説明

超音波骨評価装置

【課題】超音波骨評価装置において、音響整合層での超音波の減衰による影響を除外しつつ、評価対象である骨についての減衰指標を正確に測定する。
【解決手段】超音波振動子間に生体を介在させた状態において超音波の送受波を実行して、全減衰指標を算出し、整合媒体減衰測定を実行して、評価対象となる骨の一方側における超音波の減衰の影響を除外するための第1部分減衰指標を算出し、骨の他方側における超音波の減衰の影響を除外するための第2部分減衰指標を算出し、前記第1部分減衰指標及び前記第2部分減衰指標を用いて全減衰指標を補正することにより生体についての減衰指標を算出する超音波骨評価装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波骨評価装置に関し、特に、超音波を利用して骨の状態を評価する超音波骨評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療の分野において、骨粗鬆症等の骨の疾患を診断するために超音波骨評価装置が活用されている。超音波骨評価装置は、踵骨などの骨に超音波を放射し、骨を通過した超音波を受波して得られた受信信号に基づいて、骨中を伝播する超音波の音速や減衰等を測定することにより、骨の状態を評価する装置である。従来の一般的な超音波骨評価装置は、互いに向き合って配置された一対の超音波振動子を有する。これらの超音波振動子の間に評価対象となる骨を含む部位(例えば踵)を配置させた状態において、一方の超音波振動子から超音波が送信され、骨組織を通過した超音波が他方の超音波振動子で受信され、これにより得られる受信信号に基づき骨の性状を指標する評価値が演算される。評価値としては、骨中の超音波の音速に関わる指標、骨中の超音波の減衰に関わる指標(後述)、等があげられる。
【0003】
下記特許文献1に記載された超音波骨評価装置では、音響整合媒体としての水が入れられた水槽中に一対の超音波振動子が配置されており、それらの間に生体としての踵が配置され、その状態で一対の超音波振動子を利用して超音波の送受を行うことにより、骨を通過する超音波の音速が測定されている。骨中の音速の演算に先立って、音響整合媒体の特性を事前に評価するために、生体を入れない状態で超音波の送受を行う準備測定工程が実施されている。その際に求まる2つの超音波振動子間の距離から、別途計測された生体両側に存在する音響整合媒体の厚みを減算することにより、骨中の音速の演算に当たって必要となる骨の厚みが演算されている。なお、そのような演算の過程において、骨の外側に存在する軟組織は音響整合媒体と等価なものとみなされている。この特許文献1には超音波の減衰に着目した骨評価法については記載されていない。
【0004】
下記特許文献2に記載された超音波骨評価装置では、音響整合媒体としての液体が充填された一対の液包体(ボーラス)の間に踵が差し込まれた状態において、一対の超音波振動子を利用して超音波の送受を行い、生体を通過する超音波の音速や減衰を測定する超音波骨評価装置が記載されている。この文献には骨中の超音波の減衰を求める具体的な演算方法が記載されていない。特に生体の両側に存在する音響整合媒体が最終的な結果値に及ぼす影響を除外するための手法については開示されていない。
【0005】
下記特許文献3には、骨中の超音波の減衰指標を演算する超音波骨評価装置が開示されている。この超音波骨評価装置では、送信信号の送信スペクトラムと受信信号の受信スペクトラムの差分によって差分スペクトラム(つまり減衰スペクトラム)が演算されており、かかる減衰スペクトラムにおける最小減衰率の地点とそこから周波数軸方向へ所定距離離れた地点とが特定され、それらの2点間の傾きが減衰率の傾きとして演算されている。更に、骨の厚さによる規格化演算により単位厚さあたりの減衰率の傾きが演算されている。そのような減衰率、減衰率の傾き、単位厚みあたりの減衰率の傾き、等はいずれも減衰指標であって、それらは骨評価値と言い得る。但し、この文献には、生体の両側に存在する音響整合層による影響を除外する技術については格別記載されていない。
【0006】
下記特許文献4には、骨を通過した超音波の受信信号波形に基づいて骨の評価値を求める超音波骨評価装置が開示されている。こ超音波骨評価装置においては、2つの振動子ユニットが利用され、各振動子ユニットは超音波振動子とその前面側に設けられた音響整合層(カップリング液体、カップリングバルーン)とを有する。校正送受波工程においては、2つの振動子ユニットが直接的に当接された状態で超音波が送受波され、これにより装置の透過特性が求められる。被検体送受波工程においては、生体を介して2つの振動子ユニットにより超音波が送受波され、これにより被検体の透過特性が求められる。被検体の透過特性は装置の透過特性により補正される。この文献には、一対の超音波振動子の間に生体を配置した状態のまま生体の両側(専ら音響整合層)で生じる超音波の減衰を個別的に計測、演算する技術までは開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−327674号公報
【特許文献2】特開平5−228148号公報
【特許文献3】特開平7−31612号公報
【特許文献4】特開平9−201354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
骨中の超音波の減衰に関わる減衰指標は、上記のように、骨の性状を表す重要な評価値であるから、その測定精度を高めることが疾病診断上、重視される。一方、超音波を用いた骨の評価に当たっては超音波伝搬経路上から空気層を排除するために一般に音響整合媒体が用いられ、すなわち骨を含む生体の両側に音響整合層が設けられる。音響整合層中における超音波の伝搬状況(特に減衰)は、当該音響整合層の厚みの他、環境変化(例えば温度変化)や経時変化(例えば成分変化)等に起因して変動し得る。よって、骨について減衰指標を高精度に求めるためには、超音波振動素子間の全経路中において骨以外の部分に起因する減衰の影響が除外されるように、当該減衰指標の計測及び演算を行うことが望まれる。
【0009】
本発明は、骨についての減衰指標を正確に測定できる超音波骨評価装置を提供することを目的とする。あるいは、本発明は、減衰指標の演算に当たって、骨以外の部分(特に音響整合層)による影響を除外又は軽減できる超音波骨評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る超音波骨評価装置は、骨を含む生体の一方側に第1音響整合層を介して設けられる第1超音波振動子と前記生体の他方側に第2音響整合層を介して設けられる第2超音波振動子とを有する測定ユニットと、前記測定ユニットを用いた全減衰測定を実行することにより得られる測定結果に基づいて、前記第1超音波振動子から前記生体を経由した前記第2超音波振動子までの全経路についての全減衰指標を算出する全減衰指標算出手段と、前記測定ユニットを用いた整合媒体減衰測定を実行することにより得られる測定結果に基づいて、前記第1超音波振動子と骨表面又は生体表面との間の第1部分についての第1部分減衰指標、及び、前記第2超音波振動子と骨表面又は生体表面との間の第2部分についての第2部分減衰指標を算出する不要成分算出手段と、前記第1部分減衰指標及び第2部分減衰指標を用いて前記全減衰指標を補正することにより骨評価用の減衰指標を算出する全減衰指標補正手段と、を含むことを特徴とする。
