車両の車体構造
【課題】 本発明は、カラー廃止によってラップアンカーの取付作業性の向上およびコストダウンを図り、かつラップアンカーの取付具のホイールハウスへの突出量を従来と比べて小さくし、その分ホイールハウスインナパネルの縦壁面を車室外側に移動させることが可能となり、車室内幅方向の寸法を大きくすることが可能な車両の車体構造を提供することにある。
【解決手段】 本発明は、シートベルトのラップアンカー2をホイールハウスインナパネル3の車室内側面に取付ける車両の車体構造において、ホイールハウスインナパネル3の車室外側面にリンフォース4を取付け、リンフォース4に固着されるナットを、鍔部12とネジ部13aを有する胴部13とからなる段付きナット5に形成し、段付きナット5の胴部13をホイールハウスインナパネル3の車室内側面側に突出させて配置している。
【解決手段】 本発明は、シートベルトのラップアンカー2をホイールハウスインナパネル3の車室内側面に取付ける車両の車体構造において、ホイールハウスインナパネル3の車室外側面にリンフォース4を取付け、リンフォース4に固着されるナットを、鍔部12とネジ部13aを有する胴部13とからなる段付きナット5に形成し、段付きナット5の胴部13をホイールハウスインナパネル3の車室内側面側に突出させて配置している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートベルトサッシュガイドを内装トリムの内側に配置し、シートベルトのラップアンカーを回転タイプとして、該ラップアンカーをホイールハウスインナパネルの車室内側面に取付けるような車両の車体構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車のシートには、乗員を座席に拘束するために、図6および図7に示すようなシートベルト装置が装備されている。このシートベルト装置は、車体パネル側に設けられた図示しないリトラクタからシートベルトサッシュガイドを経由してシートベルトのベルトウエビング51を引き出し、ラップアンカー52およびベルトタング53を座席側の固定具(図示せず)にそれぞれ装着することによって使用されている(例えば、特許文献1参照)。
このようなシートベルト装置では、図示しないシートベルトサッシュガイドが内装トリム54の内部に配置されている。そのため、内装トリム54を組み付けるためには、図7中の矢印に示す如く、ラップアンカー52およびベルトタング53を内装トリム54のアッパトリム54Aに穿設した挿通穴55より車室内側に向かって取出す必要がある。
【0003】
ところで、図8〜図11に示す如く、回転タイプのラップアンカー52を車体パネルであるホイールハウスインナパネル56の車室内側面に取付ける場合、アッパトリム54Aの挿通穴55からボルト57およびカラー58が通らないので、ラップアンカー52をアッパトリム54Aの挿通穴55から取出した後、図9〜図11に示す如く、カラー58を介してボルト57を挿入し、リンフォース59に溶接Wで固着されたナット60に螺合させて締付け固定していた。
そのため、ラップアンカー52にはボルト挿通穴52aが設けられ、内装トリム54のロアトリム54Lにはカラー挿通穴61が設けられていると共に、ホイールハウスインナパネル56およびリンフォース59にはボルト穴56a,59aがそれぞれ設けられている。なお、リンフォース59は、ホイールハウスインナパネル56の車室外側面に取付けられている。また、図10および図11において、62はサイドフレーム、63は左右両側部がサイドフレーム63に接合されるフロパネルである。
【0004】
【特許文献1】実公平7−2337号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の車体構造では、ラップアンカー52をホイールハウスインナパネル56に取付ける際に、カラー58を介してボルト57をナット60に締付ける必要があるので、取付作業に手間が掛かるという問題を有していた。また、カラー58は、ロアトリム54Lの車室内側の縦壁面54Laよりも車室内に突出して配置されることになるので、外観上不具合となるおそれがあった(図10および図11参照)。
【0006】
また、ナット60の高さは、図11に示す如く、ボルト57のネジ込み量(必要ネジ部)Iによって決まり、ホイールハウスインナパネル56から車室外側へ向かってナット60およびボルト57の先端までの突出量G,Hが大きくなっているので、図示しないタイヤとの隙間が小さくなる。一方、タイヤとの隙間を確保すると、車室内幅方向の寸法に悪影響を生じるおそれがある。
さらに、車室内への水漏れを防止するため、シール材64がホイールハウスインナパネル56とリンフォース59との間、リンフォース59とナット60との間、およびボルト57とナット60との間にそれぞれ塗布されているが、ナット60およびボルト57の突出量G,Hが大きいので、シール材64の塗布作業性が悪くなるおそれがあった。
