説明

超音波センサ

【課題】 超音波の受信素子のクロストーク特性を向上させることができ、小型化が可能な車載用の超音波センサを実現する。
【解決手段】 複数個の振動部を備えた受信素子が受信部材31に装着されており、受信部材31は、各振動部に対応した領域31a,31bに区画されている。各領域31a,31bの間には、受信部31e,31fに対して垂直方向に溝状に形成された遮蔽部31iが設けられており、超音波の伝達を各領域31a,31b間で分離して行うことができる。各領域31a,31bの間に振動を吸収するための緩衝材を設ける必要がないので、超音波センサ70を小型化することができる。各遮蔽部の深さLと受信部材の厚さTとの間に、0.35≦L/T≦0.60なる関係が成り立つ場合に、車載用の超音波センサに要求される位置検出精度を満足する超音波センサ70を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、送信素子から送信され被検出体にて反射された超音波を受信素子により受信して検出する車両搭載用の超音波センサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、この種の超音波センサとして、例えば、自動車(車両)に搭載された障害物センサなどが知られている。この超音波センサは、超音波の送受信が可能な素子から超音波を送信して、被検出体に当たって反射された超音波をこの素子によって受信することにより、自動車の周囲にある物体の位置測定または距離測定や、当該物体の2次元形状または3次元形状の測定などを行う。
上記の用途に適用可能な超音波センサとして、障害物からの反射音を複数の受信素子で受信し、そのタイミングのずれにより障害物の位置を求めるセンサを用いることができる。このような超音波センサでは、超音波を受信して受信素子に伝達する受信部材が各受信素子に対応して設けられているが、受信部材間での超音波の伝達がノイズ成分となり、受信素子間のクロストークの原因となっている。つまり、受信部材で受信された超音波が、対応する受信素子毎に分離されていないため、超音波の検出感度が低下するという問題があった。
そこで、例えば、特許文献1には、超音波を受信する複数の振動板を備えた超音波センサにおいて、各振動板の間隙に超音波の伝達を阻害する緩衝材をつめた超音波センサが開示されている。
【特許文献1】特開平05−347797号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、この構成では、各振動板の間隙に超音波の伝達を阻害する緩衝材をつめる工程が必要であり、コスト的に不利であるとともに、緩衝材をつめる間隙が必要であるため、超音波センサの体格が大きくなり、意匠性が要求される車載用の超音波センサとしては不向きであるという問題があった。
【0004】
そこで、この発明は、超音波の受信素子のクロストーク特性を向上させることができ、小型化が可能な車載用の超音波センサを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、車両搭載用の超音波センサが、超音波を送信する送信手段から送信され、被検出体にて反射された超音波が伝達して振動する振動部と、この振動部を支持するとともに超音波を伝達する支持部材とを有した受信素子と、前記被検出体にて反射された超音波を受信する受信部が前記被検出体の存在する空間側に露出し、前記受信部と対向する面に、前記伝達部において前記超音波検出素子が取り付けられ、前記受信部で受信した超音波を前記伝達部に伝達する受信部材とを備え、前記受信部材には複数個の前記振動部がそれぞれ前記支持部材を介して装着され、前記受信部材は、前記各振動部に対応した領域に区画されており、前記各領域の間には、前記受信部に対して垂直方向、または、略垂直方向に溝状に形成され、前記受信部で受信した超音波の前記各領域間での伝達を妨げる遮蔽部がそれぞれ設けられており、前記各遮蔽部の深さLと前記受信部材の厚さTとの間に
0.35≦L/T≦0.60
なる関係が成り立つように形成されている、という技術的手段を用いる。
【0006】
請求項1に記載の発明によれば、車両搭載用の超音波センサにおいて、被検出体にて反射された超音波が伝達して振動する複数個の振動部を備えた受信素子が受信部材に装着されており、受信部材は、各振動部に対応した領域に区画されている。各領域の間には、超音波を受信する受信部に対して垂直方向、または、略垂直方向に溝状に形成され、受信部で受信した超音波の各領域間での伝達を妨げる遮蔽部がそれぞれ設けられている。
遮蔽部では、超音波の伝達媒体が空気となり、減衰が大きくなるので、超音波の各領域間での伝達を妨げることができ、受信部材の区画された各領域で受信された超音波は、対応する振動部にだけ伝達され、他の振動部には伝達されない。
