車両用操舵装置
【課題】直進走行時に接触している箇所のフレッティング摩耗を抑制して耐久性を向上することができる車両用操舵装置を提供すること。
【解決手段】伝達比可変機構が、入力部材20および出力部材の間に介在し両部材の差動回転を許容する中間部材としての内輪391を備える。入力部材20および内輪391の第1の動力伝達面70,71は、操舵角が操舵中心を含む所定の角度範囲内にあるときに互いに嵌合する第1の領域P1,Q1と、第1の領域P1,Q1外の第2の領域P2,Q2とを含む。第1の領域P1,Q1にある第1の凸部651および第1の凹部661の硬さを相対的に硬くした。
【解決手段】伝達比可変機構が、入力部材20および出力部材の間に介在し両部材の差動回転を許容する中間部材としての内輪391を備える。入力部材20および内輪391の第1の動力伝達面70,71は、操舵角が操舵中心を含む所定の角度範囲内にあるときに互いに嵌合する第1の領域P1,Q1と、第1の領域P1,Q1外の第2の領域P2,Q2とを含む。第1の領域P1,Q1にある第1の凸部651および第1の凹部661の硬さを相対的に硬くした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
操舵補助用の電動モータの動力を伝達する歯車間のバックラッシを、操舵中立位置の近傍領域において残りの領域よりも小さくするために、例えば歯の一部を偏倚させて、騒音を低減することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−182013号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一方、車両に装備される伝達比可変機構として、いわゆるコリオリ運動をする機構を用いる場合、車両の走行状態で最も多い直進状態において、互いに噛み合っている部材の噛み合い箇所が早期に摩耗するという問題がある。
本発明は、かかる背景のもとでなされたもので、本発明の目的は、直進走行時に互いに接触している箇所のフレッティング摩耗を抑制して耐久性を向上することができる車両用操舵装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するため、本発明は、操舵部材(2)の操舵角(θ1)に対する車輪(4L,4R)の転舵角(θ2)の比である伝達比を変更可能な伝達比可変機構(5)を備え、この伝達比可変機構は、操舵部材に連結され第1の軸線(A)の回りに回転可能な入力部材(20)と、車輪に連結され第1の軸線の回りに回転可能な出力部材(22)と、入力部材および出力部材の間に介在し両部材の差動回転を許容するように両部材を連結する中間部材(391)と、を含み、中間部材は、第1の軸線に対して傾斜した第2の軸線(B)の回りに回転可能であり、入力部材および中間部材は、互いに嵌合可能な嵌合可能部(651,6510,651A,652,661,6610,661A,662)を有する環状の第1の動力伝達面(70,71)をそれぞれ含み、出力部材および中間部材は、互いに嵌合可能な嵌合可能部(681,682,691,692)を有する環状の第2の動力伝達面(72,73)をそれぞれ含み、第1の動力伝達面および第2の動力伝達面のそれぞれは、操舵角が操舵中心を含む所定の角度範囲内にあるときに互いに嵌合する第1の領域(P1,Q1;U1,W1)と、操舵角が上記所定の角度範囲外にあるときに互いに嵌合する第2の領域(P2,Q2;U2,W2)とを含み、第1の領域にある嵌合可能部(651,6510,651A,661,6610,661A,681,691)が、第2の領域にある嵌合可能部(652,662,682,692)よりも硬くされていることを特徴とするものである。
【0005】
本発明によれば、直進走行時に嵌合する第1の領域の嵌合可能部を相対的に硬くしてあるので、微小振動によるフレッティング摩耗の発生を抑えることができる。
上記第1の領域の嵌合可能部の材質および第2の領域の嵌合可能部の材質が互いに異なっていることが好ましく(請求項2)、具体的には、上記第1の領域の嵌合可能部はセラミックスを含む場合がある(請求項3)。セラミックスであれば、硬度が高いので、フレッティング摩耗を格段に低減することができる。セラミックスとしては、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、アルミナを例示することができる。
【0006】
また、上記第1の領域の嵌合可能部の嵌合力が第2の領域の嵌合可能部の嵌合力よりも大きくされている場合がある(請求項4)。この場合、嵌合のがたつきを抑えることにより、フレッティング摩耗をより低減することができる。
具体的には、上記第1の動力伝達面および第2の動力伝達面の少なくとも一方の嵌合可能部は、互いに嵌合する凸部および凹部を含み、第1の領域の凸部(651,651A,)および第1の領域の凹部(661,661A)の嵌合が、第2の領域の凸部(652)および第2の領域の凹部(662)の嵌合よりも強い嵌合となるように、第1の領域の凸部(651A)を第2の領域の凸部(652)よりも大きくするか、または第1の領域の凹部(661A)を第2の領域の凹部(662)よりも小さくするかの少なくとも一方とされている場合がある(請求項5)。
【0007】
また、上記凸部はころ部材(311A,312)により形成され、第1の領域の凸部を形成するころ部材(311A)の径(R1)が、第2の領域の凸部(652)を形成するころ部材(312)の径(R2)よりも大きくされている場合がある(請求項6)。この場合、製造が容易である。
なお、上記において、括弧内の参照符号は、後述する実施の形態における対応構成要素の参照符号を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の好ましい実施の形態を添付図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の一実施の形態にかかる伝達比可変機構を備える車両用操舵装置1の概略構成を示す模式図である。図1を参照して、車両用操舵装置1は、ステアリングホイール等の操舵部材2に付与された操舵トルクを、操舵軸としてのステアリングシャフト3等を介して左右の転舵輪4L,4Rのそれぞれに与えて転舵を行う。車両用操舵装置1は、操舵部材2の操舵角θ1に対する転舵輪の転舵角θ2の比としての伝達比θ2/θ1を変更することのできるVGR(Variable Gear Ratio )機能を有している。
【0009】
車両用操舵装置1は、操舵部材2と、操舵部材2に連なるステアリングシャフト3とを有している。ステアリングシャフト3は、互いに同軸上に配置された第1〜第3の軸としての第1〜第3のシャフト11〜13を含んでいる。第1〜第3のシャフト11〜13の中心軸線としての第1の軸線Aは、当該第1〜第3のシャフト11〜13の回転軸線でもある。
【0010】
第1のシャフト11の一端に操舵部材2が同行回転可能に連結されている。第1のシャフト11の他端と第2のシャフト12の一端とは、伝達比可変機構5を介して差動回転可能に連結されている。第2のシャフト12の他端と第3のシャフト13の一端とは、トーションバー14を介して所定の範囲内で弾性的に相対回転可能且つ動力伝達可能に連結されている。
【0011】
第3のシャフト13の他端は、自在継手7、中間軸8、自在継手9および転舵機構10等を介して、転舵輪4L,4Rと連なっている。
転舵機構10は、自在継手9に連なるピニオン軸15と、ピニオン軸15の先端のピニオン15aに噛み合うラック16aを有し車両の左右方向に延びる転舵軸としてのラック軸16とを有している。ラック軸16の一対の端部のそれぞれにタイロッド17L,17Rを介してナックルアーム18L,18Rが連結されている。
【0012】
上記の構成により、操舵部材2の回転は、ステアリングシャフト3等を介して転舵機構10に伝達される。転舵機構10では、ピニオン15aの回転がラック軸16の軸方向の運動に変換される。ラック軸16の軸方向の運動は、各タイロッド17L,17Rを介して対応するナックルアーム18L,18Rに伝えられ、これらのナックルアーム18L,18Rがそれぞれ回動する。これにより、各ナックルアーム18L,18Rに連結された対応する転舵輪4L,4Rがそれぞれ操向する。
【0013】
伝達比可変機構5は、ステアリングシャフト3の第1および第2のシャフト11,12間の回転伝達比(伝達比θ2/θ1)を変更するためのものであり、ニューテーションギヤ機構とされている。この伝達比可変機構5は、第1のシャフト11の他端に設けられた入力部材20と、第2のシャフト12の一端に設けられた出力部材22と、入力部材20と出力部材22との間に介在する軌道輪ユニット39と、を含んでいる。
【0014】
入力部材20は、操舵部材2および第1のシャフト11とは同軸的に且つ同行回転可能に連結されており、出力部材22は、第2のシャフト12とは同軸的に且つ同行回転可能に連結されている。第1の軸線Aは、入力部材20および出力部材22の中心軸線および回転軸線でもある。出力部材22は、第2のシャフト12や転舵機構10等を介して転舵輪4L,4Rに連なっている。
【0015】
上記の軌道輪ユニット39は、中間部材を提供する第1の軌道輪としての内輪391と、第2の軌道輪としての外輪392と、内輪391および外輪392間に介在する玉等の転動体393とを含んで4点接触軸受を構成している。転動体393としては、円筒ころ、針状ころ、円錐ころでも良い。また単列または複列でも良い。複列にすると、内輪391の倒れを防止できる。複列のものとして、複列アンギュラ軸受を例示できる。
【0016】
内輪391は、入力部材20と出力部材22とを差動回転可能に連結する中間部材として機能する。内輪391と外輪392は、第1の軸線Aに対して傾斜する中心軸線としての第2の軸線Bを有している。内輪391は、転動体393を介して第2の軌道輪としての外輪392に回転可能に支持されていることにより、第2の軸線Bの回りを回転可能であり、また、外輪392を駆動するためのアクチュエータとしての電動モータである伝達比可変機構用モータ23が駆動されることに伴い、第1の軸線Aの回りを回転可能である。内輪391および外輪392は、第1の軸線A回りにコリオリ運動(首振り運動)可能である。
【0017】
伝達比可変機構用モータ23は、軌道輪ユニット39の第1の軸線Aを中心とする径方向外方に配置されている。伝達比可変機構用モータ23は、第1の軸線A回りに関する外輪392の回転数を変更することにより、伝達比θ2/θ1を変更する。
伝達比可変機構用モータ23は、例えば、ステアリングシャフト3とは同軸的に配置されたブラシレスモータからなり、軌道輪ユニット39を保持するロータ231と、このロータ231を取り囲むとともにステアリングコラムとしてのハウジング24に固定されたステータ232とを含んでいる。ロータ231は、第1の軸線Aの回りを回転するようになっている。
【0018】
車両用操舵装置1は、ステアリングシャフト3に操舵補助力を付与するための操舵補助力付与機構19を備えている。操舵補助力付与機構19は、伝達比可変機構5の出力部材22に連なる入力軸としての上記第2のシャフト12と、転舵機構10に連なる出力軸としての上記第3のシャフト13と、第2のシャフト12と第3のシャフト13との間に伝達されるトルクを検出する後述のトルクセンサ44と、操舵補助用のアクチュエータとしての操舵補助用モータ25と、操舵補助用モータ25と第3のシャフト13との間に介在する減速機構26とを含んでいる。
【0019】
操舵補助用モータ25は、ブラシレスモータ等の電動モータからなる。この操舵補助用モータ25の出力は、減速機構26を介して第3のシャフト13に伝達されるようになっている。
減速機構26は、例えばウォームギヤ機構からなり、操舵補助用モータ25の出力軸25aに連結された駆動歯車としてのウォーム軸27と、ウォーム軸27と噛み合い且つ第3のシャフト13に同行回転可能に連結された従動歯車としてのウォームギヤ28とを含んでいる。なお、減速機構26は、ウォームギヤ機構に限らず、平歯車やはすば歯車を用いた平行軸歯車機構等の他の歯車機構を用いてもよい。
【0020】
上記伝達比可変機構5および操舵補助力付与機構19は、ハウジング24に設けられており、このハウジング24内に収容されている。ハウジング24は、車両の乗員室(キャビン)内に配置されている。なお、ハウジング24を、中間軸8を取り囲むように配置してもよいし、車両のエンジンルーム内に配置してもよい。
上記伝達比可変機構用モータ23および操舵補助用モータ25の駆動は、それぞれ、CPU、RAMおよびROMを含む制御部29によって制御される。制御部29は、駆動回路40を介して伝達比可変機構用モータ23と接続されているとともに、駆動回路41を介して操舵補助用モータ25と接続されている。
【0021】
制御部29には、操舵角センサ42、伝達比可変機構用モータ23の回転角を検出するための回転角検出手段としてのモータレゾルバ43、トルク検出手段としてのトルクセンサ44、転舵角センサ45、車速センサ46およびヨーレートセンサ47がそれぞれ接続されている。
各センサ42〜47からの信号が、制御部29に入力される。具体的には、操舵角センサ42からは、操舵部材2の直進位置からの操作量である操舵角θ1に対応する値として、第1のシャフト11の回転角についての信号が入力される。また、モータレゾルバ43からは、伝達比可変機構用モータ23のロータ231の回転角θrについての信号が入力される。
【0022】
トルクセンサ44からは、操舵部材2に作用する操舵トルクTに対応する値として、第2および第3のシャフト12,13間に作用するトルクについての信号が入力される。転舵角センサ45からは、転舵角θ2に対応する値として第3のシャフト13の回転角についての信号が入力される。車速センサ46からは、車速Vについての信号が入力される。ヨーレートセンサ47からは、車両のヨーレートγについての信号が入力される。
【0023】
制御部29は、各上記センサ42〜47から入力した信号等に基づいて、伝達比可変機構用モータ23および操舵補助用モータ25の駆動を制御する。
上記の構成により、伝達比可変機構5の出力は、操舵補助力付与機構19を介して転舵機構10に伝達される。より具体的には、操舵部材2に入力された操舵トルクは、第1のシャフト11を介して伝達比可変機構5の入力部材20に入力され、出力部材22から操舵補助力付与機構19の第2のシャフト12に伝達される。第2のシャフト12に伝達された操舵トルクは、トーションバー14および第3のシャフト13に伝わり、操舵補助用モータ25からの出力と合わさって中間軸8等を介して転舵機構10に伝達される。
【0024】
図2は、図1の要部のより具体的な構成を示す断面図である。図2を参照して、ハウジング24は、例えば、アルミニウム合金等の金属を筒状に形成してなるものであり、第1〜第3のハウジング51〜53を含んでいる。このハウジング24内には、第1〜第8の軸受31〜38が収容されている。第1〜第5の軸受31〜35および第7〜第8の軸受37〜38は、それぞれ、アンギュラ玉軸受等の転がり軸受であり、第6の軸受36は、針状ころ軸受等の転がり軸受である。
【0025】
第1のハウジング51は筒状をなしており、差動機構としての伝達比可変機構5を収容する差動機構ハウジングを構成しているとともに、伝達比可変機構用モータ23を収容するモータハウジングを構成している。第1のハウジング51の一端は、端壁54によって覆われている。第1のハウジング51の一端と端壁54とは、ボルト等の締結部材55を用いて互いに固定されている。第1のハウジング51の他端の内周面56に、第2のハウジング52の一端の環状凸部57が嵌合されている。これら第1および第2のハウジング51,52は、ボルト等の締結部材(図示せず)を用いて互いに固定されている。
【0026】
第2のハウジング52は筒状をなしており、トルクセンサ44を収容するセンサハウジングと、モータレゾルバ43を収容するレゾルバハウジングとを構成している。また、第2のハウジング52は、伝達比可変機構用モータ23の後述するバスバー99と、伝達比可変機構用モータ23のロータ231をロックするためのロック機構58とを収容している。第2のハウジング52の他端の外周面59に、第3のハウジング53の一端の内周面60が嵌合している。
【0027】
第3のハウジング53は、筒状をなしており、減速機構26を収容する減速機構ハウジングを構成している。第3のハウジング53の他端には端壁部61が設けられている。端壁部61は環状をなしており、第3のハウジング53の他端を覆っている。
図3は、図2の伝達比可変機構5およびその周辺の拡大図である。図3を参照して、伝達比可変機構5の入力部材20、出力部材22および内輪391は、それぞれ、環状をなしている。
【0028】
