説明

車両用前照灯の点灯制御装置、車両用前照灯システム

【課題】先行車や対向車の乗員や歩行者などの道路利用者にまぶしさを与えることを回避し、かつこれらの先行車等の対象物の認識精度を向上させる。
【解決手段】赤外光と可視光を照射可能な車両用前照灯の点灯状態を制御するための装置であって、カメラによって車両の前方を撮影して得られた画像に基づいて画像認識処理を行うことにより車両の前方に存在する対象物を検出する画像認識部と、対象物が存在する位置に対応して前照灯による照射領域の一部を第一領域に割り当て、当該照射領域の残部を第二領域に割り当てる照射領域算出部と、第一領域に赤外光を照射し、第二領域に可視光を照射するように前照灯を駆動する前照灯制御部を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前照灯による照射状態を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
夜間に車両を走行させる際に、運転者は、基本的に前照灯によりロービームを路面に照射させ、必要に応じてハイビームを照射させることにより車両の前方を確認する。しかしながら、いわゆるカットオフラインより上側に光を照射すると、対向車や先行車にグレアを与えるおそれがある。このため近年では、対向車、先行車、歩行者の位置を検出し、これらの存在する位置に光が照射されないようにハイビームの照射パターンを制御し、グレアを抑制する技術が種々提案されている。
【0003】
例えば、特開2010−40528号公報(特許文献1)には、マトリクス状に配列した複数のLEDからなるLEDアレイを用いて、各LEDを個々に制御することにより、可変型のスポットライトを生成する自動車用照明装置が開示されている。
【0004】
また、特開2008−211410号公報(特許文献2)には、画像認識技術を用いて対向車のヘッドライトや先行車のテールライトを検出することにより、これらの先行車等に配慮した的確な配光パターンを実現する技術が開示されている。この先行例では、先行車のヘッドライト等を認識する際にこれらが通常はペアになっていることに着目して画像認識処理を実行することにより、街灯や看板などの光源が誤って車両と認識されることを回避している。
【0005】
ところで、特許文献1の先行例は、カメラで撮影した画像に基づいて対向交通者を認識し、これらの対向交通者にまぶしさを与えないように、LEDアレイの光を部分的にオフまたは減光させる。しかしながら、この場合には光が届かなくなった箇所が暗くなるので対向交通者をカメラで撮像しにくくなり、認識精度が低下するという不都合がある。
【0006】
また、特許文献2の先行例は、先行車のヘッドライト等の特徴を利用して画像認識処理をしているが、街中などの道路環境においては、二輪、四輪の車両、街路灯など多くの発光源が存在するため、これらの発する光の中から先行車や対向車を的確に検出するのは困難である。さらに歩行者については通常は自ら光を発することがないので、歩行者を的確に検出するのは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−40528号公報
【特許文献2】特開2008−211410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明に係る具体的態様は、先行車や対向車の乗員や歩行者などの道路利用者にまぶしさを与えることを回避し、かつこれらの先行車等の対象物の認識精度を向上させることを可能とする技術の提供を目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る一態様の点灯制御装置は、赤外光と可視光を照射可能な車両用前照灯の点灯状態を制御するための装置であって、(a)カメラによって車両の前方を撮影して得られた画像に基づいて画像認識処理を行うことにより前記車両の前方に存在する対象物を検出する画像認識部と、(b)前記対象物が存在する位置に対応して前記前照灯による照射領域の一部を第一領域に割り当て、当該照射領域の残部を第二領域に割り当てる照射領域算出部と、(c)前記第一領域に前記赤外光を照射し、前記第二領域に前記可視光を照射するように前記前照灯を駆動する前照灯制御部を備える。
【0010】
