説明

車両ブレーキ装置

【課題】簡易な構成で、信頼性の高いリザーバ動作と逆止弁としての機能を果たすリザーバを提供する。
【解決手段】
リザーバ13は、シリンダ23と、シリンダ23の頭部との間に所定の空間25が形成されるように、かつ、当該空間25に配設される弾性変位部材26の周縁部分をシリンダ23の内周面との間で挟持可能に形成されてシリンダ23の底部に設けられたカバー部材24とを具備してなり、弾性変位部材26は、ほぼ円環状に形成されてなる固定部33と、固定部33から延設されてシリンダ23の頭部側へ大凡凸面状に形成されてなる可変部34とからなり、可変部34のほぼ中央付近には、第1の連絡路51の開口部51aを塞ぐように扁平の開口閉鎖部36が膨出形成されものとなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両ブレーキ装置に係り、特に、装置構成の簡素化等を図ったものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の車両ブレーキ装置としては、例えば、ホイールシリンダのブレーキ液をマスタシリンダへ戻すリターン通路に、常閉型の電磁弁を設けると共に、この電磁弁とマスタシリンダとの間に、ブレーキ液を一時的に蓄積するリザーバを設け、ブレーキ作用時に車輪がロックする虞のある場合に、ブレーキ力を規制し、車輪のロックを回避できるようにした車両ブレーキ装置が知られている(例えば、特許文献1等参照)。すなわち、かかる構成においては、車輪がロックする虞がある場合、マスタシリンダとホイールシリンダ間のブレーキ液の流通を常開型の電磁弁により遮断する一方、リターン通路に設けられた常閉型の電磁弁を開き、ホイールシリンダのブレーキ液をリザーバへ適宜流入させることで、ホイールシリンダ内のブレーキ液を減圧制御して車輪のロックを回避できるようにしてある。
【0003】
また、近年、車両の安全性のさらなる向上等の観点から、車両の安全走行を補助するため、車両ブレーキの動作を制御して、特に、車両のコーナーリング時などにおける横滑りを軽減するよう構成されたESP(登録商標)やESC(登録商標)などと称される装置(以下、ESC装置又はESC機能という。)を備えた車両ブレーキ装置なども種々提案されている。
【0004】
これらアンチロックブレーキ機能を備えたブレーキ装置やESC装置(ESC機能)を備えたブレーキ装置は、いずれもホイールシリンダによるブレーキ力を、必要時に制御するという点では共通するものであり、そのため、ブレーキ液を流通せしめる油圧系統は、比較的共通する構成を採ることができる。
【0005】
【特許文献1】特開平10−86815号公報(第3−4頁、図1−図6)
【特許文献2】特表2005−500200号公報(第3−4頁、図1−図6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、両者のブレーキ油圧系統においては、その動作の違いから、車両ブレーキ装置の油圧系統に用いられる油圧ポンプの構造及びその作用が若干異なるため、アンチロックブレーキ機能を備えたブレーキ装置の油圧系統においては、通常のブレーキ動作状態、すなわち、アンチロックブレーキ機能が作用していない状態において、油圧ポンプとホイールシリンダのブレーキ液を一時的に蓄えるリザーバとを接続するブレーキ液の流通路には、油圧ポンプからの負圧が生ずるようなことがないのに対して、ESC機能を有するブレーキ装置の油圧系統においては、負圧が発生するという違いがある。
【0007】
このため、ESC機能を有するブレーキ装置においては、通常のブレーキ動作状態において、油圧ポンプから作用する負圧によって、ホイールシリンダのブレーキ液がリザーバへ不用意に流れ込むことがないように、油圧ポンプとリザーバとの間に、例えば、逆止弁などを設けるなどの何らか対策を講ずる必要があり、そのため、両者の油圧系統の共通化に困難をもたらしていただけでなく、ESC機能を有するブレーキ装置においては、油圧ポンプからの負圧の影響を阻止するための新たに逆止弁等の構成品が必要となるため、油圧系統の構成が複雑となり、装置の高価格化を招くという問題もあった。即ち、従来は、例えば特表2005−500200号公報の図2に示されたような逆止弁RVR1及びRVR2が必要であった。
