説明

誘電体粒子含有ニッケル粒子及びその誘電体粒子含有ニッケル粒子の製造方法

【課題】積層セラミックコンデンサの絶縁破壊の信頼性を向上させることのできる内部電極形成用のニッケル粒子の提供を目的とする。
【解決手段】上記課題を達成するため、ニッケルを母相として誘電体粒子を含有させた誘電体粒子含有ニッケル粒子を採用する。また、前記誘電体粒子含有ニッケル粒子は、平均一次粒子径が50nm〜200nmになるよう調製し、前記誘電体粒子には、誘電体粒子含有ニッケル粒子径に対して1/4以下の粒子径で、平均一次粒子径が5nm〜50nmのものを用い、ニッケル母相から含有された誘電体粒子の一部が突出している形態とする。そして、前記誘電体粒子含有ニッケル粒子は、ポリオール法を用いて、誘電体粒子を分散させた反応溶液から誘電体粒子を含有するようにニッケル母相を析出させて形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件出願は、誘電体粒子含有ニッケル粒子及びその誘電体粒子含有ニッケル粒子の製造方法に関する。特に積層セラミックコンデンサの内部電極形成に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
歴史的に見れば、積層セラミックコンデンサ(以下、「MLCC」と称する)の内部電極の形成に、パラジウム、白金等の貴金属が使用された時代もあった。ところが、当該MLCCの高容量化に対する要求が顕著となり、積層層数の増加が求められ、より安価な内部電極材料が必要となり、内部電極材料としてのニッケル粒子が多用されている。例えば、特許文献1にあるように、MLCCの内部電極形成にニッケル粒子の使用が開示されている。
【0003】
特許文献2に開示されているように、このMLCCは、積層された複数のセラミック層の界面に内部電極と誘電層とを、層状に交互に配した積層状態のチップ状コンデンサである。そして、このMLCCは、セラミック層(誘電層)となるグリーンシート上に、導電性ペーストを用いて、内部電極となる導電膜を印刷等により形成し、この導電膜が形成されたグリーンシートを複数積層し、セラミックの焼成可能な温度で焼成して製造される。
【0004】
そして、上記焼成を行う際には、以下のような問題が存在した。内部電極の形成に使用するニッケル粒子は、バインダー中に分散して導電性ぺーストとなり、この導電性ペーストは基板上に印刷され、還元雰囲気中で900℃以上の温度で焼成される。この焼成にあたっては、グリーンシー卜の焼結に伴う収縮量がニッケル膜の収縮に比べて小さいため、焼結の進行に伴いニッケル膜が途切れて不連続になり、内部電極として機能しなくなる問題が存在した。
【0005】
さらに、セラミック層(誘電層)となるグリーンシートと、その上にある導電膜とをセラミックの焼成可能温度で焼成すると、内部電極の構成成分であるニッケル成分が、セラミック層内に拡散侵入して、内部電極厚さのバラツキ、誘電特性のバラツキを生じる原因となる場合がある。この問題に関しては、特許文献3にあるように、酸化物形成処理として湿式法を採用して化学的手法で、ニッケル粒子表面上にTiO、MnO、Cr、Al、SiO、Y、ZrO、BaTiOのうちから選ばれる少なくとも1種以上の酸化物が存在する複合ニッケル微粉末が開示されている。その他類似の手法で、粒子表面に酸化物層等を形成する手法が特許文献4に開示されている。
【0006】
しかしながら、近年のMLCCには、高容量化及び小型化が求められ、より薄い内部電極を形成する必要があり、焼成後で2μm〜3μm以下の内部電極とするのが理想的とされてきた。このように内部電極を薄層化したときの問題点は、MLCCの絶縁破壊に対する信頼性が低下することにある。この信頼性を向上させるためには、MLCCの薄層化が進むほど、セラミック層(誘電体層)の厚みも薄くなるためニッケル電極膜表面の粗さ(凹凸)の影響があることも考えざるを得ない。
【0007】
また、MLCCが小型化して、高容量を求められるようになると、その電気容量等の品質に関してのバラツキがより小さいことも製品としての信頼性を高める上で重要となる。即ち、上記特許文献3及び特許文献4に開示の発明は、湿式プロセスで粒子表面に酸化物誘電層(セラミック層)を形成している。従って、粒子表面はおおむね均一に酸化物誘電層が被覆するのが通常である。このような粒子で内部電極を構成すれば、セラミック層(誘電層)となるグリーンシートとその上にある導電膜とをセラミックの焼成可能温度で焼成しても、内部電極の構成成分であるニッケル成分が、セラミック層内に拡散侵入することが防止でき、誘電層の電気容量等の信頼性は向上する。ところが、一方では、粒子表面を均一に酸化物で被覆すると、酸化物は本来導電性を発揮しないため、内部電極の導電膜としての抵抗が上昇するのは明らかであり、好ましくない。
【0008】
そこで本件発明者等は、MLCCの製造工程においてセラミック層(誘電層)となるグリーンシートと内部電極となる導電膜とをセラミックの焼成可能温度で焼成する限り、その成分間での相互拡散を完全に防止することは困難であると認識した。
【0009】
【特許文献1】特開2005−216797号公報
【特許文献2】特開平5−243079号公報
