説明

車両用脱出支援装置及び車両用ナビゲーションシステム

【課題】地震の発生により車両が破損してドアロック開閉制御装置が機能しなくなった場合であっても、乗員が車両から脱出することが可能となる車両用脱出支援装置を提供する。
【解決手段】地震警報装置3は、受信機2が受信した地震速報が地震発生予告であったときは、ドアロック開閉制御装置7に対してロック解除を指令する。これにより、地震の発生により発生した事故の衝撃によりドアロック開閉制御装置7が正常に機能しなくなった場合であっても、乗員は、ドアを開放して車両から脱出することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受信した地震速報に応じて車両からの乗員の脱出経路を確保する車両用脱出支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の衝突を衝撃センサ等によって検出し、その衝突タイミングをトリガにしてドアロックを解除し、乗員の脱出経路を確保することが提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−256422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1のものは、事故の衝撃後にドアロックを解除する構成であるため、ドアロック開閉制御装置のドアロック解除動作が事故の衝撃により機能しなくなった場合には、ドアを開放することができなくなる虞がある。このため、車両の走行中に地震が発生したために車両が事故を起こし、事故の衝撃によりドアロック開閉制御装置が機能しなくなった場合には、乗員が車両から脱出できないという問題がある。
【0004】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、地震の発生により車両が破損してドアロック開閉制御装置が機能しなくなった場合であっても、乗員が車両から脱出することが可能となる車両用脱出支援装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明によれば、地震が発生したときは、地震発生予告を示す地震速報が例えば電波で送信されるので、車両に搭載された受信手段が受信した地震速報が地震発生予告であったときは、制御手段からドアロック開閉制御装置に対してロック解除が指令される。これにより、ドアロック開閉制御装置はドアロックを解除するので、地震の発生により事故が発生し、事故の衝撃によりドアロック開閉制御装置が機能しなくなった場合であっても、乗員は、ドアを開放して車両から脱出することが可能となる。
【0006】
請求項2の発明によれば、受信した地震速報が地震発生予告であったときは窓も開放されるので、ドアが万一開放しない場合であっても、乗員は、窓からの脱出が可能となる。
請求項3の発明によれば、地震により高層ビルから窓ガラスの破片が落下することがあっても、車両の窓は閉鎖されているので、窓ガラスの破片が車内に入り込むことはなく、乗員がケガしてしまうことを防止できる。
請求項4の発明によれば、乗員の意思に応じて窓が開放されるので、高層ビル周辺を走行中であっても、高層ビルからのガラスの破片が落下する虞がないと乗員が判断した場合には窓が開放されるので、窓からの脱出経路を確保することができる。
【0007】
請求項5の発明によれば、ドアロック開閉制御装置にロック解除が指令されたり、窓開閉制御装置に窓の開放が指令されたりすることが事前に乗員に通知されるので、乗員に対して身構えるきっかけを与えることができる。
請求項6の発明によれば、運転手以外の乗員が睡眠している場合であっても、受信した地震速報が地震発生予告であったときは、乗員に刺激を与えて目覚めさせることができるので、乗員が地震の発生に対応可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を車両用ナビゲーションシステムに適用した一実施例について図面を参照して説明する。
図1は、脱出支援装置の全体構成を示すブロック図で、車両用ナビゲーションシステムの機能として構成されている。脱出支援装置1は、受信機(受信手段に相当)2、地震警報装置(制御手段に相当)3、表示装置(通知手段に相当)4、音声出力装置(通知手段に相当)5、窓開閉制御装置6、ドアロック開閉制御装置7、地図DB(取得手段に相当)8、入力装置(操作手段に相当)9、座席バイブレータ(刺激手段に相当)10から構成されている。
【0009】
