説明

赤外吸収測定対象の調製方法、カルボキシラト基数定量方法及び耐久性評価方法

【課題】 フルオロ電解質ポリマーの耐久性の指標となる新規かつ簡易なカルボキシラト基〔−COO〕数測定方法、該測定方法に有用な赤外吸収分光測定対象の調製方法、及び、フルオロ電解質ポリマーの耐久性の評価方法を提供する。
【解決手段】 フルオロ電解質ポリマーが有する−COOM(Mは、アルカリ金属元素を表す。)を構成するカルボキシラト基数を求めるための赤外吸収分光測定対象の調製方法であって、上記赤外吸収分光測定対象の調製方法は、上記フルオロ電解質ポリマーを100℃以下の温度において乾燥する工程(Q)を含むことを特徴とする赤外吸収分光測定対象の調製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボキシラト基数定量方法及び耐久性評価方法並びにこれらの方法に適用可能な赤外吸収測定対象の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
−SOH基含有フルオロポリマーは、一般に、含フッ素モノマーと、フルオロスルホニル基〔−SOF〕を有するパーフルオロビニルエーテルとの共重合体を前駆体とし、該前駆体をアルカリ金属水酸化物等により加水分解して、−SOM(Mは、アルカリ金属元素)とし、該金属塩型基を酸型基〔−SOH〕に変換することにより得られるが、燃料電池、化学センサー等の電解質膜材料としての用途が知られている。
【0003】
この−SOH基含有フルオロポリマーは、例えば、燃料電池用電解質膜として長期間使用した場合、劣化により燃料電池からの排水中にフッ素イオンが溶出する問題が報告されている。
【0004】
この原因としては、フルオロポリマー中に含有される不安定末端基である−COOHが、燃料電池内部で発生する水酸基ラジカルによって分解するためと推測されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
この問題を解決するため、フルオロスルホニル基を含有する前駆体をフッ素化し、不安定末端基を安定化する方法が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照。)。
この−COOHを定量する方法としては、従来のフェントン試験の他、特許文献4に詳しく示されるように、赤外吸収分光法によって得られたスペクトルに基づいて定量する方法が一般的である。
【0006】
フッ素化した−SOH基含有パーフルオロポリマーが有する不安定末端基の量の指標として、スルホン酸基又はスルホンイミド基のカリウム塩の赤外吸収分光測定が提案されている(例えば、特許文献5参照。)。このカリウム塩は、吸着水による測定感度低下を防止するため、110℃で真空乾燥してから赤外吸収分光スペクトルを測定している。
【0007】
同様に、フルオロ電解質ポリマーが有するスルホン酸基等のイオン交換基のカリウム塩を水洗後、110℃のオーブンで乾燥したのち赤外吸収分光測定を行う技術が開示されている(例えば、特許文献6参照。)。しかしながら、この技術は、上記ポリマー中の炭素−水素結合を有する有機物を低減すると該ポリマーの劣化を防止し得るとして、該有機物量を赤外吸収分光測定により特定量以下に限定するものである。
【特許文献1】特公昭46−23245号公報
【特許文献2】国際公開2004/102714号パンフレット
【特許文献3】国際公開2005/28522号パンフレット
【特許文献4】特開昭60−240713号公報
【特許文献5】特開2006−32157号公報(〔0023〕〔0083〕)
【特許文献6】国際公開第2006/019097号パンフレット(〔0025〕〔0030〕〔0034〕〔0097〕)
【非特許文献1】Dennis E. Curtin、Robert D. Lousenberg、Timothy J.Henry、Paul C. Tangeman and Monica E. Tisack、第10回燃料電池シンポジウム講演予稿集、p121(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、フルオロ電解質ポリマーの耐久性の指標となる新規かつ簡易なカルボキシラト基〔−COO〕数測定方法、該測定方法に有用な赤外吸収測定対象の調製方法、及び、フルオロ電解質ポリマーの耐久性の評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、フルオロ電解質ポリマーが有する−COOM(Mは、アルカリ金属元素を表す。)を構成するカルボキシラト基数を求めるための赤外吸収分光測定対象の調製方法であって、前記赤外吸収分光測定対象の調製方法は、前記フルオロ電解質ポリマーを100℃以下の温度において乾燥する工程(Q)を含むことを特徴とする赤外吸収分光測定対象の調製方法である。
【0010】
本発明は、フルオロ電解質ポリマーが有するカルボキシラト基数を定量するカルボキシラト基数定量方法であって、上記カルボキシラト基数定量方法は、上記フルオロ電解質ポリマーを含む測定対象について赤外吸収分光測定により求める−COOM(Mは、上記定義と同じ。)基数から該−COOMを構成する上記カルボキシラト基の数を求める工程を含み、上記赤外吸収分光測定における測定対象は、上記本発明の赤外吸収測定対象の調製方法により調製し厚さが200〜500μmのシート状成形体であることを特徴とするカルボキシラト基数定量方法である。
【0011】
本発明は、固体高分子型燃料電池に用いられるフルオロ電解質ポリマーの耐久性評価を行う耐久性評価方法であって、上記耐久性評価は、上記フルオロ電解質ポリマーが有するカルボキシラト基数を上記本発明のカルボキシラト基数定量方法により定量することにより行うことを特徴とする耐久性評価方法である。
以下に本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の赤外吸収分光測定対象の調製方法は、フルオロポリマー、なかでもフルオロ電解質ポリマーが有する−COOM(Mは、アルカリ金属元素を表す。)を構成するカルボキシラト基数を求めるための赤外吸収分光測定対象を調製するものである。
【0013】
上記フルオロ電解質ポリマーは、一般に、イオン交換基を含有するものである。
上記イオン交換基としては、いわゆるイオン交換能を有するものであれば特に限定されず、例えば、−SOH基、−SONH基、−PO基等が挙げられ、なかでも、−SOH基が好ましい。
本明細書において、上記−SOX基(Xは、上記定義と同じ。)を有するフルオロポリマーを「フルオロ電解質ポリマー前駆体」ないし「前駆体」ということがある。
【0014】
