説明

車両の制御装置

【課題】新たなアクチュエータを必要とすることなく車両の走行特性を制御する。
【解決手段】車両1は、エンジン10からのトルクが直接伝達される前輪14,14と、エンジン10からのトルクがカップリング装置30を介して伝達される後輪18,18とを備え、アクチュエータ31によりカップリング装置30の状態を変化させることによって、前後輪のトルク配分を変更するように構成されている。そして、車両1では、カップリング装置30のアクチュエータ31へ出力されるPWM制御出力の周波数を、カップリング装置30によるトルク配分の変更制御を行う場合のPWM制御出力の周波数よりも低周波側へ変更することによって、後輪18,18に対し、その回転方向に沿う振動を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行特性を制御する制御装置に関する。特に、本発明は、路面と駆動輪(以下、タイヤと呼ぶ場合もある)との間の摩擦力を調整することによって車両の走行特性を制御するための構成の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、内燃機関等の駆動源からの駆動力がタイヤに伝達されて走行する車両にあっては、仮に駆動源からの駆動力が同じであったとしても、タイヤと路面との間の摩擦力(摩擦係数)等によって走行特性が変化する。例えば、特許文献1には、電動モータを走行駆動源とする車両に対し、タイヤに振動(微小振動)を与えることで、タイヤと路面との間の摩擦力を調整して走行特性を制御する技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】再公表特許WO02/000463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述した従来の技術では、タイヤに振動を与えるためのアクチュエータ(例えば、電動モータなど)を各タイヤごとに新たに搭載する必要がある。このため、車両の製造コストが大幅に高騰することが懸念される。また、アクチュエータを搭載するための比較的大きなスペースが車体下部に必要となり、車両の設計自由度が大きく阻害されたり、駆動系のレイアウトに大きな制約を与えたりするという問題がある。
【0005】
本発明は、そのような問題点に鑑みてなされたものであり、新たなアクチュエータを必要とすることなく車両の走行特性を制御することが可能な車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するための手段を以下のように構成している。すなわち、本発明は、駆動源からのトルクが直接伝達される主駆動輪と、駆動源からのトルクがカップリング装置を介して伝達される従駆動輪とを備え、アクチュエータによりカップリング装置の係合状態を変化させることで、主駆動輪と従駆動輪のトルク配分を変更するように構成された車両の制御装置であって、上記アクチュエータへ出力される信号の周波数を、上記カップリング装置によるトルク配分の変更制御を行う場合の信号の周波数よりも低周波側へ変更することによって、上記従駆動輪に対し、その回転方向に沿う振動を与えることを特徴としている。
【0007】
上記構成では、カップリング装置のアクチュエータへ出力される信号の周波数を低周波側へ変更することで、従動駆動(タイヤ)が周期的に駆動状態または被駆動状態とされることによって、タイヤにその回転方向の振動が付与される。これにより、タイヤの前後方向の摩擦力(摩擦係数)を低下させることができ、車両の走行抵抗を低減することができ、その結果、燃料消費率の改善を図ることができる。
【0008】
しかも、車両(四輪駆動車)において既存のカップリング装置のアクチュエータを利用し、このアクチュエータへの信号の周波数変更のみによってタイヤに振動を与えられるので、新たなアクチュエータを必要とすることなく車両の走行特性を制御することができる。したがって、車両の製造コストが大幅に高騰することはなく、また、車両の設計の自由度を大きく阻害させたり、駆動系のレイアウトに大きな制約を与えてしまうといったこともなくなる。
【0009】
本発明において、上記信号が、電圧のON/OFFを周期的に繰り返すようなパルス信号とされ、上記パルス信号の周波数が、この周波数と車両の挙動との関係に基づく閾値以下である場合には、上記パルス信号のOFF時電圧を上昇させることが好ましい。
【0010】