従って、超音波の伝達を各領域間で分離して行うことが可能になり、ある受信部でそれぞれ受信された超音波が、隣接する領域に伝達して、ノイズ成分となることを防ぐことができるので、各振動部のクロストーク特性を向上させることができる。
また、受信部材に遮蔽部を形成するだけでよく、各領域の間に振動を吸収するための緩衝材を設ける必要がないので、緩衝材を設ける工程が不要であるとともに、超音波センサを小型化することができる。
ここで、各遮蔽部の深さLと受信部材の厚さTとの間に、
0.35≦L/T≦0.60
なる関係が成り立つ場合に、車載用の超音波センサとして使用する場合に要求される被検出体の位置の検出精度を満足する超音波センサを実現することができる。
【0007】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の車両搭載用の超音波センサにおいて、前記各遮蔽部の深さLと前記受信部材の厚さTとの間に
L/T=0.45
なる関係が成り立つように形成されている、という技術的手段を用いる。
【0008】
請求項2に記載の発明によれば、各遮蔽部の深さLと受信部材の厚さTとの間にL/T=0.45なる関係が成り立つように形成することができる。このとき、ノイズ成分がなくなるため、超音波センサの感度を最も向上させることができる。
【0009】
請求項3に記載の発明では、請求項1に記載の車両搭載用の超音波センサにおいて、前記各遮蔽部の深さLと前記受信部材の厚さTとの間に
0.35≦L/T<0.45
なる関係が成り立つように形成されている、という技術的手段を用いる。
【0010】
請求項3に記載の発明によれば、各遮蔽部の深さLと受信部材の厚さTとの間に0.35≦L/T<0.45なる関係が成り立つように形成されているため、遮蔽部の深さが浅いため、受信部材の強度を高く維持した状態で、ノイズ成分を低減することができる。
【0011】
請求項4に記載の発明では、請求項1に記載の車両搭載用の超音波センサにおいて、前記各遮蔽部の深さLと前記受信部材の厚さTとの間に
0.45<L/T≦0.60
なる関係が成り立つように形成されている、という技術的手段を用いる。
【0012】
請求項4に記載の発明によれば、各遮蔽部の深さLと受信部材の厚さTとの間に0.45<L/T≦0.60なる関係が成り立つように形成することができる。このとき、ノイズ成分の信号が逆相となるので、逆相の信号成分をノイズ成分として容易に処理することができる。
【0013】
請求項5に記載の発明では、請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載の車両搭載用の超音波センサにおいて、前記遮蔽部の側面と底面とを滑らかに連結する応力緩和部が設けられている、という技術的手段を用いる。
【0014】
請求項5に記載の発明によれば、遮蔽部の側面と底面とを滑らかに連結する応力緩和部が設けられているため、応力が集中する角部がないため、受信部材の強度を高くすることができ、受信部材に外力が負荷された場合や超音波の伝達により遮蔽部に剪断応力が発生した場合でも、破壊されるおそれを少なくすることができる。
【0015】
請求項6に記載の発明では、請求項1ないし請求項5のいずれか1つに記載の車両搭載用の超音波センサにおいて、前記遮蔽部は、平行する複数の溝状に形成されている、という技術的手段を用いる。
【0016】
請求項6に記載の発明によれば、遮蔽部は、平行する複数の溝状に形成されているため、遮蔽部の開口部の幅が狭くなるので、超音波の遮蔽を阻害する異物が侵入するおそれを少なくすることができる。
【0017】
請求項7に記載の発明では、請求項1ないし請求項6のいずれか1つに記載の車両搭載用の超音波センサにおいて、前記遮蔽部に、前記受信部材よりもヤング率が低く、超音波の伝達を阻害する材料が充填されている、という技術的手段を用いる。
【0018】
請求項7に記載の発明によれば、遮蔽部に、受信部材よりもヤング率が低く、超音波の伝達を阻害する材料が充填されているため、遮蔽部による超音波の遮蔽効果を保持したままで、遮蔽部に超音波の遮蔽を阻害する異物が侵入するおそれをなくすことができる。
【0019】
請求項8に記載の発明では、請求項1ないし請求項6のいずれか1つに記載の車両搭載用の超音波センサにおいて、前記遮蔽部に、前記遮蔽部の開口部を覆う蓋材が設けられている、という技術的手段を用いる。
【0020】
請求項8に記載の発明によれば、遮蔽部に、遮蔽部の開口部を覆う蓋材が設けられているため、遮蔽部による超音波の遮蔽効果を保持したままで、遮蔽部に超音波の遮蔽を阻害する異物が侵入するおそれをなくすことができる。
【0021】