上記イオン交換基のうち−SOH基は、一般に、−SOX基(Xは、F、Cl、Br、I又は−NRを表す。R及びRは、同一若しくは異なって、H、アルカリ金属元素、アルキル基又はスルホニル含有基を表す。)の加水分解を経て得ることができる。
上記−SOX基におけるXは、F、Cl又はBrが好ましく、より好ましくは、Fである。
上記アルカリ金属元素としては特に限定されず、例えば、Li、Na、K、Cs等が挙げられる。
上記アルキル基としては特に限定されず、例えば、メチル基、エチル基等の炭素数1〜4のアルキル基等が挙げられる。上記アルキル基は、ハロゲン原子により置換されていてもよい。
【0015】
上記スルホニル含有基は、スルホニル基を有する含フッ素アルキル基であり、例えば、末端に置換基を有していてもよい含フッ素アルキルスルホニル基等が挙げられ、上記含フッ素アルキルスルホニル基としては、例えば、−SO(Rは、含フッ素アルキレン基を表し、Zは、有機基を表す。)等が挙げられる。
上記有機基としては、例えば、−SOF基が挙げられ、−SO(NRSOSONRSO−(kは、1以上の整数を表し、Rは、含フッ素アルキレン基を表す。)のように無限につながっていてもよいし、−SO(NRSOSONRSOF(kは、1以上、100以下の整数を表す。R及びRfは、上記と同じ。)であってもよい。
【0016】
上記フルオロ電解質ポリマーは、更に、−COOH基、−COF基、−CF=CF基、−CFH基等の不安定末端基をポリマー鎖末端に有し得るものである。
上記不安定末端基としては、上記フルオロ電解質ポリマーを調製する際に添加する重合開始剤の分子構造に由来して導入されるものが挙げられる。例えば、重合開始剤としてパーフルオロジアシルパーオキサイドを用い、非水系で重合した場合、−COOH基、フルオロホルミル〔−C(=O)F〕基等の不安定末端がポリマー鎖末端に形成され得る。
上記フルオロホルミル基は、非テロゲン性の溶液中で重合を行い、フルオロ電解質ポリマーを調製する場合にも形成され得る。上記フルオロホルミル基は、重合後に行う洗浄等の工程で、水分と反応し−COOH基に変換され得る。
上記−COOH基は、実質的に水を媒体として乳化重合を行う場合にも形成され得る。
【0017】
上述のフルオロ電解質ポリマー前駆体は、一般的に、スルホニル基含有パーハロビニルエーテルに由来する繰り返し単位を有するものであり、下記一般式(I)
CF=CF−O−(CFCFY−O)−(CFY−SOX (I)
で示されるハロスルホニル基含有パーハロビニルエーテルに由来する繰り返し単位(a)を有するものであることが好ましい。
【0018】
上記一般式(I)において、Yは、F、Cl又はパーフルオロアルキル基を表し、なかでも、パーフルオロアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基であることがより好ましく、−CF基であることが更に好ましい。
上記nは、0〜3の整数を表す。n個のYは、同一でも異なっていてもよい。
上記nは、1以上の場合に比べて、0の場合には乾燥が困難であり、従来技術の範囲では、後述する脱炭酸反応の影響が大きいという不都合があった。即ち、本発明の効果が得られやすい点で、上記nは0であることが好ましい。
上記Yは、F、Cl又はパーフルオロアルキル基を表し、なかでも、Fが好ましい。
上記mは、2〜6の整数を表し、m個のYは、同一でも異なっていてもよい。
Xは、上記定義と同じである。
上記mは、2であることがより好ましい。
上記ハロスルホニル基含有パーハロビニルエーテルは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
上記フルオロ電解質ポリマー前駆体は、上記繰り返し単位(a)に加え、更に、一般式(I)で示されるハロスルホニル基含有パーハロビニルエーテルと共重合可能なエチレン性フルオロモノマーに由来する繰り返し単位(b)をも有する共重合体であることが好ましい。
【0020】
上記ハロスルホニル基含有パーハロビニルエーテルと共重合可能なモノマーは、上記ハロスルホニル基含有パーハロビニルエーテル以外のその他のビニルエーテル、及び、エチレン性モノマーであることが好ましい。
【0021】
上記エチレン性モノマーは、エーテル酸素を有さず、ビニル基を有するモノマーであって、上記ビニル基は、フッ素原子により水素原子の一部又は全部が置換されていてもよいものである。
【0022】
上記エチレン性モノマーとしては、例えば、下記一般式(II)
CF=CF−Rf(II)
(式中、Rfは、F、Cl又は炭素数1〜9の直鎖状若しくは分岐状のフルオロアルキル基を表す。)で表されるハロエチレン性モノマー、下記一般式(III)
CHY=CFY(III)
(式中、YはH又はFを表し、YはH、F、Cl又は炭素数1〜9の直鎖状若しくは分岐状のフルオロアルキル基を表す。)
で表される水素含有フルオロエチレン性フルオロモノマー等が挙げられる。
【0023】
上記エチレン性フルオロモノマーとしては、例えば、テトラフルオロエチレン〔TFE〕、ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕、クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン〔VDF〕、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロイソブチレン及びパーフルオロブチルエチレン等が挙げられるが、TFE、VDF、CTFE、トリフルオロエチレン、フッ化ビニル、HFPであることが好ましく、TFE、CTFE、HFPがより好ましく、TFE、HFPが更に好ましく、TFEが特に好ましい。
【0024】
上記エチレン性フルオロモノマーは、環構造を有するモノマーであってもよいし、環化重合性モノマーであってもよい。
上記環構造を有するモノマーとしては、パーフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)、パーフルオロ(1,3−ジオキソール)、パーフルオロ(2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)、2,2,4−トリフルオロ−5−トリフルオロメトキシ−1,3−ジオキソール等が挙げられる。
上記環化重合性モノマーとしては、パーフルオロ(3−ブテニルビニルエーテル)、パーフルオロ[(1−メチル−3−ブテニル)ビニルエーテル]、パーフルオロ(アリルビニルエーテル)、1,1’−[(ジフルオロメチレン)ビス(オキシ)][1,2,2−トリフルオロエテン]等が挙げられる。
上記エチレン性フルオロモノマーとしては、1種又は2種以上を用いることができる。
【0025】