【特許文献3】特開平11−343501号公報
【特許文献4】特開平11−124602号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述のように、従来技術の、酸化物誘電層を粒子表面に形成したニッケル粒子では、導電性を阻害するのみならず、分散処理などの工程で強い剪断応力がかかった場合には被覆誘電体粒子が脱落して所期の耐熱特性が得られなくなるという難点も有していた。従って、使用方法によらず安定した耐熱特性が得られるMLCCの内部電極用材料が必要とされていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本件発明者等は鋭意研究の結果、従来技術の難点である誘電体粒子の脱落を防止したMLCCの内部電極形成用導電粒子として、以下に述べる誘電体粒子含有ニッケル粒子に想到したのである。尚、本願発明でいう「ニッケル粒子」とは、その内容によって、個々の粒子、又はその集合(粉末)のいずれをも意味している。
【0012】
本件発明に係る誘電体粒子含有ニッケル粒子: 本件発明に係る誘電体粒子含有ニッケル粒子は、ニッケルを母相としてその内部に誘電体粒子を複数含有していることを特徴としている。
【0013】
本件発明に係る誘電体粒子含有ニッケル粒子においては、誘電体粒子含有ニッケル粒子に含有されている前記誘電体粒子の一次粒子径は、当該誘電体粒子含有ニッケル粒子の一次粒子径の1/4以下であることが好ましい。
【0014】
本件発明に係る誘電体粒子含有ニッケル粒子においては、前記誘電体粒子含有ニッケル粒子に含有されている前記誘電体粒子のうち、ニッケル母相から前記誘電体粒子の一部が突出している部分の高さは、当該誘電体粒子の一次粒子径の1/2以下であることも好ましい。
【0015】
本件発明に係る誘電体粒子含有ニッケル粒子においては、平均一次粒子径が50nm〜200nmであり、且つ、前記誘電体粒子が平均一次粒子径が5nm〜50nmである組み合わせを採用することが好ましい。
【0016】
本件発明に係る誘電体粒子含有ニッケル粒子においては、前記誘電体粒子は、ペロブスカイト構造を持つ複合酸化物からなる誘電体粒子であることが好ましい。
【0017】
本件発明に係る誘電体粒子含有ニッケル粒子においては、比表面積が3m/g〜20m/gであることを特徴としている。
【0018】
また、本件発明に係る誘電体粒子含有ニッケル粒子においては、タップ充填密度が2g/cm〜5g/cmであることが好ましい。
【0019】
以上に述べてきた本件発明に係る誘電体粒子含有ニッケル粒子においては、前記誘電体成分の含有量が5.0wt%〜20.0wt%であることが好ましい。
【0020】
本件発明に係る誘電体粒子含有ニッケル粒子の製造方法: 本件発明に係る誘電体粒子含有ニッケル粒子の製造方法は、誘電体粒子が分散している反応溶液中で核ニッケル粒子の析出反応を起こさせることにより、母相としての核ニッケル粒子内に誘電体粒子を複数含有させることを特徴としている。
【0021】
前記核ニッケル粒子の析出反応にはポリオール法を用いることが好ましい。
【0022】
そして、前記ポリオール法は、ニッケル塩、ポリオール、貴金属触媒を含む前記反応溶液を反応温度まで加熱し、該反応温度を維持しながら該反応溶液中のニッケルイオンを還元してニッケルを析出させるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
以上に述べた誘電体粒子含有ニッケル粒子は、母相に導電性を有するニッケルを用い、その誘電体粒子含有ニッケル粒子径を基準として、粒子径が1/4以下である誘電体粒子をニッケル母相に複数含有したものである。このような誘電体粒子含有ニッケル粒子は、ニッケル母相の内部に導電性に劣る当該誘電体粒子が含有されてその一部分が突出状態にあっても、母相であるニッケルが露出していて導電性が発揮でき、且つ誘電体粒子の脱落が起きにくいものとなる。その結果、この誘電体粒子含有ニッケル粒子を用いてMLCCの内部電極を形成した際には、ニッケル成分の誘電体層への拡散を防止しつつ、且つ、電極導体部の導電性を確保することができ、誘電体粒子の脱落がないことにより安定した耐熱特性が得られる。
【0024】
更に、本件発明に係る誘電体粒子含有ニッケル粒子の製造方法は、核ニッケルを誘電体粒子が分散している反応溶液中で析出させることにより、ニッケルを母相として誘電体粒子を複数含有させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本件発明に係る誘電体粒子含有ニッケル粒子等の実施形態に関して説明する。
【0026】
本件発明に係る誘電体粒子含有ニッケル粒子の形態: 本件発明に係る誘電体粒子含有ニッケル粒子は、nmオーダーの微細なニッケル母相の内部に更に細かい誘電体粒子を含有させたものである。このような、ニッケル母相と誘電体粒子との組み合わせを選択することにより、ニッケル母相の内部に導電性に劣る当該誘電体粒子が含有されて、その一部分が突出状態にあっても、母相であるニッケルが露出していて導電性を発揮でき、且つ誘電体粒子の脱落が起きにくいものとなる。従って、本件発明に係る誘電体粒子含有ニッケル粒子を内部電極となる導電膜に用いると、セラミック層(誘電層)となるグリーンシートと同時焼成しても、セラミック層へのニッケル成分の熱拡散を最小限にして、形成した内部電極の電気抵抗を低くすることができる。
