説明

車両の制御装置

【課題】無端伝動部材の劣化を抑制し無端伝動部材を長寿命化することができる車両の制御装置を提供する。
【解決手段】ECUは、イグニッションスイッチがオンになったと判断した場合には(ステップS11でYES)、ベルトテンショナのコイルに通電し、テンションTをT1にする。次に、ECUは、スタータがオンになったと判断した場合には(ステップS13でYES)、ベルトテンショナのコイルに供給する電流を変化させ、テンションTをT=ANe+Cとする(ステップS14)。そして、ECUは、イグニッションスイッチから入力される信号に基づいて、エンジンが停止したと判断した場合には(ステップS15でYES)、ベルトテンショナのコイルに対する電流の供給を停止し、タイミングベルトのテンションTをT0とする(ステップS16)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関し、特に、内燃機関の出力軸に巻回された無端伝動部材の保護を行う車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両に搭載されるエンジンは、出力軸としてのクランクシャフトを有しており、このクランクシャフトには、吸排気バルブの開閉と、ピストンの上下動とのタイミングを適切に計るために無端伝動部材としてのタイミングベルトが巻回されている。
【0003】
このタイミングベルトには、エンジンの始動時に大きな力や偏った力がかかるとともに、経年変化により劣化し、張力が低下してしまうということが知られている。このようにタイミングベルトの張力が低下すると、エンジンの始動時にタイミングベルトとクランクシャフトの間でスリップが発生したりタイミングベルトが暴れる可能性が生じる。
【0004】
このため、エンジンが停止した場合にタイミングベルトに一定の張力を与えることにより、エンジンの始動時にベルトが暴れることを防止する制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
この制御装置は、エンジンの停止および再始動の頻度が高いハイブリッド車両に設置され、ソレノイドを有するテンショナによりタイミングベルトの張力を調節するようになっている。そして、制御装置は、エンジンが停止すると、ソレノイドを励磁してタイミングベルトの張力を増加させた状態でテンショナをロックし、エンジンが再始動する際にタイミングベルトがスリップすることを防止するようになっている。一方、エンジンが完爆したと判定すると、ソレノイドを消磁してタイミングベルトにかかる張力を低減するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−314322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のような特許文献1に記載の従来の制御装置にあっては、エンジンの始動時におけるタイミングベルトの暴れを防止するようになっているものの、タイミングベルトの劣化の防止を考慮するようなものではなかった。そのため、タイミングベルトに必要以上に張力がかかり、結果としてタイミングベルトの劣化を抑制しベルトを長寿命化することができないという問題があった。
【0008】
本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、無端伝動部材の劣化を抑制し無端伝動部材を長寿命化することができる車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る車両の制御装置は、上記目的達成のため、(1)内燃機関の出力軸および前記内燃機関のバルブを駆動するカムシャフトに巻回され、前記内燃機関の駆動により前記出力軸の回転を前記カムシャフトに伝達する無端伝動部材を備えた車両の制御装置であって、前記無端伝動部材に張力を付与する張力付与手段と、前記張力付与手段により付与される張力の大きさを制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記内燃機関が停止していることを条件として、前記張力付与手段が前記無端伝動部材に付与する張力を低減させることを特徴とする。
【0010】
この構成により、内燃機関の停止中においては、無端伝動部材に付与される張力を低減させることができる。したがって、無端伝動部材が内燃機関の出力軸に対してスリップする可能性が低い場合には、無端伝動部材の張力を低下させ無端伝動部材の長寿命化を図ることができる。
【0011】
また、上記(1)に記載の車両の制御装置において、(2)前記内燃機関が停止したか否かを判断する機関停止判断手段を備えることを特徴とする。
