説明

車両操舵装置

【課題】ステアバイワイヤ装置のフェール時に十分な車両の運動を確保するための車両操舵装置を提供する。
【解決手段】ステアバイワイヤ装置12により転舵する第1の車輪2と、運転者のための操作部材5との機械的連結により転舵する第2の車輪3と、を備える車両1のための車両操舵装置10は、操作部材5への入力により回転可能に操作部材5に連結されている回転軸32と、回転軸32の回転可能範囲を制限するための回転角抑制機構34と、を備える。回転角抑制機構34は、ステアバイワイヤ装置12のフェール時に回転可能範囲を超える回転を回転軸32に許容するよう構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の旋回性などを向上させるために後輪のトー角を制御する4輪操舵装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、操作部材に連結された回転軸と車輪を転舵する転舵機構とを電磁クラッチにより連結可能にかつ連結解除可能に構成したステアバイワイヤ型の車両操舵装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
電源をオフにするとハンドルを操作できないようにしたフォークリフト等の産業車両用のステアバイワイヤ式のパワーステアリング装置が知られている(例えば、特許文献3参照)。また、ステアリングホイールの操舵角に制限を設けるために操舵反力モータを利用することが知られている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−201173号公報
【特許文献2】特開2009−67131号公報
【特許文献3】特開2010−70083号公報
【特許文献4】特開2011−116214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ステアバイワイヤ式の車両においてはステアバイワイヤのシステムのフェール時においても車両の右左折を可能とするように、適切なフェール対策を施すことが望まれる。典型的にはそのために、電気系統の多重化や、機械的なバックアップシステムが採用されている。電気系統の多重化により、1つの系統に異常が生じても他の系統により正常な操舵を継続することができる。機械的なバックアップシステムは通常は連結されていない操作部材と転舵輪とを電気的失陥の際に連結し、その輪を転舵できるようにする。
【0006】
しかし、こうしたフェール対策には課題がある。例えば、対策のための機器にコストを要し、しばしば大幅なコストアップを招く。機器の搭載スペースを確保する必要もある。また、機械的なバックアップシステムを設ける場合には結局のところ操作部材と転舵輪とを機械的に連結可能に構成することになる。機械的に非連結であることによる搭載場所の自由度向上というステアバイワイヤのそもそもの利点を必ずしも活かすことができない。
【0007】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ステアバイワイヤ装置のフェール時に十分な車両の運動を確保するための車両操舵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の車両操舵装置は、ステアバイワイヤ装置により転舵する第1の車輪と、運転者のための操作部材との機械的連結により転舵する第2の車輪と、を備える車両のための車両操舵装置であって、該車両操舵装置は前記操作部材への入力により前記第1の車輪と前記第2の車輪とを転舵するよう構成されている。この車両操舵装置は、前記入力により回転可能に前記操作部材に連結されている回転軸を含み、前記ステアバイワイヤ装置の作動状態にかかわらず前記入力を前記第2の車輪に伝達するよう前記操作部材と前記第2の車輪とを機械的に連結する操作力伝達機構と、前記回転軸の回転可能範囲を制限するための回転角抑制機構と、を備える。前記回転角抑制機構は、前記ステアバイワイヤ装置のフェール時に前記回転可能範囲を超える回転を前記回転軸に許容するよう構成されている。
【0009】
この態様によると、車両操舵装置は操作部材への入力によって、第1の車輪をステアバイワイヤ装置により転舵し、第2の車輪を操作部材との機械的連結により転舵する。通常時においては車両操舵装置は、第1及び第2の車輪の転舵により車両の右左折を含む十分な車両の運動を確保することができる。
