説明

車両用カウルルーバ

【課題】車両用カウルルーバにおいて、車両衝突時にフードに下向きの荷重が加わった場合に、反力を全く発生させることなく衝突エネルギーを十分に吸収できるとともに、シール構造が破壊されるのを防止できること。
【解決手段】車両用カウルルーバ1は、フードパネル2の後端下部とフロントウィンドウガラス3の下端との間に設けられ、フロントウィンドウガラス3の下端に密着するカウルルーバ本体5と、カウルルーバ本体5とフードパネル2の後端下部とを気密性を保ちつつ接続する前端部分6とを具備し、前端部分6はカウルルーバ本体5からフードパネル2の後端下部に向けて吊り上げられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両のフロントウィンドウガラスの下端に嵌合してフードパネルの後端裏側まで延出する車両用カウルルーバに関するものであり、特に、車両の衝突時にフードパネルに加わる衝突エネルギーを効果的に吸収することができる車両用カウルルーバに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の自動車の構造においては、エンジンルームを覆うフードパネルの後端とフロントウィンドウガラスの下端部分との間には空間が形成されており、この空間は、フロントウィンドウガラスの下端に嵌合してフードパネルの後端裏側まで延出する樹脂製のカウルルーバによって遮蔽されている。これによって、エンジンルーム内の熱気や臭いがカウルルーバに設けられた空気導入口を介して車室内へ侵入することが防止されるとともに、前記空間に溜まった枯葉や雪等の異物がエンジンルーム内に侵入することが防止される。
【0003】
このように、カウルルーバには気体と固体の両方を遮断する機能が要求されるため、全体的にある程度の剛性が必要で、かつ先端部分には相手方に密着する弾力性が必要であることから、合成樹脂製のカウルルーバが用いられてきた。しかし、合成樹脂製のカウルルーバは、あまり剛性が高過ぎると、車両の衝突時にフードへ下向きの大きな荷重が加わった際にフードが下方へ移動し難くなって、衝突エネルギーを十分に吸収できなくなる。
【0004】
そこで、このような問題を解決することを目的として、特許文献1には、フードの後端とカウルトップとの間の空間を遮蔽する自動車フードのシール構造の発明が開示されている。この自動車フードのシール構造においては、フードの後端から空間に向けて、形状保持可能な剛性を有し、かつ先端がカウルトップと上下方向で干渉しない位置関係にあるシール本体を形成し、シール本体の先端またはカウルトップのいずれか一方に、先端が他方側へ接触する弾性変形可能なリップを設けている。これによって、車両衝突時にフードに下向きの荷重が加わると、フードはシール本体ごと反力を発生させることなく下方へ移動し、衝突エネルギーを十分に吸収することができるとしている。
【0005】
また、特許文献2に記載されたカウルトップカバーの発明においては、硬質部材からなるカウルルーバ本体部の前端に、フードパネルからの衝撃を緩和する軟質部材からなる縦壁を一体に設けて、縦壁から本体部側に延長する延長部を設けるとともに、縦壁の本体側と延長部または本体側前端部とを接続する補強リブを設けている。これによって、平常時の自立性を十分に確保しつつ、フードパネルが衝撃を受けた際にはその衝撃を有効に緩和することができるとしている。
【特許文献1】特開2005−247186号公報
【特許文献2】特開2007−015609号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術においては、剛性を有するシール本体と弾性変形可能なリップとを異なる樹脂材料で成形する必要があり、構造が複雑になるばかりでなく、車両衝突時にはシール構造が破壊されてしまう。また、上記特許文献2に記載の技術においては、衝突時の反力を完全になくすことは不可能であり、衝突エネルギーの緩和性が不十分であるとともに、やはり車両衝突時にはシール構造が破壊されてしまうという問題点があった。このような問題点が生ずるのは、シール部分に自立性を持たせるという発想から逃れられないためである。
【0007】
