説明

車両制御装置

【課題】低コストで構成可能でありながら適切なタイミングで衝突安全装置を動作可能とする車両制御装置を提供する。
【解決手段】自車両と物体との衝突の危険性を低減するべく車両を制御する車両制御装置であって、物体を検出する物体検出手段と、物体と自車両との衝突の危険性が高いか否か判定する衝突判定手段と、衝突判定手段により衝突の危険性が高いと判定された場合、衝突の危険性を低減するための衝突安全装置を作動させる衝突安全装置制御手段と、自車両の車体のピッチ角の経時変化量をピッチ角変化量として算出するピッチ角変化量算出手段と、ピッチ角変化量に基づいて衝突安全装置の動作を抑制または停止する動作抑制手段とを備える、車両制御装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置に関し、より特定的には、自車両の走行状況に応じて衝突安全装置を動作させる車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自車両と障害物とが衝突する危険性を推定し、自車両と障害物とが衝突する危険性が高まった場合に、自動的ブレーキ装置などの安全システムを作動させて当該衝突の危険を低減する車両の制御装置が開発されている。
【0003】
上記のような車両の制御装置は、一般的にレーダー装置によって障害物の位置を検出している。したがって、障害物が誤って検出された場合には安全システムを不要なタイミングで動作させてしまうという問題があった。例えば、図9に示すように、自車両200の走行する緩やかな勾配の路面R3の勾配が前方において変化し、急勾配の路面R4となっている場合、レーダー装置が路面R4や、路面R4上に設置された非障害物(マンホール等)を障害物として誤検出し、安全システムを誤作動させてしまう場合があった。なお、図9は、従来の車両の制御装置において障害物が誤って検出されている様子を示す図である。
【0004】
上記のような問題を解決するべく開発された車両の制御装置が、特許文献1に開示されている。特許文献1に開示される車両の制御装置は、ナビゲーション装置によって自車両が走行中の道路の勾配情報、および自車両の前方の道路の勾配情報を取得し、自車両前方において勾配が変化している場合には安全システム(衝突安全装置)を作動し難くする。このような制御によれば、勾配が変化する道路における安全システムの誤作動を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−186384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示される発明は、ナビゲーション装置によって道路勾配情報を取得するため、ナビゲーション装置を搭載しない車両に適用することが困難であった。また、必ずしも全ての道路についての勾配情報がナビゲーション装置が用いるデータベースに登録されているとは限らないため、勾配情報が登録されていない道路においては衝突安全装置の誤作動を抑制できない場合があった。すなわち、特許文献1に開示される車両の制御装置には改良の余地があった。
【0007】
本発明は上記の課題を鑑みて成されたものであり、低コストで構成可能でありながら適切なタイミングで衝突安全装置を動作可能とする車両制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本願は以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明は、自車両と物体との衝突の危険性を低減するべく車両を制御する車両制御装置であって、物体を検出する物体検出手段と、物体と自車両との衝突の危険性が高いか否か判定する衝突判定手段と、衝突判定手段により衝突の危険性が高いと判定された場合、衝突の危険性を低減するための衝突安全装置を作動させる衝突安全装置制御手段と、自車両の車体のピッチ角の経時変化量をピッチ角変化量として算出するピッチ角変化量算出手段と、ピッチ角変化量に基づいて衝突安全装置の動作を抑制または停止する動作抑制手段とを備える、車両制御装置である。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、ピッチ角変化量算出手段は、物体検出手段が物体を最初に検出した時点におけるピッチ角を新規検出時ピッチ角として算出する新規検出時ピッチ角算出手段と、衝突判定手段によって衝突の危険性が高いと判定された時点におけるピッチ角を新規検出時ピッチ角として算出する衝突判定時ピッチ角算出手段とを含み、ピッチ角変化量算出手段は、新規検出時ピッチ角および新規検出時ピッチ角に基づいてピッチ角変化量を算出することを特徴とする。
