説明

車両用内燃機関の始動制御装置

【課題】点火の失敗を抑制して好適な始動を実現する車両用内燃機関の始動制御装置を提供する。
【解決手段】直噴エンジン12の停止過程で膨張行程にある気筒100に対応する排気弁108が開弁された場合には、直噴エンジン12の再始動時にその膨張行程にある気筒100に対する燃料噴射を禁止するものであることから、直噴エンジン12の停止後再始動時において、酸素量不足等により点火の失敗が予想される状態においては膨張行程にある気筒100に対する燃料噴射を行わないことで、再始動時の失火によるエミッション悪化を好適に防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用内燃機関の始動制御装置に関し、特に、点火の失敗を抑制して好適な始動を実現するための改良に関する。
【背景技術】
【0002】
気筒内に燃料を直接噴射する形式の内燃機関が各種車両の駆動源として広く用いられている。斯かる内燃機関は、その内燃機関及び電動機を選択的に駆動源として用いるハイブリッド車両に好適に適用され、例えばエコランモード(ECOモード)においては前記内燃機関が停止させられて前記電動機を駆動源とする走行が行われる一方、そのエコランモードが解除された場合には前記内燃機関が再始動され、その内燃機関を駆動源として用いる走行が行われる。そのように、前記内燃機関の停止後再始動時に、膨張行程気筒に対して燃料噴射を行い点火することでその内燃機関の始動を行う技術すなわち直結スタート技術が提案されている。例えば、特許文献1に記載されたエンジン始動装置がそれである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−031834号公報
【特許文献2】特開2009−144643号公報
【特許文献3】特開2007−239570号公報
【特許文献4】特開2010−188905号公報
【特許文献5】特開2010−173381号公報
【特許文献6】特開2006−348862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記従来の技術では、前記内燃機関の停止過程において前記膨張行程気筒に対応する排気弁が開弁した場合、その膨張行程気筒内に排気が流入し、前記内燃機関の再始動時にその膨張行程気筒に燃料噴射を行っても例えば酸素量不足等により点火に失敗(失火)するおそれがあった。このような課題は、車両用内燃機関の始動制御の改善を意図して本発明者等が鋭意研究を続ける過程において新たに見出したものである。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、点火の失敗を抑制して好適な始動を実現する車両用内燃機関の始動制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
斯かる目的を達成するために、本第1発明の要旨とするところは、気筒内に燃料を直接噴射する形式の内燃機関の停止後再始動時に、膨張行程気筒に対して燃料噴射及び点火を行うことでその内燃機関の始動を行う車両用内燃機関の始動制御装置であって、前記内燃機関の停止過程で膨張行程気筒に対応する排気弁が開弁された場合には、その内燃機関の再始動時にその膨張行程気筒に対する燃料噴射を禁止することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
このように、前記第1発明によれば、前記内燃機関の停止過程で膨張行程気筒に対応する排気弁が開弁された場合には、その内燃機関の再始動時にその膨張行程気筒に対する燃料噴射を禁止するものであることから、前記内燃機関の停止後再始動時において、酸素量不足等により点火の失敗が予想される状態においては前記膨張行程気筒に対する燃料噴射を行わないことで、再始動時の失火によるエミッション悪化を好適に防止できる。すなわち、点火の失敗を抑制して好適な始動を実現する車両用内燃機関の始動制御装置を提供することができる。
【0008】
前記第1発明に従属する本第2発明の要旨とするところは、前記内燃機関は、蓄電装置から供給される電気エネルギによりその内燃機関を駆動する電動機に連結されるものであり、前記膨張行程気筒に対する燃料噴射の禁止時において、前記蓄電装置の蓄電量が前記電動機により前記内燃機関を駆動するための最低蓄電量まで低下した場合には、その時点でその電動機の駆動により前記内燃機関の始動を行うものである。このようにすれば、前記膨張行程気筒に対する燃料噴射が禁止されている状態において、前記内燃機関の始動時におけるショックの発生を好適に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明が好適に適用されるハイブリッド車両の駆動系統の骨子図を含む概略構成図である。
【図2】図1のハイブリッド車両に備えられた直噴エンジンを説明する断面図である。
【図3】図1の直噴エンジンがV型8気筒である場合において、各気筒で実行される4サイクル行程の順序を説明する図表である。
【図4】図1のV型8気筒エンジンにおいて、クランク軸の1回転内で爆発に関与する4つの気筒の位相の相互関係を示す気筒位相図である。
【図5】図1のハイブリッド車両におけるハイブリッド走行制御において、モータ走行領域およびエンジン走行領域のうちの何れかの走行領域を決定するために予め記憶された関係を例示する図である。
【図6】図1のV型8気筒4サイクルの直噴エンジンの停止過程における挙動を説明する気筒位相図である。
