説明

車両用パワープラントのマウント装置

【課題】重度の衝突の場合にはパワープラントを衝突力で車体から容易に落下させることができる車両用パワープラントのマウント装置を提供すること。
【解決手段】車両を走行させるためのパワープラント2を車体1に支持するためマウント装置Mは、車体1またはパワープラント2のどちらか一方に固定されるハウジング41と、車体1またはパワープラント2のどちらか他方に固定される連結棒42と、車両の衝突を予知する衝突予知手段と、を備えている。ハウジング41は、中空部41bと、中空部41b内を軸方向に摺動自在に配置されると共に、連結棒42に連結されたスライダ42aと、中空部41b内に軸方向に延在して配置されると共に、スライダ42aの動きを規制する座屈棒43と、ハウジング41に設けられて衝突予知装置8からの衝突予知信号に基づいて座屈棒43に初期不整を与えるアクチュエータ7と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車両を走行させるためのエンジンと、このエンジンに隣接された変速機等を備えたパワープラントを車体に連結する車両用パワープラントのマウント装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から自動車は、車両前面衝突時に、車体構造部材が潰れて衝突エネルギーを吸収するようにするために、衝突時の衝撃力によってマウント装置(支持手段)のボルトがせん断して車体からパワープラントが脱落するように弾性マウントされている(例えば、特許文献1参照)。このようなパワープラントのマウント装置は、装置全体が機械的な構造になっているので、衝突に対する応答性が悪くなっている。
【0003】
その応答性が良好になるようにしたパワープラントのマウント装置としては、車両の衝突をセンサで検出して即座にパワープラントが車体から脱落するようにしたパワープラント脱落装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
このパワープラント脱落装置は、バンパに取り付けた衝突検出用のセンサからの検出信号によって、パワープラントを支持した車体強度部材の車体取り付け用の取付ボルトを破壊モジュールで破壊するようにしたものである。
【特許文献1】特開昭58−22718号公報(第1図〜第4図)
【特許文献2】実用新案登録第2527985号公報(実用新案登録請求の範囲、段落0012)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献2に示すような車両用パワープラントのマウント装置では、燃焼ガスの圧力によって取付ボルトを破壊している。
その結果、車両が衝突した際には、燃焼ガスの圧力が小さい場合、取付ボルトが破壊せず、パワープラントが車体から落下しないことがあった。また、軽い衝突であった場合でも、センサが車両の衝突を検出すれば、破壊モジュールが作動して、パワープラントが車体から落下するおそれがあった。
【0006】
このため、衝突を回避した場合には、パワープラントのマウント装置を元の座屈強度を有する状態に戻すことができ、エンジンルームやダッシュボードが押し潰されるような重度の衝突の場合には、マウント装置を瞬時に破断させてパワープラントを衝突力で車体から容易に落下させるようにすることが望ましい。
【0007】
そこで、本発明は、前記問題点を解消すべく発明されたものであり、重度の衝突の場合にはパワープラントを衝突力で車体から容易に落下させることができる車両用パワープラントのマウント装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の車両用パワープラントのマウント装置は、車両を走行させるためのパワープラントを車体に連結するための車両用パワープラントのマウント装置であって、前記車体または前記パワープラントのどちらか一方に固定されるハウジングと、前記車体または前記パワープラントのどちらか他方に固定される連結棒と、前記車両の衝突を予知する衝突予知手段と、を備え、前記ハウジングは、中空部と、この中空部内を軸方向に摺動自在に配置されたスライダと、前記連結棒と前記スライダとを連結すると共に、前記ハウジングと前記スライダとの間に軸方向に延在する座屈棒と、前記ハウジングに設けられて前記衝突予知手段からの衝突予知信号に基づいて前記座屈棒に初期不整を与えるアクチュエータと、を備えたことを特徴とする。
ここで、「初期不整」とは、アクチュエータによって押圧された座屈棒が座屈する座屈開始荷重を変化させる弾性領域内の歪量を印加することである。
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、車両用パワープラントのマウント装置は、例えば、車両が走行中に衝突予知手段によって他車(障害物)と衝突することを予知すると、アクチュエータが、衝突予知手段からの衝突予知信号に基づいて、パワープラントに連結された連結棒と一体のスライダを支持する座屈棒に初期不整を与える。このため、座屈棒の座屈強度は、アクチュエータによって衝突する寸前に、適宜な強度に変化させられる。
例えば、衝突予知時に座屈棒の座屈強度が小さくなるように、アクチュエータによる座屈棒の押圧力を設定することによって、車両が他車に前面衝突した場合には、マウント装置が衝突の衝撃力によって破断し、パワープラントが自重によって落下するようになる。その結果、衝突時にエンジンルームが他車によって押し潰れ易くなるので、クラッシュストロークが長くなって衝突エネルギーの吸収効率が向上されるため、衝突エネルギーを適宜に吸収して緩和することができる。
そして、衝突予知手段で衝突を予知してマウント支持強度が変化した場合であっても、運転者のハンドル操作や制動操作等によって衝突が回避されたときには、アクチュエータの押圧力が低くなり、座屈棒を元の座屈強度に弾性復帰して戻すことによって、マウント装置を元のマウント支持強度を有する状態に自動的に戻すことができる。
【0010】
請求項2に記載の車両の車両用パワープラントのマウント装置は、請求項1に記載の車両用パワープラントのマウント装置であって、前記連結棒と前記スライダとの結合部の結合強度は、前記座屈棒が前記初期不整により座屈する荷重をF1、前記連結棒が破断する荷重をF2、前記座屈棒に前記初期不整が与えられないときに前記連結棒が座屈する荷重をF3とすると、
F1<F2<F3