【0027】
本件発明に係る誘電体粒子含有ニッケル粒子においては、誘電体粒子含有ニッケル粒子に含有されている前記誘電体粒子の一次粒子径は、当該誘電体粒子含有ニッケル粒子の一次粒子径の1/4以下であることが好ましい。ここで、あらためてニッケルに含有される誘電体粒子は、単一分散状態にあるものではなく、疑似凝集状態にあることに注意を向けてみる。即ち、前記誘電体粒子の一次粒子径が、当該誘電体粒子含有ニッケル粒子の一次粒子径の1/4であったとすると、2個凝集していればそれだけで誘電体粒子含有ニッケル粒子径の1/2を占めてしまうことになり、誘電体粒子の脱落の危険性が高まってしまうのである。従って、前記誘電体粒子の一次粒子径は、当該誘電体粒子含有ニッケル粒子の一次粒子径の1/4以下であることが好ましく、一定の粒径分布を有していることにより、充填性の良好な状態であることがより好ましくなるのである。しかし、誘電体粒子は、小さければ小さいほど好ましいものでもない。すなわち、粒子径の下限は、後述するように、MLCCを焼結する際に、ニッケルがセラミックス層に拡散することを防止できる効果を、期待通りに達成できる範囲となる。この理由から、前記誘電体粒子の一次粒径は、当該誘電体粒子含有ニッケル粒子の一次粒子径の1/10以上であることが好ましい。
【0028】
そして、上記誘電体粒子の一次粒子径が誘電体粒子含有ニッケル粒子径の1/4以下であるものを用いたとしても、入手した状態では一般的に疑似凝集状態にあることが多い。従って、予め予備解砕を施して分散させておくことが、誘電体粒子含有ニッケル粒子内への誘電体粒子の含有状態をバラツキの少ないものとするためには好ましい。特に凝集性が強い場合には、溶剤などを用いて分散状態を維持し、そのままもしくは固液分離して直後に使用することがより好ましい。
【0029】
本件発明に係る誘電体粒子含有ニッケル粒子においては、前記誘電体粒子含有ニッケル粒子に含有されている前記誘電体粒子のうちニッケル母相から前記誘電体粒子の一部が突出している部分の高さは、当該誘電体粒子の一次粒子径の1/2以下であることも好ましい。本件発明で用いている誘電体粒子はほぼ真球に近い形状で得られるものであるため、誘電体粒子含有ニッケル粒子からの脱落の危険性を回避するには、ニッケル層からの突出高さは当該誘電粒子径の1/2以下とすることが好ましいのである。
【0030】
そして、本件発明に係る誘電体粒子含有ニッケル粒子において、当該誘電体粒子含有ニッケル粒子の平均一次粒子径が50nm〜200nmであり、且つ、含有されている前記誘電体粒子の平均一次粒子径が5nm〜50nmとなる組み合わせを採用することが好ましい。ここで誘電体粒子含有ニッケル粒子の平均一次粒子径を50nm未満としたのは、誘電体粒子の一次粒子径にはバラツキがあるため、誘電体粒子含有ニッケル粒子が誘電体粒子を複数含有できるための下限の平均一次粒子径であると考えたのである。一方、誘電体粒子含有ニッケル粒子の平均一次粒子径が200nmを超える場合には、MLCCの内部電極としての表面平滑性が損なわれ、粗い表面となるため、物理的にセラミック層との密着性が得られにくくなるため好ましくない。そして、誘電体粒子含有ニッケル粒子に含有させる誘電体粒子の平均一次粒径が5nm未満の場合には、グリーンシートとその上にある誘電体粒子含有ニッケル粒子を用いた導電膜とを同時焼成したとき、含有されている誘電体粒子が加熱から受ける影響が大きくなり、セラミック層内への拡散が大きくなってニッケル成分の拡散を防止し得なくなる。一方、当該誘電体粒子の平均一次粒径が50nmを超える場合には、誘電体粒子含有ニッケル粒子に含有される粒子数が少なくなると同時に誘電体粒子が脱落しやすい状態になるために好ましくない。
【0031】
また、本件発明に係る誘電体粒子含有ニッケル粒子においては、前記誘電体粒子は、ペロブスカイト構造を持つ複合酸化物からなる誘電体粒子であることが好ましい。ペロブスカイト構造を持つ複合酸化物は、MLCCの誘電層であるセラミック層に予め含まれている材料であり、その誘電体成分がセラミック層内に拡散しても、ニッケル成分が拡散した場合のような誘電特性の劣化を引き起こさないからである。ここでいうペロブスカイト構造を持つ複合酸化物とは、BaTiO(通称BT)、SrTiO、Pb(Zr−Ti)O(通称PZT)、PbLaTiO・PbLaZrO(通称PLZT)、SrBiTa(通称SBT)、CaZrO(通称CZ)、CaTiO(通称CT)、BaZrO(通称BZ)、(Ba,Ca)(Ti,Zr)O等のことである。
【0032】
本件発明に係る誘電体粒子含有ニッケル粒子においては、比表面積が3m/g〜20m/gであることが好ましい。本件発明の誘電体粒子含有ニッケル粒子においては、ニッケル母相の表面に誘電体粒子がどの程度突出しているか否かの判断指標として用いることができる。比表面積が3m/g未満の場合には、ニッケル母相への誘電体粒子含有が不足しており、MLCCのセラミック層に対するニッケル成分の拡散を防止し得ない。一方、比表面積が20m/gを超える場合には、誘電体粒子の突出が多くて脱落の危険性が高くなり、誘電体粒子の脱落が発生してしまうと誘電体含有比率が低下して十分な耐熱特性を得られない。