入力部材20は、入力部材本体201と、入力部材本体201の径方向内方に配置され入力部材本体201と同行回転可能に連結された筒状部材202とを含んでいる。
第1のシャフト11は、筒状部材202の挿通孔202aを挿通することにより、筒状部材202と同行回転可能に連結されている。
第2のシャフト12は、出力部材22の挿通孔22aを挿通することにより、出力部材22と同行回転可能に連結されている。
【0029】
第1のシャフト11と第2のシャフト12の互いの対向端部11a,12aは、支持機構133によって同軸的に且つ相対回転可能に支持されている。支持機構133は、上記の筒状部材202と、第8の軸受38とを含んでいる。すなわち、筒状部材202は、入力部材20の一部を構成するとともに、支持機構133の一部を構成している。
筒状部材202は、第1および第2のシャフト11,12のそれぞれの対向端部11a,12aを取り囲んでいる。筒状部材202の一端は、第1の軸受31と径方向に対向している。筒状部材202の他端は、第2のシャフト12の対向端部12aと径方向に対向している。
【0030】
筒状部材202の他端に軸受保持孔109が形成されており、この軸受保持孔109に、第2のシャフト12の対向端部12aが挿通されている。第2のシャフト12の対向端部12aと軸受保持孔109との間に第8の軸受38が介在しており、筒状部材202と第2のシャフト12の相対回転を許容している。
なお、筒状部材202を第2のシャフト12の対向端部12aに同行回転可能に連結するとともに、第8の軸受38を、筒状部材202と第1のシャフト11の対向端部11aとの間に介在させてもよい。
【0031】
中間部材としての内輪391は、筒状部材202の径方向外方に配置されている。外輪392は、伝達比可変機構用モータ23のロータ231の内周部233に形成された傾斜孔63に同行回転可能に保持されている。外輪392およびロータ231は、第1の軸線Aの回りを同行回転する。傾斜孔63は、第2の軸線Bを中心軸線としている。ロータ231が第1の軸線Aの回りを回転することに伴い、軌道輪ユニット39がコリオリ運動する。
【0032】
なお、軌道輪ユニット39の外輪392が入力部材20および出力部材22を差動回転可能に連結するとともに、内輪391が伝達比可変機構用モータ23のロータ231と同行回転可能に連結されるようにしてもよい。この場合、軌道輪ユニット39は、内輪支持型となる。
図4は、伝達比可変機構5の一部を断面で表した側面図である。図3および図4を参照して、入力部材本体201および内輪391は、互いにステアリングシャフト3の軸方向Sに対向する環状の第1の動力伝達面70,71を有している。入力部材本体201の第1の動力伝達面70には、嵌合可能部としての第1の凸部651,652が設けられ、中間部材としての内輪391の端面からなる第1の動力伝達面71には、嵌合可能部としての第1の凹部661,662が設けられている。第1の凸部651,652と第1の凹部661,662とが噛み合うことにより、入力部材本体201と内輪391とは動力伝達可能とされている。
【0033】
また、図4参照して、出力部材22および内輪391は、互いにステアリングシャフト3の軸方向Sに対向する環状の第2の動力伝達面72,73を有している。図4および図11を参照して、出力部材22の第2の動力伝達面72には、嵌合可能部としての第2の凸部681,682が設けられ、中間部材としての内輪391の他端面からなる第2の動力伝達面73には、嵌合可能部としての第2の凹部691,692が設けられている。第2の凸部681,682と第2の凹部691,692とが噛み合うことにより、出力部材22と内輪391とは動力伝達可能とされている。
【0034】
図5を参照して、入力部材本体201の環状の第1の動力伝達面70には、第1の動力伝達面70の径方向に延びる複数の溝301が放射状に配列されて第1の動力伝達面70の周方向に等間隔に並んでいる。各溝301にそれぞれ円錐状(円柱状であってもよい)のころ部材311,312が嵌合されている。各ころ部材311,312の半部は、溝301から突出しており、その突出する半部によって、第1の凸部651,652が構成されている。
【0035】
一方、内輪391の環状の第1の動力伝達面71には、第1の動力伝達面71の径方向に延びる複数の第1の凹部661,662が放射状に配列されて第1の動力伝達面71の周方向に等間隔に並んでいる。第1の凸部651,652と第1の凹部661,662とは、概ね等しい形状とされている。
図6Aに示すように、第1の凸部651,652は、第1の動力伝達面70の周方向に等間隔に配置され、図6Bに示すように、第1の凹部661,662は、第1の動力伝達面71の周方向に等間隔に配置されている。各第1の動力伝達面70,71は、操舵角が操舵中心を含む所定の角度範囲内にあるときに互いに嵌合する第1の領域P1,Q1と、操舵角が上記所定の角度範囲外にあるときに互いに嵌合する第2の領域P2,Q2とを含んでいる。
【0036】
第1の動力伝達面70の第1の領域P1の中央P10と第1の動力伝達面71の第1の領域Q1の中央Q10とは、操舵角が操舵中心にあるときに互いに位相が合うようになっている。
第1の動力伝達面70において、第1の領域P1にある第1の凸部651(例えば3〜5個)が、第2の領域P2にある第1の凸部652よりも硬くされている。そのために、第1の領域P1にある第1の凸部651を構成するためのころ部材311としては、相対的に硬度の高い材料が用いられており、第2の領域P2にある第1の凸部652を構成するためのころ部材312としては、相対的に硬度の低い材料が用いられている。ころ部材311としてセラミックスを用いる場合、ころ部材312としては、セラミックスよりも低硬度の、例えば軸受鋼、ステンレス鋼を用いることができる。セラミックスとしては、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、アルミナを例示することができる。ころ部材311,312としては、図5に示すように、入力部材20の径方向内方に向かうにしたがって縮径された円錐ころであってもよいし、円筒ころであってもよい。
【0037】
また、第1の動力伝達面71において、第1の領域Q1にある第1の凹部661(例えば3〜5個)が、第2の領域Q2にある第2の凹部662よりも硬くされている。そのために、内輪391が、内輪本体391Aと高硬度部材391Bとを組み合わせて構成されている。高硬度部材391Bとしては、相対的に硬度の高い材料が用いられており、内輪本体391Aとしては、相対的に硬度の低い材料が用いられている。高硬度部材391Bとして、セラミックスが用いられる場合には、内輪本体391Aとしては、セラミックスよりも低硬度の、例えば軸受鋼、ステンレス鋼を用いることができる。セラミックスとしては、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、アルミナを例示することができる。
【0038】
第1の動力伝達面71において、高硬度部材391Bが第1の領域Q1を構成しており、その高硬度部材391Bに形成された第1の領域Q1の第1の凹部661が、第1の動力伝達面71において内輪本体391Aにより構成された第2の領域Q2の第1の凹部662よりも硬くされている。
第1の凸部651,652の合計数は、例えば38個である。第1の凹部661,662の合計数は、第1の凸部651,652の合計数とは異なる数にされている。第1の凸部651,662の合計数と第1の凹部661,662の合計数との差に応じて、入力部材本体201と内輪391との間で差動回転を発生することができる。
【0039】
内輪391の第2の軸線Bが入力部材20の第1の軸線Aに対して所定角度θ傾斜していることにより、第1の凸部651,652のうちの一部の第1の凸部のみと第1の凹部661,662のうちの一部の第1の凹部のみとが互いに噛み合うようになっている。例えば、車両の直進走行状態では、図7に示すように、ともに高硬度の第1の凸部651と第1の凹部661とが互いに噛み合う。
【0040】
図5および図7では、溝301および第1の凹部661,662の形状を簡略化して示してあるが、実際には、図8に示すように、溝301および第1の凹部661の断面形状は、ゴシックアーク形状(半径が同じで中心が異なる二つの円弧が連結された形状)に形成されている。この場合、第1の凸部651を構成するころ部材311が溝301および第1の凹部661で四点接触状態で支持される。
【0041】
また、溝301の底および第1の凹部661の底に、例えば溝からなるグリース溜まり部800が設けられている。この場合、ころ部材311と溝301および第1の凹部661との接触領域に対して、グリース溜まり部800からグリースを潤沢に供給することができ、接触領域の摩耗や焼き付きを長期にわたって防止することができる。グリース溜まり部800は、上記の接触領域を避けた位置であれば、形状、深さ等を任意に設定して設けることができる。また、図示していないが、第1の凹部662に関しても第1の凹部661と同じ構成が採用されている。
【0042】
図9を参照して、出力部材22の環状の第2の動力伝達面72には、第2の動力伝達面72の径方向に延びる複数の溝302が放射状に配列されて第2の動力伝達面72の周方向に等間隔に並んでいる。各溝302にそれぞれ円錐状(円柱状であってもよい)のころ部材321,322が嵌合されている。各ころ部材321,322の半部は、溝302から突出しており、その突出する半部によって、第2の凸部681,682が構成されている。
【0043】
一方、内輪391の環状の第2の動力伝達面73には、第2の動力伝達面73の径方向に延びる複数の第2の凹部691,692が放射状に配列されて第2の動力伝達面73の周方向に等間隔に並んでいる。第2の凸部681,682と第2の凹部691,692とは、概ね等しい形状とされている。
図10Aに示すように、第2の凸部681,682は、第2の動力伝達面72の周方向に等間隔に配置され、図10Bに示すように、第2の凹部691,692は、第2の動力伝達面73の周方向に等間隔に配置されている。各第2の動力伝達面72,73は、操舵角が操舵中心を含む所定の角度範囲内にあるときに互いに嵌合する第1の領域U1,W1と、操舵角が上記所定の角度範囲外にあるときに互いに嵌合する第2の領域U2,W2とを含んでいる。
【0044】
第2の動力伝達面72の第1の領域U1の中央U10と第2の動力伝達面73の第1の領域W1の中央W10とは、操舵角が操舵中心にあるときに互いに位相が合うようになっている。
第2の動力伝達面72において、第1の領域U1にある第2の凸部681(例えば3〜5個)が、第2の領域U2にある第2の凸部682よりも硬くされている。そのために、第1の領域U1にある第2の凸部681を構成するためのころ部材321としては、相対的に硬度の高い材料が用いられており、第2の領域U2にある第2の凸部682を構成するためのころ部材322としては、相対的に硬度の低い材料が用いられている。ころ部材321としてセラミックスが用いられる場合、ころ部材322としては、セラミックスよりも低硬度の、例えば軸受鋼、ステンレス鋼を用いることができる。セラミックスとしては、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、アルミナを例示することができる。ころ部材321,322としては、図9に示すように、出力部材22の径方向内方に向かうにしたがって縮径された円錐ころであってもよいし、円筒ころであってもよい。
【0045】
また、第2の動力伝達面73において、第1の領域W1にある第2の凹部691(例えば3〜5個)が、第2の領域W2にある第2の凹部692よりも硬くされている。そのために、内輪391が、内輪本体391Aと高硬度部材391Cとを組み合わせて構成されている。高硬度部材391Cとしては、相対的に硬度の高い材料が用いられており、内輪本体391Aとしては、相対的に硬度の低い材料が用いられている。具体的には、高硬度部材391Cとして、セラミックスが用いられる場合には、内輪本体391Aとしては、セラミックスよりも低硬度の、例えば軸受鋼、ステンレス鋼を用いることができる。
【0046】
第2の動力伝達面73において、高硬度部材391Cが第1の領域W1を構成しており、その高硬度部材391Cに形成された第1の領域W1の第2の凹部691が、第2の動力伝達面73において内輪本体391Aにより構成された第2の領域W2の第2の凹部692よりも硬くされている。
第2の凸部681,682の合計数と第2の凹部691,692の合計数との関係は、例えば38と40のように互いに異ならせていてもよいし、また、互いに同じにされていてもよい。
【0047】
内輪391の第2の軸線Bが出力部材22の第1の軸線Aに対して所定角度θ傾斜していることにより、第2の凸部681,682のうちの一部の第2の凸部のみと第2の凹部691,692のうちの一部の第2の凹部のみとが互いに噛み合うようになっている。例えば、車両の直進走行状態では、図11に示すように、ともに高硬度の第2の凸部681と第2の凹部691とが互いに噛み合う。
【0048】
図9および図11では、溝302および第2の凹部691,692の形状を簡略化して示してあるが、実際には、図8に示した溝301および第1の凹部661の断面形状と同じゴシックアーク形状に形成され、また、グリース溜まり部800が設けられている。
上記の第1の領域P1,U1のころ部材311、321や高硬度部材391B,391Cに用いるセラミックスとしては、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ジルコニア、アルミナを例示することができる。
【0049】
再び図3を参照して、伝達比可変機構用モータ23のロータ231は、軸方向Sに延びる筒状のロータコア85と、ロータコア85の外周面に固定された永久磁石86とを含んでいる。ロータコア85の径方向内方には、伝達比可変機構5と、トルクセンサ44とが収容されている。ロータコア85によって、伝達比可変機構5の、第1の凸部651,652および第1の凹部661,662並びに第2の凸部681,682および第2の凹部691,692の双方が全周に亘って取り囲まれているとともに、トルクセンサ44が全周に亘って取り囲まれている(図3では、第1の凸部651、第1の凹部661、第2の凸部681および第2の凹部691のみを示してある。)。ロータコア85内に伝達比可変機構5やトルクセンサ44を収容することにより、軸方向Sに関するハウジング24の長さを短くでき、その結果、車両の二次衝突の衝撃を吸収するための衝撃吸収ストロークを長く確保できる。また、ハウジング24に隣接して設けられるチルト・テレスコピック機構(図示せず)の配置スペースを確保することができる。
【0050】
ロータコア85の材質は、鋼材、アルミニウム合金、クラッド材、樹脂材を例示できる。複数種の金属を張り合わせた複合材であるクラッド材を用いた場合は、共振を抑制できる。ロータコア85の少なくとも一部に樹脂材を用いた場合には、軽量化によりロータ慣性を低減できる。
ロータコア85の一端には、被保持孔87が形成されている。この被保持孔87の径方向内方には、環状の軸受保持部88が設けられている。軸受保持部88は、第1のハウジング51の一端の内周側に形成された環状凸部89に配置されている。これらの被保持孔87と軸受保持部88との間に第2の軸受32が介在していることにより、ロータコア85の一端が第1のハウジング51に回転可能に支持されている。
【0051】
ロータコア85の中間部には、被保持孔90が形成されている。この被保持孔90の径方向内方には、環状の軸受保持部91が設けられている。軸受保持部91は、第2のハウジング52の一端の内周側に形成された環状の延伸部92に配置されている。環状の延伸部92は、第2のハウジング52の他端に設けられた隔壁部93から、軸方向Sの一方S1側に延びる筒状をなしており、ロータコア85を挿通している。
【0052】
上記の被保持孔90と軸受保持部91との間に、第4の軸受34が介在していることにより、ロータコア85の中間部が第2のハウジング52の環状の延伸部92に回転可能に支持されている。軌道輪ユニット39をロータ231の軸方向に挟んで配置された一対の軸受としての第2および第4の軸受32,34によって、ロータコア85が両持ち支持されている。
【0053】
ロータ231の永久磁石86は、ステアリングシャフト3の周方向C3に交互に異なる磁極を有しており、周方向C3に関して、N極とS極とが交互に等間隔に配置されている。永久磁石86は、ロータコア85の中間部の外周面に固定されている。永久磁石86と伝達比可変機構5の一部とは、軸方向Sに関する位置が互いに重ね合わされている。
伝達比可変機構用モータ23のステータ232は、第1のハウジング51の他端に形成された環状の第1の溝部94内に収容されている。この第1の溝部94は、軸方向Sの他方S2側に開放されている。
