説明

車両の制御装置

【課題】旋回性能向上制御を実行する場合に、エンジンの始動・停止に起因するドライバビリティの低下を回避して、車両の旋回性能を適切に向上させることができる車両の制御装置を提供すること。
【解決手段】少なくとも内燃機関を駆動力源として有し、旋回走行中に該駆動力源の出力によって発生させる駆動力もしくは制動力を補正することによりスタビリティファクタを目標値に追従するように変化させる旋回性能向上制御を実行する車両の制御装置において、前記旋回性能向上制御を実行する場合に、前記内燃機関の運転状態が停止から始動にもしくは燃焼運転から停止に切り替えられることがないように前記駆動力もしくは前記制動力を補正する駆動力補正手段(ステップS2〜S7)を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両のスタビリティファクタを目標値に追従させて変化させるように駆動力や制動力を制御する車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両を旋回走行させる際に、運転者によるステアリング操作に併せて、車両に発生させる駆動力や制動力を自動制御することにより、車両のステアリング特性もしくはスタビリティファクタを安定させ、車両の旋回性能を向上させる技術が開発されている。その一例として、特許文献1には、ドライバ操作外乱や路面外乱の影響を抑圧し、車体姿勢や車両特性を安定化させることを目的とした車両安定化制御システムに関する発明が記載されている。この特許文献1に記載された発明は、スタビリティファクタが目標値に追従するように、推定される走行抵抗外乱や状態量を考慮して車軸トルクを補正するように構成されている。
【0003】
なお、特許文献2には、エンジンの始動要求があった場合でも、車両がコースト走行状態または旋回走行状態であると判断した場合には、エンジンの始動を禁止するように構成したハイブリッド車両の伝達状態切り替え制御装置に関する発明が記載されている。そしてこの特許文献2には、ハイブリッド車両において、例えばバッテリの蓄電量が低下することにより運転者が意図しないエンジンの始動が要求される場合があること、またその場合に、車両の旋回走行中にエンジンをクランキングする制御が実行されると、車輪のトルク配分のバランスが崩れ、車両の操舵特性や走行安全性が悪化してしまうおそれがあることが開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、各車輪の制動力もしくは操舵輪の舵角を正常に制御することができない異常が生じたときに、正常時に比較してアクセルオフ状態におけるエンジンブレーキ力を低減するように構成した車両の走行安定性制御装置に関する発明が記載されている。そしてこの特許文献3には、アクセルオフ状態で車両が旋回走行する場合には、燃料供給の中止を禁止することによりエンジンブレーキ力を低減する点が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−256636号公報
【特許文献2】特開2007−331599号公報
【特許文献3】特開2005−139941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1に記載されている発明では、車両が旋回走行する際に、車両の挙動がスタビリティファクタの目標値に追従するように、すなわち目標とするステアリング特性で車両が旋回走行するように、車両に付与するトルクが補正されて制御される。そのため、車両のステアリング特性を改善し、旋回性能を向上させることができる。しかしながら、例えば、駆動力源としてエンジンおよびモータを搭載したハイブリッド車両や、アイドリングストップ機能を備えたいわゆるエコラン車両など、エンジンの始動・停止が自動制御される車両を制御の対象とした場合、上記のような旋回性能を向上させる制御の実行中にエンジンが始動させられたり、あるいは停止させられることがある。その結果、エンジンの始動もしくは停止に伴って発生するトルク変動により、車両のドライバビリティが低下してしまう可能性があった。
【0007】
例えば、ハイブリッド車両を制御の対象とした場合、図3に示すように、車両の走行中に時刻t1でエンジンが始動させられると、時刻t2でエンジンが停止させられるまでの間、その間のエンジントルクの増大分を補償するため、モータの出力トルクが低下させられる。そのため、車両の総駆動トルクは、ほぼ一定の目標値に維持されることになる。しかしながら、エンジンの停止時および始動時には、振動的なトルク変動が不可避的に発生するので、車両の総駆動トルクにも不可避的なトルク変動が生じ、その結果、総駆動トルクの連続性が途切れてしまう。これが、車両のドライバビリティが低下する要因となり、ひいては、目標とするステアリング特性を適切に実現できなくなる場合もあった。
