説明

走査光学装置

【課題】光ビームの集光位置を高速で変化させることができるコンパクトな走査光学装置を提供する。
【解決手段】この走査光学装置は、光源1からの光ビームを平行光化するコリメートレンズ5をKTN結晶で形成し、かつコリメートレンズ5の内部および外部にそれぞれ電極7および電極6,8を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査光学装置に関し、特にたとえばレーザプリンタにおける記録エンジン部など、光ビームで感光体上を走査して画像を形成するための走査光学装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置における走査光学装置は、入力された画像データに応じて半導体レーザを駆動し、その画像データに応じた静電潜像を感光体上に形成している。
【0003】
走査光学装置の光源として使用される半導体レーザは、出射するレーザ光をコリメートレンズによりほぼ平行な光に変換された後に、所定のビーム径で回転多面鏡(ポリゴンミラー)等の偏向部材で偏向させた後、f−θレンズにより集光作用を受ける。また同時にf−θレンズは走査の時間的な直線性を保証するような歪曲収差の補正を行うので、f−θレンズを通過したレーザ光は、感光体上に主走査方向(感光体の軸方向)に等速で結像走査される。感光体上での集光位置のずれは画像品質を劣化させる要因となるため、走査光学装置においては、感光体上でのレーザ光の集光位置が大きくずれないような工夫がされている。例えば、光学部品や機械部品の部品精度や設置精度を高めるとともに、これらの部品の線膨張係数の最適化を図る等の工夫がされている。
【0004】
一方、機械的にコリメートレンズを移動可能に構成することで、感光体上でのレーザ光の集光位置を変更する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、フォーカスを補正する手段として、コリメートレンズのレーザ光の射出側に電気光学結晶を配置してレーザ光の集束性を変更する技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、光センサで光ビームの焦点ずれを検出すると共に、焦点ずれの原因となる環境要素の変化を検出し、検出された焦点ずれ及び環境要素の変化を基に焦点ずれを補正する技術が開示されている(特許文献3等参照)。
【特許文献1】特開平2−293877号公報
【特許文献2】特開平4−264420号公報
【特許文献3】特開平2−93559号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1で提案された方法では、機械的にコリメートレンズを移動させるための機構が複雑となる。また、機械的な可動によるため応答速度が遅く、光ビームの集光位置を高速で変化させることが困難である。そのためレーザプリンタ等の高速機器への適用としては適切とはいい難いものである。
【0007】
また、特許文献2で提案された方法では、光学系中に機械的可動部分を要せず電気光学結晶により電気的制御でおこなうため応答速度が速いものとなる。しかしコリメートレンズに加えて電気光学結晶等の新たな部品が必要となる。そのため、部品点数が増えるとともに、走査光学装置の大型化を招く。
【0008】
また、レーザ光の集光位置は光学部品の設置精度に大きく依存している。また熱膨張による部品の伸縮に起因して、光学部品の実際の位置と計算上の位置とのずれも生じる。これらの原因により、主走査方向の全走査域でレーザ光の集光位置を高精度化することは困難であった。
【0009】
本発明は上記従来例に鑑みて成されたもので、少ない部品点数で光ビームの集光位置を高速で変化させることができるコンパクトな走査光学装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の走査光学装置は以下の構成を備える。すなわち、光源からの光ビームを平行光化するコリメートレンズを備えた走査光学装置であって、
前記コリメートレンズを電気光学結晶で形成し、該コリメートレンズの内部と側面とに配置した電極を介して前記電気光学結晶に電気信号を印加することで前記コリメートレンズの焦点距離を変更可能に構成した。
【0011】
あるいは、印加電圧に応じて屈折率の変化する電気光学結晶で形成し、対向する2側面と内部とに電極を配置した光学レンズと、
前記光学レンズを透過した走査光のスポットサイズを、予め定めた検出位置において検出する検出手段と、
予め決定された、前記走査光による1回の走査における走査位置に応じた前記電極への印加電圧の分布と、前記検出点において走査光が合焦した状態における前記電極へ印加する基準電圧とを記憶する記憶手段と、
