説明

車両のカウル部構造

【課題】この発明は、ダッシュアッパパネルとダッシュロアパネルとの結合部における揺動変形を抑制して、車体の振動対策及び騒音対策を図ることができる車両のカウル部構造を提供することを目的とする。
【解決手段】ダッシュロアパネル3と、ダッシュアッパパネル13と、該ダッシュアッパパネル13の上部から前方に延設されてウインドシールドWS下端部を支持するカウルパネル14とを備えており、ダッシュロアパネル3の上部後面側に、車幅方向に延設されるダッシュクロスメンバ8が設けられ、該ダッシュクロスメンバ8の車幅方向中間部の後部に、ダッシュクロスメンバ8とダッシュアッパパネル13とを結合して補強する補強ブラケット19を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ダッシュロアパネルと、ダッシュアッパパネルと、該ダッシュアッパパネルの上部から前方に延設されてウインドシールド下端部を支持するカウルパネルとを備えた車両のカウル部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の中には、車幅方向に延びてエンジンルームと車室とを仕切るダッシュパネルを設けたものがある。下記特許文献1では、ダッシュパネルの上部に、車幅方向に延びるダッシュクロスメンバを配設したものが開示されている。
【0003】
ところで、ダッシュパネルの上方には、フロントウインドシールドの下端部を支持するカウルパネルが設けられている。近年では、衝突体が車両前部に衝突した時その衝撃を緩和するために、カウルパネルを含むカウルボックス構造を、その上部が開放された所謂オープンカウル構造とすることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−105561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したオープンカウル構造の場合、ダッシュパネルを上側のダッシュアッパパネルと、下側のダッシュロアパネルとの2部材で構成すると、その結合部が車両前後方向に揺動変形するという問題があった。特に、前記結合部で揺動変形が発生すると、その時の振動が車室の振動と共振した時、大きな騒音となって車室内の乗員に不快感を与えるという問題を引き起こす虞がある。
【0006】
この発明は、ダッシュアッパパネルとダッシュロアパネルとの結合部における揺動変形を抑制して、車体の振動対策及び騒音対策を図ることができる車両のカウル部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の車両のカウル部構造は、ダッシュロアパネルと、ダッシュアッパパネルと、該ダッシュアッパパネルの上部から前方に延設されてウインドシールド下端部を支持するカウルパネルとを備えた車両のカウル部構造であって、前記ダッシュロアパネルの上部後面側に、車幅方向に延設されるダッシュクロスメンバが設けられ、該ダッシュクロスメンバの車幅方向中間部の後部に、前記ダッシュクロスメンバと前記ダッシュアッパパネルとを結合して補強する補強ブラケットを設けたものである。
【0008】
ダッシュロアパネルとダッシュアッパパネルとの結合部で揺動変形が生じた時には、特に前記結合部の車幅方向中間部で大きな振動が発生する。この構成によれば、前部車体剛性の向上を図るべく配設されたダッシュクロスメンバの車幅方向中間部の後部にダッシュアッパパネルを結合し、その周辺部を補強することで、前記揺動変形を効果的に抑制でき、車体の振動対策及び騒音対策を図ることができる。
【0009】
この発明の一実施態様においては、前記補強ブラケットの位置に対応して車室内側に突出し、上下方向に延びるビードを、前記ダッシュアッパパネルに形成するとともに、前記補強ブラケットを、前記ビードの突出に対応して断面ハット状に形成し、該ビードの突出と連続するように設けたものである。
【0010】
この構成によれば、上下に長尺な補強ブラケットを用いなくても、ビードと補強ブラケットとの協働により、ダッシュアッパパネルと補強ブラケットとを上下方向において強固に結合することができる。
【0011】
また、車体前部の製造では、先ずダッシュロアパネル、ダッシュクロスメンバ、及び補強ブラケットの三者が予め結合され、その後の工程でダッシュアッパパネルがダッシュロアパネル及び補強ブラケットに結合される。
