説明

車両のエンジン始動制御装置

【課題】 エンジン始動装置の動作電流供給時におけるバッテリ出力電圧の低下を防止して、車両運転を円滑かつ安定化する。
【解決手段】 キャパシタ120は、エンジン起動前には所定電圧以下に放電制御され、エンジン起動後にはバッテリ110からの充電電流により充電される。車両起動後の初回のエンジン起動時には、電流スイッチSW1,SW3のオンおよびSW2のオフにより、バッテリ110からの始動電流I1によってスタータモータ60の動作電流が供給される。一方、エンジン起動後、キャパシタ120の充電完了後にはエコランを許可するとともに、エコランによるエンジン一時停止後の再始動時には、電流スイッチSW1のオフおよびSW2,SW3のオンによって、キャパシタ120からもスタータモータ60の動作電流が供給される。このとき、バッテリ110からは、電流制限抵抗140を介して始動電流I1♯が供給されるので、バッテリ110の出力電圧Vbの低下を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両のエンジン始動制御装置に関し、より特定的には、複数の蓄電装置からの電流供給を受けるエンジン始動装置を備えた車両のエンジン始動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車等の車両では鉛蓄電池等の二次電池(バッテリ)を蓄電装置として備える構成が一般的である。鉛蓄電池等の二次電池は、エネルギ密度が大きいため比較的長時間の使用に耐え得る一方で、一旦過放電となると再充電に時間を要するため、電気二重層コンデンサ等を補助的な蓄電装置として利用するシステムが提案されている。たとえば、動作時に大電流を消費するスタータモータ(エンジン始動装置)の駆動用に、バッテリとは別にコンデンサ(キャパシタ)を配置する構成が提案されている(たとえば特許文献1および2)。
【0003】
また、最近では、燃費の向上を目的として、いわゆるエコノミランニングシステム(以下、単に「エコランシステム」とも称する)を搭載した車両(以下、「エコラン車両」とも称する)が開発されている。このエコランシステムでは、車両が一時的に停止した場合に、所定のエンジン停止条件の成立に応答してエンジンのアイドリングを強制的に止め、そのエンジン停止条件が成立しなくなった時点でエンジンを自動的にクランキングして再始動する。これにより、全体としてのアイドリングの時間が短くなって排気ガスの排出量が削減され、かつ燃費が向上する。この種のエコラン車においては、エンジンの再始動を迅速に行なう必要があるので、エンジンをクランキングするためのスタータモータの電源として、従来のバッテリに代えて、瞬時に大きい電力を放電できるキャパシタを採用することがある。
【0004】
このような、キャパシタおよびバッテリの両方を備えたエコラン車両のエンジン始動装置において、低温時であってもキャパシタから必要十分に電力を放電させてエンジンの始動性や車両の発進加速性を良好にするために、低温時に蓄電装置の出力電圧を昇圧する昇圧手段を備える構成が提案されている(特許文献3)。
【0005】
また、エンジンおよびモータジェネレータを駆動力源として備えたハイブリッド車両において、モータジェネレータ駆動用のキャパシタの電気エネルギが無駄に消費されることを抑制するために、エンジンの始動要求が発生しない場合はキャパシタの電力を補機バッテリに供給する構成が提案されている(たとえば特許文献4)。
【特許文献1】特開平9−247856号
【特許文献2】特開平10−191576号公報
【特許文献3】特開2003−219564号公報
【特許文献4】特開2000−156919号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、バッテリ(代表的には鉛蓄電池)およびキャパシタによって大電流を消費するスタータモータ(エンジン始動装置)の動作電流を供給する構成では、バッテリからは一般的に他の電気機器類への電源供給が合わせて行なわれる。このような構成では、スタータモータへの動作電流供給時にバッテリの出力電圧が低下すると、これらの補機が正常に動作しなくなるおそれがある。
【0007】
たとえば、これらの補機に、エンジンコントロールユニット等の電子制御装置(ECU)を含む場合には、ECU中の演算装置(CPU)がリセット状態となってしまい正常な運転が実行できなくなるおそれがある。特に、エコランシステムによるエンジン一時停止からの復帰時、すなわちエンジン再始動にこのような現象が発生すると、運転を円滑に再開することができず、運転性を大きく損なう。