前記電極への印加電圧を変化させて、前記検出位置における前記光学レンズを透過した走査光のスポットサイズが極小となる印加電圧を決定し、該印加電圧と前記基準電圧との差分を、走査位置に応じた前記印加電圧の分布に対するオフセットとして加算した補正済み印加電圧を前記電極に印加して前記光学レンズの集光性を制御するレンズ制御手段とを備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電気光学結晶で形成されたコリメートレンズ又はシリンダレンズの外部および内部に配置された各電極に電圧を印加することで、レンズ内を透過する光ビームの集光性を各電極間で高速に変化させることができる。これにより、偏向走査する光ビームの集光位置を高速に変位させることができ、全走査域で光ビームの集光位置の高精度化を実現することができる。この結果、感光体等の被走査面への書込み品質の向上を図ることができる。
【0013】
また、コリメートレンズ又はシリンダレンズ自体を電気光学結晶で形成しているので、従来のように、新たな部品を追加する必要がない。このため、部品点数が削減されて、装置のコンパクト化および低コスト化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成要素はあくまで例示であり、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0015】
<概略構成>
図1は、本発明の一実施形態としての走査光学装置100の概略構成図である。走査光学装置100は、たとえば電子写真式のプリンタや複写機等に内蔵され、画像データに応じた画像を、対象物たとえば感光体等の上で光ビームを走査して光学的に描写するために利用される。このほかにも、たとえば光ビームを副走査方向に変更させるための機構を設けて表示装置として使用するなど、他の応用例も考えられる。
【0016】
図2は、KTN結晶等の電気光学結晶で形成したコリメートレンズの一例を示す斜視図である。KTNは、たとえばKTaNbO3で表されるタンタル酸ニオブ酸カリウムであり、一般的にはKTa1-xNbxO3)と表される。図3は同じく電気光学結晶で形成した他の形状のコリメートレンズの斜視図である。
【0017】
概略的には、走査光学装置100は、レーザ光源である半導体レーザ1、コリメートレンズ5、光学絞り10、シリンダレンズ12、ポリゴンミラー等の偏向器13、走査レンズ15a,15bとを順に配設し、感光体18面上を走査するように構成されている。また感光体18からはずれ、しかもレーザ光による走査される位置に、折り返しミラー24を設け、その反射光を検知するBDセンサ25及びビーム集束性センサ26を配設する。BDセンサ25はレーザ光による照射自体を検知できればよい。これに対してビーム集束性センサ26は、照射されたレーザ光のスポット径を測定可能に構成される。コリメートレンズ5の焦点距離すなわち光ビームの集束性を変更しつつスポット径を測定することで、光ビームの集束性を検出する。
【0018】
次にレーザビーム(より一般的には光ビームである。)の光路を追って装置の構成を説明する。半導体レーザ1からの光ビーム2は、コリメートレンズ5により平行光化されて光学絞り10で整形され、シリンダレンズ12に入射される。偏向器13は、シリンダレンズ12から絞られて出射される光ビームのビームウエスト近傍に配設された回転多面鏡である。ポリゴンミラーが、回転駆動されることにより、この光ビームを主走査方向に偏向走査させるものとなる。ポリゴンミラーの他、たとえば軸周りに一定の角度の範囲で振動する振動ミラーを偏向器13として用いることもできるし、そのほか光ビームにより線走査するための光学系を偏向器13として用いることができる。
【0019】
走査レンズ15a,15bは主走査方向・副走査方向で焦点距離の異なる構成のもので、偏向器13により偏向される光ビームを感光体18面上に結像させるためのものである。この走査レンズ15a,15bは、副走査方向に関しては、偏向器13の反射面と感光体18面とが幾何光学的にほぼ共役関係となるように配置されており、ポリゴンミラーの面倒れによる走査線の位置ずれを防止できるようにされている。偏向器13として振動ミラーを用いた場合には、反射面はひとつであるので、初期的な調整が正確に行われていれば、面倒れによる走査線の位置ずれを防止するための光学系は不要である。また、画像信号で変調した光ビームにより感光体18上を走査する場合には、感光体18上における走査速度を一定とするための光学系として、f−θレンズが利用される場合もある。