【0008】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、油圧系統に新たな構成部品を設けることなく、簡易な構成で、部品の共通化を図ることのできる車両ブレーキ装置を提供するものである。
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、アンチロックブレーキ機能を備える場合と、ESC機能を備える場合のいずれにも共用できる油圧系統を有してなる車両ブレーキ装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記本発明の目的を達成するため、本発明に係る車両ブレーキ装置は、
マスタシリンダとホイールシリンダ間におけるブレーキ液が流通せしめられる通路と、当該ブレーキ液の流通を切り換える少なくとも1つの電磁切換弁とを有すると共に、前記ホイールシリンダのブレーキ液を前記マスタシリンダへ戻すリターン通路が設けられ、当該リターン通路途中には、ブレーキ液を一時的に蓄積するリザーバが設けられてなる油圧ユニットと、前記油圧ユニットの電磁切換切換弁を駆動制御する電子制御ユニットとを具備してなる車両ブレーキ装置であって、
前記リザーバは、前記油圧ユニットを構成する油圧ブロックに形成されたシリンダと、当該シリンダの開口部に設けられたカバー部材と、前記シリンダと前記カバー部材とにより形成される空間に配設された弾性変位部材とを具備してなり、
前記弾性変位部材は、前記シリンダと前記カバー部材との間で固定される固定部と、当該固定部から延設されてなる可変部とからなり、当該可変部には、油圧ポンプとリザーバとを連通する配管に通じ、前記シリンダに開口する連絡路の前記開口を塞ぐように、開口閉鎖部が膨出形成されてなるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、油圧ポンプとリザーバとの間に負圧が生じた際に油圧ポンプへのブレーキ液の吸い込みをリザーバによって防止できるような構成としたので、油圧ポンプとリザーバとの間に負圧を生ずる構成となるか否かに関わらず用いることができ、油圧系統の共通化を図り、安価な車両ブレーキ装置を提供することができる。
本発明によれば、リザーバは、弾性変位部材によって従来のばねとシール部材の機能を実現することができ、しかも、弾性変位部材は、従来のばねに比して、その変位方向での長さが比較的短くて済むため、簡易な構成で、小型とすることができる。しかも、負圧が生ずる油圧ポンプとの通路の開口を閉鎖する開口閉鎖部が形成されているので、従来と異なり、新たに逆止弁などの別個の構成品を設けることなく、逆止弁と同等の機能を発揮することができるリザーバを有する車両ブレーキ装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図1乃至図5を参照しつつ説明する。
なお、以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
最初に、本発明の実施の形態における車両ブレーキ装置Sの構成例について、図1を参照しつつ説明する。
図1には、いわゆる還流型のアンチロックブレーキ制御機能を備えた自動四輪車用の車両ブレーキ装置Sにおける配管系統を中心にした一構成例が示されている。同図においては、図面を簡潔にして、理解を容易にする観点から、車両前輪の右側車輪46aと後輪の左側車輪46bに係るブレーキ制御系が示されたものとなっている。
【0012】
かかる車両ブレーキ装置Sは、ブレーキ操作子としてのブレーキペダル45の踏み込みを、その踏み込み量に応じた油圧に変換するブレーキマスタシリンダ1と、ブレーキマスタシリンダ1からの油圧に応じて車輪46a,46bへそれぞれブレーキ力を与えるホイールシリンダ2a,2bとを有し、このブレーキマスタシリンダ1とホイールシリンダ2a,2bの間に次述するように配管、電磁切換弁等が設けられたものとなっている。
【0013】
なお、図示されない車両前輪の左側車輪と後輪の右側車輪に係るブレーキ制御系は、図1に示された車両前輪の右側車輪46aと後輪の左側車輪46bに係るブレーキ制御系と基本的に同様に構成されるものであり、次述する車両前輪の右側車輪46aと後輪の左側車輪46bに係るブレーキ制御系の説明を以て図示されない車両前輪の左側車輪と後輪の右側車輪に係るブレーキ制御系の説明に代えることとする。
