説明

車両用乗員保護装置

【課題】 適正位置へのシートバックの迅速な強制変位を、シートバックのリクライニング調整に悪影響を与えることなく、かつ構成の複雑化等を伴うことなく実現可能とする。
【解決手段】 シートバック22を前傾方向に付勢するアシストスプリング36を、その搭載対象のシート16に設けるとともに、モータ12を駆動制御する制御手段24を、高低2種類の駆動電圧をモータに対して印加可能とする電圧変換回路34を有するものとし、衝突予知手段28からの予知信号が制御手段に入力され、かつ角度検出手段30からの信号によりシートバックの傾斜角度が適正角度α1より後傾していると判断されたとき、電圧変換回路での駆動電圧の切り換えによる高電圧の印加により、当該モータをシートバックの前傾方向に高速駆動するものとしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝突を予知した際に、シートバックを乗員保護に適した傾斜角度に強制変位させることで、安全装置による乗員保護性能をより高めようとする車両用乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、車両の衝突の可能性を予知した際にシートベルトのプリテンショナを作動させ、シートベルトの張力を増加させることによる乗員の適切な拘束により、シートベルトによる乗員保護性能をより高めようとする乗員保護装置が、自動車等の車両において広く知られている。しかしながら、シートバックが過度に後傾している場合等においては、シートベルトの張力を増加させても、シートに対する適切な拘束を得るのは困難となりやすいことが指摘されている。
【0003】
そこで、たとえば、衝突を予知した時点でのシートバックの傾斜角度(リクライニング角度)を検出し、その傾斜角度が所定の範囲外にあるときに、シートバックをシートベルトでの拘束に適した所定範囲内に強制的に変位させる構成が、たとえば特開平11−334437号公報等に開示されている。
【0004】
このような構成であれば、シートバックを乗員保護に適した傾斜角度に強制変位させた後に、プリテンショナの作動によるシートベルトの張力増加のもとで乗員をシートに対し拘束するため、シートに対する適切な拘束により、シートベルトによる保護性能がより高められる。
【0005】
ところで、この種の乗員保護装置は、通常、モータを駆動源とする、いわゆるパワーリクライナを有したシート(パワーリクライニングシート)に設けられることから、このモータの駆動制御により、衝突予知時におけるシートバック傾斜角度の強制変位が行われるものとなっている。そして、公知の乗員保護装置の作動順位としては、モータの駆動制御によるシートバックの強制変位の後に、プリテンショナの作動のもとでシートに対する乗員の拘束を行うため、シートバック角度の強制変位に対しては、迅速な作動が要求されるところである。
【0006】
しかしながら、この公知の構成においては、リクライニング調整時、強制変位時のいずれにおいてもモータ速度が同一であり、そのモータ速度としては、一般的に、リクライニング調整に適したものが優先されることから、リクライニング調整時の良好な操作性と衝突予知時の迅速な強制変位との両立を得ることは容易でない。
【特許文献1】特開平11−334437号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする問題点は、リクライニング操作時の通常のモータ速度であると、衝突予知時におけるシートバックの強制変位が迅速に行えないという点である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に係る車両用乗員保護装置は、シートバックを前傾方向に付勢するアシストスプリングを、その搭載対象のシートに設けるとともに、モータを駆動制御する制御手段を、高低2種類の駆動電圧をモータに対して印加可能とする電圧変換回路を有するものとしている。そして、所定のスイッチ操作によるシートバックのリクライニング調整時においては、低電圧の印加による当該モータの低速駆動を確保可能とし、衝突予知手段からの予知信号が制御手段に入力され、かつ角度検出手段からの信号によりシートバックの傾斜角度が適正角度より後傾していると判断されたとき、制御手段の電圧変換回路での駆動電圧の切り換えによる高電圧の印加により、当該モータをシートバックの前傾方向に高速駆動するとともに、角度検出手段からの信号によりシートバックの傾斜角度が適正角度に到達したと判断されたとき、当該モータを駆動停止することを、この請求項1での最も主要な特徴としている。
【0009】
また、この発明の請求項2は、シートバックの適正角度を、シート前方に配設されたエアバッグに対する適正角度として設定したことを、その最も主要な特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の請求項1に示す車両用乗員保護装置は、マニュアル等でのスイッチ操作によるシートバックのリクライニング調整時、および衝突予知時におけるシートバック角度の迅速な強制変位を、それぞれに適した個別のモータ速度により得るため、シートバック角度の迅速な強制変位が、シートバックのリクライニング調整に悪影響を与えることなく容易に確保可能になるという利点がある。
【0011】
そして、この請求項1においては、モータの高速回転に伴うモータトルクの低減を、アシストスプリングの付勢力のもとで補うため、トルク不足を伴うことのないモータの高速駆動が容易に確保可能になるという利点がある。
【0012】
さらに、制御手段として電圧変換回路を有するものを用いるとともに、搭載対象となるシートに、シートバックを前傾方向に付勢するアシストスプリングを設ければ足りるため、トルク不足を伴うことのないモータの高速駆動を、構成の複雑化を伴うことなく確保することができるという利点が、この請求項1にはある。