【0020】
走査レンズ15a,15bにて集束された光ビームあるいはその一部は、走査線上にある折り返しミラー24で反射され、光検知手段の一例であるBDセンサ(ビームディテクトセンサ)25を照射する。BDセンサ25が光ビームを検知したタイミングで、主走査方向の書き込み基準となる水平同期信号(BD信号)が発生される。この水平同期信号を基準にして、画像処理部より1ライン分の画像信号が出力される。また折り返しミラー24で反射された光ビームは、ビーム集束性センサ26にも集光して光ビームの集束性が検知される。集束性は、前述のように特定の検出点(検出位置)、たとえばビーム集束性センサ26上の光ビームのスポットサイズで測定される。ビーム集束性センサ26の検出信号は、補正部52に入力されてビームウエスト位置が判定される。
【0021】
光ビームは、全ての使用環境条件において感光体18の表面において最も収斂するように感光体18を照射することが望ましい。つまり、光ビームの最も絞られる位置であるビームウエストが、感光体18の表面と略一致するように照射されることが感光体18上に静電潜像を高精度に形成するための条件となる。このことが、プリンタや複写機への走査光学装置の応用においては、画像品質を劣化させずに電子写真の印字品質を確保することにつながる。
【0022】
入力部61は、後述する初期組立時の1ライン走査像高毎のビームウエスト位置を補正部52に出力する。入力部61としては、例えば、バーコードを読み取ってデータ入力するバーコードリーダ、或いはユーザにより操作されて各種データを入力する操作部などである。操作者は、初期組立時の1ライン走査像高毎のビームウエスト位置あるいはその指標値を入力部61から入力する。いったん入力された値は保存されて必要に応じて利用される事が望ましい。或いは、初期組立時の1ライン走査像高毎のビームウエスト位置あるいはその指標値をEEPROM等の記憶媒体に記憶させておいても良い。初期組立時の1ライン走査像高毎のビームウエスト位置あるいはその指標値は、たとえば製造時に測定された値が用いられる。
【0023】
補正部52は、BDセンサ25から入力されるBD信号201に同期して、BDマスク信号301を生成し、レーザ駆動制御部54に対して出力する。また、補正部52は感光体18上での光ビームの走査位置(1ライン走査像高)に応じたビームウエスト位置データ203を制御電源32に出力する。なおビームウエスト位置データ203は、ビームウエスト位置を示す指標値となるデータであって後述する変位情報に相当する。変位情報は、走査光学装置の光学系における光ビームの合焦位置の列である。予め測定した変位情報は、メモリ31に保存される。
【0024】
レーザ駆動制御部54は、感光体18上で潜像を形成する画像区間で画像信号生成部53から入力された画像信号202に基づいて、半導体レーザ1の駆動(発光)信号204の電流値及び駆動時間を制御する。
【0025】
制御電源32は、入力されたビームウエスト位置データ203(変位情報)に応じた電圧をコリメートレンズ5に印加すべく、ビームウエスト位置に応じた電気信号を電極6〜8に印加する。なおビームウエスト位置を示すビームウエスト位置データを単にビームウエスト位置と呼ぶ場合がある。また、ビームウエスト位置を感光体18の表面となるよう補正するためのデータであることから、補正データあるいは補正値と呼ぶ場合もある。印加する電気信号は光ビームの走査位置により変化するので、走査位置と印加する信号との同期のために、制御電源32には、不図示ではあるが、BD信号201が補正部52から、画素クロックが画像信号生成部53から入力される。なお、制御電源32は、それ自身の制御によって、あるいは補正部21の制御に従って、ビームウエスト位置が測定されたサンプル走査位置以外の位置については線形補間等でビームウエスト位置を補間することが望ましい。
【0026】
こうして半導体レーザ1から照射された光ビームは、コリメートレンズ5および光学絞り10によりほぼ平行な光に変換された後に所定のビーム径で回転多面鏡13に入射することになる。尚、像高とは、主走査方向についての感光体上での位置であり、感光体中央を像高0とし、0を境に主走査方向に沿って端部へ向かう位置をプラスとマイナスで表現したものである。これは本実施形態では走査位置とも呼んでいる。
【0027】
<コリメートレンズ>