そこで、補強ブラケットの上下の長さを抑制して、ダッシュロアパネル上端部からの突出量を抑制することで、補強ブラケットを結合した後のダッシュロアパネルを搬送する時には、その積載スペースを抑制でき、積載性を確保することができる。
【0012】
この発明の一実施態様においては、前記カウルパネルの車幅方向中間部を前記ダッシュアッパパネルに支持する支持ブラケットが、前記補強ブラケットと対応する位置に設けられており、前記支持ブラケットは、断面ハット状に形成され、前記ビードを跨ぐようにして前記ダッシュアッパパネルに接合されているものである。
【0013】
この構成によれば、前記結合部における揺動変形を抑制しつつ、カウルパネルの振動を抑制することもできる。そして、支持ブラケットを、上述したビードを跨ぐようにしてダッシュアッパパネルに接合したことにより、断面ハット状の支持ブラケットを、ビード及び補強ブラケットと対向するように配置することができ、前記結合部の補強をより効果的に行うことができる。
【0014】
この発明の一実施態様においては、前記カウルパネルの車幅方向中間部を前記ダッシュアッパパネルに支持する支持ブラケットが設けられているものである。
【0015】
この構成によれば、前記結合部における揺動変形を抑制しつつ、カウルパネルの振動を抑制することもできる。
【0016】
この発明の一実施態様においては、前記ダッシュロアパネルに、前記ダッシュクロスメンバ側に突出する突部を設けるとともに、前記補強ブラケットの下端部を、前記ダッシュクロスメンバを挟んで前記突部に結合するように構成したものである。
【0017】
この構成によれば、補強ブラケットとダッシュロアパネルとの結合強度が向上し、その結果車体の振動対策及び騒音対策の効果をより向上させることができる。
【0018】
この発明の一実施態様においては、前記ダッシュロアパネルの上部に、車幅方向に延びる段部が形成され、前記ダッシュクロスメンバが、前記段部との間で閉断面を形成するように設けられており、前記ダッシュロアパネルと前記ダッシュクロスメンバとの結合部に、前記補強ブラケットの下端部を重合して結合するように構成したものである。
【0019】
この構成によれば、補強ブラケットとダッシュロアパネルとの結合強度が向上し、その結果車体の振動対策及び騒音対策の効果をより向上させることができる。
【0020】
この発明の一実施態様においては、前記ダッシュクロスメンバが、フロントサイドフレームから分岐する分岐フレーム、またはヒンジピラーの少なくとも一方に連結されているものである。
【0021】
この構成によれば、分岐フレームまたはヒンジピラーとの連結により剛性が高められたダッシュクロスメンバを利用して、車体の振動対策及び騒音対策の効果をより向上させることができる。
【発明の効果】
【0022】
この発明によれば、前部車体剛性の向上を図るべく配設されたダッシュクロスメンバの車幅方向中間部の後部にダッシュアッパパネルを結合し、その周辺部を補強することで、前記揺動変形を効果的に抑制でき、車体の振動対策及び騒音対策を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明の実施形態に係る車両のカウルボックス構造を示す側面図。
【図2】図1の車両のカウルボックス周辺の構造を車幅方向外側から見た状態で示す側面図。
【図3】図1の車両のカウルボックス周辺の構造を後方から見た状態で示す斜視図。
【図4】図3の要部の斜視図。
【図5】図1の車両のカウルボックス周辺の構造を前方から見た状態で示す斜視図。
【図6】図5の要部の斜視図。
【図7】図6のA−A線矢視断面図。
【図8】図5の状態からカウルフロントメンバ、カウルフロントクロスメンバを取外した状態を示す斜視図。
【図9】図8のB−B線矢視断面図。
【図10】図8のC−C線矢視断面図。
【図11】ガセット部材付近を示す車室内側からの斜視図であり、ヒンジピラーのヒンジピラーインナを取外した状態を示す図。
【図12】図11の状態からガセット部材を取外した状態を示す斜視図。
【図13】図11のD−D線矢視断面図。
【図14】この発明の他の実施形態に係る車両のカウルボックス構造を示す側断面図。
【図15】この発明のさらに他の実施形態に係る車両のカウルボックス構造を示す側断面図。