また、ナット60のネジ部へのシール材の入り込みを防止するため、図10に示すようなマスキングテープ65がナット60の端面に貼付されているが、ナット60の端面が高く、かつ端面の面積が小さいので、マスキングテープ65の貼付作業性に問題があった。
【0007】
本発明はこのような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、カラー廃止によってラップアンカーの取付作業性の向上およびコストダウンを図り、かつラップアンカーの取付具のホイールハウスへの突出量を従来と比べて小さくし、その分ホイールハウスインナパネルの縦壁面を車室外側に移動させることが可能となり、車室内幅方向の寸法を大きくすることが可能な車両の車体構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記従来技術の有する課題を解決するために、本発明は、シートベルトのラップアンカーをホイールハウスインナパネルの車室内側面に取付ける車両の車体構造において、前記ホイールハウスインナパネルの車室外側面にリンフォースを取付け、該リンフォースに固着されるナットを、鍔部とネジ部を有する胴部とからなる段付きナットに形成し、該段付きナットの胴部を前記ホイールハウスインナパネルの車室内側面側に突出させて配置している。
【0009】
また、本発明において、前記段付きナットの鍔部と反対側に位置する胴部の端面は、前記ホイールハウスインナパネルの車室内側面の縦壁面よりも車室内側に突出して配置されている。
さらに、本発明において、前記段付きナットの鍔部の外径は、前記胴部の外径よりも大きく形成され、かつ前記ホイールハウスインナパネルに設けた前記段付きナットの胴部の挿通穴の径よりも大きく形成されて、前記リンフォースの車室外側面に固着されている。
また、本発明において、前記ラップアンカーは、前記段付きナットの胴部の車室内側の端面に段付きボルトによって取付けられている。
【発明の効果】
【0010】
上述の如く、本発明に係る車両の車体構造は、シートベルトのラップアンカーをホイールハウスインナパネルの車室内側面に取付けるものであって、前記ホイールハウスインナパネルの車室外側面にリンフォースを取付け、該リンフォースに固着されるナットを、鍔部とネジ部を有する胴部とからなる段付きナットに形成し、該段付きナットの胴部を前記ホイールハウスインナパネルの車室内側面側に突出させて配置しているので、従来の構造で必要な別部品のカラーを使用せずに済み、当該カラーの廃止によって部品点数および作業工数を減らし、ラップアンカーの取付作業性を向上させ、コストダウンを図ることができる。しかも、本発明の車体構造では、ラップアンカーの取付具がホイールハウス内へ突出する量を従来と比べて小さくし、その分だけホイールハウスインナパネルの縦壁面を車室外側に移動させることが可能となるので、車室内幅方向の寸法を大きくすることができ、車室内の居住空間を拡大することができる。
【0011】
また、本発明において、前記段付きナットの鍔部と反対側に位置する胴部の端面は、前記ホイールハウスインナパネルの車室内側面の縦壁面よりも車室内側に突出して配置されているので、ラップアンカーの取付作業時に、段付きナットを目視することが可能となり、ラップアンカーの取付作業性をより一層向上させることができる。それに加えて、ボルトおよび段付きナットの突出量が従来に比べて小さいので、内装トリムの車室内側の縦壁面よりも車室内へ突出せず、外観品質を向上させることができる。
【0012】
さらに、本発明において、前記段付きナットの鍔部の外径は、前記胴部の外径よりも大きく形成され、かつ前記ホイールハウスインナパネルに設けた前記段付きナットの胴部の挿通穴の径よりも大きく形成されて、前記リンフォースの車室外側面に固着されているので、電着塗装時のマスキングテープの貼付作業性の向上と、水漏れ防止用のシール材の塗布作業性の向上を図ることができる。
【0013】
そして、本発明において、前記ラップアンカーは、前記段付きナットの胴部の車室内側の端面に段付きボルトによって取付けられているので、従来に比べてボルトの首下長さを短くでき、ネジ込み作業性を向上させ、コストダウンを図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を図示の実施の形態に基づいて詳細に説明する。
【0015】
図1〜図5は本発明に係る車両の車体構造の実施形態を示している。本実施形態の車体構造が適用される自動車では、図示しないシートベルトサッシュガイドが内装トリム1の内側に配置され、回転タイプであるシートベルトのラップアンカー2がホイールハウスインナパネル3の車室内側面に取付けられている。内装トリム1は、図3に示す如く、ホイールハウスインナパネル3の車室内側を覆うため、クリップ等により組付けられる合成樹脂製のアッパトリムおよびロアトリムである。
