説明

車両の運転支援装置

【課題】車両前方の歩行者等に対する視認性を向上させる。
【解決手段】本発明による車両の運転支援装置は、車両の前方に紫外光を照射するUV照射手段(80,90)と、前記車両の運転者の視線を検知する視線検知手段(30,50,ST120)と、前記視線検知手段(30,50,ST120)によって検知された視線に応じて前記UV照射手段(80,90)の照射方向を変える制御手段(50,60,70)とを備える。本発明による車両の運転支援装置では、運転者の視線に追従して紫外光が照射されるため、視線方向の物標が浮き上がって見える。このため、紫外光の照射方向が予め設定された方向に固定されている場合と比べると、運転者の視認性を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両の運転支援装置に関し、さらに詳しくは、車両前方の歩行者等に対する運転者の視認性を向上させるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車業界では、安全なクルマ社会実現のために、クルマの安全性能を高めるさまざまな技術・装備等の開発と進化に取り組んでいる。その中の1つに、夜間走行時に前方の歩行者に対する視認性を向上させるため、車両前方に紫外光を照射する前照灯を設ける技術がある(特許文献1,2参照)。これによれば、紫外光が前方の歩行者の衣服に反応してこの歩行者を明瞭に浮き上がらせるので、運転者は前方の歩行者を明確に認識することができる。
【特許文献1】特開2000-203335号公報
【特許文献2】特開2000-027128号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら上記特許文献1,2のいずれにおいても、紫外光の照射方向はあらかじめ設定されており固定されている。特許文献1では、UVライト9の照射範囲は、自車両1の車体中心軸線よりも車幅方向外側寄りのみを照射するように設定されている[0014]。また特許文献2では、紫外線出力装置2Bは、常時、上向き照明状態に設定されている[0015][0018][図5]。
【0004】
本発明の目的は、車両前方の歩行者等に対する視認性を向上させることができる車両の運転支援装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による車両の運転支援装置は、車両の前方に紫外光を照射するUV照射手段と、前記車両の運転者の視線を検知する視線検知手段と、前記視線検知手段によって検知された視線に応じて前記UV照射手段の照射方向を変える制御手段とを備える。
【0006】
好ましくは、上記車両の運転支援装置は、前記車両の前方に可視光を照射する可視光照射手段をさらに備え、前記制御手段は、前記視線検知手段によって検知された視線に応じて前記可視光照射手段の照射方向を変える。
【0007】
好ましくは、上記車両の運転支援装置は、自車両に対する対向車を検知する対向車検知手段をさらに備え、前記制御手段は、前記対向車検知手段によって対向車が検知されているときは、前記UV照射手段および前記可視光照射手段のうち前記UV照射手段の照射方向のみを、前記視線検知手段によって検知された視線に応じて変える。
【0008】
好ましくは、上記車両の運転支援装置は、自車両が走行しているレーンの方向ベクトルを取得するレーンベクトル取得手段をさらに備え、前記制御手段は、前記対向車検知手段によって対向車が検知されているときは、前記レーンベクトル取得手段によって取得された方向ベクトルに応じて前記可視光照射手段の照射方向を変える。
【0009】
好ましくは、前記UV照射手段は、車両前方に可視光を照射する前照灯手段のハイビームユニットで構成されている。
【0010】
好ましくは、前記UV照射手段は、車両前方に可視光を照射する前照灯手段とは別体に構成されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明による車両の運転支援装置では、運転者の視線に追従して紫外光が照射されるため、視線方向の物標が浮き上がって見える。このため、紫外光の照射方向が予め設定された方向に固定されている場合と比べると、運転者の視認性を向上させることができる。なお、紫外光の照射方向の制御パターンとしては、車両の進行方向や走行レーンに追従させる制御も考えられる。しかしながら歩行者のように不規則に動く物標は必ずしも進行方向や走行レーンに沿って動くとは限らず、進行方向や走行レーンを認識するセンサよりも運転者の視線のほうがこのような物標をうまく捉えることができる。したがって、運転者の視線に追従して紫外光を照射する本発明によれば、歩行者のように不規則に動く物標を運転者が認識しやすい。
