼成時の雰囲気は、還元雰囲気であることが好ましい。還元雰囲気における雰囲気ガスとしては、たとえばNとHとの混合ガスを加湿して用いることが好ましい。焼成雰囲気中の酸素分圧は、好ましくは10-3 〜10-6 Paである。所定値以下の酸素分圧で還元焼成を行うことにより、焼成前誘電体層に含まれる主成分としての六方晶チタン酸バリウムの粒子は、その表面が立方晶化あるいは正方晶化されて粒成長し、前述したコアシェル構造となる。また、焼成後の粒界およびシェルには、焼成前誘電体層に含まれる副成分が拡散する。
【0061】
焼成雰囲気中の酸素分圧や焼成温度を制御することにより、焼成後の誘電体層2を構成する誘電体粒子2aの平均粒径や、シェル24aの厚み等を制御することができる。図4に示すように、酸素分圧(PO2)を10−2から10−8と強還元雰囲気に変化させることで、X線回折(XRD)パターンが、六方晶のみのピークから立方晶あるいは正方晶のピークも観察された。このことにより、強還元雰囲気に変化させることで、立方晶あるいは正方晶のシェルが厚く制御できることが確認できた。
【0062】
本実施形態では、六方晶のチタン酸バリウムで構成されるコア22aを、立方晶または正方晶のチタン酸バリウムで構成されるシェル24aで覆うコアシェル構造を採用することで、絶縁抵抗と高い誘電率を両立させることができる。しかも、このようなコアシェル構造を採用することで、比誘電率の温度変化を少なくすることが可能になる。
【0063】
また、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサの誘電体層2を構成する誘電体磁器組成物におけるコア22aは、(Ba1−α M1α (Ti1−β M2β で表される六方晶チタン酸バリウムの内でも、元素M1の置換量が0または少なく、元素M2の置換量が比較的多い組成である。そのため、元素M2の置換量が0または少なく元素M1の置換量が多い組成に比較して、誘電率は劣るものの誘電率の温度変化率が小さく、絶縁抵抗の温度変化率も小さい。そのため、本実施形態の積層セラミックコンデンサ1は、温度補償用コンデンサとして好ましく用いられる。
第2実施形態
この第2実施形態では、図2に示す誘電体粒子2aにおけるコア22aおよびシェル24aの組成を、第1実施形態に対して変化させた以外は、第1実施形態と同様にして、誘電体層2の比誘電率を、飛躍的に向上させている。
【0064】
すなわち、本実施形態では、図2に示す誘電体層2におけるコア22aは、第1実施形態と同様に、一般式(Ba1−α M1α (Ti1−β M2β で表される六方晶チタン酸バリウムであるが、そのA、B、αおよびβの範囲が、第1実施形態と異なる。なお、シェル24aは、コア22aと略同一組成であるが、結晶構造が異なり、正方晶または立方晶のチタン酸バリウムで構成される点と、シェル24aおよび粒界2bには、副成分が拡散してあっても良い点は、第1実施形態と同様である。
【0065】
上記一般式において、本実施形態では、誘電体磁器組成物の比誘電率を飛躍的に向上させるために、A、B、αおよびβの範囲を下記のように設定してある。
【0066】
すなわち、0<α≦0.10、好ましくは0.003≦α≦0.05である。αが小さいと、M1の含有量が少なくなり、比誘電率を飛躍的に向上させることが困難になる。逆に、M1の含有量が多すぎると、原料粉の製造時に、六方晶構造への変態温度が高くなってしまい、比表面積の大きい粉末が得られない傾向にある。
【0067】
また、本実施形態では、0.900≦A/B≦1.040、好ましくは0.958≦A/B≦1.036である。さらに、0≦β≦0.2、好ましくは0.03≦β≦0.20、さらに好ましくは0.03≦β≦0.10である。M2の含有量は、0または少ない方が、比誘電率を飛躍的に向上させることが可能であるが、六方晶構造チタン酸バリウム原料粉の製造時に、六方晶構造への変態温度が高くなってしまい、原料粉の製造が難しくなる傾向にある。
【0068】
