説明

車両用暖機システム

【課題】蓄熱材の変質を防止してその性能を維持するとともに、車両で発生する熱を効率的に利用する。
【解決手段】蓄熱材20を備えた蓄熱装置10と、エンジン30と蓄熱装置10との間で冷却水を循環流通させる冷却水循環路31及びラジエター用循環路35と、を備え、冷却水との熱交換による蓄熱材20の蓄熱・放熱でエンジン30の暖機を行う車両用暖機システム1において、エンジン30の排気ガスが流通する排気ガス流路34と、排気ガスと冷却水との熱交換を行う排気ガス熱交換器60とを備え、排気ガスと熱交換を行わせた冷却水を蓄熱装置10に流通させて蓄熱材20と熱交換を行わせるようにした。高温の排気ガスと蓄熱材20との直接の熱交換を行わないことで蓄熱材20の変質を防止しながらも、冷却水を介して排気ガスの熱を蓄熱材20に蓄熱できるので、熱エネルギーの有効利用が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関や自動変速機などの早期暖機あるいは車内の即効暖房を行うことができる蓄熱装置を備えた車両用暖機システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1、2に示すように、蓄熱により内燃機関(エンジン)や自動変速機の暖機を行う蓄熱装置を備えた車両用暖機システムがある。特許文献1に記載の蓄熱装置(蓄熱タンク)は、エンジンの冷却水を蓄熱媒体として用い、該蓄熱媒体を断熱性の高い容器に収容したものである。また、特許文献2に記載の蓄熱装置は、自動変速機の作動油が流通する流路をセラミックや酸化マグネシウムなどの高熱容量材からなる蓄熱材層で被覆した構造である。また、これ以外にも、エンジンの冷却水と熱交換を行う蓄熱材(蓄熱要素)を備えた蓄熱装置がある。これらの蓄熱装置を備えた暖機システムによれば、車両の運転時に冷却水や作動油の熱を蓄熱材に蓄熱しておき、次回の車両始動時にこの蓄熱を利用して、エンジンや自動変速機の早期暖機、あるいは車内の即効暖房などを効果的に行うことが可能となる。
【特許文献1】特開平10−71837号公報
【特許文献2】特開2002−39335号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、車両に搭載されたエンジンなど機関から排出される排気ガス(燃焼ガス)などの排気には、高温の状態で排出されるものがある。したがって、このような高温の排気が有する熱エネルギーを蓄熱材に蓄熱し、この蓄熱を車両始動時のエンジンや自動変速機の早期暖機に利用できるようにすれば、車両で発生する熱エネルギーの有効利用を促進でき、エネルギー効率の観点から有利である。
【0004】
しかしながら、上記のような車両用暖機システムに用いられる蓄熱材には、所定温度以上の高温になると変質し、蓄熱作用や放熱作用が衰えてしまうものがある。そのため、エンジンから排出された排気ガスなど高温の排気と蓄熱装置との間で直接熱交換を行うと、排気による高温状態に蓄熱材が曝されることになり、蓄熱材の変質が起こり易くなる。このように蓄熱材が変質して本来の性能を発揮できなくなると、蓄熱装置を備えていても、車両で発生する熱を有効に利用できなってしまう。
【0005】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものでありその目的は、蓄熱材の変質を防止してその性能を維持しながらも、車両で発生する熱を効率的に利用できる車両用暖機システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため本発明にかかる車両用暖機システムは、蓄熱要素(20)を有する蓄熱装置(10)と、暖機対象機関(30)と蓄熱装置(10)との間で熱伝達媒体を循環流通させる熱伝達媒体流路(31,35)と、を備え、蓄熱装置(10)における熱伝達媒体との熱交換による蓄熱要素(20)の蓄熱・放熱で暖機対象機関(30)の暖機を行う車両用暖機システム(1)であって、暖機対象機関(30)から排出された排気が流通する排気流路(34)と、該排気流路(34)を流通する排気と熱伝達媒体流路(31,35)を流通する熱伝達媒体との間で熱交換を行わせる排気熱交換器(60)と、を備え、排気熱交換器(60)で排気と熱交換を行わせた熱伝達媒体を蓄熱装置(10)に流通させて蓄熱要素(20)と熱交換を行わせるようにしたことを特徴とする。なお、ここでの括弧内の符号は、後述する実施形態の対応する構成要素の符号を本発明の一例として示したものである。
【0007】
本発明にかかる車両用暖機システムによれば、排気熱交換器で暖機対象機関から排出された排気と熱交換を行った熱伝達媒体を蓄熱装置に流通させて蓄熱要素と熱交換を行わせるようにしたので、排気と蓄熱要素との間で直接熱交換が行われることが無く、排気が高温の場合でも蓄熱要素が排気で直接加熱されずに済む。したがって、蓄熱要素の過度の温度上昇を抑制して変質を防止できる。これにより、蓄熱要素の本来の性能を維持できる。その一方で、排気が有する熱を一旦熱伝達媒体に供給し、該熱を熱伝達媒体から蓄熱要素に与えるので、高温の排気が有する熱を蓄熱要素に蓄えることができ、車両で発生する熱エネルギーの効率的な利用を促進できる。
【0008】
また、本発明の車両用暖機システムでは、排気熱交換器で暖機対象機関から排出された排気と熱交換を行った熱伝達媒体が熱伝達媒体流路で暖機対象機関へ循環流通するので、排気により加熱された熱伝達媒体を利用して暖機対象機関の早期暖機を促進することが可能となる。特に、車両の始動時において、温度の低下している熱伝達媒体と高温の排気との熱交換を行えば、熱伝達媒体を迅速に加熱することができるので、暖機対象機関の暖機を迅速に行うことが可能となる。
【0009】
また、上記の車両用暖機システムでは、蓄熱装置(10)による暖機に関する動作を制御する制御手段(50)と、熱伝達媒体流路(31,35)を流通する熱伝達媒体の温度を検出する熱伝達媒体温度検出手段(38)と、を備え、排気熱交換器(60)内の排気経路(61)は、排気と熱伝達媒体との熱交換が行われる熱交換経路(61a)と、排気と熱伝達媒体との熱交換が行われない非熱交換経路(61b)とを有しており、排気熱交換器(60)には、排気経路(61)を熱交換経路(61a)と非熱交換経路(61b)とで切り替える排気経路切替手段(61c)が設けられており、制御手段(50)は、蓄熱装置(10)に流通させる熱伝達媒体の温度が所定温度以上になった場合、排気経路切替手段(61c)により排気熱交換器(60)内の排気を非熱交換経路(61b)へ流通させるとよい。
【0010】
このように、蓄熱装置に流通させる熱伝達媒体の温度が所定温度以上になった場合、排気熱交換器内の排気を非熱交換経路へ流通させて、排気と熱伝達媒体との熱交換を行わないようにすれば、排気による熱伝達媒体の加熱を停止できるので、熱伝達媒体のさらなる温度上昇を抑制できるとともに、所定温度以上の状態が長時間続くことを回避できる。したがって、高温の熱伝達媒体で蓄熱要素が加熱されて変質することを効果的に防止できる。