【0010】
第3の発明は、第1および2の発明の何れか1つにおいて、衝突安全装置の動作を抑制または停止するか否かを決定するためのピッチ角変化量閾値を算出する閾値算出手段をさらに備え、勾配変化推定手段は、前記衝突安全装置の動作を抑制または停止するか否かをピッチ角変化量およびピッチ角変化量閾値の大小関係に基づいて決定することを特徴とする。
【0011】
第4の発明は、第3の発明において、自車両におけるドライバーによるブレーキ操作の有無を検出するブレーキ操作検出手段をさらに備え、閾値算出手段は、ピッチ角変化量閾値の大きさをブレーキ操作が検出されている場合、ピッチ角変化量閾値の大きさをブレーキ操作が検出されていない場合に比べて衝突安全装置の動作が抑制され難くなるようピッチ角変化量閾値の大きさを変更して算出することを特徴とする。
【0012】
第5の発明は、第3から4の発明の何れか1つにおいて、自車両におけるドライバーによるアクセル操作の有無を検出するアクセル操作検出手段をさらに備え、閾値算出手段は、自車両においてドライバーによるアクセル操作が検出された場合、閾値算出手段は、自車両においてドライバーによるアクセル操作が検出されていない場合に比べて衝突安全装置の動作が抑制され易くなるようピッチ角変化量閾値の大きさを変更して算出することを特徴とする。
【0013】
第6の発明は、第3から5の発明の何れか1つにおいて、自車両の走行速度を検出する速度検出手段と、閾値算出手段は、ピッチ角変化量閾値の値を自車両の走行速度に基づいて算出することを特徴とする。
【0014】
第7の発明は、第1から6の発明の何れか1つにおいて、衝突安全装置には、自車両に自動的に制動力を発生させる自動制動装置が含まれ、動作抑制手段は、自動制動装置が発生させる制動力の発生を前記ピッチ角変化量の大きさに基づいて抑制または停止することを特徴とする。
【0015】
第8の発明は、第1から7の発明の何れか1つにおいて、衝突安全装置には、自車両内で警報を発する警報装置が含まれ、動作抑制手段は、警報装置が発する警報を前記ピッチ角変化量の大きさに基づいて停止することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
第1の発明によれば、低コストで多様な環境で安全システムの不要作動を低減することができる。具体的には、自車両のピッチ角情報を用いて道路に勾配変化があるか否かを推定するため、従来技術のようにナビゲーション装置のデータベース等を用いる必要がない。
したがって、データベースに登録されていないあらゆる道路において道路に勾配変化があるか否かを推定することができる。また、ナビゲーション装置等の効果な装置を自車両に搭載することがないため、低コストで上記効果を得ることができる。
【0017】
第2の発明によれば、ピッチ角変化量を適切なタイミングで算出することができる。したがって、不要な演算処理を低減することができる。
【0018】
第3の発明によれば、閾値を用いた簡単な処理で道路の勾配に変化があるか否かを推定することができる。
【0019】
第4の発明によれば、ドライバーがブレーキ操作を行っているとき、すなわち、実際に障害物が存在しており衝突の危険が高いと考えられる場合には、衝突安全装置の動作を抑制し難くして適切に衝突安全装置を動作させることができる。
【0020】
第5の発明によれば、ドライバーがアクセル操作を行っているとき、すなわち、実際に障害物が存在しておらず衝突の危険が低いと考えられる場合には、衝突安全装置の動作をより抑制し易くして適切に自車両を制御することができる。
【0021】
第6の発明によれば、衝突安全装置の抑制等を自車両の走行状態に応じて、より適切に実行することができる。例えば、自車両が比較的高速で走行しており、仮に障害物が存在した場合に衝突の危険性が高くなる状況下では、自車両が比較的低速で走行している場合に比べて衝突安全装置の動作が抑制され難くなるようピッチ角変化量閾値の大きさを変更して算出することができる。
【0022】
第7の発明によれば、衝突安全装置として搭載された自動ブレーキの不要な動作を抑制することができる。
【0023】
第8の発明によれば、衝突安全装置として搭載された警報装置の不要な動作を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1の実施形態に係る車両制御装置1のハードウェア構成を示すブロック図の一例
【図2】第1の実施形態に係るECU20が実行する処理の詳細を示すフローチャートの一例
【図3】急勾配路面R2を障害物として新規に検出した時点の自車両100の車体の傾斜状態の一例を示す図