図2は、本実施形態に係る発明の特徴であるコリメートレンズ5の斜視図である。コリメートレンズ5は電気光学結晶で形成されており、内部及び側面に設けた電極に印加する電圧に応じてその焦点距離を変更可能に構成される。コリメートレンズ5は、四角柱状の本体5aと、本体5aの先端側(光学絞り10側)に配置された球面部5bとを有している。コリメートレンズ5は、例えば、KTN晶等の電気光学結晶で形成されている。KTN結晶は、通常の光学ガラス同様に扱うことが可能であり、良好な加工性を有していて切削や研磨加工での表面精度の確保が容易である。また、KTN結晶の光線の透過率については、レーザの波長である赤外から可視光全域に至るまで1mあたり95%以上の内部透過率を示し、複屈折も小さい。さらに、KTN結晶の吸水率は、通常のガラス以下であって、樹脂などに対して極端に小さい。また、KTN結晶は、内部に電界を作用させることで内部の屈折率が変化することが知られている。KTN結晶の両端に電極を設置(一方に電圧=V、他方に電圧=0)して内部に電界を発生させた場合には、内部に電界が傾斜して分布することにより屈折率もその影響で傾斜して分布することになり、光が方向を変えながら進むことが判っている。
【0028】
本実施形態は、この現象を利用して光ビームを透過させる際に集光性を変化させるものである。本実施形態の特徴であるコリメートレンズ5の電極は、KTN結晶で形成したコリメートレンズ5の内部と外部(本例では側面)とにそれぞれレンズと一体的に配置される。具体的には、図1および図2に示すように、コリメートレンズ5の四角柱状の本体5aの互いに対向する2つの側面に板状の外部電極6,8を配置し、本体5aの内部に板状の内部電極7を外部電極6,8と平行に配置する。そして、内部電極7と外部電極6,8とに電圧を印加して電界を発生させ、内部を透過する光ビームの屈折率を変化させる。外部電極6,8には共通の電気信号が印加されることが望ましい。こうすることでKTN結晶の内部電界の分布が内部電極7を対称面として面対称となるためである。
【0029】
尚、光ビームの集光性を変化させる方向は、外部電極6,8と内部電極7との間の方向であり、図1および図2に示す板状電極の配置では、主走査方向の光ビームの集光性のみを変化させることができる。ここで、直線偏光で発光する光ビームの中で、直線偏光の電気ベクトルの方向は、結晶内に発生させた電界方向と一致すべきであり、それらの変化で光ビームの集光性の変化が起きる。これにより、KTN結晶で形成したコリメートレンズ5で光ビームの集光性を変化させるだけで、感光体18上の光ビームの集光性を変化させ、所望の位置に光ビームを集光させることが可能となる。
【0030】
なお、コリメートレンズの形状は、特に限定されず、例えば、図3に示すように、円柱状の本体50aの軸方向両側にそれぞれ球面部50bを配置したコリメートレンズ50を採用してもよい。この場合、コリメートレンズ50の中心部に配置される内部電極16は棒状電極とされ、本体50aの外周面に配置される外部電極17a,17bは板状電極とされている。外部電極17a,17bは、それぞれ本体50aの径方向に対向して一対ずつ配置されている。そして、内部電極16と外部電極17a,17bに電圧を印加して電界を発生させ、内部を透過する光ビームの屈折率を変化させる。
【0031】
また、光ビームの副走査方向の集光性を変化させたい場合は、図1において、板状電極6,7,8の配置を紙面に対して垂直ではなく水平に配置(90°位相をずらして配置)し、光ビームの電気ベクトルの方向が水平になるようにすればよいことになる。但し、この場合、ポリゴンミラーである偏向器13に副走査側の集光作用が生じ、かつ偏向器13と感光体18とが共役関係となって面倒れ補正を維持するように作用する。このため、光ビームの副走査方向の集光性を変えると、面倒れ補正を維持する作用と、感光体18上の光ビームの副走査方向の集光性を変える作用との両方を行なうこととなる。従って、実際には、これらの作用の両方を考慮する必要があり、目的や重要性で優先順位を決めて使用すればよい。
【0032】
また、走査光学装置における実際の動作では、感光体18上の光ビームのスポットサイズ(あるいはスポットサイズ)の測定結果に応じてピントずれ(ビームウエスト位置のずれ)の判断がされる。この際、スポットサイズが比較的大きく、かつ十分な書き込み深度がある場合には、KTN結晶の電極には電気信号はあまり付与しないですむこともある。このように、通常は電気信号の付与によるピント補正作用はほとんど行なわず、温度変化が大きいとき等などに、温度が設定したしきい値に達してから電気信号を付与するようにしてもよい。このようにすることで、不必要な電気エネルギーの消費を回避することができる。
【0033】
