説明

車両用断熱吸音材

【課題】 鉄道車両や自動車等の動力源から発生するノイズやロードノイズを低減するとともに、動力源または外部の熱を遮断する車両用防音断熱材を提供する。
【解決手段】 少なくても耐炎化繊維を20重量%以上、熱接着性繊維を30重量%以上含む繊維を混綿して形成した繊維層の少なくても片面側に、繊維層の厚さに対して少なくても表面から10%の範囲まで浸透するように水ガラス溶液を吹付けたのち、乾燥して成る車両用断熱吸音材。また、前記繊維層の嵩密度が10kg/m以下としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両や自動車等に用いられる車両用断熱吸音材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両や自動車等には、動力源から発生するノイズやロードノイズを低減するとともに、動力源または外部の熱を遮断することを目的として、各種の断熱吸音材が用いられている。例えば、コア材にポリエステル繊維等の熱可塑性有機繊維を主構成材料とする不織布マットを用い、表層材に耐炎化アクリル繊維からなる不織布マットを用い、コア材の片面又は両面に表層材をニードルパンチ加工により接合する車両用防音断熱材及びその表層材が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、繊維径7μm以下の無機質繊維と繊維状バインダー樹脂とを解繊、混合と同時に脱粒子した繊維層の上下面にガラス繊維層を積層した後に加熱一体化する、断熱吸音材が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2005−246952号公報
【特許文献2】特開平5−318639号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示す車両用防音断熱材は、コア材にポリエステル繊維等の熱可塑性有機繊維を主構成材料とする不織布マットを用い、表層材に耐炎化アクリル繊維からなる不織布マットを用いている。しかしながら、表層材を難燃性繊維のみとするか、難燃性繊維と他繊維との混合とする場合でも、難燃性繊維を70重量%以上用いないと充分な断熱性が得られないので、材料コストが高くなるという問題点があった。
【0005】
また、特許文献2に示す断熱吸音材は、繊維径7μm以下の無機質繊維と繊維状バインダー樹脂とを解繊、混合と同時に脱粒子した繊維層の上下面にガラス繊維層を積層した後に加熱一体化したものである。しかしながら、ガラス繊維を使用していることから、取扱い時に繊維が折れて皮膚や衣服に付着し、チクチクするという欠点があった。そこで、バインダー樹脂としてフェノール樹脂を付着させたロックウールを使用しているが、ロックウールは腰がなく繊維が弱いことから、熱プレス等の加圧成形をした際に所定の強度を発現できないことや、ロックウールの製造時に発生する粒状物の存在により、同等の重量のガラス繊維と比較して断熱性や吸音率が悪いという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両用断熱吸音材は、少なくとも耐炎化繊維を20重量%以上、熱接着性繊維を30重量%以上含む繊維を混綿して形成した繊維層の少なくても片面側に、繊維層の厚さに対して少なくても表面から10%の範囲まで浸透するように水ガラス溶液を吹付けたのち、乾燥して成ることを特徴としている。また、前記繊維層の嵩密度が10kg/m以下であることを特徴としている。
【0007】
図1は本発明の車両用断熱吸音材の正面図であり、車両用断熱吸音材1は、繊維層2と、該繊維層2の片面または両面に吹付けられた水ガラス溶液浸透層3より構成されている。耐炎化繊維としては、合成繊維であるアクリル長繊維等から作られたPAN(パン)系酸化繊維、または石炭タールや石油ピッチから作られたピッチ系炭素繊維を用いることができる。例えば、PAN系酸化繊維では、原料の繊維を200〜300℃で、空気中でじっくり熱処理すると火や熱に強い構造を有する耐炎化繊維となる。
【0008】
熱接着性繊維としては、ポリエステル系の熱接着性繊維を用いている。ポリエステルからなる熱接着性繊維は、耐候性、機械的特性、耐久性等に優れており、不織布、詰め綿、紡績糸、布帛等の広い分野において主体繊維と混合されて使用されている。ポリエステル系の熱接着性繊維としては、芯部が高融点のポリエステル、鞘部に低融点のポリエステルを配してなるものが一般的であるが、本発明では、芯が通常のポリエステル、鞘が低融点の共重合ポリエステルあるいはポリエチレンからなる芯鞘複合の熱融着短繊維を用いることが望ましい。そして、主体となる高融点短繊維と混合して繊維集合体を形成したあと、鞘部のみが溶融するような温度で熱処理して繊維同士を接着させ、繊維集合体に強度、剛性を与えて所望の形状に成型する。
【0009】
耐炎化繊維と熱接着性繊維と、主体繊維としてポリエチレンテレフタレート(PET)を混綿したのち、不織布用ローラーカードとクロスレイヤーで繊維層を形成する。この繊維層の嵩密度は10kg/m以下とする。車両用断熱吸音材は、低密度であるとともに、繊維層が厚み方向に積層されているにも拘らず、厚み方向の引張り強度が高いという特徴がある。車両用断熱吸音材の嵩密度は、一般的に5〜20kg/mであるが、本発明では特に軽量化を図るため嵩密度を10kg/m以下としている。
