説明

車両の懸架装置

【課題】車両の懸架装置が、車体側と緩衝器の上端部との間に介在して、緩衝器の上端部を支持するゴム製弾性体を備えた場合において、車両についての乗り心地と操安性との両性能の向上が達成できるようにする。
【解決手段】車両の懸架装置は、縦方向での断面が倒立U字形状とされて車体2側に支持される支持ブラケット26と、上部側33aが支持ブラケット26に嵌入される一方、下部側33bが支持ブラケット26の下方で外部に位置するゴム製弾性体33と、軸心13が上下方向に延び、その下端部側が車輪を支持する一方、上端部が弾性体33に支持される緩衝器14とを備える。弾性体33の上部側33aから下部側33bへの遷移部に空隙部45を形成する。車輪側から緩衝器14を介し弾性体33に与えられる衝撃力が大きいとき、弾性体33の下部側33bが支持ブラケット26内に押入されるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体側と緩衝器の上端部との間に介在して、この緩衝器の上端部を支持するゴム製弾性体を備えた車両の懸架装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記車両の懸架装置には、従来、下記特許文献1に示されるものがある。この公報のものによれば、車両の懸架装置は、縦方向での断面が倒立U字形状とされて車体側に支持される支持ブラケットと、上部側が上記支持ブラケットに嵌入される一方、下部側が上記支持ブラケットの下方で外部に位置するゴム製弾性体と、軸心が上下方向に延び、その下端部側が車輪を支持する一方、上端部が上記弾性体に支持される緩衝器とを備えている。
【0003】
車両の走行時、走行路面から車輪に与えられる衝撃力は、上記緩衝器と弾性体とにより緩衝される。これにより、上記衝撃力が車体側に伝達されることが抑制されて、車両への乗り心地と操安性とが良好に維持されるようになっている。また、この際、上記緩衝器の上端部が上記車体側に対しこじるような無理な外力を与えることは、上記弾性体が弾性変形することによって防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平4−127440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記従来の技術において、車両への乗り心地を向上させようとする場合には、上記弾性体のばね特性を、より軟らかくして、上記衝撃力の緩衝効果を向上させることが要求される。一方、車両の操安性を向上させようとする場合には、上記弾性体のばね特性を、ある程度硬いままに維持して、車輪側と車体側との一体感を維持させることが要求される。
【0006】
つまり、車両についての乗り心地と操安性との両性能を共に向上させようとする場合には、上記したような相反する要求が弾性体の特性に対し与えられる。そこで、従来では、通常、上記した相反する要求の妥協点で弾性体の特性が定められている。このため、上記した従来の技術には、上記両性能を共に向上させる、という点で改善の余地が残されている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、車両の懸架装置が、車体側と緩衝器の上端部との間に介在して、この緩衝器の上端部を支持するゴム製弾性体を備えた場合において、車両についての乗り心地と操安性との両性能の向上が達成できるようにすることである。
【0008】
請求項1の発明は、縦方向での断面が倒立U字形状とされて車体2側に支持される支持ブラケット26と、上部側33aが上記支持ブラケット26に嵌入される一方、下部側33bが上記支持ブラケット26の下方で外部に位置するゴム製弾性体33と、軸心13が上下方向に延び、その下端部側が車輪3を支持する一方、上端部が上記弾性体33に支持される緩衝器14とを備えた車両の懸架装置において、
上記弾性体33の上部側33aから下部側33bへの遷移部に空隙部45を形成し、上記車輪3側から緩衝器14を介し弾性体33に与えられる衝撃力が大きいとき、上記弾性体33の下部側33bが上記支持ブラケット26内に押入されるようにしたことを特徴とする車両の懸架装置である。
【0009】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号や図面番号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0010】
本発明による効果は、次の如くである。
【0011】