【0008】
一方、キャパシタは二次電池に比較してパワー密度が高いがエネルギ密度は低いため、キャパシタのみでのスタータモータへの動作電流供給はキャパシタの大型化を招く。また、キャパシタに残余電荷を残したままで長時間放置することは寿命低下につながるため、車両停止時には、キャパシタから残余電荷を抜いておくことが好ましい。
【0009】
したがって、バッテリおよびキャパシタの組合わせによってエンジン始動装置の動作電流を供給する構成において、車両状態に応じて、具体的には、車両起動時のエンジン始動と、その後のエコランシステムによるエンジン一時停止後のエンジン再始動との間で、バッテリおよびキャパシタ間での電流供給バランスを車両状態に応じて適切に変更させる必要がある。
【0010】
この発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、この発明の目的は、バッテリおよびコンデンサ(キャパシタ)の両方によってエンジン始動装置の動作電流供給が可能な車両において、車両状態に応じて両者からの電流供給バランスを適切化して、車両運転を円滑かつ安定化することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明による車両のエンジン始動制御装置は、車両の駆動力を発生するエンジンおよび電力供給を受けて該エンジンを始動するエンジン始動装置を搭載した車両のエンジン始動制御装置であって、第1および第2の蓄電装置と、始動電流制御部とを備える。第1および第2の蓄電装置は、蓄積した電力をエンジン始動装置へ供給可能である。始動電流制御部は、第1および第2の蓄電装置とエンジン始動装置との間に設けられ、第1および第2の蓄電装置のそれぞれからの第1および第2の始動電流の少なくとも一方によってエンジン始動装置の動作電流を供給する。さらに、始動電流制御部は、エンジン始動時における車両の状態に応じて、動作電流のうちの第1および第2の始動電流の割合を制御する。
【0012】
この発明による車両のエンジン始動制御装置では、第1および第2の蓄電装置の両方によってエンジン始動装置の動作電流を供給可能な車両において、車両状態、より具体的には、第1および第2の蓄電装置の出力可能電力を考慮して、両者からの電流供給バランスを適切化した上で、エンジン始動装置の動作電流を供給できる。したがって、消費電力の大きいエンジン始動装置への動作電流供給時に、いずれかの蓄電装置において出力電力過大による出力電圧低下が発生することを防止できるので、車両運転を平滑かつ安定化できる。
【0013】
好ましくは、この発明による車両のエンジン始動制御装置は、車両の駆動力の少なくとも一部によって発電する発電装置をさらに備える。第1の蓄電装置は、発電装置の発電電力によって充電可能な二次電池であり、かつ、エンジン始動装置以外の負荷に対しても電力を供給し、第2の蓄電装置は、コンデンサ(キャパシタ)である。
【0014】
上記の車両のエンジン始動制御装置によれば、エンジン始動装置以外の負荷を有する二次電池およびエンジン始動装置用のコンデンサの組合わせにより、上記負荷への供給電圧の低下を招くことなくエンジン始動装置への動作電流を供給可能な構成を実現できる。
【0015】
さらに好ましくは、この発明による車両のエンジン始動制御装置では、車両は、エンジンの起動後における車両の一時停止時に、所定条件の成立に応答してアイドリングを停止するためにエンジンを一時停止するエコノミランニングシステムをさらに備える。このため、エンジン始動は、車両の起動後の初回のエンジン始動であるエンジン起動と、エンジン起動後にエコノミランニングシステムによるエンジン一時停止後のエンジン始動であるエンジン再始動とを含む。始動電流制御部は、車両の起動前において、第2の蓄電装置の出力電圧が所定電圧以下となるように第2の蓄電装置の放電制御を行なう一方で、エンジンの起動後には、少なくとも一部の期間において第1の蓄電装置から第2の蓄電装置への充電経路を形成する。さらに、始動電流制御部は、エンジン起動時における第1の始動電流よりも、エンジン再始動時における第1の始動電流を小さく設定するとともに、エンジン起動時における第2の始動電流よりもエンジン再始動時における第2の始動電流を大きく設定する。
【0016】