【0010】
本発明の車両用断熱吸音材は、低嵩密度であるため、軽量であるとともに、復元性およびクッション性による圧縮反発性、厚み方向の引張り強度が高く、被断熱部位に介在または介装すると被断熱部位に容易に密着する。そのため、現場での施工性を高めることができるとともに、外部から振動などが作用しても被断熱部位との高い密着性を維持でき、位置ずれや偏りを防止でき、振動耐久性が高い。また、断熱材を被断熱部位に配設すると、厚み方向に前記綿状繊維シートが積層されているため、伝熱方向に対して各繊維シートが直交する方向に延びている。そのため、熱の遮蔽効果及び断熱性が高い。
【0011】
本発明の車両用断熱吸音材は、繊維層の片面または両面に、繊維層の厚さに対して少なくても表面から10%の範囲まで浸透するように水ガラス溶液をスプレーガン等により吹付けている。前記水ガラスの成分はケイ酸ソーダであり、水ガラスの付着量が少なくても片面側に50g/m以上としている。次に、水ガラスが吹付けられた繊維層を、風乾、熱風乾燥または高周波加熱乾燥、あるいは、これらの併用により行うことを特徴としている。これにより、熱の遮蔽効果及び断熱性を高めることができる。
【0012】
本発明の車両用断熱吸音材は、前記繊維層が、その面方向にジグザグに折り畳んで形成されており、繊維方向が厚さ方向に配向度が80%以上で配向していることを特徴とする車両用断熱吸音材である。すなわち、図2に示すように面方向にジグザグに折り畳まれた形状をしており、しかも全体として一体に密着成形されているので、層間剥離が生ずるようなことはない。また、上記折り畳み方向には、面方向の圧縮性があり、従って断熱吸音材の厚さが設置場所の厚さ(空間)より厚い場合でも、該方向に圧縮することによって設置することができる。さらに、折り畳まれた面方向に優れた可撓性を示すので、設置場所が湾曲している場合でも、この湾曲に沿わせて容易に取り付けすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の車両用断熱吸音材は、低嵩密度であるため、軽量であるとともに、復元性およびクッション性による圧縮反発性、厚み方向の引張り強度が高く、被断熱部位に介在または介装すると被断熱部位に容易に密着する。そのため、現場での施工性を高めることができるとともに、外部から振動などが作用しても被断熱部位との高い密着性を維持でき、位置ずれや偏りを防止でき、振動耐久性が高い。また、断熱材を被断熱部位に配設すると、厚み方向に前記綿状繊維シートが積層されているため、伝熱方向に対して各繊維シートが直交する方向に延びているため、熱の遮蔽効果及び断熱性が高い。
【0014】
また、前記繊維層が、その面方向にジグザグに折り畳んで形成されており、繊維方向が厚さ方向に配向度が80%以上で配向している。上記折り畳み方向には、面方向の圧縮性があり、従って断熱吸音材の厚さが設置場所の厚さ(空間)より厚い場合でも、該方向に圧縮することによって設置することができる。さらに、折り畳まれた面方向に優れた可撓性を示すので、設置場所が湾曲している場合でも、この湾曲に沿わせて容易に取り付けすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の車両用断熱吸音材は、少なくても耐炎化繊維を20重量%以上、熱接着性繊維を30重量%以上含む繊維を混綿して繊維層を形成する。前記繊維層の片面側または両面側には、繊維層の厚さに対して少なくても表面から10%の範囲まで浸透するように水ガラス溶液を吹付けたのち乾燥したものである。車両軽量化に対応させるために、前記繊維層の嵩密度は10kg/m以下としている。また、耐圧縮性と吸音性を向上させるために、前記繊維層は、その面方向にジグザグに折り畳んで形成されており、繊維方向が厚さ方向に80%以上の配向度で配向している。前記水ガラスの成分はケイ酸ソーダであり、水ガラスの付着量は少なくても片面側に50g/m以上としている。また、前記乾燥は、風乾、熱風乾燥または高周波加熱乾燥、あるいは、これらの併用により行うことを特徴としている。
【0016】
耐炎化繊維を20重量%と、熱接着性繊維を40重量%と、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維を40重量%とを混綿して繊維層を形成し、この繊維層に水ガラス付着量を変化させて付着させたところ、表1に示すような結果が得られた。不燃性の判断基準として熱伝播係数が25以下で合格となるが、水ガラス付着量を50g/m以上とすることにより達成できることが判明した。なお、表記していないが、耐炎化繊維が0重量%の場合は、水ガラスを100g/m噴霧しても、熱伝播係数は300となり不燃性は不合格になっている。ただし、実用的には水ガラス付着量を75〜125g/mとすることが望ましい。
【0017】
【表1】

【0018】