【0011】
さらに、上記の車両用暖機システムでは、熱伝達媒体流路(35)に、外気との熱交換で熱伝達媒体を冷却する外気冷却器(47)と、熱伝達媒体を外気冷却器(47)に流通させる主流路(35a)および外気冷却器(47)をバイパスして流通させるバイパス流路(35b)と、熱伝達媒体の流通を主流路(35a)とバイパス流路(35b)とで切り替える媒体流通切替手段(37)と、を設け、制御手段(50)は、蓄熱装置(20)に流通させる熱伝達媒体の温度が所定温度以上になった場合、媒体流路切替手段(37)により熱伝達媒体を主流路(35a)へ流通させて外気による冷却を行うようにしてもよい。
【0012】
このように、蓄熱装置に流通させる熱伝達媒体が所定温度以上になった場合、熱伝達媒体を主流路へ流通させて外気で冷却すれば、熱伝達媒体のさらなる温度上昇を抑制できるとともに、所定温度以上の状態が長時間続くことを回避できる。したがって、高温の熱伝達媒体で蓄熱要素が加熱されて変質することを効果的に防止できる。
【0013】
また、本発明の車両用暖機システムでは、蓄熱装置(10)が備える蓄熱要素(20)は、過冷却状態で蓄熱が可能な潜熱蓄熱材(20)からなるものが望ましい。これによれば、液状の蓄熱材が凝固点以下になっても固化せず、蓄熱を保持したまま過冷却状態をとり得る。したがって、外気温が低下しても蓄熱を保持でき、かつ、長期間放置しても蓄熱を安定的に保持できるので、蓄熱材容器の断熱構造を簡素化できる。また、解除手段による過冷却状態の解除により、所望のタイミングで蓄熱材を発熱させることができるので、対象機関の早期暖機や車内の即効暖房をより効果的に行えるようになる。また、蓄熱装置(10)が備える蓄熱要素(20)は、化学変化による熱の吸収・放出が可能な化学蓄熱材(21)からなるものでもよい。
【0014】
本発明にかかる車両用暖機システムの一実施態様として、内燃機関(30)から排出された排気ガスと内燃機関(30)の冷却水あるいは変速機(40)の作動油との間で熱交換を行わせる排気ガス熱交換器(60,60−2)を備えた車両用暖機システムがある。この車両用暖機システムによれば、内燃機関から排出された排気ガスと内燃機関の冷却水あるいは変速機の作動油との間で熱交換を行い、排気ガスと熱交換を行った冷却水あるいは作動油と蓄熱要素との間でさらに熱交換を行うので、冷却水あるいは作動油を介して排気ガスが有する熱を蓄熱要素に供給できるようになる。また、排気ガスと熱交換を行った冷却水や作動油を内燃機関や変速機に循環流通させるので、車両の始動時などにおいて、内燃機関や変速機の早期暖機を行うことが可能となる。したがって、高温の排気ガスで蓄熱要素が直接加熱されて変質することを防止しながらも、内燃機関の排熱を効率良く利用できるようになる。なお、排気ガス熱交換器で排気ガスと熱交換を行う熱伝達媒体は、内燃機関と蓄熱装置との間で循環流通する冷却水、あるいは変速機と蓄熱装置との間で循環流通する作動油の少なくともいずれかでもよいし、これら冷却水と作動油の両方であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明にかかる車両用暖機システムによれば、蓄熱要素の変質を防止して本来の性能を維持できるとともに、車両で発生する熱を有効に利用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態にかかる蓄熱装置を備えた車両用暖機システムの構成例を示す概略図である。車両用暖機システム1は、蓄熱材20を有してなる蓄熱装置10と、エンジン30の冷却水(LLC)を蓄熱装置10および車内暖房装置44のヒータコア45へ循環させる冷却水循環路(熱伝達媒体流路)31と、自動変速機(AT)40の作動油(ATF)を蓄熱装置10へ循環させる作動油循環路41とを備えている。冷却水循環路31は、エンジン30に形成された水ジャケット(図示せず)から導出され、蓄熱装置10に連通し、蓄熱装置10の下流側でヒータコア45を通り、エンジン30の水ジャケットに再度導入されている。エンジン30に導入される直前位置には、冷却水を循環流通させるための冷却水ポンプ(電動ポンプ)32が介装されている。冷却水ポンプ32は、電子制御ユニット(以下、ECUという。)50によりオン・オフ制御されるようになっている。また、作動油循環路41には、作動油を循環流通させる作動油ポンプ(電動ポンプ)42と、作動油の温度を検出する油温センサ43が設置されている。蓄熱装置10は、詳細な構成は後述するが、冷却水循環路31に連通する第一室15と、蓄熱材20を配設した第二室16と、作動油循環路41に連通する第三室17とを備えている。なお、蓄熱装置10には、蓄熱材20の温度を検出する蓄熱材温度センサ39が設置されている。
【0017】
ヒータコア45は、詳細な図示は省略するが、車内に臨む空気導入ダクト内に設置されている。空気導入ダクト内には、ヒータコア45に風を送るための送風ファン46が組み込まれている。送風ファン46は、ECU50によって作動を制御されるようになっている。ヒータコア45の送風下流側には、車内に連通する送風ダクトが設けられている。
【0018】
また、車内のコントロールパネル(図示せず)には、車内暖房用の暖房スイッチ51、及びデフロスタ吹出口から温風を吹き出すためのデフロスタスイッチ55が設けられている。暖房スイッチ51およびデフロスタスイッチ55のオン/オフ信号は、ECU50に出力されるようになっている。したがって、送風ファン46は、暖房スイッチ51やデフロスタスイッチ55のオン信号に応じて作動し、空気導入ダクトを介して吸い込んだ車内の空気を、ヒータコア45を通して送風ダクトから再び車内に吹き込むようになっている。また、暖機システム1は、外気温を検出する外気温センサ54を備えている。外気温センサ54の検出信号は、ECU50に出力されるようになっている。また、イグニッションスイッチ(以下、IGスイッチという。)56の操作信号は、ECU50に送られるようになっている。
【0019】
冷却水循環路31における蓄熱装置10とヒータコア45の間には、冷却水循環路31の開閉を切り替える切替バルブ(開閉弁)33が設置されている。切替バルブ33は、ECU50からの信号で開閉が制御されるようになっている。以下では、切替バルブ33がオフであるというときは、切替バルブ33が開かれて、蓄熱装置10及びヒータコア45に冷却水が流通する状態を示し、切替バルブ33がオンであるというときは、切替バルブ33が閉じられて、蓄熱装置10及びヒータコア45に冷却水が流通しない状態を示す。
【0020】
また、エンジン30の冷却水をラジエター47へ循環させるラジエター用循環路(熱伝達媒体流路)35が設けられている。ラジエター用循環路35は、エンジン30の水ジャケットから出て、冷却水循環路31における冷却水ポンプ32の上流側に合流している。ラジエター用循環路35には、ラジエター47に連通する主流路35aとラジエター47をバイパスするバイパス流路35bが設けられている。ラジエター47には、ラジエターフィン(図示せず)に外気を送風するラジエターファン(冷却ファン)47aが設置されている。ラジエターファン47aは、ECU50の指令で動作するようになっている。ラジエターファン47aが作動することにより、ラジエター47を流通する冷却水が外気で強制的に冷却される。
