説明

赤外線ズームレンズ

【課題】少ないレンズ枚数で構成し、特に、ズーミングによっても像面湾曲収差及び球面収差が大きくならない赤外線ズームレンズを提供すること。
【解決手段】正単レンズの第1レンズ、負単レンズの第2レンズ、正単レンズの第3レンズからなり、全レンズが球面レンズであり、ズーミングが、前記第1レンズが固定で、前記第2レンズ及び前記第3レンズが光軸上を移動することによって行われることを特徴とする赤外線ズームレンズ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線ズームレンズ、さらに詳しくは、赤外線による鮮明な結像を形成することによって赤外線サーモグラフィーや監視カメラに好適に使用できる赤外線ズームレンズに関する。ここで、赤外線とは、波長が3000〜5000nmの中赤外線、及び波長が8000〜14000nmの遠赤外線を含む放射である。
【背景技術】
【0002】
医療用や工業用に用いられる、10000nm前後の波長を使用する遠赤外線用の検知器やビジコンは、感度が低い。また、これらの光学系に使用されているゲルマニュウムは、一般の光学レンズに比較して透過率が低い。従って、これらの測定器の光学系は、小口径比のいわゆる明るいことが求められている。一方、ズーム結像レンズは、その焦点距離を変えて結像倍率を変えることは非常に使い勝手がよいが、構成レンズ枚数やレンズ面が多くなると、光の吸収や反射が多くなるという問題がある。
【0003】
従来の赤外線レンズとして、赤外線ズームレンズであって、3000〜5000nmまたは8000〜12000nmの波長帯の赤外線用光学系に用いられ、1枚または2枚のレンズで構成される正の屈折力を有する第1レンズ群、1枚または2枚のレンズで構成される負の屈折力を有する第2レンズ群、物体側に凹面を向けた1枚の負のメニスカスレンズからなる第3レンズ群、1枚の凸レンズからなる第4レンズ群、および、少なくとも4枚のレンズで構成されるとともに像面側の最終レンズが物体側に凸面を向けた正のメニスカスレンズからなる正の屈折力を有する第5レンズ群が、物体側からこの順で配設されてなり、ズーミング時、前記第1、第4および第5レンズ群は固定とされる一方、前記第2および第3レンズ群は可動とされ、前記第2レンズ群を光軸方向に移動させることにより変倍を行うとともに、前記第3レンズ群を光軸方向に移動させることにより結像位置の補正を行うように構成され、下記条件式(1)〜(3)を満足するように構成されたことを特徴とする赤外線ズームレンズ。
1.00<f1/ft (1)
2/ft<−0.40 (2)
0.35<f5/ft< 0.70 (3)
ただし、 ft : 望遠端における全系の焦点距離 f1 : 第1レンズ群の焦点距離 f2 : 第2レンズ群の焦点距離 f5 : 第5レンズ群の焦点距離
が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
他の従来技術の赤外線レンズとしては、ズームレンズではない赤外線用レンズであって、コストを抑制した上で、画角30°程度の広角化を図り、焦点距離に比べて十分なバックフォーカスを確保し、7000〜14000nmの波長帯で良好な光学性能を実現するものであって、物体側から順に、物体側に凸面を向けた正メニスカス形状の第1レンズL1と、絞りと、物体側に凹面を向けた負メニスカス形状の第2レンズL2と、物体側に凸面を向けた正メニスカス形状の第3レンズL3とを備える。全系の焦点距離をfとし、第2レンズL2の物体側の面の曲率半径をr4とし、第2レンズL2の像側の面の曲率半径をr5とし、第2レンズL2の中心肉厚をd4としたとき、下記条件式(1)、(2)を満足する。
0.4<|r4|/f<0.82 … (1)
0.9<(|r4|+d4)/|r5|<1.10 … (2)
が提案されている(例えば、特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3365606公報
【特許文献2】特開2010−039243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の赤外線ズームレンズは、実施形態で8枚〜12枚のレンズを有し、レンズ系全体として大型化が避けられず、またレンズによる光吸収も大きい。さらに、10000nm前後の波長域内における色収差が発生し、10000nm前後の波長域を使用する場合に結像性能が低下する問題がある。
