説明

赤外線吸収組成物、樹脂組成物、合わせガラス用中間膜、積層体、合わせガラス及び建材

下記式(1)で表されるリン酸モノエステル及び下記式(2)で表されるリン酸ジエステルを含有するリン酸エステル化合物と、銅イオンと、を含み、上記リン酸モノエステルと上記リン酸ジエステルとの割合がモル比で30:70〜74:26である、赤外線吸収組成物。


上記式中、R及びRはそれぞれ独立に、エステル結合を有する炭素数4〜18の基、炭素数4〜18のアルキル基、炭素数4〜18のアルケニル基又は炭素数4〜18のアルキニル基を示す。但し、複数存在するRは互いに同一でも異なっていてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線吸収組成物、樹脂組成物、合わせガラス用中間膜、積層体、合わせガラス及び建材に関する。
【背景技術】
【0002】
特開平9−211220号公報には、赤外線又はこれよりも長い波長域の光線を高い効率で遮断等させる性能を有し、しかも、可視光線の透過率が大きく、十分な耐熱性や表面硬度を容易に得ることができる熱線吸収性複合体が開示されている。かかる熱線吸収性複合体は、透明性材料よりなる基層と上層との間に中間層を備えている。中間層は、樹脂成分と赤外線吸収成分とを含有する。赤外線吸収成分としては、2価の銅イオンと、リン酸エステル又はホスホン酸エステルからなるリン含有化合物とを含有する。
【発明の開示】
【0003】
熱線吸収性複合体は、例えば、車両用合わせガラスとして使用することができる。この車両用合わせガラスの中間層は、2枚のガラス間に設けられており、赤外線吸収特性を有する赤外線吸収組成物又は樹脂組成物から構成されている。ところで、車両が炎天下に放置されたとき、合わせガラスの表面温度は60℃程度又はそれ以上に達することがある。このように合わせガラスの表面温度が高温になると、合わせガラスに濁りが生じ、やがて可視光の透過率が低下することがある。こうなると、赤外線吸収性能は担保されるものの、車両内部からの視認性が悪化してしまう。
【0004】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、常温のみならずこれよりも高い温度において高い可視光透過率を有し、赤外線吸収性能にも優れる赤外線吸収組成物及び樹脂組成物を提供することを目的とする。本発明はまた、表面温度が上昇しても優れた視認性を有することが可能な合わせガラス用中間膜、積層体、合わせガラス及び建材を提供することを目的とする。
【0005】
上記目的を達成するために、本発明者は、銅イオンと、リン酸エステル化合物とを含む組成物の分光特性について鋭意研究を重ねたところ、リン酸エステル化合物の置換基の種類やその鎖長、及びリン酸エステル化合物を構成するリン酸モノエステルとリン酸ジエステルとの含有割合によって、高い温度での濁りの状態が変化し、可視光透過性が変化するとの知見を得た。更に詳細に検討を行ったところ、高い温度においても濁りが生ずることなく優れた可視光透過特性を保持できる組成を見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明の赤外線吸収組成物は、下記式(1)で表されるリン酸モノエステル及び下記式(2)で表されるリン酸ジエステルを含有するリン酸エステル化合物と、銅イオンと、を含み、上記リン酸モノエステルと上記リン酸ジエステルとの割合がモル比で30:70〜74:26である。

上記式中、R及びRはそれぞれ独立に、エステル結合を有する炭素数4〜18の基、炭素数4〜18のアルキル基、炭素数4〜18のアルケニル基又は炭素数4〜18のアルキニル基を示す。但し、複数存在するRは互いに同一でも異なっていてもよい。
【0007】
また、本発明の樹脂組成物は、上記赤外線吸収組成物と、樹脂と、を含む。
【0008】
本発明の赤外線吸収組成物及び樹脂組成物は、上記構成を採用することで、常温のみならずこれよりも高い温度において高い可視光透過率を有し、赤外線吸収性能にも優れるようになる。したがって、本発明の樹脂組成物は、例えば、赤外線吸収樹脂組成物として使用することができる。上述した効果が得られるのは、リン酸エステル化合物がリン酸モノエステルとリン酸ジエステルとを特定の割合で含み、これらのリン酸エステル化合物が特定の置換基を有していることに主に起因するものと考えられる。
【0009】
また、銅イオンは、リン酸エステル化合物のリン酸基と配位結合及び/又はイオン結合しており、リン酸エステル化合物に囲まれた状態で赤外線吸収組成物中に存在するか、又は樹脂組成物中に溶解又は分散されている。赤外線は、銅イオンのd軌道間の電子遷移によって吸収される。
【0010】
また、上記樹脂は、ポリビニルアセタール系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体又は該共重合体の鹸化物であると有用である。樹脂組成物が、かかる樹脂を含有することで基材への接着性が良好になる。
【0011】
また、当該リン酸エステル化合物は、RとRとが同一の基のものであることが好ましい。RとRとが同種の基のものであると、相溶性や分散性が良好になる。上記アルキル基、アルケニル基又はアルキニル基は、炭素数6〜18のものが好ましく、例えば、2−エチルヘキシル基、8−メチルノニル基、イソデシル基、オレイル基がより好ましい。さらに、リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとの含有割合は、モル比で35:65〜70:30であることが好ましい。
【0012】
また、銅イオンに対するリン酸エステル化合物に含まれる水酸基の合計量の割合(OH基/Cu)は、モル比で1〜6であると有用である。さらに、銅イオンの含有量は、当該赤外線吸収組成物又は樹脂組成物の全質量基準で0.1〜20質量%であることが好ましい。これにより、銅イオンに特有の光学特性を有効に発揮できる。
【0013】
また、本発明の合わせガラス用中間膜は、上述した本発明の樹脂組成物からなる。さらに、本発明の積層体は、透光性材料からなる基板上に樹脂組成物からなる層を備える積層体であって、上記樹脂組成物は上述した本発明の樹脂組成物である。
【0014】
また、本発明の合わせガラスは、一対のガラス間に樹脂組成物からなる中間層を備える合わせガラスであって、上記樹脂組成物は上述した本発明の樹脂組成物である。さらに、本発明の建材は、上述した本発明の樹脂組成物の成形物からなる。
【0015】
本発明の合わせガラス用中間膜、積層体、合わせガラス及び建材は、上述した本発明の樹脂組成物からなるものであるから、可視光透過率が高く、太陽光中の特定波長領域の光を選択的に吸収することができる。これにより、本発明の合わせガラス用中間膜、積層体、合わせガラス及び建材は、表面温度が上昇しても優れた視認性を有し、かつ優れた熱線カット効率を有することができる。
【0016】
また、上述した樹脂組成物は、可視光に対する透過率が70%以上、且つ、波長700〜1000nmの光に対する透過率が40%以下であることが好ましい。さらに、本発明の樹脂組成物は、ポリビニルアセタール系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体又は該共重合体の鹸化物を含有する樹脂組成物であって、可視光に対する透過率が70%以上、且つ、波長700〜1000nmの光に対する透過率が40%以下である。これにより、本発明の樹脂組成物は、優れた視認性及び熱線カット効率を同時に有することができる。
【0017】
また、本発明の合わせガラス用中間膜、積層体、合わせガラス及び建材は、それぞれ、可視光に対する透過率が70%以上、且つ、波長700〜1000nmの光に対する透過率が40%以下である。
【0018】
合わせガラス用中間膜は、好適には、樹脂組成物からなるものであって、合わせガラス用中間膜の厚さ方向の、可視光に対する透過率が70%以上、且つ、波長700〜1000nmの光に対する透過率が40%以下である。
【0019】
積層体は、好適には、透光性材料からなる基板上に樹脂組成物からなる層を備える積層体であって、積層体の厚さ方向の、可視光に対する透過率が70%以上、且つ、波長700〜1000nmの光に対する透過率が40%以下である。
【0020】
合わせガラスは、好適には、一対のガラス間に樹脂組成物からなる中間層を備える合わせガラスであって、合わせガラスの厚さ方向の、可視光に対する透過率が70%以上、且つ、波長700〜1000nmの光に対する透過率が40%以下である。
【0021】
建材は、好適には、樹脂組成物の板状成形物からなる建材であって、建材の厚さ方向の、可視光に対する透過率が70%以上、且つ、波長700〜1000nmの光に対する透過率が40%以下である。
【0022】
なお、可視光に対する透過率、並びに、波長700〜1000nmの光に対する透過率は、分光光度計を用いて同一箇所で測定して得るものとする。
【0023】
以上の構成により、本発明の合わせガラス用中間膜、積層体、合わせガラス及び建材は、優れた視認性及び熱線カット効率を同時に有することができる。
【0024】
本発明はまた、上述した本発明の樹脂組成物からなることを特徴とする赤外線吸収シート及び赤外線吸収フィルム、並びに上記樹脂組成物を含むことを特徴とする赤外線吸収コーティングを提供する。
【0025】
上述した樹脂組成物を溶媒に溶解又は分散させたものを塗布して乾燥させたり、熱成形させたり、といった方法によって、赤外線吸収シート、赤外線吸収フィルム及び赤外線吸収コーティングを容易に得ることができる。
【0026】
本発明はさらに、上記赤外線吸収シート、上記赤外線吸収フィルム又は上記赤外線吸収コーティングからなることを特徴とする合わせガラス用中間膜を提供する。上記赤外線吸収シート、上記赤外線吸収フィルム及び上記赤外線吸収コーティングは、赤外線吸収特性及び可視光透過特性に優れるため、合わせガラス用中間膜として有用である。
【0027】
本発明はまた、上記赤外線吸収シート、上記赤外線吸収フィルム、上記赤外線吸収コーティング又は上記合わせガラス用中間膜からなる層と、透光性材料からなる基材と、を備えることを特徴とする積層体を提供する。さらに、上記赤外線吸収シート、上記赤外線吸収フィルム又は上記赤外線吸収コーティング又は上記合わせガラス用中間膜からなる層が少なくとも一対の透光性材料からなる基材の間に設けられてなることを特徴とする積層体を提供する。また、上記透光性材料は、ガラス又はプラスチックであると有用である。
【0028】
これにより、上記積層体は、常温のみならずこれよりも高い温度において高い可視光透過率を有し、赤外線吸収性能にも優れるようになる。また、積層体は、表面温度が上昇しても優れた視認性を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1は、本発明の積層体の一例を模式的に示す断面図である。
【0030】
図2は、本発明の積層体の一例を模式的に示す断面図である。
【0031】
図3は、本発明の積層体の一例を模式的に示す断面図である。
【0032】
図4は、本発明の積層体の一例を模式的に示す断面図である。
【0033】
図5は、本発明の積層体の一例を模式的に示す断面図である。
【0034】
図6は、本発明の積層体の一例を模式的に示す断面図である。
【0035】
図7は、本発明の積層体の一例を模式的に示す断面図である。
【0036】
図8は、実施例4の樹脂組成物の分光スペクトルの測定結果の一例を示すグラフである。
【0037】
図9は、実施例11の赤外線吸収シート、実施例17〜20及び比較例6〜7の合わせガラスの分光スペクトルの測定結果の一例を示すグラフである。
【0038】
図10は、実施例21及び比較例8,9の合わせガラスの熱線カットに関する評価方法の一例を示す図である。
【0039】
図11は、実施例21及び比較例8,9の合わせガラスの熱線カットに関する評価方法の一例を示す図である。
【0040】
図12は、実施例21及び比較例8,9の合わせガラスの熱線カットに関する評価結果の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0042】
(赤外線吸収組成物)
まず、本実施形態にかかる赤外線吸収組成物について説明する。赤外線吸収組成物は、特定のリン酸エステル化合物と、銅イオンと、を含有するものである。
【0043】
上述したリン酸エステル化合物は、下記式(1)で表されるリン酸モノエステルと、下記式(2)で表されるリン酸ジエステルとを含むものである。