【0013】
また、この発明の請求項2は、シートバックの適正角度を、シート前方に配設されたエアバッグに対する適正角度として設定しているため、エアバッグによる乗員保護性能が一層高められるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
適正位置へのシートバックの迅速な強制変位を、シートバックのリクライニング調整に悪影響を与えることなく、かつ構成の複雑化等を伴うことなく実現可能とした。
【実施例】
【0015】
図1は、本発明の車両用乗員保護装置10の概略ブロック図であり、図示のように、この車両用乗員保護装置10は、モータ12をその動力源とするパワーリクライナ14を有したパワー式のリクライニングシート16を、その搭載対象としている。
【0016】
なお、このパワー式のリクライニングシート16の基本構成自体は公知であり、かつこの発明の趣旨でないため、この基本構成に対する詳細な説明はここでは省略するが、ここで用いられるパワー式のリクライニングシートは、たとえば、シートクッション18の側面等に設けられたマニュアルスイッチ20の操作によるモータ12の駆動制御のもとで、シートバック22の傾斜角度を任意に調整、設定可能に構成されている。
【0017】
図1を見るとわかるように、このマニュアルスイッチ20は、制御手段24に対し、その信号を出力可能に接続されている。そして、この制御手段24は、マニュアルスイッチ20からの信号に応じたリレー26の切り換えによってその駆動/停止、および回転方向を制御するものとして構成されている。
【0018】
ここで、図1に示すように、この発明の車両用乗員保護装置10は、車両の衝突を予知するための衝突予知手段28と、シートバック22の傾斜角度を検出する角度検出手段30とを備えている。
【0019】
この衝突予知手段28としては、たとえば、車両の周囲に存在する障害物等を検出可能なミリ波レーダ等が例示でき、このミリ波レーダは、制御手段24に対し、その予知信号を出力可能に接続されている。
【0020】
また、角度検出手段30としては、たとえば、パルス発生機能を有するホールICが利用でき、このホールICは、制御手段24に対し、そのパルスを出力可能に接続されている。
【0021】
なお、これらミリ波レーダおよびホールICは、衝突予知手段28および角度検出手段30として一般的に利用される公知の素子であり、これらの基本構成自体はこの発明の趣旨でないため、ここでの詳細な説明は省略する。また、衝突予知手段28は車両の衝突を予知可能とすれば足り、また、角度検出手段30はシートバックの傾斜角度を検出可能とすれば足りるため、ここで例示した以外の素子を、これら衝突予知手段および角度検出手段として用いてもよい。
【0022】
この車両用乗員保護装置10は、衝突予知手段28からの予知信号が制御手段24に入力されたとき、角度検出手段30からの出力信号により検出したシートバック22の傾斜角度を制御手段において判断し、この傾斜角度が予め規定された所定の適正角度α1より後傾しているとき、たとえば後傾角度α2にシートバックがあるとき、制御手段によるモータ12の駆動制御のもとで、シートバックの傾斜角度を適正角度α1に強制的に変位させるものとして基本的に構成されている。
【0023】
なお、ここでいう適正角度α1として、たとえば、シート16の前方位置に配されたエアバッグ32による乗員保護効果の高い角度が例示できる。
【0024】
ここで、図1に示すように、この発明においては、制御手段24が、高低2種類の駆動電圧をモータ12に対して印加可能とする電圧変換回路34を有して形成されている。そして、マニュアルスイッチ20の操作によるシートバック22のリクライニング調整時においては、低電圧の印加によるモータ12の低速駆動を確保可能とし、また、衝突予知手段28からの予知信号が制御手段24に入力され、かつ角度検出手段30からの信号によりシートバックの傾斜角度が適正角度α1より後傾していると判断されたとき、制御手段の電圧変換回路34での駆動電圧の切り換えによる高電圧の印加により、モータをシートバックの前傾方向に高速駆動するものとして、この発明の車両用乗員保護装置10は構成されている。
【0025】
なお、ここでいうモータ12の低速駆動とは、定格電圧による定格回転のもとでの駆動を指し、通常速度でのシートバック22の揺動が、この低速駆動により確保される。
【0026】
このような構成においては、マニュアルスイッチ20の操作によるシートバック22のリクライニング調整時、モータ12は低速駆動されるため、従来通りのシートバックの角度調整が可能となる。
【0027】
これに対し、この発明においては、衝突予知手段28から制御手段24への予知信号の入力により、モータ12をシートバック22の前傾方向に高速駆動するため、衝突予知時におけるシートバックの高速揺動により、シートバック角度の強制変位が迅速に行われることになる。そして、このモータ12の高速駆動のもとでシートバック22が強制変位され、角度検出手段30からの信号(パルス)によりシートバックの傾斜角度が適正角度α1に到達したと制御手段24において判断されたとき、リレー26の作動制御のもとで、モータは駆動停止される。
【0028】
このような構成によれば、マニュアルスイッチ操作によるシートバック22のリクライニング調整時、および衝突予知時におけるシートバック角度の迅速な強制変位が、それぞれに適した個別のモータ速度により得られるため、シートバック角度の迅速な強制変位が、シートバックのリクライニング調整に悪影響を与えることなく容易に確保可能となる。
【0029】