に設定されていることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、パワープラントを支持するマウント装置は、連結棒とスライダとの結合部の結合強度が、座屈棒が初期不整により座屈する座屈時の荷重F1<連結棒が破断する破断時の荷重F2<座屈棒に初期不整が与えられないときに連結棒が座屈する荷重F3に設定されている。このようにすれば、マウント装置は、通常時にパワープラントをしっかりと確実に車体に保持し、衝突時にパワープラントが衝撃力によって車体から落下し易くなるように、連結棒とスライダとの結合部の結合強度を容易に設計できるようになる。
【0012】
請求項3に記載の車両用パワープラントのマウント装置は、請求項1または請求項2に記載の車両用パワープラントのマウント装置であって、前記連結棒には、切欠部が形成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、車両用パワープラントのマウント装置は、車両が衝突した場合に、マウント装置におけるパワープラントと車体とを連結している連結棒が、切欠部によって適宜な衝突力で破断するようにできる。
【0014】
請求項4に記載の車両用パワープラントのマウント装置は、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の車両用パワープラントのマウント装置であって、前記衝突予知手段は、前記車両の衝突を予知した後に、前記車両の衝突が回避された場合には、前記アクチュエータに衝突回避信号を送って、前記アクチュエータが前記座屈棒に初期不整を与えている状態を解消させて平常時の状態に復帰させることを特徴とする。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、衝突予知手段は、車両の衝突を予知したアクチュエータを作動させた後に、車両の衝突が回避された場合には、アクチュエータに衝突回避信号を送って、アクチュエータが座屈棒を押圧して初期不整を与えている状態を解消させて平常時の状態に復帰させる。このため、運転者のハンドル操作や制動操作によって衝突が回避された場合には、何度でも繰り返して、マウント装置がパワープラントを車体にしっかりとマウント支持する元の平常時の状態に自動復帰させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る車両用パワープラントのマウント装置によれば、衝突予知手段によって車両が障害物(他車)に衝突することを予知すると、衝突予知手段からの衝突予知信号に基づいて、パワープラントに連結された連結棒と一体のスライダを支持する座屈棒に初期不整を与えることができる。マウント装置のマウント支持強度は、座屈棒の座屈強度がアクチュエータによって衝突する寸前に所定の強度に変化させられるので、これと同時に、適宜な強度に変化させることができる。このため、車両が障害物に重度の衝突をしたときには、アクチュエータによってマウント装置が破断され易いように座屈棒の座屈強度を小さくさせて、そのマウント装置が衝撃力によって破断し、パワープラントが自重によって落下することになる。
その結果、重度の衝突時にエンジンルームが他車等の障害物によって押し潰れ易くなるので、クラッシュストロークが長くなって衝突エネルギーの吸収効率が向上される。
そして、衝突予知手段で衝突を予知して座屈棒の座屈強度が変化した場合であっても、衝突が回避されたときには、座屈棒の座屈強度とマウント装置のマウント支持強度とを元の状態に自動的に戻すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1〜図7を参照して、本発明の実施形態に係る車両用パワープラントのマウント装置を説明する。図1は、本発明の実施形態に係る車両用パワープラントのマウント装置を示す図であり、車両が衝突する前の状態を示す概略図である。
【0018】
≪車両の構成≫
図1に示すように、車両Cは、少なくともパワープラント2をマウント装置Mによって支持することで搭載して走行するものであればよく、特に、車両Cの種類や形状等は限定されない。すなわち、車両Cは、パワープラント2を有するものであれば乗用車や作業車等であってもよく、以下、パワープラント2をエンジンルームに横置きに配置した右ハンドルのFFの乗用車の場合を例に挙げて説明する。
車両Cには、パワープラント2と、このパワープラント2を車体1に支持するためのマウント装置Mと、車両Cの衝突を予知する衝突予知装置8(図2参照)とが搭載されている。
【0019】
図2は、本発明の実施形態に係る車両用パワープラントのマウント装置を示す図であり、車体の前部の拡大概略図である。
【0020】
≪車体の構成≫
図2に示すように、車体1は、車両Cの全体を形成するものであって、例えば、種々の金属製車体フレームと、適宜な形状に形成された金属製車体パネルと、樹脂製または金属製からなるバンパ18等を備えている。車両前部には、例えば、車両Cの前後方向に向けて延設されたサイドフレーム11,12と、サイドフレーム11,12に連設されたフロアフレーム13,14と、サイドフレーム11,12の前側に架設されたフロントサブフレーム15と、サイドフレーム11,12の後側に架設されたサブクロスメンバ16と、フロアフレーム13,14に架設されたダッシュロアクロスメンバ17等が設けられている。
【0021】
左右のサイドフレーム11,12とフロントサブフレーム15とサブクロスメンバ16とは、いわゆる井桁状に組み付けられて固定され、その中央部にマウント装置Mによってパワープラント2を支持している。
左側のサイドフレーム11の略中央部には、パワープラント2の左側の上部を支持するマウント部5にマウント装置M’が設置され、その前端部には、バンパ18が設置されている。
右側のサイドフレーム12には、パワープラント2の右側の上部を支持するマウント部6にマウント装置Mが設置され、その前端部にも、バンパ18が設置されている。
フロントサブフレーム15には、パワープラント2の前側の下部を支持するマウント部3にマウント装置Mが設置されている。
サブクロスメンバ16には、パワープラント2の後側の下部を支持するマウント部4にマウント装置Mが設置されている。
ダッシュロアクロスメンバ17の上方には、不図示のダッシュボードやインストルメントパネルが設置されている。
【0022】
バンパ18は、衝突時の衝撃緩和材であり、車体1の前端部および後端部に左右方向に向けて設置されている。バンパ18の中央部および左右端部の前端面には、衝突予知装置(衝突予知手段)8の障害物検出センサ81が設置されている。
【0023】
≪パワープラントの構成≫