【図16】この発明のさらに他の実施形態に係る車両のカウルボックス構造を前方から見た状態で示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳述する。
図1は車両のカウルボックス構造を示す側面図(但し、車幅方向の中間部分から車幅方向外方を見た状態で示す側面図)であり、図2は図1の車両のカウルボックス周辺の構造を車幅方向外側から見た状態で示す側面図、図3は図1の車両のカウルボックス周辺の構造を後方から見た状態で示す斜視図、図4は図3の要部の斜視図、図5は図1の車両のカウルボックス周辺の構造を前方から見た状態で示す斜視図、図6は図5の要部の斜視図、図7は図6のA−A線矢視断面図である。なお、図中において矢印(F)は車体前方、矢印(R)は車体後方を示す。
【0025】
図1、図2に示すように左右一対のヒンジピラー1、1(但し、図面では車両右側のヒンジピラーのみを示す)を設けている。このヒンジピラー1はヒンジピラーインナ2a(図1参照)とヒンジピラーアウタ2b(図2参照)とを接合して、車両の上下方向に延びるピラー閉断面を備えた車体剛性部材である。
【0026】
また、この左右の両ヒンジピラー1、1間、詳しくは左右の両ヒンジピラーインナ2a、2a間にはダッシュロアパネル3を接合固定して、このダッシュロアパネル3でエンジンルームERとその後方の車室4とを前後方向に仕切る一方、ヒンジピラー1の上部には、前部が低く、後部が高くなるようにフロントピラー5を接合固定している。
【0027】
また、上述のダッシュロアパネル3の下部後端部には、フロアパネル6を接合固定している。このフロアパネル6は後方に向けて略水平に延び、車室4の底面を構成するパネルであって、図3、図5に示すように、このフロアパネル6の車幅方向中央部には、車室4内に突出し、かつ前後方向に延びるトンネル部7を一体的に形成している。
【0028】
また、図1、図3、図4、図7に示すように、ダッシュロアパネル3の上部後面側には、車幅方向に延びる断面ハット状のダッシュクロスメンバ8を接合固定し、このダッシュクロスメンバ8とダッシュロアパネル3との間に、車幅方向に延びるダッシュクロス閉断面8aを形成して、前部車体剛性の向上を図るように構成している。
【0029】
また、図1に示すように、上述のフロアパネル6の左右両サイド部(但し、図面では右側の構成のみを示す)には、車両の前後方向に延びるサイドシル9、9を設けている。このサイドシル9はサイドシルインナ10とサイドシルアウタとを接合して、車両の前後方向に延びるサイドシル閉断面を備えた車体剛性部材である。
【0030】
そして、同図に示すように、ヒンジピラー1、フロントピラー5、サイドシル9等で囲繞された前席乗員の昇降口としてのドア開口部11を形成し、このドア開口部11をフロントドア(図示せず)で開閉すべく構成している。
【0031】
上述のフロントドアは、その前端部が、図2に示すような上下一対のドアヒンジ12、12を介してヒンジピラー1に開閉可能に連結されたものである。
【0032】
ところで、図1及び図3〜図7に示すように、上述のダッシュロアパネル3の上端折曲部には、ダッシュアッパパネル13を接合固定している。そして、このダッシュアッパパネル13の上部には、図7に示すように、その上部から前方に延設されてフロントウインドシールドWSの下端部を支持するカウルパネル14の後端部を接合固定している。
【0033】
また、図1、図7に示すように、ダッシュロアパネル3の上端折曲部と、ダッシュアッパパネル13の下端部との接合部位から前方に延びるようにカウルフロントメンバ15を設けると共に、このカウルフロントメンバ15の前側縦壁部との間に、車幅方向に延びる閉断面16を形成すべくカウルフロントメンバ15の前部上側にはカウルフロントクロスメンバ17を取付けている。
【0034】
そして、上述のダッシュアッパパネル13と、カウルパネル14と、カウルフロントメンバ15と、カウルフロントクロスメンバ17とにより車幅方向に延びる所謂オープンカウル構造のカウルボックス18を形成している。
【0035】
また、ダッシュアッパパネル13には、図3、図5に示すように、その車幅方向一端側(ここでは車幅方向左端側)に、略矩形状をなすエア導入口13aが形成されており、このエア導入口13bには、車室4側に設けた空調ユニット(図示せず)が接続される。さらに、ダッシュアッパパネル13の車幅方向中間部後面側には、図3、図4に示すように、車室4(車両後方)側に突出しながら上下方向に延びるビード13bが形成されている。