請求項1の発明は、縦方向での断面が倒立U字形状とされて車体側に支持される支持ブラケットと、上部側が上記支持ブラケットに嵌入される一方、下部側が上記支持ブラケットの下方で外部に位置するゴム製弾性体と、軸心が上下方向に延び、その下端部側が車輪を支持する一方、上端部が上記弾性体に支持される緩衝器とを備えた車両の懸架装置において、
上記弾性体の上部側から下部側への遷移部に空隙部を形成し、上記車輪側から緩衝器を介し弾性体に与えられる衝撃力が大きいとき、上記弾性体の下部側が上記支持ブラケット内に押入されるようにしている。
【0012】
このため、上記車輪側から緩衝器を介し弾性体に与えられる衝撃力が小さいときには、上記空隙部の存在により、上記弾性体の下部側が上記支持ブラケットに押入されることは抑制される。これにより、上記弾性体は、主に、その上部側のみが上記支持ブラケットに嵌入された状態に維持されて、上記軸心に直交する方向での弾性変形が抑制される一方、上記弾性体の下部側は弾性変形につき自由状態に維持される。
【0013】
よって、上記弾性体を全体的に見た場合の特性は軟らかいまま(小さい弾性係数)に維持されて上記衝撃力の緩衝効果が向上し、車両への乗り心地の向上が達成される。なお、上記したように、弾性体に与えられる衝撃力が小さい場合には、上記のように弾性体の特性を軟らかくしたとしても車両の操安性は良好に維持される。
【0014】
一方、上記したように、車輪側から緩衝器を介し弾性体に与えられる衝撃力が大きいときには、この衝撃力により上記弾性体の上部側と空隙部とが共に圧縮変形させられて、上記弾性体の下部側が上記支持ブラケット内に押入される。すると、上記弾性体は、その上部側に下部側を加え全体的に上記支持ブラケット内に嵌入されることから、この支持ブラケットにより上記軸心に直交する方向での弾性変形が抑制される。
【0015】
よって、上記弾性体を全体的に見た場合の特性は硬いまま(大きい弾性係数)に維持されて車輪側と車体側との一体感が維持され、車両の操安性の向上が達成される。また、上記軸心に直交する方向で上記支持ブラケットに対し緩衝器の上端部が相対変位しようとすることは、上記緩衝器の上端部を支持する弾性体の上部側に加え下部側もが上記支持ブラケットの内面に圧接することにより、より確実に抑制される。よって、この点でも車輪側と車体側との一体感が維持され、車両の操安性が更に向上する。
【0016】
つまり、上記発明によれば、車両についての乗り心地と操安性との両性能の向上が達成可能となる。
【0017】
しかも、上記した車両についての両性能の向上という効果は、上記支持ブラケットに対して弾性体の構造を工夫することにより達成されるのであって、別途の弾性体を設けないで足りることから、上記効果は、極めて簡単な構成で、安価に達成される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】左半分の図は、車両の通常走行時の状態を示し、右半分の図は、車両が走行路面から大きい衝撃力を与えられたときの図を示している。
【図2】車両の部分正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の車両の懸架装置に関し車両の懸架装置が、車体側と緩衝器の上端部との間に介在して、この緩衝器の上端部を支持するゴム製弾性体を備えた場合において、車両についての乗り心地と操安性との両性能の向上が達成できるようにする、という目的を実現するため、本発明を実施するための形態は、次の如くである。
【0020】
即ち、車両の懸架装置は、縦方向での断面が倒立U字形状とされて車体側に支持される支持ブラケットと、上部側が上記支持ブラケットに嵌入される一方、下部側が上記支持ブラケットの下方で外部に位置するゴム製弾性体と、軸心が上下方向に延び、その下端部側が車輪を支持する一方、上端部が上記弾性体に支持される緩衝器とを備える。上記弾性体の上部側から下部側への遷移部に空隙部が形成される。上記車輪側から緩衝器を介し弾性体に与えられる衝撃力が大きいとき、上記弾性体の下部側が上記支持ブラケット内に押入される。
【実施例】
【0021】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例を添付の図に従って説明する。
【0022】
図1の左半分の図と、図2とにおいて、符号1は、自動車で例示される車両である。この車両1は、車体2と、この車体2に前車輪3を懸架させる懸架装置4とを備え、上記車輪3と懸架装置4とにより車体2が走行路面5上に支持される。