【0007】
特許文献2の赤外線用レンズは、3枚のレンズにより小型軽量に形成されるが、赤外線ズームレンズではない。
【0008】
(発明の目的)
本発明は、従来の赤外線レンズに関する上述した問題点に鑑みてなされたものであって、少ないレンズ枚数で構成した赤外線ズームレンズを提供することを目的とする。
本発明は、特に、ズーミングによっても像面湾曲収差及び球面収差が大きくならない赤外線ズームレンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
正単レンズの第1レンズ、負単レンズの第2レンズ、正単レンズの第3レンズからなり、全レンズが球面レンズであり、ズーミングが、前記第1レンズが固定で、前記第2レンズ及び前記第3レンズが光軸上を移動することによって行われることを特徴とする赤外線ズームレンズである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、少ないレンズ枚数で構成した赤外線ズームレンズを構成することができる。本発明によればまた、特に、ズーミングによっても像面湾曲収差及び球面収差が大きくならない赤外線レンズを構成することができる。
【0011】
本発明の実施態様は、以下の通りである。
本発明において、f1:第1レンズの焦点距離、ft:望遠時の全体の焦点距離とし、下記条件式(1)を満たすことを特徴とする赤外線ズームレンズである。
f1/ft < 1.5 (1)
条件式(1)はレンズ系全体を小型するための条件である。条件式(1)の上限を超えると、第2レンズ及び第3レンズの直径が大きくなりかつレンズ系全体が長くなるという問題が生じる。
【0012】
他の実施形態は、本発明において、d2t:望遠時の第1レンズと第2レンズの間隔、d2w:広角時の第1レンズと第2レンズの間隔、ft:望遠時の全体の焦点距離、fw:望遠時の全体の焦点距離とし、下記条件式(2)を満たすことを特徴とする赤外線ズームレンズである。
1.0 < (d2t−d2w)/(ft−fw)< 1.5 (2)
条件式(2)は、レンズ系全体を小型化することに加えて、球面収差及び像面湾曲をいずれのズーム領域においても小さくするための条件である。条件式(2)の下限を超えると、特に、非点収差が増加して性能の低下があるという問題が生じる。条件式(2)の上限を超えると、特に、コマ収差が増加して性能の低下があるという問題が生じる。
【0013】
他の実施形態は、本発明において、r3:第2レンズの第1レンズ側面の曲率半径、ft:望遠時の全体の焦点距離とし、下記条件式(3)を満たすことを特徴とする赤外線ズームレンズ。
−0.6 < r3/ft < −0.2 (3)
条件式(3)は、レンズ系全体を小型化することに加えて、コマ収差をいずれのズーム領域においても小さくするための条件である。条件式(3)の上限及び下限を超えると、コマ収差の補正が困難になる。
【0014】
他の実施形態は、本発明において、前記全レンズの材料が、ゲルマニュウムであることを特徴とする赤外線ズームレンズである。
前記全レンズの材料をゲルマニュウムとすることで、分散が小さく波長による収差を抑えるという効果を得ることができる。
【0015】
他の実施形態は、本発明において、前記レンズの材料が、カルコゲナイド又はゲルマニュウムであることを特徴とする赤外線ズームレンズである。
前記レンズの材料をカルコゲナイド又はゲルマニュウムとすることで、温度による変化を抑えるという効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態の赤外線ズームレンズの光学断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態の赤外線ズームレンズの広角時の球面収差図である。
【図3】本発明の第1実施形態の赤外線ズームレンズの広角時のメリジオナルコマ収差図ある。
【図4】本発明の第1実施形態の赤外線ズームレンズの広角時のサジタルコマ収差図ある。
【図5】本発明の第1実施形態の赤外線ズームレンズの望遠時の球面収差図である。
【図6】本発明の第1実施形態の赤外線ズームレンズの望遠時のメリジオナルコマ収差図ある。
【図7】本発明の第1実施形態の赤外線ズームレンズの望遠時のサジタルコマ収差図ある。
【図8】本発明の第2実施形態の赤外線ズームレンズの光学断面図である。