図2に示すように、パワープラント2は、車両Cを走行させるための動力源であり、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等からなるエンジンEに変速機Tを隣接してユニット化したいわゆるエンジンミッションユニットからなり、例えば、車体前部のエンジンルーム内に横置きして配置されている。このパワープラント2は、複数のマウント部3,4,5,6によって前後左右が車体1に支持されている。
なお、パワープラント2は、車両Cを走行させるためのものであればよく、例えば、電動モータや、ハイブリッドエンジン等であってもよい。
【0024】
≪マウント部の構成≫
図2に示すように、マウント部3〜6は、パワープラント2を車体1に支持する部分であり、このマウント部3〜6のうちの少なくとも1箇所には、本発明のマウント装置Mが配置され、その他の箇所には、ゴム部材を設けて弾性支持する一般的なマウント装置M’が設置される。以下、パワープラント2の後側に設置されるマウント部4と、パワープラント2の右側に設置されるマウント部6とに、後記するマウント装置Mを設置した場合を例に挙げて説明する。すなわち、マウント部4,6に、車両Cの衝突を予知する衝突予知装置8からの衝突予知信号に基づいて、このマウント部4,6のマウント支持強度を変化させるアクチュエータ7(図3参照)を備えたマウント装置Mを設置した場合を例に挙げて説明する。
【0025】
図3は、本発明の実施形態に係る車両用パワープラントのマウント装置を示す図であり、車両の衝突を予知する前の状態を示すマウント部の拡大断面図である。図4は、本発明の実施形態に係る車両用パワープラントのマウント装置を示す図であり、車両の衝突を予知した直後の状態を示すマウント部の拡大断面図である。図5は、図3のアクチュエータの電気接続関係を示すX−X線の断面図である。
【0026】
<アクチュエータを備えたマウント部の構成>
アクチュエータ7を備えたマウント部4,6の構成を説明する。なお、右側のマウント部6は、後側のマウント部4と略同一構成であり、図2〜図5を参照しながらパワープラント2の後側に設置されるマウント部4を例に挙げて説明して、マウント部6の説明は省略する。
図2に示すように、マウント部4は、パワープラント2の後側のユニット側支持部を、車体1側のサブクロスメンバ(車体側支持部)16に支持するためのマウント装置Mが設置された部分である。
【0027】
≪マウント装置の構成≫
図2に示すように、マウント装置Mは、パワープラント2を車体1に取り付けるための装置であり、例えば、パワープラント2の周囲の右側および後側に配置されたマウント部4,6に設置される。
図3および図5に示すように、このマウント装置Mは、車体1またはパワープラント2のどちらか一方に固定されるハウジング41と、車体1またはパワープラント2のどちらか他方に固定される連結棒42と、車両Cの衝突を予知する衝突予知装置8(図2参照)と、中空部41b内を軸方向に摺動自在に配置されると共に、連結棒42に連結されたスライダ42aと、中空部41b内に軸方向に延在して配置されると共に、スライダ42aの動きを規制する複数の座屈棒43と、ハウジング41に設けられて衝突予知装置8(図2参照)からの衝突予知信号に基づいて座屈棒43に初期不整を与えるアクチュエータ7と、を備えている。
以下、パワープラント2にハウジング41を固定し、車体1に連結棒42を固定した場合を例に挙げて説明する。
【0028】
<ハウジングの構成>
図3に示すように、ハウジング41は、連結棒42と、スライダ42aと、座屈棒43と、アクチュエータ7と、を備えて、パワープラント2に取り付けられる略シリンダ形状の部材である。このハウジング41は、スライダ42aおよび座屈棒43を収納するための中空部41bが形成された本体41aによって略円筒状に形成されている。
ハウジング41の本体41aには、中空部41bと、この中空部41bに連通する貫通孔41dと、中空部41bの内側上面に形成される天井面41eと、アクチュエータ7が設置される内壁41fと、ハウジング41の下側外周部に形成されたフランジ部41cと、が形成されている。
【0029】
この本体41aは、例えば、金属等によって形成されている。
中空部41bは、連結棒42と、スライダ42aと、座屈棒43とを収納するための空間であり、フランジ部41cをボルトB1でパワープラント2に固定することによって下側開口部が閉塞される。中空部41bの内壁41fの上半部には、この上半部に上昇したスライダ42aを抑止するためのテーパ部41gが形成されている。
フランジ部41cは、本体41aをパワープラント2に固定するためのボルトB1を設置するためのボルト挿通孔(図示せず)を形成するための部分であり、例えば、鍔形状に形成されている。
貫通孔41dは、中空部41bの天井面41eの中央部に穿設された孔であり、連結棒42の形状に合わせて、例えば、円形に形成されている。
天井面41eは、連結棒42を中心としてこの連結棒42に沿って複数(例えば、4本)設置される座屈棒43の上端を保持する部分である。この天井面41eには、座屈棒43の上端部が溶接される。
中空部41bの前後左右方向の内壁41fにおいて、座屈棒43の中央部に対向する位置には、座屈棒43に向けて突出して押圧するアクチュエータ7がそれぞれ設置されている。
【0030】
<連結棒の構成>
図3に示すように、連結棒42は、下端に設置したスライダ42aを車体1に対して所定の間隔(連結棒42の長さ)に保持するための部材であり、上端が、ボルトB2によって車体1に固定された固定ベース42bに固定され、下端が、スライダ42aの上側中央部に固定されている。この連結棒42は、例えば、中空部41b内の中央に軸方向に向けて延設された丸棒形状(図5参照)の金属等の部材からなり、貫通孔41dに軸方向に進退自在に設置されている。連結棒42の棒状部分とスライダ42aと固定ベース42bとは、一体成型、溶接手段、螺合手段等によって一体に形成されている。
【0031】
<スライダの構成>
図3に示すように、スライダ42aは、中空部41b内を軸方向に移動自在となるように設けられたピストン状の部材であり、例えば、連結棒42の下端部に設置された円盤形状の金属製厚板部材からなる。このスライダ42aは、平常時に、座屈棒43によって中空部41b内の下側開口部に配置された状態に保持されて、移動しないように抑制されている。スライダ42aは、重度の衝突時および重度の衝突を予知した後に、座屈棒43が座屈および破断した際に、中空部41b内を軸方向に移動可能となるように設けられている。
【0032】
固定ベース42bは、連結棒42の上端部を車体1に固定するための部材であり、例えば、厚板のフランジ形状の部材からなり、その中央部の下面に連結棒42の上端が垂下した状態で固定されている。固定ベース42bには、この固定ベース42bを車体1に締結するためのボルトB2の貫通孔(図示せず)が形成されている。