【図4】急勾配路面R2と自車両100との衝突の危険性が高いと判定された時点の自車両100の車体の傾斜状態の一例を示す図
【図5】第2の実施形態に係る車両制御装置2のハードウェア構成を示す図
【図6】第2の実施形態に係るECU20が実行する処理の詳細を示すフローチャートの一例
【図7】第3の実施形態に係るECU20が実行する処理の詳細を示すフローチャートの一例
【図8】ECU20がピッチ角変化量閾値θthを算出する際に用いる関数の一例
【図9】従来の車両の制御装置において障害物が誤って検出されている様子を示す図
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態に係る車両制御装置1について説明する。車両制御装置1は、自車両100に搭載され、自車両100と障害物の衝突の危険性を低減する装置である。先ず、図1を参照して車両制御装置1の構成について説明する。なお、図1は、本発明第1の実施形態に係る車両制御装置1のハードウェア構成を示すブロック図の一例である。図1に示すように、車両制御装置1は、レーダー装置10、ヨーレートセンサ11、車速センサ12、ECU20、および衝突安全装置30を備える。
【0026】
レーダー装置10は、自車両100の周囲に存在する障害物の位置、および自車両100に対する障害物の相対速度VRを検出する装置である。本実施形態においては、レーダー装置10は、自車両100の前端に搭載され、自車両100の前方に存在する物体を検出する。レーダー装置10は、典型的にはミリ波長帯の電磁波を送受信するFM−CW方式のレーダー装置である。レーダー装置10は、例えば、電磁波等の検出波信号を自車両100の前方に照射する。そして、物体に反射された当該検出波信号の反射波に基づいて当該障害物の位置および相対速度VRを検出する。なお、障害物の位置情報には自車両100から障害物までの距離Lが含まれる。レーダー装置10は、障害物を検出した場合、検出した障害物の位置を示すデータをECU20へ送信する。
【0027】
ヨーレートセンサ11は、自車両100の車体の傾斜角度を検出するセンサである。ヨーレートセンサ11は、自車両100の車体のピッチ方向の傾斜角度(以下、車体ピッチ角θと称する)を検出する。車体ピッチ角θは、例えば、自車両100の車体中心を前後方向に貫通する軸線(図3の軸線J)と水平面(図3の水平面F)とが成す角度により表される。なお、ヨーレートセンサ11は、従来周知の任意の手法を用いて車体ピッチ角θを検出して良い。ヨーレートセンサ11は、検出した車体ピッチ角θを示すデータをECU20へ送信する。
【0028】
車速センサ12は、自車両100の走行速度Vを検出するセンサである。なお、車速センサ12は、従来周知の任意の手法を用いて走行速度Vを算出して良い。車速センサ12は、検出した走行速度Vを示すデータをECU20へ送信する。
【0029】
ECU20は、典型的には、CPU(Central Processing Unit:中央処理装置)などの情報処理装置、メモリなどの記憶装置、およびインターフェース回路などを備える電子制御装置である。ECU20は、レーダー装置10、ヨーレートセンサ11、車速センサ12から得たデータに基づいて、衝突安全装置30の動作を制御する。
【0030】
衝突安全装置30は、自車両100と障害物との衝突の危険性を低減するための装置である。衝突安全装置30は、例えば、自車両100に自動的に制動力を発生させる自動ブレーキ装置である。
【0031】
次いで、図2を参照して、ECU20が実行する処理について説明する。図2は、第1の実施形態に係るECU20が実行する処理の詳細を示すフローチャートの一例である。ECU20は、例えば、自車両100に搭載された衝突安全制御システムがオン状態に設定されている場合に図2のフローチャートの処理を実行する。なお、衝突安全制御システムのオン/オフ状態の切り替えは、自車両100に搭載された入力装置(図示せず)を介してユーザーが任意に行うことができるものとする。ECU20は、図2のフローチャートの処理を開始すると、先ず、ステップS1の処理を実行する。
【0032】
ステップS1において、ECU20は、障害物を検出したか否か判定する。具体的には、ECU20は、レーダー装置10から障害物の位置情報が得られた場合、当該位置情報を自身の記憶装置に記憶し、障害物を検出していると判定する。ECU20は、障害物を検出したと判定した場合、処理をステップS2へ進める。一方、ECU20は、障害物を検出していないと判定した場合、処理をステップS10へ進める。
【0033】