上記の車両のエンジン始動制御装置によれば、車両起動後のエンジン起動時には、第1の蓄電装置(二次電池)による始動電流を主とし、かつ、エコラン後のエンジン再始動時には、第2の蓄電装置(コンデンサ)からの始動電流の割合を増やして、エンジン始動装置の動作電流を供給できる。したがって、エコランシステム搭載車両において、エンジン一時停止から復帰するエンジン再始動に第1の蓄電装置(二次電池)の著しい出力電圧低下を避けることができるので、車両運転を円滑かつ安定的に再開することができる。また、車両停止時(エンジン起動前)には、第2の蓄電装置(コンデンサ)の放電制御を行なうのでコンデンサの寿命を長期化できる。
【0017】
さらに好ましくは、この発明による車両のエンジン始動制御装置では、始動電流制御部は、第1の蓄電装置および電流出力ノードの間に設けられた電流制限用抵抗と、第1の蓄電装置および電流出力ノードの間に、電流制限用抵抗と並列に設けられた第1のスイッチと、第2の蓄電装置および電流出力ノードの間に設けられた第2のスイッチと、電流出力ノードおよびエンジン始動装置の間に設けられた第3のスイッチとを含む。始動電流制御部は、エンジン起動時には、第2のスイッチのオフならびに第1および第3のスイッチのオンによりエンジン始動装置へ電流を供給する一方で、エンジン再始動時には、第1のスイッチのオフならびに第2および第3のスイッチのオンによりエンジン始動装置へ電流を供給する。
【0018】
上記の車両のエンジン始動制御装置によれば、電流制限抵抗および第1から第3の電流スイッチを用いた簡易な回路構成により、車両起動後のエンジン起動時には、第1の蓄電装置(二次電池)によって動作電流を供給し、かつ、エコラン後のエンジン再始動時には、電流制限抵抗を介した二次電池からの始動電流および第2の蓄電装置(コンデンサ)からの始動電流の和によって、エンジン始動装置の動作電流を供給可能な始動電流制御部を構成できる。
【0019】
特にこのような構成において、この発明による車両のエンジン始動制御装置では、始動電流制御部は、第1の蓄電装置から第2の蓄電装置への充電経路が形成される期間の少なくとも一部において、第2のスイッチをオンするとともに、第1および第3のスイッチをオフする。
【0020】
上記の車両のエンジン始動制御装置によれば、電流制限用抵抗を介した接続によって、発電機によって充電可能な第1の蓄電装置(二次電池)から第2の蓄電装置(コンデンサ)への充電経路を簡易に形成できる。すなわち、DC/DCコンバータ等による制御を伴った充電と比較して、全体での電力効率を高めることができる。
【0021】
また、さらに好ましくは、この発明による車両のエンジン始動制御装置では、始動電流制御部は、エンジンの起動後において、第2の蓄電装置の出力電圧に応じてエコノミランニングシステムによるエンジンの一時停止を禁止する。
【0022】
上記の車両のエンジン始動制御装置によれば、長寿命化のために車両停止時(エンジン起動前)に第2の蓄電装置(コンデンサ)を放電制御する構成において、エンジン起動後にコンデンサが十分充電されるまでの間エコランシステムによるエンジン一時停止が禁止される。したがって、エコラン後のエンジン再始動時において、第1の蓄電装置(二次電池)からの出力が過大となって、その出力電圧が低下することをさらに確実に防止できる。この結果、車両運転の安定性がさらに高められる。
【0023】
あるいは好ましくは、この発明による車両のエンジン始動制御装置では、始動電流制御部は、第1および第2の蓄電装置間に設けられた双方向コンバータをさらに含み、第1および第2の蓄電装置の一方は、第1および第2の蓄電装置の他方からの出力によって充電可能である。
【0024】
上記の車両のエンジン始動制御装置によれば、長寿命化のために車両停止時(エンジン起動前)に第2の蓄電装置(コンデンサ)を放電制御する構成において、この放電電流を第1の蓄電装置(二次電池)の充電に用いることができるので、車両全体でのエネルギ効率が向上する。また、エンジン起動後における二次電池からコンデンサへの充電時にもコンバータによる充電電流制御が可能であるので、充電電流が過大となって二次電池の出力電圧の低下を招くことがないので、車両の各機器の動作をさらに安定化できる。
【発明の効果】
【0025】
この発明による車両のエンジン始動制御装置によれば、第1の蓄電装置(二次電池)および第2の蓄電装置(コンデンサ)の両方によってエンジン始動装置への動作電流供給が可能な車両において、車両状態に応じて両者からの電流供給バランスを適切化できる。したがって、消費電力の大きいエンジン始動装置への動作電流供給時に、いずれかの蓄電装置において出力電力過大による出力電圧低下が発生することを防止できるので、車両運転を平滑かつ安定化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下において、この発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は原則として繰返さないものとする。