受信機2は、地震速報(情報)を受信したときは受信した地震速報を地震警報装置3に転送するもので、ラジオ、携帯電話機等、電波による地震速報を受信であれば受信機の種別が限定されるものではない。地震警報装置3は、受信機2から転送された地震速報に基づいて表示装置4及び音声出力装置5に地震情報を乗員に通知することを指令する。表示装置4は、地震警報装置3からの指令に応じて地震情報を表示する。音声出力装置5は、地震警報装置3からの指令に応じて地震情報を音声発生する。地震警報装置は、音声出力装置5を駆動するときは、座席バイブレータ10を同時に駆動する。座席バイブレータ10は、通常は乗員の体をマッサージするために設けられているものであるが、本実施例では、睡眠中の乗員に刺激を与える刺激手段としても使用される。
【0010】
地震警報装置3は、受信した地震速報が地震発生予告であったときは、ドアロック開閉制御装置7にドアロック解除を指令すると共に後述する所定条件の成立を条件として窓開閉制御装置6にも窓の開放を指令する。ドアロック開閉制御装置7は、ドアロック解除の指令を受けたときは、ドアロック開閉アクチュエータ11を駆動してドアロックを解除する。窓開閉制御装置6は、窓の開放の指令を受けたときは、窓開閉モータ12を駆動して窓を開放する。
地図DB8は、車両用ナビゲーションシステムからの要求に応じて車両の現在位置周辺の地図データ(周辺情報に相当)を与えるもので、本実施例では、地震警報装置3からの要求に応じて現在位置の周辺建物の属性を与えるようになっている。
【0011】
次に記構成の作用について説明する。
地震が発生すると、例えば気象庁が構築した早期地震警報システムが、地震の発生直後に震源に近い地震計でとらえた観測データを解析し、地震の発生場所、地震の規模、地震波の到達時刻を予測し、それらの情報に基づいて地震発生予告を示す地震速報を作成してラジオ電波、テレビ電波等の公共電波、携帯電話機の基地局からの電波により広範囲に送信したり、或いは専用線で緊急性を要する所定機関に送信したりする。
車両に搭載された受信機2は、例えばラジオ電波に含まれる地震速報を抽出して地震警報装置3に転送する。
【0012】
図2は、地震警報装置3の動作を示すフローチャートである。地震警報装置3は、受信機2から地震速報を受けたときは(S1)、その地震速報は地震発生予告かを判断する(S2)。地震発生予告の地震速報であったときは(S2:YES)、ディスプレイに「地震発生情報」を表示する(S3)。具体的には、地震速報に含まれる地震が発生するまでの時間であるカウントダウン時間を抽出し、そのカウントダウン時間に応じて「**秒後に地震発生します。停車して下さい」及び「窓を開け、ドアロックを解除します」と表示する。これにより、乗員は、窓が開放されると共にドアロックが解除されることを認識することができる。
尚、カウントダウン時間は地域により異なることから、地震警報装置3は、自車の位置に基づいて地震が現在地域まで到達するまでのカウントダウン時間を取得するようになっている。
【0013】
次に、地震警報装置3は、座席バイブレータ10を駆動する(S4)。これにより、運転手以外の乗員の座席が振動するので、睡眠している乗員が刺激されて目覚めるようになる。
次に、地震警報装置3は、音声で「地震発生情報」を通知する(S5)。具体的には、ディスプレイの表示内容を音声で案内するもので、案内音声を走行中でも聞き取れる音量に変更してから実行する。
【0014】
次に、ドアロックを解除する。つまり、ドアロック開閉制御装置7に対してロック解除を指令する。これにより、ドアロック開閉制御装置7は、ドアロック開閉アクチュエータを駆動してドアロックを解除する。
次に、地図DB8より現在位置の周辺建物の情報(属性:高層ビル有無)を取得し(S7)、高層ビル周辺を走行しているかを判断する(S8)。取得した周辺建物の情報(属性)が高層ビルでなければ(S8:NO)、「カウントダウン時間」に地震発生までの時間を設定し(S9)、カウントダウンタスクを起動してから(S10)、窓開閉制御装置6に対して窓の開放を指令する(S11)。これにより、窓開閉制御装置6は、窓開閉モータ12を駆動して窓を開放する。
【0015】
図3は、カウントダウンタスクを示すフローチャートである。地震警報装置3は、ディスプレイに「カウント時間」を表示すると共に(S101)、音声で「カウント時間」を通知する(S102)。これにより、ディスプレイには、「あと**秒で地震が発生します。」というメッセージが表示されると共に、「**秒」という音声が発せられる。この場合、音声を走行中でも聞き取れる程度の音量に強制的に高めるので、乗員は、車両の走行中であってもカウントダウン時間を確実に認識することができる。
【0016】
次に1秒間待機してから(S103)、「カウントダウン時間」を1秒減らしてから(S104)、「カウントダウン時間」は0秒かを判断する(S105)。0秒でないときは、ステップS101から再実行し、0秒となったときは(S105:YES)、終了する。