【0012】
また、紫外光と可視光の両方が運転者の視線に追従して照射されるため、さらに運転者の視認性を向上させることができる。この場合において対向車があるときは紫外光のみが視線に追従して照射されるため対向車にまぶしさを与えない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳しく説明する。なお、図面において実質的に同一の部分には同じ参照符号を付けてその説明は繰り返さない。
【0014】
[システム構成]
本発明の実施形態による車両の運転支援装置のシステム構成を図1(a)に示す。この運転支援装置は、レーダ10と、カメラ20と、アイカメラ30と、ヨーレートセンサ40と、車速センサ41と、ECU(Electronic Control Unit)50と、アクチュエータ60,70,100と、UVライト80,90と、可視光ライト110と、ナビゲーション装置120とを備えている。
【0015】
図1(b),(c)に示すように、車両前部のフロントグリル付近にレーダ10が配置され、車室内のルーフ前端部にカメラ20が配置される。レーダ10およびカメラ20を利用して、車両前方の映像、車両前方の物標までの距離、物標の形状、物標の方向等が検出される。アイカメラ30は車室内のインストルメントパネルやダッシュボード上部等に配置され、可視光領域や赤外線領域にて運転者の目を撮影する。アイカメラ30によって撮影された画像を利用して運転者の視線ベクトル(視線方向)が検出される。車速センサ41は自車両の走行速度を検出する。ヨーレートセンサ40は、自車両のヨーレートを検知し、車速センサ41とともに自車両の進行路を推定する。ナビゲーション装置120は、自車両の現在位置表示や目的地への走行経路案内等のナビゲーション機能を行う。ECU50は、運転支援のための各種演算処理を行うコンピュータである。
【0016】
UVライト80,90は、車両前部の左右にそれぞれ配置され、車両前方に紫外光を照射する。UVライト80,90から照射される紫外光には波長315nm以上のものを使用することが好ましい。UV−Aに分類され、人体への影響がほとんど無いためである。アクチュエータ60,70は、UVライト80,90から照射される紫外光の照射方向を制御する。可視光ライト110は車両前部に配置され、車両前方に可視光を照射する。アクチュエータ100は、可視光ライト110から照射される可視光の照射方向を制御する。
【0017】
[UVライト80,90、可視光ライト110の実装形態]
UVライト80,90の実装形態には「独立タイプ」と「ヘッドライト内蔵タイプ」がある。
【0018】
「独立タイプ」では、図1(b)に示すように、UVライト80,90は、車両前方に可視光(ハイビーム,ロービーム)を照射する前照灯130とは別体に構成されている。UVライト80の光源バルブ81から紫外光が放出され、この紫外光が可動リフレクタ82によって車両前方に反射される。アクチュエータ60は、可動リフレクタ82を鉛直方向および水平方向に回動制御することで紫外光の照射方向を制御する。UVライト90の内部構造および動作についても同様である。
【0019】
可視光ライト110は、車両前部の中央に配置され、前照灯130とは別体に構成されている。可視光ライト110の光源バルブ111から可視光が放出され、この可視光が可動リフレクタ112によって車両前方に反射される。アクチュエータ100は、可動リフレクタ112を鉛直方向および水平方向に回動制御することで可視光の照射方向を制御する。
【0020】
なお、前照灯130のロービームユニットは、車両の舵角等に応じて照射光軸が上下左右方向にアクチュエータによって可動するように構成されている(Adaptive Front Lighting System)。
【0021】
「ヘッドライト内蔵タイプ」では、図1(c)に示すように、UVライト80,90は、前照灯130のハイビームユニットで構成されている。光源バルブ81からは紫外光のみならず可視光も放出されるが、フィルタ83により紫外光のみが透過されて車両前方に照射される。また、上記「独立タイプ」と同様、アクチュエータ60,70により紫外光の照射方向が制御される。なお、フィルタ83は、車両前方に紫外光を照射する時にのみ機能し、車両前方に可視光(ハイビーム)を照射する時には機能しない。また、アクチュエータ60,70による照射方向の制御は、車両前方に紫外光を照射する時にのみ行われ、車両前方に可視光(ハイビーム)を照射する時には行われない。対向車などが眩惑するためである。