図3は、試験片8個について、ASTM、E162に基づく燃焼試験を行った結果を示したものである。図3において、水ガラスの付着量は両面とも100g/mである。耐炎化繊維は東邦テナックス製パイロメックス、熱接着性ポリエステル繊維はユニチカ製メルティ、レギュラーPETは帝人製ポリエチレンテレフタレートを用いた。図3に示すように、水ガラスを付着していない試験片1、2は熱伝熱係数が483.72、271.45となり不合格となった。また、水ガラスを付着させた試験片7でも耐炎化繊維が0重量%の場合は、熱伝熱係数が235.05となり不合格となった。
【実施例】
【0019】
(実施例1)
耐炎化繊維(東邦テナックス製パイロメックス、2D×76)20%、熱接着性ポリエステル繊維(ユニチカ製メルティ、4D×51)40%、レギュラーPET(ポリエチレンテレフタレート)(帝人製10D×51)を混綿した後、不織布用ローラーカードとクロスレイヤーにて目付150g/mの繊維層を作成した。さらに、VLAP形成装置で厚さ50mm、目付500g/mの不織布を得た。この不織布の両面に水ガラスをスプレーで100g/m(NET)ずつ付着させ、熱風乾燥させて断熱吸音材を得た。表1に示す熱伝播係数は2.56となり、不燃性は合格となった。
【0020】
(実施例2)
実施例1と同様の繊維配合で、同様のローラーカード、クロスレイヤーにて目付500g/mの繊維層を作成し、熱風貫通方式のサーマルボンド形成機にて厚さ50mm目付500g/mの不織布を得た。この不織布の両面に水ガラスをスプレーで100g/m(NET)ずつ付着させ、熱風乾燥させて断熱吸音材を得た。表1に示す熱伝播係数は2.62となり、不燃性は合格となった。
【0021】
また、実施例1,2について吸音特性を測定した結果を図4に示す。吸音特性は、垂直入射吸音率(%)を示したもので、X軸は周波数(Hz)、Y軸は吸音率(%)である。500〜6300Hzの周波数域において、実施例1は実施例2に対して、吸音効率で5%程度向上している。なお、音響エネルギー損失は、一般的に以下の式より求めることができる。エネルギー損失は、管路摩擦係数(繊維表面の摩擦係数)、管長(繊維長)、平均流速の2乗に比例し、管路径(繊維の太さ)に反比例する。この式より、実施例1は厚さ方向に繊維が配向しているため、接触面積が増えることでエネルギー損失が増え、吸音効率が向上していることが実証できる。
Ei=η・L/D・μ/2
Ei:音響エネルギー損失
η:管路摩擦係数
L:管長
D:円管直径
μ:平均流速
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の車両用断熱吸音材は、主として鉄道車両や自動車に適用されるものであるが、これらに限定されるものではなく、例えば、機械室、船室、機械装置、ダクト等の断熱、吸音材として広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の車両用断熱吸音材の正面図であり、(a)は繊維層の片面に水ガラス溶液浸透層を設けたもので、(b)は繊維層の両面に水ガラス溶液浸透層を設けたものである。
【図2】本発明の車両用断熱吸音材を、面方向にジグザグに折り畳んだ状態を示す模式図である。
【図3】本発明の車両用断熱吸音材の試験片による燃焼試験結果を示した表である。
【図4】本発明の車両用断熱吸音材の実施例1と2について吸音特性を測定した結果を示した表である。
【符号の説明】
【0024】
1 車両用断熱吸音材
2 繊維層
3 水ガラス溶液浸透層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくても耐炎化繊維を20重量%以上、熱接着性繊維を30重量%以上含む繊維を混綿して形成した繊維層の少なくても片面側に、繊維層の厚さに対して少なくても表面から10%の範囲まで浸透するように水ガラス溶液を吹付けたのち、乾燥して成ることを特徴とする車両用断熱吸音材。
【請求項2】
前記繊維層の嵩密度が10kg/m以下であることを特徴とする請求項1に記載の車両用断熱吸音材。
【請求項3】
前記繊維層は、その面方向にジグザグに折り畳んで形成されており、繊維方向が厚さ方向に配向度が80%以上で配向していることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用断熱吸音材。
【請求項4】
前記水ガラスの成分は、ケイ酸ソーダであることを特徴とする請求項1に記載の車両用断熱吸音材。
【請求項5】
前記水ガラスの付着量が少なくても片面側に50g/m以上あることを特徴とする請求項1または4に記載の車輌用断熱吸音材。
【請求項6】
前記乾燥は、風乾、熱風乾燥または高周波加熱乾燥、あるいは、これらの併用により行うことを特徴とする請求項1に記載の車両用断熱吸音材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−89706(P2010−89706A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−263474(P2008−263474)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(000229863)アンビック株式会社 (35)
【Fターム(参考)】