【0036】
また、ダッシュクロスメンバ8の車幅方向中間部の後部には、図3、図4、図7に示すように、ビード13bの位置に対応して補強ブラケット19が配設されている。補強ブラケット19は、図4に示すように、ビード13bの突出に対応して平面視で断面ハット状をなしており、その車幅方向中央部に車室4側に突出する中央部19aを有するとともに、その両側には接合フランジ部19b、19bを有している。このうち、接合フランジ部19b、19bには、他の部位より車幅方向に拡幅された上下の接合部19c、19dを有している。
【0037】
上述した接合部19c、19dのうち、下側の接合部19c、19cは、ダッシュクロスメンバ8の後部に接合される一方、上側の接合部19d、19dは、ダッシュアッパパネル13のビード13bの車幅方向両側に接合されている。これにより、本実施形態では、ダッシュクロスメンバ8の車幅方向中間部が、補強ブラケット19を介してダッシュアッパパネル13に接合され、その周辺部の補強が図られている。
【0038】
また、補強ブラケット19がダッシュアッパパネル13に接合された状態では、図3、図4に示すように、補強ブラケット19の中央部19aの突出が、ダッシュアッパパネル13のビード13bの突出と上下方向において略連続している。
【0039】
また、補強ブラケット19の位置に対応して、ダッシュアッパパネル13の前面側には、図4〜図7に示すような支持ブラケット20が配設されている。
【0040】
支持ブラケット20は、平面視で断面ハット状をなしており、ダッシュアッパパネル13から前方に向かって突出する中央部20aと、その車幅方向両側に位置する第1接合フランジ部20b、20bと、中央部20a及び第1接合フランジ部20bの上方に位置する第2接合フランジ部20cとを有している。
【0041】
また、支持ブラケット20は、中央部20aと第1接合フランジ部20bとの間にこれらを接続する脚部20d、20dを有しており、その一部には、複数のビード20e、20eが形成されている。これら脚部20d、20dは、その上端部が第2接合フランジ部20cにより接続されている。
【0042】
支持ブラケット20は、第1接合フランジ部20b、20bによりビード13bを跨ぐようにして、ダッシュアッパパネル13の前面に接合されるとともに、第2接合フランジ部20cにより、カウルパネル14の下面に接合されている。これにより、カウルパネル14の車幅方向中間部は、支持ブラケット20により、ダッシュアッパパネル13に支持されている。
【0043】
図8は図5の状態からカウルフロントメンバ15、カウルフロントクロスメンバ17を取外した状態を示す斜視図であり、図9は、図8のB−B線矢視断面図、図10は図8のC−C線矢視断面図である。なお、図中において、矢印(IN)は車体内方、矢印(OUT)は車体外方を示す。
【0044】
図1、図2、図5、図8に示すように、上述のダッシュロアパネル3から前方に離間した位置にはサスペンションタワー21(以下単にサスタワーと略記する)を配設している。
【0045】
さらに、図8に示すように、上述のダッシュアッパパネル13の車幅方向両サイドには、前方に延びる延出部13cを一体形成し、この延出部13cを、連結部材22を介してサスタワートップの後面部にスポット溶接手段等により接合固定している。
【0046】
上述のサスタワー21の上部車幅方向外側には、図1、図2、図5、図8、図9に示すように、ヒンジピラー1の上部から前方に延びるエプロンレインフォースメント23が設けられている。
このエプロンレインフォースメント23は、図9に示すように、主にエプロンレインアウタ24と、エプロンレインインナ25とを備えている。
【0047】
また、上述のサスタワー21の下部車幅方向内側には、フロントサイドフレーム26が接続されており、上述したエプロンレインフォースメント23と略平行に設けられている。
このフロントサイドフレーム26はエンジンルームERの両サイド部において車両前後方向に延び上述のサスタワー21に接続されると共に、後端部が下方に湾曲してフロアフレーム27の前部に接続された車体剛性部材である。
【0048】