【0033】
<座屈棒の構成>
座屈棒43は、平常時において、図3に示すように、スライダ42aを中空部41bの開口端部に保持してスライダ42aの動きを抑制するための部材であり、連結棒42に沿って延在された複数の棒状部材(図5参照)によって構成されている。この座屈棒43は、連結棒42と比較して、連結棒42の強度よりも弱く折れ易い金属製部材等で形成されている。座屈棒43は、上端部が天井面41eに溶接等によって固定され、下端部がスライダ42aの上面に溶接等によって固定されて、ハウジングの天井面41eとスライダ42aとの間に軸方向に延在して配置されている。
なお、座屈棒43を天井面41eおよびスライダ42aに固定する手段は、溶接に限定されるものではなく、上下端部が振動等によって移動しないように保持されていれば、特に限定されない。
【0034】
この座屈棒43は、例えば、図5に示すように、連結棒42を中心として前後左右の4箇所にそれぞれ設置された4本の角棒によって形成されている。
4本の座屈棒43は、平常時、図3に示すように、中空部41b内において、上端部が天井面41eに当接し、下端部がスライダ42aの上面に当接した状態で垂直に設置されて、ハウジング41がパワープラント2の荷重で下降しないように均等に保持している。
4本の座屈棒43は、図5に示すように、衝突予知装置8で車両C(図2参照)が障害物に衝突することを予知した場合、予知した衝突時の衝撃力の大きさに基づく制御装置84からの衝突予知信号で作動したアクチュエータ7のプランジャ71によって、上下方向の中央部分背面が押圧されて座屈強度が変化するようになっている。これに伴ってマウント部4(6)のマウント支持強度が変化するようになっている。
【0035】
図3に示すボルトB1は、ハウジング41のフランジ部41cをパワープラント2に固定するための締結部材であり、座金を介在してフランジ部41cを固定する。
ボルトB2は、スライダ42aおよび連結棒42と一体の固定ベース42bを車体1に固定するための締結部材であり、座金を介在して固定ベース42bを固定する。
【0036】
<アクチュエータの構成>
図3および図4に示すように、アクチュエータ7は、ハウジング41に設けられて衝突予知装置8(図2参照)からの衝突予知信号によって作動して、車体1とパワープラント2との連結状態を保持している座屈棒43に初期不整を与える装置である。アクチュエータ7は、例えば、パワープラント2に固定されたハウジング41に内設されている。アクチュエータ7は、例えば、平常時に先端が座屈棒43から離間した状態になり、衝突予知時に先端が座屈棒43を押圧して初期不整を与えるプランジャ71を備えたソレノイド72から構成されている。
【0037】
このため、アクチュエータ7は、平常時に、後記するばね部材(図示せず)のばね力によって、プランジャ71が座屈棒43から離れてハウジング41の内壁41f側に寄った状態になっている。
そして、アクチュエータ7は、衝突予知装置8で車両Cの重度の衝突を予知したときに、衝突予知装置8からの衝突予知信号によってプランジャ71を作動させ、このプランジャ71によって座屈棒43の強度を変化させて、衝突時の衝撃力でパワープラント2を車体1から離脱させるようになっている。
【0038】
ソレノイド72は、ハウジング41に内設されて、平常時にOFF状態になり、衝突予知時に衝突予知装置8の制御装置84からの衝突予知信号によってONして磁力でプランジャ71を座屈棒43側に移動させるコイル73と、このコイル73内に出没自在に設置され磁力で移動して座屈棒43を押圧するプランジャ71と、このプランジャ71を元のOFF位置に自動復帰させるためのばね部材(図示せず)と、から主に構成されている。ソレノイド72は、上下方向に向けて配置された各座屈棒43の側面中央部に対向してハウジング41の内壁41fに設置されている。
【0039】
プランジャ71は、コイル73の磁力によって吸引される鉄製の作動部材であり、基端部がソレノイド72の鉄心の役目をしている。
コイル73は、例えば、プランジャ71の基端部に巻回された電磁コイルであり、制御装置84(図5参照)に電気的に接続されている。そして、コイル73には、衝突予知装置8によって衝突を予知したときに、制御装置84から電流が流れて駆動して、座屈棒43に初期不整(歪)を与えることによって、座屈棒43の座屈開始荷重を低く変化させるようになっている。
【0040】
≪衝突予知装置(衝突予知手段)の構成≫
図2に示すように、衝突予知装置8は、自分が搭乗した車両C(自車C1(図1参照)))が、障害物に衝突することを予知する検出装置である。さらに詳述すると、衝突予知装置8は、例えば、自車C1と自車C1の前方等にある障害物とを障害物検出センサ81と撮像装置82とによって検出し、障害物検出センサ81および撮像装置82からの検出信号と車速センサ83からの速度信号とから制御装置84で他車C2(図1参照)等の障害物との衝突を予知する装置である。
【0041】
この衝突予知装置8は、自車C1の前方の障害物との衝突方向、衝突時の衝突速度、自車C1と衝突し合う部分のラップ率、および衝突位置等を検出するための障害物検出センサ81および撮像装置82と、自車C1の車速を検出する車速センサ83と、前記衝突方向、衝突速度、ラップ率、および衝突位置を算出して重度の衝突を予知したときにアクチュエータ7を作動させるための制御装置84と、から主に構成されている。
【0042】
なお、この衝突予知装置8は、車両Cの衝突を予知した後に、車両Cの衝突が回避された場合には、アクチュエータ7に衝突回避信号(OFF信号)を送って、プランジャ71によってパワープラント2を車体1に支持する平常時の状態に復帰させることができるようになっている。
【0043】
<障害物検出センサの構成>
図1に示すように、障害物検出センサ81は、自車C1から自車C1の前方等にある他車C2等の障害物までの距離L等を測定するための測定器であり、例えば、レーダや超音波センサ等からなる。この障害物検出センサ81は、図2に示すように、バンパ18に適宜な間隔で複数植設された各センサ部から発信した電波や超音波やビーム等が障害物に当たって反射して戻って来たときの時間を計測するための装置であり、例えば、発信器と受信器とを一体化したものからなる。各障害物検出センサ81のセンサケースは、バンパ18に穿設された設置孔に装着され、前端面がバンパ18の前端面に略面一になるように設置されている。各障害物検出センサ81は、例えば、このセンサを駆動するセンサ駆動回路と、このセンサで受信した受信信号に検波処理を行う受信波処理回路とを備え、制御装置84および電源(図示せず)にそれぞれ電気的に接続されている。