【0008】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、車両のスタビリティファクタを目標値に追従させて変化させるように駆動力もしくは制動力を制御する場合に、エンジンの始動・停止に起因するドライバビリティの低下を回避して、車両の旋回性能を適切に向上させることができる車両の制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、少なくとも内燃機関を駆動力源として有し、旋回走行中に該駆動力源の出力によって発生させる駆動力もしくは制動力を補正することによりスタビリティファクタを目標値に追従するように変化させる旋回性能向上制御を実行する車両の制御装置において、前記旋回性能向上制御を実行する場合に、前記内燃機関の運転状態が停止から始動にもしくは燃焼運転から停止に切り替えられることがないように前記駆動力もしくは前記制動力を補正する駆動力補正手段を備えていることを特徴とする制御装置である。
【0010】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記駆動力補正手段が、前記旋回性能向上制御を実行する場合に、停止状態の前記内燃機関が始動させられることがないように前記駆動力の補正を制限する手段を含むことを特徴とする制御装置である。
【0011】
さらに、請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記旋回性能向上制御を実行する場合に、燃焼運転状態の前記内燃機関が停止させられることを禁止する内燃機関停止禁止手段を更に備えていることを特徴とする制御装置である。
【0012】
そして、請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記車両が、駆動力源として前記内燃機関と電動機とを有するハイブリッド車両を含み、前記駆動力が、前記内燃機関と共に前記電動機の出力により発生させる駆動力を含み、前記駆動力補正手段が、前記旋回性能向上制御を実行する場合に、停止状態の前記内燃機関が始動させられることがないように前記電動機の出力により発生させる駆動力を補正する手段を含むことを特徴とする制御装置である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、旋回走行中の車両の駆動力もしくは制動力を補正し、スタビリティファクタを目標値に近づけて車両の旋回性能を向上させる旋回性能向上制御を実行する場合、内燃機関の運転状態が切り替えられることがないように、すなわち、停止状態であった内燃機関が始動させられることがないように、もしくは燃焼運転状態であった内燃機関が停止させられることがないように、車両の駆動力もしくは制動力が制御される。そのため、旋回性能向上制御を実行する際に、内燃機関が始動もしくは停止させられることによる振動的なトルク変動の発生を回避することができる。その結果、内燃機関のトルク変動に起因するドライバビリティの低下を防止するとともに、車両の旋回性能を適切に向上させることができる。
【0014】
請求項2の発明によれば、旋回性能向上制御を実行する際に、内燃機関が停止している場合には、その旋回性能向上制御の実行に伴って内燃機関が始動させられることがないように、車両の駆動力もしくは制動力の補正が制限される。例えば、内燃機関の出力による駆動力の補正が抑制され、制動力が補正されることにより、旋回性能向上制御が実行される。そのため、旋回性能向上制御を実行する際に、停止している内燃機関が始動させられることによる振動的なトルク変動の発生を確実に回避することができる。その結果、内燃機関のトルク変動に起因するドライバビリティの低下を確実に防止しつつ、旋回性能向上制御により車両の旋回性能を適切に向上させることができる。
【0015】
請求項3の発明によれば、旋回性能向上制御を実行する際に、内燃機関が運転されている場合には、その内燃機関の停止が禁止される。すなわち、旋回性能向上制御の実行に伴って内燃機関が停止させられることがないように、旋回性能向上制御が実行される。そのため、旋回性能向上制御を実行する際に、燃焼運転されている内燃機関が停止させられることによる振動的なトルク変動の発生を確実に回避することができる。その結果、内燃機関のトルク変動に起因するドライバビリティの低下を確実に防止しつつ、旋回性能向上制御により車両の旋回性能を適切に向上させることができる。
【0016】