請求項9に記載の発明では、請求項1ないし請求項8のいずれか1つに記載の車両搭載用の超音波センサにおいて、前記振動部は、圧電材料を用いて構成され、振動によって生じる歪みにより振動を検出する圧電式振動検出部である、という技術的手段を用いる。
【0022】
請求項9に記載の発明によれば、振動部は、圧電材料を用いて構成され、振動により生じる歪みにより振動を検出する圧電式振動検出部であるため、共振により生じる振動部の変位を電圧信号に変換して受信素子から出力される信号強度が強く、超音波の受信感度が高いので、超音波の検出感度を向上させることができる。
【0023】
請求項10に記載の発明では、請求項1ないし請求項8のいずれか1つに記載の車両搭載用の超音波センサにおいて、前記振動部は、一対の電極を備え、この電極間の容量変化により振動を検出する容量式振動検出部である、という技術的手段を用いる。
【0024】
請求項10に記載の発明によれば、振動部は、一対の電極を備え、この電極間の容量変化により振動を検出する容量式振動検出部であり、容量式振動検出部は共振周波数がブロードであるので、振動部に高い寸法精度が要求されず、容易に作製することができる。
【0025】
請求項11に記載の発明では、請求項1ないし請求項10のいずれか1つに記載の車両搭載用の超音波センサにおいて、前記受信部材は、ポリカーボネート系樹脂材料により形成された、という技術的手段を用いる。
【0026】
請求項11に記載の発明によれば、受信部材は、ポリカーボネート系樹脂材料により形成されているため、受信部材の音響インピーダンスを支持部材の音響インピーダンスに近づけることができ、受信素子に効率よく超音波を伝達することができる。また、耐候性の高い堅牢な材料であるので、外気に晒されることに加え、外力の負荷から受信素子を保護することができる。
更に、ポリカーボネート系樹脂は、バンパの構成材料として用いられるためめ、超音波センサの存在を目立たなくすることができるので、意匠性に優れた超音波センサを作製することができる。
【0027】
請求項12に記載の発明では、請求項1ないし請求項11のいずれか1つに記載の車両搭載用の超音波センサにおいて、車両に設けられている、という技術的手段を用いる。
【0028】
特に、請求項12に記載の発明のように、超音波センサを車両のバンパに設けると、車両の進行の妨げになる障害物の検出などに超音波センサを適用する場合に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
この発明に係る超音波センサの実施形態について、図を参照して説明する。ここでは、超音波センサを車両に搭載し、障害物センサとして使用する場合を例に説明する。図1は、超音波センサの受信素子の説明図である。図1(A)は、受信素子の平面説明図であり、図1(B)は、図1(A)のA−A矢視断面図である。図2は、超音波センサにおける受信素子の配置の説明図である。図3は、車両に搭載された超音波センサの断面説明図である。図4は、異なる受信部で受信した超音波による隣りあった受信素子における出力信号を示す説明図である。図5は、遮蔽部の深さと超音波のノイズ成分の伝達率との関係を示す説明図である。図6は、超音波センサの方位誤差とSN比との関係を示す説明図である。図7及び図8は、遮蔽部の変更例を示す説明図である。
なお、各図では、説明のために一部を拡大して示している。
【0030】
(受信素子の構造)
まず、本実施形態の超音波センサに用いる受信素子について説明する。図1(A)及び(B)に示すように、受信素子10は、SOI(Silicon On Insulator)構造の四角形状の半導体基板11を用いて形成されている。半導体基板11は、シリコンからなる支持部材11aの上面11m上に、第1絶縁膜11b、シリコン活性層11c、第2絶縁膜11dがこの順番で積層されて形成されている。
半導体基板11の中央部は、MEMS技術により、支持部材11a及び第1絶縁膜11bの中央部が四角形状に除去される。これにより、支持部材11aは中央部が四角形にくり抜かれた平板状に、残されたシリコン活性層11c及び第2絶縁膜11dは、四角形の薄膜状に形成されている。
【0031】
第2絶縁膜11d上には、薄膜状に形成された部分を覆って、圧電式の振動検出部12が形成されている。振動検出部12は、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる圧電体薄膜12aを下面電極13及び上面電極14で挟んで形成されている。
これにより、支持部材11aにより端部が持ち上げられた振動部15が形成される。振動部15は、所定の共振周波数を有しており、被検出体で反射されて受信素子10に伝達された超音波を受信し、共振する。この共振により生じる振動部15の変位を圧電式の振動検出部12により電圧信号に変換して、超音波を検出する。