この内装トリム1の内部には、後部席の外側席用に採用された3点式シートベルト装置のリトラクタ(図示せず)が配設されており、このリトラクタから引き出された図外のシートベルトウエビングは、シートベルトサッシュガイドを経由して、当該ウエビングの先端部側に取付けたラップアンカー2およびベルトタング(図示せず)と共に内装トリム1の挿通穴より車室内側に取出されている。そして、車室内側に取出されたシートベルトウエビングは、内装トリム1を介在させた状態でホイールハウスインナパネル3の車室内側面にラップアンカー2を取付けることによって、使用されるようになっている。
【0016】
本実施形態のラップアンカー2は、図1〜図5に示す如く、板状のラップアンカーリンフォース4、段付きナット5および段付きボルト6から構成される取付手段によって、ホイールハウスインナパネル3の車室内側面に取付けられている。このため、ラップアンカー2には、段付きボルト6を挿通させるボルト挿通穴2aが設けられていると共に、内装トリム1のロアトリム、ホイールハウスインナパネル3およびラップアンカーリンフォース4には、段付きナット5の胴部(後述する)を挿通させるナット挿通穴7,8,9がそれぞれ対応して設けられている。なお、図3において、10は車体の左右両側に配設されるサイドフレーム、11は上方へほぼ直角に折り曲げた左右両側部がサイドフレーム10にそれぞれ接合されるフロパネルである。
【0017】
ラップアンカーリンフォース4は、図3〜図5に示す如く、段付きナット5を溶接Wにて固着した状態で、ナット挿通穴8が穿設されたホイールハウスインナパネル3の車室外側面に取付けられている。
【0018】
すなわち、本実施形態の段付きナット5は、鍔部12と、雌ネジ部13aを有する胴部13とから形成されており、胴部13をラップアンカーリンフォース4のナット挿通穴9に挿通させて鍔部12を重ね合わせ、鍔部12の外周縁部を溶接Wで接合することによりラップアンカーリンフォース4の車室外側面に固着されている。そのため、段付きナット5の鍔部12の外径は、胴部13の外径よりも大きく形成され、かつホイールハウスインナパネル3およびラップアンカーリンフォース4に設けたナット挿通穴8,9の径よりも大きく形成されている。
また、段付きナット5の鍔部12と反対側に位置する胴部13の端面は、ホイールハウスインナパネル3の車室内側面の縦壁面3aよりも車室内側に突出して配置されており、ホイールハウスインナパネル3の車室内側から目視することが可能となっている(図1および図2参照)。したがって、鍔部12と胴部13とを加えた段付きナット5の全長(ネジ込み量Iに相当)は、ラップアンカーリンフォース4と一緒にホイールハウスインナパネル3に取付けた状態で、ホイールハウスインナパネル3の縦壁面3aよりも車室内側に突出し、ホイールハウスインナパネル3を覆う内装トリム1の縦壁面1aとほぼ面一になる大きさに設定されている。
【0019】
一方、段付きボルト6は、図2および図3に示す如く、ラップアンカー2のボルト挿通穴2aに入れる大径部6aと、段付きナット5の雌ネジ部13aと螺合させる小径の雄ネジ部6bとから形成されており、雄ネジ部6bの長さは、段付きナット5の雌ネジ部13aとほぼ同じ長さに設定されている。したがって、ラップアンカー2は、段付きボルト6の雄ネジ部6bを段付きナット5の雌ネジ部13aにネジ込んで締付けることによって、段付きナット5の胴部13の車室内側の端面に取付けられている。
【0020】
このように、本発明の実施の形態に係る車体構造では、段付きナット5が鍔部12と雌ネジ部13aを有する胴部13とから形成され、従来の構造のナットとカラーとを一体化したような構成となっており、段付きボルト6の雄ネジ部6bを段付きナット5の雌ネジ部13aにネジ込んで締付けることによって、ラップアンカー2が段付きナット5の胴部13の車室内側の端面に取付けられているため、従来の構造で使用していたカラーを廃止でき、部品点数の削減によるコストダウンと取付作業性の向上を図ることができる。
また、本発明の実施の形態に係る車体構造では、段付きナット5の鍔部12と反対側に位置する胴部13の端面が、ホイールハウスインナパネル3の車室内側面の縦壁面3aよりも車室内側に突出して配置されているため、ホイールハウスインナパネル3の車室外側面と車体最外側部との間のスペースであるタイヤハウスへの突出量G(H)が従来に比べて小さくなり、タイヤとの隙間を大きく取ることができる。他方、タイヤとの隙間を従来と同じに設定すると、ホイールハウスインナパネル3の縦壁面3aを車室外側に移動することが可能となるため、車室内幅方向の寸法を大きくして車室内空間を拡大させることができ、居住性の向上を実現できる。