【0033】
また、本件発明に係る誘電体粒子含有ニッケル粒子においては、タップ充填密度が2g/cm〜5g/cmである。このタップ充填密度も、ニッケル母相が良好に誘電体粒子を含有しているか否かの判断指標として用いることができる。即ち、ニッケル母相の表面に誘電体粒子が多く突出した誘電体粒子含有ニッケル粒子ほど、タップ充填密度が低くなる傾向があるからである。従って、タップ充填密度が2g/cm未満の場合には、誘電体粒子が多く突出した誘電体粒子含有ニッケル粒子であり、事後的にニッケル粒子表面から誘電体粒子が脱落しやすい傾向にあり、耐熱特性の安定性に欠ける。一方、タップ充填密度が5g/cmを超える場合には、ニッケル母相への誘電体粒子の含有が不足しており、MLCCのセラミック層に対するニッケル成分の拡散を防止し得ない。
【0034】
そして、以上に述べてきた本件発明に係る誘電体粒子含有ニッケル粒子の、前記誘電体成分含有量は5.0wt%〜20.0wt%であることが好ましい。前記誘電体成分の含有量が5.0wt%未満の場合には、結果としてニッケル母相への誘電体粒子含有が不足しており、MLCCのセラミック層に対するニッケル成分の拡散を防止できない傾向となる。これに対し、前記誘電体成分の含有量が20.0wt%を超えるようにしようとすると、誘電体粒子が脱落しやすいのみならず、誘電体粒子含有ニッケル粒子を用いたペースト膜を焼成して得られる導電膜の電気抵抗が大きくなり、MLCCとしての品質バラツキが大きくなるために好ましくない。
【0035】
本件発明に係る誘電体粒子含有ニッケル粒子の製造形態: 本件発明に係る誘電体粒子含有ニッケル粒子の製造方法は、誘電体粒子が分散している反応溶液中でニッケル核粒子の析出反応を起こさせることにより、母相としての核ニッケル粒子内に誘電体粒子を複数含有させることを特徴としている。前記反応溶液中に分散させる誘電体粒子には、一次粒子径が5nm〜50nmであるペロブスカイト構造を持つ複合酸化物を用い、反応溶液中の誘電体粒子濃度を0.05wt%〜1wt%とする。この反応溶液中の誘電体粒子濃度が、下限である0.05wt%を下回ると、工業的生産性が劣ることになるばかりか、析出するニッケル母相への誘電体粒子取り込み量が不安定となり、誘電体粒子含有ニッケル粒子が含有する誘電体粒子量が5wt%を切ってしまうこともあり得るのである。すると前述のようにMLCCのセラミック層に対するニッケル成分の拡散を防止できない傾向となる。上限濃度である1wt%を超える濃度では、析出するニッケル母相への誘電体粒子の取り込み量が多くなりすぎ、誘電体粒子含有ニッケル粒子が含有する誘電体粒子量が20wt%を超えてしまう。この場合は、誘電体粒子含有ニッケル粒子に含有される誘電体粒子が脱落しやすい形態となる。そして、このときの誘電体粒子含有ニッケル粒子を用いたペースト膜を焼成して得られる導電膜の電気抵抗が大きくなり、MLCCとしての品質バラツキが大きくなるために好ましくないことは前述の通りである。上記観点から、反応溶液に分散させる誘電体粒子の、より好ましい濃度は0.05wt%〜1wt%である。
【0036】
前記、核ニッケル粒子の析出反応には、ポリオール法を用いることが好ましい。従って、ポリオール法と称される手法の全てを使用できるが、中でも、以下に述べる条件下で行う核ニッケル粒子の析出条件が好ましい。ポリオール法を採用することにより、他の手法を用いて得られる核ニッケル粒子と対比して考えると、シャープな粒度分布を持ち且つ微粒の誘電体粒子含有ニッケル粒子を得ることが可能である。
【0037】
そして、前記ポリオール法は、ニッケル塩、ポリオール、貴金属触媒を含む前記反応溶液を反応温度まで加熱し、該反応温度を維持しながら該反応溶液中のニッケルイオンを還元してニッケルを析出させるものである。
【0038】
本件発明で用いる前記反応溶液の調整をより具体的にいえば、上述のようにニッケル塩及びポリオールを含むものであり、例えば、水にニッケル塩及びポリオールを投入し攪拌し、混合することにより調製することができる。なお、反応溶液に、貴金属触媒を配合する場合に、貴金属触媒が硝酸パラジウム等のように水溶液として存在するときは、水なしでニッケル塩、ポリオール及び貴金属触媒を混合するだけで調製することができる。また、反応溶液は、ニッケル塩及びポリオールを混合し、更に貴金属触媒を混合する場合において、例えば、ニッケル塩及びポリオールの一部、更に貴金属触媒や後述の分散剤を予備混合してスラリーを調製し、該スラリーとポリオールの残部とを混合して、反応溶液を調整することもできる。以下、これらの構成成分に関して順に説明する。
【0039】
ニッケル塩: 本件発明で用いられるニッケル塩としては、特に限定されるものなく、例えば、水酸化ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル、臭化ニッケル及び酢酸ニッケル等が挙げられる。このうち、水酸化ニッケルが特に好ましい。MLCCの内部電極を焼成して形成する際に、ガス発生が少なく、形成されたニッケル膜の膜密度を良好に保ち、当該ニッケル膜の表面粗さを小さくできるからである。そして、本件発明において、上記ニッケル塩は、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることも可能である。