【0044】
<撮像装置の構成>
図2に示すように、撮像装置82は、自車C1の前方の他車C2(図1参照)等の障害物をCCDカメラ等によって撮像して、画像処理によって障害物を検出するための装置である。この撮像装置82は、例えば、車室内の前側中央の天井面やルームミラー等に前方に向けて設置されている。
【0045】
<車速センサの構成>
図2に示す車速センサ83は、自車C1の走行速度を検出するセンサであり、例えば、車輪に設置された車輪速度センサからなる。車速センサ83は、制御装置84に電気的に接続されている。
【0046】
<制御装置の構成>
図2に示す制御装置84は、障害物検出センサ81と、撮像装置82と、車速センサ83とで検出したデータから自車C1の衝突の予測を算出して、車両Cが障害物に衝突することを予知したときに(例えば、車両Cと障害物との衝突が避けられない状況になったとき)、マウント部4,6に設置されたアクチュエータ7に衝突予知信号を送ってこのアクチュエータ7を作動させて、座屈棒43に初期不整を与えることで、座屈棒43の座屈開始荷重を低く変化させて、マウント部4,6のマウント支持強度を変化させる装置である。
【0047】
この制御装置84は、さらに、図1に示すように、障害物が自車C1に衝突する衝突方向と、衝突する衝突速度と、自車C1が他車C2等の障害物に衝突するときに車体前部が衝突する衝突の方位角度と、自車C1から衝突する障害物までの距離Lと、衝突した場合の衝撃荷重等との付帯情報を、障害物検出センサ81および撮像装置82からの検出データ等から算出する演算回路(図示せず)を有している。
【0048】
その他に、図2に示す制御装置84には、例えば、障害物検出センサ81から電波を送信するための送信波処理回路や、障害物検出センサ81から出力された受信波を増幅する受信波増幅回路や、障害物からの反射波を処理する信号処理回路や、種々のデータを記録した記録回路や、車両Cに障害物が接近して衝突するかを判定する衝突判定回路や、障害物検出センサ81を駆動するための電源回路や、衝突の予測信号を発してから所定時間後に衝突回避信号(OFF信号)をアクチュエータ7のコイル73に送って、このアクチュエータ7のプランジャ71を元の状態に自動復帰させる時間を計測するためのタイマ回路等が設けられている。
【0049】
なお、制御装置84は、例えば、障害物検出センサ81の発信器から発信されて前方の障害物に当たって反射して戻って来た電波等の時間を計測して、その時間から障害物までの距離L等を算出する。
制御装置84は、例えば、撮像装置82に撮像された画像の位置や、バンパ18に並設された各障害物検出センサ81で受信した電波等の時間および時間差の検出データから衝突方向、衝突の方位角度、ラップ率を算出する。
制御装置84は、例えば、算出した前記距離Lのデータと、車速センサ83の検出データとから衝突速度を算出する。
【0050】
≪マウント装置の作動≫
次に、図1〜図7を参照して本発明の実施形態に係る車両用パワープラントのマウント装置の作動を説明する。
【0051】
図1および図2に示すように、パワープラント2をエンジンルームに横置きに搭載した右ハンドルの車両Cにおいて、マウント装置Mは、例えば、パワープラント2の前側のマウント部3と左側のマウント部5とが、アクチュエータ7を備えていない一般的なロッドタイプのマウント装置M’によって形成されている。そして、パワープラント2の後側のマウント部4と、右側のマウント部6には、図3(a)、(b)に示すような座屈強度の強弱を変更できるアクチュエータ7が備えられている。
【0052】
<衝突予知装置で衝突を予知する前の状態>
図3に示すように、パワープラント2の後側のマウント部4は、平常時に、アクチュエータ7のプランジャ71がソレノイド72の自動復帰ばね部材(図示せず)のばね力によって付勢されて、プランジャ71の先端が座屈棒43から離間している。このため、座屈棒43の座屈強度が通常の強度の状態になっている。その座屈棒43は、スライダ42aとハウジング41の天井面41eとの間の間隔をしっかりと保持する状態に介在されて、スライダ42aをハウジング41の下端部に押し下げて、マウント部4,6を平常時の状態に保持している。つまり、ハウジング41内のスライダ42aは、このスライダ42aとハウジング41の天井面41eとの間に介在された座屈棒43によって、天井面41eから座屈棒43の長さ分だけ下側に移動した状態に保持されて、マウント部4,6を平常時のマウント支持強度になるように保持している。
【0053】
このように、図2に示す衝突予知装置8で衝突予知される前の車両Cでは、アクチュエータ7(図3参照)のプランジャ71によって後側と右側のマウント部4,6のマウント支持強度が強くなっている。このため、衝突予知装置8で衝突予知される前のパワープラント2は、前後左右のマウント部3〜6によって、しっかりと車体1にマウント支持されている。
【0054】
<衝突予知装置の駆動>
例えば、図2に示す衝突予知装置8の電源(図示せず)がONされると、制御装置84から障害物検出センサ81と、撮像装置82と、車速センサ83とに電力が供給されて作動する。衝突予知装置8の制御装置84は、例えば、障害物検出センサ81のレーダ検出信号と撮像装置82からの画像信号と、車速センサ83からの車速信号とによって衝突形態を予知するための監視を行う。
【0055】
<衝突方向の予測>
図2に示すように、衝突予知装置8は、車体前端のバンパ18の中央部および左右端部に設置された障害物検出センサ81と、車体中央に設置されて車体前方を撮像する撮像装置82とからそれぞれ制御装置84に送られたデータによって、自車C1が他車C2(障害物)に衝突する方向を算出する。
この場合、制御装置84は、障害物検出センサ81と撮像装置82との検出データから衝突方向の角度基準値を車体正面の中央を基準として予測する。
【0056】
<衝突速度の予測>
図2に示すように、衝突予知装置8は、障害物検出センサ81と、撮像装置82と、車速センサ83とからそれぞれ送られて来た検出データに基づいて制御装置84によって、自車C1と他車C2(障害物)とが衝突するときの衝突速度を算出して、衝突が軽度か重度の衝突かを予測する。
【0057】
この場合、制御装置84は、前記衝突速度の検出データから設定した所定の危険度基準値を基準として予知する衝突が軽度か重度か、発生する衝突の危険度を予測する。
衝突速度は、例えば、予め設定した複数の時速のカテゴリに分けて予測する。
【0058】
<衝突のラップ率の予測>