ステップS2において、ECU20は、ステップS1において検出された障害物が新規に検出された物体か否か判定する。具体的には、ECU20は、記憶装置に記憶された過去の障害物の位置情報の変化に基づいて、ステップS1において検出された障害物が過去に検出された障害物と同一物体であるか否か判定する。そして、ECU20は、検出された障害物が過去に検出された障害物と同一物体でない場合、ステップS1において検出された障害物が新規に検出された物体であると判定する。なお、上記処理は一例であり、ECU20は、障害物が新規に検出された物体か否かを従来周知の任意の手法を用いて判定して良い。ECU20は、障害物が新規に検出された物体であると判定した場合、処理をステップS3へ進める。一方、ECU20は、障害物が新規に検出された物体でないと判定した場合、処理をステップS4へ進める。
【0034】
ステップS3において、ECU20は、新規検出時ピッチ角αを算出する。新規検出時ピッチ角αは、障害物を新規に検出した時点における自車両100の車体ピッチ角である。ECU20は、ヨーレートセンサ11から車体ピッチ角θを取得し、当該車体ピッチ角θを新規検出時ピッチ角αとして記憶装置に記憶する。ECU20は、ステップS3の処理を完了すると、処理をステップS4へ進める。
【0035】
ステップS4において、ECU20は、自車両100とステップS1において検出した障害物との衝突の危険性が高いか否か判定する。具体的には、先ず、ECU20は、障害物と自車両100とが衝突するまでに要する時間を衝突予測時間TTCとして算出する。より詳細には、ECU20は、レーダー装置10により検出された障害物までの距離Lおよび相対速度VRに基づいて式(1)に基づいてTTCを算出する。
TTC=L/VR …(1)
次いで、ECU20は、衝突予測時間TTCが衝突判定閾値TTCth以下であるか否か判定する。衝突判定閾値TTCthは、予め定められた定数値であり、ECU20の記憶装置に記憶される。ECU20は、衝突予測時間TTCが衝突判定閾値TTCth以下である場合、衝突の危険性が高いと判定し、処理をステップS6へ進める。一方、ECU20は、衝突予測時間TTCが衝突判定閾値TTCthより大きい場合、衝突の危険性が低いと判定し、処理をステップS5へ進める。なお、上記の処理は一例であり、ECU20は従来周知の任意の手法を用いて衝突の危険性が高いか否か判定しても良い。例えば、ECU20は、障害物の移動軌跡および自車両100の移動軌跡を算出し、これらの軌跡に基づいて自車両100と障害物とが衝突する危険性が高いか否か判定する等しても良い。
【0036】
ステップS5において、ECU20は、衝突安全装置30が動作中であれば当該衝突安全装置30の動作を停止する。具体的には、衝突安全装置30が自動的な制動力を発生させている場合、当該制動力の発生を停止するよう衝突安全装置30へ指示を行う。なお、衝突安全装置30が自動的な制動力を発生させていない場合、ECU20は、衝突安全装置30にその状態を維持させる。CU20は、ステップS5の処理を完了すると、処理をステップS10へ進める。
【0037】
ステップS6において、ECU20は、衝突安全装置30を作動させる。具体的には、衝突安全装置30が自動的な制動力を発生させていない場合、ECU20は、当該制動力の発生を開始するよう衝突安全装置30へ指示を行う。なお、衝突安全装置30が自動的な制動力を発生させている場合、ECU20は、衝突安全装置30に当該制動力の発生を維持させる。ECU20は、ステップS6の処理を完了すると、処理をステップS7へ進める。
【0038】
ステップS7において、ECU20は、衝突判定時ピッチ角βを算出する。衝突判定時ピッチ角βは、衝突の危険性が高いと判定された時点における自車両100の車体ピッチ角である。ECU20は、ヨーレートセンサ11から車体ピッチ角θを取得し、当該車体ピッチ角θを衝突判定時ピッチ角βとして記憶装置に記憶する。ECU20は、ステップS7の処理を完了すると、処理をステップS8へ進める。
【0039】
ステップS8において、ECU20は、自車両100が走行する道路の勾配に変化があるか否か推定する。具体的には、ECU20は、先ず、車体ピッチ角θの経時変化量をピッチ角変化量Δθとして算出する。ECU20は、ピッチ角変化量Δθを式(2)に示すように新規検出時ピッチ角αと衝突判定時ピッチ角βとの差分値により求める。
Δθ=|α−β| …(2)
次いで、ECU20は、ピッチ角変化量Δθがピッチ角変化量閾値θthより大きいか否かに応じて道路の勾配に変化があるか否か推定する。ピッチ角変化量閾値θthは、自車両が走行する道路の勾配に変化があるか否かを推定し、衝突安全装置30の動作を抑制するか否か決定するための閾値である。ピッチ角変化量閾値θthは、予めECU20の記憶装置に記憶された定数である。ECU20は、式(3)が満たされている場合に道路の勾配に変化があると推定し、式(3)満たされていない場合に道路の勾配に変化がないと推定する。
