説明

車両の乗員保護装置

【課題】最適なタイミングでリバウンド時の乗員を保護することができ、プリテンショナ機能、及び、フォースリミッタ機能を有するシートベルトにも容易に適用する。
【解決手段】制御部は、プリテンショナ機能が作動完了してからフォースリミッタ機能が作動して引き出されるシートベルトの引き出し長さLvfと予め設定しておいた閾値CABとを比較して、シートベルトの引き出し長さLvfが閾値CABを超えた場合にシートエアバッグ作動の信号をシート内インフレータに出力してガスを発生させ、シートエアバッグを展開させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強い衝撃を受ける車両緊急時にシートベルトをした前席乗員の背面部の衝撃を緩和する車両の乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、強い衝撃を受ける車両緊急時においては、乗員のシートリバウンドによる傷害値を低減する技術として、ヘッドレストまたはシートバックに内蔵されたエアバッグを前面衝突時に乗員の背面に展開させて乗員を保護するものがある(特許第3664878号公報(以下、特許文献1)、特開平6−127331号公報(以下、特許文献2))。
【0003】
上述の特許文献1に開示される構造では、衝突検知とともにシート内のエアバッグが展開するため、乗員とシートの間にエアバッグが膨らむのに十分な空間が無い場合、乗員を適切に保護できない虞がある。
【0004】
そこで、上述の特許文献2では、特開平6−122356号公報(以下、特許文献3)に開示される荷重検出機構付きウェビング巻き取り装置を用いて、所定時間経過後に袋体を膨出させる技術を開示している。これは、ウェビングにかかる荷重が閾値に達するまでシート内エアバッグの展開を遅延させることで、シートバックに乗員が跳ね返された時には既にエアバッグの内圧が低下していて十分な保護ができない、ということを回避しようとしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3664878号公報
【特許文献2】特開平6−127331号公報
【特許文献3】特開平6−122356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、図4(a)の衝突してから発生する傷害値の変化の試験結果の説明図に示すように、リバウンドによる傷害値は、衝突後200msという衝突現象としては比較的遅いタイミングで発生している。従って、シート内エアバッグの展開に要する時間を20msと仮定すると、100ms程度展開を遅延することが効果的と考えられる。しかし、図4(b)のベルト荷重の衝突後の変化の説明図に示すように、ベルト荷重は、衝突後50ms程度でピークに達することから、上述の特許文献2および特許文献3に開示される技術では、最大でも50ms程度しか展開を遅延することができず、最適なタイミングでエアバッグを展開することができないという課題がある。更に、上述の特許文献3に開示される荷重検出機構付きウェビング巻き取り装置では、現在主流である強い衝撃を受ける車両緊急時にシートベルトを瞬時に巻き取り乗員を拘束するプリテンショナ機能、及び、シートベルトに加わる荷重を所定の荷重に維持してシートベルトが引き出されるのを許容するフォースリミッタ機能を有するシートベルトには適用できないという課題もある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、最適なタイミングでリバウンド時の乗員を保護することができ、プリテンショナ機能、及び、フォースリミッタ機能を有するシートベルトにも容易に適用することができる車両の乗員保護装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、着座した乗員のシートベルトの引き出し状態を検出するベルト引出状態検出手段と、上記着座した乗員の背面に対する衝撃を緩和する背面衝撃緩和手段と、上記着座した乗員のシートベルトの引き出し状態に応じて上記背面衝撃緩和手段を作動させる作動制御手段とを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明による車両の乗員保護装置によれば、最適なタイミングでリバウンド時の乗員を保護することができ、プリテンショナ機能、及び、フォースリミッタ機能を有するシートベルトにも容易に適用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の一形態に係る車両の乗員保護装置の概略説明図である。
【図2】本発明の実施の一形態に係る乗員保護制御プログラムのフローチャートである。
【図3】本発明の実施の一形態に係る強い衝撃を受ける車両緊急時において乗員保護制御プログラムが実行された場合の制御の一例を示すタイムチャートである。