上記フルオロ電解質ポリマー前駆体は、ハロスルホニル基含有パーハロビニルエーテルに由来する繰り返し単位(a)が5〜50モル%、エチレン性フルオロモノマーに由来する繰り返し単位(b)が50〜95モル%、該繰り返し単位(a)と該繰り返し単位(b)との和が95〜100モル%である共重合体であることが好ましい。
上記ハロスルホニル基含有パーハロビニルエーテルに由来する繰り返し単位(a)は、より好ましい下限が7モル%、更に好ましい下限が10モル%、より好ましい上限が35モル%、更に好ましい上限が30モル%である。
上記エチレン性フルオロモノマーに由来する繰り返し単位(b)は、より好ましい下限が65モル%、更に好ましい下限が70モル%、より好ましい上限が90モル%、更に好ましい上限が87モル%である。
【0026】
本発明におけるフルオロ電解質ポリマー前駆体は、上記以外の第3成分モノマーに由来する繰り返し単位として、該ハロスルホニル基含有パーハロビニルエーテル以外のビニルエーテル(以下、本ビニルエーテルを「その他のビニルエーテル」と称することがある。)に由来する繰り返し単位(γ)を、より好ましくは4モル%以下、更に好ましくは3モル%以下有するものであっても差し支えない。
【0027】
該繰り返し単位(γ)を構成することとなるハロスルホニル基含有パーハロビニルエーテル以外のビニルエーテルとしては、ハロスルホニル基を含有しないものであれば特に限定されず、例えば、下記一般式(IV)
CF=CF−O−Rf(IV)
(式中、Rfは、炭素数1〜9のフルオロアルキル基又は炭素数1〜9のフルオロポリエーテル基を表す。)
で表されるパーフルオロビニルエーテル、下記一般式(V)
CHY=CF−O−Rf(V)
(式中、Yは、H又はFを表し、Rfは、炭素数1〜9のエーテル基を有していてもよい直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基を表す。)
で表される水素含有ビニルエーテル等が挙げられる。
上記ビニルエーテルとしては、1種又は2種以上を用いることができる。
【0028】
本明細書において、繰り返し単位(a)、繰り返し単位(b)、及び、その他のビニルエーテル単位の含有率は、それぞれ全モノマー単位を100モル%とした値である。
上記「全モノマー単位」は、上記フルオロ電解質ポリマーの分子構造上、モノマーに由来する部分の全てである。上記「全モノマー単位」が由来する単量体は、従って、上記フルオロ電解質ポリマーをなすこととなった単量体全量である。
上記各単位の含有率は、300℃における溶融NMR測定により得られる値である。
【0029】
上記フルオロ電解質ポリマー前駆体は、上述のハロスルホニル基含有パーハロビニルエーテルと、場合により上述のエチレン性フルオロモノマー、その他のビニルエーテル等とを重合することにより得ることができる。
上記重合は、例えば、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の従来公知の方法により行うことができ、また、その条件は、各モノマーの種類や量、所望の組成等に応じて適宜選択することができる。
本発明において、上記フルオロ電解質ポリマーは、一般に、上記フルオロ電解質ポリマー前駆体をMOH(Mは、アルカリ金属元素。)等により加水分解して、上述の通り、−SOX基(Xは、上述の定義通り。)を−SOM基(Mは、上述の定義通り。)で表される金属塩型基に変換し、更に酸型基〔−SOH〕に変換することにより得ることができる。
上記フルオロ電解質ポリマーは、フルオロ電解質ポリマー前駆体が−COOH基等の不安定末端基を有するものであった場合、該不安定末端基をフッ素化等の常法により−CF基に変換したものであってよい。該−CF化等の末端安定化は、一般に、上記−SOX基(Xは、上述の定義と同じ。)を有するフルオロ電解質ポリマー前駆体に対して行うことが好ましい。本発明におけるフルオロ電解質ポリマーは、上記末端安定化を行わない等により不安定末端基として−COOH基を有するものである場合、上述の−SOXから−SOHへの変換に伴い、−COOM基(Mは、上述の定義と同じ。)、次いで−COOH基に変換される。
【0030】
本発明において、上記フルオロ電解質ポリマーは、測定感度を高くする点で、シート状に成形した測定対象について、赤外吸収分光測定を行うことが好ましい。
上記測定対象のシート厚みは、感度が高くなる点で、測定可能な範囲内で厚いほど好ましく、その下限は、好ましくは10μm、より好ましくは50μm、更に好ましくは200μmであり、その上限は好ましくは500μm、より好ましくは450μm、更に好ましくは400μmである。
上記厚みは10μm未満では、赤外吸収分光測定における吸収ピーク強度が小さくなり過ぎることがあり、500μmを超える場合、透過光が少なすぎるため、測定感度が低下することがある。また、上記厚みが500μmを超える場合、乾燥が困難になることがある点で好ましくない。
上記測定対象は、厚さが200〜500μmであるシート状成形体であることが特に好ましい。
【0031】
上記測定対象の成形方法としては、
a.上述した溶融加工性のフルオロ電解質ポリマー前駆体を、230〜300℃の温度で熱プレスすることにより製膜する方法、
b.上記フルオロ電解質ポリマー前駆体からなる膜状物に加水分解処理を施して−SOX基を−SOM基(X及びMは、上記定義通り。)に変換してなる金属塩型膜を300〜350℃の温度で熱プレスする方法、
等が挙げられ、また、
c.KBr等の成形助剤と混合してフルオロ電解質ポリマー前駆体をコールドプレスする方法、
d.フルオロ電解質ポリマー又はフルオロ電解質ポリマー前駆体をアルコール等の溶媒に分散してキャスト膜を作成する方法
等も挙げられるが、最も欠陥の少ない膜が得られる点で、aの方法が好ましい。
【0032】
本発明の赤外吸収分光測定対象の調製方法は、上述のフルオロ電解質ポリマーを100℃以下の温度において乾燥する工程(Q)を含むものであってもよい。
上記赤外吸収分光測定対象の調製方法は、上記工程(Q)の前に、更に、フルオロ電解質ポリマーが有するカルボキシラト基及び/又はカルボキシル基を−COOM(Mは、前記定義と同じ。)に変換する工程(P)を少なくとも含むことが好ましい。
【0033】
上記工程(P)において、−COOM基を構成するMは、Na又はKであることが好ましく、−COOM基の脱炭酸を防ぎ、正確な測定を行う点で、Kであることがより好ましい。
上記工程(P)を行う方法としては、例えば、アルカリ金属の水酸化物の希薄溶液に浸漬する方法等が挙げられる。
上記アルカリ金属の水酸化物としては、例えば、KOH、NaOH、LiOH、CsOH等が挙げられる。
上記各方法における、使用溶液の濃度、浸漬時間等の条件は、測定するポリマーの組成、量等に応じ、従来公知の方法に基づいて適宜選択することができる。