請求項4の発明によれば、内燃機関と電動機とを搭載したハイブリッド車両を制御の対象として旋回性能向上制御を実行する際に、内燃機関が停止している場合には、その旋回性能向上制御の実行に伴って内燃機関が始動させられることがないように、電動機の出力による駆動力が補正される。すなわち、内燃機関は燃焼運転されることなく、電動機のみの出力によって車両の駆動力が補正されることにより、旋回性能向上制御が実行される。そのため、旋回性能向上制御を実行する際に、停止している内燃機関が始動させられることによる振動的なトルク変動の発生を確実に回避することができる。その結果、ハイブリッド車両においても、内燃機関のトルク変動に起因するドライバビリティの低下を確実に防止しつつ、旋回性能向上制御により車両の旋回性能を適切に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明に係る車両の制御装置によって実行される制御の一例を説明するためのフローチャートである。
【図2】この発明で制御の対象とする車両の構成および制御系統の一例を示す模式図である。
【図3】従来技術による制御を実行した際に、車両トルクの変動によりドライバビリティが悪化する状況を説明するためのタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
つぎに、この発明の実施例を図面に基づいて説明する。先ず、この発明で制御の対象とする車両の構成および制御系統の一例を図2に示して説明する。この発明で対象とする車両は、運転者によるアクセル操作やブレーキ操作などの運転操作と独立して車両の駆動力および制動力を制御すること、すなわち、運転者による運転操作に基づいた車両の駆動力および制動力の制御とは別に、それら駆動力および制動力を自動制御することが可能な構成となっている。その一例として図2に示す車両Veは、左右の前輪1,2、および左右の後輪3,4を有していて、駆動力源5が出力する動力によりそれら後輪3,4を駆動する後輪駆動車として構成されている。
【0019】
駆動力源5としては、少なくとも1基の内燃機関が搭載されていて、その他に、例えばハイブリッド車両として内燃機関および電動機の両方を駆動力源5として搭載することも可能である。内燃機関(以下、エンジン)としては、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジンあるいは天然ガスエンジンなどを用いることができる。その場合、エンジンすなわち駆動力源5の出力側には、手動変速機や自動変速機などの各種の変速機(図示せず)が用いられる。
【0020】
駆動力源5として搭載されるエンジンには、例えば電子制御式のスロットルバルブあるいは電子制御式の燃料噴射装置が備えられている。したがって、それら電子制御式のスロットルバルブあるいは電子制御式の燃料噴射装置の動作を電気的に制御することにより、駆動力源5の出力を自動制御することができるように構成されている。
【0021】
そして、駆動力源5の出力を制御して後輪3,4の駆動状態を制御するための電子制御装置(ECU)6が備えられている。すなわち、駆動力源5に電子制御装置6が接続されていて、この電子制御装置6によってエンジンすなわち駆動力源5の出力を制御することにより、後輪3,4、すなわち駆動輪3,4で発生させる車両Veの駆動力を自動制御することが可能な構成となっている。
【0022】
すなわち、上記のように駆動力源5としてエンジンが搭載される場合、そのエンジンの電子制御式のスロットルバルブあるいは電子制御式の燃料噴射装置の動作を電子制御装置6で制御することにより、駆動力源5の出力を自動制御して、駆動輪3,4で発生させる車両Veの駆動力を自動制御することができる。例えば、信号待ちや渋滞などによる一時的な停車時にエンジンの燃焼運転を停止するアイドリングストップ機能を備えたいわゆるエコラン車として、車両Veを構成することもできる。
【0023】
なお、車両Veの駆動力源として、上記のようなエンジンに加えて電動機を車両Veに搭載する場合は、その電動機には、例えばインバータを介してバッテリやキャパシタなどの蓄電装置(図示せず)が接続される。そして、その電動機に接続されるインバータを電子制御装置6で電気的に制御することにより、電動機の出力を自動制御して、駆動輪3,4で発生させる車両Veの駆動力を自動制御することが可能なように構成される。
【0024】
また、各車輪1,2,3,4には、それぞれ個別にブレーキ装置7,8,9,10が装着されている。それら各ブレーキ装置7,8,9,10は、それぞれ、ブレーキアクチュエータ11を介して電子制御装置6に接続されている。したがって、電子制御装置6によって各ブレーキ装置7,8,9,10の動作状態を電気的に制御することにより、各車輪1,2,3,4で発生させる車両Veの制動力を個別に自動制御することが可能な構成となっている。
【0025】