【0011】
上記構成によれば、超音波振動子間に生体を介在させた状態において超音波の送受波が実行され、すなわち全減衰測定が実行され、これにより全減衰指標が算出される。全減衰指標は、少なくとも生体の両側に存在する一対の音響整合層での超音波の減衰による影響を受けているので、その影響分を除外するために、整合媒体減衰測定が実行され、その測定結果を利用して全減衰指標が補正される。ここで整合媒体減衰測定は全減衰測定の前に実行されるのが望ましいが後に実行されてもよい。詳しくは、評価対象となる骨の一方側における超音波の減衰の影響を除外するために第1部分減衰指標が算出され、骨の他方側における超音波の減衰の影響を除外するために第2部分減衰指標が算出される。第1部分減衰指標は、第1超音波振動子と生体表面との間つまり第1音響整合層についての減衰指標であってもよいし、第1超音波振動子と骨表面との間つまり第1音響整合層及び軟組織の両者についての減衰指標であってもよい。同様に、第2部分減衰指標は、第2超音波振動子と生体表面との間つまり第2音響整合層についての減衰指標であってもよいし、第2超音波振動子と骨表面との間つまり第2音響整合層及び軟組織の両者についての減衰指標であってもよい。ちなみに、軟組織は一般に音響整合媒体と等価な部分とみなせるので、それを演算上、音響整合層と同視して取り扱うことが可能である。軟組織が薄い層であればあるいは軟組織による影響を無視可能であれば、音響整合層による影響分のみを除外する補正を行えば足りる。もっとも、軟組織による影響分までを除外する補正を行えばより高精度の骨評価を行える。
【0012】
減衰指標の概念には、減衰率、減衰率の傾き、単位長さあたりの減衰率の傾き、受信信号の波形解析から得られる透過特性、等が含まれる。いずれにしても、超音波の減衰(波形の崩れを含む)の観点から骨評価を行う場合において、全経路中の骨以外の部分での減衰の影響が除外されるように補正を行うのが望ましい。上記構成によれば、骨の両側での超音波の減衰分が第1及び第2部分減衰指標として個別的に定量化されるので、それらを用いて骨評価用の減衰指数をより正確に求めることが可能である。例えば、生体がセンター位置から偏在しあるいは生体形状が左右において異なるような場合でも骨評価用の減衰指数を精度良く求めることが可能である。
【0013】
望ましくは、前記超音波骨評価装置において、前記不要成分算出手段は、前記第1超音波振動子から前記生体に超音波を送信して前記生体からの反射波を前記第1超音波振動子で受信することにより得られた第1反射波受信信号に基づいて前記第1部分の厚みを算出する第1の厚み算出手段と、前記第2超音波振動子から前記生体に超音波を送信して前記生体からの反射波を前記第2超音波振動子で受信することにより得られた第2反射波受信信号に基づいて前記第2部分の厚みを算出する第2の厚み算出手段と、前記第1音響整合層及び前記第2音響整合層を構成する音響整合媒体についての基準減衰指標を基礎として前記第1部分の厚み及び前記第2部分の厚みを用いた推定演算を実行することにより、前記第1部分減衰指標及び前記第2部分減衰指標を個別的に算出する推定演算手段と、を含む。
【0014】
上記構成によれば、一対の超音波振動子を利用して骨の両側において反射法を実施することにより骨の両側において2つの距離つまり第1部分の厚み及び第2部分の厚みが計測され、それらの厚みから基準減衰指標を基礎として第1部分減衰指標及び第2部分減衰指標が算出される。一般に、距離に応じて減衰が大きくなり、つまり減衰指標が変化するから、その関係を利用するために、事前に距離と減衰指標との関係を求めておくのが望ましい。いずれにしても、第1部分減衰指標及び第2部分減衰指標を直接測定するのが困難な状況下にあっても、基準減衰指標を用意しておけば、それを基礎として換算等を行うことにより、第1部分減衰指標及び第2部分減衰指標を求めることが可能である。基準減衰指標は、装置の出荷時に装置内に予め記憶させておくことができ、また、出荷後の必要なタイミングで生体を介在させないでの送受波を実行することより求めることができる。
【0015】
望ましくは、前記超音波骨評価装置が、前記第1超音波振動子及び前記第2超音波振動子の間に前記生体を介在させずに前記音響整合媒体を満たした生体不存在状態において前記第1超音波振動子から超音波を送信して前記第2超音波振動子で超音波を受信することによって得られた透過受信信号に基づいて前記基準減衰指標を算出する基準減衰指標算出
手段を含む。
【0016】
上記構成によれば、基準減衰指標が必要なタイミングで実測されるので、音響整合媒体等の特性変動に影響されない計測を実現できる。ひいては骨評価用の減衰指標の信頼性をより高められる。生体不存在状態での超音波の送受波と生体存在状態での超音波の送受波とで振動子間距離が維持固定されるのが望ましい。前提となる測定条件を合わせることによりリファレンスとしての基準減衰指標をより的確なものにできる。
【0017】
望ましくは、前記超音波骨評価装置において、前記生体不存在状態で得られた透過受信信号に基づいて前記第1超音波振動子及び前記第2超音波振動子の間の超音波の全伝搬時間を計測する手段と、前記全伝搬時間と、前記第1超音波振動子及び前記第2超音波振動子間の距離と、に基づいて前記音響整合媒体中の超音波の音速を算出する手段と、を含み、前記第1の厚み算出手段は、前記第1反射波受信信号に基づいて前記第1部分における超音波の伝搬時間を計測する手段を含み、前記第1部分における超音波の伝搬時間と、前記音響整合媒体中の超音波の音速と、に基づいて、前記第1部分の厚みを算出し、前記第2の厚み算出手段は、前記第2反射波受信信号に基づいて前記第2部分における超音波の伝搬時間を計測する手段を含み、前記第2部分における超音波の伝搬時間と、前記音響整合媒体中の超音波の音速と、に基づいて、前記第2部分の厚みを算出する。超音波の伝搬時間は、例えば、送信時から反射波中のピーク発生時までを経時することにより、容易の算出可能であり、生体表面ピークを利用すれば第1部分及び第2部分として音響整合層の厚みを計測でき、骨表面ピークを利用すれば第1部分及び第2部分として音響整合層及び軟組織の両者を併せた厚みを計測できる。ピーク以外の波形特徴量を利用して時間計測を行うようにしてもよい。
【0018】
望ましくは、前記超音波骨評価装置が、前記音響整合媒体の温度を測定する温度センサを含み、前記基準減衰指標及び前記音響整合媒体中の超音波の音速を測定するキャリブレーション段階において前記温度センサによって測定された温度、及び、前記生体を測定する生体測定段階において前記温度センサによって測定された温度に基づいて、前記骨評価用の減衰指標に対する温度補償が実行される。この構成によれば、キャリブレーション段階と生体測定段階との間で温度変化が生じても、骨評価用の減衰指標において温度変化の影響が生じることを防止又は軽減できる。
【0019】