上記浸漬温度は、好ましくは0℃以上、より好ましくは20℃以上であり、また、好ましくは100℃以下、より好ましくは95℃以下である。
上記浸漬時間は、好ましくは1分以上であり、より好ましくは5分以上である。浸漬時間の上限については特に制限は無いが、評価の効率を考慮すると短い方が好ましく、7日以内であることが好ましい。より好ましくは3日以内である。
【0034】
上記工程(P)としては、例えば、−SOH基含有ポリマー等の酸型のフルオロ電解質ポリマーをアルカリ金属の水酸化物の希薄溶液に浸漬して−COOH基を−COOM基に変換する方法、上述の−SOM基含有ポリマー(Mは、上述の定義と同じ。)等の金属塩型のフルオロ電解質ポリマーを酸処理して酸型に変換した後、アルカリ金属の水酸化物の希薄溶液に浸漬して−COOH基を−COOM基に変換する方法等がある。また、フルオロ電解質ポリマーを燃料電池用電解質ポリマーとして使用する場合には、アルカリ金属の水酸化物を含む溶液に浸漬してスルホニルハライドを加水分解すると共に−COOH基を−COOM基に変換する方法により行うこともできる。
【0035】
上記工程(Q)の条件は、得られる−COOM基を構成するアルカリ金属の種類に応じて適宜選択することができるが、100℃以下の温度下で行うことが好ましく、80℃以下の温度下で行うことがより好ましく、60℃以下の温度下で行うことが更に好ましい。上記乾燥は、上記範囲を超える温度下で行った場合、−COOM基末端が脱炭酸することがある。
上記乾燥温度は、乾燥時間を短くする点で、好ましい下限が0℃であり、より好ましい下限が10℃である。特に凍結乾燥の場合、好ましい上限は0℃であり、好ましい下限は−196℃である。
上記乾燥は、好ましくは2〜72時間行う。
上記工程(Q)は、乾燥時間を短縮する点で、乾燥した空気や不活性ガスを流通させる方法、真空乾燥、凍結乾燥等により行ってもよい。
上記工程(Q)は、赤外吸収分光測定〔IR〕で波数1620cm−1付近に観測される水に由来する吸収ピークの高さを指標として、T=吸収ピークの高さ(abs)/サンプル膜厚(cm)と定義したときの、Tが40以下になるまで実施することが好ましい。
上記Tの値が40を超える場合、水に由来するピークの影響により、波数1690〜1710cm−1付近に観測される−COOM基に由来するピークの測定感度が悪化する。さらなる測定感度が求められる場合にはTの値は20以下にすることが好ましい。
特にフルオロ電解質ポリマーがパーフルオロポリマーである場合、波数2350cm−1付近に観測されるC−F倍音の吸光強度を基準にして、波数1620cm−1付近に観測される水に由来する吸収ピークの相対強度が1.2以下であることが好ましく、より好ましくは0.8以下であり、更に好ましくは0.6である。上記水に由来する吸収ピークの相対強度が該範囲内にあれば、上述のT値は一般に40以下となる。
【0036】
本発明の赤外吸収分光測定対象の調製方法は、工程(P)の後に沸点が180℃以下である有機液体により水を置換する工程(R)を含むものであってもよい。
上記工程(P)を行うことにより得られる−COOM基末端含有ポリマー(Mは、上記定義と同じ。)は、一般に、数〜数十質量%の水を含んでいるが、上記工程(R)を行うことにより水を効率良く除去し、上記波数1620cm−1付近に観測される水に由来する吸収ピークを小さくすることが出来る。使用した有機液体の種類によっては、波数1690〜1710cm−1付近に観測される−COOM基に由来するピークに影響する吸収を示す場合があるが、この問題を解決するためには、ヘキサン等の溶剤で更に置換する方法をとることができる。
本発明の赤外吸収分光測定対象の調製方法において、工程(P)と工程(Q)との間に上記工程(R)を行うことも可能である。工程(P)と工程(Q)との間に上記工程(R)を行うことは、乾燥を容易に行うことができる点で好ましい。
【0037】
上記工程(R)における有機溶剤は、その沸点が上記範囲内にあれば特に限定されないが、水との親和性が高いものが好ましい。
上記有機溶剤は、25℃における水に対する溶解度が20容量%以上であることが好ましく、50容量%以上であることがより好ましい。また、その上限は水と任意に混和するものである。
また、沸点は180℃以下のものが好ましく、150℃以下のものがより好ましい。上記有機溶剤の沸点は、上記範囲内であれば、例えば0℃以上、好ましくは20℃以上、より好ましくは40℃以上であるものであってもよい。
上記有機溶剤としては、アセトニトリル、アセトン、テトラヒドロフラン、モノグライム、メタノール、エタノールが好ましく、アセトニトリル、テトラヒドロフラン等がより好ましい。
もっとも、上記有機溶剤には、脱炭酸を促進するものがあるため、工程(Q)における乾燥は、上述の温度範囲内で行い、過度に加熱しないことが好ましい。
【0038】
本発明において、赤外吸収分光測定は、透過法又は反射法の何れの方法で行ってもよいが、感度が高くなる点で透過法が好ましい。また、測定中にフルオロ電解質ポリマーが空気中の水分を吸収する現象を防ぐためには、測定部分を乾燥窒素等で置換することが好ましい。
上記赤外吸収分光測定は、波数1690〜1710cm−1付近の単独ピークのみ測定することにより、カルボキシラト〔−COO〕基数を定量することができるものである。
−COO基数がポリマーの炭素100万個あたり10個以下程度に少ない場合には、−COO基を含まないポリマーを基準サンプルとして差スペクトルを測定する方法が、測定感度が高い点で好ましい。フルオロ電解質ポリマーがパーフルオロポリマーの場合には、基準サンプルとして、上述の−SOX基等を含有するフルオロ電解質ポリマー前駆体を十分にフッ素化して末端を安定化したポリマーを用いることができる。
一般に、フルオロ電解質ポリマー末端の−COO基は、各−COO基が相互作用して会合状態、及び、各−COO基が独立して存在する非会合状態の2種の形態を形成し得る。会合状態にある−COO基と非会合状態にある−COO基とは、赤外スペクトルのピーク位置が、それぞれ波数1773cm−1付近、波数1812cm−1付近と異なる。フルオロ電解質ポリマーに含まれる−COO基の総量は、この両者の和として算出するため、測定感度が低くなる問題があった。
一方、本発明の赤外吸収分光測定対象の調製方法から得られる赤外吸収分光測定対象では、赤外吸収分光測定において−COOM基(Mは、上記定義と同じ。)に由来する単独ピークに基づき−COO基数を測定することができるので、−COO基そのものを直接測定する従来法に比べ、測定感度が高いカルボキシラト基数測定を行うことができる。更に、測定対象の末端基を−COONa又は−COOKとした場合、吸光度は、−COO基そのものを直接測定する場合の約1.7倍と大きいため、更に高感度での分析が可能になる。