一方、電子制御装置6には、車両Ve各部の各種センサ類からの検出信号や各種車載装置からの情報信号が入力されるように構成されている。例えば、アクセルの踏み込み角(もしくは踏み込み量あるいはアクセル開度)を検出するアクセルセンサ12、ブレーキの踏み込み角(もしくは踏み込み量あるいはブレーキ開度)を検出するブレーキセンサ13、ステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサ14、各駆動輪1,2,3,4の回転速度(車輪速度)をそれぞれ検出する車輪速センサ15、車両Veの車軸方向の加速度(すなわち横加速度)を検出する横加速度センサ16、車両Veのヨーレートを検出するヨーレートセンサ17、その他、車両Veの前後加速度やロール角あるいはピッチ角等を検出する各種センサ(図示せず)などからの検出信号が電子制御装置6に入力されるように構成されている。
【0026】
上記のような構成により、車両Veは、スタビリティファクタ(もしくはステアリング特性)を変化させて制御することができる。特に、この発明における車両Veは、旋回走行中のスタビリティファクタを変化させて運転者の意図する旋回軌道と実際の旋回軌道とを一致させることにより、車両Veの旋回性能を向上することができるように構成されている。すなわち、この発明における車両Veは、旋回走行時に、駆動輪に付与するトルクを自動制御して車両Veのスタビリティファクタを変化させることにより、そのスタビリティファクタを目標値に追従させるように制御するいわゆる「ライントレース制御」もしくは「旋回性能向上制御」を実行可能な構成となっている。
【0027】
前述のように、車両Veの旋回走行中に、上記のような「旋回性能向上制御」を実行することにより、旋回走行中の車両Veの実際のスタビリティファクタを目標とするスタビリティファクタに追従させることができ、その結果、車両Veの旋回性能を向上させて、運転者の思い通りに、あるいは安定して車両Veを旋回走行させることができる。その一方で、上記の図2に示す車両Veのように、車両Veの駆動力を発生させるための駆動力源5としてエンジンが搭載される場合、「旋回性能向上制御」の実行中にエンジンの始動や停止が行われると、そのエンジンが始動もしくは停止させられる際に不可避的に発生するトルク変動によって、車両Veのドライバビリティが低下してしまったり、あるいは「旋回性能向上制御」の制御効果を適切に得られなくなってしまう可能性がある。
【0028】
そこで、この発明に係る車両Veの制御装置では、車両Veの旋回走行時に「旋回性能向上制御」を実行する場合、エンジンの運転状態が切り替えられることがないように、すなわち、停止していたエンジンが始動されることがないように、もしくは燃焼運転していたエンジンが停止させられることがないように、「旋回性能向上制御」における車両Veの駆動力もしくは制動力の補正が行われるように構成されている。
【0029】
図1は、その制御の一例を説明するためのフローチャートであって、このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。図1において、先ず、駆動力(もしくは制動力)による「旋回性能向上制御」を実行する際の制御量が算出される(ステップS1)。ここでの制御量とは、「旋回性能向上制御」において、車両Veのスタビリティファクタを目標値に追従させるために、車両Veの駆動力もしくは制動力を補正するように制御する際の制御量のことであり、言い換えると、車両Veの駆動力もしくは制動力を補正する際の補正量のことである。
【0030】
次いで、エンジンが間欠中であるか否か、すなわち、エンジンが一時的に停止中であるか否かが判断される(ステップS2)。エンジンが停止中であることにより、このステップS2で肯定的に判断された場合は、ステップS3へ進み、上記のステップS1で求められた制御量を加算することによりエンジンが始動するか否かが判断される。すなわち、「旋回性能向上制御」を実行するにあたり、上記のステップS1で求められた制御量に基づいて車両Veの駆動力もしくは制動力を補正することにより、一時的に停止しているエンジンが始動させられるか否かが判断される。
【0031】
ステップS1で求められた制御量に基づいて車両Veの駆動力もしくは制動力を補正するとエンジンが始動することになると推定されることにより、このステップS3で肯定的に判断された場合は、ステップS4へ進み、エンジンを始動させない範囲に上記の制御量が制限される。すなわち、上記の制御量に基づいて車両Veの駆動力もしくは制動力を補正してもエンジンが始動させられることがないように、その補正が制限される。
【0032】