【0027】
図1は、この発明によるエンジン始動制御装置が搭載された車両10の概略構成を説明するブロック図である。図1では、車両10の全体構成のうち、エンジンおよびその始動装置に関連する部分が代表的に示されている。
【0028】
図1を参照して、車両10は、エンジン20と、変速機(T/M)30と、発電機40と、差動装置(ディファレンシャル)45と、車輪50と、スタータモータ60と、補機類90と、エンジン始動制御装置100とを備える。
【0029】
エンジン20は、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンまたはLPGエンジン等の内燃機関が用いられる。このエンジン20は、燃料噴射装置(図示せず)、潤滑装置(図示せず)、点火装置(図示せず)、冷却装置(図示せず)などを備えた公知の構造のものである。
【0030】
エンジン20を始動させるために、エンジン始動制御装置100からの電流供給によって動作するスタータモータ60が設けられる。代表的には、スタータモータ60として、マグネチックシフト式またはリダクションギヤ式などの公知の直流モータが使用される。
【0031】
スタータモータ60から出力されたトルクがエンジン20のフライホイール(図示せず)に伝達されてエンジン20が始動するとともに、燃料噴射装置による燃料噴射および点火装置の点火によりエンジン20が自律回転する。
【0032】
変速機30および差動装置45は、エンジン20から車輪50への動力伝達経路に配置される。変速機30には、手動操作により変速比を設定することの可能な変速機、または車両の走行状態に基づいて変速比を自動的に制御することの可能な自動変速機とが含まれる。発電機40は、エンジン20による回転力の少なくとも一部によって回転されて発電する。
【0033】
補機類90は、車両10の動作を制御するための電子制御ユニット(ECU)等を含む。すなわち、補機類90へ動作電源を供給するバッテリ110の出力電圧は、少なくともECU内のCPU(図示せず)がリセット状態とならないような所定電圧以上に維持されることが必要である。
【0034】
エンジン始動制御装置100は、バッテリ110と、キャパシタ(コンデンサ)120と、始動電流制御部130とを含んで構成される。
【0035】
バッテリ110は、発電機40の発電電力によって充電可能である。始動電流制御部130は、バッテリ110およびキャパシタ120とスタータモータ60との間に設けられ、バッテリ110およびキャパシタ120のそれぞれからの電流の一方、あるいは両者の和によって、スタータモータ60の動作電流を供給する。キャパシタ(コンデンサ)120は、たとえば電気二重層コンデンサで構成される。
【0036】
図2は、図1に示したエンジン始動制御装置の構成を詳細に説明する回路図である。
【0037】
図2を参照して、バッテリ110は、代表的には鉛蓄電池で構成される。バッテリ110の正極端子に接続されたノードN1には電圧センサ111が設けられる。電圧センサ111による検出電圧、すなわちバッテリ出力電圧Vbは、制御部150へ送出される。
【0038】
キャパシタ120は、相互に直列に接続された複数のキャパシタセルによって構成される。キャパシタ120の正極端子に接続されたノードN2には電圧センサ121が設けられる。電圧センサ121による検出電圧、すなわちキャパシタ出力電圧Vcは、制御部150へ送出される。
【0039】
バッテリ110はこの発明における「第1の蓄電装置」に対応し、キャパシタ120はこの発明における「第2の蓄電装置」に対応する。また、図1での発電機40は、この発明における「発電装置」に対応する。
【0040】
なお、この実施の形態では、「第2の蓄電装置」としてキャパシタ(コンデンサ)120を例示するが、以下に説明するような本願発明で目的とする作用を奏するものであれば、同様の蓄電機能を有する回路または素子等を適用することもできる。
【0041】
始動電流制御部130は、電流スイッチSW1〜SW3と、電流制限抵抗140と、制御部150と、DC/DCコンバータ160とを有する。
【0042】
