車両のエンジン制御装置
【課題】共振判定時のエンジン制御の精度を向上して車両に発生する振動・騒音を精度良く抑制する。
【解決手段】所定条件が成立した状態で回転変動を伴うエンジン回転速度NEの変化速度が所定値よりも小さくなる時に、例えば平均NEが閾値1よりも低下し且つ変動回転速度ΔNEが閾値2よりも増大したと判定された所定条件の成立状態で瞬間NEの微分値(|d瞬間NE/dt|)或いは平均NEの微分値(|d平均NE/dt|)が零乃至零近傍の制御時期判定閾値(閾値3)よりも小さくなる時に、エンジン14の回転変動強制力が抑制されるので、エンジン回転速度NEの変化速度が所定値よりも大きくなる時と比較して、エンジン14の回転変動強制力を抑制する共振判定時のエンジン制御が振動・騒音を発生させるエネルギが小さな略一定の時期にて精度良く実施される。
【解決手段】所定条件が成立した状態で回転変動を伴うエンジン回転速度NEの変化速度が所定値よりも小さくなる時に、例えば平均NEが閾値1よりも低下し且つ変動回転速度ΔNEが閾値2よりも増大したと判定された所定条件の成立状態で瞬間NEの微分値(|d瞬間NE/dt|)或いは平均NEの微分値(|d平均NE/dt|)が零乃至零近傍の制御時期判定閾値(閾値3)よりも小さくなる時に、エンジン14の回転変動強制力が抑制されるので、エンジン回転速度NEの変化速度が所定値よりも大きくなる時と比較して、エンジン14の回転変動強制力を抑制する共振判定時のエンジン制御が振動・騒音を発生させるエネルギが小さな略一定の時期にて精度良く実施される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの回転変動に起因する共振が発生した場合にエンジンの回転変動強制力を抑制する車両のエンジン制御装置に係り、特に、その共振の発生を判断する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンから駆動輪までの動力伝達経路におけるエンジンの回転変動(トルク変動)等に起因する共振の発生を判断する為の所定条件が成立した場合にエンジン回転変動強制力を抑制する車両のエンジン制御装置が良く知られている。例えば、特許文献1に記載されたエンジンの始動時制御装置がそれである。具体的には、例えば図12(a)のクラッチ継合時の振動モデルに示すように、エンジン1の回転変動がタイヤ2側へ伝達されるのを抑制する為に、例えばエンジン1とトランスミッションT/M及びドライブシャフトD/Sとの間の動力伝達経路にデュアルマスフライホイール(以下、DMFという)3を備える車両が良く知られている。
【0003】
DMF3は、例えばプライマリフライホイールJ1とセカンダリフライホイールJ2との2つのフライホイールが弾性部材(スプリング、ダンパ)により接続されたものである。従って、DMF3には共振点(共振周波数)が存在する。一方、このようなDMF3では、各フライホイールJ1,J2の各回転慣性マスや弾性部材の弾性力を調節することで、共振点を比較的自由に設定することができる。例えば、セカンダリフライホイールJ2側の回転慣性マスを大きく取ることで、DMF3の共振点を低下させることができる。例えば、図12(b)に示すように、DMF3の共振点をエンジン1のアイドル回転速度よりも低い回転速度域に設定することができる。これにより、エンジン1のアイドル回転速度以上のエンジン常用使用域では減衰効果が得られるので、エンジン1からの回転変動やトルク変動量を減衰することができる。
【0004】
しかしながら、車両走行状態によってはエンジン回転速度がアイドル回転速度よりも低下する場合があり、このときDMF3の共振点がアイドル回転速度よりも低い回転速度域に設定されていると、DMF3の共振によりエンジン回転変動が増幅されて大きなトルク変動やショックが発生する可能性がある。これに対して、特許文献1に示されるように、エンジン回転速度が所定の共振回転速度領域に所定時間とどまっていた場合に、エンジン1への燃料供給を停止するか或いは抑制することによりその共振回転速度領域から離脱させることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−54601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述したようなエンジン回転速度が所定の共振回転速度領域にとどまっているか否かによる共振判定は、すなわちエンジン回転速度のみを用いる共振判定は、DMF3が実際に共振しているか否かを判定するものではない。その為、DMF3が実際には共振していないのに共振判定が為されて、例えばエンジン1への燃料供給停止が実行される可能性がある。そうすると、エンジン回転速度がアイドル回転速度よりも低下した場合に、エンジンストール(以下、エンストという)の頻度が高まる恐れがある。つまり、エンストさせ難くするという耐エンスト性が悪化する。反対に、DMF3が実際には共振しているのに共振判定が為されず、例えばエンジン1への燃料供給停止が実行されない状態が継続される可能性がある。そうすると、DMF3の共振によりエンジン回転変動が増幅されて大きなトルク変動やショックが発生し、エンジン1やDMF3等の耐久性が低下する可能性がある。これに対して、共振判定の為の判定条件を改良して高い精度で共振の発生を判定することが考えられる。しかしながら、仮に高い精度で共振の発生を判定してエンジン1への燃料供給停止を実行したとしても、トルク変動、音、ショック等の車両に発生する振動・騒音の低減効果にばらつきが発生する可能性がある。その為、共振判定する為の条件を設定する際にはより大きな安全幅を加味する必要があり、エンストの発生頻度を抑制するという観点からも共振判定時のエンジン制御の精度を向上することが望まれる。このような、課題は未公知であり、共振によるトルク変動、音、ショック等の発生を精度良く抑制する(すなわち振動・騒音を精度良く抑制する)為に、共振判定時のエンジン制御の精度を向上させることについて、未だ提案されていない。
【0007】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、共振判定時のエンジン制御の精度を向上して車両に発生する振動・騒音を精度良く抑制することができる車両のエンジン制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するための本発明の要旨とするところは、(a) エンジンから駆動輪までの動力伝達経路におけるそのエンジンの回転変動に起因する共振の発生を判断する為の所定条件が成立した場合にそのエンジンの回転変動強制力を抑制する車両のエンジン制御装置であって、(b) 前記所定条件が成立した状態で、回転変動を伴うエンジン回転速度の変化速度が所定値よりも小さくなる時に、前記エンジンの回転変動強制力を抑制することにある。
【発明の効果】
【0009】
このようにすれば、前記所定条件が成立した状態で回転変動を伴うエンジン回転速度の変化速度が所定値よりも小さくなる時に、前記エンジンの回転変動強制力が抑制されるので、回転変動を伴うエンジン回転速度の変化速度が所定値よりも大きくなる時と比較して、エンジンの回転変動強制力を抑制する共振判定時のエンジン制御が振動・騒音を発生させるエネルギが小さな略一定の時期にて精度良く実施される。よって、車両に発生する振動・騒音の低減効果がより向上されることに加え、その低減効果のばらつきも抑制される。つまり、共振判定時のエンジン制御の精度を向上して車両に発生する振動・騒音を精度良く抑制することができる。
【0010】
例えばエンジン停止の際に共振が発生する場合、車両に発生する振動・騒音がより低減される。また、例えば共振判定時のエンジン制御に伴うエンストの際に、車両の振動・騒音を可及的に抑制することもできるし、反対に運転者にエンストを容易に認知されるように車両の振動・騒音を適度に残すこともできる。
【0011】
ここで、好適には、前記回転変動を伴うエンジン回転速度の変化速度が所定値よりも小さくなる時とは、エンジン回転速度の実際値の微分値或いはエンジン回転速度の平均値の微分値が零乃至零近傍の制御時期判定閾値よりも小さくなる時である。このようにすれば、回転変動を伴うエンジン回転速度の変化速度が所定値よりも小さくなる時が精度良く判断される。
【0012】
また、好適には、前記回転変動を伴うエンジン回転速度の変化速度が所定値よりも小さくなる時とは、クランク角度が前記小さくなる時と同期するクランク角度として前記エンジンの回転変動周期から予め求められた所定クランク角度となる時である。このようにすれば、回転変動を伴うエンジン回転速度の変化速度が所定値よりも小さくなる時が精度良く判断される。
【0013】
また、好適には、前記エンジンへの燃料供給を停止するか或いは抑制することで、前記エンジンの回転変動強制力を抑制することにある。このようにすれば、エンジンの回転変動強制力が適切に抑制される。
【0014】
また、好適には、前記エンジンへの吸入空気量を抑制することで、前記エンジンの回転変動強制力を抑制することにある。このようにすれば、エンジンの回転変動強制力が適切に抑制される。
【0015】
また、好適には、前記エンジンの燃焼時期を変更することで、前記エンジンの回転変動強制力を抑制することにある。このようにすれば、エンジンの回転変動強制力が適切に抑制される。
【0016】
また、好適には、前記動力伝達経路には、ダンパが備えられており、前記エンジンからの出力が前記ダンパを介して前記駆動輪側へ伝達されることにある。このようにすれば、ダンパによりエンジンの回転変動に起因する共振が発生する可能性があることに対し、このダンパの共振判定時のエンジン制御が振動・騒音を発生させるエネルギが比較的小さな略一定の時期にて精度良く実施される。
【0017】
また、好適には、前記ダンパは、2つのフライホイールが弾性部材により接続されたデュアルマスフライホイールであり、前記デュアルマスフライホイールの共振点は、前記エンジンのアイドル回転速度よりも低い回転速度域に予め設定されていることにある。このようにすれば、例えばエンジン停止時にデュアルマスフライホイールの共振点を通過することに対して、車両に発生する振動・騒音を精度良く抑制することができる。また、例えば車速低下に伴うエンジン回転速度低下時にデュアルマスフライホイールの共振点を通過することに対して、車両に発生する振動・騒音を精度良く抑制して共振判定時のエンジン制御に伴うエンストをさせることができる。このエンストの際に、車両の振動・騒音を可及的に抑制することもできるし、反対に運転者にエンストを容易に認知されるように車両の振動・騒音を適度に残すこともできる。
【0018】
また、好適には、前記所定条件は、エンジン回転速度の平均値が前記共振点に所定安全幅を加えた第1所定閾値よりも低下し、且つ前記エンジン回転速度の平均値とエンジン回転速度の実際値との差回転速度が共振を判断する為の第2所定閾値よりも増大したことであり、前記所定条件に加えて、前記回転変動を伴うエンジン回転速度の変化速度が所定値よりも小さくなる時を判断する場合には、前記所定条件のみを判断する場合に比較して、前記所定安全幅を小さく設定すると共に前記第2所定閾値を大きく設定することにある。このようにすれば、例えば前記所定条件の設定に際し、この所定条件のみで共振判定を行う場合に比較して、加味しなければいけない安全幅を抑制することになって、共振判定のタイミングがより遅らされることから、できる限りエンストさせたくないという耐エンスト性が向上させられる。従って、共振判定時のエンジン制御の精度を向上して車両に発生する振動・騒音の低減効果のばらつきを抑制し、耐エンスト性の向上と共振による振動・騒音の抑制とを両立させることができる。
【0019】
また、好適には、前記車両は、前記エンジンから前記駆動輪までの前記動力伝達経路に車両用動力伝達装置を備えている。この車両用動力伝達装置は、変速機構部単体、トルクコンバータ及び複数の変速比を有する変速機構部、或いはこの変速機構部等に加え減速機構部やディファレンシャル機構部により構成される。前記変速機構部は、複数組の遊星歯車装置の回転要素が係合装置によって選択的に連結されることにより複数のギヤ段(変速段)が択一的に達成される例えば前進4段、前進5段、前進6段、更にはそれ以上の変速段を有する等の種々の遊星歯車式自動変速機、常時噛み合う複数対の変速ギヤを2軸間に備えてそれら複数対の変速ギヤのいずれかを同期装置によって択一的に動力伝達状態とする同期噛合型平行2軸式変速機、その同期噛合型平行2軸式変速機ではあるが油圧アクチュエータにより駆動される同期装置によって変速段が自動的に切換られることが可能な同期噛合型平行2軸式自動変速機、動力伝達部材として機能する伝動ベルトが有効径が可変である一対の可変プーリに巻き掛けられ変速比が無段階に連続的に変化させられる所謂ベルト式無段変速機である自動変速機、共通の軸心まわりに回転させられる一対のコーンとその軸心と交差する回転中心回転可能な複数個のローラがそれら一対のコーンの間で挟圧されそのローラの回転中心と軸心との交差角が変化させられることによって変速比が可変とされた所謂トラクション型無段変速機である自動変速機、エンジンからの動力を第1電動機および出力軸へ分配する例えば遊星歯車装置で構成される差動機構とその差動機構の出力軸に設けられた第2電動機とを備えてその差動機構の差動作用によりエンジンからの動力の主部を駆動輪側へ機械的に伝達しエンジンからの動力の残部を第1電動機から第2電動機への電気パスを用いて電気的に伝達することにより電気的に変速比が変更される電気式無段変速機として機能する自動変速機、或いはエンジン軸や出力軸などに動力伝達可能に電動機が備えられる所謂パラレル式のハイブリッド車両に搭載される自動変速機などにより構成される。