【図7】図1の電子制御装置による本実施例のエンジン停止/再始動制御の要部を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、好適には、前記内燃機関がクラッチにより動力伝達経路に対して断接されるパラレル型等のハイブリッド車両に適用される。好適には、前記内燃機関と電動機との間の動力伝達経路に前記クラッチを備え、その電動機が例えばトルクコンバータを介して変速機に接続されたハイブリッド車両に本発明は好適に適用される。すなわち、本発明は、前記電動機のみを駆動力源として走行するモータ走行モード時からその内燃機関を始動(再始動)させる際のエンジン始動制御に好適に適用される。前記クラッチとしては、単板式、多板式等の摩擦係合クラッチ例えば油圧式摩擦クラッチ等が好適に用いられる。
【0011】
前記電動機としては、電動モータ及び発電機の両方の機能を択一的に用いることができるモータジェネレータが好適に用いられる。前記内燃機関としては、気筒内に燃料であるガソリンを直接噴射する形式の直噴ガソリンエンジンが好適に用いられ、3気筒以上の多気筒エンジン、特に6気筒、8気筒、12気筒等の直噴エンジンに適用することもできる。すなわち、停止時における膨張行程の気筒内に燃料を噴射して着火始動できる往復動内燃機関であれば、本発明を適用することが可能である。
【0012】
前記内燃機関の停止過程は、好適には、その内燃機関に対する燃料噴射及び点火が停止された後、クランク軸が正転と逆転とを繰り返す状態となった時点を始点として、その状態が収束して前記クランク軸が停止した状態となった時点を終点とする。すなわち、本発明は、好適には、膨張行程気筒に関して、燃料噴射及び点火が停止された後、前記クランク軸が正転と逆転とを繰り返す状態となった時点から、その状態が収束して前記クランク軸が停止した状態となった時点までの間に、前記膨張行程気筒の位相が一度でも排気弁開に対応する位相まで進んだ場合には、前記内燃機関の再始動時にその膨張行程気筒に対する燃料噴射を禁止する。
【0013】
前記最低蓄電量は、好適には、前記膨張行程気筒に対する燃料噴射及び点火による初爆の点火失敗(失火)時における前記電動機の始動アシスト力を勘案して定められるものであってもよい。すなわち、前記蓄電装置の蓄電量に応じて前記電動機による前記内燃機関の始動可否を判断するシステムにおいては、前記膨張行程気筒に対する燃料噴射及び点火による初爆の失火による始動アシスト力を勘案して、前記内燃機関の再始動を行うための前記蓄電装置の最低蓄電量を判断するものであってもよい。
【0014】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例】
【0015】
図1は、本発明が好適に適用されるハイブリッド車両10の駆動系統の骨子図を含む概略構成図である。この図1に示すハイブリッド車両10は、気筒内に燃料を直接噴射する内燃機関である直噴エンジン12と、電動モータ及び発電機として機能する電動機MGとを走行用の駆動力源として備えている。そして、それら直噴エンジン12及び電動機MGの出力は、流体式伝動装置であるトルクコンバータ14からタービン軸16、C1クラッチ18を経て自動変速機20に伝達され、更に出力軸22、差動歯車装置24を介して左右の駆動輪26に伝達される。上記トルクコンバータ14は、ポンプ翼車とタービン翼車とを直結するロックアップクラッチ(L/Uクラッチ)30を備えていると共に、ポンプ翼車にはオイルポンプ32が一体的に接続されており、上記直噴エンジン12や電動機MGによって機械的に回転駆動されるようになっている。
【0016】
上記直噴エンジン12は、本実施例ではV型8気筒で4サイクルのガソリンエンジンが用いられており、具体的には、図2に示すように、燃料噴射装置46により気筒(シリンダ)100内にガソリンが高圧微粒子状態で直接噴射されるようになっている。好適には、ガソリンが電動フィードポンプでフィード圧まで加圧され、更に高圧ポンプで高圧に加圧された後、上記燃料噴射装置46により気筒100内に直接噴射される。この直噴エンジン12は、吸気通路102から吸気弁104を介して上記気筒100内に空気が流入すると共に、排気弁108を介して排気通路106から排気ガスが排出されるようになっており、所定のタイミングで点火装置47によって点火されることにより上記気筒100内の混合気が爆発燃焼してピストン110が下方へ押し下げられる。上記吸気通路102は、サージタンク103を介して吸入空気量調整弁である電子スロットル弁45に接続されており、その電子スロットル弁45の開度(スロットル弁開度)に応じて上記吸気通路102から上記気筒100内に流入する吸入空気量、すなわちエンジン出力が制御されるようになっている。上記ピストン110は、上記気筒100内に軸方向の摺動可能に嵌合されていると共に、コネクチングロッド112を介してクランク軸114のクランクピン116に相対回転可能に連結されており、上記ピストン110の直線往復移動に伴ってクランク軸114が矢印Rで示すように回転駆動される。上記クランク軸114は、ジャーナル部118において軸受により回転可能に支持されるようになっており、そのジャーナル部118とクランクピン116とを接続するクランクアーム120を一体に備えている。
【0017】