【0014】
ブレーキマスタシリンダ1とブレーキペダル45の間には、ブレーキペダル45の踏み込み力を増圧するためのブースタ5が設けられている。
そして、ブレーキマスタシリンダ1とホイールシリンダ2aは、主油圧管3aによって、また、ブレーキマスタシリンダ1とホイールシリンダ2bは,主油圧管3bによって、それぞれ接続されており、それぞれの配管途中の適宜な位置には、通常開成状態とされる第1の電磁切換弁4a,4bがそれぞれ設けられている。
【0015】
また、第1の電磁切換弁4aとホイールシリンダ2aの間の主油圧管3aの適宜な位置には、リザーバ接続用油圧管11aが接続されており、その配管途中には、通常閉成状態とされる第2の電磁切換弁12aが設けられ、リザーバ接続用油圧管11aの他端はリザーバ13aに接続されている。
同様にして、第1の電磁切換弁4bとホイールシリンダ2bの間の主油圧管3bの適宜な位置には、リザーバ接続用油圧管11bが接続されており、その配管途中には、通常閉成状態とされる第2の電磁切換弁12bが設けられている。そして、リザーバ接続用油圧管11bの他端は、先のリザーバ接続用油圧管11aに、第2の電磁切換弁12aの出口側に位置する適宜な部位で接続されてリザーバ接続用油圧管11aを介してリザーバ13aに連通するようになっている。
【0016】
そして、リザーバ接続用油圧管11aには、第2の電磁切換弁12a,12bとリザーバ13aの間の適宜な位置に、ブレーキマスタシリンダ1と連通する戻し用油圧管14が接続されている。この戻し用油圧管14には、適宜な位置にブレーキマスタシリンダ1側から順に第1の戻し路用逆止弁15、油圧ポンプ装置41のプランジャ41a及び第2の戻し路用逆止弁16が配設されている。
【0017】
油圧ポンプ装置41は、リザーバ13aのブレーキ液を吸い上げてブレーキマスタシリンダ1へ還流させるためのもので、駆動モータ42と、このモータ42の出力軸(図示せず)に固着された図示されない固定カムによって往復動される2つのプランジャ41a,41bから概略構成されたプランジャ型のポンプとなっているものである。なお、他方のプランジャ41bは、図示を省略された車両前輪の左側車輪と後輪の右側車輪に係るブレーキ制御系において同様に用いられるものとなっている。
【0018】
上述の第1の電磁切換弁4a,4b、第2の電磁切換弁12a,12b及び駆動モータ42は、電子制御ユニット61によって、それぞれの動作制御が行われるようになっている。また、電子制御ユニット61には、ブレーキペダル45の作動の有無を検出するペダル作動スイッチ55のオン・オフ信号や図示されない車輪速度検出センサなどの検出信号が入力され、必要な動作制御処理に供されるようになっている。
【0019】
上述した構成における車両ブレーキ装置Sの基本的な動作は、この種の公知・周知のブレーキ制御装置と同様であるので、ここでの詳細な説明は省略するが、全体的な動作を以下に概略的に説明することとする。
例えば、ブレーキを作用させるため、ブレーキペダル45が操作されると、ペダル作動スイッチ55により、その操作に応じた検出信号が電子制御ユニット61に入力される。同時に、ブレーキマスタシリンダ1からは、ブレーキペダル45の操作に応じた油圧のブレーキ液がホイールシリンダ2a,2bに供給され、ホイールシリンダ2a,2bにおいてブレーキ力が発生し、車輪46a,46bにブレーキが作用するようになっている。
【0020】
そして、電子制御ユニット61において、アンチロックブレーキ制御が必要であると判断されると、第1の電磁切換弁4a,4bが励磁されて、主油圧管3a,3bは非連通状態とされ、ホイールシリンダ2a,2bの油圧が一定に保持される。そして、さらに電子制御ユニット61において、ブレーキを弛めるべきであると判断されると、第2の電磁切換弁12a,12bが励磁される。その結果、ホイールシリンダ2a,2bのブレーキ液が第2の電磁切換弁12a,12bを介してリザーバ13aへ排出され、ブレーキが弛められるようになっている。
同時に、駆動モータ42が電子制御ユニット61内の駆動回路(図示せず)を介して駆動され、リザーバ13aに貯留されたブレーキ液が油圧ポンプ装置41によって吸い上げられて、ブレーキマスタシリンダ1に還流されることとなる。
【0021】