上記の点灯制御装置によれば、歩行者や先行車等の対象物が存在する第一領域には赤外光が照射され、それ以外の第二領域には可視光が照射されるように前照灯を制御するので、歩行者等の道路利用者の認識精度を向上させつつ、道路利用者にまぶしさを与えることを回避することが可能となる。特に、対象物を認識する際に、リアランプやヘッドランプで認識するのではなく、車の形状や特徴を画像でより詳細に検知することが可能となるため認識率が向上する。同様の理由から歩行者の認識率も向上する。
【0011】
上記の点灯制御装置は、前記照射領域算出部により求められた前記第一領域に対応して前記画像の画素値を部分的に補正する画像補正部を更に備えることも好ましい。
【0012】
それにより、可視光と赤外光のエネルギーによる違いと波長によるカメラの感度の違いを調整することができるので、カメラが可視光を受光しても赤外光を受光してもムラのない画像を取得することが可能となる。
【0013】
上記の点灯制御装置により制御される前記前照灯は、例えば、それぞれ規則的に配列された複数の赤外光発光素子及び複数の可視光発光素子を有する。
【0014】
このような構造の前照灯を用いることで、可視光と赤外光を選択的に照射する配光パターンを容易に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】一実施形態の車両用前照灯システムの構成を示すブロック図である。
【図2】ヘッドランプの構成例を示す斜視図である。
【図3】配光パターンの制御について説明するための概念図である。
【図4】車両用前照灯システムの制御内容を示すフローチャートである。
【図5】カメラの感度特性の例を示すグラフである。
【図6】カメラ感度特性について説明する図である。
【図7】画像の画素値の補正方法について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1は、一実施形態の車両用前照灯システムの構成を示すブロック図である。図1に示す車両用前照灯システムは、車両に搭載されたカメラ4によって車両の前方を撮像して得られる画像に基づいて配光パターンを設定して光照射を行うものであり、画像処理部1とヘッドランプ制御部2からなる点灯制御装置と、これにより点灯制御されるヘッドランプ3を含んで構成されている。なお、カメラ4も車両用前照灯システムの構成の一部とされてもよい。
【0018】
画像処理部1は、画像入力部11、画像認識部12および点灯箇所算出部13を有して構成されている。この画像処理部1は、例えばCPU、ROM、RAM等を有するコンピュータシステムにおいて所定の動作プログラムを実行させることにより実現される。
【0019】
画像入力部11は、所定のタイミングでカメラ4から画像(画像データ)を取得する。なお、カメラ4からアナログ信号で画像が入力される場合には、画像入力部11はそのアナログ信号をデジタル信号に変換する処理も行う。また、画像入力部11は、取得した画像の画素値を部分的に補正する画像補正部としての機能も担う。画素値の補正に関する詳細は後述する。
【0020】
画像認識部12は、カメラ4によって車両の前方を撮影して得られた画像に基づいて画像認識処理を行うことにより、車両の前方に存在する対象物を検出する。対象物は、例えば、先行車、対向車、歩行者などである。
【0021】
点灯箇所算出部(照射領域算出部)13は、画像認識部12によって検出された対象物の存在位置に対応して、ヘッドランプによる照射領域の一部を第一領域に割り当て、当該照射領域の残部を第二領域に割り当てる。
【0022】
ヘッドランプ制御部2は、点灯箇所算出部13によって求められた第一領域に赤外光を照射し、第二領域に白色光(可視光)を照射するようにヘッドランプ3を駆動する。
【0023】
ヘッドランプ3は、白色光を放射する白色LEDと赤外光を放射する赤外LEDを有し、これらを用いて赤外光と白色光を照射可能に構成されており、ヘッドランプ制御部2から供給される駆動信号に基づいて光を照射する。
【0024】
図2は、ヘッドランプ3の構成例を示す斜視図である。図2(A)には、複数の白色LEDと複数の赤外LEDを混在させて規則的に配列したLEDデバイスを用いるヘッドランプ3の構成例が示されている。このようなヘッドランプ3については、例えば特許第4503960号公報に詳しく説明されている。図2(B)には、複数の白色LEDを規則的に配列したLEDデバイスと複数の赤外LEDを規則的に配列したLEDデバイスを組み合わせたヘッドランプ3の構成例が示されている。
【0025】
本実施形態の車両用前照灯システムの構成は以上の通りであり、次にその動作について詳細に説明する。
【0026】