そこで、本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであって、シール部分に自立性を持たせるという発想から脱却することによって、車両衝突時にフードに下向きの荷重が加わった場合に、反力を全く発生させることなく衝突エネルギーを十分に吸収できるとともに、車両衝突時にシール構造が破壊されるのを防止することができる画期的な車両用カウルルーバを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明に係る車両用カウルルーバは、車体のフードパネルの後端下部とフロントウィンドウガラスの下端との間に設けられる車両用カウルルーバであって、前記フロントウィンドウガラスの下端に密着するカウルルーバ本体と、該カウルルーバ本体と前記フードパネルの後端下部とを気密性を保ちつつ接続する前端部分とを具備し、前記前端部分は前記カウルルーバ本体から前記フードパネルの後端下部に向けて吊り上げられるものである。
【0009】
ここで、「吊り上げられる」とは、前端部分がフードパネルの後端下部に直接密着し、または他の部材を介して密着し、前端部分の重量が密着した部分によって支持されることをいう。
【0010】
請求項2の発明に係る車両用カウルルーバは、請求項1の構成において、前記前端部分は、シール部材を介して前記フードパネルの後端下部に向けて吊り上げられるものである。ここで、「シール部材」としては、天然ゴム・合成ゴム等からなるパッキン等のシール部材、永久磁石と一体に成形された軟質樹脂またはエラストマーからなるシール部材、ゴム磁石(ボンド磁石)からなるシール部材、等を用いることができる。
【0011】
請求項3の発明に係る車両用カウルルーバは、請求項1または請求項2の構成において、前記前端部分は、耐水コーティング処理された布または軟質樹脂シートからなるものである。ここで、「耐水コーティング処理」としては、耐水性のコーティング処理を施す、耐水性のフィルムで表面を被覆する、等の方法を用いることができる。
【0012】
また、「布」としては、ポリエステル繊維・ナイロン繊維・アクリル繊維・ビニロン繊維・ポリウレタン繊維等の合成繊維または木綿・麻・リンネル・羊毛・絹・カシミヤ・ガラス繊維等の天然繊維から織られた布、編まれた布、レース、フェルト或いは不織布等を用いることができる。更に、「軟質樹脂シート」としては、ポリ塩化ビニルシート・ポリオレフィン系軟質樹脂シート・アクリル系軟質樹脂シート等を用いることができる。
【0013】
請求項4の発明に係る車両用カウルルーバは、請求項2または請求項3の構成において、前記シール部材は、磁力によって前記フードパネルの後端下部に密着する永久磁石と、該永久磁石と一体に成形された軟質樹脂またはエラストマー(天然ゴム及び合成ゴムを含む)からなるものである。
【0014】
ここで、「永久磁石」としてはフェライト磁石・アルニコ磁石・ネオジム磁石等を用いることができ、「軟質樹脂」としてはポリ塩化ビニル・ポリオレフィン系軟質樹脂・アクリル系軟質樹脂等を用いることができ、「エラストマー」には天然ゴム、合成ゴム及び熱可塑性エラストマーがあり、合成ゴムとして具体的には、アクリルゴム・アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)・イソプレンゴム・ウレタンゴム・エチレンプロピレンゴム・スチレンブタジエンゴム(SBR)・エピクロルヒドリンゴム・クロロプレンゴム・シリコーンゴム・ブタジエンゴム・フッ素ゴム・ブチルゴム等を用いることができる。
【0015】
請求項5の発明に係る車両用カウルルーバは、請求項2または請求項3の構成において、前記シール部材は、磁力によって前記フードパネルの後端下部に密着するゴム磁石(ボンド磁石)からなるものである。ここで、「ゴム磁石(ボンド磁石)」とは、フェライト磁石等の永久磁石を粉砕してゴムやプラスチック等に練り込んだ柔軟性を有する磁石である。
【0016】