【0039】
フルオロ電解質ポリマーが有するカルボキシラト基数を定量するカルボキシラト基数定量方法であって、上記フルオロ電解質ポリマーを含む測定対象について赤外吸収分光測定により求める−COOM(Mは、上記定義と同じ。)基数から該−COOMを構成する上記カルボキシラト基の数を求める工程を含むものであり、上記赤外吸収分光測定における測定対象は、上述の本発明の赤外吸収分光測定対象の調製方法により調製し厚さが200〜500μmのシート状成形体であるものもまた、本発明の一つである。
上記カルボキシラト基の数を求める工程における赤外吸収分光測定は、本発明の赤外吸収分光測定対象の調製方法により調製した測定対象を用いるので、測定感度に優れている。
【0040】
本発明のカルボキシラト基数定量方法は、フルオロ電解質ポリマーの耐久性評価方法として好適に適用することができる。
上記耐久性評価方法は、物理的、化学的又は電気化学的にフルオロ電解質ポリマーを処理する工程を含むことができる。
上記耐久性評価方法は、上記本発明のカルボキシラト基数定量方法を用いて定量して得られるフルオロ電解質ポリマーが有するカルボキシラト基数を、上記フルオロ電解質ポリマーを処理する工程の前及び後において比較することにより、フルオロ電解質ポリマーの耐久性評価を行うことができる。
上記フルオロ電解質ポリマーを処理する工程は、評価目的に応じて種々の方法を選択することが可能であり、例えば、(i)耐熱性、湿度依存性を評価したい場合、200℃以下程度の範囲で加熱する加速劣化試験や同時に湿度をコントロールする工程とすることができ、(ii)環境サイクル評価を行いたい場合、加速劣化試験等を繰り返し実施する工程とすることができ、また、(iii)ポリマー鎖の断裂の有無を評価したい場合、可逆的な機械的変形を連続的に与える工程とすることもでき、(iv)酸化剤に対する耐性を評価したい場合、過酸化水素、オゾン等の酸化剤を作用させる工程とすることもできる。
上記フルオロ電解質ポリマーを処理する工程として、(v)−SOH基を有するフルオロ電解質ポリマーを膜状にした後、水素イオンを透過させて発電させる工程等を行い、−SOH基含有フルオロ電解質ポリマーについて燃料電池としての耐久性を評価することも可能である。
【0041】
上記フルオロ電解質ポリマーを処理する工程としては、燃料電池としての耐久性を評価する点で、上記工程(v)が好ましく、既存技術の安定性評価と比較可能な点で、上記工程(iv)が好ましい。
【0042】
上記工程(v)としては、例えば、−SOF基等を有するフルオロ電解質ポリマー前駆体を加水分解して−SOH基含有フルオロ電解質ポリマーに変換したのち膜状に成形し、得られた膜状の−SOH基含有フルオロ電解質ポリマーをガス拡散電極で挟んで膜/電極接合体〔MEA〕を作成し、燃料ガス又は酸化性ガスを該MEAに流通させることにより、該膜内に水素イオンを透過させて発電させる工程、電圧をスイープする工程等が挙げられる。
上記工程(v)において、−SOH基含有フルオロ電解質ポリマーへの変換は、上記フルオロ電解質ポリマー前駆体と、NaOH、KOH等の強塩基性化合物の溶液とを接触させてケン化することにより−SOF基等をスルホニウム金属塩に変換し、更に、必要に応じ水洗後、更に、硝酸、硫酸、塩酸等の酸性液に作用させて、スルホニル金属塩を−SOH基に変換する工程により実施することができる。
上記工程(v)において、ガス拡散電極は公知の方法で作成することができ、白金やパラジウム等の触媒を含むことが好ましい。
上記燃料ガスは、水素であることが好ましいが、一酸化炭素等を含有する水素ガスや、メタノール水溶液等でもあってもよい。
上記酸化性ガスとしては、空気、純酸素等が挙げられる。
上記工程(v)を行った後、該工程後の膜を取り出して測定すればよい。例えばMEAから電極を剥離して膜を取り出してもよいし、MEAをスライスして膜の断面を取り出してもよい。またMEAが、電極を熱圧着したものではなく、ボルト等で物理的に固定したものであればセルの分解が容易になる点で好ましい。
【0043】
上記工程(iv)としては、二価の鉄イオンと過酸化水素とを共存させて処理する方法、いわゆるフェントン試験が一般的である。
上記二価の鉄イオンと過酸化水素とを共存させて処理する温度は、好ましい下限が10℃、より好ましい下限が20℃であり、更に好ましい下限が25℃である。また好ましい上限が150℃、より好ましい上限が120℃であり、更に好ましい上限が90℃である。過酸化水素は水溶液が一般的に使用され、その好ましい濃度は0.1〜50質量%である。より好ましい下限は0.5質量%であり、更に好ましい下限は1質量%である。また、より好ましい上限は40質量%であり、更に好ましい上限は35質量%である。
最近、120℃程度の高温で過酸化水素ガスを作用させる方法等も報告されており、本発明でも適応することができる。
上記試験温度が水の沸点を超える場合、過酸化水素をガス状にして供給することができる。具体的な試験方法としては、上記範囲の濃度を有する過酸化水素水に窒素等の不活性ガスを流通し、上記範囲の温度に制御したポリマー膜サンプルに接触させる方法を用いることができる。
上記過酸化水素は、OHラジカルを発生させやすくする目的で、還元剤等を共存させることができる。上記還元剤としては、二価鉄イオン、3価マンガンイオン等の低価数の遷移金属イオン、亜硫酸塩等が挙げられる。
【0044】
固体高分子型燃料電池に用いられるフルオロ電解質ポリマーの耐久性評価を行う耐久性評価方法であって、上記フルオロ電解質ポリマーが有するカルボキシラト基数を上述の本発明のカルボキシラト基数定量方法により定量することにより行う耐久性評価方法もまた、本発明の一つである。
【0045】
上記固体高分子型燃料電池は、一般に、上記−SOH基含有フルオロ電解質ポリマーと活性物質とからなる電解質膜を有するものである。
上記電解質膜における活性物質は、例えば、白金、ルテニウム等を含有する金属等、一般に燃料電池における電極触媒として使用可能なものであればよい。
上記固体高分子電解質型燃料電池は、上記電解質膜を有するものであれば特に限定されず、固体高分子電解質型燃料電池を構成する電極、ガス等の構成成分を従来公知のものとすることができる。
【0046】
本発明の耐久性評価方法において、−SOF基含有フルオロ電解質ポリマー前駆体からフルオロ電解質ポリマーへの変換は、上述のケン化等、従来公知の方法で行うことができるが、−COOM基(Mは、上記定義通り。)から脱炭酸しない条件下を選択して行うことが好ましい。
【0047】
本発明の耐久性評価方法は、更に、化学的又は電気化学的に活性化した化学種とフルオロ電解質ポリマーとを接触させる工程(A)を含むことが好ましい。