【0023】
上記懸架装置4は、車体2前部の下部側から外側方に延出し、その延出端側が上下に揺動可能となるよう基部側が上記車体2前部の下部に枢支軸8により枢支されるロアアーム9と、上記車輪3用の車軸を回転可能に支持して上記ロアアーム9の揺動端部に球継手に連結されるステアリングナックル10と、上記車体2前部の上部に締結具11により締結されて支持されるゴムマウント12と、軸心13が上下方向に延び、その下端部が上記ステアリングナックル10を介し車輪3を支持する一方、上端部が上記ゴムマウント12を介し車体2前部の上部に弾性的に支持される緩衝器14とを備えている。
【0024】
上記緩衝器14は油圧シリンダ構造のもので、この緩衝器14は、その下部を構成し、下端部が上記ステアリングナックル10に固着されるシリンダチューブ17と、このシリンダチューブ17内のピストンから上方に延出し、その延出端部が締結具18により上記ゴムマウント12に固着されるピストンロッド19と、上記シリンダチューブ17の軸方向の中途部と上記ピストンロッド19の延出端部とにそれぞれ取り付けられた上、下スプリングシート20,21との間に介設され、上記緩衝器14を伸長させるよう弾性的に付勢するスプリング22とを備えている。
【0025】
前記ゴムマウント12は、縦方向での断面が倒立U字形状とされる板金製の支持ブラケット26を有している。具体的には、この支持ブラケット26は、上記軸心13上に位置する円筒体27と、この円筒体27の上端開口の縁部に一体的に形成される内向きフランジ28と、上記円筒体27の下端開口の縁部に一体的に形成される外向きフランジ29とを備えている。この外向きフランジ29は前記締結具11により車体2に締結され、これにより、上記支持ブラケット26が車体2側に支持されている。
【0026】
また、上記ゴムマウント12は、上記軸心13上に設けられ、全体として厚肉の円筒形状をなすゴム製弾性体33と、この弾性体33の内孔34に嵌入され、縦方向の断面が倒立ハット形状とされる板金製の芯材35とを有している。
【0027】
上記芯材35は、上記軸心13上に位置して上記弾性体33の内孔34に押入される円筒体38と、この円筒体38の上端開口の縁部に一体的に形成されて、その下面に上記弾性体33の上面を圧接させる外向きフランジ39と、上記円筒体38の下端開口の縁部に一体的に形成され、この下端開口を閉じ、前記締結具18により前記緩衝器14のピストンロッド19の上端部を締結させる閉じ板40とを有している。
【0028】
上記弾性体33の上端部の外周面に切り込み43が形成され、この切り込み43に上記支持ブラケット26の内向きフランジ28が押入されている。上記弾性体33の上記切り込み43よりも下側の上部側33aは上記支持ブラケット26に嵌入(押入含む)される一方、下部側33bは上記支持ブラケット26に押入された上部側33aの下端に連なるよう、この下端に一体的に形成され、上記支持ブラケット26の下方で外部に位置させられている。上記弾性体33の上部側33aから下部側33bへの遷移部に空隙部45が形成されている。具体的には、この空隙部45は、上記遷移部の外周面に、上記軸心13周りの周方向の全周にわたり形成される断面コの字溝形状の凹部とされている。
【0029】
車両1の走行時、走行路面5から車輪3に与えられる衝撃力は、上記緩衝器14と弾性体33とにより緩衝される。これにより、上記衝撃力が車体2側に伝達されることが抑制されて、車両1への乗り心地と操安性とが良好に維持されるようになっている。また、この際、上記緩衝器14の上端部が上記車体2側に対しこじるような無理な外力を与えることは、上記弾性体33が弾性変形することによって防止される。
【0030】
図1の左半分の図を参照して、車両1の車載荷重が小さい場合や、懸架装置4が車両1の操向時の内側車輪3についてのものである場合など、上記車輪3側から緩衝器14を介しゴムマウント12の弾性体33に与えられる衝撃力が小さいときには、上記実施例にて説明のように、上記空隙部45の存在により、上記弾性体33の下部側33bが上記支持ブラケット26に押入されることは抑制される。これにより、上記弾性体33は、主に、その上部側33aのみが上記支持ブラケット26に嵌入された状態に維持されて、上記軸心13に直交する方向での弾性変形が抑制される一方、上記弾性体33の下部側33bは弾性変形につき自由状態に維持される。
【0031】