Δθ>θth …(3)
ECU20は、道路の勾配に変化があると推定した場合、処理をステップS9へ進め衝突安全装置30の動作を抑制する。一方、ECU20は、道路の勾配に変化がないと推定した場合、衝突安全装置30の動作状態を変更することなく処理をステップS10へ進める。
【0040】
上記ステップS8の処理によれば自車両100が走行する道路に勾配変化があるか否かをヨーレートセンサ11の情報に基づいて推定することができる。すなわち、従来の装置ようにナビゲーション装置等のデータベースを用いることなく、あらゆる道路において道路に勾配変化があるか否かを推定することができる。なお、上記ステップS8の処理は一例であり、ECU20は車体ピッチ角θの経時変化量に基づいて他の任意の手法で自車両100が走行する道路の勾配に変化があるか否か推定しても構わない。例えば、ECU20は、新規検出時ピッチ角αと衝突判定時ピッチ角βとの除算値が、予め定められた閾値より大きいか否かに応じて道路の勾配に変化があるか否か推定する等しても構わない。
【0041】
ステップS9において、ECU20は、衝突安全装置30の動作を抑制する。具体的には、ECU20は、衝突安全装置30が発生させている制動力の大きさを現在よりも小さくするよう衝突安全装置30へ指示する。ECU20は、ステップS9の処理を完了すると、処理をステップS10へ進める。
【0042】
なお、上記実施形態では、ステップS9において衝突安全装置30の動作を抑制する例について説明したが、ECU20は、ステップS9において衝突安全装置30の動作を停止しても構わない。
【0043】
ステップS10において、ECU20は、衝突安全制御システムがオフ状態に設定されたか否か判定する。ECU20は、衝突安全制御システムがオフ状態に設定されたと判定した場合、図2の処理を終了する。一方、ECU20は、衝突安全制御システムがオン状態に設定されていると判定した場合、処理をステップS1へ戻し上記各ステップの処理を繰り返し実行する。
【0044】
上記のような処理によれば、自車両100が走行する道路勾配に変化がある場合、すなわち、路面を障害物として誤検出し易い状況において、衝突安全装置30による自動的な制動力の発生が抑制される。したがって、衝突安全装置30の不要な動作を抑制することができる。
【0045】
例えば、図3に示すように、自車両100が勾配の変化している道路を走行している状況を想定する。なお、図3は、急勾配路面R2を障害物として新規に検出した時点の自車両100の車体の傾斜状態の一例を示す図である。図3において自車両100は、比較的緩やかな勾配の緩勾配路面R1から、比較的急な勾配の急勾配路面R2へ進行している。ECU20は、レーダー装置10により急勾配路面R2を新規の障害物として検出すると(上記ステップS1でYes、且つステップS2でYes)、新規検出時ピッチ角αを算出する(上記ステップS3)。
【0046】
その後、図4に示すように自車両100が道路を進行し、急勾配路面R2へ接近すると、障害物として検出されている急勾配路面R2までの距離Lが短くなる。その結果、ECU20は、衝突時間TTCを小さな値に算出することとなり、衝突の危険性が高いと判定する(上記ステップS4でYes)。なお、図4は、急勾配路面R2と自車両100との衝突の危険性が高いと判定された時点の自車両100の車体の傾斜状態の一例を示す図である。ECU20は、衝突の危険性が高いと判定すると(上記ステップS4でYes)、衝突判定時ピッチ角βを算出する(上記ステップS7)。ここでピッチ角αとピッチ角βとの差分が大きければ(ステップS8でYes)、衝突安全装置30の動作が抑制される(ステップS9)。
【0047】
上記の通り、本発明に係る車両制御装置1によれば、実際には自車両100と衝突する危険のない路面を障害物として検出し易い状況下、すなわち、道路に勾配変化がある状況下では、衝突安全装置30の動作を抑制または停止することができる。したがって、自車両100のドライバーは不要な自動ブレーキの動作による煩わしさを感じることなく運転操作を行うことができる。また、本発明に係る車両制御装置1は、従来の装置ようにナビゲーション装置等のデータベースを用いる必要がないため、比較的低コストで構成することが可能である。なお上記図3および図4の例では、自車両100が上り勾配の道路を走行している例について説明したが、本発明に係る車両制御装置1は下り勾配の道路においても同様に不要な衝突安全装置30の動作を抑制または停止することが可能である。
【0048】
(第2の実施形態)