上記構成によれば、パルス信号の高電圧時電圧と低電圧時電圧との電圧差が小さくなっているので、アクチュエータへ出力されるパルス信号の周波数を低くすることに起因する、車両の各種のシステムや機能に悪影響を与えることや、乗り心地の悪化などを引き起こすことを抑制できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従駆動輪(タイヤ)にその回転方向の振動を付与することで、タイヤの前後方向の摩擦力を低下させることができ、車両の走行抵抗を低減することができ、その結果、燃料消費率の改善を図ることができる。しかも、車両(四輪駆動車)において既存のカップリング装置のアクチュエータを利用してタイヤに振動を与えるので、新たなアクチュエータを必要とすることなく車両の走行特性を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る車両のパワートレーンの概略構成を模式的に示す図である。
【図2】カップリング装置の概略構成を示す断面図である。
【図3】四輪駆動状態のときECUからアクチュエータに出力されるPWM制御出力の一例を示す図である。
【図4】後輪に振動を与えるためのPWM制御出力の一例を示す図である。
【図5】タイヤに振動を与えた場合と与えない場合の前後方向における摩擦係数とスリップ率の関係を示す図である。
【図6】後輪に振動を与えるためのPWM制御出力の変形例を示す図である。
【図7】図6のPWM制御出力の出力回路の一例を示す図である。
【図8】ECUによって実行される車両の走行特性制御の手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を具体化した実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係る車両1のパワートレーンの概略構成を模式的に示す図である。図1では、車両1として、前輪駆動ベースの四輪駆動車を例示している。
【0015】
図1に示すように、車両1は、駆動源10と、変速機11と、主駆動輪である前輪14,14と、プロペラシャフト16と、カップリング装置30と、従駆動輪である後輪18,18とを備える。さらに、車両1は、この車両1の運転状態、走行状態等を制御するための電子制御装置(ECU)100を備えている。
【0016】
駆動源10は、例えば、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンなどの内燃機関、あるいは電動機(モータ)、あるいはエンジンと力行・回生制御が可能な電動機(モータ・ジェネレータ)とを組み合せたハイブリッドシステムなどを適用可能である。ここでは、駆動源10として、電子スロットルバルブ(図示せず)を備え、出力を電子制御可能なエンジンを用いた例について説明する。このため、以下では、駆動源10を単にエンジン10とも称する。
【0017】
エンジン10の出力側には、変速機11が連結されている。変速機11としては、例えば、選択歯車式変速機、遊星歯車式変速機、ベルト式あるいはトロイダル式の無段変速機などの公知の各種変速機を適用可能である。この実施形態では、変速機11は、変速装置と駆動軸とが一体化されたトランクアクスルとして構成されており、さらに、このトランスアクスルには、フロントデファレンシャルギヤ12が内蔵されている。
【0018】
変速機11は、フロントデファレンシャルギヤ12を介して、左右のフロントドライブシャフト13,13に連結されている。フロントドライブシャフト13,13には、主駆動輪(エンジン10からのトルクが直接伝達される駆動輪)である左右の前輪14,14がそれぞれ連結されている。
【0019】
また、変速機11の出力側には、トランスファギヤ15を介してプロペラシャフト16が連結されている。プロペラシャフト16は、カップリング装置30を介して後輪側出力軸32と連結される。そして、後輪側出力軸32は、リヤデファレンシャルギヤ19を介して左右のリヤドライブシャフト17,17が連結されている。リヤドライブシャフト17,17には、従駆動輪(エンジン10からのトルクがカップリング装置30を介して伝達される駆動輪)である左右の後輪18,18がそれぞれ連結されている。
【0020】
カップリング装置30は、変速機11を介して出力されるエンジン10のトルクを、前輪14,14と後輪18,18との間で、配分して伝達する機能を備えている。カップリング装置30は、アクチュエータ31を備えている。そして、アクチュエータ31によりカップリング装置30の状態を変化させることで、プロペラシャフト16から後輪側出力軸32へ伝達される伝達トルクが制御される。これにより、車両1において、二輪駆動状態と四輪駆動状態とを切り替えたり、四輪駆動状態のときの前後輪のトルク配分を変更したりすることが可能となっている。なお、二輪駆動状態と四輪駆動状態の切り替えは、運転席の近傍に設けられる操作スイッチ108を運転者が操作することによって行うことが可能である。
【0021】