【0012】
この構成により、機関停止判断手段により内燃機関が停止中であると判断されたことを条件として無端伝動部材に付与される張力を低減させることができる。したがって、無端伝動部材が内燃機関の出力軸に対してスリップする可能性が低い場合には、無端伝動部材の張力を低下させ無端伝動部材の長寿命化を図ることができる。
【0013】
また、上記(2)に記載の車両の制御装置において、(3)前記機関停止判断手段は、イグニッションスイッチがオン状態からオフ状態に移行したことを条件として、前記内燃機関が停止したと判断することを特徴とする。
【0014】
この構成により、内燃機関が始動する直前に無端伝動部材に付与される張力を増加させることができる。したがって、内燃機関の停止中には無端伝動部材の張力を低減させて無端伝動部材の長寿命化を図ることができるとともに、内燃機関の始動時には無端伝動部材の張力を上昇させることにより、無端伝動部材が内燃機関の出力軸に対してスリップすることを防止することができる。
【0015】
また、上記(1)から(3)に記載の車両の制御装置において、(4)前記制御手段は、前記内燃機関の機関回転数の上昇に応じて前記張力付与手段が前記無端伝動部材に付与する張力を増加させることを特徴とする。
【0016】
この構成により、張力付与手段が無端伝動部材の回転に必要な張力を好適に付与することができるので、無端伝動部材に余分な負荷を与えることを防止し、無端伝動部材の長寿命化を実現できる。
【0017】
また、上記(1)から(4)に記載の車両の制御装置において、(5)前記無端伝動部材の劣化度合いを算出する劣化度合い算出手段を備え、前記制御手段は、前記劣化度合い算出手段により算出された劣化度合いが所定値を超えており、かつ、前記内燃機関が停止していることを条件として、前記張力付与手段が前記無端伝動部材に付与する張力を低減させることを特徴とする。
【0018】
この構成により、無端伝動部材の劣化が進行した場合において、無端伝動部材にかかる負荷を低減することにより、無端伝動部材の劣化の進行を防止し、ベルトの長寿命化を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ベルトの劣化を抑制しベルトを長寿命化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態に係る制御装置を搭載した車両の概略ブロック構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るエンジンの概略断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るエンジンの概略斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るベルトテンショナの概略断面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係るタイミングベルトのテンションとエンジン回転数の関係を示すグラフである。
【図6】本発明の実施の形態に係るエンジン始動制御処理を説明するためのフローチャートである。
【図7】本発明の実施の形態に係るタイミングベルトの寿命を説明するためのS−N線図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
まず、本発明の実施の形態における制御装置を備えた車両の構成について、図1に示す車両の概略ブロック構成図、図2に示すエンジンの概略断面図、および、図3に示すエンジンの概略斜視図を参照して、説明する。
【0022】
図1に示すように、本実施の形態における車両10は、動力源としてのエンジン11と、エンジン11において発生した動力を伝達するとともに車両10の走行状態等に応じて変速比を変化させるトランスミッション13と、トランスミッション13から伝達された動力を駆動軸としてのドライブシャフト17L、17Rに分配するディファレンシャル機構15と、ドライブシャフト17L、17Rから伝達された動力により回転させられ、車両10を駆動させる駆動輪18L、18Rと、を備えている。
【0023】
また、車両10は、トランスミッション13を油圧により制御する油圧制御装置22と、エンジン11や油圧制御装置22などを制御するECU(Electronic Control Unit)20と、を備えている。なお、本実施の形態に係るECU20は、以下に説明するように、本発明に係る車両の制御装置を構成する。さらに、車両10は、クランク角センサ31と、駆動軸回転数センサ32と、アクセル開度センサ33と、フットブレーキセンサ(以下、FBセンサという)34と、スロットル開度センサ35と、吸入空気量センサ36と、吸入空気温度センサ37と、冷却水温センサ38と、吸気カム角センサ39と、排気カム角センサ40と、その他図示しない各種センサとを備えている。ECU20は、これらのセンサにより検出されたエンジン回転数Ne、車速V、アクセル開度Acc等を表す各検出信号を入力するようになっている。