上記第1の実施形態では、ピッチ角変化量閾値θthが予め定められた定数である場合を例として説明したが、ECU20は、ピッチ角変化量閾値θthの大きさを適宜変更して算出しても構わない。例えば、ECU20は、ピッチ角変化量閾値θthの大きさを自車両100におけるドライバーの運転操作に応じて変更して算出しても良い。以下、第2の実施形態に係る車両制御装置2について説明する。なお、第1の実施形態に係る車両制御装置1と同様の構成や処理については同様の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0049】
先ず、図5を参照して、第2の実施形態に係る車両制御装置2のハードウェア構成について説明する。図5は、第2の実施形態に係る車両制御装置2のハードウェア構成を示す図である。図5に示すように、車両制御装置2は、レーダー装置10、ヨーレートセンサ11、車速センサ12、ECU20、衝突安全装置30に加え、ブレーキ装置13、およびアクセル装置14を備える。
【0050】
ブレーキ装置13は、自車両100のドライバーによるブレーキ操作を検出し、自車両100に制動力を発生させる装置である。ブレーキ装置13は、ECU20と電気的に接続され、自車両100のドライバーによるブレーキ操作を検出した場合、当該ブレーキ操作を検出したことを示す信号をECU20へ送信する。アクセル装置14は、自車両100のドライバーによるアクセル操作を検出して自車両100を加速させる装置である。アクセル装置14は、ECU20と電気的に接続され、自車両100のドライバーによるアクセル操作を検出した場合、当該アクセル操作を検出したことを示す信号をECU20へ送信する。
【0051】
次いで、第2の実施形態に係る車両制御装置2が備えるECU20が実行する処理について図6を参照して説明する。なお、図6は、第2の実施形態に係るECU20が実行する処理の詳細を示すフローチャートの一例である。図6に示す通り、第2の実施形態に係るECU20は、図6の処理を開始すると、図2と同様のステップS1からステップS7の処理を順次実行する。但し、第2の実施形態に係るECU20は、ステップS7の処理を完了すると、処理をステップS21へ進める。
【0052】
ステップS21において、ECU20は、自車両100においてアクセル操作があったか否か判定する。具体的には、ECU20は、アクセル操作を検出したことを示す信号をアクセル装置14から受信したか否か判定する。ECU20は、アクセル操作を検出したことを示す信号を受信している場合、アクセル操作があったと判定し、処理をステップS23へ進める。一方、ECU20は、アクセル操作を検出したことを示す信号を受信していない場合、アクセル操作がないと判定し、処理をステップS22へ進める。
【0053】
ステップS22において、ECU20は、自車両100においてブレーキ操作があったか否か判定する。具体的には、ECU20は、ブレーキ操作を検出したことを示す信号をブレーキ装置13から受信したか否か判定する。ECU20は、ブレーキ操作を検出したことを示す信号を受信している場合、ブレーキ操作があったと判定し、処理をステップS25へ進める。一方、ECU20は、ブレーキ操作を検出したことを示す信号を受信していない場合、ブレーキ操作がないと判定し、処理をステップS24へ進める。
【0054】
ステップS23において、ECU20は、ピッチ角変化量閾値θthの値を定数Eに設定する。ECU20は、ステップS23の処理を完了すると、処理をステップS8へ進める。
【0055】
ステップS24において、ECU20は、ピッチ角変化量閾値θthの値を定数Eより大きな定数Fに設定する。ECU20は、ステップS24の処理を完了すると、処理をステップS8へ進める。
【0056】
ステップS25において、ECU20は、ピッチ角変化量閾値θthの値を定数Fより大きな定数Gに設定する。ECU20は、ステップS25の処理を完了すると、処理をステップS8へ進める。なお、ステップS8以降の処理は第1の実施形態と同様であるので詳細な説明を省略する。
【0057】
上記第2の実施形態に係るECU20の処理によれば、ドライバーがブレーキ操作を行っているとき、ドライバーがブレーキ操作を行っていない場合に比べてピッチ角変化量閾値θthの値が大きく設定される。つまり、実際に障害物が存在している可能性が高く、衝突の危険が高いと考えられる場合には、衝突安全装置30の動作を抑制し難く、すなわち自動ブレーキを動作し易くして安全性を向上することができる。また、ドライバーがアクセル操作を行っているとき、ドライバーがアクセル操作を行っていない場合に比べてピッチ角変化量閾値θthの値が小さく算出される。つまり、実際に障害物が存在しておらず衝突の危険が低いと考えられる場合には、衝突安全装置30の動作を抑制し易くしてユーザーの意図通りに加速し易くすることができる。このように、第2の実施形態に係る車両制御装置によれば、さらに好適に衝突安全装置30の動作を制御することが可能である。