請求項6の発明に係る車両用カウルルーバは、請求項1乃至請求項5のいずれか1つの構成において、前記カウルルーバ本体は、熱可塑性樹脂からなるものである。ここで、「熱可塑性樹脂」としては、ポリオレフィン樹脂・ポリスチレン・アクリル樹脂・ABS樹脂・塩化ビニル樹脂・ポリ酢酸ビニル・ポリアミド・ポリアセタール・ポリカーボネート・ポリエステル樹脂等を用いることができ、より具体的には、例えば、ポリオレフィン樹脂してポリプロピレン(PP)、ポリエステル樹脂としてポリエチレンテレフタレート(PET)、等を用いることができる。
【0017】
請求項7の発明に係る車両用カウルルーバは、請求項1乃至請求項6のいずれか1つの構成において、前記カウルルーバ本体は、前記前端部分と一体に成形されるものである。
【0018】
請求項8の発明に係る車両用カウルルーバは、請求項2乃至請求項7のいずれか1つの構成において、前記シール部材は、前記前端部分と一体に成形されるものである。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に係る発明においては、車両用カウルルーバのシール部分を構成する前端部分が、従来のようなフードパネルに対して立設される方式ではなく、カウルルーバ本体からフードパネルの後端下部に向けて吊り上げられるものであるため、剛性が殆どないものであっても平常時のシール性と保形性を確保できる。したがって、車両衝突時には全く反力を生ずることなくフードパネルとともに下方に移動し、かつ移動によって変形してもシール構造を保持することができる。そして、フードパネルが元の位置に戻ることによって、平常時の状態に復帰する。
【0020】
このようにして、シール部分に自立性を持たせるという発想から脱却することによって、車両衝突時にフードに下向きの荷重が加わった場合に、反力を全く発生させることなく衝突エネルギーを十分に吸収できるとともに、車両衝突時にシール構造が破壊されるのを防止することができる画期的な車両用カウルルーバとなる。
【0021】
請求項2に係る発明においては、車両用カウルルーバの前端部分が、シール部材を介してフードパネルの後端下部に向けて吊り上げられるため、請求項1に係る発明の効果に加えて、前端部分とフードパネルの後端下部との間の気密性をより容易に、かつ確実に保持することができる。また、前端部分とシール部材とを一体に成形することによって、部品点数を少なくして組み立て効率を向上させることができる。
【0022】
請求項3に係る発明においては、車両用カウルルーバの前端部分が、耐水コーティング処理された布または軟質樹脂シートからなるため、請求項1または請求項2に係る発明の効果に加えて、容易にかつ低コストで車両衝突時に反力を全く発生させない前端部分を構成することができ、布を用いる場合には耐水コーティング処理されているため、気密性をより容易にかつ確実に保持することができる。
【0023】
請求項4に係る発明においては、車両用カウルルーバのシール部材が、永久磁石及びそれと一体に成形された軟質樹脂またはエラストマーからなるため、請求項2または請求項3に係る発明の効果に加えて、鋼板製のフードパネルの後端下部に確実に密着してシール性を確保することができ、またシール部材が着脱可能となり、更に部品点数を少なくして組み立て効率を向上させることができる。
【0024】
請求項5に係る発明においては、車両用カウルルーバのシール部材が、ゴム磁石(ボンド磁石)からなるため、請求項2または請求項3に係る発明の効果に加えて、鋼板製のフードパネルの後端下部に確実に密着してシール性を確保することができ、またシール部材が着脱可能となり、更に製造コストを低減することができるとともに部品点数がより少なくなって、組み立て効率をより向上させることができる。
【0025】
請求項6に係る発明においては、車両用カウルルーバのカウルルーバ本体が熱可塑性樹脂からなることから、請求項1乃至請求項5のいずれか1つに係る発明の効果に加えて、カウルルーバ本体に要求される剛性・耐候性・低コスト性・リサイクル性を容易に満たすことができるとともに、射出成形等によってカウルルーバ本体を前端部分と一体成形することも可能であるため、部品点数がより少なくなって、組み立て効率をより向上させることができる。
【0026】
請求項7に係る発明においては、車両用カウルルーバのカウルルーバ本体が前端部分と一体に成形されるため、請求項1乃至請求項6のいずれか1つに係る発明の効果に加えて、部品点数がより少なくなって、組み立て効率をより向上させることができる。