【0054】
ステータ232は、電磁鋼板を複数積層してなるステータコア95と、電磁コイル96とを含んでいる。
ステータコア95は、円環状のヨーク97と、ヨーク97の周方向に等間隔に配置され且つヨーク97の径方向内方に突出する複数のティース98と、を含んでいる。ヨーク97の外周面は、第1のハウジング51の第1の溝部94の内周面に焼きばめ等によって固定されている。各ティース98のそれぞれに電磁コイル96が巻回されている。
【0055】
ステータ232に対して軸方向Sの他方S2側にバスバー99が配置されている。バスバー99は全体として環状をなした状態で第2のハウジング52に収容されており、伝達比可変機構用モータ23の各電磁コイル96に接続されている。このバスバー99は、駆動回路からの電力を各電磁コイル96に供給する。バスバー99と第3および第4の軸受33,34の一部とは、軸方向Sに関する位置が重ね合わされている。
【0056】
バスバー99に対して軸方向Sの他方S2側にロック機構58が配置されている。ロック機構58は、伝達比可変機構用モータ23のロータ231の回転を規制するためのものであり、第2のハウジング52の一端に収容されている。
ロック機構58は、ロータコア85とは同行回転可能に連結された被規制部100と、被規制部100に係合することにより被規制部100の回転を規制するための規制部101とを含んでいる。被規制部100は環状の部材であり、外周面に凹部102が形成されている。凹部102は、被規制部100の周方向に関して1箇所または複数箇所に形成されている。なお、ロータコア85に凹部102を設けてもよい。この場合、ロータコア85が上記の被規制部を構成する。被規制部100の一部は、トルクセンサ44の一部とは軸方向Sの位置が重ね合わされている。
【0057】
規制部101は、被規制部100とは当該被規制部100の径方向に相対向して配置されている。この規制部101は、第2のハウジング52に保持されており、被規制部100側に移動可能となっている。規制部101が被規制部100側に移動して凹部102に係合することにより、ロータコア85の回転が規制される。
ロック機構58に対して軸方向Sの他方S2側にモータレゾルバ43が配置されている。モータレゾルバ43は、第2のハウジング52の他端に形成された第2の溝部103に収容されており、ロータコア85の径方向外方に位置している。
【0058】
第2の溝部103は、第2のハウジング52の一端の環状の外周部104と、環状の延伸部92とによって区画された環状の溝であり、第1の溝部94と連通している。これら第1および第2の溝部94,103によって、伝達比可変機構用モータ23、ロック機構58およびモータレゾルバ43を収容する収容空間139が区画されている。
モータレゾルバ43とトルクセンサ44とは、ステアリングシャフト3の径方向R3に相対向している。モータレゾルバ43の一部とトルクセンサ44の一部とは、軸方向Sに関する位置が重ね合わされている。モータレゾルバ43は、レゾルバロータ105とレゾルバステータ106とを含んでいる。レゾルバロータ105は、ロータコア85の他端の外周面107に同行回転可能に固定されている。レゾルバステータ106は、第2のハウジング52の外周部104の内周面108に圧入固定されている。
【0059】
第1の軸受31は、入力部材20を回転可能に支持している。第1のシャフト11は、入力部材20の筒状部材202および第1の軸受31を介して第1のハウジング51に回転可能に支持されている。第1の軸受31は、第2の軸受32に取り囲まれており、軸方向Sに関して両者の位置が重ね合わされている。
第3の軸受33は、第2のハウジング52の延伸部92の先端の内周部に形成された軸受保持孔110と、出力部材22に形成された軸受保持部111との間に介在している。出力部材22は、第3の軸受33を介して第2のハウジング52の環状の延伸部92に回転可能に支持されている。第3の軸受33は、第4の軸受34に取り囲まれており、軸方向Sに関して両者の位置が重ね合わされている。
【0060】
第1の凸部651,652および第1の凹部661,662の間、並びに第2の凸部681,682および第2の凹部691,692の間には、それぞれ、予圧が付与されており、これにより、第1の凸部651,652と第1の凹部661,662との滑らかな係合、および第2の凸部681,682と第2の凹部691,692との滑らかな係合がそれぞれ可能となっている。
【0061】
具体的には、第1のハウジング51の一端の内周部112にねじ部材113が配置されている。ねじ部材113は、入力部材本体201を出力部材22に近づける付勢方向H(軸方向Sの他方S2側)に入力部材本体201を付勢する付勢部材を構成している。また、このねじ部材113は、軸方向Sに関して第1の軸受31の外輪312を剛的に支持する剛性部材を構成している。ねじ部材113は、入力部材本体201を出力部材22に向けて付勢することにより、第1の凸部651,652および第1の凹部661,662の間、並びに第2の凸部681,682および第2の凹部691,692の間のそれぞれに予圧を付与する。
【0062】
ねじ部材113の外周面に形成された雄ねじ部113aが、第1のハウジング51の一端の環状凸部89の内周に形成された軸受保持孔134の雌ねじ部134aに螺合している。これにより、ねじ部材113は、第1のハウジング51の軸受保持孔134に保持された第1の軸受31の外輪312の一端面を付勢方向Hに付勢(押圧)している。第1の軸受31の外輪312は、軸受保持孔134に対して回転可能且つ軸方向Sに相対移動可能とされている。ねじ部材113に隣接してロックナット135が設けられている。ロックナット135は、雌ねじ部134aに螺合した状態でねじ部材113の回転を規制している。
【0063】
第1の軸受31の内輪311は、筒状部材202の一端に圧入等されることにより同行回転可能に連結されており、この筒状部材202を介して、入力部材本体201とは同行回転可能且つ軸方向Sに同行移動可能とされている。この内輪311は、入力部材本体201の一端部に当接しており、入力部材本体201を付勢方向Hに押圧している。
また、第1の凸部651,652は、第1の凹部661,662と付勢方向Hに対向している。同様に、第2の凹部691,692は、第2の凸部681,682と付勢方向Hに対向している。出力部材22には、第3の軸受33の内輪331が圧入固定されている。出力部材22は、その中央部の段部が内輪331の一端面に当接しており、内輪331を付勢方向Hに押圧している。第3の軸受33の外輪332は、外輪332を付勢方向Hに移動可能に保持する軸受保持孔110に隣接配置された環状の段部114に受けられており、付勢方向Hへの移動が規制されている。出力部材22の付勢方向Hへの移動は、第3の軸受33によって規制されている。
【0064】
上記の構成により、ねじ部材113の付勢力は、第1の軸受31の外輪312および転動体を介して内輪311に伝わり、さらに入力部材本体201に伝わる。入力部材本体201に伝わった付勢力は、第1の凸部651,652および第1の凹部661,662、並びに、第2の凹部691,692および第2の凸部681,682の順に伝わり、さらに第3の軸受33の内輪331、転動体および外輪332に伝わる。第3の軸受33の外輪332に伝わった付勢力は、環状の段部114によって受けられる。
【0065】
ねじ部材113の付勢力により軌道輪ユニット39の内輪391が付勢方向Hへ移動することに伴い、軌道輪ユニット39の転動体393、外輪392および伝達比可変機構用モータ23のロータ231が、付勢方向Hに同行移動するようになっている。
具体的には、軌道輪ユニット39の外輪392が、ロータコア85の傾斜孔63に圧入固定されている。これにより、ロータコア85は、外輪392を第1の軸線Aの回りに同行回転可能且つ軸方向Sに同行移動可能に保持している。
【0066】
また、第2の軸受32および第4の軸受34のそれぞれの外輪322,342は、ロータコア85の対応する環状の被保持孔87,90に遊嵌されており、ロータコア85を軸方向Sに相対移動可能に支持している。第2の軸受32の内輪321は、環状凸部89の軸受保持部88に圧入固定されている。第4の軸受34の内輪341は、第2のハウジング52の環状の延伸部92の軸受保持部91に圧入固定されている。
【0067】
なお、ねじ部材113を用いて、出力部材22を入力部材本体201に近づける付勢方向(付勢方向Hとは反対の方向)に付勢してもよい。この場合、ねじ部材113は、第3の軸受33を保持する軸受保持孔110にねじ込まれる。ねじ部材113の付勢力は、第3の軸受33、出力部材22、第2の凸部681,682および第2の凹部691,692、第1の凹部661,662および第1の凸部651,652、入力部材本体201、第1の軸受31の内輪311、転動体および外輪312の順に伝わり、第1のハウジング51によって受けられる。
【0068】
また、内輪391の付勢方向Hへの移動を、支持機構133によって妨げられることがないようにされている。具体的には、支持機構133の第8の軸受38の外輪382は、筒状部材202の軸受保持孔109に遊嵌されており、軸受保持孔109に対して軸方向Sに相対移動可能とされている。第8の軸受38の内輪381は、第2のシャフト12の対向端部12aに圧入固定されている。なお、第8の軸受38の外輪382を軸受保持孔109に圧入固定し、内輪381を対向端部12aに遊嵌してもよい。
【0069】
トルクセンサ44は、伝達比可変機構用モータ23のロータコア85の径方向内方に配置されており、第2のシャフト12の中間部に固定された多極磁石115と、第3のシャフト13の一端に支持され、多極磁石115が発生する磁界内に配置されて磁気回路を形成する一対の軟磁性体としての磁気ヨーク116,117と、を含んでいる。
多極磁石115は、円筒形状の永久磁石であり、複数の極(N,Sそれぞれ同じ極数)が周方向に等間隔で着磁されている。
【0070】
磁気ヨーク116,117は、多極磁石115に対して、この多極磁石115の径方向に所定の隙間を隔てて対向しており、多極磁石115を取り囲んでいる。各磁気ヨーク116,117は、合成樹脂部材118にモールドされている。合成樹脂部材118は、第3のシャフト13の一端に同行回転可能に連結されている。
トルクセンサ44は、磁気ヨーク116,117からの磁束を誘導する一対の集磁リング119,120をさらに含んでいる。これら一対の集磁リング119,120は、軟磁性体を用いて形成された環状の部材であり、磁気ヨーク116,117を取り囲んでこれらの磁気ヨーク116,117にそれぞれ磁気的に結合されている。
【0071】
一対の集磁リング119,120は、軸方向Sに離隔して相対向している。集磁リング119,120は、合成樹脂部材121によりモールドされている。合成樹脂部材121は、第2のハウジング52の環状の延伸部92に保持されている。
第2および第3のシャフト12,13の相対回転量に応じて磁気ヨーク116,117に磁束が生じるようになっており、この磁束は、集磁リング119,120により誘導され、合成樹脂部材121に埋設されたホールIC(図示せず)により検出される。これにより、第2のシャフト12(操舵部材)に加えられたトルクに応じた磁束密度を検出することが出来る。
【0072】
図2を参照して、トルクセンサ44に対して軸方向Sの他方S2側に第5の軸受35が配置されている。第5の軸受35は、第3のシャフト13の一端の外周に形成された軸受保持部122と、第2のハウジング52の隔壁部93に形成された軸受保持孔123との間に介在している。軸受保持孔123は、第5の軸受35を介して第3のシャフト13の一端を回転可能に支持している。
【0073】
第3のシャフト13は、第2のシャフト12およびトーションバー14を取り囲んでいる。具体的には、第3のシャフト13に、この第3のシャフト13の一端に開放された挿通孔124が形成されている。挿通孔124には、第2のシャフト12の他端部が挿通されている。第2のシャフト12には軸方向Sに延びる挿通孔125が形成されており、この挿通孔125にトーションバー14が挿通されている。
【0074】
トーションバー14の一端は、第2のシャフト12の挿通孔125の一端にセレーション嵌合等により同行回転可能に連結されている。トーションバー14の他端は、第3のシャフト13の挿通孔124にセレーション嵌合等により同行回転可能に連結されている。 第2のハウジング52の環状の延伸部92の径方向内方の空間が、トルクセンサ収容室126とされており、トルクセンサ収容室126への潤滑剤の侵入を抑制するための構造がさらに設けられている。
【0075】
具体的には、第2のハウジング52の環状の延伸部92の一端に配置されたシール付き第3の軸受33と、第3の軸受33の径方向内方に配置された出力部材22と、出力部材22の径方向内方に配置された第2のシャフト12とによって、トルクセンサ収容室126の一端が閉じられている。また、シール付き第5の軸受35と、第5の軸受35の径方向内方に配置された第3のシャフト13と、第3のシャフト13の挿通孔124を塞ぐトーションバー14とによって、トルクセンサ収容室126の他端が閉じられている。
【0076】
上記の構成により、第1の凹部661,662、第2の凹部691,692および溝301,302等に充填された潤滑剤が、トルクセンサ収容室126に侵入してくることを抑制でき、且つ減速機構26のウォーム軸27およびウォームホイール28の噛み合い領域に充填された潤滑剤がトルクセンサ収容室126に侵入してくることを抑制できる。
第2のシャフト12と第3のシャフト13とは、第6の軸受36を介して相対回転可能に互いに支持されている。第6の軸受36は、減速機構26のウォームホイール28に取り囲まれている。減速機構26は、第3のハウジング53の外周部127および端壁部61、ならびに第2のハウジング52の隔壁部93によって区画された収容室128に収容されている。ウォームホイール28の一部と第6の軸受36とは、軸方向Sに関する位置が重なり合っている。
【0077】
第3のシャフト13の中間部と第3のハウジング53の端壁部61との間に第7の軸受37が介在している。端壁部61は、第7の軸受37を介して第3のシャフト13を回転可能に支持している。
第7の軸受37の内輪371は、第3のシャフト13の外周部に形成された環状の段部129と、第3のシャフト13の外周部に螺合されたナット部材130とによって挟持されている。第7の軸受37の外輪372は、第3のハウジング53に形成された環状の段部131と第3のハウジング53に保持された止め輪132とによって挟持されている。
【0078】
次に、車両用操舵装置1の動作の一例について説明する。なお、以下では、(i)伝達比可変機構用モータ23のロータ231の回転が規制されている場合と、(ii)伝達比可変機構用モータ23のロータ231が回転しており、且つ入力部材20の回転が規制されている場合と、(iii)伝達比可変機構用モータ23のロータ231が回転しており、且つ入力部材20が回転している場合と、を説明する。
【0079】
上記(i),(ii),(iii)の何れの場合も、第1の凸部651、652の合計数が38で第1の凹部661,662の合計数が40とされ、且つ第2の凸部681,682の合計数が40で第2の凹部691,692の合計数が40とされているものとして説明する。
上記(i)の場合、すなわち、ロック機構58によって伝達比可変機構用モータ23のロータ231の回転が規制されている場合において操舵部材の操作により第1のシャフト11が回転すると、入力部材本体201の第1の凸部651,652が第1の軸線Aの回りを回転する。このとき、軌道輪ユニット39は第1の軸線Aの回りを回転するコリオリ運動をせず、内輪391のみがその第2の軸線B回りを回転する。この回転により、第1の凹部661,662が設けられている内輪391が回転し、さらに第2のシャフト12を回転させる。
【0080】
その結果、入力部材20が1回転したときに内輪391が38/40回転する。このとき、出力部材22は、38/40回転する。すなわち、入力部材20の回転が19/20に減速される。
上記(ii)の場合、すなわち、伝達比可変機構用モータ23のロータ231が回転しており、且つ運転者が操舵部材を保持していることにより入力部材20の回転が規制されている場合、ロータ231が第1の軸線Aの回りを回転することにより、軌道輪ユニット39がコリオリ運動する。これにより、内輪391が入力部材20と出力部材22とを互いに逆回転させようとする。しかしながら、入力部材20の回転が規制されていることにより、出力部材22のみが回転する。
【0081】
