説明

車両のエンジン支持構造

【課題】 車両衝突時にエンジンに作用する慣性力に起因したシャーシフレームの変形を抑制する手段を提供する。
【解決手段】 車両のエンジン支持構造は、エンジンマウントと、切断補助具とを備える。エンジンマウントは、車両のシャシフレーム側に一端が固定されるとともに、シャシフレームの内側に配置されたエンジンに他端が固定される。切断補助具は、エンジンマウントから隙間をあけて対向配置されたエッジ部を有し、車両衝突時においてエンジンに作用する慣性力で変形したエンジンマウントの破断をエッジ部により促進させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両衝突時の安全性を高める車両のエンジン支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
キャブオーバ型トラックのシャーシフレームには、硬質ゴム製のエンジンマウントを介してエンジンが取り付けられるとともに、前方部には乗員を収容するキャブが組み付けられる(図8(a)参照)。
【0003】
ここで、図8(b)は、事故時のシャーシフレームの例を示している。キャブオーバ型トラックが正面衝突した場合、エンジンは重量物であるため、大きな慣性力が働く。その慣性力によるエンジンの前方移動に伴って、シャーシフレームにも前方への引張力が作用する(図8(b)の破線部分参照)。その結果、エンジンに作用する慣性力でシャーシフレームおよびキャブの変形がより大きくなり、事故発生時に乗員の生存空間が狭くなることが懸念されている。なお、特許文献1−3は、エンジンに作用する慣性力を前方に集中させる安全構造が種々開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−168615号公報
【特許文献2】特開2000−272542号公報
【特許文献3】特開2000−272356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の技術では、車両衝突時におけるシャーシフレームの変形抑制が必ずしも十分ではなく、その対策がなお要請されていた。
【0006】
そこで、本発明の目的は、車両衝突時にエンジンに作用する慣性力に起因したシャーシフレームの変形を抑制する手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一の態様に係る車両のエンジン支持構造は、エンジンマウントと、切断補助具とを備える。エンジンマウントは、車両のシャシフレーム側に一端が固定されるとともに、シャシフレームの内側に配置されたエンジンに他端が固定される。切断補助具は、エンジンマウントから隙間をあけて対向配置されたエッジ部を有し、車両衝突時において重量物であるエンジンに作用する大きな慣性力で変形したエンジンマウントに、エッジ部が刺さって破断を促進させる。
【0008】
上記の一の態様において、エンジンは、複数のエンジンマウントによってシャシフレームに取り付けられていてもよい。また、切断補助具は、車両前側に配置されたエンジンマウントに少なくとも設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一の態様によれば、切断補助具のエッジ部が、車両衝突時において重量物であるエンジンに作用する大きな慣性力で変形したエンジンマウントの破断を促進させる。これにより、車両衝突時にはエンジンマウントが破断して、エンジンがシャーシフレームから切り離されるので、エンジンに作用する慣性力に起因したシャーシフレームの変形が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態に係る車両のシャーシフレームの例を示す平面図
【図2】図1のA−A断面図
【図3】図1のB−B断面図
【図4】本実施形態の車両前側におけるエンジン支持構造を示す要部模式図
【図5】切断補助具の斜視図
【図6】車両の正面衝突時におけるエンジン支持構造の状態を示す図
【図7】図4に示すエンジン支持構造の変形例を示す図
【図8】従来例における車両衝突時のシャーシフレームの変形を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本実施形態に係る車両のシャーシフレームの例を示す平面図である。ここで、本実施形態では、キャブオーバ型トラックの例を説明する。なお、図1に示すシャーシフレームの上側には、トラックのキャブ(不図示)が配置される。
【0012】
図1に示すように、キャブオーバ型トラックのシャーシフレーム10は、左右のサイドメンバ11,12と、第1クロスメンバ13および第2クロスメンバ14とを有している。第1クロスメンバ13は、サイドメンバ11,12の前端側に架設される。第2クロスメンバ14は、各サイドメンバ11,12においてエンジン(17)の搭載される部分に架設されている。この第2クロスメンバ14は、左右両端に対して中央部が下側に位置するように屈曲した逆ハット状の形状をなしている(図3参照)。また、各サイドメンバ11,12において、第1クロスメンバ13と第2クロスメンバ14との間の内側面には、内向きに突出するブラケットアーム15がそれぞれ対向して配置されている。
【0013】
また、シャーシフレーム10の内側には、4つの硬質ゴム製のエンジンマウント16を介してエンジン17が取り付けられている。図2に示すように、エンジンマウント16のうちの2つは、左右のブラケットアーム15にそれぞれ一端が接続され、他端がエンジン17の前側にそれぞれ接続されている。また、図3に示すように、エンジンマウント16のうちの2つは、第2クロスメンバ14の中央部上側にそれぞれ一端が接続され、他端がエンジン17の後側にそれぞれ接続されている。また、車両前側に配置されたエンジンマウント16の近傍には、後述する切断補助具18がそれぞれ配置されている。
【0014】
図4は、本実施形態の車両前側におけるエンジン支持構造を示す要部模式図である。また、図5は、切断補助具の斜視図である。車両前側のエンジンマウントは、エンジン側の第1ブラケット16aと、フレーム側の第2ブラケット16bとに固定されている。