上記工程(A)としては、例えば、フルオロ電解質ポリマーに過酸化水素を作用させる工程、フルオロ電解質ポリマーからなる電解質膜内に水素イオンを透過させることにより発電する工程、フルオロ電解質ポリマーからなる電解質膜の近傍で電気化学的又は化学的に活性な水酸化物イオンを発生させる工程が挙げられる。
上記電気化学的な方法としては、白金等の触媒を有する電極を電位操作する方法等がある。
また上記化学的な方法としては、白金等の触媒を有するガス拡散電極に酸素等の酸化性ガスを供給する方法等がある。
本発明の耐久性評価方法は、燃料電池の運転に相応すると考えられる上記工程(A)の前及び後において、上述の本発明のカルボキシラト基数定量方法により定量して得られる数値を比較することにより耐久性評価を行うことができるものである。即ち、上記耐久性評価方法は、同一のフルオロ電解質ポリマーについて、工程(A)を経ずに行った測定結果と、工程(A)を経て行った測定結果とを比較することにより、燃料電池の運転前後でのフルオロ電解質ポリマーのカルボキシラト基数を比較することができ、燃料電池の運転に起因するフルオロ電解質ポリマーの断裂の程度を評価することができる。
例えば、フルオロ電解質ポリマーの一部が断裂した場合、酸フルオライドを経由してカルボキシラト基末端が新たに生成し、工程(A)後のカルボキシラト基数が増加すると考えられる。一方、工程(A)後のカルボキシラト基数の増加が少ないフルオロ電解質ポリマーほど、安定なポリマーと評価することができ、燃料電池用途として用いた際に耐久性に優れていると予測することができる。
上記耐久性評価方法において、測定した各フルオロ電解質ポリマーの構造と評価結果とを比較することにより、断裂しやすい構造を特定することが可能になり、耐久性がより良いポリマーを設計することが可能になる。
【発明の効果】
【0048】
本発明の赤外吸収分光測定対象の調製方法は、上述の構成よりなるので、従来の方法より測定感度に優れた赤外吸収分光測定を可能にする測定対象を得ることができる。
本発明のカルボキシラト基数定量方法は、上記測定対象を用いて赤外吸収分光測定を行うものであるので、従来の方法より正確にカルボキシラト基数を測定することができる。
本発明の耐久性評価方法は、上記カルボキシラト基数定量方法を適用したものであるので、フルオロ電解質ポリマーの耐久性等を正確に評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
以下に実験例及び比較実験例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実験例及び比較実験例にのみに限定されるものではない。
各実験例及び比較実験例における組成物の量は、特に断りがない場合は、質量基準である。
【0050】
各実験例及び比較実験例において、IRによる官能基定量は、得られた各サンプルを、270℃で10分間ヒートプレスして、透明なフィルムを得た後、該フィルムをフーリエ変換式赤外吸光分光法にて波数400〜4000cm−1の範囲で測定することにより行った。
上記測定の分析は、もはやスペクトルに実質的差異がみられなくなるまで充分にフッ素化した標準サンプルとの差スペクトルを取得し、各官能基に帰属される波数での吸光度を読み取り、次式に従って炭素数10個あたりの官能基の個数を算出した。
炭素数10個あたりの末端基の個数 = I×K/t
(上記式において、Iは上記吸光度、Kは表1に示す補正係数、tは測定に供したフィルムの厚さ(単位:mm)である。)
なお、−COOHについては、表1に示した2つの−COOHを示す波数につき上式から算出した値の和を炭素数10個あたりの−COOHの個数とした。
また、この算式で炭素数10個あたりの官能基の個数が1未満となった場合、本測定法において測定限界以下とするが、官能基の存在そのものを否定する訳ではない。
【0051】
【表1】

【0052】
上記フーリエ変換式赤外吸光分光法に用いるフーリエ変換式赤外吸光分光器として、パーキンエルマー社製Spectrum One型スペクトロメーターを使用し、走査回数は8回とした。
【0053】
実験例1 測定感度
(1)フルオロポリマー合成
容積3000mlのステンレス製攪拌式オートクレーブに、C15COONHの10%水溶液300gと純水1170gとを仕込み、充分に真空、窒素置換を行った。オートクレーブを充分に真空にした後、テトラフルオロエチレン〔TFE〕ガスをゲージ圧力で0.2MPaまで導入し、50℃まで昇温した。その後、CF=CFOCFCFSOFを100g注入し、TFEガスを導入してゲージ圧力で0.7MPaまで昇圧した。引き続き0.5gの過硫酸アンモニウム〔APS〕を60gの純水に溶解した水溶液を注入して重合を開始した。
重合により消費されたTFEを補給するため、連続的にTFEを供給してオートクレーブの圧力を0.7MPaに保つようにした。更に供給したTFEに対して、質量比で0.53倍に相当する量のCF=CFOCFCFSOFを連続的に供給して重合を継続した。
供給したTFEが522gになった時点で、オートクレーブの圧力を開放し、重合を停止した。その後室温まで冷却し、−SOF基含有パーフルオロポリマーを約33質量%含有する、やや白濁した水性分散体2450gを得た。
【0054】
得られた水性分散体を、硝酸で凝析させ、水洗し、90℃で24時間乾燥し、更に120℃で12時間乾燥してフルオロポリマーA800gを得た。
次に、得られたフルオロポリマーAの1gを、150℃に熱した管状炉に直ちに入れて水分を揮発させ、乾燥窒素をキャリアガスとしてカールフィッシャー水分測定装置に導入して水分量を測定したところ、質量で60ppmであった。
また、300℃における溶融NMR測定の結果、フルオロポリマーA中のCF=CFOCFCFSOF単位の含有率は19モル%であった。
【0055】
(2)フッ素化
容積3000mlのオートクレーブ(ハステロイ社製)に水分含有量60ppmの上記フルオロポリマーA 500gを入れ、真空脱気しながら120℃に昇温した。真空、窒素置換を3回繰り返し、真空で2時間保持した後、窒素をゲージ圧0MPaまで導入した。引き続き、フッ素ガスを窒素ガスで20容積%に希釈し得られたガス状フッ素化剤をゲージ圧が0.1MPaになるまで導入して、30分保持した。
次に、オートクレーブ内のフッ素を排気し、真空引きした後、フッ素ガスを窒素ガスで20容積%に希釈し得られたガス状フッ素化剤をゲージ圧が0.1MPaになるまで導入して、1時間保持する工程を2回繰り返した。
その後、室温まで冷却し、オートクレーブ内のフッ素を排気し、真空、窒素置換を3回繰り返した後、オートクレーブを開放し、フルオロポリマーBを得た。
【0056】
(3)評価用ポリマー作成