【0010】
操作部材に連結されている回転軸の回転可能範囲が通常は回転角抑制機構により制限される。この回転軸は操作部材とその操作により転舵する第2の車輪とを機械的に連結するための操作力伝達機構の一部を構成する。一方、第1の車輪のためのステアバイワイヤ装置のフェール時には、制限された回転可能範囲を超える回転が回転軸に許容される。
【0011】
よって、フェール時に操作部材の操作範囲が拡大される。その拡大に応じて第2の車輪の転舵角度範囲も大きくなる。第2の車輪は操作力伝達機構によって操作部材に、ステアバイワイヤ装置の作動状態にかかわらず機械的に連結されているからである。このようにしてフェール時には第2の車輪に依る転舵に軸足を移すことにより、通常時と同様に十分な車両の運動を確保することが可能となる。
【0012】
また、機器の追加を抑えながらフェール対策を実現することができる。例えば、第1の車輪とステアバイワイヤ装置との間に機械的なバックアップシステムを追加して設けることなく、第2の車輪の転舵角度範囲の拡大によって十分な車両の運動をフェール時に確保することができる。
【0013】
前記回転可能範囲に対応する前記第2の車輪の転舵角度が前記ステアバイワイヤ装置による前記第1の車輪の転舵角度よりも小さい角度に設定されていてもよい。
【0014】
この場合、ステアバイワイヤ装置により転舵する第1の車輪が、操作部材との機械的連結により転舵する第2の車輪よりも大きく転舵することになる。つまり、通常はステアバイワイヤが主として車両の操舵に寄与し、機械的な連結による操舵は補助的である。よって、さほど機械的な制約に影響を受けることなく、ステアバイワイヤの利点を活かすことができる。例えば、通常は良好な操舵性能を制御によって提供することができる。
【0015】
前記回転角抑制機構は、通電の停止により前記回転可能範囲の制限を解除するよう構成されており、前記ステアバイワイヤ装置は、前記フェール時に前記回転角抑制機構への通電を停止してもよい。
【0016】
このようにすれば、回転角抑制機構による回転可能範囲の制限をステアバイワイヤ装置のフェール時に確実に解除することが可能となる。
【0017】
前記回転角抑制機構は、通電により前記回転軸の回転を制限するための反力を前記回転軸に与え、通電の停止により前記反力を解除するよう構成されており、前記ステアバイワイヤ装置は、前記フェール時に前記回転角抑制機構への通電を停止してもよい。
【0018】
このようにすれば、回転角抑制機構による回転制限のための反力をステアバイワイヤ装置のフェール時に確実に解除することが可能となる。
【0019】
本発明の別の態様は、ステアバイワイヤ装置により転舵する車輪と、運転者のための操作部材との機械的連結により転舵する車輪と、を備える車両のための車両操舵装置である。この車両操舵装置は、前記操作部材への入力により回転可能に前記操作部材に連結されている回転軸と、前記回転軸の回転可能範囲を制限するための回転角抑制機構と、を備える。前記回転角抑制機構は、前記ステアバイワイヤ装置のフェール時に前記回転可能範囲を超える回転を前記回転軸に許容するよう構成されている。
【0020】
この態様によると、操作部材に連結されている回転軸の回転可能範囲が回転角抑制機構により通常は制限されている。ステアバイワイヤ装置のフェール時には、制限された回転可能範囲を超える回転が回転軸に許容される。そのため、フェール時に操作部材の操作範囲が拡大される。その拡大に応じて、操作部材との機械的連結により転舵する車輪の転舵角度範囲も大きくなる。よって、フェール時にも十分な車両の運動を確保することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ステアバイワイヤ装置のフェール時に十分な車両の運動を確保するための車両操舵装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のある実施の形態に係る車両操舵装置の概略構成を示す図である。
【図2】本実施の形態に係る回転角抑制機構を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0024】
図1は、本発明のある実施の形態に係る車両操舵装置10の概略構成を示す図である。車両操舵装置10は車両1に設けられている。車両1は、第1の車輪2と、第1の車輪2とは異なる第2の車輪3と、を含む複数の車輪を備える。第1の車輪2は例えば1つの後輪であり、第2の車輪3は例えば2つの前輪(右前輪及び左前輪)である。