【0024】
内燃機関としてのエンジン11は、ピストン60(図2参照)が2往復する間に吸気行程、圧縮行程、膨張行程および排気行程からなる一連の4行程を行う4サイクルの直列4気筒ガソリンエンジンによって構成されている。なお、エンジン11は、直列6気筒エンジン、V型6気筒エンジン、V型12気筒エンジン、水平対向6気筒エンジン等の種々の型式のエンジンにより構成されていてもよい。なお、エンジン11の詳細については、後述する。
【0025】
ECU20は、中央演算処理装置としてのCPU(Central Processing Unit)20a、固定されたデータの記憶を行うROM(Read Only Memory)20b、一時的にデータを記憶するRAM(Random Access Memory)20c、書き換え可能な不揮発性のメモリからなるEEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory:登録商標)20dおよび入出力インターフェース(I/F)回路20eを備え、車両10の制御を統括するようになっている。
【0026】
クランク角センサ31は、クランクシャフト45の回転数を検出して、検出した回転数を表す検出信号をECU20に出力するようになっている。より詳しくは、クランク角センサ31は、クランクシャフト45に設けられたクランクセンサプレート89(図3参照)によりクランク回転信号を検出し、クランク位置およびクランク角速度の検出を行うようになっている。また、ECU20は、クランク角センサ31から出力された検出信号からクランクシャフト45の回転数を算出し、エンジン回転数Neとして取得するようになっている。
【0027】
ECU20は、さらに、イグニッションスイッチ41に接続されている。イグニッションスイッチ41は、運転者によりオフ状態からオン状態に移行されると、オン状態を表す信号をECU20に入力するようになっている。また、イグニッションスイッチ41は、運転者によりオン状態からオフ状態に移行されると、オフ状態を表す信号をECU20に入力するようになっている。
【0028】
図2および図3を参照して、エンジン11の詳細について説明する。なお、図2においては、直列に配置された4つの気筒のうちの1つについて説明する。エンジン11は、エンジン本体部50を備え、エンジン本体部50は、シリンダブロック52と、シリンダブロック52の上部に固定されたシリンダヘッド53と、オイルパン63と、を有している。シリンダブロック52には、ピストン60が往復動可能に設けられており、ピストン60は、コネクティングロッド58を介してクランクシャフト45と連結されている。また、エンジン11は、シリンダヘッド53の上部に、吸気カムシャフト75および排気カムシャフト76が、回転可能に設けられている。
【0029】
吸気カムシャフト75には、吸気バルブ56の上端に当接する吸気カム77が設けられている。これにより、吸気カムシャフト75が回転すると、吸気カム77により吸気バルブ56が開閉駆動されるようになっている。さらに、吸気カムシャフト75には、吸気カムセンサプレート90が設けられている。吸気カムセンサプレート90は、吸気カムシャフト75とともに回転し、吸気カム角センサ39の被検出部を構成している。
【0030】
排気カムシャフト76には、排気バルブ57の上端に当接する排気カム78が設けられている。これにより、排気カムシャフト76が回転すると、排気カム78により排気バルブ57が開閉駆動されるようになっている。さらに、排気カムシャフト76には、排気カムセンサプレート91が設けられている。排気カムセンサプレート91は、排気カムシャフト76とともに回転し、排気カム角センサ40の被検出部を構成している。
【0031】
吸気カムシャフト75は、その一端部に、タイミングベルト85が巻き掛けられる吸気カムスプロケット79と、吸気カム77に対する吸気カムスプロケット79の回転位置を変化させる吸気側回転位相コントローラ82と、を有している。また、排気カムシャフト76は、その一端部に、タイミングベルト85が巻き掛けられる排気カムスプロケット80と、排気カム78に対する排気カムスプロケット80の回転位置を変化させる排気側回転位相コントローラ83と、を有している。また、内燃機関の出力軸を構成するクランクシャフト45は、タイミングベルト85が巻き掛けられるクランクスプロケット84を有している。