この実施形態では、カップリング装置30として、ECU100からアクチュエータ31へ出力される制御指令に従って、前後輪のトルク配分率を可変制御する電子制御カップリングが用いられている。このカップリング装置(電子制御カップリング)30の概略構成について、図2を参照して簡潔に説明する。
【0022】
図2に示すように、カップリング装置30は、有底円筒状のハウジング33を備えている。ハウジング33は、その底部に設けられた連結軸34を介してプロペラシャフト16(図1)に接続されている。プロペラシャフト16の回転が伝達されると、ハウジング33は、回転中心A1を中心として回転する。
【0023】
ハウジング33の内部には、回転中心A1を中心として回転する筒状のインナーシャフト35が配置されている。インナーシャフト35は、後述するクラッチ機構の係合時に回転可能となり、クラッチ機構の解放時に回転不能となる回転部材である。インナーシャフト35の内周には、回転中心A1を中心として回転する後輪側出力軸32の一端部(図2では左端部)がスプライン嵌合されている。このため、インナーシャフト35と後輪側出力軸32とは、一体的に回転する。後輪側出力軸32の他端(図2では右端)には、ドライブピニオンギヤ32aが設けられており、ドライブピニオンギヤ32aが、リヤデファレンシャルギヤ19のリングギヤ19aと噛み合っている(図1参照)。
【0024】
インナーシャフト35の外周側には、回転中心A1を中心として回転可能な環状の回転子36が配置されている。回転子36は、ハウジング33の内周にねじ結合され、かつ、溶接により回転不能に固定されている。このため、ハウジング33と回転子36とは、一体的に回転する。そして、回転子36の外周側には、アクチュエータ31としての電磁ソレノイドが設けられている。アクチュエータ31は、磁性材料により構成された環状の鉄心31aと、鉄心31aに巻き付けられたコイル31bとを備えている。
【0025】
ハウジング33とインナーシャフト35との間には、クラッチ機構が配置されている。クラッチ機構として、アクチュエータ31により係合・解放されるパイロットクラッチ41と、パイロットクラッチ41の係合・解放動作に連動して係合・解放されるメインクラッチ42とが設けられている。
【0026】
パイロットクラッチ41は、アーマチュア43とクラッチディスク41aとクラッチプレート41bとを備えている。クラッチディスク41aおよびクラッチプレート41bは、アーマチュア43と回転子36との間に配置されている。アーマチュア43およびクラッチディスク41aは、ハウジング33の内周にスプライン嵌合されている。インナーシャフト35の外周には、環状のカム44が装着されている。カム44は、インナーシャフト35に対し相対回転可能に設けられている。カム44の外周にクラッチプレート41bがスプライン嵌合されている。
【0027】
メインクラッチ42は、複数のクラッチディスク42aと、これら複数のクラッチディスク42aと交互に配置された複数のクラッチプレート42bとを備えている。クラッチディスク42aは、ハウジング33の内周にスプライン嵌合され、クラッチプレート42bは、インナーシャフト35の外周にスプライン嵌合されている。
【0028】
メインクラッチ42とパイロットクラッチ41との間には、環状のピストン45が配置されている。ピストン45は、インナーシャフト35の外周にスプライン嵌合されている。カム44およびピストン45の互いに相対向する側には、それぞれのカム面に対応する複数の凹部44a,45aが形成されている。カム44およびピストン45の間には、各凹部44a,45aに嵌め入れられるように複数のボール46(図2では1つのみ示す)が設けられている。
【0029】
ここで、上記構成のカップリング装置30の動作について説明する。
【0030】
まず、アクチュエータ(電磁ソレノイド)31が非励磁状態(OFF状態)である場合には、パイロットクラッチ41およびメインクラッチ42がともに解放状態とされる。このため、カップリング装置30が解放状態とされる。この解放状態では、プロペラシャフト16からハウジング33に伝達されたトルクは、インナーシャフト35および後輪側伝達軸32には伝達されない。したがって、車両1が二輪駆動状態となる。
【0031】
一方、アクチュエータ(電磁ソレノイド)31が励磁状態(ON状態)である場合には、この電磁ソレノイドの周囲に磁束が発生し、アーマチュア43が回転子36側へ引き付けられる。これにより、パイロットクラッチ41のクラッチディスク41aとクラッチプレート41bとが係合される。つまり、パイロットクラッチ41が係合状態とされる。これにより、プロペラシャフト16からハウジング33に伝達されたトルクが、パイロットクラッチ41を介してカム44に伝達される。
【0032】