【0040】
そして、このときの反応溶液中のニッケル塩濃度は、反応溶液中のニッケルとして0.1wt%〜20wt%濃度とすることが好ましい。ニッケル濃度が0.1wt%未満の場合には、誘電体粒子含有ニッケル粒子の工業的生産性を満足しないばかりか、還元析出する誘電体粒子含有ニッケル粒子の、粒度分布のバラツキが大きくなる傾向になり、好ましくない。一方、ニッケル濃度が20wt%を超えると、誘電体粒子含有ニッケル粒子の還元析出が速くなり、良好な粒度分布を持つ誘電体粒子含有ニッケル粒子を得ることが困難となる傾向が生じる。
【0041】
ポリオール: 本発明で用いられるポリオールは、炭化水素鎖及び複数の水酸基を有する物質をいう。該ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール1,5−ペンタンジオール、及びポリエチレングリコールからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。このうちエチレングリコールは、沸点が低く、常温で液状であり、取り扱い性に優れるため好ましい。本発明においてポリオールは、ニッケル塩に対する還元剤として作用すると共に、溶媒としても機能するものである。
【0042】
そして、このポリオールの反応溶液中の含有量は、還元剤という観点で考えれば反応溶液中のニッケル量に応じて適宜調整されるものであるために、特段の限定を設ける必要性はないものと考える。しかしながら、溶媒として機能させようとする場合には、反応溶液中のポリオール濃度により反応溶液の性状に変化をもたらすために、ある一定の適正な濃度範囲が存在する。本件発明で用いる反応溶液中で、当該反応溶液に対して、ポリオール濃度が50wt%〜99.8wt%の範囲となるように含ませることが好ましい。ポリオール濃度が50wt%未満の場合でも、上記ニッケル濃度の下限量を還元析出させるためには十分であるが、還元反応が起こる際の反応溶液の性状として、不均一還元が起きやすく、シャープな粒度分布を備える誘電体粒子含有ニッケル粒子の製造が困難となる。一方、ポリオール濃度が99.8wt%を超えて添加しても特段の問題はないが、上記ニッケル濃度範囲での還元剤としての必要量を超えるため、資源の無駄遣いとなる。
【0043】
カルボン酸類又はアミン類: そして、本件発明に係る誘電体粒子含有ニッケル粒子の製造方法で用いる前記反応溶液は、ニッケル100重量部に対して、カルボキシル基及び/又はアミノ基を含むカルボン酸類又はアミン類を、通常0.1重量部〜30重量部、好ましくは1重量部〜10重量部含む。カルボキシル基及び/又はアミノ基を含むカルボン酸類又はアミン類の配合量が該範囲内にあると、得られる誘電体粒子含有ニッケル粒子が凝集し難く、粒度分布がシャープになりやすく好ましい。即ち、上記配合量が0.1重量部未満であると、凝集抑制効果が小さいため好ましくない。また、該配合量が30重量部を超えると、凝集が顕著になり好ましくない。
【0044】
本件発明に係る誘電体粒子含有ニッケル粒子の製造方法で用いる、前記反応溶液に添加する前記カルボキシル基及び/又はアミノ基を含むカルボン酸類又はアミン類は、以下に述べる群から選ばれた1種又は2種以上を用いることが好ましい。
【0045】
本件発明では、上記反応溶液を還元温度まで加熱して、該反応溶液中のニッケル塩を還元し、誘電体粒子含有ニッケル粒子を製造するが、前記反応溶液を昇温加熱し前記還元温度に達する前の段階で、該反応溶液中にカルボキシル基及び/又はアミノ基を含むカルボン酸類又はアミン類を添加する。従って、本発明で用いられるカルボキシル基及び/又はアミノ基を含むカルボン酸類又はアミン類は、その沸点又は分解点が還元温度以上のものであればよく、特に限定は要さない。しかしながら、以下に述べる群より選択使用することが、製造工程の変動を受けにくく、安定した製造が可能となる。
【0046】
カルボン酸類としては、芳香族カルボン酸類、脂肪族カルボン酸類に属するものを用いることが好ましい。より具体的にいえば、芳香族カルボン酸類としては、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフトエ酸、トルイル酸、ヒドロキシ安息香酸の使用が好ましい。また、脂肪族カルボン酸類としては、例えば、デカン酸、ドデカン酸、セバシン酸、オレイン酸、オレイン酸アミド、アスコルビン酸の使用が好ましい。なお、構造異性体が存在する場合には、これらを全て含む。
【0047】
そして、上記カルボン酸類の場合に、芳香族カルボン酸類を用いると、還元析出した誘電体粒子含有ニッケル粒子の、粒子同士の凝集を抑制する効果が高く好ましい。更に、ベンゼン環にカルボキシル基が直接結合している芳香族カルボン酸類がパラ体のものも、粒子凝集を抑制する立体障害としての機能が大きくなり、粒子同士の凝集作用を抑制し、粒度分布がよりシャープになり好ましい。
【0048】