【0044】
上記式中、R及びRは、炭素数4〜18のアルキル基、炭素数4〜18のアルケニル基、炭素数4〜18のアルキニル基若しくはオキシアルキレン単位を有する炭素数4〜18の基(以下、「第1の基」という)又はエステル結合を有する炭素数4〜18の基(以下、「第2の基」という)を示す。複数存在するRは、互いに同一でも異なっていてもよい。上記リン酸エステル化合物においては、R及びRとして特定の置換基を有するため、銅イオンと組み合わせた時の溶媒や樹脂等の媒体に対する溶解性又は分散性が良好になる。この場合、RとRとが同種の基のものであると、樹脂組成物とした場合の相溶性や分散性が特に良好になる。また、R及びRの炭素数は4〜18であるが、好ましくは6〜18であり、より好ましくは8〜18である。炭素数が4未満あるいは炭素数が18を超えると、樹脂との相溶性が低下する。
【0045】
上記アルキル基としては、直鎖状、分枝状又は環状のアルキル基が挙げられる。上記アルケニル基としては、直鎖状、分枝状又は環状のアルケニル基が挙げられる。上記アルキニル基としては、直鎖状、分枝状又は環状のアルキニル基が挙げられる。これらの中でも、分枝状のアルキル基、分枝状のアルケニル基又は分枝状のアルキニル基が好ましく、例えば、2−エチルヘキシル基、8−メチルノニル基、イソデシル基が好適に使用される。また、直鎖状のアルキニル基も好ましく、例えば、オレイル基が好適に使用される。かかる置換基を採用することにより、銅イオンと組み合わせた場合に、常温のみならずこれよりも高い温度、例えば70℃以上の温度(以下、場合により「高温時」という)においても可視光透過特性や赤外線吸収特性に優れるようになる。
【0046】
また、上記第1の基としては、下記式(3)で表される基が挙げられる。

【0047】
上記式中、R11は炭素数1〜16、好ましくは1〜10、更に好ましくは1〜6のアルキル基である。R11の炭素数が16を超えると、樹脂との相溶性が低下することがある。また、OR12はオキシアルキレン単位であり、かかるオキシアルキレン単位としては、オキシエチレン単位、オキシプロピレン単位、オキシブチレン単位、オキシペンチレン単位、オキシヘキシレン単位が挙げられる。これらの中でも、オキシエチレン単位、オキシプロピレン単位及びオキシブチレン単位のうちの少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0048】
また、オキシアルキレン単位は、単一種類又は複数種類のオキシアルキレン単位から構成されていてもよい。例えば、オキシアルキレン単位がオキシエチレン単位とオキシプロピレン単位とから構成される場合、オキシエチレン単位とオキシプロピレン単位とはブロック結合していてもランダム結合していてもよい。また、オキシアルキレン単位の繰返し数xは1〜7が好ましく、より好ましくは1〜5であり、更に好ましくは1〜3である。かかる繰返し数xが7を超えると、赤外線吸収組成物の耐湿性が大幅に低下する傾向がある。なお、第1の基においては、合計炭素数が4〜18の範囲内になるようにR11、オキシアルキレン単位(OR12)及びxが適宜選択される。
【0049】
第1の基としては、下記式(4)及び下記式(5)で表されるオキシプロピレン単位を有する基が好適である。かかる第1の基を採用することにより、高温時においても可視光透過特性や赤外線吸収特性に優れる赤外線吸収組成物が得られる。

【0050】
さらに、第2の基としては、下記式(6)又は下記式(7)で表される基が挙げられる。

【0051】
上記式中、R21及びR31は炭素数1〜16、好ましくは1〜10、更に好ましくは1〜6、特に好ましくは1〜3のアルキル基である。R21の炭素数が16を超えると、樹脂との相溶性が低下することがある。また、OR22及びOR32で表されるアルキレン単位の炭素数は1〜6、好ましくは1〜4、更に好ましくは3〜4、特に好ましくは3である。このようなオキシアルキレン単位としては、オキシメチレン単位、オキシエチレン単位、オキシプロピレン単位、オキシブチレン単位、オキシペンチレン単位、オキシヘキシレン単位などが挙げられる。これらの中でも、オキシプロピレン単位及びオキシブチレン単位が特に好ましい。R22及びR32の炭素数が6を超える場合には、リン酸エステル化合物を溶媒や樹脂中に高い割合で分散させることが困難となる。
【0052】
また、R41はアルキレン基であり、その炭素数は1〜10、好ましくは3〜6、更に好ましくは3〜4、特に好ましくは3である。上記式(6)で表される第2の基におけるmは、1〜6、好ましくは1〜3の整数である。mの値が6を超えると、赤外線吸収組成物の耐湿性が大幅に低下する。一方、mの値が0のときは、樹脂中に銅イオンを均一に分散させることが困難となる傾向にある。また、上記式(7)で表される第2の基におけるnは0〜5、好ましくは0〜2の整数である。なお、第2の基の合計炭素数が4〜18の範囲内になるように、R21、R22及びm、並びにR31、R32、R41及びnが適宜選択される。
【0053】
第2の基としては、下記式(8)で表される基が好適に使用される。