望ましくは、前記超音波骨評価装置が、前記生体の一方側に設けられ、前記第1超音波振動子の運動を許容しつつ、前記第1音響整合層を構成するために音響整合媒体を収容した第1収容部材と、前記生体の他方側に設けられ、前記第2超音波振動子の運動を許容しつつ、前記第2音響整合層を構成するために音響整合媒体を収容した第2収容部材と、前記第1及び前記第2収容部材間に設けられ、前記第1及び前記第2収容部材の内部空間を連通させる構造体であって、前記生体不存在状態で送受信される超音波が通過する連通路と、を含む。水槽を利用せずに第1収容部材と第2収容部材を利用する場合には一般に両者は空間的に分離しているが、上記構成によれば連通路によって両者を繋げて、それを超音波透過路として利用することができる。2つの収容部材を近接運動等させることなく、2つの超音波振動子を超音波ビームに直交する方向へ移動させることにより音響伝搬媒体の計測を実現できるから、簡便でありながら正確な計測を行える。
【0020】
上記構成を採用する場合には、第1超音波振動子と第2超音波振動子を共通フレームに固定し、共通フレームの移動によってそれらの超音波振動子の位置決めを行うようにするのが望ましい。そのような構成によれば超音波振動子間の距離を一定に維持することも容易である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、骨についての減衰指標を正確に測定することができる。あるいは、本発明によれば、骨評価用の減衰指標の計測に際して音響整合層等による影響を除外し又は軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】踵骨を評価対象とする超音波骨評価装置の外観を示す斜視図である。
【図2】踵骨を評価対象とする超音波骨評価装置の外観を示す斜視図である。
【図3】足置き台と振動子ユニットの拡大図である。
【図4】足置き台と振動子ユニットの拡大図である。
【図5】振動子ユニットの断面図である。
【図6】整合材袋の表側部材における生体接触側の形状を示す斜視図である。
【図7】整合材袋の表側部材における生体接触側の形状を示す斜視図である。
【図8】整合材袋の表側部材における生体非接触側の形状を示す斜視図である。
【図9】超音波振動子を移動させる移動機構を示す図である。
【図10】足置き台とこれに置かれた足との関係を示す図である。
【図11】超音波骨評価装置の機能構成を示すブロック図である。
【図12】受信データ処理部74及び演算部78の機能を示すブロック図である。
【図13】音響整合媒体中の超音波の透過距離と、音響整合媒体についての減衰指標を推定するための係数と、の関係を示す図である。
【図14】超音波骨評価装置による測定の流れの説明図である。
【図15】温度センサを備えた振動子ユニットの構成を示す図である。
【図16】他の実施形態に係る超音波骨評価装置の機能構成を示すブロック図である。
【図17】超音波骨評価装置による測定の流れの説明図である。
【図18】本実施形態において測定される又は演算されるパラメータの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態について以下説明する。以下においては、踵骨を評価対象とする超音波骨評価装置について説明するが、評価対象の骨はこれに限られない。踵骨以外の骨についても、この骨及びその周囲の形状、特性等に合わせて、装置の構成を適宜変更して、本発明の趣旨を達成することは、当業者においては容易に想定可能である。
【0024】
図1及び図2は、踵骨を評価対象とする超音波骨評価装置10の外観を示す斜視図である。超音波骨評価装置は、病院、検査センター等に設置され、被検者についての骨の健全性(骨粗鬆症の罹患有無等)を診断、予防するための装置である。装置本体12の上部には、足置き台14が配置されている。足置き台14は、略L字形の載置面を有する台であり、図2の鎖線で示すように足Fを載せ、位置決めを行うものである。踵を足置き台14のL字形の角に合わせることにより、足の位置決めが行われる。足置き台14の左右には、踵部分を挟むように、第1振動子ユニット16A及び第2振動子ユニット16Bが配置されている。それらの振動子ユニット16A,16Bにより測定ユニットが構成される。第1及び第2振動子ユニット16A,16Bは、左右対称の構造を有しており、特に左右や第1第2を区別する必要がない時には、単に振動子ユニット16と記して、以下説明する。また、第1及び第2振動子ユニット16A,16Bを構成する要素についても、左右や第1第2の区別が必要な場合はその符号にA,Bを付し、また区別の必要がない場合には数字の符号のみを用いて説明する。振動子ユニット16は、踵部分と超音波振動子の間の音響整合を図るために音響整合層を有している。音響整合層は変形可能であり、変形して踵部分に密着し、間の空気層を排除する。この超音波骨評価装置10において、音響整合層は、水等の音響整合媒体と、この水等の音響整合媒体を収容した収容部材としての整合材袋18と、を有する。足を足置き台14に置いた時に、整合材袋18が足の踵部分に当接して、超音波振動子とこの踵部分との間での音響インピーダンスの整合を図っている。
【0025】
図3及び図4は、足置き台14と振動子ユニット16の拡大図である。図3,4において、足置き台14の正中面で破断して、一方の側、つまり被検者が足置き台14に足を置いた時に被検者にとって右側となる部分が示されている。足置き台14は、略L字形状であり、L字の2辺を構成する底面20と当接面22のなす角度は、ほぼ直角となっている。被検者は足の踵の後端面を当接面22に当接させて足裏を底面20に置く。この時の足の踵、特に踵骨の位置及びその周囲の位置に当接するよう整合材袋18が配置されている。整合材袋18の踵部分およびその周囲に当接する面は、概略球面の、一つの直径に直交する面と、この直径に平行で互いに直交する二つの面とで囲まれた部分の形状となっている。足置き台14に足を置くと、踵部分及びその周囲の左右両側に整合材袋18が当接し、整合材袋18が踵部分の表面に倣うように変形し、空気層の介在を排除する。
【0026】
図5は、2つの振動子ユニット16A,16B(つまり測定ユニット)の断面図である。本実施形態の第1振動子ユニット16Aは足の一方側に配置される第1音響整合層を有し、第2振動子ユニット16Bは足の他方側に配置される第2音響整合層を有する。第1音響整合層は、水等の音響整合媒体と、この水等の音響整合媒体を収容した第1収容部材としての第1整合材袋18Aと、を有する。第2音響整合層は、水等の音響整合媒体と、この水等の音響整合媒体を収容した第2収容部材としての第2整合材袋18Bと、を有する。また、本実施形態の第1振動子ユニット16Aは、足の一方側に第1音響整合層(音響整合媒体及び第1整合材袋18A)を介して設けられる第1超音波振動子34Aを有し、第2振動子ユニット16Bは、足の他方側に第2音響整合層(音響整合媒体及び第2整合材袋18B)を介して設けられる第2超音波振動子34Bを有する。整合材袋18は、対象の生体である足側の表側部材24と反対側の裏側部材26を、環状のリングフレーム28に固定することにより形成される。表側部材24の周縁部がリングフレーム28とリングフレーム28の内側に位置する第1固定リング30に挟持され、これによって表側部材24がリングフレーム28に固定されている。また、裏側部材26の周縁部が第1固定リング30と第2固定リング32に挟持され、これによって裏側部材26が間接的にリングフレーム28に固定されている。裏側部材26は、蛇腹状に屈曲しており、中心部分は、超音波振動子34の外周部分に結合されている。裏側部材26の更に背面側には支持盤36が配置され、それは裏側部材26が背面側に膨出しないように規制し、これを支持するものである。支持盤36は複数の円環板状の支持プレート38a,38b,38c,38dから構成され、最外周の支持プレート38aは、外周縁部分の円筒形状の部分を更に有し、これが、リングフレーム28に固定されている。最内周の支持プレート38dは、超音波振動子34の外周部分に固定されている。裏側部材26は、超音波振動子34の外周部分に設けられたフランジ40と、最内周の支持プレート38dに挟持されて超音波振動子34と、に固定される。支持プレート38a,38b,38c,38dは、相互にスライド可能であり、後述する超音波振動子34の振動子軸線に直交する方向の動きを許容する。