【0025】
なお、車両1における車輪の配置及び数は必ずしも本実施の形態のそれに限定されない。例えば、第1の車輪2は例えば1つまたは2つの前輪または後輪であってもよい。同様に、第2の車輪3は例えば1つまたは2つの前輪または後輪であってもよい。第1の車輪2が前輪(または後輪)の1つであり第2の車輪3が前輪(または後輪)の他の1つであってもよい。文脈の許す限り第1の車輪2と第2の車輪3とが同一の車輪を指し示してもよい。
【0026】
また、車両1は、車両ボデー4と、運転者のための操作部材5と、を備える。典型的には操作部材5は例えば、運転者によって回転操作されるステアリングホイールであり、車両ボデー4に、例えばインストゥルメントパネルのリインフォースメントに固定されている。
【0027】
車両操舵装置10は、運転者による操作部材5への入力により、第1の車輪2と第2の車輪3とを転舵するよう構成されている。車両操舵装置10は、ステアバイワイヤ装置12と操作力伝達機構14とを備える。ステアバイワイヤ装置12は操作部材5への入力に基づいて第1の車輪2を転舵するよう構成されている。操作力伝達機構14は操作部材5への入力を第2の車輪3に機械的に伝達することで第2の車輪3を転舵するよう構成されている。
【0028】
ステアバイワイヤ装置12が正常に作動しているときには、操作部材5の操作可能範囲(例えばステアリングホイールの回転可能範囲)は、後述するように、回転角抑制機構34により制限されている。そうして制限された操作部材5の操作可能範囲に対応する第2の車輪3の転舵角度は、ステアバイワイヤ装置12による第1の車輪2の転舵角度よりも小さい角度に設定されている。すなわち、通常は、車両1の操舵のために、第1の車輪2が主ステア輪として、第2の車輪3が補助ステア輪として機能する。
【0029】
ステアバイワイヤ装置12は、操作入力を電気信号に変換し、その電気信号から制御信号を生成し、その制御信号によって車両1の操舵のためのアクチュエータを制御する。このようにして、機械的な連結を介さずに、操作入力に応じた車両1の操舵が電気的に実現される。
【0030】
そのために、ステアバイワイヤ装置12は、操舵部16と、転舵部18と、制御部20と、を備える。操舵部16は操作部材5を含む。操舵部16と転舵部18とは機械的に分離されている。制御部20は、操舵部16からの入力に基づいて転舵部18を制御する。ステアバイワイヤ装置12は、制御部20の制御のもとで、操作部材5に加えられる操作力によらずに、転舵部18の生成する動力によって第1の車輪2を転舵する。
【0031】
本実施の形態においては、ステアバイワイヤ装置12には、操舵部16と転舵部18とを機械的に連結する連結機構は設けられていない。しかし、ステアバイワイヤ装置12は、操舵部16と転舵部18とを機械的に連結する連結機構を備えてもよい。そうした連結機構がステアバイワイヤ装置12のフェール時に機械的なバックアップシステムとして用いられてもよい。
【0032】
操舵部16は、操作部材5の操作量を測定するための操作量センサ22を備える。操作部材5の操作量は例えば操舵角、またはステアリングホイールの回転角度であり、操作量センサ22は例えば操舵角度センサである。操作量センサ22は、操作部材5に連結されている回転軸32の回転角度を測定してもよい。操作量センサ22の測定結果は制御部20に出力される。そのために、操作量センサ22と制御部20とは互いに通信可能に接続されている。
【0033】
転舵部18は、第1の車輪2の転舵のための動力源としての転舵モータ24を備える。転舵モータ24は制御部20からの制御指令に基づき第1の車輪2を転舵する。転舵モータ24は第1の車輪2を直接に駆動するよう第1の車輪2に連結されていてもよい。あるいは転舵モータ24は動力伝達機構を介して第1の車輪2を駆動するよう第1の車輪2に連結されていてもよい。
【0034】
また、転舵部18は、第1の車輪2の転舵角度を測定するための転舵角度センサ26を備える。転舵角度センサ26は必ずしも直接に転舵角度を測定するものでなくてもよく、第1の車輪2の転舵角度を演算するための第1の車輪2の変位量を測定するよう構成されていてもよい。転舵角度センサ26の測定結果は制御部20に出力される。そのために、転舵角度センサ26と制御部20とは互いに通信可能に接続されている。制御部20は転舵角度センサ26の出力に基づいて第1の車輪2の転舵角度を指令値に追従させるようフィードバック制御をしてもよい。