次に、ビーム集束性センサ26について説明する。ビーム集束性センサ26として、光センサであるフォトダイオードの前にスリット状の絞りを並べる構成を例示できる。絞りを光ビームが通過したときにはスポットサイズの大小によってフォトダイオードの出力信号の振幅が変わり、スポットサイズが小さいほど振幅は大きくなる。このようなビーム集束性センサ26とすると、ビームウエスト位置の確認がしやすくなる。
【0034】
一方、感光体18上の光ビームのスポットサイズが比較的小さく、かつ高品位の画像を達成するために1ラインの走査線内でのスポットサイズの大小を気にするような場合がある。この場合は、走査に対する同期検知信号に基づいて、KTN結晶で形成したコリメートレンズ5の電極への電気信号を高速に変化させ、結果として感光体18上の光ビームのピント位置を小刻みに変化させることが可能である。本実施形態では、後者のように走査線内で感光体18上の光ビームのピント位置を小刻みに変化させる制御を行う場合について説明する。前者の制御も後者の制御も、本願発明に関しては相違はない。なお同期検知信号としては、たとえばBD信号に基づいて生成される水平同期信号や、画像データの同期信号である画素クロックなどが用いられる。
【0035】
KTN結晶で形成したコリメートレンズ5の集光性の変化は、KTN結晶の応答速度が高速なために短時間で行える。従って、まず、走査レンズ15a,15bなどの光学系の影響で変化する像高について、サンプル点となる像高毎の像面湾曲を、組み立て時等に治具を使用して予め取得して補正部52のメモリ31に格納しておく。像面湾曲は、ある基準位置におけるピント位置を基準とした場合の、その基準に対する感光体の各位置でのピント位置のずれを示す変位情報で示される。変位情報は、たとえば装置の製造時等に、コリメートレンズ5への印加電圧は0とした状態で、サンプリング位置においたセンサを感光体表面に直交する方向に移動させ、スポットサイズが極小となるビームウエスト位置を検出することで得られる。この場合には、ビームウエスト位置そのものを検出できる。この方法で作成された変位情報はメモリ31に保存される。
【0036】
あるいは、コリメートレンズ5への印加電圧を変化させてその焦点距離を変化させつつ、感光体表面に相当する位置に設けたビーム集束性センサで光ビームのスポットサイズを測定してビームウエスト位置を決定することもできる。この方法では、ある走査位置(像高)で測定したスポットサイズが極小となったときの印加電圧値が、その走査位置においてビームウエスト位置を感光体表面に移動させるための電圧値(すなわち補正値)となる。従って変位情報を測定したサンプル点毎のこの補正値が、上述した変位情報そのものであってもよい。ただし本実施形態では、これメートレンズへの印加電圧を示す補正値を、一旦感光体18表面からビームウエスト位置までの距離に換算して、メモリ31に保存する。これは、コリメートレンズ5への印加電圧とコリメートレンズ5の焦点距離との関係が線形であるとは限らないためである。もしもこの関係が線形であるか、あるいは線形とみなせるのであれば、補正値を変位情報そのものとして保存した方が、処理の簡略化に役立つ。なおビーム集束性センサ26の位置における補正値を本実施形態では特に基準値と呼ぶことにする。
【0037】
なお集光性とは、ビームウエスト位置やピント、焦点距離など、本実施形態においては他の用語で表されることもある。しかしながら、本実施形態に関する限りこれら用語は本質的に同じものを指している。
【0038】
そして、BDセンサ25から出力されるBD信号201及び不図示の画素クロックに同期して、感光体上での走査位置に応じて前記変位情報に応じてピントずれを補正するようにコリメートレンズ5の電極に印加する電圧を制御する。こうすることで、走査全域での細かなピント合わせが可能となる。変位情報がビームウエスト位置を示す場合、そのビームウエスト位置に基づいて、感光体18表面に移動させるためにコリメートレンズ5の電極に印加する電圧が求められ、それがコリメートレンズ5の電極に印加される。そしてその電圧は、1走査線中において、走査位置に応じて変化させられ、像面湾曲が補正されてビームウエスト位置が感光体18上の直線上に補正される。
【0039】
<ピント調整動作>
次に、図1及び図4を参照して、ピント調整動作について詳しく説明する。図4はピント調整動作を説明するためのフローチャート図である。このフローチャートはたとえば補正部52に内蔵されたプロセッサ等により実行される。
【0040】