このように、MEMS技術を利用して作製された受信素子10は、超音波の受信感度が高いため受信素子として好適である。
【0032】
(超音波センサの構造)
次に、超音波センサの構造について説明する。本実施形態の超音波センサ70では、複数個の受信素子がアレイ状に並べて配置されている。図2では、超音波センサ70における受信素子のみの配置を示している。図2に示すように、本実施形態では、縦横方向に2個ずつ計4個の受信素子10a、10b、10c、10dが配置されている。このように受信素子を配置すると、各受信素子10a〜10dで受信した超音波の時間差、位相差を求めることにより、その各差に基づいて、被検出体との距離だけでなく、被検出体の位置を3次元で測定することができる。
【0033】
図3において、図中下方が車両の外部を示す。ここで、図3では、振動部15(15a,15b)の構造を簡略化して示している。
図3に示すように、超音波を送信する送信素子19から送信され、車両付近の存在する障害物Mなどの被検出体にて反射された超音波を受信する、例えば、四角形の平板状に形成されている受信部材31は、超音波を受信する受信部31e、31fを車両の外部に露出させた状態で、車両のバンパ52に取り付けられている。ここで、バンパ52には、受信部材31を挿通可能な大きさに貫通形成された取付部52aが設けられており、受信部材31は、取付部52aとの間に超音波の伝達を防止するゴムなどの振動遮断性の高い材料により形成された緩衝材41を介在して、取付部52aに取り付けられる。
【0034】
受信素子10a,10bに効率よく超音波を伝達するためには、受信部材31の音響インピーダンスを支持部材11aの音響インピーダンスに近づけることが有効である。
また、受信部材31は、外気に晒されることに加え、外力の負荷から受信素子10a,10bを保護しなければならないため、耐候性の高い堅牢な材料を用いて形成する必要がある。
そこで、本実施形態では、受信部材31は、ポリカーボネート系樹脂により形成されている。
ここで、ポリカーボネート系樹脂は、バンパ52の構成材料であるため、超音波センサ70の存在を目立たなくすることができるので、意匠性に優れた超音波センサ70を作製することができ、バンパ52の美観を保つことができる。
なお、受信部材31を構成する材料としては、ステンレスやアルミニウム合金などの各種金属材料や各種合成樹脂、ガラス、セラミックス、ゴムなども用いることができる。
【0035】
受信部材31には、面方向の中央部から車両の外部に向かって溝状の遮蔽部31iが形成されており、この遮蔽部31iにより、受信部材31は領域31aと領域31bとに区画されている。遮蔽部31iは、内壁部31g、31h側で開口し、受信部31e、31f側で閉口している。遮蔽部31iでは超音波の伝達媒体が空気となり、減衰が大きくなるので、超音波が遮蔽部31iをまたいで領域31aから領域31bに伝搬することはない。
【0036】
受信素子10a,10bは、接着剤やガラスなどからなる接合層24を介して、支持部材11aの取付面11nにおいて受信部材31の内壁部31g,31hに、それぞれ取り付けられ、箱状の収容部材23内に収容されている。
つまり、受信部材31は、遮蔽部31iにより、受信素子10a、10bに対応した領域31a、31bにそれぞれ区画される。
【0037】
受信素子10a,10bには、振動検出部12(図2)から出力される電圧信号を検知する回路素子21が電気的に接続されている。回路素子21には、ECUに対して信号を出力するためのターミナル22が、電気的に接続されている。このターミナル22は、収容部材23の外部に露出し、ECUに電気的に接続されている。
なお、受信素子10a〜10dのいずれの隣接する2つの受信素子においても上述の受信素子10a、10bの断面構造と同様の構造となる。
【0038】
(超音波の伝達)
図3に示すように、送信素子19から送信され、被検出体たる障害物Mにて反射された超音波は、受信部材31の受信部31e,31fにて受信され、受信素子10a,10bに向かって、受信部材31の厚さ方向に伝達される。次に、受信部材31を伝搬する超音波は、受信部材31の内壁部31g,31hから接合層24を介して支持部材11aに対して固体内の振動として伝達される。
支持部材11aに伝達された超音波は、支持部材11a内を伝達し、振動部15a,15bを振動させる。そして、振動部15a,15bが振動することにより、圧電式の振動検出部12(図1)から回路素子21に対して電圧信号が出力される。
【0039】
