説明

車両懸架装置

【課題】 キャンバ角とステア角の制御をシンプルな構成で行うことのできる、新たな構成の車両懸架装置を提供する。
【解決手段】 車両懸架装置10は、操舵に基づき車輪18のステア角またはキャンバ角を変化させる第1回転装置20と、第1回転装置20を変位させ、第1回転装置20をステア角変更姿勢とキャンバ角変更姿勢のいずれかをとらせる第2回転装置22と、この第2回転装置22を制御するECUと、を含む。第1回転装置20の第1回転軸26が車体14の前後方向と略平行な方向に向く場合、第1回転装置20の回転力により車輪18は車幅方向に対して傾き、キャンバ角を変化できる。また、第1回転装置20の第1回転軸26が、路面に対して略垂直な方向に向く場合、第1回転装置20の回転力により車輪18は転舵し、ステア角を変化できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両懸架装置、特に、車輪のステア角とキャンバ角の制御を行う車両懸架装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
車両を旋回させる場合、通常、ステアリングホイールを操作し、車輪を旋回方向に転舵することで達成する。すなわち、車両を旋回させるときに、ステアリングホイールの操作により車輪に舵角を与えることで車両進行方向に対する横すべり角を発生させる。すると、車輪の接地面にその横すべり角に応じた横力が発生し、この横力により車両が旋回する。一方、ダブルウィッシュボーン型懸架装置などでは、旋回時に車体がロールすると、構造上、車輪が路面に対して旋回円の内側へ傾く。このように車輪が傾くと横すべり角による横力とは別に、車輪の傾き角、いわゆるキャンバ角に応じたキャンバスラストが発生する。このキャンバスラストが車両の旋回力に影響を与えることが知られている。そこで、例えば、特許文献1に記載された操舵装置においては、旋回時に車輪を旋回中心側に傾けることにより、積極的にキャンバスラストを得るようにして旋回力を向上している。また同様な技術が特許文献2にも記載されている。
【特許文献1】特開平5−116637号公報
【特許文献2】特開2001−55034号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、前述したようなキャンバ角を制御する装置の場合、キャンバ角の制御による旋回力が期待できるのは主に高速走行時であり、低速走行時には、キャンバ角を制御しても大きな旋回力は期待できず、転舵によるステア角の制御が必要になる。つまり、高速走行用のキャンバ角制御アクチュエータと、低速走行用のステア角制御アクチュエータとを搭載する必要が生じる。その結果、懸架装置の大型化、複雑化、さらには重量化を招き、走行性能の向上を妨げる原因の一つになっていた。
【0004】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、キャンバ角とステア角の制御をシンプルな構成で行える新たな構成の車両懸架装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のある態様では、車輪と車体とを連結する車両懸架装置であって、前記車輪の半径方向と略平行な方向の第1回転軸を有し、操舵に基づき前記車輪のステア角またはキャンバ角を変化させる第1回転機構と、前記車体の幅方向と略平行な方向の第2回転軸を有し、前記第1回転機構の前記車輪に対する回転付与位置を変化させ、前記第1回転機構をステア角変更姿勢またはキャンバ角変更姿勢のいずれか一方に変化させる第2回転機構と、前記第2回転機構を制御する回転制御手段と、を含むことを特徴とする。
【0006】
この態様によれば、第2回転機構と車輪の位置関係を変化させるのみで、第1回転機構をステア角変更姿勢またはキャンバ角変更姿勢のいずれか一方の姿勢を取らせることが可能であり、ステア角制御とキャンバ角制御をシンプルな構造の切り替えにより実現できる。
【0007】