カム44にトルクが伝達されると、カム44とピストン45とが相対回転する。すると、ボール46をカム44とピストン45の凹部44a,45aの外部に押し出すような力が作用し、カム44とピストン45とが軸方向方向において相互に離反する向きのスラスト荷重が生じる。この際、カム44は、スラスト軸受47により受け止められており、回転子36側に移動することが防止されている。このため、上記スラスト荷重により、ピストン45がメインクラッチ42側に押し付けられ、クラッチディスク42aとクラッチプレート42bとが係合される。つまり、パイロットクラッチ41の係合力が、カム44とボール46とピストン45とにより増幅され、メインクラッチ42に伝達される。メインクラッチ42が係合されると、プロペラシャフト16からハウジング33に伝達されたトルクが、メインクラッチ42を介してインナーシャフト35および後輪側出力軸32に伝達される。これにより、車両1が四輪駆動状態となる。
【0033】
そして、ECU100によってアクチュエータ31に供給する電流を制御することにより、メインクラッチ42の係合力が変化し、カップリング装置30の係合状態が変化する。これにより、プロペラシャフト16から後輪側出力軸32への伝達トルクが変化する。つまり、アクチュエータ31の電流制御によって前後輪のトルク配分率が制御される。アクチュエータ31の電流を大きくするほど、メインクラッチ42の係合力が増大し、プロペラシャフト16から後輪側出力軸32への伝達トルクが増大する。アクチュエータ31の電流が所定値以上になると、直結状態でプロペラシャフト16から後輪側出力軸32にトルクが伝達されるようになる。
【0034】
この実施形態では、アクチュエータ31に供給される電流は、PWM(Pulse Width Modulation)制御によって制御される。例えば、図3に示すようなパルス信号(PWM制御出力)P1が、ECU100からアクチュエータ31へ送られる。アクチュエータ31へ出力されるPWM制御出力P1は、所定電圧Von(例えば12V)のON/OFFを周期的に繰り返すようなパルス信号とされ、その周波数F1(=1/T1)は、例えば、0.5〜15kHzとされる。そして、PWM制御出力P1のデューティ比D1(=t1/T1)を制御することによって、アクチュエータ31に供給される電流の大きさが制御される。デューティ比D1が大きいほど、つまり、周期T1に対するパルス幅t1の値が大きいほど、アクチュエータ31の電流が大きくなる。
【0035】
ECU100は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を含んで構成されている。ROMには、各種制御プログラム、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップなどが記憶されている。CPUは、ROMに記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて各種の演算処理を実行する。RAMは、CPUでの演算結果や、各種センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリである。
【0036】
ECU100には、前輪14,14の回転速度を検出する車輪速センサ101,101、後輪18,18の回転速度を検出する車輪速センサ102,102、車両1のヨーレートを検出するヨーレートセンサ103、ステアリングの操舵角を検出する舵角センサ104、車両1の外気温を検出する外気温センサ105、エンジン10の回転速度を検出するクランクポジションセンサ106、エンジン10の冷却水温度を検出する冷却水温センサ107等を含む各種センサが接続されている。また、ECU100には、上述した二輪駆動状態と四輪駆動状態の切替指示を入力する操作スイッチ108等を含む各種スイッチが接続されている。そして、ECU100は、各種センサおよび各種スイッチからの信号に基づいて、カップリング装置30による前後輪のトルク配分の変更制御、次に述べる車両1の走行特性制御を含む車両1の走行状態の各種制御を実行する。
【0037】
−実施形態の特徴部分−
この実施形態では、カップリング装置30のアクチュエータ31へ出力されるパルス信号の周波数を、カップリング装置30による前後輪のトルク配分の変更制御を行う場合のパルス信号の周波数よりも低周波側へ変更することによって、従駆動輪である後輪18,18に対し、その回転方向に沿う振動を与え、これにより、後輪18,18と路面との間の摩擦力(摩擦係数)を調整して車両1の走行特性を制御している。なお、振動とは、後述するように、車両1の走行抵抗に影響を与えるような振動を意味する。以下、この車両1の走行特性制御について、図1〜図8を参照して詳しく説明する。
【0038】