そして、回路素子21は振動検出部12から出力される電圧信号に基づいて演算処理を行い、例えば、信号の増幅およびノイズの除去、または、送信素子19から送信した超音波と、受信素子10が受信した超音波とを比較し、その時間差や位相差を求めることにより、被検出体との距離測定などを行うことができる。
【0040】
ところで、図4に示すように、障害物Mにて反射された超音波が、受信部材31の前方の受信素子10a側、つまり、図中の左下方から超音波センサ70に伝達された場合、受信素子10aの振動部15aには、受信部31eにて受信した超音波のみが伝達され、受信素子10aから受信した超音波に応じた出力Aとして検出される。
一方、受信素子10bの振動部15bには、受信部31fにて受信した超音波が伝達され、受信素子10bから出力Aより位相がΔTだけ遅れた出力Bとして検出されるとともに、受信部31eにて受信した超音波が領域31bを介して振動部15bに伝達され、出力Cとして検出される。
これにより、受信素子10bからは、受信部31fにて受信した超音波による出力Bに、受信部31eにて受信した超音波によるノイズ成分たる出力Cが重畳して出力されるため、各振動部15a、15bのクロストーク特性が低下し、各受信部31e、31fで受信した超音波の時間差、位相差の測定精度が低下するので、障害物の位置測定の精度が低下してしまう、という問題があった。
【0041】
そこで、出願人は、受信部31eにて受信した超音波と受信部31fにて受信した超音波とを分離検出し、ノイズ成分たる出力Cを低減させるために、遮蔽部31iの形状の検討を行った。
その結果、受信部材31の厚さTに対して遮蔽部31iの深さLを所定の範囲内にすることにより、各振動部15a、15bのクロストーク特性を向上することができることを見出した。図5は、遮蔽部31iの深さLの受信部材31の厚さTに対する比(深さ割合L/T)と、受信部31eにて受信した超音波のうち、振動部15bに伝達された超音波の割合を表す伝達率との関係を示すグラフである。ここで、伝達率が低い程、クロストーク特性が良好である。
深さ割合L/Tが0、つまり、遮蔽部31iが形成されていない状態から、深さLを増大させていくにつれて、伝達率は低くなっていく。このとき、出力Cの信号波形は、出力A及び出力Bと同相である。そして、L/Tが0.45になると、伝達率が0となり、受信素子10bに受信部31eにて受信した超音波が伝達されなくなる。つまり、ノイズ成分たる出力Cが検出されなくなる。
更に、深さLを増大させると、出力Cの信号波形が出力A及び出力Bと逆相に転じて、伝達率が高くなっていく。
【0042】
自動車に搭載して使用される超音波センサでは、駐車支援、狭い路地の通過などを想定した場合、誤差が10%以内の位置精度が要求される。位置精度10%を満足するためには、超音波の位相差から求められる角度の誤差である方位誤差を5.7Deg以下にする必要がある。つまり、図6に示すように、SN比が16dB以上であることが要求される。
ここで、SN比が16dB以上であるということは、伝達率が4%以下であることに対応している。したがって、図5に示すように、遮蔽部31iの深さLを下式を満足するように形成すればよく、0.45とすることが最も好ましい。
【0043】
0.35≦L/T≦0.60 (1)
【0044】
本実施形態では、深さ割合L/Tが0.45となる最適条件を満足するように、厚さ4mmの受信部材31に対して、遮蔽部31iの深さLが1.8mmに形成されている。これにより、受信部31eにて受信した超音波は、受信素子10aの振動部15aにのみ伝達され、受信部31fにて受信した超音波は受信素子10bの振動部15bにのみ伝達され、他の振動部には伝達されない。
したがって、超音波の伝達を各領域31a、31b間で分離して行うことが可能になり、各振動部15a、15bのクロストーク特性を向上することができるため、各受信部31e、31fで受信した超音波の時間差、位相差を正確に求めることができるので、障害物の位置測定の精度を向上させることができる。なお、遮蔽部31iの幅は、出力Cに影響を及ぼさないため、任意の形状とすることができる。
【0045】
ここで、遮蔽部31iを0.35≦L/T<0.45を満足する形状にすると、遮蔽部31iの深さLが浅いため、受信部材31の強度を高く維持した状態で、ノイズ成分を低減することができる。
また、0.45<L/T≦0.60を満足する形状にすると、出力Cが出力Bと逆相となるため、逆相の信号成分をノイズ成分として容易に処理することができる。
【0046】
(変更例)
遮蔽部31iは、深さ割合L/Tの(1)式の条件を満足すれば、種々の形状に形成することができる。