【0021】
ラジエター47の下流側におけるバイパス流路35bの合流部には、電子制御サーモスタット弁(三方弁)37が介装されている。電子制御サーモスタット弁37は、ECU50からの信号で開閉方向が制御されるようになっている。また、ラジエター用循環路35には、冷却水の水温を検出する水温センサ38が組み込まれている。水温センサ38の検出信号は、ECU50に出力されるようになっている。
【0022】
図2は、電子制御サーモスタット弁37の構成例を示す図である。以下では、電子制御サーモスタット弁37がオフであるというときは、同図(a)に示す状態、すなわち、主流路35aを開いてバイパス流路35bを閉じた状態を指し、電子制御サーモスタット弁37がオンであるというときは、同図(b)に示す状態、すなわち、主流路35aを閉じてバイパス流路35bを開いた状態を指すものとする。
【0023】
ECU50は、水温センサ38で検出した冷却水温が所定温度(例えば100℃)未満の場合、電子制御サーモスタット弁37をオンにすることで、冷却水がラジエター47へ流れないように制御する。一方、冷却水温が所定温度(例えば110℃)以上になった場合、電子制御サーモスタット弁37をオフにすることで、冷却水をラジエター47へ導くように制御する。
【0024】
ECU50には、無線により外部機器と交信が可能な受信装置52が接続されている。これにより、ECU50は、エンジンスタートキー53に設けたウォームアップスイッチ53aのオン/オフ信号を遠隔受信できるようになっている。したがって、乗員が車外でエンジンスタートキー53のウォームアップスイッチ53aを操作した場合、ECU50でその信号が受信され、ECU50は暖機システム1にウォームアップ指令を発することができる。
【0025】
また、車両用暖機システム1には、エンジン30から排出された排気ガスを流通させる排気ガス流路34が設けられている。そして、排気ガス流路34の排気ガスとラジエター用循環路35の冷却水との間で熱交換を行わせる排気ガス熱交換器60が設置されている。排気ガス流路34のエンジン30と排気ガス熱交換器60の間には、キャタライザ(触媒)36が設置されている。排気ガス流路34における排気ガス熱交換器60の下流側は、排気ガスを車外に排出するための排気管(図示せず)に連通している。本実施形態の車両用暖機システム1は、排気ガス熱交換器60でエンジン30からの排気ガスと熱交換を行った冷却水を蓄熱装置10に流通させて蓄熱材20と熱交換を行わせるように構成している。
【0026】
図3は、排気ガス熱交換器60の内部構成を示す概略断面図である。排気ガス熱交換器60は、エンジン30から排出された排気ガスを流通させる排気ガス流通室61と、エンジン30の冷却水を流通させる冷却水流通室62とを備えている。排気ガス流通室61の入口は、排気ガス流路34に連通している。また、排気ガス流通室61の出口は、排気ガス流路34を介して上記の排気管に連通している。冷却水流通室62の入口と出口は、ラジエター用循環路35に連通している。なお、排気ガス流路34には、排気ガスの温度を検出する排気ガス温度センサ34aが設置されている。排気ガス温度センサ34aで検出された排気ガス温度のデータは、ECU50に入力されるようになっている。
【0027】
排気ガス流通室61は、排気ガス熱交換器60の中央を貫通するように配置されており、冷却水流通室62は、排気ガス流通室61の外周を囲むように配置された環状の流路断面を有している。また、排気ガス流通室61には、冷却水流通室62の内周に隣接して配置された主流路(熱交換経路)61aと、主流路61aの内側で該主流路61aと平行に延びるバイパス流路(非熱交換経路)61bとが設けられている。バイパス流路61bは、その外周を主流路61aで囲まれており、冷却水流通室62とは隣接していない。また、排気ガス流通室61の入口近傍には、主流路61aとバイパス流路61bの間で排気ガスの流通を切り替える流路切替弁(排気経路切替手段)61cが設置されている。流路切替弁61cは、ECU50の指令で動作するようになっている。この排気ガス熱交換器60では、排気ガス流通室61の主流路61aを流通する排気ガスと冷却水流通室62を流通する冷却水との間で熱交換が行われる。これにより、排気ガスで冷却水が加熱される。一方、排気ガスがバイパス流路61bを流通する場合、排気ガスと冷却水との熱交換は行われない。なお、後述する暖機システム1の制御手順において、排気ガス熱交換器60がオンであるというときは、流路切替弁61cにより主流路61aが開かれてバイパス流路61bが閉じられ、排気ガスが主流路61aに流通して冷却水との熱交換が行われる状態を示し、排気ガス熱交換器60がオフであるというときは、主流路61aが閉じられてバイパス流路61bが開かれ、排気ガスがバイパス流路61bに流通して冷却水との熱交換が行われない状態を示すものとする。
【0028】
図4は、蓄熱装置10の詳細構成を示す図で、(a)は、分解斜視図、(b)は、(a)のA−A矢視断面図である。蓄熱装置10は、長手状の筒状体からなる筐体11と、筐体11の内部に設置された該筐体11よりも若干小径の筒状体からなる中間部材12と、中間部材12の内部に設置された仕切部材13とを備えた三重構造になっている。仕切部材13は複数のフィン13aを有している。フィン13aは、筐体11の長手方向に沿って延びる板状で、多数が横方向(短手方向)に所定間隔で配列されている。フィン13aの内部には、同図(b)に示すように、仕切部材13の外側に通じる隙間13bが設けられている。筐体11と中間部材12の間は、エンジン30の冷却水が導入される第一室15になっており、フィン13aの隙間13bを含む中間部材12と仕切部材13の間は、自動変速機40の作動油が導入される第三室17になっており、仕切部材13の内側は、蓄熱材20が密封状態で充填される第二室16になっている。
【0029】
筐体11の上下端の開口には、蓋部材14a,14bが取り付けられている。下側の蓋部材14aには、第三室17に作動油を導入する作動油入口17aが設けられており、上側の蓋部材14bには、作動油を導出する作動油出口17bが設けられている。また、筐体11の上端近傍と下端近傍の側面には、それぞれ第一室15に冷却水を導入する冷却水入口15aと、冷却水を導出する冷却水出口15bとが設けられている。
【0030】
この蓄熱装置10では、第二室16と第三室17とが隣接して配置され、かつ、第三室17と第一室15とが隣接して配置されている。したがって、第二室16の蓄熱材20と第三室17の作動油との間で直接的に熱交換を行え、かつ、第三室17の作動油と第一室15の冷却水との間で直接的に熱交換を行える。なお、第一室15の作動油と第二室16の蓄熱材20との間でも、第三室17の作動油を介して間接的に熱交換が行える。