上記のように構成された直噴エンジン12は、1気筒について上記クランク軸114の2回転(720°)で、吸入行程、圧縮行程、膨張(爆発)行程、排気行程の4行程が行われ、これが繰り返されることで上記クランク軸114が連続回転させられる所謂4サイクルエンジンである。この直噴エンジン12に備えられた8つの気筒100のピストン110は、それぞれクランク角度が90°ずつずれるように構成されている。換言すれば、上記クランク軸114のクランクピン116の位置が90°ずつずれた方向に突き出しており、そのクランク軸114が90°回転する毎に8つの気筒100が例えば後述する図3に示す予め設定された点火順序で爆発燃焼させられて連続的に回転トルクが発生させられる。
【0018】
前記直噴エンジン12においては、前記ピストン110が圧縮行程の後の上死点(圧縮TDC)から前記クランク軸114が所定角度回転し、前記吸気弁104及び排気弁108が共に閉じている膨張行程の所定の角度範囲θ内で停止している場合に、前記燃料噴射装置46によって前記気筒100内にガソリンを噴射すると共に前記点火装置47によって点火することにより、前記気筒100内の混合気を爆発燃焼させてエンジン回転速度を立ち上げる着火始動が可能である。例えば、前記直噴エンジン12の各部のフリクション(摩擦)が小さい場合には、着火始動のみでその直噴エンジン12を始動できる可能性があるが、フリクションが大きい場合でも、前記クランク軸114をクランキングして始動する際の始動アシストトルクを低減できるため、そのアシストトルクを発生する前記電動機MGの最大トルクが低減されて小型化や低燃費化を図ることができる。上記角度範囲θは、上死点後のクランク角度CA言うと例えば30°〜60°程度の範囲内で着火始動により比較的大きな回転エネルギが得られ、アシストトルクを低減できるが、90°程度でも、着火始動により比較的回転エネルギが得られ、アシストトルクを低減できる。
【0019】
図3は、前記直噴エンジン12が4サイクルで作動するV型8気筒エンジンである場合の、各気筒No.1〜No.8毎のクランク角度CAに対する作動行程を説明する図である。各気筒No.1〜No.8は機械的な配列位置を示しているが、クランク角度CAが0°を基準とする点火順序では、気筒No.2、気筒No.4、気筒No.5、気筒No.6、気筒No.3、気筒No.7、気筒No.8、気筒No.1という順序となる。例えば、点火順序で気筒No.4を第1気筒K1とすると、気筒No.5が第2気筒K2、気筒No.6が第3気筒K3、気筒No.3が第4気筒K4となる。図4は、V型8気筒エンジンにおいて、前記クランク軸114の1回転内で爆発に関与する4つの気筒の位相の相互関係を示す気筒位相図であって、第1気筒K1乃至第4気筒K4が相互に90°の関係を維持しつつ右回りに回転し、前記吸気弁104が閉じてからTDCまでの吸入空気を圧縮する圧縮行程と、TDCから前記排気弁108が開くまでの爆発ガスの膨張により前記ピストン110が押し下げられる膨張行程とが順次実行される。図4の第1気筒K1の位相は膨張行程の後半に位置し、第2気筒K2の位相は膨張行程の前半に位置し、第3気筒K3の位相は圧縮行程の後半に位置し、第4気筒K4の位相は圧縮行程の開始前に位置している。
【0020】
図1に戻って、前記直噴エンジン12と前記電動機MGとの間には、ダンパ38を介してそれら直噴エンジン12と電動機MGとを直結するK0クラッチ34が設けられている。このK0クラッチ34は、例えば、油圧シリンダによって摩擦係合させられる単板式或いは多板式の摩擦クラッチ等の油圧式摩擦係合装置であり、油圧制御装置28内に備えられた電磁式リニヤ制御弁等によって係合解放制御されると共に、本実施例では前記トルクコンバータ14の油室40内に油浴状態で配設されている。上記K0クラッチ34は、前記直噴エンジン12を動力伝達経路に対して接続したり遮断したりする断接装置として機能する。前記電動機MGは、インバータ42を介して蓄電装置であるバッテリ44に接続されている。前記自動変速機20は、例えば、複数の油圧式摩擦係合装置(クラッチやブレーキ)の係合解放状態によって変速比が異なる複数のギヤ段が成立させられる遊星歯車式等の有段の自動変速機で、上記油圧制御装置28に設けられた電磁式の油圧制御弁や切換弁等によって変速制御が行われる。前記C1クラッチ18は、前記自動変速機20の入力クラッチとして機能するもので、同じく上記油圧制御装置28内の電磁式リニヤ制御弁によって係合解放制御される。
【0021】
以上のように構成されたハイブリッド車両10は、例えば、そのハイブリッド車両10に備えられた電子制御装置70によって制御される。この電子制御装置70は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェース等を有する所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行う。上記電子制御装置70には、前記ハイブリッド車両10に備えられた各種センサ等からの信号が供給される。すなわち、アクセル操作量センサ48、エンジン回転速度センサ50、MG回転速度センサ52、タービン回転速度センサ54、車速センサ56、クランク角度センサ58、及びSOCセンサ60から、それぞれアクセルペダルの操作量(アクセル操作量)Accを表す信号、前記直噴エンジン12の回転速度(エンジン回転速度)NEを表す信号、前記電動機MGの回転速度(MG回転速度)NMGを表す信号、前記タービン軸16の回転速度(タービン回転速度)NTを表す信号、前記出力軸22の回転速度(出力軸回転速度で車速Vに対応)NOUTを表す信号、8つの気筒100毎のTDC(上死点)からの回転角度すなわちクランク角度CAを表わすパルス信号Φ、及び前記バッテリ44の充電レベル(蓄電残量)SOCを表す信号が上記電子制御装置70に供給される。この他、各種の制御に必要な種々の情報が供給されるようになっている。上記アクセル操作量Accは出力要求量に相当する。