【0035】
制御部20は、ステアリング電子制御ユニット(以下では単にECUという)28を備える。ECU28は、コンピュータ、各種モータ及び各種アクチュエータ等のドライバ等を含んで構成されている。ECU28は例えば、操作部材5の操作量に関する信号、及び、第1の車輪2の転舵角度に関する信号を受信する。操作部材5の操作量に関する信号は操作量センサ22からECU28に送信される。第1の車輪2の転舵角度に関する信号は転舵角度センサ26からECU28に送信される。ECU28はこれらの信号に基づいて、操作部材5の操作量に応じて車両1が操舵されるように、転舵モータ24への制御指令を決定し転舵モータ24に送信する。
【0036】
なお、ECU28は、ある操作量に対応する転舵角度を車速(またはその他の条件)に応じて異ならせるようにして、転舵角度を制御してもよい。そのために、車両1には少なくとも1つの車輪に車輪回転速度を検出する車輪速センサ(図示せず)が設けられ、ECU28は車輪速センサの検出結果から車体速度を求めることができるように構成されていてもよい。
【0037】
また、ステアバイワイヤ装置12は、いわゆる車速感応式のステアリングを提供するよう構成されていてもよい。つまり、ステアバイワイヤ装置12は、車体速度が速い場合にはステアリング操作が重くなるようにしてもよい。そのために、操作部材5には操作反力を生成するための反力生成モータ(図示せず)が連結されていてもよいし、操作力伝達機構14に設けられているパワーステアリング装置(図示せず)が使用されてもよい。ECU28は、求められた車体速度に基づいて反力付与モータ等を制御して、車体速度に応じた操作反力を調整してもよい。
【0038】
また、制御部20はバッテリ30を備える。バッテリ30はステアバイワイヤ装置12のための電源である。バッテリ30からの給電によりステアバイワイヤ装置12は作動する。本実施の形態ではバッテリ30は、ステアバイワイヤ装置12の専用の電源ではなく、後述する回転角抑制機構34のための電源でもある。なおバッテリ30は車両1のための電源であってもよく、その場合ステアバイワイヤ装置12の構成要素とはみなされなくてもよい。
【0039】
操作力伝達機構14は、ステアバイワイヤ装置12の作動状態にかかわらず操作部材5の入力を第2の車輪3に伝達するよう操作部材5と第2の車輪3とを機械的に連結する。言い換えれば、操作力伝達機構14は、操作部材5と第2の車輪3とを機械的に常時接続する機構である。
【0040】
操作力伝達機構14は、操作部材5への入力により回転可能に操作部材5に連結されている回転軸32を備える。回転軸32は例えば、操作部材5をステアリングギヤボックス36に連結するステアリングシャフトである。操作部材5と回転軸32とは互いに相対回転不能に取り付けられている。そのため、操作部材5の回転操作により回転軸32は操作部材5と一体に回転する。
【0041】
操作力伝達機構14は、回転軸32の回転を左右の直線運動に変換するステアリングギヤボックス36を備える。ステアリングギヤボックス36は例えば、回転軸32の先端に固定されたピニオンギヤと、このピニオンギヤと噛合するラックとを含む。ラックは左右のタイロッドへと連結される。左右のタイロッドはそれぞれ左右のナックルアームを経て第2の車輪3へと連結される。
【0042】
回転軸32の中途には回転角抑制機構34が設けられている。回転角抑制機構34は、回転軸32の回転可能範囲を制限するために設けられている。また、回転角抑制機構34は、ステアバイワイヤ装置12のフェール時に、制限された回転可能範囲を超える回転を回転軸32に許容するよう構成されている。回転角抑制機構34は、補助ステア輪である第2の車輪3の最大転舵角度を変更する。回転角抑制機構34については図2を参照して後述する。
【0043】
図2は、本実施の形態に係る回転角抑制機構34を示す断面図である。図2は回転軸32の軸方向に垂直な断面を示す。図示されるように、操作力伝達機構14は、回転軸32を収容するための概ね円筒形状をなすハウジング38を備える。回転軸32はハウジング38に回転可能に保持される。
【0044】