このとき、第1の凹部661,662の合計数が第1の凸部651,652の合計数と比べて2つ多くされている結果、軌道輪ユニット39の外輪392が1回転しているときに、内輪391は上記の歯数差(2つ)に相当する量だけ位相が進むことになる。これが内輪391の回転になる。その結果、外輪392が1回転したときに、内輪391は上記の歯数差に相当する量だけ回転し、出力部材22は2/40回転する。以上より、伝達比可変機構用モータ23のロータ231の回転が1/20に減速されて出力される。
【0082】
上記(iii)の場合、すなわち、伝達比可変機構用モータ23のロータ231が回転しており、且つ運転者が操舵部材を操舵していることにより入力部材20が回転している場合には、出力部材22の回転量は、上記(ii)の回転量に入力部材20(操舵部材)の回転量を加えた値となる。
これにより、車両が比較的低速で走行している場合等には、伝達比(θ2/θ1)を大きくして運転者による操舵部材2の操作量を少なくして転舵することができる。
【0083】
また、車両が比較的高速で走行している場合には、例えば、操舵角θ1と車両のヨーレートγとを比較し、車両の挙動を判定する。その結果、操舵角θ1から判定される車両の挙動と検出されたヨーレートγから判定される車両の挙動とが一致していないときには、伝達比可変機構用モータ23のロータ231の回転を増速したり、減速したりすることにより、車両のスタビリティコントロール(姿勢安定制御)を行う。なお、このとき、カウンタステア操作が行われるように伝達比可変機構用モータ23のロータ231の駆動を制御することもできる。
【0084】
本実施の形態によれば、直進走行時に、入力部材20と内輪391との間で互いに嵌合する第1の領域P1,Q1の第1の凸部651および第1の凹部661の硬度を相対的に高くしてあるので、入力部材20および内輪391の第1の動力伝達面70,71におけるフレッティング摩耗の発生を抑えることができる。また、直進走行時に、出力部材22と内輪391との間で互いに嵌合する第1の領域U1,W1の第2の凸部681および第2の凹部691の硬度を相対的に高くしてあるので、出力部材22および内輪391の第2の動力伝達面72,73におけるフレッティング摩耗の発生を抑えることができる。
【0085】
しかも、上記の硬度差を材質変更により容易に達成している。すなわち、第1の領域P1の嵌合可能部としての第1の凸部651の材質と、第2の領域P2の嵌合可能部としての第1の凸部652の材質とを異ならせ、また、第1の領域U1の嵌合可能部としての第2の凸部681の材質と、第2の領域U2の嵌合可能部としての第2の凸部682の材質とを異ならせることにより、硬度差を容易に達成することができる。
【0086】
また、内輪391を内輪本体391Aと高硬度部材391B,391Cで構成することにより、第1の領域Q1の嵌合可能部としての第1の凹部661の材質と、第2の領域Q2の嵌合可能部としての第1の凹部662の材質とを異ならせ、また、第1の領域W1の嵌合可能部としての第2の凹部691の材質と、第2の領域W2の嵌合可能部としての第2の凹部692の材質とを異ならせ、これにより、硬度差を容易に達成している。
【0087】
特に、第1の凸部651,652および第2の凸部681,682を、ころ部材311,312;321,322を用いて構成しているので、硬度差の設定は格段に容易である。
また、第1の領域P1,Q1の嵌合可能部としての第1の凸部651および第1の凹部661がセラミックスで構成されている場合や、第1の領域U1,W1の嵌合可能部としての第2の凸部681および第2の凹部691がセラミックスで構成されている場合には、フレッティング摩耗を格段に低減することができる。
【0088】
図12は本発明の別の実施の形態を示している。図12を参照して、本実施の形態が図7の実施の形態と異なるのは、下記である。すなわち、第1の凸部6510,6520を入力部材20の入力部材本体201とは単一の材料で一体に形成している。また、第1の領域P1の第1の凸部6510の表面が、第2の領域P2の第1の凸部6520の表面よりも高い硬度を有する高硬度層700により形成されている。高硬度層700としては、例えばセラミックスの被覆層であってもよいし、浸炭窒化層であってもよい。セラミックスとしては、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、アルミナを例示することができる。図示していないが、第1の凸部6510と同じ構成を、第2の凸部681に適用するようにしてもよい。
【0089】
また、高硬度部材391Bを廃止し、第1の領域Q1の第1の凹部6610の表面が、第2の領域Q2の第1の凹部662の表面よりも高い硬度を有する高硬度層701により形成されている。高硬度層701としては、例えばセラミックスの被覆層であってもよいし、浸炭窒化層であってもよい。セラミックスとしては、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、アルミナを例示することができる。図示していないが、第1の凹部6610と同じ構成を、第2の凹部691に適用するようにしてもよい。
【0090】
本実施の形態では、図7と同じ作用効果を奏して、フレッティング摩耗を低減することに加えて、伝達比可変機構5の部品点数を少なくすることができ、伝達比可変機構5の組付けを容易にすることができるという利点がある。また、副次効果として、直進走行のときのステアリング剛性が向上するので、直進安定性が向上するという利点がある。
上記の各実施の形態においては、第1の領域の材質を変更することにより、第1の領域の嵌合可能部としての凸部および凹部のフレッティング摩耗を防止したが、これに付加して、第1の領域の嵌合可能部間の嵌合力を第2の領域の嵌合可能部間の嵌合力よりも大きくすることより、第1の領域の嵌合可能部間の結合剛性を高め、これにより、フレッティング摩耗の防止効果をより高めるようにしてもよい。
【0091】
例えば、図13に示すように、第1の動力伝達面70,71の第1の領域P1,Q1の嵌合可能部としての第1の凸部651Aおよび第1の凹部661間の嵌合力が、第2の領域P2,Q2の嵌合可能部としての第1の凸部652および第1の凹部662間の嵌合力よりも大きくされている。
具体的には、動力伝達面70において、第1の領域P1の第1の凸部651Aを構成するころ部材311Aの例えば一端の径R1が、第2の領域の第1の凸部652を構成するころ部材312の同側端の径R2よりも大きくされていることにより(R1>R2)、第1の領域P1,Q1の第1の凸部651Aおよび第1の凹部661間の嵌合が、第2の領域P2,Q2の第1の凸部652および第1の凹部662間の嵌合よりも強い嵌合とされている。径R1と径R2の差は、10μm〜30μm程度が好ましい。
【0092】
逆に、図14に示すように、動力伝達面71において、第1の領域Q1の第1の凹部661Aの径R5が、第2の領域Q2の第1の凹部662の径R6の径R6よりも小さくされていることにより(R5<R6)、第1の領域P1,Q1の第1の凸部651および第1の凹部661A間の嵌合が、第2の領域P2,Q2の第1の凸部652および第1の凹部662間の嵌合よりも強い嵌合とされていてもよい。径R5と径R6の差は、10μm〜30μm程度が好ましい。
【0093】
また、図15に示すように、図13に示した第1の領域P1の第1の凸部651Aを構成するころ部材331Aの径R1を相対的に大きくする構成(R1>R2)と、図14に示した第1の領域Q1の第1の凹部661Aの径R5を相対的に小さくする構成(R5<R6)とを組み合わせて採用してもよい。
また、図13〜図15の何れかと同じ構成を採用することにより、第2の動力伝達面72,73の第1の領域U1,W1の嵌合可能部間の嵌合力を第2の領域U2,W2の嵌合可能部間の嵌合力よりも大きくし、フレッティング摩耗の防止効果を高めるようにしてもよい。
【0094】
また、図13〜図15の何れかの構成を採用した場合には、操舵部材2を回動操作しているときに、操舵角θ1が操舵中心を含む所定の範囲内の領域(例えば図13において第1の領域P1,Q1の第1の凸部651Aと第1の凹部661が嵌合している場合に相当)を通過中は、検出される操舵トルクTが一旦大きくなり、上記所定の範囲の通過後は、検出される操舵トルクTが小さくなる。このため、上記の操舵トルクTに基づいて、操舵補助用モータ25を操舵補助制御していると、上記の通過中のアシスト力が大きく、通過後のアシスト力が小さくなるため、操舵フィーリングに違和感を生ずるおそれがある。
【0095】
そこで、操舵補助制御に関して、下記の制御を実施することが好ましい。すなわち、図16を参照して、各センサの検出値(具体的には操舵角θ1、車速Vおよび操舵トルクT)を入力し(ステップS1)、予め記憶されたマップ(操舵トルクTと操舵補助用モータ25の出力との関係を車速V毎に記憶したマップ)に基づいて操舵補助用モータ25の出力を設定する(ステップS2)。
【0096】
そして、操舵部材2を回動操作しているときに、検出された操舵角θ1が操舵中心を含む所定の範囲内(−θa<θ1<θa)にあれば(ステップS3でYESの場合)、検出された操舵トルクTに対して操舵補助用モータ25の出力を一旦小さくするように補正する(ステップS4)。一方、検出された操舵角θ1が操舵中心を含む上記所定の範囲内(−θa<θ1<θa)にないときは(ステップS3でNOの場合)、操舵補助用モータ25の出力を、ステップS2で設定された出力通り(通常の出力)とする。
【0097】
このようにして設定された出力になるように、操舵補助用モータ25を操舵補助制御する(ステップS5)。
これにより、操舵角θ1が上記所定の範囲を通過中のときと、通過前または通過後のときとの間で、操舵部材2の操舵反力の変化を小さくすることができ、操舵フィーリングを向上することができる。
【0098】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、例えば、第1の動力伝達面70に嵌合可能部としての第1の凹部が設けられ、第1の動力伝達面71に嵌合可能部としての第1の凸部が設けられていてもよい。同様に、第2の動力伝達面72に嵌合可能部としての第2の凹部が設けられ、第2の動力伝達面73に嵌合可能部としての第2の凸部が設けられていてもよい。
【0099】
また、入力部材本体201および筒状部材202が単一の材料で一体に形成されて入力部材を構成していてもよい。また、上記の実施の形態では、中間部材が内輪自身であったが、中間部材が内輪と同行回転する部材であってもよい。
また、上記の実施の形態では、中間部材を内輪または内輪と同行回転する部材としたが、これに代えて、中間部材を外輪または外輪と同行回転する部材としてもよい。この場合、伝達比可変機構用モータ23は内輪を駆動することになる。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の一実施の形態にかかる車両用操舵装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】図1の要部のより具体的な構成を示す断面図である。
【図3】図2の伝達比可変機構およびその周辺の拡大図である。
【図4】伝達比可変機構の一部を断面で表した側面図である。
【図5】入力部材および内輪の要部の分解斜視図である。
【図6A】入力部材の第1の動力伝達面の概略図である
【図6B】内輪の第1の動力伝達面の概略図である。
【図7】第1の動力伝達面の第1の領域の第1の凸部と第1の凹部との噛み合いを示す概略側面図である。
【図8】互いに噛み合う第1の凸部と第1の凹部の断面図である。
【図9】出力部材および内輪の要部の分解斜視図である。
【図10A】出力部材の第2の動力伝達面の概略図である。
【図10B】内輪の第2の動力伝達面の概略図である。
【図11】第2の動力伝達面の第1の領域の第1の凸部と第1の凹部との噛み合いを示す概略側面図である。
【図12】本発明の別の実施の形態において、第1の動力伝達面の第1の領域の第1の凸部と第1の凹部との噛み合いを示す概略側面図である。
【図13】本発明のさらに別の実施の形態において、入力部材および内輪の要部の分解斜視図である。
【図14】本発明のさらに別の実施の形態において、入力部材および内輪の要部の分解斜視図である。
【図15】本発明のさらに別の実施の形態において、入力部材および内輪の要部の分解斜視図である。
【図16】図13から図15の実施の形態の何れかと組み合わされる操舵補助制御の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0101】
1…車両用操舵装置、2…操舵部材、4L,4R…転舵輪、5…伝達比可変機構、10…転舵機構、11…第1のシャフト(第1の軸)、12…第2のシャフト(第2の軸)、19…操舵補助力付与機構、20…入力部材、22…出力部材、23…伝達比可変機構用モータ、25…操舵補助用モータ、651,6510,651A…(第1の領域の)第1の凸部(嵌合可能部)、652,6520…(第2の領域の)第1の凸部(嵌合可能部)、661,6610,661A…(第1の領域の)第1の凹部(嵌合可能部)、662…(第2の領域の)第1の凹部(嵌合可能部)、681…(第1の領域の)第2の凸部(嵌合可能部)、682…(第2の領域の)第2の凸部(嵌合可能部)、691…(第1の領域の)第2の凹部(嵌合可能部)、692…(第2の領域の)第2の凹部(嵌合可能部)、70…(入力部材の)第1の動力伝達面、71…(中間部材の)第1の動力伝達面、72…(出力部材の)第2の動力伝達面、73…(中間部材の)第2の動力伝達面、133…支持機構、201…入力部材本体、202…筒状部材、301,302…溝、311,311A…(第1の領域の第1の凸部を形成する)ころ部材、312…(第2の領域の第1の凸部を形成する)ころ部材、321…(第1の領域の第2の凸部を形成する)ころ部材、322…(第2の領域の第2の凸部を形成する)ころ部材、391…内輪、391A…内輪本体、391B,391C…高硬度部材、392…外輪、393…転動体、700,701…高硬度層、800…グリース溜まり部、A…第1の軸線、B…第2の軸線、θ1…操舵角、θ2…転舵角、θ2/θ1…伝達比、R1…(第1の領域の第1の凸部を形成する)ころ部材の径、R2…(第2の領域の第1の凸部を形成する)ころ部材の径、R5…(第1の領域の第1の凹部の)径、R6…(第2の領域の第1の凹部の)径、T…操舵トルク、V…車速
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
操舵補助用の電動モータの動力を伝達する歯車間のバックラッシを、操舵中立位置の近傍領域において残りの領域よりも小さくするために、例えば歯の一部を偏倚させて、騒音を低減することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−182013号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一方、車両に装備される伝達比可変機構として、いわゆるコリオリ運動をする機構を用いる場合、車両の走行状態で最も多い直進状態において、互いに噛み合っている部材の噛み合い箇所が早期に摩耗するという問題がある。
本発明は、かかる背景のもとでなされたもので、本発明の目的は、直進走行時に互いに接触している箇所のフレッティング摩耗を抑制して耐久性を向上することができる車両用操舵装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するため、本発明は、操舵部材(2)の操舵角(θ1)に対する車輪(4L,4R)の転舵角(θ2)の比である伝達比を変更可能な伝達比可変機構(5)を備え、この伝達比可変機構は、操舵部材に連結され第1の軸線(A)の回りに回転可能な入力部材(20)と、車輪に連結され第1の軸線の回りに回転可能な出力部材(22)と、入力部材および出力部材の間に介在し両部材の差動回転を許容するように両部材を連結する中間部材(391)と、を含み、中間部材は、第1の軸線に対して傾斜した第2の軸線(B)の回りに回転可能であり、入力部材および中間部材は、互いに嵌合可能な嵌合可能部(651,6510,651A,652,661,6610,661A,662)を有する環状の第1の動力伝達面(70,71)をそれぞれ含み、出力部材および中間部材は、互いに嵌合可能な嵌合可能部(681,682,691,692)を有する環状の第2の動力伝達面(72,73)をそれぞれ含み、第1の動力伝達面および第2の動力伝達面のそれぞれは、操舵角が操舵中心を含む所定の角度範囲内にあるときに互いに嵌合する第1の領域(P1,Q1;U1,W1)と、操舵角が上記所定の角度範囲外にあるときに互いに嵌合する第2の領域(P2,Q2;U2,W2)とを含み、第1の領域にある嵌合可能部(651,6510,651A,661,6610,661A,681,691)が、第2の領域にある嵌合可能部(652,662,682,692)よりも硬くされていることを特徴とするものである。