【0054】
本実施形態にかかるリン酸エステル化合物は、リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとの含有割合がモル比で30:70〜74:26であるが、好ましくは35:65〜70:30、より好ましくは40:60〜65:35である。リン酸モノエステルの割合が30モル%未満(リン酸ジエステルの割合が70モル%超)となると、高温時における可視光透過率が低下する。一方、リン酸モノエステルの割合が74モル%超(リン酸ジエステルの割合が26モル%未満)であると、銅イオンとの反応生成物が析出することがあり、可視光透過率が低下する。
【0055】
本実施形態にかかるリン酸エステル化合物は、下記(i)〜(iii)の方法により得ることができる。(i)無溶媒又は適宜の有機溶剤中で、特定のアルコールと、五酸化リンとを反応させる方法である。かかる反応に用いられる有機溶剤としては、五酸化リンと反応しない有機溶剤、例えばトルエン、キシレンが好適に用いられる。また、特定のアルコールと五酸化リンとの反応条件は、反応温度が0〜100℃、好ましくは40〜80℃であり、反応時間が1〜24時間、好ましくは4〜9時間である。この方法においては、例えば特定のアルコール及び五酸化リンをモル比で3:1となる割合で用いることにより、リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとの割合が略1:1(モル比)の混合物が得られる。また、特定のアルコールと五酸化リンとの割合及び反応条件を適宜選択することにより、リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとの割合がモル比で30:70〜74:26の範囲内で調整することができる。
【0056】
(ii)無溶媒又は適宜の有機溶剤中で、特定のアルコールとオキシハロゲン化リンとを反応させて、得られる生成物に水を添加し加水分解する方法である。オキシハロゲン化リンとしては、例えばオキシ塩化リンが好適に用いられる。また、特定のアルコールとオキシハロゲン化リンとの反応に用いられる有機溶剤としては、オキシハロゲン化リンと反応しない有機溶剤、例えばトルエン、キシレンが好適に用いられる。そして、特定のアルコールとオキシハロゲン化リンとの反応条件は、反応温度が0〜110℃、好ましくは40〜80℃であり、反応時間が1〜20時間、好ましくは2〜8時間である。
【0057】
また、この方法においては、例えば特定のアルコール及びオキシハロゲン化リンをモル比で1:1となる割合で用いることにより、リン酸モノエステル化合物を得ることができる。さらに、反応触媒として塩化アルミニウム(AlCl)等のルイス酸触媒や副生する塩酸のキャッチ剤としては、トリエチルアミン、ピリジン等の塩基を用いることができる。これらの反応触媒や塩酸キャッチ剤を用いることにより、リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとの混合物が得られる。そして、この特定のアルコールとオキシハロゲン化リンとの割合及び反応触媒を含む反応に係る条件を適宜選択することにより、リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとの割合をモル比で30:70〜74:26の範囲内で調整することができる。
【0058】
(iii)無溶媒又は適宜の有機溶剤中で、特定のアルコールと三ハロゲン化リンとを反応させることにより、ホスホン酸エステル化合物を合成し、その後、得られたホスホン酸エステル化合物を酸化する方法である。三ハロゲン化リンとしては、例えば三塩化リンが好適に用いられる。有機溶剤としては、ヘキサン、ヘプタンが好適に用いられる。そして、特定のアルコールと三ハロゲン化リンとの反応条件は、反応温度が0〜90℃、好ましくは40〜75℃であり、反応時間が1〜10時間、好ましくは2〜5時間である。上記ホスホン酸エステル化合物を酸化する手段としては、ホスホン酸エステル化合物に例えば塩素ガス等のハロゲンを反応させることにより、ホスホロハロリデート化合物を合成し、このホスホロハロリデート化合物を加水分解する手段を利用することができる。ここで、ホスホン酸エステル化合物とハロゲンとの反応温度は、好ましくは0〜40℃、特に好ましくは5〜25℃である。
【0059】
また、ホスホン酸エステル化合物を酸化する前に、このホスホン酸エステル化合物を蒸留して精製してもよい。この方法においては、例えば特定のアルコール及び三ハロゲン化リンをモル比で3:1となる割合で用いることにより、リン酸ジエステル化合物が高い純度で得られる。また、特定のアルコールと三ハロゲン化リンとの割合及び反応条件を選択することにより、リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとの混合物が得られる。このとき、リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとの含有割合はモル比で30:70〜74:26の範囲内で調整される。
【0060】
(i)〜(iii)の方法で得られたリン酸エステル化合物の好適な具体例としては、下記式(9)−a及び(9)−bから下記式(17)−a及び(17)−b、下記式(11)−c及び(11)−d、下記式(14)−c及び(14)−dで表される組成物が挙げられる。ここで、下記式中、a及びcはリン酸モノエステルを示し、b及びdはリン酸ジエステルを示す。これらのリン酸エステル化合物は、リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとの割合がモル比で30:70〜74:26の範囲内になるように調製される。また、リン酸モノエステル及びリン酸ジエステルを上記特定割合に調製する際、RとRとが同一の基のものからなるリン酸モノエステルとリン酸ジエステルとを含むリン酸エステル化合物(例えば、下記式(9)−a及び(9)−bで表されるリン酸エステル化合物)、RとRとが異種の基のものからなるリン酸モノエステルとリン酸ジエステルとを含むリン酸エステル化合物(例えば、下記式(9)−a及び(10)−bで表されるリン酸エステル化合物)とすることができる。
【0061】
さらに、RとRとが同一の基と異種の基のものを含有するリン酸モノエステルとリン酸ジエステルとを含むリン酸エステル化合物(例えば、下記式(9)−a及び(9)−b、並びに下記式(10)−a及び(10)−bで表されるリン酸エステル化合物)とすることができる。RとRとが異種の基のものからなるリン酸モノエステル及びリン酸ジエステルを含むリン酸エステル化合物と銅イオンとを反応させたときに、場合によっては反応生成物であるリン酸エステル銅化合物の立体構造に起因して溶解性が低下し、リン酸エステル銅化合物が析出することがある。このため、RとRとが同一の基のものからなるリン酸モノエステルとリン酸ジエステルとを含むリン酸エステル化合物とすることが好ましい。赤外線吸収特性及び高温時における可視光透過特性の向上の観点から、具体的に例示したリン酸エステル化合物のなかでは、下記式(13)−a及び(13)−b、下記式(14)−a及び(14)−b、又は、(14)−c及び(14)−dで表されるリン酸エステル化合物を選択することが好ましい。


【0062】
(銅イオン)
銅イオンは、銅塩から供給することができる。かかる銅塩の具体例としては、酢酸銅、蟻酸銅、ステアリン酸銅、安息香酸銅、エチルアセト酢酸銅、ピロリン酸銅、ナフテン酸銅、クエン酸銅等の有機酸の銅塩の無水物、水和物若しくは水化物、或いは、塩化銅、硫酸銅、硝酸銅、塩基性炭酸銅等の無機酸の銅塩の無水物、水和物若しくは水化物、又は水酸化銅が挙げられる。これらのなかでは、酢酸銅、酢酸銅一水和物、安息香酸銅、水酸化銅、塩基性炭酸銅が好適に用いられる。また、本実施形態においては、銅イオンを主成分として含んでいれば銅イオン以外の金属イオンを含有していてもよい。「銅イオンを主成分とする」とは、銅イオンを全金属イオンの質量基準で50質量%以上、好ましくは70質量%以上含有することを意味する。これにより、赤外線吸収組成物は銅イオンに特有な光学特性を有効に発現することができる。
【0063】
銅イオン以外の金属イオンとしては、希土類金属、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、ストロンチウム、鉄、マンガン、マグネシウム、ニッケル、クロム、インジウム、チタン、アンチモン、スズ等の金属によるイオンが挙げられる。希土類金属としては、ネオジム、プラセオジム及びホルミウム等を例示することができる。かかる希土類金属は、希土類イオンのf軌道の電子遷移によって特定波長光(波長580nm近傍や波長520nm近傍)に対する吸収特性に優れており、これらの波長域は人間の眼球の視細胞が有する最大応答波長と合致することから、上述の赤外線吸収組成物に防眩性を付与することができる。
【0064】
本実施形態にかかる赤外線吸収組成物は、上述のようにリン酸エステル化合物と銅イオンとを含有するものであるが、上述したリン酸エステル化合物と銅化合物とを反応させて得られるリン酸エステル銅化合物を含有させてもよい。銅化合物としては、上述した銅塩を用いることができる。リン酸エステル化合物と銅塩との反応は、適宜の条件下で両者を接触させることにより行われる。具体的には、以下の(iv)、(v)、(vi)の方法などを用いることが可能である。
(iv)リン酸エステル化合物と銅塩とを混合して両者を反応させる方法。
(v)適宜の有機溶剤中においてリン酸エステル化合物と銅塩とを反応させる方法。
(vi)リン酸エステル化合物が有機溶剤中に含有されてなる有機溶剤層と、銅塩が溶解又は分散されて成る水層とを接触させることにより、リン酸エステル化合物と銅塩とを反応させる方法。
【0065】
上記(iv)の方法におけるリン酸エステル化合物と銅塩との反応条件は、反応温度が0〜150℃、好ましくは40〜100℃であり、反応時間が0.5〜10時間、好ましくは1〜7時間である。
【0066】
上記(v)の方法において使用される有機溶剤としては、用いられるリン酸エステル化合物を溶解し得るものであれば特に限定されることはない。有機溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族化合物、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のグリコールエーテル類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類、ヘキサン、ケロシン、石油エーテル等が挙げられる。また、(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物等の重合性を有する有機溶剤も用いられる。
【0067】
一方、上記(vi)の方法において使用される有機溶剤としては、水に不溶又は難溶であって、用いられるリン酸エステル化合物を溶解又は分散し得るものであれば特に限定されることはない。かかる有機溶剤としては、例えば(v)の方法において用いられる有機溶剤として例示したもののうち、芳香族化合物、エーテル類、エステル類、ヘキサン、ケロシン、(メタ)アクリル酸エステル類、芳香族ビニル化合物等が挙げられる。
【0068】
また、銅塩として酸塩を用いた場合には、リン酸エステル化合物と銅塩との反応において、銅塩から陰イオンである酸成分が遊離される。このような酸成分は、リン酸エステル化合物を樹脂に溶解又は分散せしめた樹脂組成物とするときに、その樹脂組成物の耐湿性及び熱安定性を低下させる原因となり得るため、必要に応じて除去することが好ましい。上記(iv)又は(v)の方法によりリン酸エステル銅化合物を製造する場合には、リン酸エステル化合物と銅塩とを反応させた後、生成された酸成分((v)の方法においては生成された酸成分及び有機溶剤)を蒸留によって除去することができる。
【0069】
さらに、上記(vi)の方法によって製造する場合、酸成分を除去する好ましい方法としては、水に不溶又は難溶の有機溶剤にリン酸エステル化合物が含有されて成る有機溶剤層に、アルカリを添加することによって中和した後、この有機溶剤層と銅塩が溶解又は分散された水層とを接触させることより、リン酸エステル化合物と銅塩とを反応させ、その後、有機溶剤層と水層とを分離する方法が挙げられる。
【0070】
ここで、アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。この方法によれば、銅塩から遊離される酸成分とアルカリとによって水溶性の塩が形成される。この塩は水層に移行する一方、生成するリン酸エステル銅化合物は有機溶剤層に移行する。このため、この水層と有機溶剤層とを分離することにより、酸成分を除去することができる。
【0071】
上記(iv)〜(vi)の方法で得られたリン酸エステル銅化合物の好適な具体例としては、下記式(19)−aで表されるリン酸モノエステル由来のリン酸モノエステル銅化合物と、下記式(19)−bで表されるリン酸ジエステル由来のリン酸ジエステル銅化合物とを含むものが挙げられる。なお、リン酸エステル銅化合物の構造は、これらに限定されない。このリン酸エステル銅化合物においては、リン酸モノエステル銅化合物とリン酸ジエステル銅化合物との割合がモル比で30:70〜74:26の範囲内にある。