まず、後輪18,18に対して振動を付与するための具体的な手法について説明する。
【0039】
この実施形態では、後輪18,18に対し、その回転方向に沿う振動を与えるため、ECU100は、カップリング装置30のアクチュエータ31へ、例えば、図4に示すような波形のPWM制御出力P2を出力している。つまり、ECU100は、カップリング装置30による前後輪のトルク配分の変更制御を行うためのPWM制御出力(例えば図3参照)に替えて、図4のようなPWM制御出力P2をカップリング装置30のアクチュエータ31へ送るようにしている。
【0040】
図4のPWM制御出力P2は、図3のPWM制御出力P1と同様に、所定電圧Von(例えば12V)のON/OFFを周期的に繰り返すようなパルス信号とされる。図4のPWM制御出力P2の周波数F2(=1/T2)は、上述した図3のPWM制御出力P1の周波数F1に比べ、大幅に低くなっており(F2≪F1)、図3のPWM制御出力P1の周波数F1の1/100〜1/1000程度に設定されている。言い換えれば、図4のPWM制御出力P2の周期T2が、図3のPWM制御出力P1の周期T1に比べ、大幅に大きくなっており(T1≪T2)、図3のPWM制御出力P1の周期T1の100〜1000倍程度に設定されている。図4のPWM制御出力P2の周波数F2は、例えば、1Hzに設定されている。図4のPWM制御出力P2のデューティ比D2(=t2/T2)は、図3のPWM制御出力P1のデューティ比D1と同一に設定されている。
【0041】
このようなPWM制御出力の周波数変更にともない、所定電圧Vonが印加されている電圧ON状態の時間(図4ではt2)および印加されていない電圧OFF状態の時間(図4ではT2−t2)が、図4のPWM制御出力P2では、図3のPWM制御出力P1に比べ、大幅に長くなる。このため、図3のPWM制御出力P1に替えて、図4のPWM制御出力P2がアクチュエータ31へ出力されると、後輪18,18が次のような挙動を示す。
【0042】
まず、電圧ON状態の間は、カップリング装置30が係合状態となり、前輪14,14および後輪18,18がともに駆動する駆動状態となる。このとき、前輪14,14および後輪18,18は、略同一の回転数で駆動される。一方、電圧OFF状態の間は、カップリング装置30が解放状態となり、前輪14,14のみが駆動状態となる。このとき、後輪18,18は、前輪14,14に追従して回転される被駆動状態となる。電圧ON状態と電圧OFF状態とは、図4に示すように、周期的に繰り返されるので、後輪18,18において、駆動状態と被駆動状態とが周期的に発生することになる。これにより、後輪18,18に対し、その回転方向に沿った振動(微小振動)が与えられることになる。この場合、図4のPWM制御出力P2のデューティ比D2は、図3のPWM制御出力P1のデューティ比D1と同一とされているので、前後輪のトルク配分率は変更されないようになっている。
【0043】
ここで、上述のように後輪(タイヤ)18,18に対して振動を与えた場合の作用について説明する。
【0044】
ここでまず、タイヤ18,18のスリップ率と、タイヤ18,18と路面との間の摩擦係数との対応関係について説明する。タイヤ18,18のスリップ率と、タイヤ18,18と路面との間の摩擦係数との対応関係は、路面条件により異なる。また、上述した如くタイヤ18,18に、その回転方向の振動(微小振動)を与えることで、タイヤ18,18と路面との間の摩擦係数を、任意に調整することが可能であることが知られている。具体的には、タイヤ18,18を回転方向に振動させるときに、その振動の振幅、周波数、位相などを制御することにより、タイヤ18,18と路面との間の摩擦係数を、任意に調整することが知られている。この原理は、上記特許文献1に記載されている。例えば、タイヤ18,18に替えてゴムブロックを用いた摩擦モデルは、下記の振動方程式(1)で表すことができる。
【0045】
【数1】

【0046】
この振動方程式(1)において、Fnは、ゴムブロックが路面に接触する垂直方向の荷重である。このため、μ・Fnは、一定方向に滑るゴムブロックに作用する摩擦力(μは、路面の摩擦係数)となる。また、mは、ゴムブロックの質量、ω0は、ゴムブロックの共振周波数である。この振動方程式(1)を解くことにより、ゴムブロックに振動を与えないときの摩擦力と、ゴムブロックに振動を与えた場合の摩擦力との比μrelが、次の式(2)で求められる。
【0047】
【数2】

【0048】
この式(2)において、μeは、ゴムブロックに振動を与えた場合の摩擦係数、μnは、ゴムブロックに振動を与えないときの摩擦係数、Kは、ゴムブロックと路面との間のバネ定数、Cは、ゴムブロックの減衰係数である。
【0049】