本実施形態では、六方晶のチタン酸バリウムで構成されるコア22aを、立方晶または正方晶のチタン酸バリウムで構成されるシェル24aで覆うコアシェル構造を採用することで、絶縁抵抗と高い誘電率を両立させることができる。しかも、このようなコアシェル構造を採用することで、比誘電率の温度変化を少なくすることが可能になる。
【0069】
また、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサの誘電体層2を構成する誘電体磁器組成物におけるコア22aは、(Ba1−α M1α (Ti1−β M2β で表される六方晶チタン酸バリウムの内でも、元素M1の置換量が比較的に多く、元素M2の置換量が0または比較的少ない組成である。そのため、第1実施形態に比較して、誘電率が飛躍的に向上し、しかも誘電率の温度変化率が小さく、絶縁抵抗の温度変化率も小さい。
【0070】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0071】
たとえば、上述した実施形態では、素子本体10の焼成時における焼成雰囲気中の酸素分圧や焼成温度を制御することにより、焼成後の誘電体層2を構成する誘電体粒子2aにおけるコアシェル構造を実現した。しかしながら、六方晶チタン酸バリウムの粒子を仮焼きを行い、その仮焼き条件を選択することで、焼成後の誘電体層2を構成する誘電体粒子2aにおけるコアシェル構造を実現してもよい。
【0072】
また、上述した実施形態では、本発明に係る電子部品として積層セラミックコンデンサを例示したが、本発明に係る電子部品としては、積層セラミックコンデンサに限定されず、上述したコアシェル構造の誘電体粒子を有する誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層を有するものであれば何でも良い。
【実施例】
【0073】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。なお、以下の実施例において、「比誘電率ε」および「絶縁抵抗IR」は以下のように測定した。
(比誘電率εおよび絶縁抵抗)
【0074】
コンデンサの試料に対し、基準温度20℃において、デジタルLCRメータ(横河電機(株)製 YHP4274A)にて、周波数1kHz,入力信号レベル(測定電圧)0.5Vrms/μmの条件下で、静電容量Cを測定した。そして、得られた静電容量、積層セラミックコンデンサの誘電体厚みおよび内部電極同士の重なり面積から、比誘電率(単位なし)を算出した。
【0075】
その後、絶縁抵抗計(アドバンテスト社製R8340A)を用いて、25℃においてDC50Vを、コンデンササンプルに60秒間印加した後の絶縁抵抗IRを測定した。
実施例1
【0076】
まず、主成分原料粉および副成分原料粉を用意した。主成分原料粉としては、一般式(Ba1−α M1α (Ti1−β M2β で表される六方晶チタン酸バリウム粉で、α=0、β=0.15、M2=Mn、A/B=1のものを用いた。この六方晶チタン酸バリウム粉は、BaCO(比表面積:25m/g)、TiO(比表面積:50m/g)およびMn(比表面積:20m/g)を用い、固相合成により製造した。
【0077】
得られた六方晶系チタン酸バリウム粉末に対して、X線回折を行ったところ、六方晶系チタン酸バリウム粉末であることが確認できた。また、BET法による比表面積を測定したところ、得られた六方晶系チタン酸バリウム粉末のBET法による比表面積は、5m/gであった。
【0078】
この六方晶チタン酸バリウム粉100モル部に対して、ZnO−B−SiOガラスを、SiO換算で、1モル部と、Y、GdおよびDyからなる群から選ばれる少なくとも1つの希土類元素の酸化物を、金属元素換算で、1モル部とを準備した。これらに、ポリビニルブチラール樹脂およびエタノール系の有機溶媒を添加し、ボールミルで混合し、ペースト化して誘電体層用ペーストを得た。
【0079】
次に、Ni粒子100重量部と、有機ビヒクル(エチルセルロース8重量部をブチルカルビトール92重量部に溶解したもの)40重量部と、ブチルカルビトール10重量部とを3本ロールにより混練してペースト化し、内部電極層用ペーストを得た。
【0080】