【0021】
さらに、本発明の実施の形態の車体構造では、段付きナット5の鍔部12と反対側に位置する胴部13の端面がホイールハウスインナパネル3の車室内側面の縦壁面3aよりも車室内側に突出して配置され、ホイールハウスインナパネル3の車室内側から目視することが可能となっているため、ラップアンカー2の取付作業時に、取付位置を確認しながら段付きボルト6を段付きナット5に締付けることができ、より一層ラップアンカー2の取付作業性を向上させることができる。
また、本発明の実施の形態の車体構造では、段付きナット5の鍔部12の外径が、胴部13の外径よりも大きく形成され、かつホイールハウスインナパネル3およびラップアンカーリンフォース4に設けたナット挿通穴8,9の径よりも大きく形成されているので、電着塗装時のマスキングテープ14を段付きナット5の鍔部12に容易に貼付することが可能となり、貼付作業の能率向上を図ることができる。それと同様、水漏れ防止用のシール材15も、ラップアンカーリンフォース4と段付きナット5との間などに容易に塗布することが可能となり、塗布作業性の向上を図ることができる。
【0022】
以上、本発明の実施の形態につき述べたが、本発明は既述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形および変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態に係る車体構造において、シートベルトのラップアンカーの取付部を車室内側から見たホイールハウスインナパネルの斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る車体構造であって、シートベルトのラップアンカーの取付部におけるラップアンカー、段付きボルトおよび段付きナットを示す斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る車体構造において、シートベルトのラップアンカーの取付部を示す断面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る車体構造において、車室外側から見たホイールハウスインナパネルにリンフォースと段付きナットを取付ける前の状態を示す斜視図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る車体構造において、車室外側から見たホイールハウスインナパネルにリンフォースと段付きナットを取付けた状態を示す斜視図である。
【図6】シートベルトサッシュガイドを内装トリムの内部に配置する自動車の車室内側から見た概念的側面図である。
【図7】図6におけるシートベルトを内装トリムの挿通穴より取出す状態を示す斜視図である。
【図8】従来の車体構造において、シートベルトのラップアンカーの取付部を車室内側から見たホイールハウスインナパネルの斜視図である。
【図9】従来の車体構造であって、シートベルトのラップアンカーの取付部におけるラップアンカー、ボルトおよびカラーを示す分解斜視図である。
【図10】従来の車体構造において、シートベルトのラップアンカーをホイールハウスインナパネルおよび内装トリムに取付ける前の状態を示す断面図である。
【図11】従来の車体構造において、シートベルトのラップアンカーをホイールハウスインナパネルおよび内装トリムに取付けた状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 内装トリム
2 ラップアンカー
2a ボルト挿通穴
3 ホイールハウスインナパネル
3a 縦壁面
4 ラップアンカーリンフォース
5 段付きナット
6 段付きボルト
6a 大径部
6b 雄ネジ部
7,8,9 ナット挿通穴
12 鍔部
13 胴部
13a 雌ネジ部
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートベルトサッシュガイドを内装トリムの内側に配置し、シートベルトのラップアンカーを回転タイプとして、該ラップアンカーをホイールハウスインナパネルの車室内側面に取付けるような車両の車体構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車のシートには、乗員を座席に拘束するために、図6および図7に示すようなシートベルト装置が装備されている。このシートベルト装置は、車体パネル側に設けられた図示しないリトラクタからシートベルトサッシュガイドを経由してシートベルトのベルトウエビング51を引き出し、ラップアンカー52およびベルトタング53を座席側の固定具(図示せず)にそれぞれ装着することによって使用されている(例えば、特許文献1参照)。