【0022】
上記クランク角度センサ58は、好適には、前記クランク軸114と一体的に回転させられるように設けられたクランク位置検出用の歯車におけるそれぞれの歯を検出することによりそのクランク軸114のクランク角度CAを検出する。このクランク角度検出用の歯車(歯)は、一般的に前記クランク軸114の回転方向に関して10°毎に設けられたものであり、上記クランク角度センサ58は、例えば10°毎にクランク角度CAを検出できるように構成されている。
【0023】
図1に示すように、上記電子制御装置70は、ハイブリッド制御部72、変速制御部74、エンジン停止制御部76、及びエンジン始動制御部78を機能的に備えている。このハイブリッド制御部72は、例えば図5に示す予め記憶された関係から車速V及び要求出力量(例えば、アクセル開度Acc)に基づいて、前記電動機MGのみを駆動力源として走行するモータ走行領域、及び、前記直噴エンジン12のみ或いはその直噴エンジン12及び電動機MGを駆動力源として走行するエンジン走行領域のうちの何れかの走行領域を決定し、前記直噴エンジン12及び電動機MGの作動を制御することにより、エンジン走行モードや、モータ走行モード、それら両方を用いて走行するエンジン+モータ走行モード等の予め定められた複数の走行モードで前記ハイブリッド車両10を走行させるハイブリッド駆動制御を行う。上記変速制御部74は、前記油圧制御装置28に設けられた電磁式の油圧制御弁や切換弁等を制御して複数の油圧式摩擦係合装置の係合解放状態を切り換えることにより、前記自動変速機20の複数のギヤ段を、アクセル操作量Accや車速V等の運転状態をパラメータとして予め定められた関係或いは変速マップに従って切り換える。この関係或いは変速マップは、前記直噴エンジン12或いは電動機MGの動作点を、要求駆動力を最適燃費或いは最適効率で満足させるように予め求められたものである。
【0024】
上記エンジン停止制御部76は、前記ハイブリッド車両10において所定の条件が成立した場合には、前記直噴エンジン12を停止させる。例えば、前記ハイブリッド車両10においてアクセル操作量Accが零(アクセルオフ)である場合、車速が零である場合、Dレンジである場合、ブレーキスイッチがオンである場合等のアイドルストップ条件が成立したときに出されるエコラン停止要求や、走行中におけるエンジン走行領域からモータ走行領域への切り換え時のエンジン停止要求等に基づいて、前記直噴エンジン12への燃料供給及び点火を停止してその直噴エンジン12の回転を停止させると共に、必要に応じて前記K0クラッチ34を解放させる。
【0025】
前記エンジン始動制御部78は、膨張行程気筒判定部80、膨張行程開弁判定部82、着火始動制御部84、エンジン動作判定部86、電動機クランキング制御部88、再始動制御終了判定部90、及びSOC判定部92を備え、前記ハイブリッド車両10において所定の条件が成立した場合には、前記直噴エンジン12を始動させる。例えば、アイドルストップ時でのブレーキオフ、モータ走行領域からエンジン走行領域への切り換え等によるエンジン再始動要求に応答して、前記直噴エンジン12の着火始動を行なうと共に、必要に応じて前記電動機MGによるアシストを行なってその直噴エンジン12を再始動させ、例えば直噴エンジン12の回転速度(エンジン回転速度)NEが予め設定された終了判定値NE1に到達したことに基づいて再始動制御を終了させ、前記K0クラッチ34を係合させる。
【0026】
上記膨張行程気筒判定部80は、前記直噴エンジン12におけるクランク軸114のTDC(上死点)からのクランク角度CAを検出するクランク角度センサ58からの信号Φに基づいて、前記直噴エンジン12に備えられた複数の気筒100のうち膨張行程にある気筒100を判定する。例えば、図4に示す第2気筒K2のように、上死点から前記排気弁108が開くまでの爆発ガスの膨張により前記ピストン110が押し下げられる膨張行程にある気筒100を判定する。更に好適には、膨張行程にあることが判定された気筒100に関して、クランク軸角度CAがその膨張行程にある気筒100に対して燃料噴射及び点火を行うことによる前記直噴エンジン12の始動すなわち直結スタートを行うのに好適な角度であるか否かを判定する。例えば、上記膨張行程にあることが判定された気筒100において、クランク軸角度CAがその気筒100の上死点(TDC)を通過後の角度が例えば30°〜60°の角度範囲内であるか否かを判定する。
【0027】