【0020】
また、好適には、前記エンジンとしては、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジンが広く用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明が適用される車両を構成する手動変速機などを含む動力伝達経路の概略構成を説明する図であると共に、エンジンなどを制御するために車両に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。
【図2】手動変速機があるギヤ段に維持されているときにクラッチが継合されたままアクセルオフ且つブレーキオンにより、車速と共に低下するエンジン回転速度の波形の一例を示す図である。
【図3】図2で示したエンジン回転波形の次数解析結果の一例を示す図である。
【図4】エンジン制御を実行する際の所定条件を説明する為の図である。
【図5】ブレーキストール時のエンジン(或いはセカンダリフライホイール)の回転変動、DMFの捩れ角、及びエンジン(或いはセカンダリフライホイール)の加速度の一例を示すタイムチャートである。
【図6】図1の電子制御装置による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図7】電子制御装置の制御作動の要部すなわち共振判定時のエンジン制御の精度を向上して車両に発生する振動・騒音を精度良く抑制する為の制御作動を説明するフローチャートである。
【図8】図7のフローチャートに示す制御作動を実行した場合の一例を示すタイムチャートである。
【図9】本実施例のエンジン制御を実行した場合、所定条件でのみ共振判定してエンジン制御を実行した場合、及びそのようなエンジン制御を実行しなかった場合の各々の場合において、共振発生時の最大入力トルクのばらつきの一例を示す図である。
【図10】図9の各々の場合における保証回数の効果の一例を示す図表である。
【図11】電子制御装置の制御作動の要部すなわち共振判定時のエンジン制御の精度を向上して車両に発生する振動・騒音を精度良く抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであって、図7のフローチャートに相当する別の実施例である。
【図12】(a)は、エンジンからタイヤまでの動力伝達経路にデュアルマスフライホイールを備える車両における振動モデルの従来例を示す図である。(b)は、デュアルマスフライホイールの共振点をエンジンのアイドル回転速度よりも低い回転速度域に設定した従来例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例1】
【0023】
図1は、本発明が適用される車両10を構成する手動変速機12などを含むエンジン14から駆動輪16までの動力伝達経路の概略構成を説明する図であると共に、そのエンジン14などを制御するために車両10に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。図1において、走行用駆動力源としての内燃機関であるエンジン14の動力は、エンジン14のクランク軸18に作動的に連結されたダンパとしてのデュアルマスフライホイール(DMF)20とDMF20の後段側に設けられたクラッチ22とを介して手動変速機12へ伝達される。そして、手動変速機12による変速を経て、プロペラシャフト24、差動歯車装置(ディファレンシャルギヤ)26、及び一対のドライブシャフト28等を順次介して一対の駆動輪16へ伝達される。
【0024】
エンジン14は、例えば直列4気筒のディーゼルエンジンであり、不図示の各気筒には燃焼室内へ燃料を直接噴射する為のインジェクタ(燃料噴射弁)30がそれぞれ配設されている。不図示のサプライポンプより供給された高圧燃料がコモンレール32に蓄えられ、インジェクタ30により気筒内へ噴射される。この際、インジェクタ30の電磁制御弁に所定の噴射信号が送られることで、燃料噴射量及び噴射時期が制御される。エンジン14の吸気管34には吸入空気量(吸気量)QAIRを絞る為の電子スロットル弁36が備えられており、スロットルアクチュエータ38に所定の駆動信号が送られることで、電子スロットル弁36のスロットル弁開度θTHが操作される。
【0025】
DMF20は、クランク軸18に連結されるプライマリフライホイール40と、クラッチ22に連結されるセカンダリフライホイール42と、これら2つのフライホイール40,42を接続する弾性部材としてのバネ44とを備える。つまり、DMF20は、フライホイールを2分割にして、その間に捩り機構(スプリング)を持たせる構造のフライホイルダンパである。また、プライマリフライホイール40とセカンダリフライホイール42とは、各々の回転軸40a,42aがベアリング46を介して相対回転可能に接続されている。このように構成されたDMF20が動力伝達経路に配置されることにより、エンジン14の回転変動(トルク変動、出力変動)が駆動輪16側へ伝達されることが低減される。
【0026】
DMF20は2つのフライホイール40,42がバネ44により接続されたものであるため、このDMF20には共振点(共振周波数)が存在する。この共振点は各フライホイール40,42の各回転慣性マスやバネ44の弾性力を調節することで比較的自由に設定され得る。そこで、本実施例では、例えばセカンダリフライホイール42側の回転慣性マスを大きく取ることで、DMF20の共振点をエンジン14のアイドル回転速度よりも低い回転速度域に設定している。例えば、エンジン14のアイドル回転速度よりも低い回転速度域では、クラッチ22継合時の車両の振動モデル(図12(a)参照)において、エンジン14やプライマリフライホイール40等を回転慣性マスとして振れるパワートレーン1次(捩り)共振域(3〜5Hz)と、セカンダリフライホイール42や手動変速機12等を回転慣性マスとして振れるパワートレーン2次(捩り)共振域(10〜20Hz)とが存在する(図12(b)参照)。また、エンジン14のアイドル回転速度以上の回転速度域では、駆動輪16を回転慣性マスとして振れるパワートレーン3次共振域が無視できる程度に存在する。これにより、エンジン14のアイドル回転速度以上のエンジン常用使用域では、減衰効果が得られ、エンジン14からの回転変動やトルク変動量が減衰される。
【0027】
また、車両10には、エンジン14の運転状態を制御するためのエンジン制御装置を含む電子制御装置70が備えられている。電子制御装置70は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、基本的にはエンジン30の出力制御等を実行するものである。
【0028】
電子制御装置70には、車両10に設けられたセンサやスイッチなどから、例えばクランク角度(位置)ACR[°]及びエンジン14の回転速度NEに対応するクランクポジションを検出するクランクポジションセンサ48、吸気管34に設けられた電子スロットル弁36の開き角すなわちスロットル弁開度θTHを検出するスロットルポジションセンサ50、常用ブレーキであるフットブレーキペダル52の操作の有無を検出してフットブレーキペダル52が操作されたブレーキペダルオンを表すブレーキ操作信号BONを出力するブレーキスイッチ54、クラッチ22の継合・解放を切り換えるためのクラッチペダル56の操作の有無を検出してクラッチペダル56が操作されたクラッチオン(すなわちクラッチ22の解放)を表すクラッチ操作信号CONを出力するクラッチスイッチ58、不図示のスタータによるエンジン始動中であるか否かを検出してエンジン始動中であるスタータオンを表すスタータ信号SONを出力するスタータリレー60、エンジン14の吸入空気量QAIRを検出する吸入空気量センサ62などから、クランク角度(位置)ACR[°]及びエンジン回転速度NE、スロットル弁開度θTH、ブレーキ操作信号BON、クラッチ操作信号CON、スタータ信号SON、吸入空気量QAIRなどを表す信号が電子制御装置70に供給される。更に、車速Vを検出する車速センサ、運転者の要求する加速要求量に応じて踏み込み操作されるアクセルペダルの操作量であるアクセル開度Accを検出するアクセル開度センサ等の車両10に設けられた不図示のセンサやスイッチなどから、各種信号が供給される。
【0029】
また、電子制御装置70からは、エンジン14の出力制御の為のエンジン制御指令信号SE、例えば上記各種信号や各種演算結果に応じたインジェクタ30からの燃料噴射量を制御するための燃料噴射量信号、インジェクタ30からの燃料噴射時期を制御するための燃料噴射時期信号、電子スロットル弁36の開閉を制御するためのスロットルアクチュエータ38への駆動信号などが出力される。
【0030】
ところで、本実施例のDMF20を搭載した車両10では、前述したように、エンジン14のアイドル回転速度よりも低い回転速度域において、エンジン14をマスとして振れる一番低い共振点を中心とするパワートレーン1次共振域と、DMF20で決まる次に低い共振点を中心とするパワートレーン2次共振域とが存在する。そのため、エンジン回転速度NEがアイドル回転速度よりも低下するとエンジン14の回転変動に起因する共振が発生してその回転変動が増幅されて、大きなトルク変動、音、ショック等が発生する可能性がある。
【0031】
図2は、手動変速機12があるギヤ段に維持されているときにクラッチ22が継合されたままアクセルオフ(すなわちアクセル開度Accが零判定値とされた状態)且つブレーキオンにより、車速Vの低下と共にその車速Vに拘束されて低下するときのエンジン回転速度NEの波形(エンジン回転波形)を示す図であって、(b)は(a)における時間9.5[sec]以降を拡大した図である。図2に示すようにブレーキオンにより車速Vの低下と共にエンジン回転速度NEが低下して結果的にエンストが発生することをブレーキストールと称する。また、図3は、図2で示したエンジン回転波形の次数解析結果を示す図である。図3の次数は、4気筒4サイクルエンジンにおいて例えば回転0.5次は2回転に1回の燃焼を意味し、回転2次は1回転に2回の燃焼を意味している。図3では、振幅の大きさすなわち振動強度の強さを白黒の濃淡で表しており、濃い程、振動強度が強くなる。図2、3において、共振による大きなトルク変動、音、ショック等は、エンジン14の回転変動(主は回転2次成分)がエンジン回転速度NEの低下に伴い先ずパワートレーン2次共振域の高回転側(例えば600rpm付近)で増幅させられることにより発生する。そして、このエネルギをもったままエンジン回転速度NEが低下してパワートレーン1次共振域へ移行する。このとき、エンジン14のピストン慣性の影響が支配的になるため回転0.5次成分とパワートレーン1次共振域における共振により更に大きなトルク変動、音、ショック等が発生する。これにより、エンジン14やDMF20等の耐久性が低下する可能性がある。尚、図2に示すようにブレーキオンにより車速Vの低下と共にエンジン回転速度NEがアイドル回転速度よりも低下した際、エンジン回転速度NEを維持すべく(エンストさせないように)エンジン制御により燃料噴射量を増加する所謂ISC制御(アイドルスピードコントロール)が実行される場合には、エンジン14の回転変動強制力を増大させることになり、共振により回転変動が一層増幅され、エンジン14が停止するときにより大きなトルク変動、音、ショック等が発生する可能性がある。
【0032】
そこで、本実施例の電子制御装置70は、エンジン14から駆動輪16までの動力伝達経路におけるエンジン14の回転変動に起因する共振の発生を判断する為の所定条件が成立した場合にエンジン14の回転変動強制力を抑制する。例えば、電子制御装置70は、手動変速機12があるギヤ段に維持されているときのクラッチオフ時に、エンジン14の回転変動がパワートレーン2次共振域で増幅したことを判断する為の所定条件が成立した場合には、パワートレーン1次共振域へ移行する前にエンジン14の回転変動強制力を抑制するエンジン制御を実行し、共振による大きなトルク変動、音、ショック等の発生を抑制する。図4を参照にして、上記所定条件は、例えば実際のエンジン回転速度NE(エンジン回転速度NEの実際値、以下、瞬間NEという)の平均値(以下、平均NEという)がDMF20で決まる共振点に所定安全幅を加えた第1所定閾値Th1(閾値1)よりも低下し、且つ平均NEと瞬間NEとの差回転速度の絶対値である変動回転速度ΔNE(=|瞬間NE−平均NE|)が共振を判断する為の第2所定閾値Th2(閾値2)よりも増大したか否かである。上記閾値1は、例えばエンジン回転速度NEが低下していくときにパワートレーン2次共振域に入ったか否かを判断する為の予め求められて設定された判定値であり、例えばDMF20で決まる共振点(例えば450rpm)を中心とするパワートレーン2次共振域の高回転側の回転速度付近(例えば600rpm)に設定される。従って、この場合、DMF20で決まる共振点に対してこのパワートレーン2次共振域の高回転側の回転速度までの回転速度分(150rpm)が上記所定安全幅となる。また、上記閾値2は、例えばエンジン14の回転変動が増幅したことを判断する為の予め求められて設定された判定値であり、例えば100〜200rpm程度に設定される。
【0033】