【0027】
図6〜8は、整合材袋の表側部材24の形状を示す斜視図である。表側部材24は円形状の基礎部分41を有し、基礎部分41には、足置き台14上の踵部分に向けて膨出する膨出部42、対をなす振動子ユニット16A,16Bの各々の第1整合材袋18A及び第2整合材袋18Bの内部空間を連通する連通管44A,44B、並びに、校正用のブロックを配置するための校正ブロックポケット46、が設けられている。左右の連通管44A,44Bは中央部分で連結され、第1整合材袋18A及び第2整合材袋18Bの内部空間が連通されている。連通管44A,44Bを通して、第1整合材袋18A及び第2整合材袋18B内の音響整合媒体が移動するため、第1整合材袋18A及び第2整合材袋18Bの圧力バランスを容易に保つことができる。後述する移動機構によって、この連通管44A,44Bの位置にビーム経路が位置するように第1及び第2超音波振動子が位置決められる。これらの対向状態で超音波を送受することにより、連通管44A,44B内を超音波が通過する。
【0028】
膨出部42は、球面を一つの直径に直交する第1の平面と、前記の直径に平行で、互いに直交する第2及び第3の平面と、で切った形状を有している。前記の直径は基礎部分41に直交し、基礎部分41が形成する平面が前記第1の平面に相当する。第2、第3の平面は、足置き台14の底面20と当接面22が形成する面である。第2、第3の平面による切り口が第1の側面48、第2の側面50となる。また、これら第1から第3の平面により切り出された球面の一部が対象部位である足に当接する生体当接面51となる。したがって、膨出部42の第1の側面48は足置き台の底面20に沿い、第2の側面50は当接面22に沿う。そして、第1及び第2の側面48,50から形成される膨出部42の側面は、全体としてL字形の足置き台の足を置く面に沿ってL字形に形成される。また、見方を変えれば、膨出部42は、高さの低いドームを、交差する二つの平面により切り取った部分的なドーム形状と見ることもできる。
【0029】
図9は、超音波振動子34を移動させる移動機構52を示す図である。同図において、振動子ユニット16は、支持盤36を省略した状態で示されており、整合材袋18の裏側部材26の蛇腹形状の部分が現れている。第1超音波振動子34A及び第2超音波振動子34Bは、コの字形又はU字形の支持フレーム54の先端に固定されている。支持フレーム54は駆動機構56により、第1超音波振動子34A及び第2超音波振動子34Bの配列対向(つまり超音波振動子の軸線方向)に直交する平面内で移動される。したがって、第1超音波振動子34A及び第2超音波振動子34Bは、この配列方向においては移動せず、互いの距離も変化しないが、この配列方向に直交する方向には、いずれの方向にも移動可能となっている。上記の支持フレーム54は大きな剛性を有し、振動子間の距離は厳密に所定値に維持、固定されている。第1超音波振動子34A及び第2超音波振動子34Bの対向状態が常に維持される。この超音波振動子34の移動を許容するために、整合材袋の裏側部材26は、蛇腹構造を有し、また、支持盤36は、多重の支持プレート38a〜38dを有する構成を備える。それぞれの支持プレート38a〜38dが相互にスライドして、超音波振動子34の移動を許容する。
【0030】
図10は、足置き台14とこれに置かれた足Fとの関係を示す図である。蛇行する矢印Yは、超音波振動子34の機械走査の経路を示している。このようなジグザグ走査は測定点の決定のために利用される踵骨の二次元画像を形成する場合において実行される。この矢印Yの軌跡を囲む範囲Rが超音波ビームの走査範囲である。超音波振動子34を、踵骨Cを含む範囲Rにおいて走査して、透過超音波のデータを得る。また、図10に示すように、連通管44を、足置き台14の底面20に対して足Fと反対側の面の近傍であって、且つ超音波ビームの走査範囲内に配置することが好ましい。また、図の説明は省略するが、連通管44を、足置き台14の当接面22に対して足Fと反対側の面の近傍であって、且つ超音波ビームの走査範囲内に配置してもよい。このような構成により、装置のデッドスペースを有効に活用して、踵骨Cの透過超音波のデータと共に、整合材内の音速等も計測することができる。
【0031】
図11は、超音波骨評価装置10の機能構成を示すブロック図である。振動子ユニット16A,16B、移動機構52の構造については、既に説明した通りである。振動子ユニット16Aの第1超音波振動子34A及び振動子ユニット16Bの第2超音波振動子34Bは、送受信切替回路66を介して受信回路68及び送信回路70に接続されている。送受信切替回路66の動作により、超音波の送信の向き、又は送信を行う超音波振動子34を切り替えることができる。すなわち、2つの超音波振動子34A,34Bと受信回路68,送信回路70との接続関係を切り換えることにより、生体の一方側から超音波を送波して生体の他方側で生体を透過した超音波を受波する透過法、及び、生体の両側で個別的に超音波を送受波する反射法の両者を実施することができる。
【0032】
送信回路70は、送信時に送信信号を出力する回路である。受信回路68は受信時に取得される受信信号に対して検波、A/D変換等の処理を実行する回路である。制御部72は、装置内の各構成の動作を制御するものであり、それは例えばCPU及び動作プログラムにより構成される。受信回路70から出力された受信信号(受信データ)は、図11に示す構成例において、制御部72を経由して受信データ処理部74へ与えられている。受信データ処理部74は、本実施形態において周波数解析、時間計測(時間演算)、その他のデータ処理を実行する機能を有する。受信データ処理部74が備える各機能については後に図12を用いて説明する。格納部76は、記憶部であって、そこには必要に応じて受信データが格納され、また、後に図13に示す関数等の骨評価値演算に当たって必要な情報が格納されている。演算部78は、後に詳述するように、全減衰指標からそこに含有された不要成分を除外する演算を実行することにより、骨評価用の減衰指標を演算する。制御部72には、入出力インターフェイスとしての操作パネル部80及び表示部82が接続されている。
【0033】