【図9】本発明の第2実施形態の赤外線ズームレンズの広角時の球面収差図である。
【図10】本発明の第2実施形態の赤外線ズームレンズの広角時のメリジオナルコマ収差図ある。
【図11】本発明の2実施形態の赤外線ズームレンズの広角時のサジタルコマ収差図ある。
【図12】本発明の第2実施形態の赤外線ズームレンズの望遠時の球面収差図である。
【図13】本発明の第2実施形態の赤外線ズームレンズの望遠時のメリジオナルコマ収差図ある。
【図14】本発明の第2実施形態の赤外線ズームレンズの望遠時のサジタルコマ収差図ある。
【図15】本発明の第3実施形態の赤外線ズームレンズの光学断面図である。
【図16】本発明の第3実施形態の赤外線ズームレンズの広角時の球面収差図である。
【図17】本発明の第3実施形態の赤外線ズームレンズの広角時のメリジオナルコマ収差図ある。
【図18】本発明の第3実施形態の赤外線ズームレンズの広角時のサジタルコマ収差図ある。
【図19】本発明の第3実施形態の赤外線ズームレンズの望遠時の球面収差図である。
【図20】本発明の第3実施形態の赤外線ズームレンズの望遠時のメリジオナルコマ収差図ある。
【図21】本発明の第3実施形態の赤外線ズームレンズの望遠時のサジタルコマ収差図ある。
【図22】本発明の第4実施形態の赤外線ズームレンズの光学断面図である。
【図23】本発明の第4実施形態の赤外線ズームレンズの広角の球面収差図である。
【図24】本発明の第4実施形態の赤外線ズームレンズの広角時のメリジオナルコマ収差図ある。
【図25】本発明の第4実施形態の赤外線ズームレンズの広角時のサジタルコマ収差図ある。
【図26】本発明の第4実施形態の赤外線ズームレンズの望遠時の球面収差図である。
【図27】本発明の第4実施形態の赤外線ズームレンズの望遠時のメリジオナルコマ収差図ある。
【図28】本発明の第4実施形態の赤外線ズームレンズの望遠時のサジタルコマ収差図ある。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の赤外線ズームレンズの実施形態のレンズデータ等を示す。レンズデータにおいて屈折率屈及び焦点距離は、波長10000nmにおける値である。
(第1実施形態)
面番号 曲率半径 肉厚間隔 半径 材料(屈折率) 焦点距離
1 46.5956 1.5 15.7 Ge(4.0032) 46.17
2 68.4825 D2 15.6
(絞り) 19.07 8.3
3 −14.696 5.05 8.8 Ge(4.0032) −180.88
4 −18.999 D4 11.2
5 26.2705 4.24 12.8 Ge(4.0032) 18.27
6 44.3098 4.00 11.9
7 ∞ 1.0 Ge(4.0032)
8 ∞ D8
【0018】
(ズーミング)
焦点距離 F/No 半画角ω D2 D4 D8 バックフォーカBF
f=25 1.44 12.42 1.0 14.18 5.29 10.29
f=35 1.42 8.63 15.0 3.98 1.49 6.49
【0019】
(条件式の値)
条件式(1) f1/ft = 1.319
条件式(2) (d2t−d2w)/(ft−fw)= 1.40
条件式(3) r3/ft = −0.42
【0020】
(第2実施形態)
面番号 曲率半径 肉厚間隔 半径 材料(屈折率) 焦点距離
1 56.1475 2.0 14.2 Ge(4.0032) 52.63
2 84.7523 D2 14.0
(絞り) 19.07 8.3
3 −11.871 4.81 7.4 Ge(4.0032) −286.15
4 −15.679 D4 10.0
5 27.5545 3.32 9.5 Ge(4.0032) 18.27
6 46.2977 4.0 9.0
7 ∞ 1.0 Ge(4.0032)
8 ∞ D8
【0021】
(ズーミング)
焦点距離 F/No 半画角ω D2 D4 D8 バックフォーカBF
f=29.9 1.41 10.34 10.49 9.29 6.06 11.06
f=40.1 1.44 7.57 22.69 0.56 2.59 7.59
【0022】
(条件式の値)
条件式(1) f1/ft = 1.312
条件式(2) (D2t−D2w)/(ft−fw)= 1.20
条件式(3) r3/ft = −0.30
【0023】
(第3実施形態)
面番号 曲率半径 肉厚間隔 半径 材料(屈折率) 焦点距離
1 48.4414 1.53 12.5 Ge(4.0032) 55.84