例えば、車両Veのスタビリティファクタを目標値に追従させるために車両Veの駆動力を増大させる必要があり、その駆動力を増大させるためにエンジンの出力が要求される場合、すなわち停止しているエンジンを始動させて出力させる必要があると判断された場合には、エンジンの出力による駆動力の補正が制限される。その代わりに、車両Veの制動力を補正することにより、所望するスタビリティファクタが得られるように、すなわちスタビリティファクタが目標値に可及的に近づくように、「旋回性能向上制御」が実行される。
【0033】
また、車両Veが、エンジンと、モータもしくはモータ・ジェネレータなどの電動機とを駆動力源5として搭載したハイブリッド車であった場合は、車両Veのスタビリティファクタを目標値に追従させるために車両Veの駆動力を増大させる必要があり、その駆動力を増大させるためにエンジンの出力が要求される場合、すなわち停止しているエンジンを始動させて出力させる必要があると判断された場合には、エンジンの出力による駆動力の補正が制限される。その代わりに、電動機の出力による駆動力を補正することにより、所望するスタビリティファクタが得られるように、すなわちスタビリティファクタが目標値に可及的に近づくように、「旋回性能向上制御」が実行される。言い換えると、ハイブリッド車を対象として「旋回性能向上制御」を実行する場合は、停止状態のエンジンが始動させられることがないように、電動機の出力により発生させる駆動力が補正されて、「旋回性能向上制御」が実行される。
【0034】
このように、エンジンと電動機とを搭載したハイブリッド車を制御の対象として「旋回性能向上制御」を実行する際に、エンジンが停止している場合には、その「旋回性能向上制御」の実行に伴ってエンジンが始動させられることがないように、電動機の出力による駆動力が補正される。すなわち、エンジンは燃焼運転されることなく、電動機のみの出力によって車両Veの駆動力補正がされることにより、「旋回性能向上制御」が実行される。そのため、「旋回性能向上制御」を実行する際に、停止しているエンジンが始動させられることによる振動的なトルク変動の発生を確実に回避することができる。その結果、ハイブリッド車においても、エンジンのトルク変動に起因するドライバビリティの低下を確実に防止しつつ、「旋回性能向上制御」により車両Veの旋回性能を適切に向上させることができる。
【0035】
上記のステップS4で、車両Veの駆動力もしくは制動力を補正してもエンジンが始動させられることがないように制御量が制限されると、運転者の運転操作に基づく要求駆動力に制限された制御量が加算される(ステップS5)。すなわち、上記のように制限された制御量が加味された要求駆動力に基づいて、車両Veの駆動力が制御される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
【0036】
これに対して、ステップS1で求められた制御量に基づいて車両Veの駆動力もしくは制動力を補正しても、エンジンが始動することはないと推定されることにより、前述のステップS3で否定的に判断された場合には、前述のステップS4を飛ばし、上記のステップS5の制御が同様に実行される。
【0037】
また一方、ステップS1で「旋回性能向上制御」における制御量が求められた後に、エンジンが間欠中でないこと、すなわちエンジンが燃焼運転中であることにより、前述のステップS2で否定的に判断された場合には、ステップS6へ進み、「旋回性能向上制御」が実行中であるか否かが判断される。「旋回性能向上制御」が実行中でないことにより、このステップS6で否定的に判断された場合は、以降の制御を実行することなく、このルーチンを一旦終了する。
【0038】
これに対して、「旋回性能向上制御」が実行中であることより、ステップS6で肯定的に判断された場合には、ステップS7へ進み、エンジン停止禁止要求の指令が出力される。すなわち、燃焼状態のエンジンが停止させられることが禁止される。その後、上記のステップS5の制御が同様に実行され、そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
【0039】
このように、「旋回性能向上制御」を実行する際に、エンジンが燃焼運転されている場合には、そのエンジンの停止が禁止される。すなわち、「旋回性能向上制御」の実行に伴ってエンジンが停止させられることがないように、「旋回性能向上制御」が実行される。そのため、「旋回性能向上制御」を実行する際に、燃焼運転されているエンジンが停止させられることによる振動的なトルク変動の発生を確実に回避することができる。その結果、「旋回性能向上制御」の実行時におけるエンジンのトルク変動に起因するドライバビリティの低下を確実に防止しつつ、車両Veの旋回性能を適切に向上させることができる。
【0040】