図4においては、まず、ピント位置として、ビーム集束性センサ26の出力信号振幅が最大を示す位置(すなわちスポットサイズが最小となるビームウエスト位置)を探る。このため、走査光学装置により感光体18の走査に先立ってピントの状態を調べる。つまり、感光体18を露光する前に、BDセンサ25およびビーム集束性センサ26上をレーザビームで走査し、1回の走査毎にコリメートレンズ5の電極6,7,8に対する印加電圧を段階的に変化させるように制御し、焦点位置を変化させる。こうすることで、現時点での特定の像高(本例ではビーム集束センサ26の位置)において、現在のビームウエスト位置を測定する。具体的には、ビーム集束性センサ26の出力信号振幅が最大を示した際における電極5,6,7へ印加した電圧を、ビームウエスト位置を示す値に変換する。これはビーム集束センサ26の出力から決定する(ステップS1)。このために、コリメートレンズ5の電極への印加電圧と焦点距離の変化との対応表を予め測定して作成し、装置作成時においてメモリ31等に保存しておく。そして、測定された電圧に対応する焦点距離の変化の大きさを、測定時点におけるビームウエスト位置を示す測定情報として保存する。なおステップS1の実現のためには、ビーム集束性センサ26は、感光体18を主走査方向に延長した場合の感光体表面となる位置に設けられる。反射ミラー24を用いた場合には、延長した感光体表面となる位置と、光路上の距離が等しくなる位置に設けられる。
【0041】
次に、走査光学装置の組立調整時に採取した、変位情報すなわち1ライン走査内で(複数の像高)のビームウエスト位置データを、補正部52の有するメモリ31から取り出す。取り出したビームウエスト位置データに含まれる、ステップS1で確認した特定の像高(すなわちビーム集束センサ位置)に対応するビームウエスト位置と、ステップS1で測定したビームウエスト位置との差が計算される。その差がオフセット値(オフセット量)とされる。計算されたオフセット値は、一時的に記憶される(ステップS2)。
【0042】
尚、メモリ31には、変位情報として走査光学装置の組立調整時に採取した、1ライン走査内で(複数の像高)のビームウエスト位置データ(変位情報)が保存されている。それらのデータは、走査ビームの像高別と深度別にビーム径を測り、それらの結果からデータを補間して算出したものである。これらは光学系(構成系)のみに起因して起こるものである。このデータは組立調整冶工具によって採取するがこれは前述の通りである。
【0043】
メモリ31に記憶されたオフセット値を、前述の1ライン走査内で各走査位置(複数の像高)におけるビームウエスト位置データに対して加算した値が、補正後の新たな変位情報となる。すなわち補正後の新たな変位情報は、電子写真装置内における1ライン内のビームウエスト位置の最新の値である。これを修正データと呼ぶ(ステップS3)。この修正データすなわち補正後の変位情報は、本例では補正前の変位情報に上書き保存される。なお補正前の変位情報とオフセット値とを別々に保存しても良い。
【0044】
ステップS4では、変位情報を、各走査位置においてコリメートレンズに印加する電圧を求める。感光体上の走査全域にわたり、ビームウエスト位置を感光面と一致させることができる。変位情報がビームウエスト位置のずれを示す指標値である場合には、その指標値をコリメートレンズに印加する電圧に変換する必要がある。ここでは、コリメートレンズ5の電極6,7,8への印加電圧と感光体表面位置付近におけるピント変化量との対応関係を予め測ってその関係を示すテーブルを作成しておく。そのテーブルに基づいて、上述の像高毎の修正データ(補正後の変位情報)に対応した印加電圧をコリメートレンズ5に加えて、実際の画像形成動作を行なう(印加電圧は像高毎に変化する)(ステップS4)。このように、画像形成時には、コリメートレンズの電極には補正済み印加電圧が印加される。
【0045】
なお、これらの処理はすべて電子写真装置内で行っているが、画像データを感光体18に露光書き込みする際、BDセンサ25の信号を基準に感光体18の表面全域でほぼ最適なスポットを一様にすることができる。
【0046】
図7及び図8に本実施形態における補正の模式図を示す。図7は、感光体表面702を走査する光ビームのビームウエスト位置の軌跡701を示す模式図である。変位情報は軌跡701を表す情報である。図7において、図の上方が感光体18の外部であり、下方が感光体18の内部である。光ビームは感光体18を透過することはないので、感光体18内部に入り込んでいる軌跡701は実際に光ビームが合焦する位置ではなく、感光体18がなければ合焦するはずの位置の並びを示している。図7に示す例のように、ビームウエスト位置が丁度感光体18の表面にある走査位置はごく限られており、走査域の殆どでビームウエスト位置は感光体表面の前後にずれている。そこで、複写機等、本実施形態に係る走査光学装置の製造時に、感光体18の表面の位置でビームウエスト位置のずれを測定しておき、その変位情報を決定しておく。