例えば、図7(A)に示すように、遮蔽部31iの底部31mの端部をR取りしたり、図7(B)に示すように、遮蔽部31iの底部を断面半円状に形成したりすることができる。これによれば、遮蔽部31iの側面と底面31mを滑らかに連結する応力緩和部が設けられ、応力が集中する角部がないため、受信部材31の強度を高くすることができ、受信部材31に外力が負荷された場合や超音波の伝達により遮蔽部31iに剪断応力が発生した場合でも、破壊されるおそれを少なくすることができる。
また、図7(C)及び(D)に示すように、テーパー状に形成することもできる。
【0047】
図8(A)に示すように、遮蔽部31iに、受信部材31よりもヤング率が低く、超音波の伝達を阻害する材料、例えばゲル状材料やゴムなどからなる充填材31nを充填してもよい。また、図8(B)に示すように、樹脂や金属材料からなる箔状または板状に形成された蓋材82により、遮蔽部31iの開口部を閉じる構成を用いることができる。この構成を用いると、遮蔽部31iによる超音波の遮蔽効果を保持したままで、遮蔽部31iに超音波の遮蔽を阻害する異物が侵入するおそれをなくすことができる。
また、図8(C)に示すように、遮蔽部31iは幅の狭い複数の溝状に形成してもよい。この構成を用いると、遮蔽部31iの開口部の幅が狭くなるので、超音波の遮蔽を阻害する異物が侵入するおそれを少なくすることができる。
【0048】
本実施形態では、四角形状の受信素子10及び受信部材31を用いた例について説明したが、これら部材の形状はこれに限定されるものではなく、例えば、それぞれ円板状や多角形状などでもよい。
また、受信素子の数は4個に限らない。また、受信素子の配置も用途に応じて任意である。例えば、上下方向、または、左右方向のみの2次元検知を行う場合には、受信素子の数は2個でよい。また、受信素子は円周上に配置したり、一直線上に配置したりすることもできる。
【0049】
超音波センサ70は、バンパ52以外の車両の移動方向の端部、例えば、バンパ52の直上、または、直下の車両のボディに取り付けることができる。
この構成を用いると、障害物などで反射した超音波が車両の一部に遮られることがないので、確実に超音波センサ70で検出することができ、障害物センサなどに超音波センサ70を適用する場合に有効である。
更に、超音波センサ70の用途に合わせて、他の部材に超音波センサ70を取り付けることもできる。例えば、超音波センサを車両側方の障害物センサとして用いる場合には、ウインカのカバーなどに取り付けることもできる。その他、ヘッドランプのカバー、リアランプのカバー、または、バックランプのカバー、ボディなどに超音波センサ70を取り付けることもできる。
【0050】
[最良の実施形態の効果]
【0051】
(1)車両搭載用の超音波センサ70において、複数個の振動部15a〜15dを備えた受信素子10a〜10dが受信部材31に装着されており、受信部材31は、各振動部15a〜15dに対応した領域31a,31bに区画されている。各領域31a,31bの間には、超音波を受信する受信部31e,31fに対して垂直方向、または、略垂直方向に溝状に形成され、受信部31e,31fで受信した超音波の各領域31a,31b間での伝達を妨げる遮蔽部31iがそれぞれ設けられている。
遮蔽部31iでは、超音波の伝達媒体が空気となり、減衰が大きくなるので、超音波の各領域31a,31b間での伝達を妨げることができ、受信部材31の区画された各領域31a,31bで受信された超音波は、対応する振動部15a,15bにだけ伝達され、他の振動部には伝達されない。
従って、超音波の伝達を各領域31a,31b間で分離して行うことが可能になり、ある受信部でそれぞれ受信された超音波が、隣接する領域に伝達して、ノイズ成分となることを防ぐことができるので、各振動部15a〜15dのクロストーク特性を向上させることができる。
また、受信部材31に遮蔽部31iを形成するだけでよく、各領域31a,31bの間に振動を吸収するための緩衝材を設ける必要がないので、緩衝材を設ける工程が不要であるとともに、超音波センサ70を小型化することができる。
ここで、各遮蔽部の深さLと受信部材の厚さTとの間に、
0.35≦L/T≦0.60
なる関係が成り立つ場合に、車載用の超音波センサ、例えば、車両のバンパに設け、車両の進行の妨げになる障害物の検出などに使用する場合に要求される被検出体Mの位置の検出精度を満足する超音波センサ70を実現することができる。
【0052】
(2)遮蔽部31iを深さ割合L/Tが0.45になるように形成すると、ノイズ成分がなくなるため、超音波センサの感度を最も向上させることができる。
0.35≦L/T<0.45なる関係が成り立つように形成すると、遮蔽部31iの深さLが浅いため、受信部材31の強度を高く維持した状態で、ノイズ成分を低減することができる。
また、0.45<L/T≦0.60なる関係が成り立つように形成すると、ノイズ成分の信号が逆相となるので、逆相の信号成分をノイズ成分として容易に処理することができる。