また別に、Cu粒子100重量部と、有機ビヒクル(エチルセルロース樹脂8重量部をブチルカルビトール92重量部に溶解したもの)35重量部およびブチルカルビトール7重量部とを混練してペースト化し、外部電極用ペーストを得た。
【0081】
次いで、上記誘電体層用ペーストを用いてPETフィルム上に、厚さ2.5μmのグリーンシートを形成し、グリーンシート上に内部電極層用ペーストを印刷したのち、PETフィルムからグリーンシートを剥離した。次いで、これらのグリーンシートと保護用グリーンシート(内部電極層用ペーストを印刷しないもの)とを積層、圧着してグリーン積層体を得た。内部電極を有するシートの積層数は100層とした。
【0082】
次に、グリーンチップを所定サイズに切断し、脱バインダ処理、焼成およびアニールを下記条件にて行って、チップ焼結体を得た。脱バインダ処理条件は、保持温度:260℃、雰囲気:空気中とした。焼成条件は、保持温度:1000℃、で行った。雰囲気ガスは、加湿したN+H混合ガスとし、雰囲気ガスの酸素分圧は、1×10−8Paとして、還元性ガスとした。アニール条件は、通常の条件で行った。
【0083】
次いで、積層セラミック焼成体の端面をサンドブラストにて研磨したのち、外部電極用ペーストを端面に転写し、加湿したN+H雰囲気中において、900℃にて焼成して外部電極を形成し、図1に示す構成の積層セラミックコンデンサのサンプルを得た。次いでSnメッキ膜、Niメッキ膜を外部電極表面に形成し、測定用サンプルを得た。
【0084】
このようにして得られた各サンプルのサイズは、3.2mm×1.6mm×1.6mmであり、内部電極層に挟まれた誘電体層の数は100、内部電極層の厚さは2μmであった。誘電体層について、X線回折装置を用いて、X線回折(XRD)パターンの測定を行うと、図4に示す一点鎖線で示すように、六方晶のチタン酸バリウムに特有のピークと共に、立方晶あるいは正方晶のチタン酸バリウムに特有のピークが現れた。
【0085】
また、図3に示すように、コア22aを透過電子顕微鏡により測定して電子解析を行うと、六方晶のチタン酸バリウムに特有のパターンが観察され、シェル24aを透過電子顕微鏡により測定して電子解析を行うと、正方晶または立方晶のチタン酸バリウムに特有のパターンが観察できた。すなわち、コアシェル構造を有することが確認できた。
【0086】
さらに、得られた実施例のコンデンササンプルについて、絶縁抵抗および比誘電率の評価を行った。結果を図6および図7の点線ex.1で示す。
実施例2
【0087】
焼成時の酸素分圧を10−4Paとした以外は、実施例1と同様にしてコンデンササンプルを製造し、同様な測定を行った。誘電体層について、X線回折装置を用いて、X線回折(XRD)パターンの測定を行うと、図4に示す点線で示すように、六方晶のチタン酸バリウムに特有のピークと共に、立方晶あるいは正方晶のチタン酸バリウムに特有のピークが現れた。ただし、立方晶あるいは正方晶のチタン酸バリウムに特有のピークは、実施例1に比較して低かった。これにより、立方晶あるいは正方晶のチタン酸バリウムから成る図2に示すシェル24aの厚みを制御できることが確認できた。
比較例1
【0088】
焼成時の酸素分圧を10−1Paとした以外は、実施例1と同様にしてコンデンササンプルを製造し、同様な測定を行った。誘電体層について、X線回折装置を用いて、X線回折(XRD)パターンの測定を行うと、六方晶のチタン酸バリウムに特有のピークのみが現れた。これにより、図2に示すシェルが形成されていない六方晶のチタン酸バリウム粒子および粒界で誘電体層が形成されていることが確認できた。得られた比較例のコンデンササンプルについて、絶縁抵抗および比誘電率の評価を行った。結果を図6および図7の実線cex.1で示す。
比較例2
【0089】
主成分原料粉として正方晶チタン酸バリウム粉を用いた以外は、実施例1と同様にしてコンデンササンプルを製造し、比誘電率を測定した。結果を図7の点線cex.2で示す。
評価1
【0090】
図6および図7に示すように、比較例1(cex.1)に比較して、実施例1(ex.1)では、絶縁抵抗が向上すると共に、比誘電率も向上し、しかも温度に対する特性の変化が少ないことが確認できた。また、比較例2(cex.2)に比較して、実施例(ex.1)では、全体的に、誘電率は低下するが、温度に対する特性の変化が大幅に少ないことが確認できた。