図11に示される超音波骨評価装置の動作には、(1)キャリブレーション測定と、(2)生体測定と、が含まれる。前者の(1)キャリブレーション測定は、2つの超音波振動子間において骨以外の部分(もっぱら2つの音響整合層)による超音波の減衰を推定するために必要なパラメータ(後述する基準減衰指標、及び音響整合媒体中の超音波の音速)の事前測定を行うものである。その際には一方の超音波振動子から送波された超音波を他方の超音波振動子で受波する透過法が実施される。特に、本実施形態では、後述する連通路を利用した透過法が実施される。後者の(2)生体測定は、大別して2つの測定からなり、すなわち、(2−1)生体を含む全経路についての全減衰指標を求める測定と、(2−2)2つの音響整合層(あるいは骨以外の音響整合層と軟組織とを併せた部分)について個別的に整合材減衰指標(あるいは部分減衰指標)を求めるための測定と、からなる。全減衰指標を求める際には透過法が実施され、2つの整合材減衰指標を求める際には、つまり骨の両側で距離計測を行う際には、反射法が実施される。反射法の実施に際しては、2つの超音波振動子において同時に送受波が実施されてもよいが、通常、それらの送受波が順次実施される。
【0034】
本実施形態においては、減衰指標として、減衰率の傾きが演算されている(既に説明した特許文献3を参照)。すなわち、まず、送信信号の送信スペクトルと受信信号の受信スペクトルとの差分演算によって減衰スペクトル(差分スペクトル)が演算される。次に、減衰スペクトルにおける例えば最小減衰率をとる点として基準点が定められ、その基準点から周波数軸上に沿って所定距離離れた点が特定され、それらの2点間を結ぶ直線の傾き(減衰率の傾き)が減衰指標として演算される。減衰率の傾きを骨の厚さで割ることによって、単位長さあたりの減衰率の傾きを求め、それを減衰指標とするようにしてもよい。単なる減衰率等を減衰指標とすることもできるし、受信信号波形の解析から透過特性を求め、それを減衰指標とすることもできる(既に説明した特許文献4を参照)。いずれにしても、超音波の減衰(波形の崩れを含む)の観点から骨の性状を評価するものとして減衰指標が定義される。本実施形態では、一方の超音波振動子から他方の超音波振動子に至る全経路において、骨以外の部分(もっぱら2つの音響整合層)による超音波の減衰の影響を除外するために、補正演算が実行されている。
【0035】
補正演算の詳細に先立って、本実施形態において測定される又は演算されるパラメータについて説明する。
【0036】
図18において、生体測定時の一対の超音波振動子がa,bで示されている。それらは対象骨中の測定点を超音波ビームが通過するように位置決められている。キャリブレーション時の一対の超音波振動子がa1,b1で示されている。それらは連通管44内を超音波ビームが通過するように位置決められている。いずれの場合においても2つの超音波振動子間の距離Lは一定である。キャリブレーション時には、音響整合媒体中の距離Lを通過する超音波の全伝搬時間(透過時間)tcが測定される。ちなみに、距離Lと全伝搬時間tcから音響整合媒体中の超音波の音速Vが求められる。またキャリブレーション時には、音響整合媒体についての基準減衰指標Acが演算される。それは距離Lに対するものである。一般に距離が小さくなれば減衰指標も小さくなる。距離と減衰指標との相関関係が実験等により事前に求められており(後に図13に示す)、それが以下に説明するように個々の音響整合層についての減衰指標の演算で利用される。
【0037】
生体測定時において、透過法が適用される場合、距離Lの全経路を通過した超音波が受波され、送信信号と受信信号とから、第1超音波振動子(a)から生体を経由した第2超音波振動子(b)までの全経路についての全減衰指標Atが演算される。生体測定時においては、透過法の実施前又は実施後に反射法が実施される。それにより、生体の右側において反射波到達時間tr(すなわち、第2部分における超音波の伝搬時間)が計測され、その反射波到達時間trと音速Vから、以下の(1)式に示すように、右側の音響整合層の距離Lr(すなわち、第2部分の厚み)が演算される。同様に、生体の左側において反射波到達時間tlが計測され、その反射波到達時間tl(すなわち、第1部分における超音波の伝搬時間)と音速Vから、以下の(2)式に示すように、左側の音響整合層の距離Ll(すなわち、第1部分の厚み)が演算される。
Lr=V/2tr (1)
Ll=V/2tl (2)
反射波の特定に当たり、生体表面ピークではなく骨表面ピークを観測すれば、音響整合層と軟組織とを併せた距離としてLr,Llを求めることができる。個々の音響整合層中における超音波の減衰指標は、上記の相関関係に照らして音響整合層の距離(厚み)から求められる係数を、キャリブレーション時に得られた音響整合媒体についての基準減衰指標Acに作用させることにより、推定される。すなわち、各音響整合層についての減衰指標を実測することは困難であるとしても、音響整合媒体について実測された減衰指標を基礎としつつ、音響整合層の厚みという固有パラメータを利用することにより、音響整合層についての減衰指標を高精度に推定するものである。全減衰指標Atに対して、各音響整合層について推定された減衰指標Al,Ar(すなわち第1部分減衰指標、第2部分減衰指標)を利用した補正を実行することにより、生体(あるいは骨)だけについての減衰指標Aを求めることが可能となる。
【0038】
図12は、受信データ処理部74及び演算部78の機能を示すブロック図である。各機能はハードウエア機能として実現されてもよいし、ソフトウエア機能として実現されてもよい。図12において、(A)は透過法による生体測定時に得られる信号(送信信号、受信信号)を示しており、(B)はキャリブレーション時に得られる信号(送信信号、受信信号)を示しており、(C)は反射法による生体測定時に得られる信号(受信信号)を示している。
【0039】
受信データ処理部74は、この構成例において、周波数解析部(FFT)100と3つの時間演算部102,104,106とを有している。周波数解析部100は、時間軸上の入力信号に対して高速フーリエ変換を実行して当該入力信号を周波数軸上のスペクトルに変換するものである。生体測定時においては、送信信号108及び受信信号110から送信スペクトラム108A及び受信スペクトラム110Aが演算される。生体を介在させないで行うキャリブレーション時には、送信信号112及び受信信号114から送信スペクトラム112A及び受信スペクトラム114Aが演算される。時間演算部102は、キャリブレーション時において受信信号に基づいて2つの超音波振動子間の超音波の全伝搬時間tcを計測する。その場合には送信トリガ130に基づいて送信時が定められ、受信時は受信信号の立ち上がりを観測することによって特定される。時間演算部104は、反射法による生体測定時に得られる第1受信信号(例えば生体の左側での送受波により得られる受信信号)に基づいて生体の一方側における超音波の反射波到達時間tlを計測する。同様に、時間演算部106は、反射法による生体測定時に得られる第2受信信号(例えば生体の右側での送受波により得られる受信信号)に基づいて生体の他方側における超音波の反射波到達時間trを計測する。反射波到達時間tr、tlは往復時間である。3つの時間演算部102,104,106が単一のモジュールにより構成されてもよい。