【0027】
請求項8に係る発明においては、車両用カウルルーバのシール部材が前端部分と一体に成形されるため、請求項2乃至請求項7のいずれか1つに係る発明の効果に加えて、部品点数がより少なくなって、組み立て効率をより向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態に係る車両用カウルルーバについて、図面を参照しつつ説明する。なお、各実施の形態において、同一の記号及び同一の符号は同一または相当する機能部分を意味し、実施の形態相互の同一の記号及び同一の符号は、それら実施の形態に共通する機能部分であるから、ここでは重複する詳細な説明を省略する。
【0029】
実施の形態1
まず、本発明の実施の形態1に係る車両用カウルルーバについて、図1を参照して説明する。図1(a)は本発明の実施の形態1に係る車両用カウルルーバの全体構成を、車両の前後方向に沿って切断した断面の一部として示す断面図、(b)はフードパネルの後端下部が下方へ移動した場合における実施の形態1に係る車両用カウルルーバの全体構成を示す断面図である。
【0030】
図1(a)に示されるように、本実施の形態1に係る車両用カウルルーバ1は、車体のフードパネル2の後端下部と、フロントウィンドウガラス3の下端との間に設けられるものであり、カウルルーバ本体5と、前端部分6と、シール部材7とを具備している。ポリプロピレン(PP)を射出成形してなるカウルルーバ本体5には、フロントウィンドウガラス3の下方において複数の空気導入口5aが設けられており、後端のガラスシール部5bにおいて、フロントウィンドウガラス3の下端に嵌合して密着しており、カウルルーバ本体5とフロントウィンドウガラス3との間がシールされている。
【0031】
カウルルーバ本体5の前端には、フッ素樹脂スプレーで表面を耐水処理された、ポリエステル繊維製の布からなる前端部分6がカウルルーバ本体5と一体に成形されており、前端部分6の前端には、シール部材7が接着剤(熱硬化性樹脂)によって接着されている。このシール部材7は、図1(a)の紙面垂直方向に伸びる棒状のフェライト磁石8を、合成ゴムとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)7aで一体に成形してなるもので、やはり紙面垂直方向に棒状に伸びている。
【0032】
このシール部材7のフェライト磁石8が、鋼板製のフードパネル2の後端下部に磁力によって密着することで、図1(a)に示されるように、布製の前端部分6がカウルルーバ本体5からフードパネル2の後端下部に向けて略垂直に吊り上げられて、カウルルーバ本体5の前端とフードパネル2の後端下部とが接続され、フードパネル2の後端下部とフロントウィンドウガラス3の下端との間の空間が遮断されている。なお、カウルルーバ本体5の係合部5cには、マルAカウル4の上端が契合している。
【0033】
したがって、本実施の形態1に係る車両用カウルルーバ1は、車体のフードパネル2の後端下部とフロントウィンドウガラス3の下端との間に設けられる車両用カウルルーバであって、フロントウィンドウガラス3の下端に密着するカウルルーバ本体5と、カウルルーバ本体5とフードパネル2の後端下部とを気密性を保ちつつ接続する前端部分6とを具備し、前端部分6はカウルルーバ本体5からフードパネル2の後端下部に向けて吊り上げられている。
【0034】
これによって、車両のエンジンルームから発せられた熱気や臭いが、カウルルーバ本体5に設けられた空気導入口5aを介して車室内へ侵入することが、シール部分である前端部分6によって防止される。また、フードパネル2の後端下部とカウルルーバ本体5の前端との間に形成される空間に溜まった枯葉や雪等の異物が、シール部分である前端部分6によって、エンジンルーム内に侵入することが防止される。
【0035】
そして、図1(b)に示されるように、車両の衝突時にフードパネル2に衝突エネルギーが掛かることによって、下方向に応力Fが掛かってフードパネル2の後端下部が下方に移動すると、布製の前端部分6はフードパネル2の後端下部の移動に伴って撓み、全く反力を生ずることがない。これによって、衝突エネルギーを十分に吸収することができる。また、フードパネル2の後端下部の移動に伴って布製の前端部分6が撓んでも、前端部分6によるシール構造は維持されている。