上記所定条件が成立した場合にエンジン14の回転変動強制力を抑制するエンジン制御は、例えば前記ブレーキストール時の共振による大きなトルク変動、音、ショック等の発生を抑制し、エンジン14やDMF20等の耐久性低下を抑制するものである。但し、このようなエンジン制御では、結果的にエンストさせることになるため、耐エンスト性の向上と共振による大きなトルク変動、音、ショック等の抑制とを両立させることが困難となる可能性がある。つまり、例えば上記閾値1をより高くしたり、上記閾値2をより小さくしたりすることにより、エンジン回転速度NE低下時における上記所定条件の成立すなわち共振判定がよりエンジン高回転側で為されるようにすれば、共振による大きなトルク変動、音、ショック等を抑制することに関しては有利となるが、エンストが発生し易くなり耐エンスト性に関しては不利となる。一方で、耐エンスト性を向上させるために、例えば上記閾値1をより低くしたり、上記閾値2をより大きくしたりすることにより、上記所定条件の成立がよりDMF20で決まる共振点側で為されるようにすれば、共振による大きなトルク変動、音、ショック等が発生し易くなる。また、耐エンスト性を向上させるということは、エンジン回転速度NEがアイドル回転速度より低下してもできるだけ車両走行を維持させて燃費を向上させたいということにも関連する。更に、共振による大きなトルク変動、音、ショック等を抑制することが有利となる程、より静かにエンストさせられるということであり、エンストを運転者に認知させることに関しては不利になる可能性がある。このように、種々の背反する各性能を向上させるという課題がある。
【0034】
上述したような課題とは別に、同じ所定条件で共振判定してエンジン14の回転変動強制力を抑制するエンジン制御を実行しても、共振による大きなトルク変動、音、ショック等の車両に発生する振動・騒音等の低減効果にばらつきが発生する場合がある。その為、上記閾値1や閾値2を設定する際にはより大きな安全幅を加味する必要があり、エンストの発生頻度を抑制するという観点(耐エンスト性の観点)からも上記エンジン制御の精度を向上する必要がある。つまり、上記所定条件の成立のみによる上記エンジン制御の実行では各性能を向上させ難い可能性がある。
【0035】
上述した振動・騒音等の低減効果にばらつきが発生するメカニズムを以下に説明する。図5は、ブレーキストール時のエンジン14(或いはセカンダリフライホイール42)の回転変動速度(回転速度に同じ)、DMF20の捩れ角、及びエンジン14(或いはセカンダリフライホイール42)の加速度(すなわち回転速度の微分値)を示すタイムチャートである。図5において、t1時点やt3時点に示すように、回転変動を伴うエンジン回転速度NEの変化速度が大きいとき(すなわちエンジン14の加速度(エンジン回転速度NEの微分値)が大きいとき)には、共振による大きなトルクが発生している(すなわち共振によりDMF20の捩れ角が大きくされる)。反対に、t2時点やt4時点に示すように、回転変動を伴うエンジン回転速度NEの変化速度が小さいときには(例えばエンジン回転速度NEの微分値が零乃至零付近すなわちエンジン回転速度NEのピーク値乃至ピーク値付近では)、DMF20の捩れ角が極めて小さくされる。
【0036】
その為、t1時点やt3時点にてエンジン14の回転変動強制力を抑制するエンジン制御を実施すると、エンジン14の回転変動を増幅させるエネルギ(振動・騒音を発生させるエネルギ)が大きいため、あまり静かにエンジン14を停止させられない。一方、t2時点やt4時点にてエンジン14の回転変動強制力を抑制するエンジン制御を実施すると、エンジン14の回転変動を増幅させるエネルギが小さいため、比較的静かにエンジン14を停止させられる。従って、単に同じ所定条件で共振判定してエンジン14の回転変動強制力を抑制するエンジン制御を実行すると、振動・騒音等の低減効果にばらつきが発生する可能性がある。見方を換えれば、所定条件で共振判定することに加え、回転変動を伴うエンジン回転速度NEの変化速度が小さいときに上記エンジン制御を実行すれば、一定以上の振動・騒音等の低減効果が得られることに加え、低減効果のばらつきも抑制される。
【0037】
そこで、本実施例の電子制御装置70は、前記所定条件が成立した状態で、回転変動を伴うエンジン回転速度NEの変化速度(以下、エンジン回転速度変化速度という)が所定値よりも小さくなる時(瞬間、タイミング)に、エンジン14の回転変動強制力を抑制する。これにより、エンジン14の回転変動強制力を抑制するエンジン制御が振動・騒音を発生させるエネルギが小さな略一定の時期にて精度良く実施される。
【0038】
また、前記所定条件に加えて、前記エンジン回転速度変化速度が所定値よりも小さくなる時を判断する場合には、一定以上の振動・騒音等の低減効果が精度良く得られることから、前記所定条件のみを判断する場合に比較して、前記所定安全幅を小さくして前記閾値1を低く設定すると共に前記閾値2を大きく設定しても良い。これは、前記所定条件のみが判断される場合に比較して、安定して静かにエンジン14を停止させられるからである。これにより、共振判定のタイミングがより遅らされることから、耐エンスト性が向上させられる。また、前記所定条件のみが判断される場合に比較して精度良くエンジン14を停止させられるということは、車両の振動・騒音を可及的に抑制することができるのはもちろんのこと、反対に運転者にエンストを容易に認知されるように車両の振動・騒音を適度に残すようなエンジン制御を実行させられるということでもある。
【0039】
より具体的には、図6は、電子制御装置70による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図6において、走行状態判定部すなわち走行状態判定手段72は、クラッチオンを表すクラッチ操作信号CONに基づいてクラッチ22が継合されたクラッチオフとされているか否かを判定する。また、走行状態判定手段72は、スタータオンを表すスタータ信号SONに基づいてエンジン始動中でないスタータオフとされているか否かを判定する。また、走行状態判定手段72は、ブレーキペダルオンを表すブレーキ操作信号BONに基づいてフットブレーキペダル52が操作されたブレーキペダルオンとされているか否かを判定する。
【0040】
所定条件成立判定部すなわち所定条件成立判定手段74は、平均NEが閾値1(第1所定閾値Th1)よりも低下したか否かを判定する。また、所定条件成立判定手段74は、変動回転速度ΔNE(=|瞬間NE−平均NE|)が閾値2(第2所定閾値Th2)よりも増大したか否かを判定する。
【0041】
制御時期判定部すなわち制御時期判定手段76は、前記エンジン回転速度変化速度が所定値よりも小さくなったか否かを、例えば瞬間NEの微分値の絶対値(|d瞬間NE/dt|)或いは平均NEの微分値の絶対値(|d平均NE/dt|)が零乃至零近傍の制御時期判定閾値としての閾値3よりも小さくなったか否かに基づいて判定する。上記閾値3は、例えばエンジン14の回転変動を増幅させるエネルギが小さなときにエンジン14の回転変動強制力を抑制するエンジン制御が実行されて、共振による振動・騒音等の発生に対して一定以上の低減効果が得られ且つその低減効果のばらつきが抑制される為の予め求められた判定閾値である。
【0042】
エンジン制御部すなわちエンジン制御手段78は、走行状態判定手段72によりクラッチオフ、スタータオフ、及びブレーキペダルオンとされていると判定され、所定条件成立判定手段74により平均NEが閾値1よりも低下し、且つ変動回転速度ΔNEが閾値2よりも増大したと判定され、制御時期判定手段76により前記エンジン回転速度変化速度(|d瞬間NE/dt|或いは|d平均NE/dt|)が閾値3よりも小さくなったと判定された場合には、エンジン14の回転変動強制力を抑制する。例えば、エンジン制御手段78は、エンジン制御指令信号SEとして、インジェクタ30からの燃料噴射量を停止或いは抑制する燃料噴射量信号、エンジン14の燃焼時期を変更する為のインジェクタ30からの燃料噴射時期を遅角させる燃料噴射時期信号、及びエンジン14への吸入空気量を抑制する為の電子スロットル弁36を全閉或いは電子スロットル弁36の開度を低下させる駆動信号のうちの少なくとも1つの信号を出力して、エンジン14の回転変動強制力を抑制するか或いは消滅させる。
【0043】
図7は、電子制御装置70の制御作動の要部すなわち共振判定時のエンジン制御の精度を向上して車両に発生する振動・騒音を精度良く抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。
【0044】
図7において、先ず、走行状態判定手段72に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、クラッチ操作信号CONに基づいてクラッチ22が継合されたクラッチオフとされているか否かが判定される。加えて、スタータ信号SONに基づいてエンジン始動中でないスタータオフとされているか否かが判定される。このS10の判断が肯定される場合は同じく走行状態判定手段72に対応するS20において、ブレーキ操作信号BONに基づいてフットブレーキペダル52が操作されたブレーキペダルオンとされているか否かが判定される。このS20の判断が肯定される場合は所定条件成立判定手段74に対応するS30において、平均NEが閾値1よりも低下したか否かが判定される。このS30の判断が肯定される場合は同じく所定条件成立判定手段74に対応するS40において、変動回転速度ΔNE(=|瞬間NE−平均NE|)が閾値2よりも増大したか否かが判定される。このS40の判断が肯定される場合は制御時期判定手段76に対応するS50において、前記エンジン回転速度変化速度(|d瞬間NE/dt|或いは|d平均NE/dt|)が閾値3よりも小さくなったか否かが判定される。上記S10、S20、S30、S40、S50の判断のうちの何れか1つの判断でも否定される場合は本ルーチンが終了させられるが、上記S50の判断が肯定される場合はエンジン制御手段78に対応するS60において、例えばエンジン制御指令信号SEとして、インジェクタ30からの燃料噴射量を停止或いは抑制する燃料噴射量信号、インジェクタ30からの燃料噴射時期を遅角させる燃料噴射時期信号、及び電子スロットル弁36を全閉させる駆動信号が出力されて、エンジン14の回転変動強制力を消滅させるエンジン停止制御が実行される。
【0045】
図8は、図7のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートである。この図8では、エンジン14の回転変動強制力を抑制するエンジン制御を実行しなかった場合のタイムチャートを示して両者を比較している。本実施例の制御作動を実行した場合には、実行しなかった場合と比較して、例えばパワートレーン1次共振域における変動回転速度ΔNEが小さくされる。そして、パワートレーン1次共振域において、例えば最大音圧が115dBから89dBへ低下されて衝撃音が抑制されている。また、例えば車両加速度が1.2Gから0.5Gへ低下されて車両振動が抑制されている。また、例えばエンジン14での発生トルクが2900Nmから1300Nmへ低下されて衝撃トルク(インパクトトルク)が抑制されている。
【0046】
図9は、本実施例のエンジン制御を実行した場合(●印)、所定条件でのみ共振判定してエンジン制御を実行した場合(◇印)、及びそのようなエンジン制御を実行しなかった場合(○印)の各々の場合において、共振発生時の最大入力トルク(インパクトトルク)のばらつきを示す図である。また、図10は、上記各々の場合における保証回数の効果を示す図表である。図9、図10において、本実施例のエンジン制御を実行した場合には、所定条件でのみ共振判定してエンジン制御を実行した場合に比較して、平均NEのより低回転側までエンストが発生し難くなると共にインパクトトルクが低く抑えられつつばらつきも抑制されている。その為、保証回数(エンジン14やDMF20等の耐久性が損なわれたと判断されるまでの共振発生回数)も数段多くなっている。また、このようなエンジン制御を実行しなかった場合との比較では、耐エンスト性では僅かに劣るものの、インパクトトルクが一層低く抑えられつつばらつきも抑制される為、保証回数も格段に多くなっている。このように、本実施例のエンジン制御により、装置(部品)追加等によるコストアップすることなくトルク変動、音、ショック等が大幅に低減される。これにより、例えばエンジン14、エンジン補機部品、DMF20等の部品の強度信頼性が向上する。見方を換えれば、入力トルク低減による部品のダウンサイジング、コスト低減、軽量化が可能となる。また、車両10全体として、振動・騒音等の低減や耐エンスト性等の改善によりドライバビリティが向上する。
【0047】
上述のように、本実施例によれば、前記所定条件が成立した状態で前記エンジン回転速度変化速度が所定値よりも小さくなる時に、例えば平均NEが閾値1よりも低下し且つ変動回転速度ΔNEが閾値2よりも増大したと判定された所定条件の成立状態で瞬間NEの微分値(|d瞬間NE/dt|)或いは平均NEの微分値(|d平均NE/dt|)が零乃至零近傍の制御時期判定閾値(閾値3)よりも小さくなる時に、エンジン14の回転変動強制力が抑制されるので、前記エンジン回転速度変化速度が所定値よりも大きくなる時と比較して、エンジン14の回転変動強制力を抑制する共振判定時のエンジン制御が振動・騒音を発生させるエネルギが小さな略一定の時期にて精度良く実施される。よって、車両10に発生する振動・騒音の低減効果がより向上されることに加え、その低減効果のばらつきも抑制される。つまり、共振判定時のエンジン制御の精度を向上して車両10に発生する振動・騒音を精度良く抑制することができる。例えばエンジン停止の際に共振が発生する場合、車両に発生する振動・騒音がより低減される。また、例えば共振判定時のエンジン制御に伴うエンストの際に、車両10の振動・騒音を可及的に抑制することもできるし、反対に運転者にエンストを容易に認知されるように車両10の振動・騒音を適度に残すこともできる。