【0040】
演算部78は、全減衰指標演算部120、基準減衰指標演算部122、音速演算部124、厚さ演算部126,128、換算部131及び補正演算部132を有している。全減衰指標演算部120は、生体測定時において送信スペクトラム108A及び受信スペクトラム110Aの差分から差分スペクトラムを求め、差分スペクトラム上の2点間の傾きを演算することにより全減衰指標Atを演算する。全減衰指標Atは、骨中の超音波の減衰分の他に、音響整合層中の超音波の減衰分を含んでいるものである。基準減衰指標演算部122は、キャリブレーション時において上記同様の手法によって距離Lを有する音響整合媒体中での超音波の減衰についての基準減衰指標Acを演算するものである。音速演算部124は、2つの超音波振動子間の距離Lと、その間の超音波の全伝搬時間tcと、から音速Vを演算する。厚さ演算部126,128は、音響整合層の反射波到達時間tr,tlと、音速Vとから、音響整合層の距離Lr,Llを演算する。換算部131は、別途求められている距離と減衰指標との相関関係を示す特性又は式に、音響整合層の距離Lr,Llを与えることによって、音響整合層についての減衰指標Ar,Alを推定する。補正演算部132は、全減衰指標Atを音響整合層についての減衰指標Ar,Alを用いて補正するものであり、本実施形態では、以下の(3)式に示すように、減衰指標Atから減衰指標Ar,Alを減算することにより、生体についての減衰指標A(すなわち、骨評価用の減衰指標)が求められている。
A=A−(A+A) …(3)
【0041】
図13は、音響整合媒体中の超音波の透過距離と、音響整合媒体についての減衰指標を推定するための係数と、の関係を示す図である。この関係は実験により事前に求めておくことができる。図13に示す特性は実施形態を分かり易く説明するためのものに過ぎない。図13の横軸は、超音波が音響整合媒体を透過した距離である。図13の縦軸は、音響整合媒体についての減衰指標を推定するための係数であり、音響整合媒体についての基準減衰指標を1とした場合において、その基準減衰指標と予め測定された超音波が音響整合媒体を透過する各距離での減衰指標との割合で表される。図13は上記の通り1例であって、必ずしもこれに制限されるものではないが、通常、音響整合媒体についての減衰指標は、超音波が音響整合媒体を透過する距離が短くなるにつれて減少する。図12に示した換算部131は、音響整合層の距離から上記特性に従って係数を求め、その係数を基準減衰指標に乗算することによって、音響整合層についての減衰指標を推定している。もちろん、この手法以外の手法を利用して音響整合層についての減衰指標を推定するようにしてもよい。本実施形態の手法によれば、生体の抜き差しを行うことなく、全減衰指標の他、個々の音響整合層について減衰指標を個別的に短時間で推定することが可能であるから簡便であり、しかもその推定に当たっては実側された基準減衰指標が基礎とされるから信頼性ある推定を行える。
【0042】
上記透過受信信号を得る方法としては、生体不存在状態で、第1整合材袋18A及び第2整合材袋18Bとを接触させ、超音波の送受波を行う方法が考えられる。しかし、そのような方法では、第1整合材袋18A及び第2整合材袋18Bを接触させるために、それらを移動させたり変形させる必要があるから装置構成が複雑化しやすい。
【0043】
そこで、本実施形態では、連通管44を設けている。キャリブレーション時において、連通管44を挟む位置に第1超音波振動子及び第2超音波振動子を移動させると、対向する第1及び第2超音波振動子間には、生体が存在せず音響整合媒体のみとなる。そして、この位置で、第1超音波振動子から超音波を送信して第2超音波振動子で超音波を受信することによって、透過受信信号が得られる。
【0044】
図14は、超音波骨評価装置10による測定の流れの説明図である。まず、足置き台14上に被検者の足をセットする(ステップS100)。一方で、操作者は操作パネル部80より測定条件の入力を行い、足がセットされたことを確認した後、測定開始の指示を行う(ステップS102)。制御部72は、操作者の指示に従い、送受信切替回路66を制御して第1超音波振動子34Aを送信側、第2超音波振動子34Bを受信側に設定する(ステップS104)。また、制御部72は、移動機構52に指示し、連通管44の位置に第1及び第2超音波振動子34A,34Bを移動させ、これらを対向させ、超音波の送受を行う(ステップS106)。連通管44を通過した超音波の透過受信信号を格納部76に格納する(ステップS108)。また、制御部72は、移動機構52に指示し、生体を挟む位置に第1及び第2超音波振動子34A,34Bを移動させ、超音波の送受を行う(ステップS110)。生体を透過した超音波の受信信号を格納部76に格納する(ステップS112)。制御部は、操作者の指示に従い、送受信切替回路を制御して第1超音波振動子34Aで超音波を送信し、第1超音波振動子34Aで超音波を受信するように設定した後、超音波の送受を行い(ステップS114)。その反射波の受信信号(第1反射波受信信号)を格納部に格納する(ステップS116)。制御部は、第2超音波振動子34Bにも同様な制御を行い、第2反射波受信信号を格納部に格納する(ステップS114、ステップS116)。
【0045】
図14と共に図12を参照しながら更に説明すると、基準減衰指標演算部122は、透過受信信号に基づいて基準減衰指標Acを算出する(ステップS118)。時間演算部102は、透過受信信号に基づいて音響整合媒体中の超音波の全伝搬時間tcを計測する(ステップS120)。音速演算部124は、一対の超音波振動子間の距離Lと、超音波の全伝搬時間tcとに基づいて音響整合媒体中の音速Vを算出する(ステップS122)。時間演算部104,106は、第1及び第2反射波受信信号に基づいて第1及び第2音響整合層中の超音波の反射波到達時間tr,tlを計測する(ステップS124)。厚み演算部126,128は、上式(2)に、第1音響整合層中の超音波の反射波到達時間(tl)及び音響整合媒体中の音速(V)を当てはめて、第1音響整合層の距離(Ll)を算出し、上式(1)に、第2音響整合層中の超音波の反射波到達時間(tr)及び音響整合媒体中の音速(V)を当てはめて、第2音響整合層の距離(Lr)を算出する(ステップS126)。換算部131は、算出した第1音響整合層の距離Llを図13に示した関数に当てはめ、第1音響整合層減衰指標を推定するための係数を求め、上記算出した基準減衰指標Acにその係数を乗じて第1音響整合層減衰指標Alを算出する。また、換算部131は、算出した第2音響整合層の距離Lrを図13に示した関数に当てはめ、第2音響整合層減衰指標を推定するための係数を求め、上記算出した基準減衰指標Acにその係数を乗じて第2音響整合層減衰指標Arを算出する(ステップS128)。全減衰指標演算部120は、生体を透過した超音波の受信信号に基づいて全減衰指標Atを算出し、補正演算部132は、上式(3)に、全減衰指標At、第1音響整合層減衰指標Al、第2音響整合層減衰指標Arを当てはめて、生体についての生体減衰指標Aを算出する(ステップS130)。このように求めた生体についての生体減衰指標Aは、例えば、生体の骨密度の大小を示すものである。非健常人の生体についての生体減衰指標の値は健常人の生体についての生体減衰指標の値に比べて小さくなるため、例えば、生体についての生体減衰指標を定期的に測定し、過去の値と比較して、現在、改善傾向にあるのか、悪化傾向にあるのか等の判断を行うことができる。