【0031】
筐体11は、冷却水に対する防錆性などの耐久性があり、且つ断熱性の良好な材料、例えば、銅、アルミニウム、ステンレスなどの金属材料で構成されている。この筐体11は、図示は省略するが、断熱性を高めるため、内部に真空の断熱層を形成してもよい。また、中間部材12および仕切部材13は、冷却水、作動油、蓄熱材20に対する耐久性があり、且つ比較的熱伝導性の高い材料、例えば、ステンレスなどの金属材料で構成するとよい。
【0032】
蓄熱材20は、過冷却状態で蓄熱が可能な潜熱蓄熱材であり、凝固点以下になっても液状のままで固化しない性質を有している。このような蓄熱材20として、例えば、酢酸ナトリウム水和物からなる蓄熱材が挙げられる。酢酸ナトリウム水和物は、後述する解除手段による過冷却状態の解除によって、平衡状態に戻って固化する際に発熱し、温度の低い他の媒体を加熱することができる。
【0033】
そして、第二室16の蓄熱材20中には、蓄熱材20の過冷却状態を解除する解除手段(以下、発核装置という。)25が設置されている。図5は、発核装置25を示す概略側面図である。発核装置25は、蓄熱材20中に設置された円形平板状の金属バネ部材26と、金属バネ部材26に打撃を与えるソレノイド27とを備えている。ソレノイド27は、ECU50の指令に応じて動作する。金属バネ部材26は、同図(a)に示す状態において、ソレノイド27による打撃で中央部26aが押圧されると、同図(b)に示すように、該中央部26aが反転するようになっている。これにより、蓄熱材20中に核が生成(発核)され、蓄熱材20の過冷却状態が解除されて固化が始まる。なお、解除手段としては、蓄熱材20中に核を生成可能な手段であれば、何れの手段でもよく、上記以外にも、例えば、蓄熱材20中で金属摩擦あるいは電圧印加などを施す手段であってもよい。
【0034】
ここでは、過冷却状態で蓄熱が可能な潜熱蓄熱材の代表例として酢酸ナトリウム水和物を挙げたが、他にも、水和塩化合物(化学式としてMx・nH2O(n:整数)で表わされるもの)を挙げることができ、Na2SO4・10H2O,CaCl2・6H2Oを例示することができる。
【0035】
また、蓄熱材は、化学反応を利用して熱の吸収・放出を行うことができる化学蓄熱材からなるものであってもよい。このような化学蓄熱材として、例えば、ゼオライトからなる蓄熱材がある。図6は、ゼオライトからなる蓄熱材21を備えた蓄熱装置10の構成例を示す図である。この場合、蓄熱装置10は、ゼオライトからなる蓄熱材21に反応媒体である水22を供給して化学反応を生じさせる反応媒体供給部23を備えて構成される。この蓄熱装置10では、エンジン30の運転時に、冷却水や作動油との熱交換でゼオライト21を加熱して脱水させ、これにより、蓄熱材21に蓄熱する。一方、エンジン30の始動時には、反応媒体供給部23から蓄熱材21に水22を供給して吸着させることで、蓄熱材21に吸着熱を発生させて冷却水や作動油を加熱する。化学蓄熱材としては、ゼオライトの他にも、例えば、シリカゲル・活性炭・生石灰などがあり、化学反応を生じさせる反応媒体としては、水の他にも、エタノール・メタノール・エチレングリコール系不凍液・塩化カルシウム系不凍液などがある。また、化学蓄熱材の例としては、他にも水素吸蔵合金を用いた蓄熱材などが挙げられる。
【0036】
図7は、暖機システム1における運転モードのタイムチャートを示すグラフである。同図に示すように、暖機システム1の運転モードは、モード0からモード4までの5段階に切り替わる。モード0は、エンジン30が始動する前のモードである。この間にウォームアップ信号が入力されると、ECU50は発核装置25を作動させて、蓄熱材20の過冷却状態を解除する。これにより、蓄熱材20が発熱し、蓄熱装置10の自己暖機が行われる。モード1は、IGスイッチ56がオンされてエンジン30が始動してから、冷却水温度が所定温度(♯TW1L)に達するまでのモードであり、この間、蓄熱材20の発熱が冷却水循環路31を循環する冷却水及び作動油循環路41を循環する作動油に供給されることで、蓄熱装置10によるエンジン30及び自動変速機40の暖機が行われる。モード2は、冷却水温度が前記の所定温度(♯TW1L)に達した後、蓄熱材20への蓄熱が行われるモードである。この間、エンジン30の冷却水あるいは自動変速機40の作動油から蓄熱材20へ熱が供給される。また、エンジン30の冷却水は、電子制御サーモスタット弁37の開閉制御によって、所定の温度範囲を維持するように制御(DUTY制御)され、自動変速機40の作動油は、エンジン30の冷却水によって加熱される。モード2は、油温センサ43で検出された作動油温TATFが所定温度(♯TATF1L)に達したことで蓄熱材20への蓄熱が完了したと判断された時点で終了する。♯TATF1Lは、一例として100℃である。モード3は、蓄熱材20への蓄熱が完了したと判断された後のモードであり、この間、エンジン30の冷却水は、モード2と同様、電子制御サーモスタット弁37の開閉制御によって所定の温度範囲を維持するように制御される。モード4は、IGスイッチ56がオフされてエンジン30が停止した後のモードであり、時間の経過とともに冷却水温TWと作動油温TATFが徐々に低下する。なお、図7のタイムチャートに示す冷却水温TWの変化は、作動油温TATFが後述する所定温度(♯TATF1H)より低い場合の温度変化を示しており、作動油温TATFがこの所定温度(♯TATF1H)以上である場合は、後述するように、モード3において冷却水で作動油を冷却するので、その場合の冷却水温TWの変化は、図7に示すものとは異なる温度変化となる。
【0037】
図8は、暖機システム1の制御手順を示すメインフローである。この制御手順では、まず、後述するモード切替のサブルーチンを実行する(ステップST1)。その結果に基づき、モード0であるか否かを判定する(ステップST2)。モード0であれば(Y)、モード0のサブルーチンを実行し(ステップST3)、モード0でなければ(N)、モード1か否かを判定する(ステップST4)。その結果、モード1であれば(Y)、モード1のサブルーチンを実行し(ステップST5)、モード1でなければ(N)、モード2か否かを判定する(ステップST6)。その結果、モード2であれば(Y)、モード2のサブルーチンを実行し(ステップST7)、モード2でなければ(N)、モード3か否かを判定する(ステップST8)。その結果、モード3であれば(Y)、モード3のサブルーチンを実行し(ステップST9)、モード3でなければ(N)、モード4のサブルーチンを実行する(ステップST0)。
【0038】