【0032】
したがって、ECU20は、吸気側回転位相コントローラ82を制御することにより、クランクシャフト45の回転位置に対する吸気カムシャフト75の回転位置を変化させるとともに、排気側回転位相コントローラ83を制御することにより、クランクシャフト45の回転位置に対する排気カムシャフト76の回転位置を変化させる、可変バルブタイミング(VVT)制御を実行するようになっている。
【0033】
タイミングベルト85は、吸気カムスプロケット79、排気カムスプロケット80およびクランクスプロケット84に巻き掛けられている。これにより、タイミングベルト85によって、クランクスプロケット84の回転が、吸気カムスプロケット79および排気カムスプロケット80に伝達される。すなわち、駆動側回転軸としてのクランクシャフト45の回転が、タイミングベルト85を介して、従動側回転軸としての吸気カムシャフト75および排気カムシャフト76に伝達されることで、これら吸気カムシャフト75および排気カムシャフト76に駆動される吸気バルブ56および排気バルブ57が、クランクシャフト45に同期して吸気ポート54および排気ポート55を開閉するようになっている。
【0034】
また、タイミングベルト85は、テンショナスリッパ86およびバイブレーションダンパ87によって経路が規制されるようになっている。テンショナスリッパ86は、ベルトテンショナ92に押圧されることにより、タイミングベルト85を付勢し、タイミングベルト85に張力を与えるようになっている。したがって、タイミングベルト85は、テンショナスリッパ86によって適度なテンションが与えられ、吸気カムスプロケット79、排気カムスプロケット80およびクランクスプロケット84から外れることが防止されている。
【0035】
また、後述するように、ベルトテンショナ92(図4参照)は、ソレノイドを構成する内部のコイル95(図4参照)に供給される電流の大きさによって、テンショナスリッパ86を押圧する力が決定されるようになっている。したがって、ベルトテンショナ92およびテンショナスリッパ86は、電流の大きさに応じてタイミングベルト85を付勢することにより、タイミングベルト85に張力を与えるようになっている。
【0036】
また、上記のように、タイミングベルト85は、エンジン11の出力軸であるクランクシャフト45の回転力を、吸気バルブ56および排気バルブ57を駆動する吸気カムシャフト75および排気カムシャフト76に伝達するようになっている。すなわち、タイミングベルト85は、本発明における無端伝動部材を構成している。
【0037】
図4に示すように、ベルトテンショナ92は、例えばプッシュ式のソレノイドにより構成されており、ハウジング94と、コイル95と、プランジャ96と、スプリング97と、を有している。
【0038】
プランジャ96は、ハウジング94内に摺動自在に嵌挿されており、その一端部は、ハウジング94の外部に延び出しテンショナスリッパ86に当接している。コイル95への通電が停止されソレノイドが消磁状態に移行した場合には、プランジャ96は、スプリング97の付勢力により図4の左方向に移動する。これにより、ベルトテンショナ92のタイミングベルト85に対する付勢力が低下し、タイミングベルト85のテンションTが低下するようになっている。
【0039】
一方、コイル95への通電が開始されソレノイドが励磁状態に移行した場合には、プランジャ96は図4の右方向に前進する。これにより、ベルトテンショナ92のタイミングベルト85に対する付勢力が増加し、タイミングベルト85のテンションTが増大するようになっている。したがって、ベルトテンショナ92は、本発明に係る張力付与手段を構成する。
【0040】
また、ECU20は、イグニッションスイッチ41およびクランク角センサ31から入力される信号に基づいてコイル95に供給する電流の大きさを制御し、タイミングベルト85のテンションTを調節するようになっている。つまり、ECU20は、本発明に係る制御手段を構成する。
【0041】
具体的には、ECU20は、イグニッションスイッチ41から入力される信号に基づいて、イグニッションスイッチ41がオンになったと判断すると、コイル95に対する通電を開始し、タイミングベルト85のテンションTをT0からT1に上昇させる。このテンションT1は、エンジン11が始動してからアイドル回転数に達するまでの間に、クランクスプロケット84、吸気カムスプロケット79および排気カムスプロケット80からタイミングベルト85の歯が抜けない張力に設定されている。また、テンションT0は、ベルトテンショナ92によりタイミングベルト85が付勢されていない状態におけるタイミングベルト85のテンションを表しており、タイミングベルト85の停止時において、クランクスプロケット84、吸気カムスプロケット79および排気カムスプロケット80から歯が抜けない張力に設定されている。