回転角抑制機構34は、回転軸32の回転可能範囲を所定の範囲に規制するための回転規制機構100と、回転規制機構100による回転可能範囲の規制を解除するための解除機構200と、を備える。回転規制機構100は概ねハウジング38に収容されており、解除機構200は収容部40に収容されている。収容部40はハウジング38の側部に、解除機構200のためのいわばカバーとして設けられている。
【0045】
回転規制機構100は、1組のピン102を備える。1組のピン102は例えば2本のピンを含む。ピン102は、回転軸32の径方向に沿って回転軸32に差し込まれて固定されており、一端がハウジング38の内面に向けて回転軸32から突出している。よってピン102は回転軸32と一体に回転する。1組のピン102は回転軸32の軸方向に間隔を有して平行に設けられている。
【0046】
また、回転規制機構100は、棒状の係合部材104を備える。係合部材104は、回転軸32の軸方向に平行に回転軸32と間隙を有してハウジング38の内部に配設されている。係合部材104は1組のピン102の軸方向位置及び長さに相当する軸方向位置及び長さで設けられている。係合部材104の一端は環状部材(図示せず)に支持されている。この環状部材は、回転軸32を包囲しており、軸受けを介して回転可能に回転軸32に支持されている。ピン102が回転軸32と一体に回転したときにピン102が係合部材104に当接し、ピン102と係合部材104とが係合する。このようにして、係合部材104は、環状部材に支持された状態で、回転軸32とハウジング38との間を回転軸32の周方向に沿って移動可能に設けられている。
【0047】
回転規制機構100はさらに、ロックキー106を備える。ロックキー106は、ハウジング38の側面に設けられた貫通孔42からハウジング38の内部に突出可能に設けられている。貫通孔42はハウジング38の内部と収容部40の内部とをつなぐ。ロックキー106がハウジング38の内部に突出したときにロックキー106が回転軸32自体の回転を妨げないように(つまりロックキー106が回転軸32に接触しないように)ロックキー106の形状が定められている。ロックキー106は、貫通孔42から収容部40へと向かう方向に弾性部材(例えば、ばね)108により付勢されている。弾性部材108は、ハウジング38の外周面上の貫通孔42の縁部とロックキー106の基部との間に配置されている。
【0048】
回転規制機構100の動作を説明する。図2は、回転軸32がR1方向に最大限回転した状態を示す。回転規制機構100のピン102は係合部材104と係合し、更に係合部材104はロックキー106と係合している。こうして、回転規制機構100は、回転軸32が矢印R1方向へこれ以上回転することを規制している。この状態から運転者により操作部材5が反対方向に操作されると、ピン102は係合部材104から離れる。そのまま回転軸32がR2方向に回転すると、約一回転するまでは回転軸32は自在に回転する。約一回転したところで、ピン102は係合部材104と係合する。このとき、1組のピン102は回転軸32の軸方向に間隔を有して設けられているので、ロックキー106には係合せずに通過する。
【0049】
更に回転軸32がR2方向に回転すると、ピン102は、係合部材104と係合しながら矢印R2方向に回転する。ピン102が係合部材104と係合した状態で約一回転すると、係合部材104がロックキー106に突き当たる。ピン102及び係合部材104はロックキー106を通過することができず、その結果、回転軸32は、これ以上矢印R2方向へ回転できなくなる。このようにして、回転規制機構100は、回転軸32の回転可能範囲を約二回転に規制することができる。
【0050】
代案として、回転規制機構100は回転軸32の回転可能範囲を二回転以外の範囲に規制してもよい。例えば、回転規制機構100は回転軸32の回転可能範囲を約一回転の範囲に規制するよう構成されていてもよい。回転軸32の回転により転舵する第2の車輪3は、上述のようにステアバイワイヤ装置12が正常に作動するときは小舵角でよいからである。そのために、図2に示す構成から係合部材104が省略され、ピン102とロックキー106とが直接係合するよう構成されていてもよい。
【0051】
解除機構200は、ロックキー106と一体に動くレバー202と、レバー202を駆動するためのソレノイド装置204と、ソレノイド装置204に対しレバー202を回動可能に支持する回転支持部206と、を備える。
【0052】