【0005】
本発明によれば、直進走行時に嵌合する第1の領域の嵌合可能部を相対的に硬くしてあるので、微小振動によるフレッティング摩耗の発生を抑えることができる。
上記第1の領域の嵌合可能部の材質および第2の領域の嵌合可能部の材質が互いに異なっていることが好ましく(請求項2)、具体的には、上記第1の領域の嵌合可能部はセラミックスを含む場合がある(請求項3)。セラミックスであれば、硬度が高いので、フレッティング摩耗を格段に低減することができる。セラミックスとしては、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、アルミナを例示することができる。
【0006】
また、上記第1の領域の嵌合可能部の嵌合力が第2の領域の嵌合可能部の嵌合力よりも大きくされている場合がある(請求項4)。この場合、嵌合のがたつきを抑えることにより、フレッティング摩耗をより低減することができる。
具体的には、上記第1の動力伝達面および第2の動力伝達面の少なくとも一方の嵌合可能部は、互いに嵌合する凸部および凹部を含み、第1の領域の凸部(651,651A,)および第1の領域の凹部(661,661A)の嵌合が、第2の領域の凸部(652)および第2の領域の凹部(662)の嵌合よりも強い嵌合となるように、第1の領域の凸部(651A)を第2の領域の凸部(652)よりも大きくするか、または第1の領域の凹部(661A)を第2の領域の凹部(662)よりも小さくするかの少なくとも一方とされている場合がある(請求項5)。
【0007】
また、上記凸部はころ部材(311A,312)により形成され、第1の領域の凸部を形成するころ部材(311A)の径(R1)が、第2の領域の凸部(652)を形成するころ部材(312)の径(R2)よりも大きくされている場合がある(請求項6)。この場合、製造が容易である。
なお、上記において、括弧内の参照符号は、後述する実施の形態における対応構成要素の参照符号を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の好ましい実施の形態を添付図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の一実施の形態にかかる伝達比可変機構を備える車両用操舵装置1の概略構成を示す模式図である。図1を参照して、車両用操舵装置1は、ステアリングホイール等の操舵部材2に付与された操舵トルクを、操舵軸としてのステアリングシャフト3等を介して左右の転舵輪4L,4Rのそれぞれに与えて転舵を行う。車両用操舵装置1は、操舵部材2の操舵角θ1に対する転舵輪の転舵角θ2の比としての伝達比θ2/θ1を変更することのできるVGR(Variable Gear Ratio )機能を有している。
【0009】
車両用操舵装置1は、操舵部材2と、操舵部材2に連なるステアリングシャフト3とを有している。ステアリングシャフト3は、互いに同軸上に配置された第1〜第3の軸としての第1〜第3のシャフト11〜13を含んでいる。第1〜第3のシャフト11〜13の中心軸線としての第1の軸線Aは、当該第1〜第3のシャフト11〜13の回転軸線でもある。
【0010】
第1のシャフト11の一端に操舵部材2が同行回転可能に連結されている。第1のシャフト11の他端と第2のシャフト12の一端とは、伝達比可変機構5を介して差動回転可能に連結されている。第2のシャフト12の他端と第3のシャフト13の一端とは、トーションバー14を介して所定の範囲内で弾性的に相対回転可能且つ動力伝達可能に連結されている。
【0011】
第3のシャフト13の他端は、自在継手7、中間軸8、自在継手9および転舵機構10等を介して、転舵輪4L,4Rと連なっている。
転舵機構10は、自在継手9に連なるピニオン軸15と、ピニオン軸15の先端のピニオン15aに噛み合うラック16aを有し車両の左右方向に延びる転舵軸としてのラック軸16とを有している。ラック軸16の一対の端部のそれぞれにタイロッド17L,17Rを介してナックルアーム18L,18Rが連結されている。
【0012】
上記の構成により、操舵部材2の回転は、ステアリングシャフト3等を介して転舵機構10に伝達される。転舵機構10では、ピニオン15aの回転がラック軸16の軸方向の運動に変換される。ラック軸16の軸方向の運動は、各タイロッド17L,17Rを介して対応するナックルアーム18L,18Rに伝えられ、これらのナックルアーム18L,18Rがそれぞれ回動する。これにより、各ナックルアーム18L,18Rに連結された対応する転舵輪4L,4Rがそれぞれ操向する。
【0013】
伝達比可変機構5は、ステアリングシャフト3の第1および第2のシャフト11,12間の回転伝達比(伝達比θ2/θ1)を変更するためのものであり、ニューテーションギヤ機構とされている。この伝達比可変機構5は、第1のシャフト11の他端に設けられた入力部材20と、第2のシャフト12の一端に設けられた出力部材22と、入力部材20と出力部材22との間に介在する軌道輪ユニット39と、を含んでいる。
【0014】
入力部材20は、操舵部材2および第1のシャフト11とは同軸的に且つ同行回転可能に連結されており、出力部材22は、第2のシャフト12とは同軸的に且つ同行回転可能に連結されている。第1の軸線Aは、入力部材20および出力部材22の中心軸線および回転軸線でもある。出力部材22は、第2のシャフト12や転舵機構10等を介して転舵輪4L,4Rに連なっている。
【0015】
上記の軌道輪ユニット39は、中間部材を提供する第1の軌道輪としての内輪391と、第2の軌道輪としての外輪392と、内輪391および外輪392間に介在する玉等の転動体393とを含んで4点接触軸受を構成している。転動体393としては、円筒ころ、針状ころ、円錐ころでも良い。また単列または複列でも良い。複列にすると、内輪391の倒れを防止できる。複列のものとして、複列アンギュラ軸受を例示できる。
【0016】
内輪391は、入力部材20と出力部材22とを差動回転可能に連結する中間部材として機能する。内輪391と外輪392は、第1の軸線Aに対して傾斜する中心軸線としての第2の軸線Bを有している。内輪391は、転動体393を介して第2の軌道輪としての外輪392に回転可能に支持されていることにより、第2の軸線Bの回りを回転可能であり、また、外輪392を駆動するためのアクチュエータとしての電動モータである伝達比可変機構用モータ23が駆動されることに伴い、第1の軸線Aの回りを回転可能である。内輪391および外輪392は、第1の軸線A回りにコリオリ運動(首振り運動)可能である。
【0017】
伝達比可変機構用モータ23は、軌道輪ユニット39の第1の軸線Aを中心とする径方向外方に配置されている。伝達比可変機構用モータ23は、第1の軸線A回りに関する外輪392の回転数を変更することにより、伝達比θ2/θ1を変更する。
伝達比可変機構用モータ23は、例えば、ステアリングシャフト3とは同軸的に配置されたブラシレスモータからなり、軌道輪ユニット39を保持するロータ231と、このロータ231を取り囲むとともにステアリングコラムとしてのハウジング24に固定されたステータ232とを含んでいる。ロータ231は、第1の軸線Aの回りを回転するようになっている。
【0018】
車両用操舵装置1は、ステアリングシャフト3に操舵補助力を付与するための操舵補助力付与機構19を備えている。操舵補助力付与機構19は、伝達比可変機構5の出力部材22に連なる入力軸としての上記第2のシャフト12と、転舵機構10に連なる出力軸としての上記第3のシャフト13と、第2のシャフト12と第3のシャフト13との間に伝達されるトルクを検出する後述のトルクセンサ44と、操舵補助用のアクチュエータとしての操舵補助用モータ25と、操舵補助用モータ25と第3のシャフト13との間に介在する減速機構26とを含んでいる。
【0019】
操舵補助用モータ25は、ブラシレスモータ等の電動モータからなる。この操舵補助用モータ25の出力は、減速機構26を介して第3のシャフト13に伝達されるようになっている。
減速機構26は、例えばウォームギヤ機構からなり、操舵補助用モータ25の出力軸25aに連結された駆動歯車としてのウォーム軸27と、ウォーム軸27と噛み合い且つ第3のシャフト13に同行回転可能に連結された従動歯車としてのウォームギヤ28とを含んでいる。なお、減速機構26は、ウォームギヤ機構に限らず、平歯車やはすば歯車を用いた平行軸歯車機構等の他の歯車機構を用いてもよい。
【0020】
上記伝達比可変機構5および操舵補助力付与機構19は、ハウジング24に設けられており、このハウジング24内に収容されている。ハウジング24は、車両の乗員室(キャビン)内に配置されている。なお、ハウジング24を、中間軸8を取り囲むように配置してもよいし、車両のエンジンルーム内に配置してもよい。
上記伝達比可変機構用モータ23および操舵補助用モータ25の駆動は、それぞれ、CPU、RAMおよびROMを含む制御部29によって制御される。制御部29は、駆動回路40を介して伝達比可変機構用モータ23と接続されているとともに、駆動回路41を介して操舵補助用モータ25と接続されている。
【0021】
制御部29には、操舵角センサ42、伝達比可変機構用モータ23の回転角を検出するための回転角検出手段としてのモータレゾルバ43、トルク検出手段としてのトルクセンサ44、転舵角センサ45、車速センサ46およびヨーレートセンサ47がそれぞれ接続されている。
各センサ42〜47からの信号が、制御部29に入力される。具体的には、操舵角センサ42からは、操舵部材2の直進位置からの操作量である操舵角θ1に対応する値として、第1のシャフト11の回転角についての信号が入力される。また、モータレゾルバ43からは、伝達比可変機構用モータ23のロータ231の回転角θrについての信号が入力される。
【0022】
トルクセンサ44からは、操舵部材2に作用する操舵トルクTに対応する値として、第2および第3のシャフト12,13間に作用するトルクについての信号が入力される。転舵角センサ45からは、転舵角θ2に対応する値として第3のシャフト13の回転角についての信号が入力される。車速センサ46からは、車速Vについての信号が入力される。ヨーレートセンサ47からは、車両のヨーレートγについての信号が入力される。
【0023】
制御部29は、各上記センサ42〜47から入力した信号等に基づいて、伝達比可変機構用モータ23および操舵補助用モータ25の駆動を制御する。
上記の構成により、伝達比可変機構5の出力は、操舵補助力付与機構19を介して転舵機構10に伝達される。より具体的には、操舵部材2に入力された操舵トルクは、第1のシャフト11を介して伝達比可変機構5の入力部材20に入力され、出力部材22から操舵補助力付与機構19の第2のシャフト12に伝達される。第2のシャフト12に伝達された操舵トルクは、トーションバー14および第3のシャフト13に伝わり、操舵補助用モータ25からの出力と合わさって中間軸8等を介して転舵機構10に伝達される。
【0024】
図2は、図1の要部のより具体的な構成を示す断面図である。図2を参照して、ハウジング24は、例えば、アルミニウム合金等の金属を筒状に形成してなるものであり、第1〜第3のハウジング51〜53を含んでいる。このハウジング24内には、第1〜第8の軸受31〜38が収容されている。第1〜第5の軸受31〜35および第7〜第8の軸受37〜38は、それぞれ、アンギュラ玉軸受等の転がり軸受であり、第6の軸受36は、針状ころ軸受等の転がり軸受である。
【0025】
第1のハウジング51は筒状をなしており、差動機構としての伝達比可変機構5を収容する差動機構ハウジングを構成しているとともに、伝達比可変機構用モータ23を収容するモータハウジングを構成している。第1のハウジング51の一端は、端壁54によって覆われている。第1のハウジング51の一端と端壁54とは、ボルト等の締結部材55を用いて互いに固定されている。第1のハウジング51の他端の内周面56に、第2のハウジング52の一端の環状凸部57が嵌合されている。これら第1および第2のハウジング51,52は、ボルト等の締結部材(図示せず)を用いて互いに固定されている。
【0026】
第2のハウジング52は筒状をなしており、トルクセンサ44を収容するセンサハウジングと、モータレゾルバ43を収容するレゾルバハウジングとを構成している。また、第2のハウジング52は、伝達比可変機構用モータ23の後述するバスバー99と、伝達比可変機構用モータ23のロータ231をロックするためのロック機構58とを収容している。第2のハウジング52の他端の外周面59に、第3のハウジング53の一端の内周面60が嵌合している。
【0027】
第3のハウジング53は、筒状をなしており、減速機構26を収容する減速機構ハウジングを構成している。第3のハウジング53の他端には端壁部61が設けられている。端壁部61は環状をなしており、第3のハウジング53の他端を覆っている。
図3は、図2の伝達比可変機構5およびその周辺の拡大図である。図3を参照して、伝達比可変機構5の入力部材20、出力部材22および内輪391は、それぞれ、環状をなしている。
【0028】
入力部材20は、入力部材本体201と、入力部材本体201の径方向内方に配置され入力部材本体201と同行回転可能に連結された筒状部材202とを含んでいる。
第1のシャフト11は、筒状部材202の挿通孔202aを挿通することにより、筒状部材202と同行回転可能に連結されている。
第2のシャフト12は、出力部材22の挿通孔22aを挿通することにより、出力部材22と同行回転可能に連結されている。
【0029】
第1のシャフト11と第2のシャフト12の互いの対向端部11a,12aは、支持機構133によって同軸的に且つ相対回転可能に支持されている。支持機構133は、上記の筒状部材202と、第8の軸受38とを含んでいる。すなわち、筒状部材202は、入力部材20の一部を構成するとともに、支持機構133の一部を構成している。
筒状部材202は、第1および第2のシャフト11,12のそれぞれの対向端部11a,12aを取り囲んでいる。筒状部材202の一端は、第1の軸受31と径方向に対向している。筒状部材202の他端は、第2のシャフト12の対向端部12aと径方向に対向している。
【0030】
筒状部材202の他端に軸受保持孔109が形成されており、この軸受保持孔109に、第2のシャフト12の対向端部12aが挿通されている。第2のシャフト12の対向端部12aと軸受保持孔109との間に第8の軸受38が介在しており、筒状部材202と第2のシャフト12の相対回転を許容している。
なお、筒状部材202を第2のシャフト12の対向端部12aに同行回転可能に連結するとともに、第8の軸受38を、筒状部材202と第1のシャフト11の対向端部11aとの間に介在させてもよい。
【0031】
中間部材としての内輪391は、筒状部材202の径方向外方に配置されている。外輪392は、伝達比可変機構用モータ23のロータ231の内周部233に形成された傾斜孔63に同行回転可能に保持されている。外輪392およびロータ231は、第1の軸線Aの回りを同行回転する。傾斜孔63は、第2の軸線Bを中心軸線としている。ロータ231が第1の軸線Aの回りを回転することに伴い、軌道輪ユニット39がコリオリ運動する。
【0032】
なお、軌道輪ユニット39の外輪392が入力部材20および出力部材22を差動回転可能に連結するとともに、内輪391が伝達比可変機構用モータ23のロータ231と同行回転可能に連結されるようにしてもよい。この場合、軌道輪ユニット39は、内輪支持型となる。
図4は、伝達比可変機構5の一部を断面で表した側面図である。図3および図4を参照して、入力部材本体201および内輪391は、互いにステアリングシャフト3の軸方向Sに対向する環状の第1の動力伝達面70,71を有している。入力部材本体201の第1の動力伝達面70には、嵌合可能部としての第1の凸部651,652が設けられ、中間部材としての内輪391の端面からなる第1の動力伝達面71には、嵌合可能部としての第1の凹部661,662が設けられている。第1の凸部651,652と第1の凹部661,662とが噛み合うことにより、入力部材本体201と内輪391とは動力伝達可能とされている。
【0033】
また、図4参照して、出力部材22および内輪391は、互いにステアリングシャフト3の軸方向Sに対向する環状の第2の動力伝達面72,73を有している。図4および図11を参照して、出力部材22の第2の動力伝達面72には、嵌合可能部としての第2の凸部681,682が設けられ、中間部材としての内輪391の他端面からなる第2の動力伝達面73には、嵌合可能部としての第2の凹部691,692が設けられている。第2の凸部681,682と第2の凹部691,692とが噛み合うことにより、出力部材22と内輪391とは動力伝達可能とされている。