【0042】
なお、ベルトテンショナ92によりタイミングベルト85が付勢されていない状態において、タイミングベルト85のテンションTがT0を下回る場合には、ECU20は、イグニッションスイッチ41がオフの場合においても、コイル95に電流を供給し、タイミングベルト85のテンションTがT0になるよう制御するようになっている。
【0043】
また、ECU20は、イグニッションスイッチ41がオンになると、スタータをオンにするようになっている。これとともに、ECU20は、クランク角センサ31から入力される信号に基づいてエンジン回転数Neを算出すると、図5に示すように、エンジン回転数Neに基づいてタイミングベルト85のテンションTを調節するようになっている。
【0044】
ECU20は、テンションTを例えば以下の式(1)に基づいて設定するようになっている。
T = ANe + C (1)
【0045】
ここで、定数A、BおよびCは、エンジン回転数Neの上昇にかかわらずタイミングベルト85の歯がクランクスプロケット84、吸気カムスプロケット79および排気カムスプロケット80から抜けないための値であり、予め実験的な測定により求められている。また、ECU20は、テンションTとコイル95に供給する電流の大きさとの関係を示すテンションマップをROM20bに記憶している。したがって、ECU20は、上記の式(1)に基づいてタイミングベルト85に対するテンションTを算出すると、テンションマップを参照し、コイル95に供給する電流を設定するようになっている。
【0046】
また、ECU20は、イグニッションスイッチ41から入力される信号が、イグニッションスイッチ41のオフを表す信号になった場合には、エンジン11が停止したと判断し、コイル95に対する通電を終了する。これにより、タイミングベルト85のテンションTはT0に低下する。したがって、ECU20は、本発明に係る機関停止判断手段を構成する。
【0047】
なお、車両10がエンジン11の停止を表す信号をECU20に送信可能なセンサを搭載している場合には、ECU20は、イグニッションスイッチ41の代わりに、このセンサから入力される信号に基づいてエンジン11が停止したか否かを判断するようにしてもよい。
【0048】
図6は、本発明の実施の形態に係る張力調整制御処理を説明するためのフローチャートである。
【0049】
なお、以下の処理は、ECU20を構成するCPU20aによって所定の時間間隔で実行されるとともに、CPU20aによって処理可能なプログラムを実現する。また、初期状態において、タイミングベルト85のテンションTがT0であるものとして説明する。
【0050】
まず、ECU20は、イグニッションスイッチ41から入力される信号に基づいて、イグニッションスイッチ41がオンになったか否かを判断する(ステップS11)。ECU20は、イグニッションスイッチ41がオンになったと判断した場合には(ステップS11でYES)、ステップS12に移行する。一方、イグニッションスイッチ41がオンでないと判断した場合には(ステップS11でNO)、RETURNに移行する。
【0051】
ステップS12において、ECU20は、タイミングベルト85のテンションTがT1になるよう、ROM20bに記憶されているテンションマップを参照してベルトテンショナ92のコイル95に供給する電流を設定し、コイル95に対する通電を開始する。
【0052】
次に、ECU20は、スタータがオンになったか否かを判断する(ステップS13)。ECU20は、スタータがオンになったと判断した場合には(ステップS13でYES)、ステップS14に移行する。一方、スタータがオンになっていないと判断した場合には(ステップS13でNO)、ステップS12に移行する。
【0053】
ステップS14において、ECU20は、クランク角センサ31から入力される信号に基づいてエンジン回転数Neを算出すると、上記の式(1)に基づいてタイミングベルト85のテンションTを設定する。そして、ECU20は、ROM20bに記憶されているテンションマップを参照し、コイル95に供給する電流の大きさを調節する。
【0054】