【0036】
このようにして、本実施の形態1に係る車両用カウルルーバ1は、シール部分である前端部分6に自立性を持たせるという発想から脱却することによって、車両衝突時にフードパネル2に下向きの荷重Fが加わった場合に、反力を全く発生させることなく衝突エネルギーを十分に吸収できるとともに、車両衝突時にシール構造が破壊されるのを防止することができる。
【0037】
また、本実施の形態1に係る車両用カウルルーバ1においては、前端部分6がシール部材7を介してフードパネル2の後端下部に向けて吊り上げられることによって、前端部分6とフードパネル2の後端下部との間の気密性をより容易に、かつ確実に保持することができる。更に、本実施の形態1に係る車両用カウルルーバ1においては、シール部材7が永久磁石8及びそれと一体に成形されたエラストマー7aからなるため、鋼板製のフードパネル2の後端下部に確実に密着してシール性を確保することができ、またシール部材7が着脱可能となり、更に部品点数が少なくなって組み立て効率が向上する。
【0038】
また、本実施の形態1に係る車両用カウルルーバ1においては、カウルルーバ本体5が熱可塑性樹脂であるポリプロピレンからなることから、カウルルーバ本体5に要求される剛性・耐候性・低コスト性・リサイクル性を容易に満たすことができるとともに、射出成形によってカウルルーバ本体5を前端部分6と一体成形することができ、部品点数がより少なくなって、組み立て効率をより向上させることができる。
【0039】
本実施の形態1においては、前端部分6をフッ素樹脂スプレーで表面を耐水コーティング処理されたポリエステル繊維製の布から構成したが、「布」としてはポリエステル繊維製に限られるものではなく、他にもナイロン繊維・アクリル繊維・ビニロン繊維・ポリウレタン繊維等の合成繊維または木綿・麻・リンネル・羊毛・絹・カシミヤ・ガラス繊維等の天然繊維から織られた布、編まれた布、レース、フェルト或いは不織布等を用いることができる。
【0040】
また、耐水コーティング処理の方法としても、フッ素樹脂スプレーによるものに限られるものではなく、他の素材からなる耐水性のコーティング処理を施す、耐水性のフィルムで表面を被覆する、等の方法を用いることができる。
【0041】
実施の形態2
次に、本発明の実施の形態2に係る車両用カウルルーバについて、図2を参照して説明する。図2(a)は本発明の実施の形態2に係る車両用カウルルーバの全体構成を、車両の前後方向に沿って切断した断面の一部として示す断面図、(b)はフードパネルの後端下部が下方へ移動した場合における実施の形態2に係る車両用カウルルーバの全体構成を示す断面図である。
【0042】
図2(a)に示されるように、本実施の形態2に係る車両用カウルルーバ11は、カウルルーバ本体5の構造については、上記実施の形態1に係る車両用カウルルーバ1と同様である。異なるのは、車両用カウルルーバの前端部分及びシール部材の構造である。
【0043】
すなわち、図2(a)に示されるように、本実施の形態2に係る車両用カウルルーバ11においては、前端部分10を軟質樹脂シートとしてのポリ塩化ビニルシートで構成し、シール部材9として、フェライト磁石を粉砕して合成ゴムに練り込んだ柔軟性を有するゴム磁石を用いている。前端部分10の前端は、接着剤(熱硬化性樹脂)によってシール部材としてのゴム磁石9に接着されている。
【0044】
このゴム磁石9が、鋼板製のフードパネル2の後端下部に磁力によって密着することで、図2(a)に示されるように、ポリ塩化ビニルシート製の前端部分10が略垂直に吊り下げられて、カウルルーバ本体5の前端とフードパネル2の後端下部とが接続され、フードパネル2の後端下部とフロントウィンドウガラス3の下端との間の空間が遮断される。
【0045】
したがって、本実施の形態2に係る車両用カウルルーバ11は、車体のフードパネル2の後端下部とフロントウィンドウガラス3の下端との間に設けられる車両用カウルルーバであって、フロントウィンドウガラス3の下端に密着するカウルルーバ本体5と、カウルルーバ本体5とフードパネル2の後端下部とを気密性を保ちつつ接続する前端部分10とを具備し、前端部分10はカウルルーバ本体5からフードパネル2の後端下部に向けて吊り上げられている。