【0048】
また、本実施例によれば、前記エンジン回転速度変化速度が所定値よりも小さくなる時とは、瞬間NEの微分値(|d瞬間NE/dt|)或いは平均NEの微分値(|d平均NE/dt|)が零乃至零近傍の制御時期判定閾値としての閾値3よりも小さくなる時である。このようにすれば、前記エンジン回転速度変化速度が所定値よりも小さくなる時が精度良く判断される。
【0049】
また、本実施例によれば、エンジン14への燃料供給を停止するか或いは抑制すること(すなわちインジェクタ30からの燃料噴射量を停止或いは抑制すること)、エンジン14の燃焼時期を変更すること(すなわちインジェクタ30からの燃料噴射時期を遅角させること)、及びエンジン14への吸入空気量を抑制すること(すなわち電子スロットル弁36を全閉或いは電子スロットル弁36の開度を低下させること)の複数のエンジン制御のうちの少なくとも1つのエンジン制御により、エンジン14の回転変動強制力が適切に抑制されるか或いは消滅させられる。
【0050】
また、本実施例によれば、エンジン14からの出力がDMF20を介して駆動輪16側へ伝達される車両10において、DMF20によりエンジン14の回転変動に起因する共振が発生する可能性があることに対し、このDMF20の共振判定時のエンジン制御が振動・騒音を発生させるエネルギが比較的小さな略一定の時期にて精度良く実施される。
【0051】
また、本実施例によれば、DMF20の共振点がエンジン14のアイドル回転速度よりも低い回転速度域に予め設定されており、例えばエンジン停止時にはDMF20の共振点を通過することに対して、車両10に発生する振動・騒音を精度良く抑制することができる。また、例えば車速V低下に伴うエンジン回転速度NE低下時にDMF20の共振点を通過することに対して、車両10に発生する振動・騒音を精度良く抑制して共振判定時のエンジン制御に伴うエンストをさせることができる。このエンストの際に、車両10の振動・騒音を可及的に抑制することもできるし、反対に運転者にエンストを容易に認知されるように車両10の振動・騒音を適度に残すこともできる。
【0052】
また、本実施例によれば、前記所定条件は、平均NEがDMF20で決まる共振点に所定安全幅を加えた第1所定閾値Th1(閾値1)よりも低下し、且つ変動回転速度ΔNE(=|瞬間NE−平均NE|)が共振を判断する為の第2所定閾値Th2(閾値2)よりも増大したことであり、その所定条件に加えて前記エンジン回転速度変化速度が所定値よりも小さくなる時を判断する場合には、前記所定条件のみを判断する場合に比較して、上記所定安全幅を小さくして上記閾値1を低く設定すると共に上記閾値2を大きく設定する。このようにすれば、例えば前記所定条件の設定に際し、この所定条件のみで共振判定を行う場合に比較して、加味しなければいけない安全幅を抑制することになって、共振判定のタイミングがより遅らされることから、耐エンスト性が向上させられる。従って、共振判定時のエンジン制御の精度を向上して車両10に発生する振動・騒音の低減効果のばらつきを抑制し、耐エンスト性の向上と共振による振動・騒音の抑制とを両立させることができる。
【0053】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0054】
前述の実施例では、前記エンジン回転速度変化速度が所定値よりも小さくなる時として、瞬間NEの微分値(|d瞬間NE/dt|)或いは平均NEの微分値(|d平均NE/dt|)が零乃至零近傍の制御時期判定閾値(閾値3)よりも小さくなる時を例示した。ここで、エンジン回転変動の周期は、回転0.5次つまり4気筒4サイクルエンジンでいうと爆発気筒タイミングと同期している(図5参照)。また、爆発気筒タイミングはクランク角度ACRと相関関係がある。そこで、瞬間NEの微分値(|d瞬間NE/dt|)或いは平均NEの微分値(|d平均NE/dt|)が零乃至零近傍の制御時期判定閾値(閾値3)よりも小さくなる時と同期するクランク角度ACRを予め求めて所定クランク角度として設定する。例えば、爆発気筒タイミングに対応するクランク角度を基準に所定クランク角度を設定する。つまり、本実施例では、前記エンジン回転速度変化速度が所定値よりも小さくなる時として、クランク角度ACRが前記小さくなる時と同期するクランク角度としてエンジン14の回転変動周期から予め求められた所定クランク角度となる時とする。
【0055】
具体的には、図6に戻り、制御時期判定手段76は、前述の実施例に替えて、前記エンジン回転速度変化速度が所定値よりも小さくなったか否かを、例えばクランク角度ACRが前記小さくなる時と同期するクランク角度としてエンジン14の回転変動周期から予め求められた所定クランク角度となったか否かに基づいて判定する。
【0056】
図11は、電子制御装置70の制御作動の要部すなわち共振判定時のエンジン制御の精度を向上して車両に発生する振動・騒音を精度良く抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。この図11のフローチャートは、図7のフローチャートに相当する別の実施例であり、図7におけるステップS50がステップS50’となっていることが相違するのみである。従って、ステップS50’以外の他のステップについては説明を省略する。
【0057】
図11において、前記S40の判断が肯定される場合は制御時期判定手段76に対応するS50’において、前記エンジン回転速度変化速度が所定値よりも小さくなったか否かが、例えばクランク角度ACRが前記エンジン回転速度変化速度が所定値よりも小さくなる時と同期するクランク角度としてエンジン14の回転変動周期から予め求められた所定クランク角度となったか否かが判定される。上記S10、S20、S30、S40、S50’の判断のうちの何れか1つの判断でも否定される場合は本ルーチンが終了させられるが、上記S50’の判断が肯定される場合はエンジン制御手段78に対応するS60が実行される。
【0058】
上述のように、本実施例によれば、前記エンジン回転速度変化速度が所定値よりも小さくなる時とは、クランク角度ACRが前記小さくなる時と同期するクランク角度としてエンジン14の回転変動周期から予め求められた所定クランク角度となる時である。このようにすれば、前記エンジン回転速度変化速度が所定値よりも小さくなる時が精度良く判断される。
【0059】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0060】
例えば、前述の実施例では、クラッチ22が継合されたクラッチオフ時を条件の1つとしてエンジン14の回転変動強制力を抑制するエンジン制御を実施したが、それに限らず、エンジン回転速度NEが低下していく際のクラッチの解放によって共振域に入り込むようなクラッチオン時(クラッチ断時)に発生するDMF20の引き込み共振にも本発明は適用され得る。このような場合でも、前述と同様の効果が得られる。
【0061】
また、前述の実施例では、フットブレーキペダル52が操作されたブレーキペダルオン時を条件の1つとしてエンジン14の回転変動強制力を抑制するエンジン制御を実施したが、登坂路などのようにブレーキペダルオン時でなくとも車速Vが低下する車両状態が存在することを考慮すれば、必ずしもブレーキペダルオン時を条件の1つとする必要はない。従って、図7や図11のフローチャートにおけるステップS20の判断は必ずしも必要ではない。
【0062】
また、前述の実施例では、瞬間NEの微分値(|d瞬間NE/dt|)或いは平均NEの微分値(|d平均NE/dt|)が閾値3よりも小さくなったときにエンジン14の回転変動強制力を抑制するエンジン制御を実施した。これは、エンジン回転速度NEの上昇時と下降時を区別することなく、エンジン回転変動の中でピーク値乃至ピーク値付近にて上記エンジン制御を実施するというものである。これに対して、エンジン回転速度NEの上昇時と下降時とで振動・騒音等の低減効果に差があるのであれば、より低減効果が得られる方のピーク値乃至ピーク値付近にて上記エンジン制御を実施するようにしても良い。例えば、エンジン回転速度NEの下降時におけるエンジン回転変動のピーク値乃至ピーク値付近にて上記エンジン制御を実施した方が、一層静かにエンジン14を停止できることが予め実験的に確認されておれば、その下降時におけるエンジン回転変動のピーク値乃至ピーク値付近にて上記エンジン制御を実施する。
【0063】
また、前述の実施例では、前記所定条件は、平均NEが閾値1よりも低下したか否か、及び変動回転速度ΔNEが閾値2よりも増大したか否かであった。これに対して、共振判定の精度を向上するために、例えば手動変速機12の各ギヤ段による共振点差、ブレーキ制動力によって異なるエンジン低下速度による制御応答性を考慮して前記所定条件の成立を判定しても良い。そして、そのうえで、前記エンジン回転速度変化速度が所定値よりも小さくなる時に、エンジン14の回転変動強制力を抑制するエンジン制御を実施するようにしても良い。このようにすれば、本発明の効果が一層得られる。
【0064】
また、前述の実施例では、車両10の動力伝達経路にDMF20が備えられていたが、それに限らず、エンジン14の回転変動に起因する共振が発生するダンパであれば本発明は適用され得る。また、必ずしもダンパが備えられる必要はなく、動力伝達経路においてエンジン14の回転変動に起因する共振が発生する車両10であれば本発明は適用され得る。
【0065】
また、前述の実施例では、ブレーキストール時の共振対策としてエンジン14の回転変動強制力を抑制するエンジン制御を実施するものであったが、それに限らず、例えばイグニッションオフや車両停止時のアイドルストップ等によりエンジン14を停止させる際の共振対策としても本発明は適用され得る。従って、本発明が適用される車両10としては例示した手動変速機12を動力伝達装置として備えるものに限らず、例えば動力伝達装置として遊星歯車式の自動変速機或いはベルト式に代表される無段変速機などを備える車両、エンジンと電気モータとを駆動力源として備えるハイブリッド車両などにも本発明は適用され得る。特に、ハイブリッド車両においては、エンジンを停止する頻度が多くなると考えられるので、本発明を適用することによるうれしさが得られやすい。
【0066】
また、前述の実施例において閾値1や閾値2などで示した数値は飽くまで一例であって、これに限らず、例えば車両毎に適合された数値が用いられる。
【0067】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0068】
10:車両
14:エンジン
16:駆動輪
20:デュアルマスフライホイール(ダンパ)
40:プライマリフライホイール
42:セカンダリフライホイール
44:バネ(弾性部材)
70:電子制御装置(エンジン制御装置)
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの回転変動に起因する共振が発生した場合にエンジンの回転変動強制力を抑制する車両のエンジン制御装置に係り、特に、その共振の発生を判断する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンから駆動輪までの動力伝達経路におけるエンジンの回転変動(トルク変動)等に起因する共振の発生を判断する為の所定条件が成立した場合にエンジン回転変動強制力を抑制する車両のエンジン制御装置が良く知られている。例えば、特許文献1に記載されたエンジンの始動時制御装置がそれである。具体的には、例えば図12(a)のクラッチ継合時の振動モデルに示すように、エンジン1の回転変動がタイヤ2側へ伝達されるのを抑制する為に、例えばエンジン1とトランスミッションT/M及びドライブシャフトD/Sとの間の動力伝達経路にデュアルマスフライホイール(以下、DMFという)3を備える車両が良く知られている。
【0003】
DMF3は、例えばプライマリフライホイールJ1とセカンダリフライホイールJ2との2つのフライホイールが弾性部材(スプリング、ダンパ)により接続されたものである。従って、DMF3には共振点(共振周波数)が存在する。一方、このようなDMF3では、各フライホイールJ1,J2の各回転慣性マスや弾性部材の弾性力を調節することで、共振点を比較的自由に設定することができる。例えば、セカンダリフライホイールJ2側の回転慣性マスを大きく取ることで、DMF3の共振点を低下させることができる。例えば、図12(b)に示すように、DMF3の共振点をエンジン1のアイドル回転速度よりも低い回転速度域に設定することができる。これにより、エンジン1のアイドル回転速度以上のエンジン常用使用域では減衰効果が得られるので、エンジン1からの回転変動やトルク変動量を減衰することができる。
【0004】