測定は感光体18表面のサンプル位置711〜716およびビーム集束性センサ位置710で行う。ピントずれの補正は、コリメートレンズ5に印加する電圧を変化させ、光ビームのスポット径が極小となるような電圧を補正値とする。その補正値1〜補正値6を含む補正値を各サンプル点に対応づけて変位情報として保存し、またビーム集束性センサ位置710に関連づけて、基準値としてメモリ31に保存する。光ビームによる走査時には、メモリ31に保存した補正値を主走査位置に同期して読み出し、補正値に応じた電圧をコリメートレンズ716の電極に印加する。ただし、補正値の線形補間を行う場合には、ある走査位置を挟む2つのサンプル点における補正値が必要なので、主走査に同期して、それを挟む2つの補正値を読み、補正を行う。この結果、1回の主走査を通してビームウエスト位置はほぼ感光体18の表面となる。
【0047】
図8は、図7のようにして得た補正値をさらに修正する様子を示す図である。図7のように装置の製造時に得た補正値も、経時的に適切ではなくなるおそれがある。そこで、所定時間間隔など、適宜補正値自体を補正する必要がある。図8の点線の軌跡801が、たとえば経時変化によりずれたビームウエスト位置の軌跡を示す。すなわち。図4の手順で得られる変位情報の修正データが軌跡801を表しているはずである。この場合には、ビーム集束性センサ位置710において、コリメートレンズ5に印加する電圧を変化させ、感光体18表面で光ビームのスポット径が極小となるような電圧がコリメートレンズに印加される。修正の結果、ビームウエスト位置の軌跡701が経時的にビームウエスト位置の軌跡801にずれていたため、感光体18の表面からずれた位置に補正されていたビームウエスト位置が、感光体18の表面に補正される。
【0048】
以上説明したように、この実施の形態では、KTN結晶で形成されたコリメートレンズ5の外部電極6,8および内部電極7に電圧を印加することで、コリメートレンズ5内を透過する光ビームの集光性を各電極間で高速で変化させることができる。これにより、偏向走査する光ビームの集光位置を高速に変位させることができ、全走査域で光ビームの集光位置の高精度化を実現することができる。この結果、感光体18の被走査面への書込み品質の向上を図ることができる。
【0049】
また、コリメートレンズ5自体をKTN結晶で形成しているので、従来のように、新たな部品を追加する必要がない。このため、部品点数が削減されて、装置のコンパクト化および低コスト化を図ることができる。
【0050】
またビーム集束性センサ26はひとつで良いので、その点においても部品点数および処理手順が簡略化できる。
【0051】
[変形例]
なお、コリメートレンズ5の電極に印加する電圧を変化させて感光体表面に相当する位置においたビーム集束性センサによりビームウエスト位置を移動させつつ、センサ位置で合焦したときの印加電圧を変位情報として測定することもできる。この場合には、変位情報は、サンプル位置において、ビームウエスト位置を感光体表面に移動させるためにコリメートレンズに印加する電圧そのものを表している。したがって、画像形成時には、変位情報を読み出し、主走査の走査位置に応じた電圧をコリメートレンズに印加することで、ビームウエスト位置を補正することができる。
【0052】
[第2実施形態]
次に、図6を参照して、本発明の第2の態様の実施の形態である走査光学装置について説明する。なお、上記第1の態様の実施の形態と重複する部分については、その説明を省略する。本発明の第2の態様の実施の形態である走査光学装置は、図1のシリンダレンズ12を図6のシリンダレンズ27に代え、かつ上記第1の態様の実施の形態のように、コリメートレンズ5ではなく、シリンダレンズ27をKTN結晶で形成している。
【0053】
シリンダレンズ27は、四角柱状の本体27aと、本体27aの先端側(光学絞り10側)に配置された凸曲面部27bとを有している。また、シリンダトレンズ27の四角柱状の本体27aの互いに対向する2つの面に板状の外部電極28a,28cを配置し、本体27aの内部に板状の内部電極28bを外部電極28a,28cと平行に配置する。そして、内部電極28bと外部電極28a,28cに電圧を印加して電界を発生させ、内部を透過する光ビームの屈折率を変化させる。その他の構成及び作用効果については、上記第1の態様の実施の形態と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の第1の態様の実施の形態である走査光学装置を説明するための図である。