上記の2つの式(1)、(2)から、制御対象となるタイヤ18,18の前後方向、具体的には回転方向に振動を与えることにより、タイヤ18,18と路面との間おける摩擦係数を任意に調整できることが分かる。上記の比μrelは、与える振動の周波数ωに依存し、周波数ωが共振周波数ω0に近づくほど、比μrelの値が小さくなる傾向を示す。また、タイヤ18,18の回転方向に振動を付与することで、タイヤ18,18の前後方向における摩擦係数とスリップ率との関係は、例えば、図5の破線に示すように、スリップ率が増加することにともない摩擦係数が大きくなる傾向になることが知られている。このことは、上記特許文献1にも記載されている。
【0050】
この実施形態では、実際の摩擦係数が、目標摩擦係数となったか否かを推定するため、ECU100には、スリップ率と摩擦係数との関係を示すマップおよびデータが記憶されている。そして、タイヤ18,18のスリップ率を推定するとともに、マップおよびデータから、実際の摩擦係数を推定可能である。なお、各タイヤ18,18のスリップ率は、各タイヤ18,18の回転速度を検出する車輪速センサ102,102の信号に基づいて推定可能であり、その推定方法は、例えば、特開2002−274356号公報、特開平6−258196号公報などに記載されているように周知であるので、具体的な説明を省略する。
【0051】
このように、タイヤ18,18に回転方向の振動を与えることにより、タイヤ18,18と路面との間における前後方向の摩擦係数を調整することが可能である。ここで、タイヤ18,18に振動を与えた場合と与えない場合とを比較すると、前後方向におけるスリップ率が同じであるとすれば、振動を与えた場合の方が、振動を与えない場合に比べて、タイヤ18,18の前後方向の摩擦係数が小さくなることが知られている(図5参照)。このことは、上記特許文献1に記載されている。
【0052】
以上説明したように、この実施形態では、カップリング装置30のアクチュエータ31へ出力されるPWM制御出力の周波数を低周波側へ変更することで、後輪(タイヤ)18,18を周期的に駆動状態または被駆動状態とし、これによって、タイヤ18,18に、その回転方向の振動を付与するようにしている。これにより、図5に示すように、タイヤ18,18の前後方向の摩擦力(摩擦係数)を低下させることができ、車両1の走行抵抗を低減することができ、その結果、燃料消費率の改善を図ることができる。なお、厳密に言えば、図3のPWM制御出力P1がアクチュエータ31へ出力される場合にも、後輪18,18に回転方向の振動が発生する可能性がある。しかし、後輪18,18が回転方向に沿って振動したとしても、上述したように、図3のPWM制御出力P1は高周波であることから、その振動は、車両1の走行抵抗にほとんど影響を与えることはない。
【0053】
既に述べたように、従来の技術では、タイヤに振動を与えるためのアクチュエータ(例えば、電動モータなど)を各タイヤごとに搭載する必要があった。しかし、この実施形態では、四輪駆動車において既存のカップリング装置30のアクチュエータ31を利用し、このアクチュエータ31へのPWM制御出力の周波数変更のみによってタイヤ18,18に振動を与えられるので、新たなアクチュエータを必要とすることなく車両1の走行特性を制御することができる。したがって、車両1の製造コストが大幅に高騰することはなく、また、車両1の設計の自由度を大きく阻害させたり、駆動系(ドライブトレーン)のレイアウトに大きな制約を与えてしまうといったこともなくなる。
【0054】
ところで、カップリング装置30のアクチュエータ31へ出力されるPWM制御出力の周波数を低くするほど、後輪18,18に発生する振動が大きくなり、それにともなって、車両1の挙動変化も大きくなる。このため、車両1の各種のシステムや機能に悪影響を与えたり、乗り心地の悪化などを引き起こすことが懸念される。そこで、図6に示すようなPWM制御出力P3をアクチュエータ31へ出力するようにしてもよい。
【0055】
図6のPWM制御出力P3は、図4のPWM制御出力P2と同様に、周波数F2、デューティ比D2、パルス幅t2のパルス信号とされている。しかし、図6のPWM制御出力P3は、図4のPWM制御出力P2とは異なり、高電圧時電圧Von(例えば12V)と低電圧時電圧Va(例えば8V)が周期的に繰り返すようなパルス信号とされている。つまり、図6のPWM制御出力P3の低電圧時電圧Vaが、図4のPWM制御出力P2のOFF時電圧(0V)よりも高くなっている。このように、図6のPWM制御出力P3では、図4のPWM制御出力P2に比べて、高電圧時電圧Vonと低電圧時電圧Vaとの電圧差(振幅)が小さくなっている。これにより、図6のPWM制御出力P3をカップリング装置30のアクチュエータ31へ送ることによって、アクチュエータ31へ出力されるPWM制御出力の周波数を低くすることに起因する、車両1の各種のシステムや機能に悪影響を与えることや、乗り心地の悪化などを引き起こすことを抑制できる。