また、上記態様において、前記回転制御手段は、前記第1回転機構がキャンバ角変更姿勢の場合、前記第1回転軸が車両の前後方向に近づき、前記第1回転機構がステア角制御姿勢の場合、前記第1回転軸が車両の上下方向に近づくように、前記第2回転機構を制御してもよい。第1回転軸が車両の前後方向に近づくとは、第1回転軸が完全に水平方向を向き車両前後方向となる場合も含む。同様に、第1回転軸が車両の上下方向に近づくとは、第1回転軸が完全に垂直方向を向き車両前後方向となる場合も含むものとする。また、完全な水平状態または完全な垂直状態になるに至る状態も含む。この態様によれば、第1回転機構の第1回転軸の方向を制御することによりステア角制御とキャンバ角制御とを容易に行える。
【0008】
また、上記態様において、前記回転制御手段は、前輪と後輪との間隔を変化させることにより、前記第2回転機構を回転させるようにしてもよい。また、上記態様において、前記回転制御手段は、前輪または後輪の少なくとも一方の回転方向制御、またはトルク制御により前輪と後輪との間隔を変化させることができる。この態様によれば、車輪の駆動を第2回転機構の駆動源として利用でき、装置構成の簡略化に寄与できる。例えば、車輪を互いに異なる方向回転させれば、前輪と後輪の間隔を接離できる。また、前輪と後輪とでトルク差を設けることにより前輪と後輪の間隔を接離できる。さらに、例えば、前輪に対して後輪のトルクを高くすれば、車輪間隔は狭くなる。逆に前輪に対して後輪のトルクを低くすれば、車輪間隔は広くなる。また、前輪または後輪のトルクをゼロ、つまり停止させ、他方を前進または後進駆動すれば同様に車輪間隔の接離ができる。
【0009】
また、上記態様において、前記回転制御手段は、車輪内に配置されたインホイールモータを制御して前輪または後輪の少なくとも一方の回転方向制御、またはトルク制御を行うようにしてもよい。また、上記態様において、前記回転制御手段は、車両駆動源の出力およびトランスミッションの制御により前輪または後輪の少なくとも一方の回転方向制御、またはトルク制御を行うようにしてもよい。この態様によれば、車輪間隔の接離動作を既存の構成により容易に実現できる。
【0010】
なお、車輪と車体とを連結する車両懸架装置は、操舵に基づき前記車輪のステア角またはキャンバ角を変化させる第1の機構と、第1の機構を変位させ、第1の機構をステア角変更姿勢とキャンバ角変更姿勢のいずれかをとらせる第2の機構と、第2の機構を制御する制御手段と、を含むものであってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の車両懸架装置によれば、回転機構の姿勢切り替えを行えば、車輪のキャンバ角の制御とステア角の制御を容易に行える。また、装置構成のシンプル化、軽量化、コストダウンが行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態(以下実施形態という)を、図面に基づいて説明する。
【0013】
本実施形態の車両懸架装置は、操舵に基づき車輪のステア角またはキャンバ角を変化させる第1の機構と、第1の機構を変位させ、第1の機構をステア角変更姿勢とキャンバ角変更姿勢のいずれかをとらせる第2の機構と、この第2の機構を制御する制御手段と、を含む。第1の機構の回転軸が車体の前後方向と略平行な方向に向く場合、第1の機構の回転力により車輪は車幅方向に対して傾き、キャンバ角を変化させられる。また、第1の機構の回転軸が、路面に対して略垂直な方向に向く場合、第1の機構の回転力により車輪は転舵し、ステア角を変化させられる。なお、略水平な方向や略垂直な方向とは、完全な水平状態、完全な垂直状態のみならず、実質的な水平状態、垂直状態を含むものとする。
【0014】
ところで、車輪が高速で回転している場合、つまり車両が高速走行している場合、車輪を効率的に旋回させる手法として、キャンバ角を制御してキャンバスラストによる旋回力の取得が有効であることが知られている。これは、高速走行時は、車輪を転舵してステア角を変えて車輪の方向を変えるより、キャンバ角を変えて傾けた方が、路面に対する車輪の滑りを少なくでき、車輪、すなわちタイヤのグリップ性能を有効に利用して安定した旋回力が得られるためである。逆に、低速走行時には、キャンバ角による旋回力はあまり期待できない。また、低速の場合、タイヤの滑りも少ないので、タイヤを転舵した方が大きな旋回を容易に行える。そこで、高速走行時にはキャンバ角制御による旋回を行い、低速走行時にはステア角制御により旋回を行うことが、安定旋回を得る上で好ましい。