前記膨張行程開弁判定部82は、前記膨張行程気筒判定部80により膨張行程にあることが判定された気筒100に関して、前記直噴エンジン12の停止過程でその気筒100に対応する排気弁108が開弁されたか否かを判定する。すなわち、膨張行程気筒100に対応する排気弁108が開弁され、その気筒100に対する排気の逆流が検知されたか否かを判定する。図6は、V型8気筒4サイクルの直噴エンジン12の停止過程における挙動を説明する気筒位相図である。この図6に示すように、前記直噴エンジン12の停止過程においては、前記燃料噴射装置46による燃料噴射及び点火装置47による点火が停止された後、膨張行程気筒K2と圧縮行程気筒K4との圧力バランスで、前記クランク軸114が正転と逆転とを繰り返して停止する。すなわち、前記燃料噴射装置46による燃料噴射及び点火装置47による点火の停止後も慣性による前記クランク軸114の回転力は残り、図6の(a)に示すように、膨張行程気筒K2がその気筒内の膨張方向に回転させられると共に圧縮行程気筒K4がその気筒内の圧縮方向に回転させられる。すなわち、前記クランク軸114の正転方向に回転させられる。これにより、図6の(b)に示すように、膨張行程気筒K2内が負圧化され、圧縮行程気筒K4内が高圧化される。このため、今度は逆に図6の(c)に示すように、膨張行程気筒K2がその気筒内の圧縮方向に回転させられると共に圧縮行程気筒K4がその気筒内の膨張方向に回転させられる。すなわち、前記クランク軸114の逆転方向に回転させられる。そして、再び図6の(a)に示す状態となり、(a)に示す状態→(b)に示す状態→(c)に示す状態→(a)に示す状態と、前記クランク軸114が正転と逆転とを繰り返すことにより徐々に収束し、前記直噴エンジン12が停止させられる。
【0028】
図6の(b)においては、上記膨張行程気筒K2におけるクランク角度CAがオーバーシュートし、排気弁開に対応する位相まで進んだ状態を例示している。前記膨張行程開弁判定部82は、例えば、前記膨張行程気筒判定部80により膨張行程にあることが判定された気筒100(膨張行程気筒K2)に関して、前記直噴エンジン12の停止過程において前記クランク角度センサ58により継続的に検出されるクランク角度CAに基づいて、上記膨張行程気筒K2の位相が一度でも排気弁開に対応する位相まで進んだか否かを判定する。好適には、上記膨張行程気筒K2の位相が一度でも排気弁開に対応する位相まで進んだ場合には、その膨張行程気筒K2に対する排気の逆流を判定する。ここで、前述のように、前記クランク角度センサ58は、例えば10°毎にクランク角度CAを検出できるように構成されたものであるため、斯かる角度に対応して誤差を加算することが好ましい。本実施例において、前記直噴エンジン12の停止過程とは、好適には、前記エンジン停止制御部76により前記燃料噴射装置46による燃料噴射及び点火装置47による点火が停止された後、前記クランク軸114が正転と逆転とを繰り返す状態となった時点を始点として、その状態が収束して前記クランク軸114が停止した状態となった時点を終点とする。すなわち、前記膨張行程開弁判定部82は、好適には、上記膨張行程気筒K2に関して、前記燃料噴射装置46による燃料噴射及び点火装置47による点火が停止された後、前記クランク軸114が正転と逆転とを繰り返す状態となった時点から、その状態が収束して前記クランク軸114が停止した状態となった時点までの間に、上記膨張行程気筒K2の位相が一度でも排気弁開に対応する位相まで進んだか否かを判定する。
【0029】
図1に戻って、前記着火始動制御部84は、前記ハイブリッド制御部72による前記直噴エンジン12の再始動要求に応答して、前記膨張行程気筒判定部80により膨張行程にあることが判定された気筒100(膨張行程気筒K2)に対して前記燃料噴射装置46による燃料噴射及び点火装置47による点火を行うことで前記直噴エンジン12の始動制御を行う。例えば、図4に示す例において、前記膨張行程気筒判定部80により膨張行程にあることが判定された第2気筒K2内に前記燃料噴射装置46から燃料を噴射し且つ前記点火装置47により点火することにより初爆(第1爆発)を発生させてエンジン回転速度NEの立ち上げを行なうと共に、続いて同様に第3気筒K3内に第2爆発を発生させ、更に第4気筒K4内に第3爆発を発生させてエンジン回転速度NEを更に立ち上げる。すなわち、前記着火始動制御部84は、前記膨張行程気筒判定部80により膨張行程にあることが判定された気筒100において初爆を発生させた後、余の気筒100において順次爆発を発生させることで前記直噴エンジン12を始動する。
【0030】
前記着火始動制御部84は、前記膨張行程気筒判定部80により膨張行程にあることが判定された気筒100に関して、前記膨張行程開弁判定部82によりその気筒100に対応する排気弁108が開弁されたことが判定された場合には、その気筒100に対する前記燃料噴射装置46による燃料噴射及び点火装置47による点火を行うことによる前記直噴エンジン12の始動制御を禁止する。すなわち、前記直噴エンジン12の停止過程で膨張行程気筒K2に対応する排気弁108が開弁されたと判定される場合には、その直噴エンジン12の停止後再始動に際して、少なくともその膨張行程気筒K2に対する前記燃料噴射装置46による燃料噴射を禁止する。換言すれば、前記直噴エンジン12の停止過程で膨張行程気筒K2に対する排気の逆流が判定された場合には、その気筒100に対する前記燃料噴射装置46による燃料噴射及び点火装置47による点火を行うことによる前記直噴エンジン12の始動制御を禁止する。図6の(b)に示すように、前記直噴エンジン12の停止過程で膨張行程気筒K2の位相がオーバーシュートにより排気弁開まで進んだ場合、その膨張行程気筒K2内に排気ガスが流入して酸素濃度が低下する。この場合、斯かる膨張行程気筒K2に対して燃料噴射及び点火を行ったとしても酸素不足で点火に失敗(失火)するおそれが高い。従って、前記直噴エンジン12の停止過程において膨張行程気筒K2に対応する排気弁108が開弁されたことが判定された場合には、その膨張行程気筒K2に対して燃料噴射及び点火を行うことによる直結スタートを禁止することで、前記直噴エンジン12の停止後再始動時における失火によるエミッション悪化を好適に防止できる。