【0056】
図6のようなPWM制御出力P3は、例えば、図7に示すような出力回路200によって得ることが可能である。図7に示す出力回路200は、電源VBATT、抵抗R1、R2、トランジスタTR1、TR2、ダイオードD1、D2、電磁ソレノイドSOLを含む回路となっている。電磁ソレノイドSOLは、上述したアクチュエータ31に相当する。電源VBATTは、例えば、車載バッテリ、キャパシタなどとされる。
【0057】
ECU100から出力回路200へ高電圧出力用の出力指示VHと低電圧出力用の出力指示VLとが交互に出力される。高電圧出力用の出力指示VHが出力されると、電源VBATTの電圧(例えば12V)が電磁ソレノイドSOLにそのまま印加される。一方、低電圧出力用の出力指示VLが出力されると、電源VBATTの電圧から抵抗R1による電圧降下分(例えば4V)を差し引いた電圧(例えば8V)が電磁ソレノイドSOLに印加される。
【0058】
そして、ECU100から出力回路200へ出力指示VH、VLを出力する期間を適宜に設定することによって、図6のようなPWM制御出力P3を得ることが可能になる。例えば、高電圧出力用の出力指示VHを出力する期間をt2に設定し、低電圧出力用の出力指示VLを出力する期間を(T2−t2)に設定すればよい。
【0059】
なお、出力回路200によって、図3のようなPWM制御出力P1、図4のようなPWM制御出力P2を得ることも可能である。つまり、ECU100から出力回路200へ高電圧出力用の出力指示VHだけを所定の期間および所定の周期で出力すればよい。例えば、高電圧出力用の出力指示VHを出力する期間をt1に設定し、周期をT1に設定すれば、図3のようなPWM制御出力P1を得ることが可能になる。また、高電圧出力用の出力指示VHを出力する期間をt2に設定し、周期をT2に設定すれば、図4のようなPWM制御出力P2を得ることが可能になる。したがって、出力回路200によって、図3のPWM制御出力P1、図4のPWM制御出力P2、図6のPWM制御出力P3の切り替えを容易に行うことが可能である。
【0060】
次に、上述のような実施形態の特徴部分を適用した車両1の走行特性制御の手順について、図8のフローチャートを参照して説明する。
【0061】
このフローチャートは、ECU100が実行する車両1の走行特性制御に関するものであり、車両1が四輪駆動状態のとき所定時間ごとに繰り返し実行される。車両1が四輪駆動状態であるか否かは、例えば、上述した二輪駆動状態と四輪駆動状態の切替指示を入力する操作スイッチ108からの信号に基づいて判定することが可能である。
【0062】
まず、ECU100は、ステップST1において、カップリング装置30のアクチュエータ31へ出力するPWM制御出力の出力指示値を演算する。この場合、車両1の走行状態を検知する各種センサ等からの信号に基づいて、四輪駆動状態での走行時のPWM制御出力(例えば、図3に示すようなPWM制御出力P1)の出力指示値(デューティ比など)が演算される。
【0063】
次に、ECU100は、ステップST2において、後輪18,18に回転方向に沿った振動を与えることが必要か否かを判定する。言い換えれば、アクチュエータ31へ出力するPWM制御出力の周波数を低周波側へ変更する必要があるか否かを判定する。この判定は、車両1の走行状態を検知する各種センサ等からの信号に基づいて行うことが可能である。ここで、後輪18,18に振動を与えることが必要な場合としては、四輪駆動状態での走行を継続して行うことが必要ではなくなった場合などが挙げられる。例えば、定常走行状態(加減速をほとんど行うことなく走行している状態)での直進走行の場合や、高μ路での直進走行の場合などが挙げられる。
【0064】
そして、ステップST2において否定判定の場合には、ステップST6へ進み、ECU100は、アクチュエータ31へPWM制御出力を出力する。この場合、例えば、図3に示すようなPWM制御出力P1がアクチュエータ31へ出力される。
【0065】
一方、ステップST2において肯定判定の場合には、ステップST3へ進み、ECU100は、アクチュエータ31へ出力するPWM制御出力の周波数を低周波側へ変更する。この場合、車両1の走行状態を検知する各種センサ等からの信号に基づいて、アクチュエータ31へのPWM制御出力の周波数が演算される。
【0066】
次に、ECU100は、ステップST4において、ステップST3で得られたアクチュエータ31へのPWM制御出力の周波数が、閾値Fth以下であるか否かを判定する。この閾値Fthは、アクチュエータ31へのPWM制御出力の周波数と車両1の挙動との関係に基づいて設定されるもので、ECU100のROMに記憶されている。上述したように、アクチュエータ31へ出力されるPWM制御出力の周波数を低くするほど、車両1の挙動変化が大きくなるため、閾値Fthは、車両1の挙動変化を抑制する観点から設定される。