次に、ECU20は、イグニッションスイッチ41から入力される信号に基づいて、エンジン11が停止したか否かを判断する(ステップS15)。ECU20は、イグニッションスイッチ41からオフを表す信号が入力されている場合には、エンジン11が停止したと判断し(ステップS15でYES)、ステップS16に移行する。一方、ECU20は、イグニッションスイッチ41からオンを表す信号が入力されている場合には、エンジン11が停止していないと判断し(ステップS15でNO)、ステップS14に移行する。
【0055】
ステップS16において、ECU20は、ベルトテンショナ92のコイル95に対する電流の供給を停止し、タイミングベルト85のテンションTをT0とする。
【0056】
以上のように、本発明の実施の形態に係る車両の制御装置は、エンジン11が始動する直前にタイミングベルト85に付与される張力を増加させることができる。したがって、エンジン11の停止中にはタイミングベルト85の張力を低減させてタイミングベルト85の長寿命化を図ることができるとともに、エンジン11の始動時にはタイミングベルト85のテンションTを上昇させることにより、タイミングベルト85がクランクスプロケット84に対してスリップすることを防止することができる。また、本実施の形態に係る車両の制御装置がハイブリッド車両に搭載された場合には、エンジンの停止する頻度が高くなるため、より一層タイミングベルト85の長寿命化を図ることが可能となる。
【0057】
また、ベルトテンショナ92がタイミングベルト85の回転に必要なテンションを好適に付与することができるので、タイミングベルト85に余分な負荷を与えることを防止し、タイミングベルト85の長寿命化を実現できる。
【0058】
なお、以上の説明においては、ECU20は、イグニッションスイッチ41がオンになるとテンションTをT0からT1に上昇させ、スタータがオンになると上記の式(1)に基づいてテンションTを設定する場合について説明した。しかしながら、ECU20は、エンジン11の停止中においてタイミングベルト85のテンションTをT0に低下させる一方、イグニッションスイッチ41がオンとなった場合にはタイミングベルト85のテンションTをT0から所定のテンションT2に増加させるようにしてもよい。この場合、テンションT2は、エンジン回転数Neにかかわらずクランクスプロケット84、吸気カムスプロケット79および排気カムスプロケット80からタイミングベルト85の歯が抜けない張力として設定する。
【0059】
また、以上の説明においては、ECU20がテンションマップをROM20bに記憶し、コイル95に供給する電流の大きさに基づいてタイミングベルト85のテンションTを算出する場合について説明したが、これに限定されず、ベルトテンショナ92が、プランジャ96の移動量を検出する移動量センサを有し、ECU20は、この移動量センサから入力される信号に基づいてタイミングベルト85のテンションTを算出するようにしてもよい。
【0060】
また、以上の説明においては、ECU20は、常に張力調整制御を実行する場合について説明したが、これに限定されず、ECU20は、タイミングベルト85の劣化度合いが所定値を超えた場合にのみ張力調整制御を実行するようにしてもよい。
【0061】
この場合、ECU20は、以下のような方法でタイミングベルト85の劣化度合いを測定する。
【0062】
図7に示すように、タイミングベルト85の寿命は、有効張力(N)と、繰り返し回数(n)と、によって求められる。有効張力(N)とは、タイミングベルト85がどれくらいの力で引っ張られているかを示す値であり、繰り返し回数(n)とは、何回すなわち何回転されたかを示すものである。
【0063】
例えば、タイミングベルト85が有効張力aで回転し続けた場合には、c回転で寿命が来ることを示している。また、タイミングベルト85が有効張力bで回転し続けた場合には、d回転で寿命が来ることを示している。したがって、タイミングベルト85に加わる有効張力(N)が、aからbとなった場合、タイミングベルト85の寿命は、c回転からd回転まで延長される。このように、タイミングベルト85の寿命は、有効張力(N)と、繰り返し回数(n)と、によって求められる面積によって、おおむね把握することができるようになっている。
【0064】
つまり、タイミングベルト85の寿命は、タイミングベルト85にかかった有効張力の総和によってわかるので、予め実験的な測定によりこの総和に応じたタイミングベルト85の寿命を算定し、この算定値をタイミングベルト85の寿命判定値として、ECU20のROM20bに記憶しておく。
【0065】