【0046】
超音波骨評価装置の他の実施形態について説明する。
【0047】
他の実施形態では、振動子ユニット16に音響整合媒体の温度を検出する温度センサ134が設けられる。図15は、温度センサ134を備えた振動子ユニット16の構成を示している。図15において、温度センサ134のセンサ部分が、リングフレーム28及び第1固定リング30を介して整合材袋18内に挿入されている。図16は、他の実施形態に係る超音波骨評価装置136の機能構成を示すブロック図である。図16に示すように、音響整合媒体の温度を検出する温度センサ134は、制御部72に接続されている。制御部72は、キャリブレーション時、生体測定時において、温度センサ134に音響整合媒体の温度を測定するように指示し、温度センサ134により測定された音響整合媒体の温度データは格納部76に格納される。
【0048】
生体測定時の音響整合媒体の温度は、例えば、生体からの熱が音響整合媒体に伝わる等して、キャリブレーション時の音響整合媒体の温度と差が生じる場合がある。すなわち、キャリブレーション時に音響整合媒体についての基準減衰指標及び音速を算出しても、生体測定時においては、音響整合媒体についての基準減衰指標及び音速が変動している虞がある。そこで、他の実施形態では、キャリブレーション時での音響整合媒体の温度と生体測定時での音響整合媒体の温度との差に基づいて、キャリブレーション時に算出した音響整合媒体についての基準減衰指標や音速の温度補償を実行する。このように温度補償した基準減衰指標や音速を用いることにより、生体についての減衰指標をより正確に算出することができる。
【0049】
他の実施形態では、図12に示す基準減衰指標演算部122は、キャリブレーション時において上記同様の手法によって距離Lを有する音響整合媒体中での超音波の減衰についての基準減衰指標を演算し、キャリブレーション時での音響整合媒体の温度と生体測定時での音響整合媒体の温度との差と、予め設定した音響整合媒体の温度が1℃変化する時の基準減衰指標変化量と、を上記演算した基準減衰指標に乗じて、温度補償した基準減衰指標Acを演算するものである。また、音速演算部124は、2つの超音波振動子間の距離Lと、その間の超音波の全伝搬時間tcと、から音速を演算し、キャリブレーション時での音響整合媒体の温度と生体測定時での音響整合媒体の温度との差と、予め設定した音響整合媒体の温度が1℃変化する時の音速変化量と、を上記演算した音速に乗じて、温度補償した音響整合媒体中の音速Vを演算するものである。なお、他の実施形態に係る超音波骨評価装置136のその他の構成については、上記説明した超音波骨評価装置10の構成と同様であり、その説明を省略する。
【0050】
図17は、超音波骨評価装置136による測定の流れの説明図である。まず、操作者は操作パネル部80よりキャリブレーション条件の入力を行い、キャリブレーション開始の指示を行う(ステップS200)。制御部72は、操作者の指示に従い、送受信切替回路66を制御して第1超音波振動子34Aを送信側、第2超音波振動子34Bを受信側に設定する(ステップS202)。また、制御部72は、移動機構52に指示し、連通管44の位置に第1及び第2超音波振動子34A,34Bを移動させ、これらを対向させ、超音波の送受を行う(ステップS204)。連通管44を通過した超音波の透過受信信号を格納部76に格納する(ステップS206)。制御部72は、温度センサ134に指示し、温度センサ134は音響整合媒体の温度(hc)を測定し、温度センサ134により測定された音響整合媒体の温度(hc)を格納部に格納する(ステップS208)。次に、足置き台14上に被検者の足をセットする(ステップS210)。操作者は操作パネル部80より生体測定条件の入力を行い、足がセットされたことを確認した後、測定開始の指示を行う(ステップS212)。また、制御部72は、移動機構52に指示し、生体を挟む位置に第1及び第2超音波振動子34A,B34を移動させ、超音波の送受を行う(ステップS214)。生体を透過した超音波の受信信号を格納部76に格納する(ステップS216)。制御部72は、操作者の指示に従い、送受信切替回路を制御して第1超音波振動子34Aで超音波を送信し、第1超音波振動子34Aで受信するように設定した後、超音波の送受を行い(ステップS218)、その反射波の受信信号(第1反射波受信信号)を格納部76に格納する(ステップS220)。制御部72は、第2超音波振動子34Bにも同様な制御を行い、第2反射波受信信号を格納部76に格納する(ステップS218、ステップS220)。制御部72は温度センサ134に指示し、温度センサ134は音響整合媒体の温度(hm)を測定し、温度センサ134により測定された音響整合媒体の温度(hm)を格納部76に格納する(ステップS222)。
【0051】
図14と共に図12を参照しながら更に説明すると、基準減衰指標演算部122は、透過受信信号に基づいて基準減衰指標を算出し、キャリブレーション時の音響整合媒体の温度(hc)と生体の測定時の音響整合媒体の温度(hm)との差及び予め設定した音響整合媒体の温度が1℃変化する時の基準減衰指標変化量を上記算出した基準減衰指標に乗じて、温度補償した基準減衰指標Acを算出する(ステップS224)。時間演算部102は、透過受信信号に基づいて音響整合媒体中の超音波の全伝搬時間tcを計測する(ステップS226)。音速演算部124は、一対の超音波振動子間の距離Lと、全伝搬時間tcとに基づいて音響整合媒体中の音速を算出し、キャリブレーション時の音響整合媒体の温度(hc)と生体の測定時の音響整合媒体の温度(hm)との差及び予め設定した音響整合媒体の温度が1℃変化する時の音響整合媒体中の音速変化量を上記算出した音響整合媒体中の音速に乗じて、温度補償した音響整合媒体中の音速Vを算出する(ステップS228)。時間演算部104,106は、第1及び第2反射波受信信号に基づいて第1及び第2音響整合層中の超音波の反射波到達時間tr,tlを計測する(ステップS230)。厚み演算部126,128は、上式(2)に、第1音響整合層中の超音波の反射波到達時間tl及び温度補償した音響整合媒体中の音速Vを当てはめて、第1音響整合層の距離Llを算出し、上式(1)に、第2音響整合層中の超音波の反射波到達時間tr及び温度補償した音響整合媒体中の音速Vを当てはめて、第2音響整合層の距離Lrを算出する(ステップS232)。換算部131は、算出した第1音響整合層の距離Llを図13に示した関数に当てはめ、第1音響整合層減衰指標を推定するための係数を求め、上記温度補償した基準減衰指標Acにその係数を乗じて第1音響整合層減衰指標Alを算出する。また、換算部131は、算出した第2音響整合層の距離Lrを図13に示した関数に当てはめ、第2音響整合層減衰指標を推定するための係数を求め、上記温度補償した基準減衰指標Acにその係数を乗じて第2音響整合層減衰指標Arを算出する(ステップS234)。全減衰指標演算部120は、生体を透過した超音波の受信信号に基づいて全減衰指標Atを算出し、補正演算部132は、上式(3)に、全減衰指標At、第1音響整合層減衰指標Al、第2音響整合層減衰指標Arを当てはめて、生体についての生体減衰指標Aを算出する(ステップS236)。このように求めた生体についての生体減衰指標Aを用いて生体の骨評価を行う。