DC/DCコンバータ160は、バッテリ110によりキャパシタ120を充電する経路と、キャパシタ120によってバッテリ110を充電する経路との両方を形成可能な双方向のコンバータである。DC/DCコンバータ160は、図示しないスイッチング素子を含む。制御部150からのスイッチング制御信号Scvに応答した当該スイッチング素子のオン・オフ制御により、これらの充電経路の選択的な形成および出力電流(充電電流)の一定値制御を行なうことができる。
【0043】
制御部150は、電圧センサ111,121によって検出されたバッテリ出力電圧Vbおよびキャパシタ出力電圧Vcに応じて、電流スイッチSW1〜SW3のオン・オフを制御する制御信号S1〜S3と、双方向DC/DCコンバータ160の動作を制御するスイッチング制御信号Scvを生成する。
【0044】
電流制限抵抗140は、ノードN1およびノードN3の間に接続される。電流スイッチSW1は、ノードN1およびノードN3の間に、電流制限抵抗140と並列に接続される。電流スイッチSW2は、ノードN2およびノードN3の間に接続される。電流スイッチSW3は、ノードN3およびスタータモータ60の間に接続される。すなわち、ノードN3は、この発明における「電流出力ノード」に対応する。電流スイッチSW1〜SW3は、制御部150からの制御信号S1〜S3にそれぞれ応答して、オンまたはオフする。
【0045】
また、図示しない上位ECUによって、エコランシステムが実現される。これにより、車両が一時的に停止した場合に、所定のエンジン停止条件の成立に応答してエンジン20(図1)は一時停止される。たとえば、エンジン停止条件は、車速=0およびアクセル開度=0の状態が所定時間継続することにより成立する。
【0046】
さらに、そのエンジン停止条件が成立しなくなった時点、代表的にはアクセル踏込に応答して、一時停止されたエンジン20はスタータモータ60により再始動される。
【0047】
すなわち、スタータモータ60によるエンジン始動は、イグニッションスイッチのターンオンに相当する車両起動からの初回のエンジン始動(以下、「エンジン起動」とも称する)および、それ以降でのエコランシステムによるエンジン一時停止後のエンジン始動(以下、「エンジン再始動」とも称する)に行なわれる。これらのエンジン始動タイミングは、上位ECU(図示せず)によって指示され、当該上位ECUからの指示に応じて始動電流制御部130は、バッテリ110からの始動電流I1(電流制限抵抗バイパス時)またはI1♯(電流制限抵抗通過時)と、バッテリ110からの始動電流I2との少なくとも一方を、スタータモータ60へ動作電流として供給する。
【0048】
次に、図2に示したエンジン始動制御装置の動作を、図3および図4のフローチャートを用いて説明する。
【0049】
図3および図4は、この発明の実施の形態によるエンジン始動制御装置によるエンジン始動制御ルーチンを説明するフローチャートである。以下に説明するエンジン始動制御は、予め記憶されたプログラムに従って制御部150により実行される。
【0050】
図3を参照して、この発明の実施の形態によるエンジン始動制御は、イグニッションスイッチのオン時およびオフ時では動作が異なる(ステップS100)。
【0051】
イグニッションスイッチのオフ時(ステップS100でのN判定)、すなわち車両起動前には、以下のステップS110〜S130により、キャパシタの長寿命化を図るためのキャパシタ残余電荷を所定レベル以下に抑制する制御が行なわれる。
【0052】
車両起動前には図2に示した電流スイッチSW1〜SW3がオフされた状態で、キャパシタ出力電圧Vcが所定電圧V1より小さいかどうかが判定される(ステップS110)。キャパシタ出力電圧Vcが所定電圧V1よりも高い場合(ステップS110におけるN判定)には、DC/DCコンバータ160は、キャパシタ120の蓄積電荷を源とする充電電流がバッテリ110へ供給されるように動作する(ステップS120)。すなわち、キャパシタ120を放電するために、キャパシタ120からバッテリ110への方向に所定の一定電流が生成されるように、制御部150は、DC/DCコンバータ160のスイッチング制御信号Scvを生成する。
【0053】
上記のキャパシタ放電制御は、ステップS110において、キャパシタ出力電圧Vcが所定電圧V1よりも小さくなるまで実行される。所定電圧V1は、キャパシタ120の特性に基づき、キャパシタ120の寿命に悪影響を与えない低電圧に予め設定される。
【0054】
一方、キャパシタ出力電圧Vcが所定電圧V1以下である場合(ステップS110におけるY判定)には、DC/DCコンバータ160の動作はオフされて、バッテリ110およびキャパシタ120の間に電流経路は形成されない。
【0055】