【0031】
前記着火始動制御部84は、好適には、前記膨張行程気筒判定部80により膨張行程にあることが判定された気筒100に関して、クランク軸角度CAがその膨張行程にある気筒100に対して燃料噴射及び点火を行うことによる前記直噴エンジン12の始動すなわち直結スタートを行うのに好適な角度であると判定された場合には、前記膨張行程開弁判定部82による判定結果に基づく前記直結スタートの実行(許可)乃至禁止を行う。好適には、前記膨張行程気筒判定部80により膨張行程にある気筒100に対して燃料噴射及び点火を行うことによる前記直噴エンジン12の始動すなわち直結スタートを行うのに好適な角度ではないと判定された場合には、前記膨張行程開弁判定部82による判定結果によらずその膨張行程気筒100に対して燃料噴射及び点火を行うことによる前記直噴エンジン12の始動を禁止する。或いは、後述する電動機クランキング制御部88を介して前記電動機MGによるトルクアシストを受けつつ行う、前記膨張行程気筒100に対して燃料噴射及び点火を行うことによる前記直噴エンジン12の始動を許可する一方、その膨張行程気筒100に対して燃料噴射及び点火を行うことのみによる前記直噴エンジン12の始動を禁止する。
【0032】
前記エンジン動作判定部86は、前記着火始動制御部84による前記直噴エンジン12の始動制御に際して、その直噴エンジン12の回転が持続しているか否かを判定する。例えば、前記着火始動制御部84による膨張行程気筒K2に対する初爆の後に、前記直噴エンジン12の回転が持続しているか否かを、前記クランク角度センサ58からの信号Φに基づいて判定する。この信号Φはパルス状であるため、例えば50(ms)程度の所定時間内に信号Φが入力したか否かに基づいて判定する。
【0033】
前記電動機クランキング制御部88は、前記電動機MGによる前記直噴エンジン12のクランキングを制御する。すなわち、その直噴エンジン12の始動に際して、前記電動機MGのトルクを制御して前記クランク軸114を回転駆動することによりエンジン回転速度NEを立ち上げる。例えば、前記直噴エンジン12の失火等に起因して、前記エンジン動作判定部86により前記着火始動制御部84による最初の点火操作の後に前記直噴エンジン12の回転が持続していないと判定された場合は直ちにK0クラッチ34を係合させると共に、前記電動機MGによるトルクアシストを行なって前記直噴エンジン12のエンジン回転速度NEを予め設定された自力運転可能回転速度以上まで再上昇させてその直噴エンジン12を再始動させる。
【0034】
前記電動機クランキング制御部88は、前記エンジン動作判定部86により前記着火始動制御部84による初爆の後に前記直噴エンジン12の回転が持続していると判定された場合であっても、例えばそのエンジン回転速度NEが比較的小さく前記電動機MGによるトルクアシストが必要であると判断される場合には、可及的に少ない電気エネルギで前記直噴エンジン12を再始動させるために、初爆により立ち上げられたエンジン回転速度NEの立上がり時点で、或いはその立上がり時からの上昇が継続している立上り区間M内の何れかに位置するタイミングで、前記K0クラッチ34を係合させると共に前記電動機MGによるトルクアシストを行なう。
【0035】
前記電動機クランキング制御部88は、前記直噴エンジン12の始動制御に際して、前記膨張行程開弁判定部82により前記直噴エンジン12の停止過程で膨張行程気筒K2に対応する排気弁108が開弁されたと判定される等して、前記着火始動制御部84により膨張行程にある気筒100に対して燃料噴射及び点火を行うことによる前記直噴エンジン12の始動制御が禁止された場合には、前記K0クラッチ34を係合させると共に前記電動機MGによる前記直噴エンジン12の始動制御を行う。すなわち、前記電動機MGのトルクを制御して前記クランク軸114を回転駆動することによりエンジン回転速度NEを立ち上げ、そのエンジン回転速度NEを予め設定された自力運転可能回転速度NE1に到達するまで、或いは、自律運転可能上昇速度dNE1/dtまで上昇させる電動クランキング制御を行う。
【0036】
前記再始動制御終了判定部90は、前記エンジン始動制御部78による前記直噴エンジン12の始動制御(停止後再始動制御)の終了を判定する。例えば、前記着火始動制御部84の着火始動制御及び前記電動機クランキング制御部88によるK0クラッチ34の係合及び電動機MGによるトルク制御の少なくとも一方により立ち上げられたエンジン回転速度NEが、予め定められた400(rpm)程度の自力運転可能回転速度NE1に到達したか否か、或いは、そのエンジン回転速度NEの変化率(上昇率すなわち上昇速度)dNE/dtが予め設定された自律運転可能上昇速度dNE1/dtに到達したか否かに基づいて、前記直噴エンジン12の再始動制御終了(例えば、電動機MGによるトルクアシスト制御の終了)を判定する。
【0037】
前記SOC判定部92は、前記SOCセンサ60により検出される前記バッテリ44の蓄電量SOCが、前記電動機MGの駆動により前記直噴エンジン12の始動制御を行うための下限値である閾値Sbまで低下したか否かを判定する。この閾値Sbは、例えば、前記電動機クランキング制御部88により前記電動機MGのトルクを制御することで前記直噴エンジン12の始動を行う(自律運転可能速度までエンジン回転速度NEを立ち上げる)ことが可能である最低蓄電量に相当し、前記直噴エンジン12の仕様等に応じて予め定められたものである。
【0038】