【0052】
これらの実施形態の超音波骨評価装置は、骨密度の評価だけでなく、他の疾病の診断を行う装置にも適用可能である。特に、関節リウマチの骨病変を観測する装置に適用可能である。また、透過超音波による画像診断(特に、骨の診断)を行う装置にも適用可能である。更には、超音波非破壊検査を行う装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0053】
10 超音波骨評価装置、12 装置本体、14 足置き台、16,16A,16B 振動子ユニット、18,18A,18B 整合材袋、20 底面、22 当接面、24 表側部材、26 裏側部材、28 リングフレーム、30 第1固定リング、32 第2固定リング、34,34A,34B 超音波振動子、36 支持盤、38a,38b,38c,38d 支持プレート、40 フランジ、41 基礎部分、42 膨出部、44,44A,44B 連通管、46 校正ブロックポケット、48 第1の側面、50 第2の側面、51 生体当接面、52 移動機構、54 支持フレーム、56 駆動機構、66 送受信切替回路、68 受信回路、70 送信回路、72 制御部、74 受信データ処理部、76 格納部、78 演算部、80 操作パネル部、82 表示部、100 周波数解析部、102,104,106 時間演算部、120 全減衰指標演算部、122 基準減衰指標演算部、124 音速演算部、126,128 厚さ演算部、130 送信トリガ、131 換算部、132 補正演算部、134 温度センサ、136 超音波骨評価装置、C 踵骨、F 足、R 走査範囲。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨を含む生体の一方側に第1音響整合層を介して設けられる第1超音波振動子と前記生体の他方側に第2音響整合層を介して設けられる第2超音波振動子とを有する測定ユニットと、
前記測定ユニットを用いた全減衰測定を実行することにより得られる測定結果に基づいて、前記第1超音波振動子から前記生体を経由した前記第2超音波振動子までの全経路についての全減衰指標を算出する全減衰指標算出手段と、
前記測定ユニットを用いた整合媒体減衰測定を実行することにより得られる測定結果に基づいて、前記第1超音波振動子と骨表面又は生体表面との間の第1部分についての第1部分減衰指標、及び、前記第2超音波振動子と骨表面又は生体表面との間の第2部分についての第2部分減衰指標を算出する不要成分算出手段と、
前記第1部分減衰指標及び第2部分減衰指標を用いて前記全減衰指標を補正することにより骨評価用の減衰指標を算出する全減衰指標補正手段と、
を含むことを特徴とする超音波骨評価装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記不要成分算出手段は、
前記第1超音波振動子から前記生体に超音波を送信して前記生体からの反射波を前記第1超音波振動子で受信することにより得られた第1反射波受信信号に基づいて前記第1部分の厚みを算出する第1の厚み算出手段と、
前記第2超音波振動子から前記生体に超音波を送信して前記生体からの反射波を前記第2超音波振動子で受信することにより得られた第2反射波受信信号に基づいて前記第2部分の厚みを算出する第2の厚み算出手段と、
前記第1音響整合層及び前記第2音響整合層を構成する音響整合媒体についての基準減衰指標を基礎として前記第1部分の厚み及び前記第2部分の厚みを用いた推定演算を実行することにより、前記第1部分減衰指標及び前記第2部分減衰指標を個別的に算出する推定演算手段と、
を含むことを特徴とする超音波骨評価装置。
【請求項3】
請求項2記載の装置において、
前記第1超音波振動子及び前記第2超音波振動子の間に前記生体を介在させずに前記音響整合媒体を満たした生体不存在状態において前記第1超音波振動子から超音波を送信して前記第2超音波振動子で超音波を受信することによって得られた透過受信信号に基づいて前記基準減衰指標を算出する基準減衰指標算出手段を含む、
ことを特徴とする超音波骨評価装置。
【請求項4】
請求項3記載の装置において、
前記生体不存在状態で得られた透過受信信号に基づいて前記第1超音波振動子及び前記
第2超音波振動子の間の超音波の全伝搬時間を計測する手段と、
前記全伝搬時間と、前記第1超音波振動子及び前記第2超音波振動子間の距離と、に基づいて前記音響整合媒体中の超音波の音速を算出する手段と、
を含み、
前記第1の厚み算出手段は、前記第1反射波受信信号に基づいて前記第1部分における超音波の伝搬時間を計測する手段を含み、前記第1部分における超音波の伝搬時間と、前記音響整合媒体中の超音波の音速と、に基づいて、前記第1部分の厚みを算出し、
前記第2の厚み算出手段は、前記第2反射波受信信号に基づいて前記第2部分における超音波の伝搬時間を計測する手段を含み、前記第2部分における超音波の伝搬時間と、前記音響整合媒体中の超音波の音速と、に基づいて、前記第2部分の厚みを算出する、
ことを特徴とする超音波骨評価装置。
【請求項5】
請求項3記載の装置において、
前記音響整合媒体の温度を測定する温度センサを含み、
前記基準減衰指標及び前記音響整合媒体中の超音波の音速を測定するキャリブレーション段階において前記温度センサによって測定された温度、及び、前記生体を測定する生体測定段階において前記温度センサによって測定された温度に基づいて、前記骨評価用の減衰指標に対する温度補償が実行される、
ことを特徴とする超音波骨評価装置。
【請求項6】
請求項3記載の装置において、
前記生体の一方側に設けられ、前記第1超音波振動子の運動を許容しつつ、前記第1音響整合層を構成するために音響整合媒体を収容した第1収容部材と、
前記生体の他方側に設けられ、前記第2超音波振動子の運動を許容しつつ、前記第2音響整合層を構成するために音響整合媒体を収容した第2収容部材と、
前記第1及び前記第2収容部材間に設けられ、前記第1及び前記第2収容部材の内部空間を連通させる構造体であって、前記生体不存在状態で送受信される超音波が通過する連通路と、
を含むことを特徴とする超音波骨評価装置。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図1】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−110551(P2012−110551A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263262(P2010−263262)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(390029791)日立アロカメディカル株式会社 (899)
【Fターム(参考)】