以上のようなカウントダウンタスクを実行することにより、「カウントダウン時間」に設定した時刻よりディスプレイ表示及び音声でカウントダウンし、乗員に対して身構えるきっかけを与えることができる。
地震警報装置3は、カウントダウン時間が0秒となるまで待機し(S12:NO)、0秒となった場合は(S12:YES)、正常状態に復帰する(S13)。つまり、座席バイブレータの動作をオフすると共に、画面表示を通常画面に復帰する。
【0017】
一方、車両が高層ビル周辺の走行中に受信した地震速報が地震発生予告であったときは、地震警報装置3は、ステップS8において「YES」と判断し、ディスプレイに「高層ビル直近の窓開放確認」を表示する(S14)。具体的には、ディスプレイに、「高層ビル周辺を走行中。割れたガラスでケガする可能性あるが窓開放するか?」及び「OKボタン」を表示する。この場合、ディスプレイはタッチパネルを有して構成されており、そのタッチパネルが入力装置9として機能する。
【0018】
次に、音声で「高層ビル直近の窓開放確認」を通知する(S15)。具体的には、音声により、「高層ビル周辺を走行中。割れたガラスでけがする可能性あるが窓開放するか?」、「窓を開放する場合はOKボタンを押して」と発する。
次に、「カウントダウン時間」に地震発生までの時間を設定し(S16)、カウントダウンタスクを実行する(S17)。これにより、ディスプレイ及び音声によりカウントダウンが行われる。
【0019】
このカウントダウン中に乗員がOKボタンを押したときは(S18:YES)、ステップS11に移行することにより窓を開放する。これに対して、乗員がOKボタンを押すことなく(S18:NO)、カウントダウン時間が0秒となったときは(S19:YES)、ステップS13に移行することにより正常状態に復帰する。
【0020】
さて、上述のような地震警告の後に地震が実際に発生したことに起因して事故が発生し、ドアロック開閉制御装置7が事故の衝撃により機能しなくなった場合であっても、ドアのロックは事前に解除されているので、乗員は、ドアを開放して車両外に脱出することができる。
また、高層ビル周辺を走行中でない場合、或いは高層ビル周辺を走行中であっても乗員が許可した場合は、窓を開放するようにしたので、ドアが事故の衝撃により開放できない場合であっても、乗員は、ドアの窓から車外へ脱出することが可能となる。
【0021】
ところで、地震警報装置3からの指令に応じてドアロック開閉制御装置7がロックを解除してしまった場合に、車両の走行状態で乗員が誤ってドア開放ノブを操作したときは、ドアが開放してしまい危険である。このため、走行中にはドアロックが解除されていてもドア開放ノブの操作によりドアが開放しないように安全機能を追加するのが望ましい。具体的には、車両の走行速度を車速信号(パルス)等により取得し、安全速度(例えば5Km/h)以下でない場合には、ドア開放ノブを操作しても、ドアが開放しないようにする。ドア開放ノブの操作を無効にする仕組みとしては、ドア開放ノブのON/OFFを検出するスイッチと、ドア開放アクチュエータ(ソレノイド等)を設けて、ドア開放ノブのON/OFF情報と車両の走行速度の条件が揃った場合(ドア開放ノブのスイッチ=ON、かつ、走行速度が安全速度以下)のみドア開放アクチュエータを動作させ、ドアの開放を行うことで実現する。
また、地震警報システムより地震速報を受信した場合には、乗員に対して車両の走行停止を推奨するメッセージを通知するが、自車位置によっては停車することが適切でない場合もある。
【0022】
そこで、自車位置と地図DB8の情報を元に危険な場所であれば、乗員に対して車両を停止しないようにアナウンスすることで地震による災害を最小限に抑えるようにしてもよい。具体的には地図DB8に地震発生時に危険な場所(地震により倒壊し車両を巻込む可能性のある場所。例えば堤防、橋、耐震性の低い建物、塀等)を登録しておく。地震警報装置3は、地図DB8の情報を元に、自車位置がこの危険な場所に該当しないかを判断し、該当する場合には乗員に対して車両を停止しないようにアナウンスする。この場合、自車位置が危険な場所に該当する場合には、車両を安全な位置に誘導するよう案内をしてもよい。
【0023】
このような実施例によれば、地震警報装置3は、受信機2が受信した地震速報が地震発生予告であったときは、ドアロック開閉制御装置7に対してロック解除を指令するので、地震の発生により発生した事故の衝撃によりドアロック開閉制御装置7が正常に機能しなくなった場合であっても、乗員は、ドアを開放して車両から脱出することが可能となる。
【0024】