【0015】
そこで、本実施形態では、第1の機構の姿勢を第2の機構により変化させることにより、キャンバ角制御とステア角制御を同一の機構で実現している。また、その結果、車両懸架装置の構成の簡略化、小型化、軽量化、全体コストの削減などを行っている。
【0016】
図1は、本実施形態の車両懸架装置10を含む車両12の構成概念図である。なお、図1においては、本実施形態の車両懸架装置10の動作を説明するためのリンク機構のみ示し、車両12の駆動機構や制動機構などは図示を省略している。図1(a)は車両12の上面図であり、図1(b)、図1(c)、図1(d)は車両12の側面図であり、それぞれ、リンクの異なる状態を示している。
【0017】
本実施形態の車両12は、通常の車両とは異なり、車体14に対し、その前後方向にサスペンションリンク16が配置され、車輪18が車体14の外側に突出した状態で配置されている。サスペンションリンク16は、第1回転機構として第1回転装置20、第2回転機構として第2回転装置22が直列につながれ、その先端にホーク状部材24に回転自在に支持された車輪18が配置されている。
【0018】
第1回転装置20は、車輪18の半径方向と略平行な方向の第1回転軸26を有している。また、第2回転装置22は、車体14の幅方向と略平行な方向の第2回転軸28を有している。第1回転装置20は、内部にモータやギアで構成される駆動機構を有し、回転制御手段(後述するECU)からの指令に従い、先端に支持する車輪18の姿勢を変化させる。また、第2回転装置22は、第2回転軸28を中心にフリー状態で回転する回転機構であるが、所定の回転位置を維持できるように回転制御手段で制御可能なロック機構を有していることが望ましい。ロック機構としては、突出ピンを用いたものや摩擦ブレーキを用いるものなどが利用可能である。
【0019】
本実施形態の車両懸架装置10は、この第1回転装置20と第2回転装置22の協調動作により車輪18のキャンバ角制御とステア角制御を同じ構造で実現している。例えば、図1(b)に示すように、第2回転装置22がサスペンションリンク16を伸ばす位置で停止、ロックされている場合、すなわち、第1回転軸26の中心軸が車両12の前後方向に近づき路面とほぼ並行になっている場合、第1回転軸26を中心として第1回転装置20を回転させると、図1(b)および図2(a)に示すように、ホーク状部材24と共に車輪18が車輪18の幅方向(矢印A方向)に倒れる。つまり、第1回転装置20は、回転により車輪18のキャンバ角を変化可能なキャンバ角変更姿勢を取ることができる。
【0020】
一方、図1(c)に示すように、前後の車輪18を互いに接近させるように駆動した場合、第2回転装置22は第2回転軸28を中心に図中矢印B1,B2の方向に回転する。その結果、サスペンションリンク16は第2回転軸28を中心に屈曲し、第1回転装置20の第1回転軸26は、車両12の上下方向に近づくように変位し、それと共に、車体14が上方に持ち上げられる。そして、図1(d)に示すように、第2回転装置22をほぼ90°屈曲させせると、第1回転装置20の第1回転軸26は、路面に対しほぼ垂直になる。この状態で、第2回転装置22の回転をロックし、第1回転装置20を第1回転軸26を中心として回転させると、図1(d)および図2(b)に示すように、ホーク状部材24と共に車輪18が接地部分を中心に矢印C方向に回転する。すなわち、車輪18が図中矢印C方向に転舵する。つまり、第1回転装置20は、回転により車輪18のステア角を変更可能なステア角変更姿勢がとれる。
【0021】
本実施形態においては、第2回転装置22の回転動作により、第1回転装置20の第1回転軸26の姿勢を変更すれば、第1回転装置20のみの回転動作で、キャンバ角制御とステア角制御の両方を行うことができる。その結果、キャンバ角とステア角を別々のアクチュエータで制御する場合に比べ、車両懸架装置10の構成を簡略化できると共に、軽量化、制御の簡略化が可能になる。また、全体の装置コストの低減に寄与できる。