前記電動機クランキング制御部88は、好適には、前記着火始動制御部84により前記膨張行程気筒K2に対する燃料噴射が禁止されている場合において、前記SOC判定部92により前記バッテリ44の蓄電量SOCが前記電動機MGにより前記直噴エンジン12を始動するための最低蓄電量Sbまで低下したことが判定された場合には、その時点で前記電動機クランキング制御部88により前記電動機MGの駆動(トルク制御)による前記直噴エンジン12の始動を行う。前記膨張行程気筒K2に対する燃料噴射及び点火によるエンジン始動の禁止時に、前記バッテリ44の蓄電量SOCが前記電動機MGにより前記直噴エンジン12を始動するための最低蓄電量Sb未満となるまでEV走行を続けた場合、前記電動機MGのクランキングにより前記直噴エンジン12の始動を行うことができなくなるが、前記バッテリ44の蓄電量SOCが最低蓄電量Sbに達した時点で前記電動機クランキング制御部88により前記電動機MGの駆動による前記直噴エンジン12の始動を行うことで、その直噴エンジン12の好適な再始動を実現できる。
【0039】
前記閾値Sbは、好適には、前記着火始動制御部84による前記膨張行程気筒K2に対する燃料噴射及び点火による初爆の点火失敗(失火)時における前記電動機MGの始動アシスト力を勘案して定められるものであってもよい。すなわち、前記閾値Sbは、前記着火始動制御部84による前記膨張行程気筒K2に対する燃料噴射及び点火による初爆の点火失敗時に、前記電動機クランキング制御部88により前記電動機MGのトルクを制御することで前記直噴エンジン12の始動を行う(自律運転可能速度までエンジン回転速度NEを立ち上げる)ことが可能である最低蓄電量に相当するものであってもよい。
【0040】
図7は、前記電子制御装置70による本実施例のエンジン停止/再始動制御の要部を説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。
【0041】
先ず、ステップS1(以下、ステップを省略する)において、アクセルオフ、車速零、Dレンジ、ブレーキオン等のアイドルストップ条件が成立したときに出されるエコラン停止要求や、走行中におけるエンジン走行領域からモータ走行領域への切り換え時のエンジン停止要求等、前記直噴エンジン12の駆動(回転)を停止させるエンジン停止要求が有ったか否かが判断される。このS1の判断が否定される場合には、S1の判断が繰り返されることにより待機させられるが、S1の判断が肯定される場合には、S2において、前記直噴エンジン12への燃料供給及び点火が停止させられ、その直噴エンジン12の回転が停止させられると共に、エンジンブレーキを必要とする場合は別として、前記直噴エンジン12の引き摺り抵抗を低減させる必要のあるときは前記K0クラッチ34が解放させられる。このS2の停止過程において、前記クランク角度センサ58により検出されるクランク角度CAが極めて短い所定時間毎に継続的に検出され、前記RAM等に記憶される。
【0042】
次に、S3において、前記クランク角度センサ58からの信号Φに基づいて、前記直噴エンジン12に備えられた複数の気筒100のうち膨張行程にある気筒100が検知される。次に、S4において、S3にて検知された膨張行程にある気筒100に対応して前記RAM等に記憶された、前記直噴エンジン12の停止過程におけるクランク角度CAの推移に基づいて、その直噴エンジン12の停止過程で斯かる膨張行程にある気筒100に対応する排気弁108が開弁されたか否かが検知される。次に、S5において、S4の検知結果に基づいて、前記直噴エンジン12の停止過程で上記膨張行程にある気筒100に対応する排気弁108が開弁されたか否かが判断される。このS5の判断が肯定される場合には、S13以下の処理が実行されるが、S5の判断が否定される場合には、S6以下の処理が実行される。
【0043】
S6においては、アイドルストップ時でのブレーキオフ、モータ走行領域からエンジン走行領域への切り換え等によるエンジン再始動要求が発生したか否かが判断される。このS6の判断が否定される場合には、S6の判断が繰り返されることにより待機させられるが、S6の判断が肯定される場合には、S7において、S3にて検知された膨張行程にある気筒100(例えば、図4に示す第2気筒K2)内に前記燃料噴射装置46からの燃料を噴射し且つ点火装置47により点火することにより初爆(第1爆発)を発生させてエンジン回転速度NEの立ち上げが行なわれると共に、続いて同様に図4に示す第3気筒K3に第2爆発を発生させ、更に図4に示す第4気筒K4に第3爆発を発生させてエンジン回転速度NEが更に立ち上げられる。
【0044】
次に、S8において、初爆後にエンジン回転速度NEが持続して直噴エンジン12が動作しているか否かが、例えば前記クランク角度センサ58により検出されたクランク角度CAが変化(増加)しているか否か、或いはパルス信号Φが前記クランク角度センサ58から供給されるか否かに基づいて判断される。このS8の判断が否定される場合には、S11以下の処理が実行されるが、S8の判断が肯定される場合には、S9において、前記直噴エンジン12が自力(自律)運転可能状態に到達したか否かが判断される。すなわち、前記エンジン回転速度センサ50により検出されるエンジン回転速度NEが予め400rpm程度に設定された自力運転可能回転速度NE1に到達したか否か、或いはそのエンジン回転速度NEの変化率(上昇速度)dNE/dtが予め設定された自律運転可能上昇速度dNE1/dtに到達したか否かが判断される。このS9の判断が否定される場合には、S12以下の処理が実行されるが、S9の判断が肯定される場合には、S10において、前記電動機MGによるトルクアシスト(クランキング)が終了させられて前記直噴エンジン12の再始動時のトルクアシストの終了が行なわれる。すなわち、直噴エンジン12の再始動制御が終了させられた後、本ルーチンが終了させられる。