【図4】従来における衝突してから発生する傷害値の変化の試験結果とベルト荷重の衝突後の変化の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1において、符号1は車両のフロントシート部2に設けられる乗員保護装置を示し、この乗員保護装置1は、フロントシート部2の例えば助手席側シート3のシートベルト装置4と、着座する乗員5の主として前面部を保護するフロントエアバッグ装置6と、着座する乗員5の主として背面部を保護するシートエアバッグ装置7とを備えて主要に構成されている。
【0012】
シートベルト装置4は、例えば、3点式のシートベルト装置であり、該シートベルト装置4は、乗員5の腰、肩等を保持し、身体を助手席側シート3に拘束するベルト部8と、図示しないセンタピラー下方部に取り付けられてベルト部8を巻取収納するリトラクタ9と、センタピラー上方部に取り付けられてリトラクタ9から上方に引き出されたベルト部8を挿通案内する中継アンカ10と、シートベルト係止部11とから構成される。
【0013】
また、シートベルト装置4は、リトラクタ9が、強い衝撃を受ける車両緊急時にベルト部8を瞬時に巻き取り乗員5を拘束する公知のプリテンショナ機能と、ベルト部8に加わる荷重を所定の荷重に維持してベルト部8がリトラクタ9から引き出されるのを許容する公知のフォースリミッタ機能とを有して構成されている。そして、リトラクタ9は、これらプリテンショナ機能とフォースリミッタ機能が作動した場合及び作動が完了した場合は、それぞれ後述する制御部20に信号出力するようになっている。
【0014】
フロントエアバッグ装置6は、衝突によりガスを発生させるフロントインフレータ12aとそのガスにより展開するフロントエアバッグ12bとから構成されるフロントエアバッグモジュール12が、例えば助手席側シート3前方のインストルメントパネル13内部に格納されて構成されている。このフロントエアバッグ装置6のフロントエアバッグモジュール12は、車両が衝突した時、それを検知するセンサ(図示せず)からの信号に基づきフロントインフレータ12aが作動してガスを発生し、このガスによってフロントエアバッグ12bが展開し、前倒してくる乗員5の頭部から胸部にかけてを展開したフロントエアバッグ12bにて受け止め保護するようになっている。
【0015】
シートエアバッグ装置7は、後述する制御部20からの信号によりガスを発生させるシート内インフレータ14aとそのガスにより展開するシートエアバッグ14bとから構成される、背面衝撃緩和手段としてのシートエアバッグモジュール14が、例えば助手席側シート3内部に格納されて構成されている。そして、制御部20が後述の乗員保護制御プログラムに従って、シートエアバッグ作動の信号を出力した際には、シート内インフレータ14aが作動してガスを発生し、このガスによってシートエアバッグ14bが展開し、フロントエアバッグ12bにより保護された後、助手席側シート3にリバウンドしてくる乗員5の頭部を含む背面を展開したシートエアバッグ14bにて受け止め保護するようになっている。
【0016】
また、フロントシート部2には、シートベルト装置4のリトラクタ9近傍に、ベルト部8の引き出し状態としての、リトラクタ9からのベルト部8の引き出し長さLvを検出する、ベルト引出状態検出手段としてのベルト長さ検出センサ21が設けられている。尚、このベルト長さ検出センサ21は、リトラクタ9内のベルト部8の巻回部の回転角を検出することによりベルト部8の引き出し長さLvを検出するものであっても良い。
【0017】
また、助手席側シート3の下部には、シートスライド位置情報としてシートの前後移動量を検出するシート前後移動量検出センサ22が設けられている。
【0018】
そして、制御部20は、上述のベルト長さ検出センサ21からのベルト部8の引き出し長さLvの信号、シート前後移動量検出センサ22からのシートの前後移動量の信号、リトラクタ9からのプリテンショナ機能の作動、作動完了の信号とフォースリミッタ機能の作動、作動完了の信号に基づいて、後述の乗員保護制御プログラムに従って、乗員5の背面衝撃の緩和を実行する。具体的には、制御部20は、プリテンショナ機能が作動完了してからフォースリミッタ機能が作動して引き出されるシートベルトの引き出し長さLvfと予め設定しておいた閾値CABとを比較して、シートベルトの引き出し長さLvfが閾値CABを超えた場合にシートエアバッグ作動の信号をシート内インフレータ14aに出力してガスを発生させ、シートエアバッグ14bを展開させるようになっている。すなわち、制御部20は、作動制御手段として設けられている。
【0019】
次に、シートエアバッグ装置7の作動を、制御部20で実行される、図2に示す、乗員保護制御プログラムのフローチャートで説明する。
まず、S101でシート状態、すなわち、シート前後移動量検出センサ22からのシートの前後移動量の信号を読み込む。