末端基数の異なるポリマーサンプルを作成するため、(1)及び(2)で得られたフルオロポリマーA、Bを表2に示す割合でブレンドした。
上記ブレンドには、ラボプラストミル(東洋精機製)を用いた。フルオロポリマーAとフルオロポリマーBとを合計で70g投入し、270℃で10分間混合して作成した。
【0057】
【表2】

【0058】
得られたNo.1〜No.6のポリマーサンプルを250μmの厚みになるように270℃の温度で10分間ヒートプレスを行って製膜した。それぞれ10mm×10mmにカットして前駆体膜を作成した。No.6のポリマーについては、後述する閉回路電圧〔OCV〕試験のために80mm×80mm、厚み250μmの前駆体膜も作成した。
膜厚の測定には、株式会社ミツトヨ製のデジタルマイクロメーターを用いた。
【0059】
(4)加水分解
(3)で得られたサンプル膜の半数を20%水酸化カリウム水溶液50ml中に浸漬し、90℃で24時間処理して、前駆体膜を構成するポリマーが有する−SOF基を−SOK基に変換するとともに、ポリマー末端の−COOH基を−COOK基に変換した。
上記変換後、得られた膜をイオン交換水中で充分に洗浄し、90℃で4時間真空乾燥して、赤外吸収分光〔IR〕測定用の−COOK基末端含有フルオロ電解質ポリマーの膜を作成した。
【0060】
(5)IR測定
前駆体膜及び−COOK基末端含有フルオロ電解質ポリマーの膜の、それぞれについてIR測定を3回ずつ実施し、−COOH基数及び−COOK基数を定量した。
ポリマー中の炭素数100万個あたりの−COOH基又は−COOK基の定量結果について表3に示した。
【0061】
【表3】

【0062】
表3の結果から明確なように、−COOK基末端含有フルオロ電解質ポリマーの膜の測定結果は、バラつきが小さかった。いずれも、測定感度が良く、特にNo.6は−COOH基数が少量であり、従来の−COOH基数の測定方法では検出されない場合もあるが、−COOK基数の測定では安定して検出することができた。
【0063】
実験例2 乾燥条件の検討
実験例1の工程(R)において、No.1のポリマーブレンドから得られた前駆体膜を20%水酸化ナトリウム水溶液50ml中に浸漬し、90℃で24時間処理して得られた−COONa基末端含有フルオロ電解質ポリマーの膜について、それぞれ下記a〜cの何れかの条件で乾燥を行う以外は、実施例1と同様に−COONa基数の測定を行った。
(乾燥条件)
a.110℃、真空2時間
b.110℃、空気中2時間
c.150℃、空気中2時間
【0064】
本実験例において、一部の−COONa基末端含有フルオロ電解質ポリマーの膜について、上記乾燥を行う代わりに、アセトニトリル(d)又はテトラヒドロフラン〔THF〕(e)50mlが入ったビーカーに入れて、一時間保持した後、25℃で15時間真空乾燥した。
また、下記式に基づいて各サンプルの水ピークの相対吸収強度を測定した。
水ピークの相対吸収強度=水ピーク高さ(波数1620cm−1付近)/−CF基ピーク高さ(波数2350cm−1付近)
得られた−COONa基数をカルボキシラト基数として表4に示す。
【0065】
【表4】

【0066】
各結果より、110℃以上で乾燥を行った場合、カルボキシラト基数が少ないが、これは、該乾燥を行うことにより−COONa基が脱炭酸することが原因であると考えられる。
更に、該乾燥前に有機溶剤中に浸漬した場合は、カルボキシラト基数をより正確に測定されること、また、乾燥しやすさの点でアセトニトリルを使用することがより好ましいことが分かった。
【0067】
実験例3 膜厚
表1のNo.6のポリマーを使用して、種々の厚みを有するようにポリマー仕込み量を調整し、270℃の温度で10分間ヒートプレスを行って製膜した。それぞれ10mm×10mmにカットして、それぞれの厚みについて3枚ずつ前駆体膜を作成した。引き続き、20%水酸化カリウム水溶液50ml中に浸漬し、90℃で24時間処理して、前駆体膜を構成するポリマーが有する−SOF基を−SOK基に変換するとともに、ポリマー末端の−COOH基を−COOK基に変換した。
上記変換後、得られた膜をイオン交換水中で充分に洗浄し、50mlのアセトニトリルに1時間浸漬した後、25℃で15時間真空乾燥してIRを測定した。
得られた−COOK基数をカルボキシラト基数として表5に示す。
【0068】
【表5】

【0069】
表5から明確なように、膜厚250〜500μmのサンプルでは炭素数100万個あたりのカルボキシラト基数が10未満であっても定量可能であった。膜厚が1000μmのサンプルは水ピークの影響が大きく、カルボキシラト基の正確な定量ができなかった。また、50μmと150μmではカルボキシラト基に由来するピークの強度が小さいため、測定感度が不十分であった。
【0070】
比較実験例1 フェントン試験
実験例1と同様の方法で、表1のNo.6のポリマー用いて形成した−COOK基含有フルオロ電解質ポリマーの膜(サイズ10mm×10mm、厚み250μm)の一部を、6N硫酸50mlに室温で浸漬し、水洗後、90℃で4時間乾燥して−SOH基含有フルオロ電解質ポリマー膜を得た。
【0071】
200ccの三口フラスコに、0.2ppmの2価鉄イオンを含有する硫酸第一鉄水溶液50gを入れ、上記−SOH基含有フルオロ電解質ポリマー膜を入れ、窒素をフローしながら60℃に昇温した。
引き続き、10質量%に調製した過酸化水素水50gを、1時間かけて徐々に滴下した。滴下終了後、60℃で1時間保持した。
その後、膜を取り出し、6N硫酸50ml中に65℃で1夜保持して、−SOH基含有フルオロ電解質ポリマーに変換し、引き続き0.2N水酸化カリウム水溶液50mlに浸漬した後、充分に水洗し、50mlのアセトニトリルに1時間浸漬した後、実験例3に示した方法で真空乾燥した。
上記真空乾燥を経た膜についてIR測定を行い、−COOK基数を定量したところ、炭素100万個あたり11個であった。
このことから、フェントン試験前後で新規な末端が生成することがわかった。
【0072】
実験例4 開回路電圧〔OCV〕試験
実験例1の(3)で作製した前駆体膜(No.6ポリマー、80mm×80mm、厚み250μm)を、3Lビーカー内で20%水酸化カリウム水溶液500ml中に浸漬し、90℃で24時間処理して、前駆体膜を構成するポリマーが有する−SOF基を−SOK基に変換するとともに、ポリマー末端の−COOH基を−COOK基に変換した。引き続き、6N硫酸水溶液に室温で24時間浸漬して酸型に変換した。その後、純水で十分に洗浄して、OCV試験用電解質膜を作製した。
ガス拡散電極は以下のように作製した。