【0045】
S11においては、例えば50(ms)程度に予め設定された一定の待機時間がS8の否定判断から経過したか否かが判断される。このS11の判断が否定される場合には、S8以下が繰り返し実行されるが、S11の判断が肯定される場合には、S12において、直ちに、前記K0クラッチ34の係合及び前記電動機MGによるトルクアシストが実行されて、その電動機MGのトルクアシストによりエンジン回転速度NEが立ち上げられた後、S9以下の処理が実行される。
【0046】
S13においては、S3にて検知された膨張行程にある気筒100に対する燃料噴射及び点火による前記直噴エンジン12の始動が禁止される。次に、S14において、前記SOCセンサ60により検出される前記バッテリ44の蓄電量SOCが、前記電動機MGの駆動により前記直噴エンジン12の始動制御を行うための下限値である閾値Sbまで低下したか否かが判断される。このS14の判断が否定される場合には、S14の判断が繰り返されることにより待機させられるが、S14の判断が肯定される場合には、S15において、直ちに、前記K0クラッチ34の係合及び前記電動機MGによるトルク制御が実行されて、その電動機MGのトルクによるクランキングによりエンジン回転速度NEが立ち上げられた後、S9以下の処理が実行される。
【0047】
以上の制御において、S1及びS6が前記ハイブリッド制御部72の動作に、S2が前記エンジン停止制御部76の動作に、S3〜S15が前記エンジン始動制御部78の動作に、S3が前記膨張行程気筒判定部80の動作に、S4及びS5が前記膨張行程開弁判定部82の動作に、S7及びS13が前記着火始動制御部84の動作に、S8が前記エンジン動作判定部86の動作に、S12及びS15が前記電動機クランキング制御部88の動作に、S9及びS10が前記再始動制御終了判定部90の動作に、S14が前記SOC判定部92の動作に、それぞれ対応する。
【0048】
このように、本実施例によれば、内燃機関である前記直噴エンジン12の停止過程で膨張行程にある気筒100に対応する排気弁108が開弁された場合には、その直噴エンジン12の再始動時にその膨張行程にある気筒100に対する燃料噴射を禁止するものであることから、前記直噴エンジン12の停止後再始動時において、酸素量不足等により点火の失敗が予想される状態においては前記膨張行程にある気筒100に対する燃料噴射を行わないことで、再始動時の失火によるエミッション悪化を好適に防止できる。すなわち、点火の失敗を抑制して好適な始動を実現する直噴エンジン12の始動制御装置としての電子制御装置70を提供することができる。
【0049】
前記直噴エンジン12は、蓄電装置であるバッテリ44から供給される電気エネルギによりその直噴エンジン12を駆動する電動機MGにK0クラッチ34を介して連結されたものであり、前記膨張行程にある気筒100に対する燃料噴射の禁止時において、前記バッテリ44の蓄電量SOCが前記電動機MGにより前記直噴エンジン12を駆動するための最低蓄電量Sbまで低下した場合には、その時点でその電動機MGの駆動により前記直噴エンジン12の始動を行うものであるため、前記膨張行程にある気筒100に対する燃料噴射が禁止されている状態において、前記直噴エンジン12の始動時におけるショックの発生を好適に抑制できる。
【0050】
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。
【符号の説明】
【0051】
12:直噴エンジン(内燃機関)、44:バッテリ(蓄電装置)、70:電子制御装置(始動制御装置)、100:気筒、108:排気弁、MG:電動機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒内に燃料を直接噴射する形式の内燃機関の停止後再始動時に、膨張行程気筒に対して燃料噴射及び点火を行うことで該内燃機関の始動を行う車両用内燃機関の始動制御装置であって、
前記内燃機関の停止過程で膨張行程気筒に対応する排気弁が開弁された場合には、該内燃機関の再始動時に該膨張行程気筒に対する燃料噴射を禁止することを特徴とする車両用内燃機関の始動制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関は、蓄電装置から供給される電気エネルギにより該内燃機関を駆動する電動機に連結されるものであり、前記膨張行程気筒に対する燃料噴射の禁止時において、前記蓄電装置の蓄電量が前記電動機により前記内燃機関を駆動するための最低蓄電量まで低下した場合には、その時点で該電動機の駆動により前記内燃機関の始動を行うものである請求項1に記載の車両用内燃機関の始動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−87710(P2013−87710A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230204(P2011−230204)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】