実施例3
【0091】
主成分原料粉としては、一般式(Ba1−α M1α (Ti1−β M2β で表される六方晶チタン酸バリウム粉で、α=0.003、β=0、M1=La、A/B=1.04のものを用いた。この六方晶チタン酸バリウム粉は、BaCO(比表面積:25m/g)、TiO(比表面積:50m/g)およびLa(OH)(比表面積:20m/g)を用い、減圧下で固相合成により製造した以外は、実施例1と同様にしてコンデンササンプルを製造し、実施例1と同様な測定を行った。
【0092】
すなわち、誘電体層について、X線回折装置を用いて、X線回折(XRD)パターンの測定を行うと、図4に示す一点鎖線で示すように、六方晶のチタン酸バリウムに特有のピークと共に、立方晶あるいは正方晶のチタン酸バリウムに特有のピークが現れた。
【0093】
また、図3に示すように、コア22aを透過電子顕微鏡により測定して電子解析を行うと、六方晶のチタン酸バリウムに特有のパターンが観察され、シェル24aを透過電子顕微鏡により測定して電子解析を行うと、正方晶または立方晶のチタン酸バリウムに特有のパターンが観察できた。すなわち、コアシェル構造を有することが確認できた。
【0094】
さらに、得られた実施例のコンデンササンプルについて、絶縁抵抗および比誘電率の評価を行った。結果を図8および図9の点線ex.3で示す。
比較例3
【0095】
焼成時の酸素分圧を10−1Paとした以外は、実施例3と同様にしてコンデンササンプルを製造し、同様な測定を行った。誘電体層について、X線回折装置を用いて、X線回折(XRD)パターンの測定を行うと、六方晶のチタン酸バリウムに特有のピークのみが現れた。これにより、図2に示すシェルが形成されていない六方晶のチタン酸バリウム粒子および粒界で誘電体層が形成されていることが確認できた。得られた比較例のコンデンササンプルについて、絶縁抵抗および比誘電率の評価を行った。結果を図8および図9の実線cex.3で示す。
評価2
【0096】
図8および図9に示すように、比較例3(cex.3)に比較して、実施例3(ex.3)では、比誘電率が低下するが、絶縁抵抗が向上すると共に、しかも温度に対する比誘電率および絶縁抵抗の両特性の変化が少ないことが確認できた。また、実施例3では、実施例1に比較して、大幅に比誘電率が向上することが確認できた。
実施例4
【0097】
元素M1として、La以外のDy、Gd、Ho、Y、Er、Yb、CeおよびBiのいずれかを用いる以外は、実施例3と同様にしてコンデンササンプルを製造し、同様な測定を行い、実施例3と同様な結果が得られることが確認できた。これらの元素は、Laと同様に、12配位時のBa2+の有効イオン半径に対して、±20%以内であり、Laと同様にBaと置換されたためと考えられる。
実施例5
【0098】
M2=Mn、0<β≦0.2とした以外は、実施例3と同様にしてコンデンササンプルを製造し、同様な測定を行い、実施例3と同様な結果が得られることが確認できた。特に0.03≦β≦0.2、さらに好ましくは0.03≦β≦0.1の場合に、特性が向上することが確認できた。
実施例6
【0099】
M2=Mn以外のGa、Cr、Co、Fe、Ir、Agとした以外は、実施例5と同様にしてコンデンササンプルを製造し、同様な測定を行い、実施例5と同様な結果が得られることが確認できた。これらの元素は、Mnと同様に、6配位時のTi4+の有効イオン半径に対して、±20%以内であり、Mnと同様にTiと置換されたためと考えられる。
実施例7
【0100】
A/Bを、0.900≦A/B<1.04とした以外は、実施例3と同様にしてコンデンササンプルを製造し、同様な測定を行い、実施例3と同様な結果が得られることが確認できた。
実施例8
【0101】
元素M2として、Mn以外のGa、Cr、Co、Fe、Ir、Agのいずれかを用いる以外は、実施例1と同様にしてコンデンササンプルを製造し、同様な測定を行い、実施例1と同様な結果が得られることが確認できた。これらの元素は、これらの元素は、Mnと同様に、6配位時のTi4+の有効イオン半径に対して、±20%以内であり、Mnと同様にTiと置換されたためと考えられる。