【0020】
次に、S102に進み、シートの前後移動量に基づいて、予め設定しておいたマップ等を参照してエアバッグ作動閾値CABを設定する。このエアバッグ作動閾値CABのマップは、例えば、シートの前後移動量が前方向に移動されているほどエアバッグ作動閾値CABが小さい値に設定される。
【0021】
次いで、S103に進み、プリテンショナ機能が作動しているか否か判定し、プリテンショナ機能が作動していない場合はプログラムを抜ける。また、プリテンショナ機能が作動している場合は、S104に進む。
【0022】
S104では、作動したプリテンショナ機能が完了するまで待機して、プリテンショナ機能が完了した場合は、S105に進む。
【0023】
S105に進むと、ベルト引き出し長さLvを検出し、プリテンショナ機能完了時ベルト引き出し長さLv0として設定する。
【0024】
次に、S106に進み、フォースリミッタ機能が作動しているか否か判定する。この判定の結果、フォースリミッタ機能が作動していない場合は、S107に進み、予め設定されている一定時間が経過しているか否か判定され、一定時間が経過している場合はプログラムを抜け、一定時間が経過していない場合は、再び、S106に戻って、フォースリミッタ機能が作動したか否かの判定を行う。
【0025】
S106の判定の結果、フォースリミッタ機能が作動している場合は、S108に進み、ベルト引き出し長さLvを検出する。
【0026】
次に、S109に進んで、フォースリミッタ機能作動後ベルト引き出し長さLvfを、以下の(1)式により、算出する。
Lvf=Lv−Lv0 …(1)
【0027】
そして、S110に進み、フォースリミッタ機能作動後ベルト引き出し長さLvfが閾値CABを超えたか(Lvf>CAB)を判定し、フォースリミッタ機能作動後ベルト引き出し長さLvfが閾値CABを超えている場合(Lvf>CABの場合)は、S111に進んで、シートエアバッグ作動信号を出力して、シート内インフレータ14aにガスを発生させ、シートエアバッグ14bを展開させてプログラムを抜ける。
【0028】
また、フォースリミッタ機能作動後ベルト引き出し長さLvfが閾値CAB以下の場合(Lvf≦CABの場合)は、S112に進む。
【0029】
そして、S112では、フォースリミッタ機能が完了しているか否か判定し、フォースリミッタ機能が完了している場合は、シートエアバッグ作動信号を出力することなくプログラムを抜ける。また、フォースリミッタ機能が完了していない場合は、S108からの処理を繰り返す。
【0030】
以上の制御部20で実行されるシートエアバッグ装置7の作動の一例を図3のタイムチャートで説明する。
【0031】
車両が前面衝突等して強い衝撃を受けて乗員5が前方に倒れようとすると、時刻t1で、プリテンショナ機能が作動して、リトラクタ9により、ベルト部8が瞬時に巻き取られて乗員5が助手席側シート3に拘束される(図1(a)の状態)。
【0032】
このプリテンショナ機能は、時刻t2で完了し、その後、時刻t3からは、フォースリミッタ機能が作動して、ベルト部8に加わる荷重が所定の荷重に維持されてベルト部がリトラクタ9から引き出されて、乗員5の胸部等への衝撃が緩和される(図1(b)の状態)。
【0033】
そして、時刻がt4に至ると、フォースリミッタ機能作動後ベルト引き出し長さLvfが閾値CABを超える。これにより、シートエアバッグ作動の信号が、シート内インフレータ14aに出力されてガスが発生させられ、シートエアバッグ14bが展開させられて、助手席側シート3にリバウンドしてくる乗員5の頭部を含む背面が確実に保護される(図1(c)の状態)。
【0034】
次いで、時刻t5では、フォースリミッタ機能が完了される。
【0035】
このように本発明の実施の形態によれば、プリテンショナ機能が作動完了してからフォースリミッタ機能が作動して引き出されるベルト引き出し長さLvfと予め設定しておいた閾値CABとを比較して、ベルト引き出し長さLvfが閾値CABを超えた場合にシートエアバッグ作動の信号を出力してシートエアバッグ14bを展開させるようになっている。このため、最適なタイミングでリバウンド時の乗員を保護することができ、プリテンショナ機能、及び、フォースリミッタ機能を有するシートベルトにも容易に適用することが可能である。
【0036】
そして、適切なタイミングでシートエアバッグ14bを展開できるため、必要最小限のバッグ容量、及び、シート内インフレータ14a出力のシートエアバッグ装置7により、リバウンド時の乗員を保護することができる。
【0037】
また、乗員とシートの間が狭い場合には、シート内のシートエアバッグ14bを展開させないので、シートエアバッグ装置7の不適切な作動を確実に防止することができる。
【0038】
乗員の移動を、シートベルトの引き出し状態であるベルト引き出し長さLvfを基に推定するようにしているので、単純に遅延時間を設定するような制御よりも適切に展開タイミングの制御ができる。