【0046】
これによって、車両のエンジンルームから発せられた熱気や臭いが、カウルルーバ本体5に設けられた空気導入口5aを介して車室内へ侵入することが、シール部分である前端部分10によって防止される。また、フードパネル2の後端下部とカウルルーバ本体5の前端との間に形成される空間に溜まった枯葉や雪等の異物が、シール部分である前端部分10によって、エンジンルーム内に侵入することが防止される。
【0047】
そして、図2(b)に示されるように、車両の衝突時にフードパネル2に衝突エネルギーが掛かることによって、下方向に応力Fが掛かってフードパネル2の後端下部が下方に移動すると、ポリ塩化ビニルシート製の前端部分10はフードパネル2の後端下部の移動に伴って撓み、全く反力を生ずることがない。これによって、衝突エネルギーを十分に吸収することができる。また、フードパネル2の後端下部の移動に伴ってポリ塩化ビニルシート製の前端部分10が撓んでも、前端部分10によるシール構造は維持されている。
【0048】
このようにして、本実施の形態2に係る車両用カウルルーバ11は、シール部分である前端部分10に自立性を持たせるという発想から脱却することによって、車両衝突時にフードパネル2に下向きの荷重Fが加わった場合に、反力を全く発生させることなく衝突エネルギーを十分に吸収できるとともに、車両衝突時にシール構造が破壊されるのを防止することができる。
【0049】
また、本実施の形態2に係る車両用カウルルーバ11においては、前端部分10がシール部材9を介してフードパネル2の後端下部に向けて吊り上げられることによって、前端部分10とフードパネル2の後端下部との間の気密性をより容易に、かつ確実に保持することができる。更に、本実施の形態2に係る車両用カウルルーバ11においては、シール部材9がゴム磁石からなるため、鋼板製のフードパネル2の後端下部に確実に密着してシール性を確保することができ、またシール部材9が着脱可能となり、更に部品点数が少なくなって組み立て効率が向上する。
【0050】
また、本実施の形態2に係る車両用カウルルーバ11においては、カウルルーバ本体5が熱可塑性樹脂であるポリプロピレンからなることから、カウルルーバ本体5に要求される剛性・耐候性・低コスト性・リサイクル性を容易に満たすことができるとともに、射出成形によってカウルルーバ本体5を前端部分10と一体成形することができ、部品点数がより少なくなって、組み立て効率をより向上させることができる。
【0051】
本実施の形態2においては、ポリ塩化ビニルシート製の前端部分10を使用した場合について説明したが、これに限られるものではなく、その他の軟質樹脂シートとして、ポリオレフィン系軟質樹脂シート・アクリル系軟質樹脂シート等を用いることができる。また、耐水コーティング処理された布を使用することもできる。
【0052】
上記各実施の形態においては、前端部分6,10がシール部材7,9を介してフードパネル2の後端下部に向けて吊り上げられる場合について説明したが、前端部分の前端が直接フードパネルの後端下部に密着して吊り上げられる構造とすることも可能である。また、シール部材7,9が鋼板製のフードパネル2の後端下部に、磁力によって着脱可能に密着する場合について説明したが、前端部分がシール部材を介してフードパネルの後端下部に向けて吊り上げられる場合であっても、シール部材をフードパネルの後端下部に接着固定することもできる。
【0053】
また、上記各実施の形態においては、前端部分6,10の前端が接着剤によってシール部材7,9に接着される構造について説明したが、シール部材を前端部分と一体に成形することもできる。更に、カウルルーバ本体5を前端部分6,10と一体成形する場合について説明したが、カウルルーバ本体5を別個に成形して前端部分と接着する構造としても良い。
【0054】