【0022】
ところで、図1(c)において、第2回転装置22を回転させる手段として、本実施形態では、車輪18に内蔵された第3回転機構である第3回転装置30として機能するインホイールモータを用いることができる。例えば、第3回転装置30を用いて車輪18を図1(c)中矢印D1,D2で示す方向に回転させれば、前後の車輪18を接近させることが可能であり、第2回転軸28を回転させ、第1回転装置20の第1回転軸26をキャンバ角制御姿勢からステア角制御姿勢に変位できる。逆に、第3回転装置30を用いて車輪18を図1(c)中矢印D1,D2と逆の方向に回転させれば、前後の車輪18を離間させることが可能であり、第2回転軸28を逆回転させ、第1回転装置20の第1回転軸26をステア角制御姿勢からキャンバ角制御姿勢に姿勢変位できる。なお、上述したように前後の車輪18を互いに逆回転させる回転方向制御を行い前後の車輪18の接離を行う場合、車両12が停止していることが必要となる。しかし、前後の車輪18の第3回転装置30のトルク制御を行えば、前後の車輪18を同方向に回転させても前後の車輪18の接離動作を行える。つまり、車両12の走行中でも第1回転装置20の姿勢をキャンバ角制御姿勢とステア角制御姿勢のとの間の変更ができる。例えば、車両12の前進中であれば、前輪の第3回転装置30に比べ後輪の第3回転装置30のトルクを大きくすれば、前後の車輪18を接近させられる。また、前輪の第3回転装置30に比べ後輪の第3回転装置30のトルクを小さくすれば、前後の車輪18を離反させられる。なお、車両12の後退時には、トルクの大小関係を逆にすればよい。
【0023】
このように、第1回転装置20の姿勢を変化させる第2回転装置22の回転を、車両12が走行用として有している駆動源を用いて行えば、車両12の全体構成の簡略化や軽量化が可能となる。
【0024】
図3は、上述した車両懸架装置10の制御を実現するための機能ブロック図である。
【0025】
車体14には、車体14の状態を検出するために、車速センサ32、ヨーレートセンサ34、車高センサ36などが接続されている。車速センサ32、ヨーレートセンサ34、車高センサ36などが検出した情報は、第1回転装置20、第2回転装置22、第3回転装置30を制御する回転制御手段として機能するECU38に提供される。このほか、ECU38には、ステアリングセンサ40やアクセルセンサ42が接続されている。車速センサ32は、現在車両12の車速がキャンバ角制御姿勢をとるべきか、ステア角制御姿勢をとるべきかを判断するための情報を提供する。車高センサ36は、現在車両12の車高状態を検出し、キャンバ角制御姿勢かステア角制御姿勢かを判断する情報を提供する。また、本実施形態において、ドライバーが車両12を所望の角度で旋回させようとしてステアリングホイールを操作する場合、車輪18は、キャンバ角制御またはステア角制御によって旋回を実行する。したがってドライバーの操作するステアリングホイールの操作角度がそのまま車輪18の転舵角度にはならない。つまり、本実施形態において、車輪18の操舵機構は、ステアリングホイールと車輪18を操作する機構とが機械的に接続されず、電気的に接続されて、車輪18の姿勢を任意に決めることが可能ないわゆるステアバイワイヤ機構で構成されている。したがって、ECU38は、ヨーレートセンサ34と、ステアリングセンサ40からの情報に基づき、ドライバーが要求している旋回状態と、実際の旋回状態とを比較して、本実施形態の車両懸架装置10で実際に必要な制御量を決めることになる。
【0026】
ECU38は、車両12の走行状態に応じて、サスペンションリンク16に含まれる第1回転装置20、第2回転装置22、第3回転装置30を制御し車輪18のキャンバ角制御またはステア角制御を行う。なお、サスペンションリンク16は、前輪右用(FRリンク)、前輪左用(FLリンク)、後輪右用(RRリンク)、後輪左用(RLリンク)で、それぞれ同一の構成を有し、第1回転装置20、第2回転装置22、第3回転装置30には角度センサ44がそれぞれ接続され、回転状態を検出して、ECU38にフィードバックしている。なお、図3の場合、図示を簡略化するため、サスペンションリンク16を構成する第1回転装置20、第2回転装置22、第3回転装置30は、前輪右用(FRリンク)のみ示し、前輪左用(FLリンク)、後輪右用(RRリンク)、後輪左用(RLリンク)の構成は省略している。同様に、各回転装置に接続された角度センサ44も図示を省略して、1つのセンサユニットとして図示している。各サスペンションリンク16は、図1で示すように、各車輪18(FR,FL,RR,RL)のキャンバ角またはステア角を制御して、車体14を最適な旋回状態に制御する。