このように、イグニッションスイッチがオンされるまで、すなわち車両起動前には、キャパシタ120は長寿命化のために十分に放電されており、キャパシタ出力電圧Vcはスタータモータ60の始動には不十分なレベルに抑制されている。
【0056】
イグニッションスイッチがオンされると(ステップS100におけるY判定)、すなわち、車両が起動されても、電流スイッチSW1〜SW3はエンジンの始動要求が発せられるまではオフ状態に維持される。この段階では、バッテリ110の出力電圧低下を避けるために、DC/DCコンバータ160の動作がオフされて、バッテリ110からキャパシタ120への電流経路は形成されない。また、キャパシタ120の蓄積電力が不足しており、キャパシタ出力電圧Vcが低いことから、エコラン許可フラグ=“0”に設定される(ステップS140)。
【0057】
エコラン許可フラグはエコラン運転の実施可否を示している。すなわち、エコラン許可フラグ=“1”のときには、所定のエンジン停止条件成立に応答して、エンジン20が一時停止される(すなわち「エコラン許可」)。一方、エコラン許可フラグ=“0”のときには、同様のエンジン停止条件が成立してもエンジンは一時停止されず、アイドリング運転を継続する(すなわち「エコラン禁止」)。
【0058】
この状態で、エンジンの起動指令が上位ECUより発せられると(ステップS150)、電流スイッチSW1,SW3をオンし電流スイッチSW2をオフすることより、スタータモータ60への動作電流が供給される。これにより、スタータモータ60へは、バッテリ110からは電流制限抵抗140をバイパスした始動電流I1が供給される一方で、キャパシタ120からの始動電流は供給されない(ステップS160)。この始動電流の供給は、エンジンの起動が完了するまで行なわれる(ステップS170におけるN判定)。
【0059】
エンジンの起動が完了すると(S170におけるY判定)電流スイッチSW1〜SW3は一旦すべてオフされる(ステップS180)。エンジン起動後には、図1に示した発電機40によって発電がなされるため、バッテリ110に充電電流が供給可能となる。このため、スタータモータ60起動用の電力をキャパシタ120に蓄えるために、DC/DCコンバータ160は、制御部150からのスイッチング制御信号Scvに応答して、バッテリ110からキャパシタ120へ一定の充電電流を供給するように制御される(ステップS190)。
【0060】
バッテリ110からキャパシタ120への充電は、バッテリ出力電圧Vbおよびキャパシタ出力電圧Vcの電圧差が所定値Vr以下、すなわち|Vc−Vb|<Vrとなるまで継続される(ステップS200のN判定)。
【0061】
バッテリ110およびキャパシタ120の出力電圧差が所定電圧Vr以下に収束すると、DC/DCコンバータ160の動作がオフされてキャパシタ120の充電が中止され、電流スイッチSW2が代わりにオンされる。さらに、この段階でエコラン許可フラグ=“1”に更新され、エコランが許可される(ステップS210)。
【0062】
なお、エンジン始動制御のステップS140以降は、一旦オンされたイグニッションスイッチがオフされるまでの間実行される。イグニッションスイッチがオフされると(ステップS220におけるY判定)、エンジン始動制御は一旦終了され、再び新たなエンジン始動制御が開始されて、イグニッションスイッチオフ時におけるキャパシタ放電制御(ステップS100〜S130)が実行される。
【0063】
また、イグニッションスイッチのオフを検知するステップS220は、図4に示すようなタイミングでの実行に限定されず、上記ステップS140以降において、運転者等のイグニッションスイッチ操作に応答して割込処理的に実行される。
【0064】
エコランが許可された後は、イグニッションスイッチのオンの継続中に(ステップS220におけるNO判定)、所定のエンジン停止条件が成立しているかどうかが逐次チェックされる(ステップS230)。
【0065】
エンジン停止条件の成立時(ステップS230のY判定)には、エンコン許可フラグ=“1”を参照して、上位ECUによりエンジンの一時停止指令が発行される。このとき、始動電流制御部130において、電流スイッチSW2がオフされる(ステップS240)。この状態は、車両一時停止が解除されて、エンジン停止条件が不成立となるまで継続される(ステップS250におけるN判定)。
【0066】
車両一時停止が解除され、エコラン条件が不成立となると(ステップS250におけるY判定)、上位ECUによりエンジン再始動指令が発生される(ステップS260)。
【0067】