このようなシートベルト装置では、図示しないシートベルトサッシュガイドが内装トリム54の内部に配置されている。そのため、内装トリム54を組み付けるためには、図7中の矢印に示す如く、ラップアンカー52およびベルトタング53を内装トリム54のアッパトリム54Aに穿設した挿通穴55より車室内側に向かって取出す必要がある。
【0003】
ところで、図8〜図11に示す如く、回転タイプのラップアンカー52を車体パネルであるホイールハウスインナパネル56の車室内側面に取付ける場合、アッパトリム54Aの挿通穴55からボルト57およびカラー58が通らないので、ラップアンカー52をアッパトリム54Aの挿通穴55から取出した後、図9〜図11に示す如く、カラー58を介してボルト57を挿入し、リンフォース59に溶接Wで固着されたナット60に螺合させて締付け固定していた。
そのため、ラップアンカー52にはボルト挿通穴52aが設けられ、内装トリム54のロアトリム54Lにはカラー挿通穴61が設けられていると共に、ホイールハウスインナパネル56およびリンフォース59にはボルト穴56a,59aがそれぞれ設けられている。なお、リンフォース59は、ホイールハウスインナパネル56の車室外側面に取付けられている。また、図10および図11において、62はサイドフレーム、63は左右両側部がサイドフレーム63に接合されるフロパネルである。
【0004】
【特許文献1】実公平7−2337号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の車体構造では、ラップアンカー52をホイールハウスインナパネル56に取付ける際に、カラー58を介してボルト57をナット60に締付ける必要があるので、取付作業に手間が掛かるという問題を有していた。また、カラー58は、ロアトリム54Lの車室内側の縦壁面54Laよりも車室内に突出して配置されることになるので、外観上不具合となるおそれがあった(図10および図11参照)。
【0006】
また、ナット60の高さは、図11に示す如く、ボルト57のネジ込み量(必要ネジ部)Iによって決まり、ホイールハウスインナパネル56から車室外側へ向かってナット60およびボルト57の先端までの突出量G,Hが大きくなっているので、図示しないタイヤとの隙間が小さくなる。一方、タイヤとの隙間を確保すると、車室内幅方向の寸法に悪影響を生じるおそれがある。
さらに、車室内への水漏れを防止するため、シール材64がホイールハウスインナパネル56とリンフォース59との間、リンフォース59とナット60との間、およびボルト57とナット60との間にそれぞれ塗布されているが、ナット60およびボルト57の突出量G,Hが大きいので、シール材64の塗布作業性が悪くなるおそれがあった。
また、ナット60のネジ部へのシール材の入り込みを防止するため、図10に示すようなマスキングテープ65がナット60の端面に貼付されているが、ナット60の端面が高く、かつ端面の面積が小さいので、マスキングテープ65の貼付作業性に問題があった。
【0007】
本発明はこのような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、カラー廃止によってラップアンカーの取付作業性の向上およびコストダウンを図り、かつラップアンカーの取付具のホイールハウスへの突出量を従来と比べて小さくし、その分ホイールハウスインナパネルの縦壁面を車室外側に移動させることが可能となり、車室内幅方向の寸法を大きくすることが可能な車両の車体構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記従来技術の有する課題を解決するために、本発明は、シートベルトのラップアンカーをホイールハウスインナパネルの車室内側面に取付ける車両の車体構造において、前記ホイールハウスインナパネルの車室外側面にリンフォースを取付け、該リンフォースに固着されるナットを、鍔部とネジ部を有する胴部とからなる段付きナットに形成し、該段付きナットの胴部を前記ホイールハウスインナパネルの車室内側面側に突出させて配置している。
【0009】
また、本発明において、前記段付きナットの鍔部と反対側に位置する胴部の端面は、前記ホイールハウスインナパネルの車室内側面の縦壁面よりも車室内側に突出して配置されている。
さらに、本発明において、前記段付きナットの鍔部の外径は、前記胴部の外径よりも大きく形成され、かつ前記ホイールハウスインナパネルに設けた前記段付きナットの胴部の挿通穴の径よりも大きく形成されて、前記リンフォースの車室外側面に固着されている。
また、本発明において、前記ラップアンカーは、前記段付きナットの胴部の車室内側の端面に段付きボルトによって取付けられている。
【発明の効果】
【0010】