田中貴金属社製の白金カーボン触媒(白金含有率46.6%)に純水と市販のナフィオン溶液(濃度5%)をナフィオンと白金カーボン触媒の重量比が1:1となるように混合し、更に2−プロパノールを所定量混合した触媒インクを調製した。これを予めPTFEディスパージョン(ダイキン工業社製、D−1)を含浸して撥水化処理を施した東レ製のカーボンペーパーにスプレーガンで吹き付け重ね塗りを行った。塗布後、熱風により乾燥し目視によってカーボンペーパー上に一様な触媒層が形成されていることを確認した。塗布の前後で重量を測定することによって、塗布された触媒層の重量を算出し、これから白金触媒の担持量を計算したところ、0.37mg/cmであった。
上記カーボンペーパーを2.3cm×2.3cmにカットしてガス拡散電極を得た。このガス拡散電極二枚の間に上記OCV試験用電解質膜を挟み込み、Electroch社製の評価用単セル(電極面積5cm)にセットした。
この評価用セルを評価装置(東陽テクニカ社製燃料電池評価)にセットして80℃に昇温した後、80℃に温調しながら、開回路状態で、露点60℃の水素ガス及び空気を流通させた。8時間処理した後、セルを解体して上記フルオロポリマーの膜を回収した。
回収したフルオロポリマーの膜の一部を10mm×10mmのサイズに切り出し、6N硫酸で洗浄し、0.2NのKOHで処理して、フルオロポリマーの末端を−COOK基に変換した。更に純水で純分に洗浄した後、実験例3と同様に真空乾燥した。
真空乾燥して得られた膜について、IRを測定したところ、−COOK基数は、炭素100万個あたり28個であった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の赤外吸収分光測定対象の調製方法は、上述の構成よりなるので、従来の方法より測定感度に優れた赤外吸収分光測定を可能にする測定対象を得ることができる。
本発明のカルボキシラト基数定量方法は、上記測定対象を用いて赤外吸収分光測定を行うものであるので、従来の方法より正確にカルボキシラト基数を測定することができる。
本発明の耐久性評価方法は、上記カルボキシラト基数定量方法を適用したものであるので、フルオロ電解質ポリマーの耐久性等を正確に評価することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオロ電解質ポリマーが有する−COOM(Mは、アルカリ金属元素を表す。)を構成するカルボキシラト基数を求めるための赤外吸収分光測定対象の調製方法であって、前記赤外吸収分光測定対象の調製方法は、前記フルオロ電解質ポリマーを100℃以下の温度において乾燥する工程(Q)を含むことを特徴とする赤外吸収分光測定対象の調製方法。
【請求項2】
Mは、Na又はKである請求項1記載の赤外吸収分光測定対象の調製方法。
【請求項3】
赤外吸収分光測定対象の調製方法は、工程(Q)の前に、更に、
フルオロ電解質ポリマーが有するカルボキシラト基及び/又はカルボキシル基を−COOM(Mは、前記定義と同じ。)に変換する工程(P)を含む請求項1又は2記載の赤外吸収分光測定対象の調製方法。
【請求項4】
赤外吸収分光測定対象の調製方法は、工程(P)と工程(Q)との間に、
水を、沸点が180℃以下である有機液体に置換する工程(R)
を含む請求項1〜3の何れか1項に記載の赤外吸収分光測定対象の調製方法。
【請求項5】
フルオロ電解質ポリマーは、下記一般式(I)
CF=CF−O−(CFCFY−O)−(CFY−SOX (I)
(式中、Y及びYは、同一若しくは異なって、F、Cl又はパーフルオロアルキル基を表す。nは、0〜3の整数を表し、n個のYは、同一でも異なっていてもよい。mは、2〜6の整数を表し、m個のYは、同一でも異なっていてもよい。Xは、F、Cl、Br、I又は−NRを表す。R及びRは、同一若しくは異なって、H、アルカリ金属元素、アルキル基又はスルホニル含有基を表す。)で示されるハロスルホニル基含有パーハロビニルエーテルに由来する繰り返し単位(a)を有する請求項1〜4の何れか1項に記載の赤外吸収分光測定対象の調製方法。
【請求項6】
一般式(I)において、nは、0である請求項5記載の赤外吸収分光測定対象の調製方法。
【請求項7】
一般式(I)において、YはFである請求項5又は6記載の赤外吸収分光測定対象の調製方法。
【請求項8】
フルオロ電解質ポリマーは、更に、一般式(I)で示されるハロスルホニル基含有パーハロビニルエーテルと共重合可能なエチレン性フルオロモノマーに由来する繰り返し単位(b)をも有する共重合体である請求項5〜7の何れか1項に記載の赤外吸収分光測定対象の調製方法。
【請求項9】
繰り返し単位(a)は、5〜50モル%であり、繰り返し単位(b)は、50〜95モル%であり、前記繰り返し単位(a)と前記繰り返し単位(b)との和が95〜100モル%である請求項8記載の赤外吸収分光測定対象の調製方法。
【請求項10】
フルオロ電解質ポリマーが有するカルボキシラト基数を定量するカルボキシラト基数定量方法であって、
前記カルボキシラト基数定量方法は、前記フルオロ電解質ポリマーを含む測定対象について赤外吸収分光測定により求める−COOM(Mは、前記定義と同じ。)基数から該−COOMを構成する前記カルボキシラト基の数を求める工程を含み、
前記赤外吸収分光測定における測定対象は、請求項1〜9の何れか1項に記載の赤外吸収分光測定対象の調製方法により調製し厚さが200〜500μmのシート状成形体である
ことを特徴とするカルボキシラト基数定量方法。
【請求項11】
固体高分子型燃料電池に用いられるフルオロ電解質ポリマーの耐久性評価を行う耐久性評価方法であって、
前記耐久性評価は、前記フルオロ電解質ポリマーが有するカルボキシラト基数を請求項10記載のカルボキシラト基数定量方法により定量することにより行う
ことを特徴とする耐久性評価方法。
【請求項12】
耐久性評価方法は、更に、化学的又は電気化学的に活性化した化学種とフルオロ電解質ポリマーとを接触させる工程(A)を含み、
耐久性評価は、前記フルオロ電解質ポリマーが有するカルボキシラト基数を前記工程(A)の前及び後において請求項10記載のカルボキシラト基数定量方法により定量して得られる数値を比較することにより行う請求項11記載の耐久性評価方法。
【請求項13】
工程(A)は、フルオロ電解質ポリマーに過酸化水素を作用させる工程である請求項12記載の耐久性評価方法。
【請求項14】
工程(A)は、フルオロ電解質ポリマーからなる電解質膜内に水素イオンを透過させることにより発電する工程である請求項12記載の耐久性評価方法。

【公開番号】特開2007−309904(P2007−309904A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−142026(P2006−142026)
【出願日】平成18年5月22日(2006.5.22)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】