図9は、モード切替手順を説明するためのフローチャートである。モード切替では、まず、IGスイッチ56がオンであるか否かを判定する(ステップST10)。その結果、IGスイッチ56がオンでなければ(N)、IGスイッチ56がオフから所定時間以内か否かを判定し(ステップST11)、その結果、所定時間以内であれば(Y)、モード4をセットし(ステップST12)、所定時間が経過していれば(N)、モード0をセットする(ステップST13)。一方、ステップST10でIGスイッチ56がオンであれば(Y)、モード2以上か否かを判定し(ステップST14)、モード2以上でなければ(N)、冷却水温TWが♯TW1Lより低いか否かを判定し(ステップST15)、冷却水温TWが♯TW1Lより低ければ(Y)、モード1をセットする(ステップST16)。♯TW1Lの具体例は、100℃である。また、先のステップST14でモード2以上である場合(Y)は、続けてモード2か否かを判定し(ステップST17)、モード2である場合(Y)、あるいは先のステップST15で冷却水温TWが♯TW1L以上である場合(N)は、作動油温TATFが♯TATF1Lより低いか否かを判定する(ステップST18)。♯TATF1Lの具体例は、100℃である。その結果、作動油温TATFが♯TATF1Lより低ければ(Y)、モード2をセットし(ステップST19)、作動油温TATFが♯TATF1L以上であれば(N)、モード3をセットする(ステップST20)。また、先のステップST15でモード2でない場合(N)は、モード3をセットする(ステップST20)。
【0039】
図10は、モード0の手順を説明するためのフローチャートである。モード0では、まず、ウォームアップ信号の入力の有無を判定する(ステップST0−1)。この結果、ウォームアップ信号の入力が無い場合(N)は、発核装置25をオフする(ステップST0−2)。一方、ウォームアップ信号の入力が有る場合(Y)は、冷却水温TWが♯TW3より低いか否かを判定する(ステップST0−3)。♯TW3の具体例は、60℃である。その結果、冷却水温TWが♯TW3以上であれば(N)、発核装置25をオフする(ステップST0−2)。つまり、始動時に冷却水温が十分に高い場合は、蓄熱装置10によるエンジン30や自動変速機40の暖機は不要であると判断して、蓄熱材20を発核させず、蓄熱装置10の自己暖機は行わない。一方、冷却水温TWが♯TW3より低ければ(Y)、発核装置25がオンであるか否かを判定する(ステップST0−4)。その結果、発核装置25がオフであれば(N)、発核装置25をオンする(ステップST0−5)。発核装置25がオンであれば(Y)、発核装置25がオンしてから所定時間以内か否かを判定する(ステップST0−6)。その結果、所定時間以内でなければ(N)、すなわち発核装置25がオンしてから所定時間以上が経過していれば、発核装置25をオフする(ステップST0−2)。また、モード0では、冷却水ポンプ32はオフにしておき(ステップST0−7)、切替バルブ33はオフにしておき(ステップST0−8)、電子制御サーモスタット弁37はオフにしておく(ステップST0−9)。また、ラジエターファン47aはオフにしておき(ステップST0−10)、排気ガス熱交換器60はオフにしておく(ステップST0−11)。その後、モード0の手順を終了してメインフローに戻る。
【0040】
図11は、モード1の手順を説明するためのフローチャートである。モード1では、まず、冷却水温TWが♯TW3より低いか否かを判定する(ステップST1−1)。その結果、冷却水温TWが♯TW3以上であれば(N)、発核装置25をオフする(ステップST1−2)。つまり、始動時に冷却水温が十分に高い場合は、蓄熱装置10によるエンジン30や自動変速機40の暖機は不要であると判断し、蓄熱材20を発核させず、蓄熱材20による冷却水や作動油の加熱を行わない。一方、冷却水温TWが♯TW3より低ければ(Y)、発核装置25がオンであるか否かを判定する(ステップST1−3)。その結果、発核装置25がオンで無ければ(N)、発核装置25をオンする(ステップST1−4)。発核装置25がオンであれば(Y)、発核装置25がオンしてから所定時間以内か否かを判定する(ステップST1−5)。その結果、所定時間以内でなければ(N)、すなわち発核装置25がオンしてから所定時間以上が経過していれば、発核装置25をオフする(ステップST1−2)。続けて、冷却水ポンプ32をオンし、冷却水循環路31及びラジエター用循環路35の冷却水を流通させる(ステップST1−6)。その後、外気温が所定温度以上であり、かつデフロスタスイッチ55がオフであるか否かを判定する(ステップST1−7)。その結果、外気温が所定温度以下、またはデフロスタスイッチ55がオンである場合(N)は、切替バルブ33をオフすることで(ステップST1−8)、蓄熱装置10から出た冷却水をヒータコア45に流通させる。つまりこの場合は、蓄熱装置10による自動変速機40の暖機を行いながら、蓄熱装置10による車内暖房も行う。一方、外気温が所定温度以上であり、かつデフロスタスイッチ55がオフである場合(Y)は、切替バルブ33をオンすることで(ステップST1−9)、蓄熱装置10から出た冷却水をヒータコア45には流通させない。つまりこの場合は、蓄熱装置10による自動変速機40の暖機を優先的に行い、車内暖房は行わない。また、モード1では、電子制御サーモスタット弁37をオンしておき(ステップST1−10)、ラジエター47には冷却水を流通させず、冷却水が早期に温まるようにする。ラジエターファン47aもオフしておく(ステップST1−11)。一方で、排気ガス熱交換器60をオンにし(ステップST1−12)、排気ガスと冷却水との熱交換を行わせる。これにより排気ガスで冷却水を加熱して早期に温めるようにする。その後、モード1の手順を終了してメインフローに戻る。
【0041】
図12は、モード2の手順を説明するためのフローチャートである。モード2では、発核装置25をオフする(ステップST2−1)。冷却水ポンプ32はオンにしておき(ステップST2−2)、冷却水循環路31及びラジエター用循環路35内の冷却水を流通させる。さらに、切替バルブ33をオフすることで(ステップST2−3)、蓄熱装置10からの冷却水をヒータコア45に流通させる。そして、電子制御サーモスタット弁37がオンであるか否かを判定する(ステップST2−4)。その結果、オンであれば(Y)、冷却水温TWが♯TW1Hより低いか否かを判定する(ステップST2−5)。♯TW1Hの具体例は、105℃である。その結果、冷却水温TWが♯TW1H以上である場合(N)は、電子制御サーモスタット弁37をオフすることで(ステップST2−6)、ラジエター47に冷却水を流通させる。そして、ラジエターファン47aをオンし(ステップST2−7)、外気による冷却水の冷却を行う。また、排気ガス熱交換器60をオフし(ステップST2−8)、排気ガスによる冷却水の加熱を停止する。
【0042】