図3は、車両用前照灯システムによる配光パターンの制御について説明するための概念図である。図3(A)〜図3(C)はいずれも自車両から見た道路状況とそれに対応した配光パターンが模式的に示されている。図3(A)は、対象物(先行車や歩行者など)が道路上に存在しない場合の配光パターン例である。図示のように対象物が存在しない場合には、ヘッドランプ制御部2は、ヘッドランプ3による照射可能領域の全体に白色光が照射されるようにヘッドランプ3を駆動する。図3(B)は、対象物が道路上に存在する場合の白色光の配光パターン例である。図示のようにヘッドランプ制御部2は、対象物が存在する領域には白色光が照射されず、それ以外の領域に白色光が照射されるようにヘッドランプ3を駆動する。それにより、先行車等の運転者や歩行者などの人間にまぶしさを与えることを回避できる。図3(C)は、対象物が道路上に存在する場合の赤外光の配光パターン例である。図示のようにヘッドランプ制御部2は、対象物が存在する領域(すなわち白色光を照射しない領域)に対して赤外光が照射されるようにヘッドランプ3を駆動する。このように、本実施形態の車両用前照灯システムでは対象物の存在する領域に対応して白色光と赤外光とが相補的に照射される。次に、このような配光制御を実現するための制御内容について図4に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0027】
車両のヘッドランプスイッチがオンとなると(ステップS11)、ヘッドランプ制御部2は、ヘッドランプ3を点灯させる。ヘッドランプ制御部2は、初期状態として例えば白色LEDのみを点灯させ、後述するステップS12〜S20までの処理が1度以上実行された後は、その処理結果に応じて白色LEDと赤外LEDを適宜に点灯させる。
【0028】
次に、画像入力部11は、カメラ4によって撮像された画像を取得し、この画像の画素値を部分的に補正する。具体的には、初期状態では赤外光を照射する第一領域(赤外LED点灯箇所)が定まっていないが、後述するステップS13〜S20までの処理が1度以上実行された後はこの第一領域が定まる。そこで、画像入力部11は、第一領域に対応する画像の画素値に補正係数をかける処理を行う(ステップS12)。この処理は、カメラ4の感度が光の波長によって異なるので、それによる影響を抑えるために行われる。
【0029】
一般的なカメラは、図5に示すように可視光の波長範囲において相対的に感度が高く、紫外光や赤外光の波長範囲において相対的に感度が低いという感度特性を有する。カメラ4は、ヘッドランプ3から出射した光が対象物によって反射され、その光を取り込むことによって撮像している。このとき、カメラ4に受光する光のエネルギーは赤外光と白色光では異なってくる。これはヘッドランプ3から発せられる光のエネルギーに違いがあるためである。このような光のエネルギーの違いと波長によるカメラ4の感度の違いがあるので、それらを調整することにより、カメラ4はムラのない画像を撮像し、出力することが可能となる。
【0030】
例えば、図6に示すように白色LEDと赤外LEDのカメラ感度特性をそれぞれA、Bとし、白色LEDと赤外LEDの光量をそれぞれX、Yとする。このとき、以下のような式が成り立つ。
白色LEDカメラ感度=赤外LEDカメラ感度×感度特性補正値k
ここで、感度特性補正値k=(A×X)/(B×Y)、である。
【0031】
図7は、画像の画素値の補正方法について説明するための図である。図7に示すように、赤外光を照射する第一領域(赤外照射エリア)に対応する画素値(カメラ画素)に上記の感度特性補正値kを乗算する。白色光を照射する第二領域(白色照射エリア)に対応する画素値(カメラ画素)については感度特性補正値kが乗算されない。この処理を画像入力部11において実行する。
【0032】
図4に戻り、画像認識部12は、カメラ4によって撮像され、画像入力部11において上記の補正処理が行われた後の画像に基づいて画像認識処理を実行することにより、先行車の有無を判定する(ステップS13)。先行車が存在する場合には(ステップS13;YES)、画像認識部12はその先行車の位置を検出する(ステップS14)。先行車が存在しない場合(ステップS13;NO)、ステップS14の処理は実行されない。
【0033】
同様に画像認識部12は、カメラ4によって撮像され、画像入力部11において上記の補正処理が行われた後の画像に基づいて画像認識処理を実行することにより、対向車の有無を判定する(ステップS15)。対向車が存在する場合には(ステップS15;YES)、画像認識部12はその対向車の位置を検出する(ステップS16)。対向車が存在しない場合(ステップS15;NO)、ステップS16の処理は実行されない。