ステップS260におけるエンジン再始動指令に応答して、エンジン再始動時には、始動電流制御部130において、電流スイッチSW1がオフされる一方で電流スイッチSW2,SW3がオンされる。これにより、スタータモータ60へは、バッテリ110からは電流制限抵抗140を経由した始動電流I1♯(<I1)および、キャパシタ120からの始動電流I2の和が供給される(ステップS270)。この再始動電流の供給は、エンジンの再始動が完了するまで継続される(ステップS280におけるN判定)。
【0068】
すなわち、エンジン起動時(ステップS160)と比較すると、バッテリ110からの始動電流は、エンジン起動時よりもエンジン再始動時の方が小さく(I1>I1♯)、キャパシタ120からの始動電流は、エンジン起動時よりもエンジン再始動時の方が大きい(I2>0)。
【0069】
エンジン再始動が完了すると(ステップS280におけるY判定)、スタータモータ60への電流供給経路をカットするために電流スイッチSW1,SW3がオフされる。一方、始動電流I2の供給により低下したキャパシタ出力電圧Vcを回復するために、電流スイッチSW2がオンされる(ステップS285)。
【0070】
この段階でのキャパシタ120の必要充電量は、エンジン起動直後での必要充電量(ステップS190)と比較して小さい。このため、DC/DCコンバータ160による定電流制御を行なうことなく、バッテリ110から電流制限抵抗140を介してキャパシタ120を充電しても、過大な充電電流の発生によってバッテリ出力電圧Vbが補機類90(図1)の動作に悪影響を与えるレベルまで低下する可能性は低い。よって、DC/DCコンバータ160を動作させることなく、キャパシタ120を充電できる。
【0071】
電流スイッチSW2のオンに応答したキャパシタ120の充電は、キャパシタ出力電圧Vcが始動電流I2の供給に必要な所定電圧V2以上となるまでの間継続され(ステップS290におけるN判定)、この間エコラン許可フラグ=“0”に設定されて、エコランが禁止される(ステップS300)。
【0072】
キャパシタ出力電圧Vcが所定電圧V2以上に到達すると(ステップS290におけるY判定)、エコラン許可フラグ=“1”に設定されて、再度エコランが許可される(ステップS310)。すなわち、ステップS210直後の状態が再現されて、再びエンジン停止条件の成立に応答して、エンジンを一時停止可能な状態となる。
【0073】
このようなエコランシステムの実現により、車両全体としてのアイドリング時間が短くなって、排ガスの排出量が削減されかつ燃費が向上する。
【0074】
また、キャパシタ出力電圧が十分に上昇していない車両起動時以外のエコラン動作時には、バッテリ110からの始動電流供給を抑制してエンジンを再始動するので、バッテリ110から電源供給を受ける他の機器(図1の補機類90等)に対する電源電圧低下を招くことなく、車両全体動作を円滑化かつ安定化できる。
【0075】
また、図3および図4に示した制御フローでは、キャパシタ出力電圧Vcが一旦上昇した後(ステップS200以降)では、電流スイッチSW2のオンにより電流制限抵抗140を介してバッテリ110からキャパシタ120への充電経路が形成される構成(ステップS285)としたが、この段階でのキャパシタ充電については、電流スイッチSW2をオフして、DC/DCコンバータ160によってキャパシタ120の充電を制御する構成とすることも可能である。
【0076】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】この発明によるエンジン始動制御装置が搭載された車両の概略構成を説明するブロック図である。
【図2】図1に示したエンジン始動制御装置の構成を詳細に説明する回路図である。
【図3】この発明の実施の形態によるエンジン始動制御装置によるエンジン始動制御ルーチンを説明するフローチャートである。
【図4】この発明の実施の形態によるエンジン始動制御装置によるエンジン始動制御ルーチンを説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0078】