上述の如く、本発明に係る車両の車体構造は、シートベルトのラップアンカーをホイールハウスインナパネルの車室内側面に取付けるものであって、前記ホイールハウスインナパネルの車室外側面にリンフォースを取付け、該リンフォースに固着されるナットを、鍔部とネジ部を有する胴部とからなる段付きナットに形成し、該段付きナットの胴部を前記ホイールハウスインナパネルの車室内側面側に突出させて配置しているので、従来の構造で必要な別部品のカラーを使用せずに済み、当該カラーの廃止によって部品点数および作業工数を減らし、ラップアンカーの取付作業性を向上させ、コストダウンを図ることができる。しかも、本発明の車体構造では、ラップアンカーの取付具がホイールハウス内へ突出する量を従来と比べて小さくし、その分だけホイールハウスインナパネルの縦壁面を車室外側に移動させることが可能となるので、車室内幅方向の寸法を大きくすることができ、車室内の居住空間を拡大することができる。
【0011】
また、本発明において、前記段付きナットの鍔部と反対側に位置する胴部の端面は、前記ホイールハウスインナパネルの車室内側面の縦壁面よりも車室内側に突出して配置されているので、ラップアンカーの取付作業時に、段付きナットを目視することが可能となり、ラップアンカーの取付作業性をより一層向上させることができる。それに加えて、ボルトおよび段付きナットの突出量が従来に比べて小さいので、内装トリムの車室内側の縦壁面よりも車室内へ突出せず、外観品質を向上させることができる。
【0012】
さらに、本発明において、前記段付きナットの鍔部の外径は、前記胴部の外径よりも大きく形成され、かつ前記ホイールハウスインナパネルに設けた前記段付きナットの胴部の挿通穴の径よりも大きく形成されて、前記リンフォースの車室外側面に固着されているので、電着塗装時のマスキングテープの貼付作業性の向上と、水漏れ防止用のシール材の塗布作業性の向上を図ることができる。
【0013】
そして、本発明において、前記ラップアンカーは、前記段付きナットの胴部の車室内側の端面に段付きボルトによって取付けられているので、従来に比べてボルトの首下長さを短くでき、ネジ込み作業性を向上させ、コストダウンを図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を図示の実施の形態に基づいて詳細に説明する。
【0015】
図1〜図5は本発明に係る車両の車体構造の実施形態を示している。本実施形態の車体構造が適用される自動車では、図示しないシートベルトサッシュガイドが内装トリム1の内側に配置され、回転タイプであるシートベルトのラップアンカー2がホイールハウスインナパネル3の車室内側面に取付けられている。内装トリム1は、図3に示す如く、ホイールハウスインナパネル3の車室内側を覆うため、クリップ等により組付けられる合成樹脂製のアッパトリムおよびロアトリムである。
この内装トリム1の内部には、後部席の外側席用に採用された3点式シートベルト装置のリトラクタ(図示せず)が配設されており、このリトラクタから引き出された図外のシートベルトウエビングは、シートベルトサッシュガイドを経由して、当該ウエビングの先端部側に取付けたラップアンカー2およびベルトタング(図示せず)と共に内装トリム1の挿通穴より車室内側に取出されている。そして、車室内側に取出されたシートベルトウエビングは、内装トリム1を介在させた状態でホイールハウスインナパネル3の車室内側面にラップアンカー2を取付けることによって、使用されるようになっている。
【0016】
本実施形態のラップアンカー2は、図1〜図5に示す如く、板状のラップアンカーリンフォース4、段付きナット5および段付きボルト6から構成される取付手段によって、ホイールハウスインナパネル3の車室内側面に取付けられている。このため、ラップアンカー2には、段付きボルト6を挿通させるボルト挿通穴2aが設けられていると共に、内装トリム1のロアトリム、ホイールハウスインナパネル3およびラップアンカーリンフォース4には、段付きナット5の胴部(後述する)を挿通させるナット挿通穴7,8,9がそれぞれ対応して設けられている。なお、図3において、10は車体の左右両側に配設されるサイドフレーム、11は上方へほぼ直角に折り曲げた左右両側部がサイドフレーム10にそれぞれ接合されるフロパネルである。
【0017】
ラップアンカーリンフォース4は、図3〜図5に示す如く、段付きナット5を溶接Wにて固着した状態で、ナット挿通穴8が穿設されたホイールハウスインナパネル3の車室外側面に取付けられている。
【0018】
すなわち、本実施形態の段付きナット5は、鍔部12と、雌ネジ部13aを有する胴部13とから形成されており、胴部13をラップアンカーリンフォース4のナット挿通穴9に挿通させて鍔部12を重ね合わせ、鍔部12の外周縁部を溶接Wで接合することによりラップアンカーリンフォース4の車室外側面に固着されている。そのため、段付きナット5の鍔部12の外径は、胴部13の外径よりも大きく形成され、かつホイールハウスインナパネル3およびラップアンカーリンフォース4に設けたナット挿通穴8,9の径よりも大きく形成されている。