【0058】
(第3の実施形態)
上記第2の実施形態では、ECU20がピッチ角変化量閾値θthの大きさを自車両100におけるドライバーの運転操作に応じて変更して算出する例について説明したが、ECU20は、ピッチ角変化量閾値θthを自車両100の走行速度Vに基づいて算出しても良い。以下、第3の実施形態に係る車両制御装置について説明する。第3の実施形態に係る車両制御装置のハードウェア構成は第1の実施形態と同様であるので、詳細な説明は省略する。以下、第3の実施形態に係るECU20が実行する処理について図7を参照して説明する。図7は、第3の実施形態に係るECU20が実行する処理の詳細を示すフローチャートの一例である。なお、第1の実施形態において説明した処理と同様の処理については同様の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0059】
図7に示す通り、第3の実施形態に係るECU20は、図7の処理を開始すると、図2と同様のステップS1からステップS7の処理を順次実行する。但し、第3の実施形態に係るECU20は、ステップS7の処理を完了すると、処理をステップS30へ進める。
【0060】
ステップS30において、ECU20は、走行速度Vに応じてピッチ角変化量閾値θthを算出する。具体的には、先ず、ECU20は、車速センサ12から走行速度Vを取得する。次いで、ECU20は、記憶装置に予め記憶した図8に示した関数、および走行速度Vに基づいてピッチ角変化量閾値θthを算出する。なお、図8は、ECU20がピッチ角変化量閾値θthを算出する際に用いる関数の一例である。図8において横軸は走行速度Vを、縦軸はピッチ角変化量閾値θthを各々示す。なお、図8に示す関数はあくまで一例であり、走行速度Vを変数とするものであれば任意の態様の関数を用いて構わない。また、図8に示す関数は、対応する数値を行列配置したテーブルとしてECU20に記憶され実装されていて構わない。ステップS30の処理を完了すると、ECU20は、処理をステップS8へ進める。なお、ステップS8以降の処理は第1の実施形態と同様であるので詳細な説明を省略する。
【0061】
上記第3の実施形態に係る車両制御装置によれば、衝突安全装置の抑制等を自車両の走行状態に応じて、より適切に実行することができる。例えば、自車両が比較的高速で走行しており、仮に障害物が存在した場合に衝突の危険性が高くなる状況下では、自車両が比較的低速で走行している場合に比べて衝突安全装置の動作が抑制され難くなるようピッチ角変化量閾値の大きさを変更して算出することができる。
【0062】
なお、上記各実施形態ではECU20が衝突安全装置30として自動ブレーキ装置の動作を抑制または停止する制御を行う例について説明したが、ECU20は衝突安全装置30として他の任意の車載装置を制御しても構わない。
【0063】
例えば、ECU20は、衝突安全装置30として、警報装置の動作を制御しても良い。警報装置は、自車両100の車室内で衝突の危険を乗員に知らせる警報を発する装置である。より詳細には、ECU20は、ステップS6において警報装置に警報音を出力させる。また、ECU20は、ステップS9において警報装置が出力する警報音の音量を低減させ、あるいは警報音の出力を停止させる。
【0064】
また、ECU20は、衝突安全装置30として、ブレーキ増幅装置の動作を抑制しても良い。ブレーキ増幅装置は、ドライバーのブレーキ操作量に応じて自車両100に作用する制動力を、通常時より増幅させる増幅制御を行う装置である。例えば、ブレーキ増幅装置が増幅制御を実行している間は、ドライバーが一定の踏み込み量でブレーキ操作を行ったとしても増幅制御を実行していないときに比べ制動力が2倍に増幅される。このようなブレーキ増幅装置に対して、ECU20は、ステップS6において増幅制御を開始させる。また、ECU20は、ステップS9においてブレーキ増幅装置の増幅率を例えば1.5倍に低減させ、あるいは増幅制御を停止させる。
【0065】
また、ECU20は、衝突安全装置30として、自動巻き取り機構を備えたシートベルト装置の動作を制御しても良い。より詳細には、ECU20は、ステップS6においてシートベルトを自動的に巻き取り、乗員のシートへの拘束力を高める。また、ECU20は、ステップS9においてシートベルトの巻き取り力を低減させ乗員のシートへの拘束力を緩和する、あるいはシートベルトの巻き取りを停止させる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明に係る車両制御装置は、低コストで構成可能でありながら適切なタイミングで衝突安全装置を動作可能とする車両制御装置などとして有用である。