【0015】
そして、第1ブラケット16aの車両後方側には、断面コ字状の切断補助具18が配置されている。本実施形態での切断補助具18の幅(図5の上下方向の長さ)は、エンジンマウントの幅よりも幅広となるように形成されている。また、この切断補助具18の一端は、第1ブラケット16aに固定されている。また、切断補助具18の他端にはエッジ18aが形成されている。このエッジ18aは、エンジンマウント16から一定の隙間をあけて、エンジンマウント16と対向するように配置されている。なお、一例として、切断補助具18は、ステンレス等の金属板をコ字状に曲げ加工するとともに、端部を切削してエッジを形成する等の手法で製造される。
【0016】
以下、本実施形態における車両のエンジン支持構造の作用効果を述べる。図6は、車両の正面衝突時におけるエンジン支持構造の状態を示す図である。
【0017】
車両が障壁等と正面衝突した場合、重量物であるエンジン17に作用する慣性力によって、エンジン17が相対的にシャーシフレーム10よりも車両進行方向に先行する。これにより、エンジンマウント16は硬質ゴム製であるため、第1ブラケット16a側が車両進行方向へ引っ張られて変形する。
【0018】
また、エンジン17がシャーシフレーム10よりも車両進行方向に先行することから、第1ブラケット16aに固定された切断補助具18もエンジンマウント16に接近する。そして、切断補助具18のエッジ18aは、変形して伸びたエンジンマウント16の側面に刺さって傷をつける。これにより、エンジンマウント16の傷の部分に応力が集中し、車両前側のエンジンマウント16が車両進行方向に沿って瞬時に破断することとなる。また、車両前側のエンジンマウント16が破断すると、車両後側のエンジンマウント16に大きな応力がかかるようになるため、車両後側のエンジンマウント16も破断する。したがって、車両の正面衝突時には、エンジン17とシャーシフレーム10との連結が解除されることとなる。
【0019】
これにより、車両の正面衝突時には、エンジンマウント16の破断によりエンジン17の慣性力がシャーシフレーム10に伝達されなくなるので、エンジン17の引っ張りによるシャーシフレーム10の変形が抑制される。また、シャーシフレーム10の変形が小さくなることで、事故発生時のキャブの変形量も小さくなる。そのため、本実施形態の構成によれば、事故発生時に乗員の生存空間を比較的広く確保でき、車両の安全性をより向上させることができる。
【0020】
また、本実施形態の構成では、事故発生時以外の通常時には切断補助具18のエッジ18aがエンジンマウント16と離間しているため、切断補助具18がエンジンマウント16を傷つけることはない。そのため、本実施形態の構成は、通常時にエンジンマウント16の耐久性に不利な影響を与えることもない。
【0021】
<実施形態の補足事項>
(1)上記の実施形態の例では、第1ブラケット16aの車両後方に切断補助具18を配置した例を説明したが、本発明の構成は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、図7(a)に示すように、シャーシフレーム10側の第2ブラケット16bの車両前方に切断補助具18を配置してもよい。あるいは、図7(b)に示すように、第1ブラケット16aの車両後方と、第2ブラケット16bの車両前方とにそれぞれ切断補助具18を配置してもよい。
【0022】
(2)上記の実施形態の例では、車両前側のエンジンマウント16に切断補助具18を設けた例を説明したが、本発明の構成は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、車両後側のエンジンマウントにおいて、図4または図7に示すような切断補助具を配置してもよい。あるいは、車両前側および車両後側の各エンジンマウント16にすべて切断補助具18を配置するようにしてもよい(これらの場合の図示は省略する)。
【0023】
以上の詳細な説明により、実施形態の特徴点および利点は明らかになるであろう。これは、特許請求の範囲が、その精神および権利範囲を逸脱しない範囲で前述のような実施形態の特徴点および利点にまで及ぶことを意図する。また、当該技術分野において通常の知識を有する者であれば、あらゆる改良および変更に容易に想到できるはずであり、発明性を有する実施形態の範囲を前述したものに限定する意図はなく、実施形態に開示された範囲に含まれる適当な改良物および均等物によることも可能である。
【符号の説明】
【0024】
10:シャーシフレーム、11,12:サイドメンバ、13:第1クロスメンバ、14:第2クロスメンバ、15:ブラケットアーム、16:エンジンマウント、17:エンジン、18:切断補助具


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のシャシフレーム側に一端が固定されるとともに、前記シャシフレームの内側に配置されたエンジンに他端が固定されるエンジンマウントと、
前記エンジンマウントから隙間をあけて対向配置されたエッジ部を有し、車両衝突時において前記エンジンに作用する慣性力で変形した前記エンジンマウントの破断を前記エッジ部により促進させる切断補助具と、
を備えることを特徴とする車両のエンジン支持構造。
【請求項2】
請求項1に記載の車両のエンジン支持構造において、
前記エンジンは、複数の前記エンジンマウントによって前記シャシフレームに取り付けられるとともに、
前記切断補助具は、車両前側に配置された前記エンジンマウントに少なくとも設けられることを特徴とする車両のエンジン支持構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−121397(P2011−121397A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278602(P2009−278602)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000003908)UDトラックス株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】