10 車両、20 エンジン、30 変速機、40 発電機、45 差動装置、50 車輪、60 スタータモータ、90 補機類、100 エンジン始動制御装置、110 バッテリ、111,121 電圧センサ、120 キャパシタ(コンデンサ)、130 始動電流制御部、140 電流制限抵抗、150 制御部、160 DC/DCコンバータ、I1,I1♯ 始動電流(バッテリから),I2 始動電流(キャパシタから),S1〜S3 制御信号(電流スイッチ)、Scv スイッチング制御信号、SW1〜SW3 電流スイッチ、V1,V2,Vr 所定電圧、Vb バッテリ出力電圧、Vc キャパシタ出力電圧。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動力を発生するエンジンおよび電力供給を受けて該エンジンを始動するエンジン始動装置を搭載した車両のエンジン始動制御装置であって、
蓄積した電力を前記エンジン始動装置へ供給可能な第1および第2の蓄電装置と、
前記第1および第2の蓄電装置と前記エンジン始動装置との間に設けられ、前記第1および第2の蓄電装置のそれぞれからの第1および第2の始動電流の少なくとも一方によって前記エンジン始動装置の動作電流を供給する始動電流制御部とを備え、
前記始動電流制御部は、エンジン始動時における前記車両の状態に応じて、前記動作電流のうちの前記第1および第2の始動電流の割合を制御する、車両のエンジン始動制御装置。
【請求項2】
前記車両の駆動力の少なくとも一部によって発電する発電装置をさらに備え、
前記第1の蓄電装置は、前記発電装置の発電電力によって充電可能な二次電池であり、かつ、前記エンジン始動装置以外の負荷に対しても電力を供給し、
前記第2の蓄電装置は、コンデンサである、請求項1記載の車両のエンジン始動制御装置。
【請求項3】
前記車両は、前記エンジンの起動後における前記車両の一時停止時に、所定条件の成立に応答してアイドリングを停止するために前記エンジンを一時停止するエコノミランニングシステムをさらに備え、
前記エンジン始動は、前記車両の起動後の初回のエンジン始動であるエンジン起動と、前記エンジン起動後に前記エコノミランニングシステムによる前記エンジン一時停止後のエンジン始動であるエンジン再始動とを含み、
前記始動電流制御部は、前記車両の起動前において、前記第2の蓄電装置の出力電圧が所定電圧以下となるように前記第2の蓄電装置の放電制御を行なう一方で、前記エンジンの起動後には、少なくとも一部の期間において前記第1の蓄電装置から前記第2の蓄電装置への充電経路を形成し、
前記始動電流制御部は、エンジン起動時における前記第1の始動電流よりも、前記エンジン再始動時における前記第1の始動電流を小さく設定するとともに、前記エンジン起動時における前記第2の始動電流よりも前記エンジン再始動時における前記第2の始動電流を大きく設定する、請求項2記載の車両のエンジン始動制御装置。
【請求項4】
前記始動電流制御部は、
前記第1の蓄電装置および電流出力ノードの間に設けられた電流制限用抵抗と、
前記第1の蓄電装置および電流出力ノードの間に、前記電流制限用抵抗と並列に設けられた第1のスイッチと、
前記第2の蓄電装置および電流出力ノードの間に設けられた第2のスイッチと、
前記電流出力ノードおよび前記エンジン始動装置の間に設けられた第3のスイッチとを含み、
前記始動電流制御部は、前記エンジン起動時には、前記第2のスイッチのオフならびに前記第1および第3のスイッチのオンにより前記エンジン始動装置へ電流を供給する一方で、前記エンジン再始動時には、前記第1のスイッチのオフならびに前記第2および第3のスイッチのオンにより前記エンジン始動装置へ電流を供給する、請求項3記載の車両のエンジン始動制御装置。
【請求項5】
前記始動電流制御部は、前記第1の蓄電装置から前記第2の蓄電装置への充電経路が形成される期間の少なくとも一部において、前記第2のスイッチをオンするとともに、前記第1および第3のスイッチをオフする、請求項4記載の車両のエンジン始動制御装置。
【請求項6】
前記始動電流制御部は、前記エンジンの起動後において、前記第2の蓄電装置の出力電圧に応じて前記エコノミランニングシステムによるエンジンの一時停止を禁止する、請求項3記載の車両のエンジン始動制御装置。
【請求項7】
前記始動電流制御部は、前記第1および第2の蓄電装置間に設けられた双方向コンバータをさらに含み、
前記第1および第2の蓄電装置の一方は、前記第1および第2の蓄電装置の他方からの出力によって充電可能である、請求項1から6のいずれか1項に記載の車両のエンジン始動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−29142(P2006−29142A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−206208(P2004−206208)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】