ソレノイド装置204は、カバー208と、カバー208の内部に組み込まれているプランジャー210、不図示の電磁コイルおよびスプリング等を備えている。ソレノイド装置204のための電源は上述のバッテリ30であり、ソレノイド装置204への通電と通電停止との切替はECU28により制御される(図1参照)。ソレノイド装置204は通電によりプランジャー210を電磁力により内部に引き込み、通電停止によりプランジャー210をスプリングの付勢力で外部に向けて突出させるよう構成されている。
【0053】
レバー202の一端はロックキー106の基部に取り付けられ、レバー202の他端は回転支持部206を介してプランジャー210に接続されている。ロックキー106の先端は、レバー202の上記一端から、レバー202の長手方向に概ね垂直な方向に向けられている。回転支持部206は、プランジャー210の往復運動をレバー202の上記他端の回転に変換するよう構成されている。このようにして、解除機構200は、プランジャー210の往復運動がロックキー106の往復運動に変換されるよう構成されている。
【0054】
解除機構200の動作を説明する。図2にはバッテリ30からソレノイド装置204に通電されている状態が示されている。プランジャー210はソレノイド装置204の内部に引き込まれ、レバー202は回転支持部206を中心に矢印R3方向に回動する。レバー202の回動により、ロックキー106は貫通孔42に挿入されハウジング38内に突き出している。こうして、回転規制機構100による回転軸32の回転可能範囲の規制が実現される。よって解除機構200は回転規制機構100の一部を構成するとみなすこともできる。
【0055】
一方、ソレノイド装置204への通電が停止された場合には、プランジャー210はソレノイド装置204の外部に向けて突出し、レバー202は回転支持部206を中心に矢印R4方向に回動する。そのときのレバー202の位置を図2に二点鎖線で示す。レバー202とともにロックキー106は貫通孔42から収容部40へと後退する。こうして、回転軸32の回転可能範囲の規制は解除され、通電時の回転可能範囲を超える回転が回転軸32に許容される。
【0056】
ところで、ステアバイワイヤ装置12に異常が検出された場合には通例、ステアバイワイヤ装置12は停止される。つまり、ステアバイワイヤ装置12の正常な作動が保証されないときはステアバイワイヤ装置12は停止される。具体的にはECU28が、バッテリ30からステアバイワイヤ装置12への給電を遮断する。こうしてステアバイワイヤ装置12は作動状態から非作動状態に切り替えられる。
【0057】
ステアバイワイヤ装置12の異常には例えば、バッテリ上がりや、電源線または信号線の断線、操作量センサ22または転舵角度センサ26等の各種センサのエラー、ECU28の演算エラー、転舵モータ24の破損、ECU28に設置されるモータドライバのモスの溶着などがある。
【0058】
ECU28は、上述のステアバイワイヤ装置12の各種異常の少なくとも1つを検出可能に構成されている。こうした検出には公知の手法を適宜採用することができる。ECU28は、ステアバイワイヤ装置12の異常の有無を周期的に判定する。ECU28によりステアバイワイヤ装置12に何らかの異常があると判定された場合には、ステアバイワイヤ装置12がフェール状態にあるとみなされる。そうしたステアバイワイヤ装置12のフェール時には、ECU28はステアバイワイヤ装置12を作動状態から非作動状態に切り替える。
【0059】
回転角抑制機構34は、ステアバイワイヤ装置12のフェール時に通常時の回転可能範囲を超える回転を回転軸32に許容するよう構成されている。本実施の形態ではそのために、ステアバイワイヤ装置12のECU28は、ステアバイワイヤ装置12の非作動状態への切替に連動して、回転角抑制機構34への通電を停止する。また、ECU28は、ステアバイワイヤ装置12が正常に作動しているときは回転角抑制機構34への通電を継続する。
【0060】
以上の構成を備える本実施の形態に係る車両操舵装置10の動作を説明する。ステアバイワイヤ装置12が正常に作動しているときに操作部材5が操作された場合には、車両操舵装置10は第1の車輪2と第2の車輪3との両方を転舵することになる。ステアバイワイヤ装置12は操作部材5の操作量に基づき第1の車輪2を転舵する。同時に、操作部材5の操作量が操作力伝達機構14を介して第2の車輪3に機械的に伝達され第2の車輪3を転舵する。
【0061】