かかる構成において、特に、図1において、二点鎖線で囲まれた部分は、外観形状がほぼ直方体状に形成された油圧ハウジング21(図2参照)に、上述の電磁切換弁等が組み込まれた油圧ユニット101となっている。
以下、かかる油圧ユニット101に設けられた本発明の実施の形態におけるリザーバ13aの構成について、図2及び図3を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において、リザーバ13aと、図示を省略した他方のブレーキ系統におけるリザーバとを区別する必要のない場合においては、リザーバ13と称することとする。
まず、油圧ユニット101を構成する油圧ハウジング21は、例えば、アルミ等の金属材からなるブロック状の部材が用いられており、上述の第1の電磁切換弁4a,4b、第2の電磁切換弁12a,12b等が組み込まれると共に、内部には、主油圧管3a,3b等のブレーキ液が流通する管としての機能を果たす通路が形成されたものとなっており、図3においては、その一部の通路38が示されている。
【0022】
本発明の実施の形態におけるリザーバ13は、その底部22が、油圧ハウジング21の下面側に位置するように設けられたものとなっている。
すなわち、リザーバ13は、油圧ハウジング21に凹設されたシリンダ23と、シリンダ23の開口部23aを閉塞するようにシリンダ23内に配設されるカバー部材24と、シリンダ23とカバー部材24により形成される収納空間25に配される弾性変位部材26とに大別されて構成されたものとなっている(図2及び図3参照)。
【0023】
本発明の実施の形態におけるシリンダ23は、油圧ハウジング21の一面、具体的には、下面21aに開口部23aが位置するように油圧ハウジング21に凹設されたシリンダ用凹部27によって形成されたものとなっている。
かかる本発明の実施の形態におけるシリンダ23は、その開口部23a側からシリンダ頭部23bへ向かって、径が段階的に小さくなるようにして第1中空部28a、第2中空部28b、第3中空部28c及び第4中空部28dが形成されたものとなっている。そして、これら第1乃至第4の中空部28a〜28dは、いずれも扁平の中空円筒状に形成されたものとなっている。
【0024】
また、シリンダ頭部23bには、リザーバ13とブレーキマスタシリンダ1とを連通する配管に通ずる第1の連絡路51が開口すると共に、リザーバ13とホイールシリンダ2a,2bとを連通する配管に通ずる第2の連絡路52が開口するものとなっている。
なお、先に図1に示された配管系統は概念的に表されたものであるので、必ずしも、図3に示されるような具体的な構造と一対一に対応するものではないが、上述のリザーバ13とブレーキマスタシリンダ1とを連通する配管は、図1に示された配管系統における戻し用油圧管14に相当する配管を意味し、また、上述のリザーバ13とホイールシリンダ2a,2bとを連通する配管は、図1に示された配管系統におけるリザーバ接続用油圧管11aに相当する配管を意味するものである。
【0025】
一方、本発明の実施の形態におけるカバー部材24は、大凡の全体外観形状は、扁平の円柱状に形成されてなるもので、径の異なる第1円柱部29a、第2円柱部29b、第3円柱部29c及び第4円柱部29dが順に積層されたように一体に形成されたものとなっている。
第1円柱部29aは、その外径がシリンダ23の第1中空部28aの内径よりも小さく設定されており、この第1の円柱部29aの外周部分と第2円柱部29bの周縁近傍との間に形成される段部30には、後述するようにシリンダ23の開口部23a側の周縁によるかしめがなされるようになっている。
【0026】
第2円柱部29bは、その外径がシリンダ23の第1中空部28aの内径にほぼ一致するものとなっており、先の第1円柱部29aと第2円柱部29bの軸方向(図3において紙面上下方向)の高さの和は、シリンダ23の第1中空部28aの軸方向の高さにほぼ一致するものとなっている。
【0027】
また、第3円柱部29cは、その外径がシリンダ23の第2中空部28bの内径にほぼ一致すると共に、その軸方向の高さは、第2中空部28bの高さにほぼ一致するものとなっている。
さらに、第4円柱部29dは、その外径がシリンダ23の第3中空部28cの内径との間に空間が生ずる大きさとされており、かかる空間部分には、後述するように弾性部材26の固定部33を収納すると共に、その軸方向の高さは、第3中空部28cの軸方向の高さよりやや小さく設定されたものとなっている。