また、地震警報装置3は、受信機2が受信した地震速報が地震発生予告であったときは、窓開閉制御装置6に対して窓開放を指令するので、ドアが万一開放しない場合であっても、窓からの脱出が可能となる。この場合、車両が高層ビル周辺を走行していると判断したときは、窓開閉制御装置6に対する窓開放の指令を実行しないので、地震により高層ビルから窓ガラスの破片が落下することがあっても、窓ガラスの破片が車内に入り込むことはなく、乗員がケガしてしまうことを防止できる。しかも、車両が高層ビル周辺を走行していると判断した場合であっても、乗員により入力装置9が操作されたときは窓開閉制御装置6に対して窓開放を指令するので、乗員の意思によって窓を開放して、窓からの脱出経路を確保することができる。
【0025】
また、地震警報装置3は、ドアロックを解除したり、窓を開放したりすることを乗員に事前に通知するので、乗員に対して身構えるきっかけを与えることができる。
さらに、地震警報装置3は、受信機2が受信した地震速報が地震発生予告であったときは、音声で「地震発生情報」を通知するのに先立って運転座席以外の座席に設けられている座席バイブレータ10を動作するので、乗員は、地震発生情報の音声案内を聞き取って地震の発生に事前に身構えることが可能となる。
【0026】
本発明は、上記実施例に限定されることなく、次のように変形または拡張できる。
車両にサンルーフが設けられている場合は、受信した地震速報が地震発生予告であったときはサンルーフを開放するようにしてもよい。
地震速報の受信からの時間に応じて正常状態に復帰するのに代えて、地震速報の解除を受信したときに正常状態に復帰するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施例における全体構成を示すブロック図
【図2】地震警報装置の動作を示すフローチャート
【図3】地震警報装置のカウントダウンタスクを示すフローチャート
【符号の説明】
【0028】
図面中、1は脱出支援装置、2は受信機(受信手段)、3は地震警報装置(制御手段)、4は表示装置(通知手段)、5は音声出力装置(通知手段)、6は窓開閉制御装置、7はドアロック開閉制御装置、8は地図DB(取得手段)、9は入力装置(操作手段)、10は座席バイブレータ(刺激手段)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部からの指令に応じてドアをロックまたはロック解除するドアロック開閉制御装置を備えた車両に設けられた車両用脱出支援装置であって、
地震速報を受信可能な受信手段と、
前記受信手段が受信した地震速報が地震発生予告であったときは、前記ドアロック開閉制御装置に対してドアをロック解除することを指令する制御手段とを備えたことを特徴とする車両用脱出支援装置。
【請求項2】
前記車両は、外部からの指令に応じてドアの窓を開閉する窓開閉制御装置を備え、
前記制御手段は、前記受信手段が受信した地震速報が地震発生予告であったときは、前記窓開閉制御装置に対して窓の開放を指令することを特徴とする請求項1記載の車両用脱出支援装置。
【請求項3】
車両が走行している周辺情報を取得する取得手段を備え、
前記制御手段は、前記取得手段により車両が高層ビル周辺を走行していると判断したときは、前記窓開閉制御手段に対して窓の開放を指令しないことを特徴とする請求項2記載の車両用脱出支援装置。
【請求項4】
乗員により操作される操作手段を備え、
前記制御手段は、前記取得手段により車両が高層ビル周辺を走行していると判断した場合であっても、前記操作手段が操作されたときは前記窓開閉制御装置に対して窓開放を指令することを特徴とする請求項3記載の車両用脱出支援装置。
【請求項5】
前記制御手段が動作することを事前に乗員に通知する通知手段を備えたことを特徴とする請求項1ないし4の何れかに記載の車両用脱出支援装置。
【請求項6】
前記車両は、乗員に刺激を与える刺激手段を備え、
前記制御手段は、前記受信手段が受信した地震速報が地震発生予告であったときは、前記刺激手段を動作させることを特徴とする請求項1ないし5の何れかに記載の車両用脱出支援装置。
【請求項7】
請求項1ないし6の何れかに記載の車両用脱出支援装置を備えたことを特徴とする車両用ナビゲーションシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−154673(P2009−154673A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−334312(P2007−334312)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】