しかしながら、車両走行状態によってはエンジン回転速度がアイドル回転速度よりも低下する場合があり、このときDMF3の共振点がアイドル回転速度よりも低い回転速度域に設定されていると、DMF3の共振によりエンジン回転変動が増幅されて大きなトルク変動やショックが発生する可能性がある。これに対して、特許文献1に示されるように、エンジン回転速度が所定の共振回転速度領域に所定時間とどまっていた場合に、エンジン1への燃料供給を停止するか或いは抑制することによりその共振回転速度領域から離脱させることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−54601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述したようなエンジン回転速度が所定の共振回転速度領域にとどまっているか否かによる共振判定は、すなわちエンジン回転速度のみを用いる共振判定は、DMF3が実際に共振しているか否かを判定するものではない。その為、DMF3が実際には共振していないのに共振判定が為されて、例えばエンジン1への燃料供給停止が実行される可能性がある。そうすると、エンジン回転速度がアイドル回転速度よりも低下した場合に、エンジンストール(以下、エンストという)の頻度が高まる恐れがある。つまり、エンストさせ難くするという耐エンスト性が悪化する。反対に、DMF3が実際には共振しているのに共振判定が為されず、例えばエンジン1への燃料供給停止が実行されない状態が継続される可能性がある。そうすると、DMF3の共振によりエンジン回転変動が増幅されて大きなトルク変動やショックが発生し、エンジン1やDMF3等の耐久性が低下する可能性がある。これに対して、共振判定の為の判定条件を改良して高い精度で共振の発生を判定することが考えられる。しかしながら、仮に高い精度で共振の発生を判定してエンジン1への燃料供給停止を実行したとしても、トルク変動、音、ショック等の車両に発生する振動・騒音の低減効果にばらつきが発生する可能性がある。その為、共振判定する為の条件を設定する際にはより大きな安全幅を加味する必要があり、エンストの発生頻度を抑制するという観点からも共振判定時のエンジン制御の精度を向上することが望まれる。このような、課題は未公知であり、共振によるトルク変動、音、ショック等の発生を精度良く抑制する(すなわち振動・騒音を精度良く抑制する)為に、共振判定時のエンジン制御の精度を向上させることについて、未だ提案されていない。
【0007】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、共振判定時のエンジン制御の精度を向上して車両に発生する振動・騒音を精度良く抑制することができる車両のエンジン制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するための本発明の要旨とするところは、(a) エンジンから駆動輪までの動力伝達経路におけるそのエンジンの回転変動に起因する共振の発生を判断する為の所定条件が成立した場合にそのエンジンの回転変動強制力を抑制する車両のエンジン制御装置であって、(b) 前記所定条件が成立した状態で、回転変動を伴うエンジン回転速度の変化速度が所定値よりも小さくなる時に、前記エンジンの回転変動強制力を抑制することにある。
【発明の効果】
【0009】
このようにすれば、前記所定条件が成立した状態で回転変動を伴うエンジン回転速度の変化速度が所定値よりも小さくなる時に、前記エンジンの回転変動強制力が抑制されるので、回転変動を伴うエンジン回転速度の変化速度が所定値よりも大きくなる時と比較して、エンジンの回転変動強制力を抑制する共振判定時のエンジン制御が振動・騒音を発生させるエネルギが小さな略一定の時期にて精度良く実施される。よって、車両に発生する振動・騒音の低減効果がより向上されることに加え、その低減効果のばらつきも抑制される。つまり、共振判定時のエンジン制御の精度を向上して車両に発生する振動・騒音を精度良く抑制することができる。
【0010】
例えばエンジン停止の際に共振が発生する場合、車両に発生する振動・騒音がより低減される。また、例えば共振判定時のエンジン制御に伴うエンストの際に、車両の振動・騒音を可及的に抑制することもできるし、反対に運転者にエンストを容易に認知されるように車両の振動・騒音を適度に残すこともできる。
【0011】
ここで、好適には、前記回転変動を伴うエンジン回転速度の変化速度が所定値よりも小さくなる時とは、エンジン回転速度の実際値の微分値或いはエンジン回転速度の平均値の微分値が零乃至零近傍の制御時期判定閾値よりも小さくなる時である。このようにすれば、回転変動を伴うエンジン回転速度の変化速度が所定値よりも小さくなる時が精度良く判断される。
【0012】
また、好適には、前記回転変動を伴うエンジン回転速度の変化速度が所定値よりも小さくなる時とは、クランク角度が前記小さくなる時と同期するクランク角度として前記エンジンの回転変動周期から予め求められた所定クランク角度となる時である。このようにすれば、回転変動を伴うエンジン回転速度の変化速度が所定値よりも小さくなる時が精度良く判断される。
【0013】
また、好適には、前記エンジンへの燃料供給を停止するか或いは抑制することで、前記エンジンの回転変動強制力を抑制することにある。このようにすれば、エンジンの回転変動強制力が適切に抑制される。
【0014】
また、好適には、前記エンジンへの吸入空気量を抑制することで、前記エンジンの回転変動強制力を抑制することにある。このようにすれば、エンジンの回転変動強制力が適切に抑制される。
【0015】
また、好適には、前記エンジンの燃焼時期を変更することで、前記エンジンの回転変動強制力を抑制することにある。このようにすれば、エンジンの回転変動強制力が適切に抑制される。
【0016】
また、好適には、前記動力伝達経路には、ダンパが備えられており、前記エンジンからの出力が前記ダンパを介して前記駆動輪側へ伝達されることにある。このようにすれば、ダンパによりエンジンの回転変動に起因する共振が発生する可能性があることに対し、このダンパの共振判定時のエンジン制御が振動・騒音を発生させるエネルギが比較的小さな略一定の時期にて精度良く実施される。
【0017】
また、好適には、前記ダンパは、2つのフライホイールが弾性部材により接続されたデュアルマスフライホイールであり、前記デュアルマスフライホイールの共振点は、前記エンジンのアイドル回転速度よりも低い回転速度域に予め設定されていることにある。このようにすれば、例えばエンジン停止時にデュアルマスフライホイールの共振点を通過することに対して、車両に発生する振動・騒音を精度良く抑制することができる。また、例えば車速低下に伴うエンジン回転速度低下時にデュアルマスフライホイールの共振点を通過することに対して、車両に発生する振動・騒音を精度良く抑制して共振判定時のエンジン制御に伴うエンストをさせることができる。このエンストの際に、車両の振動・騒音を可及的に抑制することもできるし、反対に運転者にエンストを容易に認知されるように車両の振動・騒音を適度に残すこともできる。
【0018】
また、好適には、前記所定条件は、エンジン回転速度の平均値が前記共振点に所定安全幅を加えた第1所定閾値よりも低下し、且つ前記エンジン回転速度の平均値とエンジン回転速度の実際値との差回転速度が共振を判断する為の第2所定閾値よりも増大したことであり、前記所定条件に加えて、前記回転変動を伴うエンジン回転速度の変化速度が所定値よりも小さくなる時を判断する場合には、前記所定条件のみを判断する場合に比較して、前記所定安全幅を小さく設定すると共に前記第2所定閾値を大きく設定することにある。このようにすれば、例えば前記所定条件の設定に際し、この所定条件のみで共振判定を行う場合に比較して、加味しなければいけない安全幅を抑制することになって、共振判定のタイミングがより遅らされることから、できる限りエンストさせたくないという耐エンスト性が向上させられる。従って、共振判定時のエンジン制御の精度を向上して車両に発生する振動・騒音の低減効果のばらつきを抑制し、耐エンスト性の向上と共振による振動・騒音の抑制とを両立させることができる。
【0019】
また、好適には、前記車両は、前記エンジンから前記駆動輪までの前記動力伝達経路に車両用動力伝達装置を備えている。この車両用動力伝達装置は、変速機構部単体、トルクコンバータ及び複数の変速比を有する変速機構部、或いはこの変速機構部等に加え減速機構部やディファレンシャル機構部により構成される。前記変速機構部は、複数組の遊星歯車装置の回転要素が係合装置によって選択的に連結されることにより複数のギヤ段(変速段)が択一的に達成される例えば前進4段、前進5段、前進6段、更にはそれ以上の変速段を有する等の種々の遊星歯車式自動変速機、常時噛み合う複数対の変速ギヤを2軸間に備えてそれら複数対の変速ギヤのいずれかを同期装置によって択一的に動力伝達状態とする同期噛合型平行2軸式変速機、その同期噛合型平行2軸式変速機ではあるが油圧アクチュエータにより駆動される同期装置によって変速段が自動的に切換られることが可能な同期噛合型平行2軸式自動変速機、動力伝達部材として機能する伝動ベルトが有効径が可変である一対の可変プーリに巻き掛けられ変速比が無段階に連続的に変化させられる所謂ベルト式無段変速機である自動変速機、共通の軸心まわりに回転させられる一対のコーンとその軸心と交差する回転中心回転可能な複数個のローラがそれら一対のコーンの間で挟圧されそのローラの回転中心と軸心との交差角が変化させられることによって変速比が可変とされた所謂トラクション型無段変速機である自動変速機、エンジンからの動力を第1電動機および出力軸へ分配する例えば遊星歯車装置で構成される差動機構とその差動機構の出力軸に設けられた第2電動機とを備えてその差動機構の差動作用によりエンジンからの動力の主部を駆動輪側へ機械的に伝達しエンジンからの動力の残部を第1電動機から第2電動機への電気パスを用いて電気的に伝達することにより電気的に変速比が変更される電気式無段変速機として機能する自動変速機、或いはエンジン軸や出力軸などに動力伝達可能に電動機が備えられる所謂パラレル式のハイブリッド車両に搭載される自動変速機などにより構成される。
【0020】
また、好適には、前記エンジンとしては、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジンが広く用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明が適用される車両を構成する手動変速機などを含む動力伝達経路の概略構成を説明する図であると共に、エンジンなどを制御するために車両に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。
【図2】手動変速機があるギヤ段に維持されているときにクラッチが継合されたままアクセルオフ且つブレーキオンにより、車速と共に低下するエンジン回転速度の波形の一例を示す図である。
【図3】図2で示したエンジン回転波形の次数解析結果の一例を示す図である。
【図4】エンジン制御を実行する際の所定条件を説明する為の図である。
【図5】ブレーキストール時のエンジン(或いはセカンダリフライホイール)の回転変動、DMFの捩れ角、及びエンジン(或いはセカンダリフライホイール)の加速度の一例を示すタイムチャートである。
【図6】図1の電子制御装置による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図7】電子制御装置の制御作動の要部すなわち共振判定時のエンジン制御の精度を向上して車両に発生する振動・騒音を精度良く抑制する為の制御作動を説明するフローチャートである。
【図8】図7のフローチャートに示す制御作動を実行した場合の一例を示すタイムチャートである。
【図9】本実施例のエンジン制御を実行した場合、所定条件でのみ共振判定してエンジン制御を実行した場合、及びそのようなエンジン制御を実行しなかった場合の各々の場合において、共振発生時の最大入力トルクのばらつきの一例を示す図である。
【図10】図9の各々の場合における保証回数の効果の一例を示す図表である。
【図11】電子制御装置の制御作動の要部すなわち共振判定時のエンジン制御の精度を向上して車両に発生する振動・騒音を精度良く抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであって、図7のフローチャートに相当する別の実施例である。
【図12】(a)は、エンジンからタイヤまでの動力伝達経路にデュアルマスフライホイールを備える車両における振動モデルの従来例を示す図である。(b)は、デュアルマスフライホイールの共振点をエンジンのアイドル回転速度よりも低い回転速度域に設定した従来例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例1】
【0023】
図1は、本発明が適用される車両10を構成する手動変速機12などを含むエンジン14から駆動輪16までの動力伝達経路の概略構成を説明する図であると共に、そのエンジン14などを制御するために車両10に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。図1において、走行用駆動力源としての内燃機関であるエンジン14の動力は、エンジン14のクランク軸18に作動的に連結されたダンパとしてのデュアルマスフライホイール(DMF)20とDMF20の後段側に設けられたクラッチ22とを介して手動変速機12へ伝達される。そして、手動変速機12による変速を経て、プロペラシャフト24、差動歯車装置(ディファレンシャルギヤ)26、及び一対のドライブシャフト28等を順次介して一対の駆動輪16へ伝達される。
【0024】
エンジン14は、例えば直列4気筒のディーゼルエンジンであり、不図示の各気筒には燃焼室内へ燃料を直接噴射する為のインジェクタ(燃料噴射弁)30がそれぞれ配設されている。不図示のサプライポンプより供給された高圧燃料がコモンレール32に蓄えられ、インジェクタ30により気筒内へ噴射される。この際、インジェクタ30の電磁制御弁に所定の噴射信号が送られることで、燃料噴射量及び噴射時期が制御される。エンジン14の吸気管34には吸入空気量(吸気量)QAIRを絞る為の電子スロットル弁36が備えられており、スロットルアクチュエータ38に所定の駆動信号が送られることで、電子スロットル弁36のスロットル弁開度θTHが操作される。