また、先のステップST2−4で電子制御サーモスタット弁37がオフである場合(N)は、冷却水温TWが♯TW1Lより高いか否かを判定する(ステップST2−9)。その結果、冷却水温TWが♯TW1Lより高ければ(Y)、電子制御サーモスタット弁37をオフのままとし(ステップST2−6)、かつラジエターファン47aをオンし(ステップST2−7)、外気による冷却水の冷却を行う。一方、冷却水温TWが♯TW1L以下であれば(N)、電子制御サーモスタット弁37をオンし(ステップST2−10)、かつラジエターファン47aをオフし(ステップST2−11)、外気による冷却水の冷却を停止する。また、先のステップST2−5で、冷却水温TWが♯TW1Hより低い場合(Y)も、電子制御サーモスタット弁37をオンし(ステップST2−10)、かつラジエターファン47aをオフする(ステップST2−11)。つまり、モード2では、冷却水温TWが♯TW1H以上に上昇した場合は、ラジエター47による冷却を行い、冷却水温TWが♯TW1L以下に低下した場合は、ラジエター47による冷却を停止する。これにより、図7に示すように、冷却水温TWが常に♯TW1Lと♯TW1Hの間の範囲内に収まるように制御する。そして、モード2の経過が所定時間以内か否かを判断する(ステップST2−12)。その結果、モード2が所定時間以上であれば(N)、排気ガス熱交換機60をオフする(ステップST2−8)。また、先のステップST2−7でラジエターファン47aをオンした後も、排気ガス熱交換機60をオフする(ステップST2−8)一方、モード2が所定時間以内であれば(Y)、排気ガス熱交換器60をオンする(ステップST2−13)。このように、冷却水温TWが所定温度(ここでは♯TW1H)以下で、かつモード2が所定時間以内のとき、排気ガスが有する熱で冷却水を加熱して蓄熱材20への蓄熱を補助する。その後、モード2の手順を終了してメインフローに戻る。
【0043】
図13は、モード3の手順を説明するためのフローチャートである。モード3では、まず、発核装置25はオフである(ステップST3−1)。冷却水ポンプ32はオンである(ステップST3−2)。また、切替バルブ33はオフであり(ステップST3−3)、蓄熱装置10から出た冷却水がヒータコア45に流通している。そして、作動油温TATFが♯TATF1Hよりも低いか否かを判定する(ステップST3−4)。♯TATF1Hの具体例は、110℃である。その結果、作動油温TATFが♯TATF1Hよりも低ければ(Y)、電子制御サーモスタット弁37がオンであるか否かを判定する(ステップST3−5)。オンであれば(Y)、冷却水温TWが♯TW1Hより低いか否かを判定する(ステップST3−6)。冷却水温TWが♯TW1H以上であれば(N)、電子制御サーモスタット弁37をオフし(ステップST3−7)、ラジエターファン47aをオンする(ステップST3−8)。一方、冷却水温TWが♯TW1Hより低ければ(Y)、電子制御サーモスタット弁37をオンし(ステップST3−9)、ラジエターファン47aをオフする(ステップST3−10)。一方、先のステップST3−5で電子制御サーモスタット弁37がオンでない場合(N)は、冷却水温TWが♯TW1Lより高いか否かを判定する(ステップST3−11)。その結果、冷却水温TWが♯TW1Lより高ければ(Y)、電子制御サーモスタット弁37をオフし(ステップST3−7)、ラジエターファン47aをオンする(ステップST3−8)。冷却水温TWが♯TW1L以下であれば(N)、電子制御サーモスタット弁37をオンし(ステップST3−9)、ラジエターファン47aをオフする(ステップST3−10)。つまり、自動変速機40の作動油温が狙い範囲(TATF<♯TATF1H:110℃)にある場合は、冷却水温をそれ以上低くする必要がないため、該冷却水温を燃費優先のいわゆる燃費狙い値(♯TW1L:100℃<TW<♯TW1H:105℃)になるように制御する。
【0044】
一方、先のステップST3−4において、作動油温TATFが♯TATF1H以上である場合(N)は、電子制御サーモスタット弁37が既にオンしているか否かを判定し(ステップST3−12)、オンしていれば(Y)、冷却水温TWが♯TW2Hより低いか否かを判定する(ステップST3−13)。♯TW2Hの具体例は、85℃である。冷却水温TWが♯TW2H以上である場合(N)は、電子制御サーモスタット弁37をオフし(ステップST3−14)、ラジエターファン47aをオンする(ステップST3−15)。冷却水温TWが♯TW2Hより低い場合(Y)は、電子制御サーモスタット弁37をオンし(ステップST3−9)、ラジエターファン47aをオフする(ステップST3−10)。一方、先のステップST3−12で電子制御サーモスタット弁37がオンでない場合(N)は、冷却水温TWが♯TW2Lより高いか否かを判定する(ステップST3−16)。♯TW2Lの具体例は、80℃である。その結果、冷却水温TWが♯TW2Lより高ければ(Y)、電子制御サーモスタット弁37をオフし(ステップST3−14)、ラジエターファン47aをオンする(ステップST3−15)。冷却水温TWが♯TW2L以下であれば(N)、電子制御サーモスタット弁37をオンし(ステップST3−9)、ラジエターファン47aをオフする(ステップST3−10)。つまり、自動変速機40の作動油温が狙い範囲(TATF<♯TATF1H:110℃)と比べて高すぎる場合は、エンジン30の冷却水温を低く抑える必要があるため、該冷却水温を作動油の冷却を優先する温度(♯TW2L:80℃<TW<♯TW2H:85℃)となるように制御する。ステップST3−8あるいはステップST3−15でラジエターファン47aをオンした後、またはステップST3−10でラジエターファン47aをオフした後、排気ガス熱交換器60をオフする(ステップST3−17)。
【0045】
図14は、モード4の手順を説明するためのフローチャートである。モード4では、発核装置25はオフである(ステップST4−1)。また、切替バルブ33はオフである(ステップST4−2)。そして、冷却水温TWが♯TW3よりも高い温度であるか、またはIGスイッチ56がオフしてから所定時間以内であるか否かを判定する(ステップST4−3)。その結果、冷却水温が♯TW3より高い場合、あるいはIGスイッチ56がオフしてから所定時間以内の場合(Y)は、冷却水ポンプ32をオンのままとし(ステップST4−4)、冷却水循環路31及びラジエター用循環路35の冷却水を流通させておく。また、ラジエターファン47aをオンとし(ステップST4−5)、外気による冷却水の強制冷却を行う。一方、冷却水温が♯TW3以下であり、かつIGスイッチ56がオフしてから所定時間を経過している場合(N)は、冷却水ポンプ32をオフすることで(ステップST4−6)、冷却水循環路31及びラジエター用循環路35の冷却水の流通を停止する。そして、ラジエターファン47aをオフし(ステップST4−7)、外気による冷却水の強制冷却を停止する。また、このモード4では、電子制御サーモスタット弁37はオフであり(ステップST4−8)、排気ガス熱交換器60はオフである(ステップST4−9)。
【0046】