また、上述のフロントサイドフレーム26はB−B断面位置においては、図9に示すように、その上下の接合フランジ部26a、26bがサスタワー21の側面部21aに接合固定されて、前後方向に延びる閉断面28を形成している。
【0049】
さらに、上述のフロントサイドフレーム26は、ダッシュロアパネル3の位置において、図1、図5、図8に示すように、このダッシュロアパネル3の下部に接合固定されている。
【0050】
また、フロントサイドフレーム26の前端部には、前方からの衝撃荷重によって車両前後方向に圧縮変形するように構成されたクラッシュボックス(図示せず)を取付けるためのプレート29(図1、図2参照)が取付けられている。そして、このプレート29には、エプロンレインフォースメント23及びフロントサイドフレーム26の前端部に跨るようにして板状の連結部材30が取付けられている。
【0051】
また、本実施形態では、フロントサイドフレーム26のサスタワー配設位置αから上方かつ後方に向けて分岐するように延び、該フロントサイドフレーム26と前述のダッシュロアパネル3の上部とを接続する分岐フレーム31を設けている。
【0052】
この分岐フレーム31は、図1、図2、図5、図8〜図10に示すように、サスタワー21の側面部21aの車幅方向外側に配設されており、図8のB−B断面位置においては、図9に示すように断面略コ字状に形成されると共に、C−C断面位置においては、図10に示すように断面略L字状に形成されている。
【0053】
そして、分岐フレーム31は、図2に示すように、フロントサイドフレーム26に接合される下端フランジ31aと、図2、図5、図8、図9に示すように、分岐フレーム31の長手方向中間部の上下に一体形成された中間上部フランジ31b及び中間下部フランジ31cと、図10に示すように、ダッシュロアパネル3に接合される後端フランジ31dと、を備えている。
【0054】
上述の分岐フレーム31は、サスタワー21の側面部21aの車幅方向外側に接合されて、分岐フレーム31と側面部21aとの間に、前後方向かつ上下方向に連続する閉断面32(図9参照)が形成されている。
【0055】
すなわち、図9に示すB−B線矢視断面位置においては、側面部21aの車幅方向内側の面に、中間上部フランジ31b、中間下部フランジ31cを接合して、側面部21aと分岐フレーム31との間に閉断面32を形成している。
【0056】
一方、図10に示すC−C線矢視断面位置及びその後方においては、側面部21aに中間下部フランジ31cを接合し、かつダッシュロアパネル3の上部車幅方向外側に後端フランジ31dを接合している。これにより、分岐フレーム31とダッシュクロスメンバ8とが連結されている。
【0057】
しかも、図1、図5、図8、図10に示すように、ダッシュロアパネル3の分岐フレーム連結部β(具体的には分岐フレーム31の後端フランジ31dがダッシュロアパネル3と接合される部位)は、後述するガセット部材33が配置される高さと略同一高さ位置に配置されている。そして、本実施形態では、ガセット部材33の前端部と分岐フレーム31の上端部とがダッシュクロスメンバ8を介して対向配置されている。
【0058】
図11は、ガセット部材33付近を示す車室内側からの斜視図であり、ヒンジピラー1のヒンジピラーインナ2aを取外した状態を示す図である。ガセット部材33は、図1、図3、図8に示すように、ヒンジピラーインナ2aの車幅方向内側に配設されている。そして、図10、図11に示すように、車幅方向外側に開口した断面略コ字状の本体部33aと、本体部33aの上下に形成されたフランジ部33bとを有し、全体的な断面形状はハット状とされている。このガセット部材33は、例えば鉄板を加工することによって形成されている。
【0059】
ガセット部材33は、全体的に、前方に向かうにつれて徐々に車幅方向内側に向かうように配設されており、ダッシュクロスメンバ8やガセット部材33を介してヒンジピラーインナ2aと分岐フレーム31の上端部とを連結している。
【0060】
また、ガセット部材33の前端部には、上下方向に間隔をあけて合計2個の取付部33c、33dが形成されている。上方の取付部33cの位置は、ダッシュアッパパネル13の高さ位置となるように位置設定されている。また、下方の取付部33dは、ダッシュクロスメンバ8の高さ位置に対応している。
【0061】