上記式中、R及びRはそれぞれ独立に、炭素数4〜18のアルキル基、炭素数4〜18のアルケニル基、炭素数4〜18のアルキニル基、オキシアルキレン単位を有する炭素数4〜18の基又はエステル結合を有する炭素数4〜18の基を示し、Mは銅イオンを示す。複数存在するRは、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0072】
また、上記式(19)−aで表されるリン酸モノエステル銅化合物におけるRとしては、上記一般式(1)で表されるリン酸モノエステルにおけるRと同一の置換基を好適な置換基として挙げることができる。さらに、上記一般式(19)−bで表されるリン酸ジエステル銅化合物におけるRとしては、上記一般式(2)で表されるリン酸ジエステルにおけるRと同一の置換基を好適な置換基として挙げることができる。
【0073】
また、銅イオンに対するリン酸エステル化合物に含まれる水酸基の合計量の割合(OH基/Cu)は、モル比で1〜6であることが好ましく、より好ましくは1〜4、更に好ましくは1.5〜2.5である。銅イオンの比率が1未満となると、リン酸エステル化合物を樹脂中に分散させることが困難となり、また、赤外線吸収性能や高温時における可視光透過性が不十分となる傾向がある。一方、銅イオンの比率が6を超えると、銅イオンとの配位結合及び/又はイオン結合に関与しない水酸基の割合が過大となるため、このような組成割合の組成物は、吸湿性が比較的大きくなる傾向にある。
【0074】
(樹脂組成物)
次に、本実施形態にかかる樹脂組成物について説明する。樹脂組成物は、上記赤外線吸収組成物と、樹脂と、を含有するものである。樹脂としては、優れた透明性を有する合成樹脂が好適に用いられる。その具体例としては、塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ノルボルネン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、エチレン−酢酸ビニル系共重合体及びその鹸化物等を挙げることができる。これらの合成樹脂は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中では、後述の透光性材料を構成するガラス又はプラスチック材料に対して高い接着性を有することから、ポリビニルブチラール樹脂等のポリビニルアセタール系樹脂、エチレン−酢酸ビニル系共重合体及びその鹸化物から選ばれる少なくとも1種が好適に使用される。
【0075】
さらに、上記樹脂組成物には、樹脂との相溶性に優れる可塑剤が用いられる場合が有る。このような可塑剤としては、リン酸エステル系可塑剤、フタル酸系可塑剤、脂肪酸系可塑剤、グリコール系可塑剤が挙げられ、より具体的な例としては、トリエチレングリコールジ−2エチルヘキサノエート(3GO)、トリエチレングリコールジ−2エチルブチレート(3GH)、ジヘキシルアジペート(DHA)、テトラエチレングリコールジヘプタノエート(4G7)、テトラエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート(4GO)、トリエチレングリコールジヘプタノエート(3G7)等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0076】
また、上記リン酸エステル化合物と銅イオンとを樹脂に含有させて樹脂組成物とする場合、銅イオンの含有量は樹脂組成物の全質量基準で0.1〜20質量%であることが好ましく、より好ましくは0.3〜15質量%、更に好ましくは0.5〜7質量%である。この割合が0.1質量%未満であるときには、赤外線吸収特性が不十分となる傾向にある。一方、この割合が20質量%を超えるときには、銅イオンを樹脂中に分散させることが困難となる傾向にある。
【0077】
一方、他の金属イオンの含有量は、全金属イオンの質量基準で50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。この割合が50質量%を超える場合には、銅イオンとリン酸エステル化合物との結合配位が他の金属イオンの影響を受けるため、赤外線吸収率の高い樹脂組成物を得ることが困難になる傾向にある。
【0078】
また、上記赤外線吸収組成物及び上記樹脂組成物は、可視光に対する透過率が70%以上、且つ、波長700〜1000nmの光に対する透過率が40%以下であるという特性を有する。さらに、別の実施形態にかかる樹脂組成物は、ポリビニルアセタール系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体又はその共重合体の鹸化物からなる樹脂を含有する樹脂組成物であって、可視光に対する透過率が70%以上、且つ、波長700〜1000nmの光に対する透過率が40%以下である。なお、「透過率」は、厚さ1.0mm、30mmφ以上の均一な面を有するようにシート状に成形した樹脂組成物について分光光度計(U−4000、(株)日立製作所製)を用いて測定することができる。これにより、赤外線吸収組成物及び樹脂組成物は、優れた赤外線吸収特性及び可視光透過特性を同時に発現することができる。
【0079】
さらに、上記赤外線吸収組成物又は上記樹脂組成物の70℃におけるヘーズは、70%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましく、40%以下であることが更に好ましい。かかるヘーズが70%を超えると、高温時における可視光透過特性が不十分となる。さらに、上記赤外線吸収組成物又は上記樹脂組成物は、下記式(20)で表されるΔHが45%以下であることが好ましく、35%以下であることがより好ましく、20%以下であることが更に好ましい。かかるΔHが45%を超えると、高温時における可視光透過特性が不十分になる。
|H70−H25|≦ΔH% …(20)
上記式中、H70は70℃における上記赤外線吸収組成物又は上記樹脂組成物のヘーズを示し、H25は25℃における上記赤外線吸収組成物又は上記樹脂組成物のヘーズを示す。ここで、「ヘーズ」とは、厚さ1.0mm、30mmφ以上の均一な面を有するようにシート状に成形した上記赤外線吸収組成物又は上記樹脂組成物をJIS K 7136に準拠して濁度計(NDH−1001DP、日本電色工業製)を用いて測定したものをいう。
【0080】
(赤外線吸収シート、赤外線吸収フィルム、赤外線吸収コーティング)
本実施形態にかかる赤外線吸収シート、赤外線吸収フィルム及び赤外線吸収コーティングは、上述した樹脂組成物からなるものである。また、赤外線吸収コーティングにおいては、銅イオンとリン酸エステル化合物とを含有する組成物からなるものであってもよい。
【0081】
ここで、赤外線吸収シートとは、上記樹脂組成物を溶融させて、例えば押出成形により250μm以上の厚さを有する薄板状に成形したものをいう。また、赤外線吸収フィルムとは、上記樹脂組成物を溶融させて、例えば延伸成形により厚さ5〜250μmの薄い膜状にしたものをいう。さらに、赤外線吸収コーティングとは、銅イオンとリン酸エステル化合物とを含有する組成物又は上記樹脂組成物を適宜の溶剤に溶解又は分散させた組成物の溶液又は分散液を、必要な面に塗布し溶剤を蒸発させて、その面の一部又は全部に形成される薄膜、被覆物又は薄層をいう。また、赤外線吸収シート又は赤外線吸収フィルムを製造する手段としては、溶融押出成形法、カレンダー成形法、プレス成形法、溶液キャスト法等が好適に使用される。かかる赤外線吸収シート、赤外線吸収フィルム及び赤外線吸収コーティングは、赤外線吸収性及び可視光透過性に優れる。上記樹脂組成物の溶剤への溶解性又は分散性を高めるために、或いは、赤外線吸収コーティングを施した面、すなわち、薄膜等が形成された面の平坦性等を高めるために、溶解補助剤等を添加剤してもよい。このような添加剤としては、例えば、レベリング剤、消泡剤としての各種の界面活性剤が好適に用いられる。
【0082】
(合わせガラス用中間膜)
本実施形態にかかる合わせガラス用中間膜は、上記赤外線吸収組成物、上記樹脂組成物、上記赤外線吸収シート、上記赤外線吸収フィルム又は上記赤外線吸収コーティングからなるものである。このため合わせガラス用中間膜は、赤外線を吸収し可視領域の光(可視光)を吸収しないという銅イオンに特徴的な特性を有する。また、上記合わせガラス用中間膜は、上記赤外線吸収組成物又は上記樹脂組成物からなるものであるから、可視光に対する透過率が70%以上、且つ、波長700〜1000nmの光に対する透過率が40%以下であるという特性を発現できる。また、別の実施形態にかかる合わせガラス用中間膜は、可視光に対する透過率が70%以上、且つ、波長700〜1000nmの光に対する透過率が40%以下であるという特性を有する。これにより、合わせガラス用中間膜は、優れた赤外線吸収性能及び可視光透過性能を同時に発現することができる。
【0083】
合わせガラス用中間膜は、その厚みが0.001〜10mm、特に0.01〜5mmであることが好ましい。合わせガラス用中間膜の厚みが0.001mm未満の場合には、赤外線吸収特性の高い中間膜を得ることが困難となって、合わせガラスの熱線吸収特性が不十分なものとなることがある。一方、合わせガラス用中間膜の厚みが10mmを超える場合には、可視光線の透過率が高い中間膜を得ることが困難となって、合わせガラスの可視光透過率が低いものとなることがある。
【0084】
(積層体)
図1〜5は、それぞれ本実施形態にかかる積層体の例を模式的に示す断面図である。図1〜3は、本実施形態にかかる積層体の第1の態様である。かかる積層体は、板状部材1(透光性材料からなる基材)と、上記赤外線吸収組成物又は上記樹脂組成物からなる層(以下、「赤外線吸収組成物層」という)2と、を備えるものである。図4〜5は、本実施形態にかかる積層体の第2の態様である。かかる積層体は、赤外線吸収組成物層2が一対の板状部材1(透光性材料からなる基材)の間に設けられたものである。このように積層体は、板状部材1と赤外線吸収組成物層2とが一体化したものであり、例えば、窓材等の赤外線吸収複合体として使用することができる。
【0085】
図1〜5に示す積層体は、窓材である。図1に示す窓材10は、板状部材1(基材)上に赤外線吸収組成物層2が設けられたものである。この窓材10は、単層ガラス又はその母材、合わせガラスの単層、複層ガラスの一層等に好適に用いることができる。このような構成の窓材10は、板状部材1上の一方面に上記赤外線吸収組成物又は上記樹脂組成物(例えば、赤外線吸収コーティング)を塗布して形成することができる。また、窓材10は、板状部材1上の一方面に赤外線吸収シート、赤外線吸収フィルム、又は合わせガラス中間膜を貼り合せて形成することも可能である。
【0086】
また、図2に示す窓材20は、板状部材1の一方面に赤外線吸収組成物層2が設けられ、且つ、板状部材1の他方面にも赤外線吸収組成物層2が設けられたものである。この窓材20は、窓材10と同様に単層ガラス又はその母材、合わせガラスの単層、複層ガラスの一層等に好適に用いることができる。
【0087】
さらに、図3に示す窓材30は、赤外線吸収組成物層2上に更に赤外線吸収組成物層2が設けられたこと以外は、図1に示す窓材10と同様の構成を有する。この窓材30は、窓材10と同様に単層ガラス又はその母材、合わせガラスの単層、複層ガラスの一層等に好適に用いることができる。
【0088】
また、図4に示す窓材40は、板状部材1上に、赤外線吸収組成物層2、赤外線吸収組成物層2、及び板状部材1を順次積層させて一体化したものである。この窓材40は、後述する合わせガラスに好適な一態様である。図4においては、2つの赤外線吸収組成物層2が2枚の板状部材1の中間膜(中間層)として機能している。
【0089】
さらに、図5に示す窓材50は、板状部材1上に、赤外線吸収組成物層2、板状部材1、及び赤外線吸収組成物層2を順次積層させて一体化したものである。この窓材50は、後述する合わせガラスに好適な一態様である。図5においては、1つの赤外線吸収組成物層2が2枚の板状部材1の中間膜(中間層)として機能している。
【0090】
上記積層体は、赤外線を吸収するという銅イオンに特徴的な特性を発現する一方、可視領域の光(可視光)の波長に相当するエネルギー準位をもたないので可視光は吸収されない。これにより、本実施形態の積層体は、表面温度が上昇したとしても優れた可視光透過特性を有することができる。すなわち、上記積層体は、可視光に対する透過率が70%以上、且つ、波長700〜1000nmの光に対する透過率が40%以下であるという特性を有することができる。また、別の実施形態にかかる積層体は、可視光に対する透過率が70%以上、且つ、波長700〜1000nmの光に対する透過率が40%以下である。これにより、積層体は、優れた可視光透過性能及び赤外線吸収性能を同時に発現することができる。したがって、ショーウィンドウやショーケースの窓材、テント又はその窓材、ブラインド、定置住宅や仮設住宅等の天窓や窓材、自動車、船舶、航空機又は電車(鉄道)等の車両用の窓材として好適に使用することができる。なお、これらの窓材は、単層ガラス、合わせガラス又は複層ガラスとすることができる。
【0091】
また、上述した赤外線吸収組成物層2には、上述したリン酸エステル化合物と希土類イオンとを含む樹脂組成物(防眩組成物)を含有していても良い。このような構成を有する窓材とすることにより、上述した可視光透過特性及び赤外線吸収特性に加えて、優れた防眩特性を有することができる。
【0092】
さらに、上述した窓材は、リン酸エステル化合物と希土類イオンとを含む防眩組成物からなる層(以下、防眩組成物層)を備えていてもよい。このような窓材としては、例えば、板状部材1上に赤外線吸収組成物層2、及び防眩組成物層を順次積層した窓材、板状部材1上に防眩組成物層、及び赤外線吸収組成物層2を順次積層した窓材、板状部材1上に赤外線吸収組成物層2、防眩組成物層、及び赤外線吸収組成物層2を順次積層した窓材が挙げられる。
【0093】
板状部材1を構成する材料としては、可視光透過性を有する透光性材料であれば特に限定されるものではなく、積層体の用途に応じて適宜選択可能である。硬度、耐熱性、耐薬品性、耐久性等の観点から、上述のようにガラス又はプラスチックが好適に使用される。ガラスとしては、無機ガラス又は有機ガラス等が挙げられる。プラスチックとしては、例えばポリカーボネート、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ポリメチルメタクリレート、塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン、ポリエステル、ポリオレフィン、ノルボルネン系樹脂等が例示できる。また、板状部材1が複数存在する場合、それぞれの板状部材1は同じ種類の材料で構成されていてもよく、或いは互いに異なる材料で構成されていてもよい。
【0094】
また、赤外線吸収組成物層2として上記赤外線吸収組成物又は上記樹脂組成物を使用する場合には、ヘンシェルミキサー等の混合機により混合する手段、ロール混練機、或いは混練押出機等により混練混合する手段を用いることができる。また、各成分を適宜の有機溶剤に分散させ、この分散液から有機溶剤を除去する手段を用いることができる。
【0095】
さらに、赤外線吸収組成物層2として上記赤外線吸収シート、上記赤外線吸収フィルム、上記赤外線吸収コーティング又は上記合わせガラス用中間膜を使用する場合、これらと板状部材1とを接着させる手段としては、プレス法、マルチロール法、減圧法などの加圧または減圧により接着する手段、オートクレーブ等を用いて加熱することにより接着させる手段、又はこれらの組み合わせによる手段を用いることができる。
【0096】
また、積層体の板状部材1のうち少なくとも一つの面には、反射低減層又は反射防止層が設けられていてもよい。この反射低減層又は反射防止層としては、無機酸化物、無機ハロゲン化物等よりなる公知の材料を用いて、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリングといった種々公知の方法によって形成させることができる。さらに、板状部材1に特定波長を選択的に吸収及び/又は反射する機能を持つものを用いることができる。例えば、金属イオンを導入したガラスや染料を混合したプラスチック等の選択光吸収特性を持つものや、上記反射低減層を作製する方法と同様の手法で選択光反射特性を付与させたものが挙げられる。さらに、必要に応じて、特定波長の可視光を吸収する可視光吸収剤、例えば、波長500〜600nmを選択的に吸収するコバルトイオンを含む金属イオン含有成分等やその他の添加剤が樹脂組成物中に混合されていてもよい。
【0097】
(合わせガラス)
本実施形態にかかる合わせガラスは、上記積層体の一例として挙げられている。合わせガラスは、一対のガラス間に上述した合わせガラス用中間膜を備えるものである。また、別の実施形態にかかる合わせガラスは、可視光に対する透過率が70%以上、且つ、波長700〜1000nmの光に対する透過率が40%以下である。これにより、合わせガラスは、優れた可視光透過性能及び赤外線吸収性能を同時に発現することができる。かかる合わせガラスの製造方法としては、接着性を有する上記赤外線吸収組成物又は上記樹脂組成物からなる中間膜(合わせガラス用中間膜)を2枚のガラス板の間に挿入し、得られた積層体を予備圧着して各層間に残存する空気を排除した後、本圧着して積層体を完全に密着させる方法が採られることがある。この場合に用いられる中間膜は、保存時に中間膜同士が合着し塊状となる、いわゆるブロッキング現象が生じないこと、ガラスと中間膜とを重ね合わせる際の作業性が良好であること、および予備圧着工程における脱気性が良好であることが要求される。予備圧着時の脱気性は合わせガラスの品質を左右し、脱気が不十分であると得られた合わせガラスの透明性が悪くなったり、促進試験を行うと気泡が生じたりすることがある。