よって、上記弾性体33を全体的に見た場合の特性は軟らかいまま(小さい弾性係数)に維持されて上記衝撃力の緩衝効果が向上し、車両1への乗り心地の向上が達成される。なお、上記したように、弾性体33に与えられる衝撃力が小さい場合には、上記のように弾性体33の特性を軟らかくしたとしても車両1の操安性は良好に維持される。
【0032】
一方、図1の右半分の図を参照して、車両1の車載荷重が大きい場合や、懸架装置4が車両1の操向時の外側車輪3についてのものである場合、また、車輪3が段差を乗り上げる場合など、上記したように、車輪3側から緩衝器14を介しゴムマウント12の弾性体33に与えられる衝撃力が大きいときには、この衝撃力により上記弾性体33の上部側33aと空隙部45とが共に圧縮変形させられて、上記弾性体33の下部側33bが上記支持ブラケット26内に押し込まれ、つまり押入される。すると、上記弾性体33は、その上部側33aに下部側33bを加え全体的に上記支持ブラケット26内に嵌入されることから、この支持ブラケット26により上記軸心13に直交する方向での弾性変形が抑制される。
【0033】
また、上記衝撃力が小さくなった場合には、上記支持ブラケット26と弾性体33との関連構成は、前記した図1の左半分の図のように、元の状態に戻る。
【0034】
そして、上記したように、弾性体33が全体的に上記支持ブラケット26内に嵌入されると、上記弾性体33を全体的に見た場合の特性は硬いまま(大きい弾性係数)に維持されて車輪3側と車体2側との一体感が維持され、車両1の操安性の向上が達成される。また、上記軸心13に直交する方向で上記支持ブラケット26に対し緩衝器14の上端部が相対変位しようとすることは、上記緩衝器14の上端部を支持する弾性体33の上部側33aに加え下部側33bもが上記支持ブラケット26の内面に圧接することにより、より確実に抑制される。よって、この点でも車輪3側と車体2側との一体感が維持され、車両1の操安性が更に向上する。
【0035】
つまり、上記構成によれば、車両1についての乗り心地と操安性との両性能の向上が達成可能となる。
【0036】
しかも、上記した車両1についての両性能の向上という効果は、上記支持ブラケット26に対して弾性体33の構造を工夫することにより達成されるのであって、別途の弾性体を設けないで足りることから、上記効果は、極めて簡単な構成で、安価に達成される。
【0037】
なお、図1中二点鎖線で示すように、上記空隙部45は、横断面が円形の中空部となるようにしてもよい。この空隙部45は、上記弾性体33の上部側33aから下部側33bへの遷移部の外周面近傍における内部に形成され、上記軸心13周りの周方向の全周にわたり延びている。この場合、上記空隙部45の中空部を、大気側に向かって小孔やスリットにより連通させてもよい。
【0038】
また、以上は図示の例によるが、上記空隙部45は、上記軸心13周りの周方向で、上記弾性体33の外周面、もしくは内部に断続的に設けてもよい。また、上記空隙部45は、横断面が円弧形状の溝、もしくは矩形の孔であってもよく、また、軸心13に直交する方向に延びる有底孔や、貫通孔などの複数個を、周方向に等間隔に設けてもよい。
【符号の説明】
【0039】
1 車両
2 車体
3 車輪
4 懸架装置
5 走行路面
11 締結具
12 ゴムマウント
13 軸心
14 緩衝器
26 支持ブラケット
27 円筒体
28 内向きフランジ
29 外向きフランジ
33 弾性体
33a 上部側
33b 下部側
45 空隙部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦方向での断面が倒立U字形状とされて車体側に支持される支持ブラケットと、上部側が上記支持ブラケットに嵌入される一方、下部側が上記支持ブラケットの下方で外部に位置するゴム製弾性体と、軸心が上下方向に延び、その下端部側が車輪を支持する一方、上端部が上記弾性体に支持される緩衝器とを備えた車両の懸架装置において、
上記弾性体の上部側から下部側への遷移部に空隙部を形成し、上記車輪側から緩衝器を介し弾性体に与えられる衝撃力が大きいとき、上記弾性体の下部側が上記支持ブラケット内に押入されるようにしたことを特徴とする車両の懸架装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−92882(P2012−92882A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239770(P2010−239770)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】