また、段付きナット5の鍔部12と反対側に位置する胴部13の端面は、ホイールハウスインナパネル3の車室内側面の縦壁面3aよりも車室内側に突出して配置されており、ホイールハウスインナパネル3の車室内側から目視することが可能となっている(図1および図2参照)。したがって、鍔部12と胴部13とを加えた段付きナット5の全長(ネジ込み量Iに相当)は、ラップアンカーリンフォース4と一緒にホイールハウスインナパネル3に取付けた状態で、ホイールハウスインナパネル3の縦壁面3aよりも車室内側に突出し、ホイールハウスインナパネル3を覆う内装トリム1の縦壁面1aとほぼ面一になる大きさに設定されている。
【0019】
一方、段付きボルト6は、図2および図3に示す如く、ラップアンカー2のボルト挿通穴2aに入れる大径部6aと、段付きナット5の雌ネジ部13aと螺合させる小径の雄ネジ部6bとから形成されており、雄ネジ部6bの長さは、段付きナット5の雌ネジ部13aとほぼ同じ長さに設定されている。したがって、ラップアンカー2は、段付きボルト6の雄ネジ部6bを段付きナット5の雌ネジ部13aにネジ込んで締付けることによって、段付きナット5の胴部13の車室内側の端面に取付けられている。
【0020】
このように、本発明の実施の形態に係る車体構造では、段付きナット5が鍔部12と雌ネジ部13aを有する胴部13とから形成され、従来の構造のナットとカラーとを一体化したような構成となっており、段付きボルト6の雄ネジ部6bを段付きナット5の雌ネジ部13aにネジ込んで締付けることによって、ラップアンカー2が段付きナット5の胴部13の車室内側の端面に取付けられているため、従来の構造で使用していたカラーを廃止でき、部品点数の削減によるコストダウンと取付作業性の向上を図ることができる。
また、本発明の実施の形態に係る車体構造では、段付きナット5の鍔部12と反対側に位置する胴部13の端面が、ホイールハウスインナパネル3の車室内側面の縦壁面3aよりも車室内側に突出して配置されているため、ホイールハウスインナパネル3の車室外側面と車体最外側部との間のスペースであるタイヤハウスへの突出量G(H)が従来に比べて小さくなり、タイヤとの隙間を大きく取ることができる。他方、タイヤとの隙間を従来と同じに設定すると、ホイールハウスインナパネル3の縦壁面3aを車室外側に移動することが可能となるため、車室内幅方向の寸法を大きくして車室内空間を拡大させることができ、居住性の向上を実現できる。
【0021】
さらに、本発明の実施の形態の車体構造では、段付きナット5の鍔部12と反対側に位置する胴部13の端面がホイールハウスインナパネル3の車室内側面の縦壁面3aよりも車室内側に突出して配置され、ホイールハウスインナパネル3の車室内側から目視することが可能となっているため、ラップアンカー2の取付作業時に、取付位置を確認しながら段付きボルト6を段付きナット5に締付けることができ、より一層ラップアンカー2の取付作業性を向上させることができる。
また、本発明の実施の形態の車体構造では、段付きナット5の鍔部12の外径が、胴部13の外径よりも大きく形成され、かつホイールハウスインナパネル3およびラップアンカーリンフォース4に設けたナット挿通穴8,9の径よりも大きく形成されているので、電着塗装時のマスキングテープ14を段付きナット5の鍔部12に容易に貼付することが可能となり、貼付作業の能率向上を図ることができる。それと同様、水漏れ防止用のシール材15も、ラップアンカーリンフォース4と段付きナット5との間などに容易に塗布することが可能となり、塗布作業性の向上を図ることができる。
【0022】
以上、本発明の実施の形態につき述べたが、本発明は既述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形および変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態に係る車体構造において、シートベルトのラップアンカーの取付部を車室内側から見たホイールハウスインナパネルの斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る車体構造であって、シートベルトのラップアンカーの取付部におけるラップアンカー、段付きボルトおよび段付きナットを示す斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る車体構造において、シートベルトのラップアンカーの取付部を示す断面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る車体構造において、車室外側から見たホイールハウスインナパネルにリンフォースと段付きナットを取付ける前の状態を示す斜視図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る車体構造において、車室外側から見たホイールハウスインナパネルにリンフォースと段付きナットを取付けた状態を示す斜視図である。