更に、上記各実施の形態においては、カウルルーバ本体5を熱可塑性樹脂としてのポリプロピレン(PP)によって射出成形する場合について説明したが、熱可塑性樹脂としては他にも、ポリエチレン・ポリスチレン・アクリル樹脂・ABS樹脂・塩化ビニル樹脂・ポリ酢酸ビニル・ポリアミド・ポリアセタール・ポリカーボネート・ポリエステル樹脂等を用いることができる。また、カウルルーバ本体5の成形方法は射出成形法に限られるものではなく、更に材質も熱可塑性樹脂に限られるものではない。
【0055】
本発明を実施するに際しては、車両用カウルルーバのその他の部分の構成、材質、形状、数量、大きさ、製造方法等についても、上記各実施の形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】図1(a)は本発明の実施の形態1に係る車両用カウルルーバの全体構成を、車両の前後方向に沿って切断した断面の一部として示す断面図、(b)はフードパネルの後端下部が下方へ移動した場合における実施の形態1に係る車両用カウルルーバの全体構成を示す断面図である。
【図2】図2(a)は本発明の実施の形態2に係る車両用カウルルーバの全体構成を、車両の前後方向に沿って切断した断面の一部として示す断面図、(b)はフードパネルの後端下部が下方へ移動した場合における実施の形態2に係る車両用カウルルーバの全体構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0057】
1,11 車両用カウルルーバ
2 フードパネル
3 フロントウィンドウガラス
5 カウルルーバ本体
6,10 前端部分
7,9 シール部材
8 永久磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体のフードパネルの後端下部とフロントウィンドウガラスの下端との間に設けられる車両用カウルルーバであって、
前記フロントウィンドウガラスの下端に密着するカウルルーバ本体と、該カウルルーバ本体と前記フードパネルの後端下部とを気密性を保ちつつ接続する前端部分とを具備し、
前記前端部分は前記カウルルーバ本体から前記フードパネルの後端下部に向けて吊り上げられることを特徴とする車両用カウルルーバ。
【請求項2】
前記前端部分は、シール部材を介して前記フードパネルの後端下部に向けて吊り上げられることを特徴とする請求項1に記載の車両用カウルルーバ。
【請求項3】
前記前端部分は、耐水コーティング処理された布または軟質樹脂シートからなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両用カウルルーバ。
【請求項4】
前記シール部材は、磁力によって前記フードパネルの後端下部に密着する永久磁石と、該永久磁石と一体に成形された軟質樹脂またはエラストマー(天然ゴム及び合成ゴムを含む)からなることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の車両用カウルルーバ。
【請求項5】
前記シール部材は、磁力によって前記フードパネルの後端下部に密着するゴム磁石(ボンド磁石)からなることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の車両用カウルルーバ。
【請求項6】
前記カウルルーバ本体は、熱可塑性樹脂からなることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1つに記載の車両用カウルルーバ。
【請求項7】
前記カウルルーバ本体は、前記前端部分と一体に成形されることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1つに記載の車両用カウルルーバ。
【請求項8】
前記シール部材は、前記前端部分と一体に成形されることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1つに記載の車両用カウルルーバ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−89668(P2010−89668A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−262435(P2008−262435)
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】