【0025】
DMF20は、クランク軸18に連結されるプライマリフライホイール40と、クラッチ22に連結されるセカンダリフライホイール42と、これら2つのフライホイール40,42を接続する弾性部材としてのバネ44とを備える。つまり、DMF20は、フライホイールを2分割にして、その間に捩り機構(スプリング)を持たせる構造のフライホイルダンパである。また、プライマリフライホイール40とセカンダリフライホイール42とは、各々の回転軸40a,42aがベアリング46を介して相対回転可能に接続されている。このように構成されたDMF20が動力伝達経路に配置されることにより、エンジン14の回転変動(トルク変動、出力変動)が駆動輪16側へ伝達されることが低減される。
【0026】
DMF20は2つのフライホイール40,42がバネ44により接続されたものであるため、このDMF20には共振点(共振周波数)が存在する。この共振点は各フライホイール40,42の各回転慣性マスやバネ44の弾性力を調節することで比較的自由に設定され得る。そこで、本実施例では、例えばセカンダリフライホイール42側の回転慣性マスを大きく取ることで、DMF20の共振点をエンジン14のアイドル回転速度よりも低い回転速度域に設定している。例えば、エンジン14のアイドル回転速度よりも低い回転速度域では、クラッチ22継合時の車両の振動モデル(図12(a)参照)において、エンジン14やプライマリフライホイール40等を回転慣性マスとして振れるパワートレーン1次(捩り)共振域(3〜5Hz)と、セカンダリフライホイール42や手動変速機12等を回転慣性マスとして振れるパワートレーン2次(捩り)共振域(10〜20Hz)とが存在する(図12(b)参照)。また、エンジン14のアイドル回転速度以上の回転速度域では、駆動輪16を回転慣性マスとして振れるパワートレーン3次共振域が無視できる程度に存在する。これにより、エンジン14のアイドル回転速度以上のエンジン常用使用域では、減衰効果が得られ、エンジン14からの回転変動やトルク変動量が減衰される。
【0027】
また、車両10には、エンジン14の運転状態を制御するためのエンジン制御装置を含む電子制御装置70が備えられている。電子制御装置70は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、基本的にはエンジン30の出力制御等を実行するものである。
【0028】
電子制御装置70には、車両10に設けられたセンサやスイッチなどから、例えばクランク角度(位置)ACR[°]及びエンジン14の回転速度NEに対応するクランクポジションを検出するクランクポジションセンサ48、吸気管34に設けられた電子スロットル弁36の開き角すなわちスロットル弁開度θTHを検出するスロットルポジションセンサ50、常用ブレーキであるフットブレーキペダル52の操作の有無を検出してフットブレーキペダル52が操作されたブレーキペダルオンを表すブレーキ操作信号BONを出力するブレーキスイッチ54、クラッチ22の継合・解放を切り換えるためのクラッチペダル56の操作の有無を検出してクラッチペダル56が操作されたクラッチオン(すなわちクラッチ22の解放)を表すクラッチ操作信号CONを出力するクラッチスイッチ58、不図示のスタータによるエンジン始動中であるか否かを検出してエンジン始動中であるスタータオンを表すスタータ信号SONを出力するスタータリレー60、エンジン14の吸入空気量QAIRを検出する吸入空気量センサ62などから、クランク角度(位置)ACR[°]及びエンジン回転速度NE、スロットル弁開度θTH、ブレーキ操作信号BON、クラッチ操作信号CON、スタータ信号SON、吸入空気量QAIRなどを表す信号が電子制御装置70に供給される。更に、車速Vを検出する車速センサ、運転者の要求する加速要求量に応じて踏み込み操作されるアクセルペダルの操作量であるアクセル開度Accを検出するアクセル開度センサ等の車両10に設けられた不図示のセンサやスイッチなどから、各種信号が供給される。
【0029】
また、電子制御装置70からは、エンジン14の出力制御の為のエンジン制御指令信号SE、例えば上記各種信号や各種演算結果に応じたインジェクタ30からの燃料噴射量を制御するための燃料噴射量信号、インジェクタ30からの燃料噴射時期を制御するための燃料噴射時期信号、電子スロットル弁36の開閉を制御するためのスロットルアクチュエータ38への駆動信号などが出力される。
【0030】
ところで、本実施例のDMF20を搭載した車両10では、前述したように、エンジン14のアイドル回転速度よりも低い回転速度域において、エンジン14をマスとして振れる一番低い共振点を中心とするパワートレーン1次共振域と、DMF20で決まる次に低い共振点を中心とするパワートレーン2次共振域とが存在する。そのため、エンジン回転速度NEがアイドル回転速度よりも低下するとエンジン14の回転変動に起因する共振が発生してその回転変動が増幅されて、大きなトルク変動、音、ショック等が発生する可能性がある。
【0031】
図2は、手動変速機12があるギヤ段に維持されているときにクラッチ22が継合されたままアクセルオフ(すなわちアクセル開度Accが零判定値とされた状態)且つブレーキオンにより、車速Vの低下と共にその車速Vに拘束されて低下するときのエンジン回転速度NEの波形(エンジン回転波形)を示す図であって、(b)は(a)における時間9.5[sec]以降を拡大した図である。図2に示すようにブレーキオンにより車速Vの低下と共にエンジン回転速度NEが低下して結果的にエンストが発生することをブレーキストールと称する。また、図3は、図2で示したエンジン回転波形の次数解析結果を示す図である。図3の次数は、4気筒4サイクルエンジンにおいて例えば回転0.5次は2回転に1回の燃焼を意味し、回転2次は1回転に2回の燃焼を意味している。図3では、振幅の大きさすなわち振動強度の強さを白黒の濃淡で表しており、濃い程、振動強度が強くなる。図2、3において、共振による大きなトルク変動、音、ショック等は、エンジン14の回転変動(主は回転2次成分)がエンジン回転速度NEの低下に伴い先ずパワートレーン2次共振域の高回転側(例えば600rpm付近)で増幅させられることにより発生する。そして、このエネルギをもったままエンジン回転速度NEが低下してパワートレーン1次共振域へ移行する。このとき、エンジン14のピストン慣性の影響が支配的になるため回転0.5次成分とパワートレーン1次共振域における共振により更に大きなトルク変動、音、ショック等が発生する。これにより、エンジン14やDMF20等の耐久性が低下する可能性がある。尚、図2に示すようにブレーキオンにより車速Vの低下と共にエンジン回転速度NEがアイドル回転速度よりも低下した際、エンジン回転速度NEを維持すべく(エンストさせないように)エンジン制御により燃料噴射量を増加する所謂ISC制御(アイドルスピードコントロール)が実行される場合には、エンジン14の回転変動強制力を増大させることになり、共振により回転変動が一層増幅され、エンジン14が停止するときにより大きなトルク変動、音、ショック等が発生する可能性がある。
【0032】
そこで、本実施例の電子制御装置70は、エンジン14から駆動輪16までの動力伝達経路におけるエンジン14の回転変動に起因する共振の発生を判断する為の所定条件が成立した場合にエンジン14の回転変動強制力を抑制する。例えば、電子制御装置70は、手動変速機12があるギヤ段に維持されているときのクラッチオフ時に、エンジン14の回転変動がパワートレーン2次共振域で増幅したことを判断する為の所定条件が成立した場合には、パワートレーン1次共振域へ移行する前にエンジン14の回転変動強制力を抑制するエンジン制御を実行し、共振による大きなトルク変動、音、ショック等の発生を抑制する。図4を参照にして、上記所定条件は、例えば実際のエンジン回転速度NE(エンジン回転速度NEの実際値、以下、瞬間NEという)の平均値(以下、平均NEという)がDMF20で決まる共振点に所定安全幅を加えた第1所定閾値Th1(閾値1)よりも低下し、且つ平均NEと瞬間NEとの差回転速度の絶対値である変動回転速度ΔNE(=|瞬間NE−平均NE|)が共振を判断する為の第2所定閾値Th2(閾値2)よりも増大したか否かである。上記閾値1は、例えばエンジン回転速度NEが低下していくときにパワートレーン2次共振域に入ったか否かを判断する為の予め求められて設定された判定値であり、例えばDMF20で決まる共振点(例えば450rpm)を中心とするパワートレーン2次共振域の高回転側の回転速度付近(例えば600rpm)に設定される。従って、この場合、DMF20で決まる共振点に対してこのパワートレーン2次共振域の高回転側の回転速度までの回転速度分(150rpm)が上記所定安全幅となる。また、上記閾値2は、例えばエンジン14の回転変動が増幅したことを判断する為の予め求められて設定された判定値であり、例えば100〜200rpm程度に設定される。
【0033】
上記所定条件が成立した場合にエンジン14の回転変動強制力を抑制するエンジン制御は、例えば前記ブレーキストール時の共振による大きなトルク変動、音、ショック等の発生を抑制し、エンジン14やDMF20等の耐久性低下を抑制するものである。但し、このようなエンジン制御では、結果的にエンストさせることになるため、耐エンスト性の向上と共振による大きなトルク変動、音、ショック等の抑制とを両立させることが困難となる可能性がある。つまり、例えば上記閾値1をより高くしたり、上記閾値2をより小さくしたりすることにより、エンジン回転速度NE低下時における上記所定条件の成立すなわち共振判定がよりエンジン高回転側で為されるようにすれば、共振による大きなトルク変動、音、ショック等を抑制することに関しては有利となるが、エンストが発生し易くなり耐エンスト性に関しては不利となる。一方で、耐エンスト性を向上させるために、例えば上記閾値1をより低くしたり、上記閾値2をより大きくしたりすることにより、上記所定条件の成立がよりDMF20で決まる共振点側で為されるようにすれば、共振による大きなトルク変動、音、ショック等が発生し易くなる。また、耐エンスト性を向上させるということは、エンジン回転速度NEがアイドル回転速度より低下してもできるだけ車両走行を維持させて燃費を向上させたいということにも関連する。更に、共振による大きなトルク変動、音、ショック等を抑制することが有利となる程、より静かにエンストさせられるということであり、エンストを運転者に認知させることに関しては不利になる可能性がある。このように、種々の背反する各性能を向上させるという課題がある。
【0034】
上述したような課題とは別に、同じ所定条件で共振判定してエンジン14の回転変動強制力を抑制するエンジン制御を実行しても、共振による大きなトルク変動、音、ショック等の車両に発生する振動・騒音等の低減効果にばらつきが発生する場合がある。その為、上記閾値1や閾値2を設定する際にはより大きな安全幅を加味する必要があり、エンストの発生頻度を抑制するという観点(耐エンスト性の観点)からも上記エンジン制御の精度を向上する必要がある。つまり、上記所定条件の成立のみによる上記エンジン制御の実行では各性能を向上させ難い可能性がある。
【0035】
上述した振動・騒音等の低減効果にばらつきが発生するメカニズムを以下に説明する。図5は、ブレーキストール時のエンジン14(或いはセカンダリフライホイール42)の回転変動速度(回転速度に同じ)、DMF20の捩れ角、及びエンジン14(或いはセカンダリフライホイール42)の加速度(すなわち回転速度の微分値)を示すタイムチャートである。図5において、t1時点やt3時点に示すように、回転変動を伴うエンジン回転速度NEの変化速度が大きいとき(すなわちエンジン14の加速度(エンジン回転速度NEの微分値)が大きいとき)には、共振による大きなトルクが発生している(すなわち共振によりDMF20の捩れ角が大きくされる)。反対に、t2時点やt4時点に示すように、回転変動を伴うエンジン回転速度NEの変化速度が小さいときには(例えばエンジン回転速度NEの微分値が零乃至零付近すなわちエンジン回転速度NEのピーク値乃至ピーク値付近では)、DMF20の捩れ角が極めて小さくされる。
【0036】
その為、t1時点やt3時点にてエンジン14の回転変動強制力を抑制するエンジン制御を実施すると、エンジン14の回転変動を増幅させるエネルギ(振動・騒音を発生させるエネルギ)が大きいため、あまり静かにエンジン14を停止させられない。一方、t2時点やt4時点にてエンジン14の回転変動強制力を抑制するエンジン制御を実施すると、エンジン14の回転変動を増幅させるエネルギが小さいため、比較的静かにエンジン14を停止させられる。従って、単に同じ所定条件で共振判定してエンジン14の回転変動強制力を抑制するエンジン制御を実行すると、振動・騒音等の低減効果にばらつきが発生する可能性がある。見方を換えれば、所定条件で共振判定することに加え、回転変動を伴うエンジン回転速度NEの変化速度が小さいときに上記エンジン制御を実行すれば、一定以上の振動・騒音等の低減効果が得られることに加え、低減効果のばらつきも抑制される。
【0037】
そこで、本実施例の電子制御装置70は、前記所定条件が成立した状態で、回転変動を伴うエンジン回転速度NEの変化速度(以下、エンジン回転速度変化速度という)が所定値よりも小さくなる時(瞬間、タイミング)に、エンジン14の回転変動強制力を抑制する。これにより、エンジン14の回転変動強制力を抑制するエンジン制御が振動・騒音を発生させるエネルギが小さな略一定の時期にて精度良く実施される。