【0027】
このように構成される車両懸架装置10の動作を図4のフローチャートを用いて説明する。なお、本実施形態においては、車両12は定常時、図1(b)のように、サスペンションリンク16を伸ばした状態になっているものとする。まず、ECU38は、車両12が走行を開始すると、車速センサ32からの情報に基づき、現在の車速が所定速度以下、例えば、20km/h以下か否かの判断を行う(S100のYまたはN)。もし、車速が20km/h以下の場合(S100のY)、さらに、ECU38は、ステアリングセンサ40からの情報に基づき、現在ドライバーが大きな旋回を要求しているか否か、例えば、ステアリング角が90°以上か否かの判断を行う(S102のYまたはN)。
【0028】
ステアリング角が90°以上の場合(S102のY)、つまり、ドライバーが、低速走行状態で大きな旋回角を要求している場合、ECU38は、第2回転装置22と第3回転装置30とを協調して動かし、第1回転装置20の姿勢を変化させる(S103)。つまり、図1(c)に示すように、第3回転装置30を駆動し車輪18を矢印D1,D2方向に回転させ、前後の車輪18を接近させる。その結果、第2回転軸28が回転すると共に車体14が上方に変位する。ECU38は、第2回転装置22に接続された角度センサ44からの情報に基づき、第2回転装置22が基準位置、例えば、基準位置を図1(b)の回転状態を0°とした場合、その基準位置から90°回転した位置まで回転したか否かの判断を行う(S104のYまたはN)。第2回転装置22の回転角度が90°に達していない場合(S104のN)、さらに、第3回転装置30の回転を継続させ、第2回転装置22の回転を行う。また、第2回転装置22の回転角度が90°に達した場合(S104のY)、つまり、サスペンションリンク16が図1(d)の状態になり、第1回転装置20の第1回転軸26が路面に対して略垂直になった場合、第1回転装置20は、ステア角制御姿勢への移行が完了し、ドライバーが所望するステアリング角に応じて第1回転装置20を動かし、ステア角変更制御を実行する(S106)。実際のステア角制御を行い旋回する場合、ヨーレートセンサ34からの情報に基づきECU38は第1回転装置20のフィードバック制御を行い、ドライバーの要求する旋回角が達成できるように第1回転装置20を制御する。
【0029】
なお、通常の操舵機構の場合、操舵角は、リンク機構構成上30°程度であるが、本実施形態のサスペンションリンク16のステア角制御姿勢では、ホーク状部材24で車輪18を上方から支持し、路面の接地点を中心に回転させるので、例えば、90°の転舵が可能であり、旋回半径を小さくできる。これは例えば、車庫入れや縦列駐車時などに有効である。
【0030】
一方、S100において、車速が所定速度、例えば20km/h以下でない場合(S100のN)、つまり、車速が20km/hより早い場合、ECU38は、車両12の旋回は、キャンバ角制御姿勢で行う方が好ましいと判断し、ドライバーが所望するステアリング角に応じて第1回転装置20を動かし、キャンバ角変更制御を実行する(S108)。なお、実際のキャンバ角制御を行い旋回する場合、ヨーレートセンサ34からの情報に基づきECU38は第1回転装置20のフィードバック制御を行い、ドライバーの要求する旋回角が達成できるように第1回転装置20を制御する。また、S102において、ステアリング角が例えば90°以上でない場合(S102のN)、つまり、低速走行時でも、要求される旋回角があまり大きくない場合、ECU38は、車両12の旋回は、キャンバ角制御姿勢で行う方が好ましいと判断する。そして、S108に移行して、ドライバーが所望するステアリング角に応じて第1回転装置20を動かし、キャンバ角変更制御を実行する(S108)。この場合、サスペンションリンク16の折りたたみ動作を行わないので、車両12の車高は低い状態が維持され、車両12を安定状態のまま旋回できる。