以上説明したように、本実施形態の車両用暖機システム1によれば、エンジン30から排出された排気ガスと蓄熱材20との間で直接熱交換を行わせるのではなく、排気ガス熱交換器60でエンジン30から排出された排気ガスと冷却水との間で熱交換を行わせ、該冷却水を蓄熱装置10に流通させて蓄熱材20と熱交換を行わせるようにしたので、高温の排気ガスで蓄熱材20が直接加熱されずに済む。したがって、蓄熱材20の過度の温度上昇を抑制して蓄熱材20が変質することを防止できる。これにより、蓄熱材20の本来の性能を維持できる。その一方で、排気ガスが有する熱を一旦冷却水に供給し、該熱を冷却水から蓄熱材20に与えるので、排気ガスが有する熱を蓄熱材20に蓄えることができるようになり、車両で発生する熱エネルギーの効率的な利用を促進できる。
【0047】
また、この車両用暖機システム1では、排気ガス熱交換器60で排気ガスと熱交換を行った冷却水が冷却水循環路31およびラジエター用循環路35によりエンジン30に循環流通するので、排気ガスと熱交換を行った冷却水によりエンジン30の早期暖機を促進することが可能となる。特に、車両の始動時(モード1)において、温度の低下している冷却水を高温の排気ガスで加熱することで、冷却水を迅速に温めることができるので、エンジン30の早期暖機を効果的に行うことが可能となる。
【0048】
また、排気ガス熱交換器60内の排気ガス流通室(排気経路)61は、排気ガスと冷却水との熱交換を行う主流路(熱交換経路)61aと、排気ガスと冷却水との熱交換を行わないバイパス経路(非熱交換経路)61bとを有しており、排気ガス熱交換器60には、排気ガスの流通を主流路61aとバイパス流路61bとで切り替える流路切替弁(排気経路切替手段)61cが設けられており、ECU50は、蓄熱装置10に流通させる冷却水の温度が所定温度以上になった場合、流路切替弁61cにより排気ガスをバイパス流路61bへ流通させるようにしている。
【0049】
このように、本実施形態の車両用暖機システム1では、蓄熱装置10に流通させる冷却水の温度が所定温度以上になった場合、排気ガスと冷却水との熱交換を行わないようにして、排気ガスによる冷却水の加熱を停止するので、冷却水のさらなる温度上昇を抑制できるとともに、冷却水温度が所定温度以上の状態が長時間続くことを回避できる。したがって、高温の冷却水で蓄熱材20が加熱されて変質することを効果的に防止できる。なお、ここでは、冷却水の温度が所定温度以上になった場合に流路切替弁61cを切り替えるようにしたが、これ以外にも、排気ガス温度センサ34aで検出した排気ガスの温度が所定温度以上になった場合に流路切替弁61cを切り替えるようにしてもよい。
【0050】
また、この車両用暖機システム1では、冷却水をラジエター(外気冷却器)47に流通させる主流路35aおよびラジエターをバイパスして流通させるバイパス流路35bと、これら主流路35aとバイパス流路35bとで冷却水の流通を切り替える電子制御サーモスタット弁(媒体流通切替手段)37とを設けている。そして、蓄熱装置10に流通させる冷却水の温度が所定温度以上になった場合、電子制御サーモスタット弁37により冷却水を主流路35aへ流通させて外気で冷却するようにしている。
【0051】
このように、蓄熱装置10に流通させる冷却水が所定温度以上になった場合、冷却水をラジエター47へ流通させて外気で冷却することにより、冷却水のさらなる温度上昇を抑制できるとともに、所定温度以上の状態が長時間続くことを回避できる。したがって、高温の冷却水で蓄熱材20が加熱されて変質することを効果的に防止できる。
【0052】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態にかかる車両用暖機システムについて説明する。なお、第2実施形態の説明及び対応する図面においては、第1実施形態と同一又は相当する構成部分には同一の符号を付し、以下ではその部分の詳細な説明は省略する。また、以下で説明する事項以外の事項、及び図示する以外の事項については、第1実施形態と同じである。
【0053】
図15は、第2実施形態にかかる車両用暖機システム1−2の構成例を示す概略図である。第2実施形態の車両用暖機システム1−2は、第1実施形態の車両用暖機システム1が備えていた排気ガス熱交換器60に代えて、他の構成の排気ガス熱交換器60−2を備えている。本実施形態の排気ガス熱交換器60−2は、エンジン30の冷却水だけでなく自動変速機40の作動油も流通するようになっている。したがって、排気ガス熱交換器60−2では、エンジン30から排出される排気ガスとエンジン30の冷却水及び自動変速機40の作動油との間で熱交換を行うようになっている。
【0054】
図16は、排気ガス熱交換器60−2の内部構成を示す概略断面図である。排気ガス熱交換器60−2は、第1実施形態の排気ガス熱交換器60の構成に加えて、自動変速機40の作動油を流通させる作動油流通室63を備えている。作動油流通室63は、冷却水流通室62の外周を囲むように配置された環状の流路断面を有している。作動油流通室63の入口と出口は、作動油循環路41に連通している。
【0055】
本実施形態の排気ガス熱交換器60−2によれば、エンジン30から排出された排気ガスによりエンジン30の冷却水を加熱するとともに、自動変速機40の作動油も加熱することができる。したがって、冷却水だけでなく作動油も介して排気ガスが有する熱を蓄熱材20に供給できるようになる。また、排気ガスと熱交換を行った作動油は、作動油循環路41により蓄熱装置10に供給されるだけでなく、自動変速機40に循環流通するので、排気ガスで加熱された作動油によって、自動変速機40の早期暖機を促進することが可能となる。特に、車両の始動時(モード1)において、温度の低下している作動油と排気ガスとの熱交換を行うことで、作動油を迅速に温めることができ、自動変速機40の暖機を効果的に行うことが可能となる。また、作動油の性状を早期に安定させることができるので、車両始動時の変速ショックを緩和でき、自動変速機40にかかる負担も軽減することが可能となる。
【0056】
以上本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。
【0057】
第1実施形態では、排気ガス熱交換器60で排気ガスと熱交換を行う熱伝達媒体がエンジン30の冷却水である場合を説明し、第2実施形態では、排気ガス熱交換器60−2で排気ガスと熱交換を行う熱伝達媒体がエンジン30の冷却水と自動変速機40の作動油との両方である場合を説明したが、これ以外にも、本発明の排気ガス熱交換器で排気ガスと熱交換を行う熱伝達媒体は、変速機の作動油のみであってもよい。その場合は、詳細な図示は省略するが、第1実施形態の排気ガス熱交換器60に設けた冷却水流通室62に代えて、作動油が流通する作動油流通室を設ければよい。さらに、本発明の暖機対象機関は、エンジン30や自動変速機40以外の機関であってもよいし、暖機対象機関と蓄熱装置との間で循環流通させる熱伝達媒体は、エンジン30の冷却水あるいは自動変速機40の作動油以外の媒体であってもよい。一例として、エンジン30の潤滑油を熱伝達媒体として、蓄熱装置20とエンジン30の間で循環流通させ、排気ガス熱交換器60で排気ガスとの熱交換を行わせてもよい。
【0058】