【0098】
上記のような中間膜の総合性能は、素材である熱可塑性樹脂の種類や粘弾性等の物性によって左右されるが、これらを固定して考えると、中間膜の表面形状がその総合性能を決定する大きな要因となる。特に、エンボスと呼ばれる多数の微細な凹凸を中間膜の表面に形成すると効果が得られ、エンボスが表面に形成された中間膜が従来より使用されている。そのエンボスの形態としては、例えば、多数の凸部とこれらの凸部に対する多数の凹部とからなる各種凸凹模様、多数の凸条とこれらの凸条に対する多数の凹溝とからなる各種の凸凹模様、粗さ、配置、大きさ等の種々の形状因子に関し多様な値を有するエンボス形状がある。このようなエンボスを形成する方法としては、例えば、特開平6−198809号公報に記載されるように凸部の大きさを変え、その大きさ、配置を規定する方法、特開平9−40444号公報に記載されるように表面の粗さを20〜50μmとする方法、特開平9−295839号公報に記載されるように凸条が交差するように配置する方法、特開2003−48762号公報に記載されるように主凸部の上に更に小さな凸部を形成する方法、等が挙げられる。
【0099】
さらに、各種用途において、合わせガラスに対して遮音性が要求される場合がある。一般に遮音性能は、周波数の変化に応じた透過損失量として示され、その透過損失量は、JIS A 4708では、500Hz以上において遮音等級に応じてそれぞれ一定値で規定されている。しかし、ガラス板の遮音性能は、2000Hzを中心とする周波数領域ではコインシデンス効果により著しく低下する。ここで、コインシデンス効果とは、ガラス板に音波が入射した時、ガラス板の剛性と慣性によって、ガラス板状を横波が伝播してこの横波と入射音とが共鳴し、その結果、音の透過が起こる現象をいう。一般的な合わせガラスでは、2000Hzを中心とする周波数領域において、かかるコインシデンス効果による遮音性能の低下が避けられずこの点の改善が求められることがある。
【0100】
一方、人間の聴覚は、等ラウドネス曲線から、1000〜6000Hzの範囲では他の周波数領域に比べ非常に良い感度を示すことが知られている。従って、コインシデンス効果による上記遮音性能の落ち込みを解消することは、防音性能を高める上で重要であることがわかる。従って、合わせガラスの遮音性能を高めるには、上記コインシデンス効果による遮音性能の低下を緩和し、コインシデンス効果によって生じる透過損失の極小部(以下、この極小部の透過損失量をTL値という。)の低下を防ぐ必要がある。
【0101】
合わせガラスに遮音性を付与する方法としては、合わせガラスの質量を増大させる方法、ガラスを複合化する方法、ガラス面積を細分化する方法、ガラス板支持手段を改善する方法などがある。また、遮音性能が中間膜の動的粘弾性により左右され、特に貯蔵弾性率と損失弾性率との比である損失正接に影響されることがあるため、この値を制御すれば合わせガラスの遮音性能を高め得ることができる。制御手段としては、例えば、特定の重合度を有する樹脂膜を用いる方法、特開平4−2317443号公報に記載されるようにポリビニルアセタール樹脂のアセタール部分の構造を規定する方法、特開2001−220183号公報に記載されるように樹脂中の可塑剤量を規定する方法、等が挙げられる。さらに、異なる2種以上の樹脂を組み合わせることにより広い温度範囲にわたって合わせガラスの遮音性能を高め得ることができる。例えば、特開2001−206742号公報に記載されるように複数種の樹脂をブレンドする方法、特開2001−206741号公報、特開2001−226152号公報に記載されるように複数種の樹脂を積層する方法、特開2001−192243号公報に記載されるように中間膜中の可塑剤量に偏向を持たせる方法、等が挙げられる。
【0102】
更に合わせガラスの遮熱性を高める場合には、遮熱機能を有する酸化物微粒子を中間膜中に含有させることが可能であり、例えば、特開2001−206743号公報、特開2001−261383号公報、特開2001−302289号公報等に記載の方法が挙げられる。酸化物微粒子としては錫ドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)等が挙げられる。また、中間膜の透光性を上げるために、酸化物微粒子の粒径を小さくする(特開2002−293583号公報)、分散性を高める等の方法を用いてもよい。微粒子の分散性を上げるために、機械的に分散させる、分散剤を用いる等の既知の微粒子分散技術を用いることが出来る。また、酸化物微粒子だけではなく、特開平7−157344号公報、特許第319271号公報に記載されるように有機系の遮熱機能を有する染料を用いる方法も挙げられる。
【0103】
合わせガラスの遮熱性を高める方法としては、遮熱機能を有するガラスを用いて合わせガラスを作製する方法が挙げられる。例えば、特開2001−151539号公報に記載されるようにFe含有ガラス(例えば、グリーンガラス)を使用する方法、特開2001−261384号公報、特開2001−226148号公報に記載されるように金属、金属酸化物を積層したガラス板を使用する方法等が挙げられる。
【0104】
このように、上述した実施形態の合わせガラスは、中間膜に含まれる近赤外光吸収材料が近赤外光領域の光線を吸収することによって、熱線である近赤外光を遮断する特性を発揮するものであるが、本発明の合わせガラス(積層体)は、更なる近赤外光遮断特性の向上を目的として、近赤外光吸収層に加えて、近赤外光を反射する特性を有する層(反射層)を更に有していてもよい。
【0105】
図6は、本発明の積層体の一例を模式的に示す断面図である。この積層体は、例えば反射層を有する合わせガラス等の窓材60である。窓材60は、板状部材1、赤外線吸収組成物層2、反射層23及び板状部材1をこの順に備える構造を有している。板状部材1及び赤外線吸収組成物層2は、上述した窓材10におけるのと同様のものが適用できる。
【0106】
反射層23としては、金属や金属酸化物から構成される層が挙げられ、具体的には、例えば、金、銀、銅、錫、アルミニウム、ニッケル、パラジウム、ケイ素、クロム、チタン、インジウム、アンチモン等の金属単体、合金、混合物又は酸化物が例示できる。
【0107】
このような反射層23を有する窓材60は、例えば、以下のようにして製造することができる。すなわち、まず、板状部材1の一面に反射層23を設けたものを準備する。ここで、板状部材1上に反射層23を形成する方法としては、金属や金属酸化物を板状部材1上に蒸着する方法等が挙げられる。次に、赤外線吸収組成物層2となるべきシートの一方の面側に、反射層23が形成された板状部材1をその反射層23が接するように配置するとともに、他方の面側に板状部材1のみを配置する。そして、これらを圧着することによって、窓材60を得ることができる。
【0108】
ところで、このように板状部材1と赤外線吸収組成物層2との間に反射層23を形成すると、反射層23と赤外線吸収組成物層2との接着性が低下してしまう場合がある。こうなると、例えば窓材60が破損した場合に板状部材1が剥離・飛散し易くなり、安全性の点で問題が生じることとなる。かかる問題を避ける観点からは、例えば、赤外線吸収組成物層2と反射層23との間に、両者の接着力を向上させ得る層を更に設けることが好ましい。こうすることで、反射層23と赤外線吸収組成物層2との接着性を改善することが可能となる。このように接着力を調整する手段としては、例えば、赤外線吸収組成物層2に含まれる樹脂成分がポリビニルアセタールである場合、赤外線吸収組成物層2よりも高いアセタール度を有するポリビニルアセタールからなる層(特開平7−187726号公報、特開平8−337446号公報)、所定の割合のアセトキシ基を有するPVBからなる層(特開平8−337445号公報)、所定のシリコンオイルからなる層(特開平7−314609号広報)等を形成する方法が採用できる。
【0109】
なお、反射層は、合わせガラスにおいて、必ずしも上述したように板状部材と近赤外光吸収層との間に設けられている必要はなく、例えば、板状部材の間に複数の樹脂からなる層が形成されている場合は、これらの層の間に設けられた形態であってもよい。
【0110】
図7は、本発明の積層体の一例を模式的に示す断面図である。この積層体は、例えば板状部材間に設けられた複数の層間に反射層を有する合わせガラス等の窓材70である。窓材70は、板状部材1、赤外線吸収組成物層2、反射層33、樹脂層34、赤外線吸収組成物層2、板状部材1をこの順に備える構造を有している。かかる窓材70において、板状部材1、赤外線吸収組成物層2及び反射層33としては、上述したのと同様のものが適用できる。また、樹脂層34としては、公知の樹脂材料からなるものが適用でき、このような樹脂材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリカーボネート等が挙げられる。なお、このような構造の窓材70においては、赤外線吸収組成物層2は少なくとも一層設けられていればよいため、例えば、上述した赤外線吸収組成物層2のうちの一層は、近赤外光吸収特性を有しない樹脂材料からなる層であってもよい。
【0111】
このように、赤外線吸収組成物層(中間膜)に加えて更に反射層を設けることで、両層の効果により、合わせガラスに対して更に優れた近赤外光遮断特性を付与することができる。また、上述したような、反射層と赤外線吸収組成物層との接着性を改善する方法を採用すれば、このような近赤外光遮断特性に加え、優れた強度を有する合わせガラスを得ることも可能となる。
【0112】
また、中間膜としての性能を高めるために、以下に例示するような方法を用いることもできる。耐貫通性を向上させる方法としては、例えば、特公平6−25005号公報に記載されるように樹脂基材としてα−オレフィン変性ポリビニルアセタールを使用する方法、特開平10−25390号公報に記載されるように樹脂の重合度、可塑剤添加量を規定する方法、特開平11−147736号公報に記載されるように中間膜の厚み偏差を低減させる方法、等が挙げられる。
【0113】
中間膜とガラスとの接着性、密着性を調整する方法としては、例えば、特許2624779号公報に記載されるように樹脂を放射線グラフト不飽和化する方法、特開平11−322378号公報に記載されるようにシリコーンオイルを添加する方法、特開2000−1238586号公報に記載されるようにアルカリ金属又はアルカリ土類金属を添加する方法、特開2002−505210号公報に記載されるように表面エネルギー改変剤を添加する方法、等が挙げられる。
【0114】
耐久性試験時における白化防止方法としては、例えば、特開2000−72495号公報に記載されるように分子中に疎水性の大きな炭化水素基を有するシリコーンオイルを添加する方法、特開2000−128586号公報に記載されるようにアルカリ金属又はアルカリ土類金属添加量を規定する方法、特開2001−139352号公報に記載されるようにオキシアルキレングリコール含有量を規定する方法、特開2001−163640号公報に記載されるように規定された特性をもつ樹脂を使用する方法、特開平6−211548号公報に記載されるようにシランカップリング材シールする方法、等が挙げられる。
【0115】
紫外線吸収性を向上させる方法としては、特公平4−29697号公報、特開平10−194796号公報、特開2000−128587号公報に記載されるように紫外線吸収剤を添加する方法が挙げられる。帯電防止方法としては、特開2001−240425号公報に記載されるようにカルボン酸アルカリ金属塩を添加する方法、特開2001−261384号公報に記載されるようにオキシアルキレン化合物を添加する方法、等が挙げられる。調色方法としては、特開平9−183638号公報に記載されるように染料を添加する方法が挙げられる。
【0116】
(建材)
本実施形態にかかる建材は、上記赤外線吸収組成物又は上記樹脂組成物が用いられた成形物からなるものである。かかる成形物の形状は用途に応じて適宜選択可能であるが、例えば、平面状、アーチ状、円筒状、円錐状、ドーム状が挙げられる。また、建材がガラス又は透光性プラスチックスで構成される場合には、その調製、成形、又は加工時において原材料に、上記赤外線吸収組成物又は上記樹脂組成物を添加するといった簡便な方法で製造することができる。さらに、所望の形状を有する成形物に対して、上記赤外線吸収組成物又は上記樹脂組成物からなる赤外線吸収フィルム、赤外線吸収シート又は合わせガラス用中間膜を貼付したり、上記赤外線吸収組成物又は上記樹脂組成物と溶剤とを混合して塗布したり、赤外線吸収コーティングと混合してコートすることにより建材を製造してもよい。
【0117】
本実施形態にかかる建材は、外光を取り込むための建築物の部材として主に使用されるものである。建材としては、例えば、アーケード等の通路の天蓋材、カーテン、カーポートやガレージの天蓋、サンルームの壁材、テント、ブラインド、定置住宅や仮設住宅等の屋根材、道路標識等の塗装面の被覆材、その他パラソル等の日除け具材が挙げられる。但し、これらに限定されない。
【0118】
上記建材は、可視光に対する透過率が70%以上、且つ、波長700〜1000nmの光に対する透過率が40%以下であるという特性を有する。これにより、本実施形態にかかる建材は、表面温度が上昇しても優れた視認性を有することができる。また、別の実施形態にかかる建材は、可視光に対する透過率が70%以上、且つ、波長700〜1000nmの光に対する透過率が40%以下である。これにより、建材は、優れた可視光透過性能及び赤外線吸収性能を同時に発現することができる。
【実施例】
【0119】
以下、本発明の好適な実施例についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0120】
[実施例1]
リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとの割合がモル比で50:50の2−エチルヘキシルリン酸の混合物(東京化成製)2.76gと、ジ−2−エチルヘキシルリン酸(東京化成製)2.24gとを混合して、リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとの割合が、モル比で30:70のリン酸エステル化合物を調製した。このリン酸エステル化合物に、酢酸銅一水和物を2.24g、トルエン15gを加え、脱酢酸還流を行い、更にトルエンを留去し、銅イオンとリン酸エステル化合物とを含む組成物を得た。得られた組成物1.0gに、ポリビニルブチラール樹脂(エスレックBL−1、積水化学(株)製)9.0gを加え混合して樹脂組成物を得た。次いで、この樹脂組成物をプレス機(WF−50、神藤金属工業製)により85℃で数回プレスし、更に120℃で数回プレスを行って混練成形し、厚さ1.0mm、30mmφ以上の均一な面を有する赤外線吸収シートを作製した。
【0121】
[実施例2]
実施例1記載の2−エチルヘキシルリン酸の混合物3.29gと、ジ−2−エチルヘキシルリン酸1.71gとを混合して、リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとの割合がモル比で35:65のリン酸エステル化合物を調製した。次いで、このリン酸エステル化合物と、酢酸銅一水和物2.38gとを用いて銅イオンとリン酸エステル化合物とを含む組成物を得たこと以外は実施例1と同様の方法により樹脂組成物を得、赤外線吸収シートを作製した。
【0122】
[実施例3]
実施例1記載の2−エチルヘキシルリン酸の混合物3.83gと、ジ−2−エチルヘキシルリン酸1.17gとを混合して、リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとの割合がモル比で40:60のリン酸エステル化合物を調製した。次いで、このリン酸エステル化合物と、酢酸銅一水和物2.51gとを用いて銅イオンとリン酸エステル化合物とを含む組成物を得たこと以外は実施例1と同様の方法により樹脂組成物を得、赤外線吸収シートを作製した。
【0123】
[実施例4]
実施例1記載の2−エチルヘキシルリン酸の混合物5.00gに酢酸銅一水和物2.78g、トルエン15gを加え、脱酢酸還流を行い、更にトルエンを留去し、銅イオンとリン酸エステル化合物とを含む組成物を得たこと以外は実施例1と同様の方法により樹脂組成物を得、赤外線吸収シートを作製した。
【0124】
[実施例5]
リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとの割合がモル比で50:50のn−ブチルリン酸混合物(東京化成製)5.00gと、酢酸銅一水和物2.37gとを用いて銅イオンとリン酸エステル化合物とを含む組成物を得たこと以外は実施例1と同様の方法により樹脂組成物を得、赤外線吸収シートを作製した。
【0125】
[実施例6]
トルエン溶剤100gに下記式(21)で示されるアルコール296.4g(2.0モル)を溶解した溶液を調整した。この溶液を5℃に維持しながら五酸化二リン94.6g(0.66モル)を少しずつ加え、全量を撹拌混合後、15時間撹拌を継続した。次いで、60℃で8時間撹判混合後、水7mlを加えた後に100℃に昇温し、3時間撹絆した。反応終了後にトルエンおよび未反応の上記アルコールを減圧下で留去して、リン酸エステル化合物を265g得た。得られたリン酸エステル化合物を31P−NMRにて分析した結果、リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとの割合が、モル比で50:50であることを確認した。得られたリン酸エステル化合物5.00gと、酢酸銅一水和物4.50gを用いて銅イオンとリン酸エステル化合物とを含む組成物を得たこと以外は実施例1と同様の方法により樹脂組成物を得、赤外線吸収シートを作製した。