【図2】KTN結晶で形成したコリメートレンズを説明するための斜視図である。
【図3】KTN結晶で形成した他の形状のコリメートレンズを説明するための斜視図である。
【図4】ピント調整動作を説明するためのフローチャート図である。
【図5】本発明の第2の態様の実施の形態である走査光学装置を説明するための斜視図である。
【図6】従来の走査光学装置を説明するための説明図である。
【図7】実施形態に係る走査光学装置によりビームウエスト位置を補正する様子を示す模式図である。
【図8】実施形態に係る走査光学装置によりビームウエスト位置の補正値をさらに修正する様子を示す模式図である。
【符号の説明】
【0055】
1 半導体レーザ
2 光ビーム
5 コリメートレンズ
6 外部電極
7 内部電極
8 外部電極
10 光学絞り
12 シリンダレンズ
13 偏向器
15a 走査レンズ
15b 走査レンズ
16 内部電極
17 外部電極
18 感光体
24 折り曲げミラー
25 BDセンサ
26 ビーム集束性センサ
27 シリンダレンズ
28a 外部電極
28b 内部電極
28c 外部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源からの光ビームを平行光化するコリメートレンズを備えた走査光学装置であって、
前記コリメートレンズを電気光学結晶で形成し、該コリメートレンズの内部と側面とに配置した電極を介して前記電気光学結晶に電気信号を印加することで前記コリメートレンズの焦点距離を変更可能に構成したことを特徴とする走査光学装置。
【請求項2】
偏向器に光ビームを入射させるシリンダレンズを備えた走査光学装置であって、
前記シリンダレンズを電気光学結晶で形成し、該シリンダレンズの内部と側面とに配置した電極を介して前記電気光学結晶に電気信号を印加することで前記シリンダレンズの焦点距離を変更可能に構成したことを特徴とする走査光学装置。
【請求項3】
前記電気光学結晶がKTN(タンタル酸ニオブ酸カリウム)結晶であることを特徴とする請求項1又は2に記載の走査光学装置。
【請求項4】
前記側面に配置した電極が板状電極であり、前記内部に配置した電極が板状電極又は棒状電極であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の走査光学装置。
【請求項5】
被走査面での光ビームの集束性を検出する検出手段と、
前記検出手段による検出信号に基づいて前記電極に印加する電気信号の電圧を制御する制御手段と
を更に備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の走査光学装置。
【請求項6】
前記制御手段は、走査に対する同期検知信号に基づいて前記電極に印加する電気信号を変化させることを特徴とする請求項5に記載の走査光学装置。
【請求項7】
前記光ビームの集光性が少なくとも主走査方向又は副走査方向に変化するように前記電極を配置したことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の走査光学装置。
【請求項8】
前記電極に電圧を印加していない状態における、前記走査光による1回の走査における走査位置に応じた合焦位置の分布と、前記検出点における走査光の合焦位置とを示すデータを記憶する記憶手段をさらに備え、
前記検出手段は、前記コリメートレンズ又はシリンダレンズを透過した走査光のスポットサイズを予め定めた検出位置において検出し、
前記制御手段は、前記電極への印加電圧を変化させて前記検出位置における前記コリメートレンズ又はシリンダレンズを透過した走査光のスポットサイズが極小となる印加電圧を決定し、該印加電圧に基づいて、前記電極に電圧を印加していない状態における前記検出点における走査光の現在の合焦位置を決定し、該合焦位置と前記記憶手段に記憶された合焦位置との差を、前記記憶手段に記憶された合焦位置の分布に含まれる各合焦位置に加算して前記合焦位置の分布を補正する補正手段と、
前記補正手段により補正された前記合焦位置の分布に基づいた電圧を前記電極に印加し、光ビームの合焦位置を感光体表面に移動させる制御手段とを含むことを特徴とする請求項5に記載の走査光学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−181080(P2008−181080A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−291332(P2007−291332)
【出願日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】