そして、この第4円柱部29dの頭部には、空間形成用凹部31が凹設されたものとなっている。
【0028】
かかるカバー部材24は、その第4円柱部29d側からシリンダ23の開口部23a内へ挿入することによって、第2円柱部29bがシリンダ23の第1中空部28aに、第3円柱部29cがシリンダ23の第2中空部28bにそれぞれ位置するようにして、シリンダ23と嵌合するものとなっている。
かかる状態において、第4円柱部29dの外周面とシリンダ23の第3中空部28cの内周面との間には、空隙32が生ずるが、この空隙32において、次述する弾性変位部材26の固定部33が挟持されるようになっている。
【0029】
弾性変位部材26は、可塑性と復元性を有して良好な弾性力を有する部材、例えば、EPDMゴム材などを用いてなるものが好適である。本発明の実施の形態における弾性変位部材26は、扁平中空筒状に形成されてなる固定部33を有すると共に、この固定部33の一方の開口周縁部分からこの開口部分を覆うように延設された可変部34を有するものとなっている。
【0030】
可変部34は、その縦方向(図3において紙面上下方向)断面、換言すれば、固定部33の径方向に沿った断面形状が、図3に示されたように大凡円弧状をなすものとなっている。
本発明の実施の形態においては、可変部34の固定部33側に臨む面の中央部分が、その周囲に比して肉厚に形成された補強部35となっている。それは、ESC機能を有するブレーキ装置において油圧ポンプ装置41から作用する負圧をホイールシリンダ2a,2bへ伝えないように、弾性変位部材26が逆止弁の役割を担うが、その際、弾性変位部材26が負圧発生の第1の連絡路51と接触するため、それによる材料疲労を緩和するためである。
【0031】
本発明の実施の形態においては、先に述べた第1の連絡路51が丁度、可変部34の中央付近に臨むようにリザーバ13と第1の連絡路51を設ける位置が設定されている。
かかる弾性変位部材26は、外部から押圧力を受けない通常時においては、図3に示されたように可変部34は、固定部33と反対方向に凸状に張り出すような状態となっている。
【0032】
可変部34は、図3に示されたような状態において、必ずしも第1の連絡路51を塞ぐようになっている必要はない。これは、通常、第2の電磁切換弁12a,12bが閉弁状態において、第1の連絡路51が負圧状態となることはないため、可変部34によって第1の連絡路51が塞がれていなくとも、ブレーキ液が第1の連絡路51へ流出するようなことはないためである。
【0033】
ところが、油圧ポンプ装置41の構造によっては、第2の電磁切換弁12a,12bが閉弁状態において、第1の連絡路51が負圧状態となるものがある。かかる場合にリザーバ13からブレーキ液の不用意な流出を防止する観点から、本発明の実施の形態においては、可変部34のシリンダ頭部23b側の面の中央部には、扁平の開口閉鎖部36が第1の連絡路51の開口部51aを塞ぐように膨出形成されて設けられたものとなっている。
なお、第1の連絡路51が負圧状態となることがない構成である場合には、かかる開口閉鎖部36は必ずしも必要はないことは勿論である。
上述のように、油圧ポンプの機能の違いから、第1の連絡路51が負圧状態となるものとしては、例えば、ESCと称される安定走行補助のための機能を備えたブレーキ装置が代表的である。
【0034】
しかして、かかる構成において、シリンダ23内へ弾性変位部材26及びカバー部材24を配設するには、カバー部材24の第4円柱部29dに弾性変位部材26の固定部33の内側が被着されるようにし、カバー部材24と弾性変位部材26とを、弾性変位部材26側からシリンダ23へ挿入してゆくようにして全体を押し込むようにするとよい。
その結果、弾性変位部材26の固定部33は、カバー部材24の第4円柱部29dとシリンダ23の第3中空部28cの間に挟持されるような状態で固定されることとなる(図3参照)。このため、本発明の実施の形態における弾性変位部材26は、シリンダ23とカバー部材24のとの間からのブレーキ液の漏れを防止するシール部材としての機能も果たすものとなっている。
【0035】
かかる状態において、カバー部材24の第1円柱部29aの平面部分は、油圧ハウジング21の平面部分と一致するようになっている(図3参照)。