【0126】
[実施例7]
上記式(21)で示されるアルコールの代わりに、下記式(22)で示されるアルコール132.2g(2.0モル)を用いた以外は実施例6と同様の方法によりリン酸エステル化合物を得た。得られたリン酸エステルを31P−NMRにて分析した結果、リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとの割合が、モル比で50:50であることを確認した。得られたリン酸エステル化合物5.00gと、酢酸銅一水和物4.71gとを用いて銅イオンとリン酸エステル化合物とを含む組成物を得たこと以外は実施例1と同様の方法により樹脂組成物を得、赤外線吸収シートを作製した。

【0127】
[実施例8]
リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとの割合が、モル比で50:50のイソデシルリン酸の混合物(商品名AP−10、大八化学製)5.00gと、酢酸銅一水和物2.43gとを用いて銅イオンとリン酸エステル化合物とを含む組成物を得たこと以外は実施例1と同様の方法により樹脂組成物を得、赤外線吸収シートを作製した。
【0128】
[実施例9]
実施例1記載の2−エチルヘキシルリン酸混合物と、モノ−2−エチルヘキシルリン酸(城北化学工業製)とを混合して、リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとの割合がモル比で60:40のリン酸エステル化合物を調整した。このリン酸エステル化合物5.00gと、酢酸銅一水和物3.16gとを用いて銅イオンとリン酸エステル化合物とを含む組成物を得たこと以外は、実施例1と同様の方法により樹脂組成物を得、赤外線吸収シートを作製した。
【0129】
[実施例10]
実施例1記載の2−エチルヘキシルリン酸の混合物と、ジ−2−エチルヘキシルリン酸とを混合して、リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとの割合がモル比で65:35のリン酸エステル化合物を調製した。得られたリン酸エステル化合物5gと、酢酸銅一水和物1gとを用いて銅イオンとリン酸エステル化合物とを含む組成物を得たこと以外は実施例1と同様の方法により樹脂組成物を得、赤外線吸収シートを作製した。
【0130】
[実施例11]
実施例4と同様の方法で作製した銅イオンとリン酸エステル化合物とを含む組成物1.0gに、ポリビニルブチラール樹脂(エスレックBM−1、積水化学(株)製)7.00gと、可塑剤(3GO(トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサネート)、アクロス社製)2.00gとを用いて、実施例1と同様の方法により樹脂組成物を得、赤外線吸収シートを作製した。
【0131】
[実施例12]
実施例4と同様の方法で作製した銅イオンとリン酸エステル化合物とを含む組成物0.5gに、ポリビニルブチラール樹脂(エスレックBM−1、積水化学(株)製)7.50gと、可塑剤(3GO(トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサネート)、アクロス社製)2.00gとを用いて、実施例1と同様の方法により樹脂組成物を得、赤外線吸収シートを作製した。
【0132】
[実施例13]
実施例4と同様の方法で作製した銅イオンとリン酸エステル化合物とを含む組成物2.0gに、ポリビニルブチラール樹脂(エスレックBM−1、積水化学(株)製)6.00gと、可塑剤(3GO(トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサネート)、アクロス社製)2.00gとを用いて、実施例1と同様の方法により樹脂組成物を得、赤外線吸収シートを作製した。
【0133】
[実施例14]
実施例4と同様の方法で作製した銅イオンとリン酸エステル化合物とを含む組成物1.0gに、ポリビニルブチラール樹脂(エスレックBH−3、積水化学(株)製)7.00gと、可塑剤(3GO(トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサネート)、アクロス社製)2.00gとを用いて、実施例1と同様の方法により樹脂組成物を得、赤外線吸収シートを作製した。
【0134】
[実施例15]
リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとの割合がモル比で50:50のオレイルリン酸の混合物(東京化成製)5.00gと、酢酸銅一水和物1.58gとを用いて銅イオンとリン酸エステル化合物とを含む組成物を得たこと以外は、実施例11と同様の方法により樹脂組成物を得、赤外線吸収シートを作製した。
【0135】
[実施例16]
3GO200gに錫ドープ酸化インジウム(ITO、平均粒子径80nm以下)2.3gを分散させて可塑剤を調製した。得られた可塑剤2.00gを用いたこと以外は、実施例11と同様の方法により樹脂組成物を得、赤外線吸収シートを作製した。
【0136】
(比較例1)
実施例1記載のジ−2−エチルヘキシルリン酸66.6gに酢酸銅一水和物20.0g、トルエン180gを加え、脱酢酸還流を行い、更にトルエンを留去し、銅イオンとリン酸エステル化合物とを含む組成物を得たこと以外は実施例1と同様により樹脂組成物を得、赤外線吸収シートを作製した。
【0137】
(比較例2)
実施例1記載の2−エチルヘキシルリン酸の混合物1.00gと、ジ−2−エチルヘキシルリン酸4.00gとを混合して、リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとの割合がモル比で10:90のリン酸エステル化合物を調製した。次いで、このリン酸エステル化合物と、酢酸銅一水和物1.76gとを用いて銅イオンとリン酸エステル化合物とを含む組成物を得たこと以外は実施例1と同様の方法により樹脂組成物を得、赤外線吸収シートを作製した。
【0138】
(比較例3)
実施例1記載の2−エチルヘキシルリン酸の混合物2.00gと、ジ−2−エチルヘキシルリン酸3.00gとを混合して、リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとの割合がモル比で20:80のリン酸エステル化合物を調製した。次いで、このリン酸エステル化合物と、酢酸銅一水和物2.00gとを用いて銅イオンとリン酸エステル化合物とを含む組成物を得たこと以外は実施例1と同様の方法により樹脂組成物を得、赤外線吸収シートを作製した。
【0139】
(比較例4)
実施例1記載の2−エチルヘキシルリン酸の混合物2.50gと、ジ−2−エチルヘキシルリン酸2.50gとを混合して、リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとの割合がモル比で25:75のリン酸エステル化合物を調製した。次いで、このリン酸エステル化合物と、酢酸銅一水和物2.18gとを用いて銅イオンとリン酸エステル化合物とを含む組成物を得たこと以外は実施例1と同様の方法により樹脂組成物を得、赤外線吸収シートを作製した。
【0140】
(比較例5)
実施例1記載の2−エチルヘキシルリン酸混合物と、モノ−2−エチルヘキシルリン酸(城北化学工業製)とを混合して、リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとの割合がモル比で75:25のリン酸エステル化合物を調整した。このリン酸エステル5.00gと、酢酸銅一水和物4.70g及びトルエン15gを加え、脱酢酸還流を行い、更にトルエンを留去したところ、沈殿が発生してしまい、銅イオンとリン酸エステル化合物とを含む組成物を得ることができなかった。
【0141】
(加熱時における外観評価)
実施例1〜16及び比較例1〜4で得られた赤外線吸収シートを、クレラップ(商品名、呉羽化学工業(株)製)に包んで防水し試験サンプルを作製した。この試験サンプルを70℃の湯浴に20秒間浸漬した。湯浴から試験サンプルを取り出した後、赤外線吸収シートの外観を目視で観察し、以下の基準に従って評価した。実施例1〜8及び比較例1〜4で得られた赤外線吸収シートの評価結果を表1に示す。実施例9〜16で得られた赤外線吸収シートの評価結果を表2に示す。
◎:全く曇りが見られず、透明性が維持されている。
○:若干曇りが見られるものの、ほぼ透明性が維持されている。
△:半透明状態である。
×:不透明である。
【0142】
(ヘーズの測定)
実施例1〜16及び比較例1〜4で得られた赤外線吸収シートについて、70℃の湯浴に20秒間浸漬した前後のヘーズを濁度計(製品名NDH−1001DP、日本電色工業製)を用いて測定した。実施例1〜8及び比較例1〜4で得られた赤外線吸収シートの測定結果を表1に示す。実施例9〜16で得られた赤外線吸収シートの評価結果を表2に示す。