本発明で用いられるアミン類としては、芳香族アミン、脂肪族アミンに属するものを用いることが好ましい。より具体的にいえば、芳香族アミンとしては、アニリン、トルイジン、ジアミノベンゼン、アミノベンズアミド、アミノフェノール、4−アミノベンゼンヒドラジド、アミノサリチル酸を用いることが好ましい。また、本発明で用いられる脂肪族アミンとしてはアミノデカン、アミノドデカン、オクチルアミン、オレイルアミンを用いることが好ましい。なお、構造異性体が存在する場合には、これらを全て含む。
【0049】
そして、上記アミン類として芳香族アミンを用いると、還元析出した誘電体粒子含有ニッケル粒子の、粒子同士の凝集を抑制する効果が高く好ましい。また、芳香族アミンのうち、ベンゼン環にアミノ基が直接結合しているものである場合には、還元析出した誘電体粒子含有ニッケル粒子の、粒子同士の凝集を抑制する効果が特に高く好ましい。更に、ベンゼン環にアミノ基が直接結合している芳香族アミンがパラ体のものであると、粒子凝集を抑制する立体障害としての機能が大きくなり、粒子同士の凝集作用を抑制し、粒度分布がよりシャープになり好ましい。
【0050】
貴金属触媒: 本発明で用いる貴金属触媒は、上記反応溶液中において、ポリオールによるニッケル塩の還元反応を促進するものであり、前記反応溶液は、ニッケル100重量部に対して、貴金属触媒を0.001重量部〜1重量部含ませることが好ましい。貴金属触媒が0.001重量部未満の場合には、還元反応の促進ができず、貴金属触媒を用いる意義が没却する。そして、貴金属触媒が1重量部を超えるものとすると、反応溶液中のニッケル濃度等との関係において、還元反応を促進し向上させることはできず、資源の無駄遣いとなる。
【0051】
そして、本件発明にいう貴金属触媒とは、A)塩化パラジウム、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム、塩化アンモニウムパラジウム等のパラジウム化合物、B)硝酸銀、乳酸銀、酸化銀、硫酸銀、シクロヘキサン酸銀、酢酸銀等の銀化合物、C)塩化白金酸、塩化白金酸カリウム、塩化白金酸ナトリウム等の白金化合物、D)塩化金酸、塩化金酸ナトリウム等の金化合物等である。このうち、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム、硝酸銀又は酢酸銀は、原料コストが安価で製造コストを低くできるため好ましい。そして、上記触媒は、反応溶液に、上記化合物の形態で又は当該化合物の溶解させた溶液の形態で添加して用いることができる。
【0052】
その他添加剤: 以上に、反応溶液の必須構成成分を述べてきた。その他、種々の添加剤を用いようとすれば反応溶液中に含ませることは可能である。しかしながら、その添加剤の中でも、分散剤を必要に応じて添加することが好ましい。この分散剤は、反応溶液中に還元析出した誘電体粒子含有ニッケル粒子が反応溶液中で自然に凝集し、粒度分布の悪化を防止するため、析出した粒子表面に吸着させ凝集防止バリアを形成するためのものである。
【0053】
ここでいう分散剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド、ポリ(2−メチル−2−オキサゾリン)等の含窒素有機化合物、及びポリビニルアルコールを用いることが可能である。中でも、ポリビニルピロリドンは、分散剤としての効果が顕著であり、得られる誘電体粒子含有ニッケル粒子の粒度分布をシャープに維持できるため好ましい。
【0054】
また、本発明において、上記分散剤は、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。そして、前記反応溶液は、ニッケル100重量部に対して、分散剤を0.01重量部〜30重量部含むものとすることが好ましい。分散剤の量が0.01重量部未満の場合には、反応溶液中に還元析出した誘電体粒子含有ニッケル粒子の凝集防止効果を得ることができない。一方、分散剤の量が30重量部を超えものとして用いても、反応溶液中に還元析出した誘電体粒子含有ニッケル粒子の凝集防止効果は向上せず、むしろ、析出した誘電体粒子含有ニッケル粒子の表面に多量の分散剤が残留するため、不純物量が増加して、この誘電体粒子含有ニッケル粒子を用いて導電性ペーストを調整し、これで形成した導体膜の電気抵抗の上昇を引き起こすことになる。
【0055】
還元温度: 本件発明に係る誘電体粒子含有ニッケル粒子の製造方法で用いる還元温度は、通常150℃〜210℃の範囲を採用する。還元温度が150℃未満であると、還元反応が遅くなり工業的生産性を満足しない。また、還元温度が210℃を超えると、還元速度のコントロールが不可能な範囲となり、同時に炭化ニッケルの析出が見られるため好ましくない。そして、より好ましくは160℃〜200℃、更に好ましくは180℃〜200℃の還元温度を採用することが好ましい。還元温度が該範囲内にあると、量産工程における温度、反応溶液組成等に若干の変動が存在しても、得られる誘電体粒子含有ニッケル粒子の品質変動が少なく、工程安定性に優れる。
【0056】