また、ガセット部材33の後端部には、上側のフランジ部33bの角部に取付部33eが形成されるとともに、下側のフランジ部33bから下方に延びる取付部33fが形成され、ガセット部材33は、この各取付部33e、33fで図11、図12に示すヒンジレインフォースメント34に連結されている。
【0062】
図12は、図11の状態からガセット部材33を取外した状態を示す斜視図である。ヒンジピラー1は、図11、図12に示すように、ヒンジピラーインナ2aの車幅方向外側に平面視で略断面ハット状をなすヒンジピラーレインフォースメント2cを有している。そして、ヒンジピラーレインフォースメント2cでは、これが略断面ハット状をなすことにより形成された車幅方向内側の凹部空間に、ヒンジレインフォースメント34が配設されている。
【0063】
ヒンジレインフォースメント34は、図12に示すように、車幅方向外側に向けて膨出された膨出部34aを有して、全体的には、車幅方向内方側に向けて開口されたカップ状に形成されて、剛性の優れたものとなっている。
【0064】
また、ヒンジレインフォースメント34は、その車幅方向内側部分において、上下一対の取付部34b、34cを有する。この取付部34b、34cは、膨出部34aからヒンジピラーインナ2a側に延びており、これらがヒンジピラーインナ2aに取付けられている。
【0065】
ここで、ガセット部材33の取付部33e、33fのうち、取付部33eは、ヒンジレインフォースメント34の上側の取付部34bに対応した位置とされている。一方、取付部33fは、ヒンジレインフォースメント34の下側の取付部34cに対応した位置とされている。
【0066】
本実施形態では、ヒンジピラー1及びヒンジレインフォースメント34とダッシュパネル(ダッシュロアパネル3、ダッシュクロスメンバ8、ダッシュアッパパネル13)とが、ガセット部材33によって連結されている。
【0067】
ガセット部材33と前記ダッシュパネルとの連結は、次のようにして行われている。すなわち、ガセット部材33の前端部の取付部33c、33dのうち、上側の取付部33cが、ダッシュアッパパネル13に対して、ボルト、ナット等の取付部材35を用いて取付けられている。また、下側の取付部33dが、ダッシュクロスメンバ8に対して、ボルト、ナット等の取付部材36を用いて取付けられている。
【0068】
ガセット部材33とヒンジピラー1(ヒンジピラーインナ2a)及びヒンジレインフォースメント34との連結は、次のようにして行われている。すなわち、ガセット部材33の取付部33eとヒンジレインフォースメント34の取付部34bとでヒンジピラーインナ2aを挟んだ状態で、ボルト、ナット等の取付部材37を用いて取付けられる一方、ガセット部材33の取付部33fとヒンジレインフォースメント34の取付部34cとでヒンジピラーインナ2aを挟んだ状態で、ボルト、ナット等の取付部材38を用いて取付けられている。
【0069】
図13は、図11のD−D線矢視断面図である。ヒンジピラー1には、上下のドアヒンジ12に対応してドアヒンジ取付部1a、1a(図13参照)が備えられている。そして、ボディ側ヒンジブラケット39が、ヒンジピラー1におけるドアヒンジ取付部1aに対して、ボルト、ナット等の取付部材40を用いて取付けられている。
【0070】
そして、フロントドア側には、ドア側ヒンジブラケットを取付けたヒンジ取付部が設けられている。ドア側ヒンジブラケットは、ヒンジピンを介してボディ側ヒンジブラケット39に開閉可能に連結され、上下のドアヒンジ12、12が構成されている。
【0071】
ところで、図1等に示すように、カウルボックス18がオープンカウル構造をなすものにおいては、ダッシュロアパネル3とダッシュアッパパネル13との結合部で揺動変形が生じることがあり、特に前記結合部の車幅方向中間部で大きな振動が発生することが分かっている。
【0072】
従って、本実施形態のように、前部車体剛性の向上を図るべく配設されたダッシュクロスメンバ8の車幅方向中間部の後部にダッシュアッパパネル13を結合し、その周辺部を補強することで、前記揺動変形を効果的に抑制でき、車体の振動対策及び騒音対策を図ることができる。
【0073】