【図6】シートベルトサッシュガイドを内装トリムの内部に配置する自動車の車室内側から見た概念的側面図である。
【図7】図6におけるシートベルトを内装トリムの挿通穴より取出す状態を示す斜視図である。
【図8】従来の車体構造において、シートベルトのラップアンカーの取付部を車室内側から見たホイールハウスインナパネルの斜視図である。
【図9】従来の車体構造であって、シートベルトのラップアンカーの取付部におけるラップアンカー、ボルトおよびカラーを示す分解斜視図である。
【図10】従来の車体構造において、シートベルトのラップアンカーをホイールハウスインナパネルおよび内装トリムに取付ける前の状態を示す断面図である。
【図11】従来の車体構造において、シートベルトのラップアンカーをホイールハウスインナパネルおよび内装トリムに取付けた状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 内装トリム
2 ラップアンカー
2a ボルト挿通穴
3 ホイールハウスインナパネル
3a 縦壁面
4 ラップアンカーリンフォース
5 段付きナット
6 段付きボルト
6a 大径部
6b 雄ネジ部
7,8,9 ナット挿通穴
12 鍔部
13 胴部
13a 雌ネジ部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートベルトのラップアンカーをホイールハウスインナパネルの車室内側面に取付ける車両の車体構造において、前記ホイールハウスインナパネルの車室外側面にリンフォースを取付け、該リンフォースに固着されるナットを、鍔部とネジ部を有する胴部とからなる段付きナットに形成し、該段付きナットの胴部を前記ホイールハウスインナパネルの車室内側面側に突出させて配置したことを特徴とする車両の車体構造。
【請求項2】
前記段付きナットの鍔部と反対側に位置する胴部の端面は、前記ホイールハウスインナパネルの車室内側面の縦壁面よりも車室内側に突出して配置されていることを特徴とする請求項1に記載の車両の車体構造。
【請求項3】
前記段付きナットの鍔部の外径は、前記胴部の外径よりも大きく形成され、かつ前記ホイールハウスインナパネルに設けた前記段付きナットの胴部の挿通穴の径よりも大きく形成されて、前記リンフォースの車室外側面に固着されていることを特徴とする請求項1または2に記載の車両の車体構造。
【請求項4】
前記ラップアンカーは、前記段付きナットの胴部の車室内側の端面に段付きボルトによって取付けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の車両の車体構造。
【請求項1】
シートベルトのラップアンカーをホイールハウスインナパネルの車室内側面に取付ける車両の車体構造において、前記ホイールハウスインナパネルの車室外側面にリンフォースを取付け、該リンフォースに固着されるナットを、鍔部とネジ部を有する胴部とからなる段付きナットに形成し、該段付きナットの胴部を前記ホイールハウスインナパネルの車室内側面側に突出させて配置したことを特徴とする車両の車体構造。
【請求項2】
前記段付きナットの鍔部と反対側に位置する胴部の端面は、前記ホイールハウスインナパネルの車室内側面の縦壁面よりも車室内側に突出して配置されていることを特徴とする請求項1に記載の車両の車体構造。
【請求項3】
前記段付きナットの鍔部の外径は、前記胴部の外径よりも大きく形成され、かつ前記ホイールハウスインナパネルに設けた前記段付きナットの胴部の挿通穴の径よりも大きく形成されて、前記リンフォースの車室外側面に固着されていることを特徴とする請求項1または2に記載の車両の車体構造。
【請求項4】
前記ラップアンカーは、前記段付きナットの胴部の車室内側の端面に段付きボルトによって取付けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の車両の車体構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−290034(P2006−290034A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−109794(P2005−109794)
【出願日】平成17年4月6日(2005.4.6)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年4月6日(2005.4.6)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]