そして、ECU20は、タイミングベルト85にかかった有効張力の総和を劣化度合いとして算出し、この劣化度合いが所定値を超えるまでは、イグニッションスイッチ41がオフの場合においても、タイミングベルト85におけるテンションTがT1以上となるようベルトテンショナ92を制御する。有効張力は、例えば、ベルトテンショナ92のコイル95に供給する電流の大きさに応じて求められる。したがって、ECU20は、本発明に係る劣化度合い算出手段を構成するとともに、劣化度合い算出手段により算出された劣化度合いが所定値を超えていることを条件に、機関停止判断手段により内燃機関が停止したと判断された場合に、張力付与手段が無端伝動部材に付与する張力を低減させる制御手段を構成する。
【0066】
また、タイミングベルト85にかかった有効張力の総和は、フラッシュメモリなど書き込みおよび消去が可能なメモリに記憶するようにし、エンジン11の駆動に従って加算していくようにする。
【0067】
このような構成を有することにより、本発明の実施の形態に係る車両の制御装置は、タイミングベルト85の劣化度合いが所定値を超え、タイミングベルト85の劣化の進行が早まる可能性が高まった場合においても、エンジン11の停止中におけるタイミングベルト85のテンションTを低下させることにより、タイミングベルト85の長寿命化を図ることが可能となる。
【0068】
以上のように、本発明に係る車両の制御装置は、無端伝動部材の劣化を抑制し無端伝動部材を長寿命化することができるという効果を奏するものであり、内燃機関の出力軸に巻回された無端伝動部材の保護を行う車両の制御装置に有用である。
【符号の説明】
【0069】
10 車両
11 エンジン
19 クランクシャフト
20 ECU
20a CPU
20b ROM
20c RAM
31 クランク角センサ
35 スロットル開度センサ
39 吸気カム角センサ
40 排気カム角センサ
41 イグニッションスイッチ
45 クランクシャフト
50 エンジン本体部
56 吸気バルブ
57 排気バルブ
68 スロットルバルブ
75 吸気カムシャフト
76 排気カムシャフト
77 吸気カム
78 排気カム
79 吸気カムスプロケット
80 排気カムスプロケット
84 クランクスプロケット
85 タイミングベルト
86 テンショナスリッパ
87 バイブレーションダンパ
92 ベルトテンショナ
95 コイル
96 プランジャ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の出力軸および前記内燃機関のバルブを駆動するカムシャフトに巻回され、前記内燃機関の駆動により前記出力軸の回転を前記カムシャフトに伝達する無端伝動部材を備えた車両の制御装置であって、
前記無端伝動部材に張力を付与する張力付与手段と、
前記張力付与手段により付与される張力の大きさを制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記内燃機関が停止していることを条件として、前記張力付与手段が前記無端伝動部材に付与する張力を低減させることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関が停止したか否かを判断する機関停止判断手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記機関停止判断手段は、イグニッションスイッチがオン状態からオフ状態に移行したことを条件として、前記内燃機関が停止したと判断することを特徴とする請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記内燃機関の機関回転数の上昇に応じて前記張力付与手段が前記無端伝動部材に付与する張力を増加させることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1の請求項に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記無端伝動部材の劣化度合いを算出する劣化度合い算出手段を備え、
前記制御手段は、前記劣化度合い算出手段により算出された劣化度合いが所定値を超えており、かつ、前記内燃機関が停止していることを条件として、前記張力付与手段が前記無端伝動部材に付与する張力を低減させることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1の請求項に記載の車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−31836(P2012−31836A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174304(P2010−174304)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】