図2に示す衝突予知装置8の制御装置84には、自車C1と他車C2(図1参照)とが衝突するおそれがあると判断して予知するための基準となる他車C2の衝突位置の衝突位置基準値が記憶されている。衝突予知装置8は、障害物検出センサ81と、撮像装置82と、車速センサ83とからそれぞれ送られて来た検出データに基づいて制御装置84によって、他車C2(図1参照)が、自車C1と衝突する衝突位置基準値のエリア内にあるか判断する。
【0059】
続いて衝突予知装置8は、障害物検出センサ81と、撮像装置82と、車速センサ83とからそれぞれ送られて来た検出データに基づいて制御装置84によって、自車C1と他車C2(図1参照)とが衝突するときの車体1がラップするラップ量W(図1参照)を予測する。
さらに、制御装置84は、このラップ量W(図1参照)から他車C2が衝突する自車C1のラップ率を算出する。ラップ率は、予め設定した複数のカテゴリに分けて予測する。
【0060】
<衝突位置の予測>
図2に示す衝突予知装置8は、障害物検出センサ81と、撮像装置82とからそれぞれ送られて来た検出データに基づいて制御装置84によって、他車C2が自車C1に衝突する自車C1の位置が、右か左かを予測する。
さらに、制御装置84は、予測した衝突位置から自車C1において、その衝突位置が中央と、右と、左との3つのカテゴリに分けて予測する。
【0061】
<衝突の予知判断>
図2に示す衝突予知装置8の制御装置84は、これまでに算出した衝突方向と、衝突速度と、ラップ率と、衝突位置との付帯情報を活用して自車C1が他車C2(図1参照)と衝突することを予知して、自車C1が受ける衝撃が軽度であるか、重度であるか、段階的に演算する。
【0062】
<通常走行および軽度の衝突の場合>
そして、衝突予知装置8は自車C1が障害物に衝突しない通常走行と判断している場合や、軽度の衝突を予知した場合には、アクチュエータ7を作動させずに、図3に示す平常時のマウント支持状態に維持する。
【0063】
<重度の衝突を予知した場合>
衝突予知装置8が、自車C1が他車C2に重度の衝突をすると予知した場合には、図5に示すように、制御装置84から衝突予知信号が、パワープラント2(図2参照)を支持するマウント部4,6のアクチュエータ7のソレノイド72のコイル73に出力される。
すると、アクチュエータ7のソレノイド72は、図3に示すように、先端が座屈棒43から離間していたプランジャ71を、ばね部材(図示せず)のばね力に抗して突出させて座屈棒43の中央部を側面方向から押圧し、この座屈棒43に初期不整を与える図4に示すマウント部4(6)の状態にする。
【0064】
マウント部4(6)は、連結棒42を補強すると共にスライダ42aを所定位置に保持していた座屈棒43がプランジャ71によって押圧されて変形されることによって、初期不整(弾性領域内の歪量)が与えられて、自車C1(図1参照)と他車C2とが重度の衝突をする寸前に、マウント支持強度が小さく変化することになる。
【0065】
<座屈棒の座屈開始荷重>
図6は、マウント装置の座屈棒に与えられる座屈荷重と座屈量との関係を示すグラフである。なお、図6に示す太線aは、平常時における座屈荷重に対する座屈棒の座屈量を示し、細線bは、初期不整が与えられたときの座屈荷重に対する座屈棒の座屈量を示す。
【0066】
図6に示すように、座屈棒43は、初期不整が与えられることにより、圧縮荷重によって座屈が始まる座屈開始荷重を大きく低下させて(荷重可変幅の約40%)、衝突時の衝撃力(圧縮力)によって容易に破断可能な状態になる。
【0067】
<衝突が回避された場合>
図4に示すように、マウント装置Mは、衝突予知装置8で衝突を予知してアクチュエータ7によって座屈棒43が弾性変形して座屈開始荷重(マウント支持強度)が変更された場合であっても、衝突が回避された場合には、アクチュエータ7が所定時間後にOFFされる。
アクチュエータ7は、例えば、運転者のハンドル操作や制動操作等によって衝突が回避された場合、制御装置84によってOFFされる。アクチュエータ7は、OFFすると、ソレノイド72の磁力がなくなるので、プランジャ71がばね部材(図示せず)のばね力によって座屈棒43から離間した元の状態に自動復帰されて、初期不整で弾性変形された座屈棒43が弾性領域内にあるので元の形状に自動的に戻る。
すると、マウント部4(6)は、座屈棒43がプランジャ71に押圧された撓んだ状態に弾性変形して、ハウジング41が図4に示す間隔H1の位置状態からこの間隔H1よりも高い図3に示す平常時の所定間隔Hの元のマウント支持強度を有する位置状態に自動復帰する。
【0068】
<自車が重度の衝突をした場合>
図7は、本発明の実施形態に係る車両用パワープラントのマウント装置を示す図であり、(a)は車両が重度の衝突した場合の衝突開始時の状態を示す模式図、(b)は車両が重度の衝突した場合の衝突時の後半の状態を示す模式図である。
【0069】
例えば、自車C1が他車C2と重度の衝突(前面衝突)した場合には、衝突予知装置8で衝突を予知した瞬間に、図4に示すように、後側のマウント部4および右側のマウント部6の座屈棒43がアクチュエータ7よって押圧されて支持強度が弱くなっているので、マウント部3〜6全体が破断し易くなる(図1参照)。
【0070】
このため、パワープラント2を支持しているマウント部3〜6は、図7(a)に示すように、重度の衝突が開始されると、マウント部4(6)の座屈棒43が衝突時の衝撃力によって容易に破断される。このとき、マウント部4(6)のマウント支持強度が低下して、ハウジング41およびパワープラント2は、このパワープラント2の自重による引張力によって、座屈棒43が弾性領域外まで屈曲させる圧縮力が働いて破断し、間隔H2になり、間隔H2−間隔Hの差分だけ降下する。
【0071】
図7(b)に示すように、重度の衝突時の後半には、スライダ42aがハウジング41の内壁41fの上方部位に形成されたテーパ部41gに圧接して、パワープラント2の荷重が連結棒42とスライダ42aとの連結部分に応力集中する。すると、その連結部分が破断して連結棒42とスライダ42aとが分離し、パワープラント2が自重によって落下する。
その結果、重度の衝突時にエンジンルームが他車C2によって押し潰れ易くなるので、クラッシュストロークが長くなって衝突エネルギーの吸収効率が向上されるため、衝突エネルギーを適宜に吸収することができる。これにより、パワープラント2が衝突時に車室に移動することを抑止することができる。
【0072】
このため、マウント装置Mは、衝突予知装置8によって重度の衝突が予知されてアクチュエータ7が作動した場合であっても、実際に衝突が発生しない限り壊れることがないため、繰り返し使用することができる。
【0073】
[変形例]