【0022】
可視光ライト110は、前照灯130のロービームユニットで構成されている。
【0023】
なお、可視光ライト110の実装形態については、図1(b)に示す形態と図1(c)に示す形態とを入れ替えることも可能である。
【0024】
[動作フロー]
次に、以上のように構成された車両の運転支援装置の動作について図2のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0025】
[ST100]
ECU50は、ナビゲーション装置120の道路地図情報やカメラ20の撮影画像等に基づいて、自車両の走行レーンの形状を認識する。
【0026】
[ST110]
次にECU50は、レーダ10,カメラ20等からの情報に基づいて、自車両の走行状態等の各種周辺環境を認識する。
【0027】
[ST120]
次にECU50は、アイカメラ30によって撮影された運転者の目の画像に基づいて運転者の視線ベクトル(図3(a)参照)を算出する。このとき、視線ベクトルの演算フィルタとしてローパスフィルタや移動平均などを用いることにより、視線変動の影響を低減することができる。
【0028】
[ST130]
次にECU50は、上記ステップST100,ST110において取得された各種情報に基づいて、レーンベクトル(自車両の走行レーンの方向ベクトル:図3(a)参照)を算出する。
【0029】
[ST140]
次にECU50は、自車両に対する対向車が存在するか否かをレーダ10およびカメラ20からの情報に基づいて判定する。
【0030】
[ST150]
上記ステップST140において対向車が存在すると判定された場合は、図3(b)に示すように、ECU50は、上記ステップST120において取得された視線ベクトルに沿ってUVライト80,90からの紫外光を照射するための配光角を算出する。ECU50によって算出された配光角に基づいてアクチュエータ60,70は可動リフレクタ82を回動制御し、UVライト80,90からの紫外光が視線ベクトルに沿って照射される。なお、図3(b)においては、図をわかりやすく見せるためにUVライト90からの紫外光のみを図示している。また、ECU50は、上記ステップST130において取得されたレーンベクトルに沿って可視光ライト110からの可視光を照射するための配光角を算出する。ECU50によって算出された配光角に基づいてアクチュエータ100は可動リフレクタ112を回動制御し、可視光ライト110からの可視光がレーンベクトルに沿って照射される。
【0031】
なお、上記ステップST140における判定条件に「上記ステップST120において取得された視線ベクトルが対向車側に向いているか否か?」という条件を付け足し、「対向車が存在しかつ視線ベクトルが対向車側に向いている」と判定された場合に上記ステップST150の配光制御を行うようにしてもよい。
【0032】
[ST160]
一方、上記ステップST140において対向車が存在しないと判定された場合は、図3(c)に示すように、ECU50は、上記ステップST120において取得された視線ベクトルに沿ってUVライト80,90からの紫外光と可視光ライト110からの可視光とを照射するための配光角を算出する。ECU50によって算出された配光角に基づいてアクチュエータ60,70は可動リフレクタ82を回動制御し、UVライト80,90からの紫外光が視線ベクトルに沿って照射される。また、ECU50によって算出された配光角に基づいてアクチュエータ100は可動リフレクタ112を回動制御し、可視光ライト110からの可視光が視線ベクトルに沿って照射される。なお、図3(c)においても、図をわかりやすく見せるためにUVライト90からの紫外光のみを図示している。
【0033】
[実施形態の効果]
以上のように、本実施形態による車両の運転支援装置では、運転者の視線ベクトルに追従してUVライト80,90から紫外光が照射されるため、運転者の視線方向に存在する物標が浮き上がって見える。このため、紫外光の照射方向が予め設定された方向に固定されている場合と比べると、運転者の視認性を向上させることができる。なお、UVライト80,90からの紫外光の照射方向の制御パターンとしては、車両の進行方向や走行レーンに追従させる制御も考えられる。しかしながら歩行者のように不規則に動く物標は必ずしも進行方向や走行レーンに沿って動くとは限らず、進行方向や走行レーンを認識するセンサよりも運転者の視線のほうがこのような物標をうまく捉えることができる。したがって、運転者の視線ベクトルに追従してUVライト80,90からの紫外光の照射方向を制御する本実施形態によれば、歩行者のように不規則に動く物標を運転者が認識しやすい。