ところで、モータ12への印加電圧を上げることでモータの回転速度を速めると、モータトルクの低減が懸念される。特に、パワーリクライナのモータ12に対しては、乗員からの荷重がその負荷として作用されるため、単純にモータの回転速度を上げただけでは、モータトルクの低減に伴ったシートバック22の作動性能の低下も考えられる。
【0030】
そこで、図1に示すように、この発明においては、モータ12への印加電圧を高電圧に切り換えるだけでなく、シートバック22を前傾方向に付勢するアシストスプリング36を、その搭載対象のシート16に設けるものとしている。
【0031】
このアシストスプリング36としては、たとえば、シートバック22のヒンジとなる駆動シャフト38周りに配設、巻装された渦巻きばね等が例示できる。
【0032】
このような構成によれば、所定の後傾角度α2からのシートバック22の強制変位時、シートバックは、アシストスプリング36の付勢力によって適正角度α1方向に付勢されるため、この付勢力が、モータ12のモータトルクを補う力として作用される。つまり、この発明によれば、高速回転に伴うモータトルクの低減を、アシストスプリング36の付勢力のもとで補うため、トルク不足を伴うことのないモータ12の高速駆動が容易に確保可能となる。
【0033】
そして、制御手段24として電圧変換回路34を有するものを用いるとともに、搭載対象となるシート16に、シートバック22を前傾方向に付勢するアシストスプリングを設ければ足りるため、トルク不足を伴うことのないモータ12の高速駆動を、構成の複雑化を伴うことなく確保することが可能となる。
【0034】
また、衝突予知手段、およびパワーリクライナを有するシートであれば、制御手段の変更、およびアシストスプリングの追加のもとで、この発明を適用することが可能となる。つまり、既存のパワー式リクライニングシートへの適応性に優れるため、その高い汎用化が十分に確保できる。
【0035】
なお、この実施例においては、アシストスプリング36として、駆動シャフト38周りに配設、巻装された渦巻きばねを例示しているが、シートバック22に、その前傾方向への付勢力を付与すれば足りるため、これに限定されず、他のばね部材を用いてもよい。
【0036】
また、この実施例においては、適正角度α1を、エアバッグ32による保護効果の高い角度として説明しているが、シートベルトによる保護効果の高い適正角度も、エアバッグの場合とほぼ同等であり、また、異なる場合であっても、この適正角度の設定値を予め合わせれば足りるため、たとえば、特開平11−334437号公報等に開示のようなプリテンショナの作動にも、この発明が容易に応用できる。
【0037】
上述した実施例は、この発明を説明するためのものであり、この発明を何等限定するものでなく、この発明の技術範囲内で変形、改造等の施されたものも全てこの発明に包含されることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、自動車に限定されず、他の車両用シートの乗員保護装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の車両用乗員保護装置の概略ブロック図である。
【符号の説明】
【0040】
10 車両用乗員保護装置
12 モータ
22 シートバック
24 制御手段
28 衝突予知手段
30 角度検出手段
34 電圧変換回路
36 アシストスプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その動力のもとでシートバックの傾斜角度を任意に調整、設定可能とするパワーリクライナ用のモータと;所定の入力信号に基づいてモータを駆動制御する制御手段と;車両の衝突を予知するための衝突予知手段と;シートバックの傾斜角度を検出する角度検出手段と;を備え、衝突予知手段からの予知信号が制御手段に入力されたとき、角度検出手段により検出したシートバックの傾斜角度を制御手段において判断し、この傾斜角度が予め規定された所定の適正角度より後傾しているとき、制御手段によるモータの駆動制御のもとで、シートバックの傾斜角度を適正角度に強制的に変位させる車両用乗員保護装置であり、
上記シートバックを前傾方向に付勢するアシストスプリングが、その搭載対象のシートに設けられるとともに、
上記制御手段が、高低2種類の駆動電圧を上記モータに対して印加可能とする電圧変換回路を有して形成され、所定のスイッチ操作によるシートバックのリクライニング調整時においては、低電圧の印加による当該モータの低速駆動を確保可能とし、
上記衝突予知手段からの予知信号が上記制御手段に入力され、かつ上記角度検出手段からの信号によりシートバックの傾斜角度が上記適正角度より後傾していると判断されたとき、制御手段の電圧変換回路での駆動電圧の切り換えによる高電圧の印加により、当該モータをシートバックの前傾方向に高速駆動するとともに、上記角度検出手段からの信号によりシートバックの傾斜角度が適正角度に到達したと判断されたとき、当該モータを駆動停止する車両用乗員保護装置。
【請求項2】
前記適正角度が、シート前方に配設されたエアバッグに対する適正角度として設定された請求項1記載の車両用乗員保護装置。

【図1】
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【公開番号】特開2007−276715(P2007−276715A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−108201(P2006−108201)
【出願日】平成18年4月11日(2006.4.11)
【出願人】(000133098)株式会社タチエス (454)
【Fターム(参考)】