【符号の説明】
【0067】
1、2 車両制御装置
10 レーダー装置
11 ヨーレートセンサ
12 車速センサ
13 ブレーキ装置
14 アクセル装置
20 ECU
30 衝突安全装置
100 自車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両と物体との衝突の危険性を低減するべく車両を制御する車両制御装置であって、
物体を検出する物体検出手段と、
前記物体と自車両との衝突の危険性が高いか否か判定する衝突判定手段と、
前記衝突判定手段により衝突の危険性が高いと判定された場合、衝突の危険性を低減するための衝突安全装置を作動させる衝突安全装置制御手段と、
前記自車両の車体のピッチ角の経時変化量をピッチ角変化量として算出するピッチ角変化量算出手段と、
前記ピッチ角変化量に基づいて前記衝突安全装置の動作を抑制または停止する動作抑制手段とを備える、車両制御装置。
【請求項2】
前記ピッチ角変化量算出手段は、
前記物体検出手段が前記物体を最初に検出した時点における前記ピッチ角を新規検出時ピッチ角として算出する新規検出時ピッチ角算出手段と、
前記衝突判定手段によって前記衝突の危険性が高いと判定された時点における前記ピッチ角を新規検出時ピッチ角として算出する衝突判定時ピッチ角算出手段とを含み、
前記ピッチ角変化量算出手段は、前記新規検出時ピッチ角および前記新規検出時ピッチ角に基づいて前記ピッチ角変化量を算出することを特徴とする、請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記衝突安全装置の動作を抑制または停止するか否かを決定するためのピッチ角変化量閾値を算出する閾値算出手段をさらに備え、
前記動作抑制手段は、前記衝突安全装置の動作を抑制または停止するか否かを前記ピッチ角変化量および前記ピッチ角変化量閾値の大小関係に基づいて決定することを特徴とする、請求項1および2の何れか1項に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記自車両におけるドライバーによるブレーキ操作の有無を検出するブレーキ操作検出手段をさらに備え、
前記閾値算出手段は、前記ピッチ角変化量閾値の大きさを前記ブレーキ操作が検出されている場合、前記ピッチ角変化量閾値の大きさを前記ブレーキ操作が検出されていない場合に比べて前記衝突安全装置の動作が抑制され難くなるよう前記ピッチ角変化量閾値の大きさを変更して算出することを特徴とする、請求項3に記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記自車両におけるドライバーによるアクセル操作の有無を検出するアクセル操作検出手段をさらに備え、
前記閾値算出手段は、前記自車両においてドライバーによるアクセル操作が検出された場合、前記閾値算出手段は、前記自車両においてドライバーによるアクセル操作が検出されていない場合に比べて前記衝突安全装置の動作が抑制され易くなるよう前記ピッチ角変化量閾値の大きさを変更して算出することを特徴とする、請求項3から4の何れか1項に記載の車両制御装置。
【請求項6】
前記自車両の走行速度を検出する速度検出手段と、
前記閾値算出手段は、前記ピッチ角変化量閾値の値を前記自車両の走行速度に基づいて算出することを特徴とする、請求項3から5の何れか1項に記載の車両制御装置。
【請求項7】
前記衝突安全装置には、前記自車両に自動的に制動力を発生させる自動制動装置が含まれ、
前記動作抑制手段は、前記自動制動装置が発生させる前記制動力の発生を前記ピッチ角変化量の大きさに基づいて抑制または停止することを特徴とする、請求項1から6の何れか1つに記載の車両制御装置。
【請求項8】
前記衝突安全装置には、前記自車両内で警報を発する警報装置が含まれ、
前記動作抑制手段は、前記警報装置が発する前記警報を前記ピッチ角変化量の大きさに基づいて停止することを特徴とする、請求項1から7の何れか1つに記載の車両制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−192862(P2012−192862A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59130(P2011−59130)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】