【0034】
図5を参照して、入力部材本体201の環状の第1の動力伝達面70には、第1の動力伝達面70の径方向に延びる複数の溝301が放射状に配列されて第1の動力伝達面70の周方向に等間隔に並んでいる。各溝301にそれぞれ円錐状(円柱状であってもよい)のころ部材311,312が嵌合されている。各ころ部材311,312の半部は、溝301から突出しており、その突出する半部によって、第1の凸部651,652が構成されている。
【0035】
一方、内輪391の環状の第1の動力伝達面71には、第1の動力伝達面71の径方向に延びる複数の第1の凹部661,662が放射状に配列されて第1の動力伝達面71の周方向に等間隔に並んでいる。第1の凸部651,652と第1の凹部661,662とは、概ね等しい形状とされている。
図6Aに示すように、第1の凸部651,652は、第1の動力伝達面70の周方向に等間隔に配置され、図6Bに示すように、第1の凹部661,662は、第1の動力伝達面71の周方向に等間隔に配置されている。各第1の動力伝達面70,71は、操舵角が操舵中心を含む所定の角度範囲内にあるときに互いに嵌合する第1の領域P1,Q1と、操舵角が上記所定の角度範囲外にあるときに互いに嵌合する第2の領域P2,Q2とを含んでいる。
【0036】
第1の動力伝達面70の第1の領域P1の中央P10と第1の動力伝達面71の第1の領域Q1の中央Q10とは、操舵角が操舵中心にあるときに互いに位相が合うようになっている。
第1の動力伝達面70において、第1の領域P1にある第1の凸部651(例えば3〜5個)が、第2の領域P2にある第1の凸部652よりも硬くされている。そのために、第1の領域P1にある第1の凸部651を構成するためのころ部材311としては、相対的に硬度の高い材料が用いられており、第2の領域P2にある第1の凸部652を構成するためのころ部材312としては、相対的に硬度の低い材料が用いられている。ころ部材311としてセラミックスを用いる場合、ころ部材312としては、セラミックスよりも低硬度の、例えば軸受鋼、ステンレス鋼を用いることができる。セラミックスとしては、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、アルミナを例示することができる。ころ部材311,312としては、図5に示すように、入力部材20の径方向内方に向かうにしたがって縮径された円錐ころであってもよいし、円筒ころであってもよい。
【0037】
また、第1の動力伝達面71において、第1の領域Q1にある第1の凹部661(例えば3〜5個)が、第2の領域Q2にある第2の凹部662よりも硬くされている。そのために、内輪391が、内輪本体391Aと高硬度部材391Bとを組み合わせて構成されている。高硬度部材391Bとしては、相対的に硬度の高い材料が用いられており、内輪本体391Aとしては、相対的に硬度の低い材料が用いられている。高硬度部材391Bとして、セラミックスが用いられる場合には、内輪本体391Aとしては、セラミックスよりも低硬度の、例えば軸受鋼、ステンレス鋼を用いることができる。セラミックスとしては、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、アルミナを例示することができる。
【0038】
第1の動力伝達面71において、高硬度部材391Bが第1の領域Q1を構成しており、その高硬度部材391Bに形成された第1の領域Q1の第1の凹部661が、第1の動力伝達面71において内輪本体391Aにより構成された第2の領域Q2の第1の凹部662よりも硬くされている。
第1の凸部651,652の合計数は、例えば38個である。第1の凹部661,662の合計数は、第1の凸部651,652の合計数とは異なる数にされている。第1の凸部651,662の合計数と第1の凹部661,662の合計数との差に応じて、入力部材本体201と内輪391との間で差動回転を発生することができる。
【0039】
内輪391の第2の軸線Bが入力部材20の第1の軸線Aに対して所定角度θ傾斜していることにより、第1の凸部651,652のうちの一部の第1の凸部のみと第1の凹部661,662のうちの一部の第1の凹部のみとが互いに噛み合うようになっている。例えば、車両の直進走行状態では、図7に示すように、ともに高硬度の第1の凸部651と第1の凹部661とが互いに噛み合う。
【0040】
図5および図7では、溝301および第1の凹部661,662の形状を簡略化して示してあるが、実際には、図8に示すように、溝301および第1の凹部661の断面形状は、ゴシックアーク形状(半径が同じで中心が異なる二つの円弧が連結された形状)に形成されている。この場合、第1の凸部651を構成するころ部材311が溝301および第1の凹部661で四点接触状態で支持される。
【0041】
また、溝301の底および第1の凹部661の底に、例えば溝からなるグリース溜まり部800が設けられている。この場合、ころ部材311と溝301および第1の凹部661との接触領域に対して、グリース溜まり部800からグリースを潤沢に供給することができ、接触領域の摩耗や焼き付きを長期にわたって防止することができる。グリース溜まり部800は、上記の接触領域を避けた位置であれば、形状、深さ等を任意に設定して設けることができる。また、図示していないが、第1の凹部662に関しても第1の凹部661と同じ構成が採用されている。
【0042】
図9を参照して、出力部材22の環状の第2の動力伝達面72には、第2の動力伝達面72の径方向に延びる複数の溝302が放射状に配列されて第2の動力伝達面72の周方向に等間隔に並んでいる。各溝302にそれぞれ円錐状(円柱状であってもよい)のころ部材321,322が嵌合されている。各ころ部材321,322の半部は、溝302から突出しており、その突出する半部によって、第2の凸部681,682が構成されている。
【0043】
一方、内輪391の環状の第2の動力伝達面73には、第2の動力伝達面73の径方向に延びる複数の第2の凹部691,692が放射状に配列されて第2の動力伝達面73の周方向に等間隔に並んでいる。第2の凸部681,682と第2の凹部691,692とは、概ね等しい形状とされている。
図10Aに示すように、第2の凸部681,682は、第2の動力伝達面72の周方向に等間隔に配置され、図10Bに示すように、第2の凹部691,692は、第2の動力伝達面73の周方向に等間隔に配置されている。各第2の動力伝達面72,73は、操舵角が操舵中心を含む所定の角度範囲内にあるときに互いに嵌合する第1の領域U1,W1と、操舵角が上記所定の角度範囲外にあるときに互いに嵌合する第2の領域U2,W2とを含んでいる。
【0044】
第2の動力伝達面72の第1の領域U1の中央U10と第2の動力伝達面73の第1の領域W1の中央W10とは、操舵角が操舵中心にあるときに互いに位相が合うようになっている。
第2の動力伝達面72において、第1の領域U1にある第2の凸部681(例えば3〜5個)が、第2の領域U2にある第2の凸部682よりも硬くされている。そのために、第1の領域U1にある第2の凸部681を構成するためのころ部材321としては、相対的に硬度の高い材料が用いられており、第2の領域U2にある第2の凸部682を構成するためのころ部材322としては、相対的に硬度の低い材料が用いられている。ころ部材321としてセラミックスが用いられる場合、ころ部材322としては、セラミックスよりも低硬度の、例えば軸受鋼、ステンレス鋼を用いることができる。セラミックスとしては、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、アルミナを例示することができる。ころ部材321,322としては、図9に示すように、出力部材22の径方向内方に向かうにしたがって縮径された円錐ころであってもよいし、円筒ころであってもよい。
【0045】
また、第2の動力伝達面73において、第1の領域W1にある第2の凹部691(例えば3〜5個)が、第2の領域W2にある第2の凹部692よりも硬くされている。そのために、内輪391が、内輪本体391Aと高硬度部材391Cとを組み合わせて構成されている。高硬度部材391Cとしては、相対的に硬度の高い材料が用いられており、内輪本体391Aとしては、相対的に硬度の低い材料が用いられている。具体的には、高硬度部材391Cとして、セラミックスが用いられる場合には、内輪本体391Aとしては、セラミックスよりも低硬度の、例えば軸受鋼、ステンレス鋼を用いることができる。
【0046】
第2の動力伝達面73において、高硬度部材391Cが第1の領域W1を構成しており、その高硬度部材391Cに形成された第1の領域W1の第2の凹部691が、第2の動力伝達面73において内輪本体391Aにより構成された第2の領域W2の第2の凹部692よりも硬くされている。
第2の凸部681,682の合計数と第2の凹部691,692の合計数との関係は、例えば38と40のように互いに異ならせていてもよいし、また、互いに同じにされていてもよい。
【0047】
内輪391の第2の軸線Bが出力部材22の第1の軸線Aに対して所定角度θ傾斜していることにより、第2の凸部681,682のうちの一部の第2の凸部のみと第2の凹部691,692のうちの一部の第2の凹部のみとが互いに噛み合うようになっている。例えば、車両の直進走行状態では、図11に示すように、ともに高硬度の第2の凸部681と第2の凹部691とが互いに噛み合う。
【0048】
図9および図11では、溝302および第2の凹部691,692の形状を簡略化して示してあるが、実際には、図8に示した溝301および第1の凹部661の断面形状と同じゴシックアーク形状に形成され、また、グリース溜まり部800が設けられている。
上記の第1の領域P1,U1のころ部材311、321や高硬度部材391B,391Cに用いるセラミックスとしては、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ジルコニア、アルミナを例示することができる。
【0049】
再び図3を参照して、伝達比可変機構用モータ23のロータ231は、軸方向Sに延びる筒状のロータコア85と、ロータコア85の外周面に固定された永久磁石86とを含んでいる。ロータコア85の径方向内方には、伝達比可変機構5と、トルクセンサ44とが収容されている。ロータコア85によって、伝達比可変機構5の、第1の凸部651,652および第1の凹部661,662並びに第2の凸部681,682および第2の凹部691,692の双方が全周に亘って取り囲まれているとともに、トルクセンサ44が全周に亘って取り囲まれている(図3では、第1の凸部651、第1の凹部661、第2の凸部681および第2の凹部691のみを示してある。)。ロータコア85内に伝達比可変機構5やトルクセンサ44を収容することにより、軸方向Sに関するハウジング24の長さを短くでき、その結果、車両の二次衝突の衝撃を吸収するための衝撃吸収ストロークを長く確保できる。また、ハウジング24に隣接して設けられるチルト・テレスコピック機構(図示せず)の配置スペースを確保することができる。
【0050】
ロータコア85の材質は、鋼材、アルミニウム合金、クラッド材、樹脂材を例示できる。複数種の金属を張り合わせた複合材であるクラッド材を用いた場合は、共振を抑制できる。ロータコア85の少なくとも一部に樹脂材を用いた場合には、軽量化によりロータ慣性を低減できる。
ロータコア85の一端には、被保持孔87が形成されている。この被保持孔87の径方向内方には、環状の軸受保持部88が設けられている。軸受保持部88は、第1のハウジング51の一端の内周側に形成された環状凸部89に配置されている。これらの被保持孔87と軸受保持部88との間に第2の軸受32が介在していることにより、ロータコア85の一端が第1のハウジング51に回転可能に支持されている。
【0051】
ロータコア85の中間部には、被保持孔90が形成されている。この被保持孔90の径方向内方には、環状の軸受保持部91が設けられている。軸受保持部91は、第2のハウジング52の一端の内周側に形成された環状の延伸部92に配置されている。環状の延伸部92は、第2のハウジング52の他端に設けられた隔壁部93から、軸方向Sの一方S1側に延びる筒状をなしており、ロータコア85を挿通している。
【0052】
上記の被保持孔90と軸受保持部91との間に、第4の軸受34が介在していることにより、ロータコア85の中間部が第2のハウジング52の環状の延伸部92に回転可能に支持されている。軌道輪ユニット39をロータ231の軸方向に挟んで配置された一対の軸受としての第2および第4の軸受32,34によって、ロータコア85が両持ち支持されている。
【0053】
ロータ231の永久磁石86は、ステアリングシャフト3の周方向C3に交互に異なる磁極を有しており、周方向C3に関して、N極とS極とが交互に等間隔に配置されている。永久磁石86は、ロータコア85の中間部の外周面に固定されている。永久磁石86と伝達比可変機構5の一部とは、軸方向Sに関する位置が互いに重ね合わされている。
伝達比可変機構用モータ23のステータ232は、第1のハウジング51の他端に形成された環状の第1の溝部94内に収容されている。この第1の溝部94は、軸方向Sの他方S2側に開放されている。
【0054】
ステータ232は、電磁鋼板を複数積層してなるステータコア95と、電磁コイル96とを含んでいる。
ステータコア95は、円環状のヨーク97と、ヨーク97の周方向に等間隔に配置され且つヨーク97の径方向内方に突出する複数のティース98と、を含んでいる。ヨーク97の外周面は、第1のハウジング51の第1の溝部94の内周面に焼きばめ等によって固定されている。各ティース98のそれぞれに電磁コイル96が巻回されている。
【0055】
ステータ232に対して軸方向Sの他方S2側にバスバー99が配置されている。バスバー99は全体として環状をなした状態で第2のハウジング52に収容されており、伝達比可変機構用モータ23の各電磁コイル96に接続されている。このバスバー99は、駆動回路からの電力を各電磁コイル96に供給する。バスバー99と第3および第4の軸受33,34の一部とは、軸方向Sに関する位置が重ね合わされている。
【0056】
バスバー99に対して軸方向Sの他方S2側にロック機構58が配置されている。ロック機構58は、伝達比可変機構用モータ23のロータ231の回転を規制するためのものであり、第2のハウジング52の一端に収容されている。
ロック機構58は、ロータコア85とは同行回転可能に連結された被規制部100と、被規制部100に係合することにより被規制部100の回転を規制するための規制部101とを含んでいる。被規制部100は環状の部材であり、外周面に凹部102が形成されている。凹部102は、被規制部100の周方向に関して1箇所または複数箇所に形成されている。なお、ロータコア85に凹部102を設けてもよい。この場合、ロータコア85が上記の被規制部を構成する。被規制部100の一部は、トルクセンサ44の一部とは軸方向Sの位置が重ね合わされている。
【0057】
規制部101は、被規制部100とは当該被規制部100の径方向に相対向して配置されている。この規制部101は、第2のハウジング52に保持されており、被規制部100側に移動可能となっている。規制部101が被規制部100側に移動して凹部102に係合することにより、ロータコア85の回転が規制される。
ロック機構58に対して軸方向Sの他方S2側にモータレゾルバ43が配置されている。モータレゾルバ43は、第2のハウジング52の他端に形成された第2の溝部103に収容されており、ロータコア85の径方向外方に位置している。
【0058】
第2の溝部103は、第2のハウジング52の一端の環状の外周部104と、環状の延伸部92とによって区画された環状の溝であり、第1の溝部94と連通している。これら第1および第2の溝部94,103によって、伝達比可変機構用モータ23、ロック機構58およびモータレゾルバ43を収容する収容空間139が区画されている。
モータレゾルバ43とトルクセンサ44とは、ステアリングシャフト3の径方向R3に相対向している。モータレゾルバ43の一部とトルクセンサ44の一部とは、軸方向Sに関する位置が重ね合わされている。モータレゾルバ43は、レゾルバロータ105とレゾルバステータ106とを含んでいる。レゾルバロータ105は、ロータコア85の他端の外周面107に同行回転可能に固定されている。レゾルバステータ106は、第2のハウジング52の外周部104の内周面108に圧入固定されている。
【0059】
第1の軸受31は、入力部材20を回転可能に支持している。第1のシャフト11は、入力部材20の筒状部材202および第1の軸受31を介して第1のハウジング51に回転可能に支持されている。第1の軸受31は、第2の軸受32に取り囲まれており、軸方向Sに関して両者の位置が重ね合わされている。