【0034】
同様に画像認識部12は、カメラ4によって撮像され、画像入力部11において上記の補正処理が行われた後の画像に基づいて画像認識処理を実行することにより、歩行者の有無を判定する(ステップS17)。歩行者が存在する場合には(ステップS17;YES)、画像認識部12はその歩行者の位置を検出する(ステップS18)。歩行者が存在しない場合(ステップS17;NO)、ステップS18の処理は実行されない。
【0035】
画像認識部12による画像認識処理が実行され、先行車等の対象物の位置が検出されると、その位置情報に用いて点灯箇所算出部13は、対象物が存在する位置に対応してヘッドランプ3による照射領域の一部を第一領域に割り当て、ヘッドランプ3による照射領域の残部を第二領域に割り当てる(ステップS19)。ここでいう第一領域とは赤外LEDを点灯させる箇所であり(図3(C)参照)、第二領域とは白色LEDを消灯させる箇所である(図3(B)参照)。
【0036】
次に、点灯箇所算出部13は、第一領域および第二領域を示す信号をヘッドランプ制御部2へ出力する(ステップS20)。ヘッドランプ制御部2はこの信号に基づいてヘッドランプ3の点灯状態を制御する。それにより、上記した図3に例示したように、対象物の存在する位置に対応した第一領域には赤外光が照射され、対象物の存在しない位置に対応した第二領域には白色光が照射される。
【0037】
以上のように本実施形態によれば、歩行者や先行車等の対象物が存在する第一領域には赤外光が照射され、それ以外の第二領域には可視光が照射されるように前照灯を制御するので、歩行者等の道路利用者の認識精度を向上させつつ、道路利用者にまぶしさを与えることを回避することが可能となる。特に、対象物を認識する際に、リアランプやヘッドランプで認識するのではなく、車の形状や特徴を画像でより詳細に検知することが可能となるため認識率が向上する。同様の理由から歩行者の認識率も向上する。
【0038】
なお、本発明は上述した実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。例えば、上記した実施形態では画像認識処理によって検出する対象物として先行車、対向車並びに歩行者を例示していたが、これら以外のものについても対象物に含めることができる。また、ヘッドランプの構造については、白色光と赤外光を選択的に照射し得る限りにおいて図2に例示したものに限定されない。
【符号の説明】
【0039】
1:画像処理部
2:ヘッドランプ制御部
3:ヘッドランプ
4:カメラ
11:画像入力部(画像補正部)
12:画像認識部
13:点灯箇所算出部(照射領域算出部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外光と可視光を照射可能な車両用前照灯の点灯状態を制御する装置であって、
カメラによって車両の前方を撮影して得られた画像に基づいて画像認識処理を行うことにより前記車両の前方に存在する対象物を検出する画像認識部と、
前記対象物が存在する位置に対応して前記前照灯による照射領域の一部を第一領域に割り当て、当該照射領域の残部を第二領域に割り当てる照射領域算出部と、
前記第一領域に前記赤外光を照射し、前記第二領域に前記可視光を照射するように前記前照灯を駆動する前照灯制御部、
を含む、車両用前照灯の点灯制御装置。
【請求項2】
前記照射領域算出部により求められた前記第一領域に対応して前記画像の画素値を部分的に補正する画像補正部を更に含む、請求項1に記載の車両用前照灯の点灯制御装置。
【請求項3】
前記前照灯は、それぞれ規則的に配列された複数の赤外光発光素子及び複数の可視光発光素子を有する、請求項1又は2に記載の車両用前照灯の点灯制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の車両用前照灯の点灯制御装置と、
前記点灯制御装置によって制御される、赤外光と可視光を照射可能な車両用の前照灯、
を含む、車両用の前照灯システム。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−166652(P2012−166652A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28348(P2011−28348)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】