このとき、回転角抑制機構34はソレノイド装置204への通電により回転軸32の回転可能範囲を制限している。それにより操作部材5の操作可能範囲及び第2の車輪3の転舵角度範囲も制限され、第2の車輪3の転舵角度は小さい。一方、第1の車輪2のための転舵部18は操作部材5を含む操舵部16とは機械的に連結されていないため、第1の車輪2の転舵角度は回転角抑制機構34による制限を受けない。第1の車輪2は操作部材5の操作可能範囲に応じてECU28により決定される転舵角度範囲で転舵する。このようにして、ステアバイワイヤが主として車両1の操舵に寄与する。
【0062】
一方、ステアバイワイヤ装置12が停止されているときに(または正常な作動が保証されないときに)操作部材5が操作された場合には、車両操舵装置10は第2の車輪3のみを転舵することになる。ステアバイワイヤ装置12の停止に連動して回転角抑制機構34への通電が停止され、回転軸32の回転可能範囲は拡大されている。それにより操作部材5の操作可能範囲及び第2の車輪3の転舵角度範囲も拡大される。つまり、通常は補助ステア輪である第2の車輪3の最大転舵角度が拡大される。運転者は操作部材5を操作することにより、操作力伝達機構14において機構的に決まる最大の転舵角度まで第2の車輪3を転舵することができる。こうして、ステアバイワイヤ装置12のフェール時にあっては、ステアバイワイヤに頼らずに機械的に車両1を操舵することができる。
【0063】
以上説明したように、本実施の形態によれば、制限された回転可能範囲を超える回転をステアバイワイヤ装置12のフェール時に回転軸32に許容する回転角抑制機構34を備える車両操舵装置10が提供される。ステアバイワイヤ装置12のフェール時に操作部材5の操作範囲が拡大され、それに応じて操作部材5と機械的に連結された第2の車輪3の転舵角度範囲も拡大される。通常は補助的に操舵に使用される第2の車輪3を活用して、ステアバイワイヤ装置12のフェール時にも確実に車両1の右左折を可能とすることができる。
【0064】
また、本実施の形態によれば、フェール対策のための専用の機器を車両操舵装置10に追加することに頼らずにフェール対策を実現することができる。例えば、第1の車輪2とステアバイワイヤ装置12との間に機械的なバックアップシステムを追加する必要がない。加えて、ステアバイワイヤ装置12のフェール時に第2の車輪3で機械的に車両1を操舵可能であるから、ステアバイワイヤ装置12のための電気系統を多重化することも必須でない。したがって、そうした専用機器の追加によって生じ得るコストの上昇を抑えることができる。また、それら機器のための搭載スペースを確保する必要もないことも有利である。
【0065】
その一方で、通常時は主としてステアバイワイヤで車両1を操舵するよう車両操舵装置10は構成されているから、ステアバイワイヤの利点を充分に活かすことができる。例えば、通常時には良好な操舵性能を制御によって提供することができる。また、ステアバイワイヤ装置12は操作部材5と第1の車輪2とを機械的につなぐ機構を持たないから、搭載場所についての設計の自由度が高いという利点もある。
【0066】
さらに、本実施の形態によれば、ステアバイワイヤ装置12の非作動状態への切替に連動して回転角抑制機構34への通電が停止され、回転角抑制機構34による回転軸32の回転制限は通電停止及びそれに伴う機械的な動作により解除される。よって、ステアバイワイヤ装置12のフェール時に回転角抑制機構34の回転制限を確実に解除して第2の車輪3の転舵角度範囲を大きくすることができる。
【0067】
以上、本発明を上述の各実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の各実施の形態に限定されるものではなく、各実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて各実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を各実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
【0068】
例えば、回転角抑制機構34は、通電により回転軸32の回転を制限するための反力を回転軸32に与え、通電の停止によりその反力を解除するよう構成されていてもよい。この場合においても上述の実施の形態と同様に、ステアバイワイヤ装置12は、フェール時に回転角抑制機構34への通電を停止してもよい。このようにしても、回転角抑制機構34による回転制限のための反力をステアバイワイヤ装置12のフェール時に確実に解除することが可能となる。