そして、上記還元温度に到達した反応溶液は、還元が終了するまで還元温度で維持する。このときの維持時間は、反応溶液の組成や還元温度により適切な時間が異なるため一概に特定できないが、通常1時間〜10時間、好ましくは3時間〜8時間である。反応溶液を上記還元温度に維持する時間が該範囲内であると、誘電体粒子含有ニッケル粒子の核の成長が適度に抑制され、同時に誘電体粒子含有ニッケル粒子の核が多数発生しやすい反応系となる。従って、この系内での誘電体粒子含有ニッケル粒子の粒成長が略均一となるため、得られる誘電体粒子含有ニッケル粒子が粗大粒子になったり、凝集したりすることを抑制することができる。従って、上述の反応溶液組成及び還元温度範囲を採用することを前提として考えると、維持時間が1時間未満の場合には還元が終了せず、廃液にニッケルが多量に残留し、廃液処理の負荷が増大すると共に、資源としてのニッケルの無駄となる。一方、維持時間が10時間を超えるものとしても、それ以上にニッケルの還元析出は起こらず、反応溶液中のニッケル量も極微量まで減少し消費されている。しかし、工業的生産性を考慮し、提供製品としての誘電体粒子含有ニッケル粒子の品質バラツキを最小限にするためには、維持時間を3時間〜8時間とすることが好ましい。なお、本発明では、上記還元温度及び維持時間を採用すれば、これ以後は、反応溶液の温度を上記還元温度の範囲外の温度にしてもよい。例えば、還元反応の速度を向上させるために、反応溶液の温度を上記還元温度を超える温度にしてもよい。
【0057】
以上に述べてきた反応溶液を用い、上述の工程を経て得られる誘電体粒子含有ニッケル粒子は、誘電体粒子の一部がニッケル母相から突出した部分を有する誘電体粒子含有ニッケル粒子で構成される、粒度分布の良好な誘電体粒子含有ニッケル粒子となる。このような導電性粉体を用いてMLCCの内部電極を形成すると、導電粒子同士の接触点に誘電体粒子が介在することになり、ニッケル単体粒子を用いた際に問題になるニッケル粒子同士の焼結を防ぐことができる。
【実施例】
【0058】
<実施例1>
反応溶液の調整: 反応容器に張り込まれたエチレングリコール(三井化学株式会社製)445g中に、水酸化ニッケル(OM Group株式会社製)31g、ポリビニルピロリドン(PVP)K30(和光純薬工業株式会社製)1.68g、10g/L硝酸パラジウム溶液(田中貴金属工業株式会社製)1.3mL、p−トルイジン(関東化学株式会社製)1.0gと平均一次粒子径が20nmのチタン酸バリウム粉末1.8gを加え、調製した。
【0059】
誘電体粒子含有ニッケル粒子の製造: 前記反応溶液を、攪拌しながら190℃で12時間加熱し、誘電体粒子含有ニッケル粒子を含むスラリーを得た。このスラリーを純水でデカンテーションを行い、ヌッチェで吸引濾過後80℃×5時間乾燥させて誘電体粒子含有ニッケル粒子を得た。
【0060】
上記により得られた誘電体含有ニッケル粒子の平均一次粒子径、体積累積粒径D50、比表面積、タップ充填密度、収縮開始温度及び誘電体粒子の脱離のしやすさ(誘電体減少率)を測定した。結果を表1に示す。
【0061】
主な評価方法を以下に示す。
平均一次粒子径:旭エンジニアリング株式会社製高精細画像解析装置IP−1000PCを用いて100個の粒子をサンプリングして測定した。
体積累積粒径D50:日機装製マイクロトラックHRA−X100にサンプル少量を取り、サンノプコ製SNディスパーサント5468の0.1%溶液中で5分間超音波で分散後、レーザー回折散乱式粒度分布測定法を用いた。
比表面積:B.E.T.法を用いた。
タップ充填密度:蔵持科学器械製作所製KRS−406に、サンプル120gを入れた150ccのメスシリンダーをセットし、40mmのストロークで400回タップした後の容積を測定し、密度を計算した。
収縮開始温度:粉末0.5gを油圧プレスを用いてφ5mm、厚さ約5mmのペレットに成形し、セイコーインスツル株式会社製TMA/SS6300を用いてTMAを測定し、収縮開始温度を求めた。
誘電体減少率:粉末50gにメタノール50gを加え、ビーズミルを用いて3時間の分散処理を実施した。ここで用いたビーズはφ1mmのジルコニア製である。分散処理後の粉末をメタノールでデカンテーション洗浄を行い、この分散処理前後のチタン酸バリウム含有量の比較を行い、誘電体減少率を求めた。
【0062】
表1は、実施例にて得られた誘電体含有ニッケル粒子と、比較例にて得られた誘電体付着ニッケル粒子の評価結果を比較対照しやすいように、実施例1,実施例2及び比較例で得られたデータの一覧表とした。
【0063】
【表1】


<実施例2>
【0064】
実施例2では、誘電体粒子含有ニッケル粒子の製造を、用いたチタン酸バリウムの平均一次粒子径を10nmとした以外は、実施例1と同一条件で実施した。
【0065】
上記により得られた誘電体含有ニッケル粒子に対して、実施例1と同様の評価を実施した。結果を表1に示す。
【0066】
<比較例1>
比較例では、ニッケル粒子に誘電体粒子が付着した構成の誘電体粒子付着ニッケル粒子を形成した。
【0067】
ニッケル粒子の調整: ここでは芯材として、平均一次粒子径が100nmのニッケル粒子を用いることとした。このニッケル粒子の調整に関して、以下に述べる。ここで用いている原材料のうち実施例と共通の材料には同じものを用いた。
【0068】