実施例9
【0102】
M1=La、0<α≦0.1とした以外は、実施例1と同様にしてコンデンササンプルを製造し、同様な測定を行い、実施例1と同様な結果が得られることが確認できた。特に0<α≦0.003の場合に、特性が向上することが確認できた。
実施例10
【0103】
M1=La以外のDy、Gd、Ho、Y、Er、Yb、CeおよびBiのいずれかを用いる以外は、実施例9と同様にしてコンデンササンプルを製造し、同様な測定を行い、実施例9と同様な結果が得られることが確認できた。
実施例11
【0104】
βを0.15以外で、0.003≦β≦0.2と変化させた以外は、実施例1と同様にしてコンデンササンプルを製造し、同様な測定を行い、実施例1と同様な結果が得られることが確認できた。
実施例12
【0105】
A/Bを、1.000以外で、0.900≦A/B≦1.04と変化させた以外は、実施例1と同様にしてコンデンササンプルを製造し、同様な測定を行い、実施例1と同様な結果が得られることが確認できた。
実施例13
【0106】
焼成時の酸素分圧を変化させるのではなく、正方晶BaTiO3 を添加物として加えることで、正方晶シェルを形成した以外は、実施例1と同様にしてコンデンササンプルを製造し、同様な測定を行った。誘電体層について、X線回折装置を用いて、X線回折(XRD)パターンの測定を行うと、正方晶BaTiO3 の添加量を変化させることで、図4に示すように、実施例1、実施例2および比較例1と同様に、立方晶あるいは正方晶のピークの現れ方が変化し、コアシェルの制御が可能であることが確認できた。
【符号の説明】
【0107】
1…積層セラミックコンデンサ
2…誘電体層
2a… 誘電体粒子
22a… コア
24a… シェル
2b… 粒界
3…内部電極層
4…外部電極
10…コンデンサ素子本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体粒子が形成された誘電体磁器組成物であって、
前記誘電体粒子が、
六方晶のチタン酸バリウムで構成されるコアと、
前記コアの外周に形成される立方晶または正方晶のチタン酸バリウムで構成されるシェルとを有する誘電体磁器組成物。
【請求項2】
前記六方晶のチタン酸バリウムが、
一般式(Ba1−α M1α (Ti1−β M2β で表され、
前記M1の有効イオン半径が、12配位時のBa2+の有効イオン半径に対して、±20%以内であり、
前記M2の有効イオン半径が、6配位時のTi4+の有効イオン半径に対して、±20%以内であり、
前記A、B、αおよびβが、0.900≦(A/B)≦1.040、0≦α≦0.10、0≦β≦0.2の関係を満足する請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項3】
前記立方晶または正方晶のチタン酸バリウムは、前記六方晶のチタン酸バリウムと結晶構造が異なるが、前記一般式(Ba1−α M1α (Ti1−β M2β で表される請求項2に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項4】
前記誘電体粒子の相互間には粒界が形成してあり、前記粒界および/または前記シェルには、添加元素が拡散してある請求項1〜3のいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
【請求項5】
誘電体層を有する電子部品であって、
前記誘電体層が、請求項1〜4のいずれかに記載の誘電体磁器組成物で構成されていることを特徴とする電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−116628(P2011−116628A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222704(P2010−222704)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【Fターム(参考)】