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内で種々の改造および変更が可能であり、本発明はこれら改造および変更された発明にも及ぶことは勿論である。
【0074】
≪第1変形例≫
図8は、本発明の実施形態に係る車両用パワープラントのマウント装置の第1変形例を示す図であり、車体の前部の構造を示す概略図である。
前記実施形態では、図2に示すように、パワープラント2をエンジンルームに横置きに配置した場合を説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、図8に示すようにパワープラント2Aを車体1Aに対して縦置きに配置してもよい。
【0075】
この場合、パワープラント2Aは、後側のマウント部4Aと、左側のマウント部5Aと、右側のマウント部6Aとの3つの支持部材でマウント支持される。そして、後側のマウント部4Aにのみ前記したアクチュエータ7を設置してマウント支持強度を変化できるようにすればよい。
複数からなるマウント部4A,5A,6Aは、少なくともそのうちの1つが、アクチュエータ(図示せず)を備えて、車両Cの衝突方向に対してパワープラント2Aの後側に配置されていればよい。
【0076】
≪第2変形例≫
図9は、本発明の実施形態に係る車両用パワープラントのマウント装置の第2変形例を示す図であり、(a)は平常時にアクチュエータの状態を示す概略断面図、(b)は(a)に示すY−Y線の断面図である。図10は、本発明の実施形態に係る車両用パワープラントのマウント装置の第2変形例を示す図であり、(a)は車両が重度の衝突をしたときのアクチュエータの状態を示す概略断面図、(b)は(a)に示すZ−Z線の断面図である。
【0077】
前記実施形態では、マウント部4(6)の一例として図3に示すようにアクチュエータ7のソレノイド72によって作動するプランジャ71が、座屈棒43を押圧して所期不整を与えてマウント装置Mのマウント支持強度を変化させることを説明したが、アクチュエータ7は、これに限定されるものではない。
例えば、アクチュエータ7は、モータ駆動装置によってプランジャ71が進退すればよく、プランジャ71が、モータで回転するカム部材によって進退するようにしてもよい。
【0078】
この場合、アクチュエータ7Aは、図9(a)に示すように、例えば、モータ72Aの回転に連動する減速歯車73Aを介在して歯車状のカム部材74Aが回動し、このカム部材74Aの回動によって作動部材71Aを進退させて座屈棒43Aに初期不整を与えるようにする。
【0079】
作動部材71Aは、スチールボール等の球体によって形成されている。
モータ72Aは、衝突予知装置8(図2参照)の衝突予知信号に基づいて減速歯車73Aを介在してカム部材74Aを瞬時に回動させるものである。
【0080】
図9(a)に示すように、カム部材74Aは、重度の衝突を予知したときに、作動部材71Aを座屈棒43Aに向けて突出して押圧する部材であり、内周面にカム部74Acを有し、外周面に歯車部74Aaを有する略平歯車形状の部材からなる。このカム部材74Aは、減速歯車73Aに噛合する歯車部74Aaと、作動部材71Aを進退させるためのカム部74Acと、カム部74Acの上下端部に突出形成され作動部材71Aを座屈棒43Aに当接した状態に支持する一対の支持片74Abと、を有している。
【0081】
カム部74Acは、カム部材74Aの内周面に形成されたコ字状の溝の底面からなり、カム部材74Aの回動によって作動部材71Aを押圧して座屈棒43Aを連結棒42側に押し曲げるためのものである。
支持片74Abは、そのカム部74Ac上下に一対に突出形成されたレール形状の突起であり、球体形状の作動部材71Aの上下方向の移動を抑制して支持するものである。
【0082】
図9(b)に示すように、カム部74Acは、作動部材71Aを平常時の状態に保持する節度溝74Adと、この節度溝74Adの両側に連続形成されて作動部材71Aを座屈棒43A側に押し出すための節度山74Aeと、を4つの座屈棒43Aに合わせてカム部材74Aの内面の4箇所にそれぞれ形成している。
【0083】
座屈棒43Aの外側面の中央部には、先端に作動部材71Aを保持する爪を備え、この作動部材71Aの左右方向から挟持する係止片43aが形成されている。
図9(a)に示すように、ハウジング41Aは、アクチュエータ7Aが設けられた本体41Aaと、この本体41Aaの中空部41Abを閉塞する底板41Acとから構成されている。
【0084】
例えば、衝突予知装置8の重度の衝突予知信号に基づいて、図9(b)に示すように、モータ72Aが矢印d方向に回転すると、減速歯車73Aが同じ矢印e方向に回転することによって、カム部材74Aが矢印f方向に回転する。カム部材74Aが回転すると、作動部材71Aの節度溝74Adに支持されてあった作動部材71Aが、カム部74Acの表面上を節度山74Aeまで移動する。
【0085】
すると、作動部材71Aは、図10(a)、(b)に示すように、カム部74Acの節度山74Aeに押圧されて中心に配置されている連結棒42側に移動して、座屈棒43Aに初期不整を与える。そして、車両C(図1参照)の衝突による衝突力(外力)によって座屈棒43Aが破断し、これによって、スライダ42aと連結棒42とが分断して、パワープラント2が自重によって車体1から落下する。
【0086】
なお、アクチュエータ7のプランジャ71(作動部材71A)を進退させる手段は、このような電動歯車機構以外に、モータを動力源としたピニオン・ラック機構を利用した電動歯車機構や、プランジャ71(作動部材71A)を直線往復移動させることが可能な往復スライダクランク機構や、油圧または空気圧を利用してピストンを作動させる流体圧機構や、その他の機構であっても構わない。
さらに、球面を有する作動部材71Aと、この作動部材71Aを支持する係止片43aとは、先端がカム部材74Aのカム部74Acに接触する球面形状のプッシュロッドを、座屈棒43の側面中央部から突出して一体的に形成したものであってもよい。
【0087】
≪第3変形例≫
図11は、本発明の実施形態に係る車両用パワープラントのマウント装置の第3変形例を示す図であり、マウント部における連結棒とスライダとの連結部分の拡大図である。
図11に示すように、マウント部4Aの連結棒42Aには、連結棒42Aが適宜な衝突力で破断するように、切欠部42Acを形成してもよい。切欠部42Acは、例えば、マウント部4Aにおける連結棒42Aとスライダ42Aaとの連結部分に形成される。
【0088】