また、上記実施形態では、暖機対象機関から排出される排気として、エンジン30から排出される排気ガス(燃焼ガス)を例に挙げたが、本発明の暖機システムで熱伝達媒体と熱交換を行うのに用いる排気は、エンジン30の排気ガスには限定されず、他の種類の排気であってもよい。例えば、エンジン30や自動変速機40を冷却したことで温まった送風などを排気として用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる車両用暖機システムの構成例を示す概略図である。
【図2】電子制御サーモスタット弁の構成例を示す図である。
【図3】排気ガス熱交換器を示す概略断面図である。
【図4】蓄熱装置の構成例を示す図で、(a)は、分解斜視図、(b)は、(a)のA−A矢視断面図である。
【図5】発核装置の構成例を示す図である。
【図6】化学蓄熱材を備えた蓄熱装置の構成例を示す図である。
【図7】暖機システムの運転モードのタイムチャートを示すグラフである。
【図8】暖機システムの制御手順を示すメインフローである。
【図9】運転モード切替手順を説明するためのフローチャートである。
【図10】モード0の手順を説明するためのフローチャートである。
【図11】モード1の手順を説明するためのフローチャートである。
【図12】モード2の手順を説明するためのフローチャートである。
【図13】モード3の手順を説明するためのフローチャートである。
【図14】モード4の手順を説明するためのフローチャートである。
【図15】本発明の第2実施形態にかかる車両用暖機システムの構成例を示す概略図である。
【図16】第2実施形態の排気ガス熱交換器を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0060】
1 車両用暖機システム
10 蓄熱装置
20 蓄熱材(潜熱蓄熱材)
21 蓄熱材(化学蓄熱材)
25 発核装置
30 エンジン(暖機対象機関)
31 冷却水循環路(熱伝達媒体流路)
32 冷却水ポンプ(電動ポンプ)
33 切替バルブ
34 排気ガス流路(排気流路)
34a 排気ガス温度センサ
35 ラジエター用循環路(熱伝達媒体流路)
35a 主流路
35b バイパス流路
37 電子制御サーモスタット弁(媒体流通切替手段)
38 水温センサ(熱伝達媒体温度検出手段)
39 蓄熱材温度センサ
40 自動変速機(暖機対象機関)
41 作動油循環路(熱伝達媒体流路)
43 油温センサ(熱伝達媒体温度検出手段)
44 車内暖房装置
47 ラジエター(外気冷却器)
47a ラジエターファン
50 ECU(制御手段)
56 イグニッションスイッチ(IGスイッチ)
60,60−2 排気ガス熱交換器(排気熱交換器)
61 排気ガス流通室(排気経路)
61a 主流路(熱交換経路)
61b バイパス流路(非熱交換経路)
61c 流路切替弁(排気経路切替手段)
62 冷却水流通室
63 作動油流通室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄熱要素を有する蓄熱装置と、暖機対象機関と前記蓄熱装置との間で熱伝達媒体を循環流通させる熱伝達媒体流路と、を備え、
前記蓄熱装置における前記熱伝達媒体との熱交換による前記蓄熱要素の蓄熱・放熱で前記暖機対象機関の暖機を行う車両用暖機システムであって、
前記暖機対象機関から排出された排気が流通する排気流路と、該排気流路を流通する排気と前記熱伝達媒体流路を流通する前記熱伝達媒体との間で熱交換を行わせる排気熱交換器と、を備え、
前記排気熱交換器で前記排気と熱交換を行わせた前記熱伝達媒体を前記蓄熱装置に流通させて前記蓄熱要素と熱交換を行わせるようにした
ことを特徴とする車両用暖機システム。
【請求項2】
前記蓄熱装置による暖機に関する動作を制御する制御手段と、
前記熱伝達媒体流路を流通する前記熱伝達媒体の温度を検出する熱伝達媒体温度検出手段と、を備え、
前記排気熱交換器内の排気経路は、前記排気と前記熱伝達媒体との熱交換が行われる熱交換経路と、前記排気と前記熱伝達媒体との熱交換が行われない非熱交換経路とを有しており、前記排気熱交換器には、前記排気経路を前記熱交換経路と前記非熱交換経路とで切り替える排気経路切替手段が設けられており、
前記制御手段は、前記蓄熱装置に流通させる前記熱伝達媒体の温度が所定温度以上になった場合、前記排気経路切替手段により前記排気熱交換器内の排気を前記非熱交換経路へ流通させる
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用暖機システム。
【請求項3】
前記熱伝達媒体流路には、外気との熱交換で前記熱伝達媒体を冷却する外気冷却器と、前記熱伝達媒体を前記外気冷却器に流通させる主流路および前記外気冷却器をバイパスして流通させるバイパス流路と、前記熱伝達媒体の流通を前記主流路と前記バイパス流路とで切り替える媒体流通切替手段と、が設けられており、
前記制御手段は、前記蓄熱装置に流通させる前記熱伝達媒体の温度が所定温度以上になった場合、前記媒体流通切替手段により前記熱伝達媒体を前記主流路へ流通させて外気による冷却を行う
ことを特徴とする請求項2に記載の車両用暖機システム。
【請求項4】
前記蓄熱要素は、過冷却状態で蓄熱が可能な潜熱蓄熱材からなり、
前記蓄熱装置は、前記蓄熱要素の過冷却状態を解除する手段を備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の車両用暖機システム。
【請求項5】
前記蓄熱要素は、化学変化による熱の吸収・放出が可能な化学蓄熱材からなり、
前記蓄熱装置は、前記蓄熱要素に化学変化を生じさせる手段を備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の車両用暖機システム。
【請求項6】
前記暖機対象機関は、内燃機関であり、
前記熱伝達媒体流路は、前記内燃機関の冷却水を前記蓄熱装置へ流通させる冷却水流路であり、
前記排気流路は、前記内燃機関から排出された排気ガスを流通させる排気ガス流路であり、
前記排気熱交換器は、前記排気ガスと前記冷却水との間で熱交換を行わせる排気ガス熱交換器である
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の車両用暖機システム。
【請求項7】
前記暖機対象機関には、変速機がさらに含まれており、
前記熱伝達媒体流路には、前記変速機の作動油を前記蓄熱装置へ循環流通させる作動油流路が含まれており、
前記排気ガス熱交換器は、前記排気ガスと前記冷却水および前記作動油との間で熱交換を行わせる
ことを特徴とする請求項6に記載の車両用暖機システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−53830(P2010−53830A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−221938(P2008−221938)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】