反応容器に張り込まれたエチレングリコール445g中に、水酸化ニッケル31g、ポリビニルピロリドン(PVP)2.15g、0.84g/Lの硝酸パラジウム溶液0.3mLを添加し、攪拌しながら190℃で12時間加熱してニッケル粒子を得た。このニッケル粒子を含んだスラリーを、純水でデカンテーションを行い、ヌッチェで吸引濾過後80℃×5時間乾燥させてニッケル粒子を得た。
【0069】
誘電体粒子付着ニッケル粒子の製造: 上記ニッケル粒子90gと、一定量の平均一次粒子径が20nmのチタン酸バリウム誘電体粒子10gとを、ハイブリダイゼーションシステムの処理槽内に装填し、回転数6000rpm×5分間の粒子衝突を起こさせることで固着処理を行い、ニッケル粒子の表面に誘電体粒子を付着させて誘電体粒子付着ニッケル粒子を得た。
【0070】
上記により得られた誘電体付着ニッケル粒子に対して、実施例1と同様の評価を実施した。結果を表1に示す。
【0071】
上記、実施例及び比較例の結果から明らかなとおり、実施例の誘電体粒子含有ニッケル粒子は、誘電体減少率が5%程度と小さく、比較例に比べ、誘電体の脱落が少なく、導電性の確保のみならず、耐熱特性にも優れるものである。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本件発明に係る誘電体粒子含有ニッケル粒子はnmレベルの微粒であり、ニッケルを母相として、比較的大きな粒径の突出した誘電体粒子を含有している。このような誘電体粒子含有ニッケル粒子を、積層セラミックコンデンサの内部電極の形成に用いると、そのニッケル成分がセラミック層に拡散しにくい。そのため、積層セラミックコンデンサの誘電特性の劣化を引き起こさず、絶縁破壊に対する信頼性が確実に向上する。また、当該誘電体粒子含有ニッケル粒子からは、誘電体粒子の脱落が起きにくいため、耐熱特性も安定したものとなっている。この誘電体粒子含有ニッケル粒子を用いて積層セラミックコンデンサの内部電極を形成し、積層セラミックコンデンサの品質が向上すれば、これが多用される携帯電話を初めとするモバイル通信機器等の電子機器の動作品質の向上が図れる。
【0073】
また、本件発明に係る誘電体粒子含有ニッケル粒子の製造方法は、ポリオール法であって特殊な装置を用いるものではないため、過剰な設備投資は要さない。本件発明の方法によれば、誘電体粒子を分散させた反応溶液中でニッケルを析出させることにより、ニッケルを母相として複数の誘電体粒子を包み込む形態を取るため、当該誘電体粒子含有ニッケル粒子からの誘電体粒子の脱落が少ないものとなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルを母相としその内部に誘電体粒子を複数含有する誘電体粒子含有ニッケル粒子。
【請求項2】
前記誘電体粒子含有ニッケル粒子に含有されている前記誘電体粒子の一次粒子径は当該誘電体粒子含有ニッケル粒子の一次粒子径の1/4以下である請求項1に記載の誘電体粒子含有ニッケル粒子。
【請求項3】
前記誘電体粒子含有ニッケル粒子に含有されている前記誘電体粒子のうちニッケル母相から前記誘電体粒子の一部が突出している部分の高さは当該誘電体粒子の一次粒子径の1/2以下である請求項1又は請求項2に記載の誘電体粒子含有ニッケル粒子。
【請求項4】
前記誘電体粒子含有ニッケル粒子は平均一次粒子径が50nm〜200nmであり、且つ、含有される前記誘電体粒子は平均一次粒子径が5nm〜50nmである請求項1〜請求項3のいずれかに記載の誘電体粒子含有ニッケル粒子。
【請求項5】
前記誘電体粒子は、ペロブスカイト構造を持つ複合酸化物からなる誘電体粒子である請求項1〜請求項4のいずれかに記載の誘電体粒子含有ニッケル粒子。
【請求項6】
比表面積が3m/g〜20m/gである請求項1〜請求項5のいずれかに記載の誘電体粒子含有ニッケル粒子。
【請求項7】
タップ充填密度が2g/cm〜5g/cmである請求項1〜請求項6のいずれかに記載の誘電体粒子含有ニッケル粒子。
【請求項8】
前記誘電体成分の含有量が5.0wt%〜20.0wt%である請求項1〜請求項7のいずれかに記載の誘電体粒子含有ニッケル粒子。
【請求項9】
請求項1〜請求項8のいずれかに記載の誘電体粒子含有ニッケル粒子の製造方法であって、
誘電体粒子が分散している反応溶液中で核ニッケル粒子の析出反応を起こさせることにより母相としての核ニッケル粒子内に誘電体粒子を複数含有させることを特徴とした誘電体粒子含有ニッケル粒子の製造方法。
【請求項10】
前記核ニッケル粒子の析出反応にはポリオール法を用いることを特徴とした請求項9に記載の誘電体粒子含有ニッケル粒子の製造方法。
【請求項11】
前記ポリオール法は、ニッケル塩、ポリオール、貴金属触媒を含む前記反応溶液を反応温度まで加熱し、該反応温度を維持しながら該反応溶液中のニッケルイオンを還元してニッケルを析出させるものである請求項9又は請求項10に記載の誘電体粒子含有ニッケル粒子の製造方法。

【公開番号】特開2008−63653(P2008−63653A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−246037(P2006−246037)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】