また、補強ブラケット19の位置に対応してダッシュアッパパネル13にビード13bを形成し、補強ブラケット19の中央部19aの突出が、ダッシュアッパパネル13のビード13bの突出と上下方向において略連続するように構成することで、上下に長尺な補強ブラケット19を用いなくても、ビード13bと補強ブラケット19との協働により、ダッシュアッパパネル13と補強ブラケット19とを上下方向において強固に結合することができる。
【0074】
また、車体前部の製造では、先ずダッシュロアパネル3、ダッシュクロスメンバ8、及び補強ブラケット19の三者が予め結合され、その後の工程でダッシュアッパパネル13がダッシュロアパネル3及び補強ブラケット19に結合される。
【0075】
そこで、本実施形態のように、補強ブラケット19の上下の長さを抑制して、ダッシュロアパネル3の上端部からの突出量を抑制することで、補強ブラケット19を結合した後のダッシュロアパネル3を搬送する時には、その積載スペースを抑制でき、積載性を確保することができる。
【0076】
また、カウルパネル14の車幅方向中間部をダッシュアッパパネル13に支持する支持ブラケット20を設けたことにより、前記結合部における揺動変形を抑制しつつ、カウルパネル14の振動を抑制することもできる。
【0077】
また、この支持ブラケット20を補強ブラケット19と対応する位置に配設し、この支持ブラケット20(第1接合フランジ部20b、20b)を、上述したビード13bを跨ぐようにしてダッシュアッパパネル13に接合したことにより、断面ハット状の支持ブラケット20を、ビード13b及び補強ブラケット19と対向するように配置することができる。このため、前記結合部の補強をより効果的に行うことができる。
【0078】
また、ダッシュクロスメンバ8の車幅方向端部をフロントサイドフレーム26から分岐する分岐フレーム31に結合したり、ガセット部材33を介してヒンジピラー1に結合したりすることで、ダッシュクロスメンバ8の剛性をより高めることができる。このため、剛性が高められたダッシュクロスメンバ8を利用して、上述した車体の振動対策及び騒音対策の効果をより向上させることができる。
【0079】
ところで、本発明においては、図14、図15に示すように、ダッシュロアパネル53、73とダッシュクロスメンバ8、78との結合部に、補強ブラケット69の下端部69aを重合して接合してもよい。なお、図14、図15において、図1〜図13に示す最初の実施形態と同様の構成要素については、同一の番号を付して説明を省略する。
【0080】
図14に示す実施形態では、ダッシュロアパネル53の一部に、ダッシュクロスメンバ8側に突出する突部53aを設けており、この突部53aとダッシュクロスメンバ8との結合部に、補強ブラケット69の下端部69aが重合して接合されている。換言すれば、補強ブラケット69の下端部69aが、ダッシュクロスメンバ8を挟んで突部53aに結合されるように構成している。そして、図14では、突部53aを隔てて2つのダッシュクロス閉断面58a、58aが形成されている。
【0081】
また、図15に示す実施形態では、ダッシュロアパネル73の上部に車幅方向に延びる段部73aが形成されており、ダッシュクロスメンバ78が、段部73aとの間でダッシュクロス閉断面78aを形成するように設けられている。そして、ダッシュロアパネル73とダッシュクロスメンバ78との結合部に、補強ブラケット69の下端部69aを重合して結合している。
【0082】
ここで、図14、図15に示す補強ブラケット69は、その下端部69aが、ダッシュロアパネル53、73とダッシュクロスメンバ8、78との結合部に接合される一方、上端部69bが、いずれもダッシュアッパパネル13の上端部に接合されている。
【0083】
図14、図15に示すように、ダッシュロアパネル53、73とダッシュクロスメンバ8、78との結合部に補強ブラケット69を重合して接合することで、補強ブラケット69とダッシュロアパネル53、73との結合強度が向上し、その結果車体の振動対策及び騒音対策の効果をより向上させることができる。
【0084】
また、本発明では、図16に示す支持ブラケット80、80、…のように、車幅方向に複数設けてもよい。図16に示す実施形態では、長板状の支持ブラケット80が用いられており、その下端部がダッシュアッパパネル13の前面に接合されている。そして、支持ブラケット80は、ダッシュアッパパネル13の接合部から斜め前方に延び、その上端部がカウルパネル14の下面部に接合されている。