【0031】
なお、図4のフローチャートでは、車両12が定常時図1(b)の状態であることを前提にしている。しかし、この前提がない場合、S108に移行する前に、ECU38は、車高センサ36や角度センサ44からの情報に基づき、現在サスペンションリンク16の状態が、キャンバ角制御姿勢かステア角制御姿勢かの判断を行う。そして、サスペンションリンク16がステア角制御姿勢の場合、つまり、図1(d)の状態である場合には、第2回転装置22と第3回転装置30を協調して動かし、第1回転装置20がキャンバ角制御姿勢になるように制御してからS108の処理を実行するようにすることが好ましい。
【0032】
このように、本実施形態の車両懸架装置10によれば、車両12の走行状態に応じて、車輪18に旋回力を発生させる車輪18の姿勢制御状態を変化させるので低速走行時および高速走行時に車輪18の性能を有効に利用した旋回動作を行える。また、車輪18に対するキャンバ角制御とステア角制御の両方を、車輪18に対する第1回転装置20の姿勢の切り替えのみで行うので、車両懸架装置10の構成が簡易化されると共に、軽量化が可能となる。また、制御も容易になると共に車両懸架装置10全体のコストの低減にも寄与できる。
【0033】
なお、図1で示した例では、前後の車輪18を接離方向に移動させて第2回転装置22を回転させる場合、車輪18に内蔵された第3回転装置30、具体的にはインホイールモータを利用した。しかし、車体14側に搭載された駆動源、例えばエンジンやモータにより発生する力を制御すると共に、トランスミッションの制御を行うことで、車輪18を所望の方向に回転させ車輪18の接離動作が行える。例えば、FF車の場合、後側の車輪18に制動力を与え、前側の車輪18を後進させれば、前後の車輪18は図1(c)と同様に接近方向に移動させることができる。また、前後の車輪18を離間方向に移動させる場合には、前側の車輪18を先進方向に回転させればよい。なお、前後の車輪18に独立にトルクを伝達できる車両の場合、インホイールモータの場合と同様に、前後の車輪18のトルク制御を行い、トルク差をつければ、車両12が走行状態にある場合でも、車輪18の間隔を変更し、第1回転装置20の姿勢を変えられる。この他、前後の車輪18の間隔を任意に変更可能な機構であれば適宜採用できる。例えば、サスペンションリンク16とは別にシリンダなどにより伸縮するリンクバーを前後の車輪18間に掛け渡し、車輪18間の間隔を変更するようにしても、本実施形態と同様な効果が得られる。
【0034】
本実施形態では、車両懸架装置10を実現するサスペンションリンク16の一例を示したが、操舵に基づき車輪のステア角またはキャンバ角を変化させる第1の機構と、第1の機構を変位させ、第1の機構をステア角変更姿勢とキャンバ角変更姿勢のいずれかをとらせる第2の機構とを含むリンク機構であれば、リンク構成は適宜変更可能である。例えば、回転機構の配列順を変更したり、他の回転機構を追加しても本実施形態と同様な効果を得ることができる。また、本実施形態では、第2回転装置22はフリーに回転する構成とし、第3回転装置30などを用いて回転させる形態を示した。しかし、第2回転装置22自体にモータやギヤで構成される駆動機構を設け自立回転する構成としても本実施形態と同様の効果が得られる。さらに、本実施形態の図1(b)では、第1回転軸26が車両前後方向と水平になっている状態を示している。この状態が最も好ましい安定した状態であるが、完全に水平になる必要はなく、第1回転軸26は車両前後方向と実質的に水平状態となれば角度が多少ついていても同様の効果が得られる。また、図1(d)において、第1回転軸26が垂直になっている状態を示している。この状態が最も好ましく安定した状態であるが、完全に垂直になる必要はなく、実質的に垂直状態となれば、垂直に対し角度が多少開いたり閉じたりしていても同様の効果が得られる。さらに、例えば図1(c)の状態の時に、第1回転装置20の回転を行えば、キャンバ角制御とステア角制御の両方を融合させて制御が可能となり、制御バリエーションを増やすこともできる。