第3の軸受33は、第2のハウジング52の延伸部92の先端の内周部に形成された軸受保持孔110と、出力部材22に形成された軸受保持部111との間に介在している。出力部材22は、第3の軸受33を介して第2のハウジング52の環状の延伸部92に回転可能に支持されている。第3の軸受33は、第4の軸受34に取り囲まれており、軸方向Sに関して両者の位置が重ね合わされている。
【0060】
第1の凸部651,652および第1の凹部661,662の間、並びに第2の凸部681,682および第2の凹部691,692の間には、それぞれ、予圧が付与されており、これにより、第1の凸部651,652と第1の凹部661,662との滑らかな係合、および第2の凸部681,682と第2の凹部691,692との滑らかな係合がそれぞれ可能となっている。
【0061】
具体的には、第1のハウジング51の一端の内周部112にねじ部材113が配置されている。ねじ部材113は、入力部材本体201を出力部材22に近づける付勢方向H(軸方向Sの他方S2側)に入力部材本体201を付勢する付勢部材を構成している。また、このねじ部材113は、軸方向Sに関して第1の軸受31の外輪312を剛的に支持する剛性部材を構成している。ねじ部材113は、入力部材本体201を出力部材22に向けて付勢することにより、第1の凸部651,652および第1の凹部661,662の間、並びに第2の凸部681,682および第2の凹部691,692の間のそれぞれに予圧を付与する。
【0062】
ねじ部材113の外周面に形成された雄ねじ部113aが、第1のハウジング51の一端の環状凸部89の内周に形成された軸受保持孔134の雌ねじ部134aに螺合している。これにより、ねじ部材113は、第1のハウジング51の軸受保持孔134に保持された第1の軸受31の外輪312の一端面を付勢方向Hに付勢(押圧)している。第1の軸受31の外輪312は、軸受保持孔134に対して回転可能且つ軸方向Sに相対移動可能とされている。ねじ部材113に隣接してロックナット135が設けられている。ロックナット135は、雌ねじ部134aに螺合した状態でねじ部材113の回転を規制している。
【0063】
第1の軸受31の内輪311は、筒状部材202の一端に圧入等されることにより同行回転可能に連結されており、この筒状部材202を介して、入力部材本体201とは同行回転可能且つ軸方向Sに同行移動可能とされている。この内輪311は、入力部材本体201の一端部に当接しており、入力部材本体201を付勢方向Hに押圧している。
また、第1の凸部651,652は、第1の凹部661,662と付勢方向Hに対向している。同様に、第2の凹部691,692は、第2の凸部681,682と付勢方向Hに対向している。出力部材22には、第3の軸受33の内輪331が圧入固定されている。出力部材22は、その中央部の段部が内輪331の一端面に当接しており、内輪331を付勢方向Hに押圧している。第3の軸受33の外輪332は、外輪332を付勢方向Hに移動可能に保持する軸受保持孔110に隣接配置された環状の段部114に受けられており、付勢方向Hへの移動が規制されている。出力部材22の付勢方向Hへの移動は、第3の軸受33によって規制されている。
【0064】
上記の構成により、ねじ部材113の付勢力は、第1の軸受31の外輪312および転動体を介して内輪311に伝わり、さらに入力部材本体201に伝わる。入力部材本体201に伝わった付勢力は、第1の凸部651,652および第1の凹部661,662、並びに、第2の凹部691,692および第2の凸部681,682の順に伝わり、さらに第3の軸受33の内輪331、転動体および外輪332に伝わる。第3の軸受33の外輪332に伝わった付勢力は、環状の段部114によって受けられる。
【0065】
ねじ部材113の付勢力により軌道輪ユニット39の内輪391が付勢方向Hへ移動することに伴い、軌道輪ユニット39の転動体393、外輪392および伝達比可変機構用モータ23のロータ231が、付勢方向Hに同行移動するようになっている。
具体的には、軌道輪ユニット39の外輪392が、ロータコア85の傾斜孔63に圧入固定されている。これにより、ロータコア85は、外輪392を第1の軸線Aの回りに同行回転可能且つ軸方向Sに同行移動可能に保持している。
【0066】
また、第2の軸受32および第4の軸受34のそれぞれの外輪322,342は、ロータコア85の対応する環状の被保持孔87,90に遊嵌されており、ロータコア85を軸方向Sに相対移動可能に支持している。第2の軸受32の内輪321は、環状凸部89の軸受保持部88に圧入固定されている。第4の軸受34の内輪341は、第2のハウジング52の環状の延伸部92の軸受保持部91に圧入固定されている。
【0067】
なお、ねじ部材113を用いて、出力部材22を入力部材本体201に近づける付勢方向(付勢方向Hとは反対の方向)に付勢してもよい。この場合、ねじ部材113は、第3の軸受33を保持する軸受保持孔110にねじ込まれる。ねじ部材113の付勢力は、第3の軸受33、出力部材22、第2の凸部681,682および第2の凹部691,692、第1の凹部661,662および第1の凸部651,652、入力部材本体201、第1の軸受31の内輪311、転動体および外輪312の順に伝わり、第1のハウジング51によって受けられる。
【0068】
また、内輪391の付勢方向Hへの移動を、支持機構133によって妨げられることがないようにされている。具体的には、支持機構133の第8の軸受38の外輪382は、筒状部材202の軸受保持孔109に遊嵌されており、軸受保持孔109に対して軸方向Sに相対移動可能とされている。第8の軸受38の内輪381は、第2のシャフト12の対向端部12aに圧入固定されている。なお、第8の軸受38の外輪382を軸受保持孔109に圧入固定し、内輪381を対向端部12aに遊嵌してもよい。
【0069】
トルクセンサ44は、伝達比可変機構用モータ23のロータコア85の径方向内方に配置されており、第2のシャフト12の中間部に固定された多極磁石115と、第3のシャフト13の一端に支持され、多極磁石115が発生する磁界内に配置されて磁気回路を形成する一対の軟磁性体としての磁気ヨーク116,117と、を含んでいる。
多極磁石115は、円筒形状の永久磁石であり、複数の極(N,Sそれぞれ同じ極数)が周方向に等間隔で着磁されている。
【0070】
磁気ヨーク116,117は、多極磁石115に対して、この多極磁石115の径方向に所定の隙間を隔てて対向しており、多極磁石115を取り囲んでいる。各磁気ヨーク116,117は、合成樹脂部材118にモールドされている。合成樹脂部材118は、第3のシャフト13の一端に同行回転可能に連結されている。
トルクセンサ44は、磁気ヨーク116,117からの磁束を誘導する一対の集磁リング119,120をさらに含んでいる。これら一対の集磁リング119,120は、軟磁性体を用いて形成された環状の部材であり、磁気ヨーク116,117を取り囲んでこれらの磁気ヨーク116,117にそれぞれ磁気的に結合されている。
【0071】
一対の集磁リング119,120は、軸方向Sに離隔して相対向している。集磁リング119,120は、合成樹脂部材121によりモールドされている。合成樹脂部材121は、第2のハウジング52の環状の延伸部92に保持されている。
第2および第3のシャフト12,13の相対回転量に応じて磁気ヨーク116,117に磁束が生じるようになっており、この磁束は、集磁リング119,120により誘導され、合成樹脂部材121に埋設されたホールIC(図示せず)により検出される。これにより、第2のシャフト12(操舵部材)に加えられたトルクに応じた磁束密度を検出することが出来る。
【0072】
図2を参照して、トルクセンサ44に対して軸方向Sの他方S2側に第5の軸受35が配置されている。第5の軸受35は、第3のシャフト13の一端の外周に形成された軸受保持部122と、第2のハウジング52の隔壁部93に形成された軸受保持孔123との間に介在している。軸受保持孔123は、第5の軸受35を介して第3のシャフト13の一端を回転可能に支持している。
【0073】
第3のシャフト13は、第2のシャフト12およびトーションバー14を取り囲んでいる。具体的には、第3のシャフト13に、この第3のシャフト13の一端に開放された挿通孔124が形成されている。挿通孔124には、第2のシャフト12の他端部が挿通されている。第2のシャフト12には軸方向Sに延びる挿通孔125が形成されており、この挿通孔125にトーションバー14が挿通されている。
【0074】
トーションバー14の一端は、第2のシャフト12の挿通孔125の一端にセレーション嵌合等により同行回転可能に連結されている。トーションバー14の他端は、第3のシャフト13の挿通孔124にセレーション嵌合等により同行回転可能に連結されている。 第2のハウジング52の環状の延伸部92の径方向内方の空間が、トルクセンサ収容室126とされており、トルクセンサ収容室126への潤滑剤の侵入を抑制するための構造がさらに設けられている。
【0075】
具体的には、第2のハウジング52の環状の延伸部92の一端に配置されたシール付き第3の軸受33と、第3の軸受33の径方向内方に配置された出力部材22と、出力部材22の径方向内方に配置された第2のシャフト12とによって、トルクセンサ収容室126の一端が閉じられている。また、シール付き第5の軸受35と、第5の軸受35の径方向内方に配置された第3のシャフト13と、第3のシャフト13の挿通孔124を塞ぐトーションバー14とによって、トルクセンサ収容室126の他端が閉じられている。
【0076】
上記の構成により、第1の凹部661,662、第2の凹部691,692および溝301,302等に充填された潤滑剤が、トルクセンサ収容室126に侵入してくることを抑制でき、且つ減速機構26のウォーム軸27およびウォームホイール28の噛み合い領域に充填された潤滑剤がトルクセンサ収容室126に侵入してくることを抑制できる。
第2のシャフト12と第3のシャフト13とは、第6の軸受36を介して相対回転可能に互いに支持されている。第6の軸受36は、減速機構26のウォームホイール28に取り囲まれている。減速機構26は、第3のハウジング53の外周部127および端壁部61、ならびに第2のハウジング52の隔壁部93によって区画された収容室128に収容されている。ウォームホイール28の一部と第6の軸受36とは、軸方向Sに関する位置が重なり合っている。
【0077】
第3のシャフト13の中間部と第3のハウジング53の端壁部61との間に第7の軸受37が介在している。端壁部61は、第7の軸受37を介して第3のシャフト13を回転可能に支持している。
第7の軸受37の内輪371は、第3のシャフト13の外周部に形成された環状の段部129と、第3のシャフト13の外周部に螺合されたナット部材130とによって挟持されている。第7の軸受37の外輪372は、第3のハウジング53に形成された環状の段部131と第3のハウジング53に保持された止め輪132とによって挟持されている。
【0078】
次に、車両用操舵装置1の動作の一例について説明する。なお、以下では、(i)伝達比可変機構用モータ23のロータ231の回転が規制されている場合と、(ii)伝達比可変機構用モータ23のロータ231が回転しており、且つ入力部材20の回転が規制されている場合と、(iii)伝達比可変機構用モータ23のロータ231が回転しており、且つ入力部材20が回転している場合と、を説明する。
【0079】
上記(i),(ii),(iii)の何れの場合も、第1の凸部651、652の合計数が38で第1の凹部661,662の合計数が40とされ、且つ第2の凸部681,682の合計数が40で第2の凹部691,692の合計数が40とされているものとして説明する。
上記(i)の場合、すなわち、ロック機構58によって伝達比可変機構用モータ23のロータ231の回転が規制されている場合において操舵部材の操作により第1のシャフト11が回転すると、入力部材本体201の第1の凸部651,652が第1の軸線Aの回りを回転する。このとき、軌道輪ユニット39は第1の軸線Aの回りを回転するコリオリ運動をせず、内輪391のみがその第2の軸線B回りを回転する。この回転により、第1の凹部661,662が設けられている内輪391が回転し、さらに第2のシャフト12を回転させる。
【0080】
その結果、入力部材20が1回転したときに内輪391が38/40回転する。このとき、出力部材22は、38/40回転する。すなわち、入力部材20の回転が19/20に減速される。
上記(ii)の場合、すなわち、伝達比可変機構用モータ23のロータ231が回転しており、且つ運転者が操舵部材を保持していることにより入力部材20の回転が規制されている場合、ロータ231が第1の軸線Aの回りを回転することにより、軌道輪ユニット39がコリオリ運動する。これにより、内輪391が入力部材20と出力部材22とを互いに逆回転させようとする。しかしながら、入力部材20の回転が規制されていることにより、出力部材22のみが回転する。
【0081】
このとき、第1の凹部661,662の合計数が第1の凸部651,652の合計数と比べて2つ多くされている結果、軌道輪ユニット39の外輪392が1回転しているときに、内輪391は上記の歯数差(2つ)に相当する量だけ位相が進むことになる。これが内輪391の回転になる。その結果、外輪392が1回転したときに、内輪391は上記の歯数差に相当する量だけ回転し、出力部材22は2/40回転する。以上より、伝達比可変機構用モータ23のロータ231の回転が1/20に減速されて出力される。
【0082】
上記(iii)の場合、すなわち、伝達比可変機構用モータ23のロータ231が回転しており、且つ運転者が操舵部材を操舵していることにより入力部材20が回転している場合には、出力部材22の回転量は、上記(ii)の回転量に入力部材20(操舵部材)の回転量を加えた値となる。
これにより、車両が比較的低速で走行している場合等には、伝達比(θ2/θ1)を大きくして運転者による操舵部材2の操作量を少なくして転舵することができる。
【0083】
また、車両が比較的高速で走行している場合には、例えば、操舵角θ1と車両のヨーレートγとを比較し、車両の挙動を判定する。その結果、操舵角θ1から判定される車両の挙動と検出されたヨーレートγから判定される車両の挙動とが一致していないときには、伝達比可変機構用モータ23のロータ231の回転を増速したり、減速したりすることにより、車両のスタビリティコントロール(姿勢安定制御)を行う。なお、このとき、カウンタステア操作が行われるように伝達比可変機構用モータ23のロータ231の駆動を制御することもできる。
【0084】
本実施の形態によれば、直進走行時に、入力部材20と内輪391との間で互いに嵌合する第1の領域P1,Q1の第1の凸部651および第1の凹部661の硬度を相対的に高くしてあるので、入力部材20および内輪391の第1の動力伝達面70,71におけるフレッティング摩耗の発生を抑えることができる。また、直進走行時に、出力部材22と内輪391との間で互いに嵌合する第1の領域U1,W1の第2の凸部681および第2の凹部691の硬度を相対的に高くしてあるので、出力部材22および内輪391の第2の動力伝達面72,73におけるフレッティング摩耗の発生を抑えることができる。
【0085】
しかも、上記の硬度差を材質変更により容易に達成している。すなわち、第1の領域P1の嵌合可能部としての第1の凸部651の材質と、第2の領域P2の嵌合可能部としての第1の凸部652の材質とを異ならせ、また、第1の領域U1の嵌合可能部としての第2の凸部681の材質と、第2の領域U2の嵌合可能部としての第2の凸部682の材質とを異ならせることにより、硬度差を容易に達成することができる。
【0086】
また、内輪391を内輪本体391Aと高硬度部材391B,391Cで構成することにより、第1の領域Q1の嵌合可能部としての第1の凹部661の材質と、第2の領域Q2の嵌合可能部としての第1の凹部662の材質とを異ならせ、また、第1の領域W1の嵌合可能部としての第2の凹部691の材質と、第2の領域W2の嵌合可能部としての第2の凹部692の材質とを異ならせ、これにより、硬度差を容易に達成している。
【0087】
特に、第1の凸部651,652および第2の凸部681,682を、ころ部材311,312;321,322を用いて構成しているので、硬度差の設定は格段に容易である。
また、第1の領域P1,Q1の嵌合可能部としての第1の凸部651および第1の凹部661がセラミックスで構成されている場合や、第1の領域U1,W1の嵌合可能部としての第2の凸部681および第2の凹部691がセラミックスで構成されている場合には、フレッティング摩耗を格段に低減することができる。
【0088】