【0085】
このような構成にすることで、各支持ブラケット80において必要とされる支持強度を低く抑えることができ、衝突体が車両前部に衝突した時には、カウルパネル14の変形を促進して、前記衝突体に対する衝撃をより緩和することができる。
【0086】
また、上述した実施形態では、ダッシュクロスメンバ8を分岐フレーム31及びヒンジピラー1に結合することとしているが、必ずしもこれに限定されるものではなく、少なくともいずれか一方と結合していればよい。
【0087】
この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、
この発明の、車両のカウル部は、カウルボックス18に対応し、
閉断面は、ダッシュクロス閉断面78aに対応するも、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【符号の説明】
【0088】
1…ヒンジピラー
3、53、73…ダッシュロアパネル
4…車室
8、78…ダッシュクロスメンバ
13…ダッシュアッパパネル
13b…ビード
18…カウルボックス
19、69…補強ブラケット
20、80…支持ブラケット
26…フロントサイドフレーム
31…分岐フレーム
53a…突部
73a…段部
78a…ダッシュクロス閉断面
WS…ウインドシールド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダッシュロアパネルと、
ダッシュアッパパネルと、
該ダッシュアッパパネルの上部から前方に延設されてウインドシールド下端部を支持するカウルパネルとを備えた車両のカウル部構造であって、
前記ダッシュロアパネルの上部後面側に、車幅方向に延設されるダッシュクロスメンバが設けられ、
該ダッシュクロスメンバの車幅方向中間部の後部に、前記ダッシュクロスメンバと前記ダッシュアッパパネルとを結合して補強する補強ブラケットを設けた
車両のカウル部構造。
【請求項2】
前記補強ブラケットの位置に対応して車室内側に突出し、上下方向に延びるビードを、前記ダッシュアッパパネルに形成するとともに、
前記補強ブラケットを、前記ビードの突出に対応して断面ハット状に形成し、該ビードの突出と連続するように設けた
請求項1記載の車両のカウル部構造。
【請求項3】
前記カウルパネルの車幅方向中間部を前記ダッシュアッパパネルに支持する支持ブラケットが、前記補強ブラケットと対応する位置に設けられており、
前記支持ブラケットは、断面ハット状に形成され、前記ビードを跨ぐようにして前記ダッシュアッパパネルに接合されている
請求項2記載の車両のカウル部構造。
【請求項4】
前記カウルパネルの車幅方向中間部を前記ダッシュアッパパネルに支持する支持ブラケットが設けられている
請求項1または2記載の車両のカウル部構造。
【請求項5】
前記ダッシュロアパネルに、前記ダッシュクロスメンバ側に突出する突部を設けるとともに、
前記補強ブラケットの下端部を、前記ダッシュクロスメンバを挟んで前記突部に結合するように構成した
請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両のカウル部構造。
【請求項6】
前記ダッシュロアパネルの上部に、車幅方向に延びる段部が形成され、
前記ダッシュクロスメンバが、前記段部との間で閉断面を形成するように設けられており、
前記ダッシュロアパネルと前記ダッシュクロスメンバとの結合部に、前記補強ブラケットの下端部を重合して結合するように構成した
請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両のカウル部構造。
【請求項7】
前記ダッシュクロスメンバが、フロントサイドフレームから分岐する分岐フレーム、またはヒンジピラーの少なくとも一方に連結されている
請求項1〜6のいずれか一項に記載の車両のカウル部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−37288(P2011−37288A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183323(P2009−183323)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】