【0038】
また、前記所定条件に加えて、前記エンジン回転速度変化速度が所定値よりも小さくなる時を判断する場合には、一定以上の振動・騒音等の低減効果が精度良く得られることから、前記所定条件のみを判断する場合に比較して、前記所定安全幅を小さくして前記閾値1を低く設定すると共に前記閾値2を大きく設定しても良い。これは、前記所定条件のみが判断される場合に比較して、安定して静かにエンジン14を停止させられるからである。これにより、共振判定のタイミングがより遅らされることから、耐エンスト性が向上させられる。また、前記所定条件のみが判断される場合に比較して精度良くエンジン14を停止させられるということは、車両の振動・騒音を可及的に抑制することができるのはもちろんのこと、反対に運転者にエンストを容易に認知されるように車両の振動・騒音を適度に残すようなエンジン制御を実行させられるということでもある。
【0039】
より具体的には、図6は、電子制御装置70による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図6において、走行状態判定部すなわち走行状態判定手段72は、クラッチオンを表すクラッチ操作信号CONに基づいてクラッチ22が継合されたクラッチオフとされているか否かを判定する。また、走行状態判定手段72は、スタータオンを表すスタータ信号SONに基づいてエンジン始動中でないスタータオフとされているか否かを判定する。また、走行状態判定手段72は、ブレーキペダルオンを表すブレーキ操作信号BONに基づいてフットブレーキペダル52が操作されたブレーキペダルオンとされているか否かを判定する。
【0040】
所定条件成立判定部すなわち所定条件成立判定手段74は、平均NEが閾値1(第1所定閾値Th1)よりも低下したか否かを判定する。また、所定条件成立判定手段74は、変動回転速度ΔNE(=|瞬間NE−平均NE|)が閾値2(第2所定閾値Th2)よりも増大したか否かを判定する。
【0041】
制御時期判定部すなわち制御時期判定手段76は、前記エンジン回転速度変化速度が所定値よりも小さくなったか否かを、例えば瞬間NEの微分値の絶対値(|d瞬間NE/dt|)或いは平均NEの微分値の絶対値(|d平均NE/dt|)が零乃至零近傍の制御時期判定閾値としての閾値3よりも小さくなったか否かに基づいて判定する。上記閾値3は、例えばエンジン14の回転変動を増幅させるエネルギが小さなときにエンジン14の回転変動強制力を抑制するエンジン制御が実行されて、共振による振動・騒音等の発生に対して一定以上の低減効果が得られ且つその低減効果のばらつきが抑制される為の予め求められた判定閾値である。
【0042】
エンジン制御部すなわちエンジン制御手段78は、走行状態判定手段72によりクラッチオフ、スタータオフ、及びブレーキペダルオンとされていると判定され、所定条件成立判定手段74により平均NEが閾値1よりも低下し、且つ変動回転速度ΔNEが閾値2よりも増大したと判定され、制御時期判定手段76により前記エンジン回転速度変化速度(|d瞬間NE/dt|或いは|d平均NE/dt|)が閾値3よりも小さくなったと判定された場合には、エンジン14の回転変動強制力を抑制する。例えば、エンジン制御手段78は、エンジン制御指令信号SEとして、インジェクタ30からの燃料噴射量を停止或いは抑制する燃料噴射量信号、エンジン14の燃焼時期を変更する為のインジェクタ30からの燃料噴射時期を遅角させる燃料噴射時期信号、及びエンジン14への吸入空気量を抑制する為の電子スロットル弁36を全閉或いは電子スロットル弁36の開度を低下させる駆動信号のうちの少なくとも1つの信号を出力して、エンジン14の回転変動強制力を抑制するか或いは消滅させる。
【0043】
図7は、電子制御装置70の制御作動の要部すなわち共振判定時のエンジン制御の精度を向上して車両に発生する振動・騒音を精度良く抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。
【0044】
図7において、先ず、走行状態判定手段72に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、クラッチ操作信号CONに基づいてクラッチ22が継合されたクラッチオフとされているか否かが判定される。加えて、スタータ信号SONに基づいてエンジン始動中でないスタータオフとされているか否かが判定される。このS10の判断が肯定される場合は同じく走行状態判定手段72に対応するS20において、ブレーキ操作信号BONに基づいてフットブレーキペダル52が操作されたブレーキペダルオンとされているか否かが判定される。このS20の判断が肯定される場合は所定条件成立判定手段74に対応するS30において、平均NEが閾値1よりも低下したか否かが判定される。このS30の判断が肯定される場合は同じく所定条件成立判定手段74に対応するS40において、変動回転速度ΔNE(=|瞬間NE−平均NE|)が閾値2よりも増大したか否かが判定される。このS40の判断が肯定される場合は制御時期判定手段76に対応するS50において、前記エンジン回転速度変化速度(|d瞬間NE/dt|或いは|d平均NE/dt|)が閾値3よりも小さくなったか否かが判定される。上記S10、S20、S30、S40、S50の判断のうちの何れか1つの判断でも否定される場合は本ルーチンが終了させられるが、上記S50の判断が肯定される場合はエンジン制御手段78に対応するS60において、例えばエンジン制御指令信号SEとして、インジェクタ30からの燃料噴射量を停止或いは抑制する燃料噴射量信号、インジェクタ30からの燃料噴射時期を遅角させる燃料噴射時期信号、及び電子スロットル弁36を全閉させる駆動信号が出力されて、エンジン14の回転変動強制力を消滅させるエンジン停止制御が実行される。
【0045】
図8は、図7のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートである。この図8では、エンジン14の回転変動強制力を抑制するエンジン制御を実行しなかった場合のタイムチャートを示して両者を比較している。本実施例の制御作動を実行した場合には、実行しなかった場合と比較して、例えばパワートレーン1次共振域における変動回転速度ΔNEが小さくされる。そして、パワートレーン1次共振域において、例えば最大音圧が115dBから89dBへ低下されて衝撃音が抑制されている。また、例えば車両加速度が1.2Gから0.5Gへ低下されて車両振動が抑制されている。また、例えばエンジン14での発生トルクが2900Nmから1300Nmへ低下されて衝撃トルク(インパクトトルク)が抑制されている。
【0046】
図9は、本実施例のエンジン制御を実行した場合(●印)、所定条件でのみ共振判定してエンジン制御を実行した場合(◇印)、及びそのようなエンジン制御を実行しなかった場合(○印)の各々の場合において、共振発生時の最大入力トルク(インパクトトルク)のばらつきを示す図である。また、図10は、上記各々の場合における保証回数の効果を示す図表である。図9、図10において、本実施例のエンジン制御を実行した場合には、所定条件でのみ共振判定してエンジン制御を実行した場合に比較して、平均NEのより低回転側までエンストが発生し難くなると共にインパクトトルクが低く抑えられつつばらつきも抑制されている。その為、保証回数(エンジン14やDMF20等の耐久性が損なわれたと判断されるまでの共振発生回数)も数段多くなっている。また、このようなエンジン制御を実行しなかった場合との比較では、耐エンスト性では僅かに劣るものの、インパクトトルクが一層低く抑えられつつばらつきも抑制される為、保証回数も格段に多くなっている。このように、本実施例のエンジン制御により、装置(部品)追加等によるコストアップすることなくトルク変動、音、ショック等が大幅に低減される。これにより、例えばエンジン14、エンジン補機部品、DMF20等の部品の強度信頼性が向上する。見方を換えれば、入力トルク低減による部品のダウンサイジング、コスト低減、軽量化が可能となる。また、車両10全体として、振動・騒音等の低減や耐エンスト性等の改善によりドライバビリティが向上する。
【0047】
上述のように、本実施例によれば、前記所定条件が成立した状態で前記エンジン回転速度変化速度が所定値よりも小さくなる時に、例えば平均NEが閾値1よりも低下し且つ変動回転速度ΔNEが閾値2よりも増大したと判定された所定条件の成立状態で瞬間NEの微分値(|d瞬間NE/dt|)或いは平均NEの微分値(|d平均NE/dt|)が零乃至零近傍の制御時期判定閾値(閾値3)よりも小さくなる時に、エンジン14の回転変動強制力が抑制されるので、前記エンジン回転速度変化速度が所定値よりも大きくなる時と比較して、エンジン14の回転変動強制力を抑制する共振判定時のエンジン制御が振動・騒音を発生させるエネルギが小さな略一定の時期にて精度良く実施される。よって、車両10に発生する振動・騒音の低減効果がより向上されることに加え、その低減効果のばらつきも抑制される。つまり、共振判定時のエンジン制御の精度を向上して車両10に発生する振動・騒音を精度良く抑制することができる。例えばエンジン停止の際に共振が発生する場合、車両に発生する振動・騒音がより低減される。また、例えば共振判定時のエンジン制御に伴うエンストの際に、車両10の振動・騒音を可及的に抑制することもできるし、反対に運転者にエンストを容易に認知されるように車両10の振動・騒音を適度に残すこともできる。
【0048】
また、本実施例によれば、前記エンジン回転速度変化速度が所定値よりも小さくなる時とは、瞬間NEの微分値(|d瞬間NE/dt|)或いは平均NEの微分値(|d平均NE/dt|)が零乃至零近傍の制御時期判定閾値としての閾値3よりも小さくなる時である。このようにすれば、前記エンジン回転速度変化速度が所定値よりも小さくなる時が精度良く判断される。
【0049】
また、本実施例によれば、エンジン14への燃料供給を停止するか或いは抑制すること(すなわちインジェクタ30からの燃料噴射量を停止或いは抑制すること)、エンジン14の燃焼時期を変更すること(すなわちインジェクタ30からの燃料噴射時期を遅角させること)、及びエンジン14への吸入空気量を抑制すること(すなわち電子スロットル弁36を全閉或いは電子スロットル弁36の開度を低下させること)の複数のエンジン制御のうちの少なくとも1つのエンジン制御により、エンジン14の回転変動強制力が適切に抑制されるか或いは消滅させられる。
【0050】
また、本実施例によれば、エンジン14からの出力がDMF20を介して駆動輪16側へ伝達される車両10において、DMF20によりエンジン14の回転変動に起因する共振が発生する可能性があることに対し、このDMF20の共振判定時のエンジン制御が振動・騒音を発生させるエネルギが比較的小さな略一定の時期にて精度良く実施される。
【0051】
また、本実施例によれば、DMF20の共振点がエンジン14のアイドル回転速度よりも低い回転速度域に予め設定されており、例えばエンジン停止時にはDMF20の共振点を通過することに対して、車両10に発生する振動・騒音を精度良く抑制することができる。また、例えば車速V低下に伴うエンジン回転速度NE低下時にDMF20の共振点を通過することに対して、車両10に発生する振動・騒音を精度良く抑制して共振判定時のエンジン制御に伴うエンストをさせることができる。このエンストの際に、車両10の振動・騒音を可及的に抑制することもできるし、反対に運転者にエンストを容易に認知されるように車両10の振動・騒音を適度に残すこともできる。
【0052】
また、本実施例によれば、前記所定条件は、平均NEがDMF20で決まる共振点に所定安全幅を加えた第1所定閾値Th1(閾値1)よりも低下し、且つ変動回転速度ΔNE(=|瞬間NE−平均NE|)が共振を判断する為の第2所定閾値Th2(閾値2)よりも増大したことであり、その所定条件に加えて前記エンジン回転速度変化速度が所定値よりも小さくなる時を判断する場合には、前記所定条件のみを判断する場合に比較して、上記所定安全幅を小さくして上記閾値1を低く設定すると共に上記閾値2を大きく設定する。このようにすれば、例えば前記所定条件の設定に際し、この所定条件のみで共振判定を行う場合に比較して、加味しなければいけない安全幅を抑制することになって、共振判定のタイミングがより遅らされることから、耐エンスト性が向上させられる。従って、共振判定時のエンジン制御の精度を向上して車両10に発生する振動・騒音の低減効果のばらつきを抑制し、耐エンスト性の向上と共振による振動・騒音の抑制とを両立させることができる。
【0053】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0054】
前述の実施例では、前記エンジン回転速度変化速度が所定値よりも小さくなる時として、瞬間NEの微分値(|d瞬間NE/dt|)或いは平均NEの微分値(|d平均NE/dt|)が零乃至零近傍の制御時期判定閾値(閾値3)よりも小さくなる時を例示した。ここで、エンジン回転変動の周期は、回転0.5次つまり4気筒4サイクルエンジンでいうと爆発気筒タイミングと同期している(図5参照)。また、爆発気筒タイミングはクランク角度ACRと相関関係がある。そこで、瞬間NEの微分値(|d瞬間NE/dt|)或いは平均NEの微分値(|d平均NE/dt|)が零乃至零近傍の制御時期判定閾値(閾値3)よりも小さくなる時と同期するクランク角度ACRを予め求めて所定クランク角度として設定する。例えば、爆発気筒タイミングに対応するクランク角度を基準に所定クランク角度を設定する。つまり、本実施例では、前記エンジン回転速度変化速度が所定値よりも小さくなる時として、クランク角度ACRが前記小さくなる時と同期するクランク角度としてエンジン14の回転変動周期から予め求められた所定クランク角度となる時とする。