図12は本発明の別の実施の形態を示している。図12を参照して、本実施の形態が図7の実施の形態と異なるのは、下記である。すなわち、第1の凸部6510,6520を入力部材20の入力部材本体201とは単一の材料で一体に形成している。また、第1の領域P1の第1の凸部6510の表面が、第2の領域P2の第1の凸部6520の表面よりも高い硬度を有する高硬度層700により形成されている。高硬度層700としては、例えばセラミックスの被覆層であってもよいし、浸炭窒化層であってもよい。セラミックスとしては、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、アルミナを例示することができる。図示していないが、第1の凸部6510と同じ構成を、第2の凸部681に適用するようにしてもよい。
【0089】
また、高硬度部材391Bを廃止し、第1の領域Q1の第1の凹部6610の表面が、第2の領域Q2の第1の凹部662の表面よりも高い硬度を有する高硬度層701により形成されている。高硬度層701としては、例えばセラミックスの被覆層であってもよいし、浸炭窒化層であってもよい。セラミックスとしては、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア、アルミナを例示することができる。図示していないが、第1の凹部6610と同じ構成を、第2の凹部691に適用するようにしてもよい。
【0090】
本実施の形態では、図7と同じ作用効果を奏して、フレッティング摩耗を低減することに加えて、伝達比可変機構5の部品点数を少なくすることができ、伝達比可変機構5の組付けを容易にすることができるという利点がある。また、副次効果として、直進走行のときのステアリング剛性が向上するので、直進安定性が向上するという利点がある。
上記の各実施の形態においては、第1の領域の材質を変更することにより、第1の領域の嵌合可能部としての凸部および凹部のフレッティング摩耗を防止したが、これに付加して、第1の領域の嵌合可能部間の嵌合力を第2の領域の嵌合可能部間の嵌合力よりも大きくすることより、第1の領域の嵌合可能部間の結合剛性を高め、これにより、フレッティング摩耗の防止効果をより高めるようにしてもよい。
【0091】
例えば、図13に示すように、第1の動力伝達面70,71の第1の領域P1,Q1の嵌合可能部としての第1の凸部651Aおよび第1の凹部661間の嵌合力が、第2の領域P2,Q2の嵌合可能部としての第1の凸部652および第1の凹部662間の嵌合力よりも大きくされている。
具体的には、動力伝達面70において、第1の領域P1の第1の凸部651Aを構成するころ部材311Aの例えば一端の径R1が、第2の領域の第1の凸部652を構成するころ部材312の同側端の径R2よりも大きくされていることにより(R1>R2)、第1の領域P1,Q1の第1の凸部651Aおよび第1の凹部661間の嵌合が、第2の領域P2,Q2の第1の凸部652および第1の凹部662間の嵌合よりも強い嵌合とされている。径R1と径R2の差は、10μm〜30μm程度が好ましい。
【0092】
逆に、図14に示すように、動力伝達面71において、第1の領域Q1の第1の凹部661Aの径R5が、第2の領域Q2の第1の凹部662の径R6の径R6よりも小さくされていることにより(R5<R6)、第1の領域P1,Q1の第1の凸部651および第1の凹部661A間の嵌合が、第2の領域P2,Q2の第1の凸部652および第1の凹部662間の嵌合よりも強い嵌合とされていてもよい。径R5と径R6の差は、10μm〜30μm程度が好ましい。
【0093】
また、図15に示すように、図13に示した第1の領域P1の第1の凸部651Aを構成するころ部材331Aの径R1を相対的に大きくする構成(R1>R2)と、図14に示した第1の領域Q1の第1の凹部661Aの径R5を相対的に小さくする構成(R5<R6)とを組み合わせて採用してもよい。
また、図13〜図15の何れかと同じ構成を採用することにより、第2の動力伝達面72,73の第1の領域U1,W1の嵌合可能部間の嵌合力を第2の領域U2,W2の嵌合可能部間の嵌合力よりも大きくし、フレッティング摩耗の防止効果を高めるようにしてもよい。
【0094】
また、図13〜図15の何れかの構成を採用した場合には、操舵部材2を回動操作しているときに、操舵角θ1が操舵中心を含む所定の範囲内の領域(例えば図13において第1の領域P1,Q1の第1の凸部651Aと第1の凹部661が嵌合している場合に相当)を通過中は、検出される操舵トルクTが一旦大きくなり、上記所定の範囲の通過後は、検出される操舵トルクTが小さくなる。このため、上記の操舵トルクTに基づいて、操舵補助用モータ25を操舵補助制御していると、上記の通過中のアシスト力が大きく、通過後のアシスト力が小さくなるため、操舵フィーリングに違和感を生ずるおそれがある。
【0095】
そこで、操舵補助制御に関して、下記の制御を実施することが好ましい。すなわち、図16を参照して、各センサの検出値(具体的には操舵角θ1、車速Vおよび操舵トルクT)を入力し(ステップS1)、予め記憶されたマップ(操舵トルクTと操舵補助用モータ25の出力との関係を車速V毎に記憶したマップ)に基づいて操舵補助用モータ25の出力を設定する(ステップS2)。
【0096】
そして、操舵部材2を回動操作しているときに、検出された操舵角θ1が操舵中心を含む所定の範囲内(−θa<θ1<θa)にあれば(ステップS3でYESの場合)、検出された操舵トルクTに対して操舵補助用モータ25の出力を一旦小さくするように補正する(ステップS4)。一方、検出された操舵角θ1が操舵中心を含む上記所定の範囲内(−θa<θ1<θa)にないときは(ステップS3でNOの場合)、操舵補助用モータ25の出力を、ステップS2で設定された出力通り(通常の出力)とする。
【0097】
このようにして設定された出力になるように、操舵補助用モータ25を操舵補助制御する(ステップS5)。
これにより、操舵角θ1が上記所定の範囲を通過中のときと、通過前または通過後のときとの間で、操舵部材2の操舵反力の変化を小さくすることができ、操舵フィーリングを向上することができる。
【0098】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、例えば、第1の動力伝達面70に嵌合可能部としての第1の凹部が設けられ、第1の動力伝達面71に嵌合可能部としての第1の凸部が設けられていてもよい。同様に、第2の動力伝達面72に嵌合可能部としての第2の凹部が設けられ、第2の動力伝達面73に嵌合可能部としての第2の凸部が設けられていてもよい。
【0099】
また、入力部材本体201および筒状部材202が単一の材料で一体に形成されて入力部材を構成していてもよい。また、上記の実施の形態では、中間部材が内輪自身であったが、中間部材が内輪と同行回転する部材であってもよい。
また、上記の実施の形態では、中間部材を内輪または内輪と同行回転する部材としたが、これに代えて、中間部材を外輪または外輪と同行回転する部材としてもよい。この場合、伝達比可変機構用モータ23は内輪を駆動することになる。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の一実施の形態にかかる車両用操舵装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】図1の要部のより具体的な構成を示す断面図である。
【図3】図2の伝達比可変機構およびその周辺の拡大図である。
【図4】伝達比可変機構の一部を断面で表した側面図である。
【図5】入力部材および内輪の要部の分解斜視図である。
【図6A】入力部材の第1の動力伝達面の概略図である
【図6B】内輪の第1の動力伝達面の概略図である。
【図7】第1の動力伝達面の第1の領域の第1の凸部と第1の凹部との噛み合いを示す概略側面図である。
【図8】互いに噛み合う第1の凸部と第1の凹部の断面図である。
【図9】出力部材および内輪の要部の分解斜視図である。
【図10A】出力部材の第2の動力伝達面の概略図である。
【図10B】内輪の第2の動力伝達面の概略図である。
【図11】第2の動力伝達面の第1の領域の第1の凸部と第1の凹部との噛み合いを示す概略側面図である。
【図12】本発明の別の実施の形態において、第1の動力伝達面の第1の領域の第1の凸部と第1の凹部との噛み合いを示す概略側面図である。
【図13】本発明のさらに別の実施の形態において、入力部材および内輪の要部の分解斜視図である。
【図14】本発明のさらに別の実施の形態において、入力部材および内輪の要部の分解斜視図である。
【図15】本発明のさらに別の実施の形態において、入力部材および内輪の要部の分解斜視図である。
【図16】図13から図15の実施の形態の何れかと組み合わされる操舵補助制御の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0101】
1…車両用操舵装置、2…操舵部材、4L,4R…転舵輪、5…伝達比可変機構、10…転舵機構、11…第1のシャフト(第1の軸)、12…第2のシャフト(第2の軸)、19…操舵補助力付与機構、20…入力部材、22…出力部材、23…伝達比可変機構用モータ、25…操舵補助用モータ、651,6510,651A…(第1の領域の)第1の凸部(嵌合可能部)、652,6520…(第2の領域の)第1の凸部(嵌合可能部)、661,6610,661A…(第1の領域の)第1の凹部(嵌合可能部)、662…(第2の領域の)第1の凹部(嵌合可能部)、681…(第1の領域の)第2の凸部(嵌合可能部)、682…(第2の領域の)第2の凸部(嵌合可能部)、691…(第1の領域の)第2の凹部(嵌合可能部)、692…(第2の領域の)第2の凹部(嵌合可能部)、70…(入力部材の)第1の動力伝達面、71…(中間部材の)第1の動力伝達面、72…(出力部材の)第2の動力伝達面、73…(中間部材の)第2の動力伝達面、133…支持機構、201…入力部材本体、202…筒状部材、301,302…溝、311,311A…(第1の領域の第1の凸部を形成する)ころ部材、312…(第2の領域の第1の凸部を形成する)ころ部材、321…(第1の領域の第2の凸部を形成する)ころ部材、322…(第2の領域の第2の凸部を形成する)ころ部材、391…内輪、391A…内輪本体、391B,391C…高硬度部材、392…外輪、393…転動体、700,701…高硬度層、800…グリース溜まり部、A…第1の軸線、B…第2の軸線、θ1…操舵角、θ2…転舵角、θ2/θ1…伝達比、R1…(第1の領域の第1の凸部を形成する)ころ部材の径、R2…(第2の領域の第1の凸部を形成する)ころ部材の径、R5…(第1の領域の第1の凹部の)径、R6…(第2の領域の第1の凹部の)径、T…操舵トルク、V…車速
【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵部材の操舵角に対する車輪の転舵角の比である伝達比を変更可能な伝達比可変機構を備え、
この伝達比可変機構は、操舵部材に連結され第1の軸線の回りに回転可能な入力部材と、車輪に連結され第1の軸線の回りに回転可能な出力部材と、入力部材および出力部材の間に介在し両部材の差動回転を許容するように両部材を連結する中間部材と、を含み、
中間部材は、第1の軸線に対して傾斜した第2の軸線の回りに回転可能であり、
入力部材および中間部材は、互いに嵌合可能な嵌合可能部を有する環状の第1の動力伝達面をそれぞれ含み、
出力部材および中間部材は、互いに嵌合可能な嵌合可能部を有する環状の第2の動力伝達面をそれぞれ含み、
第1の動力伝達面および第2の動力伝達面のそれぞれは、操舵角が操舵中心を含む所定の角度範囲内にあるときに互いに嵌合する第1の領域と、操舵角が上記所定の角度範囲外にあるときに互いに嵌合する第2の領域とを含み、
第1の領域にある嵌合可能部が第2の領域にある嵌合可能部よりも硬くされていることを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項2】
請求項1において、上記第1の領域の嵌合可能部の材質および第2の領域の嵌合可能部の材質が互いに異なっていることを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項3】
請求項2において、上記第1の領域の嵌合可能部はセラミックスを含むことを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項において、上記第1の領域の嵌合可能部の嵌合力が第2の領域の嵌合可能部の嵌合力よりも大きくされていることを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項5】
請求項4において、上記第1の動力伝達面および第2の動力伝達面の少なくとも一方の嵌合可能部は、互いに嵌合する凸部および凹部を含み、
第1の領域の凸部および第1の領域の凹部の嵌合が、第2の領域の凸部および第2の領域の凹部の嵌合よりも強い嵌合となるように、第1の領域の凸部を第2の領域の凸部よりも大きくするか、または第1の領域の凹部を第2の領域の凹部よりも小さくするかの少なくとも一方とされていることを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項6】
請求項5において、上記凸部はころ部材により形成され、
第1の領域の凸部を形成するころ部材の径が、第2の領域の凸部を形成するころ部材の径よりも大きくされていることを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項1】
操舵部材の操舵角に対する車輪の転舵角の比である伝達比を変更可能な伝達比可変機構を備え、
この伝達比可変機構は、操舵部材に連結され第1の軸線の回りに回転可能な入力部材と、車輪に連結され第1の軸線の回りに回転可能な出力部材と、入力部材および出力部材の間に介在し両部材の差動回転を許容するように両部材を連結する中間部材と、を含み、
中間部材は、第1の軸線に対して傾斜した第2の軸線の回りに回転可能であり、
入力部材および中間部材は、互いに嵌合可能な嵌合可能部を有する環状の第1の動力伝達面をそれぞれ含み、
出力部材および中間部材は、互いに嵌合可能な嵌合可能部を有する環状の第2の動力伝達面をそれぞれ含み、
第1の動力伝達面および第2の動力伝達面のそれぞれは、操舵角が操舵中心を含む所定の角度範囲内にあるときに互いに嵌合する第1の領域と、操舵角が上記所定の角度範囲外にあるときに互いに嵌合する第2の領域とを含み、
第1の領域にある嵌合可能部が第2の領域にある嵌合可能部よりも硬くされていることを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項2】
請求項1において、上記第1の領域の嵌合可能部の材質および第2の領域の嵌合可能部の材質が互いに異なっていることを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項3】
請求項2において、上記第1の領域の嵌合可能部はセラミックスを含むことを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項において、上記第1の領域の嵌合可能部の嵌合力が第2の領域の嵌合可能部の嵌合力よりも大きくされていることを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項5】
請求項4において、上記第1の動力伝達面および第2の動力伝達面の少なくとも一方の嵌合可能部は、互いに嵌合する凸部および凹部を含み、
第1の領域の凸部および第1の領域の凹部の嵌合が、第2の領域の凸部および第2の領域の凹部の嵌合よりも強い嵌合となるように、第1の領域の凸部を第2の領域の凸部よりも大きくするか、または第1の領域の凹部を第2の領域の凹部よりも小さくするかの少なくとも一方とされていることを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項6】
請求項5において、上記凸部はころ部材により形成され、
第1の領域の凸部を形成するころ部材の径が、第2の領域の凸部を形成するころ部材の径よりも大きくされていることを特徴とする車両用操舵装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2009−179108(P2009−179108A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−18065(P2008−18065)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
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