2 66.5054 D2 12.5
(絞り) 19.07 8.5
3 −14.312 6.34 8.5 chal(2.5861) −180.55
4 −19.158 D4 11.0
5 37.9423 2.45 11.8 Ge(4.0032) 24.06
6 76.0365 4.0 11.5
7 ∞ 1.0 Ge(4.0032)
8 ∞ D8
【0024】
(ズーミング)
焦点距離 F/No 半画角ω D2 D4 D8 バックフォーカBF
f=24.3 1.59 9.12 11.3 8.75 8.94 13.94
f=45.0 1.85 6.87 24.08 0.31 4.33 9.33
【0025】
(条件式の値)
条件式(1) f1/ft = 1.241
条件式(2) (D2t−D2w)/(ft−fw)= 1.22
条件式(3) r3/ft = −0.32
【0026】
(第4実施形態)
面番号 曲率半径 肉厚間隔 半径 材料(屈折率) 焦点距離
1 35.0788 1.1 11.5 Ge(4.0032) 36.96
2 50.0814 D2 11.4
(絞り) 11.71 8.3
3 −14.971 8.96 8.5 Ge(4.0032) −226.2
4 −22.181 D4 12.5
5 24.4545 2.78 13.5 Ge(4.0032) 20.33
6 37.3168 4.0 13.0
7 ∞ 1.0 Ge(4.0032)
8 ∞ D8
【0027】
(ズーミング)
焦点距離 F/No 半画角ω D2 D4 D8 バックフォーカBF
f=21.3 1.11 14.73 4.98 6.19 7.88 12.22
f=28 1.08 7.57 13.82 0.31 4.26 9.26
【0028】
(条件式の値)
条件式(1) f1/ft< 1.5 = 1.320
条件式(2) (D2t−D2w)/(ft−fw)= 1.32
条件式(3) −0.6 < r3/ft = −0.53
【符号の説明】
【0029】
BF バックフォーカス
1 第1レンズ
2 第2レンズ
3 第3レンズ
r1 第1面
r2 第2面
s 絞り
r3 第3面
r4 第4面
r5 第5面
r6 第6面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正単レンズの第1レンズ、負単レンズの第2レンズ、正単レンズの第3レンズからなり、全レンズが球面レンズであり、ズーミングが、前記第1レンズが固定で、前記第2レンズ及び前記第3レンズが光軸上を移動することによって行われることを特徴とする赤外線ズームレンズ。
【請求項2】
f1:第1レンズの焦点距離、ft:望遠時の全体の焦点距離とし、下記条件式(1)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の赤外線ズームレンズ。
f1/ft < 1.5 (1)
【請求項3】
d2t:望遠時の第1レンズと第2レンズの間隔、d2w:広角時の第1レンズと第2レンズの間隔、ft:望遠時の全体の焦点距離、fw:望遠時の全体の焦点距離とし、下記条件式(2)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の赤外線ズームレンズ。
1.0 < (d2t−d2w)/(ft−fw)< 1.5 (2)
【請求項4】
r3:第2レンズの第1レンズ側面の曲率半径、ft:望遠時の全体の焦点距離とし、下記条件式(3)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の赤外線ズームレンズ。
−0.6 < r3/ft < −0.2 (3)
【請求項5】
前記全レンズの材料が、ゲルマニュウムであることを特徴とする請求項1に記載の赤外線ズームレンズ。
【請求項6】
前記レンズの材料が、カルコゲナイド又はゲルマニュウムであることを特徴とする請求項1に記載の赤外線ズームレンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2013−15636(P2013−15636A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147467(P2011−147467)
【出願日】平成23年7月1日(2011.7.1)
【出願人】(000133227)株式会社タムロン (355)
【Fターム(参考)】