【0055】
具体的には、図6に戻り、制御時期判定手段76は、前述の実施例に替えて、前記エンジン回転速度変化速度が所定値よりも小さくなったか否かを、例えばクランク角度ACRが前記小さくなる時と同期するクランク角度としてエンジン14の回転変動周期から予め求められた所定クランク角度となったか否かに基づいて判定する。
【0056】
図11は、電子制御装置70の制御作動の要部すなわち共振判定時のエンジン制御の精度を向上して車両に発生する振動・騒音を精度良く抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。この図11のフローチャートは、図7のフローチャートに相当する別の実施例であり、図7におけるステップS50がステップS50’となっていることが相違するのみである。従って、ステップS50’以外の他のステップについては説明を省略する。
【0057】
図11において、前記S40の判断が肯定される場合は制御時期判定手段76に対応するS50’において、前記エンジン回転速度変化速度が所定値よりも小さくなったか否かが、例えばクランク角度ACRが前記エンジン回転速度変化速度が所定値よりも小さくなる時と同期するクランク角度としてエンジン14の回転変動周期から予め求められた所定クランク角度となったか否かが判定される。上記S10、S20、S30、S40、S50’の判断のうちの何れか1つの判断でも否定される場合は本ルーチンが終了させられるが、上記S50’の判断が肯定される場合はエンジン制御手段78に対応するS60が実行される。
【0058】
上述のように、本実施例によれば、前記エンジン回転速度変化速度が所定値よりも小さくなる時とは、クランク角度ACRが前記小さくなる時と同期するクランク角度としてエンジン14の回転変動周期から予め求められた所定クランク角度となる時である。このようにすれば、前記エンジン回転速度変化速度が所定値よりも小さくなる時が精度良く判断される。
【0059】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0060】
例えば、前述の実施例では、クラッチ22が継合されたクラッチオフ時を条件の1つとしてエンジン14の回転変動強制力を抑制するエンジン制御を実施したが、それに限らず、エンジン回転速度NEが低下していく際のクラッチの解放によって共振域に入り込むようなクラッチオン時(クラッチ断時)に発生するDMF20の引き込み共振にも本発明は適用され得る。このような場合でも、前述と同様の効果が得られる。
【0061】
また、前述の実施例では、フットブレーキペダル52が操作されたブレーキペダルオン時を条件の1つとしてエンジン14の回転変動強制力を抑制するエンジン制御を実施したが、登坂路などのようにブレーキペダルオン時でなくとも車速Vが低下する車両状態が存在することを考慮すれば、必ずしもブレーキペダルオン時を条件の1つとする必要はない。従って、図7や図11のフローチャートにおけるステップS20の判断は必ずしも必要ではない。
【0062】
また、前述の実施例では、瞬間NEの微分値(|d瞬間NE/dt|)或いは平均NEの微分値(|d平均NE/dt|)が閾値3よりも小さくなったときにエンジン14の回転変動強制力を抑制するエンジン制御を実施した。これは、エンジン回転速度NEの上昇時と下降時を区別することなく、エンジン回転変動の中でピーク値乃至ピーク値付近にて上記エンジン制御を実施するというものである。これに対して、エンジン回転速度NEの上昇時と下降時とで振動・騒音等の低減効果に差があるのであれば、より低減効果が得られる方のピーク値乃至ピーク値付近にて上記エンジン制御を実施するようにしても良い。例えば、エンジン回転速度NEの下降時におけるエンジン回転変動のピーク値乃至ピーク値付近にて上記エンジン制御を実施した方が、一層静かにエンジン14を停止できることが予め実験的に確認されておれば、その下降時におけるエンジン回転変動のピーク値乃至ピーク値付近にて上記エンジン制御を実施する。
【0063】
また、前述の実施例では、前記所定条件は、平均NEが閾値1よりも低下したか否か、及び変動回転速度ΔNEが閾値2よりも増大したか否かであった。これに対して、共振判定の精度を向上するために、例えば手動変速機12の各ギヤ段による共振点差、ブレーキ制動力によって異なるエンジン低下速度による制御応答性を考慮して前記所定条件の成立を判定しても良い。そして、そのうえで、前記エンジン回転速度変化速度が所定値よりも小さくなる時に、エンジン14の回転変動強制力を抑制するエンジン制御を実施するようにしても良い。このようにすれば、本発明の効果が一層得られる。
【0064】
また、前述の実施例では、車両10の動力伝達経路にDMF20が備えられていたが、それに限らず、エンジン14の回転変動に起因する共振が発生するダンパであれば本発明は適用され得る。また、必ずしもダンパが備えられる必要はなく、動力伝達経路においてエンジン14の回転変動に起因する共振が発生する車両10であれば本発明は適用され得る。
【0065】
また、前述の実施例では、ブレーキストール時の共振対策としてエンジン14の回転変動強制力を抑制するエンジン制御を実施するものであったが、それに限らず、例えばイグニッションオフや車両停止時のアイドルストップ等によりエンジン14を停止させる際の共振対策としても本発明は適用され得る。従って、本発明が適用される車両10としては例示した手動変速機12を動力伝達装置として備えるものに限らず、例えば動力伝達装置として遊星歯車式の自動変速機或いはベルト式に代表される無段変速機などを備える車両、エンジンと電気モータとを駆動力源として備えるハイブリッド車両などにも本発明は適用され得る。特に、ハイブリッド車両においては、エンジンを停止する頻度が多くなると考えられるので、本発明を適用することによるうれしさが得られやすい。
【0066】
また、前述の実施例において閾値1や閾値2などで示した数値は飽くまで一例であって、これに限らず、例えば車両毎に適合された数値が用いられる。
【0067】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0068】
10:車両
14:エンジン
16:駆動輪
20:デュアルマスフライホイール(ダンパ)
40:プライマリフライホイール
42:セカンダリフライホイール
44:バネ(弾性部材)
70:電子制御装置(エンジン制御装置)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンから駆動輪までの動力伝達経路における該エンジンの回転変動に起因する共振の発生を判断する為の所定条件が成立した場合に該エンジンの回転変動強制力を抑制する車両のエンジン制御装置であって、
前記所定条件が成立した状態で、回転変動を伴うエンジン回転速度の変化速度が所定値よりも小さくなる時に、前記エンジンの回転変動強制力を抑制することを特徴とする車両のエンジン制御装置。
【請求項2】
前記回転変動を伴うエンジン回転速度の変化速度が所定値よりも小さくなる時とは、エンジン回転速度の実際値の微分値或いはエンジン回転速度の平均値の微分値が零乃至零近傍の制御時期判定閾値よりも小さくなる時であることを特徴とする請求項1に記載の車両のエンジン制御装置。
【請求項3】
前記回転変動を伴うエンジン回転速度の変化速度が所定値よりも小さくなる時とは、クランク角度が前記小さくなる時と同期するクランク角度として前記エンジンの回転変動周期から予め求められた所定クランク角度となる時であることを特徴とする請求項1に記載の車両のエンジン制御装置。
【請求項4】
前記エンジンへの燃料供給を停止するか或いは抑制することで、前記エンジンの回転変動強制力を抑制することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の車両のエンジン制御装置。
【請求項5】
前記エンジンへの吸入空気量を抑制することで、前記エンジンの回転変動強制力を抑制することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の車両のエンジン制御装置。
【請求項6】
前記エンジンの燃焼時期を変更することで、前記エンジンの回転変動強制力を抑制することを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の車両のエンジン制御装置。
【請求項7】
前記動力伝達経路には、ダンパが備えられており、
前記エンジンからの出力が前記ダンパを介して前記駆動輪側へ伝達されることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の車両のエンジン制御装置。
【請求項8】
前記ダンパは、2つのフライホイールが弾性部材により接続されたデュアルマスフライホイールであり、
前記デュアルマスフライホイールの共振点は、前記エンジンのアイドル回転速度よりも低い回転速度域に予め設定されていることを特徴とする請求項7に記載の車両のエンジン制御装置。
【請求項9】
前記所定条件は、エンジン回転速度の平均値が前記共振点に所定安全幅を加えた第1所定閾値よりも低下し、且つ前記エンジン回転速度の平均値とエンジン回転速度の実際値との差回転速度が共振を判断する為の第2所定閾値よりも増大したことであり、
前記所定条件に加えて、前記回転変動を伴うエンジン回転速度の変化速度が所定値よりも小さくなる時を判断する場合には、前記所定条件のみを判断する場合に比較して、前記所定安全幅を小さく設定すると共に前記第2所定閾値を大きく設定することを特徴とする請求項8に記載の車両のエンジン制御装置。
【請求項1】
エンジンから駆動輪までの動力伝達経路における該エンジンの回転変動に起因する共振の発生を判断する為の所定条件が成立した場合に該エンジンの回転変動強制力を抑制する車両のエンジン制御装置であって、
前記所定条件が成立した状態で、回転変動を伴うエンジン回転速度の変化速度が所定値よりも小さくなる時に、前記エンジンの回転変動強制力を抑制することを特徴とする車両のエンジン制御装置。
【請求項2】
前記回転変動を伴うエンジン回転速度の変化速度が所定値よりも小さくなる時とは、エンジン回転速度の実際値の微分値或いはエンジン回転速度の平均値の微分値が零乃至零近傍の制御時期判定閾値よりも小さくなる時であることを特徴とする請求項1に記載の車両のエンジン制御装置。
【請求項3】
前記回転変動を伴うエンジン回転速度の変化速度が所定値よりも小さくなる時とは、クランク角度が前記小さくなる時と同期するクランク角度として前記エンジンの回転変動周期から予め求められた所定クランク角度となる時であることを特徴とする請求項1に記載の車両のエンジン制御装置。
【請求項4】
前記エンジンへの燃料供給を停止するか或いは抑制することで、前記エンジンの回転変動強制力を抑制することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の車両のエンジン制御装置。
【請求項5】
前記エンジンへの吸入空気量を抑制することで、前記エンジンの回転変動強制力を抑制することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の車両のエンジン制御装置。
【請求項6】
前記エンジンの燃焼時期を変更することで、前記エンジンの回転変動強制力を抑制することを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の車両のエンジン制御装置。
【請求項7】
前記動力伝達経路には、ダンパが備えられており、
前記エンジンからの出力が前記ダンパを介して前記駆動輪側へ伝達されることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の車両のエンジン制御装置。
【請求項8】
前記ダンパは、2つのフライホイールが弾性部材により接続されたデュアルマスフライホイールであり、
前記デュアルマスフライホイールの共振点は、前記エンジンのアイドル回転速度よりも低い回転速度域に予め設定されていることを特徴とする請求項7に記載の車両のエンジン制御装置。
【請求項9】
前記所定条件は、エンジン回転速度の平均値が前記共振点に所定安全幅を加えた第1所定閾値よりも低下し、且つ前記エンジン回転速度の平均値とエンジン回転速度の実際値との差回転速度が共振を判断する為の第2所定閾値よりも増大したことであり、
前記所定条件に加えて、前記回転変動を伴うエンジン回転速度の変化速度が所定値よりも小さくなる時を判断する場合には、前記所定条件のみを判断する場合に比較して、前記所定安全幅を小さく設定すると共に前記第2所定閾値を大きく設定することを特徴とする請求項8に記載の車両のエンジン制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−52655(P2011−52655A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204457(P2009−204457)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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