【0053】
(3)遮蔽部31iの底部31mの端部をR取りしたり、遮蔽部31iの底部31mを断面半円状に形成したりすることなどにより、遮蔽部31iの側面と底面とを滑らかに連結する応力緩和部を設ける構成を用いると、応力が集中する角部がないため、受信部材31の強度を高くすることができ、受信部材31に外力が負荷された場合や超音波の伝達により遮蔽部31iに剪断応力が発生した場合でも、破壊されるおそれを少なくすることができる。
【0054】
(4)遮蔽部31iを平行する複数の溝状に形成する構成を用いると、遮蔽部31iの開口部の幅が狭くなるので、超音波の遮蔽を阻害する異物が侵入するおそれを少なくすることができる。
【0055】
(5)遮蔽部31iに、受信部材31よりもヤング率が低く、超音波の伝達を阻害する充填材31nを充填する構成を用いると、遮蔽部31iによる超音波の遮蔽効果を保持したままで、遮蔽部31iに超音波の遮蔽を阻害する異物が侵入するおそれをなくすことができる。また、遮蔽部31iに、遮蔽部31iの開口部を覆う蓋材82を設けた構成を用いても同様な効果を奏することができる。
【0056】
(6)振動部15として、圧電材料を用いて構成され、振動によって生じる歪みにより振動を検出する圧電式の振動検出部12を採用しているため、共振により生じる振動部15の変位を電圧信号に変換して受信素子10から出力される信号強度が強く、超音波の受信感度が高いので、超音波の検出感度を向上させることができる。
【0057】
(7)受信部材31は、ポリカーボネート系樹脂材料により形成されているため、受信部材31の音響インピーダンスを支持部材の音響インピーダンスに近づけることができ、受信素子10に効率よく超音波を伝達することができる。また、耐候性の高い堅牢な材料であるので、外気に晒されることに加え、外力の負荷から受信素子10を保護することができる。
更に、ポリカーボネート系樹脂は、バンパ52の構成材料として用いられるためめ、超音波センサ70の存在を目立たなくすることができるので、意匠性に優れた超音波センサ70を作製することができる。
【0058】
[その他の実施形態]
(1)バンパ52の内面に遮蔽部31iを形成し、受信素子10を取り付けることにより、バンパ52の一部を受信部材31として利用した超音波センサを形成することもできる。この構成を使用すると、バンパ52から受信部材31が露出することがないため、意匠的に優れた車両を製造することができる。
更に、超音波センサの用途に合わせて、車両の他の部材を受信部材31として利用することもできる。例えば、超音波センサを車両側方の障害物センサとして用いる場合には、ウインカのカバーなどを受信部材31として利用し、受信素子10を取り付けることもできる。その他、ヘッドランプのカバー、リアランプのカバー、バックランプのカバー、または、ボディなどを受信部材31として利用し、受信素子10を取り付けることもできる。
【0059】
(2)受信素子10として、振動部15が支持部材11aに片持ち支持された受信素子を採用することもできる。この構成を使用すると、振動部15の両端を支持されている場合に比べて、振動部15の変形を拘束する部分が少ないため、振動が伝達されると大きく変形するので、超音波センサ70の感度を向上させることができる。
【0060】
(3)受信素子10の振動部15としては、圧電式の振動検出部12を用いたが、これに限定されるものではなく、例えば、一対の電極を備え、この電極間の容量変化により振動を検出する容量式の振動検出部などを用いることもできる。容量式の振動検出部は共振周波数がブロードであるので、振動部に高い寸法精度が要求されず、容易に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】超音波センサの受信素子の説明図である。図1(A)は、受信素子の平面説明図であり、図1(B)は、図1(A)のA−A矢視断面図である。
【図2】超音波センサにおける受信素子の配置の説明図である。
【図3】車両に搭載された超音波センサの断面説明図である。
【図4】異なる受信部で受信した超音波による隣りあった受信素子における出力信号を示す説明図である。
【図5】遮蔽部の深さと超音波のノイズ成分の伝達率との関係を示す説明図である。
【図6】超音波センサの方位誤差とSN比との関係を示す説明図である。
【図7】遮蔽部の変更例を示す説明図である。
【図8】遮蔽部の変更例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0062】
10、10a、10b、10c、10d 受信素子
11a 支持部材
15、15a、15b 振動部
19 送信素子
31 受信部材
31e、31f 受信部