【0067】
そして、ステップST4において否定判定の場合には、ステップST6へ進み、ECU100は、アクチュエータ31へPWM制御出力を出力する。この場合、例えば、図4に示すようなPWM制御出力P2がアクチュエータ31へ出力される。
【0068】
一方、ステップST4において肯定判定の場合には、ステップST5へ進み、ECU100は、アクチュエータ31へ出力するPWM制御出力の低電圧時電圧を0[V]よりも高い電圧に設定する。PWM制御出力の低電圧時電圧は、例えば、上述した図6のPWM制御出力P3の低電圧時電圧Vaとされる。そして、ECU100は、ステップST6において、アクチュエータ31へPWM制御出力を出力する。この場合、例えば、図6に示すようなPWM制御出力P3がアクチュエータ31へ出力される。
【0069】
以上より、車両1の走行状態に応じてカップリング装置30のアクチュエータ31へ出力されるPWM制御出力が変更される。カップリング装置30のアクチュエータ31へ出力するPWM制御出力を図3に示すようなPWM制御出力P1に変更することで、車両1の四輪駆動状態での走行を適切に行うことができる。また、カップリング装置30のアクチュエータ31へ出力するPWM制御出力を図4に示すようなPWM制御出力P2に変更することで、車両1の走行抵抗を低減することができ、燃料消費率の改善を図ることができる。さらに、カップリング装置30のアクチュエータ31へ出力するPWM制御出力を図6に示すようなPWM制御出力P3に変更することで、車両1の走行特性を制御しつつ、車両1の各種のシステムや機能に悪影響を与えることや、乗り心地の悪化などを引き起こすことを抑制できる。
【0070】
−他の実施形態−
本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲内および当該範囲と均等の範囲で包含されるすべての変形や応用が可能である。
【0071】
上述したカップリング装置としての電子制御カップリングの構成(図2参照)は一例であって、アクチュエータによって前後輪のトルク配分率を制御することが可能であれば、他の構成のカップリング装置を用いてもよい。上記実施形態では、アクチュエータを電磁ソレノイドとした例を挙げたが、アクチュエータは、例えば、電動モータ、電磁クラッチ等であってもよい。
【0072】
上記実施形態では、前輪を主駆動輪とし、後輪を従駆動輪とする前輪駆動ベースの四輪駆動車に本発明を適用した例を挙げたが、本発明は、後輪を主駆動輪とし、前輪を従駆動輪とする後輪駆動ベースの四輪駆動車にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、アクチュエータによりカップリング装置の状態を変化させることで、前後輪のトルク配分を変更する四輪駆動車に利用できる。
【符号の説明】
【0074】
1 車両
10 エンジン(駆動源)
18 後輪(タイヤ)
30 カップリング装置
31 アクチュエータ
100 ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源からのトルクが直接伝達される主駆動輪と、駆動源からのトルクがカップリング装置を介して伝達される従駆動輪とを備え、アクチュエータによりカップリング装置の係合状態を変化させることで、主駆動輪と従駆動輪のトルク配分を変更するように構成された車両の制御装置であって、
上記アクチュエータへ出力される信号の周波数を、上記カップリング装置によるトルク配分の変更制御を行う場合の信号の周波数よりも低周波側へ変更することによって、上記従駆動輪に対し、その回転方向に沿う振動を与えることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の制御装置において、
上記信号が、電圧のON/OFFを周期的に繰り返すようなパルス信号とされ、
上記パルス信号の周波数が、この周波数と車両の挙動との関係に基づく閾値以下である場合には、上記パルス信号のOFF時電圧を上昇させることを特徴とする車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−251628(P2011−251628A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126756(P2010−126756)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】