以上のように、この発明に係る車両Veの制御装置によれば、旋回走行中の車両Veの駆動力もしくは制動力を補正し、スタビリティファクタを目標値に近づけて車両Veの旋回性能を向上させる「旋回性能向上制御」を実行する場合に、エンジンの運転状態が切り替えられることがないように、すなわち、停止状態であったエンジンが始動させられることがないように、もしくは燃焼運転状態であったエンジンが停止させられることがないように、車両Veの駆動力もしくは制動力が制御される。そのため、「旋回性能向上制御」を実行する際に、エンジンが始動もしくは停止させられることによる振動的なトルク変動の発生を回避することができる。その結果、「旋回性能向上制御」の実行時におけるエンジンのトルク変動に起因するドライバビリティの低下を防止するとともに、車両Veの旋回性能を適切に向上させることができる。
【0041】
また、「旋回性能向上制御」を実行する際に、エンジンが停止している場合には、その「旋回性能向上制御」の実行に伴ってエンジンが始動させられることがないように、車両Veの駆動力もしくは制動力の補正が制限される。例えば、エンジンの出力による駆動力の補正が抑制され、代わりに制動力が補正されることにより、「旋回性能向上制御」が実行される。そのため、「旋回性能向上制御」を実行する際に、停止しているエンジンが始動させられることによる振動的なトルク変動の発生を確実に回避することができる。その結果、エンジンのトルク変動に起因するドライバビリティの低下を確実に防止しつつ、「旋回性能向上制御」により車両Veの旋回性能を適切に向上させることができる。
【0042】
ここで、上述した具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、ステップS2〜S7を実行する機能的手段が、この発明における「駆動力補正手段」に相当し、特に、ステップS6,S7を実行する機能的手段が、この発明における「内燃機関停止禁止手段」に相当する。
【0043】
なお、上述した具体例では、この発明に係る制御の対象とする車両Veとして、駆動力源5の動力を左右の後輪3,4に伝達して車両Veの駆動力を発生させる後輪駆動車の構成を例に挙げて説明したが、駆動力源5の動力を左右の前輪1,2に伝達して車両Veの駆動力を発生させる前輪駆動車であってもよい。あるいは、駆動力源5の動力を前輪1,2および後輪3,4に分配して伝達し、それら全ての車輪で車両Veの駆動力を発生させる四輪駆動車であってもよい。
【符号の説明】
【0044】
1,2…前輪、 3,4…後輪、 5…駆動力源、 6…電子制御装置(ECU)、 7,8,9,10…ブレーキ装置、 11…ブレーキアクチュエータ、 14…操舵角センサ、 15…車輪速センサ、 16…前後加速度センサ、 17…横加速度センサ、 Ve…車両。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも内燃機関を駆動力源として有し、旋回走行中に該駆動力源の出力によって発生させる駆動力もしくは制動力を補正することによりスタビリティファクタを目標値に追従するように変化させる旋回性能向上制御を実行する車両の制御装置において、
前記旋回性能向上制御を実行する場合に、前記内燃機関の運転状態が停止から始動にもしくは燃焼運転から停止に切り替えられることがないように前記駆動力もしくは前記制動力を補正する駆動力補正手段を備えていることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記駆動力補正手段は、前記旋回性能向上制御を実行する場合に、停止状態の前記内燃機関が始動させられることがないように前記駆動力の補正を制限する手段を含むことを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記旋回性能向上制御を実行する場合に、燃焼運転状態の前記内燃機関が停止させられることを禁止する内燃機関停止禁止手段を更に備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記車両は、駆動力源として前記内燃機関と電動機とを有するハイブリッド車両を含み、
前記駆動力は、前記内燃機関と共に前記電動機の出力により発生させる駆動力を含み、
前記駆動力補正手段は、前記旋回性能向上制御を実行する場合に、停止状態の前記内燃機関が始動させられることがないように前記電動機の出力により発生させる駆動力を補正する手段を含む
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−136098(P2012−136098A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288364(P2010−288364)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】