本発明の実施の形態においては、シリンダ23の開口部23aの周縁部分に、かしめ用の突条37が設けられており、この突条37をカバー部材24側へ曲折することでカバー部材24をシリンダ23に固定できるようになっている。かかる突条37は、円全周に設けるのが好適である。
【0036】
次に、図4を参照しつつ上記構成におけるリザーバ13の動作について説明する。
まず、第2の電磁切換弁12a,12bが閉じられている状態、すなわち、例えば、ブレーキベダル45の操作に応じてブレーキマスタシリンダ1からブレーキ液がホイールシリンダ2a,2bへ供給されているような状態においては、弾性変位部材26は、図4(A)に示されたように、通常時の状態、すなわち、可変部34は、固定部33と反対方向に凸状に張り出すような状態となって、開口閉鎖部36が第1の連絡路51の開口部51aに当接して、その開口部51aを覆う状態となっている。
したがって、例え油圧ポンプ装置41とリザーバ13との間に負圧が生じても、リザーバ13のブレーキ液が油圧ポンプ装置41へへ吸入されるようなことはなく、動作の信頼性、安定性が確保されることとなる。このように、本発明の実施の形態におけるリザーバ13は、油圧ポンプ装置41との間において、別個に逆止弁を設けることなく、リザーバとしての機能を果たすと共に逆止弁としての機能を果たすようになっている。
【0037】
そして、ブレーキ力の低減のため第1の電磁切換弁4a,4bが閉弁状態とされる一方、第2の電磁切換弁12a,12bが開弁状態とされると、ホイールシリンダ2a,2bのブレーキ液が第2の連絡路52を介してシリンダ23内へ流入することとなり、そのブレーキ液の流入圧によって、弾性変位部材26の可変部34は、カバー部材24に形成された空間形成用凹部31へ向かって変位してゆくこととなる。そして、ブレーキ液が最大限流入した状態においては、補強部35が空間形成用凹部31に当接する位置まで可変部34が変位することとなる(図4(B)参照)。
【0038】
かかるシリンダ23において、そのシリンダ容量、すなわち、換言すれば、ブレーキ液を蓄積できる容量は、大凡カバー部材24の空間形成用凹部31と弾性変位部材26との間に形成される空間の容量となる。
このように本発明の実施の形態におけるゴム材を用いてなる弾性変位部材26によれば、従来の金属材からなるばねを用いたリザーバに比して、弾性変位部材26の変位に対するヒステリシスが極めて低く、信頼性の高いリザーバ動作が得られるものとなっている。
【0039】
図5には、他の実施例が示されており、以下、同図を参照しつつ他の実施例について説明する。なお、図2乃至図4に示された構成例における構成要素と同一の構成要素には、同一の符号を付して、その詳細な説明を省略し、以下、異なる点を中心に説明する。
この図5に示された構成例は、図3に示された構成例に比してシリンダ容量を大きくした例である。
すなわち、この構成例においては、カバー部材24の空間形成用凹部31の深さを増すことにより、この空間形成用凹部31と弾性変位部材26との間に形成される空間の容量を増すことで、シリンダ容量の増大を図ったものである。
【0040】
なお、弾性変位部材26は、十分伸縮性を有する部材を用いている場合には、シリンダ容量が多少増えた場合であっても、同一の大きさのものを用いることが可能である。
図5に示された構成例では、弾性変位部材26は、図4の例と同一の形状、寸法のものである。
【0041】
この構成例においても、弾性変位部材26は、先に図4で説明したと同様に、ブレーキ液の流入によって、その可変部34が、シリンダ頭部23b側から空間形成用凹部31へ向かって変位し、シリンダ容量一杯にブレーキ液が流入した際には、可変部34は、補強部35が空間形成用凹部31の底部に当接する位置まで変位することとなる(図5(A)、図5(B)参照)。
【0042】
また、可変部34は、カバー部材24側とは反対側へ大凡凸面状の部分を有する形状としたが、平坦であっても良い。
【0043】
上述の本発明の実施の形態においては、本発明をアンチロックブレーキ油圧ユニットに適用した例を説明したが、これに限定される必要はなく、ESCやその他の油圧ユニットに適用しても良いことは勿論である。
【0044】