そして、連結棒42Aとスライダ42Aaとの結合部42Adの結合強度は、スライダ42Aaを上方向から下方向に向けて押圧して支えられている座屈棒43A(図9(a)参照)の状態によって変化する。その連結棒42Aとスライダ42Aaとの結合部42Adの結合強度は、座屈棒43Aが初期不整により座屈する荷重をF1(図6および図7(a)参照)、連結棒42Aが破断する荷重をF2(図6および図7(b)参照)、座屈棒43Aに初期不整が与えられないときに連結棒42Aが座屈する荷重をF3(図6および図4参照)とすると、
F1<F2<F3
に設定されている。
【0089】
このようにパワープラント2(図9(a)参照)を支持するマウント装置M(図9(a)参照)は、連結棒42Aとスライダ42Aaとの結合強度が、座屈棒43Aが初期不整により座屈する荷重F1<連結棒42Aが破断する荷重F2<座屈棒43Aに初期不整が与えられないときに連結棒42Aが座屈する荷重F3に設定することによって、通常時にパワープラント2をしっかりと確実に車体に保持し、衝突時にパワープラント2が衝撃力によって車体から落下し易くなるように、連結棒42Aとスライダ42Aaとの結合部42Adの結合強度を容易に設計できるようになる。そして、マウント部4のマウント支持強度は、衝突する寸前に自動的にアクチュエータ7による初期付勢によって調整されて、衝突時の衝突エネルギーをエンジンルームのクラッシュによって吸収し易くすることができる。
【0090】
[その他の変形例]
前記本発明の実施形態や第1変形例では、パワープラント2,2Aを車体1,1Aに支持するためのソレノイド72およびモータ72Aを有するアクチュエータ7,7Aが車体1,1A側に設置されている場合を説明したが、これに限定されるものではない。
マウント部4,4A,6に設置されるアクチュエータ7,7Aは、車体1,1A側またはパワープラント2,2A側の少なくともどちらか一方に設置されていればよい。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用パワープラントのマウント装置を示す図であり、車両が衝突する前の状態を示す概略図である。
【図2】本発明の実施形態に係る車両用パワープラントのマウント装置を示す図であり、車体の前部の拡大概略図である。
【図3】本発明の実施形態に係る車両用パワープラントのマウント装置を示す図であり、車両の衝突を予知する前の状態を示すマウント部の拡大断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る車両用パワープラントのマウント装置を示す図であり、車両の衝突を予知した直後の状態を示すマウント部の拡大断面図である。
【図5】図3のアクチュエータの電気接続関係を示すX−X線の断面図である。
【図6】マウント装置の座屈棒に与えられる座屈荷重と座屈量との関係を示すグラフである。
【図7】本発明の実施形態に係る車両用パワープラントのマウント装置を示す図であり、(a)は車両が重度の衝突した場合の衝突開始時の状態を示す模式図、(b)は車両が重度の衝突した場合の衝突時の後半の状態を示す模式図である。
【図8】本発明の実施形態に係る車両用パワープラントのマウント装置の第1変形例を示す図であり、車体の前部の構造を示す概略図である。
【図9】本発明の実施形態に係る車両用パワープラントのマウント装置の第2変形例を示す図であり、(a)は平常時にアクチュエータの状態を示す概略断面図、(b)は(a)に示すY−Y線の断面図である。
【図10】本発明の実施形態に係る車両用パワープラントのマウント装置の第2変形例を示す図であり、(a)は車両が重度の衝突をしたときのアクチュエータの状態を示す概略断面図、(b)は(a)に示すZ−Z線の断面図である。
【図11】本発明の実施形態に係る車両用パワープラントのマウント装置の第3変形例を示す図であり、マウント部における連結棒とスライダとの連結部分の拡大図である。
【符号の説明】
【0092】
1 車体
2,2A パワープラント
3,4,4A,5,5A,6,6A マウント部
7,7A アクチュエータ
8 衝突予知装置(衝突予知手段)
41,41A ハウジング
41b,41Ab 中空部
42,42A 連結棒
42a,42Aa スライダ
42Ac 切欠部
42Ad 結合部
43,43A 座屈棒
C 車両
C1 自車
C2 他車(障害物)
E エンジン
M,M’ マウント装置
T 変速機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を走行させるためのパワープラントを車体に支持するための車両用パワープラントのマウント装置であって、
前記車体または前記パワープラントのどちらか一方に固定されるハウジングと、
前記車体または前記パワープラントのどちらか他方に固定される連結棒と、前記車両の衝突を予知する衝突予知手段と、を備え、
前記ハウジングは、中空部と、
この中空部内を軸方向に摺動自在に配置されると共に、前記連結棒に連結されたスライダと、
前記中空部内に軸方向に延在して配置されると共に、前記スライダの動きを規制する座屈棒と、
前記ハウジングに設けられて前記衝突予知手段からの衝突予知信号に基づいて前記座屈棒に初期不整を与えるアクチュエータと、
を備えたことを特徴とする車両用パワープラントのマウント装置。
【請求項2】
前記連結棒と前記スライダとの結合部の結合強度は、前記座屈棒が前記初期不整により座屈する荷重をF1、前記連結棒が破断する荷重をF2、前記座屈棒に前記初期不整が与えられないときに前記連結棒が座屈する荷重をF3とすると、
F1<F2<F3
に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用パワープラントのマウント装置。
【請求項3】
前記連結棒には、切欠部が形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両用パワープラントのマウント装置。
【請求項4】
前記衝突予知手段は、前記車両の衝突を予知した後に、前記車両の衝突が回避された場合には、前記アクチュエータに衝突回避信号を送って、前記アクチュエータが前記座屈棒に初期不整を与えている状態を解消させて平常時の状態に復帰させることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の車両用パワープラントのマウント装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2008−189028(P2008−189028A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−22860(P2007−22860)
【出願日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】