【0034】
また、対向車がないときは、UVライト80,90からの紫外光と可視光ライト110からの可視光の両方が運転者の視線ベクトルに追従して照射されるため、さらに運転者の視認性を向上させることができる。
【0035】
また、対向車があるときは、UVライト80,90からの紫外光のみが運転者の視線ベクトルに追従して照射されるため対向車にまぶしさを与えない。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、車両の運転者の視認性を向上させるための運転支援装置として、特に、夜間走行時に前方の歩行者や障害物に対する視認性を向上させるために有用である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】(a)本発明の実施形態による車両の運転支援装置のシステム構成を示すブロック図である。(b)(c)UVライトおよび可視光ライトの実装形態を示す図である。
【図2】本発明の実施形態による車両の運転支援装置の動作の流れを示すフローチャートである。
【図3】(a)視線ベクトルおよびレーンベクトルの一例を示す図である。(b)対向車ありのときの紫外光および可視光の照射例を示す図である。(c)対向車なしのときの紫外光および可視光の照射例を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
10 レーダ
20 カメラ
30 アイカメラ
40 ヨーレートセンサ
41 車速センサ
50 ECU(Electronic Control Unit)
60,70,100 アクチュエータ
80,90 UVライト
110 可視光ライト
81,111 光源バルブ
82,112 可動リフレクタ
83 フィルタ
120 ナビゲーション装置
130 前照灯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前方に紫外光を照射するUV照射手段と、
前記車両の運転者の視線を検知する視線検知手段と、
前記視線検知手段によって検知された視線に応じて前記UV照射手段の照射方向を変える制御手段とを備える、
ことを特徴とする車両の運転支援装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記車両の前方に可視光を照射する可視光照射手段をさらに備え、
前記制御手段は、
前記視線検知手段によって検知された視線に応じて前記可視光照射手段の照射方向を変える、
ことを特徴とする車両の運転支援装置。
【請求項3】
請求項2において、
自車両に対する対向車を検知する対向車検知手段をさらに備え、
前記制御手段は、
前記対向車検知手段によって対向車が検知されているときは、前記UV照射手段および前記可視光照射手段のうち前記UV照射手段の照射方向のみを、前記視線検知手段によって検知された視線に応じて変える、
ことを特徴とする車両の運転支援装置。
【請求項4】
請求項3において、
自車両が走行しているレーンの方向ベクトルを取得するレーンベクトル取得手段をさらに備え、
前記制御手段は、
前記対向車検知手段によって対向車が検知されているときは、前記レーンベクトル取得手段によって取得された方向ベクトルに応じて前記可視光照射手段の照射方向を変える、
ことを特徴とする車両の運転支援装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つにおいて、
前記UV照射手段は、
車両前方に可視光を照射する前照灯手段のハイビームユニットで構成されている、
ことを特徴とする車両の運転支援装置。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1つにおいて、
前記UV照射手段は、
車両前方に可視光を照射する前照灯手段とは別体に構成されている、
ことを特徴とする車両の運転支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−230546(P2008−230546A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−76314(P2007−76314)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】