なお、上述の実施例においては、各ブレーキ系統には、2個の2ポート2位置電磁切換弁を設けているが、1個の3ポート3位置電磁切換弁でも良い。すなわち、例えば、電磁切換弁4a、12aに代えて、1個の3ポート3位置電磁切換弁を設けるようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施の形態における車両ブレーキ装置の配管系統図の構成例を示す構成図である。
【図2】本発明の実施の形態における車両ブレーキ装置に用いられるリザーバの分解状態における全体斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態における車両ブレーキ装置に用いられるリザーバの縦断面図である。
【図4】図3に示されたリザーバの使用状態における作用を模式的に説明する説明図であって、図4(A)は、可変部の変位前における状態を説明する説明図、図4(B)は、可変部が最大限変位した状態を説明する説明図である。
【図5】他の実施例におけるリザーバの使用状態における作用を模式的に説明する説明図であって、図5(A)は、可変部の変位前における状態を説明する説明図、図5(B)は、可変部が最大限変位した状態を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0046】
1…ブレーキマスタシリンダ
2…ホイールシリンダ
11a,11b…リザーバ接続用油圧管
13…リザーバ
14…戻し用油圧管
23…シリンダ
24…カバー部材
26…弾性変位部材
33…固定部
34…可変部
36…開口閉鎖部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスタシリンダとホイールシリンダ間におけるブレーキ液が流通せしめられる通路と、当該ブレーキ液の流通を切り換える少なくとも1つの電磁切換弁とを有すると共に、前記ホイールシリンダのブレーキ液を前記マスタシリンダへ戻すリターン通路が設けられ、当該リターン通路途中には、ブレーキ液を一時的に蓄積するリザーバが設けられてなる油圧ユニットと、前記油圧ユニットの電磁切換切換弁を駆動制御する電子制御ユニットとを具備してなる車両ブレーキ装置であって、
前記リザーバは、前記油圧ユニットを構成する油圧ブロックに形成されたシリンダと、当該シリンダの開口部に設けられたカバー部材と、前記シリンダと前記カバー部材とにより形成される空間に配設された弾性変位部材とを具備してなり、
前記弾性変位部材は、前記シリンダと前記カバー部材との間で固定される固定部と、当該固定部から延設されてなる可変部とからなり、当該可変部には、油圧ポンプとリザーバとを連通する配管に通じ、前記シリンダに開口する連絡路の前記開口を塞ぐように、開口閉鎖部が膨出形成されてなることを特徴とする車両ブレーキ装置。
【請求項2】
前記シリンダは、油圧ブロックの一面に開口部が位置するようにして凹設されたシリンダ用凹部からなり、カバー部材は、前記シリンダ用凹部の開口部を閉塞するよう設けられてなることを特徴とする請求項1記載の車両ブレーキ装置。
【請求項3】
前記弾性変位部材は、前記ホイールシリンダ側からのブレーキ液の流入によってカバー部材側へ変位する一方、ブレーキ液の流出によって復元可能に設けられてなることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車両ブレーキ装置。
【請求項4】
前記可変部は、前記カバー部材側とは反対側へ大凡凸面状の部分を有することを特徴とする請求項1乃至請求項3いずれかに記載の車両ブレーキ装置。
【請求項5】
前記弾性変位部材の可変部の少なくともほぼ中央付近は、その周辺部分に比して板厚に形成されてなることを特徴とする請求項1乃至請求項4いずれかに記載の車両ブレーキ装置。
【請求項6】
前記カバー部材の可変部に臨む部位には、所定の空間を形成する空間形成用凹部が設けられてなることを特徴とする請求項1乃至請求項5いずれかに記載の車両ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−196379(P2009−196379A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−315577(P2006−315577)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】