31a、31b 領域
31i 遮蔽部
31n 充填材
41 緩衝材(第2の遮蔽手段)
42 減衰部材(第3の遮蔽手段)
52 バンパ
70 超音波センサ
82 蓋材
L 遮蔽部の深さ
M 障害物
T 受信部材の厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送信する送信手段から送信され、被検出体にて反射された超音波が伝達して振動する振動部と、この振動部を支持するとともに超音波を伝達する支持部材とを有した受信素子と、
前記被検出体にて反射された超音波を受信する受信部が前記被検出体の存在する空間側に露出し、前記受信部と対向する面に、前記伝達部において前記超音波検出素子が取り付けられ、前記受信部で受信した超音波を前記伝達部に伝達する受信部材とを備え、
前記受信部材には複数個の前記振動部がそれぞれ前記支持部材を介して装着され、前記受信部材は、前記各振動部に対応した領域に区画されており、
前記各領域の間には、前記受信部に対して垂直方向、または、略垂直方向に溝状に形成され、前記受信部で受信した超音波の前記各領域間での伝達を妨げる遮蔽部がそれぞれ設けられており、
前記各遮蔽部の深さLと前記受信部材の厚さTとの間に
0.35≦L/T≦0.60
なる関係が成り立つように形成されていることを特徴とする車両搭載用の超音波センサ。
【請求項2】
前記各遮蔽部の深さLと前記受信部材の厚さTとの間に
L/T=0.45
なる関係が成り立つように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の車両搭載用の超音波センサ。
【請求項3】
前記各遮蔽部の深さLと前記受信部材の厚さTとの間に
0.35≦L/T<0.45
なる関係が成り立つように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の車両搭載用の超音波センサ。
【請求項4】
前記各遮蔽部の深さLと前記受信部材の厚さTとの間に
0.45<L/T≦0.60
なる関係が成り立つように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の車両搭載用の超音波センサ。
【請求項5】
前記遮蔽部の側面と底面とを滑らかに連結する応力緩和部が設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載の車両搭載用の超音波センサ。
【請求項6】
前記遮蔽部は、平行する複数の溝状に形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1つに記載の車両搭載用の超音波センサ。
【請求項7】
前記遮蔽部に、前記受信部材よりもヤング率が低く、超音波の伝達を阻害する材料が充填されていることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1つに記載の車両搭載用の超音波センサ。
【請求項8】
前記遮蔽部に、前記遮蔽部の開口部を覆う蓋材が設けられていることとする請求項1ないし請求項6のいずれか1つに記載の車両搭載用の超音波センサ。
【請求項9】
前記振動部は、圧電材料を用いて構成され、振動によって生じる歪みにより振動を検出する圧電式振動検出部であることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1つに記載の車両搭載用の超音波センサ。
【請求項10】
前記振動部は、一対の電極を備え、この電極間の容量変化により振動を検出する容量式振動検出部であることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1つに記載の車両搭載用の超音波センサ。
【請求項11】
前記受信部材は、ポリカーボネート系樹脂材料により形成されたことを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれか1つに記載の車両搭載用の超音波センサ。
【請求項12】
バンパに設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項11のいずれか1つに記載の車両搭載用の超音波センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−99103(P2008−99103A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−280021(P2006−280021)
【出願日】平成18年10月13日(2006.10.13)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】