【0039】
尚、本実施の形態では、プリテンショナ機能、及び、フォースリミッタ機能を有するシートベルトについて、プリテンショナ機能、及び、フォースリミッタ機能の作動信号を利用して、プリテンショナ機能が作動完了してからフォースリミッタ機能が作動して引き出されるシートベルトの引き出し長さLvfを基にシートエアバッグ作動を制御するようにしているが、プリテンショナ機能、及び、フォースリミッタ機能の作動信号を利用することなく構成することも可能である。この場合、車両が衝突した後、ベルト引き出し長さLvが最小となってから、引き出されるベルト引き出し長さLvを検出し、所定の閾値を超えた際に、シートエアバッグを作動させるようにすれば良い。
【0040】
また、本実施の形態では、シートベルトの引き出し状態としてリトラクタ9から引き出されるベルト部8の引き出し長さLvを用いているが、ベルト部8の引き出し速度を用いるようにしても良い。この場合、ベルト引き出し長さLvと略同様に、プリテンショナ機能が作動完了してからフォースリミッタ機能が作動して引き出されるシートベルトの引き出し速度と予め設定しておいた閾値とを比較して、シートベルトの引き出し速度が閾値を超えた場合にシートエアバッグ作動の信号を出力してシートエアバッグ14bを展開させるようにする。
【0041】
更に、本実施の形態では、助手席側シート3内部に設けられるシートエアバッグ装置7を例に説明しているが、ヘッドレスト内に設けて主に乗員5の首部、頭部等を保護するエアバッグ装置についても適用でき、また、エアバッグではなくヘッドレストの位置等を変化させる乗員保護装置等にも適用できることは云うまでもない。
【0042】
また、本実施の形態では、ベルト引き出し長さLvfと比較する閾値CABを、シートの前後移動量に基づいて設定するようにしているが、車両の仕様によっては、更に、シートリフター位置により補正して設定するようにしても良く、また、固定値としても良い。
【符号の説明】
【0043】
1 乗員保護装置
2 フロントシート部
3 助手席側シート
4 シートベルト装置
5 乗員
6 フロントエアバッグ装置
7 シートエアバッグ装置
8 ベルト部
9 リトラクタ
12 フロントエアバッグモジュール
12a フロントインフレータ
12b フロントエアバッグ
14 シートエアバッグモジュール(背面衝撃緩和手段)
14a シート内インフレータ
14b シートエアバッグ
20 制御部(作動制御手段)
21 ベルト長さ検出センサ(ベルト引出状態検出手段)
22 シート前後移動量検出センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着座した乗員のシートベルトの引き出し状態を検出するベルト引出状態検出手段と、
上記着座した乗員の背面に対する衝撃を緩和する背面衝撃緩和手段と、
上記着座した乗員のシートベルトの引き出し状態に応じて上記背面衝撃緩和手段を作動させる作動制御手段と、
を備えたことを特徴とする車両の乗員保護装置。
【請求項2】
強い衝撃を受ける車両緊急時に上記シートベルトを瞬時に巻き取り乗員を拘束するプリテンショナ機能と、上記シートベルトに加わる荷重を所定の荷重に維持してシートベルトが引き出されるのを許容するフォースリミッタ機能とを有し、
上記作動制御手段は、上記プリテンショナ機能の作動完了後のシートベルトの引き出し状態と、上記フォースリミッタ機能の作動後のシートベルトの引き出し状態とに基づいて上記背面衝撃緩和手段の作動を判断することを特徴とする請求項1記載の車両の乗員保護装置。
【請求項3】
上記作動制御手段は、上記プリテンショナ機能が作動完了してから上記フォースリミッタ機能が作動して引き出される上記シートベルトの引き出し状態と予め設定しておいた閾値とを比較して上記背面衝撃緩和手段の作動を判断することを特徴とする請求項2記載の車両の乗員保護装置。
【請求項4】
上記予め設定しておいた閾値は、シートスライド位置情報とシートリフター位置情報の少なくとも一方に応じて可変設定することを特徴とする請求項3記載の車両の乗員保護装置。
【請求項5】
上記シートベルトの引き出し状態は、シートベルトの引き出し長さと、シートベルトの引き出し速度のどちらかであることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一つに記載の車両の乗員保護装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−235009(P2010−235009A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86547(P2009−86547)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】