【0143】
(分光透過率測定1)
実施例4で調製した樹脂組成物について、分光光度計(U−4000、(株)日立製作所製)を用いて、分光測定を行った。測定結果の分光スペクトルを図8に示す。可視光透過率は、77%であった。
【0144】
(合わせガラスの作製1)
[実施例17]
実施例4で得られた赤外線吸収シートを76mm×26mmの大きさに切断し、その両端から透明なスライドガラス(縦76mm×横26mm×厚さ1.1mm)で挟み込み、100℃の湯浴に浸漬して2時間放置し、合わせガラスを作製した。
【0145】
[実施例18]
実施例11で得られた赤外線吸収シートを76mm×26mmの大きさに切断し、その両端から透明なスライドガラス(縦76mm×横26mm×厚さ1.1mm)で挟み込んだ。次いで、得られた仮圧着体をオートクレーブ内で圧力1.5MPa、温度130℃の条件で30分間圧着し、合わせガラスを作製した。
【0146】
[実施例19]
スライドガラスをグリーンガラス(旭硝子製)に代えたこと以外は、実施例18と同様の方法により合わせガラスを作製した。
【0147】
[実施例20]
実施例11で得られた赤外線吸収シートを実施例16で得られた赤外線吸収シートに代えたこと、及びスライドガラスをグリーンガラス(旭硝子製)に代えたこと以外は、実施例18と同様の方法により合わせガラスを作製した。
【0148】
(比較例6)
ポリビニルブチラール樹脂(エスレックBH−3、積水化学(株)製)7.00gと、可塑剤(3GO(トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサネート)、アクロス社製)3.00gとを用いて、実施例1と同様の方法によりPVB樹脂シートを作製した。得られたシートを76mm×26mmの大きさに切断して、実施例18と同様の方法により合わせガラスを作製した。
【0149】
(比較例7)
市販の自動車用合わせガラス(商品名:クールベール、旭硝子製)から中間膜のみを取り出して厚さ1.0mmの樹脂シートに成形した後、76mm×26mmの大きさに切断して、実施例18と同様の方法により合わせガラスを作製した。
【0150】
(分光透過率測定2)
実施例11で得られた赤外線吸収シート、実施例17〜20及び比較例6〜7で得られた合わせガラスについて、分光光度計(U−4000、(株)日立製作所製)を用いて、分光測定を行った。得られた分光スペクトルを図9に示す。図9中、Aは実施例11で得られた赤外線吸収シートの分光スペクトル、Bは実施例17で得られた合わせガラスの分光スペクトル、Cは実施例18で得られた合わせガラスの分光スペクトル、Dは実施例19で得られた合わせガラスの分光スペクトル、Eは実施例20で得られた合わせガラスの分光スペクトル、Fは比較例6で得られた合わせガラスの分光スペクトル、Gは比較例7で得られた合わせガラスの分光スペクトル、をそれぞれ示す。また、実施例11で得られた赤外線吸収シート、実施例17〜20及び比較例6〜7で得られた合わせガラスの可視光透過率、700nmの透過率及び1,000nmの透過率を表3に示す。