【0035】
また、本実施形態では、車両懸架装置10のサスペンションリンク16の動作を中心に概念的な構成を用いて説明したが、サスペンションリンク16の伸縮動作が可能であれば、サスペンションリンク16と車体14との接続形態は適宜変更可能であり、図1で示す構造体を車両12の外装ボディで覆い、外見上従来の車両と同様にできる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本実施形態に係る車両懸架装置を含む車両の構成概念とサスペンションリンクの動作を説明する説明図である。
【図2】本実施形態に係る車両懸架装置を含む車両の車輪のキャンバ角制御状態とステア角制御状態を説明する説明図である。
【図3】本実施形態に係る車両懸架装置の制御系のブロック図である。
【図4】本実施形態に係る車両懸架装置の制御を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0037】
10 車両懸架装置、 12 車両、 14 車体、 16 サスペンションリンク、 18 車輪、 20 第1回転装置、 22 第2回転装置、 24 ホーク状部材、 26 第1回転軸、 28 第2回転軸、 30 第3回転装置、 32 車速センサ、 34 ヨーレートセンサ、 36 車高センサ、 38 ECU、 40 ステアリングセンサ、 42 アクセルセンサ、 44 角度センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と車体とを連結する車両懸架装置であって、
前記車輪の半径方向と略平行な方向の第1回転軸を有し、操舵に基づき前記車輪のステア角またはキャンバ角を変化させる第1回転機構と、
前記車体の幅方向と略平行な方向の第2回転軸を有し、前記第1回転機構の前記車輪に対する回転付与位置を変化させ、前記第1回転機構をステア角変更姿勢またはキャンバ角変更姿勢のいずれか一方に変化させる第2回転機構と、
前記第2回転機構を制御する回転制御手段と、
を含むことを特徴とする車両懸架装置。
【請求項2】
前記回転制御手段は、前記第1回転機構がキャンバ角変更姿勢の場合、前記第1回転軸が車両の前後方向に近づき、前記第1回転機構がステア角制御姿勢の場合、前記第1回転軸が車両の上下方向に近づくように、前記第2回転機構を制御することを特徴とする請求項1記載の車両懸架装置。
【請求項3】
前記回転制御手段は、前輪と後輪との間隔を変化させることにより、前記第2回転機構を回転させることを特徴とする請求項1または請求項2記載の車両懸架装置。
【請求項4】
前記回転制御手段は、前輪または後輪の少なくとも一方の回転方向制御、またはトルク制御により前輪と後輪との間隔を変化させることを特徴とする請求項3記載の車両懸架装置。
【請求項5】
前記回転制御手段は、車輪内に配置されたインホイールモータを制御して前輪または後輪の少なくとも一方の回転方向制御、またはトルク制御を行うことを特徴とする請求項4記載の車両懸架装置。
【請求項6】
前記回転制御手段は、車両駆動源の出力およびトランスミッションの制御により前輪または後輪の少なくとも一方の回転方向制御、またはトルク制御を行うことを特徴とする請求項4記載の車両懸架装置。
【請求項7】
車輪と車体とを連結する車両懸架装置であって、
操舵に基づき前記車輪のステア角またはキャンバ角を変化させる第1の機構と、
第1の機構を変位させ、第1の機構をステア角変更姿勢とキャンバ角変更姿勢のいずれかをとらせる第2の機構と、
第2の機構を制御する制御手段と、
を含むことを特徴とする車両懸架装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−335251(P2006−335251A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−163293(P2005−163293)
【出願日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】