【0069】
そのために、操作力伝達機構14は、操作部材5への操作反力を生成するための反力生成モータを備えてもよい。あるいは車両操舵装置10は操作力伝達機構14に設けられているパワーステアリング装置を備えてもよく、当該パワーステアリング装置が反力生成のために使用されてもよい。この場合、回転角抑制機構34は、ステアバイワイヤ装置12が正常に作動しているときには反力(例えばモータのトルク)により操作部材5を設定範囲のみで操作可能とすることで構成されてもよい。その設定範囲に従って例えばECU28が回転角抑制機構34を制御してもよい。
【0070】
上述の実施の形態においては、通常は第2の車輪3の転舵角度範囲が規制され、ステアバイワイヤ装置12のフェール時にその規制が解除されている。第2の車輪3に代えて、または第2の車輪3とともに、第1の車輪2の転舵角度範囲が規制され、ステアバイワイヤ装置12のフェール時にその規制が解除されてもよい。その場合、ステアバイワイヤ装置12は操作部材5と第1の車輪2とを機械的に連結するための回転軸を含む連結機構を備え、その回転軸に回転角抑制機構34が設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1 車両、 2 第1の車輪、 3 第2の車輪、 5 操作部材、 10 車両操舵装置、 12 ステアバイワイヤ装置、 14 操作力伝達機構、 32 回転軸、 34 回転角抑制機構。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアバイワイヤ装置により転舵する第1の車輪と、運転者のための操作部材との機械的連結により転舵する第2の車輪と、を備える車両のための車両操舵装置であって、該車両操舵装置は前記操作部材への入力により前記第1の車輪と前記第2の車輪とを転舵するよう構成されており、
前記入力により回転可能に前記操作部材に連結されている回転軸を含み、前記ステアバイワイヤ装置の作動状態にかかわらず前記入力を前記第2の車輪に伝達するよう前記操作部材と前記第2の車輪とを機械的に連結する操作力伝達機構と、
前記回転軸の回転可能範囲を制限するための回転角抑制機構と、を備え、
前記回転角抑制機構は、前記ステアバイワイヤ装置のフェール時に前記回転可能範囲を超える回転を前記回転軸に許容するよう構成されていることを特徴とする車両操舵装置。
【請求項2】
前記回転可能範囲に対応する前記第2の車輪の転舵角度が前記ステアバイワイヤ装置による前記第1の車輪の転舵角度よりも小さい角度に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の車両操舵装置。
【請求項3】
前記回転角抑制機構は、通電の停止により前記回転可能範囲の制限を解除するよう構成されており、
前記ステアバイワイヤ装置は、前記フェール時に前記回転角抑制機構への通電を停止することを特徴とする請求項1または2に記載の車両操舵装置。
【請求項4】
前記回転角抑制機構は、通電により前記回転軸の回転を制限するための反力を前記回転軸に与え、通電の停止により前記反力を解除するよう構成されており、
前記ステアバイワイヤ装置は、前記フェール時に前記回転角抑制機構への通電を停止することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の車両操舵装置。
【請求項5】
ステアバイワイヤ装置により転舵する車輪と、運転者のための操作部材との機械的連結により転舵する車輪と、を備える車両のための車両操舵装置であって、
前記操作部材への入力により回転可能に前記操作部材に連結されている回転軸と、
前記回転軸の回転可能範囲を制限するための回転角抑制機構と、を備え、
前記回転角抑制機構は、前記ステアバイワイヤ装置のフェール時に前記回転可能範囲を超える回転を前記回転軸に許容するよう構成されていることを特徴とする車両操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−95353(P2013−95353A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242084(P2011−242084)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】