【0151】
図9及び表3の結果から、実施例11の赤外線吸収シート及び実施例17〜20の合わせガラスにおいては、比較例6〜7の合わせガラスに比べて、700〜1,000nmの近赤外領域の太陽光を有効にカットできることが確認された。また、700nm未満の領域は可視領域であるため、この領域に吸収がある場合には可視光透過率が低下する。図9及び表3の結果から、実施例11の赤外線吸収シート及び実施例17〜20の合わせガラスにおいては、比較例6〜7の合わせガラスに比べて700nm未満の領域で十分な可視光透過性を有することが確認された。
【0152】
(合わせガラスの作製2)
[実施例21]
実施例11と同様の方法で作製した樹脂シートを325mm×385mmの大きさに切断して、325mm×385mm×2.0mmのフロートガラス2枚の間に挾み、ロール法で予備圧着した後、圧力1.5MPa、オートクレーブで温度130℃の条件で30分間圧着し、合わせガラスを作製した。
【0153】
(比較例8)
比較例6と同様の方法で作製した樹脂シートを用いて、実施例21と同様の方法により合わせガラスを作製した。
【0154】
(比較例9)
比較例7と同様の方法で作製した樹脂シートを用いて、実施例21と同様の方法により合わせガラスを作製した。
【0155】
(熱線カットの評価)
上記得られた合わせガラスを用いて、熱線カット効果について以下の方法により評価した。実施例21、比較例8及び比較例9でそれぞれ得られた合わせガラスG1,G2,G3を、図10及び図11に示されるように自動車のフロントガラスWS上に設置した。そして、各合わせガラスG1,G2,G3の下方に位置するダッシュボードDB上の各温度測定ポイントP1〜P3に熱電対を貼り付けた。これにより、時刻の経過に対する各温度測定ポイントP1〜P3におけるダッシュボードDBの温度変化を測定した。測定結果を図12に示す。図12中、Hは温度測定ポイントP1におけるダッシュボードDB表面の温度変化、Iは温度測定ポイントP2におけるダッシュボードDB表面の温度変化、Jは温度測定ポイントP3におけるダッシュボードDB表面の温度変化、「+」は外気温度、をそれぞれ示す。
【0156】
図12に示される測定結果から、実施例21で得られた合わせガラスG1は熱線カットフィルターとして好適に使用されることが示された。また、実施例21で得られた合わせガラスG1では、比較例9で得られた合わせガラスG3に比べて非常に高い熱線カット効果が確認された。これは、700〜1,000nmの波長の光をカットする合わせガラス(例えば、図9中のA参照)の熱線カット効果が、700〜1,000nm以外の波長の光をカットする合わせガラス(例えば、図9中のG参照)に比べて非常に高いことを示している。
【産業上の利用可能性】
【0157】
本発明によれば、常温のみならずこれよりも高い温度において高い可視光透過率を有し、赤外線吸収性能にも優れる赤外線吸収組成物及び樹脂組成物を提供することができる。また、表面温度が上昇しても優れた視認性を有することが可能な合わせガラス用中間膜、積層体、合わせガラス及び建材を提供することができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるリン酸モノエステル及び下記式(2)で表されるリン酸ジエステルを含有するリン酸エステル化合物と、銅イオンと、を含み、
前記リン酸モノエステルと前記リン酸ジエステルとの割合がモル比で30:70〜74:26である、赤外線吸収組成物。

(式中、R及びRはそれぞれ独立に、エステル結合を有する炭素数4〜18の基、炭素数4〜18のアルキル基、炭素数4〜18のアルケニル基又は炭素数4〜18のアルキニル基を示す。但し、複数存在するRは互いに同一でも異なっていてもよい。)
【請求項2】
請求項1記載の赤外線吸収組成物と、樹脂と、を含む、樹脂組成物。
【請求項3】
前記樹脂がポリビニルアセタール系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体又は該共重合体の鹸化物である、請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の樹脂組成物からなる、合わせガラス用中間膜。
【請求項5】
透光性材料からなる基板上に樹脂組成物からなる層を備える積層体であって、
前記樹脂組成物が請求項2又は3に記載の樹脂組成物である、積層体。
【請求項6】
一対のガラス間に樹脂組成物からなる中間層を備える合わせガラスであって、
前記樹脂組成物が請求項2又は3に記載の樹脂組成物である、合わせガラス。
【請求項7】
請求項2又は3に記載の樹脂組成物の成形物からなる、建材。
【請求項8】
可視光に対する透過率が70%以上、且つ、波長700〜1000nmの光に対する透過率が40%以下である、請求項2又は3に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
ポリビニルアセタール系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体又は該共重合体の鹸化物を含有する樹脂組成物であって、
可視光に対する透過率が70%以上、且つ、波長700〜1000nmの光に対する透過率が40%以下である、樹脂組成物。
【請求項10】
可視光に対する透過率が70%以上、且つ、波長700〜1000nmの光に対する透過率が40%以下である、合わせガラス用中間膜。
【請求項11】
可視光に対する透過率が70%以上、且つ、波長700〜1000nmの光に対する透過率が40%以下である、積層体。
【請求項12】
可視光に対する透過率が70%以上、且つ、波長700〜1000nmの光に対する透過率が40%以下である、合わせガラス。
【請求項13】
可視光に対する透過率が70%以上、且つ、波長700〜1000nmの光に対する透過率が40%以下である、建材。

【国際公開番号】WO2005/012454
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【発行日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512554(P2005−512554)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011105
【国際出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】